SS速報VIP:御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」食蜂「そのにっ☆」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326876652/



1: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 17:50:52.66 ID:+vCo3qfg0

前スレ
御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1323616536/

の続きとなっております!


※読んでいただく前に

1.以前ここでやっていた「とらドラ!」を「とある魔術の禁書目録」のキャラでやったる!というスレの続きです!

2.カップリングは電磁通行です。これまた人を選ぶ原因だと思います。

3.キャラが違うのでちょっと話も違います!設定が現代になっているので、超能力などの設定はなく、独自設定を含みます。

4.キャラは話の構成上、科学サイドを中心としています。

注意点は以上です。

◇前スレで一巻終了!

このスレでは二巻をやります!本当は三巻も書き終えてから投下したかったんですが、時間がなかったです!

以下前回から引き続きの登場人物紹介



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1326876652(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)




2: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 17:53:46.70 ID:+vCo3qfg0


▽登場人物紹介

一方通行
主人公。フルネームは鈴科一方通行(アクセラレータ)学園都市東高等学校二年C組
不良だと思われており、「長点の白い悪魔」の異名を持つ。
佐天涙子に惚れている。一時は脱・不良の為頑張るが、ある事件の後「もう不良でもイイんじゃね?」と開き直る。
スパコン並みの頭脳は健在で、超頭脳明晰であり、不良に絡まれることが多かったため喧嘩も強い。チート?もやしじゃなくてごめん。
御坂とは家が隣であり、二年生になってからは互いの恋愛成就の為共同戦線を張っており、何かと慣れあっている。

御坂美琴
ヒロイン。学園都市東高等学校二年C組。中学時代は「常盤台の電撃姫」と呼ばれていた。
彼女は不良ではなく、後輩からも慕われた規範的な生徒だった。高校でもおおむねは同じ。上条当麻に惚れている。
一方通行とは恋愛共同戦線を張り、奇妙な馴れ合いの関係。
家事全般一方通行に丸投げしてる為、駄目な子だと思われがちだがやればできる子。

佐天涙子
学園都市東高等学校二年C組。中学時代からの美琴の親友。
一方通行からの好意には気付いていない。

上条当麻
学園都市東高等学校二年C組。一方通行の親友。
フラグメイカー体質は本作でも健在。生徒会の副会長を務めている。
勿論、美琴からの好意に気付いていない。

海原光貴(エツァリ)
学園都市東高等学校二年C組。中学時代からの一方通行の親友。
爽やかな好青年風だが、胡散臭いと捉えられがち。
恋愛には奥手。エツァリの方です。


土御門元春
学園都市東高等学校二年C組。中学時代からの一方通行の親友。
義理の妹がおり、度を越したシスコンぶりは本作も同様。


五和
学園都市東高等学校二年C組。隠れ巨乳。


月詠子萌
一方通行のクラスの担任。ロリ教師。

木原数多
一方通行の保護者。顔面刺青研究者。


…以上!まだまだ増えるよ!





4: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 17:56:59.66 ID:+vCo3qfg0


暑い暑い暑い暑い暑い。死ぬほど暑い。


とても五月とは思えない。地球は一体どうなってしまったのか。こんなに暑い五月などあったものか。


普段はほとんど汗をかかないはずなのに、今日ばかりは話が別だ。


首元のチョーカー型MP3プレイヤーが煩わしかったので音楽を停止、小さくたたんで鞄に入れる。


以前誕生日プレゼントとして木原に買ってもらったものだ。どこかのブランドとのコラボレーションモデルで、世界に数十個しかない貴重なものだとか木原が自慢げに話していた。


デザインも悪くないし機能も充実していたので、彼のお気に入りだった。


「………」


突然、プレイヤーをくれた刺青研究者のことを思い出す。筋肉質な肉体、金髪。どすの利いた眼つきと皮肉がかった声。どれだけ長い間一緒に過ごしても、彼を褒めたりするときはいつだってばつの悪そうな顔をした。


彼は、元気でやっているだろうか。



5: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 17:57:57.13 ID:+vCo3qfg0



「………木原くン、俺、元気でやってるぜ」



亡き父を思う少年のように、哀愁と諦観を帯びた声を吐くのは、白髪で痩身の少年だった。


鋭い眼はぎらりと赤く、髪と同色の長い睫毛が一層眼に力強さを付与している。


中性的な体躯には、黒のスーツが張り付いていた。


疲れ切った表情を浮かべるこの男、名前は一方通行(アクセラレータ)、こんな見た目で日本人である。


先ほどまで徹夜で義理の父親(木原くン、別に死んでないよ。絶賛労働中だよ)の仕事を手伝わされていたため、当然思考能力も落ちる。


というより、徹夜明けの謎のテンションが思考に影響を与えていた。


この男らしくもないロマンティシズムに溢れた思考も、その影響の賜物だった。


「……暑い。五月だろ、これ……」


ゴールデンウィーク最終日だというのに徹夜で仕事という、保護者の身を気の毒に思うどころではなかった。


まさか、彼自身が手伝わされるとは思ってもみなかったのである。


研究者という立場上仕方がないことらしいが、一方通行にはただただ迷惑なだけだった。


しっかり給金をもらえるのが唯一の救いといえよう。



6: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 17:59:27.22 ID:+vCo3qfg0


「あァー……やっと着いた」


気持ちいつもより人通りの多い道をひたすら歩いていく。


詮無きことを考えているうちに我が家の扉が目の前にあった。


「っと、鍵……ン?」


鍵が開いている。


木原はまだ研究所だ。こうなると今我が家にいると考えられるのは一人しかいない。


「よーっす。おかえり」


「ただいまァー……ってコラァっ!!!なァンでいるンですかァ!!??」


「アンタ厚着ねー、この暑いのにスーツとか。あ、私はユリコに会いに来たのよ、ねーユリコ♪」


「にゃー」


我が物顔でソファに脚を投げ出し、我が家の天使と戯れる少女の名は、御坂美琴。


一方通行の愛しのワイフ、という訳では勿論ない。


一方通行とは、言葉にし辛い奇妙な関係にある少女だ。名前は御坂美琴。


シャンパンゴールドの短髪を床にたらし、寝そべりながらユリコとじゃれている。



7: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:03:39.14 ID:+vCo3qfg0



「にゃーにゃー。あははっ!」


「……はァ」


こんな生活にも、自分は執着を感じているのだろうか。


愛と呼べるものが根ざしているのだろうか。


目元にクマをこさえながら、一方通行はふとそんなことを考えた。



「……飯にするか」



まったくらしくない。



8: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:04:28.76 ID:+vCo3qfg0





                            ◇





一週間近い大型連休も終わろうというこの日は、一方通行と御坂美琴にとって、思い出深い日かもしれない。


五月だとは思えない暑い日だったその日は、野外でどっかんと遊びに行くと言う気にもなれず、だからといって家でじっとしているのもうんざり、といったどっちつかずの様であった。


「……暇だ」


たった今食べ終えた昼食の食器を片づけながら一方通行が呟く。


その手際は非常に手慣れており、彼の家事スキルの高さを示しているかのようだった。


湯上りの彼は、部屋着に着替えていた。Tシャツにスウェットというラフな格好だ。


「……そーね」


一方、御坂美琴はソファに寝そべっていた。


クッションに顔を押し付け、完全に脱力している様子である。


まるで真夏のような暑さにうんざりといった彼女の様子が顕著に表れていた。




9: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:07:49.03 ID:+vCo3qfg0



ちなみに、彼女の背中には一方通行の家のアイドル、メスのスコティッシュ・フォールドのユリコがちょこんと乗っている。


「つゥかオマエ、食った後すぐ寝て良いのかよ。女ってそォ言うの気にする生き物なンじゃァねェの?」


「い、今だけよ……ていうかアンタ、暑くないの?アンタだけ涼しげでなんかむかつくんですけど……」


誰もが気付くであろうが、驚くことに一方通行はこの暑い日に汗一つかいていなかった。


表情も涼しげであり、暑い暑いと唸り通しの御坂とは対照的だ。


「あァ、俺、寒がりだからな。つゥか冷え性だし」


「さ、寒がりでどうにかなるレベルなの……?」


「しーらねェ。……おい美琴。ファミレス行くぞォ」


「ハイパーアクロバティックな話の飛び方ね……って早ぁ!いつの間に着替えたのよアンタ!?」


「うるせェな……オマエもさっさと着替えろ」


一方通行は細身のジーンズにポロシャツというシンプルな格好だった。


細すぎの気はあるが、長い脚が強調されてこれまた絵になっていた。モノも良いものを着ている。



10: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:10:21.66 ID:+vCo3qfg0


「えー……おととい行ったじゃん」


「関っ係無ェンだよォ!一日中研究所に籠ってた俺には今!癒しが!必要なンだよォおおおお!!」


目元にくまをこしらえ、迫力三割増しで咆哮する一方通行。その鬼気迫る表情は、何人か殺してます、と言われても通じそうな様子だ。


「一人で行けば?ご飯食べたばっかよ?」


「おいおいおいおい?俺一人、ファミレス、ドウシタライイカワカラナイ。……そこンとこちゃァンと理解してるゥ?」


「偉そうにゆーな!ていうか何でカタコトなのよ!」


芝居がかった仕草でやれやれ、と肩を竦める一方通行。この男は一体何様のつもりなのだろう。


「そう来ると思ったぜェ……ほら、これオマエが購読してるファッション誌」


「……むっ」


美琴の態度が軟化したのを一方通行は感じ取った。


自らの目的達成のためにはいかなる事前準備も怠らない。一方通行は抜け目のない男だった。


しかし、これだけでは足りない。あと一押しが必要である。


折れるか折れまいかを必死に思案している美琴に、一方通行が最後の一撃を振り下ろす。




11: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:11:09.53 ID:+vCo3qfg0


「今ならもれなくゲコ太のクリアファイルが付いてきまァーす」


「よぉし!ちょっと着替えてくるわ!」


ちょろいもんである。


昼食を済ませたばかりの彼らが、たかがファミレスひとつにどうしてここまで必死になれるのか、と思うだろうが、これには理由がある。


なぜならそのファミレスには……



                           




「はいよっ!!バニラアイス超☆増☆量!!御坂さんスペシャルぅ!!」


(あァ……最ッ高だねェ……!!!これはアレか、エンジェル爆誕。ほんと、愉快に素敵にキマっちまってンよォ!!!かかくくきけけきくここきこきくきこかかかきこかき!!!!!!)


一方通行愛しの君、佐天涙子。


ファミリーレストラン・Bennysのユニフォームがバッチリキマっている。


え、ちょっと足出しすぎじゃねえの?と言いたくなるようなミニのスカートからのぞく健康的な白い脚。


胸元にリボンタイがあしらわれた制服は、体にフィットする作りとなっており、彼女の健康的な体のラインをここぞとばかりに強調していた。


「内緒だよ御坂さん?こっそり召し上がってくださいね!」


「ええ、ありがとう……でも、悪くない?」


「全然構いませんよ!結構な頻度で来てくれてるんだしこれくらい当然です!」


「そっか、じゃお言葉に甘えちゃおうかしら。……それにしても、その制服可愛いわねー、やっぱ。一方通行もそう思うでしょ?」


「あァ、よく似合ってやがる」



12: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:13:09.46 ID:+vCo3qfg0



突き抜けて朗らかな彼女の笑顔に一方通行の鼓動も早まるが、現れたのは冷静に過ぎる態度であった。


内心は、


(おいおいおいおい!!やべェよ……イっちまいそォだよ……!!色んなもンが漲っちまうぜェ……!!!ききくくここけけかかきこきこきくかかきここ!!!!!)


などという様子なのにも関わらずである。


しかし、元来の無表情さに加え、彼は内心の動揺を隠すのに長け過ぎていた。


隠さなかったら隠さなかったで危険な男だと見なされてしまうかもしれないが、これではそっけない様子に映ってしまうかもしれない。


「そ、そうですかぁ?あ、一方通行さんも何かサービスしますよ?なんでもたのんじゃってください!盛るぜー!ちょお盛るぜーーー!」


「そォかい。……じゃァ、この辛味チキンを頼む」


踊りだしそうな脚を両手で無理やり押さえつけ、いつものクールさを完璧に装って注文する。


(ちっきしょォぉぉおおお!!!なンか気の利くセリフでも吐くンだ一方通行!!俺の狡い頭は何の為に存在してやがる!!!)


「ちょっと一方通行!図々しいわよ!」


「いやぁ!良いって良いって!じゃあちょろっと待っててくださいね!」


艶やかな黒髪を翻し、佐天涙子はキッチンに向かっていく。


その後ろ姿を、一方通行は精一杯目に焼き付けた。眼福なり。




13: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:16:56.40 ID:+vCo3qfg0



「あ、アンタどこ見てんのよ!」


「あァ?どこって……尻?」


「し、尻?じゃないわよ!あ、アンタ……私の親友をそんな目で見やがって……」


顔を真っ赤にして憤慨した美琴は、鞄の中に手を入れた。


「冗談だよ!オイコラやめろ落ち着け」


「っ……そういう冗談やめたほうがいいかもよ?佐天さんはどうかしらないけど、女の子ってアンタが思ってるよりずっと下ネタ嫌いだから」


「はっ。佐天の前じゃァ言わねェよ……そこンとこは完璧だァ。……つゥかオマエ、まだスタンガン持ち歩いてンのかよ……」


取り出しかけたスタンガンを隠しつつ、美琴が溜息をつく。


そして、さきほど一方通行が買ってきたファッション誌をさっと取り出す。


「それにしてもあの子、バイト頑張るわね」


「そォだな……一昨日も入ってたしな。その前に来た時もいた。毎回毎回エンカウントしてンのは、運がいいだけとも思えねェ。なァ、あいつって何の部活やってンだ?」


「ん?あの子は―――あ、ちょうど来たんだから、直接聞いてみなさいよ」


「へいお待ちーーーーー!」


と、ぶっ飛んだテンションで佐天涙子がやってきた。


両手で抱えたの盆の上には、山盛りの真っ赤なチキンが乗っていた。



14: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/18(水) 18:24:03.78 ID:+vCo3qfg0

とりあえず今回はここまでです!前回の最後に言ったのと違うスレタイでごめんなさい!入りきりませんでしたー!!
Q「つゥか>>1って就活で忙しいンじゃねェのかよコラ」
A 忙しいけど年末年始ずっと書いてたら二巻終わっちゃった。もう時間内から投下するってミサカはミサカは(ry

っつーことでこのスレは取りあえず二巻やります!コメントどんどんいただけると超嬉しいです!
次回は一週間以内には来ます!

そしてすっかり忘れていた配役を張りますね?

高須竜児……一方通行

逢坂大河……御坂美琴 

櫛枝実乃梨……佐天涙子

北村祐作……上条当麻

能登久光……海原光貴(エツァリ)

春田浩次……土御門元春

木原麻耶……五和

三十路……月詠子萌

やっちゃん……木原数多

ではまたまたよろしくお願いします!!





34: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:25:30.27 ID:AVKxcpFR0



「新聞部?」


チキンを上品に口に運びつつ、一方通行が尋ねる。


思ってもみなかった、といった所だろう。


「いえーす!だからそんなに忙しくはないんですよ!」


「ふーン……つゥか意外だな。真面目に記事書いてるイメージがねェ」


「あっはっはぁ~……いっやぁ~良く言われますよー……しかぁし!」


びっ、と彼女は明後日の方向を指さした。


「私が書いてる記事は、あんまし真面目?って感じでもないんですよ。こういうとふざけてるみたいですけど、そうでもないんです!」


「不真面目な記事だ?一体全体何をやっていやがるンですか?」


いつものような皮肉の混じった様子で一方通行が尋ねる。


なんども話をしているうちに、平常運行の態度を保つことに慣れてきたようだ。


「むぅっふっふっふ……それはすなわち、都・市・伝・説!!!!!!!あーーーーーばん・れじぇんどぉ!!!!!」


指し示した指をそのまま逆側に持って行き、佐天涙子は、びしっ、と胸を張る。仮面ライダーの変身ポーズのような態勢だ。


「と、都市伝説だァ?」


「都市伝説っていうか、生徒たちの間の噂なんかもまとめてるのよね?」



と、美琴がカヴァーに入る。佐天の勢いに、流石の一方通行も押され気味だ。片眉を上げるような表情で固まっている。



35: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:26:04.05 ID:AVKxcpFR0



「御っ坂さぁーん?ただのゴシップといっしょにしないでくださいよぉ?私、そーゆーのはあまり好きじゃないんですからねー?」


週刊誌のような低俗なネタは嫌いです、と念を押す。


「わ、わかってるわよ?ちょっと、目が怖いって!」


じっとりとした視線で美琴を射抜く佐天。一方通行は、彼女はどんな記事を書いているのだろう、とか考える前に、


(あのジト目で罵られたいもンだぜェ……)


とか考えていた。この男、なんでもいいのか。


「……っは!?と、ところでよ、最近はどンな記事が話題なンだ?参考程度に教えてくれよ」



36: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:29:37.99 ID:AVKxcpFR0


「あ、気になります?そうですね……最近巷で噂なのは、『説教クソ野郎』と、『羽根メルヘン』ですね?」


楽しそうに佐天が言う。


(……どこかしら気になるワードだ。)


「ほォ、そいつらはどォいうヤツらなンだ……?ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、気になるンだが……」


「あ!そうですよね!いっやぁ!一方通行さんからはセンスを感じますね!」


佐天がひゅんと食いつく。どうやらこちらが興味を持ったのが嬉しかったようだ。


「えと、まず『説教クソ野郎』は、カップルでもそうでなくとも、男女二人で歩いていると、突然現れるらしいです。その男は、カップルの男のほうに突然説教した後……なんと、顔面にパンチを叩き込むんです!!!……この話の怖いところは、カップルの女のほうが、必ずと言っていいほどその『説教クソ野郎』に惚れてしまうというところです……ね?怖くないですか?」


「………」


まさかな、と一方通行は考える。自身の中の疑いを打ち払うように首を横に振る。


驚くほど心当たりがありすぎるが……まさかの話だろう。うん。他人の空似。間違いなく。


「それで、『羽根メルヘン』っていうのが―――」


「ちょっと佐天さん?バイトの方は平気なの?」


「へ?……はっ!そ、そうだった!!じゃ、一方通行さん!話はまた今度!」


「……あいよ。すまなかったな」


今が仕事中だということを思い出し、去ってゆく佐天、可愛い。(一方通行目線)



37: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:30:19.46 ID:AVKxcpFR0


一方、美琴は面白くなさそうな顔でこっちを見ていた。


「……何だよ?」


「何でもないわよ」


ふん、と鼻を鳴らし、視線を手元の雑誌に落とす。


「……」


彼女が不機嫌になる理由が理解できない一方通行だったが、すぐに思い直す。


(なァるほど……)


雑誌を食い入るように見つめる美琴にふ、と笑みを向ける。


(つまりこいつは、俺が佐天と仲良くオハナシしてンのに、自分があの三下の野郎と進展が全くないのが面白くねェンだな)


彼と美琴は、互いの恋に対して共同戦線を張っていた。これは現在も絶賛継続中である。


しょうがない奴だ、と勝手に納得した一方通行だった。


はぁ、と大きくため息をつく。



38: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:32:58.86 ID:AVKxcpFR0


「何よ?これ見よがしに溜息なんてついちゃって……」


「何でもねェよ。おい、俺にも雑誌見せろ」


「はぁ?アンタ女装癖でもあるの?」


「違ェよボケ。……っておい、引くなコラ」


うぇ、と勝手に勘違いしてドン引きしている美琴を無視して、一方通行は雑誌を眺める。


「……ふゥン。オイ美琴、オマエたまにはこう言うの来てみたらどォだ」


「えっ……?うーん……」


考え込む美琴の視線の先には、長い脚を誇示するように細身のデニムを履きこなすモデル。


「オマエ、脚長ェし、腰のラインも綺麗だから、こんな感じの格好は似合うハズだ。フリフリヒラヒラの格好も趣があるっちゃァあるが、たまにはこう言うのはどォよ?」


「そっ、そうかな……似合うかな?」


顔をゆでダコのようにしつつ雑誌を見つめる美琴。どストレートに褒められて、まんざらでもない様子だ。


「あ、アンタがどうしてもっていうなら……き、着てやってもいいケドさ……」


「あァ、着てみろよ。ついでに買い物に上条あたりでも誘ってけ。」


「へっ、へぇ!?む、無理無理無理無理ぃっ!!!」


「……忙しいヤツだな。オマエ。」



39: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:37:52.75 ID:AVKxcpFR0



慌てふためく美琴をよそに、一方通行がさきほどのモデルから視線を右に少しずらす。すると、これまた目立つモデルが視界に入った。


ナチュラルブロンドと思われる、腰まで届く髪を靡かせ、ばっちりポーズをとっていた。


長い脚に、グラビアでも目立てそうなメリハリのついたボディライン。身長など一方通行とほとんど変わらないだろう。


何より目を引いたのは、ほとんどメイクなどされていないようにも関わらず、強い輝きを放つ眼であった。


口元には、その大人っぽい見た目に釣り合わない、あどけなさの様なものが残る笑みをたたえている。これは、彼女を一層魅力的に映らせた。


「……アンタ、何見てんの?」


「あァ?隣のモデルだよ。見りゃあ分かンだろ」


さきほどまで嬉しそうにしていたにも関わらす、美琴の視線には険しいものが感じられた。


いったいどうしたというのだろう?


「このモデル、気に食わねェのかよ」


「へ~え……良くわかったわね?そうよ、良い思い出がなくってね」



40: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:39:37.77 ID:AVKxcpFR0



「……あァ?」


急に機嫌崩したら誰だってわかる、という突っ込みは置いておくとして、良い思い出がないという言葉に、一方通行は引っ掛かりを感じた。


「その口振りだと、オマエ、本人のこと知ってるみてェに聞こえンだが」


「知ってるも何も―――」


突然、美琴の眼が大きく見開かれた。


彼女は何かを見ている。視線は、一方通行の真っ直ぐ後ろ、このレストランの入り口へ向いていた。


「今度は何ですかァ?一体何が―――」


美琴の視線の先を追うため、一方通行は振り返る。


「……こいつは何の冗談だ?」




41: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:41:36.22 ID:AVKxcpFR0



現実の光景だとは思えなかった。


光に照らされ輝く金髪、口元にたたえた微笑、長い脚。


一人の女が立っていた。女は、手元のファッション誌の女性と同一人物としか思えない。


一方通行は、女が雑誌から直接飛び出してきたのか、などと一瞬本気で考えた。


馬鹿馬鹿しい考えだが、冷静な判断を失ってしかるべき状況でもあった。


「――!……」


女がこっちを見ている。


自分の視線とぶつかったのかと勘違いをしかけた一方通行だったが、そうではないようだ。


女は、美琴を見つめている。店員に二、三告げると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「久しぶりねぇ、御坂さん?」


顔に微笑みを貼り付け、女は美琴に言葉を投げかける。


雑誌とはまた違った表情だ、一方通行はそこから敵意のようなものを感じ取った。


彼女は、悪意の塊を笑顔でうまく塗りつぶしていた。しかし、他人の悪意に敏感な一方通行には、それを看破することができた。


「こんなところまでなんの用かしら?……私に特に用があるとは思えないけど……ねえ―――」


対する美琴は、敵意を隠そうともしていない。


抜身の刃のような視線で、目の前の女を射抜く。


ここまで個人にあからさまな態度をとる美琴を、一方通行は目にしたことが無い。


「食蜂操祈」


これが、食蜂操祈との出会いだった。




43: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:49:21.83 ID:AVKxcpFR0



◇番外編 :とあるグループは仲良し




「海原ぁー。ドンタコス食うぜよー」


「……またですか。ひとつだけですよ?」


どうも皆さん、こんにちは。海原光貴です。


今日は番外編ということで、僕たちの日常を紹介します。


需要があるかわかりませんが、お付き合いください。


あと、ちょっとマニアックなネタが入ってます。飛ばしてくれても構いませんよ?


「うまーいにゃぁー」


「ああ!食べた手でコントローラー触らないでくださいよ!……あぁ、ショチトルに怒られる……」


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!聖龍剣ってなんだにゃー!!このおっさん強えぇぇ!!!一撃で沈んだぜぃ!?」


「リバイブはつけてないんですか?」


「ついてねーぜぃ」


「では、逃げてみては?」


「ぐぬぬ……見た目普通のおっさんなのに、なんだにゃー、この強さは……」




44: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:51:09.75 ID:AVKxcpFR0



今自分は、自宅でなつかしきPSのRPGゲームをプレイしてます。


一方通行もそろそろ帰ってくると思うのですが……


「ピンポーン」


帰ってきたようですね。


「エツァリお兄ちゃん。客だ」


「わかりましたよショチトル。今出ます」


彼女はショチトル、自分の妹です。


血は繋がっていないので正確には妹ではないのですが、まぁ、妹は妹なのです。


「邪魔すンぞ。海原、マイクポップコーン無かったわ。あと、こいつが着いてきた」


「こうして集まるの、随分久しぶりね」


「おぉ!あわきんだにゃー」


「あわきんじゃないですか!」


「あわきン」


「あっ、あわきんゆーな!!!」


紹介します、彼女は中学時代からの付き合いの結標淡希さん。


僕らの一つ上ですから、高校三年生ですね。高校は僕らと一緒です。


赤みのかかった長髪を後ろに二つにまとめています。


裸の上にサラシだけを巻き、その上にブレザーを羽織る格好、などは勿論していませんよ?



45: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:52:01.42 ID:AVKxcpFR0


「しかし久しぶりですね?二か月くらい集まってませんよね僕たち」


「そうだぜぃ?主に、誰かさんのせいで」


「………おい、なンでこっちを見るンだ」


「え?一方通行なんかあったの?ま、まさか彼女ができたとか……」


「だァ、か、ら!!アイツは彼女じゃねェ!!次言ったらブチ[ピーーー]ぞ!?」


「ま、まだ何も言ってないんだけど……ていうか、アイツって誰よ?」


「それはですね―――」


「ベクトルチョップ!」


「ぐっはぁ!!」


「この話は終わりだァ!おいあわきン。オマエはいい加減男できたりしねェの?」


「もういいわよあわきんで……あ、あたしは……い、いい男がいなくって……」


「ショタコンだからにゃー」


「うっさいわシスコン!つ、つーかショタコンちゃうわぁ!……ちょ、ちょーっとだけ、年下がいいなー、とか思うくらいで……」


ショタコンですね。


「まったく……あ、土御門何やってるの?」


「あぁ、クロノクロスですよ」


「へぇー、懐かしいわね。私はキッド見捨るルート一択だったわ。グレン仲間にしたかったし」


「「ちょっと待ったぁ!!!!!」」




46: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:52:39.78 ID:AVKxcpFR0



「な、何よ……?いいじゃない!グレン強いし!格好いいし!」


「あァ結標。そこは認めてやる。グレンは強いしカッコいい。……だがなァ、だからと言って!キッドを見捨てていい理由には!!ならねェだろォが!!!!」


「そうだぜぃ!!あの状況で普通に考えてヒロイン見捨てるとか鬼すぎる!てめえの血の色は何色だにゃーー!!!」


「赤よ!さっき一方通行にチョップされたときの血も赤かったわよ!」


「……あれはオマエが『……くんくん。一方通行……あなた、いい匂いがするわ』とか言ったから、身の危険を感じたンでェす。俺は悪くありませェン」


「別に深い意味はないわよ!だいたいアンタなんか興味ないわよ!もうジジイ化の一途をたどってるわ!ほら!白髪だしコイツ!!」


「うわァ……」


「こ、これは……ま、まさか……これほど業が深いとは……」


「……あ。い、今のは冗談よ?あなた達がショタコンショタコンうっさいから、乗ってあげただけだからね?」


実際、結標さんがショタコンであるかは定かではありませんが、年下好きだというのは事実ですね。


「俺はツクヨミ一択だったぜい。」


「はァ?アルフさんが一番かっけェし」


「あたしはセルジュ好きだったわ。……もうあと三年若ければ理想だったけどボソッ」


「なるほどなるほど、わかりやすいですね。みなさん」


うわー、そんなかんじするわー、って感じの選択ですね。


「海原は誰が一番好きだったの?」


「そうだぜい?あとはお前だけだにゃー」


「コイツもロリコンの気があるから、マルチェラあたりじゃねェ?」


「うーん……そうですね、もちろんマルチェラ大好きですが……」


あえて言うならば……


「……スプリガンですかね?」


「「お前はいったいどこへ向かってるんだぁぁああああああああああ!!!!!!!」」


格好いいじゃないですか?変身できるんですよ?封神演義でも楊ゼン格好いいじゃないですか?そぉぉい!変化!!




47: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:53:34.58 ID:AVKxcpFR0



「あァ?電話かよ……ンだよ?今日は勝手にやれって―――何ィ?……だから言っただろ?タマネギ切らしてるって!……あァ?知るかボケ!じゃあな切るぞ!」


「ん?誰?木原さん?」


「あ、あァー、そ、そうだ。……ったくあのアホが」


「あ、久しぶりに集まったんですし、何か作ってくださいよ一方通行。今日は親が帰ってこないんです」


「あァ?……ま、たまにはイイか。台所つかうぞ」


「ショチトルの分もお願いしますね?」


「あ、あたしも手伝うわ」


「えェー……」


「ま、まじかにゃー……」


「な、なによぉ!少しはましになったのよ!?」


「結標、オマエ何作れんだ?」


「……野菜炒め……とか……」


「とか……?」


「とかはとかよ!い、行くわよ!」


「あいよ」


「不安だ……」


「ええ……」



この後、一方通行のチキン南蛮丼と、結標さんの野菜炒めをみんなで食べました。


チキン南蛮はびっくりするほど美味しかったです。


野菜炒めは……まあ、普通でした。






48: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/20(金) 20:56:28.63 ID:AVKxcpFR0

今日はここまでです!
閑話はちょいちょいはさんでいきます!次回の閑話は美琴ちゃん!
操祈タン登場です!
ククク……あーみん役はみさきちだったのだよ……
次回は一週間以内!もっと早いかも!時間あるとき!ありがとうございました!



60: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:07:54.80 ID:c6hEQt0v0





食蜂と呼ばれた少女は、美琴から視線を外すと、なにがどうしてか美琴の隣に腰かけた。


必然的に一方通行と向かい合う形となる。


美琴は、あからさまに苦々しい表情を浮かべたまま、終始横目で食蜂を睨み付けていた。


「初めまして!私、食蜂操祈でぇすっ☆あなたは……なんてお名前なの?」


当の食蜂は美琴をいないもののように扱い、一方通行にだけ笑顔を向けてきた。


彼女の笑顔には、一方通行の年頃の若者なら魅了されずにはいられないほどの魅力があった。


なめらかで、柔らかそうな唇がゆるやかなカーブを描く。


「……鈴科・一方通行だ」


ただし、一方通行はその事実を客観的なものとして捉えるだけに止まった。


一見無邪気で、赤子のものの様な笑顔であったが、女性からの見返りのない善意など向けられたことのない一方通行には、違和感を感じずにはいられなかった。


これはどう考えてもおかしい。自分の風貌に一切の反応を見せない人間などほとんど存在しなかったからだ。




61: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:09:57.18 ID:c6hEQt0v0


「変わったお名前だねぇっ!あ、私今年で16なんだけど、あくせられーた……くん、は……」


それに一方通行は、彼女の笑顔から、「どこかで嗅いだことのある嫌なニオイ」のようなものを感じた。


一方通行を一人の人間というより、「力」や「頭脳」の塊としか見なさない人間のニオイだ。それがひっかかりとなり気軽に言葉が出てこない。


(コイツは、俺のことを見ちゃあいねェ。俺にだってそれくらいは理解できる)


彼は、視線にいつも以上の鋭さを纏わせる。この違和感が拭い切れるまで、そう簡単に信じるべきではない、と判断したのだ。


「っ……あ、ははは……もしかして、と、取り込み中だったかしらぁ……?ね、ねぇ御坂さん?」


彼女の期待したものと違った反応が返ってきたからか、食蜂は動揺を隠さない


直前までシカトを決め込んでいた御坂にすがり始める。目の前の相手を手ごわいと見たのか。


「べっつに何にも取り込んでないわよ?……それで?アンタは何でこんなところにいるのよ?高校はこの都市の外に行ったんじゃなかった?」


食蜂が一方通行の籠絡に失敗したからか、美琴はさっきより幾段か上機嫌になっていた。


食蜂の狼狽がそれほど面白かったのか、微笑を浮かべて見せる余裕さえ見せた。




62: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:11:55.75 ID:c6hEQt0v0


「っ!み、御坂さんには関係ないでしょぉ!!」


今の言葉に彼女の感情を逆撫でする何かがあったのか、食蜂は席を立ち激昂する。


(おいおいおいおい……?何ですかァコイツ?ちょろっと頭のネジがブッ飛ンでンじゃねえの?)


「ちょ、ちょっと!?急にどうしたのよアンタ?」


一方通行が驚くのも無理はない。これには、面識があるはずの美琴も驚きの色を隠せなかった。


彼女は悠然としていた。その堂々とした態度には、一種の高貴さのようなものがにじみ出るほどだった。


しかし、その彼女が当初の様子から一変し、動揺と怒りを隠すことを厭わなくなったのだ。これは急変と呼べるほどの変化だった。


「だいたいアナタは毎度毎度気に入らないのよねぇー……『電撃姫』?勘違いもいい加減にしてほしいわぁ……私の観察力からすれば、アナタが『姫』だなんてお笑い草よぉ!」


「あ、アンタにだけは言われたくないわよ!その辺の奴らのご機嫌とって女王気取りで!ていうか、勝手に敵視されて迷惑してた私の身にもなってみなさいよ!」


少女二人は盛大に口げんかを始めてしまった。


(……この場合、俺はどォいうリアクションをとればイイ訳?……ン?)


状況についてゆけず途方に暮れていた一方通行の携帯に着信が入る。


差出人は上条当麻。内容は、「トイレにいるから」だけだった。


「………」


どォしてここにいる、という言葉は一歩のところで飲み込む。


きっと上条は、目の前の状況に関して何か言いたいことがあるのだろう。



63: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:13:48.48 ID:c6hEQt0v0


幸い目の前の二人は、喧嘩に夢中でこっちの様子に気づいていないらしい。今が期であろう。


「トイレ」


短く用件だけを告げ、一方通行は席を立つ。


ここにいても仕方がないのは分かっている。気に入らないが、この場は奴の言葉に従おう。


「このクソ面倒くさい事態について、納得のいく説明をしてもらわねェとなァ」


席を立ち、男子トイレに向かう。上条当麻は壁に背を預けて立っていた。


「おう一方通行!わざわざ悪いな!」


「さァて、納得のいく説明をしてもらおうかなァ?説教クソ野郎ォ……!」


女二人のケンカに巻き込まれるのが嫌だったというより、一方通行は他人の掌の上で踊るのが気に食わなかった。生来プライドの高い男だ、当然の話である。


「はい!?お、落ち着け!上条さんがお前をここに呼んだのはわけがあってだな!?操祈のことだよ操祈!あ、あいつのことどう思った?」


一方通行の殺人(そのままの意味で)スマイルに気圧された上条は、言い訳めいた様子で続けた。


「はァ?どォもこうもねェよ。つゥか、オマエとあの性悪女に何の繋がりがあるンだよ。またどこかで引っ掛けた訳ェ?」


「おいおいおい、上条さんがモテるみたいな言い方するのやめろよー。」


[ピーーー]ぞクソボケ。


「そうか……性悪、か。あいつ、お前にどんな態度とってきた?」


「バカみたいに俺に媚びへつらってきたなァ。お生憎サマ、砂糖臭ェツラは俺には通用しねェよ」


当然な、と、しれっと一方通行は言い放った。



64: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:17:06.89 ID:c6hEQt0v0



そう返された上条は、一方通行が知り合いである食蜂を邪険に扱ったというのに、どこか嬉しそうな様子だった。


「そっか、実はあいつは、俺の幼馴染なんだよ。この辺の案内をしてほしいって言ってきてさ、休憩がてらここに寄ったんだ」


「ふゥン……。でェ?俺たちを見かけたから用事を思い出したとか何とか言って、アイツを俺たちにぶつけるつもりでいた、と」


「おお!流石一方通行だな!これだけで全部わかったのか!そうなんだよ―――っていったぁ!!き、傷口に!!!」


すべて言い終える前に上条の頭にげんこつを落とす。以前噛まれたという傷口に当たったようだが知ったことではない。むしろ失血死しろ。


「オマエはあの女と美琴の関係は知ってるのか?どこからどォ見ても、アレは仲良しこよしには見えねェぞ」


「ん?知らなかったのか?中学の頃同じ学校で、これまた反りの合わない二人だったみたいだぞ?」


「……あ、そォ」


陰からそっと顔をだし、当の二人を覗いてみる。


言い争いはなおも継続している。やかましい罵りあいはなりを潜めたが、ちまちまと舌戦を繰り広げているようだ。


となりのテーブル席の客が胃の痛そうな表情を浮かべている。




65: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:17:47.08 ID:c6hEQt0v0


「美琴の中学の頃は聞いてる。一部を除いて規範的、ンでもって人望も厚かったっていう話だ。その点、あの性悪はどンな奴だったンだ?」


「ん?あぁ、それなんだが―――ってそろそろ他のお客さんに迷惑っぽいな。行くぞ一方通行!」


「はァ!?おい、美琴に説明しねェとまた面倒なことに―――」


制止むなしく、言葉の弾丸飛び交う女の戦場にズケズケと割り込んでゆく上条。


「だから言ってんでしょ、そんなことに興味は―――ってあ、あ、ああ、あ、アンタ!!なんでこんなとこに――」


距離を置いても、美琴の狼狽が見て取れた。何が何だか分からないらしい。当然だ。


(上条、自覚が無いとは言えこのタイミングはいただけねェな……)


説明の足らない上条の特攻に、一方通行は怒りさえ覚えた。もっと自分の価値を自覚しろ。


「あ、当麻くん?遅かったじゃなぁい。………ふぅん」


食蜂の頬がにやり、と歪む。


よほど人を観察していないと見て取れないほどの、一瞬だけの怪しい輝き、小さな動き。


美琴の態度から何を感じ取ったのか、そこからの彼女の動きは素早かった。


「と、と……当麻くぅ~~~んっ!!!!!」


涙まで繕って見せた彼女は、上条の胸の中に飛び込む。


その姿は、どんな悲劇のヒロインよりドラマチックであり、それでいて演技がかっていない完璧なもの。


「み、操祈!?そ、そんな風に密着されるとお、おムネのあたりに柔らか心地良い圧迫感が……」


一瞬驚く顔を見せたものの、すぐさま上条の鼻の下が伸びあがる。


それもそのはず、食蜂は、自らの胸の柔らかい双丘を、これみよがしに上条の胸に押し当ててかかったのだ。


(……あの三下、マジで殺してやろォかな)




66: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:19:19.60 ID:c6hEQt0v0



汚物を眺めるより冷ややかな目で上条を眺める一方通行だったが、すぐに我に返る。


(やべェ。この流れはやべェ。……み、美琴は……)


短気な美琴のことだ、仮にこのトゥイスタのラップばりの話の速さについてゆくことができたとしよう。それでも、感情が抑えられるかは別問題である。


事実、美琴の拳は固く握りしめられ、その怒りの視線は、食蜂の方を向いていなかった。


美琴の様子の変化を、上条の目が捉える。


「………へ?」


「……あ、あ、アンタは……」


じりっ、と一歩。


視線の先のツンツン頭の少年へ歩みを進める。


「ちょ、ちょっと御坂さん?その固く握りしめた右の握りこぶしは、い、いい一体なんでせうか……?」


「は、鼻の下……伸ばしやがって……」


「お、おい……み、美琴ォ?……まァ、いっか」


「ってええ!?何それ一方通行!?」


最初は止めに入ろうとした一方通行だったが、上条の行いを思い出す。


いいように使われてイラついていたところだ。それに、以前の屋上の件の借りも、まだ返してもらっていない。


「?……あー、私は離れておくわねぇ?」


「あァ、それが正解だ」


上条から離れ、一方通行の隣に並ぶ食蜂。


目ざとく空気を理解したようだ、流石である。


「ちょ、ちょっとみなさん!?何で結託し合ってるんですか!た、たたた、助け―――」



67: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:19:57.08 ID:c6hEQt0v0



「おっそいわぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」


右ストレートでぶっ飛ばす。真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


美琴の右ストレートは綺麗に決まった。


無関係の客たちが、「oh……marvelous」と息をのむほど美しい動作だった。


「……ねぇ、アナタ」


地に這いつくばる上条を冷たい目で見下す一方通行に、食蜂が尋ねる。


本当に気軽に、友人にちょいと話しかけるようなさりげない様子だ。先ほどのような媚びは一切含まれていない。


「ほっといていいのぉ?これ、そうとう面倒くさいわよぉ?」


「知らねェよ。自業自得だ」


「……ふぅん。」


あくまでそっけない様子の一方通行に意味ありげな笑顔を向ける食蜂。


その胸中は到底理解しきれそうにない。


「ぐ、ぐぐぅ……」


二メートルほどぶっ飛んだ上条だったが、幸い、通路に吹っ飛んだため、怪我人は出なかった。



68: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:21:13.64 ID:c6hEQt0v0


「ふ、不幸だ……」


そう、当の本人を除いて。


「………う、ぁぁ」


「……気にするな。オマエは悪くねェよ」


「……ありがと」


一方通行は、自らの想い人をぶっ飛ばした少女に慰めの言葉をかける。


ぽん、と手を置いた肩越しに、わなわなと震えが伝わってきた。




69: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:25:54.62 ID:c6hEQt0v0





                               ◇






その日は良かった。その日だけなら問題はなかったのだ。


「嫌な顔見たわ……ていうか、アレがアイツの幼馴染とか……」


御坂はブツブツうっとおしかった。本当にうっとおしかった。しかしそれだけだった。


愚痴も帰り道に一通りこぼし終えたようで、夕飯の時間にはすっかり機嫌を直していた。


「ま、ウチの学校に来るってわけでもないんだし、忘れちゃえばどうってことないわ」


「……」


おい、それは死亡フラグってやつじゃァねェのか?という台詞を一歩のところで飲み込む一方通行。


彼女との事情が軽く気になったのでさりげなく尋ねてみると、


「別に私が何かしたからという訳でもないのに、いちいち突っかかってくるのよ、あの女」


とかなんだか言ってお開きになってしまった。


どうやらあまり思い出したくないことらしい。


そんなこんなで次の日、嫌な予感というものは総じて当たるものなのであった。






「食蜂操祈でぇす☆ちょっと事情があって転入してきましたっ♪よろしくおねがいしまぁす!」


キラっ、という効果音が聞こえてきそうなほど眩く、常人とはひどくかけ離れた華々しさを帯びた笑顔。


鼻につかないレベルに抑えた天真爛漫さは、単に無邪気という範疇では収まらないだろう。


あまりにぶっ飛んだ天然という人物など滅多に存在しない。それをわきまえつつ、最低限現実を見据えた人物という、誰の鼻にもつかない人物を演じているようにも見える。



70: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:26:43.73 ID:c6hEQt0v0



……などと考えているのは一方通行ただ一人だけであって……


「えっ!あの子モデルの子じゃない!?」


「食蜂操祈ってこの子だよ!ほらっ、ここに載ってる!」


「何あの子!カワイイーーっ!細ーい!脚長ーい!」


「スタイル超よくねー?」


やだやうっそまじぃー!といった様子で、ミーハーな連中を中心とした女子は、ノリノリ絶賛大盛り上がり中である。


一方、男子に至っては、言葉も出ないという様子がほとんどであった。


教卓の前の天使に暑苦しい視線を送りつつ、これからより一層鮮やかさを増すであろう、彼ら自身の学生生活への期待を膨らませる。


「おやおや、随分派手な方が転入してこられましたね。」


と海原光貴。かれはいつもの通り余裕を感じさせる様子だった。


「余裕そうだな海原。お前はあの美少女から何も感じられないのか?」


「きょ、今日はいつにもましてシリアスモードですね土御門さん……何かあったのですか?」


「いっやぁ!別に何にもないぜぃ?……ただ、こうでもしないと妹への愛を忘れそうでなぁ。……ふぅ、克服したにゃー……」


「け、賢者モードにっ!?」


超シスコンの土御門元春でさえ我を忘れそうになるほど彼女のオーラは破壊的だったようだ。




71: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:27:16.38 ID:c6hEQt0v0



「……とンでもねェな」


正直、一方通行はこの突然の転入にさほど驚いていなかった。


嫌な予感は当たるものだ、と割り切っていたし、「このあたりの案内」というワードから推測はできた。


「ちなみに当麻君は私の幼馴染でぇす!」


その瞬間、上条にクラス中の視線が集まる。怒りや妬みや「またこいつかよ……」といった視線が、ツンツン頭の少年に突き刺さる。


「えっ!?ここは『ええーーーっ!?』みたいに騒ぐところじゃないの!?ちょ、ちょっと!?皆さん視線が怖い!」


「死んだほうが良いですね」


「だにゃー」


「おおい海原に土御門!!!お前らもか!」


今日の食蜂は昨日より気合が入っているように見えた。


他人の悪意に敏感な一方通行にはそれが理解できたが、それを他者に求めるのは不可能そうだ。


彼女自身悪意をもっているわけでもなさそうだし、一方通行も、クラスの連中が彼女を崇め奉ろうとどうでもよかった。


(そォいや、美琴の様子はどォなってンんだ?アイツは夢にも思ってなさそうだったが……)


彼女のほうに視線を移す一方通行。そこにあるのは、彼の予想と寸分変わらぬ光景だった。


「……」


驚愕に目を大きく見開き、への字にした口元が引きつっている。


怒りと動揺が入り混じったような感情がひしひしと伝わってくるようだ。



72: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/23(月) 21:27:46.71 ID:c6hEQt0v0


「はぁい皆さぁ~ん!これから仲良くやっていくのですよ~?じゃあ食蜂ちゃんは一番後ろの席です!」


担任の月詠小萌の甘ったるい挨拶と共に、食蜂は席へと歩いていく。


歩き方も優雅、の一言が似合うほど洗練されていた。


「……ふふっ」


「……あァ?」


一方通行の席の横を通るとき、彼女が流し目を送ってきたのがわかった。


「昨日のことは黙っていろ」という警告のつもりなのだろうか?


(釘でも刺しとこうってか?余計な事だな。そんなつまンねェ事に興味はねェよ)


さりげなく、あくまでさりげなく行われた警告に、感づくものは誰もいなかった。


誰一人、そうただ一人を除いては。


「……あの女っ!」


唯一の例外、御坂美琴は人知れず奥歯を軋ませる。


その額から、一筋の汗が流れ落ちた。



85: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:09:15.54 ID:d9hocXuz0


                          ◇

「やっぱモデルの仕事って忙しいんですか?」


と、一方通行のクラスの花形の一人として、男子の目線をひときわ集めていると評判の五和。


おとなしそうな印象だが、私服が意外にギャルっぽいらしい。色んな意味で期待を裏切らないと評判の生徒だ。


「どうかしらぁ?でも、そんなに大げさなものでもないわ。楽しいしねっ☆」


「それにしても食蜂さん、スタイル良くて羨ましいです……」


「ふふっ、ありがとう五和さん!でも……アナタの体もなかなかの悩殺力だと思うけどぉ?」


「そっ、そんな!からかわないで下さいよ食蜂さん!」


「嘘じゃないわよぉ?なんなら知り合いの芸能プロダクションの人に紹介してあげましょうか?アナタ、グラビアとか向いてるかもしれないしぃ?」


「か、勘弁してくださいっ!!しょ、食蜂さんの体つきのほうがエロいです!」


「え、エロいとか大声で言わないでよぉ!私、転入早々エロい子キャラなんて絶対嫌なんだからっ!」


どっ、と彼女を中心に笑いが起きる。


食蜂はうまくやっている。クラスの連中と、対等で、なおかつ良好な関係を気づくことに成功している様子だった。


頭ごなしにからかい続けるだけではなく、適度に隙を見せ続けることによって、親しみやすさをも醸し出している。




86: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:10:27.16 ID:d9hocXuz0


そう、簡単に言ってしまえば、食蜂操祈は人心を掌握するのが異常といっていいほど上手かった。


クラスでは、「操祈ちゃんって、可愛いのに気取ってなくて、大人っぽいかと思えば意外にお茶目で話しやすい良い子だよねー」という評価がすでに固まりつつあった。


二時限目が終わった後の休み時間、一方通行は立て肘しながらぼんやりと、彼女を中心とした輪を眺めていた。


傍の机に上条当麻が腰かけている。


「上手くやってンじゃねェか」


「そうなんだよなぁー……いや、悪いことではないと思うんだが……」


いつものように無気力そうにつぶやく一方通行。対して上条は、安心していいのかどうか煮え切らない様子だ。


「まァでもイインじゃねェの?アレも立派な才能の一つだし、人望があって困ることはねェだろ」

                               メンタルアウト
「あれは確かに才能のひとつだな。上条さんはあのスキルをを勝手に心理掌握と名付けた。」


ドヤぁ、と胸を張る上条。うっとおしい。


「漫画の読みすぎだ。まァ、俺に面倒なことが転がってこなきゃ構わねェよ」


「そうか。昨日は素の操祈を見せたくてあんなことを計画したんだが、余計なことだったな」


「それだけどよ、オマエは何考えてたンだ?ああしてあの女はうまくやってンだからイイじゃねェかよ」


「……そうかもしれないけどさ」


一瞬考え込むようなしぐさを見せた上条は真剣な顔を作る。



87: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:11:15.41 ID:d9hocXuz0



「俺は、誰と付き合うのでも素でいてほしいんだ。あいつ、全力で誰かにぶつかったことないんだよ。あいつは、誰かと付き合うとき絶対に壁を作るんだ。今はこのままでもいいかもしれない。もしかしたら、ずっとこのままでも生きていくことに支障はないかもな。でも、このまま誰とでも適当にしか付き合えないようになっちまったら、絶対あいつのためにならないと思うんだ。そう、いずれあいつは後悔しちまうと思うんだよ……」


「…………」


「あの時、若いとき、もっと好きに生きてればよかった、ってさ。今どれだけ人に嫌われても、何をしたって死ぬわけじゃないんだからさ。それを、お前たちに協力してほしかったんだよ」


「…………」


きっとこの男は、根っからのお人よしなのだろう。


何かを「してあげる」という優越感に浸っているわけでもない。


人のために何かをしたい、と思ってやっているわけでもないのだろう。


ただただ幼馴染が心配だから行動する。彼の行動は、それだけに根ざしているのだろう。


一方通行は、上条の言葉にはすぐには答えられなかった。


上条のしようとしたことが良いことかはわからない。


自分がもし食蜂だったら、「余計な事はするな」というだろう。こいつは食蜂のプライドを全く考慮に入れていない。


自分が食蜂でもきっとそう言うはずだ。


それでも、こいつはいいと思っている。打算など無く、相手の都合など一切考慮に入れていない。


この男の中では、相手がどう思うかが大切なのではないのだろう。自分がどうしたいかが大切なのだ。


全く持っていい迷惑だ。美談などではない。一種の押し付けと言ってしまうことも可能だろう。


しかし、それでも、一方通行はそんな上条が好きだった。



88: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:12:10.29 ID:d9hocXuz0


数瞬、考えるそぶりを見せる一方通行。そして、彼の出した答えはこうだった。


「お断りだ、クソ野郎。」


「っ!あ、一方通行!?だけど―――」


「素のアイツだか、外面のアイツだかは関係ねェ。俺は俺のやりたいようにアイツと接する。アイツの態度なぞ、知ったことじゃねェよ」


もともと、彼女がどういう人物だろうと彼には関係無いのだ。


一方通行は、親友の幼馴染だろうと知ったことではなかった。


一瞬目を白黒させた上条だったが、すぐに相好を崩す。彼の意志がきちんと伝わったようだ。


「………そうか。俺の余計なお世話だったかもな。」


「面倒な野郎が……俺がそンな器用なマネできるはずねェだろ」


「え?そんなことないと思うけどなー……ま、いっか。素直じゃないな、一方通行は」


「……どォいう意味だ」


「いや?お前は相変わらずツンデレだなーって言って―――うおっ!?痛ってぇ!ぶ、ぶたないで!上条さんまだ傷がなおってないのぉ!!」


上条は上条なりに従妹を心配していた。それでこの話は終りだ。


男二人が汗臭い対談をしている一方、とうの幼馴染はこんな様子だった。




89: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:12:37.62 ID:d9hocXuz0



「ねーねー?ところで、あの、白い髪の彼、何て名前かわかるぅ?」


人好きのする笑みを浮かべ、輪の中の女子生徒に食蜂は声をかけた。


「あ、あぁ。一方通行くんの事?う~ん……あの人は、あまり良い噂聞かないから、あまり近づかないほうがいいかも……?」


「そうよ!一時は不良じゃない説が流れてたけど、やっぱり怖い人みたいだし………この前なんて釘バット持ってクラスを脅したのよ?」


女子生徒の二人が答える。言葉に怯えが混じるのが食蜂には聞き取れた。


「ふぅん……御坂さんとはどんな関係なんだろ?」


「え?良くわかりましたね、食蜂さん。あの二人が一緒のところ見たんですか?」


いくらか恥ずかしそうに答える五和。この手の話題には疎いというか、初心な子なのだろうか?


この子はからかい甲斐がありそうだ、と食蜂はほくそ笑む。


「うん!見た!仲良さげにご飯食べてたの!……恋人同士、だったりぃ?やっぱし……」


「どどどどどうなんでしょぉ!?わ、わたしわかんないです!……で、でも、一方通行くんは違うって言ってました」


「実際どうなんだろうねー。でもその割には仲良すぎじゃねー?」


「学校いつも一緒に来るしねー。どうみても付き合ってるようにしかみえないよねー」



90: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:13:10.68 ID:d9hocXuz0



「あっ、噂じゃあ御坂さんが弱み握られて、無理やりいろいろされてるとか言われてるの知ってる!?」


「えっ、うっそ何それエロっ!ていうか、それはあるかもー」


「………」


笑顔を作りながらも、頭を動かすのを決してやめない。その点、食蜂は一方通行と良く似ていた。


「くすっ。……一方通行くん、か」


女王蜂は、美しくも怜悧な微笑を作る。

メンタルアウト
心理掌握、食蜂操祈。


彼女の次なる獲物は、赤い瞳の少年。


「おい一方通行、俺の漫画早く返せよ!また読みたくなってきたんだよぉ!」


「あァ?嫌だボケ。まだ読んでねェ」


「今どこ?」


「サムソンがヅラだったァ」


「ぜんっぜん序盤じゃねぇか!!」


しかし、当の獲物は、狩人の存在にすら気づいていなかった。



91: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:13:54.89 ID:d9hocXuz0



                              ◇



「ったくよォ、美琴は機嫌悪いし、面倒なことになったもンだ」


三時限目の終わり、一方通行は廊下を歩いていた。


喉が渇いたので自動販売機でコーヒーでも飲もうかと思いたったのである。


学校は不思議な空気を持っていた。十分休みの自販機前には全く人影がない。


空き缶の雑多な残り汁のにおいが鼻をつく。苦みと酸っぱさが入り混じったような不快な匂いだ。



「ブラックは……あった」


「おっ先ぃっ☆」


横から細い腕が割り込んでくる。次の瞬間には、ピッ、という音を立ててボタンが押されていた。


ごてん、と、良く響く音。


「おいコラ……」


「え?これじゃなかったぁ?」


ぱちくり、と目を瞬かせる食蜂操祈。こんなところまで一体何しに来たのだろう。


「おい、こンなクソ甘ェもン誰が飲むンだよ」


「あれれ?違ったの?じゃあ私が飲む!」


えいっ、と一方通行の手からホットカフェラテをひったくる。


キャップを外し、くいっとそのままあおると、にこっ、と満面の笑みを向けてきた。



92: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:14:34.43 ID:d9hocXuz0


「……」


無言でブラックのコーヒーを買う一方通行。やれやれ、と一息。


「つゥかよ、オマエはいつまで皮被ってやがるンですかァ?真性ホーケーなンですか?」


「しっ、真性っ!?な、何言ってんのよぉ!?」


あれェ?おかしいな、と一方通行は首をひねる。


目の前の女は、下ネタが平気な女だと思っていたのだが……


下ネタに耐性はないのだろうか。ていうか知らない?カマトトぶってるだけ?


「真性ホーケーっつゥのはだな―――」


「説明しなくていいからぁ!」


ぜぇぜぇと肩で息をする食蜂。どうやら彼女は、自分のペースを崩されるのには慣れていないらしい。


(女はやっぱ下ネタ嫌いなンだな。こればかりは美琴の言う通りだったか)


「ふぅ~ん……へぇ~……。当麻くんに何か言われたりしたのかしらぁ?」


「第一印象から丸わかりだアホ。この一方通行を謀るには修業が足りねェな」


互いに人の悪い笑みを浮かべ合う二人。不思議と刺々しい空気は生じなかった。


「………あ、そ」



93: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:15:03.74 ID:d9hocXuz0



食蜂ももう無駄だと悟ったのか、警戒を緩める。


不遜な顔つきを作り、これ見よがしに溜息をついた。超脱皮。


「あーぁ、つっまんないのー。いつもならアナタを孤立させたりとか、色々するんだけどなぁー……なんか、やる気なくしちゃったっ☆」


てへっ。


「可愛く言っても何もでねェよ」


「あれっ?今の可愛かったぁ?」


「そう言う意味じゃねェ」


全くどこまで本気なんだか、と一方通行の表情に疲労の色が滲む。


彼女のペースはひたすらに独特だった。


「ねぇねぇー、御坂さんとはどんな関係なのよ?クラスの子達、アナタの外見力とか性格とかから判断して、アナタが御坂さんを脅してるとか噂してたわよぉ?」


「んっ!?ごっほ!!げはっ……マジかよ……そンな事になってンのか……」


流石の一方通行も少しはショックを受けたようだ。口の中のコーヒーを吹き出しそうになり、盛大にむせる。


付き合っていると噂される覚悟はしていたが、それではまるで三流官能小説だ。よいではないかよいではないか。


というか、女子高生の頭の中はそんなににお花畑なのか?恐るべしJK。




94: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:16:24.53 ID:d9hocXuz0


「………で?結局はどうなのかしらぁ?」


突然食蜂は、自らの腕を一方通行の腕に絡ませ、体を密着させるような体制をとってくる。


名状しがたい甘い香りが鼻腔をくすぐる。細められた瞳に蠱惑的な光を灯し、眼前の赤い瞳をじっと見つめる食蜂。


それは、麻薬のような魅惑であった。


悪魔の誘いであると知っていても、その先に破滅が待っているとわかっていたとして、それでもなお引き寄せられてしまう、そんな暴力的な魅力を持っていた。


「………」


「………」


不動で見つめあう一方通行と食蜂。


互いの視線に感情はなかった。


ほとんど目線の高さが変わらないふたり、先に動いたのは一方通行だった。


「……そォォい!!」


「ぇっ、ちょっ、きゃぁあ!」


害虫を追い払うかのように、食蜂の華奢な腕を払いのける。


まさかこう来るとは思っていなかったのか、不恰好に地べたに転がる食蜂。


その瞬間の彼女からは、真剣な焦りの色が垣間見れた。



95: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:17:50.07 ID:d9hocXuz0


「なっ、何するのよぉ!いったぁ~……いててて……もぉ!しんっじらんない!!女の子にこんなことするなんてぇ!!」


少し涙目になりつつ、強く打ちつけたのか尻をさする。


本気で動揺する彼女の姿は、一方通行の加虐的な性質を著しく刺激した。


「ぎゃはッ……生憎、俺はフェミニストじゃねェ。どォする?お得意の人心掌握術でクラスの連中をけしかけたりしちゃう訳ェ?」


「っ!」


この時、この瞬間、一方通行の挑発は抜群に効果を発揮した。


彼女の高いプライドに付け入ることによって、「誰かに頼る」という事は敗北である、というルールを彼女に植え付けたのだ。


一方通行は、彼女がペースを崩されるのに弱いということを既に看破していた。真っ白な掌の上で踊らされ始めていることに食蜂は気付かない。


「あとな、俺を攻略したところで美琴にダメージはねェよ。アイツには他にお熱の奴がいるンでなァ?」


笑みを浮かべつつ、手を差し出す一方通行。


予め言っておくが、彼は別に、食蜂と仲違いしたいわけでは決して無いのである。




96: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:19:49.38 ID:d9hocXuz0



「っくぅ!」


思い通りにいかないことへの敗北感やら何やらを感じながらも、食蜂はその手を握った。


手を振り払い、自分が見苦しい女であると認めることが、敗北感を感じることが嫌だったのだ。


「そろそろ休憩もオシマイだ。お勉強の時間ですよォ?………食蜂さン?」


空き缶をゴミ箱に放り込み、背を向ける。


その背中を少女は見つめる。


「……思ってたのと違う……」


焦りの色の入り混じった呟きが無人の廊下に漂う。


まだ温かいカフェラテは、半分ほど残っていた。



97: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:20:59.82 ID:d9hocXuz0



                               ◇






四時限目、授業科目は数学。


理系は得意中の得意である一方通行は、話をほとんど聞かずボーっとしていた。


化学の担任は天井亜雄。二十代後半独身。


木原数多の後輩だったという化学教師だ。


木原とは犬猿の仲だったらしく、教師陣の中でも、とりわけ一方通行を面白く思っていない。


真面目で、冗談があまり通じないため、生徒からの受けはさほどよくない。


しかし一方通行は、どうしてか彼のことが嫌いになれなかった。


誰にでも公平に接する、そこが美点に映ったのかもしれない。


事実、彼は一方通行に説教をくれる数少ない教師だった。


(今日の晩飯どォしよ。……あ、手羽先喰いてェな。)


虚空を見つめ、思考に耽る一方通行の頭に、ぽんっ、と、紙屑がぶつかる。


教室のどこかから投げ込まれたようだ。


(なンだよ畜生。どこのどいつだ?)


紙屑の出所を探るため、あたりを見回す。投げた人物はすぐに分かった。


(あの野郎ォ……)



98: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:22:07.68 ID:d9hocXuz0



ぶすっ、と面白くなさそうな顔つきで、横目で一方通行を睨む美琴。とんとん、と机を指で叩いている。手紙を読めという事だろうか。


(ンだよクソッタレが……あァ?)


手紙の内容は以下の通りだった。


『食蜂操祈と何してたの?最後に帰ってきたのアンタ達だったよね?』


どうやら見られていたようである。


(いや、なにもしてねェンだが……)


ちらり、と美琴に視線をくれる。彼女の目つきは、先ほどと寸分変わらず冷え切っていた。


ベリーベリーコールド。エターナルフォースブリザード。バナナも凍るレヴェルだ。相手は死ぬ。


(無視無視ィ……あ。)


しかし、またまた一方通行の机に丸められた紙屑が乗せられる。


こんどは席を巡りにめぐって来たようである。


(ったく、珍しいこともあるもンんだ。紙屑、流行ってんのかよ)


面倒くさい遊びだ、と嫌々小さく丸まった紙屑を解く。


次の瞬間、一方通行の網膜に映し出されたのは予想だにしない文字の羅列だった。


『一方通行さんへ from 佐天涙子』


「あァっ!!??」




99: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:25:35.95 ID:d9hocXuz0



がたっ、と地獄の閻魔も半裸で逃げ出す形相で立ち上がる一方通行。


教室の温度は一気に冷え切る。まさしく絶対零度。


「あ、一方通行っ!言いたいことがあるなら言いたまえ!お、脅しは通用しないぞ!!」


恐怖に顔を歪めながらも、必死に威厳を保ち叱咤を放つ天井亜雄。


「………すいませン」


落ち着け落ち着くんだ、と自らに言い聞かせ、そっと腰を落ち着かせる。


そっと佐天に視線を向けると、視線がぶつかる。腕を組み、ゆっくりと頷いた。


佐天涙子からのダイレクトメッセージに心臓が高鳴る。おいおいおい?何書いてあんの?つーか字可愛い。なんてことを考えながら字面に目を落とす。そこには、


『御坂さんから聞きましたよー?なんかあの転校生と怪しいらしいじゃないですかぁ!御坂さんとはそーゆー関係じゃないらしいですけど、御坂さんを傷つけるようなことがあったらお仕置きですよ!グルービー!! さてん』


(………美琴め)


ちくりやがった!と、美琴を睨み付ける。彼女はさも当然、といいたげに不敵に笑う。


よほど食蜂のことが気に入らないらしいな、と一人で納得する一方通行。しかし、それだけでは終わらなかった。


ぽすっ、と一方通行の机に紙屑が乗っかる。その数三つ。


「は……?」



100: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:27:34.94 ID:d9hocXuz0



またかよ、とこぼす暇すらない。


「………」


嫌々ながらも紙屑を解いてゆく一方通行。そこには、


『転校生となにしてたにゃー?最近カミやん病に罹患したようにしか見えないぜよ つっちー』


『転校生になにしたかkwwsk 海原』


『爪を切ったあとの爪のにおいは、いいにおいだと思う 上条 p.s お風呂上りにみみそうじをすると、しめっている』


(クッソ野郎共がァっ!!あと上条[ピーーー])


にじみ出る怒りの波動はそのままに、やりすごすように授業を乗り切っていく。


(好き勝手言いやがって……まァ、奴らにも弁解の必要があるか)


改めて食蜂の影響力を思い知らされる一方通行だったが、大ごとだとは捉えていなかった。


彼女の影響力は確かに大きいかもしれないが、自分のことなどすぐに飽きるだろう。


噂なぞ一過性なものである。すぐに飽きが始まるはずであるし、そのころには流石の美琴も落ち着いているはずだ。


転入生一人に大騒ぎするなぞバカらしいことだ。などと考えていた。危機感を抱く必要性など存在しないだろう。


「………」


一方、仮面をかぶることを忘れ、誰が見ても不機嫌を分かる様子で、食蜂操祈は一点を見つめる。視線の先には白い男。


彼女の異変に感づくものは誰一人としていなかった。




101: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:29:11.86 ID:d9hocXuz0


「―――今日はここまでとする。日直、礼を」


「起立っ!」


日直の合図にクラス中が従う。


しかし、右からに左の生徒がひとりいた。


「……食蜂さん?」


「うぇっ!?あ、ああ!す、すいませぇん!あ、あはは……!」


彼女は、狼狽の色を色濃く浮かび上がらせ、慌ただしく立ち上がった。


「礼!」


「「ありがとうございました」」


「購買いこー?」


「急がねえとやべえなー」


窮屈な拘束時間から解放され、生徒たちは思い思いの行動にでる。


そんな中、食蜂は溜息をひとつ。


「………なにやってんのよぉ、私」


問題は、一方通行が思っているほど簡単ではなかった。



102: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:33:43.02 ID:d9hocXuz0

本編はここまで!以下閑話でぇす。



103: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:34:45.40 ID:d9hocXuz0

◇ 閑話 御坂美琴と仲間たち



「よーっす」


「あっ御坂さん!遅いです!」


「やっと来ましたねー」


御坂美琴よ。最近駄目人間だと思われてる気がするけど、そんなことないわよ。


今日は友人二人と遊ぶ日。初春さんが家においでって。私にも友達くらいいるんだから!


「白井さんがいないと静かで良いすねー」


「結構毒吐くのね……初春さん……」


頭に花飾りを乗せ、甘ったるい声で毒を吐くこの少女は私の親友、初春飾利。


違うクラスであるが、同い年だ。


風紀委員に所属していて、見た目に似合わずコンピューターにとっても詳しかったりする。


この子も佐天さんもすっごく可愛いのにその手の噂がないのはなんでだろう?


ちなみに、白井っていうのは私の親友。いつもはその子を含めてずっと四人でいたんだけど、家の事情で引っ越した。


最初はショックが大きかったけど、すぐに慣れた。すぐに慣れた自分が、少し嫌いになったりもした。




104: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:35:12.43 ID:d9hocXuz0



「えっへへ~♪冗談です!あ、そういえば白井さん、秋くらいに戻ってこれるかもしれないらしいですよ?」


「か、軽いよ初春!そんな軽く言っていいの!?ていうか御坂さんには内緒にって話っ……あっ」


「……ちょっと、どういう訳か聞かせてくれるかな?」


まさかの重大発表ね!?


……てゆーか黒子のやつ、私にだけ伝えないってどういう事よ?


あれだけお姉さまお姉さま五月蠅かったのに……ちょっとヘコむわ……


「あー……ここだけの話、御坂さんにはサプライズって形にしておきたかったらしいですよ?あ、これ白井さんにはオフレコで……」


と初春さん。


「白井さん、びっくりさせたかったみたいですよ?」


佐天さんが言う。


「……そっか。」


黒子のやつ……


「あ、でもでもぉー?白井さんの付け入る隙なんてないかもしれませんねぇー?」


「ん?どういう意味?」


佐天さんお得意の意地の悪い笑みだ。


……一体なんだろ?


「だってだってぇーっ!御坂さんには一方通行さんがいるじゃないですかぁ~!!!」





105: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:36:21.60 ID:d9hocXuz0



「は……はぁっ!!??……だからさ、佐天さん!前にも言ったけどアイツはそんなんじゃ――」


「ぬっふぇっ!!??あ、あの時のあの人ですかぁっ!?」


聞いてくれないし。


「え~……?それにしては仲が良すぎると――」


「はい!この話はお終い!初春さん!面白い話用ーっ意!!!!」


「む、無茶振りにもほどがありますよぉ!?………あ、一方通行さんと言えば――」


「おぉーいっ!!!」


またアイツの話じゃない!


「あの人、有名でしたよねー?高校に入って丸くなったって噂でしたけど」


「一方通行さん?不良だって噂聞いたけど、全然良い人だよ?見かけによらず料理がすっごく上手だし!」


「確かに、私より全然上手よ……悔しいけどね」


良かったわね一方通行……嫌われてはないみたいよ。


「中学時代は超名門の長点上機に通いながら、血に飢えた獣のように周辺校の不良を殲滅したとか言われてますねー。『白い悪魔』とか呼ばれてたらしいです。あと、一部の人から『天使プラス1』とか呼ばれてましたねぇー。ま、定着はしませんでしたけど」


「ぶっふぉ!!ちょっ!それ、だれが付けたのよ初春さん!てか、流石に天使は無いわ―…」


「え?格好いいじゃないですか御坂さん!!天使ですよ天使!一方通行マジ天使!」


え?え?初春さん的にはアリなの?てゆーかプラス!?二人組なの?コンビ名?アイツが天使なの?それともプラス1の方なの?


「そうですよね佐天さん!天使とか最高ですよね!!」


「い、いや……流石にそのセンスは無いと思うよ初春?」


良かった、佐天さんはまともだ……


「でも一方通行さん、顔はすっごい格好いいじゃないですか!確かにマジ天使ですよ!」



106: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:37:33.37 ID:d9hocXuz0


「……初春さん、あーゆーのがタイプなの?」


結構意外かも……

                                        ・・・・
「うーん……タイプっていうか……なんかプライド高そうな人は好きですねー。……いやそういう意味でなくです!」


「どーゆー意味なの?」


ホントどういう意味だ……すると考え込む初春さん。


「なんというか……プライド高そうなエリート入ってる感じの人が、思ったようにいかなくって、ヘタレてるとことかぐっときますね!噛ませキャラになっちゃう感じも好きです!」


キャラ……だと……?


「な、なんと良い笑顔だ初春よ!だけどさっぱりわからん!」


「わたしもよ!佐天さん!」


たまに何言ってんのかわからないとこがあるのよね……


「あっ!やばい七時半だ!テレビテレビ!!」


「え?初春、テレビなんかやるの?」


「ガンダムSEEDですよ佐天さん!うっほ!!イザーク様今日も素敵んぐ!」


「ガンダム?あたし見たことないなぁー」


漫画は好きだけどアニメはあんま見ない。私もガンダムとかしらないなー。


「じゃあ御坂さん!これから毎週見ましょう!オゥフ!この二人の連続カットインとか誘ってやがるンですかァ!!??」


「初春……」


「ああ……例の……」




107: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:38:38.84 ID:d9hocXuz0


彼女は少し特殊な趣味をお持ちです。何?ディアイザ?なんかよくわからんこと言ってます……


「まぁいっか。……ところで御坂さん?」


「ん?どうしたの佐天さん?」












「……一方通行さんの手料理食べたんだぁ~?」


「ぬぉおお!!時間差かぁあ!!!!!」


その後は三人仲良くガンダムみて、お喋りしました。


その日は初春さんちに泊まった。







……そして、DVDを押し付けられたわ。どうしよ。











108: ◆Mx7XGp.7IA 2012/01/27(金) 22:40:27.82 ID:d9hocXuz0

本日は以上なり!次はまた余裕出来たら来ます!一週間以内には!
閑話でネタが多いのは仕様です。すみませぬ。
ありがとうございました!



126: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:03:01.18 ID:2BNTa/IJ0


 
                                 ◇




昼休み。ご飯の時間。みんな楽しみご飯の時間。


一方通行は、家から持ってきたドリップコーヒーのパックを取り出し、悠々と教室の最後方に向かった。


「くけけ……コーヒーだぜェ……って痛っ」


ぽこん、と教科書で頭がどつかれる。


「な、何やってんのよアンタ!?」


「あァ?コーヒー入れてンんだよ。見てわかンねえのか」


バカなの?死ぬの?とでも言いたげにしれっと答える。


「いやいやいや!その電気ポットは何よ!?おかしいでしょどう考えても!」


「家から持ってきたァ」


「だ・か・ら!なんで家から持ってきてんのよ?」


「暑いコーヒー飲みたいしィ。あ、ちなみに炊飯器もある。ご飯ホッカホカだぜ」


「……もう……いいわよ」


きひひはは、と嬉しそう(暗黒微笑)に笑う一方通行に対し、美琴は呆れている様子だ。


(自重が全くなくなったわね……)


釘バットの一件以降、「もう不良で良いンじゃね?」と、開き直った一方通行は、昼ご飯を美味しく頂くため、教室で米を炊き始めたのだ。


よって、教室の後ろのコンセントには、彼の私物の炊飯器と電気ポットが繋がれている。



127: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:03:56.25 ID:2BNTa/IJ0



もちろん校則違反、というか校則にそんなことの載ってはいないのだが、彼に注意できる人間などほとんど存在しない。


それに加え、彼の身勝手は一部の生徒から評判がいい。


「お湯借りるにゃー」


「あとでちゃンと汲ンどけよ」


「自分もコーヒー頂きますね?」


「俺も!いやぁー、上条さん助かりましたよー。今日お弁当作れなくてカップ麺でさぁー。」


「それでイイのか副会長」


「一方通行さん!あたしもコーヒー欲しいです!」


「……熱いぞ、気ィ付けろ」


と、こんな感じである。


「………ホットココアが欲しい」


「ほらよ」


真面目にツっこんでる自分が馬鹿らしくなったのか、美琴もお湯を有効活用し始める。


律儀にココアを持ってきている一方通行も一方通行である。



128: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:05:15.35 ID:2BNTa/IJ0



「つゥかオマエ、佐天に俺と食蜂があァだのこォだのちくりやがったな?どォいうつもりだよクソ野郎」


「どーもーこーもないわ。アンタがあの女とイチャイチャしてたのが悪いんじゃないの?」


「イチャイチャ?オマエ実際見たのかよノータリン。俺はあの女とはなンもねェよ。ったく、馬鹿馬鹿しい」


「『実際見たのか』って?へぇー、つまりその言い方だと何かしてたってこと?」


「はァ?オマエも随分哀れな思考回路してンな?あ?」


だいたいどうしてこうも美琴は自分に突っかかるのだろう?


いくら食蜂と折り合いが悪いとはいえ、大げさな態度だ。


(これはコイツ……アレか……もしかして……生理かァ?)


などと、クズっぽいことを考えていると、


「あ、アナタ正気ぃ?教室でご飯炊く不良なんて聞いたことないわぁ……」


「欲しいなら一生懸命頼みやがれ。『神様仏様一方通行さま。この卑しくて賤しくて賎しい哀れな豚に、そのお米を恵んでくださいまし』って言いながら傅けば、一口くらい恵ンでやるかもな」


「だっ、誰がそんなことするもんですかぁっ!」


「あァ?アホかテメェ?オマエに決まってンだろ」




129: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:06:30.58 ID:2BNTa/IJ0


「そーゆー意味じゃないわぁ!!」


肩で息をしながら盛大に突っ込みを入れる食蜂操祈。


自分のペースに持ち込めない状況にはやはり弱い。一方通行も段々と面白くなってきた。


「あ、アンタ!イチャついてると佐天さんにいいつけるわよ!?」


「佐天さん?」


と食蜂。


「おいコラ。どこからどォ見たらイチャついてるように見えんだよ……って……」


じとーっ、と、妬みやら恨みやらが入り混じった視線が教室中から一方通行へと突き刺さる。


(……見えンのかよ)


「いっやぁ!流石一方通行!もう仲良くなったのか!俺は余計な事しただけだったなー」


「おい上条ォ!この三下がァ!余計な事言うンじゃねェ!」


「ぐ、ぬぬぬ……」


美琴よ、そんなに食蜂が憎いか。


「あーっ!一方通行さん!御坂さんを悲しませたら愉快なオブジェですよ!」


「許せませんね……一方通行さん。最近の貴方は美味しい思いをし過ぎです。そうは思いませんか?土御門さん?」


「その通りだぜい!お前もカミやん病にかかったのか!そうなのかぁ!」


「カミやん病ってなんだ?なあ、土御門」


「「お前(貴方)は黙って(て下さい)るにゃーっ!」」



130: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:08:07.37 ID:2BNTa/IJ0


「えぇー……ホント、思ってたのと違うんだけどぉ……」


(騒がしい……つゥかよ……)


「おい美琴。オマエはどォやったら満足すンだコラ。勝手にヘソ曲げてンじゃねェ」


「へそなんかまげてない!!」


曲げてンじゃン。


夕食までには美琴の機嫌が直っていて欲しいものだ。そんなことを考える一方通行。


2-Cの喧騒は、今日もなかなか途切れない。





131: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:08:33.62 ID:2BNTa/IJ0




                           ◇












やたら疲れるゴールデンウィーク明けの後、あっという間に数日が経った。


一方通行と美琴は、夜の街並みを歩く。


夜の冷え込みは、ゴールデンウィーク最後の日の熱さが嘘のようだった。


二人は夕飯の買い込みを済ました帰路の途中、夕飯のメニューはトンカツだ。


「美琴、ソース買ったか?」


「え?買ってないわよ。切らしてたっけ?」


幸い、美琴の機嫌は直っていた。


いつまでも引きずるタイプでなかったのは、非常にありがたかった。


「クソッタレが……コンビニで買ってくか」


家の最寄のコンビニで調達してゆくことに決定。


それでも足を速めることはしない。のろのろと何も考えず、ぽつぽつと下らないことを話しながら歩く。


一方通行は、定番になっているこの時間が案外嫌いではなかった。



132: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:09:55.48 ID:2BNTa/IJ0


「えあろっすみっすー」


気怠げな店員の声をよそに、目当てのものと缶コーヒーを手に取り、会計を済ます。


「あじゃじゃしたー」


「オイ、美琴。帰ンぞ」


「……」


彼女は雑誌のコーナーで何かに熱中している。漫画雑誌か何かだろうか。


「ねえ見てよこれ」


「あ?……ああ食蜂かよ」


彼女がモデルとして載っている雑誌には、彼女が学業に専念するため、モデル業を一時休業する、という旨の報告が書かれていた。


よくある理由だ。珍しくもない。


「ふーン。まァ、好きにすればイイだろ。……行くぞ」


「でも、うちの学校そこまでの価値ないわよ?……これは事件の香りがするわね」


「……佐天みたいなこと言ってンなよ。理由なんて作るもンだろ?」


「あの女に一泡吹かせるチャンスだわ!」


何やら不敵に笑う美琴と共にコンビニを後にする。ていうか話聞けよ。


早く帰らないと帰らないと木原くンが五月蠅いな、などと考えながらぼんやり歩いていると、一つ先の曲がり角に不審な人影が映った。


「ん?ねえ一方通行……あれ」


「あァ」


野暮ったいジャージの上下に、お世辞にもマッチしているとは言い難いキャスケットを頭に乗せた人影。


まだこちらの様子には気付いていない。近づくにつれ、徐々に姿が鮮明に見えてくる。どうやら女性の様だ。


「……あれって……食蜂よね?」


「……そォだな」



133: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:10:21.14 ID:2BNTa/IJ0




彼女は、パンパンに膨らんだビニール袋を手に下げていた。落ち着きがなく、周囲の様子をやたらと気にしている。


人目を気にしているのか、小走り気味であった。


「あの女、やけ喰いでもすンのかよ。」


「……ふ~ん」


にやり、と美琴が笑う。何かに感づいたようだ。


「……どォでもイイ。帰るぞ」


「分かってるわよ。走るわよ一方通行!」


「あァっ!?ンだよいきなり!オイ!速いンんだよクソガキがァ!」


「ガキじゃないわよ!ほら!半分持ったげるから!」


「……」


やけに上機嫌な美琴の背に遅れまいと駆ける。


上機嫌の理由は、次の日にすぐに明らかとなった。



134: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:11:22.60 ID:2BNTa/IJ0




                                ◇



クラスの中で、ひときわ目立つ女子を挙げろ、と言えば、間違いなく五和とレッサーの名が挙がるだろう。


「食蜂さん!昨日雑誌で見ましたけど、モデル休業するって本当ですか?」


一見気弱な表情を彩る、肩にかかるくらいの黒髪のセミロング。隠れ(当時)巨乳と男子から大絶賛五和ちゃん。


「勿体ないですねー。操祈がブッチで輝いてたし、あの雑誌これからどうするんでしょう?」


腰にかかるくらいのロングヘアを靡かせる小柄な少女、英国出身で、眼つきがなんかエロいと評判の、碧眼美少女レッサーちゃん。


そして、彼女たちの新たな中核をなすのが彼女、


「見てくれたんだ、ありがとーっ☆でもね、学校が楽しくなっちゃって、みんなとも知り合えたしね?」


「食蜂さん……」


「嬉しいこと言ってくれますねー!でも、勿体なくないですか?上条少年もそう思いません?」


レッサーは、少し離れたところで弁当を取り出そうとしていたツンツン頭の男に声をかけた。


「少年って……同い年だろ俺たち。別にいいんじゃないか?こいつが決めたことだしな」


上条は無気力そうに、心底どうでもよさそうに答えた。元来、食蜂のモデルの仕事には興味がないのかもしれない。


「冷たいですねー……そう思いませんか五和?」


「へっ!?え、あ、はい!今日は冷え込みますね!あ、はは……」


「……何言ってんですか?」



135: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:11:59.71 ID:2BNTa/IJ0




顔を真っ赤にして錯乱する五和を呆れ顔で見つめた後、レッサーがこう切り出した。


「まぁ、学校通いながらだとダイエットとか食事制限が大変ですよねー。その分、操祈的にモデル流ダイエットとかないんですか?」


心底気になる、といった様子で、羨ましそうに食蜂の体を眺める五和とレッサー。


次の瞬間、食蜂が放った言葉は彼女にしてみれば浅はかだったと言えるものであった。


「ごめんなさぁい。私、ダイエットとかしたことなくってぇ」


びしっ、と二人の顔つきが凍りつく。


食蜂は気づいていたのだろうか?


その場の空気の質が、一気にという硬質化したという事を。


「そ、そうなんですか……」


「あ、はは……さすが操祈ですねー……はは……」


大好きな甘いものを好きなだけ食べることなどできず、昼休みはお茶とサラダだけで日々を過ごす五和の口元が引きつったことを。


母国に比べ、美味しいものが満ち溢れるこの国で、必死に誘惑と戦い続けるレッサーの目元が笑っていないことを。


冷たくなった空気に、周囲が感づき始めようというときだった。


これは食蜂にとって僥倖だったのか、空気をぶち壊しにする事態が起こった。



136: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:12:29.31 ID:2BNTa/IJ0


「いいねいいねェ!!!最ッ高だねェ!!」


正午をとっくに回った教室で、白い悪魔の凶笑が響き渡る。


それは、新たなる生贄を得たことに対する喜びなどでは断じてない。そう錯覚してもおかしくはないが。


「最ッ高に飛ンじまったァ!!!ぎゃははっ!ぎゃはははははははは!!!!!」


上手い事炊きあがった、炊き込みご飯に対しての感動であった。


凶悪な笑みを浮かべ、ほっかほかのご飯をよそう。しいたけと生姜の香りが食欲を刺激する。


「見ろ美琴ォ!!今日は炊き込みご飯だァ!!ぎゃっはははははははは!!イイ感じに炊けてるじゃァねェかァ!!ほらァ、おちゃわンよこせ!!!!」


「……もう何も言うまい。」


(この男の飛びっぷりを見ると、どいつもこいつもまともな人間に見えてくるのはなぜだろう……)


何を言っても無駄だと悟った美琴は、素直にお茶碗をさしだす。


「……あ、良い香り~♪ありがと!」


あきらめていただくことにする。


「っ!!な、なにこれ!め、めちゃくちゃ美味しい!!」


「俺を誰だと思ってやがるンですかァ?当然の事だ」


自信作を褒められて悪い気はしないらしい。気障ったらしく頭をかいてみせるが、照れているのがバレバレである。


「おー!一方通行!お、俺にも一口にゃー!」


「じ、自分にも!」


「一杯百円なァ」


良い香りにつられていつものメンツが集まってくる。その中には勿論、佐天涙子も含まれていた。



137: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:13:03.72 ID:2BNTa/IJ0



「佐天さん、あ~ん」


「あーん……むむっ!お、美味しーーーーーーい!!すごいですよ一方通行さん!!こんな美味しい炊き込みご飯食べたことないです!」


「……そォかい。そりゃァ良かったな」


大げさにも見える身振りで感動する佐天は、少し恥ずかしげな笑顔を向けてきた。


あまりに大げさに喜んだのが恥ずかしかったのだろうか。


そっけない態度を取りつつも、一方通行の心臓はバクバクだった。


(はァぁああ!?何だよアレ!やっべェぇぇえええええ!!!!つゥか美琴、そこ替れよ……!!)


騒ぎがひと段落すると、いつものように一方通行の机に集まる。


食事は、稀に美琴と一緒に食べることがあるが、基本は海原、土御門、上条と食べていた。


「それにしても貴方、開き直りましたね……子萌先生から必死で隠蔽してるからいいものの、バレたら説教ですよ?」


「だにゃー。まあお零れにあずかってるから文句は言わないぜい」


「ハムッハムッ!!!!!!ハフッハフッ!!!!!!!」


「もォなンかどォでも良くなってきたンだよ。……おい上条、落ち着いて食えねェのか」


上条は、さきほどから目障りなほど一気に弁当をかっ込んでいる。


本当に目障りだ。殺意を覚えるレヴェルである。





138: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:13:32.82 ID:2BNTa/IJ0


「んっく!はぁ、いやな、生徒会の集まりがあってよー。悪いな」


「何か行事でも?」


「ああ。学校周辺の地域大清掃を行うんだよ。去年もやったろ?」


「……あー。アレかにゃー。去年は確か……」


「ええ。他校の不良に上条さんが絡まれましたよね?案の定」


「そォだったな。良く覚えてる」


その後、助けに入った一方通行と海原、そして土御門がそろって説教を食らったのだ。


確か停学一歩手前くらい怒鳴られた覚えがある。災難であった。


「あのときはすまなかったなー……いやホント」


「気にしてないですよ?急いでるんでしょう?ほら、時間は平気なのですか?」


「あっ!やべ!じゃあ行ってくるわ!」


慌ただしく席を立ち、生徒会室にかけていく上条。こいつはこんなのばっかだな、などと一方通行は思う。


「……」


もぐもぐ、と残り少なくなった炊き込みご飯を咀嚼する。弁当箱に入れてきたおかずと一緒に良く味わって食べる。


(……つゥかご飯やべェ、俺、天才なンじゃね?)


「あいつも大変だにゃー。ま。楽しそうだが」


「ある意味羨ましいですね。一生懸命になれることがあるのは」


二人の会話も耳に入らない。そして一方通行は、最後のひとくちを――



139: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:14:22.03 ID:2BNTa/IJ0


「はむっ」


―ー食べれなかった。


「んっ……美味しいっ☆………もぉ!あんないい香り漂わせちゃって!我慢できなかったんだゾ☆」


一方通行から最後の一口を掠め取った食蜂操祈は、人懐っこい笑みを一方通行に向けた。


まさしく天使の微笑みである。男子高校生なら、一撃でコロリと沈んでしまう事間違いない、一撃必殺のクリティカル・スマイル。


しかし、それが彼に通用するかは別問題であった。


「か…」


「か?」


「きこかかきこくこかかいここきくくここかかこきこかかかきこくけけきか!!!!!!」


「ひぃっ!?」


その時一方通行を見ていた生徒は、彼の背中に黒い羽根を見たはずだ。あたかもコール・エマーソンの如く。


もちろんそんなもの生えるはずがない。しかし、そう錯覚するほどのどす黒いオーラが、彼の背中から噴出していた。


「お、落ち着いてください一方通行!食蜂さんにこうしてもらえるなんて、むしろご褒美ですよ!ほら!ね?」


「ど。どーどー!落ち着け一方通行!ほら!今度なんか奢るぜい!」


立ち上がった一方通行の肩を叩いてなだめ、席に無理やり座らせる。


絶句していた食蜂も何とか落ち着きを取り戻したようだった。


海原たちの必死の説得によって、何とか平静を取り戻したようだ。


「……楽しみにしてたのによォ。」





140: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:15:02.23 ID:2BNTa/IJ0


彼らしくもない舌っ足らずの話し様だ。ひどく落胆が見て取れる。目に見えてしょげている。


食蜂は、一瞬だけ可愛いとか思ってしまった自分を張り倒したくなったが、それもまた仕方のないことかもしれない。


落胆する一方通行などそう易々と見れるものではないからである。


先ほどの悪魔っぷりが嘘のように見える彼の姿に、食蜂は自らの母性の様なものを刺激された気がした。


「ご、ごめんなさぁい。こ、今度、埋め合わせはするからぁ……ゆ、許して!」


「……約束だぞ。」


「え、ええ!ホントのホントよぉ!」


「……………便所ォ」


とぼとぼと、教室を後にする。


そんなにご飯が楽しみだったのか、と残された面子はその背中を何とも言えない表情で見つめるしかない。




「あ、一方通行くんパネェ……」


「うん。一口食べられただけなのに、食蜂さんを脅したわよ?」


「お、おい!!御坂さんだけじゃなく食蜂さんも危ないんじゃ!?」


「つーかアレご褒美だろ!どういうシチュなら満足すんだよ![ピーーー]!氏ねじゃなく[ピーーー]!」


「お、おい!消されるぞ!!」


「え、まじ……ちょっとヤバくね?」


「いつからここは悪魔の教室になったんだ!?」



141: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:15:36.23 ID:2BNTa/IJ0



言いたい放題の生徒たちの囁きをBGMに、食蜂は虚空を見つめる。


「もぉ、一体なんなのよ!こんなんじゃっ―――」


しかし、食蜂の不幸は、それだけでは終わらなかった。


「さぁて、何なんでしょうね?食蜂さん?」


「うむうむ、いったいこれから何が起こるのでしょうねー?」


「あ、あなた達っ!?」


そこに佇んでいたのは、御坂美琴と佐天涙子。


二人とも奇妙なポーズをとり、不敵な表情を浮かべる。


鬼気迫った表情と共に、風神と雷神のような迫力を漂わせていた。


「えぇ?なに?何するのよ!」


「アンタ、さっきのアレ聞いたわよ!なんだったっけ佐天さん?」


「えーと、確か、『ダイエットするとか馬鹿なの?死ぬの?愚民どもよ肥えろ。そして跪け』って言ってましたねー」


「ちょっ!?そこまで言ってないわよぉ!」


またもや不審な雰囲気に教室中の視線が集まる。気づけば彼女たちは衆人監視。誰もが彼女たちを見つめている。


食蜂はいつの間にか囲まれていた。前に美琴、後ろに佐天。



142: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:16:47.96 ID:2BNTa/IJ0



ふたりは、がに股になり、指さきをわきわきと奇妙に動かしながら徐々に距離を詰めてくる。そして――


「マグネットパワーぷらす!」


「マグネットパワーまいなぁす!」


かっ、と二人の眼が見開かれる。ターゲット、ロック・オン。慌てふためく食蜂へ狙いを定める。


「「クロスボンバぁーっ!!」」


「やだっ!いやぁぁぁあ!!」


美琴と佐天は、繰り出したその手を食蜂のブレザーの下に滑り込ませると、隠された下腹部をがっちりホールドした。


「ふむ……なるほど……」


ぐにぐにぐに。容赦なく揉みしだく。いったい何を!?勿論腹を。


「へぇー……やっぱり……」


ぐにぐにぐにぐにぐに。


ニタ、と美琴の頬が歪む。それと同時に食蜂の表情が強張った。


「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!やめてぇえーーーっ!!」


顔を真っ赤にし、目に涙さえ溜めながら食蜂は悲鳴を上げる。


ごくり、と男子生徒たちの唾をのむ音がする。気持ちは痛いほどわかる。


「御坂さぁん!!食蜂さんがお肉を隠し持ってまぁーす!これはどーしてなんですかねー?」


一見にこにこしているように見えて、佐天の眼は笑っていなかった。


さきほどの一声は彼女にもバッチリ聞かれていたのだ。揉みしだく手は止まらない。




143: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:17:50.04 ID:2BNTa/IJ0


「さてねー?美琴センセーわっかんなーい。」


「っ!こっのぉーっ!」



手を振り払い、彼女たちを振りほどく食蜂。さすがにいつまでも黙ってやられているわけにはいられない。


しかし、もう遅すぎた。


「食蜂操祈……アンタ……」


「い、いや……言わないで……」


「ちょっとお腹に溜め込みすぎじゃないんですか?まぁ、簡単に言うと……」


「いやぁぁあああああっ!!」


「「隠れ肥満!!」


ピシッ、と彼女の表情が固まる。


(知られてしまった!知られてしまった!知られてしまった!でもどうしてぇ!?だ、誰も知らないはずなのにっ――)


「アンタ、マラソンでもすれば?黒いジャージが良く似合いそうね?」


「っ!」


(あの時かぁぁぁぁぁああああああああああ!!!ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!)



144: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:18:50.26 ID:2BNTa/IJ0


「御坂さんいえーい」


「いえーい!」


ハイタッチなどする美琴と佐天。


まさしく悪魔。美琴など、さほどダイエットに気遣いなど見せないのにこの調子である。



「いっそ殺してぇ……」


「げ、元気出してくださいよ食蜂さん!」


「そ、そうですよ!痛いの痛いのとんでけー!」


項垂れ、屈辱に打ちひしがれる食蜂を気遣う五和とレッサー。


気遣うそぶりを見せてはいても、ニコニコとどこか嬉しそうだ。


「あ、ありがとね……?う、うぅ……」


人の顔色をうかがう余裕すらない彼女はそのことには気付けなかったのであるが。



145: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:20:27.86 ID:2BNTa/IJ0

本編はここまでです!奈々子様は迷った挙句レッサーちゃん!バランスとろっかな、と。主に胸囲てきな意味で。
以下閑話です。



146: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:20:56.86 ID:2BNTa/IJ0


木原数多だ。


いやよ、研究者は辛いぜ、ったくよぉ。


日によって余裕は生まれるし、だいたいは定時に帰れる。


だが、納期がせまると今日みたいに徹夜になっちまう。ゴールデンウィークまでそうだったんだ。信じられるか?


クソガキは今くらいに家でたあたりだな……


明日からしばらくオフだし、コンビニでバドワイザーでも買って、ピザ喰いながらバンドオブブラザーズでも見るか。


お、喫煙所。ここは屋内式か。駅前ももうここしか吸えねえとは、ったく、喫煙者は肩身が狭いぜ……


ユリコが来てからウチでの喫煙は不可能になった。もともとホタル族だがなぁ。




147: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:21:53.76 ID:2BNTa/IJ0


「……ふぅ」


パーラメントに火をつけ、ゆっくりと煙を肺に入れていく。頭がクリアになっていく。


………


……


つーかよ、さっきから気になってたんだが……


「……おい嬢ちゃん」


「ふぇ?私ですか?そ、そんなっ!お嬢さんなんて照れるのですよー!」


「……その年でタバコは早すぎるぞ。いやな、せめて高校生くらいまで我慢しろや」


「むむっ!私は大人です!」


「あのなぁ、タバコすえれば大人ってわけじゃねえのよ、な?体に悪いぞ?」


「だから!私は大人だと言ってるじゃないですか―!」


説明してやる。このピンク髪の幼女、身長、140もねえぞ。俺の胸より低い。


しかもこのガキ、赤ガラムとか吸ってやがる。おうおうおう旨そうだなコラ。マーヴェラスだよ畜生。



148: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:22:17.75 ID:2BNTa/IJ0



「俺もあんまし褒められた人間じゃねえから説教とか嫌いだ。するのもされるのもな。だがよ、こればっかりはどう考えても見過ごしちゃならねえだろ」


「う、うぅ……ほ、ほらっ!身分証ですよ!」


「はいはい、ポケ○ンカードか?……………は?」


おいおいおい?こいつはどんな冗談だ?これが正しいと、このガキ、俺より年上だぞ?


「……ひゃはっ、ひゃははははははっ!!!」


「ど、どうしたのですかー?と、とっても怖いんですけど……」


あ!?怖いだとぉ!!??


……まぁ言われ慣れてるけどよ。


「おい、人を見た目で判断するといけねえって、ママに習わなかったのかよ?あ?」


「ちょっと!また子ども扱いです!というか貴方がいうのですかーーー!!!!」


……この女、まだ吸うのかよ……つうか、また新しいのに火ィつけやがったよ……


「ちっ、身分証ぶら下げとけやガキ女」


「……月詠子萌、です!」



149: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:23:38.75 ID:2BNTa/IJ0


「月詠な、じゃあな」


世界は恐ろしい。


「…あなたは」


「ああ?」


「あなたの名前を、教えてほしいです……」


「……木原数多」


あーあー疲れた、かえってプライベートライアンの最初の二十分だけ見るとすっかなぁ。


「これでも研究者だ。人を見た目で判断するなよ?ガキ女ぁ」


「どの口が言うんですーーーーーー!!!???っごほ!ごっほ!!!」


むせかえるガキ女の声を背中に、自動ドアをくぐると、生暖かいかぜが顔に当たった。


「………クソガキに話したら信じるかねぇ」


夕飯時の話題ができた。まぁ、良い暇つぶしだったな。









150: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/02(木) 18:25:03.32 ID:2BNTa/IJ0

みじかっ!?今日は以上です。次回は一週間以内、もしかしたらもうちょいかかるかも。
ありがとうございました!!!!



178: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:24:05.65 ID:Vz6su5YU0






                            ◇





「天使のような~♪悪魔の笑顔~♪……ねぇ一方通行、アンタ今日のご飯どうするの?」


るんるん、と言う音さえ聞こえてきそうなほど美琴は上機嫌だった。それはもう、一方通行が怖くなるほど。


やはり食蜂に一泡吹かせたのが嬉しかったのだろうか。彼自身は見ていなかったが、それはもう悪魔の所業だったという。


「あ?鮭のムニエルだ。あとサラダなンかも作る」


「へぇ、あれ、ケチャップつけると美味しいわよねー。あとはサラダねー……」


(何だコイツ……ここまで上機嫌だと気持ち悪ィ……)


「うんっ!今日はサラダは私が担当するわ!美琴センセーがちゃんと料理できるってことを知らしめてやるのよ!」


えっへん、と無い胸を張る。誰にだよ、という言葉は飲み込む一方通行。彼自身は、彼女が料理をできるという事は知っていた。どうしてか任せられっぱなしだが。


「ま、待ってぇ!!」


そんなんこんなで上機嫌な帰路を行く彼らの背中に、突然かけられる声があった。


「……あァ?ってオマエかよ食蜂……今度は一体全体どォして――」


「お願い!ちょっとだけこうしててっ!」



179: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:24:44.09 ID:Vz6su5YU0


切羽詰まった様子の食蜂は、一方通行の腕にしがみつき、何かから身を守るような姿勢を取る。


彼女の様子が尋常じゃないと流石に察した一方通行は、恐怖に強張る彼女の視線を追いかけた。


すぐに物陰に姿を隠してしまったが、一瞬だけ確認することができた姿があった。男性だ。年齢までは分からなかった。


薄汚れたD○NLOPのハイテクスニーカーと、ケミカルウォッシュのジーンズ。よれよれのネルシャツをきちんとタックインし、リュックを背負った男であった。


「……アイツか」


「……ふ~ん。なるほどね」


必死に頷く食蜂、言葉すら出てこないようだ。


彼女の出現で憤慨の色を示すかに見えた美琴も、事が事だけに冷静だ。


すぐに彼らは気が付いた。あれは、俗に言うストーカーというやつなのだろう。


彼女ほど名が売れるとそんなこともあるのか。モデルというのも、思った以上に大変な職業なのかもしれない。


「……しょうがないわね」


追い払ってやるかな、と一方通行が思ったとき、美琴はすでに動き始めていた。


ふう、と一息嘆息すると、先ほどの不審者の方へ足を進めていく。


「ね、ねぇ!あの子大丈夫なのぉ!?」


「は?問題ねェよ。オマエもあいつが中学時代なンて呼ばれていたかなンて耳にタコだろォが」




180: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:25:48.03 ID:Vz6su5YU0



慌てふためく食蜂に反して、一方通行は落ち着いていた。


「常盤台の電撃姫」を心配する必要がどこにあるのだろうか?


「ねえ、そこのアンタ」


「うわっ、な、なんだよ!い、いきなり……」


案の定、その男はまだそこにいた。


女学生と言えども堂々とした美琴の様子に怯んでいるようだ。


「アンタが何よ?食蜂に何か用でもあんの?」


「よ、用っていうか……お、お前には関係ないだろ!!」


「ええ無いわよ。でもアンタ、目障りなの。早く消えないと痛い目みるわよ?」


「っひ。」


得体のしれない美琴の圧力に気圧されたのか、不審者野郎はその場で尻もちをつく。


酸素の足りていない淡水魚のように口をパクパクと動かし、無様に立ち上がった時にはもう背を向けていた。


「ったく……」


やれやれ、と彼女が戻ってくる。


「随分と手馴れてンじゃねェか。」




181: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:27:12.00 ID:Vz6su5YU0



「ん?ああ、ああいうヤツの被害、常盤台の子には結構多かったのよ。たまに追い払うの手伝ってあげたりしたしね?」


どことなく恥ずかしげに美琴が話す。この女は、中学時代は頼りにされていたんだった、と一方通行は今更ながら思い出した。


「……どうして?」


「へ?」


「どうしてあんな簡単に……」


「何よ?言うならはっきり言いなさいよ」


まだ食蜂は落ち着きを取り戻していない。無理もないだろう。誰だって、得体の知れないものは怖いものである。


かたかたと震えているのが一目で分かった。顔色も悪い。


「……しょうがねェな。おい食蜂」


「え?な、何?」


「オマエの家、ここから近いのか?」


「ち、近くはない……けど……」


先ほどから一方通行の肩をつかんで彼女は離さなかった。このまま放っておくのも寝覚めが悪い。


自宅まで歩いていくのもキツいかも知れない。


「今日は美琴の家に泊まっていけ。もう目と鼻の先だしな」


「う、うん……って、はぁぁぁぁっ!?」


「こらアンタ!勝手に決めんな!!」




182: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:28:28.75 ID:Vz6su5YU0




結託して反論する二人に、実はコイツら仲イインじゃね?とか思う一方通行。


「仕方ねェだろ……俺ンち、男二人。オマエンち、女一人。OK?」


「ぐ、ぬぬぬ……」


こればかりは反論のしようがない。歯噛みする美琴であったが、背に腹は代えられない。


「い、いいのぉ……?あなたの私に対する嫌悪力的に……」


申し訳なさそうに委縮する食蜂。こんな顔もできるらしい。いつもの不遜な態度が嘘のようだ。


「……しょうがないわね。行くわよ」


「み、御坂さぁん……」


渋々ながら先導する美琴の背を、潤んだ視線で見つめる食蜂。


「…………」


機嫌の悪い美琴をなだめるのは勘弁願いたい。一方通行としては、仲良く楽しくやってくれることを願うばかりである。









183: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:29:01.59 ID:Vz6su5YU0




                            ◇





「おはようございますモテ期到来一方通行。そのまま[ピーーー]ばいいのに」


「朝からご挨拶だねェ海原くン。モテ期とかふざけンな。あの女は面白がってやってるだけだ」


爽やかな笑顔と共に対面早々毒を吐く海原光貴。女受けなら自分だって悪くなさそうにも関わらず、面に似合わず意外に奥手な親友には、これがモテ期に映るらしい。


曇天の空模様、美琴抜きで登校するのも随分久方ぶりだった。


「御坂さんの次は食蜂さんですか……ま、貴方という人間が評価されるのは嬉しい限りですよ。しかし……」


この男は毎回所作が芝居がかっている。目頭を押さえ、首を横に振るような動作を取る。


「はぁー……いや、何も言いませんよ…………。」


彼にしては珍しく疲れたような表情だ。何か思うところがあったのか、と一方通行が考えている時、


「おっはーっ☆♪どうしたのお二人さん♪元気ないゾっ?」


「……食蜂か。って、どォしたよそのツラ」


「え、ええ……そんなにはっきりとクマをこしらえて……」


それに、いつもより大分テンションが高かった。


しかしこれはあまりよろしくないテンションだ。無理して作ってる様子が見え見えである。



184: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:30:35.66 ID:Vz6su5YU0


「テメェ、昨日は美琴のマンションに泊まったンだ。大方、ゲコ太のDVDでも一気見させられたンんだろ?」


「おやおや、御坂さんにはそんな趣味があったのですか?正直、似合いませんね」


「………そ、それは断固として断ったんだけどぉ……」


突き抜けて明るい様子から一転、ひどく憔悴した様子で食蜂がつぶやく。


「あ、あの女……『それなら漫画読め。すぐ読め。全部読め。』とかほざきやがってぇ……いや、面白かったケドさぁ……」


「……お、おやおや……これはまた……」


曝け出された食蜂の本性に海原の口元が引きつる。流石の彼も驚きを隠せないようだ。


「ハッ、ご苦労なこって……ちなみに、何を読まされたンだ?」


「それはもう山ほどよ!私、一睡もしてないの!『からくりサーカス』でしょ?『パンプキン・シザーズ』でしょ?『世紀末リーダー伝たけし!』でしょ、それから『ミスミソウ』でしょ……」


「うっわァ……何だよそのチョイスは……つゥかオマエ読むの速いな」



185: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:31:06.99 ID:Vz6su5YU0


「ず、随分男らしいセレクトですね」


「ふっふふ……面白かったけどね……けど、一晩でコレは死ぬって……あの女は寝てたしさ……じゃ、お先に教室行ってるわね?」


へろりへろりと、食蜂は二人から背を向ける。お疲れの様子だ、ここは放っておいたほうが良いだろう。


(ていうか美琴が寝てたなら寝ろよ……)


「……」


「……元気づけてあげたらどうです?」


「……ガラじゃァねェよ」


一方、食蜂の憔悴し切った様子とは正反対に、その日の美琴の機嫌は上々だった。


「あの女に、私セレクトの漫画を読ませまくってやったわ!ゲコ太の事ディスったんだから当然ね。」


と、薄い胸を張る美琴。なんだかんだちょっとだけ仲良くなったのだろうか。


「な、仲良くなんてなってないわよっ!そんな簡単に雪解けは訪れないわ。まだスターリン統治下よ!」


その日は何事もなく終わるかに見えたが、放課後にまたひと波乱起こることになる。








「……どォしてこうなった」


「アンタのせいでしょこの白モヤシ……」


「晩飯の買い物してねェのによォ……クソ!天井の野郎ブチ[ピーーー]。木原くンに言いつける」


「じょ、冗談に聞こえないわよ……」



186: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:31:36.68 ID:Vz6su5YU0


一方通行と美琴は、上下ジャージの姿でグラウンドに立っていた。これから行われるのは年に一度の町内清掃大会だ。


生徒会主催であり、参加者は、主にボランティアから募られ、事実、参加者のうちの九割ほどはボランティアであった。


さて、どうして慈善活動からほど遠いこの男がこの場に立っているのか、これには大きな理由があった。


「元はと言えばアンタが教室に炊飯器とか持ち込むからでしょ!?反省しろ!!!!」


「おいコラどの口が言う。ほっかほか、炊き立てのご飯を美味しそうに貪ってた御嬢さンが、随分言うじゃねェか?つまり、テメェも同罪だクソ野郎」


「う゛……」


簡単な話だ。教室に家電を持ち込んでいることがばれたのだ。


ボランティアだけでなく、問題のある生徒も参加が義務付けられるこの行事だ。


彼らのような生徒が参加を避けられるはずもない。


「ちょっとぉ!アナタ達は自業自得でしょぉ!」


「あ、いたの?」


「ン?オマエ、転入早々問題児扱いかよォ……哀れだなァ、思わず抱きしめたくなっちまうほど哀れだわ……」


「ちょっ、アナタ達のせいなんだからねぇ!?何知らぬ顔してんのよぉ!」



187: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:32:04.33 ID:Vz6su5YU0


「……オマエ、何かしたァ?」


「いいや、何も」


「こらああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


ちなみに、炊飯器で炊かれたご飯を食べた生徒は皆参加を強いられた。


そして、海原と土御門は逃げた。許すまじ。


「ま、ご自慢の清掃力を見せてくれよ食蜂ちゃン?」


「『私は、この清掃力を発揮することを、強いられているんだ!!』キリッって感じ?」


「な、なんでこーゆー時だけ息ぴったりなのよぉ……」


集合時間からしばらくたち、参加者も大体集合し終えたようだ。結構な人数が集まっていた。


「みっさかさぁーん!」


「佐天さん!?さ、佐天さんも参加させられたの?」


ぴくっ、と一方通行の視線が動く。


もはや訓練された獣。彼が彼女を目で追うのは、コーラを飲んだらげっぷが出ることのように絶対的な摂理だった。


彼女も罰掃除だろうか。




188: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:34:05.67 ID:Vz6su5YU0


「……ふぅん」


「……何だよ?」


「何でもないよぉー?なーんでも」


食蜂が何かに感づいたようだった。とても思わせぶりな態度だ。何でもないなんて、あるはずがない。


「悪いわね、この白モヤシのせいで……」


「オイコラ。さりげなくそれ定着させようとしてンじゃねェ」


「いやいや~!気にしないで下さいよー。ご飯すっごく美味しかったですしっ!」


「はっ、あんなもんでイイならいつでも作ってやンよ」


「えぇっ!?本当ですか!?……でも、御坂さんに悪いなぁー」


「何言ってんのよ佐天さん……」


「それにしても、いつまでこんなことしてればいいのぉー?私もう飽きちゃったぁー」


うーん、と、胸を強調するように伸びをする食蜂。どことなく、美琴の視線が険しさを増す。気持ちはわかるよ?


「何だか、生徒会の挨拶があるらしいですよ?会長の………えーと、なんでしたっけ、確か、イン、イン、イン――」


会長の名前が思い出せないとは何たることだろうか。


「インスタントラーメン?」


と美琴。親の顔が見てみたい。




189: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:34:33.10 ID:Vz6su5YU0



「うーん……ちょっと違うような気が……」


「イングロリアス・バスターズ!とかだったりぃ?」


と食蜂。惜しい。


「うーん……あの人、目立つんだけどなぁー……綺麗なプラチナブロンドで……」


「……そォだ!インクレディブルだ!!」


「「それだ!!!!!!」」


『インデックスぅーー!!!!!!インデックスなんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!』



きぃん、と耳鳴りがするぐらいの声量だった。


地団太を踏むようなやけっぱち声で、あどけない声が校庭中に響き渡る。


「な、何よ!?び、びっくりしたー……」


流石の美琴も仰天している。見れば、彼女たちの目の前には朝礼台がある。


そこに、不機嫌そうに頬を膨らませた少女が立っていた、



190: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:38:02.28 ID:Vz6su5YU0



『なんで!?どうして名前をちゃんと覚えてくれないのーーー!?納得が行かないんだよーーーーーーー!!!!』


美しいプラチナブロンドを肩元に光らせ、生徒会長である少女が叫ぶ。


名前はインデックス。あどけない顔立ちに似合わず、この学校の生徒会長である。


「お、落ち着けってインデックス!ほら!生徒たちが呆然としてるぞ?つーか毎度のことなんだから慣れろって!」


生徒会長がこんなであるため、副会長である上条当麻は、彼女の補佐役、もっぱら後片付けをやらされることが多かった。


不幸だのなんだの喚き散らしている。


「ほ、ほら!!ステイルに神裂も!こいつなだめんの手伝えよ!」


「え、ええ!?私ですか!?………いや、もっぱらこれは貴方の仕事でしょう」


「お、押しつけやがったぁーーっ!!」


冷静を取り繕ったようなすまし顔で動揺をひた隠すこの女は、神裂火織。


180を超えるであろう長身に、艶やかな黒髪をポニーテールにした生徒会庶務である。


そのダイナマイトボディとクールな視線にハートを射抜かれた男子は、枚挙にいとまがない。



191: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:38:31.74 ID:Vz6su5YU0


「ほらほら、その辺にして置きたまえインデックス?あとでおやつをたんと買ってあげるから」


『ほ、ほんと!?約束なんだよステイル!!!!』


「甘やかすなぁーーーーーーーーーー!!!!!そしてインデぇぇぇえええええええックス!!!!拡声器から手を放して喋りなさい!!!」


幼女を食べ物で釣る犯罪者のごときこの男は、生徒会書記、ステイル=マグナス。


これまた長身で、2メートルはあるだろう身長に、赤い長髪を靡かせている。


目元にはバーコード模様のタトゥーを入れ、十字教徒なのか、首元にチョーカーが光っていた。


「っ!!あ、あの銀髪女!あ、アイツになれなれしく……」


「オイ待て。さっきから上条はツッコむことしかしてねェよ。どォやったらそォ見える」


「……巨人生徒会ね。すさまじいわぁ……」


一方通行らは呆れ顔だが、このやり取りは定番のものらしく、生徒たちの様子は、微笑ましいものを眺めるように穏やかだった。


「またかよ」「こりねーな」などと言いつつ、刺々しい空気など微塵も感じられない。


 『おっほん……』




192: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/06(月) 20:40:42.47 ID:Vz6su5YU0


無かったことにできるはずもないのに、わざとらしく咳払いをする生徒会長。そして、


『掃除を始めるんだよーーーーーーーーーーーっ!!買い食いは自由だけど、ゴミは持ち帰る!!先生にバレないようなら少しくらいハメを外してもいいんだよぉーーーーーー!!!全責任は全て!!この上条当麻が取るんだよ!!!!!!』



「うんうん……って俺かよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!不幸だあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」



生徒たちの謎の熱気と共に、大清掃大会が幕を開ける。詳しい分担などされていないがいいのかこれで。


「お、おのれ魔術師ぃいい……」


「オマエはオマエで何言ってやがンだよ……」


思い思いの場所へ散っていく生徒たち。


統率はないが、士気だけは一人前であった。






214: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:43:30.62 ID:OPLn9L8Y0




                          ◇






「みーさかさんっ☆ゴミ袋もつの変わってくれると嬉しいなぁっ?」


「私に媚びても無駄よ?いつも取り巻きにやらせてるから体力無いんじゃないの?だから太るのよ……」


「っ!!………あらぁ?こんなところにゴミがぁ!」


と言いつつ、ゴミばさみで美琴の軍手をつかむ食蜂。


「きゃっ」


「あ、ごめん。あまりに汚いからゴミかと思っちゃったっ☆」


「……これは備品だから汚くて当然よ。………あ、手が滑った」


美琴はゴミばさみで掴んだ空き缶をひょいと放り投げる。


「ぶべっ」


もちろん食蜂にクリティカルヒット。しかも顔面である。


中身が少し残っていたらしい。そこはかとなく不健全な図だ。


「あ、ごめんね?軍手がゴミだから、手が滑った」


「ぺっ、ぺっ、か、顔に残り汁がぁーっ!!!あ、アナタ……!」


「「………」」


美琴と食蜂の二人の後を、一方通行と佐天は歩いていた。


さきほどから小競り合いを続ける二人に置いて行かれているという言い方が正しいのかもしれない。




215: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:47:05.99 ID:OPLn9L8Y0


(それにしてもよ……)


「この貧乳女ぁ!女子力が小学生レベルなのよぉ!ナイチチ女!!ばーか!あほー!」


「ぶっ!……女子力(笑)!?そんなの現実で言ってる人初めて見たわ。アンタってそうとう痛い人ねー」


「そ、そんな目で見ないでぇええ!!!!口癖だからつい出っちゃったのよぉおおおおおお!!!!」


「………」


食蜂は、美琴からの煽りに対する耐性が全くない。


美琴の挑発ならば、どんなくだらない売り言葉にも買って出ている。


(まァ、どォでもイイか……それより今は……!)


「あちゃぁー……話には聞いてたけど、あの二人仲良くないんですかねー?」


日ごろ見ない食蜂の様子が珍しいのか、佐天は、しげしげと興味深そうに二人を見つめる。


一方通行は、自身の心臓が脈打つ音が聞こえるような気分になった。彼女の髪の香りを感じる。


「……さァな。つゥか、食蜂の野郎が勝手に食いついてる感じだな。」


「あはは!そうっぽいですね!中学時代からそうだったらしいですよ?!」


笑った。


自身の言葉で彼女が微笑んだという事実が一方通行の胸を一層高鳴らせる。


普段と寸分変わらぬ鉄面皮の裏、彼の心の中は暴れだしそうなほどに歓喜していた。


祭りでたとえるなら、蘇民祭レヴェルの盛り上がりようであった。そいやそいや、わっしょしょい。




216: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:51:05.29 ID:OPLn9L8Y0


「う~む、これは止めるべきですかねー……一方通行さんはどう思います?」


「………」


佐天の笑顔から無理やり顔を背けるように、再び二人を見やる。


飽きずに言い争いを続ける二人の姿が視線に入ってくる。


「……良いンじゃねェの?このままで」


「へ?」


罵りあい、ぶつかりあう二人。


食って掛かる食蜂に、嘆息と共にダメ出しをする美琴。


二人のぶつかり合いは健全なものに見えた。


少なくとも、彼が中学時代に繰り返してきたものなどとは比べ物にならないだろう。


周りに迷惑をかけない程度ならいくらでもやればいい。一方通行はそう判断した。


「食蜂のやつ、そこそこ楽しそうじゃねェか。血ィ見ない程度なら、好きにさせてやってもイイと思うがなァ」


曇天の下、一方通行が言う。


その時ばかりは、どことなく自然な笑顔を作ることができたような気がした。



217: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:53:08.89 ID:OPLn9L8Y0


「……」


きょとん、と珍しいものを眺めるがごとき顔立ちで佐天がこちらを見つめる。


しかしそれも一瞬で、すぐにいつもの笑顔を取り戻す。からかい二割、おかしさ八割の笑顔だ。


「はっはぁ~ん♪一方通行さん、良く見てるんですね?なかなかそんなの気付けませんよ?」


「からかうンじゃねェよ」


「からかってなんかないです。御坂さんだけじゃなくて食蜂さんのことも良く見て―――」


「一方通行くぅぅぅぅん!!!!!」


佐天の声を遮るように飛来する猫なで声、そしてその根源。


「……食蜂ちゃァン?俺の二の腕がそンなにお好みですかァ?」


いつもより三割増しくらいの険しい声で応じる一方通行。佐天とのプライヴェート・タイムを邪魔されたのだ、当然である。


こめかみに青筋をこしらえ、阿修羅すら震え上がらせるような凶相を作り上げる。


「えっ、ちょっ、マジ?その睥睨力はシャレにならないんですけどぉ……?」


一方通行のあまりの迫力に、食蜂の口元がひきつる。完全に予想外の反応だったのだ。まさかここまで激怒するとは思ってもみなかったのだ。


「ちょっと食蜂!アンタ……っ!!…………一方通行?アンタ、何やってんのよ……?」


(うっわァ……面倒な女パート2が来たよ……)


食蜂を追いかけてきた美琴が一方通行(食蜂によりがっちりホールド)を目に留める。




218: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:54:39.43 ID:OPLn9L8Y0




食蜂を追いかけてきた美琴が一方通行(食蜂によりがっちりホールド)を目に留める。


傍から見ればイチャついてるようにしか映らない光景に、当然のごとく美琴は勘違いを始める。


(う゛……こ、ここはこうするしかっ!!)


「っ!助けてぇ!!あーくぅん!!!」


「……ハイ?」


食蜂は一種の賭けに出た。一方通行の機嫌が壊滅的に悪いという事を察していながらのこの行動。


美琴の怒りをすべて一方通行に差し向けようと思っての作戦であった。


(これは丁と出るか半と出るか……!)


この男には色仕掛けなど通用しないのは百も承知だ。


この作戦は、美琴がどこまでこれに反応を示すか、そして、その反応に一方通行がどう対応するかが勝負の分かれ目だった。



「……食蜂ちゃァン?イイ加減にしましょうかァ……?」


「し、失敗ぃぃいい!!??」


畜生薄々そんな気はしてたよコンチクショウ、と内心地団太を踏む食蜂。



219: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:56:34.12 ID:OPLn9L8Y0



「……アンタねぇ……誰かにすがれば上手くいくと思ってんでしょ……?」


「ひ、ひぃぃ!?」


食蜂は危機に面していた。口喧嘩で勝てても、美琴に肉弾戦で勝つのなど不可能だ。一体どうする。


(こうなったらぁぁっ!!!!)


「あ、アデューーーーっ☆」


三十六計逃げるに如かず。食蜂はプライドを捨てることなく、逃亡を選んだ。


「痛ェっ!おいこのっ!離しやがれェえええええええええええっ!!!!!!!」


白い男を一匹引きつれて。


「おいこらぁあああああっ!!!待ちなさぁぁあああああい!!!!」


美琴の叫びは、鈍色の空に溶けてゆくばかりであった。











220: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 15:58:33.45 ID:OPLn9L8Y0





                              ◇




「…はぁ。はぁ、はぁ……つ、疲れたぁ……」


「オマエほんと訳分かンねェ……!マジで分かンねェ!」


「そ、そんなに怒らないでよぉ!!」


どれくらい走ったのか、少なくとも二人の姿は完全に見えない。


空模様が優れない。これは本格的に一雨来そうだ、などと、空を仰ぎながら一方通行は考える。


「ちょっとぉ!そんな風に無視されるとぉ、不機嫌力MAXなんですけどぉ~」


「知らねェよ。つゥかどォすっかな、今更掃除なんてする気しねェな……」


「へぇー?不真面目なのね?」


「はっ、真面目な野郎に見えたのか?」


「ううんっ♪ぜんっぜん☆」


「うっわァ……そこまで眩しい笑顔で言うかよ」


それにこの女だって人のこと言えたものではないのだ。事実、彼女の手にしていたポリ袋には、ほとんど何も入ってはいなかった。


「……ンで?」


「え?」


弁当の中身が500円玉だった、みたいな変な顔。この女の驚く顔も意外に安いものだ。



221: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:00:10.43 ID:OPLn9L8Y0


「オマエ、俺に用でもあったンじゃねェの?いちいち連れ出しやがってよ」


「……そんな訳ないわぁ。思い上がらないでくれるかしらぁ……」


「あ、そォ言うの良いンで。間に合ってますンで、ハイ」


「っ!ど―ゆー意味なのよぉ!!」


本当に面倒くさい性格していやがる、と一方通行は思う。自分も人のことを言えないだろうが、美琴と接している内に、こんな状況にも慣れたものだ。


「話せよ。今更俺の前でキャラ作っても意味ねェの、理解してンだろ?」


「うっ……!!あ、改めてキャラとか言われるとなんかなぁ……」


否定できているつもりなのか。いや、しているつもりなどないのかもしれない。なぜなら、すぐに彼女は語りだしたからだ。


雄弁さが図星を突かれたのを物語る。彼女は、聞いてほしい話があったのだ。


美琴よりは自分の感情と折り合いをつけるのが上手いのかもしれない。


「………はぁ……いい?別に悩みとかそんな大層なものじゃないわよ?ちょっとした愚痴みたいなものだからねぇ?」


「どォでもイイ」


「どーでもって……それはそれでムカツくんですけど……まぁ、いいや」


そう前置きしつつ、食蜂は語り始める。それが大層な問題かそうでないかは、本人しか決められないものだというのに。



222: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:01:48.77 ID:OPLn9L8Y0


「……ぶっちゃけさ、うっとおしい、とか思ったりしたでしょ?私があの女……御坂さんに絡むの」


「まァな。アイツの機嫌が悪くなるのはイイ迷惑だ」


この男は本当に正直にものを言うな、と食蜂は息をつく。


しかし、彼女はそれが嫌ではなかった。むしろこの場ではありがたかった。


「……この前もさ、変な男のこと平気でぶっ飛ばしたりするし、中学時代からそうだったのよぉ?男らしいっていうかなんて言うかね……お姉さま、とか呼ばれて慕われてたのもまあわかるわぁ。だってあの子、格好いいもの」


「……ふゥン」


正直意外だった。彼女がこうもストレートに人を褒めるなど思ってもみなかった。


「…………で?何がどォして、オマエはその格好いい美琴ちゃンのことを敵視するンですか?」


あくまで軽い風を装いで一方通行が言う。しかし、人から相談されたりすることに慣れていないこの男。


無理やり興味がなさそうな態度を取っているのがバレバレである。


そんな一方通行の様子を察しないはずもない食蜂はくすりと笑う。まったく、仕方のない男である。


「……羨ましかったのよ。たぶん」


「………」


「あの子は、突き抜けてて、それでいて完璧な子だった。自分はこうありたい、って思った通りの手段を、何の迷いも無く取れてしまえる子だった」


ちら、と一方通行に視線を送る。


「……続けろ」


聞いてるよ、と促す。


「……うん。憧れ、なんて抱くほど私は潔い人間じゃない。アナタならわかるでしょぉ?理屈では分かっていても、他者を心の底から認めるのは難しいのよ。私たちみたいな人種は」


「………」




223: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:03:07.00 ID:OPLn9L8Y0


「結局……自分のことが一番わかんないのよ……それからはあの子のこと、考えるのはやめたの……だって、もやもやしちゃうしねっ☆」


最後だけはいつものふざけたノリで決めた食蜂だが、表情が無理をしている。


彼女の言いたいことは何となく理解できる。


高いプライドを持つ者同士。、その点で、確かに一方通行と食蜂は似通っているのかもしれない。


「……わかンない、ね」


しかし、幸か不幸か、一方通行にそのような経験で深刻に悩むことはなかった。


恵まれた頭脳は、彼に挫折と言えるべきものを経験させたりもした。持つものならではの苦悩だ。


しかし、誰かと共に生きてゆく上で、身を焦がし、本人の生き方に影響を与えるほどの強い感情は、彼が未だに経験したことのないものであった。


確かにその様な経験もあった。


しかし、彼はそこで悩んで、解決しようのない問題に真正面から挑んでゆくほど潔癖な人間ではなかった。


羨ましい、そう思うことはあってもそこでお終い。彼は、それを逃げだと思ったことは無かったし、それで満足していたのだ。


「………」


さらに深く考える。



224: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:04:25.69 ID:OPLn9L8Y0


嫉妬、とは違う気もする。結局、彼女はどうしたいのか?


美琴に勝ちたいのか?それならどうやってその勝利を証明する?


美琴を蹴散らしたいのか?嫌がらせがしたいのか?それなら食蜂は美琴が嫌いなのか?


「………と」


おっと、と思い返す。結局は、自分の経験談を聞かれているのだ、と、割り切ることにする。


(ここは真剣に答えるのが人情ってもンだ。……知らンけど)


正直に言うと、彼は嬉しかったのだ。


付き合いも浅く、褒められたような人格者でもない自分にここまで自らを曝け出してくれる人間がいるという事が。


それなら、いくら嫌われることになっても、横っ面を引っ叩かれようと、全力でぶつかる。彼にはそれしか手札がない。


全く持って人付き合いとは簡単にはいかないものである。勉強のように簡単だったらどれだけ良いのだろう、と一方通行は考える。


「……オマエの言うように認めたくないヤツを認めるのは俺の流儀でもねェな。他はまだ何とも言えねェが」


「……ふふっ。だと思ったわぁ」


「でもよ、オマエは違うンじゃねェの?」




225: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:05:29.59 ID:OPLn9L8Y0



「……え?」


「……分かンねェか?つゥか答えなンて出てただろォが」


「………」


真剣に、それでいて彼らしく皮肉めいた笑みを浮かべながら一方通行は食蜂を見つめる。


雨が降ってきた。コンクリートが独特の匂いを放つ。悲鳴を上げているようだった。


「とっくにオマエは美琴を認めてンだろ。『格好良い』ってよ。ならオマエが気に入らないことは一体何だ?」


水滴が白い髪を打つ。ジャージに染みを作る。


「簡単だ。アイツがオマエにできないことをやってのけたからだ。」


食蜂の表情が険しさを増す。もはや隠し立てをする気もないようだ。


「……笑えない冗談ねぇ?その物言いだと、私が御坂さんに劣ってるって言いたいように聞こえるんだけどぉ?」


「はっ、そんなことで人の優劣をつけようとするほど俺は勘違いしてねェよ」


一方通行が吐き捨てた。



226: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:09:13.97 ID:OPLn9L8Y0



「……ふゥん。その様子じゃァ、操折ちゃンは美琴ちゃンに負けたくないみたいですねェ……?つゥか何?負けてる心当たりでもあるンですかァ?」


「っ!こ、この白モヤシ!!!」


表情をこれでもかというほど歪めて醜い笑みを精一杯作り上げる一方通行に、食蜂の堪忍袋の緒が切れた。


ぷっつんといった。もう教室での彼女の名残など存在しない。


「……噂をすれば、ってな。」


一方通行は、瞬く間に落ち着いた様子を取り戻し、明後日の方向を見やる。そこには、佐天と共に清掃作業中の美琴がいた。どうやらこっちの方面にまで清掃をしに来たらしい。


「どこ見てんのよぉ!話はまだ終わって――」


彼の視線を追いかける食蜂の視線が一点で止まった。次の瞬間、突然縋り付く食蜂。


一方通行はもはや嘆息である。


「……おいおいどォした?また美琴にイヤがらせでもする気かよ」


「……違う、違うの」


掴まれた二の腕からかたかたという震えが伝わる。


彼女は震える右手で、ゆっくりとある一点を指示した。


異変に気付いた一方通行は、素早く指先の延長線上を見やる。


「……なるほど」


そこには、先日美琴が追い払った不審者の姿があった。美琴たちのいる土手の目と鼻の先、本降りになった雨をしのぐための傘で顔がはっきりと見えないが間違いない。例の男だ。


「……カー……なの」



227: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:11:40.92 ID:OPLn9L8Y0


「あァ?」


「す、トーカーなのぉっ!もぉ!どうしてぇ!」


眼に涙をため、涙声で手に込める力を増す。


プライドの塊であり、常盤台の女王として君臨していた彼女の面影は微塵もない。


そこにいるのは、自分に纏わりつく得体のしれない影に怯える、どこにでもいるただの少女でしかなかった。


「引っ越しも、したのに……ず、ずっとされてて。モデルの仕事も休んで、平気だと思ってたのに……」


「……」


傍らの少女の豹変に驚きはしたが、すぐに一方通行の中で別の感情が生まれる。


視線の先には先日の男。あの男は、長い間付きまとっていたのだ。


(……楽観視し過ぎだったな。俺にも引け目がある……いや、そンなのはどォだってイイ)


「……そォか、分かった」


ふつふつと湧き上がったそれは、彼が久しく抱くことのなかったもの。何かにぶちまける必要のなかったものだ。


「少しだけここで待ってろ。ケリをつけてくる」


そう言って、食蜂の頭を優しく撫でる。


「……え?で、でもぉ……」


彼女は、安心して良いのか迷っているようだ。


「少しだけだ、すぐに戻ってくる。……っ!あのクソ野郎!!美琴たちの方へっ!!」


注意を少しそらした隙に、ストーカー野郎は美琴と佐天の目の前にいた。美琴がいるとはいえ安心はできない。


一方通行は一歩を踏み出そうとして――





228: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:15:12.12 ID:OPLn9L8Y0


「ま、待ってぇ!」


「お、おいコラ!ちょっと待ってろ!美琴たちが危ないかも分からねェだろ!」


しかし、食蜂が手を離さない。これでは身動きの取りようがない。


「取りあえず今は離っ――」


『ちぇぇええい、さぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』


「あァー……遅かったわ……」


時すでに遅し。トゥーレイト。


一方通行が二人を見やると、今まさに、ストーカークソ野郎のカメラが中空に高く打ち上げられた瞬間であった。


「……ちっ。顔のカタチ変わるまでブン殴ってやるつもりだったが……」


「……どうして?」


「あァ?」


「どうしてあんなことできるのぉ?あの子?」


「……おい食蜂」


様子がおかしい。双眼に剣呑な光を灯らせ、その瞳はストーカーを向いてはいなかった。


瞳の先にいるのは、美琴。


「私ね、アイツの為にモデル休んだの。学業に専念する、とか言ってさぁ。笑っちゃうわぁ?専念する必要なんてそもそもないし、とってつけたような言い訳よねぇ」


「……何が言いたい?」


「何って、私は逃げたの。そうよ、逃げたのよ!」


良く手入れの行き届いた金髪に滴が容赦なく滴る。



229: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:18:49.49 ID:OPLn9L8Y0


もう雨など眼中にないようだ。運動靴が汚れるのも厭わず泥を飛ばして足を踏みならした。


「……あの子が」


「……つゥかオマエ、大丈夫か?まァ落ち着けとは言わねえけど―――」


一方通行が言葉を言い終える時には、食蜂はもう駆け出していた。


「うぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


「よ……ってオイぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」


ヤバい。あの女マジでヤバい。などとドン引きしながら急いで食蜂の背中を追う。


女性に変な幻想など抱いていない方だと一方通行は自認していたのだが、認識の甘さをしみじみと受け入れる。


(……アレはヤバい。マジでストーカー殺される。うン。……まァ構わねェけど)


それほど食蜂の姿は鬼気迫るものがあったのだ。


「あ、ぁぁっ!ぼ、僕のカメラたんがぁっ!!こ、この女どうしてくれるんだよぉっ!!……って、み、操祈ちゃん?」


「………」


あっと言う間にストーカー野郎のもとにたどり着いた食蜂は、無言でそいつを睨み付ける。


流れるような美しい金髪は雨に濡れて乱れ、表情を隠していた。


きらり、と光る一筋の毛髪が口に入っている。肩で息をつく彼女は、後ろ姿だけでも異様な迫力を持っていた。


「ちょ、ちょっとアンタ?」


「――ふぅん!!!!!」



230: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:21:57.90 ID:OPLn9L8Y0


美琴が何か言い終わる前に、彼女がけり落としたカメラを力いっぱい踏みつける。


「あ、ぁぁっ!!!や、やめ――」


「っ!!!っ!!!!」


もう一度。もう一度。もう一度。べき、と言う破砕音。もう一度。原型が分からなくなる。もう一度。


最初の方は何かを叫んでいたストーカーであったが、いまや言葉すらない。


刻一刻と壊れていくカメラをただただ眺める。ましてや、それを行っている鬼女のような女は、自らが追い回していた憧れの人なのだ。


「ハシャぎすぎだ……」


「………」


「………」


美琴と佐天に至っては言葉もない。


やがて、鬼気迫る勢いであった食蜂も徐々に落ち着きと余裕を取り戻したのか、「えいっ♪」だの「とぉっ☆」だの、それはもう楽しそうにカメラを踏みつけている。


取りあえずは一安心、といっても良いのだろうか?


「っふー。あはぁっ☆すっきりしたぁ~。もぉ最高っ♪」


「……ぁ」


ストーカーは尻もちをついていた。無理もあるまい。


「……次はアナタよぉ……?」


「ひっ。ひぃぃぃっ!!??も、もう嫌だぁぁ!!!!」


ストーカーはそのままうずくまり、両手で頭をかばう。


「ぼぼぼっ、僕の操祈ちゃんは、こんなに乱暴なコじゃないしっ、あ、あんなヤンキーみたいなヤツとはつるまないっ!!!」


「[ピーーー]」


「ま、待ちなさい……」


追い付いた一方通行を美琴が制止する。どいて美琴、アイツ殺せない。


「お、おまえは一体何なんだよぉ!!!性格悪すぎだろ、じょ、常識的に考えてっ!」


「……ふふっ」



231: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/12(日) 16:26:05.86 ID:OPLn9L8Y0



顔にかかる金髪を後ろに流しながら食蜂が笑う。そして――


「とりゃぁっ☆」


「ぎぁぁぅ」


うずくまるストーカーの顔面に向かって、一切の慈悲の感じられないサッカーボールキックを見舞った。


「おぉう!……強烈です!」


さっきから押し黙っていた佐天が合いの手を挟む。ストーカーは、それからピクリとも動かなくなった。生きてるよね?


「性格悪い?乱暴?そんなのどーでもイイでしょぉ?だぁって――」


倒れ伏すストーカーに向け言葉を放つ。もう聞こえてはいないだろう。


彼女の口元には、酷薄な笑みが浮かぶ。


「こぉんな完璧な私に必要なものなんて、これ以上ないもんっっ☆」


最後の一言は一方通行に、振り向きざまに向けられた。


心理掌握、完全復活。


その微笑みは男心を惑わし、その言葉で同性をも味方につける。


「………あ」


雨はいつの間にか止んでいた。




250: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:05:43.65 ID:6jfecE3j0





                        ◇



「適当に座れ。……つゥかいい加減離せよ鬱陶しい……」


「ちょっとぉ?冷たいわよぉー?こーんな美少女にしがみ付かれて、ご褒美でしょぉ?」


「……さーン、にーい、いィーち」


「わわっ!?ちょ、ちょっとだけ!い、今手を放すからぁ!!」


そんなことは言いつつ、無理やり振りほどかないのが彼なりの優しさだろう。


時は移り、一方通行の家。


玄関には、美琴のものとはサイズの違うローファーが揃えられ、水滴のしたたるジャージが干されている。


「少し待て。……ココアでいいな」


「……うん」


あの後、美琴や佐天と一緒に無言で学校に戻った食蜂だったが、着替えを終え、さあ帰ろうと校門を出たところで腰を抜かした。


美琴にどうにかしろと頼んだ一方通行だったが、


「駄目ダメだめ!!絶対いやぁっ」


と、食蜂が駄々をこねたため、仕方なく一方通行が肩を貸し、自宅まで運んできたのである。美琴は、


「私も願い下げよ!行きましょ佐天さん!」


などと言い残し帰ってしまった。




251: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:06:16.10 ID:6jfecE3j0


佐天は置いてけ、という言葉が喉まで出かかった。


「ほらよ。ゆっくり飲め。熱いぞ」


「ありがとっ♪……あっつぅ!」


「アホかオマエ」


まだ本調子じゃないのかテンションがおかしい。無理をしているのが見え見えだ。


「……」


「……どォした?ひり出たクソみてェなツラ晒しやがって」


「ひっ、ど、どんな顔よぉっ!?」


押し黙る食蜂をからかう。そろそろ本調子に戻ってきただろうか?


「……おいしい。アナタ、甘いの嫌いなんじゃないの?」


「美琴用だ。………っち」


うあー、と右手で頭を掻きながら一方通行は語り始める。


「家が隣だから家事とかメシとか共同なンだよ……あの野郎は一人暮らしだからな。成り行きでこうなった」


「……ふぅん」


「………」


それだけか、と一方通行は幾分か拍子抜けする。もっと喰いついたり、からかったりされるかと思ったのだ。


彼女はココアに目を落としたままだ。いつも通り何を考えているのか分からない。陰謀フェイス。




252: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:07:08.10 ID:6jfecE3j0


「んっ」


食蜂はココアの最後の一口を一気にあおる。またまた胸を強調するような姿勢になる。狙ってンのか?などと一方通行は考える。この男、案外エロいことを考えているものである。


「あ~~~あっ☆すぅーっきりしたぁっ♪あのストーカ―の顔、死ぬまで忘れないわぁ」


「そいつは重畳ォ。ツラの形変わるまで殴ってやりたかったがなァ、あのクソ野郎も運がイイ」


「物騒ねぇ」


ふふっ、と食蜂が笑う。


「……簡単な事だったみたいだわぁ。バッカみたい」


食蜂は、女王様スマーイル!を保ったまま神妙に語るという高等技術を披露する。


「あの子ができる事、やろうとしている事をやらなかった。それができなかったのが悔しいだけだったの。ほんと、笑っちゃうわぁ」


ひたひたと台所まで歩き、カップを流しに置く。


「あの子の、利害とかを度外視して行動を起こせるところが嫌いで嫌いで、それでいて羨ましかったの」


「………」


食蜂はいつも通りだった。


隙のない表情。隙のない猫なで声。そして隙のない美貌。


しかし、一方通行にはその声がどことなく乾いているように聞こえた。


認めてほしい。どうすればいいのか知りたい。


彼女がそう叫んでいるように見えた。




253: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:08:29.01 ID:6jfecE3j0


「……羨ましい、ね。そンなの、誰だって抱く感情だろ」


「それは――」


「黙って聞け。たとえば俺は……あァーそうだ。まず上条のヤツが羨ましいな。あーゆー突き抜けたお人よしにはなれないが、羨ましいとは思うぜ。……どォだ?笑っちまうか?」


「………」


食蜂は黙して語らない。


「あとは……佐天の突き抜けた笑顔が羨ましい。海原の思慮深さも羨ましいし、土御門のアホさ加減も時たま羨ましく感じるなァ」


「ぷっ、なによそれぇっ?」


「……でもよ」


壁に背を預け、天井を見やる。


暖色のライトが眩しい。落ち着く色だが、今はどうしてか落ち着かない。


「俺はそれを真似したいとは思ったが、それまでだった。できねェもンはできねェンだよ、やっぱり」


自分に言い聞かせているのかもしれない、負け犬が言い訳しているだけなのかもしれない。


「進歩がねェ、とか言われちまうのかもなァ。だけど、俺はそれを恥じたことはねェよ。それほど真面目な人間でもねェしな」


自重の笑みがこぼれる。一緒に駄目人間になろう、と言っているみたいだった。


「オマエは真面目すぎンだよ。もうちょっと適当に生きろ。何もかも完璧にこなせる人間なンていねェンだよ。」





254: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:09:44.64 ID:6jfecE3j0


「………」


不意打ちに成す術のない、きょとん、とした顔を浮かべる食蜂の顔を見つめる。


恥ずかしさは不思議となかった。説教にも耐性がついたのか、いたって冷静な一方通行だった。


彼の見つめる少女の顔が、笑顔の形を作り出すのにそう時間はかからなかった。


「………ふふっ、なによそれ、バッカみたいじゃない」


「バカで悪かったな。話半分に聞いてくれりゃァ――」


「違うよ」


あはは、と堪えていた笑いを溢れ出しながら、目に涙をためながら食蜂は微笑む。


「馬鹿なのは、あ・た・しっ」


その微笑みは、今まで見たどんな笑顔よりもへたくそで――


「……はっ、そォかい」


今まで目にしたどんな微笑みよりも、きれいだった。












255: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:10:15.19 ID:6jfecE3j0








                         ◇








「………」


「………」


ラジオの音、コーヒーの匂い。


先ほどから二人の間に音はない。


赤裸々に内心を吐露して恥ずかしかったのか、食蜂はすっかり黙り込んでしまった。


不機嫌なわけでもないのに黙り込む食蜂は、彼女じゃないようだ。なんてことを一方通行は考えた。



「……オイ」


「………ん?」


「いつ帰るンんだよ?いつまでもグダグダやってる訳には行かねェだろ?もう良い時間だ」


「えぇ~?」


「えーじゃねェ……おら」


「きゃっ。い、いたぁっ!」


立ち上がり、食蜂の尻を蹴りつける。


こうでもしないと起き上がる気配がなかったからだ。


クッションを抱きながらごろごろと寝転がる彼女。くつろぐのレヴェルを超越していた。



「ほら早くしろ。美琴とか木原くン来ちまうぞ」


「あはは!ねーぇ、木原くんって誰なのぉっ?」


尻を蹴られたのにどこか上気した表情で食蜂が尋ねる。


コイツ、マゾなの?と眉をひそめつつ一方通行は口を開いた。



256: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:12:15.11 ID:6jfecE3j0



「……親、みてェなもンだよ」


「ふぅーん……」


「……何だよそのツラ?馬鹿にしてンんのか?」


にやにや笑いながら、意味ありげな表情を浮かべる食蜂。


なるほど、確かに一方通行の耳は真っ赤だった。


「べっつにぃ~☆なんでもなーいよ」


立ち上がる素振りさえない。クッションに顔をうずめてくつろぎレヴェルを一段階引き上げる。


「………」


(……まァ、イイか……そのうち帰ンだろ。別にコイツがいても美琴が五月蠅いだけだしな……イヤ……駄目じゃね?……ま、いっか)


彼にしては珍しく、簡単に諦める。


誘ってるのかと邪推されてしまいそうなほど無防備に目転がる食蜂に一瞥をくれ、背を向けようとしたその時――


「えぇいっ」


「はァっ?」


腰に手を回される感覚。そして、柔らかい二つの弾力が太ももの裏に感じ取れた。


その二つが何なのかを考える暇もなく、一方通行は倒れ伏せる。


左手にコーヒーカップを持っていた彼は、モロに顔面から床とキッスした。


「いっ、てェェェェえええええええっ!!!!!!!て、テメェ何―――」


こつん、と額に熱い何か。そして、息遣い。



257: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:13:23.80 ID:6jfecE3j0


「……オマエ……」


「ばぁっ!………な、なんちゃって♪………」


眼前に、食蜂の顔があった。


長い睫毛。薄い唇。


ホットココアの匂い。汗と、甘い何かが入り混じった匂い。


「……イイ加減にしろ。オマエも女なンだか――」


「もしさぁ……」


床に手をつき、四つん這いになった姿勢。


囁くように告げる。


「もし、私が、御坂さんと同じ立場で一方通行くんと、こうした関係になったとしたらさぁ……」


細められた目。何かを悔やんでいる。一方通行にはそんな風に映る。こうした関係?


「御坂さんのコトより、私のことをスキになったのかな?」


「…………ァ?」


心臓が五月蠅い。顔が熱い。耳が熱い。


冷静な判断ができない。


(……お、落ち着け。落ち着け俺。コイツは一体全体何を言ってやがる?俺がスキ?誰を?美琴を?コイツを?佐天?……今日の佐天の髪留めはいつもと違ったなァ……って違う!……イイ匂い……ってコラ!!!)



頭が回らない。今日の食蜂はおかしい。おかしすぎる。いつもと違いすぎる。


今日だけで何通りの食蜂がいた?


こいつは本気なのか?


自分は何をすればいい?


どんな言葉を選べばいい?




258: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:14:26.29 ID:6jfecE3j0



これほど動揺することも滅多にないだろう。数年に一度かそこらだ。


沸騰しそうになるほど考えを巡らせ、その鉄面皮の中で思考が渦を巻く。そして、かろうじて声を絞り出す。



「お、俺は――」



「……ふふっ。なぁんてねっ」


ぐに。


「……ふあ?」


一方通行の左の頬になめらかな感覚。


頬が抓られたのだ。



「ぷ、あはははははぁ!!やっりぃ!!一本とったぁ!!!」


「……………マジかよ」


ぐたり、と力が抜け、その場で寝転がる。


死ぬかと思った。本当に。


「えいっ」


一本取られた。


どさくさに紛れて一方通行に跨る食蜂に構う余裕さえない。


「マジでどォかしてる……本気にしそうになったぞ?……まァ、よく分かンねェ部分も多かったが」


「………本気にしちゃいそうだったんだ」


「オマエは………はァ……」



259: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:15:53.30 ID:6jfecE3j0



大の字に寝転がる。もう動けない。


「とりゃー」だの「えいやー」だの言いながら顔がいじくり回されるのに構うこともできない。


「………ねぇ?何でこんなに肌がスベスベなのぉ……?スキンケアしてる?」


「俺がしてたらそれこそホラーだろォが」


「……うっそぉ……」



馬乗りになりながら、顔をいじくり回し、愕然とする女。



馬となる男は大の字。何ともシュールな光景である。



そんな色気のあるんだかないんだか分からない空間に、また恐ろしいものが飛び込む。



がちゃ、と音を立てて開かれるドア。



すらりと長い二本の足が、一方通行の視界に入った。



「…………何よこれ」



260: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:17:28.02 ID:6jfecE3j0


密着する二人の視線が声のもとを追う。



声の主は、シャンパンゴールドの髪の少女。



その目元には、困惑の二文字。



「…………」



外の様子は分からないが、日も落ちるか、落ち切っている時間なのだろう。



だって美琴が来るのだから。



……なんて現実逃避をする暇も、言葉を選んでいる余裕も、一方通行にはなかった。














261: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:18:30.61 ID:6jfecE3j0


現在の配役は以下のようになっております。


高須竜児……一方通行

逢坂大河……御坂美琴 

櫛枝実乃梨……佐天涙子

北村祐作……上条当麻

能登久光……海原光貴(エツァリ)

春田浩次……土御門元春

木原麻耶……五和

三十路……月詠子萌

やっちゃん……木原数多

会長……インデックス

香椎奈々子……レッサー


以下配役なし


生徒会役員……神裂火織、ステイル・マグナス

友人……結標淡希

化学教師……天井亜雄




262: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/24(金) 18:19:27.45 ID:6jfecE3j0

以上で原作二巻はお終いです!如何だったでしょうか?

読んで頂いた方々、また、レスをくださった方々には感謝の述べようもございません。

食蜂さんメインの話でしたねー?でも?次回は佐天さんが中心の話になります!!イヤッホー!!!!


……しかし!!非常に申し訳ないのですが、>>1が就活でゲットビジーなため、

次回の話は早くて六月、別スレでやらせていただくことになります!

楽しみにしていただいている方々、本当に申し訳ないです!内定出たら書き始めます!はい。

スレタイは‘御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」‘の部分は変わりませんので、

見かけたら覗いてやってください!本当にありがとうございました!

一週間くらいしたらhtml化出しますので、要望や感想を書き込んで頂けると歓喜の極みでございます。ではっ!!!




271: ◆Mx7XGp.7IA 2012/02/25(土) 11:10:03.60 ID:AzzIoCr60

現在の配役は以下のようになっております。


高須竜児……一方通行

逢坂大河……御坂美琴 

櫛枝実乃梨……佐天涙子

川島亜美……食蜂操祈

北村祐作……上条当麻

能登久光……海原光貴(エツァリ)

春田浩次……土御門元春

木原麻耶……五和

三十路……月詠子萌

やっちゃん……木原数多

会長……インデックス

香椎奈々子……レッサー


以下配役なし


生徒会役員……神裂火織、ステイル・マグナス

友人……結標淡希

化学教師……天井亜雄


間違えてました。差し替え!!


元スレ
SS速報VIP:御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」食蜂「そのにっ☆」