SS速報VIP:「私を、殺してください」 「……え?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1339525314/



1: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:21:54.18 ID:HkgBXFRxo

多分日常物

あんまりエロくもグロくもしないつもり。書けないし
長いか短いかは未定。面白いかも未定

同時進行してるのがあるんで、更新は気持ちの問題
気楽に見てネ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1339525314(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)




2: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:23:08.53 ID:HkgBXFRxo

もしも人を殺せたら?
口に出せば変な目で見られること受け合いだが、思ったことだけならある人もいるはずだ。
禁忌に対する欲求は、誰しも持っているものだと思う。

だから

「私を、殺してください」

「……え?」

そんなことを言われたら、誰だって気になってしまうものではないだろうか?



3: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:23:52.28 ID:HkgBXFRxo

突然、何を言い出しているんだろうこの子は

「こ、こんな事突然言われても困ると思いますが……」

いや、その突然告白したみたいな照れ方なんなの?

「どうしても、殺して欲しいんです!」

……チラ


ヒソヒソ ヒソヒソ


……少し、場所を移してもいいかな?

「あ、はい……」



4: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:24:22.22 ID:HkgBXFRxo

カラン カラン

「なんだか……怪しい雰囲気のお店ですね」

ここね、僕の行きつけの喫茶店なんだ。駅前におしゃれな喫茶店が出来てから、元からいなかった客がさらに減っちゃったんだけどね。

「そう、なんですか」

キミ、何か飲む?

「え、えと……オレンジジュース、ありますか?」

マスター、コーヒーとオレンジジュースを

「かしこまりました」



5: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:24:48.68 ID:HkgBXFRxo

……それで、さっきの話は?

「あ、そうでした……私を、殺してください!」

……チラ

「……」

少し、声を小さくしてもらっていい?

「す、すいません……」

見た目からしてどうみても年下のその女の子は、おどおどとした様子で店内を見回している。
腰元まで伸びた黒髪からは、清楚な雰囲気が漂っている。

……で、もうちょっとちゃんと説明してもらっていい?

「えーと……私を殺し……」

それはもう何度も聞いてるから……理由を教えてもらえる?

「死にたいからです」

……はぁ

とんだ電波少女に捕まってしまったのかもしれない。
やはり街中で突然話しかけられた時、逃げるべきだったか……



6: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:26:05.90 ID:HkgBXFRxo

「ご注文の品です」

あ、どうもマスター。ほら、キミも

「あ、ありがとうございます……」

……で、なんで僕に声をかけたの?

「それは……なんだか、運命的な物を感じたというか……この人ならやってくれる、と思ったというか……」

……

これはマズイ!100%電波だ!
関わり合ってはいけない人種と、関わってしまったようだ。
……だけど



7: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:26:43.07 ID:HkgBXFRxo

本当に、キミを殺していいの?

僕の口からは、自分でも驚くような言葉が漏れていた。
コーヒーで湿り気を帯びていたはずの唇が、すぐに渇くのを感じた。

「……はい」

その子は、小さくもはっきりとした意思を持って頷いた。
僕はふと思った
ああ、僕も大外電波だな、と。



8: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:27:49.73 ID:HkgBXFRxo

人目の少ない路地裏の空き地、そこに僕たちはいた。

……本当に、いいんだね?

「お、お願いします……」

……すぅー……はぁー……

僕は大きく息を吸って、吐いた。
意味もなく肩をぐりぐり回してみたり、掌の開閉などを繰り返してみたが、やはり落ち着かない。
……こんな可愛い女の子に殺してくれ、なんて言われれば誰だってこうなるはずだろ……



9: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:28:56.69 ID:HkgBXFRxo

「……」

女の子の丸い瞳が、僕を捉えて揺れた。
……これ以上見つめ合っていると、決心が鈍ってしまいそうだ。
手をかけてみて、改めてその女の子のか細さを感じさせられる。
指から伝わる体温が、その子の『生命』を感じさせた。

「……っ」

指に込めた力が、強くなっていくのを感じた。
さらりと伸びた髪が指にかかる。さらに僕は力を強めた。



10: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:29:38.54 ID:HkgBXFRxo

「……か、ふ」

苦しいそうな声が少女の口から漏れるが、それも今の僕には加虐心をくすぐる要因にしかならない。
さらに強く!強く!強く!
頸動脈の激しい脈動が、『生命』の抵抗強く感じさせる。
指先が沸騰するような感覚。こんな感覚、初めてだ。

……?

僕の指に、冷たいものが触れる。
その子が流した涙が、首を伝って僕の指まで来たのだと気付いた時、僕の頭は冷水をかけられたように落ち着きを取り戻した。



11: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:30:04.82 ID:HkgBXFRxo

っ!

その子を突き飛ばす形になりながら、僕は首から手を離した。
掌からどくどくと感じる『生命』の鼓動は、今はもうその子の物ではなくて。

はぁーっ……!はぁーっ……!

「……」

息せく僕とは対照的に、すぐにその子は平静を取り戻していた。
これではどちらが首を絞められていたか分からない。



12: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 03:32:03.93 ID:HkgBXFRxo

「……これ」

……?

僕の手に何かを握らせて、その子はふらふらと歩いていった。
一瞬止めようかと思ったが今の僕にそんな余裕は無くて、少しよろけながら歩くその背中を見送ることしか出来なかった。

……まだ夢見てる、みたいだ

夢心地な頭を振るい、渡された小さな紙切れを眺める。
簡単に二つ折りにされたそれを広げて、中を見た。

『夢見 葵 電話番号 ○△×‐□△□×』

……まだ夢見てる、みたいだ



20: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:29:14.43 ID:HkgBXFRxo

「……こん、にちは」

……どうも

突然渡された電話番号を、疑いつつにらめっこを続けること半日以上。
やっと勇気を出してかけてみたら……意外と本当に繋がってしまった。

「……」

……

恥ずかしながら女の子と話した経験など皆無な僕は、次に何を言えばいいのか分からず沈黙してしまう。



21: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:29:41.65 ID:HkgBXFRxo

「……今から、会えますか?」

だから、突然こんなことを言われると

え、えぇ!?

自分でも情けないぐらいにうろたえるしかないわけで。

「……今、どちらにいらっしゃいますか?」

どちらにって……そりゃ、学校にいるけど……
流石に学校を抜け出して会いに行くってのは……



22: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:30:08.19 ID:HkgBXFRxo

「……学校の、どちらに?」

ん?屋上だけど

「少し、その場で待っていてください」

え?どういう

ツー ツー

……切られた。
あの女の子の行動は、全く予測がつかない。
まぁ突然見ず知らずの相手に殺してくださいなんて言い出すこの行動を読むことなんて、まず出来ないことだと思うけど。



23: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:30:46.03 ID:HkgBXFRxo

ガチャン

……ん?

「……」

……え

目の前のドアから現れた女の子は、まさしく昨日出会ったその子そのままで。

……同じ学校、だったんだね

僕が残したであろう首の痕は、少し薄くなったがそのままで。

「……」

昨日と違うのは、この学校の女子用制服を着ているということぐらいだろうか。



24: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:31:31.19 ID:HkgBXFRxo

後輩、だったんだ

言いながらも僕は焦っていた。

「……先輩」

あんな凶行に走ってしまったことを、言いふらされてしまうのではないか?と

……

そして気づいたら僕は

「……うっ」

その子に馬乗りになっていた。



25: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:32:03.48 ID:HkgBXFRxo

右手に思い切り力を込めて振り下ろすと、耳にしたくない嫌な音がした。
それでも僕は思い切り拳を振りおろし続けた。
2発、3発と振り下ろすたびに、その子の顔はほんの少しずつ歪んでいったが、不思議と抵抗する素振りは見せなかった。

死ねっ!死ねっ!

殺そうとした。本気で。
友達に冗談で『死ね』とか言った経験がある人もいるだろう。
そういう死ねではなく、明確な殺意。

「……」

……ひっ

その子が物音一つ立てなくなって、やっと僕は平静を取り戻した。
手に付いた血が生々しいまでに僕の二度目の凶行を物語っている。



26: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:32:29.89 ID:HkgBXFRxo

……ぅ

胃の中の物を全て体外へ放出したくなる衝動に駆られた。
実際、次の言葉が無ければそうしていただろう。

「……ありがとう、ございました」

驚きの言葉が、その子の口から漏れた。
いや、驚くべきではないのかもしれない。殺せと言ったから殺そうとした。
確かに感謝されても不思議ではない。

「……ぅ」よろっ

よろけながらも立ち上がったその子の顔からは、先ほど僕が与えたはずの傷が全て消えていた。
茫然とする僕を少し横目で見ながら、少女はまた去っていった。



27: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/13(水) 20:32:56.52 ID:HkgBXFRxo

……なんで、傷が……

僕は自分の手を見た。
真っ赤とは言わないまでも所々赤く染まった拳。
確かに人を傷つけた、証明。

……早く、洗わなきゃ

今は他人を気にしている場合じゃない。
そう思いながらも……僕は拳に付いた血を少し舐めた。
別に他人の血だからって別の味がするとは思わない。
ただ、少し舐めてみたくなった、それだけ。



32: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 20:58:28.26 ID:xaNKl70xo

……いてて

水流が興奮した感覚を落ち着かせ、今度は痛覚が訪れた。
そりゃ当然だ、作用反作用の法則なんてこの歳で知らない方が珍しい。
相手を傷つけた分だけ自分が傷つくことは世界の道理だ。

でも……あの子、傷が消えてた……

確かに自分が傷付けたはずの少女が何事も無かったかのように去っていったことに
約50%の安堵感と。
約50%の憎しみと。
なんか色々と入り混じって僕は

……お腹、空いた



33: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:03:20.67 ID:xaNKl70xo

学校の購買は、相変わらず混んでいた。
永遠に感じた時間も過ぎ去ってしまえばたったの数分であったので、今はまだ昼時のピークという現実だ。

……月見うどん、売切れてるや

僕はここの購買の月見うどんが好きで、毎回買うなら月見と決めているのだ。
まぁだけどそれが選択肢の幅を狭めてしまっていることも事実。

今日は、素うどんにでもしてみるか?

チャリンと軽快な音を立てて硬貨が落ちる。
そのあとすぐにボタンを押す。
月見うどんの上の段、素うどん320円。

……あれ?

ボタンは無反応。
だが確かに券は出てきていた。
おにぎり 100円 ×3

「やっぱりお昼はおにぎりに限るよね!」

……あーぁ、捕まっちゃった。



34: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:10:14.98 ID:xaNKl70xo

あのさ……それ、僕のお金で買ったおにぎりだよね?

「ん?だから一個残してあるんじゃん」

……はぁー

目の前のどう見ても小学生なその人物は、幸せそうにおにぎりを頬張りながら答えた。
若干の幸せムード邪魔するなオーラに僕は狼狽してしまう。
こんな小動物のような人物でも、自分の部活の部長なのだから。

「あれ?食べないの?食べないならもらうよ?いただきぃ」



ひょいっと宙を舞い部長の口の中へ吸い込まれていくおにぎりを、僕は見守るしか出来なかった。

「あぐあぐ……なーんか、今日の友矢つまんなーい」

そうですか?

そんな僕の質問に目を合わせず、部長は答えた。

「だってさ……いつもならもっと反応するじゃーん」

言いながら部長は指先を名残惜しそうにペロペロと舐めている。

(……確かに、そうだ)

いつもならもっと、部長に対して苛立ちを感じるはずなのに。
だが僕はとても今誰かに敵意を向けられるような気分になれなかった。
ただ一人を除いて。

今日はおごりにしておきますよ、部長

僕は空きっ腹を誤魔化す意味も込めて立ち上がり、席を離れた。
今日は大してお腹も空いてないし、味はよくも悪くもないけど量だけは多いパンでも買って適当に食べよう。

「……むー」

後ろから部長の視線を感じても、僕は立ち止まらなかった。



35: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:18:21.46 ID:xaNKl70xo

午後の授業は退屈で、と言ってもいつもと何かが変わるわけでも無くて。
きっと変わってしまったのは、僕の方なのだろう。
ノートの隅に軽く描いた落書き。

カッター、ロープ、トンカチ

知らない人が見たら、図工の道具選びのように見えなくもない。
……いや、言い訳にしては少し無理があるだろうか?
自分の体を傷つけずにあの子を傷つける。
流石に毎回自分の体まで傷付いていてはやってられないし。

(……少し、楽しいかも)

クイズ番組の答えを探す感覚。
問題
『あなたが目の前の女の子を殺すなら、どんな方法?』

……だけど、あの子は本当に死ぬのだろうか?

あそこまで殴りつけて、平然としていた少女の顔を思い出す。
……まぁいいか。
死ななかったら死ななかったで、また殺す方法を考えればいい。
どんなに偉い学者だって、いきなり答えに辿りつけたわけじゃないし。

……ハッ

このノート、今日提出だ……落書きは、消しておこう。



36: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:23:54.61 ID:xaNKl70xo

放課後。
部活がある者は部活へ、無い者は帰路へ着く時間。
僕はある者の方だったが、部活へは行っていなかった。

「……どうも」

……どうも

こちらから一度かけたのだから、向こうに番号を知られていてもおかしくはない。
だけどまさか、1日に二度も女の子と電話で話す機会が僕に来るなんて。

「……」

スッ

……?

手渡されたのは、一本のカッターナイフ。
綺麗に手入れがしてあるようで、錆一つない。
というか……普通のカッターよりも素材そのものが違うような気がした。

「……」

カッターを手渡したその子は、自分の役目は終わりだと言わんばかりにこちらを見つめてきた。
そんな視線も、今の僕には気にならなかった。

……僕たち、気が合うのかもね

「……?」

何度もシュミレートした。
どこを切ればいいかも、ググった。
そこに本人からの後押し。
迷いは、無かった。



37: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:26:26.73 ID:xaNKl70xo

アーチを描くように噴き出た血は、とても美しかった。
痙攣するその子の体も、今は全てが愛おしかった。

何度も刺した。
だけど顔だけは刺さなかった。刺したくなかった。
胸を刺すときは、どきどきした。
女の子の胸を初めて触るのが、こんな形だなんて。

まだ季節的に寒いだろうと思って、服は出来るだけ破らなかった。
でも刺した。くまなく刺した。

僕の服が、どんどん赤に染まっていく。
僕の視界も、どんどん赤に染まっていく。
世界が、赤い。



38: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/14(木) 21:30:14.41 ID:xaNKl70xo

はぁ……はぁ……

目の前の少女は、ビクンビクンと痙攣を繰り返しながら血を吹き出し続けていた。
そんな少女とは対照的に、僕は完全にクールダウンを終え。

ナイフ、ありがとう

そう言ってその子の手にナイフを返した。
ひゅーひゅーと何かその子は言っていたが、僕は気にせず立ち去った。
きっと『どういたしまして』みたいなことを言っていたんだろう。
その証拠に、血でべっとりの服を着替えていた僕の背後に何事も無かったようにその子は立っていたから。

「……」ペコ

小さくお辞儀をして小走りで去っていったその子の背中を見送りながら、僕は思った。
胸……柔らかかったなぁ、と。



43: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/16(土) 01:07:47.00 ID:nH0cdjIPo

「今日は遅かったね」

遅れて向かった部室には、すでに部長が仁王立ちしていた。
遅かった、といっても時間にして30分程度の遅れなのだし、普段は自分が遅れて来るくせに。とは言えない。

「まったく君は……部員としての意気込みが足りないぞ!」

……すいません

一応謝るってはいるが、部員としての意気込みなどを説かれても今いる部員が自分だけの時点で比べられないから困る。
僕が所属する伝承研究部は、昔から名ばかりの所謂「いるだけ人間」の温床になっている部だ。
僕自身はそういうのに興味があって入ったのだけど。

「まぁいい……私はあっちで普段の作業に戻る」

部長の普段の作業と言うのは、持ち込んだ漫画雑誌やらなんやらを読むふけることだ。
まったく、何故この人が部長なのだろうか?



44: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/16(土) 01:11:15.17 ID:nH0cdjIPo

「~♪」

部長の鼻息交じりの歌を聞きながら、僕は普段見ない様な段の本を読み漁っていた。
ドラキュラ、ゾンビ、フランケンシュタイン……
不死身かまたに類似する生き物の伝承と言うのは、古今東西さまざまな形で残っている。
しかしそれらは現代の医学・科学の力をもってすれば全て、ナンセンスな解説付きで解明されることだろう。

(しかもなんだか……そういうんじゃない気がするんだよなぁ)

確かに目の前にある質感。
それを伝説上の何かと重ねて考えたくは無かった。
ちらと部長を横目で見る。

幼さを際立たせるツインテールが、ふわりふわりと揺れた。



45: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/16(土) 01:13:32.35 ID:nH0cdjIPo

「……げほっ……げ……ほ」





僕は自分の手に込めていた力を抜く。

今まで自分が何をしていたのかが分からない。

ただ今目の前にあるのは

涙目を通り越して顔面蒼白の部長の綺麗な顔と。
力を込めすぎて青筋立った自分の手と。

部長、やっぱり可愛いな……
そんなこと考える余裕はないはずなのに、頭に浮かぶのはどうでもいいこと。


涙目の部長を押しのけて、僕は走り出した。



46: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/16(土) 01:16:53.81 ID:nH0cdjIPo

狂気に身を任せるのは、簡単なことではない。
現実に逆らって狂えたら、どれだけ楽なのだろう

狂人とは社会に適合できなかった弱いものではない。
狂人とは社会に適合しなくてもいい強いものだ。

人は日常に狂っている。


「……」

夕日で綺麗に染まった雲が流れていくのを、僕は目で追っていた。
屋上は好きだ。少しでも日常から切り離されたような感覚を味わえる。
手にはまだ、部長の息遣いと、汗の湿り気が残っていた。



47: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/16(土) 01:25:41.14 ID:nH0cdjIPo

「……先輩」

……キミか

気付くと、隣にあの子がいた。
いつ来たのか、最初からそこへいたのか、それともあの子なんていないのか。

「……」

……

じーっと見つめていると吸い込まれそうなほど、黒い瞳。
緑色の学校していの制服ですら異彩に見えるほど、漆黒の髪。
その体の全てが……壊してくれと言わんばかりの細い体。

キミは、どうして死にたいの?

僕の質問には答えず、その子は僕の隣に立った。
ふわっとなんのブランドか知らないシャンプーの香りが、僕の鼻をくすぐる。

「……死にたいんじゃ、ないです」

その子は今度は僕を見ず、僕と同じように雲を目で追いながら言った。

「殺して、欲しいんです」



51: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/17(日) 20:59:28.01 ID:kOYBO5hfo

その子の言葉に僕は、視線をその子の方へ向ける。
さっきまで雲を見ていたその子の目も、こっちへ向いていた。
吸い込まれそうなのに、逸らせない。
自分という存在が小さいものだと思わされてしまう、瞳。

「先輩、だからです」

また強く言い放つその子。
喉が渇いた。お腹も空いた。
だけどなにより

「……ぅ」

今はこれが一番、かな?



52: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/17(日) 21:07:48.40 ID:kOYBO5hfo

……

学校の屋上ってのは、意外と高さがある。
普段ふと眺めるとそうでもなさそうに見えるものだが……
人が死ぬには十分だったようだ。
遠目であまり詳しくは見えないが、その子はまだ小刻みに動いていた。
だがそれも、時間の問題だろう。

(……あの子が人間、ならね)

僕は確信があった。
だからこそ、息切れもせず、焦りも無く。
落ち着いた心で、振りかえれたんだと思う。

「……」ニコ

ほら、やっぱり
何食わぬ顔で立つその子から視線を外し、また下へと視線を返す。
そこにあったはずの物は、痕跡を残さずきれいさっぱり消えていた。
ずっと眺めていたらどうなっていたのだろう?消える瞬間が見えたのだろうか?
なんてナンセンスな思考がかき消される。
背中に感じる、確かな温もり。
首筋にかかるむず痒い吐息。

「……先輩」

意外と胸ってのは、柔らかくてもその存在を主張するとは限らないらしい。
当ててんのよとはなんだったのか?



53: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/17(日) 21:29:31.12 ID:kOYBO5hfo

あ、えーと……うん

もちろんこんな経験を今までしたことのない僕は、童貞特有の嫌な汗が出てしまう。
そんなことを気にする様子も無く、だからと言って何をしてくるわけでもなく。
ただ雲だけが、流れていた。

「……」

背中から温もりが離れ、嫌な汗が引いて行く。
それでも僕は、足が緊張して動けない。
後ろからドアがしまる音。
それでも僕は、雲を眺めるしか出来なかった。



54: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/17(日) 21:52:19.80 ID:kOYBO5hfo

少しずつ冷静さを取り戻していくと、別の問題が冷静さを失わせていった。
何が起きたかあの時の意識ははっきりとしていないが、状況で大体は把握出来る。

僕は……部長に……

あの子とは違い、部長は普通の人だ。
……いや、本来ならあの子に手を出してることも、異常だ。
謝るべきなのか、否か。
幸いあの場には、部長と僕以外誰もいなかった。
白を切りとおせば、あるいは……

……何を考えてるんだろう、僕は

そんなこと出来るわけがない。
部長が言いふらす人とは思わなかったが、僕自身が部長に手をかけた事実に耐えられない。
謝罪と言うのは、相手の事を考えての行動ではない。
罪を犯した者が、自分を救うために行う行動なのだ。

……

ふらりと、足が屋上の柵へと向かった。
いっそのこと、僕が消えれば……



55: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/17(日) 21:53:33.31 ID:kOYBO5hfo

下を見た
目が霞んだ
怖かった
体が動かなかった
足がもう一度地面をしっかりと踏んだ時、僕は心の底から安堵した
殺すってのは、こういうことだったんだ



58: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/23(土) 17:14:47.32 ID:JYTV8dX3o

僕は、部長を探していた。
もちろん、さっき自分がしてしまった罪を償うためだ。
あれだけの事をしてしまったのだ、許してもらえるとは思っていない。
ただの自己満足だ。

……部長、まだいるかな

自分の中ではかなり長い時間が過ぎたつもりだったのだが、実際は時計の針が一つ次へ進む程度しか経っていなかったので、普段通りならまだ教室にいるはずなのだが。

(ドアは……開いてる)

他の生徒がいる可能性もあるにはあるが可能性は低いだろうし、部長の行く先を聞くことも出来るだろう。
僕はゆっくりとドアを開けた。

「……あ」

そこに彼女はいつも通りいた。
いつもと違うのは『眼』ぐらいだ。



59: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/23(土) 17:17:41.31 ID:JYTV8dX3o

あ、えと……その

いざとなると、どう言っていいのか分からない。
実際何がどうなってああなったのか、僕には記憶が無いからだ。

「……」

明らかに怯えた表情を見せる部長は、小柄な体型も合わせてさらに小動物のようだ。
一瞬頭の中によぎった『何か』を僕は必死に握りつぶした。

「……ご……め、ん」

僕の表情を伺うように、部長はゆっくりと僕に謝罪した。
謝るべきは僕だろうに。
だけど、謝罪の言葉が浮かばない。
一体何に謝ればいいのか、僕には分からなかった。



60: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/23(土) 17:20:32.98 ID:JYTV8dX3o

「……」

……

続く沈黙が、空気をどんどん重くしていく。
こういう静かな時間が、僕はダイキライだ。
だからと言って何が出来るわけでもなく、次の言葉が来るのを待ってしまうわけなのだが。

「……まだ、怒って、る?」

伏し目がちに僕を見つめる部長の目は、少し潤んでいた。
それが申しわけなさからくるのか、恐怖からくるのか……僕には分からなかった。
ただ、一つだけ言えるのは。
僕はもう『我慢』しなければならない領域まできてしまっている、ということだった。



61: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/23(土) 17:26:01.46 ID:JYTV8dX3o

いえ……?あの時は頭に血が上ってて、今やっと落ち着いたところなんで

半分ほんとで、半分うそを言って、僕は部長を落ち着かせることにした。
頭に血が上ってたかどうかなんて知らないが、状況的になんかそんな感じな気がしたのだ。

「……そっか」

部長は少し気を緩め、息を吐いた。
小さな鼓動が、とても可愛げで。
直接握りたくなる衝動を、僕は必死に抑える。
あの子はあの子、部長は部長。

「……もう、偉そうになんて、しないから……」

部長が立ち上がり、僕にそう告げた。

(……あぁ)

なんとなく、分かってきた。
きっと僕の『これ』が偶然出てしまった時、部長が何か僕に強気な発言をしたのだろう。
それで僕が激怒したと思って……怖がっているんだろう。

「……それじゃ」

部長が小走りで、僕の横をすり抜ける。
短く揃えた髪も、僕の横をすり抜けようとする。

……っ



64: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/24(日) 01:40:10.71 ID:3VONCv0Do

まず思ったのは、いい香りだと言うこと。
さらに、女の子ってのはすっごく柔らかいってこと。
僕の腕の中で部長は、体を小さく震わせている。
恐らく僕に怯えているのだろう、当然の反応だ。

……部長

出来るだけくすぐったくならないように、声に気を付けて優しく声をかける。
部長は何も答えなかった。
ただ、震えは少しずつ収まっていた。
やっぱり部長は可愛い。

……もう少し、このままでいていいですか?

いつもの僕では考えられないような台詞も、この際空気に身を任せて言ってしまうことにした。
部長からの返答は無かった。
ただ、抵抗も無かった。

時間が、過ぎていく。



65: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/24(日) 01:44:56.21 ID:3VONCv0Do

どれぐらい経っただろうか?と僕がふと思った時、部長がそっと僕の腕から離れた。
まだ少し涙混じりの目をしていたが、僕が抱きついたことが原因でないことを願いたい。

「……帰、るね」

部長の言葉に、僕は無言で頷く。
なんだかこの沈黙を、壊したくない気分だったから。

……はぁ

自分以外誰もいなくなった部屋で、僕はいつも座る椅子に腰かけた。
今日の僕は何かおかしい。
いや、おかしいのは先日……あの子と出会ってからか?
まぁ僕は自分がおかしくない!と言えるほどの人生を送ってきたわけでもないし、自称おかしくない人間はおかしいことが多いので当てにならないのだが。



66: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/24(日) 01:49:13.90 ID:3VONCv0Do

そんな心地よい沈黙を、突然崩す存在が現れた。
着信画面にはあの子の名前。
無粋な電話に少し苛立ちながら、僕はボタンを押した。

『先輩、今から会えます?』

相変わらずマイペースな子だな、と僕は思った。
今はそんな気分じゃないのに。

……いや、今は遠慮しておくよ

『……そうですか』

機嫌を悪くさせてしまっただろうか?
だが、こっちにだってしたいときとしたくないときぐらいあるのだから、やむを得ないだろう。

『それじゃ、また明日』

案外さくっと引き下がられ、通話終了を告げる音しか発さなくなった携帯のボタンを押し、僕はそれを仕舞った。
携帯の画面に表示されていた時間は、とっくに下校時刻。
見回りのおじさんに怒られる前に、足早に去ることにしよう。



70: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/26(火) 01:29:11.37 ID:QZ6OXIZao

次の日部長は、首にマフラーを巻いていた。
まだ寒すぎはしないが多少寒さを感じるようなこの時期、それを巻いてきたからといって違和感を感じる者はいない。
だが僕はその理由を知っていた。

おはようございます、部長

「あ……え、と……」

伏し目がちな部長の視線は、僕を真っ直ぐとは捉えない。
だがその雰囲気から拒絶も感じなかった。
あの後、意外……と言っても僕としては予想通りだったのだが、先輩はあの時の事を誰にも言ってなかったようだ。
僕がこうして普段通りクラスにいれるのも、そのおかげの部分が大きいわけだが。

「あー……うん。やめだやめだ!」

部長は自分の頭をわしわしと掻くと、僕の襟を強く引っ張った。
つんのめった僕の頭を、さっき自分にしたようにわしわしと掻く。

「……変に悩むのは、私らしくなかったな、うん」

……どういうこと、ですか?」

確かに変に悩むのは部長らしくないが……一体何の事を言っているのやら?

「ああいうお前も含めて……私はお前が好きだ!」

……へ?



71: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/26(火) 01:35:24.37 ID:QZ6OXIZao

「どうだ、美味しいか?」

えと……まぁ、はい

「私はけっこー料理に自信があるからな!」フンス

昼休みの屋上。
目の前の部長。
手元の弁当。
何から何まで信じられないこと尽くしで困ってしまう。
こういう時イケメンなら気の利いた言葉でも言えるのだろうか?
だがあいにく僕はイケメンではないので。

……あの、部長

「ん?」

……ほんとに僕で、いいんですか?

こういうのって、漫画とかで定番だよな。
聞かれたら絶対困るだろうなー……と思いつつ、やはり聞かずにはいられなかった。
定番ってそういうものでしょ?

「友矢は、私の事嫌いか?」

いえ、そんなことは……

むしろ現在進行形で抱きしめてあげたいっス。
それから……
ふと、よぎった、いや、よぎってしまった思考を卵焼きを口に突っ込むことで押し込む。
この卵焼きの塩気、嫌いじゃない。

「なら黙って私に惚れられてろ!」

いつも通りの微笑みを僕に向ける部長。
あんなことがあっても、僕を好きと言えるのはなぜだろう?
むしろあれが『きっかけ』だった……などというのは都合がよすぎるだろうか。



72: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/26(火) 02:11:05.68 ID:QZ6OXIZao

「なぁ、さっきの人って……」

「お前、この野郎ちくしょーっ!!」

……あはは

あれだけ堂々と廊下で告白劇を演じてしまったものだから、知り合いからは色々質問責めにあってしまったが。
人の噂もなんとやら、放課後になるとそれもすっかり収まっていた。
正直、質問したいのは僕の方だったりするので質問責めされても困るのだが。

ブーッ ブーッ

携帯が、揺れた。
その件名は。



73: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/26(火) 02:33:56.87 ID:QZ6OXIZao

「……もう来てくれないって、思ってましたよ」

屋上に佇む寂しげな背中。
僕に言葉は投げかけても、決してこちらを向こうとはしない。

「……先輩」

……

僕は何を言っていいのか、分からなかった。
何故僕は、ここへ来たんだろう?
無意識的に求めているのだろうか?いや、求めているのだろう。

「……来ないん、ですか?」



見透かすような言葉。
イラつく、ムカつく、腹が立つ。
それが意図的であると分かっていても、我慢が出来るほど僕は大人ではない。

「がっ……ふ」

指が肌にじっくりと食い込んでいく感触を堪能する。
興奮?いや、官能?
まぁなんでもいいか。



74: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/26(火) 03:35:16.37 ID:QZ6OXIZao

目の前で動かなくなったその子を見つめて、僕は息を吐く。
またやってしまった……
別にもうしないと誓ったとかそういう訳じゃないが、やはりいまいちスッキリしない。

……

5分待った、10分待った。
その子は動かなかった。
15分待ってみた。分かってた。
動かなかった。
そうかもう、終わりなのか。



77: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/27(水) 01:27:49.75 ID:n8IFyKKbo

「あ、こんな所にいた!」

……!

背後から聞こえてきた声に、半分驚いて、半分ありがたくて振り返る。
少し汗ばんだ額と蒸気を帯びた表情を見る限り、僕を探し回っていたのかもしれない。

「部活サボって……こんなとこでなにしてたの?」

「一人で」



78: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/27(水) 01:45:06.15 ID:n8IFyKKbo

……いえ、特に何も

口から返答が自然と沸いた。
殺しても死なない女の子なんていない。
目の前にいるのは、首に指をかけるだけで壊れてしまいそうな女の子だけ。

「だったら早く部室へ来る来る!」

あ、ちょ、ちょっと……引っ張らないでくださいって、部長っ

部長に引かれながら、僕はさっきまで自分がいた場所を見る。
そこには何もなかった。
そう、何も。



79: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/27(水) 01:51:20.63 ID:n8IFyKKbo

もしも人を殺せたら?
それがもしも、自分にとって重要な人物だったら?
口に出せば精神病院を紹介されること受け合いだが、たまーに考えたことがある人もいるはずだ。
大事だからこそ、壊してみたい。
そんな欲求は、誰しも持っている物だと思う。

だけど

「おい、友矢!どっち向いてる!」

遅かったですね、部長

「こういう時は気を聞かせて『僕も今来た所です』とかなんとか言うとこでしょうが……」

僕も今来た所です

「……はぁ」

はぁ

「……それに、外では部長って呼ぶなって言ってるでしょーがっ!」

あ、すいません……夢見先輩

大切な人とは、並んで歩く方がいいかも知れない。

「あ、クレープ屋さんっ!」

部長が走る。大きめのふわふわ素材の帽子も、一緒に揺れる。
マフラーから除く首筋。

……

あくまでも『いいかも知れない』だけかも知れないけどね。



80: 卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY 2012/06/27(水) 01:51:50.30 ID:n8IFyKKbo

=完=


元スレ
SS速報VIP:「私を、殺してください」 「……え?」