1: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:03:31.00 ID:h5BrssJP.net

「──ゆむ! ──っ!!」

(……わたしを呼ぶ声が……聞こえる?)

(あたまがぼーっとして……よくききとれない)

(……目もよくみえない……)

(どうしたんだろ……わたし……)

「────!! ──!!」

「────めです! ──さん!!」

(からだが……なんだか……さむい)

(……ねむい……や……)

「──!!」

「──歩夢ッ!!」


最後に耳に届いたのは、愛おしい子の声。

──私の意識はそこで途絶えた。



3: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:04:58.48 ID:h5BrssJP.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ピー ピー

歩夢「…………」

歩夢(……え?)

歩夢(ここ……どこ……?)


「え? 上原さん?」


歩夢「……?」

歩夢(視界がぼやける。知らない天井と、横から知らない人の声が、耳に届く)

歩夢(頭がぼーっとする)


「せ、先生! 上原さんが目を覚ましました!! 先生ー!!」 タッタッタッタ


歩夢「?」



6: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:08:25.40 ID:h5BrssJP.net





「よかった……よかった……!! 先生、本当にありがとうございます」

歩夢(泣きながらお医者様? に頭を下げるお母さん)

歩夢(私、病院にいるみたいだった)

歩夢(どこの病院だろ? というか私、なんでこんな所にいるんだろう?)

歩夢(同好会の皆は、どこ?)

歩夢(……分からないことが多すぎる……)

「それでは、今日の所は入院でまた明日検査しましょう。その結果で退院できる日も決められると思います」

歩夢母「分かりました」

「では、私はここで。あとはご家族でゆっくりして下さい。では、失礼します」


スタスタ


歩夢「……」



9: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:13:25.52 ID:h5BrssJP.net

歩夢「ねぇ、お母さん?」

歩夢母「へ? お母さんって……?」

歩夢「?」

歩夢「お母さんはお母さんだよね?」

歩夢母「え、えぇ……そうなんだけど……」

歩夢母「えっと……」

歩夢「?」キョトン

歩夢(お母さん、どうしたんだろう? すごく驚いてる。とりあえず、今の状況を聞かないと)

歩夢「ここ、病院だよね? どこの病院?」

歩夢母「お、お台場にある総合病院よ。あなた……事故にあって……数日間、意識がなかったの」

歩夢「へ……?」

歩夢(数日間も……? 事故!?)

歩夢「事故って……!」

歩夢母「車にぶつかったのよ……本当に目が覚めて良かった……」

歩夢「!!」

歩夢「お、お母さん!」

歩夢「侑ちゃんも巻き込まれてないよね!?」


歩夢母「え? 歩夢……」

歩夢母「ゆうちゃんって……誰? お友達?」

歩夢「──は?」



14: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:18:28.68 ID:h5BrssJP.net

歩夢「誰って……」

歩夢「侑ちゃんだよ? マンションの隣の部屋に住んでる高咲侑ちゃん! 私と幼馴染で、お母さんも侑ちゃんのお母さんと仲良しじゃん!」

歩夢母「高咲さん……? マンション?」

歩夢母「歩夢……本当にどうしちゃったの?」

歩夢母「私達の家はマンションじゃなくて一軒家だし、隣の家の人もそんな苗字じゃないわよ?」

歩夢「──え?」


お母さんから発せられた言葉は──信じられないものだった。


歩夢母「……記憶が混乱してるのかも……そうよね、起きたばっかりだもんね」

prrrrrr!! ピッ

歩夢母「もしもし上原です。──は、はい。娘は大丈夫──え!? トラブル? わ、分かりました。すぐに向かいます」

ピッ

歩夢母「ごめん、歩夢……私、お仕事行かなきゃいけなくなっちゃった」

歩夢「…………」

歩夢母「歩夢?」


その後のお母さんの言葉は覚えていない。
適当に返事をしてた気がするし、無反応だったかもしれない。

……侑ちゃんを……知らない?

嘘だよ。そんなの嘘だ。──嘘だよ!!



17: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:24:13.23 ID:h5BrssJP.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢(……お母さんのあの反応、嘘ついてるようには見えなかった)

歩夢(本当に……侑ちゃんを知らないみたいだった)

歩夢(それに……私が事故にあった?)

歩夢(記憶を整理しなきゃ……)

歩夢(私は、上原歩夢)

歩夢(虹ヶ咲学園に通う、普通科2年)

歩夢(スクールアイドルだ)

歩夢(メンバーの皆もちゃんと覚えてる)

歩夢(皆と、侑ちゃんと……スクールアイドルフェスティバルを無事に終わらせて)

歩夢(いつもの日々が戻ってきた。侑ちゃんも音楽科に無事転科できて……楽しい日々を過ごしていた。そして、スクールアイドルの練習をしてた。そして──)

歩夢「──ッ! あたま、いったい……っ!!」


急に頭が痛くなる。
ズキン、ズキンと──痛む。

頭が割れそう……!!



21: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:29:25.29 ID:h5BrssJP.net

落ち着くまでに、時間が掛かった。

でも、大丈夫。ちゃんと記憶はある。

歩夢「……侑ちゃん……せつ菜ちゃん……愛ちゃん……みんな……」

歩夢「!!」

歩夢(そ、そうだ! スマホ!! 数日間入院してたんだもんね!? 皆からメッセージが届いているはずだよ!) キョロキョロ

歩夢(あった! スマホ!)


ベッドの横にあるテーブルに置いてあった私のスマホ。
画面はバキバキだったけれど、電源は付いた。
そのまま急いで私はメッセージアプリを起動する。

歩夢(侑ちゃん……!)


きっと友達リストの一番上に侑ちゃんの名前が表示される。

──そう思っていた。


歩夢「へ……?」


そこに私のよく知る大好きなこの名前は──無かった。

歩夢「うそ……」

歩夢「なんで……?」

歩夢「侑ちゃんの名前も……同好会の皆の名前が……」

歩夢「ひ、一つもない……!!」


メッセージアプリに登録されている人は──お母さんだけだった。



25: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:33:44.08 ID:h5BrssJP.net

歩夢「みんなは……? かすみちゃんは……? せつ菜ちゃんも、愛ちゃんも」

歩夢「果林さんもエマさんも彼方さんもしずくちゃんも璃奈ちゃんも……」

歩夢「──侑ちゃんも!」

歩夢「な、なんで……名前がないの……!?」

歩夢「なんで……なんで……」

歩夢「なんでよ!! ──なんでよぉ!!」


ここは、どこ?

私は……上原歩夢?

もう、わけが分からなかった。

一軒家? 侑ちゃんがいない? 同好会メンバーの名前がひとつも登録されていない?

分からない。何もかも、分からなくて──怖い。

分からないことが多すぎて、怖くて震えが止まらない。

涙を流しながら、私は毛布に隠れるように包まり……夜を過ごした──。



27: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:38:10.17 ID:h5BrssJP.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜数日後〜

歩夢「……」

歩夢(無事に退院した私は、知らない家と上原歩夢の部屋で数日間過ごした)

歩夢(……殺風景な部屋だった。私が好きだった、侑ちゃんが小さい頃にゲームセンターで取ってくれたヘビとかのぬいぐるみも何も無く、好きだった可愛いお洋服も全然なかった)

歩夢(私の知らない部屋だった)

歩夢(そして、今日は5月10日)

歩夢(私が過ごしていた日々は……最後に認識していた季節は10月)

歩夢(制服も冬服に切り替わる衣替えの時期だった)

歩夢(でも……今は5月……わけが分からなかった)

歩夢(ただ、今はショックも受けない。泣き疲れてしまった)

歩夢(今日から……学校へ行くことになった)

歩夢(幸い、今の私が通っている学校は虹ヶ咲学園で、私がよく知る大好きな場所だった)

歩夢(学生証を見た時は、自分の知る唯一のものがそこに載っていて泣いてしまった)



29: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:43:21.81 ID:h5BrssJP.net

歩夢(そして……)

ピローン

歩夢「?」

─────────

お母さん:歩夢、今日から学校だよね?

お母さん:私は今日も遅くなっちゃうけど、気を付けて行ってきてね?

─────────


歩夢(……お母さんは、仕事ですごく忙しくて中々家にいない)

歩夢(私のよく知るお母さんは、仕事せず専業主婦だった)

歩夢(それに……お父さんはいなかった)

歩夢(私が小さい頃に亡くなったと聞いた……)

歩夢「……ほんと……」

歩夢「わけがわからないよ……」

歩夢「わたし……誰なの……?」



31: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:49:00.55 ID:h5BrssJP.net

歩夢「行ってきます……」


よく分からない家に挨拶をして、家を出る。

地図アプリを使って、学校までの道のりを検索し歩く。

髪がゆさゆさと揺れる。
いつものシニヨンが部屋に無く、使い古されたヘアゴムしか無かった。

何もセットしないのも気になったから、後ろで髪を一つ結びにする。珍しくポニーテールだ。

まぁ……学生証に載ってる私がポニーテールにしていたからそうしただけなんだけれどね。


スタスタ


……侑ちゃんに、会いたい。

どこにいるの? 侑ちゃん?

歩夢「……侑ちゃん……」ウルウル


泣きそうになる。
泣いたって意味が無いのはここ数日で痛いほど知ってるのに。

──そして、その時だった。

「よぉ」

歩夢「え?」

私のよく知るこの子の……同好会の子の声が耳に届いた。

愛「……」

歩夢「──!!」

目の前に、宮下愛ちゃんがいた。



37: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:53:25.64 ID:h5BrssJP.net

愛「……ひさ──」


バッ──ギュッ!!


私は気が付くと──愛ちゃんに抱きついていた。

愛「は? は……?」

歩夢「……愛ちゃんだ……愛ちゃん……!!」

愛「ちゃ、ちゃん!?」

歩夢「ひっぐ……! ぁぅ……っ……!!」ポロポロ

愛「え、えぇ……」

歩夢「ごめんね……急に泣いて……でも……でも……」

歩夢「愛ちゃんに会えて……嬉しくて……!!」ギュッ

愛「…………」

愛「──ッだぁぁぁぁああああ!!」

愛「や、やりづれぇよ!! とにかく早く離れてくれよ!」

愛「──上原!!」

歩夢「──え?」



41: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 22:57:56.21 ID:h5BrssJP.net

歩夢「うえ……はら?」

歩夢「上原!?」

愛「お前は上原歩夢だろうが!!」

歩夢「そ、そうだけど……」


愛『ちーっす! 歩夢! 今日も練習頑張ろーね!』

愛『歩夢と歩む! なんつって!』


愛ちゃんの声を思い出す。

今、なんて呼ばれた……?

う、上原!?


愛「だいたい! 愛ちゃんってなんだよ!」

愛「いつもみたいに宮下って呼べよ! やりづらい!」

歩夢「え、えぇ……」

愛「っち、退院したって愛トモに聞いたから決着付けに来たのに……なんなんだよマジで」

歩夢「……」ポカーン

愛「たく……そんじゃ、決着つけようぜ」

歩夢「け、決着って何の!?」

愛「は?」



47: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 23:09:31.64 ID:h5BrssJP.net

愛「お前……本当に大丈夫なのか?」

歩夢「……だ、大丈夫じゃないと思う……」

愛「……」

愛「ちっ」

愛「……出直す」

歩夢「え、えぇ!?」

歩夢「が、学校は!?」

愛「……お前本当に大丈夫か? 行かねーっつの」

歩夢「……」

愛「まぁ、気を付けた方がいいぞ」

愛「お前とケンカしたい奴は、山ほどいるんだからな」



54: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 23:17:52.49 ID:h5BrssJP.net

〜虹ヶ咲学園 校門〜

スタスタ

歩夢「……」

歩夢(わ、わけがわからないよぉ……!!)

歩夢「け、ケンカって何!?」

歩夢「わけがわからないよぉ!!」


ザワザワ


歩夢「あっ」

「え……?」

「ど、どうしたのあの人……」

「というかあれ……狂犬の上原歩夢さんじゃない」

「え? あの不良の……?」

「学校来たんだ……」


歩夢「!!」

歩夢「っ……!」 バッ


タッタッタッタ!!


歩夢(わかんない……わかんない……わかんない!!)



62: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 23:33:39.29 ID:h5BrssJP.net

歩夢「はぁ、はぁ」

歩夢(適当に走って来ちゃって……)

歩夢「──!!」

─スクールアイドル同好会─

歩夢「あっ……!」

歩夢(同好会のプレート……!)

歩夢「って事は……同好会はあるんだ!」

歩夢「……」

歩夢(でも……愛ちゃんみたいに……)

歩夢「っっ!」

歩夢(……怖がるな、歩夢)

歩夢(怖がったって、何も変わらない)

歩夢(自分で、歩み始めるんだ)

歩夢(……中に、入ろう)


私は同好会の部室をノックする。

反応は無し。鍵は、開いてる。

歩夢「……」ゴクリ

歩夢「失礼します」



66: 名無しで叶える物語 2021/05/12(水) 23:59:04.60 ID:h5BrssJP.net

スタスタ

歩夢「……」

歩夢(誰も……いない?)

キョロキョロ

歩夢「!?」

「スヤスヤ……」

歩夢「え……?」

歩夢「あっ……!」

歩夢(あのソファで寝てる人は……ブランケットに包まっている人は……!)

タッタッ!

歩夢「あ、あの! 彼方さ──」

歩夢「へ?」


しずく「……すぅ……すぅ……」

歩夢「しずく……ちゃん?」

しずく「……ん〜?」

しずく「……」ポー ウトウト



70: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 00:05:33.61 ID:k3V/uw6w.net

しずく「ふわぁぁぁ……」

しずく「ん〜……」

しずく「誰?」

歩夢「えっ、えっとぉ……」

歩夢「わ、私はその……」

しずく「……」

しずく「!?」

しずく「う、上原歩夢さん!?」ガタッ

歩夢「う、うん……」

しずく「え、えぇ……」

歩夢「……」



74: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 00:16:30.67 ID:k3V/uw6w.net

しずく「……」

しずく「──まぁ、とりあえず。座りません?」

しずく「あとなにか飲みますー?」

歩夢「え?」

歩夢「い、いいの……?」

しずく「だって」

しずく「なんかよーじがあったから来たんですよね?」

しずく「ならお客様じゃん」

しずく「座って座って〜」

歩夢「!!」パァァァァ

歩夢「うんっ!」ニコッ

しずく「」ポカーン

歩夢「ん?」

しずく「上原歩夢さん……ですよね?」

歩夢「うん」コクリ

しずく「……」

しずく「ふふっ」クスクス

しずく「ようこそ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ」ニコッ

歩夢「!! ──うん!」



76: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 00:27:31.32 ID:k3V/uw6w.net

しずく「あたしの名前は桜坂しずく。1年生でーす」

歩夢「……うん。よろしくね」

歩夢(やっぱり、私のよく知るしずくちゃんとは違う)

歩夢(でも……愛ちゃんもしずくちゃんも)

歩夢(見知った顔の子が目の前にいるのは)

歩夢(嬉しいや……)

しずく「でも、こんな幽霊部員ばかりの同好会に何の用事があったんです?」

歩夢「えっと……」

歩夢「誰かいるかなって思って……」

しずく「え、えぇ……」

しずく「そんな理由で授業中のこんな時間にここ来たんですか?」クスクス

歩夢「あっ……」

歩夢(そっか……もう授業始まっちゃってるのか……)

しずく「上原さんって面白い人なんだね。全然不良じゃないじゃん」

歩夢「……しずくちゃん」

歩夢「歩夢って呼んでほしい……」

しずく「え? わ、わかりました」

しずく「なら歩夢さんでいきますね。あたし後輩だし」ニコッ

しずく「よろしくね、歩夢さん」

歩夢「──うん!」ニコッ



79: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 00:37:24.82 ID:k3V/uw6w.net

歩夢「しずくちゃん。私、スクールアイドル同好会に入りたいの」

しずく「え!? マジっすか!?」

しずく「やー、部員が増えるのは嬉しいですけど……本当ここは幽霊部員しかいないよ?」

歩夢「……それでも、入りたい」

しずく「……わかった」

しずく「まぁ、部員が増えたら部費も増えるし……あたし達的には嬉しいし大歓迎ですからね」

しずく「とりあえず部長のかな姉に話しないとだねぇ」

歩夢「か、かな姉?」

しずく「あっ、ごめん。部長の近江彼方さんの事だよ」

歩夢「彼方さんが部長……?」

しずく「え、うん」

しずく「知ってるの? かな姉のこと」

歩夢「……うん」

しずく「そーなんだ」

歩夢「他の部員メンバー……教えてもらっていい?」

しずく「いーよ」



84: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 00:52:38.43 ID:k3V/uw6w.net

しずく「まずは部長の近江彼方さん」

しずく「そしてあたし桜坂しずくと、その同級生の中須かすみ」

歩夢(かすみちゃんもちゃんといるんだ! よかった)

しずく「以上っす」

歩夢「え?」

歩夢「さ、3人だけ?」

しずく「うん」

歩夢「……優木せつ菜ちゃんは?」

しずく「え?」

しずく「誰……?」

歩夢「……ううん。なんでもない」

しずく「虹ヶ咲の生徒?」

歩夢「……うん。多分」

しずく「た、多分?」


驚くよね、しずくちゃん。
申し訳ない気持ちはある。初対面の子に、不良と呼ばれている私からこんな対応されたら困るのは分かる。

──でも、気を遣える余裕はなかった。


しずく「ウチの生徒なら、生徒会長の中川菜々生徒会長にきーてみれば? 全生徒の名前を覚えてるって言ってるし」

歩夢「!! ──菜々ちゃんはいるんだね!?」

しずく「う、うん。てか歩夢さんも虹ヶ咲学園の生徒なんだし知ってるっしょ?」

歩夢「あっ……うん。ごめん」

しずく「……まっ、あんまり深くは聞かないよーにするよ。色々事情がありそうですし」

歩夢「!!」

歩夢(しずくちゃん……優しいなぁ)

歩夢「……ありがとう」ニコッ

しずく「ん。気にしないで〜。ゆったりまったりがあたしのポリシーなんでね」



86: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 01:06:20.72 ID:k3V/uw6w.net

歩夢「それにしても、エマさんも同好会メンバーじゃないんだ……」ボソボソ

歩夢(後でエマさんの事も菜々ちゃんに聞いてみよ)

歩夢「しずくちゃん、最後に聞いていい?」

しずく「いいっすよ〜」

歩夢「高咲侑ちゃんって子も……知らないよね?」

しずく「? うん、ごめん。知らないよ」

歩夢「……わかった。ありがとうね」

しずく「はいはい〜」

しずく「ふわぁぁぁああ……色々話してたら眠くなってきちゃったよ」

歩夢「そう言えばしずくちゃん。授業は参加しなくていいの?」

しずく「へ?」

しずく「あー、今日の午前中は自習だからね」

しずく「早々に課題終わらせて、絶賛おサボり中だよ」

歩夢「そ、そうなんだ」

歩夢(真面目なのか真面目じゃないのか分からないなぁ……)

しずく「……ごめん、歩夢さん。すやぴしていい?」

歩夢「うん。いいよ」

歩夢「ふふっ、なんかしずくちゃん彼方さんみたいだね」ニッコリ

しずく「……まぁ、あの人見て過ごしてきましたからねー」

歩夢「え?」

しずく「あたしとかな姉は幼馴染なんだよね」

しずく「……妹の遥も同じで……あたしの親友」

歩夢「え? 幼馴染?」

しずく「うん」

歩夢(しずくちゃんって鎌倉に住んでるんじゃなかったっけ?)

しずく「……かな姉……昔は今のあたしみたいな感じだったのになぁ」ボソッ

歩夢「ん? しずくちゃん何か言った?」

しずく「いーえ、なんでもないよ〜」

しずく「それじゃあ、ごめん」

しずく「おやすみなさい……すやぁ……」zzz



89: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 01:12:56.43 ID:k3V/uw6w.net

私の知らない世界。

ここはどこなの? わけが分からなかった。

けど、愛ちゃんはいた。しずくちゃんもいた。他のメンバーの名前も聞けた。

怖い気持ちがないと言えば、嘘になる。
私が過ごした日々はどこに行ったのか考えると、震えが止まらない。

──でも、立ち止まっていてはいけない。立ち止まったって、何も始まらない。
自分で、歩むしかないんだ。


今の気持ちはただ一つ。侑ちゃんに会いたい。

例え今の侑ちゃんが……私を知らなくたって……あなたの顔が見たい。

──侑ちゃん、私……絶対にあなたを見つけるから。

だから──私に勇気を下さい。



93: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 01:30:48.80 ID:k3V/uw6w.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

愛「ってな感じで、上原のやつ全くの別人になってたんすよね」

愛「どー思います?」

愛「エマさん」

エマ「…………」


──ここは上原歩夢の知らない世界。


かすみ「みなさーん! 可愛いかすみんがぁ〜来ましたよ〜?」

かすみ「……いや、違うな」

かすみ「もっと声のトーンをあげて、指の位置も頬に近くする。……そうした方が可愛いね。……よし、もう少し練習しよう」ブツブツ


──彼女のよく知る同好会メンバーも、この世界には存在する。


彼方「…………」カキカキカキカキ

彼方(よし、この授業の内容も昨日復習したからバッチリだ。……もう少し先の内容も予習できそう)

彼方(……勉強しなきゃ……もっともっと……もっともっともっと……!)


──しかし、生き方が一緒とは限らない。


璃奈「……ふふ、ふふふふ……!」ニコニコ

璃奈「よしよし……この開発が上手くいけば……!」

璃奈「ふっふっふっふ……!!」カタカタカタカタ


──少しの運命の歯車のズレ。それが生き方を左右させ、別の人生を歩む事もある。


果林「わぁ……!!」

果林「ここが虹ヶ咲学園……!」

果林「おっきい校舎……!!」キラキラ


──ここはそんな世界。上原歩夢の知らない世界。

──歩夢は高咲侑を探すために、歩み始める。



98: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 01:35:36.17 ID:k3V/uw6w.net

【Members walking together】

【NEXT】

【中須かすみ】



123: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 21:42:04.72 ID:k3V/uw6w.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


しずくちゃんが寝てしまった為、私は彼女にブランケットをかけ、部室を出る。

教室に戻る為に廊下を歩くが、とても静かだ。

──それもそうだ。今は授業中だし。

1限目の授業中に戻るのは、勉強している子達に申し訳ない。適当に校舎内を探索して時間を潰すことにした。

虹ヶ咲学園は、私のよく知る学園と変わりなかった。
皆とよく練習した広場や、せつ菜ちゃんが歌った屋上。よく知る景色がそこにあった。


歩夢(ついこの前まで見てたのに、なんだか懐かしい気分)


──そして、耳にチャイムの音が届く。1限が終わったみたい。


歩夢(授業サボるのなんて、人生で初めてだなぁ)

歩夢(侑ちゃんに言ったら……なんて言われるかな?)

歩夢「……会いたい……」

歩夢「侑ちゃんに……会いたい……」


自分の気持ちを抑えることができず、呟いてしまう。


歩夢(……教室に戻ろう)

歩夢(授業は受けなきゃ)


スタスタスタスタ







125: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 21:52:28.32 ID:k3V/uw6w.net

2限目から教室に戻り、席につく。


ザワザワ、ザワザワ

歩夢「……」

歩夢(うぅ……すごく注目されてる……)


「う、上原さん……教室にいるの珍しくない?」

「しっ! 聞こえるって……!」

「なにかされないか心配なんだけど……」

「だから聞こえるって言ってるでしょ!!」

「アンタが一番声でかいっての」


ザワザワザワザワ


歩夢「……」

歩夢(教室、居づらいなぁ)

歩夢(ねぇ、今の私……上原歩夢は)

歩夢(どんな子だったの? そんなに不良だったの……?)

歩夢(知りたいけれど、知るのが怖い気持ちもある)

歩夢(早く、放課後にならないかなぁ)



127: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 22:04:29.72 ID:k3V/uw6w.net

地獄の授業を過ごし、一日が終わる。

ちなみに授業自体が地獄だというわけではなく、周りからのヒソヒソ話が耳に届いてしんどかった。
授業の内容は、知っている内容だった。それもそうだ。今は5月。私の最後の記憶は10月。もう習った内容だった。

歩夢(毎日予習復習してたから、簡単に思えちゃった)

歩夢(……侑ちゃん、ちゃんと勉強してるかなぁ)


窓から外の景色を見ながら、今の侑ちゃんが何をしてるのか考える。

そんな風に物思いに耽ていると、帰りのホームルームが始まる。


「えー、ホームルーム中ですが……。本日、中川生徒会長からリモートで全生徒に伝えたい内容があるとの事です。各自机のタブレットで今から送信するメールアドレスからに乗ってるURLからアクセスして──」

歩夢「!!」


ホームルーム中の先生に声に反応し、教室がざわつく。めんどくさい、早く帰りたい。可愛い生徒会長を見れるからいいじゃん。どんな内容なのかな? 等々、クラスメイトの皆がそれぞれ反応する。


歩夢(菜々ちゃんが見れる!)


一方、私もドキドキする気持ちを抑え、机のタブレットを急いで操作する。



129: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 22:25:52.08 ID:k3V/uw6w.net

歩夢(よし、URLあった……アクセスもできた!)


虹ヶ咲学園の生徒だけがアクセスできる動画サイトに入る。

生放送だろうか? 講堂の中心部がタブレットに映る。演説台が見える。

そして、誰かの足音がマイク越しに耳に届く。
誰かは知っている。先生が仰っていた。


歩夢(菜々ちゃん……!)


タブレットの画面に中川菜々ちゃんが現れる。

──しかし、そこに現れたのは私が知る中川菜々ちゃんではなかった。


歩夢(え?)

歩夢「せつ菜ちゃん……?」ボソッ


綺麗な真っ直ぐ伸びたロングヘアーの子が映る。
三つ編みはされていない。メガネもかけていない。私が知る中川菜々ちゃんではなく、制服に身を包んだ優木せつ菜ちゃんがそこにいた。



菜々『……』

菜々『あー、あー』

菜々『マイク、大丈夫ですか?』



130: 名無しで叶える物語 2021/05/13(木) 22:32:12.59 ID:k3V/uw6w.net

菜々『ん、大丈夫みたいですね』

菜々『それでは……これよりリモート集会を始めます』

菜々『……』スッ


歩夢(え?)

歩夢(め、メガホン……?)


菜々『──』スゥゥゥゥ

菜々『皆さぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!』

菜々『こんにちはぁぁぁぁぁあああああああ!!』ペカー


──キィィィィィィィイイイインッ!!


歩夢「!?!?!?」ビクッ!!



137: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 00:46:16.81 ID:VSTq6p1j.net

歩夢(耳、いったぁ……!!)

歩夢(すっごいハウリングしてるよ!?)


菜々『あ、あれ? 思いの外、変な感じになっちゃいましたね?』

『当たり前でしょ!? マイクとメガホンの音重ねる、おバカがどこにいるんですか!!』

菜々『ひぃ!! そんなに怒らないで下さいよ副会長!!』

菜々『真面目にやりますから!』

菜々『──さっ! それではいきますよー!』ペカー


「え? え? なに今の!?」

「めっちゃでっかい音だったねぇ……やっぱり中川生徒会長は面白いね〜」

「あれ? 音がよく聞こえないんだけど?」


ザワザワ、ザワザワ


歩夢「……」

歩夢「……ぷっ」

歩夢「あっははは!」ニッコリ

「!?」「!!」「!?」

歩夢「はぁ……せつ菜ちゃん」

歩夢「変わらないなぁ」ニコニコ

「「「……」」」



140: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 00:57:43.13 ID:VSTq6p1j.net

〜生徒会室 前〜

歩夢「……」

歩夢(放課後、私は生徒会室の前に来た)

歩夢(エマさんの事や、もしかしたら学校内にいるかもしれない侑ちゃんの事も聞きたいし)

歩夢(せつ菜ちゃんと、話がしたい)

歩夢「……」ドキドキ

歩夢(急に来ちゃって大丈夫だったかな? アポ取りとか必要だったかな!?)

歩夢(今になって心配になってきたよぉ〜!)

「どうしたんですか?」

歩夢「ひゃあっ!!」ビクッ!!

菜々「ひゃ、ひゃあ!?」

歩夢「はぁ、はぁ……ビ、ビックリした……」

菜々「……」

菜々「……いいです……」

歩夢「え?」

菜々「すっごく声がかわいいです!!」

歩夢「!?」



142: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 01:09:17.32 ID:VSTq6p1j.net

菜々「まるでアニメのキャラみたいでした!」ギュッ

菜々「あなた、普通科2年の上原歩夢さんですよね!?」

菜々「かなり素行が良くない人だという印象でしたが、だいぶ落ち着きましたね!? まるで別人の精神が入っているかのようです!」

菜々「ただ、あの荒れてたあなたからのギャップが素晴らしいですね!」

菜々「ギャップ萌えです! 是非ともその力を虹ヶ咲学園の楽しい学校活動に活か──」

歩夢「ち、近い! 近いよぉ!////」カァァァァァ

菜々「あっ、ごめんなさい。ついテンションがあがってしまいました」ペカー

歩夢「もう……」



143: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 01:14:06.75 ID:VSTq6p1j.net

菜々「それで、上原歩夢さん。生徒会室に何か御用ですか?」

歩夢「あっ、えっと……その、せつ菜ちゃんに──」


バンッ!!


歩夢「!?」

菜々「……」

菜々「い、いま……なんて言いました……?」

歩夢「え? その……せつ菜ちゃんって」

菜々「な、なななななな……!!///」

菜々「!!」キョロキョロ

菜々「ちょ、ちょっと中に入ってください!!」ギュッ

歩夢「え、えぇ!?」


ガチャン!!

菜々「……よし、誰もいない。皆さんも戻ってこない……」

菜々「……上原歩夢さん」

歩夢「は、はい」

菜々「……なぜ」

菜々「なぜ私の裏垢名を知ってるんですか……!?」

歩夢「う、裏垢!?」



145: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 01:22:30.77 ID:VSTq6p1j.net

菜々「あぁ……だ、誰にもバラしたことなかったのに……!!」

菜々「な、なぜあなたが知ってるんですか!?」

歩夢「せつ菜って裏垢名なの?」

菜々「へ?」

歩夢「……」

菜々「……」

菜々「し、知らなかったんですか?」

歩夢「う、うん」

菜々「……で、ではなぜせつ菜と……?」

歩夢「な、なんとなくかなぁ」

歩夢(本当は菜々ちゃんって呼ぼうとしたのに間違えちゃったことは言わないようにしよう)

菜々「っ〜〜〜〜〜!!///」

菜々「い、いま聞いた裏垢名がせつ菜という情報は忘れて下さい!!」プイッ

歩夢「う、うん。忘れるね。知られたくないことは人間誰にもあるもんね……」

菜々「え? は、話が分かる方ですね……! 私はあなたを誤解していました……!」

菜々「上原歩夢さん、優しいじゃないですか! 感謝です!」

歩夢(お礼されるような事一切してないんだけど……)



147: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 01:32:26.80 ID:VSTq6p1j.net

歩夢「ただ、その」

歩夢「上原歩夢って呼び方は、やめてほしいかも……」

菜々「え? あぁ、そうですね。ごめんなさい」

菜々「全生徒の名前はフルネームで覚えているので、つい」ペカー

歩夢「えっと。良かったら歩夢って呼んでほしいかな」

菜々「え? は、はい」

菜々「……」

歩夢「?」

菜々「あなた、本当にあの虹ヶ咲学園の狂犬と呼ばれていた歩夢さんなんですか?」

菜々「あまりにも様子が……」

歩夢「…………」

菜々「……まぁ、何かあったんでしょう。あなたが真面目になったのなら生徒会長として喜ばしい限りです」

菜々「さ、話がだいぶ逸れてしまいましたが、何か用事があったんですよね?」

歩夢「うん」

歩夢「聞きたいことがいくつかあって……」

菜々「聞きたいこと?」



150: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 01:45:16.46 ID:VSTq6p1j.net

歩夢「虹ヶ咲学園の生徒について聞きたいことがあって」

歩夢「まずは、エマ・ヴェルデさんの事について聞きたいの」

菜々「え、エマさんについてですか!?」

歩夢「そ、そんなに驚く?」

菜々「いやだって……エマさん、虹ヶ咲学園ではとっても有名な方なので……」

歩夢「そ、そうなの?」

菜々「虹ヶ咲学園で一番の不良でその親玉として有名です」

歩夢「」

菜々「あの宮下愛さん等の不良集団もエマさんに付いているみたいです」

歩夢(え、えぇ……)

菜々「ただ、私が1年生の頃はエマさんは真面目で普通の方だったんですよね」

菜々「気がつけば不良の方々から崇拝される人になり、親玉になってたんです」

菜々「何があったんでしょうね」

菜々「今も誰とも喧嘩していませんし……。むしろあなたと宮下愛さんの方が沢山喧嘩していましたからね」

歩夢「……」



158: 1 2021/05/14(金) 07:49:37.26 ID:i5wz8nr8.net

歩夢「ありがとう、菜々ちゃん」

歩夢「あともう一人聞きたい子がいてね」

菜々「なんでしょう?」

歩夢「高咲侑ちゃんって、虹ヶ咲学園にいる?」

菜々「高咲……侑?」

菜々「申し訳ございません……存じ上げませんね。全生徒覚えていますが、その方は虹ヶ咲学園の生徒ではありませんね」

歩夢「……そっか」

歩夢「分かった……」

歩夢(侑ちゃん、他の学校の生徒なのかな?)

歩夢(もしかしたら、お台場に住んでいないかも……)

菜々「歩夢さん? 歩夢さーん?」

歩夢「!? な、なに?」

菜々「大丈夫ですか? なんだかすごく悲しそうな目をしてたので……」

歩夢「あっ……ごめんね。大丈夫」

菜々「……そうですねぇ」

菜々「私、結構他校にも知り合いがいるので」

菜々「その方々にも高咲侑さんって子を知らないか聞いてみますよ」

歩夢「ほ、ほんと!?」

菜々「えぇ」ニコッ

菜々「生徒会長足るもの、生徒の為に動く事は当然の事です」

菜々「真面目になった歩夢さんへのご褒美でもあります!」

歩夢「あ、ありがとう! せつ菜ちゃん!」

菜々「菜々です!!」

歩夢「──あっ、ご、ごめん……あはは」

菜々「全くもう……」



161: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 08:05:48.84 ID:i5wz8nr8.net

歩夢「本当にありがとうね。菜々ちゃん!」

歩夢(侑ちゃんを探す為の手がかりになりそう! 本当に助かるなぁ)

prrrrrr!!

菜々「あっ、ごめんなさい。私のスマホですね。ちょっと電話出ますね?」

歩夢「うん」コクリ

ピッ

菜々「もしもし。──はい。ええ、大丈夫です。この後の生徒会活動が終わったら帰りますよ。はい! もう、そんなに心配しないでください、大丈夫ですから。──うん。ではまた」

ピッ

菜々「ふぅ、ごめんなさい。話を折ってしまって」

歩夢「お母さん?」

菜々「はい!」ペカー

歩夢「そっか」ニコッ

歩夢「時間使わせちゃってごめんね? 私もそろそろ部活に行くよ」

菜々「部活? 歩夢さん、何かの部活に入ったのですか?」

歩夢「まだ正式な入部はしてないけれど、スクールアイドル同好会に……」ニコニコ

菜々「スクール……アイドル?」

歩夢「うん!」

菜々「へ〜、意外ですね。私はスクールアイドルについてはよく知りませんが、応援してます」ニッコリ

歩夢「──え?」

歩夢「菜々ちゃん、スクールアイドル……好きじゃないの?」

菜々「はい? 好きじゃないというよりも」

菜々「単純にあまり興味ありませんね」

歩夢「」

菜々「今は生徒会の活動が楽しいですし! 勉強もしなければいけませんので!」ニコッ

歩夢「…………」

菜々「歩夢さん? 歩夢さーん?」


信じられなかった。

せつ菜ちゃんが……スクールアイドルに興味がない……?



162: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 08:17:43.64 ID:i5wz8nr8.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

歩夢「……」

歩夢(ショックだった)

歩夢(せつ菜ちゃんが……スクールアイドルじゃないし、興味もないなんて……)

歩夢(私の憧れのせつ菜ちゃんが……大好きなライバルのせつ菜ちゃんが……)

歩夢(ここにはいないの……?)


せつ菜『歩夢さん!』

せつ菜『始まったのなら、貫くのみです!』


歩夢「っっ……!!」

歩夢(泣くな、上原歩夢。泣いちゃダメ)


せつ菜ちゃんから言われた言葉を思い出す。

あの時、せつ菜ちゃんが背中を押してくれたから──私はスクールアイドルとして、一歩成長する事が出来た。

侑ちゃんとも仲直り出来た。

私がスクールアイドルになるきっかけを作ってくれたせつ菜ちゃんが……ここにはいないの?


歩夢「……」

歩夢「……っ……!!」ポロポロ


気が付くと私は涙を流していた。ダメだ、我慢できないや。
周りに誰かいるかなんて、分からない。そんな事気にする余裕がなかった。

歩夢「……ひっぐ……ひぐ……っ、……!!」ポロポロ

歩夢(せつ菜ちゃん……!)




スタスタ ──ピタッ


「!?」ビクッ

「…………」

「……」

スタスタ



164: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 08:22:48.53 ID:i5wz8nr8.net





〜同好会部室前〜


─スクールアイドル同好会─

歩夢「……」

歩夢(切り替えなきゃ)

歩夢「……よし」

歩夢「侑ちゃん……私、頑張るよ」


自分を鼓舞するように、侑ちゃんの名前を呟く。
心が折れてはダメだ。

歩夢(せつ菜ちゃんだって、スクールアイドルに……この後興味を持ってくれるかもしれない。だから、頑張らなきゃ)

歩夢「よし!」

歩夢(部室に入ろう)


ノックを3回する。中からしずくちゃんのどうぞーという声が聞こえる。


歩夢(これが私の、夢への一歩)

歩夢「失礼します」

ガチャ



165: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 08:28:37.53 ID:i5wz8nr8.net

パンッ!! パーン!!

歩夢「へ!?」ビクッ!!


突然耳に届く大きな音。そして、足元に散らばるリボン。


歩夢(く、クラッカー!?)

しずく「ようこそ!」ニコニコ

かすみ「スクールアイドル同好会へー!」ニコニコ

歩夢「」ポカーン

しずく「いやぁ、待ってましたよ〜?」

かすみ「しずくから聞きましたよ? 新しく入部してくれる人が来──」

歩夢「あ、あはは」ニコニコ

かすみ「──は?」

歩夢「え?」

かすみ「……」ジー

歩夢「?」

かすみ「……しずく」

しずく「どしたん?」

かすみ「ちょっとこっち来てッ!!」ガシッ

しずく「へ!?」

タッタッタ!!



167: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 08:35:36.97 ID:i5wz8nr8.net

かすみ「この人、虹ヶ咲学園の狂犬、上原歩夢さんじゃない!」

しずく「え? そうだよ? 言ってなかったっけ?」

かすみ「聞いてないって!」

しずく「あっ、そっかごめーん。今日からスクールアイドル同好会に入部する上原歩夢さんだよ〜」ニコッ

かすみ「は? は???」

かすみ「冗談だよね?」

しずく「冗談でわざわざ昼休みにクラッカー買いに行く〜?」

かすみ「……」


歩夢「……」

歩夢(すっごいヒソヒソ話されてる……まぁ、仕方ないか……)


かすみ「……ちっ」

しずく「舌打ちすんなって。可愛い顔が台無しだよ〜?」

かすみ「うっさい。私が可愛いのは当たり前でしょ」

スタスタ

かすみ「えっと、上原先輩?」

歩夢「あっ、は……はい」

かすみ「お引き取りいただけますか?」ニコッ

歩夢「──え?」


しずく「は?」



179: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 22:39:51.89 ID:VSTq6p1j.net

しずく「何考えてんのかすみ! 入部希望者の人に!」

かすみ「しずくこそ何考えてんの!?」

かすみ「この人は、不良だよ!?」

かすみ「そんな人が急にスクールアイドル同好会に入りたいなんておかしいでしょ!」

歩夢「わ、私は! 本当にスクールアイドルになりたくって!」

かすみ「はっ!! どうせ思い付きですよね?」

かすみ「なんです? 何かスクールアイドルの動画でも見て、感化されたんですか?」

かすみ「でもですね。私はあなたの入部、認めませんから!」プイッ

しずく「なんでそんな酷いこと言うのさ! なりたいって言ってんだから、入れてあげればいいじゃん!」

かすみ「触らぬ神に祟りなしって言葉があるでしょ!? この人を入部させて、この人を狙う人とかに……しずくとか彼方先輩が巻き込まれたらどーすんのさ!!」

しずく「っっ……! 心配してくれてるのは嬉しいけど──心配し過ぎだって!」

歩夢「…………」



182: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 22:48:30.82 ID:VSTq6p1j.net

かすみ「まぁ、そういう事です。上原先輩。もう一度言いますが、お引き取りいただけますか?」ピシッ

かすみ「だいたい、不良でケンカばかりしているあなたがスクールアイドルになりたいって言っても、信用できません」

かすみ「部室から出て行ってください」プイッ

歩夢「……」

歩夢「わかった」

かすみ「……聞き分けがよくて──」

歩夢「そうだよね。不良の私がスクールアイドルになりたいって言っても、信用出来ないよね?」

かすみ「は?」

歩夢「でも、私……スクールアイドルになりたいの」

歩夢「だから、かすみちゃんに信用してもらえるように頑張る。ケンカも絶対にしない。もう、悪いこと絶対にしないから」

歩夢(そもそも……今の私じゃケンカなんて怖くて出来ないけど)

かすみ「ッ!! そういう事じゃ──」

歩夢「私、本気だから」

かすみ「っ!」

しずく「歩夢さん……」

歩夢「……」

歩夢(かすみちゃんから拒絶されるの、本当はすごく辛い)

歩夢(けど、このかすみちゃんも)

歩夢(絶対に優しくっていい子だ。しずくちゃんと彼方さんを守る為に、体を張ってくれてるんだ)

歩夢(だってかすみちゃん……さっきからずっと身体震えてるもん。怖いのかもしれない)

歩夢(二人のために……ありがとうね。かすみちゃん。今の私がこんなことを考えるのは、おこがましいかもだけど)



184: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 23:09:49.99 ID:VSTq6p1j.net

かすみ「……っ」

かすみ「そんなにスクールアイドルになりたいなら、勝手になればいいじゃないですか! なんでわざわざ同好会に入りたいんですか!」

歩夢「そ、それは」

歩夢「……皆とまた一緒にいたいから……」ボソッ

かすみ「なっ!?」

かすみ「話した事もないのに何言ってんですか!」

歩夢「……ごめん」

かすみ「──っ、大体!」

しずく「だあああああああああッ!!」

歩夢「!?」

かすみ「!?」

しずく「──少し落ち着けかすみ!!」

かすみ「……」

しずく「歩夢さんがこう言ってるんだから、見てあげようよ」

しずく「少しもチャンスをあげないまま絶対に認めないってのは、意地悪だよ」

かすみ「!!」

かすみ「……わかりました」

かすみ「どうせ変わらないと思いますけどね」プイッ

歩夢「!! ありがとう、かすみちゃん。私、本気だから。見ててね」ニコッ

かすみ「!?」

かすみ「……ふんっ!」



188: 名無しで叶える物語 2021/05/14(金) 23:23:47.97 ID:VSTq6p1j.net

しずく「あっ、そーだ歩夢さん!」

しずく「ちょいちょい〜。こっち来て?」

歩夢「え? うん」

しずく「連絡先、交換しよーよ!」

歩夢「!!」

歩夢「い、いいの?」

しずく「え? 当たり前じゃん」

しずく「あたしは歩夢さん大歓迎だし」

しずく「かな姉も入部していいよって連絡来てたよ?」

かすみ「なっ!! ──たくっ、本当にこの能天気コンビは……!!」

歩夢「……」

しずく「まぁ、でも……かすみがあたし達を心配してくれてる気持ちも、正直ありがたいと思ってる。この子の気持ちも蔑ろにしたくない。だからさ、歩夢さん」

しずく「かすみに認められるように、頑張ってね!」

しずく「あたし、見てるからっ」ニコッ

歩夢「しずくちゃん……」

かすみ「……ちっ」

しずく「だから舌打ちすんなって〜。ごめんね歩夢さん、あたしの旦那が」ニコニコ

かすみ「誰が旦那だ!!」

歩夢「……ふふっ、二人は仲良しさんなんだね」

しずく「もち!」

かすみ「…………」プイッ

歩夢「──2人とも、ありがとう」

歩夢「私、頑張るから!」



192: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 00:15:03.65 ID:LHLDsnsA.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「行ってきます!」


お母さんは今日もいないけれど、挨拶をして家を出る。
かすみちゃんに認めてもらえるように、頑張らなきゃ。そう思うと自然と、力が湧いてきた。

困難かもしれない。みんなの様子を見て分かるように、私は相当悪い子だったのかもしれない。信頼してもらえるのに、時間は掛かると思う。けど、頑張らないと!

歩夢「よーし」グッ

歩夢(まずは、クラスのみんなから認めてもらわないと。どうやっ──)

スタスタ

愛「……よぉ」

歩夢「!! 愛ちゃん」

愛「だから愛ちゃんって呼ぶなって……」

愛「まぁもういいや。──昨日ぶりだなぁ、上原」

歩夢「……もしかして、ケンカのお誘い?」

愛「おっ? 話が早いじゃん。やっと調子戻って──」

歩夢「やらないよ」

愛「は?」

歩夢「私、もう二度とケンカしない」

歩夢(した事ないけど……前の私はしてたみたいだし、ハッキリ言わないとダメだよね?)

愛「な、なんでだよ! 本当お前どうしたんだよ!!」

歩夢「スクールアイドルになりたいから」

愛「は? はぁ!?」

愛「す、スクールアイドル!?」

歩夢「うん。だから、不良もやめる」

愛「」ポカーン



195: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 00:37:27.13 ID:LHLDsnsA.net

愛「ふ、ふざけんなよ!!」

歩夢「ふざけてないもん」

愛「……」

歩夢「それに、愛ちゃんとケンカ自体したくないし」

愛「は、はぁ!? 今更何言ってんだよ!!」

愛「アタシとお前がどんだけ──」

歩夢「愛ちゃんとは、友達でいたいもん」

愛「!?」

愛「は、はぁ!?///」

愛「上原お前、何言って──」

歩夢「その上原って言うのも……やめてほしいかな……」

歩夢「じゃあ、私は学校行くから」

歩夢「またね、愛ちゃん」フリフリ

スタスタ

愛「……」

愛「……わ、わけわかんねぇ……」

愛「わけわかんねぇよー!!」



199: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 00:46:37.05 ID:LHLDsnsA.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜教室〜

ザワザワ、ザワザワ

歩夢「……」


「きょ、今日は朝からいるね」

「どーしちゃったの上原さん」

「……何が悪いもの食べたんじゃ……」


歩夢(大丈夫、大丈夫)

歩夢(少しずつ、認めてもらわないと)


ガラガラ

「皆さんおはようございます。そろそろ朝のホームルーツ始めますよ? 誰かプリント配るの手伝ってくれる方、いませんか?」

歩夢「先生、私──手伝います」スッ

「え? う、上原さん?」

歩夢「プリント、配ります」

「……お、お願いします。ありがとうございます」


ザワザワザワザワ

歩夢「……」

歩夢(一歩一歩、少しずつ……頑張ろう)



201: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 00:53:01.84 ID:LHLDsnsA.net





「この問題、分かる方いますか?」

歩夢「はい!」

「!? う、上原さん? ど、どうぞ。では答えを書いてもらえるかしら……」

歩夢「はい」ガタッ

ザワザワ





ポロッ

(あっ、まずい……消しゴム落としちゃった)

スッ──

歩夢「はい、これ落としたのあなただよね?」

「!? あ、そ、そうです! ご、ごめんなさい!!」

歩夢「ううん、大丈夫だよ? 消しゴムって落ちやすいよね?」ニコッ

「!? あ、ありがとうございます……上原さん……」

歩夢「いえいえっ」ニッコリ

ザワザワザワザワ







205: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:08:23.59 ID:LHLDsnsA.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私、中須かすみはあまりスペックの高い人間ではなかった。それは小さい頃から自分が一番理解していた。
勉強も得意ではないし、運動も同じ。

でも、私には自慢出来ることが一つだけあった。

「かすみちゃんは本当に可愛いね」

そう、私は見かけは良かったんだ。皆から可愛いとチヤホヤされるのは、とても心地よかった。

私は、皆からチヤホヤされる為に生まれたんだ。バカな私は小さい頃、そんな風に考えながら生きていた。正直、調子に乗っていた。

──でもある時、スクールアイドルとの出会いをきっかけに……気が付いた。井の中の蛙だった。



207: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:19:38.13 ID:LHLDsnsA.net

『みんなー! 今日は私達のライブを見に来てくれて、ありがとうー!』


かすみ『』ポカーン

かすみ『……』

かすみ『か、かわいい……!!』キラキラ


お母さんから連れていってもらったデパートの屋上で、ライブをやっているスクールアイドルを見た。

本当に、可愛かった。
キラキラしていて、まるで自分とは違う生き物なのではないかと錯覚した。

歌う彼女達は楽しそうで、お客さんも一緒に盛り上がる。──キラキラしていて、本当に可愛かった。

中須かすみの可愛さなんかとは、レベルが違った。
一気に自分が惨めに思えてきた。恥ずかしくなった。


かすみ『……私も、なりたい』

かすみ『スクールアイドルに……本当に可愛い! スクールアイドルに!』


何がチヤホヤされる為に生まれた、だ。
そんなわけないだろ。──そう気がつけたのは、スクールアイドルのおかげ。

調子に乗っていた私の人生は、そこで変わったんだ。



211: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:28:38.79 ID:LHLDsnsA.net

どうすればもっと可愛くなれるのか? 自分を磨く為に“可愛さ”を研究し、努力した。
動作、お化粧、性格、愛される為の立ち回り。スクールアイドルの為に色々な研究をした。

そして生まれたのが、スクールアイドルのかすみん。

かすみんは小悪魔系で少しいじられやすいキャラの女の子。皆から愛されて、チヤホヤされるアイドル。

中須かすみが目指す、最強で世界一、誰よりも可愛いスクールアイドルのかすみん。

まだまだ完璧なかすみんにはなれていないけれど……私はそんな可愛いスクールアイドルを目指して、日々努力してるんだ。



213: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:32:23.05 ID:LHLDsnsA.net

しずく「かすみー? かーすーみー?」

かすみ「ん? どうしたのしずく?」

しずく「いやいや、こっちのセリフ。ぼーっとしてるけど……どしたん?」

かすみ「あぁ、少し物思いに耽てただけだよ」

しずく「ふーん」

かすみ「ストレッチ、終わった?」

しずく「もちもち」

かすみ「ん、分かった。なら練習しようか」

かすみ「てか、しずくが私と練習したいって誘うなんて珍しいね」

しずく「いやぁ、私もいちおースクールアイドルですし? 練習もしないとね〜」

かすみ「毎日ちゃんと練習しなよ……」



214: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:41:13.57 ID:LHLDsnsA.net

かすみ「まぁでも〜、しずくが毎日練習したらライバルになっちゃうからぁ〜。かすみんとしてはそのままでいいかもぉ」

しずく「でたかすみんモード。相変わらず切り替えが凄いね」

かすみ「モードとか出たとか言うなっつの」

しずく「ホントすごいんだけど……」

かすみ「この私とかすみんのギャップ差もいずれ武器に出来そうだね。まだまだかすみんは可愛くなれる。……現状、私が足を引っ張ってるから、頑張らないと」

しずく「真面目だねぇかすみは……今でも充分可愛いけどなぁ」

かすみ「それは当たり前。まだまだ伸ばせるよって話。語尾の伸ばし方も、もう少し自然体にして……甘えるような声を──」

しずく「あー、はいはい! かすみのアイドル論は長くなるからまた今度聞かせて!」

かすみ「むぅ……仕方ないな」ジトー



217: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 01:54:35.86 ID:LHLDsnsA.net

しずく「そーいえばさ」

かすみ「ん?」

しずく「歩夢さん、最近すごく頑張ってるみたいよ?」

かすみ「!!」

しずく「ここ数日、別人になったって校内でも噂話が耐えないね。狂犬が優しくて可愛くなったって言われてるよ」

かすみ「……私の耳にも情報は届いてるよ」

しずく「今日なんかボランティア活動してるらしいよ?」

かすみ「……点数稼ぎが露骨だね」

しずく「人生の貴重な時間を使ってやる点数稼ぎなら、認めてあげてもいいんじゃない? ボランティア活動は偽善って呼ぶ人もいるけど、何もしないよりは遥かにマシっしょ」

かすみ「……」

しずく「しかも、それだけじゃない。お台場海浜公園でスクールアイドルの練習をしてるって目撃情報もあるし、本気でスク──」

かすみ「んだよ……」ボソッ

しずく「え?」

かすみ「だから嫌いなんだよ。不良……」

しずく「……かすみ?」



222: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 02:05:50.06 ID:LHLDsnsA.net

かすみ「なんなの? 前はケンカばかりしてた不良が」

かすみ「少し良い事し始めたら……変わっただの、優しくなっただの……」

かすみ「できるんなら、なんで最初からその“良い事”をしてこなかったんだよ」

しずく「……」

かすみ「よく漫画とかでもあるよね。不良が猫とか拾って優しくしたり、公正して良い子になって……周りからチヤホヤされだす展開」

かすみ「私、あれ本当に嫌いなの」

かすみ「地道にコツコツ、毎日頑張った人よりも! 悪い事してた不良とか、そんなやつらが少し良い事しただけで……チヤホヤされる」

かすみ「理不尽にしか思えない」

しずく「かすみ……」

かすみ「あの人が……上原先輩が努力してるのは分かるよ」

かすみ「でも私はそんな展開が──」

しずく「私は結構好きかな。その展開」

かすみ「!」

しずく「話の途中だったのに、ごめんねかすみ」

かすみ「……別にいいよ」

しずく「ありがとう」



225: 名無しで叶える物語 2021/05/15(土) 02:32:26.30 ID:LHLDsnsA.net

しずく「私は、その人が好きで……不良とかになったわけじゃないと思うの」

しずく「家庭環境とか……周りの人の影響だったり、何か道を外したくなる出来事があったのかもしれない」

しずく「人の生き方ってさ。何かがきっかけで、簡単に変わってしまうものだと思う」

かすみ「!!」

しずく「そんな人達が、何かをきっかけに更正しようと思って、努力するのって──とっても素敵な事じゃない?」ニコッ

かすみ「……」

しずく「私は、歩夢さんがそんなに悪い人には見えない。不良って言われてるのが、皆の勘違いだったんじゃない? って思っちゃうくらいだよ」

かすみ「……」

しずく「あっ──ご、ごめんごめん! 熱弁し過ぎたね。いやぁ、あたしらしくなかったよね? あははは〜……」

かすみ「…………」

かすみ(そう言えば私)

かすみ(あの人がなんでスクールアイドルになりたいかとか……何も理由、聞いてないや)

かすみ(何も聞かずに……突き放してた)

かすみ「……」

しずく「か、かすみー?」

かすみ「ごめん、しずく」

かすみ「今日の練習、一人でやってて」

かすみ「用事が出来た」

しずく「!!」

しずく「……ん、分かった」

しずく「行ってらっしゃい」ニコッ

かすみ「うん。ありがとう」

かすみ「──行ってきます」



247: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 11:38:06.19 ID:xC9EA03T.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

上原先輩を探す為、虹ヶ咲学園周辺を歩き回る。
中々見つからない。

当然、連絡先も知らないので自分で探すしかない。
かなり非効率だ。原始人になった気分。

でも、直接会って話を聞きたい。別に、しずくの話を聞いてあの人の評価が変わったわけじゃない。


かすみ(何も知らないまま、否定し続けてた自分にムカついただけ)

かすみ(そう……それだけだもん)


最終的に行き着いた先は──お台場海浜公園。

スクールアイドルの練習をしているという目撃情報もある。中は広いけれど、ここにいる可能性がある。──探そう。



249: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 11:52:43.92 ID:xC9EA03T.net

スタスタ

かすみ「!!」


歩夢「……」


かすみ(いた)


お台場海浜公園の中心部に上原先輩はいた。
木に囲まれた場所で一人目を瞑りながら立っている。何してるんだろう?

まるでお祈りをしているかのように、手を組みながら静かに立っている。

ボランティア活動を終えた後なのだろうか? お菓子、手作りされたかのようなぬいぐるみが入れてある袋が、近くのベンチに置かれている。
大事に扱うかのように、下にハンカチが敷かれている。ボランティア活動のお礼で貰ったのかな?

詳細は不明だ。私は木の影に隠れながら様子を探る。


かすみ(──って、なんで私隠れてんだろ)

かすみ(ぱぱっと話聞いて──)


そんな事を考えていた。──でも、この後私は何も考えられなくなった。


歩夢「──」スゥゥゥゥ


目を瞑っていた上原先輩は、静かに深呼吸をして──世界を変えた。



250: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 11:58:58.76 ID:xC9EA03T.net

歩夢「飛び立てる Dreaming Sky」

歩夢「一人じゃないから」

歩夢「どこまでも 行ける気がするよ」

歩夢「空の向こう────」



251: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 11:59:21.25 ID:xC9EA03T.net

【Dream with You】



253: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 12:17:28.95 ID:xC9EA03T.net

桜の花びらが、舞い上がる。

これは、なに?

先程の景色は消え去り、歌う彼女を中心に──世界が変わる。

制服に身を包んでいたはずなのに。彼女は今は、ピンク色のドレスに身を包ませている。

これは、なに? 困惑する私を置き去りにするかのように、上原先輩は歌い続ける。

笑顔で、可愛く。一生懸命、歌う。


──ずっと隠してたの ココロの奥──

──芽生えてた気持ちを見ないフリして──


上原先輩は──キラキラと輝いていた。

心臓が鼓動する。ドクンドクンと、胸の高鳴りを感じる。
まるで、“あの時”と同じような感動が私に舞い降りる。

──私のなりたいスクールアイドルが、そこにいた。



254: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 12:26:33.99 ID:xC9EA03T.net

上原先輩の歌が終わる。
気が付けば、桜の花びらが消えていた。

いつの間にか、お台場海浜公園に戻ってきていた。


歩夢「はぁ、はぁ」


肩で息をする上原先輩の表情は、笑顔。歌う事が楽しいんだろうなと、表情でわかる。

──かわいい。


パチパチパチパチパチ

歩夢「ん?」


かすみ「わぁ……!!」パチパチパチパチパチ


歩夢「か、かすみちゃん?」

かすみ「!?」ハッ!!

かすみ「あ、あれ!? 私、何を……!?」


自分を忘れて、拍手していた。無意識で。


歩夢「き、聞いてたの?」

かすみ「っ〜〜〜〜〜!!////」

かすみ「拍手なんてしてません!!」

歩夢「え、えぇ!?」


自分でも、無理があるとは思った。



256: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 12:38:07.70 ID:xC9EA03T.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

目の前で拍手をしていたかすみちゃん。
今は顔を赤くしながらそっぽを向いてしまったが、とても可愛い。

なんだか懐かしい気分。しずくちゃんの合同演劇祭が終わった時も同じような感じで拍手してたと思う。

歩夢「かすみちゃん、見てくれてたんだ」

歩夢「ありがとうね」ニコッ

かすみ「は!? 何がですか!?」

歩夢「いや、拍手してくれた事。嬉しいや」

かすみ「だから拍手なんてしてませんってば!」

歩夢「ふふっ、そうだね」ニコニコ

かすみ「だぁぁぁぁああ!! ニコニコ笑うな!!」

歩夢「ごめんね?」ニコニコ

かすみ「絶対ごめんって思ってないでしょ!」



257: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 12:48:38.76 ID:xC9EA03T.net

歩夢「そういえばかすみちゃん。なんでここにいるの?」

かすみ「そ、そうだった」

かすみ「上原先輩に聞きたいことがあったんでした」

歩夢「私に、聞きたいこと?」

かすみ「はい」

かすみ「単刀直入に聞きます」

かすみ「なんで……スクールアイドルになりたいんですか?」

歩夢「!!」



258: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 13:05:39.96 ID:xC9EA03T.net

歩夢「私がスクールアイドルになりたい理由……?」

かすみ「はい」

かすみ「私にあれだけ言われても諦めないんです。何か理由があるんですよね?」

かすみ「不良を辞めて、善行を尽くしてまでやりたい理由が」


私がスクールアイドルになりたい理由。──ここで、もう一度スクールアイドルになりたい理由、かぁ。

私がスクールアイドルを始めた理由。そのきっかけは──ひとりの女の子。そして、一緒にそれを見た侑ちゃんの為。
最初は侑ちゃん一人だけのために、スクールアイドルを続けていた。

でも、次第にその思いは変わった。私は自分の為に、そして私を応援してくれる皆の為に、スクールアイドルを続けようと誓った。

私が人生で初めて、自分から歩み始めることが出来た事。大切で、大好きなスクールアイドルとは、何があっても離れたくなかったんだ。
わからない事だらけで、怖いけれど──私はスクールアイドルでいたいの。スクールアイドルが大好きだから。

それに、侑ちゃんを見つける手掛かりにもなるかもしれない。

だから、自分の為になりたいだけだよ。


歩夢「かすみちゃん」

歩夢「私」


自分の気持ちを正直に伝えようと思っていた。

でも、私の口が自然と動き──


歩夢「──わたしね」

歩夢「あの子と約束したの」

歩夢「スクールアイドルになるって」


──私の考えていなかった事を発した。



260: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 13:26:51.97 ID:xC9EA03T.net

歩夢「わたし、本当はケンカなんてしたくない」

かすみ「!!」

歩夢「わたしは……あの子と一緒に、ずっと一緒にいたかっただけ……!」

歩夢「でも……それはもう叶わない夢だから」

歩夢「だから……だから……わたしは……それが許せなくて……!!」

かすみ「」ポカーン

歩夢「!! あ、あれ……?」

歩夢(私、何言ってるの!?)

歩夢「えっと、えと! かすみちゃん!」

歩夢「私がスクールアイドルになりたい理由は──」

かすみ「もーいいですよ」

歩夢「え?」

かすみ「別に、大丈夫です」

かすみ「上原先輩の、スクールアイドル理由が一応ちゃんとあるってことが分かったので、大丈夫です」

かすみ「約束って、プライベートに関わる話だと思うので……あまり深く突っ込みません。なんとなくとか、そういうのじゃないのがわかりましたので……いいです」

歩夢「……」



261: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 13:37:35.54 ID:xC9EA03T.net

あの子? 侑ちゃんの事?

分からない。私は侑ちゃんの事を話そうとしたわけじゃない。それに、約束? あの子との約束?

そんな話するつもり無かったのに、勝手に口が動いた。
自分で自分に困惑するのは、初めてのことだった。


歩夢「………………」

かすみ「上原先輩?」

歩夢「あっ……ご、ごめんねかすみちゃん!」

歩夢(今はかすみちゃんと話してるのに、考え込むのはダメだ。かすみちゃんに失礼だよね)

歩夢「と、とりあえず私! 早くかすみちゃんに認めて貰えるように頑張るから!」

かすみ「その話なんですけど」

歩夢「え?」

かすみ「もう、大丈夫です。あなたのスクールアイドル同好会入部を認めます」

歩夢「え!? かすみちゃん……私の事、信用してくれたの?」

かすみ「いや、全然? そんなすぐに人の評価が変わるわけないじゃないですか」

歩夢「えぇ……」



262: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 13:47:25.35 ID:xC9EA03T.net

かすみ「ただ……その……」

かすみ「近くにいてくれた方が……あなたのことをよく見れるなって思っただけです」

かすみ「……そ、それだけです!」プイッ

歩夢「か、かすみちゃん……!」パァァァァァ

かすみ「と、とりあえず! あなたの噂を聞いたり、わざわざ探したりするのがめんどくさいんですよ! だから同好会に入部して、先輩の努力の結果を証明してくだ──」

バッ!! ──ギュッ!!

かすみ「!?!?!?////」カァァァァァ

歩夢「かすみちゃん!」

歩夢「ありがとう……!!」

歩夢「私、頑張るから!!」ギュュュュュ

かすみ「あ、あわわわわわ……!!」

かすみ「な、なに急に抱きついてんですか! あっついから離れてよ!!////」

歩夢「頑張るから……! 私を見ててね、かすみちゃん!」ニコッ

かすみ「は、話を聞いてくださいよ!!////」



かすみ「──歩夢先輩!!」



263: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 13:49:23.03 ID:xC9EA03T.net

【Members walking together】

【NEXT】

【中川菜々】



274: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:11:27.86 ID:xC9EA03T.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「そういえば歩夢先輩」

かすみ「スクールアイドルとしての紹介動画、撮ってませんよね?」

歩夢「紹介動画?」


放課後、部室。
椅子に座りスマホをイジりながら、かすみちゃんが私に言う。


かすみ「はい」

かすみ「スクールアイドルになったんですから、これからはどんどん自分を売り出していかないと」

しずく「おー、なら今日は紹介動画撮る? あたし撮影役やりたい〜」

かすみ「いや、そろそろしずくも紹介動画撮りなさいよ……1ヶ月放置してるよ?」

しずく「あははは……まぁ、ゆったりまったりやろうよ」

しずく「ほら! あたし達スクールアイドル同好会はソロ活動メインだから、その辺自由にやれるのが良い所じゃん?」

かすみ「はぁ……まったくこの子は……」



275: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:17:31.23 ID:xC9EA03T.net

歩夢「…………」

かすみ「ん? どうしました歩夢先輩?」

歩夢「その紹介動画って、動画サイトにあげたりするの?」

かすみ「え? まぁ紹介動画ですからね。当然アップしますよ?」

歩夢「そうだよね……大丈夫かな? ほら、私がスクールアイドルになったのを知って……その……私を狙う人に何かされたりとか……」

かすみ「あー、それなら大丈夫です」

かすみ「私、ここら辺の不良達について色々調べたんです」

歩夢「え?」

かすみ「親玉であるエマ・ヴェルデさんから言われてるみたいなんですよね」

かすみ「不良同士以外で喧嘩したり、一般の子を襲ったりしたりするのは御法度らしいんです」

歩夢「!!(エマさん……やっぱり親玉なんだ……)」

かすみ「だから、私達一般人は何かされる心配はありません」

かすみ「まっ、歩夢先輩の場合は当事者ですから、逆恨みされる可能性はありますけどね〜」

歩夢「…………」

かすみ「じょ、冗談ですよ。何か言って下さいよ」

歩夢「あっ……違うの。ご、ごめんね?」

しずく「てかさ、よくそんなこと調べられたねかすみ。誰から聞いたん?」

かすみ「かすみんのファンから聞きましたっ!」キャピ

しずく「へ〜」

かすみ「もっと興味持て」



276: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:24:31.96 ID:xC9EA03T.net

かすみ「というか、なんでここら辺でケンカばかりしてた歩夢先輩がそのエマ・ヴェルデさんの御法度ルール知らないんですか」

歩夢「あ、あはは……ごめんね」

かすみ「いや、謝ることじゃないですけど……」

かすみ「──まっ、それに大丈夫な理由はそれだけじゃありません」

歩夢「え?」

かすみ「私はもう不良を辞めて、スクールアイドルになったんですって堂々と言えばいいんですよ」

歩夢「!!」

しずく「あっ、確かに〜。もう歩夢さんはカタギの人間ですもんね?」

かすみ「カタギって……。まぁ、そういう事」

かすみ「何言われたって、もう不良は辞めたって言えばいいんですよ」

かすみ「それを皆からちゃんと認めてもらう。その覚悟でスクールアイドルになったんでしょ? 歩夢先輩」

歩夢「──うんっ!」

歩夢「私、頑張るから」グッ

歩夢「かすみちゃんだけじゃなく、皆から認められるように──頑張る」ニコッ

かすみ「……ん」プイッ

しずく「ありゃ? かすみ、照れてる?」

かすみ「照れてないッ!///」



277: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:30:42.38 ID:xC9EA03T.net

かすみ「まぁ、そういう事です」

かすみ「なので気にせず、歩夢先輩の紹介動画撮りましょう」

しずく「隊長! カメラの準備は完了しました!」ピシッ

かすみ「よし、桜坂隊員。しっかりとバッテリー確認も忘れずにな」

しずく「アイコピー!」

かすみ「はぁ……」

かすみ「──それじゃ歩夢先輩? 準備は良いですか?」

歩夢「あっ、う、うん!」

かすみ「……そうですねぇ、普通に動画撮るだけじゃ面白──再生回数は伸びないので」

歩夢(今面白いって言おうとしなかった!?)

かすみ「とびっきりかわいい、かすみんみたいな感じでいきましょっ! 歩夢せんぱい!」

歩夢「か、かすみんみたいな感じ?」

かすみ「えぇ!」

かすみ「そうですねぇ〜歩夢せんぱいはぁ〜、少しうさぎさんっぽいので〜」

歩夢「」

かすみ「あゆぴょんって言う、うさぎさんキャラでいってみましょう!」

しずく「えぇ……」

歩夢「……」

歩夢(私はあゆぴょんから逃れる事が出来ない運命なんだね……)

歩夢(でも、逃げちゃダメだよね? かすみちゃんがこう言ってるんだから、ちゃんとやらないとだよね?)



279: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:34:45.63 ID:xC9EA03T.net

かすみ「とまぁ、冗談は置いと──」

歩夢「分かった。やるね」

かすみ「え?」

歩夢「しずくちゃん、カメラよろしくお願いします」

しずく「えっ? う、うん。りょうかい〜」

かすみ「あ、あの……」

歩夢「──」スゥゥゥゥ

歩夢「お願いします!」

しずく「ん」コクリ


ピピッ



280: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:42:54.41 ID:xC9EA03T.net

歩夢「新人スクールアイドルのあゆぴょんだよ〜!」

歩夢「臆病だから、寂しいと死んじゃうの〜」

歩夢「だから、皆であゆぴょんの事を応援してね?」

歩夢「えへへ」ニコッ

歩夢「ぴょん♪」


ピピッ

かすみ「」

しずく「」


歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……////」

歩夢(は、恥ずかしかったぁ……!!)

歩夢(可愛いってやっぱり怖いよぉ……!!)

しずく「──い」

歩夢「へ? し、しずくちゃん?」



282: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 22:48:06.90 ID:xC9EA03T.net

しずく「歩夢さん」

しずく「かっっっっっっわいい!!」

しずく「まじかわなんですけど!!」

歩夢「あ、ありがとう……」

しずく「あたし、あゆぴょんのファンになります! かすみんのファン辞めます!」

かすみ「なんでよ!!」

歩夢「か、かすみちゃん。どうだったかな?」

かすみ「…………」

かすみ「なんかムカつくので普通のやつ撮りましょう」プイッ

歩夢「えぇ!?」

しずく「歩夢さんが可愛いからって嫉妬すんな〜?」

かすみ「うっさい!」



285: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 23:15:21.50 ID:xC9EA03T.net

ガラガラ

彼方「んー? あれ? みんな随分楽しそうだね」

しずく「あっ! かな姉!」パァァァァァ

しずく「おはよ〜! 久しぶりじゃん!」ギュッ!!

彼方「おー、しずくちゃん。元気だった?」

しずく「うん! ──えへへ」ニコニコ ギュッ

かすみ「彼方先輩、こんにちは」

彼方「あっ、かすみちゃん。こんにちは〜。最近練習に全然来れなくてごめんね?」

かすみ「ほんとですよ。しずくとずっと二人きりなの疲れるのでもっと練習に来てくださいよ」

彼方「え? しずくちゃんと二人きりなの幸せじゃない?」ギュッ

しずく「だよね!? かな姉分かってる〜! かすみには理解できないみたいだよ?」ギュッ

かすみ「ほんとこの能天気コンビは……」

歩夢「あ、あの! こんにちは、彼方さん!」

歩夢「えっと、初め……まして。普通科2年の上原歩夢です」ペコリ

彼方「おー、君が新入部員の歩夢ちゃんだね? しずくちゃんから沢山話聞いてるよ?」

彼方「私は勉強とアルバイトで忙しいから、中々部活来れないけどこれからよろしくね」ニコッ

歩夢「!! は、はい!」ニコッ

歩夢(彼方さんの笑顔……なんだか懐かしい。安心するなぁ)



288: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 23:29:57.65 ID:xC9EA03T.net

かすみ「というか、彼方先輩。今日はアルバイト休みなんですか?」

彼方「んーん、違うよ。今日もアルバイトあるよ。その前に部室に用がある子がいて、部長として対応する必要があったんだ」

彼方「お待たせしてごめんね? 入って大丈夫だよー」

ガラガラ

歩夢「あっ──」

菜々「こんにちは、皆さん。楽しそうでなによりです!」ニコニコ

しずく「ありゃ、かいちょーじゃん。こんにちは〜」ペコリ

かすみ「どうもです」

菜々「1年生の桜坂しずくさんと中須かすみさんですね! こんにちは!」

歩夢「菜々ちゃん……」

菜々「あぁ、歩夢さん! こんにちは!」

菜々「最近の歩夢さんの噂はよく聞いていますよ? 勿論良い方の!」

菜々「不良から真面目な学生への変化、偉いですよ! その調子でもっと充実した学校生活を謳歌して下さいねっ!」ペカー

歩夢「あはは……ありがとう」



290: 名無しで叶える物語 2021/05/16(日) 23:44:40.29 ID:xC9EA03T.net

菜々「さて、と」

菜々「ふむふむ。やはり人数が一人増えたので、椅子とかロッカーを増やした方が良さそうですね」

彼方「助かるよ生徒会長。色々ありがとうね」ニコッ

菜々「いえいえ! 生徒のサポートが私の役目なので!」

菜々「そうですね。この時期にはもう仮入部期間も終わっていて、新入部員もあまりいないと思いますが10名分くらいの用意をしますね」

しずく「おぉ! 助かる〜!!」

菜々「では申請書はこちらになりますので、部長の近江彼方さんの印鑑と記入をお願いします」スッ

彼方「うん、分かったよ」

菜々「ではまずはここを──」テキパキテキパキ


歩夢「…………」

歩夢(せつ菜ちゃん……生徒会長として一生懸命頑張ってるんだね)

歩夢「……な、菜々ちゃん」

菜々「ん? どうしたんですか? 歩夢さん」

歩夢「あの……」

歩夢「一緒にスクールアイドル、始めてみない?」

菜々「──え?」



294: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 00:32:39.60 ID:gfHy1ZAY.net

歩夢「ほ、ほら! 生徒会のお仕事だけだと疲れちゃうし、リラックスさせる為に──」

菜々「歩夢さん。お誘いは嬉しいですが……遠慮しておきます」

歩夢「っ!」

菜々「確かに私、歌うのとか好きですけれど」

菜々「スクールアイドルになりたいとは別に思わないんです」

菜々「そんな私がスクールアイドルになっても、大好きでスクールアイドルをやっている方々に失礼になっちゃうので!」ニッコリ

歩夢「……っ……」

歩夢「そ、そうだよね……ごめんね……変なこと言って」

歩夢「菜々ちゃんと同じ部活仲間になりたかったから……つい……ね」ニコッ

菜々「ふふっ、そうでしたか」ニッコリ

歩夢「……」

かすみ(ん? 歩夢先輩、なんか、元気なくなっちゃった?)

かすみ(何かあったのかな?)



296: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 00:40:26.11 ID:gfHy1ZAY.net

彼方「生徒会長、終わったよ。お待たせしました」

菜々「ありがとうこざいます!」

菜々「おぉ、さすが特待生で優等生の近江彼方さんですね。字が綺麗で見やすいです!」

彼方「照れますな」

菜々「──では、私はこれで! 良い学生生活を!」

スタスタ

歩夢「…………」

かすみ「歩夢先輩?」

歩夢「へ?」

かすみ「どうしたんですか? さっきから」

かすみ「元気、ないよ?」

歩夢「ご、ごめんね! 大丈夫だから! ──あ、あゆぴょんで少し疲れちゃったのかも」

かすみ「……そうですか」



300: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 00:55:44.02 ID:gfHy1ZAY.net

彼方「さて、と。私もそろそろ帰ろうかな」

しずく「えっ!? もう? もっとゆっくりすればいいじゃん! バイトまでまだ時間あるでしょ?」

彼方「んー、アルバイトまで勉強したいしなぁ……」

しずく「……かな姉、最近頑張りすぎだよ! 気持ちは分かるけど……」

しずく「ちゃ、ちゃんと寝てるの!?」

彼方「寝てるよ? 4時間くらいは毎日寝てる」

しずく「ぜ、全然足りないよ! 15分くらい仮眠取りなって! ほら、私……ひざ枕するから!」

彼方「大丈夫だって」

彼方「しずくちゃん。私が勉強頑張る理由、知ってるでしょ?」

しずく「っっ!」

彼方「もっとちゃんと休むから。だから今は頑張らせてよ、しずくちゃん。いい子だから……ねっ?」ニコッ ナデナデ

しずく「…………」

彼方「……ごめんね……」ボソッ


彼方「──さて、それじゃ私も行くね。みんなまたね〜」フリフリ

かすみ「あっ、お疲れ様でした!」

歩夢「お疲れ様です。彼方さん」ペコリ

スタスタスタスタ

しずく「…………」

かすみ(たくっ、こっちもこっちで元気なくなってるし……)

かすみ「──ほら、2人とも! 動画作成の続きやりますよ?」

かすみ「スクールアイドルの基本は笑顔! 基本中の基本だよ? 分かった?」

歩夢「……うん! ごめんね、かすみちゃん」グッ

しずく「……ん」コクリ

かすみ「じゃあ即実行!」

かすみ「はい! 笑顔笑顔〜! かすみんと一緒に笑顔作りましょ〜!」ニコニコ







309: 1 2021/05/17(月) 08:57:03.42 ID:W/4JCNWA.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

誰かから必要とされる人間になりなさい。

──それが両親からの教えでした。

生徒会長である私、中川菜々は充実した学校生活を謳歌している。

勉強も一生懸命頑張り、好成績をキープ。学生のみんなの為に頑張る。そして、趣味であるアニメやマンガも全力で楽しむ。それが私の今の生活だ。

勉強や生徒会活動。楽しいけれど、疲れないかと言えば嘘になります。当然疲労も溜まりますし、ストレスだって同じように溜まる。

それを発散させるのが、優木せつ菜の役割

SNSの裏垢。鍵をかけているため誰一人フォロワーはいないしフォローしてる人もいない。


──────────

優木せつ菜:今日も疲れたああああああああ!! あの先生私を便利屋として使い過ぎです!!

優木せつ菜:あのアニメ、途中までとても良かったのにどうして最後あんな展開にしてしまったのでしょう……。信じられないです!

優木せつ菜:やろうと思っていた事を「あれやらないの?」って言われるの本当に腹立ちます!!

──────────


ふと思った日常の不満やストレスを書き連ねるだけのSNSアカウント。──優木せつ菜。
歩夢さんからせつ菜という名前を聞いた時は肝を冷やしました。

こんなアカウントを見られたら、終わりだ。

生徒会長の威厳が失われる。私は完璧で、誰かから必要とされる人間にならないといけないんだ。

愚痴を呟いているアカウントを持っているだなんて……そんな隙を見せてはいけないんです。



310: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 09:01:15.10 ID:W/4JCNWA.net

菜々母「菜々。この前のテスト結果、すごいじゃない! この成績をキープすれば良い大学にいけそうね」

菜々「うん! 私、もっと頑張ります!」

菜々母「……菜々、頑張ってくれてるのは嬉しいけれど……もう少し自分の好きな事をしてもいいのよ?」

菜々「え? 好きな事……?」キョトン

菜々母「えぇ。学生なんだし、勉強や生徒会の事以外したって──」

菜々「大丈夫ですよ、お母さん」ペカー

菜々「私、今すごく充実しているので! アニメや漫画もありますしっ」

菜々母「そ、そう?」

菜々「はい!」


そう、私は充実した学校生活を謳歌している。いや、出来ています。

何かあれば、優木せつ菜がいる。

私はこれでいいんです──。



312: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 09:06:27.66 ID:W/4JCNWA.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ


菜々(さてさて、次のやる事は……)


「上原さん、プリント日誌運ぶの手伝ってくれてありがとうね? 結構重くってさ、あれ」

歩夢「わかるわかる。クラスメイトの人数も多いから大変だよね? また何かあったら手伝うから」ニコッ

「!! う、うん! ありがとう。ま、またね!///」

歩夢「うんっ」ニコニコ フリフリ

スタスタ


菜々(あれは……歩夢さん)

菜々「……ふふっ」クスクス

スタスタ

菜々「歩夢さん! こんにちは!」

歩夢「あっ、菜々ちゃん」

歩夢「……こんにちは」ニコッ

菜々「日直の方でしょうか? 手伝ってたんですか?」

歩夢「うん。日誌を職員室に届けようとしてたんだけど、重そうだったから」

菜々「本当に変わりましたね、歩夢さん。素晴らしいです!」

菜々「歩夢さんを虹ヶ咲学園の狂犬と呼ぶ方は、もういませんね!」

歩夢「あはは……」



313: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 09:15:05.27 ID:W/4JCNWA.net

歩夢「前の私……酷かったんでしょ?」

菜々「?(なんで疑問形?)」

菜々「いや、まぁ本当にケンカばかりしていましたよね」

歩夢「……ごめんなさい」

菜々「別に、謝る必要ありませんよ」

菜々「不良の時の歩夢さんも、私は別に嫌いじゃありませんでしたし」

歩夢「え?」

菜々「ケンカしまくりでしたが……不良同士だけでしたし。まぁ、誰も私に近付くなというオーラが出ていて、まるで世界を恨んでいるかのようで、常に目付き悪かったですからね」

菜々「怖くはありました」

歩夢「…………」

菜々「でも、不良同士の方々の、拳で語ると言うのも青春と言えば青春! あまり良い事とは言えませんけどね。私は漫画みたいで嫌いじゃないです!」

菜々「もちろん、行き過ぎはダメですけどねっ」

歩夢「……」

菜々「あっ、ケンカといえば私、あの漫画大好きなんですよ! 最後のリンダとの戦いが──」

歩夢「ふふっ」クスクス

菜々「? 歩夢さん?」



314: 名無しで叶える物語 2021/05/17(月) 09:30:48.03 ID:W/4JCNWA.net

歩夢「ううん。ごめんね急に」

歩夢「今の菜々ちゃん、楽しそうだなって思って」ニコッ

菜々「えぇ!」

菜々「学校生活、楽しいです!」ペカー

歩夢「そっか……。──うん!」

歩夢「なら、良かった」ニッコリ

菜々「?」

歩夢「──夢はいつか、輝きだすんだ」

菜々「え?」

歩夢「私の大好きな歌の歌詞」ニコッ

菜々「……」ポカーン

歩夢「……急にごめんね?」

歩夢「菜々ちゃんは今、スクールアイドルに興味無いかもしれないし、やりたいとは思ってないかもだけど」

歩夢「私、やっぱり菜々ちゃんと一緒にスクールアイドルになりたい」

菜々「……」

菜々(歩夢さん、なんでそんなに私と一緒にスクールアイドルをやりたいのでしょうか……?)

歩夢「でも、これは私のわがままになっちゃうから──もう言わない。今の菜々ちゃんの枷になりたくないもん」ニコッ

菜々「歩夢さん……」


笑顔の歩夢さんだったけれど、どこか寂しそうだった。おかしい。笑顔の筈なのに、どうしてそんなに辛そうなんですか? 歩夢さん。

その事を聞こうと思っていたのですが──


歩夢「菜々ちゃん」

歩夢「私、今度ソロライブやる事になったの」

歩夢「放送室借りてアナウンスとかするから、良かったら見に来てね」ニッコリ

菜々「──はい! 絶対に見に行きます!」

歩夢「……うん!」


歩夢さんは最後まで、寂しそうに笑顔を浮かべていた。



326: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:00:09.56 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜生徒会〜

菜々「では、この議題については以上となります。何か質問や確認したい事はありますか?」

副会長「私は特にはありません」

菜々「分かりました。他は──」


ザザッ

かすみ『あーあー、テステス』

かすみ『みなさーん! 楽しい放課後をお過ごしですか〜!?』

かすみ『ナンバーワンスクールアイドルのぉ、かすみんで〜す!』


菜々「!?」

「え? なになに?」

副会長「校内放送?」


かすみ『突然のお知らせですが──本日この後! かすみんの先輩である上原歩夢先輩のソロライブを開催しまーす!』

かすみ『場所は部室棟屋上でーす! 時間はぁ──』


菜々「え? え!?」

菜々(きょ、今日なんですか!? 歩夢さんのライブ!?)

ガタッ

菜々「あ、えっと! 皆さんごめんなさい! 本日の会議は終了で! 何か追記で確認したい事ある場合にはメッセージ送ってください!」

スタスタ

副会長「か、会長?」

「なんか急いでましたね、中川会長」

「ですね〜。てか上原先輩のライブだってさ! 見に行ってみる?」

「暇だし行ってみようか〜」







327: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:12:51.50 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ ガラガラ

かすみ「歩夢先輩、今日のライブの告知終わったよ」

歩夢「うんっ。放送聞いてたよ。ありがとうねかすみちゃん」

かすみ「それは全然構わないんですけど……」

しずく「いやぁ、まさか当日告知でライブするとは思わなかったよ」

しずく「色々準備はしてたけどさ」

歩夢「事前に告知しちゃうと、何かトラブルが起きるかもしれないでしょ?」

かすみ「まぁ」

しずく「カタギになったとは言えまだ油断出来ないもんね〜」

かすみ「だからカタギって言い方……」

歩夢(──菜々ちゃん、見に来てくれるかな?)

しずく「あと、まぁ歩夢先輩なら大丈夫でしょ」

かすみ「え? なにが?」

歩夢「?」

しずく「今日のライブ、絶対成功するよ。今日に向けて色々準備、頑張ってたもん」

しずく「この新しく歩夢さんが作った曲、良い歌だし」ニコッ

歩夢「しずくちゃん……!」

かすみ「……」

かすみ「歩夢先輩」

歩夢「?」

かすみ「……その……」

かすみ「て、適当なライブしたら許しませんからね! やるからには必ず成功させて下さい!」プイッ

しずく「照れてますなぁかすみ〜」ニヤニヤ

かすみ「照れてないッ!!////」

歩夢「かすみちゃんも……!」

歩夢「ありがとう! 2人とも!」

歩夢「私、頑張ってくるから!」

しずく「うん! 音響サポートとかは任せてね〜」

かすみ「……行ってらっしゃいです」

歩夢「うんっ──行ってきます!」ニコッ



329: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:20:26.26 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

愛「ちょ、ちょっと! エマさん! どうしたんですかそんなに急いで!」

エマ「……さっきの校内放送、聞いたでしょ?」

愛「上原のライブのやつですよね? まさか……み、見に行くんですか!?」

エマ「うん」

愛「え、えぇ……」

スタスタ

愛「あっ、ちょっと! 置いて行かないでくださいよ!」

愛「……ちっ、久しぶりに学校に来たら、あいつのライブがあるとかタイミング悪すぎだろ……!」

愛「──って! エマさん! 待って下さいよ!」

タッタッタッタ



331: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:27:51.81 ID:3X/QNNx9.net

彼方「…………」カキカキカキカキ


ピローン


彼方「ん?」


──────────

ラブリーしずくちゃん:かな姉ー!

ラブリーしずくちゃん:今日歩夢さんのソロライブあるんだよ〜

ラブリーしずくちゃん:虹ヶ咲学園の生徒専用動画サイトで生中継もするから観てあげてちょ!

ラブリーしずくちゃん:今URL貼るね!

──────────


彼方(あー、今日ソロライブやるんだ歩夢ちゃん)

彼方(ライブ告知は当日行うって前言ってたもんね)

彼方(直接応援できなくて、ちょっと申し訳ないなぁ……)

彼方「……勉強のキリもいいし観てみよ」

彼方「ブレード、どこあったっけなぁ」



332: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:33:33.37 ID:3X/QNNx9.net

璃奈「ふわぁぁぁ……ねっむ」

璃奈「情報処理学科なのに、なんで現代文の勉強とかしなきゃいけないの? 納得いかないんだけど」

璃奈「はぁ……開発だけしてたい……理系の勉強だけしてたい……」

璃奈「文系滅べ」


ワイワイ、ガヤガヤ


璃奈「ん?」

璃奈(なんか部室棟前が騒がしいなぁ……うるさ)

璃奈「……そー言えばなんか誰かがライブやるってさっき校内放送あったっけ」

璃奈「………………」

璃奈「たまには暇つぶし……しよーかな」

スタスタ



333: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:39:07.33 ID:3X/QNNx9.net

果林「………………」

果林「うぅ……!」

果林「3201の教室ってどこにあるのー!?」

果林「うぅ……補習あるのにぃ……」シクシク

果林「ここどこだよぉ……」

果林(この学校! 広すぎるのよぉ!)

果林「まぁ! そこがいいとこなんだけどね!」

果林「……でもこれじゃ間に合わないよー!!」

果林「どうしよー!!」


ワイワイ、ガヤガヤ


果林「ん?」

果林「なんかめっちゃ人集まってる!」

果林(はっ! そーだ! あそこにいる人達に教室まで案内してもらお! わたしかしこい!)

果林「思ったなら即実行が朝香果林の格言! 早速取り掛かろー!」

果林「すみませーん!」ニコッ

スタスタ



335: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:55:50.71 ID:3X/QNNx9.net

部室棟の屋上には直接入れなかった。部室棟入口前は屋上がよく見えるので、そこを観客席にするのでしょうか。

──もうすぐライブが始まってしまう。急がないと!

菜々(歩夢さん、急過ぎますよ!)

スタスタ

菜々「!?」

菜々(ひと、多いですね……)


予測的中。部室棟入口前に人が沢山集まっていた。
ただ、観客席というものではない。適当に人が集まって、自然とそこが観客席として機能し始めた成り行きのものでした。

本当に、急遽のソロライブなんですね。歩夢さん。

とりあえず私もその人の集まりに混ざる。辺りはザワついている。

校内で有名な不良、上原歩夢さんの初ライブ。いや、元不良と例えた方がいいですね。今の歩夢さんを不良と呼ぶのは、とても失礼な気がします。
皆さんも歩夢さんのライブに興味津々みたいです。


菜々「……」

菜々「あっ!」


スタスタ、スタスタ


歩夢「…………」


部室棟屋上をステージにして、歩夢さんが現れる。
周りの人達がもっとザワつき始める。

──少しうるさいくらいと思うくらい。

しかし、歩夢さんはそのうるさい観客席とは真逆で、とても静かだった。

お祈りをするかのように、目を瞑り、手を組む。静かに、深呼吸をしている。
ピンクを基調としたライブ衣装に身を包ませた歩夢さんは、とても可愛らしかった。



336: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 04:59:30.06 ID:3X/QNNx9.net

歩夢「──皆さん」

歩夢「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」ニコッ

歩夢「……余計な事は言いません」

歩夢「今はただ」

歩夢「私の歌を聞いて下さい」ニコッ

歩夢「──」スゥゥゥゥ


歩夢さんが話し始めた瞬間、辺りは静まり返った。

そして歩夢さんは──世界を変えた。



337: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:06:31.25 ID:3X/QNNx9.net

歩夢「今は小さな」

歩夢「小さな 蕾だけど」

歩夢「いつの日にか きっと」

歩夢「咲かせましょう」



歩夢「大輪の花─────────!!」



338: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:07:14.48 ID:3X/QNNx9.net

【開花宣言】



339: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:20:04.58 ID:3X/QNNx9.net

菜々「」


言葉が出なかった。息を吸う事も忘れていたかもしれません。

歩夢さんが歌い始めると、世界が変わった。

私の周りにいた人達はいなくなり、歩夢さんしか見えなくなった。
辺り一面には桜の木と、その花びらが舞う。綺麗な蕾も囲まれており、歩夢さんの歌に呼応するかのように、少しずつ咲き始める。


──今は小さな 小さな蕾だけど──

──あなたがくれた愛を 育んで──

──力いっぱい 空に伸びてゆくんだ──

──いつの日にか きっと──

──咲かせましょう──

──大輪の花──



菜々「──す、すごい……!」


胸の高まりが治まらない。

これは、何ですか?

ドクンドクンと、胸がドキドキする。笑顔で歌う歩夢さんが目に焼き付く。耳が心地いい。手汗が止まらない。心臓の鼓動が治まらない。

これは、何ですか? 言葉に出来ない感情。

ただ、自然と思い浮かんだ言葉は──

──大好き。

それだけでした。



340: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:26:01.31 ID:3X/QNNx9.net

歩夢さんが歌い終わると、周りからは歓声が上がった。
想像以上に良い、かわいい、本当にあの上原歩夢なのか。等々、皆さん各々感想を語る。ライブ前よりもザワついてました。


菜々「……!」ドキ、ドキ


私は、何も言えなかった。

ただ、ただ──胸に手を当てながら立ち尽くしてました。

これが──スクールアイドル……!!


──この瞬間、私の人生が変わったのでした。



341: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:31:22.82 ID:3X/QNNx9.net

愛「………………」

エマ「……ごい」

愛「え……?」

エマ「すごい……!」

愛「……」

愛「っ、……ッ!////」

「わ、わかる!! 凄かったよね!?」

エマ「え?」

果林「わたしも! たまたま見てたんだけど!」

果林「ほんとーに凄かった!! 感動しちゃったぁ!」

果林「はぁ……かえーしきゃのー!」ニコニコ

果林「あなたも感動したよね!?」ギュッ!!

エマ「ふぇ!?」ビクッ!

愛「──!! おい! お前エマさんになに──」

果林「あなたも感動したよね!?」

愛「え?」

果林「これが……スクールアイドル!」

果林「すごきゃ〜!!」キラキラ キャッキャ

愛「……っ……////」

エマ「…………」



342: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:48:49.03 ID:3X/QNNx9.net

璃奈「いやぁ……歌って良いもんなんだね」

エマ「!?」ビクッ!

愛「!?」ビクッ!

果林「ん〜?」

璃奈「たまたま、なんとなく見ただけなんだけど」

璃奈「端的に言うと、すっごい感動しちゃったね」

璃奈「歌には精神的疲労回復、癒し効果などのヒーリング機能もあるって学術的に証明されてるんだよね」

璃奈「これは良いモノが見れたよ」

璃奈「うん……上原歩夢さん」

璃奈「すき」グッ

愛(な、何だこのチビ……)

果林「わかるわかる! すごかったよね、上原歩夢ちゃん! わたしもすき!」

璃奈「話がわかるおねーさんだね」

果林「──よし! 決めた!」

エマ「え?」

果林「わたしもスクールアイドルになる!」

愛「!?」

果林「──ってぇ!! 私そういえば補習だったんだぁ!!」

果林「ね、ねぇ! あなた3201の教室まで案内してくれない!?」

エマ「え? わ、私が……?」

果林「うん!」ニコニコ

エマ「別にいいけど……」

愛「え!?」

果林「ほんと!? やったら〜! どーもよい!」

果林「あなた、お名前なに!?」

エマ「え、エマ・ヴェルデ……」

果林「エマね! わたしは朝香果林! よろしくねエマ!」ニコッ

エマ「──う、うん! よろしくね果林ちゃん!」ニッコリ

愛「………………」

愛「……上原……」

愛「っっ……」



344: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 05:56:26.87 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜数日後〜

ライブは無事、成功に終わった。
反響も良く、校内で色々な子に声を掛けられることが増えた。


歩夢「はい、できたよ」

「わぁ……!! ありがとうございます! 歩夢さん!」

歩夢「いーえ」ニコッ


サインも求められることが増えた。私のサインなんて、そんなに価値があるようには思えないんだけどなぁ……。
でも、とっても嬉しい。

スタスタ

菜々「歩夢さん、こんにちは」

歩夢「あっ! 菜々ちゃん!」

歩夢「こんにちは」ニコッ

菜々「はい」ニコッ

歩夢「どーしたの?」

菜々「歩夢さん」

菜々「今日の放課後……お時間頂けますか?」

歩夢「放課後? うん、別に大丈夫だよ。何かあるの?」

菜々「……講堂に来て頂きたいんです。歩夢さん一人で」

歩夢「え? 私一人で?」

菜々「はい」

菜々「お待ちしております」ニッコリ

歩夢「わ、分かった」

菜々「ありがとうございます! それでは……」

スタスタ

歩夢「……?」

歩夢「菜々ちゃん……どうしたんだろ?」



345: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:05:15.04 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

放課後、私は菜々ちゃんとの約束通り講堂に一人でやって来た。

中に入るけれど……。

歩夢(え? く、暗い……)

歩夢「菜々ちゃん? 菜々ちゃーん?」


菜々「歩夢さん、ここです」


菜々ちゃんの声が聞こえると同時に、講堂の中心部にライトがつく。
そこには菜々ちゃんがいた。


歩夢「え?」

菜々「歩夢さん。あなたに見てほしいものがあるんです」

菜々「見やすい席におかけ下さい」ニコッ

歩夢「う、うん」スタッ

菜々「……歩夢さん」

歩夢「?」

菜々「──後で謝罪させてください」

歩夢「な、なにを?」キョトン

菜々「そして、見てて下さい。聞いて下さい」

菜々「私の──大好きを!」ニコッ

歩夢「──え?」



346: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:06:58.50 ID:3X/QNNx9.net

菜々「走り出した!」

菜々「思いは強くするよ」

菜々「悩んだら」

菜々「君の手を握ろう──────」



347: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:07:59.63 ID:3X/QNNx9.net

【CHASE!】



348: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:15:05.83 ID:3X/QNNx9.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢さんのライブを見た後、私はありとあらゆる時間を使ってスクールアイドルについて調べました。

スクールアイドルに興味がない? 私は──なんて損な人生を歩んでいたんだろうか。

あんなに胸がドキドキするものを、知らなかっただなんて……。

今の思いは、一つしかなかった。スクールアイドルになりたい。

歩夢さん。お誘い断ってしまってごめんなさい。

私、スクールアイドルになりたいです。
その為に、大好きを詰め込んで──歌も作ってきました。


菜々「足を踏み出す 最初は怖いかも」

菜々「でも 進みたい」

菜々「その心があれば」



歩夢「」


歩夢さんの表情は、見えない。いや、見ている余裕がない。
動きながら歌うのは、なんて難しいんでしょう。音も少し外してしまう所がある。この前の歩夢さんのライブの凄さがわかる。

──でも、楽しい……!!



349: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:17:47.75 ID:3X/QNNx9.net

菜々「なりたい自分を」

菜々「我慢しないでいいよ」

菜々「夢はいつか」

菜々「ほら」

菜々「輝き出すんだ──────!!」



350: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:22:49.13 ID:3X/QNNx9.net

菜々「はぁ、はぁ、はぁ……!」


歌い終わり、息が上がる。自分の全力を、出し切ったからか……とても、疲れました。
ただ、疲れて座るのは今度。今はこの思いを私の憧れの人に伝えなければ……!
そう思い、私は歩夢さんに声をかける。けど──


菜々「歩夢さん! 私もスク──」



菜々「──え?」


歩夢「ひっぐ……! っ……ひぐ……!!」


菜々「あ、歩夢……さん……?」


歩夢さんは──泣いていた。



351: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:32:27.25 ID:3X/QNNx9.net

菜々「……あ、歩夢さん?」


顔を両手で覆い隠し、歩夢さんは肩を揺らしながら泣いている。

まるでひとりぼっちになってしまった、迷子の女の子のように泣いていた。

ち、違う。私は──歩夢さんに泣いて欲しかったんじゃ……!!

私は歩夢さんの元まですぐに走り、駆け寄る。


菜々「あ、歩夢さん! ごめんなさい! 私、スクールアイドル断ったのにこんな」

歩夢「違う……違うの……っ……!!」

歩夢「違うのぉ……!!」

菜々「あ、歩夢さん……」

歩夢「……私……私……!!」

歩夢「もう……せつ菜ちゃんに……会えないと思ってたのに……!」

歩夢「ひっぐ……! ぁぅ……!!」

歩夢「本当に……泣いちゃって……」

歩夢「ごめんなさい……!!」ポロポロ

菜々「歩夢さん……」


せつ菜に……会えない?

なんでそんなに、泣いてるの……?

疑問しか思い浮かばない。──でも、今はそんなのどうでもいい。



361: 1 2021/05/18(火) 07:37:41.62 ID:LwZB3sKK.net

菜々「歩夢さん」


ギュッ


歩夢「!!」

菜々「我慢しなくて……いいです」

菜々「誰だって……泣きたい時はあります。理由は勿論気になりますけど……」

菜々「後で……いくらでも話、聞けますから。私も謝りたいことやあなたに伝えたい事が沢山あるので」

菜々「沢山お話しましょう」

菜々「だから今は」

菜々「思いっきり泣いていいよ」ギュュュュ

歩夢「!! せつ菜ちゃん……!!」

歩夢「ッ──」

ギュッ!!





歩夢「──うああああああああああああッ!!!!」



353: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:39:57.83 ID:3X/QNNx9.net

今はただ──この人を守りたいって思った。



354: 名無しで叶える物語 2021/05/18(火) 06:41:03.14 ID:3X/QNNx9.net

【Members walking together】

【NEXT】

【宮下愛】



381: 1 2021/05/19(水) 09:17:58.38 ID:m4zIh9b1.net

「ねぇねぇ! 歩夢ちゃん!」

「んー?」


──これは、夢だろうか? 見覚えのある教室。なんだか懐かしい気分になる。ここは、小学校?


歩夢(教室の隅にいるあの子達……私と)

歩夢(侑ちゃん?)


そこには私と、小さい頃の侑ちゃんがいた。
小学生1、2年生くらいの時かな?

そんなの2人の様子を私は第三者視点で見つめていた。


「この雑誌見て! これ!」

「わぁ……可愛いお姉さん達がいっぱいうつってるねぇ」

「だよねだよね!? スクールアイドルっていうんだって!」

「スクールアイドル?」

「うん!」


楽しそうに話している。侑ちゃんの笑顔は、今と変わらず見ているこっちまで楽しくなってくる。
……そう言えば私、昔は歩夢ちゃんって呼ばれてたなぁ。


「はぁ……可愛いなぁ……──ねぇねぇ!」

「どうしたの?」

「歩夢ちゃん、スクールアイドルになってみない!?」

「え、えぇ!? わたしが!?」

「うん! 歩夢ちゃん可愛いしぜったいなれるよ! スクールアイドルに!」

「……うーん……自信ないなぁ」

「そっかぁ……ざんねん……」

「でも……」

「ん?」

「──若葉ちゃんがそう言うなら、がんばってみようかなぁ」ニコッ


歩夢(──え?)



382: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 09:22:04.76 ID:m4zIh9b1.net

ガバッ!!

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「ゆ、夢……?」


若葉……ちゃん? 私、侑ちゃんと話してたんじゃないの?

先程見た夢、所々違和感を覚える。

──私、小さい頃にスクールアイドルの話……してたっけ?


歩夢「ッッ!!」ズキッ!!

歩夢「あたま……いったい……ッ……!!」ズキ、ズキ

歩夢「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

歩夢「…………」

歩夢(治まってきた……)


頭が割れそうになった。まだ少し痛い。
私が今の上原歩夢になってから──今みたいに頭が痛くなる事が、時々ある。

意識が飛びそうになるくらい痛くなる時だってある。なんなんだろ、この頭痛……。


歩夢「…………」

歩夢「学校いる時とか、歌ってる時は……起きないといいなぁ……」



384: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 09:27:16.21 ID:m4zIh9b1.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「はい、入部届け受け取ったよ〜」

彼方「えっと……」

「……」ニコニコ

彼方「優木せつ菜ちゃん……?」

せつ菜「はい!」ペカー

「「「…………」」」

歩夢「あ、あはは……」



386: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 09:30:34.11 ID:m4zIh9b1.net

せつ菜「中川菜々改めまして、優木せつ菜です! 皆さん、これからよろしくお願いします!」

かすみ「中川会長、本当にそのキャラでいくんだ」

せつ菜「せつ菜です! あとキャラではありません! 私は優木せつ菜ですから!」

しずく「いやぁ、中川かいちょーが全校集会で改名宣言! って旗持ちながら」

しずく「今日から私は優木せつ菜です!」ペカー

しずく「──ってやった時はまじでウケたわ。中川かいちょー面白いからあたし好きなんだよね」

せつ菜「ありがとうございます! あとせつ菜です!」

彼方「まぁ、スクールアイドル同好会としては部員が増えるのは嬉しいしありがたいから大歓迎だけどねぇ〜。よろしくね、菜々ちゃん」ニコッ

せつ菜「ありがとうございます! 彼方さんっ! これからよろしくお願いしますっ」

せつ菜「せつ菜です!!」ペカー



387: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 09:35:22.98 ID:m4zIh9b1.net

歩夢「な、菜々ちゃん」クイクイ

せつ菜「ん? なんですか歩夢さん?」

せつ菜「あとせつ菜です!」ペカー

歩夢「……せつ菜ちゃん」

歩夢「大丈夫なの?」

せつ菜「え?」

歩夢「その……裏垢名なんじゃないの?」ヒソヒソ

せつ菜「あぁ、ご心配なく」

せつ菜「もうあのアカウント消しましたので!」

せつ菜「今の私には、必要ありませんからっ」

歩夢「……そっか」ニコッ

せつ菜「それに」

歩夢「?」

せつ菜「これでいつでもせつ菜に会えますよ」

せつ菜「歩夢さん」ニコッ

歩夢「!!」

せつ菜「ふふ」クスクス

歩夢「せつ菜ちゃん……」

歩夢「ありがとう」ニコッ

せつ菜「はい!」

歩夢「でも私、せつ菜ちゃんや菜々ちゃんとかじゃなくて……あなたが好きだから」

歩夢「あんまり名前に拘らないで大丈夫だからね?」

せつ菜「っ!!////」カァァァァァ

せつ菜「は、はい……////」

歩夢「ふふっ」クスクス



395: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 23:27:08.32 ID:/ATcnxFz.net

かすみ「……歩夢先輩。なに2人でコソコソ話して笑ってるんですか?」ジトー

歩夢「あっ、かすみちゃん」

せつ菜「かすみさんも混ざりますか?」

かすみ「はぁ……そういうことではありません」

かすみ「ライブが終わったからと言って、油断してはダメですよ歩夢先輩」ピシッ

かすみ「ライブもまだまだでしたし、私が満足する出来ではありませんでしたよ? もっと練習しないとです」

歩夢「そ、そうだよね……もっと頑張らないと」

かすみ「そうです。なので私とダンスレッスンを一緒に──」

しずく「かすみ、歩夢さんのライブ中めっちゃ楽しそうにサイリウム振ってたじゃん」

しずく「しかもライブ終わった後もめっちゃ満足そうだったじゃん」

歩夢「え? そうなの?」

かすみ「…………」

かすみ「ふん!」ペシンッ!!

しずく「いったぁ!! ──暴力反対!!」

かすみ「うっさい!」プイッ



396: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 23:35:48.07 ID:/ATcnxFz.net

彼方「でも、本当に良いライブだったよ歩夢ちゃん。私もやる気出たし、今日は練習参加するよ」

歩夢「え? 本当ですか? ありがとうございますっ」

せつ菜「素晴らしいライブでした! もしかしたら私みたいに、スクールアイドルを始めたいと言う方が現れるかもしれませんよ?」

歩夢「えー? それはさすがに……」


コンコンコン


彼方「ん? お客さんかな? はーい」 スタスタ

せつ菜「ほら! 早速入部希望者が来たのかもしれません!」

歩夢「いやいや、それはないよせつ菜ちゃん」

しずく「あたし知ってるよこれ」

かすみ「なにが?」

しずく「これ、フラグ回収ってやつだよ」


彼方「空いてますよ? どうぞー」


ガチャ!

「失礼しまーす!」

「失礼するよ」


歩夢「──あっ」



398: 名無しで叶える物語 2021/05/19(水) 23:51:47.82 ID:/ATcnxFz.net

歩夢(果林さんと、璃奈ちゃん!)


果林「……」ニコニコ

璃奈「……」

せつ菜「あなた方は──ライフデザイン学科の朝香果林さんと、情報処理学科の天王寺璃奈さんじゃないですか!」

果林「こんにちは! 会長!」

璃奈「ん」ペコリ

彼方「おぉ〜果林ちゃんじゃん。どうしたの?」

果林「あっ! 彼方! なんでここにいるの!?」

彼方「私、スクールアイドル同好会の部長なんだ。だからここにいるの」

果林「へぇ〜!!」キラキラ

しずく「知り合いなの? かな姉」

彼方「うん。クラスは違うけど学科は同じなんだよね。授業被ったりもしてるよ」

果林「彼方はいつも勉強助けてくれるから助かってるよ〜!」ニコニコ


歩夢「」

歩夢(か、果林さん?)

歩夢(あの人、果林さんだよね!?)



399: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 00:06:23.09 ID:zOvSbmqv.net

歩夢(声高すぎない!?)


かすみ「げっ……天王寺璃奈……!?」

せつ菜「? どうしたんですか、かすみさん」

かすみ「いや……その……」

璃奈「おや? かすみちゃんだ」

かすみ「…………」

璃奈「そうか、あなたもスクールアイドルだから同好会に所属してるんだね。これは助かるよ。知り合いがいるのといないのじゃ、居心地の良さに雲泥の差があるからね」


歩夢(璃奈ちゃんは……少し口調が違うくらいだけど……あんまり変わら──)


璃奈「それに、あなたの可愛い理論と私の考える可愛い理論について語れるね」ニヤニヤ

かすみ「話長いからやだし、私あなたのこと苦手だから付き合いたくない。帰って」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」ニコッ

かすみ「照れてない!!」


歩夢(あっ、全然違った……)

歩夢(でも、笑ってる璃奈ちゃん可愛いなぁ。笑ってなくても可愛いけど)



400: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 00:17:24.09 ID:zOvSbmqv.net

かすみ「──って、いま居心地がとか言ってたけど……ま、まさか?」

果林「そう! わたし達!」

璃奈「スクールアイドルになりたくてやってきたよ」グッ

かすみ「」

せつ菜「おお!! 予想的中です!!」

しずく「まさかまさかの新入部員増加ブーストだねぇ」

彼方「すごいねぇ〜」ニコニコ

しずく「ねぇ〜」ニコニコ

歩夢(私の知る人達が……少しずつ集まってくる……!)

歩夢「ふふっ、嬉しいなぁ」ボソッ ニコニコ



402: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 00:21:43.48 ID:zOvSbmqv.net

果林「あっ!!」

歩夢「へ?」

タッタッタッタ! ──ギュッ!!

果林「上原歩夢ちゃんだよね!?」

歩夢「は、はい」コクリ

果林「はぁぁぁぁぁ!」

歩夢「!?」

果林「近くでみるとほんっとかえーしきゃー!」

歩夢「へ? か、かえ……?」

果林「あぁ、ごめん! 可愛いねー!」

歩夢「え、えぇ!?」

果林「わたし、あのライブ見てあなたのファンになったの! 会いたかったよー!」ギュッ!!

歩夢「か、果林さん!?(スキンシップが激しすぎるよ!?)」

果林「んー、予想通り歩夢ちゃんやわらきゃ〜!」ギュュュュ

歩夢「えぇ……」

せつ菜「むっ……」ムスー

せつ菜「…………」ギュッ

歩夢「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「寒かったのであっためてほしいです」

歩夢「今の気温、26℃あるよ……?」



408: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 00:40:47.22 ID:zOvSbmqv.net

歩夢「と、とりあえず動けないです……」

せつ菜「そうですね。果林さんがくっついたままだと歩夢さんが動けないですもんね。離れて下さい、果林さん!」ニコッ

歩夢「いや、せつ菜ちゃんもだよ?」

果林「あぁ、かんべんよー」スッ

せつ菜「いいんですよ果林さん」ペカー

歩夢「……」

璃奈「果林さんと同様、私もあなたのライブを見てスクールアイドルになりたくなったよ」

璃奈「歩夢さんのライブはとても良いものだった」

璃奈「端的に言うなら、素晴らしい」

歩夢「ほ、ほんと? ありがとうね璃奈ちゃん」ナデナデ

璃奈「!?///」ビクッ!

歩夢「──あっ、ご……ごめんね? つい撫でちゃった」

璃奈「なぜかな? 出会ったばっかなのに何故かナデナデしてもらえるくらい好感度が高い。以前から私を知っているかの様な手馴れた動作だった」

璃奈「さては歩夢さん……私の事すきだね?」

かすみ「は?」

歩夢「あ、あはは……」

璃奈「私は私をすきな人がすきなんだ」

歩夢「え?」

璃奈「イメージ通り歩夢さんは優しい人だし……歩夢さん、すき」ギュッ

歩夢「あ、ありがとう」

歩夢(なに!? みんな大胆過ぎるよ……!)

歩夢(でも、なんだか賑わってて)

歩夢(楽しい)



414: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 00:59:55.74 ID:zOvSbmqv.net

かすみ「はぁ……騒がしくなりそうですね。急にこれだけ新入部員が増えるとなると」

彼方「イスとかロッカー増やしてもらってて良かったよね」

かすみ「せつ菜さん入部後にすぐもう1人部員が増えましたもんね」

璃奈「おいおいかすみちゃん。果林さんを省くんじゃないよ。可哀想」

かすみ「頭の中お花畑なの?」

果林「えぇ!? わ、わたし入部認めてもらえないの!?」

果林「ひどい!!」シクシク

かすみ「彼方先輩! クセが強い部員増えすぎなんですけど!! 助けて!!」

彼方「みんな個性的で可愛いね〜」ニコッ

しずく「まともなのは歩夢さんとかな姉だけだね」

しずく「──あっ、あとあたしかぁ」ニコニコ

かすみ「能天気コンビが!!」



415: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 01:10:11.14 ID:zOvSbmqv.net

歩夢「あっ、みんなごめんなさい。私ちょっと飲み物買ってくるね?」

果林「あっ! わたしも行きたいっ」

果林「わたし方向音痴でさぁ〜。道迷っちゃうから案内してほしい!」

歩夢「いいですよっ(自販機すぐそこなんだけどね……)」

果林「やったら〜! ありがとう!」バンザーイ

歩夢(かわいいなぁ。違和感凄いけど……)

しずく「歩夢さん、行ってらっしゃい〜」フリフリ

せつ菜「うぅ……飲み物、買い忘れてれば良かったです……」ボソッ


スタスタ ガチャ



「──あっ」

歩夢「え?」

果林「ん?」

愛「…………」

歩夢「愛ちゃん?」



416: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 01:20:18.55 ID:zOvSbmqv.net

愛「……」

果林「あっ! あなた、あの時エマと一緒にいた子!」

歩夢「え?」

愛「なっ!!」

果林「歩夢ちゃん、この子もライブ見てたの!」

果林「部室前にいたって事は、入部希望!?」

愛「な……なぁ……!!」プルプル

愛「──んなわけあるか! 馬鹿かよ!!」プイッ

果林「なっ! ば、馬鹿じゃないもん!」

愛「うるせぇ!」

歩夢「愛ちゃん、私に用事? それとも本当に……」

歩夢「あっ! それよりもライブ見てくれてたんだね!」

歩夢「ありがとうっ」ニコッ

愛「──ッ!!」

愛「……なんでもねぇよ」

歩夢「え?」

愛「なんでもないっつの!!」バッ

タッタッタッタ!!

歩夢「あ、愛ちゃん!?」

果林「足はっやいね〜。すごきゃ〜」

歩夢「……ごめんなさい果林さん。私、愛ちゃん追いかけて来ます!」

果林「え?」

タッタッタッタ!!

果林「あ、歩夢ちゃーん!?」



417: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 01:28:30.51 ID:zOvSbmqv.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「愛ちゃん!」

歩夢「待って──愛ちゃん!」

愛「っ、んだよ!!」

歩夢「!!」ビクッ

愛「…………」

歩夢「え、えっと……その……」

歩夢「な、何か用事でもあったの?」

愛「だからなんでもねぇって言っただろ……追いかけて来んな」

歩夢「で、でも急に愛ちゃんが──」

愛「ッ──!! その!!」

愛「愛ちゃんってのやめろッ!!」

歩夢「ひっ!」ビクッ!!

愛「!!」

歩夢「……ご、ごめんね……?」

愛「…………」

愛「なぁ」





愛「お前……誰なんだ?」

歩夢「え?」



418: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 01:39:01.10 ID:zOvSbmqv.net

愛「……アタシが知ってる上原歩夢は」

愛「アタシを絶対にちゃん付けなんてしないし」

愛「笑顔も向けない」

愛「怒鳴り声にもビビったりしない」

愛「アタシを見て泣いたりしない」

愛「抱きついたりしない」

愛「あんな歌を……歌わない……」

愛「……あんたみたいな優しい目をしてない……」

歩夢「……」

愛「なぁ」

愛「……あんた……誰なんだよ」

歩夢「わ、私は……!」

愛「──アタシが憧れてた上原歩夢を」

愛「返してくれよ……!」

歩夢「」


悲しそうな愛ちゃんの表情が──私の目に焼き付いてしまった。



433: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:02:14.46 ID:zOvSbmqv.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

アタシの実家はもんじゃ焼き店を営んでいる。幅広い年齢層から人気だ。
名前は「もんじゃ みやした」。有名人も常連として訪れるとかで、結構有名みたい。

その為か両親は共働きで忙しく、アタシの為に時間を使ってはくれなかった。
いや、別にネグレクトされたりとかではなく、一定の愛情は注いでくれた。

家族を養う為に一生懸命働いているんだ。その時点で感謝はしている。

……ただ、寂しくないかと言えば、嘘になる。

ほぼ年中無休だし、働き過ぎだと思ったし、授業参観とか運動会の応援くらいは来てくれよと思っていた。

──でも、アタシは平気だった。


愛『おばーちゃん! 見て!』

愛『アタシ、テストで100点取った!』

愛『クラスでアタシだけだってさ!』


アタシには、大好きなおばーちゃんがいたからだ。



436: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:12:16.38 ID:zOvSbmqv.net

アタシはおばーちゃんの怒った所、見たこと無かった。
いつも笑顔で優しくって、可愛い。自慢のおばーちゃん。

すごくアタシに優しくしてくれて本当に大好きだった。

目元がアタシと似てて、アタシは自分の容姿が大好きになり自信が持てた。共通点があって、嬉しかったなぁ。

あと、おばーちゃんが作るぬか漬けは、本当に大好きだった。世界一美味しい。
小学生の頃大好物は何って友達に聞かれた時、おばーちゃんが作るぬか漬けと答えたくらい。

それくらい大好きだった。

両親は忙しかったし、たまには休んでアタシとの時間を過ごしてくれって思っていたけれど!
おばーちゃんがいたから……平気だった。


でもそんな優しいおばーちゃんが──ある日突然、亡くなった。



437: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:13:30.87 ID:zOvSbmqv.net

愛『うそ』

愛『そんなの絶対に……嘘だよ……』


アタシが中学一年生の時だった。

別に、重い病気があったりとかではなかった。
もっと、長生きするはずだった。

そう、おばーちゃんはもっと長生きするはずだったんだ。

たまたま引いた風邪が原因で、おばーちゃんは体調を崩し、病院に行き、入院して──ある時に亡くなった。


愛『嘘だよ……そんなの、嘘だよッ!!』


信じられなかった。

アタシはその事実を知らされた時、信じられないくらい泣いた。

だってさ、風邪だよ?

それが原因で亡くなるだなんて、思っていなかった。

お葬式は静かに行われたけれど……アタシは正直放心状態だったからあんまり覚えていない。

お店も臨時休業。アタシの両親への休んでくれと言う想いは、皮肉にもおばーちゃんの死で実現されてしまった。

アタシは、これからひとりぼっちになるのかな?

それとも、両親が少しはアタシに構ってくれるようになるのかな?

色々な思いがあったけれど──とにかくアタシは泣いた。



438: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:20:00.08 ID:zOvSbmqv.net

愛『……………………』


おばーちゃんが亡くなって、数日。

結果を発表しよう。


愛『………………』


両親は今日も元気に働いていた。

アタシはひとりで部屋に蹲っていた。

いつもと変わらない日常。

変わった事はと言えば、おばーちゃんがいない。

それだけだった。

……それだけ?


愛『…………』

愛『ふざけんな』


真面目に生きるのが──馬鹿らしくなった。



440: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:34:33.72 ID:zOvSbmqv.net

愛『…………』


世の中に、何故か無性に腹が立ってしまった。自分で語るのもあれかもしれないけれど、アタシは荒れた。

何をしても楽しくない。ただ、生きててイライラする。負の感情が収まらない。

色々な思いがあった。上手く言葉が見つからないけれど──世の中がクソにしか思えなかった。


愛『……ねぇ……』

愛『今、アタシにぶつかったよね?』

『は?』


ケンカをよくするようになったのは、これがきっかけ。

学校にガラの悪い子がいたけれど、そいつがアタシにぶつかって何も言わずに去ろうとした。
……めちゃくちゃ、腹が立ってしまった。



442: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 20:41:58.05 ID:zOvSbmqv.net

結果、ボコボコにしてしまった。

ケンカしても、いいことはない。手は痛いし、身体だって痛くなる。

──ただ、スカッとしてしまった。

そこからはケンカに明け暮れる日々。

何やってんだろうなって思う事は沢山あった。

でも、他にやる事もしたいこともなかった。

アタシには、ケンカしかなかったんだ。サイコーな事も、楽しい事も……何も無かった。

──ただ、勉強はした。学校はサボったけれど、上から数えた方が早いくらいの成績はキープした。
ケンカだって、アタシと同じく荒れてる奴らとしかしなかった。

おばーちゃんの顔に泥を塗りたくなかったからだ。

いや……不良になってる時点で、泥は塗ってるか……。


愛『…………』

愛『ねぇ』

愛『おばーちゃん』

愛『こんなろくでもないアタシだけど』

愛『アタシがそっち行った時』

愛『怒ってくれる……?』


こうしてアタシは、高校一年生になった。



446: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 21:22:28.97 ID:zOvSbmqv.net

歩夢『ねぇ』

歩夢『そこに立たれるの』

歩夢『邪魔なんだけど』


入学式初日。

虹ヶ咲学園に入学し、最初に聞いた他人の言葉はこれだった。
校舎の大きさに驚き、少し感動して見上げてる時。

そんな時に、わざわざアタシにそんな事言う奴がいた。


愛『あ?』

愛『こんなに道広いんだから少しズレて歩けば良いだろーが』

歩夢『……こんな道のド真ん中で校舎見上げながら立たれると邪魔なんだって言ってるんだけど?』

歩夢『日本語分からないの? 頭悪そ〜』

愛『……アタシ、この学校で一番成績の良い情報処理学科の新入生なんだけど。普通科と偏差値の差が凄いの知ってるか?』ニコニコ

歩夢『…………』

愛『はっ』

愛『ちゃんと調べてからマウント取れよ。ばーか』

歩夢『……』

歩夢『ふふっ』

愛『あ?』

歩夢『頭の良い情報処理学科の人も、あんなお子ちゃまみたいな表情で学校見るんだね』

歩夢『頭脳は大人、見かけはお子ちゃまなんだね』クスクス

愛『』ピキッ

愛『おい』

愛『今アタシの事、馬鹿にしただろ?』

歩夢『……最初から馬鹿にしてるよ?』

歩夢『頭良くても、そんな事も分からないんだねぇ』



448: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 21:28:57.13 ID:zOvSbmqv.net

愛『……』

歩夢『……』

愛『表出ろ』

歩夢『……ここ外だっつの』

歩夢『ばーか』

愛『ッッ……!!』プルプル

愛『ケンカする時のお約束だろうが!!』

歩夢『知らないっての』

歩夢『てか、声デカいんだけど』

歩夢『それに、さっきから余計な事ばっかペラペラ喋ってさ』

愛『』

歩夢『ほんっと』

歩夢『弱い犬ほど良く吠えるんだよなぁ』

愛『』ブチッ


アタシの入学式初日は、こんな感じだった。



452: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 21:34:58.85 ID:zOvSbmqv.net

愛『……』

愛『……いってぇ……』


結果、アタシはボコボコにされた。

ケンカで負けたのは、初めてだった。


愛(クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが)

愛『ッ、ッッ……!!』


あまりにも悔しかった。1発もアタシの殴りは当てられなかったし、一番腹立たしいのはアタシの顔を殴らなかった事。


愛『舐めやがって……!』


サイテーな入学式初日。

その次の日から、アタシのあいつを追う日々が始まった。



456: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 21:52:45.86 ID:zOvSbmqv.net

愛『おい』

歩夢『……』

愛『昨日はよくもやってくれたなぁ……!』

歩夢『……はぁ……』

歩夢『なんの用?』

愛『決着付けるぞ』

歩夢『はぁ?』

歩夢『10対0でわたしの勝ちでしょ』

愛『まだアタシは負けを認めてねーんだよ』

歩夢『……そんなくだらない事言う為にわざわざ普通科の教室まで探して来たの?』

歩夢『こんな広い学校の中でご苦労さまだね〜。暇人だね〜』


めちゃくちゃ広い校内だから、確かに苦労はあった。やっとの思いで見つけた、この目の前の女は……アタシを馬鹿にするように煽り続ける。


歩夢『その頭のしっぽを揺らしながらここまで来たんだね』

歩夢『んー、えらいえらい。可愛いワンちゃんだぁ〜……ナデナデしてあげよーか?』

愛『……ッッ』プルプル

愛『てめぇもアタシと同じ髪型してんだろーが!!』バンッ!!

歩夢『……机叩くなよ』

歩夢『うるさい』



458: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 21:57:46.72 ID:zOvSbmqv.net

ザワザワザワザワ

『え? なに? ケンカ?』

『こわ……』

『……絶対にあぁいうヤンキーっているよねぇ』

ヒソヒソヒソヒソ


歩夢『…………』

歩夢『ねぇ』

歩夢『静かにしててくれる?』

歩夢『うるさいんだけど』


背筋が凍るかのような、とても冷たい一言だった。
教室の中が一気に静まり返る。


歩夢『……場所変えよ』

愛『!!』

歩夢『昨日みたいにまたボコボコにしてあげるよ』

歩夢『このバカ犬が』


この日の上原は、なぜだか機嫌が悪そうだった。



462: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 22:09:46.51 ID:zOvSbmqv.net

愛『…………』


結果、アタシはまたボコボコにされた。昨日と全く同じ展開だった。

化け物かよ。


愛『…………』

愛『上原歩夢……かぁ』


初めてあった、自分よりもケンカの強い人間。

それに、上原はアタシと同じ目をしてて……何故か気になった。

あの、世の中をクソだと思い込んでいる、何も楽しい事が無い目。


愛『おい、てめぇ』



愛『おい、上原』



愛『上原』


アイツを追う日々は、少し楽しかった。



470: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 22:45:42.36 ID:zOvSbmqv.net

歩夢『ねぇ』

歩夢『もうわたしに、関わるのやめてよ』

愛『は?』

歩夢『……』

愛『なんでだよ』

歩夢『……嫌いなの』

歩夢『人が』

愛『…………』

歩夢『だから、もうわたしに関わるの──』

愛『いやだね』

歩夢『はぁ?』

愛『なんでアタシがお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ』

歩夢『……』

愛『……それに』

愛『アタシはまだお前に負けたって思ってないから』

愛『決着付けるまで、付きまとってやるからな』

歩夢『…………』

歩夢『……ふふっ』

愛『んだよ』

歩夢『少しはわたしに攻撃当てられるようになってから言いなよ』

歩夢『宮下』


──この後日、上原は事故にあったって聞いた。



476: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 23:46:38.76 ID:zOvSbmqv.net

ろくでもないアタシだけど、慕ってくれる子達はいた。
そんな子達が集まって出来た愛トモ。その子達から聞いたんだ。

交通事故みたいだった。車にはねられたって聞いた。

病院に搬送されて、入院中らしい。


愛『……』

愛『上原……』


心配ではあった。

でも、アイツなら平気だろう。

だって、あの上原だ。アタシよりも強くて、アタシと似た目をしていて──いつの間にかアタシの憧れの人になってた、上原歩夢。

そんなアイツが、こんなのでいなくなるわけない。

そう思っていた。

そして案の定、上原が退院したという話を聞いた。

──ほら、予想通りだ。アイツは帰ってきた。

これで、決着を付けられる。



478: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 23:52:09.12 ID:zOvSbmqv.net

愛『……ひさ──』


バッ──ギュッ!!


アタシは気が付くと──上原に抱きつかれていた。


愛『は? は……?』

歩夢『……愛ちゃんだ……愛ちゃん……!!』

愛『ちゃ、ちゃん!?』

歩夢『ひっぐ……! ぁぅ……っ……!!』ポロポロ

愛『え、えぇ……』

歩夢『ごめんね……急に泣いて……でも……でも……』

歩夢『愛ちゃんに会えて……嬉しくて……!!』ギュッ

愛『…………』


アタシが会いに行った上原歩夢は……別人になっていた。



479: 名無しで叶える物語 2021/05/20(木) 23:57:58.98 ID:zOvSbmqv.net

最初は事故って頭が混乱でもしたんだろうなと思っていた。
でも、今のアイツを見る度に──


歩夢『私、もう二度とケンカしない』


歩夢『愛ちゃんとは、友達でいたいもん』


歩夢『その上原って言うのも……やめてほしいかな……』



歩夢『──皆さん』

歩夢『本日はお集まり頂き、ありがとうございます』ニコッ

歩夢『……余計な事は言いません』

歩夢『今はただ』

歩夢『私の歌を聞いて下さい』ニコッ


──アタシの知っている上原歩夢がいなくなったの事が、分かった。



481: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 00:08:35.61 ID:6e3tJVW0.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

愛「……」

歩夢「……」

愛「……あんたに言ったってしょうがないかもだけどさ」

歩夢「え?」

愛「今のあんたは、皆から好かれてるよ」

愛「ただアタシは」

愛「アタシと同じ目をした……上原歩夢に……戻ってほしいよ……」

歩夢「…………」

愛「……」

愛「それじゃ……アタシ──」

歩夢「──いよ」ボソッ

愛「え?」

歩夢「──ッ!!」

歩夢「私だってッ!!」

歩夢「元に、戻りたいよ!!」ポロ、ポロ

愛「うえ……はら?」キョトン



486: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 00:17:57.47 ID:6e3tJVW0.net

歩夢「幸せな日々が、無くなっちゃったんだよ!」

歩夢「同好会の皆と過ごしてた日々が、急に無くなってて!」

歩夢「気が付いたら私は一人になっちゃってて! みんな私の事を不良の上原歩夢だって怖がってて!」

歩夢「ケンカなんて、した事ない私を……怖がって!」

歩夢「みんな……みんな……別人になってて……」

歩夢「でも……それでも……前に進まなきゃいけないと思って……頑張って……!」

歩夢「皆もいい子で……やっぱりみんなのこと好きなんだって思えて……!!」

歩夢「楽しいけれど……嬉しい事もあるけど……」

歩夢「……私は……私は……!!」

歩夢「……前の……上原歩夢の日々に……!」

歩夢「もどりたい……!」

愛「…………」

歩夢「……っ……!!」ポロポロ

歩夢「ゆうちゃんに……」

歩夢「会いたいよぉ……っ……!!」ポロポロ

愛「…………」



487: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 00:27:55.83 ID:6e3tJVW0.net

愛「…………」

歩夢「ひっぐ……っ……!!」ポロポロ

愛「…………」


スタスタ


歩夢「っ……っ、……!!」

歩夢(どこかに行っちゃう、愛ちゃん)

歩夢(八つ当たりだって、分かってる)

歩夢(急にこんな事言い出して、絶対に何言ってるんだろうって思われた)

歩夢(でも……ごめんなさい……)

歩夢「…………」

歩夢(耐えられなかった)


スタスタ


愛「…………」

愛「ん」スッ

歩夢「へ……?」

愛「水、飲みなよ」

歩夢「…………」

歩夢「……うん……」スッ

愛「……ちょっと座ろ。あそこにベンチあるし」

愛「歩ける?」

歩夢「……うん……」

愛「ん」



489: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 00:34:37.47 ID:6e3tJVW0.net

愛「……」

歩夢「……」

愛「……」

歩夢「……」

愛「あのさ」
歩夢「あの」

愛「!!」

歩夢「!!」

愛「……先、いいよ」

歩夢「……ううん。先に愛ちゃんからでいいよ」

愛「……分かった」

歩夢「……ありがとう」

愛「…………」

愛「……アタシといつ最初にケンカしたのか……」

愛「覚えてる?」

歩夢「……ううん。覚えてない」

愛「……そっか……」

歩夢「というか、ね……」

歩夢「私、知らないの」

歩夢「今の上原歩夢が過ごしてきた日々」

歩夢「全部」

愛「え?」



491: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 00:49:43.57 ID:6e3tJVW0.net

歩夢「愛ちゃん」

歩夢「私ね」

歩夢「狂犬の上原歩夢とは……言葉の通りの別人なの」

愛「え?」

歩夢「……私は……」

歩夢「マンションに住んでて、大好きな幼馴染の侑ちゃんが隣に住んでいて、楽しい日々を過ごしてた」

歩夢「そして、スクールアイドルに出会って、スクールアイドルになって」

歩夢「スクールアイドル同好会に入って……皆と楽しい日々を過ごしてたの」

愛(マンション……?)

歩夢「同好会の皆のこと、本当に大好きなの。同好会のメンバーは」

歩夢「せつ菜ちゃん、かすみちゃん、しずくちゃん、璃奈ちゃん、彼方さん、果林さん」

歩夢「そして」

歩夢「エマさんと」

歩夢「愛ちゃん」

愛「──は?」

愛「アタシ……!?」

歩夢「うん」

歩夢「私が知ってる皆は、スクールアイドルだった」

愛「…………」

歩夢「そんな皆と過ごしてた。スクールアイドルフェスティバルも開催できて、無事に終わって、10月を迎えた」

歩夢「……楽しかったなぁ」

愛「……」ポカーン



493: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 01:09:50.05 ID:6e3tJVW0.net

歩夢「何言ってるんだって思うよね」

歩夢「私の頭、おかしくなっちゃったのかなって思うよね」

愛「!! そんなこと──」

歩夢「実際に頭おかしくなっただけなら、どれだけ良かったんだろ」ニコッ

愛「!!」

歩夢「今は5月で、私が最後に見た景色と季節は10月。こんなわけがわからないものが……現実だったの」

歩夢「痛みは感じるし、夢じゃない。時間だって変わらずに、無情にも動くし」

愛「……」

歩夢「……本当にごめんなさい。急にこんな事言って」

愛「……あんた……もしかして」

愛「別世界の……人間なのか?」

歩夢「…………」

歩夢「よく、わかんない」

歩夢「別世界の存在だなんて、現実だとは思えないもん……」

歩夢「──でも、私も上原歩夢なの」

歩夢「ただ……今の、この上原歩夢と私は別人」

歩夢「私が知る同好会の皆も……別人だし……」

歩夢「便利な事で例えるなら、別世界の上原歩夢」

歩夢「……なのかも……」

愛「…………」



494: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 01:21:49.62 ID:6e3tJVW0.net

愛「……」

愛「聞いたことがある」

歩夢「え?」

愛「この現実とは別に、もう1つの現実が存在する」

愛「もしもこうだったらどうなっていたのか」

愛「そういう、歯車のズレで生まれる……並行世界」

愛「SF作品の中だけでなく、理論物理学で存在について語られている世界の可能性の話。そんな並行世界を──」



愛「──パラレルワールドって、言うらしい」

歩夢「パラレルワールド?」



501: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 01:54:51.27 ID:6e3tJVW0.net

愛「例えば──マンションに住んでいる幼馴染がいたとするだろ? 幼馴染はAとBの2人だとする。Aは本来202に住む予定。Bは203に住む予定だったとする」

愛「そのまま予定通り202と203で住んだAとBは、仲良く過ごし人生を歩む」

歩夢「うん」

愛「じゃあ、その人達の部屋の番号が逆になったとしたら」

愛「たったそれだけで全く別の人生になる」

歩夢「え? 部屋が逆になっただけなのに……?」

愛「本来の予定とのズレ。部屋の番号が逆になるってことは、その前に何かあったのかもしれない。内装確認した時に気に入らない箇所を見つけたのか、窓からの景色が気に食わなかったのか、なんとなくで気が変わったりとか等々──それら可能性は全ての現象に影響してくるんだ」

愛「その人達が、例え同じ人物だったとしても、な」

歩夢「…………」

愛「そんなありえたかもしれない可能性が世界を分岐させて、並行世界として生まれる。それがパラレルワールドって言うらしい」

歩夢「……難しいや」

愛「まぁ、今が語った事も1つの理論でしかない」

愛「正解は存在しねぇし、誰にも分からないんだよな」

歩夢「…………」

愛「……なるほど、ねぇ……」

歩夢「え?」

愛「そりゃ……別人だなって思うわけだ……」

愛「スクールアイドルやってた上原が……不良の上原の人格になったんだもんなぁ……」

愛「別人な……わけだよ……」

歩夢「愛ちゃん……」



502: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:00:31.97 ID:6e3tJVW0.net

愛「……なぁ」

歩夢「?」

愛「アタシが知ってる上原歩夢は……」

愛「消えちゃったのか……?」

歩夢「……わかんない」

歩夢「でも、私……思ってない事を喋っちゃった時があったの」

愛「え?」



503: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:04:16.73 ID:6e3tJVW0.net

──────────

歩夢『──わたしね』

歩夢『あの子と約束したの』

歩夢『スクールアイドルになるって』


歩夢『わたし、本当はケンカなんてしたくない』

歩夢『わたしは……あの子と一緒に、ずっと一緒にいたかっただけ……!』

歩夢『でも……それはもう叶わない夢だから』

歩夢『だから……だから……わたしは……それが許せなくて……!!』

──────────



504: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:09:13.50 ID:6e3tJVW0.net

歩夢「私の意志とは別に、発された言葉だったの」

歩夢「……私の存在しない記憶も……あるし」

歩夢「あの時の言葉が……上原歩夢の本心かは分からないけれど」

歩夢「……この子の、上原歩夢の──本当の思いだったんじゃないかなって思いたいかな……」

愛「……」

歩夢「というか愛ちゃん」

愛「え?」

歩夢「私の言葉……信じてくれるの?」

歩夢「こんな……わけわからない話なのに」

愛「……信じるしかないだろ」

愛「アタシ、あんたが嘘ついてるように思えないし」

歩夢「……」



506: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:29:16.05 ID:6e3tJVW0.net

愛「あのさ」

愛「あんたのよく知るアタシの事……教えてくれない?」

歩夢「……うん、いいよ」

愛「……」

歩夢「愛ちゃんはね、とっても面白くて明るくって、可愛い子なの」

愛(別人じゃねーか……)

歩夢「璃奈ちゃんと仲良しでね。部活の助っ人にたくさん呼ばれて部室棟のヒーローって呼ばれててね」

歩夢「出会ったばかりの私にも優しくしてくれたの。あなたと一緒で、私のよく知る愛ちゃんも優しい子なんだぁ」ニコッ

愛「……」

歩夢「あとね、よくダジャレを言って場を和ませてくれるの」

愛「え?」

歩夢「よく言うダジャレはね」

歩夢「愛してるよ、愛だけに」

歩夢「って言うの」

愛「────」



507: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:30:05.03 ID:6e3tJVW0.net

愛『おばーちゃん! 見て!』

愛『アタシ、テストで100点取った!』

愛『クラスでアタシだけだってさ!』

『おー、すごいね愛ちゃん。いい子いい子〜』

愛『えへへ〜!!』

愛『おばーちゃん大好き!』

『ほんと? 私も愛ちゃんの事、愛してるよ』

『愛だけに、ね』

愛『きゃはは!』

愛『おばーちゃんのダジャレ、ほんっと面白い!』

愛『大好きー!』



510: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:33:27.97 ID:6e3tJVW0.net

歩夢「愛ちゃん?」

歩夢「愛……ちゃん……?」





愛「ッ……、っ……!!」ポロポロ

愛「ぁ……ちが……これ……っ……!!」ポロ、ポロ

愛「ぅぁ……ぁ、ぐっ……ひぐ……っ……!!」

歩夢「あ、愛ちゃん……?」

歩夢「──愛ちゃん!!」



514: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:43:20.46 ID:6e3tJVW0.net

愛「……っ……そっか……」

愛「そっちのアタシは……幸せなんだね……!」

愛「アタシ……不良になんかなっちゃって……」

愛「何やってんだろうなぁ……っ……!」ポロポロ

歩夢「──っ愛ちゃん!」

ギュュュュ

歩夢「愛ちゃんは愛ちゃんだよ!」

歩夢「不良になってたって、変わらない! あなたは、私の知る愛ちゃんと変わらない……優しい愛ちゃんだよ……!!」

愛「……っ……」

歩夢「それに……泣きたい時は……我慢しなくていい……」

歩夢「大丈夫だから……ね?」ポロポロ

歩夢「泣いて……いいから……」ポロポロ

愛「──っ!!」

愛「うん……! うん……ッ……!」ギュッ

愛「……ありがとう……っ……!!」ギュュュュ

歩夢「…………」

ギュュュュ







515: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:48:17.53 ID:6e3tJVW0.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

愛「……ごめん。急に泣いたりして」

歩夢「ううん。大丈夫だよ」

歩夢「……」シュン

愛「? ……どしたん?」

歩夢「んーん」

歩夢「せつ菜ちゃんみたいにかっこよく励ましたかったのに……」

歩夢「愛ちゃんが悲しんでる姿見てたら……私も悲しくなっちゃって……泣いちゃってさ……」

歩夢「かっこ悪いなぁって……」

愛「…………」

愛「ぷっ」

歩夢「え?」

愛「あっはっはっはっは!」

歩夢「え? えぇ!?」

愛「誰もあんたにかっこよさなんて求めてないっつの」

愛「そんな小動物みたいな雰囲気してて、何言ってんだか」

歩夢「……うぅ……ひどい……」

愛「──まぁ、でも」

愛「あんがとね」ニカッ

歩夢「愛ちゃん……」

歩夢「うん!」ニコッ



517: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:52:34.58 ID:6e3tJVW0.net

愛「ねぇ」

愛「あんたの知るアタシってさ、スクールアイドルやってるんだよね?」

歩夢「うん」

愛「……アタシも……スクールアイドルになれっかな?」

歩夢「え?」

愛「……あんたの歌」

愛「めっちゃ良かったんだよね」

愛「正直言って、心打たれた」

歩夢「ほ、ほんと?」

愛「うん」コクリ

愛「……上原と別人みたいだなって思って……めちゃくちゃ複雑な気分だったけど……」

愛「良い……ライブだったよ」

歩夢「あ、ありがとう///」

愛「照れんなっての。こっちが恥ずかしくなる」

歩夢「ご、ごめん」

愛「謝んなって」



518: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 02:55:49.56 ID:6Oz9S5Zc.net

愛「ろくでもないアタシだけど──」

歩夢「!! ──そんな事ない!」

愛「!!」ビクッ!

歩夢「愛ちゃんは、ろくでもない人なんかじゃないよ」

愛「……」

歩夢「愛ちゃんなら、絶対にスクールアイドルになれる」

愛「!!」

歩夢「……なろうよ。スクールアイドルに!」

歩夢「私と一緒に、ね?」ニッコリ

愛「…………」

愛「うん!」ニコッ



519: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 03:02:02.35 ID:6e3tJVW0.net

愛(なぁ、上原)

愛(お前が今どうなってるのか分からないけど)

愛(いつか会えるって信じてる)

愛(だからその時は……決着つけような)

愛(スクールアイドルとして)

愛「……ねぇ」

歩夢「ん?」

愛「歩夢って、呼んでいい?」

歩夢「!!」

愛「上原の事……本当は苗字じゃなくて名前で呼びたかったんだよね」

歩夢「愛ちゃん……! ──大歓迎だよ!!」

ギュッ!!

愛「!!////」カァァァァ

愛「お、おい! 恥ずかしいから離れろって!」

歩夢「あっ……ごめんなさい」

愛「た、たくっ……まぁ、いいけどさ」



520: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 03:09:04.02 ID:6e3tJVW0.net

愛「まぁ、これからもよろしくな」

愛「歩夢」ニコッ

歩夢「────」

歩夢「わたしも思ってたよ。──あなたのこと、名前で呼びたいって」

愛「え?」

歩夢「こちらこそよろしくね」

歩夢「愛」ニコッ

愛「」ポカーン

歩夢「──あ、あれ? 今私なんて言っ……愛ちゃんの事……あれ!?」

愛「あはは!」

歩夢「!?」

愛「……部室行こっか」

愛「歩夢!」



521: 名無しで叶える物語 2021/05/21(金) 03:09:54.14 ID:6e3tJVW0.net

【Members walking together】

【NEXT】

【エマ・ヴェルデ&朝香果林】



550: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 20:48:46.07 ID:si2qFWeK.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

どこまでも広がっていく、スカイブルーの空。

わたしが日本に来て初めて見た空は、とても綺麗だった。


エマ『わぁ……!!』

エマ(ここが、虹ヶ咲学園……!)

エマ(おっきい〜! 広い! 最高だよ〜!!)

エマ(よーし! ここでわたしはなるんだ)

エマ『──スクールアイドルに!』グッ


わたしは“2年生”の春から虹ヶ咲学園にやってきた。

昔、スイスで小さい頃に観たスクールアイドルの動画に感動し、わたしは憧れた。

沢山勉強して、スクールアイドルになる為に日本へやってきた。

ただ、本来は3年生から来る予定だったし、そのつもりで日本語の勉強もしていた。

──でも、我慢出来ずわたしは一年早めに日本へやって来てしまった。早くスクールアイドルになりたかったんだ。



551: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 20:52:48.58 ID:si2qFWeK.net

エマ(まだ、日本語はマスター出来ていないけれど)

エマ(頑張るぞ〜!)

エマ『オー!』


そう、スクールアイドルになりたかった。





「はぁ、ほんと親ってムカつくわ」

「そーいえば、東雲で主に活動してる不良集団が愛さんのファンらしいよ?」

「は? 愛トモはあたし達だけなんだが?」

「愛トモの適性があるか調べる為に、殴り込みに行くかぁ」

「だなぁ〜! どーします? エマさん!」

「姉御!!」

「マム!」

ザワザワザワザワ


エマ「………………」

エマ(──どうしてこうなったの!?)



552: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 20:56:15.51 ID:si2qFWeK.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜放課後 部室〜


かすみ「──ぜんっぜん違います! まだ恥ずかしさが残っていますよ!」

かすみ「正しくはこうです」

かすみ「えへっ、かすみんだよっ?」キャピッ

かすみ「──です!」

かすみ「わかりましたか?」

かすみ「愛先輩」

愛「…………」



554: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 21:29:39.38 ID:si2qFWeK.net

かすみ「返事は?」

愛「だぁぁぁあああああ!! 分かってるよ!!」

愛「恥ずかしいんだっつーの!!」

かすみ「何が恥ずかしいんですか! スクールアイドル舐めてるんですか!?」

かすみ「スクールアイドルというのは時にあざとく、笑顔は可愛く、常に笑ってファンの子達に歌を届けなくてはいけないんです!」

かすみ「スクールアイドルにとって何が必要なのか。そこにハッキリとした答えはありません」

かすみ「ファンの皆さんに喜んでもらえるものならどれも正解です」

愛「……」



555: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 21:34:03.11 ID:si2qFWeK.net

かすみ「ただ、求められるものはあります」

愛「!!」

かすみ「それに答える為には──スクールアイドルとしての自分を作れるように、努力するしかないんです」

かすみ「あざとさはちゃんとした武器です。可愛い自分を作る為には、絶対に必要なスキルです」

愛「……」

かすみ「スクールアイドルになりたいんですよね?」

かすみ「歩夢先輩のような」

愛「──あぁ!」

愛「アタシ、やるよ。あんがとな、かすみ」

かすみ「……その意気ですっ」ニコッ


しずく「──でさでさぁ〜」

璃奈「うんうん」

せつ菜「…………」ドキ、ドキ


かすみ「…………」



557: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 21:56:54.05 ID:si2qFWeK.net

しずく「もうあたし、最近ヒーローモノに本当にどハマりしちゃってさ」

しずく「某作品のエンドゲームまで観てたんだよね」

しずく「その中でさぁ〜もぉ超絶、めちゃくちゃ良いシーンがあってね?」

しずく「えぇ〜ん……ブラック・ウィドウ〜……!!」シクシク

しずく「──ってなってたんよ。そしたらね、あたしの肩からね、ぬるぬる! って降りてく、小さな虫さんがいたんだよ」

しずく「こっちが良い気分で映画観てるのに……ッ!! ってなっちゃってさぁ」

しずく「もうあたし、気持ちはヒーローになってたから」

しずく「100万回殺すッ!!」

しずく「──って言ってそのまま素手でバァン! ってその虫さんやっつけちゃったよね」

璃奈「草」

せつ菜「ワイルド過ぎません!?」

璃奈「歩夢さんよりしずくちゃんの方がよっぽど狂犬でしょ」

せつ菜「ヒーローというよりもヴィランですよその行動は」

しずく「あははは〜!」


かすみ「…………」

かすみ「──」スゥゥゥ

かすみ「私達練習中ッ!!」

しずく「!?」ビクッ!

璃奈「!?」ビクッ!

せつ菜「!?」ビクッ!



558: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 22:20:30.67 ID:si2qFWeK.net

しずく「急にびっくりした……どしたんかすみ」

かすみ「自分の行動と発言覚えてないの!?」

かすみ「私達練習中なんだけど! 堂々とサボらないでよ!」

しずく「むぅ……いやいや、あたし達さっきまでボーカル練習してて休憩中だからサボりじゃないんですけど〜?」

璃奈「そーだそーだ〜」

せつ菜「ま、まぁまぁお二人共。愛さんとかすみさんの練習を妨げてしまったのは事実ですから」

せつ菜「2人とも、ごめんなさい」ペコリ

愛「い、いやいや! 別にいいって! 頭上げてくれよせつ菜」

かすみ「……まともなのはせつ菜先輩だけです」

しずく「つってもここ部室じゃん? そのパフォーマンス練習なら外で練習すればいいじゃん」

かすみ「まだ練習段階なのに、部員以外の誰かに見られる可能性があるのは可哀想でしょ!」

愛(良い奴かよ……)

せつ菜(良い人ですね……)

しずく「まぁ確かに……ごめんなさい」ペコリ

愛「いやいや、大丈夫だってしずく! ──かすみもそんなに怒んなくて大丈夫だから。な?」

かすみ「まぁ愛先輩がそう言うなら」

かすみ「……でも私も怒鳴ったりしてごめん」ペコリ



559: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 22:27:11.04 ID:si2qFWeK.net

ガラガラ スタスタ

果林「たっだいま〜!」

彼方「ランニングから戻ったよ」

歩夢(うん! やっぱりこの身体動きやすいなぁ。体力もあるし)

歩夢「あれ? みんな部室にいるの?」

かすみ「かすみん、愛せんぱいとパフォーマンス練習してましたっ!」

歩夢「ふふっ、そうなんだ」ニコッ

かすみ「はい!」

愛「中々奥が深いわ。スクールアイドルって」

かすみ「──そんなの当たり前です。だからこそ楽しいんですよ。スクールアイドルは」

彼方(相変わらずかすみちゃんの切り替えはすごいなぁ……)



560: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 22:39:42.61 ID:si2qFWeK.net

果林「なになに!? 面白そーな練習だね!」

果林「わたしもやりたいっ!」

かすみ「え? 果林先輩もですか?」

かすみ「うーん……でも果林先輩は最初からあざといですからね……他のパフォーマンスをやるとしたら──」

果林「あざ……? まぁよく分からないけれど、ライブの時にファンの皆の前でやるようなやつを今やればいいんだよね?」

かすみ「え、まぁ……そうですね」

果林「それじゃ、わたし少しやりたい事があるの! 皆見ててっ!」

愛「おう」

しずく「すごいやる気だね〜」

彼方「ね〜」



561: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 22:46:31.82 ID:si2qFWeK.net

果林「やるよ!」

果林「──」スゥゥゥゥ

果林「はぁい」

果林「セクシー系スクールアイドルの、朝香果林よ?」

果林「セクシーで情熱的なパフォーマンスで、みんなの事を魅了させて」

果林「あ・げ・る♡」

かすみ「」

しずく「」

愛「」

せつ菜「」

彼方「」

歩夢「わぁ〜……!!」パァァァァ

歩夢(か、果林さんだ……! 私がよく知る!)

果林「えへへ、どーかな?」

「「「誰!?」」」

果林「え!?」



563: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 23:07:30.37 ID:si2qFWeK.net

せつ菜「声の高さが全然違ったんですけど……」

彼方「す、すごいね〜……」

果林「えへへ〜、どーもよい!」

果林「わたしさ、モデルに憧れてるんだ」

果林「クールでカッコよくて、セクシーで! 絵になるようなモデルになりたいの!」

果林「普段のわたしとは真逆だけどさ……」

果林「そんな人になりたいから、わたしは──自分の目指す憧れの人の! そんなスクールアイドルを作り上げようと思ってるの!」

果林「ちょっと演技みたいだけどねっ」

しずく「!!」

璃奈「ん? しずくちゃん、どうしたの?」

しずく「……んーん! なんでもな〜い」ニコッ



564: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 23:18:04.79 ID:si2qFWeK.net

果林「そんなスクールアイドルも、ありだよね!? かすみちゃん!」

かすみ「あったりまえです! 自分の目指すスクールアイドルがちゃんと決まってて、素晴らしいですよ果林せんぱい!」グッ

愛「自分の目指す……スクールアイドルかぁ」

愛「まずはアタシ、それを見つけないとだな」

歩夢「ふふっ、ゆっくりで大丈夫だと思うよ? 愛ちゃん」

愛「ちなみに歩夢はどんなスクールアイドルを目指してんの?」

歩夢「私? 私は──皆の為のスクールアイドルかなぁ」ニコッ

愛「優等生発言だな……」

かすみ「元不良なんですけどね、歩夢先輩」

愛「それについてはアタシは何も言えねぇからやめてくれ」



565: 名無しで叶える物語 2021/05/22(土) 23:29:06.88 ID:si2qFWeK.net

せつ菜「うおおおお! なんかすごくやる気が出てきました!」

璃奈「うむ。私も一緒だね」

しずく「だね〜。あたしも気合い入れないとですなぁ」

かすみ「では皆さん! 引き続き練習頑張りましょう!」

「「「おー!」」」

歩夢「ふふっ」ニコニコ

歩夢(人数が増えて、賑やかになってきたスクールアイドル同好会)

歩夢(楽しいし、大好きだけど)

歩夢(まだ、エマさんがいない)

歩夢(……エマさん、不良の親玉だって聞いたけれど)

歩夢(本当なのかな?)



575: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 10:53:10.61 ID:uiSIl6MK.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

日本に来たばかりのわたしは、とにかく日本語を覚えるのに必死だった。

スクールアイドルとして歌を歌う為には、日本語をしっかりとマスターしなければいけない。だから──必死だった。

周りの子達の日本語を理解するのも中々難しく、会話に混ざるのも大変だった。

でも、虹ヶ咲学園の子達は優しい子ばかりだった。留学生のわたしを優しく迎え入れてくれた。
友達、と呼べる程の仲ではなかったかもしれないけれど……。

──でも、ある時にわたしは日本語の使い方を間違えてしまったんだ。
特に致命的なミス等ではなく、普通に聞き流せるレベルのものだったけれど、クラスメイトのある一言が……わたしは耳に深く残ってしまった。


『エマさん、その日本語変だよ〜』

エマ『──え?』


なんてことも無い日常会話。でも──耳に残った。

変? ……変、なの? わたしの日本語?


エマ『……ご、ごめんなさい!』

『へ!? え、エマさん!?』


スイスで日本語を勉強して数年。日本に来て数ヶ月。

でも、わたしの日本語はまだ変だと言われてしまうレベルのものだった。

──わたし、なれるの? スクールアイドルに。

小さい頃にスイスで観たスクールアイドルの子の様に、なれるの?

……自信が、なくなってしまった。
もっと勉強してから来ればよかった。

後悔しても遅かったかもしれないけれど、わたしはネガティブな事ばかり考えてしまった。



576: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 11:02:15.69 ID:uiSIl6MK.net

エマ『………………』スタ、スタ、スタ

エマ(もっと……頑張らないと……)

エマ(日本語……マスターしないと)


ザワザワザワザワ


エマ「?」

エマ(なんだかすごい賑わってる。何かあったのかな?)


『ねぇねぇ! また狂犬がケンカしてるらしいよ』

『またぁ!? ほんと怖いんだけど……見えない所でやってほしいよ……』

『よく女子高生で殴り合いできるよね』

『狂犬は一発も受けてないみたいだけどね』

『それもいつものだね』


エマ(け、ケンカ!?)

エマ(た、大変!)

エマ(止めないと!)


エマ『あ、あの!』

『え?』

エマ『その、ケンカ……どこで、やってるの!?』

『へ?』



577: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 11:13:28.15 ID:uiSIl6MK.net





エマ『……』タッタッタッタ

エマ『!!』ピタッ

エマ(いた!)


愛『はぁ……はぁ……!!』

歩夢『ほんと毎回毎回──あなたしつこいんだけど』

歩夢『そんなに殴られるのが好きなの?』クスクス

愛『好きなわけ、ねぇだろうが!!』 ヒュッ!!

歩夢『おっとっと』ヒョイ

歩夢『あははっ。女の子の顔を狙うなんて、ナンセンスだね♪』

愛「ッ!! こ、この……ッ!!」プルプル

愛『絶対一発入れてやるからなァ……!!』

歩夢『……やれるもんならやってみなよ』


明らかに、やり過ぎだと思った。

金髪の女の子が、一方的にやられている。
周りには……それを見るギャラリーの子達もいる。

──なんで誰も止めないの?

少しイラッとしたけれど、今はこのケンカを止めることが最優先だ。


エマ『だ、ダメッ!!』

愛『へ?』

歩夢『は?』



578: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 11:26:16.21 ID:uiSIl6MK.net

歩夢『…………』

エマ『…………』

愛『お、おいあんた! 何して……危ねぇから離れろって!』

エマ『やだ!』

愛『!?』

エマ『ケンカ……ダメ』

愛『え、えぇ……』

歩夢『……ふふっ』クスクス

エマ『!!』ビクッ!

歩夢『なんですか? あなた急に』

歩夢『ケンカを止めるのが美徳とでも思ってるんですか? 何か漫画やドラマでも見て影響されたんですかぁ?』

エマ『ち、違う! でも、ケンカ……ダメだよ』

歩夢『……』

歩夢『ムカつくなぁ』

愛『!! ──おい、上原! カンケーねぇ奴は巻き込むなよ!!』

歩夢『は? 関係ない?』

歩夢『ケンカ止めに介入して来たんでしょ? ならもう関係あるんじゃない?』

愛『ッッッ』

歩夢『それにさぁ……』

歩夢『ムカつくんだよねぇ』

歩夢『──こういう偽善者が、いっちばんね』ギロリ

エマ『!!(こ、この子……目が怖い)』

エマ(で、でもビクビクしちゃダメ! 怒ってる子から目を逸らしちゃ、ダメだ!)

エマ『……』ジッ

歩夢『……』



579: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 11:38:57.23 ID:uiSIl6MK.net

ザワザワザワザワ


エマ『なんでケンカしちゃったの……? 理由があるなら、わたし聞くから』

歩夢『……』

歩夢『話して何かしてくれるんですか?』

エマ『で、できること……あるかもしれない』

歩夢『ははっ、面白いこと言いますねぇ』

歩夢『そういう場合、大抵なにも出来ませんよ?』

エマ『……』

歩夢『……個人の問題に首突っ込んでさ。あなたみたいな人は……最終的には何もしてくれないんだよ』

愛『……上原?』

歩夢『このケンカ見てるだけの野次馬よりもタチが悪いね』

エマ『……』

歩夢『──中途半端な偽善が一番いらないの』

シュッ!!

愛『!! 避け──』

パシッ

歩夢『──へ?』

エマ『……』ギュュュュ

愛『……と、止めた?』

歩夢『』ポカーン



580: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 12:09:18.50 ID:uiSIl6MK.net

エマ(よ、良かった。なんとか止めることが出来た)

エマ(海外だとケンカばっかりだからね……兄弟ケンカも多いし)

エマ(でも、ケンカなんて何も生まないからダメ!)

歩夢『……離してよ』

エマ『……ケンカやめるって言わなきゃ離さない』

歩夢『──ッ!! わたしに触んないでよ!!』

エマ『!!』ビクッ!

エマ『……ねぇ。何があったの話してみてよ』ギュュュュ

エマ『何か出来ること──』


ピピー!!


菜々『あなた達! 何してるんですか!! この騒ぎはなんですか!?』


愛『やっべ、生徒会だ』

歩夢『……』

パシッ

エマ『あっ……ま、待って!』

歩夢『待ちません。帰ります。さよなら』スタスタ

愛『おい! 上原! ──待てよ!』タッタッタッタ!!


エマ『…………』


後に知った。
わたしがケンカを止めた2人は、虹ヶ咲学園で有名な不良だった事。

宮下愛ちゃんと、上原歩夢ちゃん。

ケンカを止める事ができて、本当に良かったと思っていた。

ただ……この日見た──歩夢ちゃんの悲しい目が、わたしは気になってしまった。

──そして同時に、この日からわたしの日常は変わってしまったのでした。



581: 1 2021/05/23(日) 13:32:41.89 ID:6yxsIxk2.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ザワザワザワザワ

エマ『へ?』


学生寮の前は人で賑わっていた。な、なんの騒ぎ?


愛『エマさん!』

エマ『え? え???』

愛『アタシ達、あなたについて行くことに決めました!』

エマ『???』


何も言えなかった。よく見ると皆、中々に制服を着崩している。


愛『上原の攻撃を防いだエマさんは……最高にクールでした』

愛『多くは語らないスタイルもかっこよかったです!』

エマ『ち……ちが──』

エマ(言いたい事は沢山あったけれど言えないだけだったの! 難しくて言葉にできなくて……!!)

愛『アタシ達の親玉になってください! エマさん! 愛トモの皆もついて行くって言ってます!』

『よろしくお願いします! エマさん!』

『昨日の上原との戦い、見てた子いたみたいだけどほんと凄かったみたいだよ』

『あの狂犬の攻撃防ぐなんて只者じゃないよな。アタシ前5秒でボコボコにされたよ』

『エマさんには私達の頭になる適性があるよ!』

ザワザワザワザワ!!

エマ『………………』

エマ(どうしてこうなったの!?)



582: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 13:39:23.27 ID:6yxsIxk2.net





エマ(こうしてわたしの周りには人が増えた)

エマ(噂というものはすぐに広がるもので)

エマ(わたしは気が付けば不良の親玉と呼ばれるようになっていました)

エマ(上手く話せないわたしは流れるままに、そんな日常を過ごしてしまい)

エマ(気が付けば……3年生になっちゃってた……)


「エマさん!」

エマ「ん? どうしたの〜?」

「今度英語の補習があるんすけど……少し教えてほしい所がありまして」

エマ「うん。いいよ」

「ありがとうございます!」

「勉強も出来て、クールでかっこいい……エマさん本当に素晴らしい人だよな……」

「溢れ出る母性も推せるぜ……」

エマ「あ、あはは……」


ただ、幸いにもこの子達は悪い子ではなかった。友達のいないわたしを慕ってくれるし、ケンカは極力しないで! と頼んだら控えてくれるようになった。

同じ立場の子達とはケンカしてるみたいだけれど……一般の子達には絶対に手を出さないって言ってくれてる。

全てのケンカは抑制できないけれど、わたしがこうして親玉と呼ばれているのも意味はあるのかもしれない。

でも……わたしは──。


エマ(スクールアイドルに──なりたいよ)



583: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 13:45:57.25 ID:6yxsIxk2.net

「そーいえば、愛さんスクールアイドルになるみたいですよ?」

エマ「へ?」

エマ「愛ちゃんが……?」

「はい」コクリ

「ちょっと前に連絡あったよねー」

「もう本格的に練習もしてるみたいっすよ」

「この前スクールアイドルのかすみんと一緒に練習してたの見たよ」

「か、かすみん? 誰?」

「だから最近こっち来てなかったのか愛さん」

エマ「…………」

エマ(愛ちゃんが……スクールアイドル!? あの愛ちゃんが!?)



584: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 13:49:13.88 ID:6yxsIxk2.net

エマ「…………」

「? どーしたんすか? エマさん」

エマ「え!? いや……な、なんでもない」


「あいきゃんしーざすたーらい!♪」

ガラガラ!! ──バァン!!


エマ「!?」

「「「!?」」」

果林「みんなお待たせー! ミーティングってこの教──」

エマ「か、果林ちゃん?」

果林「あれ? エマ!?」

果林「ってみんなは!?」

果林「あれ? ここ……3301の教室じゃないの?」キョトン

エマ「えっと……ここは3201だよ?」

果林「ま、間違えた! また教室間違えちゃったよぉ!!」

果林「この学校広すぎ!!」



585: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 13:53:09.48 ID:6yxsIxk2.net

「な、なんだアイツ……」

「エマさんに馴れ馴れし過ぎね?」

「つーか誰?」

果林「ん? わたしはスクールアイドルの朝香果林だよ!」

エマ「!?」

エマ「スクール……アイドル?」

果林「うん!」

果林「──あっ! そーだ!!」パァァァァ

果林「ねぇねぇ! エマ!」ギュッ

エマ「え!?」

果林「エマもスクールアイドルにならない!?」

エマ「──へ?」



588: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 14:19:37.40 ID:6yxsIxk2.net

果林「わたし、今スクールアイドル同好会に入ってるの!」

果林「この前歩夢ちゃんのライブ一緒に見てたのも何かの縁だし、エマも一緒にやろーよ!」ニコッ

エマ「わ、わたしが……え?」

果林「ほら! エマ可愛いし、同じ3年生の彼方もいるよ!」

エマ「…………」

エマ(スクールアイドル……!?)

果林「しかも今度ね! 同好会の皆と講堂借りてライブもやるから! 今から練習すれば間に合うよっ」

エマ「…………」

果林「ね?」ニッコリ


息が詰まる。
自信がなくて、自分から歩み出せなかったスクールアイドルへの一歩。



589: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 14:22:21.05 ID:6yxsIxk2.net

エマ「い、良いのかな……」

果林「え?」

エマ「わたし……スクールアイドルになって……」

「「「!?」」」

果林「当たり前じゃん!」ニコッ

エマ「!!」

果林「まぁまぁ、とりあえずさっ」

エマ「え?」

果林「これからミーティングがあるから、始めるか始めないかはその内容を見学してからでもいいし」

果林「教室まで一緒に行こーよ!」

果林「てか案内して!」ニッコリ

エマ「う、うん……わかった!」

「「「え、エマさん!?」」」

エマ「ご、ごめんねみんな! 少し席外すね?」

果林「えへへ〜! かんべんよ〜!」

タッタッタッタ!!

「「「……」」」

「「「え、エマさん取られたぁ!!」」」



596: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 21:12:50.45 ID:uiSIl6MK.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


かすみ「…………」イライラ

歩夢「……(かすみちゃん、すごく機嫌悪そう)」

彼方「果林ちゃん遅いね」

しずく「何かあったんかなぁ?」

せつ菜「道に迷ってるのかもしれませんね」

璃奈「探しに行くかい?」

愛「確かに」


タッタッタッタッ!!


愛「おっ? 来たんじゃね?」


バァン!!


果林「お、お待たせしま──」

かすみ「遅いですッ!!」

果林「ひぃ!!」ビクッ!

かすみ「今……何時だと思ってます?」ニコニコ

果林「じゅ、16時半です」

かすみ「集合時間は?」ニコニコ

果林「じゅ、16時です」

かすみ「……」ニコニコ

果林「あ、あはは……か、かんべんよ?」

かすみ「……」

かすみ「遅刻するのは仕方ないですけど、せめて連絡はしなさいッ!!」

果林「ひ、ひぃぃぃぃ!! ごめんなさい〜!!」

かすみ「たくっ」プイッ

歩夢「あ、あはは……」

歩夢「果林さん。かすみちゃんはその、果林さんを心配しててですね? その……」

果林「わ、わかってる……本当にごめん……」

「ち、違うの! 果林ちゃんの事、あまり怒らないで!」

歩夢「え?」



598: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 21:27:46.77 ID:uiSIl6MK.net

エマ「……」

愛「え、エマさん!?」

歩夢「!!」

歩夢(エマさん……)

かすみ「え?」

かすみ「……不良の親玉のエマ・ヴェルデさん?」

エマ「……うん」

エマ「──あっ! でも今はその事は触れないで!」

エマ「果林ちゃんは……わたしをここへ連れてきてくれる為に遅れちゃったの」

彼方「ど、どういうこと?」

果林「あっ! そうそう!」

果林「エマもスクールアイドルになろって、わたしが誘ったの!」

かすみ「は?」

しずく「まじ!?」

かすみ「……果林先輩、本気で言ってるんですか?」

果林「うん! まぁでも決めるのはエマだけどね!」

かすみ「いや、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね……」

エマ「あ、あの!」

かすみ「?」

エマ「わたし……その、皆さんに伝えたいことがあるの」

せつ菜「伝えたいこと、ですか?」

エマ「う、うん!」

エマ「わたしね……本当はその……──」







601: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 21:46:52.67 ID:uiSIl6MK.net

「「「……」」」

エマ「だから……そのね」

エマ「わたし、スクールアイドルになりたいの」

バンッ!!

愛「……」

エマ「あ、愛ちゃん!?」

璃奈「おそろしく早い土下座。私じゃなきゃ見逃しちゃうね」

愛「も、申し訳ございませんでした!!」

エマ「ど、どうしたの!? 制服汚れちゃうよ!?」

愛「いやだって……」

愛「エマさんに変な噂立ったの完全にアタシのせいじゃないですか!!」

愛「そ、それのせいで……! 本当に申し訳ございません!!」

エマ「だ、大丈夫だよ! ほら、わたしも愛トモのみんなと交流できたし、楽しかったし!」

愛「え、エマさん……」

せつ菜「確かにおかしな話だと思っていたんですよね。エマさんの悪い噂は全然聞きませんでしたし」

果林「てか、エマって不良って言われてたの? 周りの子達も友達だと思ってたよー」

しずく「まぁ友達なのは間違ってなかったっぽいけどね」

果林「ってことは! エマ!」

果林「スクールアイドルになろうよ! 思いっきり!」

エマ「…………」

果林「なりたかったんだよね? スクールアイドル!」

エマ「……うん……」

エマ「でも……わたし……不安で……」



603: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:13:47.26 ID:uiSIl6MK.net

歩夢「エマさん」

歩夢「不安な気持ち、私もすごく分かりますよ」

歩夢「私もいまだに歌う前とかは不安になっちゃいます」

エマ「え? あんなに良いライブして……歌ってたのに?」

歩夢「見ていてくれたんですか? ありがとうございます」ニコッ

エマ「う、うん!」

エマ「ほ、本当に良いライブだったよ! 凄かった!」

歩夢「……そんな言葉が、私の不安な気持ちを飛ばしちゃってくれるんです」ニッコリ

エマ「え?」

歩夢「良かった、凄かった。聞いてくれた子達からそう言って頂けるの、本当に嬉しいの」

エマ「……」

歩夢「──スクールアイドルを始めるきっかけは、何でもいいんです」

エマ「……」

歩夢「エマさん。不安で一歩も進まないのは、絶対に後悔に繋がっちゃいます」

エマ「!!」

歩夢「一緒に始めましょう、エマさん!」

歩夢「私、あなたと一緒に歌いたい」

エマ「歩夢ちゃん……」



604: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:19:58.30 ID:uiSIl6MK.net

歩夢(──エマさん、本当に良かったです)

歩夢(エマさんが不良の親玉と呼ばれていて、すごく不安だったけれど)

歩夢(でも、そう呼ばれていたのだって)

歩夢(エマさんが優しいからだ)

歩夢(この世界のエマさんも……私の知るエマさんと同じで、とっても優しい人)

歩夢(──ううん。エマさんだけじゃない)

歩夢(みんな、優しいんだ)

歩夢(みんな──本質は一緒で)

歩夢(私の大好きな子達だ)

歩夢「……一緒に始めましょう!」

歩夢「スクールアイドル!」



605: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:26:32.57 ID:uiSIl6MK.net

彼方「私達、スクールアイドルはね」

彼方「皆ソロなんだよ」

エマ「ソロ?」

彼方「うん。他のスクールアイドルみたいにグループじゃないから、自分の好きなようなスクールアイドルを目指せるの」

彼方「あなたが目指すスクールアイドルに、自分のペースでね」

エマ「自分のペースで……」

彼方「うん」ニコッ

彼方「だから初心者にはオススメだよ? 一緒にスクールアイドル始めよーよ」

彼方「なんなら部長の私は幽霊部員だからね、なんでもありの良い部活だよ〜」ニコニコ

エマ「え!?」

かすみ「彼方先輩、最後の一言で台無しです」



607: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:36:41.70 ID:uiSIl6MK.net

かすみ「まぁ、でも……彼方先輩の言う通りですね」

かすみ「どこかの誰かさんの影響を受けてか、最近スクールアイドル志望の子が多いんです」

歩夢「あはは……」

かすみ「部員も増えています。余計なの一人いますけどね」

璃奈「おいおい、誰の事だい?」

しずく「璃奈、今良いシーンだから静かに」シー

璃奈「ん」グッ

エマ「……」

かすみ「あなたのスクールアイドルの為に日本まで来た行動力、私は尊敬します」

かすみ「その熱意と行動力を活かさないのは、勿体ないです」

かすみ「だから……一緒に始めましょう。スクールアイドル」

歩夢「かすみちゃん……!」

かすみ「……ふんっ///」プイッ



608: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:42:21.83 ID:uiSIl6MK.net

せつ菜「エマさん!」

せつ菜「私も、スクールアイドルになったばかりですが……本当に楽しいんですよ!」

せつ菜「一緒に始めましょう!」

しずく「あたしも大歓迎〜!」

しずく「人数が増えれば賑やかになるし!」

しずく「サボり魔のあたしですら在席を許されてる良い部活だよ?」ニコッ

しずく「一緒にやろーよ! スクールアイドル!」

璃奈「私も同じタイミングで始めてくれる人がいるのは助かる」

璃奈「それに、あなたはあの時一緒に歩夢さんを見ていたし。これも何かの縁だよ」

璃奈「端的に言うなら、一緒にやろう」

エマ「……!」



609: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:53:09.42 ID:uiSIl6MK.net

愛「エマさん!」

エマ「愛ちゃん……」

愛「アタシ、あなたに謝りたい事ばかりです」

愛「スクールアイドルになったのも、本当はすぐに報告したかったんですけれど……自信をつけてからにしたかった……」

愛「その……えっと……言葉選びが下手でごめんなさい。──い、色々言いたい事ありますけど!」

愛「話したい事ばっかりあるので! 一緒に同じ部活で……スクールアイドル、始めましょう!」

愛「お願いします!」ペコリ

エマ「……!!」


果林「エマ」

果林「やりたいと思った時から」

果林「きっともう始まってるんだよ」

エマ「──」



610: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 22:54:03.32 ID:uiSIl6MK.net

エマ「わ、わたし!!」

エマ「スクールアイドルに」

エマ「──なりたい!!」



612: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 23:01:26.59 ID:uiSIl6MK.net

エマ「だからわたしを、スクールアイドル同好会に──」

歩夢「エマさん!」バッ

ギュッ!!

エマ「あ、歩夢ちゃん!?(こ、こんな子だったっけ!?)」

歩夢「エマさんがスクールアイドル同好会に入ってくれて……嬉しい……!」ギュュュュ

エマ「歩夢ちゃん……!」

果林「あ! ズルい! わたしも混ぜてよー!」ギュッ!!

エマ「か、果林ちゃん!?」

彼方「あー、私も混ざる!」

せつ菜「私もです!」

璃奈「私も便乗しよう」

しずく「あたしもー!」

かすみ「はぁ……全くみんな暑苦しいですよ?」

愛「あ、アタシも混ざる!!」

かすみ「──え?」


ワイワイガヤガヤ


かすみ「……」

かすみ「わ、私も混ぜてくださいよ!!」バッ



614: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 23:22:47.47 ID:uiSIl6MK.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜講堂 控え室〜

せつ菜「っ〜〜〜〜〜!!」

せつ菜「ついに来ましたね! ライブの日が!」

せつ菜「お客さんもたっくさん来てました!」ペカー

歩夢「ふふっ、せつ菜ちゃん燃えてるね」ニッコリ

せつ菜「はい! こんな大勢の前でライブできるんですから、本当に楽しみです!」

歩夢「楽しみにしてるね!」

せつ菜「はい!」

せつ菜「──ただ、歩夢さんは出なくてよかったんですか?」

せつ菜「歩夢さんだけでなく、しずくさんも彼方さんも璃奈さんも……」

歩夢「私はほら……前ライブやらせてもらったし、今回は皆のサポートをしたかったから」

しずく「歩夢さんと同じで、あたしもサポートしたかったからね〜」

璃奈「私は単純にまだ曲が出来てない」

彼方「私はさすがに勉強優先だし、中途半端にライブするのは申し訳ないからね。サポートはいくらあっても困らないし、今日はフォローに回るよ」

しずく「……」

せつ菜「なるほどですね……いつか皆さんとライブしたいですね」ペカー

歩夢「うん!」

せつ菜(歩夢さんとライブ共演したかったなぁ……)



616: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 23:36:30.96 ID:uiSIl6MK.net

愛「…………」ソワソワ

かすみ「愛先輩、今日の例の動きについてなんですが」

愛「!!」ビクッ!!

愛「な、なんだ!?」

かすみ「えぇ……そんなにビックリします?」

愛「う、うるせぇな! 集中してたんだよ!」

かすみ「あれぇ〜? もしかして、緊張してますか〜?」ニヤニヤ

愛「し、してねぇよ!!」

かすみ「……大丈夫ですよ、愛先輩」

かすみ「練習、してきたでしょ?」

愛「!!」

かすみ「努力は裏切りません」

かすみ「それに、あなたは運動神経も良ければ歌も上手い。非常に高いスペックの持ち主です」

かすみ「期待してますよ」ニコッ

愛「かすみ……」

かすみ「まっ、何かあったらフォローくらいはしてあげますよ! スクールアイドルとしては、かすみんの方が先輩ですからね!」エッヘン!

愛「……乗せるのが上手いな、かすみは」

かすみ「褒めても何もあげませんからね」

愛「ぷははっ、かすみんから切り替えるの早すぎだろ!」

かすみ(よし、良い感じに緊張解れたみたいだね)



617: 名無しで叶える物語 2021/05/23(日) 23:48:16.07 ID:uiSIl6MK.net

果林「はぁぁぁ……!」

果林「エマのライブ衣装、かえーしきゃー!」

エマ「そ、そうかな?」

果林「うん! 今日のライブ、楽しもーね!」ニッコリ

エマ「う、うん!」

エマ「………………」

果林「エマ? 大丈夫?」

エマ「う、うん! 大丈夫……!」

エマ(緊張で、胸が痛くなってきた……が、頑張らないと……)

エマ(頑張らないと……頑張らないと……!!)

果林「?」

果林(エマ……?)



619: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:12:19.78 ID:u5mHBfvt.net

かすみ「──では皆さん。今日のライブの流れを再確認します」

かすみ「歌うの順番としてはせつ菜先輩、愛先輩、私、エマ先輩、果林先輩の順番です」

かすみ「せつ菜先輩が最初に歌ったその後、愛先輩がせつ菜先輩のMCに合流します」

かすみ「せつ菜先輩バック後には、私と愛先輩が例の歌を披露。その後は愛先輩のソロと私のソロを披露します」

かすみ「そして、エマ先輩はステージ裏から歌いながらステージに入場。そのままソロ披露を続けます」

かすみ「トリは果林先輩です」

果林「あいさー!」

せつ菜「つ、遂に始まりますね!! 皆さん頑張りましょう!!」

愛「だな! 頼りにしてるからな。せつ菜っ」

せつ菜「私も同じ気持ちですよ! 愛さん!」ペカー

エマ「……」

かすみ「ん? エマ先輩?」

エマ「え!?」

かすみ「大丈夫ですか?」

エマ「あはは……ちょっと緊張しちゃって……」

かすみ「……あなたは練習通り、綺麗な歌声をそのまま披露すれば良いんですよ。リラックスです」

かすみ「マッサージでもしてあげましょーか?」

しずく「お? セクハラか〜? かすみ〜」

彼方「やらしいな〜かすみちゃん〜」

かすみ「うっさいよ! この能天気コンビ!」

エマ「あ、あはは……だ、大丈夫!」

エマ「わたし、頑張るね!」

かすみ「……何かあったらすぐに言ってくださいね?」

エマ「う、うん!!」

しずく「……」

彼方「……」

かなしずかす(大丈夫かなぁ……)



620: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:22:52.50 ID:u5mHBfvt.net

歩夢『──それでは! まもなく公演開始です! みなしゃ! ……み、皆さん! 楽しんでいきましょう!!』


パチパチパチパチ!! ──アユムチャンカワイイー!!


歩夢「うぅ……大事な所で噛んだ……」

璃奈「歩夢さん可愛すぎなんだけど。一生推すよ。すき」

歩夢「あ、ありがとう」

璃奈「──よし。音響セッティングも問題なさそうだね。ここは任せてよ歩夢さん」

歩夢「うん! よろしくね璃奈ちゃん! 後でしずくちゃんがこっち来てサポートするからっ」

璃奈「うい」グッ

タッタッタッタッ!!


璃奈「……」

璃奈「皆、ファイトだ」グッ

璃奈「……それにしても……」

璃奈(ライブ前の、このワクワク感。いいね)

璃奈「私もいつかやってみたいもんだね。……ライブ」



621: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:30:53.26 ID:u5mHBfvt.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜「みんなー? 元気ー?」

せつ菜「優木せつ菜です!」

せつ菜「わぁぁぁぁぁ!! 綺麗な景色ですね……!」

せつ菜「最高のパフォーマンスを見せるので、皆さん盛り上がる準備は出来ていますかー!?」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


せつ菜「ッ!!」ゾワゾワ!!

せつ菜(き、気持ちいい……!)

せつ菜(最高っ!!)

せつ菜「では! 1曲目、いきましょう───!!」



622: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:36:26.61 ID:u5mHBfvt.net

せつ菜「ミュージック、スタート!!」


♪〜


せつ菜「ワン、ツー」

せつ菜「ワン、ツー」

せつ菜「ワンツースリフォー」

せつ菜「──ハイッ!!」


「「「──ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」」」


せつ菜「好きなこと」

せつ菜「私だって ここに見つけたんだ」

せつ菜「力 いっぱい 頑張れるよ」

せつ菜「本当の自分だから────♪」



623: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:36:50.11 ID:u5mHBfvt.net

【MELODY】



624: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:48:29.96 ID:u5mHBfvt.net

愛「!! 始まったな、ライブ」

歩夢「うん!」

歩夢「わぁぁぁぁぁ……!!」

歩夢(せつ菜ちゃんのライブ、やっぱりすごい!!)

かすみ(初ライブであのパフォーマンス……凄すぎるでしょ)

歩夢「せつ菜ちゃん、かっこいいなぁ」ウットリ

かすみ「…………」プクー

かすみ「歩夢先輩。私の歌もちゃんと聞いてて下さいね?」

かすみ「この前のあなたのライブより凄いのやりますから!」

歩夢「うん! 楽しみにしてるね、かすみちゃん!」ニコッ

かすみ「!! ……ふんっ! 期待してて下さい////」プイッ

彼方(甘えベタなネコみたいだなぁかすみちゃん)

彼方(さて、と。私も自分の仕事しないとね)

彼方「──愛ちゃん。この後のMCの流れ、もう一回復習するよ? いい?」

愛「わかった!」







625: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 00:58:52.22 ID:u5mHBfvt.net

愛「そんじゃ──行ってくる!」

愛「歩夢! しっかり見とけよ!」

歩夢「うん! 頑張ってねっ! 愛ちゃん!」

愛「あぁ!」ニコッ


タッタッタッタッ!!


彼方「よーし。愛ちゃんがせつ菜ちゃんのMCに合流したね。かすみちゃん、準備できてる?」

かすみ「かすみんはいつでも大丈夫です!」

彼方「おっけ〜!」


エマ(わたしの出番が……近づいてくる)

エマ(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫)

エマ「……はぁ……はぁ……!」

果林「……エマ?」

エマ(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫)

エマ(成功、させなきゃ!)

エマ(スクールアイドルの初ライ──)

エマ(──あれ?)クラッ


バタンッ!!


果林「──え?」キョトン

彼方「エマちゃん……?」


エマ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」


歩夢「え、エマさん!?」



627: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:07:59.36 ID:u5mHBfvt.net

かすみ「え、エマ先輩?」

彼方「エマちゃん! 大丈夫!?」

エマ「はぁ、はぁ……はぁっ……ッ……はぁ……!!」

彼方(か、過呼吸を起こしてる……!!)

彼方「エマちゃん! 大丈夫、大丈夫だよ」

彼方「息を吸って、ゆっくり……ゆっくりで大丈夫。ゆっくり息を吐き出して?」

エマ「ッ……!!」コクンコクン

果林「え、エマ……」

歩夢「……エマさん……」


エマ(な、なんで?)

エマ(なんでいま……)


『エマさん、その日本語変だよ〜』


エマ(あの時のこと……思い出すの……?)



628: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:22:50.27 ID:u5mHBfvt.net

かすみ「え、えっと……」

彼方「!!」

彼方(まずい、ライブはもう始まってるのに)

彼方(中止には、できない。少しでも時間を稼ぐしかない。エマちゃんが落ち着くまで)

彼方「歩夢ちゃん、エマちゃんの背中を優しくさすってあげて」

歩夢「は、はい!」

彼方「かすみちゃん」

かすみ「!!」

彼方「少し、MCの時間を伸ばしてほしい。愛ちゃんとの歌が終わった後のね」

かすみ「……分かりました」

彼方「大丈夫そうだったり、通常進行に戻して良いタイミングとかに関しては、しずくちゃんに連絡してかすみちゃんに連絡するようにする」

かすみ「分かりました! ──では、行ってきます!」

彼方「うん! よろしくね!」


プルルルル ピッ


しずく『かな姉、どうしたの?』

彼方「しずくちゃん、この後かすみちゃん達のMCなんだけど──」


エマ「わ、わたし……ごめ……なさ……!!」

歩夢「だ、大丈夫ですよエマさん!」

果林「……エマ……」



629: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:29:43.26 ID:u5mHBfvt.net

タッタッタッタ

かすみ「みなさーん!」

せつ菜「かすみさん!」

愛「おっ! 待ってたぞかすみーん!」

かすみ「お待たせしましたぁ〜!」キャピッ

かすみ「会場の皆さんも、今日は集まってくれてありがとうございます〜!!」

せつ菜「──ではでは! 後は任せましたよ、お二人共!」

かすみ「はーい! 先輩また後でね〜!」

愛「みんな! せつ菜にもう一度拍手を頼む!」


パチパチパチパチ!!


せつ菜「あははっ! みんな、またねー!」

せつ菜(ライブ……最高過ぎます!!)


タッタッタッタ


かすみ「ではでは、この後は皆さんに特別な歌をお届けしちゃいますよ〜?」

かすみ「愛先輩〜! 準備は良いですか〜?」

愛「まっかせて!」



630: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:40:59.33 ID:u5mHBfvt.net

愛(よし、この後はかすみとステージ真ん中に行って、背中を合わせる)

愛(そんで、照明が暗くなるから……タイミングを合わせて歌う!)

ササッ ピタッ

愛(よし、順調! 照明も暗くなったし、後は──)

かすみ「…………」

カチッ

愛(へ? かすみ、マイクの電源切った?)

かすみ「愛先輩。何も反応せずそのまま聞いてください」ボソッ

愛「!?」

かすみ「トラブルが起きました。なのでMCの時間を少し伸ばしますので、アドリブが入ります。合わせて下さい」ボソボソ

愛(え、えぇ!? そんなこと出来──)

かすみ「愛先輩なら出来ます」ボソッ

かすみ「あなたは天才ですから。頼りにしてます」ボソッ

愛「!!」

愛「……」コクン

かすみ「……」コクン

カチッ

かすみ「ではでは! ミュージックスタート〜!」



631: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:45:28.45 ID:u5mHBfvt.net

♪〜

かすみ「Hey!」

愛「Love!」

かすみ「Come on!」
愛「Come on!」

かすみ「かすみん!」
愛「愛さん!」



632: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 01:47:39.64 ID:u5mHBfvt.net

【ダイアモンド -デュエットver-】



634: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:00:56.82 ID:u5mHBfvt.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方(まずい。もうすぐ2人の歌も終わっちゃう……! エマちゃんの呼吸は落ち着いてきたけれど……!)

エマ「……ご、ごめんなさい……みんな」

エマ「やっぱり……わたし……」

エマ「スクールアイドルに……なれないよ……!」

果林「ど、どうして?」

歩夢「沢山練習してきたじゃないですか……」

エマ「──いの」

果林「え?」

エマ「怖いの……!!」

エマ「わ、わたし……日本語変だし、自信がない……!!」

エマ「わたし……昔スイスで観た……スクールアイドルの子の様になれる……自信が、ない!」

果林「──エマ!!」

果林「あなたはスクールアイドルになりたいの!? その憧れた子になりたいの!?」

エマ「!!」



636: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:15:28.21 ID:u5mHBfvt.net

果林「……エマはエマでしょ? その子は憧れの子かもしれないけれど、エマじゃない!」

果林「エマは……エマ・ヴェルデっていうスクールアイドルになりたくて日本に来たんでしょ!?」

果林「違うの!?」

エマ「わ、わた……わたしは……!」

果林「それにね」

果林「エマは日本語、上手だよ」

果林「わたしなんかよりも──ずっと!」

エマ「!!」

果林「海外に来て、そこに住んで、そこの人達と意思疎通ができるんでしょ? すごいよ」

果林「わたしには同じ事、できないよ」

エマ「……」

果林「……怖い気持ちは分かる。わたしだって怖い!!」

エマ「かりん……ちゃん……」

果林「でも……ここで立ち止まっていても……何も生まれないよ」

果林「わたし達は、スクールアイドルになったんでしょ!?」

果林「だったら……だったら……一歩、踏み出さなきゃ……!!」

果林「こんなスタート地点で立ち止まってちゃ……ダメだよ!!」

果林「エマ!!」ポロ、ポロ

エマ「果林ちゃん……っ!!」ポロポロ



637: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:24:22.12 ID:u5mHBfvt.net

歩夢「……」

歩夢「──彼方さん。私、1曲歌ってきます」

彼方「え? で、でも歩夢ちゃんの音源の準備……今日は……」

歩夢「いりません。アカペラでそのまま歌います」

彼方「!?」

歩夢「──エマさん!」

スタスタ

エマ「あ、歩夢ちゃん……」

ギュッ

エマ「え?」

歩夢「私、エマさんの歌……大好きです」ギュュュュ

歩夢「今から歌ってくる歌は……お客さんにもですけれど、あなたにも届けたい歌です」

歩夢「この前考えた歌なんですけど、名前は──」

歩夢「─────」ヒソヒソ

エマ「!!」

歩夢「ふふっ」ニッコリ

スタッ

歩夢「じゃあ、行ってきます!」

果林「歩夢ちゃん……」

エマ「…………」

歩夢「……エマさん」

歩夢「私、あなたの歌──聞きたいな」ニコッ

エマ「!!」

タッタッタッタ



638: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:31:13.55 ID:u5mHBfvt.net

かすみ(ッ、彼方先輩まだですか!?)

かすみ(MCは適切な時間を超えると、会場の空気がダレる!)

愛「ッ……!!」

かすみ(愛先輩も限界にな──)

タッタッタッタ

歩夢「みんなー!」

愛「へ?」

かすみ「!!」

かすみ「あー! 歩夢先輩〜!」

歩夢「えへへっ、こんにちはかすみちゃん!」

かすみ「制服姿でどうしたんですかぁ〜?」

かすみ「あっ! もしかして衣装忘れちゃったんですね〜?」ニヤニヤ

歩夢「ち、違うもん! もー!」プクー

歩夢「──とまぁ、茶番はここまでです!」

歩夢「皆さんこんにちは! スクールアイドルの上原歩夢ですっ!」ニコッ

歩夢「実は今日のサプライズだったんですけれど、1曲聞いて欲しい歌があるの!」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」



639: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:34:36.63 ID:u5mHBfvt.net

歩夢「えへへ、ありがとうございますっ!」

歩夢「まだ作ってる途中の歌だから、音はないけれど──聞いてくださいっ!」

歩夢「──」スゥゥゥゥ



642: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:39:21.11 ID:u5mHBfvt.net

エマ「……」

──────────

歩夢『今から歌ってくる歌は……お客さんにもですけれど、あなたにも届けたい歌です』

歩夢『この前考えた歌なんですけど、名前は──』

──────────



643: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:40:29.99 ID:u5mHBfvt.net

【夢への一歩】



644: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:55:38.75 ID:u5mHBfvt.net

エマ「夢への……一歩」


──果てしない 道でも一歩一歩──

──諦めなければ 夢は逃げない──


エマ「」


──隣に あなたがいてくれるから──

──逆境も不安も 乗り越えていけるよ──


エマ「」


──ありがとう──



645: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 02:59:08.47 ID:u5mHBfvt.net

エマ「っ!!」

エマ「みんな、ごめんなさい!」

エマ「わたし──スクールアイドルになってきます」

果林「エマ!!」パァァァァ

彼方「エマちゃん!」


スタスタ

かすみ「……なんとかなったみたいですね」

エマ「か、かすみちゃん……ごめ──」

かすみ「謝らなくて大丈夫です、エマ先輩」

エマ「……」

かすみ「ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルですよ」

エマ「!!」

かすみ「それに、あなたがするべきことは謝ることじゃないです」

かすみ「集まってるファンの子達に……最高の時間を届ける事だよ」

かすみ「……行ってらっしゃい、エマ先輩」ニコッ

エマ「──うん!!」

エマ「行ってきます」ニコッ



647: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:10:15.90 ID:u5mHBfvt.net

エマ「──」スゥゥゥゥ


歩夢ちゃんの、夢への一歩が歌い終わる。

会場は大歓声に包まれている。

わたしはこの後、歌いながら入場する。そして、そのまま歌う。

……緊張はする。迷惑だって、沢山かけちゃった。本当にごめんなさい。

──そして同時に、本当にありがとう。

みんな大好き。

そして、今からわたしがみんなに届ける歌も──わたしが大好きな歌。

スイスにいた時、何百回と聞いた歌。
今日はそれをお借りして、歌わせて貰うことにした。

その歌の名前は──



648: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:12:46.18 ID:u5mHBfvt.net

【哀温ノ詩】



649: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:35:36.15 ID:u5mHBfvt.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


──ライブが終わり数日後。

再び平和な時間が戻ってきた。

でも、少し前と変わったことがある。それは──


「エマさん! 今度のライブ、いつやるんですか!」

エマ「え? うーん。この前やったばかりだからなぁ」

「一週間後くらいにはやりますか!?」

エマ「さすがにそれはないよ〜」

「生き甲斐が……」

「週一くらいでやってほしいよね」

「スクールアイドルの方々の体力が持たないっしょそれ」

「ライブを企画する適正を持って、校内で企画する?」

「それあり!」

エマ「あはは……」


──わたしを慕ってくれる子達が、すっかりスクールアイドルにハマったみたい。同好会のライブに来てくれたみたい。

サイリウム振る手を怪我したくないからケンカも二度としないって言われました。

スクールアイドルの影響力って本当に強い……。



650: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:38:40.78 ID:u5mHBfvt.net

タッタッタッタッ!!

果林「あれ!? ここどこ!?」

エマ「あっ、果林ちゃん」

果林「!! エマー!!」

エマ「!? ど、どうしたの果林ちゃん?」

果林「科学室の行き方が分からないよー!!」

エマ「えー? また? もー、仕方ないなぁ〜」

エマ「案内してあげるね!」ニッコリ

果林「ほんと!? やったら〜!!」バンザーイ

エマ「えへへ!」ニッコリ

エマ「──あっ、みんなごめんね? ちょっと果林ちゃん送ってくるね?」

「「「あっ……はい」」」

果林「いやはや、かんべんよ〜」


タッタッタッタ!!


「「「…………」」」

「「「またエマさん取られた……」」」



651: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:40:52.32 ID:u5mHBfvt.net

果林「ねぇねぇ! エマ!」

エマ「ん? どーしたの?」

果林「えへへ!」

果林「なんかエマ、少し明るくなったよね」

エマ「え? そ、そーかなぁ?」

果林「うん!」

果林「前より笑うようになったし」

果林「あの時のライブのおかげ?」

エマ「ふふっ、そうだね」ニコッ

果林「立ち直った後のエマの歌……本当に良かったもん。わたし泣いちゃったよ〜」

エマ「それ何回も聞いたよ果林ちゃん〜」

果林「ほんと?」

果林「あー、でもエマの歌ばっかり目立ってたけど……ラストを締めたわたしの歌も評価してほしいんだよなぁ……」

エマ「それも何回も聞いたよ」

果林「え? そーだっけ?」

エマ「4回は聞いてるよ?」

果林「意外と少なかった!」

エマ「いや多いと思うよ?」



652: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:46:47.20 ID:u5mHBfvt.net

エマ「ちなみにわたし、果林ちゃんの『Starlight』大好きだよ? かっこいいし、普段可愛い果林ちゃんとのギャップがエモエモだよ〜!」

果林「え、えも?」

果林「まぁ、よく分からないけどありがとうね!」

エマ「うん!」

エマ「……ふふっ」ニコニコ

果林「? どーしたのエマ?」

エマ「んーん」

エマ「スクールアイドルになって良かったなって思ったのっ」ニコッ

果林「えへへ! 私もそう思う!」


──果林ちゃん。あの時わたしをスクールアイドルに誘ってくれて、ありがとうね。



654: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:48:04.39 ID:u5mHBfvt.net

エマ「果林ちゃん!」

果林「?」

エマ「これからも一緒に」

エマ「一歩一歩」

エマ「歩いていこうね!」ニコッ

果林「──うんっ!」ニッコリ



655: 名無しで叶える物語 2021/05/24(月) 03:49:03.85 ID:u5mHBfvt.net

【Members walking together】

【NEXT】

【天王寺璃奈】



682: 名無しで叶える物語 2021/05/25(火) 23:16:27.04 ID:v+NaDEeT.net

『ねぇ! きみ、なんて名前なの!?』

『え?』


──これは、また夢だろうか?

教室? かな?
そこにはたくさんの子供達で賑わっていた。

でも、不思議な事に顔や声を認識できるのは2人だけだった。

教室の入口のすぐ近くの席に座る、2人の女の子。

私をその子達を第三者目線で見つめていた。


『あっ! ごめん。まずは自分から自己しょーかいだよね!?』

若葉『わたしは五十嵐若葉! よろしくねー!』


小さい頃の侑ちゃんと同じ見た目をしたその子は、私の知らない名前だった。
「ぱ」と1文字だけ書かれた不思議なTシャツを来ているその子は、ニカッと笑い──小さい頃の私に声をかけている。


歩夢『わ、わたしは……上原歩夢』

若葉『歩夢ちゃん!』パァァァァ

若葉『かわいい名前だね!』ニコッ

歩夢『か、かわ……!?////』

若葉「うん! 歩夢ちゃん、見た目もかわいいけど名前もかわいい!」

歩夢「え、えぇぇぇぇ!////」


顔を真っ赤にしている私。なんだか微笑ましいなぁ。



684: 名無しで叶える物語 2021/05/25(火) 23:31:47.07 ID:v+NaDEeT.net

若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃんどこに住んでるの!?』

歩夢『え、えっとね。し、東雲』

若葉『ほんと!? 私も東雲だよー!』ニコニコ

歩夢『そ、そうなの?』

若葉『うんっ!』

若葉『東雲の団地に住んでてね! 場所は──』


グイグイと私に話をかける若葉……ちゃん?

──うん。若葉ちゃん。

彼女は、小さい私に話しかけ続ける。
中々のマシンガントークだけど、私と満更でもない表情をしている。

私は自分から話しかけるのがあまり得意ではないから、こうして率先して話し掛けてくれるのは非常に助かる。
それは昔から変わらないの。



685: 名無しで叶える物語 2021/05/25(火) 23:37:57.47 ID:v+NaDEeT.net

若葉『でも、良かったぁ〜』

歩夢『んー?』

若葉『歩夢ちゃんと席がとなりで! いがらしとうえはらで席があいうえお順だから良かったよぉ〜。私、今日の入学式……友達できるか不安だったんだ〜』

歩夢『わ、わたしも……』

若葉『そうなんだ! 一緒だっ』ニカッ

歩夢『ふふふっ。そうだねっ』ニコッ


そっか。これは入学式の日の映像なんだ。

という事は、やっぱり前見た夢もそうだけど……これは──この世界の上原歩夢の……記憶?

私と侑ちゃんは小さい頃からの幼馴染で、幼稚園も一緒だった。
でも、この子と若葉ちゃんは今日が初対面みたい。

ただ、若葉ちゃんがどうにも知らない子には思えない。話し方、笑顔、見た目。全て私の大好きな子と一緒だ。

……若葉ちゃん、あなたはもしかしてこの世界の──

──侑ちゃん?







『ねぇ』

歩夢「──え?」


誰かから声をかけられる。

その瞬間──私が見ていた景色は消え去り、変わる。



686: 名無しで叶える物語 2021/05/25(火) 23:41:44.86 ID:v+NaDEeT.net

歩夢「え!?」


教室ではなくなる。周りには何も無い白の世界。

奥行きも分からない、空も地面も何も無い世界。

そこに私は立っていた。


『ねぇ』

歩夢「!?」ビクッ!!


──後ろから再び声をかけられる。

恐る恐る振り返る。


歩夢「え?」

歩夢『……』


──私が立っていた。



687: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 00:03:55.44 ID:/IyPZPaL.net

歩夢「え? わ、私……?」

歩夢『……』

歩夢「あ、あの──」

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ

歩夢「──え?」キョトン

歩夢『ふふっ』クスクス

歩夢「す、好き勝手……?」

歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

歩夢「え? ……え?」

歩夢『……まぁ、別にいいんだけどね。感謝してる事もあるし』

歩夢『だから何したって構わないよ。……別に、未練も何も……ないし』

歩夢「…………」

歩夢『でもね』

歩夢「!?」





歩夢『わたしと若葉ちゃんの思い出には関わらないで』



690: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 00:30:47.37 ID:/IyPZPaL.net

ガバッ!!

歩夢「はぁ……!! はぁ……っ……はぁ……!!」

歩夢「ゆ、夢? い、今の……私……?」

歩夢「ッッ!! ──あたま……いたい……ッ……!!」ズキズキ

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「…………」

歩夢「……」


歩夢「わたしと若葉ちゃんとの思い出に、関わらないで」


歩夢「──え?」

歩夢「私……今……勝手に……?」

歩夢「喋った……?」



696: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 11:55:25.56 ID:/IyPZPaL.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私の朝はコーヒーを飲んでから始まる。もちろんブラック。
昔は嫌いだった苦いブラックコーヒー。今ではすきな味だ。

これを飲むようになったきっかけはお母さん。

お母さんが淹れてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れる? と聞かれた時。私は何も考えずに首を横に振ってしまったんだ。

──お母さんと話すのが久しぶりで、何話していいかちょっと分からなかったんだよね。

思いを伝えるのって難しい。


璃奈「……」ズズ

璃奈「うま」


学校に行く前の朝。

──家には私以外誰もいない。



697: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 12:02:55.97 ID:/IyPZPaL.net

『──つまり、魂というのは、肉体とは別のものなのです。精神的実体として存在する、想像上の概念なんですね』

『なるほどぉ〜』

璃奈「……」ズズッ


私の両親は仕事でとても忙しい。その為、ほとんど家に帰ってこない。
お父さんは海外で仕事をしているし、お母さんは日本にいるけれど、泊まり込みの仕事が多い。

だから、私はほとんど一人で過ごしている。もはや一人暮らしだ。

でも、静か過ぎるのも嫌なので適当に朝から興味もないニュース番組を垂れ流している。内容は頭に入らない。だって興味ないもん。

……なに? 寂しくないかって? ──寂しいに決まってる。そんなの当たり前だ。まだまだ甘えたい年頃だもん。

でも、わがままは言わない。お父さんもお母さんも、人を救う為の仕事をしている。

両親は私の誇りだ。そんな人達に心配かけるような事はしたくない。

だから──我慢出来る。



698: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 12:19:01.21 ID:/IyPZPaL.net

『そんな魂と呼ばれるものが肉体から離れそうになる瞬間。例えるなら大きな事故にあった時などですね。生きるか死ぬかの時。その時に私達人間は、不思議な体験をす──』

ピッ

璃奈「ご馳走様でした」


コーヒーと軽食を食べ終わる。そのタイミングでテレビも消す。

そろそろ身支度を整えなければいけない。


璃奈「今日はどんな一日になるかな」

璃奈「学校、楽しみだ」


前までちょっと退屈だった学校も、今では楽しみの一つだ。

早く同好会の皆と会いたい。あそこは心地良い。


璃奈「ふふふ……今日もしずくちゃんと一緒にかすみちゃんをからかってやろっと」


自然と笑みが零れてしまう。早く学校に行こう。

そう思い私は身支度を整えるのだった。



700: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 12:41:33.03 ID:/IyPZPaL.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜放課後 部室〜


朝の頭痛もまるでなかった事かのように治まり、いつもの日々が始まった。

私が今の上原歩夢になって、約1ヶ月。夏が近づいてきたと思えるように、少し気温は上がってきている。

時が動いているという事がよく分かる。──前の私は今どうなってるんだろうか。

疑問が尽きないまま、今日も一日が始まる。


彼方「はぁぁぁぁぁ……」

しずく「すー……すー……」zzz

彼方「寝てるしずくちゃん……可愛い……かえーしきゃー」ウットリ

果林「え!? 彼方もしかして私と一緒の八丈島出身!?」

エマ「いや、果林ちゃんの真似してるだけだと思うなぁ。八丈島出身なら同い年の果林ちゃんは昔から彼方ちゃんと会ってるでしょ?」

果林「あっ、そっかぁ〜!」

歩夢「ふふっ。私もしずくちゃん可愛いと思います。癒されますよね」ニコニコ

彼方「だよね!? 歩夢ちゃんは分かる子だね」

歩夢「でも、本当に彼方さんはしずくちゃんの事が好きですよね。二人共とっても仲良しですし」

彼方「うん。私にとってしずくちゃんはもう一人の妹みたいなもんだからね〜。──さて」

彼方「そろそろ私は帰るね」

かすみ「今日もアルバイトですか?」

彼方「うん。その前に寄りたい所もあるし、今日も皆気を付けて練習してね」

彼方「あんまり参加できなくてごめんね」

エマ「大丈夫だよ〜。彼方ちゃん、お仕事頑張ってね!」

彼方「うん! みんなまたねー」


眠っているしずくちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でて、そのまま彼方さんは部室を出ていく。

彼方さん、本当に忙しそう。ちゃんと休めてるのかな?

私の世界の彼方さんは、寝るのが大好きな人だった。

でも、この世界の彼方さんは全くと言っていいくらい寝てる姿を見ない。
いつもハキハキとしていて、少し緩い雰囲気はあるけれど頼りになる先輩って感じだ。

……無理してたりしないかなぁ?



701: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 13:09:08.76 ID:/IyPZPaL.net

璃奈「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? 璃奈ちゃんどうしたの?」

璃奈「今日、ボーカル練習をしようと思っているんだ」

璃奈「良かったら色々と教えてほしい。端的に言うなら、一緒に練習して」

歩夢「え? 私が?」

璃奈「うん」

歩夢「うんっ、いいよ! あんまりお役に立てないかもだけど」

璃奈「それはないよ」

璃奈「歩夢さんから色々教わる事が出来る。それだけでバフが乗るってもんだよ」

歩夢「バフって……あはは……」

璃奈「やる気が絶好調になるよ」グッ

歩夢(面白い例え方だなぁ)



702: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 13:25:16.91 ID:/IyPZPaL.net

かすみ「すごいやる気じゃん。天王寺璃奈」

璃奈「かすみちゃんはいつになったら私の事を名前だけで呼んでくれるんだい?」

かすみ「お墓に入った後かな」

璃奈「死してなお私の名を呼ぶとは……さてはあなた私の事がすきだね?」

かすみ「本当にそのポジティブさだけは見習いたいよ。それだけはね」

璃奈「照れる」

かすみ「はぁ……」イライラ

歩夢「あはは……二人共仲良くね?」

璃奈「超絶仲良しだよ。私とかすみちゃんはなかよし同好会だもん」

かすみ「まって、なにそれ初耳なんだけど。今すぐ退部したいんだけどそのなかよし同好会」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」

かすみ「あああああああ!! 私、本当にこの子苦手!! 私に近づくな!!」

璃奈「分かった」グイッ

かすみ「来るなっての!!」

歩夢(なんだかんだ仲良し……なのかな?)



703: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 13:36:24.56 ID:/IyPZPaL.net

璃奈「まぁ、イチャイチャするのはこれくらいにしておくね」

かすみ「イチャイチャじゃない!!」

せつ菜「かすみさん、しずくさんが起きちゃいますから……」

せつ菜「──あ! あと歩夢さんとのボーカル練習は私も混ざりますね!」ペカー

璃奈「うん。いいよ。一緒に練習しよう」

璃奈「今はすごく練習を頑張りたい気分なんだ」

愛「そうなのか?」

璃奈「うん」コクリ

璃奈「この前の皆のライブは本当に素晴らしかったよ」

璃奈「色々とトラブルはあったけれど、お客さんは皆満足していた。関係者にしかトラブルが起きた事が分からない。全てパフォーマンスとアドリブでカバー出来た。そんなライブだった」

璃奈「本当に、見ていて胸が熱くなったよ」



704: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 13:52:01.00 ID:/IyPZPaL.net

璃奈「初ライブとは思えないくらいの仕上がりだったし、かっこよかったせつ菜さん」

せつ菜「ほんとですか!? 嬉しいです!」

璃奈「一生懸命頑張っていた、めちゃめちゃ可愛かった愛さん」

愛「か、かわ!?////」

璃奈「そんな愛さんをフォローしつつ、自分の可愛さを全力でお客さんに見せて、かすみんワールドを作っていた凄いかすみちゃん」

かすみ「……ふん」プイッ

璃奈「アドリブだったのに完璧な歌をアカペラで歌った私の憧れの歩夢さん」

歩夢「璃奈ちゃん……」

璃奈「そして……あまりの歌唱力の高さで会場の全員を魅力させたエマさん」

璃奈「お客さん、サイリウム振る事を忘れさせた人もちらほらいたよ」

エマ「……皆のおかげだよ。皆がいたから出来たの」ニコッ

璃奈「そしてその静寂さを、楽しいライブへと切り替えさせた果林さん。最後の締めの『Starlight』は本当にかっこよかった」

果林「えへへ〜! どーもよい!」

璃奈「つまり、端的に言うならね」

璃奈「皆、本当にすごかったよ」

璃奈「私も皆みたいなライブがしたいと思った」

璃奈「だから練習、頑張りたいんだ」



705: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 14:04:38.95 ID:/IyPZPaL.net

璃奈「私に皆みたいなライブが出来るかは分からないけど」

かすみ「──それはあなたの頑張り次第でしょ」

璃奈「え?」

かすみ「努力は裏切らないよ」

かすみ「やるって言うなら全力でサポートしてあげるよ」

璃奈「かすみちゃん……」ポカーン

かすみ「私以外の皆がね」プイッ

せつ菜「かすみさんはツンデレなんですか?」キラキラ

かすみ「全く違います。期待の眼差しと変な例え方やめてください」

愛「そんなこと言ってて何かあったら璃奈の事助けるんだろ? かすみは本当に良い奴だよなぁ〜、うりうり〜」ナデナデ

かすみ「髪が乱れるのでなでなでしないで下さいっ!」

璃奈「……ふふ」

璃奈「そっかぁ〜。なら全力で助けてもらおうかなぁ〜。かすみちゃんに」ニヤニヤ

かすみ「絶対助けない。寄るな天王寺璃奈」

璃奈「あはは! ツンデレめ〜」ニコニコ

かすみ「ツンデレじゃない!!」

璃奈(──ほんと、スクールアイドル同好会はいい所だ)

璃奈(だいすき)



706: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 14:14:26.51 ID:/IyPZPaL.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

♪〜

璃奈「──ふぅ、どうだった? 歩夢さん」

歩夢「うん! すごく良かったよ璃奈ちゃん!」

歩夢「ほどよく緊張も抜けてて、とっても聞き取りやすい歌だった」ニコッ

璃奈「ほんとーかい? ありがとう」

せつ菜「私もそう思います!」

愛「独特な歌い方だけど、印象に残るよな。──あっ、勿論良い意味で独特って事だからな?」

璃奈「二人もありがとう」

璃奈「ふむふむ……なるほど」

璃奈「歌は問題ないとしたら、後はダンスを猛特訓しなきゃだね」

せつ菜「ダンスですか?」

璃奈「うん」コクリ



707: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 14:28:10.52 ID:/IyPZPaL.net

璃奈「お客さん目線でライブを楽しむとしたら、勿論歌はとても重要だけど、それ以外にダンスも大事だと思うんだ」

璃奈「例えば頭の上で指をクイッ、クイってさせる動きをする。お客さんも真似しやすいような振り付けにしたら、その動きに合わせてお客さんもサイリウムを動かせるかもしれない」ピョン、ピョン

璃奈「そんなお客さんも楽しめる、参加型のライブ。それが出来たら良いなと思ってるんだ」

璃奈「折角ライブに参加してもらうんだ。CD聞くだけでは味わえない事も体験してほしいんだよね」

愛「なるほどなぁ……」フムフム

愛「──それ、めっちゃいいな!」

愛「アタシもそんな、参加してくれる皆が楽しめるライブがやりたい!」

璃奈「だよね? 気が合うね愛さん」

愛「アタシは便乗した感じだけどな! 璃奈のおかげで目標が決まったんだよ」ニカッ

せつ菜「本当に良いですねそれ! 私も参考にしますっ!」

璃奈「でしょ? これからもこんな感じで切磋琢磨していこう。えいえいおー」グッ

愛「おー!」
せつ菜「おー!」



708: 名無しで叶える物語 2021/05/26(水) 14:38:54.80 ID:/IyPZPaL.net

歩夢「私も応援するから、頑張ってね! 璃奈ちゃん」ニコニコ ナデナデ

璃奈「!?////」ビクッ!!

せつ菜「!!」

歩夢「あっ、ごめんね? ついまた頭を撫でちゃった……髪乱れちゃうよね?」

璃奈「もっと撫でて! もっともっと!」グイ、グイッ

歩夢「え、えぇ!?」

せつ菜「あ、歩夢さん! 私も撫でてください!」

歩夢「なんで!?」

歩夢「せつ菜ちゃん撫でるのは……ちょっと恥ずかしいよ……」

せつ菜「!? ──な、なんでですか!」

歩夢「ほ、ほら! 同級生だし……」

せつ菜「璃奈さんの方が大事なんですか!?」

歩夢「違うよ!?」

愛(こいつら歩夢の事好き過ぎるだろ……)



718: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 00:16:13.30 ID:1tUGM5w7.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

璃奈(お昼ご飯、どこで食べようかな)


お昼ご飯はいつも学食で済ませているんだけれど、本日はおサイフを家に忘れてしまった。

仕方なくコンビニでスマホの電子マネーでお弁当を買って、今はそれを食べるスポットを探している途中だった。


スタ、スタ、スタ ──ギュッ

しずく「りーな!」

璃奈「え? しずくちゃん?」

しずく「やっほ〜」ニコッ


後ろから同級生のしずくちゃんに抱きつかれる。すごくいい匂いがする。



719: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 00:34:39.86 ID:1tUGM5w7.net

しずく「こんなとこで奇遇じゃん! どしたの?」

璃奈「お昼ご飯を食べるスポット探してるんだけど、どこにするか絶賛迷い中なんだ」

しずく「マジ?」

しずく「ならあたしのおすすめスポットで一緒にご飯食べる?」

璃奈「え? いいの?」

しずく「あったりまえじゃ〜ん! あたし達友達なんだし!」

璃奈「え……?」

しずく「ん? どしたん?」

璃奈「……う、ううん。なんでもないよ」ニコッ

しずく「そっか!」

璃奈「ならお言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな」

しずく「いいねいいね! じゃあいこ!」

ギュッ

璃奈「あっ」

しずく「早く早く〜」ニコニコ

璃奈「……うん!」ニコッ

璃奈(友達……うん、友達!)

璃奈「ふふっ」ニコニコ







720: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 01:29:32.97 ID:1tUGM5w7.net

かすみ「──で? 連れて来たと?」

しずく「うん! 連れて来ました!」ニコッ

璃奈「連れられて来ました!」ニコッ

かすみ「はぁ……」

しずく「そんな溜め息つかなくていいじゃ〜ん! 同じ部活の仲間だぞ〜?」

璃奈「そーだそーだ」

かすみ「ちっ」

しずく「舌打ちやめろって」

璃奈「まぁ、冗談はさておきご一緒させてもらっていいかな?」

かすみ「……しょーがないからいいよ」

璃奈「ありがとう」

しずく「大丈夫だよ璃奈。この子、本当に嫌いな人とは話さないし!」

かすみ「余計なこと言うなしずく」ムギュー

しずく「いひゃいいひゃい〜!」

しずく「──ほっぺたつまむな!」

かすみ「自分のせいでしょ!」



721: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 02:09:03.74 ID:1tUGM5w7.net

璃奈「2人は本当に仲良しだね」

璃奈「私と出会った長さはあんまり変わらないのに、よくそこまで仲良くなったね」

しずく「ふふーん! 仲の良さに交流の長さは関係ないのだよ〜!」

かすみ「長さは関係ないって……しずくが色んな人と仲良くなるのが早すぎるだけでしょ」

しずく「そんな事ないって。ちゃんと相手選んでるよあたしは」

かすみ「はいはい。そーですねーそーですねー」

しずく「っておい! 聞き流すなっつの」

璃奈「ふふっ」ニッコリ

璃奈「いやぁ、誰かとこうやってご飯食べるのって楽しいもんなんだね」

璃奈「いつもは一人で食べてるし、心地良いよ」

しずく「え? お家で家族と一緒にご飯食べたりしないの?」

璃奈「私の家は両親が共働きですごく忙しいからね。ほとんど家に帰ってこないからさ。だから基本的にいつも一人で食べてるよ」

しずく「!! ごめん……」

璃奈「謝ることじゃないよ」

璃奈「お父さんもお母さんも、人を助ける仕事をしてるの。私の誇りだよ。だから、それでいいんだよ」

璃奈「──確かに寂しいけど、わがままは言えないよ」ニコッ

しずく「璃奈……」

かすみ「…………」



723: 1 2021/05/27(木) 09:03:40.46 ID:pvDk2ymb.net

璃奈「それに、家に誰もいないのも利点ではあるんだ。好きなタイミングで私のだいすきな開発ができる」

しずく「開発?」

璃奈「うん」

璃奈「小さい頃は今みたいに我慢出来るって素直に言えなかったからね。両親にあんまり構ってもらえないというフラストレーションを発散出来るものを探していた時期があるんだ」

璃奈「そして、たどり着いたのが色々な物を作るという開発」

璃奈「脳にある知識をフル活動させて、物を作る。くっふふふ……! サイコーだよ?」

かすみ「笑い方が怖い」ジトー

璃奈「あっ、ごめんごめん。開発の事になるとテンションが上がっちゃうんだ」

璃奈「──まぁ、つまりはそういう事。フラストレーションの吐き出し口はあるし、全然平気だよ」

璃奈「たまに開発して作ったものを見せると、お母さんも喜んでくれて、私の事褒めてくれるし」ニコッ

しずく「……」

かすみ「……」



724: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 09:14:15.99 ID:pvDk2ymb.net

璃奈「とまぁ、自分語りはおしまいだ。折角の皆でランチなんだ。もっと色々な話をしよ──」

ギュッ!!

璃奈「!?」

しずく「璃奈」

しずく「良かったらこれから毎日、私達と一緒にお昼食べない?」

璃奈「──え?」

しずく「ね?」ニコッ

璃奈「しずくちゃん……」

しずく「ねぇ、いいでしょ? かすみ」

かすみ「……好きにすれば」

璃奈「かすみちゃん……」

璃奈「本当にいいの……?」

しずく「うん!」

しずく「友達と一緒に食べるご飯は格別だよ?」

璃奈「!!」

璃奈「……うん! 私も2人とご飯食べたい!」

しずく「うーん! よしよし〜素直で可愛いよ璃奈〜!」ギュウ~

璃奈「そんなに抱き締められると、照れちゃうよ?」

しずく「ほんと璃奈かわいいんだけど! 店長! テイクアウト出来ますか!?」

かすみ「どんなテンションなの?」

璃奈「ふふっ」ニコニコ

璃奈(……友達って)

璃奈(いいね)



725: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 09:28:40.86 ID:pvDk2ymb.net

かすみ「…………」

かすみ(家でほとんど一人……かぁ)

かすみ(学校行って、部活やって、帰ってきても誰も家にいないんでしょ?)

かすみ「…………」

かすみ(寂しい、よね?)

かすみ(そんなの絶対)

璃奈「ん? かすみちゃんどうしたの?」

かすみ「え?」

璃奈「さっきからすごい静かだよ? いつもの騒がしさはどこへ?」

しずく「確かに! いつもうるさいくらいなのにね〜」

かすみ「言っておくけど私をうるさくさせている原因は大体あなた達二人だからね?」

かすみ「……別に、考え事してただけ」

璃奈「そっか」

璃奈「なら今度私がやる事になったライブに向けてアドバイスしてほしいんだ。いいかな?」

かすみ「……仕方ないなぁ」

しずく「デレた?」

かすみ「…………」ギュュュュュ

しずく「いたたたたたたっ!! あたしの綺麗な二の腕がぁ!!」

かすみ「うっさい」プイッ

しずく「すぐそうやって暴力振ってきて! もーぷんぷんだよ! おこなんだけど!!」

かすみ「そんな強くやってないでしょ!?」

璃奈「まぁまぁ二人共。ここは私に免じて仲直りしてくれよ」

かすみ「あなたは何キャラなの!?」



726: 名無しで叶える物語 2021/05/27(木) 09:34:15.53 ID:pvDk2ymb.net





〜放課後 職員室前〜


かすみ「…………」

スタスタ

しずく「おまたせー。どしたん? こんな所に呼び出して」

かすみ「……その……手伝ってほしいことがあって」

しずく「ま?」

かすみ「ま」コクリ

しずく「かすみからお願い事なんて珍しいね〜」

かすみ「…………」

かすみ「こんなことするの、私らしくないってのは分かってるんだけどね……」

かすみ「その……えっと……」

しずく「いいんじゃない?」

かすみ「え?」

しずく「やりたいと思ったことがあるんでしょ?」

しずく「なら私に出来ることがあるなら、全力でサポートするよ」

しずく「友達じゃん?」ニコッ

かすみ「……うん!」

かすみ「実はね──」



731: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 00:03:24.39 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

朝起きて、学校へ行き、ライブに向けて練習をする毎日の繰り返し。

──とても有意義だった。


歩夢「璃奈ちゃん。ステップを踏む時のコツはね──」


──私達はソロアイドルの集まりなのに、みんな私の練習に付き合ってくれた。


彼方「お腹から声を出す技術も大事だけど、私達は踊りながら歌うからね。一番大事なのは体力なの。だからこれから──」


──最近スクールアイドルになったばかりの私が、お客さんが満足するライブの開催に向けて、日々練習に取り組む。生半可な気持ちではダメだ。毎日必死に練習した。





かすみ「ほら! あと2週! スピード遅れてきてるよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……ッ、はぁ……!」


体力があまりない私にとっては中々辛い時もあった。


かすみ「ライブ中は体力が無くなっても誰も助けてくれない。ファンの皆は満足出来ない。自分は悔しい思いをする。何も良いことない。ただただ後悔するだけだよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……」

かすみ「後悔を美談で終わらせるんじゃなく、成功を美談にさせるの!」

璃奈「!! ──うん!」コクリ


何でこんな事やってるんだろう?

辛い、辛い。こんなに汗を流して、果たして意味があるのだろうか?

そんな風に思う時だってある。けど、練習後のお水の美味しさは格別だし、やり切った時の達成感も凄い。


璃奈(身体動かすのって、楽しい……!)


開発くらいしか楽しいことが無かった私の日々が、変わり始めたんだ。

──これが青春、なのかなぁ?



733: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 00:47:35.92 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──そして、ついに迎えたライブ当日。

いつもはギリギリに起きるのに、今日は目覚ましのアラームがなる前に目が覚めてしまった。


璃奈「う〜ん……清々しい朝だ」


適当に独り言を呟き、身支度を整える。

顔を洗おうと思い洗面所に向かう。途中、リビングを経由するんだけれど、テーブルに目が行く。


璃奈「え?」

璃奈「……おにぎり?」


サランラップに包まれた、おにぎりが置いてあった。


璃奈「お母さん?」


近くには「いつも寂しい思いをさせちゃってごめんね」とだけ書かれたメモが置いてあった。お母さんの字だ。


璃奈「……ふふ。別に気にしなくていいのに」クスクス

璃奈「はむ」パクッ

璃奈「……」モグモグ

璃奈「ん、美味しい」


普通のおにぎり。塩味でさっぱりとした味。──それだけなのに、すごく美味しく感じる。


璃奈(ありがとう、お母さん)

璃奈「今日のライブ……頑張るよ」

璃奈(──でも、欲を言えば)

璃奈「今日のライブ……見て欲しかったなぁ」

璃奈(今日、ライブがある事すら……教えてないけれどね)



734: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 00:59:52.14 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「ついにライブが始まるね、璃奈ちゃん」

璃奈「うん! 色々練習付き合ってくれてありがとうね。歩夢さん」

歩夢「ううん、全然平気だよ」ニコッ

愛「璃奈、すげぇ練習頑張ってたもんな。楽しみにしてるからな!」

せつ菜「全力で応援していますよ!」

エマ「リラックスして、楽しんできてねっ」

彼方「3年生のみんなで作った、璃奈ちゃんフラッグで応援するよ〜」

果林「今日の璃奈ちゃんのライブのために作ったの! 璃奈ちゃんがんば〜!」

璃奈「みんな……!」

璃奈「本当に、ありがとう。全力で頑張ってくるよ」ニッコリ



735: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:05:14.31 ID:uDM94UCa.net

しずく「璃奈!」

かすみ「…………」

璃奈「しずくちゃんとかすみちゃん!」

璃奈「二人も色々とライブの準備してくれたり、手伝ってくれてありがとうね」

しずく「良いってことよ〜!」

かすみ「…………」

かすみ「ねぇ」

璃奈「ん?」

かすみ「……私としずくは観客席で応援するよ」

璃奈「え? 観客席で?」

しずく「うん!」

かすみ「あんまり大きな会場じゃないから、私達の事……見れると思う」

かすみ「だから、あなたが歌う前。その時に全力であなたの名前を呼ぶから、その瞬間私としずくのいる所を見てほしい」

璃奈「う、うん。分かった」

かすみ「ん。よろしくね」

璃奈「……?」キョトン



736: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:15:32.82 ID:uDM94UCa.net

かすみ「……あのさ」

璃奈「んー?」

かすみ「………………」

かすみ「が」

璃奈「が?」

かすみ「……っ……」

かすみ「が……頑張ってね……////」フイッ

璃奈「!!」

しずく「デレた〜!」

かすみ「うっさい!」

せつ菜「やっぱりツンデレなんですね! かすみさん!」キラキラ

かすみ「違います! テンション上げないでください! ツンデレじゃないですから!」

かすみ「──たくっ。じゃあ移動するよしずく」

しずく「アイサー! 璃奈、頑張ってね!」ピシッ

かすみ「……中途半端なライブしたら、校庭のグラウンド50周だからね!」

スタスタ

璃奈「…………」

歩夢「璃奈ちゃん」

璃奈「ん?」

歩夢「いい笑顔だね。璃奈ちゃん」ニッコリ

璃奈「──うん!」

璃奈「絶好調だよっ」

璃奈「私、頑張ってくる!」ニッコリ



738: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:30:29.57 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目を──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!


会場に響くしずくちゃんの声。


璃奈(あっ、そう言えばさっき、かすみちゃんが──名前を呼んだら私達を見てって言っていたっけ?)


急いでしずくちゃん達を探す。すぐに見つかった。

UOをグルグル回しているしずくちゃんはよく目立った。

おいおい、まだ曲は始まって──


璃奈(──え?)


一瞬、目を疑った。



739: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:31:46.60 ID:uDM94UCa.net

璃奈母「璃奈、がんばって!」




璃奈「」


そこにはお母さんがいた。



740: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:39:53.83 ID:uDM94UCa.net

璃奈「……っ!!」


サイリウムを慣れない手つきで振る準備をしているお母さん。

その横にUOをハイテンションでブンブンさせているしずくちゃん。すごく目立つようにしてくれている。

そして、その横にはかすみちゃんもいる。


かすみ「…………」


かすみちゃんは静かに私を見ている。

──彼女と目が合う。かすみちゃんはそのまま私に向けて拳を突き出す。

……人の心なんて、分からないものだけれど。

この時は、かすみちゃんの声が聞こえた気がした。


かすみ(──見せ付けてやれ)グッ



741: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:42:54.34 ID:uDM94UCa.net

♪〜

璃奈「はずむ ココロ」

璃奈「飛ぶような テンション!」

璃奈「さぁ コネクト」

璃奈「しよ!」



742: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:43:36.93 ID:uDM94UCa.net

【ツナガルコネクト】



743: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:50:46.96 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

正直、ライブの時の記憶はあんまりない。

やれる事を全力でやりきり、お客さん達の歓声を聞いて、私はライブが終わったことに気が付いた。

──そのまま流れるままにステージ裏へと戻り、皆からもみくちゃにされた。

沢山褒めてくれた。

……嬉しかったよ。

でも、私はすぐにかすみちゃんとしずくちゃんを探し、見つけ出し、声をかけた。


璃奈「なんで二人が……!?」


色々聞きたいことがあったけれど、上手く言葉に出来なかった。



744: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 01:57:55.58 ID:uDM94UCa.net

しずく「かすみがさ、色々動いてたんだよ」

璃奈「え?」

かすみ「…………」

かすみ「職員室に行って、あなたのクラスの担任にあなたのお母さんの連絡先を聞いたの」

しずく「いやぁ、中々教えてくれなかったんだよね。個人情報だしね」

かすみ「……数日間聞き続けて、何とか聞き出せたから……直接電話して、今日のライブのこと伝えたの」

璃奈「…………」

璃奈「ど、どうして?」

かすみ「……あなたとお昼ご飯に、色々聞いてさ」

かすみ「その……えっと……」

かすみ「や、やりたくなったの!」

かすみ「あなたとお母さんの……一緒にいられる時間を……作ってあげたかった」

璃奈「かすみちゃん……」



745: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:03:50.44 ID:uDM94UCa.net

かすみ「余計なことして、本当にごめん」

かすみ「他人の家庭の事情に首を突っ込むなんて、やってはいけないことだもん」

かすみ「……けど……ずっと一人だなんて」

かすみ「寂しいじゃん……」

璃奈「……っ……」

かすみ「か、勘違いしないでよ!」

かすみ「私はあなたの事、苦手だから!」

かすみ「何考えてるかわかんないし」

かすみ「無駄にテンション高いし」

かすみ「時々笑い方怖いし」

かすみ「私の事すぐにからかってくるし」

かすみ「本当に……苦手……だよ」

璃奈「……」

かすみ「──でも!」

かすみ「私は頑張ってる子が報われないのが、本当に嫌なの!」

璃奈「!!」



746: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:12:34.18 ID:uDM94UCa.net

かすみ「あなたは……頑張ってる」

かすみ「寂しい思いはあるって言いながらも、心配させないよう笑ってるし」

かすみ「練習だって! 私の想像以上に頑張ってくれた」

かすみ「……だからその……」

しずく「かすみなりに、璃奈の為に色々と考えてくれてたんだよ」

しずく「かすみからのサプライズ!」

かすみ「あなたのライブの話をした時、あなたのお母さん……すごく喜んでた」

璃奈「──え?」

かすみ「ライブ、絶対行くって言ってたよ」

かすみ「……あなたは、ちゃんと……愛されてるよ」

璃奈「……はは……あはは……!」ニッコリ

璃奈「……まったく……」

璃奈「泣いちゃうよ?」

かすみ「……対応がめんどくさいから泣かないで」

璃奈「あはは! 相変わらずツンツンデレデレだなぁ、かすみちゃんは」

かすみ「なんか多いしツンデレじゃないっての!!」



747: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:21:31.19 ID:uDM94UCa.net

璃奈「でも本当に、ありがとう」

バッ!! ──ギュッ!!

かすみ「!? ちょ、いきなり抱きつくな!」

璃奈「嫌だね。これから私の嫁って事をお母さんに紹介しに行くから」

かすみ「寒気すること言うなっての!」

しずく「えぇ〜? 私は?」

しずく「私も色々手伝ったんですけど〜!」

璃奈「多妻制だからカモンしずくちゃん!」

しずく「やった! ──あと、あたしも抱きつかせろ!」バッ!!

かすみ「だぁぁぁぁあああっ!! あっついよ! 離れろ!!」

璃奈「そんな事よりかすみちゃん」

かすみ「そんな事!?」

璃奈「私のライブ、どうだった?」

かすみ「……………………」

かすみ「ま、まぁまぁ良かったよ」

璃奈「間が長すぎるんだけど」

かすみ「うっさい!」

かすみ「まだまだ沢山教えることはあるから、真面目に練習してよね!」

かすみ「──璃奈!」

璃奈「!!」

しずく「……」ニヤニヤ

かすみ「ちっ……しずく。その無言のニヤニヤをやめ──」

璃奈「だいすき!!」ニコッ

ギュュュュュ!!

かすみ「!? ──は、離れろ!! 早くお母さんに会いに行ってあげなさいよ!!」



748: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:29:08.09 ID:uDM94UCa.net

ワイワイ、ギャーギャー


歩夢「ふふっ。璃奈ちゃん達、楽しそうで微笑ましいね」ニッコリ

愛「だなっ」ニカッ

歩夢(璃奈ちゃん、よかったね)

歩夢(最近、皆のキズナが深まってきてる)

歩夢(同好会の雰囲気もすごく良くなってると思う)

歩夢「……やっぱり、始めて良かったなぁ」ボソッ


せつ菜「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? どうしたの? せつ菜ちゃん」

せつ菜「少し前になりますけど、覚えていますか?」

歩夢「え?」

せつ菜「他の学校の子達に聞いてみるって伝えていた」

せつ菜「高咲侑さんの件でお話があります」

歩夢「──え?」



749: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:37:44.15 ID:uDM94UCa.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「──そんなこんなあってね、本当に良いライブだったんだ〜」

彼方「凄かったんだよぉ、璃奈ちゃんのライブ」

彼方「きっと、遥ちゃんも仲良しになれると思うよ。同じ一年生だしっ」

彼方「私、最近ね。同好会の活動がすごく楽しいの」

彼方「皆良い子ばっかだし! 友達も沢山できた。歩夢ちゃんが同好会に入ってから、良いことばかりだよ」

彼方「でも……やっぱり勉強優先になっちゃうけどね……」

彼方「……だから、そろそろ……キリもいいし……」

彼方「……辞め時なのかもね」

彼方「スクールアイドル」

彼方「──な、なんてね! 冗談冗談! あははは〜……」

彼方「……さて。そろそろ家に帰って、夕ご飯の支度しなきゃ」

彼方「また来るね」


遥「………………………………」


彼方「遥ちゃん」



750: 名無しで叶える物語 2021/05/28(金) 02:38:46.79 ID:uDM94UCa.net

【Members walking together】

【NEXT】

【近江彼方】



771: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 00:12:59.27 ID:/Lc2DyOy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「…………」


夜、一人部屋の中で宿題を進める。

今日もお母さんは遅いみたいで、家の中はとても静かだ。

静か過ぎるのも中々落ち着かないなぁっと思ってしまう。
いつも侑ちゃんと通話しながら宿題していたから、余計かもしれない。


歩夢「…………」

歩夢「侑ちゃん……」


……侑ちゃんに会いたいなぁ。



772: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 00:21:56.54 ID:/Lc2DyOy.net

せつ菜『他の学校の方々にも聞いてみたのですが』

せつ菜『やはり高咲侑さんを知っている方はいませんでした』

歩夢『……そっか』

せつ菜『SNSを本名でやっていたりしないかな? って思って調べてみたりもしたのですが……見つかりませんでした』

せつ菜『お役に立てなくてごめんなさい……』シュン

歩夢『う、ううん! 大丈夫だよせつ菜ちゃん! ありがとうね』ニコッ

せつ菜『いえ! また何かあったらいつでも頼ってくださいっ』ペカー

歩夢(やっぱり侑ちゃん……いないのかな?)

歩夢(……もしかしたら……)

歩夢(五十嵐若葉ちゃんの事を聞いてみたら!)

歩夢(でも……)

歩夢(“この子”は『わたしと若葉ちゃんの思い出に関わらないで』って言ってたし……)

歩夢『…………』

せつ菜『歩夢さん?』

歩夢『──あっ、ごめんね。少しぼーっとしちゃってた』

歩夢『また何かあったらお願いするね』ニコッ



773: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 00:30:13.08 ID:/Lc2DyOy.net

歩夢「…………」


侑ちゃんと、五十嵐若葉ちゃん。

夢で見た若葉ちゃんは、侑ちゃんと同じ見かけをしていた。いや、声も笑顔も明るい性格も侑ちゃんと同じだった。

私を引っ張ってくれる、大切で大好きな子。


歩夢「……」

歩夢「また、夢の中でもいいから」

歩夢「この世界の歩夢と会話できないかな……」


夢の中で私に声を掛けてきた子は、恐らくこの世界の上原歩夢。



774: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 00:57:07.00 ID:/Lc2DyOy.net

──────────

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ


歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

──────────


歩夢(“この子”は、私の中にいるの……?)

歩夢(いや……“私”がこの子の中に入ってしまったの?)

歩夢(別世界の上原歩夢である私が……この子の中に?)

歩夢「そんな事……あるの?」

歩夢(いや……今私の身に起きている現象から考えると、全然ありえる話だよね)

歩夢(ありえないなんて事はありえないのかも)

歩夢(愛ちゃんから話を聞いた──パラレルワールドの話。その話から、私は別世界の上原歩夢だって考え付くことが出来た)

歩夢「…………」

歩夢(そう考えると……本当に、私がいた世界の私は……今どうなっているのかな?)



776: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 01:11:21.25 ID:/Lc2DyOy.net

歩夢「……そう言えば」

歩夢「私って」

歩夢「前の世界で」

歩夢「どんな状態だったんだっけ?」

歩夢「確か……スクールアイドル同好会のみんなと練習してて」

歩夢「……ランニング……してたよね?」

歩夢「それで──」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「ぁ……ッ……!!」ズキ、ズキ


頭が再び痛くなる。

最近、頭が痛くなる頻度が増えている気がする。

頭を鈍器で殴られたような感覚。頭が割れるんじゃないかってくらい……痛い。痛い、痛い!

気を失いそう。──でも、気を失ったら……戻って来れない気がする。

そんな気がしてしまった。



781: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 17:06:20.15 ID:/Lc2DyOy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「行ってきます」

ガチャ

スタスタ

歩夢(うぅ……まだ少し頭がズキズキする……)

歩夢(こんなに長引く事、なかったんだけどなぁ)

歩夢(頭痛薬とか、効くかな? あんまり身体に良くないから薬には頼りたくないんだけど……)

タッタッタッタ

愛「──歩夢っ」

歩夢「あっ、愛ちゃん。おはよう!」ニッコリ

愛「ちーっす! おはよ歩夢!」

歩夢「どうしたの? こんな朝から」

愛「学校行く前に軽くランニングしてたら歩夢んちの近くに来たからさ」

愛「寄ってみた」

歩夢「そうなんだ。朝から偉いね、愛ちゃん」ニコッ

愛「もっと体力付けないとだからな」ニカッ

歩夢「今でも充分体力すごいあると思うけどなぁ」

歩夢「かすみちゃんも前、愛ちゃんの体力の多さ褒めてたよ?」

愛「マジ? 直接褒めてくれねぇかなぁ……」

歩夢「かすみちゃん、ちょっと照れ屋さんな所あるもんね。だからこそ褒めて貰えると嬉しいよね〜」

愛「わかるわかる」



782: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 17:39:00.08 ID:/Lc2DyOy.net

愛「このまま一緒に学校行こうぜ」

歩夢「うん、いいよ」

スタスタ

歩夢「愛ちゃん、勉強の方はどう?」

愛「勉強は問題ないけど……授業サボりまくってたからグループ学習が辛いかな」

歩夢「あー……もうグループ出来てるもんね」

愛「そーなんだよなぁ……まぁこればっかりは今までの自分の行動が悪いから仕方ないさ」

愛「──てかさ歩夢」

歩夢「どうしたの?」

愛「ここでの生活にも大分慣れてきた?」

歩夢「あー、うん。もうこの子としての生活も1ヶ月くらい経つからね」

愛「そっか」

愛「……まだ皆には話さねぇの?」

歩夢「え?」

愛「今の上原歩夢は、別世界の上原歩夢の人格だってこと」

歩夢「…………」


私が“この子”とは別世界の上原歩夢である事は……愛ちゃん以外誰も知らない。



783: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 17:48:25.13 ID:/Lc2DyOy.net

歩夢「正直、非現実的すぎるよ。話しても……信じられないだろうし……余計な心配させちゃうかもしれないもん……」

歩夢「…………」

愛「…………」

愛「ま、まぁでも……あれだよな! 中々話にくい内容でもあるからそう思うのも仕方ねぇよ」

愛「アタシは上原と結構長い関わりがあったし、歩夢から上原として過ごした日々は全部知らないって話を聞いてたから、すっと頭に入ってきたけどさ。記憶喪失って感じでもなかったし」

愛「そ、その! 少し暗い雰囲気にさせちゃってごめんな歩夢」

歩夢「う、ううん! 私こそ暗くなっちゃってごめん」

愛「──あっ! そーだ。今オリジナル曲作ってる途中なんだけどアドバイスしてくれないか? この前のライブはかすみの曲を一緒に歌わせてもらったから、そろそろ自分の曲が欲しくってさ!」

歩夢「うん。私で良ければ全然いいよっ」

愛「サンキュ!」







784: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:00:33.41 ID:/Lc2DyOy.net

愛「──でさぁ」

歩夢「うんうん」

スタスタ

愛「ん?」

歩夢「? どうしたの愛ちゃん」

愛「あれ、しずくと彼方さんじゃね?」ジー

歩夢「え?」ジー



しずく「──」

彼方「──」



歩夢「あっ、ほんとだね。お話しながら歩いてるね」

愛「二人で登校中っぽいなぁ」

愛「へへーん……ここで会ったのも何かの縁だ。後ろから急に大きな声をかけて、驚かしてやろーっと」ニヤニヤ

歩夢「えぇ!? 朝からそんな子供っぽい事……ダメだよ」

愛「しー! 声がでけぇよ歩夢。バレちゃうだろ?」

歩夢「もー……怒られても知らないよ?」

愛「大丈夫大丈夫〜」ニヤニヤ

愛「んじゃ、ちょっと行ってくるわっ」

歩夢「私は止めたからね?」

愛「わーってるよ」



785: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:11:32.94 ID:/Lc2DyOy.net

愛(よーし……ゆっくり、ゆっくり近づいて……)スタ、スタ

愛(……よしよし、バレてないバレてない)スタ、スタ

愛(よし! そろそろ──)


しずく「かな姉、今日も帰りに病院よるの?」

彼方「うん。そうしようかなって思ってる」


愛(──え?)ピタッ


しずく「あんまり無理しないでね? ──あっ、私も一緒に行こうか?」

彼方「大丈夫だよ。しずくちゃん、同好会の練習あるでしょ? まだまだ1年生なんだから楽しんだ方がいいよ」

しずく「…………」

彼方「あっ、でも今度の日曜日は付き添いしてほしいかなぁ」

しずく「──うん! わかった!」ニッコリ

彼方「よろしくね〜」ナデナデ

しずく「うん!」

スタスタスタスタ


愛「………………」



786: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:21:14.58 ID:/Lc2DyOy.net

スタスタ

歩夢「愛ちゃん? どうしたの?」

愛「…………」

愛「あ、歩夢」

歩夢「うん?」

愛「彼方さん……どこか体調悪いのかな?」

歩夢「え?」

愛「……今日も病院によるの? ってしずくが彼方さんに聞いてて……そうするって彼方さんが言ってた」

歩夢「え!?」

愛「……な、何かあったのかな?」

歩夢「…………」

歩夢「……彼方さん、アルバイトや勉強、最近は同好会の活動も参加してくれることが増えてきたよね」

愛「確かに毎日忙しそうだよな……」

歩夢「前から結構思ってた事があるの」

歩夢「彼方さん、ちゃんと休めているのかな? って……」シュン

愛「!!」

愛「……何かあってからじゃ遅い」

歩夢「え?」

愛「……おばーちゃんの時みたいに……なったら……アタシ……」プルプル

歩夢「愛ちゃん……」



787: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:23:27.81 ID:/Lc2DyOy.net

愛「…………」ピッ

prrrrrr!!

愛「あっ、もしもし? エマさん?」

愛「朝からごめんなさい」

愛「少し相談したいことがあって……」

愛「彼方さんの事で」







788: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:36:11.39 ID:/Lc2DyOy.net

〜放課後〜

彼方「ふわぁぁぁああ……」

彼方(ねっむ)

彼方「!! だめだめ! あくびなんてみっともない……私は眠くないぞー」

彼方(眠気に負けてちゃダメ!)

彼方(今日の授業の内容復習も、明日の予習も休み時間中に終わらせたし、少し同好会に顔を出してから病院に行こう)

彼方(そんで帰ったら勉強だ。あと料理も作らなきゃ。お母さん、今日も遅いだろうからお夜食作っておこうかな)

スタスタ

ガラガラ

彼方「皆、おはよ〜」


「「「!!」」」ビクッ!!


彼方「──え? 皆にどうしたの? そんなに集まって……」

タッタッタッタ!! バッ──ギュッ!!

果林「彼方ッ!!」

彼方「え、えぇ!?」



789: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 18:44:59.43 ID:/Lc2DyOy.net

果林「あだんして!?」

彼方「あ、あだ!?」

果林「何かあったなら……相談してよぉ……!」グスグス

彼方「相談?」

エマ「か、果林ちゃん! 落ち着いて?」

彼方「あっ、エマちゃん……この状況は何なの?」

エマ「……彼方ちゃん」ギュッ

彼方「!?」

エマ「わたしに力になれることあったら……なんでも言って?」

エマ「ね?」ウルウル

彼方「???」

タッタッ

かすみ「か、彼方先輩! これ、私が作った特製コッペパンです! すごく美味しいので……食べて下さい!」

かすみ「あと、私に何か出来ることありませんか?」

彼方「なんでみんな今日異常に優しいの!? あいや、いつも皆優しいけど!」



791: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 19:04:59.79 ID:/Lc2DyOy.net

璃奈「彼方さん。これ、私が今日作った栄養ドリンクなんだけどあげる」

彼方「あ、ありがとう……」

璃奈「炭酸を抜いたコーラを原料として扱ってるんだ」

せつ菜「炭酸抜きコーラ!?」

せつ菜「……」メガネスチャ

せつ菜「ほう、炭酸抜きコーラですか…」

かすみ「真面目にやれ!」



793: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 20:15:40.45 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「……」ポカーン

せつ菜「あぁ! ごめんなさい!」スッ

せつ菜「彼方さん! これ私が作ったクッキーですっ」

せつ菜「これを食べて、元気出して下さいっ!」スッ

彼方「……せ、せつ菜ちゃん?」

彼方「なんでクッキーが紫色なの?」

せつ菜「色々と英気を養える材料を混ぜて作ってみたらこうなりました」

彼方「あ、ありがとう……」

彼方(今度せつ菜ちゃんにお料理教えてあげよ……)

彼方「──というか! 皆どうしたの!?」

彼方「なんか変だよ!?」

スタスタ

愛「彼方さん……」

歩夢「その……」

彼方「あっ! 愛ちゃんと歩夢ちゃん。ねー、これどういう──」

歩夢「病院に行くって……本当ですか?」

彼方「え?」

愛「その……ごめん。朝、聞いちゃったんだ」

愛「しずくと彼方さんの会話を」

彼方「え? あぁ、そうなんだ」

彼方「うん、病院には行くつもりだよ?」



795: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 20:34:28.92 ID:/Lc2DyOy.net

愛「!!」

愛「彼方さん! アタシに何か出来ることないか!?」

歩夢「さ、最近あんまり休めてないですよね?」

歩夢「病院に行くくらい疲労が溜まっているんじゃ……あまりにも……」

彼方「ん?」

彼方「あの……みんな?」

彼方「勘違いしてない?」

彼方「別に私に何かあって通院してるわけじゃないよ?」

「「「え?」」」

ガラガラ

しずく「ごめんごめーん! ちょっと日直で遅れちゃったよ〜」

「「「……」」」

しずく「ん? あれあれ? なんか皆静かじゃん? どしたん?」

彼方「あっ、しずくちゃん! やっほー」

しずく「あっ! かな姉やっほほ〜!」

彼方「ごめん、少し脱線しちゃったけど」

彼方「私、定期的に病院へ行ってるの」

彼方「その理由はね、お見舞いの為なの」

彼方「入院してる、私の妹の遥ちゃんの」

歩夢「──え?」



796: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 20:46:51.50 ID:/Lc2DyOy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ガラガラ

彼方「さっ、歩夢ちゃんここの病室だよ? 入って入って〜」

歩夢「し、失礼します」

彼方「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ〜」

彼方「個室だし」

歩夢「……はい」コクリ

彼方「遥ちゃーん。お客様だよ〜?」

彼方「私の自慢の後輩で、お友達の歩夢ちゃんだよ〜」ニコニコ


遥「…………………………」


歩夢「遥……ちゃん……」


とある病院の、病室のベッドの上。

そこには──静かに眠っている遥ちゃんがいた。



802: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 21:45:16.58 ID:/Lc2DyOy.net

彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

彼方「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)



798: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 21:15:20.76 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「さっきも皆に話したから重複した内容になっちゃうけど」

彼方「遥ちゃんは昔から身体が少し弱い子だったの。心臓が少し、他の子よりも悪くてね」

彼方「それが原因で、学校もおやすみする事が多かった」ナデナデ

歩夢「…………」

彼方「それで、私が3年生になってすぐ、かな? 遥ちゃんの手術をしたの」

彼方「身体が前よりも元気になる為の、大事な手術をね」

彼方「手術は無事に成功したの。心の底から喜んだよ」

彼方「……でも」

彼方「遥ちゃんはまだ目を覚まさないんだ」



799: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 21:28:38.69 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「身体は元気になったし、ちゃんと生きてるのに」

彼方「目を覚まさないの……」

彼方「どの医者も原因不明だって言ってて……匙を投げた」

彼方「まるで……“魂だけ離れちゃってる”みたいだって、お医者様は皆言ってたね」

歩夢「彼方さん……」


あの後彼方さんは、妹の遥ちゃんの状態について同好会の皆に話した。


歩夢(よかったら一緒にお見舞いに来ない? って誘われたから来たけれど)

歩夢(自分が知っている子が……入院している姿を見るのは……辛い……)

歩夢「…………」

彼方「歩夢ちゃん、ごめんね」

歩夢「へ?」



803: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 21:54:27.96 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「突然家庭の事情を話されて、こんな状態見せられても困っちゃうよね」

歩夢「そ、そんなことないです!」

歩夢「その、話してくれてありがとうございます」

歩夢「それと……気の利いたことが言えなくて……ごめんなさい」

彼方「歩夢ちゃん……」

彼方「君は本当に良い子だねぇ〜」

彼方「狂犬って呼ばれていたのが本当に嘘みたいだよ」

歩夢「あはは……」

彼方「本当に遥ちゃん、いつ起きるんだろうね」

彼方「まるで眠り姫だよ」

彼方「キスでもしたら起きるかな?」

歩夢「…………」

彼方「じょ、冗談だよ?」

歩夢「あっ! いえ、ごめんなさい。……考え事しちゃってて」

彼方「考え事?」

歩夢「何かできる事ないかなって……」

彼方「……本当に優しいね、歩夢ちゃん」

歩夢「…………」



805: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 22:06:40.69 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「その気持ちだけでも、嬉しいよね」

彼方「ありがとうね」ニッコリ

歩夢「いえ……」

彼方「それにね、歩夢ちゃん」

歩夢「?」

彼方「遥ちゃんは……私がなんとかする」

彼方「その為に……沢山勉強しなきゃいけないの」

彼方「今よりも、もっと」

彼方「もっともっともっと、勉強しなきゃいけないの」

歩夢「!!」

彼方「遥ちゃんの為に、ね」

歩夢「…………」



808: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 22:23:47.49 ID:/Lc2DyOy.net

───────────

彼方『んー、アルバイトまで勉強したいしなぁ……』

しずく『……かな姉、最近頑張りすぎだよ! 気持ちは分かるけど……』

しずく『ちゃ、ちゃんと寝てるの!?』

彼方『寝てるよ? 4時間くらいは毎日寝てる』

しずく『ぜ、全然足りないよ! 15分くらい仮眠取りなって! ほら、私……ひざ枕するから!』

彼方『大丈夫だって』

彼方『しずくちゃん。私が勉強頑張る理由、知ってるでしょ?』

───────────


歩夢(そういう事……だったんだ……)

彼方「歩夢ちゃんが良かったらさ」

彼方「またお見舞いに来てほしいな」

彼方「この病院、個人経営なのに入院設備もあってね。先生はフランクで良い人だから気軽にお見舞い来やすいし」ニコッ

歩夢「……はい」コクリ

歩夢「絶対にまた来ます」

彼方「ありがとね」



811: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 22:33:46.86 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「──さて、そろそろ帰ろっか」

彼方「歩夢ちゃんは1回ニジガクに戻るの?」

歩夢「そう……ですね。みんな練習してると思いますので」

彼方「そっか」

彼方「いつもごめんね。部長なのにあんまり出れなくて」

歩夢「いえいえ! 彼方さんのタイミング会う時に顔出してくれたら嬉しいので」

彼方「そう? ありがと〜」ナデナデ

歩夢「……」

歩夢(優しい撫で方……安心する)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「何かあったら、いつでも頼って下さい」

歩夢「力になりたいから……」

彼方「……ふふっ」ニコニコ

彼方「歩夢ちゃんの事はいつだって頼りにしてるよ」

彼方「君のおかげで同好会は活発になったし、かすみちゃんやしずくちゃんも、前より明るくなった気がするもん」

彼方「私も同好会の活動楽しいから、本当はもっと沢山出たいし」



812: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 22:46:53.60 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「同好会の練習、土日もたまにやってるでしょ?」

歩夢「はい。まぁ、結構自由参加な所ありますけれど」

彼方「あはは、ゆるーい感じが私達らしくっていいよねぇ」

彼方「平日は練習出れること多いけど、土日の練習は全く参加できてないからね。今度タイミング見て参加するよー」

歩夢「え? ほんとですか?」

彼方「うん!」

彼方「歌うの好きだからね、私」

歩夢「……」

歩夢(!! ──そうだ)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「来週の日曜日、予定空けてくれませんか?」

彼方「来週の日曜日?」

歩夢「はい」

歩夢「詳細は追って連絡しますので」

彼方「うん! 分かった。予定空けておくね」ニッコリ

歩夢「はいっ」ニコッ

歩夢(少しでも……彼方さんの為に、遥ちゃんの為に。出来ることをやろう)

歩夢(みんなにも、協力してもらおう)



813: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 23:06:55.95 ID:/Lc2DyOy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私、近江彼方はいつも全力です。

全てのことに、全力で取り組んできた。

お料理も、勉強も、運動も、大好きなお料理も。

そして──


遥『うぅ……うぅ……』グスグス

しずく『は、はるかぁ……な、泣きやんでよぉ……』オドオド

彼方『ありゃ? お二人ともどーしたの?』ヒョコ

しずく『あっ、かなたおねーちゃん……』

しずく『えっとね、はるかが大事に育ててたお花がかれちゃったの……』

遥『うぅ……おねぇちゃ〜ん……!』グスグス

彼方『そっか……』

しずく『それで……はるかが悲しそうで……上手く励ますことができなくて……わたしも悲しくなっちゃって……うぅ……!』グスグス

彼方『あはは……優しいお姫様達だなぁ』

彼方『でも……悲しいよね。──よし! 二人とも〜!』

彼方『彼方ちゃんのお歌を聴いて!』

しずはる『え?』


──大好きな歌も、全力だった。



814: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 23:24:52.29 ID:/Lc2DyOy.net

彼方『♪〜』

遥『わぁ……!!』

しずく『……』ドキドキ


遥ちゃんも、しずくちゃんも私の歌が大好きだったみたい。

私も歌う事が大好きだから、こうやって二人が泣いてる時は、よく歌を歌って励ましていた。

遥ちゃんなんかは特に、私の歌を気に入ってくれて……怖い夢を見た時や不安な時は自分から私の歌をせがむくらいだった。

なんだか、懐かしい。

遥『お姉ちゃん!』

遥『もっとうたって〜!』


ピピピピピピッ!!

彼方「ん〜……」

彼方「……」ポー

彼方「ふわぁぁぁぁああ……」

彼方「あさか……」

彼方「なんか懐かしい夢を見てた気がする〜」

彼方「……」ポケー

彼方「んっ」パチンッ

彼方「よし、眠くない眠くない」

彼方「彼方ちゃんは起きとりますよ〜」

彼方「……あ、違う違う」

彼方「私だ、私」

彼方(立派な大人にならないと……)

彼方(──今日は日曜日で、歩夢ちゃんと約束した日だ)

彼方「部室に集合だったよね?」

彼方「……よし、がんばろー」







816: 名無しで叶える物語 2021/05/30(日) 23:53:45.29 ID:/Lc2DyOy.net

彼方「うーん、良い天気だ」ノビー

彼方(良い練習が出来そうだね)

スタスタ

彼方(よし、そろそろ部室だ)

彼方(みんな私が日曜日の練習に参加したら驚くだろうなぁ)

彼方「えへへ」ニコニコ

彼方(みんなに会えるの楽しみ〜)

ガラガラ

彼方「みんな、おっはよー!」


いつもよりテンションが高くなってしまったのか、自分が思ったよりも大きな声が出てしまった。

落ち着け落ち着け〜?

大人はいつも冷静でないといけないもんね。

そんな事を思っていると、皆から挨拶が返ってくる。



817: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 00:07:26.17 ID:YL2vnRYy.net

果林「彼方おっはよー!」

エマ「おはよう彼方ちゃんっ」

しずく「かな姉おっはー!」

かすみ「おはようございます。彼方先輩」

璃奈「おはよ、彼方さん」

せつ菜「おはようございますっ!! 彼方さん!」

愛「おはよーございます! 彼方さんっ」

歩夢「彼方さん、おはようございますっ」

彼方「!!」

彼方(……いつの間にか、こんなに賑やかで)

彼方(明るい同好会になってたんだよね)

彼方(なんとなく作った同好会が、皆と集まれる大好きな場所になって)

彼方(嬉しいな)

彼方「──うん! 皆おはようっ!」ニッコリ



818: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 00:19:15.70 ID:YL2vnRYy.net

彼方「ねぇ、歩夢ちゃん。今日は何の練習をするの?」

彼方「集合場所しか連絡なかったし、気になってるんだ〜」

歩夢「あっ、えっとですね。正確には今日は練習の日ではないんです」

彼方「え?」

歩夢「とりあえず、皆で移動します」ニコッ

果林「彼方〜、道に迷わないようにエス……んーと……えっと、エスパーダ……? ん?」

エマ「エスコート?」

果林「そうそれ! エスコートしてあげるね!」

彼方「いや、果林ちゃんの方が道に迷う気が……」

果林「なっ!?」

エマ「あはは、言えてるかも〜」

果林「エマ!?」

彼方「てかてか、移動? 学校外に?」

しずく「まぁまぁ、細かい事はいいじゃんいいじゃん〜」

しずく「着いてからのお楽しみだよ、かな姉!」

彼方「え、えぇ? 気になるよ……」

しずく「ふふっ、歩夢さん」

歩夢「うん?」

しずく「ありがとうね」ニコッ

歩夢「いーえ」ニッコリ

彼方「???」

せつ菜「まぁまぁ、とりあえず早く行きましょ皆さん!」

璃奈「だね」

愛「おっし、皆ちゃんと荷物持ってな?」

かすみ「分かってますよ愛先輩」

彼方「……」ポカーン

彼方(な、何が始まるの!?)



819: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 00:47:44.23 ID:YL2vnRYy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「わー!」

「にげろにげろー!」

果林「ちょ、ちょっとぉ! わたしのポーチは大事に扱ってよー!」


愛「ほら、ばーちゃん? 大丈夫か? アタシに捕まって」

「おぉ、お嬢ちゃんありがとうねぇ〜」


璃奈「つまり、積み木はこの角度で重ねる事によってバランスを保つ事が出来てだね」ブツブツ

「そ、そーなんだ」

かすみ「はいはいー、この難しい話をしてるお姉さんは無視して私と遊ぼうね皆〜」


せつ菜「本日は本当に私達のお願いを聞いて頂き、本当にありがとうございます」

「いえいえ! この病院、入院している子供やお年寄りが少し多いからこうやってボランティアしてくれるの本当に助かりますよ」


ワイワイガヤガヤ


彼方「………………」ポカーン

彼方(ここ、遥ちゃんが入院している病院だ……)

彼方「な、何が起きてるの?」



820: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 00:56:30.15 ID:YL2vnRYy.net

歩夢「驚いちゃいますよね? ごめんなさい」

彼方「う、ううん。大丈夫なんだけど……」

歩夢「私、結構ボランティア活動に色々参加してるんです」

歩夢「その伝手もあって、ここの病院でもボランティア活動できないかなって色々考えたんです」

歩夢「せつ菜ちゃんや皆にも協力してもらって、学園からの活動としてこの病院の先生に話を通してもらったりもしたんです」

彼方「……」

歩夢「遥ちゃんがお世話になっているこの病院に、何かできることないかなって思って」

歩夢「色々企画しちゃいました」

彼方「!!」

歩夢「勝手なことして、ごめんなさい」ペコリ

彼方「あ、謝らないで? 嬉しいよ歩夢ちゃん! ありがとうねっ」

彼方「でも、ちょっとサプライズ過ぎで驚いちゃったよ」

歩夢「ふふっ。少し驚かせたかった気持ちもあるので」ニコッ



821: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 01:09:53.95 ID:YL2vnRYy.net

エマ「皆ー! あつまって〜」

エマ「わたしと一緒に歌って、踊ろう〜?」

「わーい!」

「おどるおどる!」

エマ「無理しないでね〜? かる〜く身体をうごかそうね〜!」

エマ「ララ〜ララ〜ラ ラ〜♪」

「わぁぁぁぁ……!!」


愛「おぉ……やっぱエマさんの歌声ってめちゃめちゃ綺麗だよなぁ」

果林「うんうん。癒されるよね〜」

璃奈「うん。歌には癒し効果があるって聞くけど、エマさんの歌声はとてつもないヒーリング効果がある気がするね」

愛「ははっ、なんか前にもその歌のくだり聞いたな〜」

璃奈「そーだっけ?」


彼方「…………」

彼方(皆、楽しそう)

彼方(歌……かぁ……)

歩夢「彼方さん」

歩夢「一緒に来てほしい所があるんです」

彼方「──え?」



823: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 01:21:11.17 ID:YL2vnRYy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「──よし! 色々と準備は終わった」


遥「……………………」


しずく「相変わらず可愛い寝顔ですなぁ遥さんや〜」

しずく「早く起きてよ〜。チューしちゃうぞ?」

しずく「遥が起きたら、遊びに行きたいとこも沢山あるし、紹介したい友達もいるからさ」

しずく「……アタシもバイトして遥や、かな姉の助けになりたいなぁ」


遥「……………………」


しずく「あはは……じょーだんだよ? バイトはダメってかな姉から止められそうだよね〜」

スタスタスタスタ

しずく「お? 来たかな?」

ガラガラ

歩夢「彼方さん、ここです」

彼方「ちょ、ちょっと歩夢ちゃん? ここの病室って……」

しずく「歩夢さん、待ってたよ。ありがとね。準備は整ってますよ〜」

歩夢「うん。ありがとうしずくちゃん」

彼方「ん? んん?」



862: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 22:51:58.59 ID:YL2vnRYy.net

歩夢「彼方さん」

歩夢「今日のスクールアイドル同好会の活動は、この病院のボランティア活動です」

歩夢「そして、彼方さんにしてほしいことは」

彼方「う、うん」

歩夢「なんでもいいです」

彼方「え!?」

歩夢「この遥ちゃんの病室で、ボランティア活動が終了するまでの間──何をしても構いません」

歩夢「勉強を進めても大丈夫ですし、ゆっくり休んでもいいです。本当は大好きなお昼寝をしたって大丈夫です」

彼方「!!(な、なんで私が本当はお昼寝好きって知ってるの……?)」

彼方「ど、どうして?」

歩夢「彼方さん、本当に色々忙しいですから」

歩夢「お見舞いだって間の時間を見つけて来てるから、あんまりゆっくり出来てないですよね?」

彼方「それは……まぁ……」

歩夢「だからです」

歩夢「今日は予定、空けてくれたんですよね? 同好会の活動として、今日は自由に……なんでもしていいです」ニコッ

彼方「歩夢ちゃん……」

しずく「簡易的だけど、勉強机もお昼寝スペースも用意したよ。もちろん先生には許可取得済!」

彼方「しずくちゃんも……」



825: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 01:42:42.38 ID:YL2vnRYy.net

歩夢「……彼方さん」

歩夢「たまには自分へのご褒美も……用意してあげてください」

彼方「自分への……ご褒美」

歩夢「彼方さんは……本当に凄い人だと思います」

歩夢「遥ちゃんの為に勉強も頑張って、アルバイトもして……同好会にも出てくれて……みんなのライブや練習の手伝いもしてくれる」

歩夢「いつも……本当にありがとうございます」

彼方「っっ」


ふと、涙が出そうになる。

だめだめ、後輩の前で、妹の前で泣いちゃダメだ。


歩夢「……彼方さん」

歩夢「私、願いを口に出して言い続ければ」

歩夢「その願いはいつか叶うと思っているんです」

歩夢「ゆっくりかもしれないけれど、少しずつ」

歩夢「一歩ずつ進んで」

歩夢「いつか願いは叶うと思う」

彼方「……」

歩夢「私は、遥ちゃんが目覚める事を願っています」

歩夢「そして──彼方さんの夢が叶う事も願っています」ニッコリ







826: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 01:51:20.27 ID:YL2vnRYy.net

彼方「…………」

遥「……………………」

彼方「いやぁ、平和だね〜」

彼方(こんなにゆっくり出来たの、いつぶりだろ?)

彼方(遥ちゃんの目が覚めなくなってからは……出来てないかなぁ)

遥「……………………」

彼方「……」ナデナデ

彼方「はぁ……可愛いなぁ……」

彼方(ふふっ、こんな日があっても……良いかも)

彼方「……」ボー

彼方(……なんか眠くなってき──)

彼方「!! ──だ、ダメ!」

彼方「私、勉強しなきゃ……」

彼方「遥ちゃんの為に……たくさん……勉強して」

彼方「遥ちゃんが目を覚ます為に」

彼方「医者になるために……!」

彼方「それが私の!」

彼方「──彼方ちゃんのッ!!」



歩夢『私、願いを口に出して言い続ければ』

歩夢『その願いはいつか叶うと思ってるんです』



彼方「!!」

彼方「医者になることが……彼方ちゃんの……願い? 夢……?」



827: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 01:56:12.30 ID:YL2vnRYy.net

彼方「……」


──違う。


彼方「……彼方ちゃんの願いは……」

彼方「遥ちゃんが……目を覚ましてくれる事……」

彼方「……」

遥「……………………」

彼方「……遥ちゃん」

彼方「目を覚ましてよ」

彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんと一緒に歳を取りたいよ……」

彼方「……だから……目を覚まして?」

遥「……………………」


──違う。覚まして? じゃない。


彼方「…………」

彼方「──遥ちゃん」

彼方「目を覚ますって──信じてるから」



828: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:02:26.22 ID:YL2vnRYy.net

──今は何をしたって、構わないかぁ。

彼方「……歌」

彼方「歌いたい」


今は思い切り、大好きな歌を──全力で歌いたかった。

そう、彼方ちゃんはいつも全力なのです。


彼方(昔、遥ちゃんは彼方ちゃんの歌が大好きだった)

彼方「全力で、たくさん歌うね」

彼方「聴いてて。遥ちゃん」

彼方「──」スゥゥゥゥ


昔、遥ちゃんが好きだった曲や、最近流行りの曲。同好会の皆の歌も、覚えている範囲で沢山歌った。

──時間は少しずつ経ち、気が付けば夕暮れ時になっていた。



829: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:07:41.35 ID:YL2vnRYy.net

彼方(もうすぐ、ボランティア活動も終了かな)

彼方「はは……ずっと歌ってた気がする」

彼方「こんなに歌ったのいつぶりだろう?」

彼方「今日は久しぶりの事が多いや」

遥「………………」

彼方(次が──最後の曲)

彼方「遥ちゃん」

彼方「今から歌うのはね、最近作った曲なんだ〜」

彼方「遥ちゃんにだけ、初披露しちゃうね?」

彼方「えへっ」ニコッ

彼方「──」スゥゥゥゥ



830: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:10:39.79 ID:YL2vnRYy.net

【Butterfly】



831: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:19:48.46 ID:YL2vnRYy.net

♪〜

──ねぇ、遥ちゃん。


彼方「一人きりじゃ もう」

彼方「両手いっぱい」

彼方「広げても」

彼方「まだ」


──彼方ちゃんは、遥ちゃんがいないとダメなの。


彼方「足りないほどに」

彼方「大きな Dreams」

彼方「いま」

彼方「一緒に」

彼方「抱きしめよう」


──遥ちゃん。


彼方「Butterfly」

彼方「羽を 広げたら」

彼方「ハルカカナタ」

彼方「勇気の向こうに 美しい空」


──いつか目を覚ますって、信じてるから。


彼方「待ってるの──」



832: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:23:47.42 ID:YL2vnRYy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「……いやぁ……」

彼方「歌い過ぎて……喉痛い」

彼方「全力で歌い過ぎちゃったよ……あはは」

遥「……………………」

彼方「さて、と」

彼方「そろそろみんなの所に戻るよ」

彼方「また来るね、遥ちゃん」

遥「……………………」


立ち上がり、身支度を整える。

遥ちゃんに背を向けて、扉に向かって歩く。






──後ろから声が聞こえた気がした。



833: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:27:10.14 ID:YL2vnRYy.net

「──ぃ──ん……?」



彼方「……へ?」


聞き覚えのある声だった。

──大好きな子の声。

私は、振り返り──声の主を見つめた。



834: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:29:03.74 ID:YL2vnRYy.net

彼方「──────」

彼方「うそ」



遥「おねぇ……ちゃん?」



彼方「遥……ちゃん……?」



838: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:38:39.95 ID:YL2vnRYy.net

彼方「うそ……うそ……」

遥「あれ……な、んで私……あれ?」

遥「それ、に……声、出し……辛い」

彼方「──は、遥ちゃん!?」

彼方「遥ちゃんッ!!」

バッ!!

──ギュッ!!

遥「!?」

彼方「よかった……よかった……!!」

彼方「遥ちゃん……良かったよぉ……!!」ポロ、ポロ

遥「お、おねぇ、ちゃん?」

彼方「ひっぐ……!! は、遥ちゃん……っ……遥ちゃん!!」ギュュュュ

遥「???」



839: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 02:45:47.74 ID:YL2vnRYy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

遥「──って事がこの前お見舞いに来てくれた時にあってね?」

遥「お姉ちゃんったら、私の事全然離してくれないんだよ? もうベッタリなの……」

しずく「えー、いいなぁ。羨ましい」

遥「嬉しいけど! やっぱ少し過保護過ぎるよ……」

しずく「あはは! まぁかな姉らしいじゃん」

遥「そうなんだけどさぁ……」

しずく「ところでさ遥」

遥「ん? しーちゃんどうしたの?」

しずく「もーすぐ退院だけど、目を覚まさなかった時の事とかってやっぱり覚えてないの?」

しずく「ずっと寝てたんだし、なんか夢とか見てないのかなぁって」

遥「夢……かぁ……」

遥「うーん……あんまり覚えてないなぁ」

しずく「ですよねー」



841: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 03:01:23.79 ID:YL2vnRYy.net

遥「……」

しずく「どしたの遥? ぼーっとして」

遥「あっ、ごめん」

遥「……少しだけ、なんだけどね」

遥「ぼんやりとなんだけど、何かを体験してた気がするの」

しずく「へ?」

遥「夢……なのかな?」

遥「なんだろ……あんま覚えてないんだけど……なんかね」

遥「その夢? その中ではね、自分の周りの環境が全然違うの」

遥「私の知り合いや友人もいたんだけど……私の知る人とは少し別人みたいになっててね?」

しずく「別人みたいになってる……?」

遥「私の生まれた環境も違くて……」

しずく「う、うん」

遥「……なんか」

遥「自分なんだけど、自分じゃない。別の自分の人生を」

遥「──体験してきた気がするの」



842: 名無しで叶える物語 2021/05/31(月) 03:02:20.70 ID:YL2vnRYy.net

【Members walking together】

【NEXT】

【桜坂しずく】



872: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 19:41:02.21 ID:DNtg6GcO.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──何事も適度に、ゆるく楽しむ。

それが私の生き方だ。

しずく「……」ポケー

しずく(今日もいい天気だなぁ)

しずく(お昼寝したら気持ちいいだろうなぁ)


そうすることによって、今日も平和に生きられる。
そう考えると自然と心も穏やかになってくる。


「桜坂さん?」


──そんな事をぼけーっと考えていたら、先生から声をかけられる。

そりゃそうか。授業中によそ見してたんだし。


「授業中によそ見なんて、ずいぶん余裕ですね?」

「この問題解けますか?」

しずく「……」ジー

しずく(X=4)


問題を見てすぐに正解の答えが分かった。

でも、ここで正解を答えてはいけない。


しずく「あ、あはは……ごめんなさい! わかりません!」

「……まったく。よそ見はせず授業は聞くこと! 罰として課題を──」

しずく「あー! せんせーごめんなさい! よそ見してたあたしが悪かったです! この通り反省してますので、どうかご勘弁をー!!」


少しオーバーリアクション気味に動き、全力で謝る。それを見たクラスメイトが皆楽しそうに笑う。

授業の雰囲気が明るくなったからか、先生もそんなに不満そうではない。

──そう。これでいいんだ。

下手に正解を答えて、授業なんか聞かなくても出来るアピールか? なんて思われて角が立つのはごめんだ。


しずく(これでいいんだ)

しずく(私は、これでいい)


今日もゆるく、平和に生きよう。



874: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 19:59:43.85 ID:DNtg6GcO.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「しずく」

かすみ「そろそろあなたもライブやろうよ」

しずく「へ?」


放課後、スクールアイドル同好会にて練習中。私の大切な友人である中須かすみから唐突にそう言われる。


しずく「いや、私はいいよ」

かすみ「…………」ジトー

しずく(すっごい不満そう……)


ここ最近、スクールアイドル同好会の動きが活発化している。

上原歩夢さんが同好会にやってきて、その影響で部員も増えて、皆一生懸命頑張っている。

本当にすごいと思う。

何かに全力で取り組める人を私は尊敬するし、一生懸命応援したいと思う。

──でも、私には何かに対して一生懸命になる事は出来ない。



875: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 20:07:48.81 ID:DNtg6GcO.net

しずく「ほ、ほら! あたし達スクールアイドル同好会はソロ活動メインだから、その辺自由にやれるのが良い所じゃん?」

かすみ「それ前も聞いたよ」

しずく「あ、あはは……」

かすみ「璃奈だってライブやったんだよ?」

しずく「まぁ、そうなんだけどね」

しずく「あたしは皆のサポートをしたいからさ〜」

かすみ「……それでいいの?」

しずく「うん!」

しずく「あたしは、一生懸命頑張る人は応援したいし、何かを始めようって思ってる人をサポートしたいと思ってる」

しずく「主役じゃなくて脇役に徹する。それでいいんですよ、あたしは」

かすみ「……勿体ない……」

しずく「え?」

かすみ「なんでもない」フイッ

しずく「いやはや、せっかく誘ってくれたのにごめんね?」

かすみ「んーん。別にしずくがそう言ってるんだから大丈夫だよ。無理強いするもんじゃないし」

かすみ「──ただ、ね?」

しずく「?」

かすみ「主役になるのも、いいもんだよ?」

しずく「…………」


──無理だよ、かすみ。

私は主役になれない。

何かに対して、一生懸命になるのは──怖いもん。



876: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 20:18:38.57 ID:DNtg6GcO.net

彼方「ほらほら2人とも〜? そろそろ練習再開するよ?」

かすみ「あっ、はい。わかりました」コクリ

彼方「たっくさん練習メニュー考えてきたからね! 今日も頑張るよ〜」

エマ「ふふ、彼方ちゃん気合い入ってるね〜」ニコニコ

彼方「あたぼうよ!」

彼方「遥ちゃんもそろそろ退院するし、テストの結果も良かった……私は今ノリに乗っているんだぜ〜!」

せつ菜「すっごいテンションですね! 私も負けてられません!」

愛「アタシも負けてらんねぇな!」

しずく「……」

しずく(みんな……楽しそうだなぁ)

歩夢「あっ、練習再開前にみんなごめんね? 私、少しお手洗い行ってくるね」スタスタ

璃奈「うん。歩夢さん行ってらっしゃい〜」



877: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 20:38:46.14 ID:DNtg6GcO.net

彼方「しーずくちゃん!」ギュッ!!

しずく「わっとと! か、かな姉どうしたの?」

彼方「なんか静かだったからね?」

彼方「疲れてない? 大丈夫?」ナデナデ

しずく「うん。大丈夫だよ?」

彼方「何かあったらすぐ彼方ちゃんに言うんだぞ〜?」ギュュュュ ナデナデ

しずく「あはは……うん!」ニッコリ

エマ「二人ともとっても仲良しさんだよね〜」

エマ「ほほえまだよ〜」ニコッ

愛「エマさんだけに?」

エマ「!! ──愛ちゃん、お上手だね!」キラキラ

愛「え!? そんな絶賛されます!?」

果林「中々早い返しだったよ!」

果林「あっ! ダジャレ系スクールアイドルってのもありじゃない!?」

愛「いやいや……そんなの──」

かすみ「斬新でありかもしれませんね」

愛「嘘だろありなの!? 意外なとこから反応きたんだけど!」

果林「ふふっ、セクシー系スクールアイドルのわたしとコンビでも組んでみるかしら?」

愛「セクシー系とダジャレ系ってアンバランス過ぎっしょ。というかほんと、カリンさんと言いかすみと言い……スクールアイドルの時とキャラが違いすぎます」

璃奈「わかる。演技みたいだよね」

しずく「!!」

しずく「………………」

彼方「ん? しずくちゃん?」

しずく「……ごめん、かな姉」

しずく「私、少しお手洗い行ってくるね」


──演技、か。

出来ればあんまり聞きたくない言葉だ。

私はそこから逃げるように、部室をあとにした。



878: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 22:47:46.28 ID:DNtg6GcO.net

しずく「……」

スタスタ

しずく(逃げちゃった)

しずく(……演技、かぁ)

しずく「…………」


かすみ『主役になるのも、いいもんだよ?』


しずく「…………」

しずく「……私には無理だよ……」

しずく「……一生懸命やったら……何かに、のめり込んじゃったら……」

しずく「……あ、あの時みたいに……!」


「……! ──!」


しずく「ん?」

しずく(何の音? それに、なんか……声がする?)

しずく(水道の方から?)

スタスタ


しずく「──え?」


歩夢「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」


そこには、頭を手で抑えながら座り込んでいる──歩夢さんがいた。



879: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 23:01:32.84 ID:DNtg6GcO.net

しずく「あ、歩夢さん!?」タッタ

しずく「だ、大丈夫!?」

歩夢「……しずく、ちゃん?」

歩夢「あ、あはは……ご、ごめん……大丈夫だよ?」

しずく「ぜ、全然大丈夫そうじゃないよ!? あ、頭が痛いの!?」

歩夢「へ、平気……──ッ!!」ビクッ!!

歩夢「ッ、ぁ……いっ……!!」

しずく「あ、歩夢さん……」

しずく(ど、どうしよう)

しずく「とりあえず皆に──」

歩夢「だ、大丈夫!」

しずく「そんな風に見えないよ!」

歩夢「心配かけたく、ないの」

歩夢「し、しばらくすれば……なお、る……から……」

しずく「…………」

歩夢「ご、ごめんね……あはは……」

しずく「……」

歩夢「最近、ね。……頭痛がひどいんだ」

歩夢「市販の薬も全然効かなくて、ね」

歩夢「……さっきも、急に頭が痛くなっちゃって……部室から逃げちゃったの」

しずく「な、なんでよ……言ってくれれば」

歩夢「……しんぱい、かけちゃうから……」

しずく「…………」

しずく(さっきも聞いたよ……)



880: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 23:27:26.70 ID:DNtg6GcO.net

しずく「……」スッ

歩夢「え?」

しずく「……」フキフキ

しずく「汗、とりあえず拭くね? 私のハンカチだけど、ごめん」

歩夢「ううん。……ありがとう」

しずく「いーえ」スッ、スッ

しずく「──よし。これでおーけ」

歩夢「ありがとう、しずくちゃん」

歩夢「頭痛も……少し治まってきたよ」

しずく「なら良かった」

歩夢「本当に、ありがとう」ニコッ

しずく「……」

しずく「何かあったら、言ってね?」

歩夢「……うん」

しずく「それにさ。私は心配かけたいよ」

歩夢「え?」

しずく「一人で抱え込むのって辛いじゃん?」

しずく「その辛さは……知ってるから……」

しずく「だから、私に出来ることがあるなら……何でもしたい」

歩夢「しずくちゃん……」



881: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 23:34:42.99 ID:DNtg6GcO.net

歩夢「しずくちゃんってさ、優しいよね」

しずく「え?」

歩夢「私ね」

歩夢「しずくちゃんに……すごく感謝してるの」

しずく「え? わ、私に?」

歩夢「うん!」ニコッ

歩夢「……初めて……だね。うん。──同好会の部室に来た時」

歩夢「しずくちゃんは私を迎え入れてくれた。何か用事があったんでしょ? って言ってくれて、それ以上は何も聞かないで、優しく迎え入れてくれた」

しずく「あー、なんか懐かしいね」

歩夢「……本当に……あの時、私は救われたの」

しずく(そんな大したことしてないと思うけどなぁ)

歩夢「あ、あとね! かすみちゃんから色々言われちゃった時も──」

しずく「ちょ、ちょいちょい! なんか恥ずかしくなってくるからやめてやめて〜!」

しずく「そんな大したことしてないってば!」

歩夢「そんなことないのに……」



882: 名無しで叶える物語 2021/06/02(水) 23:49:59.74 ID:DNtg6GcO.net

しずく「てかさ、なにげこんな感じで二人きりで話すのほんと久しぶりだよね」

歩夢「あっ、確かにそうかも」

しずく「今の同好会はにぎやかですからなぁ〜。楽しくていいけど」

歩夢「ふふ、そうだね。最近みんな本当に楽しそうだもんね」

しずく「……歩夢さんも楽しい?」

歩夢「私? それはもちろん楽しいよ?」

歩夢「“今の”スクールアイドル同好会も、私はすごく楽しいよ……」

しずく「……そっかぁ」

歩夢「しずくちゃんは?」

しずく「え? 私は……」

しずく「うーん。皆でわちゃわちゃするのは楽しいけど……どうだろ」

しずく「ゆるーくやってるから、よくわかんないや……」

しずく「──って、一生懸命スクールアイドルやってる人に対して、私はゆるくやってるなんて言うの失礼だよね!? ごめん」

歩夢「え? 全然大丈夫だよ?」

しずく「あー、ならよかった……」

しずく(失言したと思った。あぶないあぶない)

歩夢「ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく気遣いしてるよね」

しずく「──え?」



883: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 00:06:43.80 ID:XMwhArLc.net

歩夢「よく冗談とか言って場を和ましてくれるし、聞き上手だし、本当にすごいと思う」

歩夢「いつもありがとうね」

しずく「…………」

歩夢「あれ? しずくちゃん?」

歩夢「え?」

しずく「……あたしは……私は……!」

歩夢「し、しずくちゃん?」

しずく「っ!!」バッ!!

タッタッタッタ!!

歩夢「し、しずくちゃん!?」


──気付かれてた? いつから? 最初から?

……私が気を使って会話をしている事。気付かれてたの?

歩夢さんだけ? それとも、皆に?


しずく(まずい、まずいまずい)

しずく(気を使って会話しているなんてバレたら)


──嫌われる。あの時みたいに。



884: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 00:25:01.07 ID:XMwhArLc.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『わぁ……!!』

しずく『おもしろい……!!』ドキドキ


──私は小さい頃から昔の映画とか小説が好きだった。というか、創作された物語が大好きだった。

主人公を中心に動く物語のシーンの一つ一つに心が躍って、物語にずっと浸っていたくなる感覚が、大好きだった。

そして何時しか、“もし私があの世界の登場人物だったら?”と思うようになり、あれこれ妄想や空想ばかりしていた。

そんな私は小さい頃、仲良しの友達に沢山そんな話をした。


しずく『あのねあのね! そこで運転手であるわたしがね──』


何の疑問もなく、皆、私と同じだと思っていたから。

でも、違った。



885: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 00:35:40.14 ID:XMwhArLc.net

『うーん……』

『しずくちゃんのはなし、よくわかんない』

しずく『え?』

『あっちいこー』

『うん』

しずく『……』


空想の話をすればするほど、周りの子から変な顔をされる事が増えた。

話を聞くのは面白くなかったのかな? ──なら話をするのではなく、実際に皆で遊べばいいんだ。

お馬鹿な私はそんな事を考えていた。


しずく(この前見た、お母さんにつれていってもらった演劇! あれほんとーに楽しかったなぁ!)

しずく『あんなかんじのおままごとを、皆をさそってやればいいんだ!』

しずく『そーしたら皆楽しんでくれるよね!?』


この時の私は──皆から変な顔をされるという意味を、理解出来ていなかったんだ。



886: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 00:44:00.78 ID:XMwhArLc.net

しずく『ねぇねぇみんな!』

しずく「おままごとしよ?」

『おままごと!?』

『いいねー!』

しずく『!!』パァァァァ

しずく『うん!』

しずく『えっとね! おままごとの設定なんだけど〜』

『せ、せってい?』

『へー、なんかおもしろそー』

しずく『えへへ!』


設定をしっかりと練った、物語のようなおままごと。

皆、楽しそうにしてくれていた。

──最初のうちは。





しずく(えへへ! 今日もおままごと楽しみー!)

しずく『あっ!』

しずく『みんなー!』

『あっ、しずくちゃん』

『……』

しずく『ねぇねぇ、みんな!』

しずく『おままごとしよー?』



887: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 00:50:33.48 ID:XMwhArLc.net

『やだ』

しずく『──え?』

『しずくちゃんとやるおままごと、よくわかんないんだもん』

『え? えっと……』

『最初のうちはたのしかったけど……やりたくない。つまんないもん』

しずく『え? ……え?』


ひどく困惑したのを覚えている。


『あっちいこ』

『う、うん』

スタスタ

しずく『……』ポツーン


この辺りから、私は自分の行動を後悔し始める。



『……あの子ってさ、へんな子だよね』

『……そ、そうかも』

『いつもよくわからない話するもんね』

『おかーさんからへんな子とはかかわるなって言われてる〜』


しずく『…………』


思い出したくない記憶。

──でも、心に残ってしまっている。



888: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 01:06:55.29 ID:XMwhArLc.net

『ねぇねぇ、あの子って変な子なんでしょ?』ヒソヒソ

『いっつもよくわからない話してるよね〜』ヒソヒソ


しずく『…………』


最初は噂話されるくらいだった。

でも、小学校低学年くらいの時かな?

変な子だって噂話される程度の話ではすまなくなった。


『しずくちゃんってさ、嘘つきなんでしょ?』

しずく『へ?』

しずく『ち、違うよ! 私は嘘なんて……』

『え? だって皆しずくちゃんが変な事ばかり言ってたって言ってるよ?』

『物語の主人公の私が〜とか話してたんでしょ?』

しずく『そ、それは空想の話で……』

『空想〜? えー、こわいんだけど』

『お母さんから空想する子やもーそーへき? みたいな子は変な子だって言ってたよ!』

しずく『わ、私は変な子じゃ……!』

『いやいや』

しずく『えっと……わ、私は──』

『しずくちゃんは変な子だよ』

しずく『』


少しずつ、私は省かれ始めた。



889: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 01:20:12.87 ID:XMwhArLc.net

皆、あまり私と会話してくれなくなった。


しずく(……なんでだろう?)

しずく(私が……悪いのかな?)

しずく(そうだよね……そうだ)

しずく『私が変な事言ったから……いけないんだ』


そう思い、私は普通の子になろうとした。努力をした。

周りの子に気を遣い、上手くやろうと立ち回った。

──でも、結果は失敗に終わった。


『しずくちゃんってさ、私達と会話してて楽しいの?』

しずく『え?』

『なんかいっつも作り笑顔な気がするし』

『すごい気を使ってる感じがするよね』

しずく『そ、そんなことないよ?』

しずく『ご、ごめんね!』

『そうやってすぐに謝るのもさ、なんか気遣いしてる感じがする』

しずく『え?』

『なんか……』

『演技してるみたい』

しずく『──────』


私は──他人とどうやって関わればいいのか、分からなくなってしまった。



890: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 01:26:45.39 ID:XMwhArLc.net

皆から省かれていても、全員が全員そうではなくて、話してくれる子も数人はいた。

だから、失敗しないように、上手く立ち回ろうとした。

でも、失敗した。

私は失敗したんだ。


しずく『………………』

しずく『おかーさん』

しずく『私』

しずく『学校に行きたくない』



893: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 01:42:29.57 ID:XMwhArLc.net

『しずくちゃん。ここが新しい私達のお家よ?』

しずく『…………』


お母さんに連れられて、私は知らない家の前に立っていた。

学校に行きたくない。その悩みをお母さん達に話してからの事は、あんまり覚えていない。

色々と理由を聞かれたと思うけど、詳しい理由は言えなかった。

でも、とにかく学校に行きたくない事と、どこか遠くへ行きたいというわがままを言い続けた。

──本当に、迷惑をかけてしまった。


『ここはね、お母さんの地元なの。いい所だから、ゆっくり休もう?』

しずく『うん……』

『ここならしずくちゃんを知ってる子もいないから、のんびりできるよ』

しずく『……』


お父さんは鎌倉のお屋敷に残って、私とお母さんだけは東雲に引っ越して来た。

離婚はしていない。私の実家は古くから続くお屋敷だから、誰かが残らなきゃいけなかったみたい。

鎌倉と東雲の雰囲気はだいぶ違くて、私は異世界に来たような感覚だった。



894: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 01:53:48.83 ID:XMwhArLc.net

しずく『……』ポケー

しずく(でっかい建物が隣に立ってる。団地かな?)


ベランダに腰掛けながら、私は家の隣に建っている団地を見つめていた。


しずく『でっかいなぁ……』

ササッ

しずく『ん?』

しずく(物音……?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく『……』


外から私の家のべランドを覗き込む、小さな女の子が柵越しに顔を出した。


遥『……』ジー

しずく(す、すごく見られてる……)

しずく『……えっと……』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『え、えぇ……』


何事だと思った。声をかけた瞬間、顔を引っ込め逃げられた。

猫かな?



895: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 02:03:46.54 ID:XMwhArLc.net

しずく『……』


スタスタ

『はやく! はやくー!』

『ちょ、は、遥ちゃん!? そんなに引っ張らないで〜?』

しずく『!!』

しずく(また来た!?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく(また来た……)

遥『……』ジー

しずく『こ、こんにちは』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『えぇ……』

しずく(なにこれ?)

ヒョコッ

しずく『!!』ビクッ!!

遥『ほらお姉ちゃん! みて!』

彼方『は、遥ちゃん……そこ登っちゃダメだってば……も〜』

彼方『んで、なになに? お人形さんが喋ったって?』

遥『うん! あそこにいる!』ピシッ

しずく(お人形さん!?)

彼方『えー?』ジー

しずく『……』ジー

彼方『あれま、ほんとだ。綺麗なお人形さんだね〜』

遥『だよね!? でもあれ喋るんだよ!?』

しずく『』

しずく『あの、私! 人間なんですけど!?』

遥『え?』

彼方『お?』


──これが私と、近江姉妹の出会いだった。



896: 1 2021/06/03(木) 08:47:31.75 ID:duzyFc9s.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

『じゃあ、ゆっくりしてね? 私は2階にいるから何かあったら呼んでね』

彼方『なにからなにまで申し訳ないです……お家にまであげて頂いて』ペコリペコリ

『ふふ、礼儀正しい子だね? いいのよ。しずくちゃんと仲良くしてあげてね?』

彼方『はい!』


遥『……』ジー

しずく『……』


あの後お母さんがベランダに来て、流れのままに家の中に招待された女の子二人。


遥『……』ジー

しずく(めっちゃ見られてる……)


警戒してる猫みたいだなって思っていたのを覚えている。


遥『……ねぇ!』

しずく『!!』ビクッ!!

しずく『な、なに?』

遥『いくつ!?』

しずく『へ?』



897: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 08:58:40.80 ID:duzyFc9s.net

彼方『こーら、遥ちゃん? まずはご挨拶でしょ?』

遥『あっ……ごめんなさい』

遥『近江遥。小学二年生〜』

彼方『ん〜、遥ちゃんいい子いい子』ナデナデ

遥『えへへ〜』ニコニコ

彼方『彼方ちゃんはこの子のお姉ちゃん。小学四年生だよ〜』

しずく『……お、桜坂しずくです。小学二年生……です』ペコリ

遥『うそ!? はるかと一緒だ〜!』

遥『よろしくねー!』

しずく『う、うん』

しずく(元気な子だなぁ……)



898: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 09:03:53.39 ID:duzyFc9s.net

彼方『しずくちゃんかぁ。さっきはごめんね? お人形さんだと思っちゃって』

しずく『い、いえ……』

遥『え〜? だってこんなに可愛くて、高そうなドレス着てるんだもん。お人形さんだと思うじゃん? ネズミさんの国でしか見たことないよ、こんなドレス』

彼方『まぁ、確かに。すっごい可愛いもんね、しずくちゃん』

遥『うん!』

しずく『か、可愛くなんて……』

しずく『……っ……////』カァァァァ

遥『かおまっか!』

彼方『可愛いね〜』

しずく『か、からかわないでくださいよ!』

彼方『からかってないよ〜』ニコニコ

遥『そーだよ!』

しずく『もう……』



899: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 09:11:52.46 ID:duzyFc9s.net

遥『!!』

遥『こほ、こほ!』

彼方『!! 遥ちゃん? 大丈夫?』

遥『……う、うん……だいじょぶ……』

しずく『え?』

しずく『体調、悪いの?』

遥『う、ううん。違うの。……えへへ、はるか……生まれつき、身体が弱くてね……』

彼方『……』

遥『たまーにこうなっちゃうんだけど……なかよくしてね?』

遥『しーちゃん!』

しずく『え? しーちゃん?』

遥『うん! しずくちゃんだから、しーちゃん!』

遥『あだ名だよ〜!』

しずく『…………』

しずく(あだ名なんて……初めて付けてもらったなぁ)

しずく『……気持ちは嬉しいけど』

しずく『私とは……仲良くしない方がいいよ』

遥『え?』

しずく『……私……変な子だから……』



900: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 09:20:14.18 ID:duzyFc9s.net

彼方『変な子?』

しずく『はい』

しずく『私は、変な子なんです』

しずく『……だから……私とは……一緒にいない方がいいです』

遥『え? え?』オドオド

彼方『……しずくちゃん』

しずく『は、はい』

彼方『えい!』

ギュッ!!

しずく『え?』ポカーン

彼方『なでなで〜』ナデナデ

しずく『え? ──え?』ポカーン

彼方『何か……あったんだね』

彼方『でもね、大事なのは──しずくちゃんの気持ちだよ?』

しずく『……私の……気持ち?』

彼方『うん』

彼方『しずくちゃんは、遥ちゃんと仲良くしたくないの?』

しずく『──そ、そんなこと!』

彼方『ほんと? なら思うがままにすればいいじゃ〜ん』

彼方『大事なのは、自分の気持ちだよ?』

しずく『……』



902: 名無しで叶える物語 2021/06/03(木) 09:46:31.98 ID:duzyFc9s.net

彼方『それにさ、変な子って決めるのはしずくちゃんじゃないよ』

しずく『……』

彼方『こうやって話してるけど、彼方ちゃんはしずくちゃんを変な子だと全然思わないし』

彼方『それに、変な子代表の彼方ちゃんがいるからね!』

彼方『安心したまえよ!』

しずく『』ポカーン

しずく『ふふっ』クスクス

しずく『なんですか、それ』ニコニコ

彼方『おっ、笑ってくれた! 可愛いね〜!』ナデナデ

しずく『……////』

遥『……』ムスー

遥『ずるい!』

遥『はるかの方が先にしーちゃんと会ったのに! はるかも仲良くしたいよ〜!』

彼方『順番だよ〜?』

遥『わりこませていただく!』

彼方『こらこら、ダメだぞ〜?』

遥『フリーパスもってるもん!』

しずく『あっはは! 何のフリーパスですか』ニコッ


──この二人のおかげで、楽しい日々を過ごす事が出来たんだ。

ゆるーく、いつもぽわぽわしてる優しい、学校で人気者の彼方お姉ちゃん。

そして、身体が弱いのに明るくて、少し変わった子だけれど可愛い学校で人気者の遥。

二人とも──私の親友になった。

……そして──


しずく(私も、この2人みたいになったら)

しずく(もう、省かれたりしないかな?)

しずく(平和に生きることが、できるかな?)


──私は、“あたし”を作った。



923: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 21:31:55.64 ID:J3Hop33v.net

二人は私の親友だけど、同時に憧れの人でもあった。

そんな2人をモデルにした、“あたし”。

あたしは、明るいけどすこしのほほんとしているのんびり屋さん。ちょっと変わった子だけど、どこか憎めない子。それが“あたし”だ。

私はあたしになっている時は、楽だった。

楽なだけじゃなく、楽しかった。
あたしはみんなと楽しく過ごしたかったんだ。

皆とワイワイする日々は、本当に楽しくて大好き。友達もできた。

──大事なのは、自分の気持ち。

かな姉に言ってもらった言葉は、私を救ってくれた。

──でも、気を遣いながら会話をする癖だけは、治らなかった。

あたしになっても、それは変わらなかった。



しずく「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッタ


歩夢『ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく“気遣い”してるよね』


しずく「やだ……嫌だ……」スタスタ

しずく「嫌だ嫌だ嫌だ」スタ、スタ


『演技してるみたい』


しずく「───────」

しずく「嫌だ……!!」


嫌われたくない。



924: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 21:42:26.73 ID:J3Hop33v.net

上手く立ち回れていたと思っていた。

あたしとして、私は上手くできていると思っていた。

──でも、気遣いしていると気付かれていた。歩夢さんに。

もしかしたら、みんなに気付かれているのかもしれない。そう思ってしまうと、またあの時みたいに嫌われるんじゃないかと思って、怖くなった。

完全なトラウマスイッチ? なのかな?

怖くて震えが止まらない。


しずく「嫌われたくない……もう……」

しずく「あたしは」

しずく「私は」

しずく「……嫌われたくない」

しずく「……平和に生きたい……」


誰もいない空き教室に入り、私は端っこで座り込む。


しずく「………………」


大事なのは、自分の気持ち。そんな事はわかっている。
何事も適度に、ゆるく楽しむ。私は平和に生きたい。それが私の気持ち。

──でも、それって本当の私の気持ち? あたしの気持ち?


しずく「………………」


──今の私は誰?

──何を想うの?

嫌われるのが怖くて震えている私。

平和に生きたい私。

みんなと楽しく過ごしたいあたし。


しずく「………………」


私は──誰?



925: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 21:47:39.51 ID:J3Hop33v.net

しずく「……」

ブー、ブー

しずく「……」

ブー、ブー

しずく(スマホの通知……すごいや……)

しずく「……」

しずく(そろそろ部室戻らなきゃ)

しずく(……でも……)

しずく(立ち上がれない)

タッタッタッタ!! ──ガラガラ

歩夢「はぁ、はぁ……──しずくちゃん!」

しずく「!!」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「……やっと見つかった……」



926: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 21:53:02.38 ID:J3Hop33v.net

しずく「………………」

歩夢「しずくちゃん、ごめんね?」スタスタ

しずく「え?」

歩夢「私……何かしずくちゃんの気に触ること言っちゃったんだよね……?」

しずく「……」

歩夢「本当にごめん。で、でもねしずくちゃん! 私──」

しずく「歩夢さん」

しずく「大丈夫だよ!」ニコッ

歩夢「え?」

しずく「いやはや〜、心配かけてごめんね〜?」ニコニコ

しずく「ほんと、全然大丈夫だからさ! そろそろ同好会にもど──」

歩夢「大丈夫じゃない」

しずく「!?」

歩夢「全然大丈夫じゃないよ」

歩夢「しずくちゃん。身体、震えてるよ?」

しずく「………………」

歩夢「何かあったの?」


心配そうに、私を見つめる歩夢さん。

……これは、もう……逃げることができない。


しずく「……歩夢さん……」

しずく「私」

しずく「嫌われたくない」



927: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 22:00:21.98 ID:J3Hop33v.net

歩夢「え?」

しずく「もう……私……」

しずく「嫌われたく……ない……」

歩夢「しずくちゃん?」

しずく「皆に……嫌われたくないよ……!」

歩夢「嫌わないよ」

しずく「!?」

歩夢「誰もしずくちゃんの事、嫌わない」

しずく「…………」

しずく「……なんでそんなこと言えるの……?」

しずく(本当の私を知ったら)

歩夢「嫌うわけないよ」

歩夢「だって私」

歩夢「しずくちゃんの事、大好きだもん」

しずく「!!」

歩夢「それは私だけじゃないよ」


タッタッタッタ!! ガラガラ!! ──バンッ!!

果林「あー!!」

しずく「!?」ビクッ!!

果林「みんな! こっちこっち! しずくちゃんいたよ!!」

しずく「か、果林さん!?」

ダッダッダッダ!!

彼方「し、しずくちゃん!? よ、よかった……こんなとこにいたんだね?」

しずく「!! かな姉……」

エマ「果林ちゃんナイスだよ〜」

せつ菜「よく見つけられましたね」

璃奈「果林さん、方向音痴なのにお手柄だね」

愛「だな!」

果林「むぅ〜……余計な一言が多いよ〜!」

かすみ「……」



928: 名無しで叶える物語 2021/06/04(金) 22:16:13.61 ID:J3Hop33v.net

しずく「み、みんな……なんで?」

彼方「なんでじゃないよ!」

彼方「しずくちゃん、全然部室に戻って来ないし……連絡も取れないし、心配になっちゃったから……」

彼方「だから皆でしずくちゃんを探してたの」

しずく「……」

かすみ「し〜ず〜く〜?」

しずく「!?」ビクッ

かすみ「マイペースに練習するのは構わないけどさ……おサボりはよくないよね〜?」ニコニコニコニコ

しずく「!? ──ちょ、ちょいかすみ! 違うから! あいや、違くないけど……えっと……そのぉ……!」

歩夢「ね?」

歩夢「みんなしずくちゃんの事、大好きなんだよ?」

しずく「──!!」

しずく「…………」

歩夢「何かあったのなら……なんでも話、聞くよ? ゆっくりでも大丈夫だから……話してほしいな」

歩夢「私達は、同じ同好会の仲間だけど」

歩夢「その前に、友達だもん」

しずく「!!」

しずく「………………」

しずく「皆さんに……」

しずく「聞いてもらいたい事があるの」


私は、今までの事を全部話した。

ぽつり、ぽつりと。雨粒のよう。

私は全ての事を話した。

──あたしと、私の過去の事を。








932: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 03:51:27.51 ID:hQAG6YlX.net

しずく「──以上が、私の今まで……全てです」


みんな、私の話を真剣な表情で聞いてくれた。


しずく(どう思われたんだろう)

しずく「……」

しずく(自分の過去をさらけ出したのは初めてだから……怖いや)


歩夢「しずくちゃん」


話し終えた後の第一声の主は歩夢さん。その反応は──


歩夢「話してくれて、ありがとうね」ニコッ

しずく「え?」


──意外なものだった。



933: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 03:58:15.45 ID:hQAG6YlX.net

しずく「ありがとうって……なんで?」

歩夢「だって、自分の事を話してくれたじゃない?」

歩夢「辛かったと……思う。私がしずくちゃんの立場だったら、すごく辛いと思うから……」

歩夢「だから、話してくれてありがとう」

しずく「……」

歩夢「あと、ごめんね」

歩夢「さっき、不用意に気遣いしてるなんて言っちゃって」

しずく「う、ううん! 大丈夫だよ……私が勝手に……こうなっただけだから」

歩夢「でもね、しずくちゃん」

歩夢「私は一つ一つの会話に気遣いできるしずくちゃんを、尊敬してる」

歩夢「本当に、優しい子だと思う」

しずく「!!」

しずく「優しくもないし、尊敬できる事じゃないよ……!」

しずく「それに、私は嫌われたくないからそうしてるだけで!」

歩夢「嫌われたくないのは、当たり前だよ」

歩夢「私だって一緒」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃん。人ってのは誰もが怖がりなんだよ」

歩夢「嫌われたくないって気持ちがあるのは、しずくちゃんだけじゃないの」

しずく「私だけじゃ……ない……?」

歩夢「うん」

歩夢「だからね、しずくちゃん」


歩夢「しずくちゃんは変な子なんかじゃないよ」



934: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 04:12:26.83 ID:hQAG6YlX.net

しずく「で、でも! 私は……あたしは……」

しずく「別の自分を作り出して!」

しずく「──演技してただけで!!」

かすみ「だぁぁぁぁああああ!!」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「か、かすみ……?」

かすみ「さっきからうじうじうじうじと!」

かすみ「しずくらしくない!!」

しずく「えぇ!?」

かすみ「いつものあなたはどこへいったの!?」

しずく「!! そのいつもの私は……あたしで……」

かすみ「そんなの関係ない!」

かすみ「あなたは桜坂しずくでしょ!?」

かすみ「私とか、あたしとか、演技してたとか! 関係ない! しずくはしずくで、私の知る桜坂しずくと何も違いはないよ!」

しずく「かすみ……」



935: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 04:25:52.18 ID:hQAG6YlX.net

かすみ「私の知る桜坂しずくは!」

かすみ「明るくて、のんびり屋さんでマイペースで変わった子だけど……どこか憎めない」

かすみ「私とは真逆の子」

かすみ「だけど、私とは真逆だからこそ、一緒にいて楽しいの!」

しずく「……」

かすみ「嫌われたくないから演技してた? だからどうしたの?」

かすみ「嫌われたくないって思っちゃうしずくも、桜坂しずくの一面でしょ?」

しずく「そ、それは……」

かすみ「それに、誰が嫌ってやるもんか!」

かすみ「出会ったばっかの私だけど……しずくとはずっと友達でいたい! 離れてなんかやらない!!」

しずく「……っ……」

かすみ「私は!!」

かすみ「──桜坂しずくの事、大好きだからっ!!」

しずく「!!」

かすみ「それに、今更なにさ……よく私とケンカするくせにさ」

かすみ「なのに、今更こんな事で不安になってないで……いつもみたいにゆるく、楽しくやろうよ」

かすみ「ね?」ニコッ



936: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 04:35:05.62 ID:hQAG6YlX.net

璃奈「かすみちゃんの言う通りだよ」

しずく「璃奈……」

璃奈「私、しずくちゃんからお昼ご飯誘った貰った時……本当に嬉しかった」

璃奈「友達でしょ? って言ってくれて、本当に嬉しかった」

璃奈「……その気持ちも、演技してたしずくちゃんの想いなの?」

しずく「!!」

しずく「ち、ちがう……私は……!」

璃奈「ふふっ、だよね?」ニコッ

璃奈「つまり、かすみちゃんの言う通りだよ。しずくちゃんは、しずくちゃんだ」

璃奈「私はしずくちゃんの事、大好き」

璃奈「あなたは私の友達で、大切で大好きな子」

璃奈「尚且つ、しずくちゃんは私の嫁の一人だ。そんな子を私達が嫌うはずないよ」

璃奈「分かった? しずくちゃんっ」ニッコリ



937: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 04:49:08.72 ID:hQAG6YlX.net

彼方「しずくちゃん」

スタスタ ──ギュッ

しずく「かな……姉……」

彼方「ごめんね」

しずく「え?」

彼方「彼方ちゃんが……しずくちゃんに重荷を与えちゃってたのかもしれない」

しずく「!! そ、そんなことないよ!!」

しずく「私は、あなたがいなかったら……ううん! かな姉がいたから、救われたんだよ!」

彼方「……しずくちゃん……」

彼方「彼方ちゃんもね、しずくちゃんに救われたんだよ?」

しずく「え?」

彼方「遥ちゃんが目を覚まさなかった時、しずくちゃんがずっと私を励ましてくれた。しずくちゃんだって辛かったはずなのに……」

彼方「それに、勉強の事にしか目を向けられなくなっちゃった私を……何回も心配してくれて……」

彼方「本当に……ありがとう」

しずく「かな姉……」

彼方「っ……だめだ。ごめん……私、お姉ちゃんなのに……皆みたいに上手く……良い言葉を、かけられないや……」ポロポロ

彼方「だから、代わりに……沢山なでなでするね?」

彼方「今まで……すごく、……っ……頑張ったんだね、しずくちゃん……!」ポロポロ

彼方「いい子、いい子」ナデナデ

しずく「っ……!!」ポロポロ


我慢が出来なくなって、涙が溢れ出てしまう。



938: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 04:59:16.51 ID:hQAG6YlX.net

せつ菜「私達の想いも、みんなが口に出しちゃいましたね」

愛「全くだよ。──てかカリンさん」

果林「うぅ……しずくちゃ〜ん……!」グスグス

愛「そろそろ泣き止んで下さいよ」

果林「だ、だっでぇ……しずくちゃんの事を考えると……がなじくなっちゃっで……」ポロポロ

愛「!! や、やめてくださいよ……」

愛「──アタシまで泣いちゃうかもしれないだろ!?」ブワッ

せつ菜「いや、もう泣いてますよ!?」

せつ菜「ほらお二人共? ハンカチです」スッ

果林「……うぅ……」グスグス
愛「……うぅ……」グスグス

しずく「みんな……」



939: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 05:07:26.68 ID:hQAG6YlX.net

エマ「しずくちゃん」

エマ「みんな、想いは一つだよ」

しずく「エマさん……」

エマ「誰も、しずくちゃんを嫌ったりしないよ」

エマ「むしろ、みんなあなたが大好きなの」

エマ「当然、わたしもしずくちゃん大好きだよ」

エマ「お茶目でキュートで、甘えん坊なしずくちゃんが、大好き」

しずく「……」

エマ「──ただ、ね」

しずく「?」

エマ「……その昔しずくちゃんを省いた子達は許せないね」

愛「……え、エマさん……?」ガクブルガクブル

果林「天使のような声を持つエマからとんでもないほど恐ろしい声がぁ……」ガクブルガクブル

璃奈「優しい人程怒ると怖いからね」

璃奈「でも怖いエマさんもギャップがあって、すき」



940: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 05:18:37.15 ID:hQAG6YlX.net

歩夢「しずくちゃん」

歩夢「分かったでしょ?」

歩夢「みんな、あなたの事が……大好きなの」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃんは、どうなの?」


──本当に、怖かった。嫌われるのが、怖かった。

あんな思いは、二度としたくないと思っていたから。

……でも、私が間違っていた。


しずく「みんな」

しずく「ごめん」


みんなのおかげで、気が付けた。

私は全部、“私”なんだ。

嫌われるのが怖いのも私。

平和に生きたいのも私。

皆と楽しく過ごしたいのも私で──


しずく「ありがとう」

しずく「私、皆の事」

しずく「大好きっ!!」


──皆が大好きなのも、私なんだ!

全部、桜坂しずくの気持ちだったんだ。


しずく「だからみんな」

しずく「これからも──よろしくね!」ニコッ


心の底から、笑顔になれた瞬間だった。



941: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 05:26:19.96 ID:hQAG6YlX.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜後日 講堂〜

スタスタ

璃奈「音響セット、完了したよ」

彼方「璃奈ちゃんありがとうね〜」ナデナデ

璃奈「照れるぜ」グッ

彼方「お手柄なんだぜ」グッ

しずく「璃奈、ありがとうね!」ニコッ

璃奈「ううん。嫁の為ならお安い御用さ」

しずく「いやはや、頼りになる夫ですなぁ〜」

かすみ「しずく……ライブ前だよ? おふざけ禁止」

せつ菜「リラックス出来てる証拠ですよ!」ペカー

かすみ「まぁ……物は言いようですね」

果林「しずくちゃんらしくていいよね〜」ニコニコ

エマ「ね〜」ニコニコ

しずく「あはは、ゆる〜くやっていきますよ」



942: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 05:38:28.02 ID:hQAG6YlX.net

愛「それにしても、しずくから急にライブやりたいって言葉が飛び出した時はビックリしたな」

かすみ「急にスクールアイドル紹介動画も撮りたいって言いましたもんね」

しずく「ふっふ〜。あたしは欲張りですからね〜」

しずく「本気でやるって決めたら、全力で取り組むんですよ」

かすみ「完全燃焼しないようにね?」

しずく「わかってますよ〜」

しずく「……スクールアイドルとしての私は、ここから始まるんだもん」

しずく「これからどんどん燃えてやるんだから」

かすみ「……ふふっ」

かすみ「期待してる」

愛「頑張れよ、しずく!」

しずく「おうともさ!」

彼方「しずくちゃ〜んっ! 自家製ラブリーしずくフラッグで全力応援するからね〜!! 遥ちゃんも配信で観るって言ってたよ!」

しずく「あはは! 今朝めちゃくちゃ連絡来たし、電話も掛かってきたよ〜」

しずく「現地で見れないのほんと辛いよー! 退院したら絶対に生しーちゃんライブを見せてもらうからねっ!」

しずく「──って嘆いてたよ」

彼方「今の遥ちゃんの真似!? すっごい似てた……」

しずく「ふっふっふ……演技は得意だからね〜!」ニコッ



943: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 05:47:14.84 ID:hQAG6YlX.net

歩夢「しずくちゃん!」タッタッ

歩夢「マイクアナウンスも終わったから、全部準備完了だよっ」

しずく「歩夢さん! ありがとう!」


ライブ前。ドキドキと心臓が鼓動する。

でも、不思議と怖くなかった。


しずく「みんな、改めまして……本当にありがとうございます」

しずく「私が立ち上がれたのは、本当にみんなのおかげ」

しずく「ありがとう」ニコッ

しずく「──歩夢さん!」

歩夢「?」

しずく「私、もう逃げないから」

しずく「これが私の1stライブ! ──伝説を作る気持ちで歌ってくるから!」

しずく「見ててね!」

歩夢「──うん!」ニコッ

しずく「今から私は、主役になってくる」

かすみ「……」コクリ

しずく「もう、脇役人生はおしまいにする」

しずく「これが私の」

しずく「夢への一歩!」







944: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:01:31.50 ID:hQAG6YlX.net

しずく「……」

ステージは現在真っ暗。全ての証明を落としてもらっている。

歌い出しの位置に立って、タイミングを測る。

私は、失敗してばかりの人生を歩んできた。

結果、私は臆病になってしまい、なにかに本気になるのを恐れていた。

嫌われるのが怖くて、自分を見失っていた。


しずく(でも、怖がるのはもうおしまい)

しずく(おしまいじゃなくて……怖がる私も、あたしを演じてしまう私も……全て桜坂しずくだから)

しずく(ここから始めるんだ)


桜坂しずくの人生は、まだ始まったばかりだから。


──どのように言えばいいのでしょう。とにかく私の人生はとても幸せでした。

……私の大好きな、憧れの大女優の言葉。


しずく(私も、そう思える人生を歩むんだ)

しずく(いこう、桜坂しずく)

しずく(私と想いを詰め込んだ! 今から歌う、この歌の名は──)



945: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:01:51.49 ID:hQAG6YlX.net

【オードリー】



946: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:12:48.08 ID:hQAG6YlX.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「……」

しずく(や、やばい……めちゃくちゃ緊張する)

しずく「い、今からじゃ遅い……よね……?」

しずく「いや、待て待て! ここまで来たんだぞ〜……桜坂しずく……」

しずく(勇気を出せ。何事も全力で取り組むって決めたじゃないか)

しずく「と、とりあえず深呼吸を──」

「あなた、演劇部の部室の前でどうしたの?」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「あ、えっと! その……」

「?」

しずく(──いこう、桜坂しずく!)

しずく「私は、桜坂しずくです。スクールアイドル同好会に所属してるのですが」

しずく「演劇が大好きなので」

しずく「──演劇部にも入部したいです!!」



947: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:30:40.11 ID:hQAG6YlX.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

最初は、わけが分からなくて……怖くて震えていた。


歩夢「……」スタスタ


でも少しずつ、“今”の上原歩夢の生活にも慣れてきた。


歩夢「みんなー、おはようっ」


放課後、スクールアイドル同好会の部室へと私は入室する。


せつ菜「あっ! 歩夢さん!」パァァァァ

しずく「歩夢さん! おはよう〜!」


8人全員、一斉に私に目を向け挨拶をしてくれる。

この子の生活も、今はとっても楽しい。


璃奈「……でね、話の続きなんだけど……」

彼方「うーむ、なるほどねぇ」

しずく「なんとか解決させたいよね」

愛「皆で協力して、問題解決しよーぜ」

果林「だねー!」

エマ「じゃあまずは──」


スクールアイドル同好会のキズナもとっても深まっている。

……私がいない間も、皆がそれぞれ関わりを持って──問題があっても解決する。

本当に──良い場所だ。

──大好き。


愛「歩夢! 一緒に少し璃奈の悩みを聞いてほしいんだけど」

歩夢「うん! 今い──」

歩夢(あれ?)クラッ


バタンッ


せつ菜「──え?」

愛「歩夢……?」


歩夢「…………」


かすみ「──歩夢先輩!?」


後ほど皆から聞いて分かった。この時、私は気を失ってしまったみたい。

そして、私は同時に悟ってしまった。

──もう終わりは近いんだと言う事に。



948: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:32:32.29 ID:hQAG6YlX.net

【Members walking together】

【Next last member】

【上原歩夢】



949: 名無しで叶える物語 2021/06/05(土) 06:33:44.46 ID:hQAG6YlX.net

つづく。
次回は更新は次スレ建てて行います。








元スレ
歩夢「パラレルワールド?」