1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 19:55:51.24 ID:gAzXQP2O0

加治木(私が高校生の頃、同級生に蒲原という女生徒がいた)

加治木(笑い上戸でやたらワハハと笑うことから“ワハハ”と呼ばれていた)


  蒲原「ワハハ、ゆみちんはおっかしーなー」

  蒲原「ワハハー、かおりんは麻雀へたっぴだなー」

  蒲原「ワーハハ、モモいたのかー」


加治木(中にはワハハという笑い声に顔をしかめる者もいたが、その声を聞くと何故か顔がゆるんでしまう)

加治木(蒲原の笑い声は鶴賀学園の名物となり、おかしなことにネクラ人間が一人もいなくなった)


加治木(……いや、たった一人いたな。そういえば)

――――――――――

睦月「……」

睦月「…ウムァ!」ヒュンッ ヒュンッ

スコン スコンッ



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:01:46.34 ID:gAzXQP2O0

蒲原「ワハハ、むっきーは今日も投牌の練習かー」

睦月「危ないですからどいててくださいっ! ウムァッ!」ヒュヒュンッ

 スココンッ

蒲原「まあいいじゃないか、見てるだけなんだし」

睦月「的の前で突っ立たれちゃ邪魔なんですよ! ウムァ!」ヒュンッ

 カスッ

蒲原「ワーハハ、大外れだなー」

睦月「…」イラッ

睦月「うむぁぁっ!」ヒュンヒュンヒュンッ

 ドスンッ ドスンッ ドスンッ

蒲原「おー、足元ぎりぎりに3発!」

睦月「次はホントに当てますよ?」

蒲原「ワハハ、まあまあそう怒らず」

睦月「…その『ワハハ』ってのが頭に来るんですよ、私は!」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:10:42.89 ID:gAzXQP2O0

蒲原「それよりどうしたんだ? もう授業始まってるぞー?」

睦月「みんな教室に引っ込んだところでゆっくり練習しようとしてたんです。
    先輩も邪魔しないでください。 …ウムァ!」

蒲原「ふーん。むっきーは大変だなー」

睦月「てか先輩こそ何でいるんですか? 邪魔なんで教室に帰って欲しいんですけど」

蒲原「私かー? 私はなー」


  教師「なのでこの式は… 分かりましたか?」クルッ ボインッ

  蒲原「ワハハー、岩戸先生はすごいなー! 時間差で胸が振り返ったぞー」

   マジダ スゲー クスクス… 

  教師「こ、こら! 蒲原さん!」

  蒲原「歳をとればとるほど胸が大きくなる人がいるってのは本当だったんだなー」

  教師「 」ピクッ

   オ、オイ ヤバイヨヤバイヨ

  教師「…生徒に注意するのは苦手なんだけど…苦手分野、いかせてもらおうかしら・・・?」ビキビキビキッ

  蒲原「ワ、ワハハー! 校庭走ってきます!」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:15:26.35 ID:gAzXQP2O0

蒲原「……ってことがあってなー」

睦月「低レベルな……」

蒲原「あっ、話してたら思い出してきちゃった。岩戸先生の胸、すごかったなー。ワハハ」

睦月「…あーもう、無視だ無視。ウムァッ!」ヒュンッ

 ・
 ・
 ・

蒲原「ワハハ、ワーッハッハ。ワハハ、ワーハハハ、ワハハ」

睦月「くそーッ! 先輩が後ろにいると心が乱れるっ!」ヒュンヒュンッ

 スカッ スカッ

蒲原「おー、また見事に外したなー!」

睦月「先輩のせいです!」

蒲原「でも、むっきーは何で投牌の練習をしてるんだー?」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:22:20.78 ID:gAzXQP2O0

睦月「投牌を練習してるわけ?」

蒲原「うん、聞きたいなー」

睦月「聞きたきゃ教えてあげますよ。人を殺すためです! この三元牌を脳天にぶち込んでやるってわけですよ!」

蒲原「へー、人間殺すのかー。 殺す練習?」

睦月「そうです。だから先輩もこんなのに付き合ってないで帰ってくださ」

蒲原「ワハハ。それじゃいいもん持ってきてやろうかなー」

睦月「…人の話を聞いてください」



蒲原「じゃーん!」

睦月「何ですか…それ」

蒲原「アヒルちゃんプロペラっていうんだ。これを的にすると楽しいぞー。
    終わったら部室に返しておいてなー」

睦月「くだらない…うむぁ!」ヒュンッ

蒲原「拍手すると飛ぶんだぞー」パチパチ

 フワッ
 スカッ



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:28:50.75 ID:gAzXQP2O0

睦月「……」プルプル

蒲原「ワハハ、おおはずれー!」

睦月「…ウムァァァァァァァッ!!」ヒュババババババッ

 ドゴゴゴゴゴゴゴンッ

睦月「ウムァ! ウムァ! ウムゥアッ!!」ヒュヒュヒュンッ

 ガンッ ゴンッ ドゴッ ゴスッ


睦月「はーっ、はーっ……」

蒲原「ゆかいだろー」

睦月「うるさい!! とっとと消えてくださいッ!!」

――――――――――

加治木(――津山睦月。彼女は今はやりの美少女系ではなかった。
     この世界の住人としては珍しく誰にも媚びを売らず、しかも…
     何かの目的のために思いつめた光を目にやどしていた)

加治木(もちろん学校では先生も愛想をつかし、だれも恐れて近づかない)

加治木(そんな彼女と蒲原とが結びついたのはなぜだろうか。
     とにかく二人の心の底に何か惹きあうものがあったのだろう。
     一人は笑い上戸、一人は孤独なネクラなのに……)



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:36:24.35 ID:gAzXQP2O0

――――――――――

蒲原「それじゃむっきー、また明日なー」

睦月「……ふんっ」

蒲原「ワハハ、むっきーはアイソが悪いなー」トテトテ

睦月「……」

睦月(蒲原先輩… いったいどういう育ちなんだ?)

睦月(…すこし後をつけてみるか)



蒲原「ワハハー、今日も一日楽しかったなー」

   「アカンわ…またパチンコでスってもうた…」

 ワハハ ワハハー

   「…誰や! ウチがブルーな気分でおる時に癪に障る笑い方をしとるんは!」

蒲原「んー? 私のことかー?」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:44:42.99 ID:gAzXQP2O0

   「ほー、アンタか……ウチが今どんな気分なんか、分からんの?」

蒲原「ワハハ、お姉さんは妙なことを言うなー。 初対面の人の気分なんか分かるわけないぞー」

   「あーそうかい… っと!」
   
  ゴスッ

蒲原「がっ……は……?」

   「空気読めや! パチンコ屋からしょんぼりしながら出てくるってのは負けたってことに決まっとるやろ!
    どうせアレやろ! 今のは私が負けたのを笑っとったんやろ! ええ!?」

  ドゴッ ドゴッ

蒲原「ワ、ワハハ… そんな、知らな…」

   「…はー、はー……! ゴホッ、ゴホッ」

蒲原「…? ワ、ワハハ…どうしたんだ、お姉さん? 体の調子でも悪いのか…?」

   「ーッ!」

  ガスッ

蒲原「ごぶっ!」

   「なんや! 今のワハハはウチが病弱なことを笑ったんか!?
   パチンコで負けたことだけならいざ知らず、ウチの身体のことまで……!
   このっ! このっ!!」 ゲシゲシッ



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:50:45.16 ID:gAzXQP2O0

睦月「うむ……すっかり蒲原先輩を見失ってしまった…」

  …! …!
   ゴッ ドガッ

睦月「向こうの方が騒がしいな? 乱闘か何かか?」

  ワ、ワハハ…

睦月「!? 蒲原先輩!」



蒲原「ワ…ハハ……」

   「はあっ… はあっ… まだ、笑っとる……!」

睦月「うむぁっ!!」ヒュンッ

 ゴッ

   「痛ッ!」

睦月「お前っ! 私の先輩に何をしている!」

   「何や、コイツの仲間か? ええわ、相手したろやないか… ん?」

 トキー? ドコイッタンー?
 
   「……相手したろ思たけど、今日はこのくらいで堪忍しといたるわ。 覚えとけや!」タタッ



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 20:56:15.49 ID:gAzXQP2O0

蒲原「ワ、ワハハ……その声、むっきーか?」

睦月「蒲原先輩! 一体何が!」

蒲原「ちょっと絡まれちゃってなー……ワハハ、人気者は困るなー」

睦月「ひどいケガですよ。大丈夫ですか?」

蒲原「だいじょぶだいじょぶー。とにかく助かったよ、それじゃあなー」ノタノタ......

 ......コテンッ

睦月「! 蒲原先輩!」

蒲原「あいたたた……」

睦月「全然大丈夫じゃないじゃないですか!」

蒲原「ワハー…面目ない」

睦月「…まったく」

睦月「家どこですか? 送っていきますよ」

蒲原「いいのかー?」

睦月「こんなケガ人、放ってはおけませんから」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:03:16.69 ID:gAzXQP2O0

――――――――――

蒲原「着いたぞー。ここが我が家だ!」

睦月「ここが……」

睦月(ボロボロのアパート。こんなところで先輩は生活しているのか……)

蒲原「しかし、むっきーは優しいんだなー」

睦月「何ですか、突然」

蒲原「いやー、てっきりむっきーに嫌われてると思ってたからさ。
    でも助けに来てくれたあたり、意外と好感度高かったりするのかー?」

睦月「…」

睦月「先輩のことは嫌いです。変に勘違いしないでください」

蒲原「ワハハ、手厳しいなー! …それじゃ、ここまでで大丈夫だから」

睦月「本当に大丈夫ですか? 止血とか色々しないと……」

蒲原「大丈夫だって! それじゃ、また明日!」

 バタンッ

睦月「……」

   「はーっ! 今日も仕事疲れたーっ! けどこれからもう一件予約入ってるんだよねー…」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:13:27.88 ID:gAzXQP2O0

睦月「すいません」

   「ん? あたし?」

睦月「203号室の蒲原のとも…… 知り合いの者なんですが。
    私、全然あの子のこと知らなくて…良かったら何か教えてくれませんか?」

   「うーん。勝手に話しちゃってもいいのかな。 …まあいっか!」

   「あの子、可哀そうな子でね。ワハハ、ワハハって笑うんだけれど、
    それがいつも誰かの反感を買っちゃうみたいなの。
    笑い声が理由で両親には借金残して捨てられ、家や車は焼かれ、ゴロツキには暴力を振るわれ…」

   「それでもあの子一人で頑張ってるの。けなげよねー……」

   「毎日ワハハって笑いながら、いつ帰ってくるかも分からない両親を待ってるのよ」

睦月「そんなことが……」

   「ほんと良い子なんだけどねー… って、もうこんな時間!
    ゴメン、お姉さんお仕事あるからこの辺で失礼するね!
    …あーっ、次の親父は金持ってるから常連にしたいのにーっ!」

睦月「…蒲原先輩」

――――――――――

蒲原「ワハハ、それでむっきーがなー…」

加治木「ふふ。まったく、お前は何をやっているんだ… …ん?」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:21:32.82 ID:gAzXQP2O0

睦月「蒲原先輩。話があるんですが」

蒲原「おー、むっきー! 昨日はありがとなー!」

加治木「…津山。私は席を外した方が良いか?」

睦月「出来ればそうしてほしいです」

加治木「分かった。 じゃあ蒲原、また後でな」

蒲原「ワハハ、じゃあなー」



睦月「あの後、近所の人から先輩のことを聞きました。 親に捨てられたんですって?」

蒲原「…ワハハ、もうずーっと会ってないんだー」

睦月「それなのになぜ笑ってられるんですか!
    どうして泣かないっ どうして怒らないんですっ!!」

蒲原「…?」

睦月「そんな親が憎らしくないんですかっ!?
    それに昨日のチンピラにしたって、なんでちっとも抵抗してなかったんですか!」

蒲原「抵抗って…なんでだー?」

睦月「なんでもくそもありますか! 先輩、人間の感情が無いんですか!?」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:31:57.39 ID:gAzXQP2O0

蒲原「泣くなんてムダだろー? 怒ったって疲れるだけだしなー」

睦月「そんな理屈…!」

蒲原「それより、むっきーはどうして笑わないんだー?
    あ、小林立が笑い顔を考えてなかったんだなー! ワハハー」

睦月「うるさいっ!」

睦月「常識から考えたって、先輩は絶望するはずなんです!
    それなのに、よりによってトラブルの原因の笑いを毎日してて平気でいられるなんて…!
    マトモじゃないですよ! 先輩、頭がおかしいんじゃないですか!?」

睦月「私には…とてもじゃないけど出来ない……」

蒲原「むっきー…」


睦月「…私は、今日まで復讐のためだけに生きてきました」

睦月「私の今のネタキャラポジション…それを確立させたのは私のコラ画像を生み出したヤツらです」
    あの画像さえなければ、今頃私も普通のキャラとして普通の麻雀が打てていたのに…!」
    ……コラ職人が私の麻雀人生を奪ったんです!!」

睦月「…だから、そいつらを殺すために投牌を練習しているんです。
    コラ職人をコラネタで殺すために…それまでは八つ裂きになってでも…!」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:42:59.66 ID:gAzXQP2O0

蒲原「…もったいないなー」

睦月「何がもったいないって言うんです!?」

蒲原「だってそうだろー? せっかく小林立が生んでくれたのに…ワハハ」

睦月「人生を無茶苦茶にされたんですよ!?
    私はコラ画像で……あなたは親に!」

蒲原「でもなー。ほら、子供にイライラしての殺害事件とかよくあるだろー。
    私の親は殺さずに生かしといてくれたんだ、それだけでも感謝しないとなー」

睦月「あーっもう!! 先輩と話してたら頭がこんがらがってくるーッ!!」ダダダッ

蒲原「…ワハハー」

――――――――――

加治木(そんな感じで、初めの方は蒲原と睦月は気が合わないようだったが……)

加治木(いつからだろうな。段々と、睦月は蒲原の考えに惹かれていったようだった)

加治木(そしていつの間にか、二人はもっと心を割って話せる間柄になっていた)

――――――――――

睦月「蒲原先輩いますー? 食糧持ってきましたよ、ほら」

蒲原「ワハハ、いつもありがとうなー…って、またプロ麻雀せんべいか」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 21:54:26.96 ID:gAzXQP2O0

睦月「それとウチにナベが余ってたんで持ってきました」

蒲原「気を遣わなくてもいいぞー。
    それに金目のものがあるとサラ金の人が持っていっちゃうからなー」

睦月「そんなことまでするんですか…」

蒲原「ワーハハ、困ったもんだよ」

睦月「…? その机の上… マンガ書いてるんですか?」

蒲原「ワ、ワハハ。恥ずかしいなー…」

睦月「ギャグ漫画ですか。 …へー、面白いじゃないですか」

蒲原「そういってもらえると嬉しいなー」


蒲原「…私なー、マンガ家になるつもりなんだー。
    ギャグ漫画を描いて、たくさんの人に笑ってもらうのが私の夢なんだ」

睦月「笑ってもらう…ですか」

蒲原「そ。もう笑って笑っておかしくておかしくてしょうがないマンガを描くんだ。」

蒲原「…笑うってのはすごいことだよなー。
    笑ってるだけで、いろんな辛いこと、苦しいことを忘れることが出来る。そして幸せを感じることができる。
    私のマンガでたくさんの人が笑ってくれたら…それはすごく素敵なことだと思うんだ」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:04:02.38 ID:gAzXQP2O0

蒲原「子供の頃は、私が笑ってれば周りの人も笑ってくれると思ってたんだけどな。
    私の笑いじゃ逆にイライラする人がいるって気付いちゃったんだ……。
    けれど、その点マンガなら大丈夫だと思うんだ!
    マンガなら私が描いたって誰も分からないしなー! ワーハハ!」

睦月「…先輩、実は色々考えてたんですね」

蒲原「ワハハ、それは私が何も考えて無さそうに見えるってことかー?」

睦月「はい」

蒲原「毒舌だなー。ワハハ」

睦月「けれど、これ本当に面白いですよ。もしかしたら売れるかも……」

蒲原「なぁむっきー、知ってるかー?
    動物は泣くとか怒るとかは出来るけど、笑うことだけはできないって話」

睦月「聞いたことはありますけど…」

蒲原「だから笑えるってことは高等動物ってことなんだってなー。
    …なあ、むっきー。そのマンガおっかしいか?」

睦月「ええ、おっかしいですよ」

蒲原「じゃあ笑ったらどうだー? 私、むっきーが笑ったところは見たことがないなー」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:11:22.37 ID:gAzXQP2O0

睦月「笑う…私がですか?」

蒲原「見てみたいなー、むっきーの笑顔」

睦月「……」


 にこりんっ


睦月「こんな感じで……」

睦月(は、恥ずかしい…っ)

蒲原「ワハハ、むっきーかわいいぞー!」

睦月「か、かわいいっ!? そんな、私なんて…」

蒲原「? むっきーはもっと自信を持ったほうがいいぞー? 今まで見た笑顔の中ではナンバーワンなのになー」

睦月(かわいいなんてはじめて言われた…)カァァァッ

蒲原「ワハハ、むっきー顔まっ赤だなー」

睦月「! う、うるさいですっ! それより今度は私が見せる番ですよね!」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:18:51.70 ID:gAzXQP2O0

睦月「この学生服の裏、ここに麻雀牌をしこんであるんです。
    いざって時はサッと手を突っ込んで投牌ってわけです!」

蒲原「ワハ、なんか隠し手裏剣みたいだなー。でも暗くなってきたから投げちゃだめだぞ」

睦月「先輩、電気はつかないんですか?」

蒲原「電気代払ってないからなー。夜は真っ暗なんだ」

睦月「そうなんですか…」

蒲原「…ワハハ。こう暗い中に二人っきりだと」

睦月「?」


蒲原「なんだかレズっぽいなー。ワハハー」

睦月「 」ボッ

睦月「な、ななっ、ななな…… 何言ってるんですか!!」アタフタ

蒲原「冗談冗談ー」

睦月「冗談が悪質ですよ…まったく…」



   「蒲原さんいるかー? 龍門渕金融だぜ」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:28:12.85 ID:gAzXQP2O0

   「暗いな…まったく見えねえや」

   「ノートPC…持ってくるべきだった……」

   「お父さんはまだ帰ってないのかな?」

睦月(これが例のサラ金業者か…)

   「そこ…誰かいる…?」

蒲原「学校の友達だぞー」

   「純くん、こっちにナベが置いてあるよ!」

   「ナベぇ? おい、どっからそんなものを」

蒲原「ワハハ、この友達がくれたんだ」

   「ウソつけッ! おふくろが置いていったんだろう!?」ガシッ

蒲原「ち、違うぞー。母さんも父さんもまだ戻ってきてないんだ…」

   「隠したって分かるんだよ! さあ吐け、親はどこにいる!?」ボゴッ
  
蒲原「がっ…! ごほっ、ごほっ・・・!」

   「ちょっと純くん! あんまり手荒なことは…」

   「一度頭に血がのぼった純は制御不能……」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:34:25.60 ID:gAzXQP2O0

蒲原「だ、だから…来てないったら…… うぐぅっ!!」

   「まだ吐かねえか! こうなったら指の2、3本折ってでも吐かせてやらあ!」ゴスッ ボカッ

蒲原「げぶっ! ごっ、がふっ……!」

   「吐けっ! 吐かねえか!」

睦月「やめろーッ!!」 ヒシッ

   「あァ!? なんだてめぇ」

睦月「よさないかっ! 私の先輩を…!」

   「うるせぇ! ひっこんでろッ!!」 ガッ

睦月「うあっ! …くそッ、やったな!!」 サッ



睦月「…うむァ!!」 ヒュンッ

 ドスッ

   「いてェェェーッ!!」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:38:55.05 ID:gAzXQP2O0

   「純くん!?」

   「ち…ちくしょう…」プルプル


 ドスッ


蒲原「ギャアァッ!」

睦月「! せ、先輩!?」

   「純くん何してるの!?」

   「ここは退散すべき。純が暴れた上に怪我人が…」

   「チッ…くそったれ」



蒲原「ア……ウ…ア…」

睦月「しまった! 牌を胸に……! 先輩っ、しっかりしてください先輩っ!!」

睦月「誰かーッ!! 誰か来てくださいッ! 救急車をーッ!!」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:47:04.50 ID:gAzXQP2O0

ピーポー ピーポー

――――――――――

   ビョウインッス

睦月「うぅ……先輩…」


   「チアノーゼが起こってるよぉー…おね゛えちゃーん、どうしよう~……」

   「荒川先生、どうでしょうか…?」

   「こらアカンなー、胸に牌が突き刺さっとるわ」

   「縦隔道にも穴が…あったかくない……」

   「凶器が麻雀牌って……怖いよぉ、お姉ちゃん……」


睦月(私の凶器だ……私が突き刺したも同じじゃないか……)

   ブチョウサンハ ジュウショウッス
   サイキフノウッスネ
   オムカエッス

睦月「うるさいっ!!」

睦月「…? ……幻聴か?」



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:59:40.89 ID:gAzXQP2O0

――――――――――

加治木(幸い一命はとりとめたが…蒲原は二度と学校に来ることはなかった)

加治木(容態がまったく良くならず、救急病院から郊外の病院へ。そしてどこか遠くの診療所に移されたそうだ)

加治木(それ以来学校では蒲原の笑い声がまったく聞かれなくなり、火が消えたようなさみしさになった)


加治木(一方で睦月はというと、あれから牌を握ることをやめた)

加治木(そして医師になることを目指し始めた。
     いつか蒲原を見つけ出し、治してやるためだろう……少なくとも私はそう思っている)

加治木(一流大学に入学し、医学を学び…もともと投牌で培った手さばきも相まって、
     いつしか医局の天才と呼ばれるようになっていた)

―――――――――――

   「どしたー? 近頃元気無いでー?」

睦月「先輩…生きていてくれれば、私が今こそ……」

   「モノオモイニ フケッテンナー」



睦月「医長先生! どうしてもある患者の行方を捜したいのですが…
    二十日ほど休みをいただけませんか? 八年前から行方不明の患者です」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:05:09.14 ID:gAzXQP2O0

――――――――――

睦月「――! ――――!」

佳織「――――」フルフル


                睦月「――――! ―――」

                加治木「――――。――――」
  
                睦月「―――!? ――――!」

    睦月「―――」

    照 「――――」

    睦月「―――! ―――!」

――――――――――

トシ「それでわざわざ岩手まで… ご苦労だったねェ」

睦月「それより本当にいるんですね? ここに先輩が!」

トシ「それは自分の目で確かめな。ほら、この病室だよ」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:14:07.90 ID:gAzXQP2O0

 ギィーッ

睦月「…先輩。やっと見つけましたよ」

蒲原「あ…あ。 むっきー、か……」

睦月「なんて姿に……」

蒲原「はず、かしい、な。こうはいにこんな… ゴッ ゲホッ!!」

トシ「あまりしゃべれないんだよ。呼吸困難を起こしてね…」

睦月「……先輩。私はこの日を待ってました。
    先輩を治すために、私は復讐の牌を捨ててメスを握ったんです。
    やっとそれが叶う腕になったんですよ……!」

蒲原「あ…むっ、きー……」

トシ「手術の準備は整ってるよ」

睦月「ありがとうございます。 …先輩、今治してあげますからね」

―――――――――――

  「それで私たちが助手とか…ダル……」

  「そこ! 面倒くさがらない!」

  「医局の天才、津山睦月…見せてもらおうか、その技術を……」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:19:05.84 ID:gAzXQP2O0

睦月「それでは今から患者・蒲原智美の術式を開始します。 メス」

   「はい!」スッ

睦月「……?」

睦月「…」

   「あっ、あの! もうちょっと手の位置低くしてくれないと手届きません!」

睦月「…うむ」

   「はい、メス!」

睦月「どうも」

睦月「あと誰か踏み台持ってきてくれますか?」

   「ダル……」



睦月(……行きます、先輩)

睦月「ウムァァァァッ!!」ヒュンッ

   「メ、メスを投げたッ!?」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:28:26.31 ID:gAzXQP2O0

   「いや、待って! メスに糸が付いてる!」

睦月「ウムァッ!」 ヒュッ パシッ

   「メスを投げて適所を切開、そして投げたメスを糸で回収なんて… ちょーすごいよー!」

睦月「四・五・六肋骨および胸骨切除ッ!」 ヒュンッ ヒュンッ

   「しかもすごいスピード…! メスを入れる箇所も的確!」

睦月「侵襲点到達! 人工心肺に切り替えッ! 五分で切除を終える!」

   「はっ、はいっ!」

   (これが…… これが津山睦月……!!)

――――――――――

蒲原「Zzz...」

睦月「先輩…二次感染が起きない限りは大丈夫です」

トシ「まさか本当に手術を成功させるとはねぇ… ウチの子にも見習わせたいものさね」

睦月「ふふ……」ニコッ



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:37:17.10 ID:gAzXQP2O0

睦月(先輩。最近は私もやっと自然に笑うことができるようになりました)

睦月(この笑顔はあなたがくれたものなんですよ?)



睦月「先輩。治ったら先輩はマンガを描いて何千万人の人に笑いを届けてあげるんですよね」

睦月「私、楽しみにしてますから。先輩のマンガを読むことを」

睦月「……そういえば先輩。いつか言ってましたよね? 笑えるのは高等な動物の証だって」

睦月「私も最近は、やっと高等な動物に近づいてきた気がします」ニッ


蒲原「うーん……むっきー……」モゾモゾ

睦月「先輩? …寝言か」

睦月「…先輩の手……」

睦月「…それじゃ、先輩。また会いましょう」ギュッ

――――――――――

ジリリリリリリンッ ジリリリリリリンッ

睦月「はい、津山。 ……何ですって!?」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:46:32.41 ID:gAzXQP2O0

――今しがた、あの患者が息をひきとりました!
   残念です…二次感染で高熱が出て……直接にはショック死です。

睦月「そんな……」

――それと、死の直前なんですが……。



        「蒲原さーん、ご飯の時間だよー」

     蒲原「…ワ」

        「ワ?」

     蒲原「ワ、ワーッハッハ! ワハハ、ワハ! ワハハ! ワーハハ!」

        「か、蒲原さん? どうしたのー?」


        「ねえシロー。なんか笑い声聞こえない?」

        「笑い声… …聞こえる」

        「すごく楽しそうな笑いだね。こっちまでおかしくなってくるような… ふふ」

        「…くっ、ふふっ…くす」

        「シ、シロまで笑ってるー!?」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:54:16.99 ID:gAzXQP2O0

     蒲原「ワハハ、ワハ…ゴホッ ワハハー! ワーハッハ、ワハハ!」

        「蒲原さんが笑ってるの、初めて見たよー。 …あはは、なんだかこっちまでおかしくなってきちゃうよー!」

     蒲原「ワハハー、ワハハ! ワーハハ、ハハ、ハ!」

         ワハハハ ワッハッハー ワハー
           ワハハ ワーハハ ワッハハー
        ワハハ     ワハハ    ワハハハー



――死期を悟ったのでしょうか。熱にうなされながら、急に大声で笑い始めたんです。
   笑い声はすごく明るくてスピーカーのように響きました。
   思わずつられて笑う看護師もいたり…療養所の外にまで響きわたり、鳥の声も一時中断するほどでした。

睦月「……」

――あんなに豪放で底ぬけた笑いを聞いたのは初めてです。
   笑い終えるとすぐに息をひきとりました。


   
――……津山先生、あなたのおかげで笑えたんです……。





 カン


元スレ
蒲原「ワハハー」 睦月「私につきまとわないでくださいっ!」