SS速報VIP:始まらなかった世界【魔法少女まどか☆マギカ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350889103/1: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 15:58:23.48 ID:gMqyD9490
「それは、あの二人を見捨てるということかい?」
いつかのように、僕は彼女に食い下がる。
けれど、そこからは違った。
彼女はもう答えを見つけていた。
うろたえることも、迷うこともなかった。
彼女は前よりずっと強くなっていた。
彼女はもう――
~始まらなかった世界~
概要
・魔法少女まどか☆マギカのSSです
・まったりだったりシリアスだったりします
・途中、2人称になることがあります。
※その際は誰の視点になるか表示します
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1350889103
2: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:00:40.52 ID:gMqyD9490
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「遅いね……」
「本当に……遅いですわね……」
暁美ほむらと志筑仁美は志筑家で待ちぼうけをくらっていた。
「さやかはどれくらい遅れるんだっけ?」
「あと15分くらいで着く……というメールが来たのが30分前ですわね」
2人で溜息をついていると、玄関のほうからドタドタと走る音が聞こえ、やがてインターホンの音が鳴り響いた。
「…たぶんさやかさんですわね」
「そうだね。じゃあ出よっか」
荷物を整え、玄関のドアが開けると、そこには二人の予想通り美樹さやかが立っていた。
「ゴメンッ!講義が思ったよりも長引いちゃって……」
「言い訳は道中でいくらでもお聞きしますわ~」
「免許持ってるのさやかだけなんだからさ……」
3人は話しながら外に出ると、車庫のほうへと向かった。
そして仁美が車庫のシャッターの開閉ボタン押したところで、さやかが思い出したように口を開く。
「あー、そういえばさ、仁美。今日わたしが運転する車って……」
「この中の……確か、左から2番目のがそうですわ」
志筑邸の車庫の中には、綺麗に整備されていると思われる車が4台ほど鎮座していた。
そして―
「うっわー……。正直外車ってのは予想してたけど、これは……」
「仁美さん、本当にこの車もらったの……?」
仁美のいった“左から2番目の車”は黒光りするリムジンだった。
「ええ……最近来た親戚のおじさんが『そっかー、仁美ちゃんも車運転できる年になったかー』とか言って、譲ってくださったの。もともと売る予定ではあったみたいですけど……」
「だからって……。つーか、仁美はまだ自動車学校にすら行ってないってのに……」
そんなことを話しながら3人は車に乗り込んだ。
さやかは運転席に、ほむらは助手席に、そして仁美は後部座席に座った。
「つか他の車は使っちゃダメなの?これよりは運転しやすそうなんだけど……」
「父に交渉はしてみたんですけど……運転手がさやかさんであることを告げたら、途端に渋り出しまして……」
「そういえば……さやか前にここに集まったとき、飾ってあった置物落として壊したよね……」
単純にさやかの信用問題であったことが分かったところで、仁美はさやかに問いかける。
「そういえばさやかさん、花を持ってきてないようですが、どうするんですの?」
「ん、ああ。行く途中に国道沿いにある花屋で買ってこうと思ってさ」
仁美の質問に答えながら、さやかは発進準備を整える。
「よーし、さやかちゃんの運転テクニック、とくとご覧あれぃ!」
遅刻の失態をカバーしようと張り切るさやかだったが……
「頼みますから落ち着いて運転してください、さやかさん……」
「さやか、サイドブレーキ解除し忘れてるよ……」
「……はい」
冷や水を浴びせられ、安全運転で公道へと繰り出したのであった。
※ ※ ※
花屋に寄った3人は再び車に乗り、目的地へと向かっていた。
「いやー、しっかしほむらが○○大とはねぇ。初めのころはほとんどわたしと同じような成績だったってのにさ」
「初めは私がさやかさんとほむらさんに教える構図でしたのに、半年と経たないうちに私とほむらさんがさやかさんに教える構図になっていましたからね……」
「それだけ仁美さんの教え方が良かったっていうのもあるよ。それなのにさやかは寝てばっかりだったもんね……」
ほむらと仁美は、隙あらば眠りに落ちるさやかを叩き起こして、勉強を教えた日々を思い出していた。
その甲斐あってか、3人はそろって同じ高校に入ることができたのだが。
「ふんだ、どうせあたしはバカですよーだ」
「いやバカとかじゃなくて集中力の問題……」
そんなことを話しているうちに車は郊外の山道に入っていた。
「えーと、この次の分かれ道を右だっけ?」
「確かそうですわ」
目的地を目前にして、ふとほむらは昔のことを思い出し口にしていた。
「そういえば……私とさやかってここで再会したんだよね」
「そうだったんでしたわね。中3の時でしたから……4年前ですわね」
「そっかー、あれからもう5年も経っちゃったんだー。……そっかぁ」
「……さやかさん」
相槌を打ったさやかの口調は、先ほどまでと比べて一段とトーンの低いものとなっていた。
当然のことだろう。4年前の今日の出来事は、5年前の悲劇を思い出さずに語れるものではなかったのだから。
そして、ほむらもまた5年前の今日のことを思い返していた。
きっと死ぬまで忘れることはないであろうあの日のことを。
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~5年前~
ほむら視点
雨の降りしきる中、私は冷たくなった鹿目さんの遺体にすがって泣いていた。
『どうして……?死んじゃうって、わかってたのに……。私なんか助けるよりも、あなたに……生きててほしかったのに……』
『その言葉は本当かい?暁美ほむら。君のその祈りの為に、魂を賭けられるかい?
戦いの定めを受け入れてまで、叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげられるよ』
瓦礫の山の上に座ったキュゥべえが、私を見下ろしてそう言った。
『……あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?』
『そうとも。君にはその資格がありそうだ。教えてごらん。君はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?』
私は大切な友達が死んだことが、その命を理不尽に奪っていった魔女が許せなかった。
だから私は立ち上がり、涙を拭い、そして――
―私は鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―
そう、言ったつもりだった。
けれど―
『ん…、なんだい?よく聞こえなかったよ、もう一度言ってくれるかい?』
風が吹いたのか、私の声が小さかったのか、キュゥべえには聞こえなかったらしい。
『わ…わた、わた…し…』
もう一度言い直そうとして、私は自分の体が震えていることに気が付いた。
最初は雨で体が冷えて震えているのかと思ったが、それは違った。
『わ……わた、し……』
願いの言葉を紡ごうとする度に、歯が震えて音を立てる。
やがて私はその震えが恐怖から来ていることに気が付いた。
『あれ……? …あ、れ……?』
叩きつけられ手足をだらりとさせたまま動かなくなった巴さん……
諦めずに魔女に向かっていって無惨なまでにボロボロにされていった鹿目さん……
突然それらが私の脳裏にフラッシュバックした。
『ひっ……ひぃ…!』
願いを叶えてもらうということは、魔法少女になるということであり、それは魔女との命懸けの戦いの日々を意味している。
足元を見れば、その戦いの果てに死を迎えた少女が倒れていた。
その無惨な姿は、私に魔法少女となった自分の末路を暗示させた。
『あ……あぁ…』
鹿目さん・・・どれだけ苦しかったのだろう、痛かったのだろう。
私はその苦痛が自分に降りかかると想像しただけで、恐怖でどうにかなってしまいそうだった。
気づけば私は立っていられなくなり、その場にへたり込んでいた。
恐怖による動悸と雨による体温低下が、病み上がりの心臓に負担をかけていたのだろう。
―私を助けるより、あなたに生きて欲しかった―
ついさっきそんなことを言ったにも関わらず…
苦痛と死への恐怖に囚われた私の心は、すでに折れてしまっていた。
『ケホッ…無理……私には……ハァ……無理…』
息も絶え絶えになりながら、私はキュゥべえに向けて言う。
『つまり君のその祈りは、魂を賭け、戦いの定めを受け入れてまで叶えたいものではない…そういうことなんだね?』
『……!そ、それは……カハッ…』
『違うというのなら言ってごらん。君には願いを叶える資格があるのだから』
否定の言葉が口をついて出そうになったが、つまりはキュゥべえの言うとおりだった。
私が祈れば、鹿目さんと巴さんを救えるのかも知れない。
けど私は自分の命が危険にさらされるのが怖いという理由で、その祈りを放棄しようとしているのだ。
―私を死の淵から救い出し、暖かく迎え入れてくれた2人を見捨てようとしているのだ。
それはとても身勝手で、恩知らずなことのように思えた。
『そう…です。私には…ゴホッ……無理、なんです』
それでも、私は死への恐怖に打ち勝つことはできなかった。
『…そうかい。残念だけど無理強いするのはルール違反だしね。
ただ、気が変わったらいつでも呼んで。待ってるからね』
そう言うとキュゥべえは踵を返して去って行った。
『…ひっく、ぐすっ……げほっ、ごほっ…』
臆病で、意気地なしで、弱くて…そんな惨めな自分が悔しくて、私は涙を流した。
そして、いつしか私は隣に横たわる鹿目さんの亡骸に向けて謝罪の言葉を投げかけていた。
『ごめ……なさい、ひっく、ゲホッ…ごめん、なさい…ぐすっ…』
どんなに謝ろうとも、それで彼女が生き返るわけでもないのに。
私が逃げたということに、何の変わりもないというのに。
その後私は発見され、病院に搬送され手当てを受けた。
幸い命に別状はなく、後遺症も残らなかった。
――けれど、大切な2人をわが身可愛さに見捨てたという事実は、決して消えることなくずっと私を苦しめ続けた。
キリがいいので一旦投下を中断します。
私用が片付いて、11時半過ぎくらいまでに戻ってこれたらなら、もうちょっとだけ投下します。
読んでくださってる方がいたらすみません。
乙っす
1レスごとの量はもう少し大目でもいいんジャマイカ?
>>31
承知しました
初投稿なので、そういうアドバイスはありがたいです
戻って来れたので、投下再開します
あと>>1に注釈として入れ忘れたのですが、
・区切りの後に特に表記がない場合は三人称
となります。
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やがて車は目的地の――霊園の駐車場に到着していた。
「ふぅ~、やっと着いた。しっかし運転しっぱなしってのは肩にくるなぁ…」
「仁美さん、これ…」
「ごめんなさい…私も考えてませんでしたわ…」
私たちの乗ってきたリムジンはそれほど大型のものではなかったものの、駐車スペースから盛大にはみ出していた。
「少しでも他のかたの迷惑にならないよう、迅速にやることを済ませましょう…」
「そだね…。さやかも!いつまでも伸びしてないで花とか準備して!」
「あいよ~。仁美、この辺って誰のお墓があったっけ?」
「ここは佐々井さんと湊斗さんの2人ですわ」
「あ、それと私の知り合いの先輩が一人…さやかと仁美は知らない人だけど」
心得たように相槌をうつと、さやかは車内の荷物を漁りだした。
「え~と、花とお供え物と雑巾と…。あれ?チャッカマンとか線香は?」
「さやかさん、それなら私がもってますわ」
「そっか。……って、あー!」
突然さやかが声を上げた。
「ど、どうしたんですの?」
「…あーいや。数珠忘れちゃったんだわ…。仁美、ほむら、余分に持って来たりしてない?」
「あ、私持ってきてるよ。…こんなことになるんじゃないかと思って」
「おお、せんきゅーほむら!愛してるぅ!」
さやかはそんなことを言いながらほむらに抱きついた。
「はいはい…って」
「ふむふむ。Cカップといったところですかな」
そんなさやかの手はさりげなくほむらの胸へと伸びている。
「…さやか、同性でもセクハラで訴えられるんだよ?」
「ひどっ!ちょっとしたスキンシップなのに!
……けど、ほむらも強かになったもんだなぁ。
初めのころは顔真っ赤にして泣きそうになってたというのに」
ほむらはぶつぶつ文句を言っているさやかを引きはがすと数珠を手渡した。
そんな2人に向かって、早々と準備を終わらせた仁美が声をかける。
「2人とも乳繰り合ってないで早くしてくださいまし。…私は桶に水を組んでおきますので」
「ああうん、頼むわー。ほら、ほむらも早く」
「ちょっと待って……うん、あった」
ほむらは手荷物の中に用意したお供え物が入っているのを確認する。
「なにそれ?紅茶の葉っぱ?」
「うん。結構こういうのにうるさい人だったから…」
「そっか…。うん、喜んでくれるよ、きっと」
そしてほむらとさやかは急いで仁美の後を追った。
※ ※ ※
その後、3人は霊園内を車であちこちまわって墓参りをした。その途中で彼女たちは懐かしい面々とも再会した。
元クラスメイト、学校の先生、近所に住んでいた人たち…
その中には町が壊滅して散り散りになって以来、初めて再開する人もいた。
そんなふうに回っている時、ほむらは駐車場の方に見覚えのある人物を見かけた。
「さやか、あれ…あの車から出て来たの上条君じゃない?」
「おお、ほんとだ。おぅい、恭介ー」
上条恭介は父親と共に墓参りに来ているようだ。
「…あれ、さやか?」
「おや、さやかさん。お久しぶりですね」
「あっ、おじさんもこんにちは。お久しぶりです」
そのあとほむらと仁美も上条父子と軽く挨拶を交わした。
「ここに来たってことは…恭介はこの後おばさんのところ?」
「うん、あとは母さんのところで終わりかな。…さやかの両親のところも行ってきたし」
「…そか、ありがと」
「当然だよ。…それにさやかたちも今母さんのところに行ってくれたんだろ?」
「うん…。そだね、言いっこなしだね」
その後、しばらく5人でいろいろと話をしていると、次第に空が赤らんできた。
「恭介、体は大丈夫なの?」
「うん、今日は調子がいいんだ。ちょっと歩くくらいならなんともないよ」
「じゃあ、おばさんに元気な姿見せなきゃね」
「…そうだね」
やがて、上条父子は3人に背を向け去って行った。
「だいぶ話し込んでしまいましたわね。暗くなる前に回りきれるといいのですけど…」
「あと1か所だから大丈夫だと思うよ。場所もそんなに遠くないし」
「…………」
母の墓前へと向かって歩いていく上条父子からは、どこか暗い雰囲気が醸し出されていた。
さやかはそんな父子の背中を黙って眺めていた。
「それなら大丈夫ですわね。…どうしたんですのさやかさん?」
「……………おーい!恭介ー!日曜のデート、9時に駅前だからねー?遅れないでよー!」
突然、さやかは恭介に向かってそう叫んだ。
「わ、わかってるよ!…というか父さんがいるのに…はぁ」
「ははは、いいじゃないか。…それにさやかさんになら安心して任せられそうだしね」
「父さんまで…」
恭介は顔を赤くしてしどろもどろになっていたが、上条父子の表情は先ほどまでと比べて幾分か明るいように思えた。
「まったく…あんな辛気臭い状態で送り出しちゃったら、私がおばさんに顔向けできないじゃん…」
そう呆れたようにぼやくさやかだったが、その頬は赤く染まっていた。
無論、ほむらと仁美がそれを見逃すはずもなく、さやかは移動中の車内でじっくりこってりといじられる羽目になった。
※ ※ ※
ワルプルギスの夜は多くの人の命を奪っていった。
見滝原中学校は市外からの通学者も多かったため、ほかの学校と比べて被害にあった生徒は少なかった。
…それでも全生徒の3分の1ほどがその命を落とした。
そして多くの人の日常が崩壊した。
上条恭介は母を失い、美樹さやかは両親を失った。
暁美ほむらと志筑仁美の両親は仕事で見滝原から出ていたために被害に合わなかったが、家も学校も崩壊してしまった以上、見滝原を去らざるを得なかった。
美樹さやかは親戚の家に引き取られ見滝原から去った。
暁美ほむらは以前に通学していたミッション系の学校がある東京へ戻った。
志筑仁美は隣県の学校へ転校した。
上条恭介は隣県の病院へ転院した。
それでも―多くのものを失いながらも、誰もが前に進まなくてはならなかった。
※ ※ ※
空もすっかり赤くなった頃、3人は鹿目家の墓前にいた。
「久しぶりー。いやーごめんね、すっかり遅くなっちゃって」
さやかは柄杓で墓石に水をかけながらまどかに話しかける。
「それにしてもキレイですわね…ご家族の方がいらっしゃったんでしょうか?」
仁美も雑巾でロウソクを立てる台の付近を拭きながらそう呟く。
「花も刺さってるし、たぶんそうなんじゃないかな」
そしてほむらも線香やお供え物を取出しながら、そう答えた。
やがて掃除が終わり、供花やお供え物も整った。
「…ん、それじゃ」
そして、さやかが音頭を取る形で3人は黙祷した。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
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―4年前―
さやか視点
私がまどかの墓前に着いた時、そこには二人の先客がいた。
『……ひっく、えぐっ…』
(あいつは…)
『…知っている子かい?』
私を墓参りに連れてきてくれた叔父さんが、まどかの墓前で泣いている子を指してそう聞いてきた。
『…はい、一緒のクラスだった子です』
『そうか…』
私がその子の方へ向かっていくと、彼女の後ろに居たもう一人の女性が会釈をしてきた。
おそらくはこの子の母親だろう。
私は会釈を返すと泣いている子に向かって話しかけた。
『こんにちは、暁美さん…で合ってたよね』
『…?え、えっと…』
暁美さんは涙を拭いながらこちらに向き直ってきた。
様子を見るに、顔は見たことあるが、名前は出てこない…というような表情だった。
『あ~、やっぱ覚えてないかー。私、美樹だよ、美樹さやか。ほら、まどかとよく話してた…』
『あっ…ああ! すいません、すぐに思い出せなくて…ぐすっ』
どうやらピンときてくれたようだ。
『あはは、いいよいいよ。実際そんなに話したこともなかったし。
…それにあんたまどかにベッタリだったからねー』
『ひっく……すみません』
『いいって、いいって! それよりさ…』
―私は暁美さんに興味があったのだ。
なぜなら、暁美さんが転校してきからあの天災までの1か月の間、まどかと最も親しくあったのは私ではなく彼女だったから。
長年の付き合いである私と仁美の誘いを断ってまで、暁美さんと出かけたりしていたのだから…
…私は寂しかったのだろう。
10年近い付き合いだった大切な親友が、最後の最後で自分から離れて行ってしまったような気がして。
『まどかの…ことなんだけどさー』
『…えぐっ…は、はい』
そして、気付けば私は暁美さんを質問攻めにしていた。
一緒にどこに行っていたのか、何をして遊んだのか、どうやって仲良くなったのか……。
きっと私は、暁美さんから私の知らないまどかについて聞くことで、最後の1か月で出来てしまったように感じていたまどかとの距離を、埋められるような気がしていたのだ。
…寂しさを紛らわすことができるような気がしていたのだ。
『そ、それで…その時鹿目さんは…』
『あー、たぶんまどかそこで転んだんでしょ?いっつもそうだったもん』
でも、いくら聞いても。
『そ、そうです!…ほんとに鹿目さんのことなんでも知ってるんですね』
『付き合い長かったからねー。大抵のことはわかるよー。…好みのタイプからスリーサイズまで』
『それはちょっと怖いです……』
いくらまどかのことを話しても。
『…知ってた?あいつ演歌とか好きだったんだよ?』
まどかとの距離は縮まらない。
『あとは、ぬいぐるみとかも好きで、甘いものも好きで…』
寂しさは紛れてくれない。
『ちょっと、引っ込み思案で、臆病で…そのくせ変なところで頑固で…』
ただ蘇ってくる彼女との思い出が、悲しみを呼び起こすだけだった。
『友達思いで…優しくて…それなのに…どうして…』
彼女を失って悲しいと、二度と会うことができなくて悲しい、と―
『どうして…あんな…あんないいやつが死ななきゃならなかったのよぉ…』
そして気付けば私は泣き出してしまっていた。
――その時だった
『…ごめん、なさい』
暁美さんが私に向かって泣きながら謝罪の言葉を口にしたのは。
『…なによ…ぐずっ…なんであんたが謝るのよぉ……えぐっ』
『ひぐっ……鹿目さんのこと、助けられなくて…見殺しにしてしまって……ひっく、ごめんなさい…』
『……えっ…』
聞けば、彼女はまどかが死ぬところを目の前で見たらしい。
何でも、自分が動けば助けられたかもしれないのに、恐怖で動けなかったから見殺しにしたようなもの…と彼女は言うのだ。
『私が臆病じゃなかったら…ぐすっ…私に勇気があれば…鹿目さんを助けられ…ひっく…のに…』
仕方のないことだったのに、暁美さんは自分の無力さを呪って自分が悪いのだと泣いていた。
そんな暁美さんを見ていて、私は自分の中の葛藤がとても小さなものに思えた。
まどかが相手をしてくれなかったからといって、暁美さんに嫉妬していた自分が酷く幼稚に思えた。
だから私は涙を拭うと、暁美さんに言った。
『…私、あんたが生きていてくれてよかった』
『そんな…なんで…えぐっ』
たしかに、最後の1か月まどかと私の間には距離が出来てしまっていたのかもしれない。
『だってさ、あんたが転校してきてからのまどか、本当に楽しそうだった。
私や仁美も今までに見たことないぐらいに、生き生きとしてた……』
『そ…それはっ…』
私がそれを面白くなく思っていたのもまた事実だ。
でも、まどかがかつてないほどに楽しそうだったのは、暁美さんがいてくれたおかげであって…
『もし、あんたまで死んでたら…友達思いだったまどかはきっと報われなかっただろうから、だから…』
まどか自身が少しでも満たされていてくれたというのなら、それは私にとっても嬉しいことであって…
『生きていてくれて、最後に私の親友の傍にいてくれて…ありがとう、暁美さん』
だからその言葉は、私から暁美さんへの掛け値なしの感謝の気持ちだった。
それから私はほむらとちょくちょく連絡をとるようになり―
やがて仁美もそこに加わって、私たちはよく3人で会うようになっていった。
…きっと3人で会う時、私も仁美もほむらの中にまどかの面影を見出していたのだと思う。
もちろん、ほむらとまどかは別人であり、ほむらはまどかの代わりにはなれない。
けれど、そうやって面影を見出したからこそ、私たちはすぐに仲良くなることができたのではないかと思う。
まるで、まどかが導いてくれたかのように―
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最初に沈黙を破ったのはさやかだった。
「………ふぅ」
黙祷自体は僅かな時間だったが、3人にはとても長いものに感じられた。
きっと誰も5年前のから今までのことを思い出していたのだろう。
「…………ん」
「…………はぁ」
さやかに続いてほむら、仁美も黙祷を解いた。
「うーし、それじゃあ片づけて帰りますか!」
「…そうですわね」
「…そだね。ああそうだ。さやか、数珠返してー」
「ああ、そうだ。借りてたんだった」
さやかは数珠を返すため、ほむらの方へと向き直る。
「………ありがとね」
「…?うん、どういたしまして」
「…あー仁美ー。桜餅は私のだからねー」
「さやかさん、意地汚いですわ…」
妙に勿体ぶった感謝の言葉にほむらは首をかしげるが、さやかがすぐにいつもの調子に戻ったので特に気にしないことにした。
3人が後片付けを終え、駐車場に戻ったころには日はほとんど暮れかけていた。
※ ※ ※
そして日もすっかり暮れた中、3人を乗せたリムジンは志筑邸に向かって走っていた。
「でもさー。せっかくこんな車もらったんだから仁美も免許取ればいいのに」
「ん~、でもせっかく大学に入って習い事から解放されましたので…。もうちょっと授業後に何もないっていう感覚を味わいたいんですわ」
「あー、仁美さん高校の間も習い事とかやらされてたもんねー」
そして仁美は思い出したように付け加える。
「…それに誰かさんみたいに特別乗せてあげたい殿方がいるわけではありませんからね~」
「へ、へぇ。そうなんだ」
仁美の意図を察したほむらが追い打ちをかける。
「…知ってる?なんでも体が不自由な恋人をドライブに連れて行きたくて、授業さぼってまで免許取りに行って留年しかけた人がいるらしいよー」
「へ、へー、ソウナンダー…」
留年しかけたさやかの尻拭いをしたほむらと仁美としては、これくらいいじってもバチは当たるまい、というのが持論だった。
ふとほむらが時計を見るとちょうど7時を回ったところだった。
「ぬぐぐ…、どうして今日はさやかちゃんばかりがいじられねばならんのだ…」
「あはは…。そういえばもうこんな時間だけど2人とも夕飯どうするの?」
「そういえば考えてませんでしたね…。よろしければこの後どこかで食べていきません?」
ほむらもさやかも仁美の意見に賛成だった。
「おっ、いいねー。近くにファミレスあるしそこにする?」
「うん、そこでいいね」
「私もそこでいいですわ」
そうして3人を乗せた車はファミレスの駐車場に入っていった。
…もっとも、相変わらずリムジンは駐車スペースには収まってくれなかったため、3人は肩身の狭い思いをする羽目になったのだが。
ファミレスでの食事を終えて、リムジンはもう志筑邸に近いところを走っていた。
3人とも疲れたのか口数が少なくなり、車内は静まり返っている。
そんな中、ふいにほむらが口を開いた。
「…ねぇ、さやか、仁美さん」
「ん、なにー?」
「なんですの?」
さやかは運転のため前を向いたまま、仁美は後部座席から、ほむらの言葉に返事をした。
「もしも――もしも、だよ?」
そしてほむらは2人へと問いかける。
「魔法でどんな願いごとでも叶えてもらえる、って言われたら、どうする?」
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キュゥべえ視点
彼女のまわりに誰もいないのを確認すると僕は彼女に声をかけた。
「やぁ、暁美ほむら」
「…!久しぶりだね、キュゥべえ。……どうかしたの?」
突然声をかけられやや驚いたようだったが、暁美ほむらは返事をしてくれた。
…まだ、大丈夫なようだ。
「あれから、考えは変わったかなと思ってね。君にはまだ願いを叶える資格があるようだし」
「そっか…それで?」
暁美ほむらが続きを促してくる。
「君が願えば、二人を蘇らせることも…全てをやり直すことだってできるかもしれないよ?だから…」
今まで数多の少女たちに言ってきたのと同じように、僕は彼女に言った。
「だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」
長い沈黙が訪れた。
暁美ほむらは目を閉じて、じっと何かを考えているようだった。
やがて彼女はこちらに背を向けて、言った。
「私…やっぱり契約しない」
「それは、あの二人を見捨てるということかい?」
いつかと同じように、僕は彼女に食い下がる。
「結果的にはそうなるのかもしれない」
けれど、そこからは違った。
「けど、もし私が奇跡を使って2人を蘇らせても…もっと多くのものを失うような気がするの」
彼女はもう答えを見つけていた。
「だって、私たちの命はそんなに軽いものじゃないから、何かを代償に取り戻せていいものなんかじゃないから」
うろたえることも、迷うこともなかった。
「あれから5年たって…私はちょっとだけ大人になった、ちょっとだけ賢くなった。」
彼女は前よりずっと強くなっていた。
「だから…私はあなたの言うことが信じられない。
私が魔法少女になるだけで、そんな奇跡の代償を贖えるなんて思えないから。
そんな都合のいい話があるなんて思えないから。
もっと大きな何かが失われる…そんなような気がしてならないの」
彼女はもう―
「もちろん、怖いっていうのもあるよ?
今でも2人の最後の姿を思い出すだけで、足がすくんでしまいそうになる…
死への恐怖でどうにかなってしまいそうになる」
そう言うと暁美ほむらはこちらに向き直る。
「それでも……あれ?キュゥべえ?どこに行ったの?」
暁美ほむらはあちこち見まわして、目の前にいる僕の姿を探している。
…どうやら時間切れのようだ。
「…キュゥべえ?」
もう彼女の目に僕の姿が映ることはないだろう。
僕の声が彼女の耳に届くことはないだろう。
「…………?」
彼女はもう〝少女〟ではないのだから。
「……ああ、そっか」
やがて、彼女も気が付いたのだろう、一人納得したようにそう呟いた。
そして―
「さようなら……キュゥべえ」
「さよなら、暁美ほむら」
僕たちは通じ合わない別れの挨拶を交わすと、どちらからともなくその場を去った。
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―30分ほど前―
ほむら視点
『何でも……ですの?』
『いいねぇいいねぇ。金銀財宝とか、満漢全席とか?』
『何というか…即物的ですわねぇ、さやかさんは』
『なによー。文句つけるなら仁美もなんか言ってよー』
ムッとしたのだろうか、さやかは仁美さんに話を振った。
『ええ?うーん…』
仁美さんはひとしきり考えていたが―
『ごめんなさい、漠然としすぎていて思いつきませんわ…』
『そんなに難しく考えなくても…なんでもいいよ。それこそ今さやかがいった金銀財宝とか…』
それでも仁美さんはピンとこないようだったので、私はいくつか例をあげてみた。
誰かと仲良くなりたい、素敵な人と出会いたい、強くなりたい……
…それは魔法少女のことを知ったばかりのころに、浮かんでは消えた願いごとだった。
鹿目さんも巴さんも生きている、そんな暖かい世界の中で夢想した願いごとだった。
でも―
『…死んだ人を蘇らせたり、とか』
『…ほむらさん、それは…』
その願いごとだけは違った。目の前で大切な人達を失って初めて胸に抱いた願いだった。
『…ごめん。気を悪くしたなら―』
『私なら…そんなことは願わないかな』
謝るよ、と続けようとしたところでさやかは私の言葉を遮った。
『両親が死んで、まどかが死んで、他にもたくさんの親しい人たちが死んで、私はすっごく悲しかった』
『さやか…?』
『さやかさん…?』
さやかはどこか遠い目をしながら語り続ける。
『私だけじゃない、私にたくさんの親しい人たちがいるように、死んだ人たちにもまた同じくらい親しい人たちがいて…。
きっとその人たち皆が私と同じくらい悲しんだんだと思う』
私も仁美さんも黙ってさやかの話を聞いていた。
『それでもさ、誰一人として死んだ人を生き返らせようとはしないんだよ?
変な話だよねー。誰もが死なないで欲しかったって思っているのに…』
あたかも不思議でたまらないという言い方だった。
『きっと誰もが理解してるんだと思う。
何をどうしようと死を覆すことはできないって…
覆そうとしてはいけないんだって…』
語り続けるさやかの口調にはいつものようなおどけた様子は見られなかった。
『だから、さ』
ふう、と一息つくとさやかは言葉を続ける。
『例えどんな手段であっても、それを覆せてしまうものは、きっとまともなものじゃないんだと思う。
それが魔法だの奇跡だのでどんなに綺麗に表面を取り繕っていても……
本質はもっとおぞましい呪いみたいなものに違いないから。
それ相応の…いいや、きっとそれ以上のリスクを伴うものだろうから』
さやかが話し終えると車内は静まり返った。
『…え、えーと。…ゴメン!ノーリスクでの話だよね!それなら生き返らせるよ、うん!』
自分が想像していた以上にしんみりとしてしまったからなのか、無理に声のトーンを上げながらさやかはそう言った。
しかし―
『そうですわね…』
『うん…そうだね』
『あ、あははー………。うぅ…』
私と仁美がうまく反応できなかったせいで、余計に微妙な空気になってしまった。
そして再び車内は静まり返った。
そして志筑邸が見えて来たころ―
『…でもさ、あれだよね』
再びさやかが口を開く。
『そんな魔法なんかなくても、死んだ人を蘇らせることができなくてもさ……別に大丈夫だよね』
『…え…?』
私はさやかの言葉に反応して、つい声が出てしまった。
『もちろん、大切な人が死んじゃったら悲しいよ?
…そりゃもうこの世の終わりかってくらいに』
きっとそれは彼女自身が体験した感覚なのだろう。
『けどさ、どんなに大切な人が死んじゃったとしても、時間が経てば悲しみって癒えるんだよね。
その人のことを忘れない限り、絶対に消えてはくれないけどさ』
さやかは苦笑しながらそう言った。
『まぁ、私たちもそうやって悲しみを癒して、こうして立ち直っているわけで』
ちょっと勿体ぶった後、さやかは言葉を続けた。
『だからさ…時間はかかるけど、悲しみを乗り越えて先に進めるだけの強さがあるんだしさ…それだけで十分だとは思わない?』
両親と大切な親友を一遍に失った彼女にそう言われては、私はそう思わないわけにはいかないような気がした。
『…なーんて、柄にもないこと言ってみたりして』
さやかはそんなふうにお茶を濁すと、車を停車させた。
いつの間にか志筑邸に到着していたらしい。
私は車から荷物を降ろすと、車庫入れのため運転席に座ったままのさやかに声をかけた。
『さやか』
『んー、何?』
『…ありがと。なんだかスッキリした』
『…んんー?なんのことだかようわからんけど…どういたしまして』
運転席のさやかの顔は見えなかったけれど、きっと不思議そうな顔をしていたんだと思う。
その後、私たちは志筑邸でお供え物や余った物資を分け合って別れた。
さやかは“私たち”が悲しみから立ち直っていると言った。
でも、私は違う。立ち直るどころか、まだ立ち向かってすらいないのだから。
さやかはただ思ったことを言っただけなのかもしれない。
それでも、私は彼女が手を引いてくれたような気がしてならなかった。
私たちには悲しみを乗り越えて先に進めるだけの強さがあるんだから大丈夫だ―と。
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再びほむら視点
「それでも…あれ?キュゥべえ?どこに行ったの?」
私が振り返ると、さっきまでそこに居たはずのキュゥべえが忽然と姿を消していた。
「…キュゥべえ?」
もともとキュゥべえは突然現れて、突然居なくなることが多かった。
けれど、別れの言葉もなしに居なくなる様なことは、今まで一度もなかった。
「…………?」
そして、あたりを見回しても名前を呼んでも一切反応がないのを確認して、私は気付く。
キュゥべえが私の前から居なくなったのではなく、私がキュゥべえを知覚できなくなったのだということに。
「……ああ、そっか」
そして、それの意味するところも―
「さようなら…キュゥべえ」
私は見えない相手に向かって一方通行な別れの挨拶を告げた。
そして、私には別れを告げねばならない相手がまだ残っていた。
ちょっと前までは、何かが間違えば再会することがあったのかもしれない。
けれど、今この瞬間をもって、私は彼女たちと再会することは出来なくなった。
なぜなら――私はもう魔法少女になることはできないから、奇跡を起こすことはできないから。
だから、私は彼女たちに謝罪と別れを告げねばならなかった。
「……ごめんなさい、鹿目さん、巴さん。そして…さようなら」
その言葉を告げた途端に――目から涙が溢れて来た。
「あ、あれ…?」
その涙は今までに流したことのない涙だった。
「あ、ああぁ……」
5年前にまどかの遺体の前で流した涙も……
4年前に墓前で流した涙も……
自分の勇気のなさを呪う悔し涙だった。
だけど、この涙は―
「うわあぁ…ああぁ……」
大切な人を失った喪失感からくる、悲しみによる涙だった。
今日、私は初めて鹿目さんと巴さんの死だけを悔やんで泣くことができたのだ。
純粋に彼女たちを失って悲しいと、もう二度と会うことができなくて悲しい、と―
「うあああぁぁぁぁ………!ああぁぁぁぁ………!」
私は大声をあげて泣いた。
みっともなかろうがなんだろうが関係なかった。
そうでもしないと、押し寄せて来る悲しみに耐えられそうになかったから。
だから私は泣いた。悲しみを乗り越えて先へと進むために……
私が亡き二人に報いるためにできることは限られていた。
(理不尽な悲しみが繰り返される、救いようのない世界だけれど――
だとしてもここは、かつて彼女たちが守ろうとした場所なんだ)
一つは、私自身が彼女たちのことを忘れないこと。
人知れず町の平和のために戦い続け、そして散って行った少女たちがいたことを、私は忘れてはならない。
(それを憶えてる。決して忘れたりしない。だから私は――)
もう一つは、彼女たちに守られた命を無駄にしないこと。
彼女たちがこの世界に確かに生きていた証として、私は生きねばならない。
「例えどんなに辛くても、悲しくても、私は生きる……生きて生きて生き抜いてやる……!」
彼女たちの分まで強く――
(これが私の答え……私の決意……)
何度も逃げて、間違えて、後悔した末のその答えは至極当たり前のものだった。
だけど、誰に示すでもなく私はそれを胸に刻み直す必要があった。
(さぁ、先に進まなくては…)
―いつか倒れ逝くその時に、少しでも彼女たちに顔向けができるように……
終
これにて完結となります。
初投稿で至らぬ点も多かったと思いますが、最後まで読んでくださった方ありがとうごさいました。
乙ですた。
以前は葬儀関係の仕事をしてた身としては、色々考えさせられるお話でした。
乙
切ないし、根本的な解決にはなってないが、これはこれで幸せなんだろうな
いろいろな感想ありがとうございます。
もともとこれの倍くらいの容量のSSを書き溜めてたんですが、それの外伝として思いついたのがこのSSです。
本編の方はいつ完成するかわかりませんが、いずれは投稿する予定なので見かけたら読んでくださるとうれしいです。
あと、おまけがあるんですが…
自分でいうのもなんですが、本編の雰囲気ぶち壊しです
本編とはかすりもしない内容な上、シリアスですらありません。(一応まどかのネタではあるんですが)
投下しないほうがいいですかね?
乙
ええんじゃないの
じゃあ投下します。
※注意
・本編とはかすりもしない内容です、というかシリアスですらありません。
・本編の雰囲気を楽しんでいただけた方がいるなら、そしてその雰囲気の余韻を味わいたいなんて方がいらっしゃったら、ブラウザを閉じることを推奨します。
・「みずいろ」(ねこねこソフト)のおまけ「まじかるひよりん」シリーズのパロディとなっております。(エロ皆無)
・元ネタ知らなくても楽しめる……かなぁ?
・なお
まどか「~」
マミ「~」
の形式です。
・それでもいいならお待ちください。ちょっとしたら投下します。
・あとマミさん視点です。
魔法少女まじかる☆まどっち
休日、巴家の昼下がり―
マミ「さぁ~て、晩ご飯でも作ろうかしらね」
せっかくの休日なので、晩御飯はちょっと手の込んだものを……
そう思い、私はいろいろと食材などを買い込んでおいた。
マミ「あ、そうだ。あの調味料ってあったかしら?」
ガサゴソ……
マミ「ああ、あったわ。よかった」
そう言って手にしたのはガラス瓶に入った買い置きのソース。
マミ「これがあるとないじゃ全然味が違うのよね~♪」
しかし、小瓶を開けようとすると――
マミ「あ、あれ?」
フタに付いたソースが固まってしまったのか、なかなか開きそうにない。
マミ「う~ん……ダメね。開きそうにないわ」
せっかくいろいろ準備したのになぁ……
何とかならないものかしら……
マミ「はぁ~、困ったわねぇ……」
???『お困りですか~?』
マミ「うん、そうなのよ……って、誰!?」
突然誰かの声が聞こえてきた。
???『そんな時には、わたしにおまかせ♪』
マミ「え、ええ?」
まどっち「はぁい、まじかる☆まどっちだよぉ♪」
マミ「……へ?」
突然、魔法少女姿の鹿目さんが部屋の中に出現していた。
まどっち「お困りのようですね、マミさん?」
マミ「か、鹿目さん、その格好はいったい……?いつもの姿とは違うし……」
いつもの鹿目さんの衣装とは違うようだった。そもそもソウルジェムが見当たらない。
色がピンク基調なのは同じなのだが、カチューシャ、首元のリボン、肩のフリル……
まぁ、なんというか……よりキャピキャピとした印象を受けた。
あと手に持っているその金ピカの巨大ハンマーは何なの……あなたの武器は弓でしょうに……
まどっち「ち、ちがいますよぉ、鹿目まどかじゃないですよー。
そ、それに~、いつもの姿ってなんのことですか?」
マミ「えっ。でも、どこからどう見ても鹿目さんなんだけど……」
まどっち「そ、そんなことないですよ?」
マミ「それより、そのノリは恥ずかしくないの?」
まどっち「うぐ…………そ、それは言わないでください……」
そして鹿目さん? は一拍置くと、真剣な面持ちでこちらを見る。
まどっち「いいですか、よく聞いてくださいねマミさん」
マミ「え、ええ」
まどっち「わたしは魔法の国からやってきた……」
まどっち「まじかる☆まどっちだよ~♪」
マミ「…………………」
マミ「………………はい?」
まどっち「まじかる☆まどっちだよ~♪」
マミ「………えと」
まどっち「…………OK?」
マミ「え、ええ…わかったわ」
話が進みそうにないので、そういうことにしておきましょう……
まどっち「それでマミさん、何に困っていたんですか?」
マミ「そ、そのね、この瓶のフタが開かないのよ」
まどっち「ふむふむ、それはお困りですねぇ」
マミ「そうなのよ……。このままだと晩ご飯が用意できそうになくて……」
まどっち「大丈夫ですっ、わたしにお任せですよ♪」
マミ「えっ、本当にできるの?鹿目さん?」
まどっち「うぅ、だ、だからまどっちですって…」
マミ「そ、そうだったわね、ごめんなさい。それじゃあお願いします、…まどっちさん」
まどっち「はいっ! それじゃあ魔法の力で開けますよ~」
というか私もさっさと魔法使って開ければよかったわね
…今更水を差すのもかわいそうだから黙っておくけども
まどっち「よ~し、それじゃあいきますよ」
まどっち「ピンプル、パンプル、ロリポップン、
マジカルマジカル、るんららぁ……」
マミ(うっわぁ……痛っ)
まどっち「そ~れっ、フタ開け~、にゃう~ん♪」ピロリロリーン
…………………………
………………
………
そして呪文(?)を唱え終えるとそこには――
まどっち「ん~~っ」ギリギリ
マミ「あ、あの…まどっちさん?」
まどっち「んん~~~~っ!」ギリギリギリ
マミ「え、え~と、その…」
力尽くで瓶のフタを開けようとしているまどっちさんの姿があった。
まどっち「なんですか? …ん~~っ」ギリギリ
マミ「その…あの…、ま、魔法の力はどこに?」
まどっち「えっ」
マミ「力尽くで開けようとしてるようにしか見えないのだけれど……」
まどっち「………」
マミ「いやその…ち、違ったらごめんなさいね?
ひょ、ひょっとしたら魔法で筋力を強化したりしてるのかしら?」
なんで私が謝ってるのかしら……
まどっち「……固いですね、このフタ…」
マミ「うん、そうなのよ……」
最初に言ったじゃない……ていうか魔法使いなさいよ……
まどっち「でも不思議ですね。このわたしの魔法をもってしても開かないなんて」
マミ「そ、そうねぇ、不思議ねぇ。あははは………………はぁ」
まどっち「あっ、そうか!うん、わかりましたよマミさん」
マミ「えっ、何が?」
まどっち「きっとこのビンのフタには恐ろしい封印がかけられているんですよ!」
マミ「えっ、何で!?どうしてそんな結論に!?」
まどっち「う~ん、これを解くにはまず七人のサーヴァントを召喚して~、その魂を~……」
聞いちゃいないわね……
…………………………
………………
………
マミ「でも、そんなに固かったかしら………」
私は小瓶を手に取って、フタに手をかけた。
まどっち「あ、無理ですよ、マミさん。それを開けるにはまず封印を……」
マミ「ん~~~しょっと!」カポンッ
まどっち「えっ…………」
マミ「あ、開いたわっ!」
まどっち「あ、あれれ?」
マミ「よかったー。これで晩ご飯が作れるわ~♪」
まどっち「…………………」
マミ「もう、まどっちさんたら、簡単に開いたじゃないの~」
まどっち「う………………」
マミ「うふふ、でも、まぁ、よかったわぁ♪」
まどっち「うう、こんなはずじゃ……」
マミ「…まどっちさんの魔法もたいしたことないわね?」
まどっち「え」
マミ「あー、何でもない、何でもないわ、うふふ~♪」
まどっち「うー…」
マミ「……?どうしたの、まどっちさん?」
見ればまどっちさんが半泣きになってうなっていた
まどっち「う~うう~…」
マミ「まあ用事も済んだことだし、早く帰ったほうがいいと思うわよ?」
まぁ、これで私は華麗なるディナーを楽しめそうだし、細かいことはいいわね♪
そんなことを考えていた時のことだった――
まどっち「わぁーんっ!」ブゥン
マミ「えっ!?」
癇癪を起したまどっちさんが、手に持っているハンマーを振り回して暴れ始めたのだ
まどっち「うわぁ~~ん!」ガシャン、パリーン
マミ「ちょ、ちょっと! うわっ!?」ガチャーン
まどっち「も、もう、マミさんのバカーッ!」ヒュン
マミ「お、落ち着い……キャッ!」パリーン
まどっち「うぇ~~んっ!」ガッチャーン
…………………………
………………
………
その後、何とかまどっちさんを部屋から追い出すことに成功したのだけど……
マミ「はぁ………」
まどっちさんの暴走により、台所は機能停止状態で……
マミ「……………」ズルズル
私の休日の華麗なるディナーは、買い置きしてあったカップラーメンになったのであった……
※ ※ ※
まどっち「こうして今日も、まじかる☆まどっちは大活躍です♪」
まどっち「魔法のハンマーで何でも粉砕だよ、うぇひひ♪」
マミ「うぇひひじゃないわよ、はぁ………」
終わり
乙っす!
魔法のハンマーでビンを粉砕!!・・・・・・の方がなんぼかマシだったなぁw
元スレ
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「遅いね……」
「本当に……遅いですわね……」
暁美ほむらと志筑仁美は志筑家で待ちぼうけをくらっていた。
「さやかはどれくらい遅れるんだっけ?」
「あと15分くらいで着く……というメールが来たのが30分前ですわね」
3: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:08:23.85 ID:gMqyD9490
2人で溜息をついていると、玄関のほうからドタドタと走る音が聞こえ、やがてインターホンの音が鳴り響いた。
「…たぶんさやかさんですわね」
「そうだね。じゃあ出よっか」
荷物を整え、玄関のドアが開けると、そこには二人の予想通り美樹さやかが立っていた。
4: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:19:26.01 ID:gMqyD9490
「ゴメンッ!講義が思ったよりも長引いちゃって……」
「言い訳は道中でいくらでもお聞きしますわ~」
「免許持ってるのさやかだけなんだからさ……」
3人は話しながら外に出ると、車庫のほうへと向かった。
5: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:27:13.15 ID:gMqyD9490
そして仁美が車庫のシャッターの開閉ボタン押したところで、さやかが思い出したように口を開く。
「あー、そういえばさ、仁美。今日わたしが運転する車って……」
「この中の……確か、左から2番目のがそうですわ」
志筑邸の車庫の中には、綺麗に整備されていると思われる車が4台ほど鎮座していた。
6: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:30:01.77 ID:gMqyD9490
そして―
「うっわー……。正直外車ってのは予想してたけど、これは……」
「仁美さん、本当にこの車もらったの……?」
仁美のいった“左から2番目の車”は黒光りするリムジンだった。
7: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:37:48.49 ID:gMqyD9490
「ええ……最近来た親戚のおじさんが『そっかー、仁美ちゃんも車運転できる年になったかー』とか言って、譲ってくださったの。もともと売る予定ではあったみたいですけど……」
「だからって……。つーか、仁美はまだ自動車学校にすら行ってないってのに……」
そんなことを話しながら3人は車に乗り込んだ。
さやかは運転席に、ほむらは助手席に、そして仁美は後部座席に座った。
8: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 16:51:06.36 ID:gMqyD9490
「つか他の車は使っちゃダメなの?これよりは運転しやすそうなんだけど……」
「父に交渉はしてみたんですけど……運転手がさやかさんであることを告げたら、途端に渋り出しまして……」
「そういえば……さやか前にここに集まったとき、飾ってあった置物落として壊したよね……」
単純にさやかの信用問題であったことが分かったところで、仁美はさやかに問いかける。
「そういえばさやかさん、花を持ってきてないようですが、どうするんですの?」
9: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:04:04.91 ID:gMqyD9490
「ん、ああ。行く途中に国道沿いにある花屋で買ってこうと思ってさ」
仁美の質問に答えながら、さやかは発進準備を整える。
「よーし、さやかちゃんの運転テクニック、とくとご覧あれぃ!」
遅刻の失態をカバーしようと張り切るさやかだったが……
10: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:07:31.99 ID:gMqyD9490
「頼みますから落ち着いて運転してください、さやかさん……」
「さやか、サイドブレーキ解除し忘れてるよ……」
「……はい」
冷や水を浴びせられ、安全運転で公道へと繰り出したのであった。
11: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:21:22.37 ID:gMqyD9490
※ ※ ※
花屋に寄った3人は再び車に乗り、目的地へと向かっていた。
「いやー、しっかしほむらが○○大とはねぇ。初めのころはほとんどわたしと同じような成績だったってのにさ」
「初めは私がさやかさんとほむらさんに教える構図でしたのに、半年と経たないうちに私とほむらさんがさやかさんに教える構図になっていましたからね……」
「それだけ仁美さんの教え方が良かったっていうのもあるよ。それなのにさやかは寝てばっかりだったもんね……」
ほむらと仁美は、隙あらば眠りに落ちるさやかを叩き起こして、勉強を教えた日々を思い出していた。
その甲斐あってか、3人はそろって同じ高校に入ることができたのだが。
12: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:34:52.17 ID:gMqyD9490
「ふんだ、どうせあたしはバカですよーだ」
「いやバカとかじゃなくて集中力の問題……」
そんなことを話しているうちに車は郊外の山道に入っていた。
「えーと、この次の分かれ道を右だっけ?」
「確かそうですわ」
目的地を目前にして、ふとほむらは昔のことを思い出し口にしていた。
「そういえば……私とさやかってここで再会したんだよね」
13: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:39:39.32 ID:gMqyD9490
「そうだったんでしたわね。中3の時でしたから……4年前ですわね」
「そっかー、あれからもう5年も経っちゃったんだー。……そっかぁ」
「……さやかさん」
相槌を打ったさやかの口調は、先ほどまでと比べて一段とトーンの低いものとなっていた。
14: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 17:47:11.79 ID:gMqyD9490
当然のことだろう。4年前の今日の出来事は、5年前の悲劇を思い出さずに語れるものではなかったのだから。
そして、ほむらもまた5年前の今日のことを思い返していた。
きっと死ぬまで忘れることはないであろうあの日のことを。
15: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 18:34:55.32 ID:gMqyD9490
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~5年前~
ほむら視点
雨の降りしきる中、私は冷たくなった鹿目さんの遺体にすがって泣いていた。
『どうして……?死んじゃうって、わかってたのに……。私なんか助けるよりも、あなたに……生きててほしかったのに……』
『その言葉は本当かい?暁美ほむら。君のその祈りの為に、魂を賭けられるかい?
戦いの定めを受け入れてまで、叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげられるよ』
瓦礫の山の上に座ったキュゥべえが、私を見下ろしてそう言った。
16: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 18:42:43.17 ID:gMqyD9490
『……あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?』
『そうとも。君にはその資格がありそうだ。教えてごらん。君はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?』
私は大切な友達が死んだことが、その命を理不尽に奪っていった魔女が許せなかった。
だから私は立ち上がり、涙を拭い、そして――
17: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 18:47:44.74 ID:gMqyD9490
―私は鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―
そう、言ったつもりだった。
けれど―
18: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 18:52:05.29 ID:gMqyD9490
『ん…、なんだい?よく聞こえなかったよ、もう一度言ってくれるかい?』
風が吹いたのか、私の声が小さかったのか、キュゥべえには聞こえなかったらしい。
『わ…わた、わた…し…』
もう一度言い直そうとして、私は自分の体が震えていることに気が付いた。
最初は雨で体が冷えて震えているのかと思ったが、それは違った。
19: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 19:05:16.84 ID:gMqyD9490
『わ……わた、し……』
願いの言葉を紡ごうとする度に、歯が震えて音を立てる。
やがて私はその震えが恐怖から来ていることに気が付いた。
20: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 19:12:25.07 ID:gMqyD9490
『あれ……? …あ、れ……?』
叩きつけられ手足をだらりとさせたまま動かなくなった巴さん……
諦めずに魔女に向かっていって無惨なまでにボロボロにされていった鹿目さん……
突然それらが私の脳裏にフラッシュバックした。
21: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 19:17:09.38 ID:gMqyD9490
『ひっ……ひぃ…!』
願いを叶えてもらうということは、魔法少女になるということであり、それは魔女との命懸けの戦いの日々を意味している。
足元を見れば、その戦いの果てに死を迎えた少女が倒れていた。
その無惨な姿は、私に魔法少女となった自分の末路を暗示させた。
22: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 19:33:43.60 ID:gMqyD9490
『あ……あぁ…』
鹿目さん・・・どれだけ苦しかったのだろう、痛かったのだろう。
私はその苦痛が自分に降りかかると想像しただけで、恐怖でどうにかなってしまいそうだった。
23: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 19:46:43.44 ID:gMqyD9490
気づけば私は立っていられなくなり、その場にへたり込んでいた。
恐怖による動悸と雨による体温低下が、病み上がりの心臓に負担をかけていたのだろう。
―私を助けるより、あなたに生きて欲しかった―
ついさっきそんなことを言ったにも関わらず…
苦痛と死への恐怖に囚われた私の心は、すでに折れてしまっていた。
24: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 20:07:11.71 ID:gMqyD9490
『ケホッ…無理……私には……ハァ……無理…』
息も絶え絶えになりながら、私はキュゥべえに向けて言う。
『つまり君のその祈りは、魂を賭け、戦いの定めを受け入れてまで叶えたいものではない…そういうことなんだね?』
25: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 20:08:19.43 ID:gMqyD9490
『……!そ、それは……カハッ…』
『違うというのなら言ってごらん。君には願いを叶える資格があるのだから』
否定の言葉が口をついて出そうになったが、つまりはキュゥべえの言うとおりだった。
26: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 20:18:24.19 ID:gMqyD9490
私が祈れば、鹿目さんと巴さんを救えるのかも知れない。
けど私は自分の命が危険にさらされるのが怖いという理由で、その祈りを放棄しようとしているのだ。
―私を死の淵から救い出し、暖かく迎え入れてくれた2人を見捨てようとしているのだ。
それはとても身勝手で、恩知らずなことのように思えた。
27: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 20:27:04.68 ID:gMqyD9490
『そう…です。私には…ゴホッ……無理、なんです』
それでも、私は死への恐怖に打ち勝つことはできなかった。
『…そうかい。残念だけど無理強いするのはルール違反だしね。
ただ、気が変わったらいつでも呼んで。待ってるからね』
そう言うとキュゥべえは踵を返して去って行った。
28: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 21:08:11.59 ID:gMqyD9490
『…ひっく、ぐすっ……げほっ、ごほっ…』
臆病で、意気地なしで、弱くて…そんな惨めな自分が悔しくて、私は涙を流した。
そして、いつしか私は隣に横たわる鹿目さんの亡骸に向けて謝罪の言葉を投げかけていた。
『ごめ……なさい、ひっく、ゲホッ…ごめん、なさい…ぐすっ…』
どんなに謝ろうとも、それで彼女が生き返るわけでもないのに。
私が逃げたということに、何の変わりもないというのに。
29: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 21:11:33.70 ID:gMqyD9490
その後私は発見され、病院に搬送され手当てを受けた。
幸い命に別状はなく、後遺症も残らなかった。
――けれど、大切な2人をわが身可愛さに見捨てたという事実は、決して消えることなくずっと私を苦しめ続けた。
30: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 21:20:03.38 ID:gMqyD9490
キリがいいので一旦投下を中断します。
私用が片付いて、11時半過ぎくらいまでに戻ってこれたらなら、もうちょっとだけ投下します。
読んでくださってる方がいたらすみません。
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/22(月) 21:31:08.14 ID:ljjHTrY60
乙っす
1レスごとの量はもう少し大目でもいいんジャマイカ?
32: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 23:35:58.68 ID:gMqyD9490
>>31
承知しました
初投稿なので、そういうアドバイスはありがたいです
戻って来れたので、投下再開します
あと>>1に注釈として入れ忘れたのですが、
・区切りの後に特に表記がない場合は三人称
となります。
33: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 23:39:34.22 ID:gMqyD9490
----------------------------------------
やがて車は目的地の――霊園の駐車場に到着していた。
「ふぅ~、やっと着いた。しっかし運転しっぱなしってのは肩にくるなぁ…」
「仁美さん、これ…」
「ごめんなさい…私も考えてませんでしたわ…」
私たちの乗ってきたリムジンはそれほど大型のものではなかったものの、駐車スペースから盛大にはみ出していた。
「少しでも他のかたの迷惑にならないよう、迅速にやることを済ませましょう…」
「そだね…。さやかも!いつまでも伸びしてないで花とか準備して!」
34: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 23:45:27.42 ID:gMqyD9490
「あいよ~。仁美、この辺って誰のお墓があったっけ?」
「ここは佐々井さんと湊斗さんの2人ですわ」
「あ、それと私の知り合いの先輩が一人…さやかと仁美は知らない人だけど」
心得たように相槌をうつと、さやかは車内の荷物を漁りだした。
「え~と、花とお供え物と雑巾と…。あれ?チャッカマンとか線香は?」
「さやかさん、それなら私がもってますわ」
「そっか。……って、あー!」
突然さやかが声を上げた。
35: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/22(月) 23:50:22.21 ID:gMqyD9490
「ど、どうしたんですの?」
「…あーいや。数珠忘れちゃったんだわ…。仁美、ほむら、余分に持って来たりしてない?」
「あ、私持ってきてるよ。…こんなことになるんじゃないかと思って」
「おお、せんきゅーほむら!愛してるぅ!」
さやかはそんなことを言いながらほむらに抱きついた。
「はいはい…って」
「ふむふむ。Cカップといったところですかな」
そんなさやかの手はさりげなくほむらの胸へと伸びている。
36: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 00:00:48.07 ID:9kT/oIIV0
「…さやか、同性でもセクハラで訴えられるんだよ?」
「ひどっ!ちょっとしたスキンシップなのに!
……けど、ほむらも強かになったもんだなぁ。
初めのころは顔真っ赤にして泣きそうになってたというのに」
ほむらはぶつぶつ文句を言っているさやかを引きはがすと数珠を手渡した。
そんな2人に向かって、早々と準備を終わらせた仁美が声をかける。
「2人とも乳繰り合ってないで早くしてくださいまし。…私は桶に水を組んでおきますので」
37: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 00:07:59.92 ID:9kT/oIIV0
「ああうん、頼むわー。ほら、ほむらも早く」
「ちょっと待って……うん、あった」
ほむらは手荷物の中に用意したお供え物が入っているのを確認する。
「なにそれ?紅茶の葉っぱ?」
「うん。結構こういうのにうるさい人だったから…」
「そっか…。うん、喜んでくれるよ、きっと」
そしてほむらとさやかは急いで仁美の後を追った。
41: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 16:45:49.57 ID:9kT/oIIV0
※ ※ ※
その後、3人は霊園内を車であちこちまわって墓参りをした。その途中で彼女たちは懐かしい面々とも再会した。
元クラスメイト、学校の先生、近所に住んでいた人たち…
その中には町が壊滅して散り散りになって以来、初めて再開する人もいた。
そんなふうに回っている時、ほむらは駐車場の方に見覚えのある人物を見かけた。
「さやか、あれ…あの車から出て来たの上条君じゃない?」
「おお、ほんとだ。おぅい、恭介ー」
42: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 16:51:43.97 ID:9kT/oIIV0
上条恭介は父親と共に墓参りに来ているようだ。
「…あれ、さやか?」
「おや、さやかさん。お久しぶりですね」
「あっ、おじさんもこんにちは。お久しぶりです」
そのあとほむらと仁美も上条父子と軽く挨拶を交わした。
43: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 16:55:25.49 ID:9kT/oIIV0
「ここに来たってことは…恭介はこの後おばさんのところ?」
「うん、あとは母さんのところで終わりかな。…さやかの両親のところも行ってきたし」
「…そか、ありがと」
「当然だよ。…それにさやかたちも今母さんのところに行ってくれたんだろ?」
「うん…。そだね、言いっこなしだね」
その後、しばらく5人でいろいろと話をしていると、次第に空が赤らんできた。
44: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:02:06.45 ID:9kT/oIIV0
「恭介、体は大丈夫なの?」
「うん、今日は調子がいいんだ。ちょっと歩くくらいならなんともないよ」
「じゃあ、おばさんに元気な姿見せなきゃね」
「…そうだね」
やがて、上条父子は3人に背を向け去って行った。
「だいぶ話し込んでしまいましたわね。暗くなる前に回りきれるといいのですけど…」
「あと1か所だから大丈夫だと思うよ。場所もそんなに遠くないし」
45: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:05:13.23 ID:9kT/oIIV0
「…………」
母の墓前へと向かって歩いていく上条父子からは、どこか暗い雰囲気が醸し出されていた。
さやかはそんな父子の背中を黙って眺めていた。
「それなら大丈夫ですわね。…どうしたんですのさやかさん?」
「……………おーい!恭介ー!日曜のデート、9時に駅前だからねー?遅れないでよー!」
突然、さやかは恭介に向かってそう叫んだ。
46: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:13:27.81 ID:9kT/oIIV0
「わ、わかってるよ!…というか父さんがいるのに…はぁ」
「ははは、いいじゃないか。…それにさやかさんになら安心して任せられそうだしね」
「父さんまで…」
恭介は顔を赤くしてしどろもどろになっていたが、上条父子の表情は先ほどまでと比べて幾分か明るいように思えた。
47: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:15:16.78 ID:9kT/oIIV0
「まったく…あんな辛気臭い状態で送り出しちゃったら、私がおばさんに顔向けできないじゃん…」
そう呆れたようにぼやくさやかだったが、その頬は赤く染まっていた。
無論、ほむらと仁美がそれを見逃すはずもなく、さやかは移動中の車内でじっくりこってりといじられる羽目になった。
48: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:22:22.76 ID:9kT/oIIV0
※ ※ ※
ワルプルギスの夜は多くの人の命を奪っていった。
見滝原中学校は市外からの通学者も多かったため、ほかの学校と比べて被害にあった生徒は少なかった。
…それでも全生徒の3分の1ほどがその命を落とした。
そして多くの人の日常が崩壊した。
上条恭介は母を失い、美樹さやかは両親を失った。
暁美ほむらと志筑仁美の両親は仕事で見滝原から出ていたために被害に合わなかったが、家も学校も崩壊してしまった以上、見滝原を去らざるを得なかった。
49: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:27:02.97 ID:9kT/oIIV0
美樹さやかは親戚の家に引き取られ見滝原から去った。
暁美ほむらは以前に通学していたミッション系の学校がある東京へ戻った。
志筑仁美は隣県の学校へ転校した。
上条恭介は隣県の病院へ転院した。
それでも―多くのものを失いながらも、誰もが前に進まなくてはならなかった。
50: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:31:36.55 ID:9kT/oIIV0
※ ※ ※
空もすっかり赤くなった頃、3人は鹿目家の墓前にいた。
「久しぶりー。いやーごめんね、すっかり遅くなっちゃって」
さやかは柄杓で墓石に水をかけながらまどかに話しかける。
「それにしてもキレイですわね…ご家族の方がいらっしゃったんでしょうか?」
仁美も雑巾でロウソクを立てる台の付近を拭きながらそう呟く。
「花も刺さってるし、たぶんそうなんじゃないかな」
そしてほむらも線香やお供え物を取出しながら、そう答えた。
やがて掃除が終わり、供花やお供え物も整った。
51: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:38:56.00 ID:9kT/oIIV0
「…ん、それじゃ」
そして、さやかが音頭を取る形で3人は黙祷した。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
52: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:48:37.05 ID:9kT/oIIV0
----------------------------------------
―4年前―
さやか視点
私がまどかの墓前に着いた時、そこには二人の先客がいた。
『……ひっく、えぐっ…』
(あいつは…)
『…知っている子かい?』
私を墓参りに連れてきてくれた叔父さんが、まどかの墓前で泣いている子を指してそう聞いてきた。
53: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:51:12.81 ID:9kT/oIIV0
『…はい、一緒のクラスだった子です』
『そうか…』
私がその子の方へ向かっていくと、彼女の後ろに居たもう一人の女性が会釈をしてきた。
おそらくはこの子の母親だろう。
私は会釈を返すと泣いている子に向かって話しかけた。
『こんにちは、暁美さん…で合ってたよね』
『…?え、えっと…』
54: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 17:57:40.96 ID:9kT/oIIV0
暁美さんは涙を拭いながらこちらに向き直ってきた。
様子を見るに、顔は見たことあるが、名前は出てこない…というような表情だった。
『あ~、やっぱ覚えてないかー。私、美樹だよ、美樹さやか。ほら、まどかとよく話してた…』
『あっ…ああ! すいません、すぐに思い出せなくて…ぐすっ』
どうやらピンときてくれたようだ。
55: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:05:06.19 ID:9kT/oIIV0
『あはは、いいよいいよ。実際そんなに話したこともなかったし。
…それにあんたまどかにベッタリだったからねー』
『ひっく……すみません』
『いいって、いいって! それよりさ…』
―私は暁美さんに興味があったのだ。
56: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:12:16.28 ID:9kT/oIIV0
なぜなら、暁美さんが転校してきからあの天災までの1か月の間、まどかと最も親しくあったのは私ではなく彼女だったから。
長年の付き合いである私と仁美の誘いを断ってまで、暁美さんと出かけたりしていたのだから…
…私は寂しかったのだろう。
10年近い付き合いだった大切な親友が、最後の最後で自分から離れて行ってしまったような気がして。
57: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:17:28.03 ID:9kT/oIIV0
『まどかの…ことなんだけどさー』
『…えぐっ…は、はい』
そして、気付けば私は暁美さんを質問攻めにしていた。
一緒にどこに行っていたのか、何をして遊んだのか、どうやって仲良くなったのか……。
きっと私は、暁美さんから私の知らないまどかについて聞くことで、最後の1か月で出来てしまったように感じていたまどかとの距離を、埋められるような気がしていたのだ。
…寂しさを紛らわすことができるような気がしていたのだ。
58: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:22:01.83 ID:9kT/oIIV0
『そ、それで…その時鹿目さんは…』
『あー、たぶんまどかそこで転んだんでしょ?いっつもそうだったもん』
でも、いくら聞いても。
『そ、そうです!…ほんとに鹿目さんのことなんでも知ってるんですね』
『付き合い長かったからねー。大抵のことはわかるよー。…好みのタイプからスリーサイズまで』
『それはちょっと怖いです……』
いくらまどかのことを話しても。
59: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:24:32.65 ID:9kT/oIIV0
『…知ってた?あいつ演歌とか好きだったんだよ?』
まどかとの距離は縮まらない。
『あとは、ぬいぐるみとかも好きで、甘いものも好きで…』
寂しさは紛れてくれない。
60: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:30:02.24 ID:9kT/oIIV0
『ちょっと、引っ込み思案で、臆病で…そのくせ変なところで頑固で…』
ただ蘇ってくる彼女との思い出が、悲しみを呼び起こすだけだった。
『友達思いで…優しくて…それなのに…どうして…』
彼女を失って悲しいと、二度と会うことができなくて悲しい、と―
『どうして…あんな…あんないいやつが死ななきゃならなかったのよぉ…』
そして気付けば私は泣き出してしまっていた。
――その時だった
61: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:32:25.66 ID:9kT/oIIV0
『…ごめん、なさい』
暁美さんが私に向かって泣きながら謝罪の言葉を口にしたのは。
『…なによ…ぐずっ…なんであんたが謝るのよぉ……えぐっ』
『ひぐっ……鹿目さんのこと、助けられなくて…見殺しにしてしまって……ひっく、ごめんなさい…』
『……えっ…』
62: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:36:16.39 ID:9kT/oIIV0
聞けば、彼女はまどかが死ぬところを目の前で見たらしい。
何でも、自分が動けば助けられたかもしれないのに、恐怖で動けなかったから見殺しにしたようなもの…と彼女は言うのだ。
『私が臆病じゃなかったら…ぐすっ…私に勇気があれば…鹿目さんを助けられ…ひっく…のに…』
63: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:40:39.09 ID:9kT/oIIV0
仕方のないことだったのに、暁美さんは自分の無力さを呪って自分が悪いのだと泣いていた。
そんな暁美さんを見ていて、私は自分の中の葛藤がとても小さなものに思えた。
まどかが相手をしてくれなかったからといって、暁美さんに嫉妬していた自分が酷く幼稚に思えた。
64: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:49:32.34 ID:9kT/oIIV0
だから私は涙を拭うと、暁美さんに言った。
『…私、あんたが生きていてくれてよかった』
『そんな…なんで…えぐっ』
たしかに、最後の1か月まどかと私の間には距離が出来てしまっていたのかもしれない。
『だってさ、あんたが転校してきてからのまどか、本当に楽しそうだった。
私や仁美も今までに見たことないぐらいに、生き生きとしてた……』
『そ…それはっ…』
私がそれを面白くなく思っていたのもまた事実だ。
でも、まどかがかつてないほどに楽しそうだったのは、暁美さんがいてくれたおかげであって…
65: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:51:56.73 ID:9kT/oIIV0
『もし、あんたまで死んでたら…友達思いだったまどかはきっと報われなかっただろうから、だから…』
まどか自身が少しでも満たされていてくれたというのなら、それは私にとっても嬉しいことであって…
『生きていてくれて、最後に私の親友の傍にいてくれて…ありがとう、暁美さん』
だからその言葉は、私から暁美さんへの掛け値なしの感謝の気持ちだった。
66: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 18:56:16.27 ID:9kT/oIIV0
それから私はほむらとちょくちょく連絡をとるようになり―
やがて仁美もそこに加わって、私たちはよく3人で会うようになっていった。
…きっと3人で会う時、私も仁美もほむらの中にまどかの面影を見出していたのだと思う。
もちろん、ほむらとまどかは別人であり、ほむらはまどかの代わりにはなれない。
けれど、そうやって面影を見出したからこそ、私たちはすぐに仲良くなることができたのではないかと思う。
まるで、まどかが導いてくれたかのように―
68: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 21:28:44.82 ID:9kT/oIIV0
----------------------------------------
最初に沈黙を破ったのはさやかだった。
「………ふぅ」
黙祷自体は僅かな時間だったが、3人にはとても長いものに感じられた。
きっと誰も5年前のから今までのことを思い出していたのだろう。
「…………ん」
「…………はぁ」
さやかに続いてほむら、仁美も黙祷を解いた。
「うーし、それじゃあ片づけて帰りますか!」
「…そうですわね」
「…そだね。ああそうだ。さやか、数珠返してー」
「ああ、そうだ。借りてたんだった」
69: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 21:30:37.80 ID:9kT/oIIV0
さやかは数珠を返すため、ほむらの方へと向き直る。
「………ありがとね」
「…?うん、どういたしまして」
「…あー仁美ー。桜餅は私のだからねー」
「さやかさん、意地汚いですわ…」
妙に勿体ぶった感謝の言葉にほむらは首をかしげるが、さやかがすぐにいつもの調子に戻ったので特に気にしないことにした。
3人が後片付けを終え、駐車場に戻ったころには日はほとんど暮れかけていた。
70: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 21:43:02.73 ID:9kT/oIIV0
※ ※ ※
そして日もすっかり暮れた中、3人を乗せたリムジンは志筑邸に向かって走っていた。
「でもさー。せっかくこんな車もらったんだから仁美も免許取ればいいのに」
「ん~、でもせっかく大学に入って習い事から解放されましたので…。もうちょっと授業後に何もないっていう感覚を味わいたいんですわ」
「あー、仁美さん高校の間も習い事とかやらされてたもんねー」
71: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 21:45:48.20 ID:9kT/oIIV0
そして仁美は思い出したように付け加える。
「…それに誰かさんみたいに特別乗せてあげたい殿方がいるわけではありませんからね~」
「へ、へぇ。そうなんだ」
仁美の意図を察したほむらが追い打ちをかける。
「…知ってる?なんでも体が不自由な恋人をドライブに連れて行きたくて、授業さぼってまで免許取りに行って留年しかけた人がいるらしいよー」
「へ、へー、ソウナンダー…」
留年しかけたさやかの尻拭いをしたほむらと仁美としては、これくらいいじってもバチは当たるまい、というのが持論だった。
72: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 22:03:11.95 ID:9kT/oIIV0
ふとほむらが時計を見るとちょうど7時を回ったところだった。
「ぬぐぐ…、どうして今日はさやかちゃんばかりがいじられねばならんのだ…」
「あはは…。そういえばもうこんな時間だけど2人とも夕飯どうするの?」
「そういえば考えてませんでしたね…。よろしければこの後どこかで食べていきません?」
ほむらもさやかも仁美の意見に賛成だった。
「おっ、いいねー。近くにファミレスあるしそこにする?」
「うん、そこでいいね」
「私もそこでいいですわ」
そうして3人を乗せた車はファミレスの駐車場に入っていった。
…もっとも、相変わらずリムジンは駐車スペースには収まってくれなかったため、3人は肩身の狭い思いをする羽目になったのだが。
73: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/23(火) 22:17:22.03 ID:9kT/oIIV0
ファミレスでの食事を終えて、リムジンはもう志筑邸に近いところを走っていた。
3人とも疲れたのか口数が少なくなり、車内は静まり返っている。
そんな中、ふいにほむらが口を開いた。
「…ねぇ、さやか、仁美さん」
「ん、なにー?」
「なんですの?」
さやかは運転のため前を向いたまま、仁美は後部座席から、ほむらの言葉に返事をした。
「もしも――もしも、だよ?」
そしてほむらは2人へと問いかける。
「魔法でどんな願いごとでも叶えてもらえる、って言われたら、どうする?」
81: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 19:35:09.88 ID:vDfo/g5N0
----------------------------------------
キュゥべえ視点
彼女のまわりに誰もいないのを確認すると僕は彼女に声をかけた。
「やぁ、暁美ほむら」
「…!久しぶりだね、キュゥべえ。……どうかしたの?」
突然声をかけられやや驚いたようだったが、暁美ほむらは返事をしてくれた。
…まだ、大丈夫なようだ。
「あれから、考えは変わったかなと思ってね。君にはまだ願いを叶える資格があるようだし」
82: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 19:39:18.20 ID:vDfo/g5N0
「そっか…それで?」
暁美ほむらが続きを促してくる。
「君が願えば、二人を蘇らせることも…全てをやり直すことだってできるかもしれないよ?だから…」
今まで数多の少女たちに言ってきたのと同じように、僕は彼女に言った。
「だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」
長い沈黙が訪れた。
暁美ほむらは目を閉じて、じっと何かを考えているようだった。
やがて彼女はこちらに背を向けて、言った。
「私…やっぱり契約しない」
83: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 19:45:26.28 ID:vDfo/g5N0
「それは、あの二人を見捨てるということかい?」
いつかと同じように、僕は彼女に食い下がる。
「結果的にはそうなるのかもしれない」
けれど、そこからは違った。
「けど、もし私が奇跡を使って2人を蘇らせても…もっと多くのものを失うような気がするの」
彼女はもう答えを見つけていた。
84: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 19:50:03.96 ID:vDfo/g5N0
「だって、私たちの命はそんなに軽いものじゃないから、何かを代償に取り戻せていいものなんかじゃないから」
うろたえることも、迷うこともなかった。
「あれから5年たって…私はちょっとだけ大人になった、ちょっとだけ賢くなった。」
彼女は前よりずっと強くなっていた。
「だから…私はあなたの言うことが信じられない。
私が魔法少女になるだけで、そんな奇跡の代償を贖えるなんて思えないから。
そんな都合のいい話があるなんて思えないから。
もっと大きな何かが失われる…そんなような気がしてならないの」
彼女はもう―
85: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 19:57:05.37 ID:vDfo/g5N0
「もちろん、怖いっていうのもあるよ?
今でも2人の最後の姿を思い出すだけで、足がすくんでしまいそうになる…
死への恐怖でどうにかなってしまいそうになる」
そう言うと暁美ほむらはこちらに向き直る。
「それでも……あれ?キュゥべえ?どこに行ったの?」
暁美ほむらはあちこち見まわして、目の前にいる僕の姿を探している。
…どうやら時間切れのようだ。
「…キュゥべえ?」
86: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:04:40.64 ID:vDfo/g5N0
もう彼女の目に僕の姿が映ることはないだろう。
僕の声が彼女の耳に届くことはないだろう。
「…………?」
彼女はもう〝少女〟ではないのだから。
「……ああ、そっか」
やがて、彼女も気が付いたのだろう、一人納得したようにそう呟いた。
そして―
「さようなら……キュゥべえ」
「さよなら、暁美ほむら」
僕たちは通じ合わない別れの挨拶を交わすと、どちらからともなくその場を去った。
87: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:14:23.44 ID:vDfo/g5N0
----------------------------------------
―30分ほど前―
ほむら視点
『何でも……ですの?』
『いいねぇいいねぇ。金銀財宝とか、満漢全席とか?』
『何というか…即物的ですわねぇ、さやかさんは』
『なによー。文句つけるなら仁美もなんか言ってよー』
ムッとしたのだろうか、さやかは仁美さんに話を振った。
88: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:18:24.22 ID:vDfo/g5N0
『ええ?うーん…』
仁美さんはひとしきり考えていたが―
『ごめんなさい、漠然としすぎていて思いつきませんわ…』
『そんなに難しく考えなくても…なんでもいいよ。それこそ今さやかがいった金銀財宝とか…』
それでも仁美さんはピンとこないようだったので、私はいくつか例をあげてみた。
89: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:23:45.82 ID:vDfo/g5N0
誰かと仲良くなりたい、素敵な人と出会いたい、強くなりたい……
…それは魔法少女のことを知ったばかりのころに、浮かんでは消えた願いごとだった。
鹿目さんも巴さんも生きている、そんな暖かい世界の中で夢想した願いごとだった。
でも―
90: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:30:07.16 ID:vDfo/g5N0
『…死んだ人を蘇らせたり、とか』
『…ほむらさん、それは…』
その願いごとだけは違った。目の前で大切な人達を失って初めて胸に抱いた願いだった。
『…ごめん。気を悪くしたなら―』
『私なら…そんなことは願わないかな』
謝るよ、と続けようとしたところでさやかは私の言葉を遮った。
91: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:36:31.13 ID:vDfo/g5N0
『両親が死んで、まどかが死んで、他にもたくさんの親しい人たちが死んで、私はすっごく悲しかった』
『さやか…?』
『さやかさん…?』
さやかはどこか遠い目をしながら語り続ける。
『私だけじゃない、私にたくさんの親しい人たちがいるように、死んだ人たちにもまた同じくらい親しい人たちがいて…。
きっとその人たち皆が私と同じくらい悲しんだんだと思う』
私も仁美さんも黙ってさやかの話を聞いていた。
92: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:45:03.01 ID:vDfo/g5N0
『それでもさ、誰一人として死んだ人を生き返らせようとはしないんだよ?
変な話だよねー。誰もが死なないで欲しかったって思っているのに…』
あたかも不思議でたまらないという言い方だった。
『きっと誰もが理解してるんだと思う。
何をどうしようと死を覆すことはできないって…
覆そうとしてはいけないんだって…』
語り続けるさやかの口調にはいつものようなおどけた様子は見られなかった。
『だから、さ』
ふう、と一息つくとさやかは言葉を続ける。
93: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 20:54:22.16 ID:vDfo/g5N0
『例えどんな手段であっても、それを覆せてしまうものは、きっとまともなものじゃないんだと思う。
それが魔法だの奇跡だのでどんなに綺麗に表面を取り繕っていても……
本質はもっとおぞましい呪いみたいなものに違いないから。
それ相応の…いいや、きっとそれ以上のリスクを伴うものだろうから』
さやかが話し終えると車内は静まり返った。
94: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:04:26.24 ID:vDfo/g5N0
『…え、えーと。…ゴメン!ノーリスクでの話だよね!それなら生き返らせるよ、うん!』
自分が想像していた以上にしんみりとしてしまったからなのか、無理に声のトーンを上げながらさやかはそう言った。
しかし―
『そうですわね…』
『うん…そうだね』
『あ、あははー………。うぅ…』
私と仁美がうまく反応できなかったせいで、余計に微妙な空気になってしまった。
そして再び車内は静まり返った。
95: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:10:34.14 ID:vDfo/g5N0
そして志筑邸が見えて来たころ―
『…でもさ、あれだよね』
再びさやかが口を開く。
『そんな魔法なんかなくても、死んだ人を蘇らせることができなくてもさ……別に大丈夫だよね』
『…え…?』
私はさやかの言葉に反応して、つい声が出てしまった。
96: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:15:19.19 ID:vDfo/g5N0
『もちろん、大切な人が死んじゃったら悲しいよ?
…そりゃもうこの世の終わりかってくらいに』
きっとそれは彼女自身が体験した感覚なのだろう。
『けどさ、どんなに大切な人が死んじゃったとしても、時間が経てば悲しみって癒えるんだよね。
その人のことを忘れない限り、絶対に消えてはくれないけどさ』
さやかは苦笑しながらそう言った。
97: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:23:50.48 ID:vDfo/g5N0
『まぁ、私たちもそうやって悲しみを癒して、こうして立ち直っているわけで』
ちょっと勿体ぶった後、さやかは言葉を続けた。
『だからさ…時間はかかるけど、悲しみを乗り越えて先に進めるだけの強さがあるんだしさ…それだけで十分だとは思わない?』
両親と大切な親友を一遍に失った彼女にそう言われては、私はそう思わないわけにはいかないような気がした。
98: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:33:42.08 ID:vDfo/g5N0
『…なーんて、柄にもないこと言ってみたりして』
さやかはそんなふうにお茶を濁すと、車を停車させた。
いつの間にか志筑邸に到着していたらしい。
99: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:37:12.50 ID:vDfo/g5N0
私は車から荷物を降ろすと、車庫入れのため運転席に座ったままのさやかに声をかけた。
『さやか』
『んー、何?』
『…ありがと。なんだかスッキリした』
『…んんー?なんのことだかようわからんけど…どういたしまして』
運転席のさやかの顔は見えなかったけれど、きっと不思議そうな顔をしていたんだと思う。
その後、私たちは志筑邸でお供え物や余った物資を分け合って別れた。
100: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:47:16.44 ID:vDfo/g5N0
さやかは“私たち”が悲しみから立ち直っていると言った。
でも、私は違う。立ち直るどころか、まだ立ち向かってすらいないのだから。
さやかはただ思ったことを言っただけなのかもしれない。
それでも、私は彼女が手を引いてくれたような気がしてならなかった。
私たちには悲しみを乗り越えて先に進めるだけの強さがあるんだから大丈夫だ―と。
101: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 21:58:19.66 ID:vDfo/g5N0
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再びほむら視点
「それでも…あれ?キュゥべえ?どこに行ったの?」
私が振り返ると、さっきまでそこに居たはずのキュゥべえが忽然と姿を消していた。
「…キュゥべえ?」
もともとキュゥべえは突然現れて、突然居なくなることが多かった。
けれど、別れの言葉もなしに居なくなる様なことは、今まで一度もなかった。
102: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:05:36.08 ID:vDfo/g5N0
「…………?」
そして、あたりを見回しても名前を呼んでも一切反応がないのを確認して、私は気付く。
キュゥべえが私の前から居なくなったのではなく、私がキュゥべえを知覚できなくなったのだということに。
「……ああ、そっか」
そして、それの意味するところも―
「さようなら…キュゥべえ」
私は見えない相手に向かって一方通行な別れの挨拶を告げた。
103: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:19:13.43 ID:vDfo/g5N0
そして、私には別れを告げねばならない相手がまだ残っていた。
ちょっと前までは、何かが間違えば再会することがあったのかもしれない。
けれど、今この瞬間をもって、私は彼女たちと再会することは出来なくなった。
なぜなら――私はもう魔法少女になることはできないから、奇跡を起こすことはできないから。
104: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:24:33.61 ID:vDfo/g5N0
だから、私は彼女たちに謝罪と別れを告げねばならなかった。
「……ごめんなさい、鹿目さん、巴さん。そして…さようなら」
その言葉を告げた途端に――目から涙が溢れて来た。
105: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:30:09.16 ID:vDfo/g5N0
「あ、あれ…?」
その涙は今までに流したことのない涙だった。
「あ、ああぁ……」
5年前にまどかの遺体の前で流した涙も……
4年前に墓前で流した涙も……
自分の勇気のなさを呪う悔し涙だった。
だけど、この涙は―
「うわあぁ…ああぁ……」
大切な人を失った喪失感からくる、悲しみによる涙だった。
106: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:40:24.47 ID:vDfo/g5N0
今日、私は初めて鹿目さんと巴さんの死だけを悔やんで泣くことができたのだ。
純粋に彼女たちを失って悲しいと、もう二度と会うことができなくて悲しい、と―
「うあああぁぁぁぁ………!ああぁぁぁぁ………!」
私は大声をあげて泣いた。
みっともなかろうがなんだろうが関係なかった。
そうでもしないと、押し寄せて来る悲しみに耐えられそうになかったから。
だから私は泣いた。悲しみを乗り越えて先へと進むために……
107: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:43:59.56 ID:vDfo/g5N0
私が亡き二人に報いるためにできることは限られていた。
(理不尽な悲しみが繰り返される、救いようのない世界だけれど――
だとしてもここは、かつて彼女たちが守ろうとした場所なんだ)
一つは、私自身が彼女たちのことを忘れないこと。
人知れず町の平和のために戦い続け、そして散って行った少女たちがいたことを、私は忘れてはならない。
108: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:46:19.35 ID:vDfo/g5N0
(それを憶えてる。決して忘れたりしない。だから私は――)
もう一つは、彼女たちに守られた命を無駄にしないこと。
彼女たちがこの世界に確かに生きていた証として、私は生きねばならない。
「例えどんなに辛くても、悲しくても、私は生きる……生きて生きて生き抜いてやる……!」
彼女たちの分まで強く――
109: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:50:39.81 ID:vDfo/g5N0
(これが私の答え……私の決意……)
何度も逃げて、間違えて、後悔した末のその答えは至極当たり前のものだった。
だけど、誰に示すでもなく私はそれを胸に刻み直す必要があった。
(さぁ、先に進まなくては…)
―いつか倒れ逝くその時に、少しでも彼女たちに顔向けができるように……
終
110: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 22:51:10.54 ID:vDfo/g5N0
これにて完結となります。
初投稿で至らぬ点も多かったと思いますが、最後まで読んでくださった方ありがとうごさいました。
111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/24(水) 22:53:54.44 ID:wzGqGR6l0
乙ですた。
以前は葬儀関係の仕事をしてた身としては、色々考えさせられるお話でした。
116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鳥取県) 2012/10/24(水) 23:07:05.53 ID:tvaSGET9o
乙
切ないし、根本的な解決にはなってないが、これはこれで幸せなんだろうな
118: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:34:49.73 ID:vDfo/g5N0
いろいろな感想ありがとうございます。
もともとこれの倍くらいの容量のSSを書き溜めてたんですが、それの外伝として思いついたのがこのSSです。
本編の方はいつ完成するかわかりませんが、いずれは投稿する予定なので見かけたら読んでくださるとうれしいです。
あと、おまけがあるんですが…
自分でいうのもなんですが、本編の雰囲気ぶち壊しです
本編とはかすりもしない内容な上、シリアスですらありません。(一応まどかのネタではあるんですが)
投下しないほうがいいですかね?
120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/10/24(水) 23:42:38.18 ID:Pxcl1zo9o
乙
ええんじゃないの
121: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:44:04.91 ID:vDfo/g5N0
じゃあ投下します。
※注意
・本編とはかすりもしない内容です、というかシリアスですらありません。
・本編の雰囲気を楽しんでいただけた方がいるなら、そしてその雰囲気の余韻を味わいたいなんて方がいらっしゃったら、ブラウザを閉じることを推奨します。
・「みずいろ」(ねこねこソフト)のおまけ「まじかるひよりん」シリーズのパロディとなっております。(エロ皆無)
・元ネタ知らなくても楽しめる……かなぁ?
・なお
まどか「~」
マミ「~」
の形式です。
・それでもいいならお待ちください。ちょっとしたら投下します。
・あとマミさん視点です。
124: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:47:24.03 ID:vDfo/g5N0
魔法少女まじかる☆まどっち
休日、巴家の昼下がり―
マミ「さぁ~て、晩ご飯でも作ろうかしらね」
せっかくの休日なので、晩御飯はちょっと手の込んだものを……
そう思い、私はいろいろと食材などを買い込んでおいた。
マミ「あ、そうだ。あの調味料ってあったかしら?」
ガサゴソ……
マミ「ああ、あったわ。よかった」
そう言って手にしたのはガラス瓶に入った買い置きのソース。
125: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:50:13.51 ID:vDfo/g5N0
マミ「これがあるとないじゃ全然味が違うのよね~♪」
しかし、小瓶を開けようとすると――
マミ「あ、あれ?」
フタに付いたソースが固まってしまったのか、なかなか開きそうにない。
マミ「う~ん……ダメね。開きそうにないわ」
126: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:51:26.43 ID:vDfo/g5N0
せっかくいろいろ準備したのになぁ……
何とかならないものかしら……
マミ「はぁ~、困ったわねぇ……」
127: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:53:09.53 ID:vDfo/g5N0
???『お困りですか~?』
マミ「うん、そうなのよ……って、誰!?」
突然誰かの声が聞こえてきた。
???『そんな時には、わたしにおまかせ♪』
マミ「え、ええ?」
128: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:55:25.00 ID:vDfo/g5N0
まどっち「はぁい、まじかる☆まどっちだよぉ♪」
マミ「……へ?」
突然、魔法少女姿の鹿目さんが部屋の中に出現していた。
まどっち「お困りのようですね、マミさん?」
マミ「か、鹿目さん、その格好はいったい……?いつもの姿とは違うし……」
129: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:57:24.38 ID:vDfo/g5N0
いつもの鹿目さんの衣装とは違うようだった。そもそもソウルジェムが見当たらない。
色がピンク基調なのは同じなのだが、カチューシャ、首元のリボン、肩のフリル……
まぁ、なんというか……よりキャピキャピとした印象を受けた。
あと手に持っているその金ピカの巨大ハンマーは何なの……あなたの武器は弓でしょうに……
130: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/24(水) 23:59:33.53 ID:vDfo/g5N0
まどっち「ち、ちがいますよぉ、鹿目まどかじゃないですよー。
そ、それに~、いつもの姿ってなんのことですか?」
マミ「えっ。でも、どこからどう見ても鹿目さんなんだけど……」
まどっち「そ、そんなことないですよ?」
131: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:02:34.48 ID:wkGRshql0
マミ「それより、そのノリは恥ずかしくないの?」
まどっち「うぐ…………そ、それは言わないでください……」
そして鹿目さん? は一拍置くと、真剣な面持ちでこちらを見る。
まどっち「いいですか、よく聞いてくださいねマミさん」
マミ「え、ええ」
132: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:03:55.00 ID:wkGRshql0
まどっち「わたしは魔法の国からやってきた……」
まどっち「まじかる☆まどっちだよ~♪」
マミ「…………………」
マミ「………………はい?」
まどっち「まじかる☆まどっちだよ~♪」
マミ「………えと」
まどっち「…………OK?」
マミ「え、ええ…わかったわ」
話が進みそうにないので、そういうことにしておきましょう……
133: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:06:37.50 ID:wkGRshql0
まどっち「それでマミさん、何に困っていたんですか?」
マミ「そ、そのね、この瓶のフタが開かないのよ」
まどっち「ふむふむ、それはお困りですねぇ」
マミ「そうなのよ……。このままだと晩ご飯が用意できそうになくて……」
まどっち「大丈夫ですっ、わたしにお任せですよ♪」
134: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:08:47.06 ID:wkGRshql0
マミ「えっ、本当にできるの?鹿目さん?」
まどっち「うぅ、だ、だからまどっちですって…」
マミ「そ、そうだったわね、ごめんなさい。それじゃあお願いします、…まどっちさん」
まどっち「はいっ! それじゃあ魔法の力で開けますよ~」
というか私もさっさと魔法使って開ければよかったわね
…今更水を差すのもかわいそうだから黙っておくけども
135: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:12:09.41 ID:wkGRshql0
まどっち「よ~し、それじゃあいきますよ」
まどっち「ピンプル、パンプル、ロリポップン、
マジカルマジカル、るんららぁ……」
マミ(うっわぁ……痛っ)
まどっち「そ~れっ、フタ開け~、にゃう~ん♪」ピロリロリーン
…………………………
………………
………
137: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:13:49.74 ID:wkGRshql0
そして呪文(?)を唱え終えるとそこには――
まどっち「ん~~っ」ギリギリ
マミ「あ、あの…まどっちさん?」
まどっち「んん~~~~っ!」ギリギリギリ
マミ「え、え~と、その…」
力尽くで瓶のフタを開けようとしているまどっちさんの姿があった。
138: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:15:15.24 ID:wkGRshql0
まどっち「なんですか? …ん~~っ」ギリギリ
マミ「その…あの…、ま、魔法の力はどこに?」
まどっち「えっ」
マミ「力尽くで開けようとしてるようにしか見えないのだけれど……」
まどっち「………」
139: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:16:58.04 ID:wkGRshql0
マミ「いやその…ち、違ったらごめんなさいね?
ひょ、ひょっとしたら魔法で筋力を強化したりしてるのかしら?」
なんで私が謝ってるのかしら……
まどっち「……固いですね、このフタ…」
マミ「うん、そうなのよ……」
最初に言ったじゃない……ていうか魔法使いなさいよ……
140: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:18:52.79 ID:wkGRshql0
まどっち「でも不思議ですね。このわたしの魔法をもってしても開かないなんて」
マミ「そ、そうねぇ、不思議ねぇ。あははは………………はぁ」
まどっち「あっ、そうか!うん、わかりましたよマミさん」
マミ「えっ、何が?」
141: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:20:38.14 ID:wkGRshql0
まどっち「きっとこのビンのフタには恐ろしい封印がかけられているんですよ!」
マミ「えっ、何で!?どうしてそんな結論に!?」
まどっち「う~ん、これを解くにはまず七人のサーヴァントを召喚して~、その魂を~……」
聞いちゃいないわね……
…………………………
………………
………
142: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:23:24.66 ID:wkGRshql0
マミ「でも、そんなに固かったかしら………」
私は小瓶を手に取って、フタに手をかけた。
まどっち「あ、無理ですよ、マミさん。それを開けるにはまず封印を……」
マミ「ん~~~しょっと!」カポンッ
まどっち「えっ…………」
143: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:25:18.46 ID:wkGRshql0
マミ「あ、開いたわっ!」
まどっち「あ、あれれ?」
マミ「よかったー。これで晩ご飯が作れるわ~♪」
まどっち「…………………」
144: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:26:14.84 ID:wkGRshql0
マミ「もう、まどっちさんたら、簡単に開いたじゃないの~」
まどっち「う………………」
マミ「うふふ、でも、まぁ、よかったわぁ♪」
まどっち「うう、こんなはずじゃ……」
マミ「…まどっちさんの魔法もたいしたことないわね?」
まどっち「え」
145: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:29:13.13 ID:wkGRshql0
マミ「あー、何でもない、何でもないわ、うふふ~♪」
まどっち「うー…」
マミ「……?どうしたの、まどっちさん?」
見ればまどっちさんが半泣きになってうなっていた
まどっち「う~うう~…」
146: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:31:13.05 ID:wkGRshql0
マミ「まあ用事も済んだことだし、早く帰ったほうがいいと思うわよ?」
まぁ、これで私は華麗なるディナーを楽しめそうだし、細かいことはいいわね♪
そんなことを考えていた時のことだった――
まどっち「わぁーんっ!」ブゥン
マミ「えっ!?」
147: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:33:09.76 ID:wkGRshql0
癇癪を起したまどっちさんが、手に持っているハンマーを振り回して暴れ始めたのだ
まどっち「うわぁ~~ん!」ガシャン、パリーン
マミ「ちょ、ちょっと! うわっ!?」ガチャーン
まどっち「も、もう、マミさんのバカーッ!」ヒュン
マミ「お、落ち着い……キャッ!」パリーン
まどっち「うぇ~~んっ!」ガッチャーン
…………………………
………………
………
148: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:35:17.22 ID:wkGRshql0
その後、何とかまどっちさんを部屋から追い出すことに成功したのだけど……
マミ「はぁ………」
まどっちさんの暴走により、台所は機能停止状態で……
マミ「……………」ズルズル
私の休日の華麗なるディナーは、買い置きしてあったカップラーメンになったのであった……
149: ◆/WV6dTMwLXv/ 2012/10/25(木) 00:36:25.45 ID:wkGRshql0
※ ※ ※
まどっち「こうして今日も、まじかる☆まどっちは大活躍です♪」
まどっち「魔法のハンマーで何でも粉砕だよ、うぇひひ♪」
マミ「うぇひひじゃないわよ、はぁ………」
終わり
150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/25(木) 00:38:23.03 ID:FQAHvdIU0
乙っす!
魔法のハンマーでビンを粉砕!!・・・・・・の方がなんぼかマシだったなぁw
SS速報VIP:始まらなかった世界【魔法少女まどか☆マギカ】