SS速報VIP:素直じゃない二人(ゆるゆり)
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1: いつぞやの京子「アッカリーン」スレ主 2013/02/22(金) 15:31:45.72 ID:L62z0KCK0


 空を見上げる。
 何もない空、まだ昼間。
 空を駆ける星があったなら、今までのこと、全部忘れさせてくださいって願うのかな。
 知らなかった。漫画なんかでドキドキする出来事が、これほどに辛いことだなんて知らなかったから。
 忘れさせて………
 空を見上げながら、そんな願いが叶うことなんてないと、一つ溜息を落とした。



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2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:33:16.35 ID:L62z0KCK0

 ―京子―

 その変化に最初に気づいたのはあかりだった。
 こういうことに気づくのは意外な人物だっていうのは間違ってなくて、私の中ではイレギュラーなあかりが話しかけてきた。

あかり「京子ちゃん、悩み事?あかりなら力になるよ」

 その時の私は悩んでいないと強がっていた。何より自分が悩んでいるという実感がなかったのは、目に見えた変化などがなかったからだと思う。

京子「いや、別に悩み事なんてないぞー」
あかり「そう、あかり勘違いしちゃった」

 頭のお団子を触りながら謝ってくるあかりを、私はなんとなしに扱っていた。
 それ自体が、すでに悩み事で頭がいっぱいだったっていう現れだったのかもしれない。
 私は3年生になって、まだそれとでもないが受験のこともいろいろと考え始めていた。
 あかりとちなつちゃんが入って賑わったこの娯楽部も、今はなんだか様変わりしている。
 去年は良く遊ぶことに抵抗なかった結衣も、今は机の上に参考書などを広げて勉強している。
 私も結衣と同じ学校を受ける予定なのだが、この学校はそれなりに勉強が難しい。




3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:34:45.89 ID:L62z0KCK0

 私も人知れず勉強はしているが、結衣は念には念を入れて勉強に励んでいる。むしろ、こんな風に話している時間すら、ある意味勿体ない時期でもあるらしいけど、実際そんなことを気にしていないのが私、歳納京子である。

ちなつ「結衣先輩、お茶淹れたのでどうぞ」
結衣「ありがとう、ちなつちゃん」
ちなつ「えへへ、京子先輩もお茶いります?」

 私は少しだけ考えてから、愛のこもったお茶を頼む、と言い。とても濃い味なお茶が置かれる。

京子「ちなつちゃんの愛は重いなー」

 そんなことを呟きながら、私の目は周りを眺めるように動いた。
 ちなつちゃん、結衣、あかり。
 この三人とのんびり過ごしてきた時間、それも今となっては久しい光景だと思えた。
 気づけば、もう11月を終えるかもしれない時期になっていた。
 ごらく部としての活動をしようにも、受験が終わる2月位までは静かにしているのが一番だった。

あかり「気づけばあかりも二年生かー」
ちなつ「私も二年生だよ。なんだか月日が経つのは早いですねー」
結衣「そうだね」
京子「はあー、まったくだよー」

 目の前に広げたけど、まだなにも書いてないノートにヘロヘロした線を書きながら、私の頭はなんだか右往左往していた。
 それがなにに対しての右往左往なのか、私自身よくわかってなかったから、あまり気にしていなかった。





4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:35:55.80 ID:L62z0KCK0

 こうして、みんなと一緒にごらく部で集まれなくなることへの寂しさなのかなと、考えたりもした。
けれど、別に会おうと思えば何時だって会えるわけで、それ以上のことを私は考えなかった。

結衣「おい、京子」
京子「んー、なに?」
結衣「勉強、しないのか?」
京子「ちょっと休憩だよー。まぁ、まだなにも書いてないけどさ」

 握ったシャーペンを少しだけ弄りながら、私はなんとなしにあかりを見る。
 二年生になって、あかりは何だか雰囲気が変わった。
 髪も少し延びて、なんだか落ち着きのある感じにもなったし、なにより存在感が増した。
 本当に、一年生の頃のあかりとは大違いだって思いながら観察していると、見ていることに気づいたみたいでこちらに目が向く。
 丸い可愛らしい目が私を見つめていて、キョトンとしながら首を傾げる。

あかり「京子ちゃん、どうかしたの?」
京子「んー、なんかあかりも変わったなーって思ってさー。去年まではアッカリーンって感じだったのに、今はあかりって感じでさ」
あかり「それってどういう感じなのかな……」

 つまりはなんだか存在感が強くなったねって事だけど、言ったら普通にいじけてしまうのだろうなと、私は口を閉ざす。
 でも、あかりは何だか女の子っぽくなった。
 なんだろうね、恋する乙女みたいな感じだなんて思いながら、あかりが恋愛というのはなんとも微妙な発想だと、内心でほくそ笑んだ。





5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:36:28.95 ID:L62z0KCK0


結衣「そういえば、ちなつちゃんとあかりはどこか行きたい高校とかあるの?」

 その結衣の言葉を聞いてなんとも聞かなくてもいいことを聞きますねぇ、なんて思った。
 ちなつちゃんは私……、いや結衣を追いかけて私たちと同じ高校に入ろうと考えるだろうし、あかりだって同じだろう。
 こんなことを言うのはなんだけど、いらぬ心配である。
 そうしてお茶を口に含んだあたりで、ちなつちゃんが結衣の顔を見ながら。

ちなつ「もちろん、結衣先輩の後を追いかけますよ!」
結衣「あ、ありがと」

 予想通りだと思いながら、あかりのほうに目を向ける。
 あかりは何も言わないで、でも高校っていう言葉になんだか神妙な顔をしている。珍しいこともあるんだなーって思いながら、あと数ヶ月でこの楽しい放課後もなくなってしまうのだと、少しだけ寂しい気分になった。
 私の抱えている悩みは、多分そのことなのだろうとこの時は考えていた。

あかり「それじゃ、あかりは生徒会に行ってくるね」
京子「もうそんな時間か~。あかり、綾乃にまたラムレーズン貰いに行くからって言っといて~」
あかり「京子ちゃん、杉浦先輩からだけど『今度ラムレーズンとプリン勝手に食べたら罰金バッキンガムよ』だって」
結衣「ぶふっ」





6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:37:09.03 ID:L62z0KCK0

 あかりはそれだけ言って部室を出ていく。
 時間は4時頃、授業と掃除が終わってこの部室にあかりがいられるのは30分くらいで、今は綾乃と千歳を補佐するくらいに生徒会の役に立っているって聞いている。

ちなつ「あかりちゃん、生徒会の人数が足りないから手伝いってことで入ったはずなのに、今じゃ次の生徒会長だって言われてますよ」

 ちなつちゃんの言葉に、少しだけ変な気分になった。それを紛らわすようにお茶を一気に飲み干して、あかりが生徒会に入った理由を思い出す。
 会長が卒業して、綾乃が生徒会長、千歳が副会長、櫻子に向日葵でやりくりしていたのだが、今年に入っていろいろと多くの作業が生徒会にも回るようになってきたのだ。
 最初はどうにかなると思っていた綾乃たちも、処理能力の限界に気づいたらしく、新しく生徒会役員を増やすことになったわけであるけど。
 今思えば、傍から見ても激務になった生徒会に入ろうとするモノ好きは中々いないし、できれば後任になることのできる後輩、つまりは1、2年生を生徒会は欲していた。
 だけど、1、2年生はほとんどが部活に入り。委員会の中でも、やることの多さや各行事の準備などに携わる生徒会に進んで入ろうというものはまずいなかった。
そんなある日、部室に綾乃と千歳がやってきて、ちなつちゃんとあかりに生徒会の手伝いをしてもらえないかと、お願いしに来たわけだ。





7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:38:12.84 ID:L62z0KCK0

 ちなつちゃんは私、いや結衣といられる時間のほうが大切だったし、あかりもそうだと思っていた。
 けど、あかりは『困っている人を、ほっとけないよ』って言って生徒会の手伝いを引き受けることにしたわけだ。本当にあかりはいろいろと優しいなって思ったし、同時に面白そうだな~って思った。
 そして気付けば、あかりは学校でもそれなりに有名な人になっていた。
 生徒会での活動もそうだけど、今まであかりが何をしていたのかっていうことがいろいろと話されるようになってきて、三年生である私たちのクラスでも時折、あかりの名前を耳にする。
 その分、私と結衣は学校であまりあかりと会えなくなっていた。

京子「結衣~」
結衣「どうかした?」
京子「この頃、あかりがここにいる時間が少ないのがいつも通りになってきたな」

 その言葉に結衣は少しだけ黙っていて、そうだなって言葉を漏らした。
 ちなつちゃんも確かにそうですねっていう顔をしていた。それもそのはずで、二人は同じクラスではないのだ。
 ある意味、三年生になって6月を越える前までが、去年みたいなごらく部だったと思う。

京子「ちょっと、生徒会室行ってくるわ」
結衣「またラムレーズン取りに行くのか?」
ちなつ「食欲旺盛ですね」
京子「ふふふ、ラムレーズンがなんだか呼んでる気がしてさー。というわけで、ちょっくら行ってくるよー」

 私はのんびりとした足取りで部室を出た。





8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:38:42.84 ID:L62z0KCK0

 冷え込んだ外気に、吐息が白くなるのを見ると、12月が近いことを改めて実感する。
 今年の冬コミは、さすがに高校受験もあるから新刊とかを出す気力も無いので、今年はただ静かに勉強しているだけの日々になる予定だ。

京子「そういえば綾乃と千歳とかはどこの高校行くんだろう?」

 二人の行きたい高校、よくよく考えればまだその話を聞いていなかったと思う。
 やはり進学校を選ぶのだろうか、綾乃はわからないけど千歳と千鶴はそんな感じがする。
 そんなに考えるべきことでもない気がしたけど、どこを行くか聞いておけば後々色々と役立つだろうと思った。
 気付けば生徒会室前に来ていた。少しばかりドアが開いていて、こんな寒い日によく開けてられるよな、なんて思いながら手を掛ける。
 さて、入る時はなんて言おうか、ラムレーズン貰いに来たぜ綾乃~とか、そんな感じでいいのかなって思う。
 綾乃はいつも通り怒りながらも私にラムレーズンをくれるだろうとか、そんなことを思いながら手に力を入れて……

綾乃「あかりさん、進学校に行こうって思ってるのね。何とも意外」

 聞こえてきたその声に、体が一瞬強張った。





9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:39:18.66 ID:L62z0KCK0

あかり「うん、お姉ちゃんの行ってた学校なんだけどね」
千歳「ほんまか~、あかりさん成績も十分やから前期募集でも受かる確率高いと思うでぇ~」
櫻子「あかりちゃんが進学校ねぇ~。向日葵もおっぱいばっかりに栄養使ってないで、頭にも使えよ~」
向日葵「胸は関係ないでしょう!」

 そんな楽しい声が聞こえてくるその空間に、私は入るべきか躊躇した。
 無駄に、無駄に何かが重くのしかかってくる感じがして、ドアに掛けた手を外すこともできないでただ立ち尽くしていることしかできなかった。
 なぜ動けないのか、それもわからないままに、ただ私は立ち尽くす。

綾乃「でも歳納京子は進学校を受けないのよね」
千歳「歳納さんの行く学校受けることに決めてるんやろ?」
綾乃「ちょ、ちょちょ、か、関係ないでしょーが!」
千歳「あはは、綾乃ちゃん顔真っ赤や~」
あかり「先輩落ち着いてください~」

 ドア一枚隔てた先には、楽しそうな世界がある。
 軽い気持ちで入っていけるはずなのに、今はその中に入ることも、そこから離れることもできそうになかった。
 足の裏に血が回ってないみたい、足はとても重くて動かない。頭の中は無駄にすっきりしていて、今さっき聞いた話を整理していた。
 それはとってもシンプルな整理であった。
 つまり『あかりは私たちが行く学校とはちがう学校に行こうと考えている』 である。





10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:40:31.63 ID:L62z0KCK0

 まだ二年生なのに、あかりは私達とは違う道に行こうって考えている。
 それが思った以上に、ショックだったのかもしれない。
 何でショックを受けているのか、それはよくわからなかったけど。
 体が動くようになってから、私は部室へと戻る。
 戻ってから何をすべきなのか分からないままに、私は部室に入ってすぐさま結衣に何かあったのかと聞かれた。

京子「なんでもない」
結衣「わけないだろ。それになにもないんだったら、ラムレーズン食べた満足な顔を張り付けて帰ってくるだろ?」

 結衣の指摘は間違っていない。
 いつも生徒会に行ってはアイスとかを食べて帰ってくるし、無かったら無かったで、笑いながら帰ってくるのが私なのだ。
 だから今回のように見るからに何かがあったみたいなことになっている私を見て、結衣が異変に気づくのは当然のことであった。
 ちなつちゃんも、やっぱり私が変であることは理解しているようであって、その視線を受けながら座る。
 座って少しばかり手を動かしたり、下を向いては首を振ったりなど、結構挙動不審なことをしながら、今さっきの生徒会室から聞こえてきた会話を思い出す。
 進学校に行く……
 あかりはまだ二年生だ。後々考えだって変わるかもしれないし、どこの学校に行くのかを決めるのは本人であって私じゃない。
 わかっていても、なんだかすっきりしない。それがなんであるかはわからなかったけど、二人が向けてくる目に若干耐えきれなくなってきた。




11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:41:44.46 ID:L62z0KCK0


京子「み、見るなよ、照れてしまうのだぜ」
結衣「照れたフリしない、何かあったんだろ?」
ちなつ「京子先輩って、あまりショックとかとは無縁の人と思ってたんだけどな~」
結衣「いや、こいつは何気にショックを受けると、こうなる性質なんだぞ」

 意外ですね~、そんなちなつちゃんの言葉を聞きながら私はやっぱりショックを受けていることを隠し通すことができないんだな~と、心の中で大きな溜息を吐いてから、そのことを話した。

結衣「へぇ~、あかりが進学校ね~」
ちなつ「あかりちゃん、確かに勉強できるからね~」

 結衣は何とも意外そうに、ちなつちゃんは淡白に感想を述べた。
 二人ともそれほどこの出来事にショックを受けているわけではなくて、それがなんだか気に障った。

京子「なんで二人ともそんな冷静なんだよー」
結衣「待て待て、落ち着け」
ちなつ「そうですよ、少し落ち着いてください京子先輩」





12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:42:28.93 ID:L62z0KCK0

 二人になだめられて腰を下ろすと、いつの間にか淹れられたお茶を一気に飲み干す。
 めちゃくちゃ熱かったけど、そんなことを気にするような感じにはなれなかった。
 なんで二人はそれほど冷静に事を分析しているのかと、私はこれほどまでにショックを受けているというのに。
 私の憤慨をわかっているはずなのに、結衣は何も言わないで少しばかり何か考えているし、ちなつちゃんは私を見てはなんだか首を横に振っていた。
 ちなつちゃん、その若干の呆れた表情はなんでしょうか。

京子「ちなつちゃん、なんで今首横に振ったの?」
ちなつ「そうですね。なんか、京子先輩ってちょっと鈍いのかなって思って」
京子「何がだよ!」

 思わず上がった声にちなつちゃんが驚いて、少ししてからごめんと私は言葉を漏らした。
 こっちも言い過ぎました、ごめんなさい。ちなつちゃんの言葉に小さく頷いてから、結衣に目を向けるともう勉強を再開している頃だった。
 そこまで勉強が大事なのかと思った。若干呆れてしまって、どうでもいいと倒れこむ。





13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:43:05.72 ID:L62z0KCK0

結衣「まったく、まるで中学生になった時みたいだな」
ちなつ「京子先輩って、こういう風になったことあるんですか?」

 二人の言葉に耳を傾けながら、ふて寝を決め込むことにした。もう、なんだか疲れた。

結衣「ほら、あかりは年下だろ?」
ちなつ「そうですね、っていうことは、先輩とあかりちゃん、一年間は中学生と小学生で別れた時間がありますね」
結衣「その時もこいつ、こんな感じになったんだよ。なんていうか、遊ぶ時間がなくなっちゃうとか言って騒いでた」

 聞こえる声に、確かにそんなこともあったななんて思った。
 あかりは小学5年生で、私と結衣が小学6年生で卒業が迫っていた頃、いつもの公園で私が帰りのチャイムが鳴り始めているのに、まだ遊ぼうって駄々をこねたことがあった。
 結衣も困っていたし、あかりは一番困っていた。
 あかりが小学校に残っちゃうと3人で遊ぶ時間が少なくなっちゃうとか、そんな理由だった気がする。

結衣「まあ、あの時のことを京子はあまり覚えてないと思うけどね」

 そういう結衣は、なんだか一瞬だけこちらを見た気がして、振り返ったけど黙々と勉強をしていた。
 ちなつちゃんはその言葉の意味になんか含むことがあったのか、私を見てから溜息を吐いた。
 なんだか馬鹿にされた気がしたけど、もういいやとふて寝をやめて、いっぱい寝ることにした。





14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:44:10.74 ID:L62z0KCK0

 体を揺すられている気がして、靄がかかった意識が徐々にだけど覚醒していく。

綾乃「歳納京子、こんなところで寝ていると風邪引くわよ」
京子「あれ、なんで綾乃が………」

 寝惚け眼を擦りながら周りを見ると、綾乃以外に誰もいなかった。
 結衣が勉強していたはずの机の上には紙があって『起きそうにないから、私たちは先に帰るね』と書いてあった。文字の形から結衣のだってわかったし、今は一人にしたほうがいいなっていう気遣いも感じられた。
 少し寝て色々なもやもやは解消されたから、少しは動きやすくなっていた。

綾乃「べ、別にあんたが寝てるって聞いて、風邪引いたら大変だなってーって思ってきたわけじゃないんだからね!」
京子「なんだそれ、おもしろい言い方だな~」

 からかわれたって思ったのか、顔を真っ赤にしながら怒る綾乃に、少しばかり救われたなと体を起こす。
 もう夕日が入り込んだ部室の中、やっぱり冷え込んでいてちょっと体が震える。
 寒いからと上着を羽織って、時計を見ればそろそろ5時半になる。

京子「生徒会はもう終わったの?」
綾乃「今日は終わったわよ。それにこの部室の許可を出してるのは私なんだから、誰か残ってないかくらい確認して帰るわよ」

 そう言って綾乃は先に出口に向かい、私は少しばかりまだ回転してない頭を使って鞄に物を入れてから部室を出た。

京子「うう、外は寒いな」

 外に出ると頬に痛い風が当たる。体中が少しばかり冷えていることもあって、外を歩くにはなんだか辛い。
 後ろで鍵の閉まる音がして、綾乃が隣に立つ。

綾乃「さ、ささ、か、帰るわよ」
京子「顔赤いな」
綾乃「う、うるさい!」




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:45:01.96 ID:L62z0KCK0

 部室から校門までの道は思った以上に静かだった。風で木々がざわめく音もなくて、他に歩いている生徒もあまりいない。
 歩きながらあかりのことを聞いてみようか考えてみたが、隣の綾乃はなんだか緊張しているみたいで、時々こっちを見ては目を逸らすなんてことを繰り返している。
 なんでそんなことになっているのかなんて知らないけれど、なんだかそれは可愛く見えた。
 空もだんだんと暗みを帯び始める頃に、私と綾乃は校門について、そこで待っているメンバーを見つける。

千歳「あ~、綾乃ちゃ~ん」
あかり「あ、京子ちゃんも一緒だ~」
千歳「………ええもんや」

 その中の一つの声に体が強張ったのは、多分気のせいじゃない。
 二人の待ち人の一人、あかりの姿に私の体は強張った。

京子「あ、あかり……」
あかり「ん、どうかしたのかな、京子ちゃん。寒いの?」

 そう言ってあかりは近づいてきて私の手をギュって握る。握ってから、京子ちゃんの手冷たいね~と笑顔で言った。
 なんだか、それが無性に私の心でチクリって痛みになった。

京子「大丈夫だから」
あかり「だってこんなに冷たいよ?」
綾乃「……」
千歳「混ざってくればええやん」
綾乃「ちょ、千歳!」

 そんな風に二人が話をしているから、私は残っている冷たい手で綾乃の手を握る。なんだか、それだけでチクリとした痛みはなくなった。
 代わりに茹でダコみたいな綾乃と、眼鏡外した千歳が出現した。

綾乃「ちょ、歳納京子、い、いったいなにを!」
千歳「ええわ~、とってもええわ~」
あかり「京子ちゃんの手、早くあったまるといいな~」





16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:45:34.87 ID:L62z0KCK0

 なんだか不思議な格好で下校をしている。
 左手を綾乃、右手をあかり、それを見ながら鼻血を流している千歳っていう感じ。
 今ここにいる四人の内、三人が生徒会役員であるのだから少しばかり見る人から見ると複雑なものなのかもしれない。

あかり「京子ちゃんの手、温まってきたね」
綾乃「うー、まだ温まってない」

 綾乃の手はあかりに比べると発熱しているんじゃないかってくらいに熱いんだけどと零そうとしたが、そうなるとあかりの手だけが残る気がして、言う気になれなかった。

あかり「京子ちゃん、私が行った後に何かあったかな?」
京子「特に何もないよ~、いつも通りのごらく部ですから」

 嘘であるが、今はそれくらいしか言うことがなかった。まさか、あかりのことでみんなと少し口論になったなんて言えるわけがない。
 言ったらあかりが心配するに決まっているし、そうなるとあかりが進学校に行きたいって話をもう一回聞かなくてはいけなくなるから。
 今日はできればその会話を思い出すことはあっても、聞きたくはないのだ。

あかり「そっか、えへへ。あかりも生徒会が落ち着いたらみんなと一緒にのんびりしたいな~」
綾乃「少しは休んでいいって言ってるんだから、少し休んだらどうかしら?」
あかり「もう少しで生徒会がやることも終わるから大丈夫だよ~」

 そんな会話が左右でされていることに、内心安堵しながらそろそろ綾乃たちと別れなくちゃならない交差点が近付いている。




17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:46:27.36 ID:L62z0KCK0

千歳「綾乃ちゃん、うちらはこっちの道やで~」
綾乃「そ、そそそ、そうね!」

 二人の言葉と共に、綾乃の手が私の手から離れていく。
 あ…、思わずこぼれた言葉は誰にも聞こえてないみたいだったけど、それが何を求めて口からこぼれた言葉なのか。
 離れた手はとても暖かくなっていた。今さっきまでずっと握ってもらっていたからだけど、なんだか少しばかり安心したのは間違いなかった。

あかり「それじゃ、私たちはこっちなので」
千歳「うん、ほな、明日な~」
綾乃「ま、ままた、あ、あしたね!」
京子「……うん」

 細々と言葉を返し、二人と別れて帰り道を歩く。
 街灯が照らす帰り道、まだ握られている手はもう温まっていた。
 温まっているけど何も言わなかった。なんだか、今言葉を発してしまうといけない気がしたから。
 コツコツと二人分の足音が響いては消えていく度に、いつも通りになろうと思ったけど、やっぱりなれなかった。

あかり「京子ちゃん?」

 不安を帯びた声が耳に入った。見ればあかりはなんだか怖がっているように縮こまりながら、まだ私の手を握っていた。
 どうかしたのか~、寒いのか~、なら温めてやるぜぇ~、そんな言葉を出せばいいのに。

京子「……なに?」

 どこか冷たい、そんな言葉が漏れてきた。





18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:47:09.06 ID:L62z0KCK0

 こんな冷たい声が、私の口から出ているのかって思った時に、あかりの足が止まっていた。
 でもまだ手は握られたままで、何も言わずにただ立ち止っていた。

あかり「あかり、京子ちゃんに何かしちゃった……のかな?」

 迷っているみたいにそう言葉を漏らしていた。
 そう思うってことは、あかりは私に何かしてしまったっていう自覚があるってことなのか?
 そう聞くのもありだと思う。そう聞けばあかりは謝ってくると思うし、それで私もよくわからないけどその謝罪を受け取ればいい。
 だから。

「いや、ちょっと、今日は体調がね……。ほら、部室で寝てたから風邪ひいたかもしれないからさ」

 そんな言葉であかりへの質問を濁して、もう一回歩き始める。
 繋がれていた手が離れそうになったけど、私は手に力を入れないで、あかりは手に力を入れてそれを維持した。
 少しだけ、作るような笑顔を見せながら後を追いかけてくる。
 あかりの家に着いて、やっと離れた手。

あかり「それじゃ、また明日学校でね」
京子「うん、また明日」
あかり「うん、風邪引かないように気をつけてね」

 そうして扉が閉まって、私は一人残された。別に気にすることでもなんでもない、ここからは結衣がいなければいつも一人で帰っていたのだから。
 思いのほか、一人になったときのほうが気は楽だった。
 二人から握られた手はとても暖かくなっていたけど、すぐに外の寒さに冷たくなり始めたからポケットに突っ込んだ。
 突っ込んでも、なんだか暖かさがなっていくのを感じながら、家に着いた頃には体中が暖房を求めていた。





19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:47:48.92 ID:L62z0KCK0

 鞄を床に、制服を適当に脱いでショーツだけでベッドに横たわる。
 部屋の中はすでに暖房が掛っていて、その点を母親に感謝しながら体中に感じた疲労を全部溶かす。
 染み込んでいくように、ベッドに疲れが落ちていく。

京子「……なんで、なんでだよ」

 だから疲れで紛らわしていた感情が静かに顔を出す。
 あかりが来年の受験で進学校を受ける。
 また高校でも三人、ちなつちゃんも入れれば四人で遊べるかと思ったのに、なんでこんなことになるのだろうか。
 理不尽なことだと枕をおもいっきり叩いたところで、少しだけストレスが抜けた気がした。
 なんでストレスを感じているのだろうと考えても、四人で遊べなくなることに対してのものだろうって思った。
 そこでこの頃の悩みというのが、卒業式を迎えると四人で遊べなくなるからだと思った。
 仕方ないじゃないか、私はまだまだ遊びたいのだ。昔みたいに、今はちなつちゃんも入れて四人で遊び楽しみたい。
 とそこで、一度くしゃみが出る。
 このままじゃ風邪を引いてしまうと服を適当に着込んで、あかりに風邪を引かないように心配されたことを思い出して、少しばかり不機嫌になった。
 なんでこんなに不機嫌になる必要があるのかと、再びベッドに倒れこんで天井をぼんやりと見上げる。
 そして何分か経った頃に、携帯が鳴った。
 それはすぐに止まってメールの受信だってことはわかって、のろのろとした動きで携帯を取って開くとあかりからだった。

『今日は寒くなるらしいから暖かくして寝るといいと思うよ。それに今日の京子ちゃんなんか変だったから、おせっかいでごめんね』

京子「あかりは、私たちと離れることに何も思ってないのかな……」

 そんなことを思っていると、電話帳を開いて電話をしていた。





20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:49:43.82 ID:L62z0KCK0

 数回の呼び出しコール、のんびりと待つ間はなんとも退屈な時間ではある。

綾乃『も、もも、もしもし』

 掛けた相手は綾乃にだ。特に理由は……なかった。

京子「おー、綾乃~」
綾乃『と、歳納京子、い、いいったい、なんのようよ!』

 何をそんなに挙動不審になる理由があるのかわからないが、少しばかり今さっきの不安から解放されたように感じる。

京子「いや~、特に理由は無いんだけどさ。ちょっと電話したくなった」
綾乃『べ、べつに、いきなり電話が来たから、びっくりしてコップ落としたりしてないから』

 声に混じってカチャカチャっていう音が聞こえてくるのに、思わず笑ってしまいながら色々と話をすることにした。
 なんていうか、今は心に余裕が欲しかったのだ。
 もしかしたら綾乃があかりの進学校の件を話してくるかもしれないけど、今はできる限り誰かと話がしたかった。できれば昔からのあかりを知らない誰かと。

京子「へぇ~、千歳がそんなミスをね~」
綾乃『あの時は驚いたわよ~。千歳にしては珍しいミスだったから』
京子「でも、結衣も結構時々ミスする時があるんだぜ。その時の狼狽の仕方はほんと見てて面白いよ」
綾乃『でも、なんだかさ。いてくれると安心できるのよね~』
京子「わかる、去年のクリスマスでありがとうとか言われた時、思わず熱測っちゃったけど、今思うとそう意味だったんだなって思うわ」
綾乃『そういう話してたからね。ふふっ』





21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:50:14.04 ID:L62z0KCK0

 楽しい会話、楽しい時間、途中からは趣味の話とかになって、一息入れるために紅茶を入れたりするくらいに長く話した。
 思った以上に綾乃はおしゃべりで、途中今日の手を繋いだことについて聞いたときは、おもしろいくらいに狼狽していたけど。

綾乃『でも、先に手を握ってきたのは歳納京子のほうじゃないの!』

 そう言われて、私はなんで綾乃の手を即座に握ってしまったのか考えた。
 二人の会話が聞こえたからだって言うのが一番簡単な理由だったけど、私にとって本当の理由はそういうものじゃない気がした。
 わからないけど、私は綾乃と手を繋ぎたいという思いで繋いだんじゃないって言うことだけは、なぜか理解していたから。

京子「驚かそうと思ってさ~」
綾乃『こ、今度はちゃんと事前に言ってくれないと罰金バッキンガムなんだからね』
京子「あははは、ごめんごめん」

 部屋の中、紅茶を啜りながらふと時計を見上げると結構電話をしていることに気がついた。
 携帯の電話代はなんとも金額の掛るものだから、これ以上の長電話は叱られて没収されてしまう危険性さえあるくらいだ。
 ニ、三回ほどの終わりのあいさつをして、互いにまた明日と言って電話を切った。
 幾分か気分も良くなった。
 あかりにはメールを返さなかった。





22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:50:47.93 ID:L62z0KCK0

京子「おはよー」
結衣「おいおい、どうしたんだよ?」

 玄関を開けての開口の挨拶に対しての返答はそれであった。
 少しばかりの喉の痛みを感じながら、私は通学路に足を踏み入れる。体自体がだるいわけではないし、熱があるわけではないが、喉風邪を引いたようである。
 そして、この二人だけの通学はもう慣れたものだった。

京子「あかりは、また生徒会?」
結衣「まぁな、綾乃と千歳が本格的に生徒会から抜けることになるからさ、色々と覚えることもあるんだってさ」
京子「ふ~ん、向日葵と櫻子がサポートしてくれるんだろうから、それほど気にする必要もないと思うんだけどね」

 そっけなく言葉を漏らして通学路を進む。周りには私たちと同じように受験を迎えようとしている同級生が多いけど、その中でも進学校を目指す子たちは歩いていない。むしろ走っている。
 なんでも、進学校を目指す子たちのために学校が早くに学習室を提供しているという話で、暖房完備のとても良い空間らしい。
 これを推進したのがあかりなのだから、それが一番驚くべきことだと思う。

結衣「あかりは色々と生徒会で生徒のためにできることをやってるね」
京子「そうだね」

 心なしか、言葉が冷たくなった気がした。
 気にしないように努めているものの、やはり結衣の態度には少し納得がいかないのだ。
 あかりは友達だ。幼馴染の友達なんだ。
 その友達が違う学校を来年受験しようとしていることに、何か思うことは無いのだろうか?




23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:51:22.49 ID:L62z0KCK0

結衣「京子、あかりの忠告を無視したんじゃないだろうな?」
京子「なんの話だよ?」

 突拍子もなくなんの話だと思うと、結衣が昨日送られてきたメールの話をしてきた。
 それは私に送られてきたメールと同じで、あかりはみんなにそんなメールを送っていたのかと、まるで母さんみたいだなって思う。

結衣「まったく、あかりが心配してくれたんだからさ」
京子「………」

 なんだかわからないけど、少し腹が立った。
 どうして腹が立ったのか、それはわからないけどそこから学校に着くまでの間に、私と結衣は話すことは無かった。
 気づけば別々のクラスになったこともあって、もう少しで朝の会が始まる頃になっていた。

千歳「歳納さん、おはよう~」
綾乃「歳納京子、お、おはよう」
京子「お~、綾乃~」
綾乃「って、なんでマスクしてるのよ」
京子「ちょっと風邪引いただけだよ」

 生徒会の集まりが終わったように二人が入ってきて、なんだか心が落ち着いた。
 綾乃と千歳はなんだか見ていて落ち着くのだから、これは私の心にとっての栄養剤か何かなのかな、なんて思った。

千歳「この時期の風邪は長引きやすいから、早く治さんと~」
京子「そうだな~、受験までには何とか治したいし」
綾乃「ふふふ、毎日の健康に気を配ってる私は安心アンコールワットね!」
京子「綾乃、その言い回し恥ずかしくないのか?」
綾乃「ん? 何が?」

 どうやら無意識な発言らしい。





24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:52:21.29 ID:L62z0KCK0

 放課後、気付いたら私は部室に行ってなかった。
 携帯にはメールが二つ、ちなつちゃんと結衣からあって、少し用事があるから遅れていくなんて繕った。
 結衣にはそんなメールを送っても見透かされている気がしたけど、別に気にする必要もなかった。
 やることがないからって、図書室に行ってみると思った以上に人がいなかった。
 なんで思ったけど、あかりが使えるようにしてくれた学習室に、今まで勉強していた人が移ったのだろう。
 確かに受験の始まり頃の図書室は、どこか重い空気が漂っていた。
 新入生とかが本を借りに来るのは、なんだか空気を読んでいないみたいな感覚もあったくらいだ。
 そう思うと今の図書室は静かで過ごしやすい場所だ。確かに勉強をしている人はいるけど、ギスギスしているような感じは無い。
 本を借りる人ものんびりと探している気もする。
 運良く開いている窓際の一人用の机を取ると、そのまま倒れる。
 部室にはストーブがあるけど、今は結衣と顔を合わせる気がしなかったから、こうしてここにいる。
 暖房も効いているし、静かで眠るにはちょうどいいかなって思った。
 図書室で寝るなんていう行為に励むのも、なんだか滑稽で迷惑な気もしたけど、今はここで眠っていたい。





25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:53:44.05 ID:L62z0KCK0

 ―結衣―

ちなつ「結衣先輩、今日何かあったんですか?」

 そうちなつちゃんに言葉をかけられて、そんなことないよと答える。できる限り勉強に気を向けていたけど、内心は何とも安定はしていなかった。
 その理由がなんであるか、私は理解している。そう、理解しているからこそにいつも通りを心掛けている。

結衣「ちなつちゃんは、私と一緒じゃ退屈じゃないの?」
ちなつ「退屈じゃないですよ。結衣先輩がそういうこと聞いてくるのはなんだか珍しいですね」
結衣「そうかもしれないね、ごめんね」

 勉強を再開しようとして、頭に過る言葉がある。
 進学校……
 あかりが進学校に行くという話を京子が言った時に、私は確かに感じたのだ。京子の言動に中学生に上がる頃よりも強い何かを。
 多分、それにちなつちゃんは気付いているのではないかって思うけど、わざわざ私から切り出すべき話でもない気がしてならなかった。
 ちなつちゃんは、私たちと幼馴染というわけじゃないから、そもそもこんな話を振られても困るだろうし、逆に指摘をされたらそれはそれで、なんだか腑に落ちないって感じになるだろう。

ちなつ「私は結衣先輩と二人きりになれるからうれしいですけど、なんだかこの頃はみんなあまり楽しそうじゃないです」
結衣「しょうがないよ、京子と私は受験を控えてるし、あかりは生徒会での引き継ぎとかで忙しいしね」
ちなつ「それだけならいいんですけど」

 そう言っているちなつちゃんの目は、私をまじまじと見ていた。
 なんだろう、見られていると恥ずかしくなるのが普通なのかもしれないけど。今のちなつちゃんの目からはそういうものが感じ取れなかった。




26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:54:30.40 ID:L62z0KCK0

結衣「ちなつちゃん?」
ちなつ「それよりも、結衣先輩も勉強しなきゃ。私、お茶を入れてきますね」

 そう言ってちなつちゃんはお茶を入れに向かう。
 違和感に苛まれながら、携帯を一度開いて昨日のメールを開く。
 あかりから昨日届いたメールには、『今日は寒くなるから暖かくして寝たほうがいいよ。京子ちゃんが、なにかおかしかったけど、何かあったのかな?』そう書いてあった。
 あかりは京子のことを心配していて、私はわかっているから平然でいられる。

結衣「そう、平気だ」

 独り言のように呟きながら、携帯を閉じると目の前の勉強に力を注ぐ。
 こうして勉強しているのは、受験に失敗しないためだ。受験は勉強で出来る限りどうにかできることだ。
 ゲームだって同じ、できれば強くレベルを上げて困難っていう壁をすぐに飛び越してやる。それが昔からの私の考えで、そんな考えがどんな物事にも通じると思っている。
 できれば、そう思わせてくれていてほしい。
 私らしくもなく、ネガティブなことを考えている気がしたけど、この頃の受験に対する不安もある。
 生徒会にあかりが行って、3人だけの活動が多くなったごらく部は、なんだか抜け殻みたいになり始めているのは、その時からわかっていた。
 だからって、盛り上げようという気を起こす前に、受験はやってきて今はこうして静かな場所がある。

結衣「は~、私もまだまだってことなのか?」

 しばらくして運ばれてきたお茶をすすって、もう一度勉強に力を入れた。





27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:55:09.50 ID:L62z0KCK0

―綾乃―

あかり「先輩、この資料はこれでいいんですか?」
綾乃「うん、それで大丈夫よ。ほんとあかりさんはよくできるわね」

 生徒会室の中で、私はそう話をしながら与えられている最後の仕事をこなしていく。
 今日は千歳が千鶴さんと外せない用事があるとかで生徒会に来ていないし、向日葵に櫻子もそれぞれの用事で来られていないのだ。
 だからこうして、あかりさんと二人で作業することは珍しいことだった。

綾乃「ふぅ~、ちょっと二人でやるには多い量よね」
あかり「そうですね~。でも、あかり頑張りますよ~」

 そう言って新しい資料に目を通し始めるあかりさん。
 本当に色々できるし、気配りもできるから少しばかり先輩としてはなんだか複雑な対抗心が燃えてしまう。
 適当なプリントを手に取って、内容に目を通して印を押す作業。
 本来なら先生あたりがやるべき作業だろうと思いながらも、一応生徒会に仕事が回ってくるのは生徒会があるべき理由作りだなって思う。
 理由作り……

綾乃「あ、あのさ……」
あかり「どうかしましたか?」

 プリントに向いていた瞳がこちらに向いて、少しばかりの間があった。
 別におかしなことを聞くわけでもないのに、なんだかよくわからない罪悪感を覚える。

綾乃「あ、あかりさんは、歳納京子とは幼馴染なんでしょ?」
あかり「なんだか、今更な気がするような気もしますけど、そうですよ~」
綾乃「聞きたいことがあるんだけど、その、ね……」




28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:55:47.51 ID:L62z0KCK0

あかり「あかりの知ってることだったら何でもいいですよ~」

 そう言ってにこやかにほほ笑むあかりさんには、私の思いがすべて筒抜けになっているんじゃないかって思う。
 千歳は長い付き合いってこともあるだろうから、私のことをよく理解しているだろう。
 それがあかりさんにもわかっているんじゃないかって思うと、なんだか複雑な気持ちになる。

綾乃「あ、あのね。そろそろ、年末になるわけで、そその、ね」
あかり「はい」
綾乃「歳納京子の年末の予定をね、そのね、知ってるかな~、って思ってね」
あかり「はい」
綾乃「えっと、そのね、あの、えっと、や、やっぱりやめとく!」
あかり「ええ~、ここまで言っておいてやめると後悔しますよう!」
綾乃「だ、誰にも言わないよね?」

 私の懇願する声に、あかりさんは静かに頷いてくれた。
 もう今年で卒業なのだから、私も素直にならなくちゃいけないって思ったから。
 一歩を歩みたいから、こうしてあかりさんに話を聞いているんだ。

綾乃「わ、私ね。歳納京子にね、その、今年中にね……」
あかり「もしかして、その、告白とか?」
綾乃「……なっ、ななななな、なん、なんでわかんねん」

 思わず千歳のような口調になってしまって、それを見てあかりさんが楽しそうに笑う。
 ああ、なんだってこんな感じになってしまうのだろうか。
 私のこういった慌てぶりは、どうにかしたいと思うのに、歳納京子のこととなるとこうなってしまう。

あかり「大丈夫ですよ。先輩、京子ちゃんのこと好きなんですよね」
綾乃「あ、あ、その、う、……うん」

 その問いに対して私は千歳意外に、初めて頷いた。





29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:56:38.72 ID:L62z0KCK0

あかり「じゃあ、やっぱりクリスマスに告白の流れがいいのかな~」
綾乃「ク、ククク、クリスマスに、こここ、こく、告白だなんて!」
あかり「ロマンチックですごくいいと思います」

 そういえば昨日、去年やったクリスマスのカップルごっこのことを歳納京子と話した。
 カップルごっこじゃなくて、ちゃんとしたカップルとしてデートできたらすごくいいなって思うと…

綾乃「もしも、歳納京子に告白して付き合えるなら。クリスマス前のほうが、うれしいな」

 それに、クリスマスの日に告白して振られたら…
 そしたら突然手を握られた。強くて、なんだか暖かくて、安心させてくれるそんな感じだ。

あかり「先輩、もしもなんて考えないでいいんですよ」
綾乃「あかりさん……」
あかり「えへへへ、なんだかあかりらしくないですよね」

 確かに、なんだかいつものあかりさんらしくないけど、それはそれでなんか安心できた。
 私の恋路に、とっても真剣になってくれるのが無性にうれしかった。

あかり「あかりはみんなが幸せになってくれたらいいなって思ってますから、先輩もあかりの幸せになってほしい人なんですよ~」
綾乃「ちょ、あかりさん。そのセリフすごく恥ずかしいんですけど」

 だから、思わずそのセリフに顔を真っ赤にする。
 本当にあかりさんは純粋な子だ。それゆえに気になる。
 なんで、歳納京子や私たちが行く学校に行こうとしないのか。
 来年が受験なのに、すでに進学校に行くっていうことを決めていることが、なんだか気になった。
 なったけど、それ以上のことを私が詮索するのは、なんだか身に余ることだと思えて。
 私は何も聞かなかった。





30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:57:50.24 ID:L62z0KCK0

―京子―

京子『いやだ! あかりだけ小学生のままなんてやだ!』

 懐かしい夢だ。
 ああ、相当私はあかりが進学校に行くことを気にしているんだなって思えた。
 気にしていなかったら、こんな夢見るはずもないのだろうから。
 いつも遊んでいた公園、小学校を卒業するのが近付いている私と結衣に、まだあと一年は小学生でいるあかり。夕方の帰りのチャイムに、夕焼け色に染まるジャングルジム。
 私はブランコに座りながら、顔を膨らませながら動こうとしてなかった。

結衣『京子、なに訳のわからないこと言ってるんだよ。私たちはもう中学生になるんだぞ』
京子『やだやだ、あかりと遊ぶ時間がなくなっちゃう! 結衣だって嫌だろ!』
結衣『京子、わがまま言うなよ!あかりが困ってるじゃないか!』

 第三者の視点で見ていると、なんともいえないくらいに子供だな、小学6年生の私。
 本当にこれが3年前の私なのかと疑いたくなるような。
 幼稚な私と、それに対抗している結衣もどことなく子供みたいだった。

あかり『京子ちゃんが中学校に行ったって、あかりとはまだいっぱい遊べるよ』

 でも、なんだかそこにいるあかりは、今とあまり変わってない気がした。

京子『あかりは嫌じゃないの、私と離れ離れになって……』

 やめたほうがいい、そう昔の私に言ってあげたいけど、これは夢だから声なんて出ない。
 だから昔の私は何かを言っているみたいだったけど、自然と私は耳を閉じていた。
 結衣があかりに目を向けていて、あかりはそれを聞いて困ったように笑っていた。
 もう見ていたくないと思いながら、その光景に背を向けて、そこには大きくなった結衣とあかりがいた。

結衣『まだ駄々こねるのか?』





31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 15:58:37.88 ID:L62z0KCK0

 結衣は私を睨みつけている。いつもみたいにどこか落ち着いている瞳とは違う、そこには苛立ちと怒りが含まれているのが分かる。
 その瞳に睨まれて動けない私と、結衣の横に立っているあかり。
 私と結衣が睨み合っていることにオロオロしていて、やめてよって言っても結衣は聞かない。
 だからもう何もできないから、様子を伺っているっていう感じだった。

結衣『またそうやって、あかりを困らせるんだろ?』

 冷たい声だ。
 昨日、あかりに対して発した言葉と同じくらいに冷たい声で、体全体が強張ってしまう。結衣は怒ったら怖い、昔からの馴染だからこそわかる怖さがある。
 今の私には、そんな結衣に何かを言って返すほどの冷静さは無くて、ただただ目を逸らすことばかり考えていた。

結衣『そうやって聞きたくないことから逃げても、なんにも解決しないって言ったよね?』

 私が見ている夢なのに、なんでこんなに辛い。なんでこんなに結衣は辛くあたってくるのだと、考えても答えなんてではしない。
 だから背を向けようと思った。こんな風に責められるなら、その言葉を全部背中に当ててほしいから…
 でも、後ろには今さっき見たくないと否定した光景がある。
 嫌悪する光景二つが、私を板ばさみにしていることが、何よりの苦痛だった。
 結衣はそんな私に何かを言うわけでもなく、ただただ静かに立ちふさがって、どこか勝ち誇ったような顔で立ち塞がっている。
 昔は守ってくれたはずなのに、なんで私にとっての壁になってしまうの?





32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:01:39.79 ID:L62z0KCK0

結衣『それはお前が素直じゃないからだ』

 吐き捨てるように、結衣はそう言い切った。素直じゃないってなんだよ!

京子『なんだよそれ、私はいつだって素直だよ!』

 思わず声が飛び出たけど、結衣は動じることもなかった。こういうときは、何も言えないと思っていたとか言うのかと思ったけど、夢に出てくる結衣は無駄に冷静で冷酷だった。

結衣『身勝手にしてることと、素直なのは違うことだよ。京子は昔から身勝手だったでしょ? 後ろの姿を見ても気がつかないわけじゃないよね?』

 この結衣は、なんでこうも私を責めてくるのだろう。現実で喧嘩みたいになった所為なのかもわからないまま、でも後ろにいる幼い私たちに目を向けることなんてできない。
 あれは昔の私だ。泣き虫で弱虫だった昔の私。今の私とは違う!

???『だから、本当に悩んでることを理解できないんだよ。結衣の姿で言ってもね』

 その変な発言に顔を上げる。
 なんで結衣が結衣の姿っていうのかわからなかったから、だからとっさに顔をあげる。
 長い金髪にいつも見ている顔。
 よく見るのは朝の洗面所とかかもしれない、そんなある意味見慣れていて、同時にそういう鏡で見なかった場合に嫌な気持ちになる顔があった。

???『気付けよ、私は素直じゃないってさ』





33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:02:17.79 ID:L62z0KCK0

京子「……!!!」
あかり「うわっ、びっくりした!」

 起き上がってすぐに聞こえたその声と、寝惚けた感覚に頭が少し痛くなっているのを感じる。
 今さっき見ていた夢のせいなのかと首を動かしながら、窓から差し込んでくる暖かい夕日に、もう夕方だなと思いながら隣で驚いたように固まっているあかりを見た。
 覚醒したばかりの眠気眼な私を見ながら、あかりはなんだか心配そうにしている。なんだろうか、肩に何か掛っている気がして手を当てると、あかりがいつも着ているコートがあった。なんだか、少し変態チックなことだけと、あかりの匂いがして、なんだかほっとしてしまう。

あかり「京子ちゃん、風邪引いちゃったの?」
京子「あ、ああ……」

 昨日のメールを読まなかったのかなって首を傾げるあかりには、読んだけど従う気がなかったなんて言う気にもあまりなれなくて、何も言わなかった。
 あかりは、まだ進学校に行こうって考えていることを直に話してはくれない。昨日、どこの学校に行こうかっていう話のときに言うことくらいできたはずなのに、なんで話をしないのか、私には理解ができなかった。

あかり「それじゃ、帰ろうよ。今日は早く生徒会も終わったんだ~。杉浦先輩も校門で待っててくれてるから」
京子「綾乃が?」

 なんで綾乃が私を待っているのだろうって考えたけど、今は早く家に帰って休んだほうがいいって考えたら、自然と足は動いていた。
 あかりはまだ私に掛けたコートを取らないで、寒いはずなのに何も言わないでいる。寒いに決まっているだろうって、思いながらも暖かくてすぐに手放す気にはなれなかった。





34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:02:58.10 ID:L62z0KCK0

 図書室を出るように足を進める。今さっき見ていた夢の中のあかりと、まんま変わらないあかりが横にいる。なんだかそれが私の思っているあかりのイメージそのもので、なんだか気味悪くなった。
 もうすでに勉強している人も、本を探す人も、図書委員もいない図書室から出ると、廊下はもっと寒々しくなっていた。なんだってこうも暖房を切るのが速いのか、そんなことを思いながらあかりを見ると方が少しだけ震えていて、声をかけるべきかと思ったけど、それよりも早くあかりが顔を上げる。

あかり「京子ちゃん、あかり図書室の鍵を職員室に返してこなくちゃいけないから、先に杉浦先輩のところに行ってあげて」
京子「あ、うん」
あかり「えへへ、じゃ、行ってくるね~」
京子「あ、ちょっと……」

 私の言葉を待たないで、あかりは階段の下に消えていく。この寒さの中、コートを着ないでうろつくと寒いじゃないかって思っても、やっぱりあかりの後を追いかける気にはなれなかった。
 だって、暖かいのだから仕方がないなんて、あかりは寒くても大丈夫だろうなんていうどうでもいい言葉で片付けて、校門に向かうことにする。
 窓の外からも見ることのできないごらく部の部室、二人とももう帰ったのだろうなんて思いながら、私も早くに誰かと一緒になりたいと廊下を早歩きする。上履きを脱いで靴を履いて、扉を開けると中に比べれば寒くない外に出る。
 もしかしたらもう少しで雪が降るのかもしれないな、そんなことを思いながら残すところ一か月もない二学期に何ができるかを考えようとして、すぐにやめた。





35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:03:31.70 ID:L62z0KCK0

―綾乃―

綾乃「ん~、ううん、き、緊張する…」

 今、私はこんな寒空の下であいつを待っている。別に恋人同士ってわけじゃないけど、待っているってこと自体で緊張はするものだ。
 何度となく深呼吸を繰り返して、なんだか変なところは無いかななんて服装を調べて、よしって思ってはまた身なりが気になる。
 あかりさんには、私の素直な頷きを返した。私は素直になれない自分が少し嫌いだから、なんだかあかりさんに歳納京子が好きだっていうことを素直に知ってもらえてうれしかったって気になった。

綾乃「みんなが幸せか……」

 あかりさんはみんなが幸せになるといいなって言った。だから歳納京子のことは任せてとか言われて、私はそれに甘えるようにしてここにいる。あんな風にあかりさんは色々なことに目が向いて、いつでも誰かのためになる最善な行動をする。
 私は今日、あかりさんに歳納京子と冬に一緒になる時間を作るための理由を作るために話しかけた。卑怯だと思ったけど、私は素直じゃないから、何か仲介が欲しくてそれをあかりさんに求めた形になった。
 純粋で、とても無欲だ。まぁ、なんだか出番が少ないのは気のせいだと思うけど。

綾乃「それにしても……、歳納京子にあかりさん遅いわね」
京子「おーっす、綾乃~」





36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:04:10.24 ID:L62z0KCK0

 やっぱり、歳納京子はとても不意打ちが得意だと思う。今さっきまでの間に寒さで落ち着いた思考が、一気に活性化して聞こえてきた声のほうを見るのに、なんだか時間をかけてしまう。
 ギィギィ、そんな風に関節から音が聞こえてきそうなくらいに遅い動きで、私はくるみ割り人形か何かかと自身の滑稽な動きを恥じる。

京子「なんだ綾乃~、くるみ割り人形でも始めたのか~」
綾乃「そ、そんなわけないじゃない!」

 やっぱり強くなっちゃう言葉、もう少し優しく言い返すことはできないだろうかなんて思いながら、あかりさんがいないことに首をかしげた。おかしいな、あかりさんは歳納京子を呼んで、一緒に帰ろうって言っていたのに…
 っと、そこでいきなり携帯が鳴って変な声をあげてしまう。こんなタイミングにメール、誰かは少しだけ予想がついてメールを開く。

綾乃「あかりさん……」
京子「ん、あかりがどうかしたのか?」
綾乃「ん、本当は三人で帰るはずだったんだけど、職員室で先生に頼まれごとされたって……」

 そうして歳納京子を見て、私はその肩に掛っているコートに目が向く。あれは、今さっきまであかりさんが着ていたコートで、それをなんで 歳納京子が羽織っているのか?

綾乃「歳納京子、そのコートは?」
京子「ん、ああ、あかりのコートだ。合流すると思ってたから返し忘れてたぜ。う~ん、ちょっと下駄箱に置いてくるか」
綾乃「待って、私もついてく!」





37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:04:48.65 ID:L62z0KCK0

 あかりさんの下駄箱の中に、ビニール袋に包んでコートを入れて校門を出る頃には、外はもう暗くなっていた。空には雲は掛かってなくて、キラキラ光るお星さまが暗闇を彩っていた。

京子「お~、今日の夜空はなんだかすげぇな~」
綾乃「ほんとね、本当にきれい」
京子「だよな~、こういう光景見ながらの帰り道なら何回でも大歓迎なのにな~」

 私は歳納京子と一緒の帰り道ならいつでも大歓迎だけどね。そんなことを心の中で呟いて顔を赤くする私。まだまだ分かれ道ってところじゃないけど、だんだんとそこが近付いているのがわかると胸が切なく疼いた。

京子「まったく、もう少しで二学期も終わりなのかよ~」
綾乃「そうね、三学期になったらすぐに受験になるわね」

 歳納京子はあかりさんが、来年進学校を受けようとしていることを知っているのかという考えが過った。でもそれを教えて私は何を得たいのか?歳納京子からの信頼、それとも頼りになる人という印象?
 わかるけど、私はそのどれかが欲しいのではなくて、歳納京子に特別な人として見てもらいたいと思っている。

京子「お、今流れ星流れた!」

 歳納京子は隣で楽しそうに夜空を眺めている。こんなに夜空はきれいなのに、素直になれない私はなんだかきれいじゃないなんて思う。素直になればなるほど、何かが壊れそうな気がして、でもあかりさんにこうして時間を作ってもらえたから、頑張らなくちゃいけないって思う。
 そんなことを思いながら、気付けば分かれ道まであと少しの所。ここで言わなくちゃいけないってわかっているから、足の動きを遅くする。

綾乃「ね、ねぇ、歳納京子……」





38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:05:19.91 ID:L62z0KCK0

京子「ん、どうかしたの綾乃?」

 歳納京子が振り返る。流れる金髪、いつもと同じ明るい笑顔。ああ、なんでこんなに幸福と痛みが一緒にやってくるだろう。でも言うことがある。

綾乃「あ、あのね。その、さ……」
京子「うん」

 勇気を出しなさい、私!
 心の中で叱咤と激励を繰り返しながら少しだけ素直になろうと頑張って、やっと出てきた私の言葉。

綾乃「再来週、なんだけど、私とどこかに、で、出かけない?」

 絞り出して、やっと言えたその言葉。もう恥ずかしさとちょっとの後悔があって、もう顔を下に向けて返事を待つくらいしかできない。なんでこんなに不安になるのか全然わからなかったけど、少しの間だけ素直になったのだから自分自身には表彰状をあげたくなった。
 長い沈黙、本当に何万何千分にも思えるくらいに心臓が高鳴って、あまりの長さに諦めようと顔を上げて。

京子「いいよ。どこに行こうか?」

 その返事に力が抜けてしまった。ここまでできるなんて思ってなかったから、緊張感が全部虚脱感に変わってしまった。
 そんなよくわからない言い訳と興奮を交えながら、どこに行こうかなんて考えてもいなかったとおぼろげに呟いて、歳納京子が笑う。

京子「なんだよ~、綾乃から誘ってきたんだからな。だから綾乃が行く場所決めるんだぞ~」
綾乃「い、一緒に考えればいいでしょ!」
京子「ふっふっふ、綾乃が考えるデートプランコースなんて、なかなかに面白そうじゃないか~」





39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:05:57.33 ID:L62z0KCK0

 そう言ってはしゃぎ始める歳納京子を見ながら、よく言えた、がんばった、私。
 なんて自分を褒めた。座り込んで立ち上がるのに時間はかかったけど、体の重みよりも幸福と充実感が体を包んでいた。
 素直になれてよかったって思えるし、なによりこういう結果になって本当に良かった。

綾乃「じゃあ、私こっちだから」

 分かれ道、いつもなら惜しむように分かれるところだけど、今日は全然違った形でバイバイできる。再来週の予定はもう決まって、その予定を決めて歳納京子を驚かせてやるのだと、意気込んでいる私がいた。

京子「おう、再来週楽しみにしてるよ。変な場所とかチョイスするんじゃないぜ」
綾乃「ふふんだ、そんな心配はノンノンノートルダム! 逆にすごいコースを考えて驚かせてやるんだから!」
京子「たのしみにしてるぜー、それじゃな~」

 手を振る歳納京子に、私も大きく手を振る。姿が見えなくなるまで降ることは無い、今日はとても充実している。素直に慣れた私だっている。あかりさんには感謝しなくちゃいけない。

綾乃「あかりさん、ありがと」

 そう呟いて、私は自宅に向けて足を進めた。自然と足は軽くて、今日はもしかしたら眠れないかもしれないなんて思って、明日の学校は大丈夫かなんて思う。
 きっと大丈夫、誰に言い聞かせるわけでもなく、私は家に着いた。





40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:06:36.99 ID:L62z0KCK0

―あかり―

 下駄箱の中を見るとビニール袋にきれいにたたまれたあかりのコートがあった。
 もう真っ暗になって寒くなって、誰もいないと思う場所であかり、なにをしているのだろう?

あかり「京子ちゃん、着て行ってもよかったのに」

 ビニール袋から出したコートを着込んで、上履きから外履きに替えてから出る。
 正門のほうを見て、杉浦先輩と京子ちゃんがいないのを確認して、ちょっとだけほっとした。二人と一緒に帰りたくなかったとかそういうことじゃなくて、二人で一緒に帰ってくれたことにホッとした。

あかり「杉浦先輩、ちゃんと京子ちゃんをデートに誘えたのかな」

 携帯を取り出してメールをしてみようかって考えて、でも今すぐ聞くのは悪いよねって思ってポケットに戻した。
 これは杉浦先輩と京子ちゃんが考えることで、あかりはその手助けをするだけでいい、そう思う。

あかり「こんな時間になっちゃった。お父さんに叱られちゃうかも……」

 でも、走ったら寒いな~、そんなことを思いながら正門に向かう。明日も色々やることあるからそのことも考える必要があるよねと、学校と通学路の境界線を跨いだとき、影に隠れて誰かがいた。
 一瞬暗くてわからなかったけど、そのシルエットが誰かは何となくわかって、こんな時間なのになんでいるのかなって思いながらも声をかける。





41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:07:23.69 ID:L62z0KCK0

あかり「結衣ちゃん」

 声をかけたところであかりがいるってことに気付いたみたいで、振り返ると同時にいつものように軽く言葉をくれた。
 でも、やっぱりなんでこんな時間まで残っているんだろうって思った。

結衣「生徒会? あかりは大変だね」
あかり「えへへ、でもみんなのためにできることをやるのは楽しいよ」
結衣「まったく、昔からその性格は変わらないね」

 そう言って結衣ちゃんは先に歩き始めて、その後を追いかける。
 そういえばこうやって結衣ちゃんと二人で帰るのはなんだか久しぶりだなって思う。
 この頃のことを思えば、なかなかみんなと一緒に帰る時間がないな~なんて思えてくる。

結衣「生徒会の引き継ぎ、どんな感じなんだ」
あかり「うん、杉浦先輩もよく教えてくれるから。スムーズに進んでるよ」
結衣「そう、それでさ。あかり……」

 そこで、なんだか結衣ちゃんが何か言い辛そうな顔をした。
 なにかな、もしかして京子ちゃんと何かあったのかなって思って、そういえば昨日のあかりが送ったメールに京子ちゃん返事してくれなかった。
 京子ちゃん風邪を引いたし、もっと京子ちゃんのことを思ったメールの文章にすればよかったのかな?
 そんなことを考えながら結衣ちゃんの言葉を待っていると。
 結衣ちゃんが振り返って、あかりのことをじっと見てきた。
 なんだかとても真剣な顔で、それがなんだか怖かった。

あかり「結衣……ちゃん?」
結衣「あかり……、来年さ……」

 結衣ちゃんがこれだけ言い辛そうにすることって……

結衣「進学校受けようとしてるって……ホント?」





42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:08:18.39 ID:L62z0KCK0

あかり「……」

 なんで知っているのって思った。
 あかり、まだ生徒会の人としか話したことなかった。

結衣「ねぇ、あかり。嘘だよね? 嘘じゃなくても私たちの行く学校に後から入ってきてくれるんだよね?」

 いつもみたいに、頼れる結衣ちゃんみたいな冷静な顔がそこになかった。
 なんで、そんな戸惑っているのか、あかりにはわからない。
 本当なら、あかりが混乱したいのに結衣ちゃんの冷静じゃない姿が、頭の混乱を遠ざけている。
 だから、あかりは答える。

あかり「あかり、進学校に行こうって思ってるよ」

 進学校に行くことは、あかりが決めたこと。多分、来年になってもこの考えは変わらない。
 だから、結衣ちゃん。そんな泣きそうな顔であかりを見ないでよ。

あかり「結衣ちゃん、なんで泣きそうなの。あかりわからないよ」
結衣「あかりは、なんで進学校に行こうと思ってるの? 私、あかりにそんな夢があるなんて聞いたことないよ」

 夢、叶えたい夢なんてあかりには一つしかないよ。
 でもそれはあまり口にしない、口に出しちゃうとすぐに崩れてしまいそうになるから。

結衣「やっぱりなの、あかりはやっぱり……」
あかり「結衣ちゃん、あかりは……」

 いつもなら車も多く通っているのに、なんで今日は車が通らないのだろう。
 誰でもいいから今の間だけ、この通学路を歩いてほしいのに、ここにはあかりと結衣ちゃんしかいない。




43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:09:32.45 ID:L62z0KCK0

結衣「……行かないでよ」
あかり「結衣ちゃん……」
結衣「知ってるんだよ。あかりのこと、私はよく知ってるんだよ。なんで進学校に行こうとしてるのかも、大体察しがつくんだよ……」

 結衣ちゃんは下を向いたままで、あかりはもう何が何だか分からなくて。
 でも結衣ちゃんが知っているのは当たり前だって思った。
 だって、あかりは結衣ちゃんがこうなっているわけを知っている。
 それでも、進学校に行くのをやめようって思わない、悪い子だって知っているから。

あかり「結衣ちゃん、あかりの考えは変わらないよ」
結衣「あいつだったら変えるの?」

 その結衣ちゃんの言葉に、少しだけ動揺して、でもそれも無いはずだって心に言い聞かせて。

あかり「………変えないよ」
結衣「約束してよ。絶対に変えないって、これで変わったりしたら私、あかりを許せなくなる」

 弱弱しく小指が伸びてきて、それは指切りを望んでいるってわかった。
 あかりの考えが変わることなんてないよ。
 だからあかりは杉浦先輩の手伝いをしているのだ。
 それに、もしもそれで変わってしまったら結衣ちゃんだけが不幸になってしまうから。

あかり「うん、約束は守るよ。あかり、約束を守るのは得意なんだ~」





44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:11:03.48 ID:L62z0KCK0

 伸ばされた小指に小指を絡めて、指切りをする。
 子供みたいな無邪気な行為だったらよかったのにと思っても、やっぱりそんな軽いことに思えない。
 結衣ちゃんはすごく悲しんでいて、あかりはそれを抱き締めてあげた。
 でも、それが結衣ちゃんにとってうれしいことなのかと聞かれたら、多分ただの慰めになっちゃうのだってわかる。
 だって、あかりは結衣ちゃんから告白されて、それを断ったことがあって、その時もこうやって抱きしめてしまったのだから。
 あかりはみんなが幸せになるといいなって思っている。
 あかりができることで、あかりの手が届く範囲でもいいからみんなが幸せになることがあかりの夢なのに。

結衣「私がもういいっていうまで、絶対に約束守ってよね……」

 結衣ちゃんを泣かせてしまって、誰かを不幸にしている。
 それがおかしなくらいに滑稽で、結衣ちゃんを幸せにしてあげるために告白に頷けばよかったのに。
 でも、その「のに」っていう言葉は、なんだか投げやりであかりは結衣ちゃんのことを、本当に好きな人として見ることなんてできない。
 そういう意思表示みたいに感じた。

結衣「あかり……」
あかり「うん、約束だよ」





45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:11:46.78 ID:L62z0KCK0

―結衣―

 あかりに抱き締められながら、私は告白をした日のことを思い出していた。
 新学期が始まり、夏の到来に合わせて舞い込んできた生徒会の話。
 私と京子はすでに3年生で入るっていう選択肢がなかった状態だったから、自然とちなつちゃんとあかりに矛先が向いた。

綾乃「もう頼れる人がいなくて! 吉川さん、赤座さん、生徒会に力を貸してほしいの!」
千歳「私からもお願いや」

 最初、私は二人が断るものだって思っていた。ちなつちゃんは、自惚れかもしれないけど私といる時間のほうが重要だろうし、あかりも私たちと一緒にいる時間のほうが大切だって思っていたから。
 土下座までして頼んでもらったけど、あかりもちなつちゃんも生徒会に入る事も無いし、手伝いをすることも無いと思っていた。

ちなつ「先輩、残念なんですけど私は………」

 ちなつちゃんの返事に仕方ないかって二人が立ち上がって帰ろうとする。
 だから、大変だなって思いながらもこれから何をしようかって他人事になりかけたところで、あかりが手伝うよって言ったのだった。
 それから少しずつあかりがごらく部に来ることが少なくなっていって、気になって生徒会室に行く事まであった。
 私はそれなりに冷静でいられるっていう自信はあって、私があかりに対して抱いていた感情にだってそれなりに気づいていた。





46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:12:31.53 ID:L62z0KCK0

 昔、京子とあかり三人で遊んでいたころから、それなりに意識していたのかもしれないし、中学校に上がってからは完全に意識していた。
 あかりのあの他人にも優しくできる性格とか、そういう振舞いを見ていると胸が痛んだ時もあった。
 ちなつちゃんとキスしている姿を見たときは、あまりの衝撃にそこから京子と一緒に逃げだして家に帰った後になってからショックが支配していた。でも、あれが誤解だってわかった時は心底安心していた。
 そしてあかりが中学2年生、私たちが中学3年生になって、生徒会の用事であまりあかりが、ごらく部にいないと寂しいってことに気がついていた。
 これはどんな感情なのかって考えて、あかりを独り占めしたいっていう独占欲なのかなって悩んだこともあった。多分、本当はその独占欲に近い好意だった。

綾乃『あかりさん、この資料お願い』
あかり『はい、杉浦先輩』
千歳『ほんま、あかりさんはよく仕事するわ~』

 ある日近付いた生徒会室、中から聞こえる声は楽しげで、同時に前まで名字で呼んでいた千歳と綾乃が名前で呼んでいることに嫉妬した。
 今思えば、名前で呼ぶのも名字で呼ぶのかは人それぞれで、呼ばれ方に異を唱えるのはあかりの権限なのに、まるでそれが私にあるように勘違いして、あかりをどうにか私のものにしたいなんて、馬鹿げた考えが浮かんでしまった。





47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:13:25.15 ID:L62z0KCK0

 今日と同じように校門で待ち伏せした。
 京子とちなつちゃんは用事があって帰っていたから、自然とあかりを待つ口実ができていた。
 緊張とかそういうのが全くなかった、怖いくらいに冷静にあかりを私のものにしようなんて考えていた。今思えば、狂っていた。
 まだ日が長い頃だった。17時になっても明るいくらい。
 私は経つ時間も忘れていて、空をぼんやり見上げながらこの後のことを考えていた。
 でも結局、やっぱり私のものにしようなんて考えになっていたのは、思考なんてあまりしてなかったからかもしれない。

あかり「あれ、結衣ちゃんだ~」

 多分、その待っている間で唯一心臓が跳ねたのはその瞬間だけだったと思う。
 あかりが私に声をかけてくれて、結衣ちゃんっていう言葉で呼んでくれて、抱き締めるかどうかを悩んでいたくらいだった。
 一緒に帰る道、それだけでもうれしくて、これからそんなあかりが私のものになるという馬鹿げた妄想だけが動き回っていた。

結衣「あかり、ちょっと家に来ない?」

 それがあかりを家に招き入れるための言葉だった。
 まだ明るかったしあかりの性格を思えば、この言葉だけでも家に来るだろうって思ったから。
 案の定、あかりは喜んで私の家に足を運んでくれて、私は心の中で安心した。
 手荒な事をしないであかりを家の中に入れられるなんて、馬鹿げた感想を浮かべながらだ。





48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:14:07.80 ID:L62z0KCK0

 あかりに先にリビングに行ってもいいよって言って、私は鍵を閉めた。
 チェーンロックもした、こうすればあかりが逃げ出しても、チェーンロックに気づかないで開けられないはずだなんて思ったから。
 妙に頭がすっきりして、この後はどうすればいいんだろうなんて思っていたけど、気にすることもない、なんて呟いていた。
 リビングに入ると座りながら、「結衣ちゃんの家に来るのは久しぶり~」って周りをキョロキョロ見回している。
 特に真新しいものは準備してないけど、久しぶりに来て新鮮な感じだったのかもしれない。
 今思えばそう考えられたと思うけど、その時の私はあかりのことしか見てなかった。

結衣「あかり」
あかり「ん、なに、結衣ちゃ――」

 本当に自然だった。近づいて肩を軽く押す。怪我なんてしない優しい力であかりを押し倒した。
 あかりも何が起きたのかわかってなかったみたいだったし、私の方は頭もすっきりとしていた。
 これから、あかりを私のものにするっていうこと、そしてその時の私は告白をしようとかそういうことを考えていなかった。
 だって、その時の私は完全に狂っていて、あかりに告白なんてしなくても大丈夫、あかりも私のことを好きでいてくれるはずだなんて、ストーカー丸出しの思考だったから。

あかり「ゆ、結衣ちゃん、どうしたの?」

 不安げな瞳、そんな不安にしなくても大丈夫だよ。
 ボソボソ呟く私に、あかりの顔がどんどん不安に彩られていくのを感じた。





49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:15:02.41 ID:L62z0KCK0

結衣「あかりの髪ってきれいだよね」

 手を伸ばして髪を触る。
 ビクッと震える体、その震えであかりが私の下にいるってことが感じられて、とてもうれしかった。クシャクシャって髪を撫でる。優しく撫でているけどあかりの震えは止まらなかった。

結衣「あかり、なんで震えてるの?」

 あかりは何にも答えないから、寒いのかなって思った。
 なら抱き締めてあげないと、なんて思っていた私は完全に馬鹿だった。
 その時だけは、本気であかりは私のものだから私が守るべきだなんて思っていた。
 抵抗しないあかりの上着に手を伸ばして、ボタンを外す。
 その間、何も言わないで震えているあかりを、ギュっと抱き締めて胸に耳を当てて、心臓が恐ろしい早さで鼓動しているのを聞いて喜んでいた。
 私でこんなにドキドキしている。
 だから直に聞きたいなんて思っていた。全く動かないあかりの胸のボタンを一個ずつ外していく。
 少しだけ「やめてよ」って言葉が聞こえたけど、私は無視した。
 可愛らしいスポーツブラが見えて、そこに耳を当てて鼓動に耳を傾ける。
 せわしなく動くその音、あかりの心臓がなんでこんなに頑張っているのかなんて、私といて緊張しているからだって思っていた。
 だから、もう一度あかりの顔を見たとき、その目尻から零れている物の意味を勘違いした。





50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:16:59.27 ID:L62z0KCK0

あかり「ううっ、やめてよぉ、ゆいちゃん……ひっぐ」
結衣「あかり、なんで泣いてるの?」

 それはあかりの涙だった。
 なんで泣くの、私とこうなれたからうれしくて泣いているの? その涙を拭ってあげて、安心させてあげなくちゃなんて思った。
 でも、どうやって安心させればいいのだろう。
 抱き締めてあげた、涙も拭ってあげた。
 でも泣きやまない、ならあかりとキスしよう。
 そうすればあかりは安心するだろう。
 箇条書きにすれば反吐が出るような一方的な考えで、正常な人から見れば自惚れと狂気であることは間違いなかった。
 でも、その時の私にはそれしかなくて、自然と唇をあかりの唇に伸ばしていた。
 もう泣くことは無いよとか、離れたりしないよとか、あかりがそれを嘆いたことなんてないのに、あたかもそれが望みであるように錯覚した。

結衣「あかり……」

 下顎に手をやって、そのままあかりの唇に私の唇を重ねればいい。
 それだけであかりは安心する。
 私はあかりとキスができて、まさに一石二鳥だと、考えている愚かな私。

あかり「   …」

 だから、あと数センチで聞こえてきたその言葉に、私の動きは止まってしまった。





51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:17:50.36 ID:L62z0KCK0

 近づけていた唇はもう離れていた。
 目の前には泣きじゃくりながら、上はブラだけになったあかりがいた。
 この時、頭の中が無駄に常識を取り戻していた。
 今さっき聞こえた言葉に、私の常識が急速に理性を取り戻し始めていた。
 客観的にこれはどういう状態なのか、私がやっていたことはいったいどういう行為だったのか?
 泣いているあかりから出た言葉は、なんであんなにも怖がっていたのか。
 答えは単純だ、あかりは純粋に私がした行為に対して怖がっていたのだ。

結衣「あ、あかり……」
あかり「ゆ、結衣ちゃん、あかり、何か悪いことしちゃったの?」

 涙目のあかりがそう聞いてくる。
 何か私に悪いことをしたのか?
 私はあかりに何か嫌なことをされたのか?
 答えはノーで、私が嫉妬に流されただけのことだった。
 その瞬間、私自身がやった愚かな行為に気がつく。
 これはただの強姦、レイプだ。

結衣「あ、ああああ」

 死にたくなった。
 この時だけは本当に死にたくなった。
 こんなひどいことをあかりにしてしまったこともあるし、なによりあかりの言葉の意味を理解できたから。
 私は、あかりの親友で、それ以上は望めないのだと理解してしまったから。
 頭に浮かんだ手っ取り早い死に方に、台所の包丁が思い浮かんだ。
 それで首を切って死のう。首を切れば、痛いだろうけど死ねるはずだ。
 だから、すぐにそれを行おうとした。




52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:18:30.47 ID:L62z0KCK0

 でも、それより先にあかりが私の腰に手をまわしていた。
 振り払おうって思えば振り払えるそんな力。
 まだ手と体の震えは止まってないのに、なんで私に触れることができるのだろうなんて思って。

あかり「結衣ちゃん、大丈夫だよ」
結衣「なにが、大丈夫なんだよ」

 声も震えているじゃないか、なんでそんな状態なのに大丈夫なんて言えるんだ。
 でも、あかりが形は違うけど、抱き締めてくれていることに、少しだけ安心する私がいた。

あかり「結衣ちゃん、あかり平気だから。もう大丈夫だから」
結衣「なんで、私がやったこと、非難しないんだよ!」

 安心していても、まるで私のやったことに対して関心がないみたいな言い草に腹が立って、あかりを振り払う。
 倒れたあかりを見ながら私はやろうとしていたことを全部吐き出す。
 私のものにしようとしていたとか、唇を奪った後のことも全部を吐き出して、それでも私を許せるのかって聞く。
 汚れた思考ばかりの私を、これからも友人として見ていけるのかって聞いた。
 虫のいい話だってわかっている。許してもらうならそれなりの態度と言葉が必要なのに、私は私の持っているすべての欲をあかりに求めている。
 素直にいえば、嫌いにならないで、友達のままでいてほしいっていう意味だ。





53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:19:12.49 ID:L62z0KCK0

 そしてすべてを言い終わって、私は膝を付いた。
 もう情けなくなった。
 あの言葉だけで揺らいでしまう私に。
 こうしてこんなことをしてしまったのに、嫌わないでくれなんて懇願している私に。
 あかりは何も言ってくれない。
 あかりから嫌われてしまったら、私には何も残らない気がしてならなかった。
 だから、死にたくなったのにあかりはなんでそれを止めるのだろう?

あかり「……結衣ちゃん」

 だから、こうして今日のように抱き締められた時。
 私は心の底から気付いた。
 こんなことをした理由、あかりが愛しくて、愛しくてたまらないのだって。
 好きなんてレベルじゃない、愛しい。
 だから、こうしてあかりが泣いている姿を見ると、それをどうにかしてあげたくなるのだって。

あかり「あかりは、結衣ちゃんのこと嫌いになったりしないよ?」
結衣「……あかり」
あかり「あかり、結衣ちゃんの友達だよ」

 その言葉で、私はあかりの特別には絶対になれないのだってわかった。
 あかりのその言葉は、力強いくらいに私を安心させて、同時に悲しませた。
 だから、私も思っていることを言おうって思った。
 もう、隠しても意味がないってわかって、こんなことになってしまってごまかす気にもなれないから。
 あかりだけには告げておこう。





54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:20:28.03 ID:L62z0KCK0

結衣「私ね、あかりのこと好きだよ。愛してるよ」

 静かな部屋の中に、私の言葉がむなしく響く。
 あかりはその言葉に、ありがとうとごめんなさいを告げた。
 車が通り始めた下校道、抱き締めあっている私とあかり。
 こうして抱き締めてもらうと、そのことをぶり返しそうになるから離れる。

結衣「ごめん」
あかり「ううん、結衣ちゃんが落ち着いてくれてあかりうれしいよ」

 そう優しく告げてくれるあかりに、今さっき突きつけてしまった約束。
 もう信じられなくなる。
 あかりは進学校に行ってしまうという現実、できればそんな約束破ってくれてもいいのに。
 でも、そんな力は今の私にはなくて、多分あいつなら変えられるのだろうなんて思う。

結衣「あかり」
あかり「大丈夫だよ~、あかり決心だけは固いから」

 そう言って笑うあかりは無駄に寂しそうで、無理をしている気がして、でもそれをどうにもできない私がいて。
 流れた涙を拭きとって、あかりにそれじゃ、帰ろうかって告げる。
 あかりはそれに元気良く返事をしてくれて、横に並んで歩いてくれる。
 私は、今でもあかりを愛している。だから、同時に幸せになってほしいって思う。
 それが、あかりの信条としている、手の届く範囲の人が幸せになれますように、と言うものを踏みにじってしまうことになったとしても。
 だから、早く気付いてほしい。
 その時が来たら、私はそれを押す側にまわれるだろうから。
 だんだんと寒くなるこの頃、12月中間で雪が降るのだろうなって考えながら、私とあかりは帰り道をいつも通りに帰っていった。





55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:21:59.24 ID:L62z0KCK0

―京子―

 綾乃とデートをする約束から、もう結構な時間が経っていた。
 明後日にはそのデートが控えているわけで、この頃の勉強疲れを解消するには、とてもいい気分転換になりそうだ。
 そんなことを考えながら、私は前と同じように部室に行かないで図書室で勉強していた。
 この頃は一人で学校に行くことも多くなったのは、ごらく部のメンバーに会いたくないからなのだってことはわかっていた。
 それはそうだ、あと数カ月でちなつちゃん、あかりとは離れ離れにならなくちゃいけない。
 そう考えたらそれが別に今からだって早すぎるってことは無いだろうなんて、そんなことを考えた。

京子「う~ん、こんなに勉強してるとか、私もどうかしてるな~」

 こんな風に勉強に勤しむのは何とも私らしくないとは思う。
 やっぱり、避けているのだろうってことはわかっているから、それを自覚しながらも克服しようとしてないっていうことだろう。

京子「……」

 いつでもほとんど一緒だった、去年からは想像できないくらいに、私は一人で過ごしている気がする。
 だってそうだろう、ごらく部は卒業するまで遊び呆けていることを目標としていたはずだから。
 去年の私が今のごらく部を見たらなんて言うだろうかなんて考えて、結局同じように仕方ないのかなって思うのかな?




56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:22:33.95 ID:L62z0KCK0

京子「まぁ、受験近いし、仕方ないよな」
綾乃「何が仕方ないのよ」
京子「ん?」

 綾乃の声が聞こえたので視線を向けると、真横になんだか若干呆れたように溜息を吐いている姿があった。
 手には参考書、その格好はまるで勉強しに図書室に来ているようだった。

綾乃「勉強しに来たんだけど」
京子「私の心の中を読むなよ」
綾乃「別にいいじゃない」

 そう言って綾乃は後ろの席に座る。
 心の中を読まれた気分の私としては、なんだか釈然としない雰囲気だった。
 なんというか、綾乃が無駄に緊張しているように思えてならなかったし、なんで綾乃は私がここで勉強しているとわかったのか。
 正直、努力している姿はあまり見られたくない性質なのだ。

京子「う~ん」

 なんだか人に努力しているところを見られるのは、なんというか恥ずかしいのである。
 私という京子っていう人間は、そういう努力のしない楽天家として人の目には映っていてほしいわけである。
 まぁ、そういう願いが通用しないのは、多分あかりだけだと思う。

京子「って、なんで思い出すんだ」

 また微妙なもやもやした気分になってきた。
 こういうのは綾乃にちょっかいを出して解消しよう。そうしよう。
 後ろの席を見るとなんだか勉強しているのかよくわからない顔で、参考書とにらめっこしているように振舞っている綾乃がいた。
 参考書が上下逆な時点で、一体何をしているのかっていうところだ。

京子「綾乃~」
綾乃「な、ななな、なによ!」

 なぜそんなに狼狽する必要があるのか、綾乃はなんというか見ていて楽しいな。





57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:23:03.22 ID:L62z0KCK0

 それに明後日はデートなわけだし、その予定について聞いてみるのもいいじゃないかとか思った。
 私としてはとても楽しみなのだ。
 この頃のもやもやとかうっぷんを晴らせるわけだし、それにこの一週間と少しを掛けて綾乃が作ったデートプランというやつが楽しみなのだ。

京子「デートプランはどんな感じなんだ?」
綾乃「な、ななななん、とと、歳納京子! なんでその話を振ってくるのよ!」

 予想通りトマトみたいに顔が真っ赤な綾乃に変わった。
 生徒会長がそんな大声を図書室で出していいのかなんて思いながら、周りを見ると思った以上に注目の的になっているようで、綾乃の顔が真っ赤を通り過ぎてフルフルって震え始めている。
 なんだか悪いことしちゃったな~、なんて思いながらごめん、ごめんと呟いて、綾乃を落ち着かせる。

綾乃「は、恥ずかしかった……」
京子「ごめんって、それでさ、デートのことなんだけどさ」
綾乃「それは明後日まで秘密で、これ以上の追及は罰金バッキンガムよ!」

 結衣がいたら笑ってそうだなんて思いながら、なんでここに来たのか聞いてみることにした。
 よくよく考えたら、綾乃は大抵勉強を家とかでやるって言っていたし、わざわざ図書室に来てまで勉強することなんてなかなかないと思ったから。





58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:24:12.22 ID:L62z0KCK0

京子「そういえば、なんで図書室なんて来たんだ?」
綾乃「え、えっとね……」

 そこでなんだか言い辛そうにする綾乃、まるでここに誰かいるから来たみたいに感じるけど。
 もしかして私がいるからか!とか、自意識過剰なことを考えて、これ言ったらおもしろい狼狽してくれそうだけど、それそれで後々変なことになりそうだから言わないことにしておく。
 だから、代わりの言葉に固まった。

綾乃「あかりさんがね」
京子「あかりが?」
綾乃「え、えっとね……、デートがもう明後日だから歳納京子と話してきたらどうかなって……」

 実際、私と綾乃がデートすることくらいみんな知っている、っていうか私が言いふらした感じだから、あかりが知っていてもおかしくないことなのに、なんだろうか。
 なんだか嫌な気分になる。

綾乃「わ、私もね。明後日のデート楽しみにしてるから、その事前にちょっと話がしたくてね」
京子「なるほどね」

 あかりとは、あの日以来あまり会話をしてない。
 なぜかだけど、この頃は廊下ですれ違うこともあまりなかった。
 まるで、私が今結衣を避けているみたいに、避けられているみたいな気がした。

綾乃「うん、ただそれだけで」
京子「勉強はしないの?」
綾乃「……この参考書で受験勉強できるかな?」
京子「え~っと、『秘境アマゾンに住む不思議な生物』ね」

 なんていう本を綾乃は引いてくるんだろうか。
 論文の作成や、生物学を専攻するとかなら武器になりそうだけど、私たちが行こうとしているのはただの普通高だから、使わないね。

京子「勉強には向かないけど、なら私に勉強教えてよ」
綾乃「ふぇぇ! わ、私がお、教えるの?」
京子「うん、ちょっとここがわかんなくてさ」

 これ以上あかりの話は聞きたくは無いから、綾乃を引っ張って私の横に立たせる。
 これでいい、こうすれば勉強だけで今の時間を過ごせる。





59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:24:42.74 ID:L62z0KCK0


 でも、なんで私はあかりのことを未だに気にしているのか。
 遊べなくなるからなのだって思っても、やっぱり何だか引っかかる。
 綾乃が教えてくれる内容に耳を傾けながら、私はどこかぼんやりとした顔でときどき窓から外の景色を見ていた。
 まだ夕暮れにまでは時間がかかるその光景を見ながら、これを他に見ている誰かはいるのかって少しだけ感傷に浸るだけ。
 その誰かは私にとって知らない、他人だったらとてもいいなんて思いながら、シャーペンを走らせる。
 私は何を気にしているのか、それを理解することからも逃げている気がして、でもそれは無いって思う。
 だって私が悩んでいることは、みんなと一緒に遊べなくなることのはずだから。
 今は避けているけど、一段落した頃にはそれをどうにかするために遊んでいるに決まっている。
 淡いその予想図を描こうとしたけど、私にはその光景の中に、私以外の他人を描くことができなかったのだから。
 考える前に綾乃の声が聞こえてきて、私は勉強に頭を傾け始めた。





60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:25:31.87 ID:L62z0KCK0

 窓の外にはいつもの景色が広がっている。
 教室からも、生徒会室からも、いつも見る光景が広がって、あかりはのんびり資料とかをまとめながら誰も腰かけてない生徒会長の椅子を眺めている。
 杉浦先輩、うまく京子ちゃんを見つけられたかなって思いながら、前に結衣ちゃんが私にした約束を思い出す。
 どんなことがあっても変えない、変わっちゃいけない、揺らいではいけない。
 だって、あかりは約束を守る。
 守って、守って、ここまで来たのがあかりだから。

あかり「まだ、仕事終わらないな~」
千歳「ほんと、綾乃ちゃんは歳納さんが気になってしかたないんやな~」

 一緒に作業してくれる池田先輩は、元々杉浦先輩と京子ちゃんがくっついてくれるのが夢だったみたいだから、今幸せそうに作業している。
 あかりも、誰かが喜んでくれるとうれしくなるし、頑張ろうって思えてくる。
 勢いそのままに資料のまとめを再開していると、なんだかじっと池田先輩に見られている気がした。

あかり「池田先輩?」
千歳「あかりさん、なんやうれしそうなのと悲しそうなのが混じった顔しとるで?」

 それってどんな顔だろうって思いながら、池田先輩を見る。
 なんだかいつもみたいに暖かい笑顔だけど、なんだか不思議と威圧感があった。
 作業を何か間違えちゃったかなって、資料を探ろうとすると「そういうことじゃないねん」と手を振った。

千歳「あかりさん、なんかこの頃頑張りすぎやで?」





61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:27:26.09 ID:L62z0KCK0

60→―あかり― 入れ忘れました。

↓ここから続き

 池田先輩の言葉に、あかりはそんなに頑張って仕事しているのかなって思った。
 櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも一緒に仕事してくれることもあったし、こうやって池田先輩も手伝ってくれて、杉浦先輩からも引き継ぎを教えてもらいながら手伝ってもらったから、そんなにいっぱい仕事をしている実感は無かった。

 千歳「いやいや、生徒会の仕事のこととちゃう」
あかり「じゃぁ、なんなんですか?」
千歳「なんやろ、あかりさん。この頃、あんまり笑ってない気がしてな~」

 そうかな、いつもニコニコするのが取り柄だよねって京子ちゃんに言われたことあるくらいにニコニコしていることのほうが多いのに。
 だって、バカっぽいって言われたこともあるくらいだよ?

千歳「あかりさん、いつも笑ってるってみんなから言われてるかもしれんけど、私から見ると、この頃無表情なこと多いで?」
あかり「そ、そんなことないですよ」

 なんで焦って返事をあかりはしているのだろう。
 静かな部屋の中、今はなんだか池田先輩といるこの空間が、なんだか重たくて仕方なかった。
 まるで首を絞められているような、息苦しさを感じて自然と視線が窓に向いた。

あかり「そんなこと、あるわけないですよ……」





62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:28:09.39 ID:L62z0KCK0

千歳「ならいいんやけど……」

 そう言って池田先輩は作業を再開する。
 このまま続けても、後一時間くらいは掛るのじゃないかって量、でも今は目の前にある作業に集中する。
 そう、作業をすればいいの。
 あかりは、周りのみんなが幸せになれるように作業してればいいの。
 それがあかりのするべきことだって思っている。
 だから、この頃辛いとか、そんなこと思ったりしない。

あかり「辛くなんてない」

 そう、辛くなんてないよ。
 京子ちゃんに思いを寄せてくれる杉浦先輩が幸せになって、京子ちゃんもそれで幸せになれるって思っている。
 二人とも付き合ったらとてもお似合いな二人だから、池田先輩だってそう思ってくれているに決まっている。
 だって、あかりにはわかる。
 池田先輩は、杉浦先輩に幸せになってほしいって思っているって。

千歳「あかりさん」
あかり「なんですか、先輩?」

 だから……

千歳「あのな~」

 私は……

千歳「綾乃ちゃんの応援してるの、ちょっとおせっかいや」

 その言葉に凍りついた。





63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:28:46.46 ID:L62z0KCK0

―千歳―

 どうやらウチの言葉に、あかりさんは混乱してるみたい。
 でも、あかりさんは何か勘違いしてる感じがしたから、少し言っておくことがある。

あかり「お、おせっかいって……」
千歳「せやな、ウチも綾乃ちゃんと歳納さんがくっつくって言うことには何ら文句は無いんや」

 これは本望、だってウチは綾乃ちゃんのことが好きやからな。
 一緒に生徒会やってきたこともそうだし、何より1年生から一緒の仲。
 最初の頃の綾乃ちゃんと比べたら、今の綾乃ちゃんは話に聞いている昔の歳納さんと同じくらいの違いがある。
 何かに夢中になると一直線な、そういう綾乃ちゃんになったのは、歳納さんに会えたからやって思う。

あかり「なら、なんでおせっかいなんですか……」

 あかりさんの手の動きが止まって、ウチをジーっと睨んでくる。
 やっぱり、あかりさんもこういう顔するんやなって思った。
 だって、そうやろ。
 ウチらは人間なんや、嫌なものは嫌と感じる。

千歳「そうやね。おせっかいな理由やったな」

 今、ウチはどんな顔をしているんかなんてわからないけど。
 多分、今のあかりさんと同じくらいに挑発的な目をしてるんだと思う。
 現にウチはあかりさんに嫌悪に近い感情を抱いてるし、それをごまかすつもりなんて更々ない。




64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:29:32.98 ID:L62z0KCK0

あかり「池田先輩だって、杉浦先輩と京子ちゃんが結ばれたらうれしいですよね。なんであかりのやってることをおせっかいだなんて言うんですか!」

 これほどの大きな声を、生徒会室であかりさんが出したことは無かったと思う。
 よほど、誰かのためにしていることを否定されるのが嫌なのだなって思った。

千歳「うん、うれしいでー。二人が結ばれたら、すっごく嬉しい」
あかり「じゃあ、なんで!」

 あかりさんはそう言う。
 他人から見たら、分かってないのかって思うんやろう。
 不器用な人だなって、可愛そうな人やなって。
 自分の気持ちにも気づけない、そういう人なんやなって。
 もしも、そういう人だったらウチは気付かせてあげる。
 それがその人のためにもなるし、なにより綾乃ちゃんのためにもなるから。

千歳「いつまで、そんな風に振舞うんや?」
あかり「な、何がですか!」
千歳「もうええ、でもこれだけは言わせてな」

 だから本当にわかってないんだったらよかった。
 それなら、まだ良かったんや。
 でも、赤座さん。
 貴女は、自分の気持ちと、今やってることの意味も、すべて理解してるから……

千歳「綾乃ちゃんを、あんたの未練の掃き溜めに使わないで」

 許すことができへんのや。





65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:30:15.31 ID:L62z0KCK0

あかり「は、掃き溜めって……」
千歳「……」

 これが綾乃ちゃん以外の女性だったらよかった。
 それならウチは何も気にすることなんてなかったから、残酷やけど千鶴に綾乃ちゃん以外の人を、ウチは死んでも守ろうなんて思わへん。
 千鶴は血の繋がった妹で、綾乃ちゃんはウチの大好きな人。
 だから、それ以外の人が不幸になろうとウチには関係ない。
 でも、綾乃ちゃんはあかりさんに相談したんや。
 ウチじゃなくて、歳納さんの近くにいたあかりさんに。

千歳「ウチ、今のあかりさん嫌いや」
あかり「!」

 このままや、3学期迎える前にあかりさんと絶縁してしまうくらい。
 ウチは今のあかりさんが嫌い。
 応援してるようにして、綾乃ちゃんに不幸へと落ちて行くだけの恋に案内してる。
 そんな性質の悪い行為を、平然と行うあかりさんを、よく思うことなんてウチにはできなかった。

あかり「あ、あかりは……」
千歳「今学期の生徒会の仕事はこれで終わりやから、しばらくは生徒会室に来なくていい。いや、来ないでほしい」
あかり「………」

 立ち尽くしてるあかりさんに、もうウチから言えることなんて何もない。
 まだ残ってる資料のまとめを終わらせるために、せっせと作業を再開する。
 手際のいいあかりさんは、もう少しで終わるだろう。
 そして、6個くらいの資料をまとめ終わったところで小さく扉が閉まる音がして、向かいの席を見るとあかりさんの姿は無かった。
 かわりに、これお願いしますって書いたメモと一緒に資料が大量に置いてあった。

千歳「まだやることが残ってるんやけどな~」





66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:30:47.81 ID:L62z0KCK0

 その資料と、今やっている資料をまとめる。
 まぁ、あのままこの部屋で資料整理を続けられるくらいに、あかりさんの肝が据わってたらもうどうにもできなかったけど、出て行ったならまだどうにかなるのかもしれない。
 そんなことを思いながら、まだやるべきことがあるなって思った。

千歳「でも、それは向こうがどうにかしてくれるやろ。ウチが気づいてるんやから、多分あの子は気付いてるやろうし」

 変なものだけど、ウチはあのごらく部のメンバーを慕っていて、同時に信頼してる。
 綾乃ちゃんに色々な可能性をくれたのがごらく部のメンバーだったからかもしれない。
 そのごらく部のあかりさんがこういう状態なのが、少し心配やけど。

千歳「ウチが言うのは少しばかり荷が重すぎるって言うか、嫉妬丸出しになってまうもんな」

 そんな風に言葉を漏らしながら、まったく面白くない状況やなって思う。
 前みたいに、ウチは2人の姿を妄想して鼻血流して、あかりさんがティッシュくれるっていう図になればよかったのに。

千歳「ほんま、感情っていうのは厄介なもんやで……」

 再び始まる資料まとめ、今日はもう少し時間が掛るんやろうけど、まぁ仕方ないかと、ウチは気合を入れなおした。




67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:31:23.62 ID:L62z0KCK0

―ちなつ―

 ごらく部には今日、私しかいない。
 結衣先輩も京子先輩も勉強で忙しいって言うし、あかりちゃんはそもそもこの頃ごらく部に来てないから勘定に入らないわけで、こうして一人過ごすのはある意味で日課みたいになりつつあった。

ちなつ「はぁ~、やっぱり結衣先輩ってあかりちゃんのこと好きだったんだ」

 この前、見た結衣先輩とあかりちゃんは、すでに一悶着があってそれが解消された後の関係のようだった。
 泣き崩れる結衣先輩を優しく抱き締めるあかりちゃんの姿に、自然と嫉妬とか起きそうだったけどそういうのは無かった。
 なんというか、私が追い求めてやまない結衣先輩の印象とはまったく違っていたからかもしれない。

ちなつ「あかりちゃんが進学校を来年受けようとしてるって話が転がり込んできてから、なんかみんな変わっちゃった気がする」

 私自身、何か変わったことがあるかというとそういうわけではない。
 同時に思うことがあるとすれば、この頃の京子先輩の動向である。
 京子先輩は、この頃杉浦先輩と過ごしていることが多いっていう話で、図書室でよく一人勉強しているらしい。
 昔のごらく部を思えば、それが異常事態であることは間違いなかった。
 というか、一人で部室にいるのは、まるでぼっち部ではないか?





68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:32:13.58 ID:L62z0KCK0

ちなつ「それにしても、偽って生活するのって辛くないのかな?」

 このごらく部のメンバーの中で、偽ってないのは私くらいなんじゃないかって思う。
 まぁ、それは自惚れているだけかもしれないけど、少しこれには自信が持てる。
 あかりちゃんは偽りながらも、それを承知で気付いてないフリをして、京子先輩は気づいてなくて、結衣先輩はまだ偽っている側に残っている。
 多分、あの中に入ってきた私はかなり異質だったんだろうなんて思う。

ちなつ「はぁ、今の結衣先輩はなんだか私の好きな先輩じゃないんだよね」

 今の先輩に私が求めている姿は無くて、それが少しばかり悔しかった。
 あかりちゃんは、結衣先輩にとっての特別になれるチャンスがあったのに、それを振った。
 それが指し示すことなんてわかってるから、それはそれでかなり一途だ。
 私が結衣先輩に求めているものよりも、遥かに高い思いがあるんだ。

ちなつ「素直になれないか……」

 今学期と今年もあとわずかになってきて、色々と急ぎ始める中で、私は何かをするべき時にあるんじゃないかって思う。
 少し前に聞いたことがある、あかりちゃんの夢。
 極端にいえば、みんなが幸せになれますように。




69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:33:59.07 ID:L62z0KCK0


ちなつ「あかりちゃんらしいけど、あまりよくは無いかな」

あかりちゃんらしいというのは、あかりちゃんの性格を理解しているなら当然のことだった。だからこそ、あかりちゃんの考えが良くない物だってことを、私は理解してるつもりだ。
あともう一つの問題を思い浮かべる。
あかりちゃんはどうにかなるかもしれないけど、あの2人のことはできる限り早めに真意を確かめたほうがいいと思う。
結衣先輩に私は恋をしていたから、なんとなく恋のニュアンスって言うのが分かる。
言い方を悪くすれば、それが愛によっての恋なのか、憧れによっての恋なのかとか、そういうニュアンスのこと。

ちなつ「はぁ、できれば結衣先輩と私のラブロマンスを二人がサポートしてくれたらよかったけど、そういうわけじゃないから荷が重くなるな~」

そう言って一度背筋をピンと伸ばす。
決して二人の恋が成就しないと面白くないからとか、もしくはその逆を望んでするわけじゃない。
そんな後味悪くて最低なことはする気は無い。
でも、他人から見ればそう見えるかもしれないし、あの2人から最低と言われるかもしれないけど、私はどうにかしてこのことをきかなくちゃいけない。

ちなつ「そうだよね。昔喧嘩しちゃったけど、今は私、みんなと友達なんだから」

友達が不幸になる姿なんて見たくない、それが私の本心だ。
生徒会のみんなだってそうだ。
だから、私は覚悟を決めて聞かなくちゃいけない。

ちなつ「だって、不幸な終わりなんてつまらないもん」

一人の部室で少しばかり天井を眺めながら、その時に向けて心を決めた。





70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:34:27.04 ID:L62z0KCK0

―京子―

 もう夕日も隠れて暗くなった通学路を、綾乃と一緒に歩く。
 最初綾乃の歩幅は、私の後ろくらいだったけど、今は隣を歩いている。
 顔を赤くしながら、もじもじしている姿はなんだか可愛いけど、一体何に緊張しているんだろうか?

綾乃「と、歳納京子……」
京子「ん~、どうした?」
綾乃「え、えっとね。明後日ので、デートなんだけどさ」
京子「おう、楽しみにしてるぜ」

 いい気分転換になるって思ってる。
 綾乃だって長い間の受験勉強と、生徒会の引き継ぎもあって色々疲れもあるだろうから、丁度いいやって思っているだろう。
 しかし、綾乃の選んだデートコースが明後日に拝めると思うと、何とも言えない感じになってくる。
 これはまさに、ハイキングとかに行くのに似ている。
 つまり、明日はワクワクが止まらナイトになる気がする。

綾乃「あ、ありがと……」
京子「なんでお礼されてるんだ私?」
綾乃「う、うるさ~い」

 照れ隠しみたいに大げさに動く綾乃をなだめながら、そろそろ分かれ道だなんて思う。
 明後日にはもう一度会える。
 本当に綾乃といるといい気分転換になるものだ。

綾乃「そ、それじゃ、あ、明後日、公園に集合ってことで……」
京子「へへ、それじゃね~」

 手を振りながら綾乃が路地に入っていく姿を見て、私はのんびりと歩き始める。
 空は暗くなり始めて、そろそろ寒さも増してくるなんて思うと、なんだか帰る足が速くなってしまう。




71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:35:20.08 ID:L62z0KCK0

京子「ふぅ~、寒い寒い」

 手袋を付けているのに、手がとても寒くて困ってしまう。
 そう思いながら近くにある公園が目に入る。
 昔、みんなとよく遊んだ公園で少しだけ寄って行こうかなんて考え始める。

京子「懐かしいし、ちょっと寄っていこう」

 どうせ、少しだけの時間だと中に入る。
 もう暗いし、かなり寒いこともあって公園には誰もいなかった。
 滑り台に登ってみようかなんて考えたけど、お尻が冷たくなりそうだからやめておいた。

京子「懐かしいや、ここでみんなと遊んだな~」

 そのみんなとは、あまりこの頃会っていないのに、私は何を言っているのだろう。
 ここで私、あかりが小学生になってしまうと駄々をこねたな~って思う。
 この前、夢で見たあの光景を思い出して、あの日あかりに言った言葉を思い出す。
 今思えば、私はなんていうことを言ったのだろうと思う。

京子「あかりは私を幸せにするために一緒にいなきゃいけないの……か」

 子供だからって言っていいことと悪いことがあるだろうって思った。
 それって、あかりの意思はどうでもいいっていう意味そのものだ。
 あかりはそれに困ったように笑って、でも京子ちゃんが幸せなら、あかりうれしいよって言った。





72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:36:22.15 ID:L62z0KCK0

京子「私、なんでこんなにあかりのことで荒れてるんだよ?」

 結局、寄ってもいいことなんてあるわけなかったんだと、今気がついたけど後の祭りだった。
 入る前と比べれば、あまり良い心境ではないことこの上なかった。
 明後日まで家から出ないほうがいいなんて思いながら、帰ろうとして誰かがいるのに気がついた。

京子「私の他にも物好きなんているんだな」

 小さい声でボソッと言ってその方角を見ると、見慣れたピンク色の髪があった。
 誰だろうなんて思う必要もなくて、でもなんでここに来ているのだろうって思った。

ちなつ「こんばんは、京子先輩」
京子「ちなつちゃん?どうしてここに?」

 そう言っている間に、ちなつちゃんは私の近くにまで歩み寄ってきた。
 久しぶりに見るちなつちゃんはなんだか、ちょっとだけ真剣そうな顔をして、どこか重たい感じがあった。
 だから自然と息を呑んでしまう。
 そんな私に「そんな緊張されると、まるで京子先輩を苛めてるみたいじゃないですか」と、言って笑った。

ちなつ「イジメイケナインジャー!ていう言葉を、思い出しちゃってここに来ちゃいました」
京子「イジメイケナインジャー!って、それ昔あかりが言ったことあるけど、なんで知ってんの?」
ちなつ「京子先輩鈍すぎです。ここはチーの縄張りなの!て言えば思い出します?」





73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:36:58.09 ID:L62z0KCK0

 その言葉で、ちなつちゃんが何を言いたいのか分かって、自然と体を守る態勢に入った。
 まて、そんな馬鹿な、あのかわいいちなつちゃんがあの、あの!

京子「チーチーだったなんて!」
ちなつ「変な名前付けないでくださいよ!」
京子「い、今更正体を現すとは、だ、だけど、昔の私じゃないぞ!」
ちなつ「はいはい、そんな昔のことなんてもうどうでもいいです。ちょっと京子先輩に聞きたいことがあってきました」

 そう言ってちなつちゃんは、ブランコに腰掛けて私を見る。
 今さっきの真剣な表情のまま、それが酷く不思議で、その隣のブランコに腰掛けた。

ちなつ「京子先輩って、好きな人いるんですか?」
京子「なんでそんなこと聞くんだよ」
ちなつ「気になったからですよ。ちなみに私は結衣先輩が大好きです」

 ちなつちゃんはどこか誇らしげにそう宣言していた。
 本当に自信満々に言ってくれて、私は言葉を失っていたけど、私自身に好きな人なんていない。
 昔から、そう今に至るまで本当に好きな人なんていない。
 だから、普通に私はいないよって答えた。
 だって、いないものはいないのだから、これ以上の答えは無いだろうなんて思って顔を上げる。




74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:37:29.51 ID:L62z0KCK0

京子「ちなつちゃん?」

 ちなつちゃんは呆れたように、首を振った。
 馬鹿にされているような気がして、少しだけ腹が立ってきて思わず、何かあるなら言えばいいだろと、口にした。
 ちなつちゃんはその言葉になんだか含むことがあるのか、意味ありげな笑顔を向けてくる。

ちなつ「京子先輩の初恋って、何時だったんですか?」
京子「だ、だから、好きな人なんて今までできたことないんだよ。なら、恋自体まだ未体験だよ」
ちなつ「そうですか、なら杉浦先輩のことはどう思ってるんですか?」

 なんでそこで綾乃の名前を出してくるんだ?
 確かに明後日、デートに行く約束をしているけど、綾乃は友達だ。
 そうだよ、なんなんだ、その言い方。

ちなつ「やっぱり、そうなんですよね」
京子「な、何がよ」

 酷く苛立っていた。
 私のことを分かったように呟くちなつちゃんに、とても苛立っていた。
 昔泣かされたことを思い出して、その時みたいに誰かに助けてほしくなる。
 誰かに近くにいてほしいって思う。
 誰かに支えてほしいって思う。
 でも、今は誰もいないから、一人で絶えなくちゃいけないって思うと、少しだけ体が震え始めた。

ちなつ「京子先輩、昔から変わりませんね。まぁ、私はあの時に一回会っただけですから雰囲気は変わったことはわかりますけどね」
京子「わ、私は変わったよ! ちなつちゃんは、私があかりと結衣と一緒に過ごしてきた時間なんて知らないからそんなこと言えるんだ!」





75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:38:18.47 ID:L62z0KCK0

 その言葉にちなつちゃんの顔が少し暗くなって、私を正面から見据えてくる。
 おかしかった、私が怒っていたはずなのに、ちなつちゃんからはそれ以上に怒っているそんな空気があった。

ちなつ「変わったですか……、今にも泣きそうにしてるじゃないですか?」
京子「そ、そんなことない!」
ちなつ「誰かに近くにいてほしいって思ってるみたいですし」
京子「っ!」
ちなつ「それで変わったっていうんですか」
京子「わ、わた、わたしは……」

 足が震えてならなかった。
 今さっきまでの楽しい気分が凍りつくみたいに、体中が凍りついてしまう。
 公園の寒さよりも、体の底に氷を入れられたみたいに、心が寒くなってく。
 なんで、私こんな目に会ってるの……

ちなつ「偽らなくてもいいんですよ。私、ごらく部のみんなはそういう偽りとかいうものからは一番遠くにいる人たちだって思ってました」
京子「い、偽りって、なんだよ」

 絞り出すように出た声はそれだけで、ちなつちゃんの言っていることの意味はよくわからなかった。
 でも、ちなつちゃんはただ一つ溜息を吐いてから、何かを言おうと口を開いた。

ちなつ「それはですね。あかりちゃんも京子先輩も、素直じゃないってことですよ」
京子「素直じゃないって、なんだよ!」
ちなつ「結衣先輩はもう、その偽りの輪からいつでも出られる場所に立ってますけど、あかりちゃんと京子先輩だけはまだ輪の中をグルグルグルしてるだけですよね」
京子「意味わかんないよ。やめてよ!」
ちなつ「なんでそうやって、理解しようとしないんですか!」





76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:38:54.55 ID:L62z0KCK0

 ちなつちゃんの手が肩に乗る。
 とても力強く、下を向いていた顔があげるくらいに強い力。
 肩が砕けてしまうのではないかって思えてきて、私は何も分からなくなってきた。

ちなつ「京子先輩! お願いです、気付いてください!」

 何を気付けっていうんだ。
 私の口はその言葉を出すことはできなかった。
 心で悪態を吐きながら、もう目からあふれ出る涙を止めることができなかった。
 純粋に、こうしてちなつちゃんに責められていることが怖くて、もう考えることなんてなにもなかった。

京子「こわい、こわいよ」
ちなつ「京子先輩……」
京子「わかんない、わかんないよ。なんで、こんな風に怒られなくちゃいけないの……」

 誰か助けに来て、そう心の中で願いながら誰も助けに来てくれない。
 もう動きたくなかった。
 地面に着いた膝が寒くなって、体全体が寒さに震えて、でも頬に感じる暖かい涙だけが妙に優しく感じた。
 悲しいから、怖いから、それから少しでも気を紛らわすように、私は泣き続けるしかなかった。

ちなつ「どうして、わかんないんですか」
京子「だれか……」

 耳を塞いで、もう何も聞こえないように私は振舞う。
 本当に何も聞きたくないから、早く終わってくれればいいなんてそんなことを思った。
 だから、ちなつちゃんの手が私から離れても、私は耳から手を外そうとしなかった





77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:40:57.99 ID:L62z0KCK0

 離れてちなつちゃんが公園入口のほうに顔を向けている。
 何も聞こえないから、ただそれを茫然と眺めていた。
 ちなつちゃんの顔はまだ変わってない、私に対してしていた真剣な表情のままに、その入り口を見ていて、やがて口を開いて何かを言っているみたいだった。
 誰かいるってことはわかったけど、その誰かが分からない。
 耳を塞いでいた手を外すと、耳に感じる冷たい外気と、周りの音。
 そして、ちなつちゃんの声。

ちなつ「なんで、そんな風に振舞えるの」
あかり「ちなつちゃんには関係ないよ」

 そう言葉が聞こえて、ちなつちゃんとは反対側にその声の主が立つ。
 同じ目線の高さにある赤い髪に丸い目、そして安心させてくれるような微笑みがあった。
 すぐ誰かわかった。

あかり「京子ちゃん、大丈夫?」
京子「あ…あかり?」
あかり「うん、あかりだよ」

 そう言って私の手をギュっとしてくれる。
 冷たい手が、暖かさに包まれるのが分かって、でもなんだか複雑に心が痛んだ。
 そんな私の心の痛みを分かっているようにちなつちゃんが、私を見下ろしながら言う。

ちなつ「後悔しちゃいますよ」
京子「わからないよ」
ちなつ「そうですか、でも最後に一つだけ」

 そう言ってちなつちゃんは、どこか悲しそうな顔をした。
 今さっきまでのまじめな感じじゃなくて、ただ悲しそうに。

ちなつ「不幸になるのが京子先輩だけなんてことないんですよ。他に巻き添えになる人のこと考えてください」





78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:41:37.64 ID:L62z0KCK0

 それだけ言ってちなつちゃんは公園から姿を消して、私のそばにいてくれるあかりだけが残った。
 まだ泣きやまない私を、あかりがなだめるように背中を優しく撫でてくれる。
 こぼれおちる涙がしょっぱくて、でも手を動かせなくて私はしばらく泣いたままだった

あかり「京子ちゃん、ごめんね。あかり、京子ちゃんが泣く前にここに来られなかった」

 そう言ってあかりは私を後ろから抱き締めてくれる。
 懐かしかった。
 泣いている時、こうやって抱き締めてくれることが多かったから、でも、それが少しだけ私の心を痛めた。

あかり「約束、守れなかったね……」

 約束、そう約束。
 あかりは私を幸せにするために一緒にいなくちゃいけない……
 私は今不幸せだ。
 ちなつちゃんに責められて、涙を流して、またあかりに気遣ってもらっている。
 あかりが近くにいると、心が痛い。
 ムカムカしてくるとは違うけど、痛いんだ。
 だから、自然と。
 私はあかりの手を振り切って。
 走り出した。
 後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
 心配してくれる音色が聞こえてくる。
 でも、今のそれが私には猛毒のように感じられて。
 逃げ出さずにいられなかった。
 公園を飛び出して、そのまま急いで家に向かう私の目からは、また涙がこぼれていた。
 どうして、涙が零れるの?
 空を見上げると、白いものがちらほらと目について、雪が降ってきたことを理解した。





79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:43:08.97 ID:L62z0KCK0

―あかり―

 京子ちゃんが走り去ってから、雪が降るまでの間をぼんやりと過ごしてた。
 いつもみたいに困ったように笑おうとして、笑ってみたけど携帯のディスプレイに反射する顔は、なんだか歪んで見えた。
 約束守れなかったね。
 京子ちゃんが幸せになれたらいい、泣かせるようなこと無いようにしてきたのに、今日は怖い思いをさせた。

あかり「えへへ、お、おかしいな」

 携帯のディスプレイに落ちる雨、あかりの天気予報はいつも晴れなのに、今日は雨になっちゃった。
 ちなつちゃんの言葉が頭を過って、昼間に池田先輩に言われたことに近いことを言われた。
 あかりは京子ちゃんが幸せになれるようにと思ったから、約束したから、あの日に約束したんだから。

あかり「泣かないでよ、あかりは泣いちゃだめなんだから」

 瞼を擦っても、涙はまだまだ溢れてくる。
 京子ちゃんが泣いちゃったから?
 違う、違うよって、分かっているから言葉が詰まってしまう。

あかり「わかってる、わかってるよ」

 だんだんと雪の勢いが強くなってきて、ここにいたら風邪ひいちゃう気がした。
 あまり体は丈夫じゃないことくらいわかっている。
 でも、この雪の中なら誰にも見つからないよ。
 だから、あかりはこの中で立ち尽くして、まだ溢れてくる涙を拭った。





80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:43:42.13 ID:L62z0KCK0

 止めどなく溢れてくる。
 溢れて、溢れて止まらないのは、分かっているけど知らない振りをしているからだって。
 子供じゃないのだからって言われたら、そうだねって言うしかなくて、やっぱりあかりは馬鹿だなって思う。

あかり「馬鹿でもいい、卑怯だって言われてもいい、嫌いだって言われてもいい!」

 京子ちゃんが、京子ちゃんが幸せだって言ってくれるなら、あかりが何言われたっていい!
 約束をあかりは守る。
 守って、守って、京子ちゃんが幸せになれるようにあかりが頑張ればいいの。
 でも、ならなんであかりは来年に進学校を受験しようって考えているの?
 その答えをあかりは知っていて、それが一番あかりにとって弱虫なところなのかもしれない。
 杉浦先輩と京子ちゃんが付き合って、それで京子ちゃんが幸せになって、あかりは静かに京子ちゃんから離れるの。
 離れないといけない、京子ちゃんの幸せの邪魔をしちゃうから。
 だって、今さっき京子ちゃんはあかりから逃げ出してしまったから。

あかり「避けられてるのもわかってる」

 でも、京子ちゃんが幸せになれるように頑張る。
 それだけでも、あかりは………
 とっても……

あかり「しあわせ…なんだよ?」





81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:44:18.38 ID:L62z0KCK0

 京子ちゃんが幸せそうに笑ったり、何か楽しそうなことしたり、何か間違えて悔しそうにしているけど、内心楽しそうにしているとことか、そういう風に振舞う京子ちゃんの幸せの踏み台になれるだけでも、あかりは幸せなの。
 だって、そう。
 あかりはね。

あかり「京子ちゃんのこと、本当に好きだから」

 池田先輩に言われたこと、分かるよ。
 杉浦先輩に私が京子ちゃんに思いを告げることのできないことを、押しつけるようにしていることも理解して。
 本当なら、京子ちゃんに好きだって。大好きだって、約束とか関係なしに大好きだって。
 あの日の約束が、あかりにはとてもうれしかったって、告げてあげたい。

あかり「でも、あかり臆病で、馬鹿で、ドジだから」

 素直じゃない、素直じゃなくて、京子ちゃんに押しつけるように杉浦先輩を動かしている。
 応援しているように見えて、とても醜いことしている。
 京子ちゃんが何を考えているのかなんてわからない、杉浦先輩と付き合うかもしれない。
 それでもいい、付き合ったっていい。
 京子ちゃんへの思いも、全部全部無くしてくれるくらいに、お似合いな二人組になってほしい。
 結衣ちゃんの告白を断って、辿りついた結末がこんなことだ。

あかり「しょうがないよ」

 あかりは京子ちゃんにとって、幸せになるための道具だって思われているんだから……





82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:45:01.74 ID:L62z0KCK0

 道具だから、京子ちゃんが幸せになれるように動けばいい道具だから。
 だから、京子ちゃんが泣かないように尽くしたい。
 京子ちゃんが楽しめるように尽くしたい。
 あかりはそう思う。

あかり「だから、好きだなんて思っちゃいけないんだ」

 あかりが道具じゃなくなるのは、京子ちゃんが幸せだよって言ってくれた時だけ、本当の意味で幸せだよって言ってくれた時だけ。
 今は昼間じゃないけど、前みたいに空を見上げる。
 顔に落ちてくる雪の冷たさが、頬を流れた涙の暖かさを消し去っていく。
 前は昼間なのに、流れ星が流れてほしいって祈った。
 中学生に上がって、京子ちゃんと一緒に日々を過ごして、好きだって本当に気付いてしまって。
 心が酷く痛んでいった。

あかり「明後日で、終わるのかな?」

 明後日で京子ちゃんと杉浦先輩が付き合ってくれたら、この心の痛みは全部消えてなくなるのかな?
 こんな風に、悩むことなんてなくなるのかな?
 考えても答えなんて出てこないのに、あかりは祈るように考え続ける。
 私の元に星は降ってこない。
 来ることなんてないから、願ってもそんなことあるわけないから。

あかり「だから、この気持ちをどこかに連れてってよ……」




83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:45:28.02 ID:L62z0KCK0

 雪はまだ止まない。
 涙の跡が冷たくなって、頬に刺激が加わり始めると、体全体がおもしろいくらいに震えてきた。
 体が温かさを求める。
 でも、それは心のほうだなって思う。
 どこまでも、凍りついてしまえばいいのにと思っても、この気持ちだけは凍りつかない。

あかり「こういうところだけ、なんで頑固なのかな」

 独り言、これ以上寒くなると体も冷えちゃう。
 少ししたら帰ろう。
 でも、あと少しだけ、此処にいたい。
 この公園を抜けたら、あかりはまた道具のあかりに戻らなくちゃいけないから。
 だから今だけでいいから、偽りのないあかりでいたかったから。
 雪は多くなって地面も雪で塗れていて、明後日二人のデートは雪の街だなって思って。
 最後に涙がこぼれた。





84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:46:00.83 ID:L62z0KCK0

―結衣―

結衣「わざわざ報告してくれるのは、おせっかいじゃないかな?」

 電話を片手にやっていたはずのゲーム。
 でも今はゲームの電源まで落として話をしていた。

ちなつ『ごめんなさい結衣先輩、でもやっぱり伝えておきたくて』
結衣「あの2人のことだよね」
ちなつ『はい、そうです』

 ちなつちゃんが何を言いたいのか、私は少しだけ理解できる。
 少しだけっていうのは、私もまだごらく部に所属しているからかもしれない。
 ちなつちゃんは恋愛に結構真剣な方だって前から思っていたけど、これほどなんて思わなかった。

結衣「ちなつちゃんはどう思ってるの?」
ちなつ『正直、絶対に良い結果にならないと思います』
結衣「即答しちゃうんだね」

 とは言いながらも、私は今のあの2人の様子を見てちなつちゃんと同じ感想であった。
 どちらにせよ、良い結果になるとは思えないことは確かだった。
 今さっき開けたばかりのポテトチップスには、まだ手をつけていないままで、このままじゃ湿気ちゃうかなんて思った。

ちなつ『結衣先輩はどう思ってるんです?』
結衣「まぁ、残念だけどちなつちゃんと同じ感想かな?」

 そう思うしかないってわかっていた。
 あかりだって、京子だって、本心を偽っていることはわかる。





85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:46:40.65 ID:L62z0KCK0

 あかりは偽りながらも、それを認めて偽り続けて。
 京子は偽っている事を理解しようとしてない。
 もっと簡単に言ってしまえば、二人とも素直じゃないが正解だと思う。
 そう考えると、本当にちなつちゃんは器用な子だなって思えるよ。

ちなつ『残念って、私結衣先輩からも信頼されてないんですかね?』
結衣「そういうわけじゃないよ。ただね、やっぱり、ちなつちゃんは私たちからすると眩しすぎるんだ」

 これは本当に私が思っている感想だ。
 ちなつちゃんはごらく部に入ってきたときから眩しかった。
 自分に素直で、まっすぐだし、思いっきり自信を持っているそんな女の子。
 私たちみたいに、お互い何か偽りながら生活を送ってきたことなんてないんだって思う。

ちなつ『眩しすぎるですか?』
結衣「うん、そういうこと。ある意味、そこはちなつちゃんに憧れちゃうよ」
ちなつ『結衣先輩なら、すぐにそうなれると思いますけどね』

 そう言ってから、少しばかりの沈黙があった。
 なんだか、ちなつちゃんに聞かれることが少しだけ予想できた。
 こうして電話してきてくれたことは、ちなつちゃんなりに考えたことなのだと思う。
 もう、無視できないのだろうけど、私はちなつちゃんの言葉を待っていた。





86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:47:25.99 ID:L62z0KCK0

ちなつ『結衣先輩は、あかりちゃんに、どうなってほしいんですか?』

 あかりにどうなってほしいのか、それがちなつちゃんの聞いてきたことだった。
 少しだけ部屋の中が寒くなった気がしたけど、それは勘違いだってわかる。
 私自身が少し寒くなっているのだってわかった。
 私があかりに望んでいることか……

結衣「ちなつちゃんは、どうなってほしいの?」
ちなつ『先に結衣先輩からお願いします』

 こちらの提案を完全に拒否されてしまった。
 なんだか、ちなつちゃんの積極的な言動に、私はよく押されちゃうみたいだなって思った。
 あかりにどうなってほしいのか、私は一度あかりに手を出して、それを許してもらえた身なわけである。
 そんな私があかりにどうなってほしいのかと考えて、この前交わした約束を思い出す。
 そうだ、そうだよね。

結衣「あかりには、偽るのをやめて素直になってほしいかな」
ちなつ『素直ですか?』
結衣「うん、あかりは素直じゃないよ。昔はそうでもなかったけど、小学校上級生になるくらいから素直じゃなくなった気がする」

 多分、私と京子が中学校に上がった時だろうか?
 あの日から、あかりが周りの人が幸せになれるようにという風に考えるようになった。
 その根っこにあるのは多分、京子の幸せだろうけどね。





87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:48:05.55 ID:L62z0KCK0

結衣「ちなつちゃんも同じ考えなんでしょ?」
ちなつ『当たり前です』

 本当に自信満々に即答してくる。

ちなつ『友達が不幸な恋をしてるんですよ。それをどうにかしようって思うのは友達として当然です』
結衣「不幸な恋をしてるって……、まぁ確かにあの2人は不幸な恋をしてるね」

 多分、この先の展開は若干だけ予想できる。
 あの2人は恋なんてしないほうがよかったと、そんな思い出を抱えることになるだろう。
 それがちなつちゃんとしては許せないことだろうなって思った。

ちなつ『結衣先輩も、そんな恋したくないですよね?』
結衣「そうだね、私の恋は本当にひどいものだったから」
ちなつ『あかりちゃんですよね?』

 その瞬間だけ、心臓がまじめに跳ね上がった。
 なぜ知っているって言う感じで、思わず受話器を落としかけたほどで、気付いたら笑い声が聞こえてきた。

ちなつ『あははは、結衣先輩動揺しすぎです』
結衣「いや、動揺しないほうがおかしいっていうか、なんで知ってん―――いや、私はあかりに恋したことなんてないよ」
ちなつ『今頃、まじめに訂正しても遅いですよ。というか、この前、抱き合っているのを見ましたよ?』





88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:48:34.64 ID:L62z0KCK0

 その言葉で完全に私の思考は停止しかけていた。
 なんてことだ、よりにもよってちなつちゃんに目撃されていたとは!

結衣「え、えっとね。あれは転びそうになった私をですね」
ちなつ『結衣先輩泣いてましたよね?』
結衣「目にゴミが……」
ちなつ『こういうことで無理なごまかしやめませんか?』
結衣「ごめんなさい」

 ちなつちゃんの覇気のこもった言葉に、何も言えなくなってただ一度謝罪した。
 そこで、また笑い声が入ってから少しだけ冷静な声が届く。

ちなつ『でも、結衣先輩が好きになったあかりちゃんが、このまま素直になれないで不幸になってくのは、見てられないよ』
結衣「ちなつちゃん……」
ちなつ『だからちょっと頼みたいことがあるんです。これは、もう私じゃできないことだから』

 その言葉は、私を頼っているということが分かるくらいに真剣な声だった。
 私にちなつちゃんは何をさせようとしているのか、それはあまり分からなかったけど、それがあかりのためになるかを聞いてから考えるのは悪くなかった。

結衣「うん、わかったよ、ちなつちゃん」
ちなつ『そういう実行力のある結衣先輩は好きですよ』

 ちなつちゃんは最後にそう言って、私に頼みたいことを言ってくれた。
 外の雪はまだ強いままだった。





89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:49:07.80 ID:L62z0KCK0

―京子―

京子「……」

 心の中のイライラはまだなくなりそうになかった。
 見上げた天井、今日降った雪と同じくらいに真っ白で、このもやもやもそういう淡い白だったらいい。
 そう考えても、やっぱりそんなことは無いのだってわかる。
 今さっきの公園での一件、昔から変わらない私をちなつちゃんに指摘されて、とても怖かった。
 自然と枕を抱きよせる。
 抱き締めると辛さとか、悲しみとかに耐えられるなんて誰かが言っていたけど、別にそんなことあるわけない。

京子「ううっ……」

 抱き締めれば抱きしめるほどに、ちなつちゃんの言葉が気にかかる。
 気にかかって、気にかかり続ける。
 素直に、ただ素直になってほしいと。
 いつか見た夢で、私は言われた。
 素直じゃないと、歳納京子は素直じゃないのだと。
 偽っている、私は何を偽っているのかなんてわからない。
 分からないから、ならいいじゃないかって思う。
 枕に顔を埋めて、深呼吸しながら頭の中にあるもやもやのなんと鬱陶しいことか。

京子「もう、なんなんだよ!」

 気持ちに負けて、思いっきり枕を投げ捨てる。
 壁に当たって落ちて、静かになった部屋の中で、枕の近くにある携帯が目につく。
 このイライラを解消したい、解消するのにいい相手がいるじゃないかって、分かっている。
 綾乃、綾乃に電話してみて、楽しく会話して、このモヤモヤした気分を解消したい。




90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:49:43.86 ID:L62z0KCK0

 携帯に手を伸ばして、電話帳を開く。
 いくつもあるわけじゃない電話帳の中、さ行から『杉浦綾乃』を押す。
 電話番号にメールアドレスを見てから、私は何を話すべきなのか考えていた。
 明後日のデートの話?
 それとも今さっきのことを話して慰めてもらいたいの?
 ただ、気分転換がしたいの?
 何を求めて綾乃に電話をしたいのか、ただ単純に何もないのに電話するなんてこと、する気になれなかった。

京子「なんでかな」

 自然と指が戻りボタンを押して、あ行の電話帳を映す。
 あ行の中にある『赤座あかり』を押す。
 同じように映る電話番号とメールアドレス。
 それがなんだか、とても新鮮に見えた。その理由を考えて、この頃全く電話もメールもしてなかったからだって気付いた。
 この電話帳の『赤座あかり』を開いたのは、本当に久しぶりなことだった。

京子「あかり……」

 なんでそうしたかなんてわからない。
 すでに携帯は私の耳についていた。
 何度かのコール音、自身の鼓動は一定のリズムを刻んだままで、どこか虚ろな私は何を話そうかなんて考えようとしなかった。
 そして、少ししてから出る音が聞こえた。

京子「……」
あかり『……』




91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:50:26.04 ID:L62z0KCK0

 沈黙、電話をかけた私は何も言うことがなくて。
 あかりも何も言わないで黙りこんでいた。
 電話をしたこと、それだけでもなんだか頭が重たくなるような行為なのに、今はそんなことは無かった。
 ただ、真っ白に何も考えていない私が、あかりに電話をしただけだ。
 部屋に響く時計の音と、隣の部屋から聞こえるテレビの音。
 それ以外に音は何もなくて、少しして携帯の通話時間を見たら5分経っていた。

あかり『……ねぇ』

 ようやく聞こえてきた声はそれだった。
 あかりの声は、公園で会った時より弱弱しくて、それがなんだか胸を痛くする。
 何か言わなくちゃいけない気はした。
 それでも、何を言えばいいのかなんて考えられなくて、声という手を伸ばしてもやっぱり届かない気がした。

あかり『……京子ちゃん』

京子「……なに?」

 やっと出た言葉がこれで、体全体が縛られるような気がした。
 もっと何か言うことあるはずって気がしたけど、何も考えられない。
 怠惰でなんの意味もない会話を、途切れさせないようにしているみたいで、女々しく感じる。

あかり『今日ね……』

 あかりがしゃべり始めるのを、私は待っていたのかもしれない。
 だから、もう何も言わないでそのお話に耳を傾けることにした。
 私からしゃべることなんて、今は何もないから。





92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:51:15.09 ID:L62z0KCK0

あかり『池田先輩にね………、嫌いっていわれちゃったの』

 多分、それは千歳のほうだろうなって思った。
 でも、あかりが千歳の嫌がるようなことをするのかって言われたら、信じられないというのがぼんやりとした私の感想だ。
 でも私は同情の言葉も何もない、ただ言葉を拾いながら頭に入れて行くのが今できる私の精一杯だった。

あかり『えへへ、それでね。あかり悲しくなっちゃったの』

 何が悲しいのか、あかりはいつも笑ってばかりだから、悲しいとかそういうのから無縁の生活を送っているじゃないか。
 そう言ってあげればいいのに、私は口を閉ざしたままだ。

あかり『人のためにやってきたことなのに、こういう風に否定されちゃったから……』

 そうあかりは淡々と言葉を紡ぐ。
 ただ無気力に、言葉が紡がれて、私はそれをただ漠然と頭に入れていくだけ。
 でも、学校の授業に比べれば、私の心はどこか真剣にその話を聞いていた。
 頭は漠然としているのに、心はどこか真剣に、あかりの言葉を聞いていた。

あかり『やってきたこと、御節介だってきっぱり言われちゃって。あかりもその言葉にカーっとなっちゃって……』

 あかりでも怒るようなことを千歳は言ったのかって思って、でも、それを確認して何をどうしたいのか?
 まったく、わからなかった。




93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:51:59.49 ID:L62z0KCK0

あかり『おかしいよね、こんなこと京子ちゃんに言わなくてもいいことなのにね。あかり、今日おかしいよね』

 何も言葉が見つからなかった。
 電話していることも、電話したことも、何を思ってあかりの話を聞いているのかも。
 私には何も分からなかった。

あかり『京子ちゃんのピンチに、すぐに駆け付けられなくてごめんね』

 今日のあかりは謝ってばっかりで、なんだか胸が締め付けられるように痛む。
 震えるような声のあかりを想像しようとする頭を、必死に押さえつけながら、悶えるように電話から聞こえる声を聞き続ける。

あかり『京子ちゃん、明後日杉浦先輩とデートなんでしょ?』
京子「そ、そうだよ……」

 最初に出したその声は、どこか震えていた。
 なんでこんなに震えているのかなんてわからなくて、でも私はそれを口にしたことを大きく恐れていた。
 どうして怖がっているのかもわからなくて、答えてから後悔ばかりが募った。

あかり『がんばってね……』
京子「う、うん」
あかり『ごめんね、京子ちゃんから電話してくれたのに、あかりが話してばっかりだね』

 そう言っているあかりが、なんだか悲しく笑っているように感じた。
 だって、そう思えるくらいに声が震えているから。
 私も同じくらいに声が震えていたけど、口数が少ないからあかりが気づいている感じは無かった。





94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:52:38.00 ID:L62z0KCK0

あかり『……』

 あかりの言葉に、私は何も返す言葉が見つからなかった。
 なんで、言葉選びに慎重になっているのかわからなかった。
 言葉を返すくらい簡単なことじゃないかって、そう思ってもやっぱり言葉は出ないままで、気づけば何もないままに時間だけが過ぎていた。
 こんな気まずい電話は多分初めてなんじゃないかってくらいに思えて、だから終わらせ方もわからなくて。

あかり『京子ちゃん』
京子「あ、あかり?」
あかり『切っても大丈夫だよ。京子ちゃ――』

 だから、そう言って助け舟みたいに渡された言葉に。
 私は瞬間的に電話を切っていた。
 最低な切り方、おやすみもさよならも、何もない切り方だ。
 それを私はあかりに対してやった。

京子「……」

 携帯を机に放り投げる。
 独特な金属とプラスチックがぶつかり合う音がしてから、部屋の中はすごく静かになった。
 あかりは辛そうにしていた。
 声だけでもわかるくらいに、辛そうだった。
 だけど、私はその辛さを分かろうともしなかったし、それを救いあげようなんて思わなかった。
 だから会話をしなかったのかって言われたら、多分そうじゃないんだと思う。
 いくらか頭で考えて、でもただ分かることがあるとすれば。

京子「聞きたくなかった……」

 そう、聞きたくなかったから。
 だから会話を繋げたくなかった、だから言葉が見つからなかった。
 だって、もし言葉を間違えたら聞くことになってしまう。
 辛そうで、でも意固地になって明るく振舞うあかりの声を。
 頭から布団を被って、私はまどろみに飛び込む。
 眠って楽になれるかなんてわからないけど、頭はジンジンするばかりで、逃げ出すこと以外に考えることは無かった。





95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:53:28.02 ID:L62z0KCK0

 頭の中にあるのはぼんやりとした思考だけだった。
 起きたばかりの頭で昨日のことを思い出す。
 昨日は何もしないでただ家の中でぼーっとしているような日だった。
 朝起きて、ご飯食べて、こたつでのんびりして、テレビはつまらないから見ないで、気付いたら外は暗くなっていた。
 その代わり、夜に来たメールを読んだ記憶だけはある。
 差出人は綾乃で、それが今日のデートのことだってことはわかった。
 そして、集合一時間半前くらいに私は目を覚ました。

京子「んん……」

 体中から疲れは結構抜けた気がしたけど、思い出しそうになると体中がだるくなりそうだった。
 だからあまり考えないようにして、出かける準備を始める。
 休日で私が起きてくると、何か用事があるってことを親は理解している。
 手早くご飯を食べて、着替える。
 うん、特に問題は無い!
 いつも通りに家を飛び出して、そのまま駅にある公園に向かう。
 カップルごっこクリスマスデート編をした公園で待ち合わせである。




96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:54:00.33 ID:L62z0KCK0

京子「まぁ、いい気分転換になるでしょ」

 そんな気持ちで足を進めようとして、二日前のちなつちゃんの言葉が頭を過る。
 あの公園で、言われたこと、他に不幸になる人がいるっていう言葉。
 私が不幸にならないために、あかりがいるのだって昔思っていた自分。
 でもそれって、今でも私はそう思っているってことなのかな?

京子「そんなことない……」

 他に不幸になる人なんているわけない。あかりが私の不幸と関係あるはずない。
 あかりだって、私がした約束なんてとっくに解消してもいいはずだ。
 あと数分で着く公園を目指しながら、心の中にかげるように出ている大きな雲。
 それを私は無理やり払いのけることもできず、ただ漂わせたままだった。





97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:54:33.22 ID:L62z0KCK0

京子「ごめん、ちょっと遅れたわ~」
綾乃「ん、べ、別に遅れてないわよ! わ、私が早く来すぎただけだし……」

 公園に着いたらすでに待ち合わせに綾乃の姿があった。
 前やったクリスマスデートごっこの日よりも、なんだか気合が入った服装をしてらっしゃるわけで、こんないつも通りの恰好でよかったのかと少しだけ身形を確認してしまう。

綾乃「ど、どうしたのよ」
京子「いやさ、綾乃すっごい気合の入った服装だから、その私釣り合ってないな~なんて思ってさ」
綾乃「いや、か、可愛いわよ、って~、何言ってんの私!」
京子「おっ、そう? サンキュー、綾乃もすっごい可愛いよ」

 私の言葉に何やら顔真っ赤にしている綾乃、可愛いって言われることに慣れてないのか、と思いながら少しばかり心の中のしこりがすっきりした気がした。
 完全ってわけじゃないけど、ここまで来るまでの間の憂鬱感は無くなった感じである。

綾乃「う~、いきなりこんなんで大丈夫なのかしら私」

 なんだか悩んでいる綾乃。でも、こっちは今日を楽しみにしていたのだから、早くデートコースへと案内してほしいわけである。
 エスコートよろしくの意味を込めて、手を握るとなんだか顔をすごく赤くする綾乃がいた。

綾乃「と、歳納京子、な、なにすんのよ!」
京子「デートなんだからさ~、手くらいは握ろうぜ。それでどこに連れてってくれるんだい?」




98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:55:08.51 ID:L62z0KCK0

―あかり―

 こんなことしちゃいけないってわかっている。
 分かっているけど……

あかり「二人ともうまくいってるみたいだね」

 そんなことを言いながら、手を繋いで歩く二人の後を追っていた。
 本当は会うことも、出会うこともないように家で静かにするべきだった。
 だけど、それをさせてくれなかった人がいた。

結衣「うん、そうだね」

 それが隣にいる結衣ちゃんだった。
 朝、今日でもう終わっちゃうって思っていたら、電話が掛ってきた。
 結衣ちゃんからで、ちょっと買い物を手伝ってと言われたから、気分転換に丁度いいかもしれないと思ったところが間違えだったって気付けなかった。

結衣「あかり、怒ってる?」
あかり「……それなりに怒ってるよ」
結衣「ごめんね、でも買い物があるのは本当だからさ」

 そう言って結衣ちゃんは笑って、その表情を見ながら早く買い物を終わらせられればいいかなんて思った。
 あかりは、できれば杉浦先輩の恋路を邪魔したくないから、京子ちゃんと付き合えるようになってほしいって思っている。
 でも、結衣ちゃんがこんなことを考えるとは思えないから、誰かに頼まれたのかなって思った。

結衣「あかり、追うよ」

 もう二人を追うことだけが目的になっている気がした。





99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:55:53.26 ID:L62z0KCK0

 少し前を歩く京子ちゃんと杉浦先輩。
 傍から見ても、杉浦先輩の服装はとっても力が入っていて、とっても可愛かった。
 今日のために杉浦先輩はいっぱい準備したって聞いたから、ここまで頑張ってきたのは無駄じゃないって思えた。
 でも……

結衣「ふ~ん、綾乃が珍しく京子を引っ張ってる形なのか」

あかり「そ、そうだね……」

 京子ちゃんの手を杉浦先輩が握っているのを見ると、自然と視線を外しちゃう。
 外してから視線を戻して、二人が楽しそうにしている姿を見ると心が痛くなる。
 こういうことがあるってわかっていたから、家にいようって思ったはずなのに……
 しばらくの間、京子ちゃんと杉浦先輩は街の中をのんびり歩き回る。
 どこかに入るわけじゃなくて、ただ街を見て回って二人で話しながらときどき顔を赤くしたりする。
 幸せそうな二人の後を追っていると、胸が痛んで辛かった。

あかり「結衣ちゃん、買い物終わらせようよ」

 こんな行為から早く逃げたいからそう提案して、結衣ちゃんの足が止まった。
 振り返る結衣ちゃんは、いつも通りの顔だったけど、あかりの願いを聞いてくれた。

結衣「それもそうだね、ごめんごめん」

 一度だけ、二人の背中を見てから近くのデパートに入る。





100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:56:32.27 ID:L62z0KCK0

 デパートに入って、二人の姿が見えなくなると体の痛みとかが消え去った気がした。
 でも、同時になんだかさみしく思った。

結衣「それじゃ、買い物だね」
あかり「……うん」

 二人の姿が見えないことが、なんだかすごく不快に思えた。
 なんでと思ってもそれがなんだかわからないフリをすることしか、できないから結衣ちゃんの背中を追って歩く。
 文房具のコーナー、上に貼られる文字が目に入る。

『受験生応援フェア』

結衣「今日、文房具が安いらしくてさ。買いだめしようって思って」
あかり「そ、そうなんだ」

 来年、私が進学校を受けること、京子ちゃんにはまだ言ってないなって思った。
 別にいいよね。言わなくても、どうせ今日で京子ちゃんへの気持ちに区切りがつくのだから。
 そのために……

結衣「あかり、ちょっとこれ持って」

あかり「うん、わかったよ」

 渡された籠の中に、色々とノートとか鉛筆が入ってくる。
 糊もそうだし、修正ペンも入ってくる。
 こんなに買う必要なんてあるのかなって思ったけど、別に結衣ちゃんが買うものにとやかく言うつもりは無かった。
 でも、それにしてはこの量……





101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:57:09.06 ID:L62z0KCK0

あかり「こんなに何に使うの?」
結衣「んー、ちょっとね」
あかり「買い溜めするって量じゃないんじゃないかな?」
結衣「まぁ、いいからいいから」

 そう言って籠の中にいっぱい物が入ってくる。
 持ちながら、頭の中で今見えない二人の姿を思う。
 まだ街の中を歩いているのかな?
 どこかのお店に入っているのかな?
 笑いあって、いいムードになって、二人とも顔を赤くしたりするのかなって考える。

結衣「……あかり」
あかり「な、なに」

 目の前がちょっとだけ滲んで、それがなんでかよくわからなかった。
 開いているほうの手で目を擦るとそれは無くなったけど、結衣ちゃんが眼を細くしてこっちを見た。

結衣「……ニ人のこと気になる?」
あかり「ううん、そんなことないよ」
結衣「そう、そうだよね。あかりは二人のこと気にしないんだよね」

 結衣ちゃんの手があかりの持つ籠を取る。
 両手が軽くなって、結衣ちゃんがレジに向かうのを見ながら、今さっきの滲んだ光景の原因を思う。

あかり「あかり、嫌な子になってる……」

 言葉を漏らして、ちょっとだけ胸にある本音を吐き出す。
 でも、楽になんてならなくて、ただその場に立っているだけでも辛い感じがした。





102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:57:35.35 ID:L62z0KCK0

結衣「おまたせ」
あかり「……うん」
結衣「一階に喫茶店があるから、そこに入ろうか?」

 結衣ちゃんに手を握られて、そのままエレベーターの中に入る。
 握ってくれる手は暖かかったけど、全然癒された気はしなかった。
 むしろ、心はなんだか冷たくなっている気がしてきて、結衣ちゃんの行く場所に付いて行けばいいのかなんて思い始る。

あかり「……京子ちゃん」

 自然と京子ちゃんの名前が口から漏れた。
 無意識に出てきたその名前にハッとした。
 でも、結衣ちゃんは何も言わなくて、だからあかりも何も言わないでエレベーターが下に付いた。

結衣「着いたよ」
あかり「あ、うん」

 そして扉が開いた。




103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:58:11.90 ID:L62z0KCK0

綾乃「あれ、船見さん?」

 だからその言葉に、体が止まる。
 顔を上げるとそこにいたのは杉浦先輩だった。
 途端に頭が真っ白になったのは、気のせいじゃなくてとっさに結衣ちゃんの背中に隠れた。
 今、杉浦先輩の顔を見たくなかった。
 理由は知っている。だから見たくない。

結衣「杉浦さん、こんにちは」
綾乃「それに赤座さんも」
あかり「こ、こんにちは」

 ぼそぼそっとした声で挨拶する。
 このまま、無言でエレベーターの閉まるボタンを押して違う階に行きたいって思った。
 だって、杉浦先輩がいるってことは近くにいるはずだから。

結衣「一人で来たの?」

 結衣ちゃんの問いかけに杉浦先輩が焦ったように赤くなったのが分かった。
 頬に赤みがあって、なんだか指摘されたことがうれしいし、恥ずかしい。
 そんな初々しい反応で、それがとても羨ましかった。

綾乃「と、歳納京子と一緒に来たの」
結衣「そうなんだ。で、京子は?」
綾乃「ん、ちょっとトイレ」

 その話に合わせるように結衣ちゃんは手を取ってエレベーターから出る。
 外に出ると、まだ京子ちゃんがいないことが分かって、ホッとして同時に胸が痛む。

結衣「そっか、それじゃ私たちはこれでね」

 それだけ早々と言葉を並べて、結衣ちゃんは歩き始める。
 握ってくれる手はどこか力強かったけど、小さな声で「ごめん」って言ってくれた





104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:59:05.95 ID:L62z0KCK0

―京子―

 どこか落ち着かなかった。
 変な罪悪感があって、楽しい時間を過ごしているはずなのにどこか心は空っぽだった。
 鏡に映る私は、今にも泣き出しそうでどうしてこんなに惨めな気持になっているのか、全然わからなかった。

京子「しっかりしろよ、私」

 綾乃にトイレに行くって言って、用を足しに来たわけじゃなかった。
 こんなときになんであかりのことを思い出しているのだろう。
 この前の公園と電話、あかりが進学校に行くことを考えていることを知ったこと、昔のめちゃくちゃな約束とか。
 今まで考えてなかったことが一気に押し押せてきて、精神的に疲れているんじゃないかって思った。

京子「ははっ、なんだか表情硬くなってきちゃった」

 自分の表情が硬い感じがして、鏡を見ながら顔を解してもなんだか硬い。
 今は綾乃とデートの最中なのだから、他の女の子のことなんて考えちゃだめだ。
 そんなことをいつもなら自分に言えるのに、今はその言葉を掛ける気になれない。
 手を洗ってトイレを出ると、エレベーター前で待っている綾乃の姿を見つける。

綾乃「遅いわよ」
京子「ごめんごめん、へへへ」

 笑ってごまかすってこういうことだろうなって思いながら、到着したエレベーターに乗る。
 行先は文房具店で、今日はフェアをやっているらしい。





105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 16:59:52.32 ID:L62z0KCK0

 デートコースに文房具なんて変わっているなんて思いながら、私も適当に見て回る。
 特に買うものなんて何もないわけで、綾乃が品定めするのを呑気に待っている感じだった。
 でも、文房具なんてあまり買わないわけである。
 確かに絵は描いたりするけど、そういうのにはちゃんとした道具を使うわけだし、綾乃自身も文房具を買いだめするのだって言っていた。
 もう受験だなんて思いながら、私もそれなりに勉強しなくちゃいけないって思った。
 行く先は普通の学校、あかりの行きたいと思っている進学校への受験はもう間に合わない。まるで間に合うのだったら、その進学校を受ける気みたいだなんて思った。

綾乃「おまたせ」
京子「うん……」

 心なしか声が小さくなっていた。
 こんなんじゃいけないよねって思っていても、なんだか色々考えていたことが頭をぐしゃぐしゃにしてくれそうだった。
 まったく、これじゃデートの相方失格だなんて思いながら顔を上げると、綾乃がなんだか複雑な顔をしていた。
 そう、やっぱりとかそんな感じの顔で時計を見る。
 私も調べると、丁度昼ごろくらい。ご飯を食べるにはちょうどいい時間かな。

綾乃「それじゃ、昼食にいこうか?」
京子「う、うん」





106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:00:23.08 ID:L62z0KCK0

 軽い昼食を取りながら、私は何を考えているのか分からなくなっていた。
 ファミレスで対面に座る綾乃に、すごく悪いってわかってはいるけどなんかあまりデートに集中できている気がしない。
 なんでこんな感じになるのかなんてわからなくて、ただ綾乃と同じものを頼んで、そしてそれを待っている間も、なんだか意識は上の空だった。

綾乃「って、歳納京子?」
京子「あ、なに綾乃?」

 今さっきからこれで何度目かなって感じに、どこか空っぽな言葉を返す。
 先に置かれた紅茶に砂糖を入れて、それをスプーンでカラカラ掻き混ぜる。
 ああ、なんだろ。こういうことしているだけでも、なんだかひどく気分が落ち着く。
 何かしてないと、余計なことを考えてしまいそうになる感じだったから、掻き混ぜ続けていた。

綾乃「まったく、いつまで掻き混ぜてるつもりなのよ」
京子「いや~、なんか物悲しくて」
綾乃「まったく、まぁちょっと午前中は買い物に付き合わせちゃった感じよね」

 そう言って綾乃は横に置いてある袋に手を掛ける。
 デートコースは、綾乃に任せているのだから、別に気にしてないわけで。
 どっちかというと、デートの最中なのに上の空な私に問題がある気がしてならなかった。





107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:00:52.29 ID:L62z0KCK0

綾乃「午後はたくさん調べてきたんだから、覚悟してなさいよ」
京子「うん」

 どうにか声を返してみるけど、心の中はどこかゴロゴロして、午後からのデートの内容に期待できるかなんてわからなかった。
 綾乃は見たところ楽しそうだけど、内心どう思っているのかって気にしてしまう。
 こんな状態の私とデートなんてして楽しいのかなって思う。
 そしてなにより、目の前にいる綾乃よりも、違う人のことを考えている私は……

綾乃「って、歳納京子?」
京子「ん?」
綾乃「冷めちゃうわよ」
京子「あ、そうだね」

 少しばかり冷めてしまった紅茶を口にしてから、時計を見る。
 結構長い時間をここで過ごしているけど、綾乃が話してくれたことを、私はあまり覚えていなかった。
 こんなことで良い訳もないけど、今の私には時間が過ぎることとかもあまり関係がなかった。

綾乃「……」




108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:01:21.24 ID:L62z0KCK0

 ファミレスを出てからは、本当に色々楽しむ場所を巡った。
 映画も見たし、ゲーセンにも行った。本屋にも行ったし、美術館みたいなのにも行った。
 本当に色々考えられたデートコースで、私もこんな調子じゃなかったらもっと楽しめたはずで、なんだかあかりに責任転嫁している心境があった。
 あかりが悪いんだって思いながら、午後の大半は過ぎていた気がする。
 だから、今どこに来ているのかを理解するのに、少しだけ時間がかかった。
 時刻はもう夕方に差し掛かっていて、朱色の空に赤かしく燃える夕日がきれいな場所にいる。

綾乃「良かった~。ちゃんと見える……」

 うれしそうにつぶやく綾乃を見ながら、本当にきれいなその夕日を私は見つめなおす。
 とてもきれいで、子供のころに見た夕日もこれくらいきれいだったと。

綾乃「はぁ~」

 そこで綾乃が溜息を漏らしながら、私を見てくる。
 なんだか、その瞳は揺れていて、少しだけ顔を赤くしながら、なんだかフルフルと震えていた。

京子「綾乃?」
綾乃「と、歳納京子……今日のデートどうだったかな?」

 なんだか辛そうに聞いてくる綾乃に、私の心は謝りたい気持ちでいっぱいになった。
 やっぱり私の機嫌に気が付いていたんだって思うと、本当に最低なことをしていたのだってわかったから。
 
京子「楽しかったよ」
綾乃「えへへ、でも歳納京子は、なんだか楽しそうじゃなかったよ?」





109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:02:23.76 ID:L62z0KCK0

 そう言われて、胸が痛む。
 だって、事実で、それを取り繕うなんてことできるわけがなかったから。

京子「ごめん」
綾乃「うん、誤魔化さないでくれてありがと」

 なのに綾乃はそう言葉を漏らして、一度深呼吸をしてから強い瞳で私を射抜く。
 その変化に驚いて、何かあるのかって身構えてしまうけど、綾乃はただ静かに近づいてきて。

綾乃「い、一度だけ、一度だけしか、言わないから。聞いてほしいことがあるの」
京子「綾乃?」

 両肩に手を乗せながら、真剣に揺れる瞳がそこにあった。
 どこかで見たことがあるその光景に、ただ私は何も言えずに棒立ちで、ただ言葉を待っているだけだった。

綾乃「私ね、歳納京子、いや京子のこと好き」

 短くて、でもしっかりとした声が私の耳に届いた。
 そう届いて、一瞬心臓が高鳴ったのはわかった。
 そう、確かに心臓は高鳴っていた。告白を、しかも綾乃から受けたことに対して。
 
京子「あ、綾乃?」
綾乃「……」

 綾乃はそう言って、ただ真剣に私を見ていて、ただそれだけで私の言葉を待っている気がした。
 綾乃のこと嫌いじゃない、どちらかっていえば好きだから。この告白に応えてもいいって思い始めている心があった。
 だから、私は綾乃の手に手を伸ばす。
 この告白を受け入れれば、綾乃は私を支えてくれるのかなって、そんな最低なことを思いながら。
 だから、その手を………




110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:03:01.86 ID:L62z0KCK0

綾乃「でも、いいの」

 そう言って肩に乗っかっていた綾乃の手が私から離れた。
 肩から離れて行く手、まるで突き放されたみたいに感じて私の顔が少し悲しみに歪んだ気がした。
 だから、そんな私を見て綾乃は大きく声を上げる。

綾乃「もう、歳納京子!」
京子「!!!」
綾乃「まったく、デート中に他の事を考えてるなんて駄目よ! 本当のデートでそれじゃ相手が安心アンコールワットできないじゃない」

 そう綾乃はいつも通りの顔で語りかけてくる。
 いきなりのテンションの変わり方に、私は戸惑っていた。
 もしかして、すぐに言葉を返さなかったから壊れちゃったのかなって心配になって、今からでも遅くないから返事しようかって思うと、それを言わせないように綾乃が口を開く。

綾乃「今日、船見さんと赤座さんに会ったの」

 その言葉に、なんだか心臓を鷲掴みされたような痛みが胸に走った。
 明らかに、今の発言で私は動揺していた。
 なんであかりと結衣が一緒に出かけているんだろうって、楽しそうにしていたのかなって思い始めると頭が痛くなりそうだった。

綾乃「そこでね、赤座さんにすごい目で見られちゃった。羨ましいっていう目で見られた」
京子「なんであかりが、そんな目で綾乃のこと見るんだよ?」
綾乃「素直に羨ましいって思ったってことでしょ? でも……」

 すると、のんびりとした足取りで私の横に20cmくらいの距離を置いて立つ。
 隣だけど、完全に接触しない距離に綾乃は立って、辛そうにつぶやく。

綾乃「多分ね、私は歳納京子の此処までにしか近づけないの」
京子「何言ってるのか、わかんないよ」




111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:03:32.43 ID:L62z0KCK0

綾乃「分かってよ。分かってくれなきゃ、困るんだからね」

 そう言って綾乃は距離を置くように離れる。
 その顔は見たことがある。昔の私と同じように、泣かないように我慢している顔。
 なんで、そんな……

綾乃「ささっ、今日のデートは終わり。ありがとね」
京子「綾乃……」

 心配だったから、だから一歩足を踏み出そうとした。
 だって、あんなこと言われて、気にするな、なんて無理な話だし、綾乃といればこの空白を埋められる気がしたから。
 この空白……、そう、ずっと私を悩ませ続けるこの空白を。

綾乃「来ないで!」

 だけど、そんな私を綾乃はそう言葉で拒絶して。
 私はただ、何もできないままだった。





112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:04:00.62 ID:L62z0KCK0

―綾乃―

 歳納京子が私の前からいなくなって、どれくらいの時間が経ったのかな?
 夕日はもう完全に沈みつつある頃、手に握った携帯電話はある人に電話をするために使ったものだ。
 相手はいつも通りに出てくれて、今から公園に来てほしいって言ったら、すぐに来てくれるって言ってくれた。
 自然と涙は出そうにもなかった。歳納京子がいなくなったからかもしれないけど、なんだか胸の痛みは少しなくなった。
 
綾乃「って、思ってるだけなんだろうな~」

 言葉を漏らすように呟いて、あたしはふと公園の入り口を見る。
 この感じ、あたしは知っているから。
 入口に立っている一つの影、その影があたしを見つけたようでのんびりと手を振っている。
 だから、あたしも手を振り返す。
 気付いてるよ~って意味を込めて。

千歳「綾乃ちゃん、どうしたん?」

 分かっているくせに、千歳はそう聞いてくる。
 まったくと言っていいくらい、千歳には色々筒抜けなんだなって思いながら、彼女はベンチに座ってこちらを見てくる。
 眼鏡の下にあるのはいつもの千歳の顔で、ああ、やばいって思った。

千歳「夕日がきれいやね」
綾乃「う……うん」





113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:04:45.19 ID:L62z0KCK0

 千歳の言葉に夕日を見る。
 今さっきに比べたら、少し見劣りするその夕日を眺めながら、こんなタイミングで千歳を呼んでいるあたしに、何とも腹が立つ。
 こんなの罰金バッキンガムもいいところだし、千歳はそれを分かってここにきてくれているんだっていうことに、感謝したかった。
 だから、あたしから話し始めなくちゃいけない。
 こんなところまで、千歳にお膳立てされるわけにはいかないから。

千歳「そういえば――」
綾乃「歳納京子のこと諦めたの」

 千歳の言葉を遮るように、あたしはそう言葉を吐いた。
 ほんと、今さっきまで平気だったのに、千歳が近くに来てくれたからかな。
 色々なことが胸の中で暴れ始めた。

綾乃「だってね、歳納京子ったら。あたしとデート中なのに違うこと考えてるんだもの。これは脈なしだわ―って思うしかないよね」

 あー、痛々しい。こんな風に言葉を繋げている、自身が痛々しい。
 無理やり笑おうと振舞って、できるかぎり笑い話になるように、声を大きくして、なんだってこんな風に話をしてるのかなって思ったけど。
 多分、千歳に慰めてほしいからなんだなって、心のどこかで分かってた。
 ほんと、だから千歳を呼んだんでしょって心でつぶやく。





114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:05:16.76 ID:L62z0KCK0

綾乃「ほんと、歳納京子って、おかしいのよ。あんなに楽しそうにしてる時と、何か悩みがある時の違いが分かりやすいし、その原因だってほんとわかるもん」

 ああ、声に涙が混じってきた。
 歳納京子に振られたわけじゃない、あたし自身で振ったのにこの体たらく。
 心が皺くちゃに丸められた紙みたいになってしまいそうになるのを感じる。

綾乃「それに――」
千歳「綾乃ちゃん」

 だから、そんな形になりそうな心を受け止めてくれる。
 こうして話して、本当に辛くなったときにこうして、支えてくれる人だって知っているから。
 あたしはこうして泣きそうになりながらも、言葉を繋げられる。安心して、繋げてもう限界だってところで、止めてもらえるの。

千歳「綾乃ちゃん、もういいんやで」
綾乃「……うう」
千歳「綾乃ちゃん、こうなっちゃうってわかってるから、電話してきたんやろ?」

 やっぱり、分かってたよね。
 我慢して、本当に我慢し続けた涙が零れてしまった。

綾乃「千歳、あ、あたし」
千歳「うん」
綾乃「歳納京子のこと、本当に好きだったの。大好きで、いつか手を繋いだり、一緒に食事したり、キスとかそういうのだってできたらいいなって思ってた相手だったの」





115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:05:46.08 ID:L62z0KCK0

 涙がもう止まらなくなってきて、それを隠すように千歳の胸に顔を埋める。
 ちがう、正確には千歳が抱きよせてくれた。

綾乃「でも、歳納京子の心にあの子がいること気付いたの。敵うわけ無いよ、こんなの卑怯だよ」

 最初にこのデートのことを提案してくれて、サポートもしてくれたあの子が、歳納京子の心の中には住んでいる。
 ほんと、依存レベルで存在していて、そこに今頃現れたあたしに純粋な好意として入る余地なんてなかった。
 偽りの恋人としてなら、もしかしたらなれたかもしれない。
 でも、そんな関係が長く続くわけもないし、それはあたしが耐えられないって分かっているから。
 あの子の代わりであるあたしじゃなくて、あたしとして歳納京子の特別な人になりたいから。

綾乃「ずるいよぉ、こんなのって」

 抱き締めてくれる千歳は何も言わないで、ただ頭を優しく撫でてくれた。
 本当に優しくて、安心できる。

千歳「いっぱい泣いてええよ。綾乃ちゃん、今日はいっぱい頑張ったんやから」

 その言葉が暖かくて、優しすぎたから。
 何より、支えてくれることが分かっていたから。
 あたしはそのまま、泣き始めた。
 支えてくれる、千歳の胸の中で泣く。
 歳納京子への恋情を全部洗いながすように、さようならって言葉にできないから、ただただ流し続けるだけだった。  





116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:06:15.44 ID:L62z0KCK0

―京子―

 ぽっかりした空間を埋めることもできない私は、ただ天井を見上げていた。
 綾乃から告白されて、もしかしたらこの渇きも潤うのかもなんて思って、でも綾乃は私をすぐに拒絶した。
 言っていた、綾乃は私にここまでしか近づけないって、少しだけ開いた空間。
 その意味が、なんだか分からない。

京子「なんだよ、もうわかんない」

 愚痴るように言葉を漏らして、携帯に手を伸ばしてからメールが来ていることに気づく。
 相手は誰だろう、こんな気分を和らげてくれるような相手だったらよかった。
 あかりからだったら……
 
京子「そんなわけないじゃん。何を期待してるんだよ。私は……」

 メール受信画面を開くのに、どこか淡い期待を抱いている私。
 あかりからメールが来ているんじゃないかって、なぜか期待している私。
 そして、メール受信画面を見て少しだけほっとして。

京子「………」

 少しだけ機嫌が悪くなっている私がいた。
 その送り主の名前を見て、なんぜかとても胸がムカムカしてきた。
 前なら喜んでいたと思う。
 でも今は、警戒とかが入り混じった心だけがそのメール相手の名前を見ていた。
 
京子「ちなつちゃん……」





117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:06:44.93 ID:L62z0KCK0

 この前の公園のことを思い出す。
 ボロボロ言われて、泣いてしまったあの日。
 あかりが来てくれなかった、私はどうなっていたのかわからなかった。
 それくらいに、私はちなつちゃんに心をボロボロにされた。
 またそんなことを書かれているのかなって、思ってメールを開けない。
 だって、そうだ。
 私を責める内容が書かれたりなんてしたら、私は泣いてしまうと思う。

京子「……でも」

 確認しないでいるのはなんだか癪に障る。
 だって、これじゃ情けないままだから。
 少しだけ時間をおいてから、深呼吸して、覚悟を決める。
 メールを開いて、その内容に目を通す。

『がんばってください。応援してます』

 それだけが、書かれていた。




118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:07:10.87 ID:L62z0KCK0

 その内容は、予想していたものと違いすぎていた。
 もしかして、煽られているのかなって一瞬でも考えて、でもちなつちゃんの性格を思い出して、こんな風に遠回りにすることはしないって思えた。
 でも、何を頑張ればいいのかなんてわからない。
 わからないから、携帯を放り投げて、また同じように天井を見上げる。

京子「ねぇ、どうしたらいいの、あかり」

 自然と名前が零れてしまう。
 同時に、こぼれた言葉に安心している私がいる。
 泣きそうな私を、中学校に上がるまでは見てくれたあかりを思い出せる。

あかり『京子ちゃん、どうしたの?怖いことなんて、あかりが全部なくしてあげるんだから!』

うん、だから私の中にある、この空間を吹き飛ばしてよ。
でも、どうしてかその無くしてほしい空間にあかりはいる。
 この空間を無くしたら、私の中にいるあかりがいなくなっちゃう気がして、心が震えて止まらなくなる。





119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:07:42.46 ID:L62z0KCK0

京子「あかり……、あかり怖いよ」

 ちなつちゃんも、綾乃も私に分かってと言っていた。
 認めてって、気づいてと。
 それに気づけない私が悪いのかなって、体を抱きしめる。
 怖い、怖いから、それから逃げたっていいじゃないか。
 そう考えながら、目を閉じる。
 だって、怖いものはあかりが全部取り払ってくれる。
 あかりが……

京子「でも、あかりは来年進学校に行くって……」

 それを口にして空間が大きくなる感じがした。
 あかりが、私を守ってくれるあかりが、どこか違うところに行っちゃう。
 そう考えると、体中が強張ってしまって、すぐに考えることを止める。
 そんなことあるわけない、だってあかりは私を不幸にしないって約束したのだから。
 自己完結させるだけさせて、私の今日が終わる。
 耳に聞こえるのは、時計の静かな音で、それが今はとても心地よく感じた。





120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:08:22.90 ID:L62z0KCK0

―ちなつ―

結衣『これでよかったの?』

 その少しだけ苛立った言葉を耳に入れながら、私は今さっき京子先輩に送ったメールを思い返す。
 お節介かもしれないし、もしかしたら悪い意味に捉えられてしまうかもしれないけど、それでも結果的にそれが良い方向に進めばいいなって思った。

ちなつ「はい、結衣先輩」
結衣『あかりを綾乃とデート当日に、鉢合わせるように私を動かして、これで満足?』
ちなつ「先輩、怒ってます?」
結衣『それを聞いてどうすんだ?』

 電話の向こうの結衣先輩は本当に怒っているみたいだった。
 それもそうだよね。
 今日の結衣先輩とあかりちゃんの買出しの予定は、私が結衣先輩に頼んだことなんだから。
 いや、頼んだことって言うよりは、間違いなく脅迫に近いものだったと思う。
 だって、さすがに私ではあかりちゃんと一緒に出かけることはできない、あの日のこともあるし、なにより京子先輩に面と向かって出会ってしまう最悪のリスクは必ず避けたかったからだ。
 だから、あかりちゃんが心を許している結衣先輩を使った。ただそれだけだった。
 結果的に、私はみんなから恨まれるようなことを、影でこそこそやっている悪女になったわけだけど、それはかまわない問題だった。





121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:08:52.03 ID:L62z0KCK0

結衣『あかり、泣くの我慢してた。わかる? 好きな人がデートしてる相手に会う気持ちなんて……』
ちなつ「……分かってるつもりです」
結衣『ならなんで!』
ちなつ「どんなことを言っても、私のやったことは最低なことです。それは間違いないから」

 繕う言葉なんてあるわけ無かった。
 結衣先輩は、もしかしたらそう言う言葉を期待していたのかもしれない、繕うってことは後悔があるってことで、後悔があるってことはやらなくてもよかった事って自分自身で認めることだ。
 私は、起こしてしまったこの事を後悔なんてしない。私が本当に正しいなんて思ってなんていないけれど、後悔は絶対にしない。
 京子先輩もあかりちゃんも、弱い人だなんて思ってない。
 これは私の主観から見た二人への期待だった。

結衣『ちなつちゃん、後悔してないってことでいいの?」

 少しの間を置いてから、耳に結衣先輩の声が聞こえてくる。
 ずいぶんとはっきりした声だった。良く耳に残る結衣先輩の声だなって思った。

ちなつ「そうです、後悔なんてないですよ」
結衣『二人の事、ちゃんと最後まで見て行けるって事でいいんだよね?』

 力強い口調でそう告げてきた結衣先輩に、私は少しばかりの息を漏らしてから肯定するように「はい」と返事をした。





122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:09:27.86 ID:L62z0KCK0

―あかり―

 新しく部屋に置かれた鏡台の前に座りながら、長く伸びた髪に触れる。
 少しだけ枝毛が増えたかもなんて考えながら、頭の中に浮かんでくるイメージをどこかに送ろうと頑張る。
 でも、思うと浮かび上がってくるものがあった。
 
あかり「……」

 手を繋ぎながらデートをする二人、頭が痛くなってくるのは、多分気のせいだって言い聞かせながら枝毛を見つける作業に没頭しようとする。
 恋人同士、そう、二人が恋人同士になることは私が望んだこと。
 だから、何も未練なんてないはずなんだ。
 言いくるめるようにしても、心中は落ち着いてなどいなくて、過るビジョンが心を締め付ける。
 分からない、まだそうだなんてわからない。だから、余計に思い浮かべてしまう。

あかり「京子ちゃん」

 思わず言葉に出てしまって、ハッとしてしまう。
 想った以上に歯切れの悪いことに、自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。
 京子ちゃんに電話を切られた日、頬を伝った涙を思い出して情けない気持ちが膨らむ。
 
あかり「うう、なんで」

 気付けば目尻から涙が零れていた。
 本当に悲しいから涙を流している。
 それが嫌だった。




123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:09:54.24 ID:L62z0KCK0

あかり「なんで、なんで零れるの?やめてよ」

 拭っても、拭っても、涙は溢れ続けてくる。
 諦めきれない涙が、もう終わっていると認めたがっている心に相反して流れる。
 心に亀裂が入りそうだった。
 自分から離れているのに、それを咎めるように心が悲鳴をあげる。
 鏡台に映る姿を見たくなくて、ベッドに倒れても、涙が止まることがない。
 脳裏に浮かんでくる京子ちゃんの姿。
 怒ったり、笑ったりって色々ある。
 でも、その中で一番見ていたのは、京子ちゃんが泣いてる昔の頃の姿。
 泣いてる京子ちゃんを笑顔にしてあげられることがうれしくて、その京子ちゃんが泣いてる顔から笑顔に変わっていくのがとても好きだった。
 
あかり「最初は、そんなことなかったのに」

 最初は子供の優越感だった。
 誰かを笑顔にできることに優越を覚えて、それが泣き虫な京子ちゃんだった。
 京子ちゃんが困ってたり、泣いてたりしたら、すぐに元気にしてあげられた。
 あかりは、京子ちゃんのヒーローとかじゃなくて、誰かを幸せにできるっていう特別な人だとか想ってた。
 だから、中学校に京子ちゃんが上がる時、京子ちゃんは泣いていて、その理由を聞いて心が跳ね上がっていた。





124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:10:27.19 ID:L62z0KCK0

 気付いたら、京子ちゃんを笑顔にすることに優越感なんてなくなっていた。
 ただ、京子ちゃんが必要としてくれてることよりも、あかりが京子ちゃんと一緒にいたいって思うようになってた。
 中学校なんていう壁だけで、あかりが京子ちゃんから離れるなんてことあるわけなかった。
 でも、京子ちゃんはあかりのこと、道具だって思ってる。
 それでもいいからって、私はこういう形に落ち着いている。
 好きなのはわかってる。もうそれはこの前に口に出したから、だから今度はそれを切り捨てなくちゃいけない。
 だって、そうしなくちゃ。京子ちゃんから離れられないから。
 離れたいなんて嘘、離れたくない。
 京子ちゃんと一緒に笑って、泣いて、時々喧嘩だってしてもいい。
 京子ちゃんと時間を共有したい、それを望んでる。
 
あかり「あかり、本当に道具を続ければよかった」

 そう考えればよかった。
 そうあればよかった。
 でも、あかりは人間で、優越感を最初感じて、最終的にそれが恋情になっていた。
 バカだよ、ほんとに大馬鹿だ。
 だから、もう離れようって思って色々やって、その結果がこれなんだ。
 道具じゃなくなるのは、京子ちゃんが幸せだって言ってくれた時。
 あかりがいなくても幸せなら、あかりが京子ちゃんのそばにいる意味も、道具である意味もなくなるんだから…




125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:10:56.28 ID:L62z0KCK0

 自虐的な考えで、興奮した心を抑える。
 だんだんと落ち着いて来るのはわかってきて、明日の学校のことを考える。
 明日ですべて終わっているんだったら、それでいいよ。
 そのほうが心も楽になれるから、杉浦先輩と京子ちゃんが恋仲でなくても、それに近いものになっていたら……

あかり「……涙止まってよ」

 でも、やっぱり、今涙が止まりそうになかった。





126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:11:35.29 ID:L62z0KCK0

―結衣―

 珍しく寝付けなかったのは、今日のあかりの顔を見てしまったからだとすぐにわかった。
 あの辛そうな顔が、頭から中々離れないのは、まだあかりのことを完全に諦められないからだ。
 ちなつちゃんの言っていた言葉が頭を過る。
 後悔していない。
 ちなつちゃんは後悔なんて絶対にしないって言っていた。
 それは強がりだとかそういうことじゃない、本当に純粋な言葉だと信じられる語気があった。
 今さっきまでいじっていた携帯に手を伸ばす。
 開くのは画像のフォルダで、その中にはちなつちゃんが送ってきてくれた写真が結構ある。
 結衣先輩に見てほしくて、これどう思います?
 そんな当り触りない一言と一緒に送られてきた画像を見ながら、私も覚悟しなくちゃいけないんだと気付かされる。
 今日の買い物だって、拒否すればよかったんだ。
 あかりのことが好きなら、拒否しておけばよかった。あかりは傷つかないし、私も傷つかない。
 そうなるべきだったって。
 でも、私は、あかりに素直になってほしい。

結衣「あかりは道具なんかじゃない」

 あかりは道具って言葉で、すべてをごまかしたがってる。
 京子を好きなこと、私に告げたその言葉を本人に言わないで、ぐちゃぐちゃに丸めた紙屑みたいにしようとしてる。
 それが、とても我慢ならなかった。




127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:12:09.58 ID:L62z0KCK0

 あかりが幸せになることに、誰も反対なんてしない。
 そんな奴いたら私はぶん殴ってしまうかもしれないし、だったら前のこともあるし、自分をぶん殴るべきなのかなと一瞬思って、頬に拳を一発投げつけてやった。
 やっぱり、自身で加減しているとはいえ、痛いものは痛いって思う。
 もうすぐ受験の本格的シーズンに入る頃で、此処を逃してはいけないってことは重々承知していた。
 明日、まず綾乃に話を聞いてみることにしよう。
 今日のデートの結果が気になる。
 京子はとても今は不安定な状態だから、誰かに告白されたら好きか嫌いかで判断できないと思える。
 不安とかイライラ、そういうのを包み込んでくれるなら、誰だっていいなんて言う、ある意味終わってしまっている考えかもしれないから。
 同時にちなつちゃんのことも考える。
 私を慕ってくれるし、何よりこんな風に考えることができたのはちなつちゃんがいたからだ。
 ちなつちゃんは最後まで見届けるって言っていた。
 だけど、そこに私がいたって何の問題もないはずだろう?
 ちなつちゃんを支えながら、京子とあかりがどういった決断を出すのか、見届けるのは義務だって思えた。
 静かな部屋の中で、私はそんなことを思い浮かべながら、やっとやってきた眠気に身を任せるようにして、眠りに就いた。





128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:12:37.88 ID:L62z0KCK0

―あかり―

ちなつ「あかりちゃん、おはよう」
あかり「おはよう、ちなつちゃん」

 いつもだったらもっと早くに家を出るのに、今日は遅れて家を出た。
 だからかもしれない、久々にちなつちゃんに会って学校に向かっている。
 道にはちょっとばかり雪が残っているのを見ながら、隣で歩くちなつちゃんの様子を伺う。

ちなつ「どうしたの、あかりちゃん」
あかり「う、ううん。なんでもないよ」

 なんでもないなんてこと無い。
 ちなつちゃんが何を考えているのかなんて分からないけど、ちなつちゃんは私が来るのを待っていたんだって思った。
 よく見てみたら、ちなつちゃんにしては髪が整ってなかったし、少しばかり寒そうにしていた。
 何か私に用があるからだと思うけど、私はそれを聞けないままでいた。
 だって、聞いて何か変わるってことも無いって分かってるから。

ちなつ「今日も寒いね」
あかり「そうだね、雪も降ったからね。みんな風引いたりしないといいけど」
ちなつ「……あかりちゃんは、どうするの?」
あかり「防寒対策?」
ちなつ「もう、分かっててはぐらかしてるでしょ」
あかり「……」

 ちなつちゃんの真剣な目が、あかりを射抜いてくる。
 ああ、ごまかせないって思う。
 ちなつちゃん、こういうことすごく鋭いから。
 でも、このまま話しをする気になんてなれないから、足を近くの公園に向ける。
 遅刻しちゃうかもしれないけど、ちなつちゃんが逃がしてくれるなんて思えないから。




129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:13:04.15 ID:L62z0KCK0

ちなつ「わざわざ場所変えちゃうのが、あかりちゃんらしいね」
あかり「そうかな……、そうかも」

 はにかみながら笑って、ちなつちゃんに顔を向ける。
 やっぱり、ちなつちゃんの顔は真剣そのものだった。
 少しだけ、言葉を切り出すのを迷ってたように、少し間を置いてからちなつちゃんは口を開く。

ちなつ「京子先輩のこと好きなんでしょ?」

 すぐに心が揺れたのが分かって、でも、それを表に出すのはなんだか嫌だったから、必死に心を殺して笑う。
 多分、結構怖い顔になってる気がする。
 ちなつちゃんの表情が曇る。苛立ってるみたいだ。

ちなつ「あかりちゃん、なんでそんなに頑なに拒むの」
あかり「拒んでなんて無いよ。京子ちゃんのこと、好きだなんて思ってない」

 ああ、自身の言葉に心が揺れたのが分かった。
 傷ついてる。自分の言葉で、本心を否定するたびに心が痛んでしまう。
 でも、仕方ないよね。

ちなつ「京子先輩が幸せになるための道具だから?」
あかり「………」

 その言葉に、一瞬心臓が止まったような感覚に見舞われて、ちなつちゃんから目線を逸らしてしまった。
 見ていなくちゃいけないって分かっているのに、その言葉だけで目線を逸らしてしまった。
 公園の中、ちなつちゃんの視線を受けながら、どうすればいいのか分からないままで、ただ手を握ったり開いたりして思考が止まらないように勤めるしかなかった。





130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:13:33.58 ID:L62z0KCK0

ちなつ「私はあかりちゃんじゃないから、あかりちゃんがどう思ってるかなんてわからない」

 ちなつちゃんの言葉が耳に入る。
 あかりとちなつちゃんは違う、そう違う。
 ちなつちゃんは何処までもオープンで、好きな気持ちを全然隠そうとしない。
 本心のままに、結衣ちゃんのこと好きだって言ってた。
 そう、あかりはちなつちゃんにはなれないし、ちなつちゃんはあかりになれない。

ちなつ「だけど、このままでいいの? このまま埋もれさせる気なの?」

 埋もれさせるとか、このままでいいのかとか。
 ちなつちゃんはあかりじゃない、なんでこんなに構ってくるの。
 放っておけばいいのに。
 だって京子ちゃんは、もう杉浦先輩のものになってるはずだから。
 そうなるように、杉浦先輩と京子ちゃんのデートを手引きしたんだから。

ちなつ「ねぇ、どうなの?」

 だから、今はちなつちゃんの言葉を聞きたくもない。
 もういい。
 
あかり「もういいの」
ちなつ「あかりちゃん?」

 動かしてた手を止めて、顔を上げる。
 なんだか自分じゃないみたいな感じがして、ちなつちゃんの顔がすごく引き攣っていた。
 異様に冷たく感じる。体温が体中から一目散に逃げているみたいだった。





131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 17:13:59.91 ID:L62z0KCK0

 同時に心の中で抑えていたものが全部動き始めていて、それはすぐに声になって外に出ていた。

あかり「もうほっといて、あかりはちなつちゃんじゃないの! ちなつちゃんみたいに、行動的じゃない!」

 爆発するみたいに言葉が出た。
 抑えきれなくて、引き攣ってたのはあかりの顔の方なのかもしれない。

あかり「いいの、もう終わったからいいの。あかり、京子ちゃんが笑っていられるために頑張ってきたの! これだけがあかりが京子ちゃんのそばに居る理由なの!」

 気づけば、目の前がすごく潤んでいた。
 こんな光景、見ていたくないって眼に雫が溜まって、ちなつちゃんの姿が見えなくなる。

あかり「だから、もういいの。昨日で終わったの。もう全部終わっちゃったの。だから、もういいの」

 もう矢継ぎ早だった。
 みじめで、格好悪いってわかる。
 言うことだけ、ちなつちゃんにぶちまけて、公園から逃げ出すように走る。
 登校中の生徒たちの波を抜けて、走って、走って、ちなつちゃんから逃げるために?
 でも、わかってた。逃げても、ちなつちゃんは追いかけてこないって。
 だって、ちなつちゃんはわかってるから、こんな時に慰めてくれるべき人は、本当に大切な人だって。
 あかりには、そんな人が来ることなんてないってわかってた。
 もう、わからないままに、ただ走ることくらいしかできなかった。





134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:44:20.62 ID:L62z0KCK0

―結衣―

結衣「それ、本当なの?」

 生徒会室の中、少しだけ気まずそうに頬を掻いて私の前に座る綾乃に目を向ける。
 今日自体は生徒会もないわけだから、あかりの姿は無かったからこれはこれで好都合だって思ってきてみれば、話を聞いて少しばかり意外だという感じの答えが返ってきた。

綾乃「そうよ、歳納京子に告白して、同時にごめんなさいしたの」
結衣「だ、だって、京子のこと好きだったんでしょ?」

 綾乃が京子を好きなことなんて、京子以外は気づいているようなことだった。
 京子自身がどう思っていたのかは、京子自身に聞かなくてはならなかったけど、あいにく京子は今日学校を休んでいるから、聞きようがなかった。
 携帯にも出ないので、放課後に向かうつもりではあるけど。
 私の質問に対して、綾乃は少しだけ考えてから、溜息を少し漏らして、繕っても仕方ないよねと、言葉を漏らした。
 そこには、いつも以上に強い瞳の綾乃がいて、それに圧されて背筋を自然と伸ばした。

綾乃「敵わないって、気づいちゃったの。昨日のデートでね」
結衣「敵わないって……」
綾乃「赤座あかりさんにはね。敵わないってわかっちゃったから」





135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:45:05.48 ID:L62z0KCK0

 そう言って少しだけお茶を飲む。
 敵わない、綾乃はそう呟いてから少しだけ悔しそうに、だけどすっきりした表情で笑う。

綾乃「昨日彼方たちに会った事を言った時、すごく動揺してた。もう、それを言う前から少しだけ感じてたんだ。京子には好きな子がいるって」
結衣「……」
綾乃「それに、赤座さんがね。このデートの話を私に持ちかけてきてくれたのは嬉しかったけど、なんだか急かされてる気がしてた」
 
 少しだけ時間を置いて、綾乃は告白した時のことを切り出してくる。
 顔は、泣くのを我慢しているのがわかるくらいに強がっていて、でも、こうして勇気を出して言葉にしてくれることに、私は憧れみたいなものを感じる。
 私が最初、あかりに強行に迫った姿とでは、雲泥の差だったから。
 
綾乃「告白した時、歳納京子の目はね。告白を受けてくれる人の目じゃなかったの。寂しくて、不安で、そう言うのを埋めてくれる空間を求めてるような眼をしてた」

 それは多分、昔私もしたことがある目だと思う。
 ただ離れていくのが不安で、それを埋めるなら、どんなことをしたっていいんだと勘違いしていた私。
 それと全く同じだ。
 そんなことを考えて、顔を上げると1つの雫が見えて、私は綾乃を見る。
 
綾乃「その時わかっちゃったんだ。あたしはどんなに頑張っても、歳納京子の特別な人になれないって」
 
 綾乃は静かに泣いていた。本当に、静かで、自然とこぼれてしまった涙なんだってわかった。
 心が揺れているのがわかった。
 私は、相当酷なことを綾乃に聞いているから、それがとても許せなく感じた。
 
綾乃「悔しくかった。確かにね、あたしが歳納京子を見てきた時間は短いけど、好きだって気持ちは負けるつもりなかった。でもね、隙間だけしか埋められないあたしだと、歳納京子は幸せになれないから」





136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:45:48.55 ID:L62z0KCK0

 綾乃は言った、所詮代わりにしかならないって。
 恋で好きな人の代わりになる人が、本当に幸せになれるかどうかなんてわからないけど、京子の隙間を埋める存在になっても幸せなんてあるわけないと、そう言ったのだ。

結衣「本当にそれでいいの? まだ京子だって」
綾乃「それ以上は、罰金バッキンガムだから」
結衣「ぶふっ」

 いきなり雰囲気が壊れたってわかった。
 ああ、私の噴き出す癖はどうにかならないかなと、顔を赤くしながら頭を掻く。
 綾乃の方も、まだ言うことがあったのかもしれないけど、この雰囲気じゃ話すことじゃないってわかったのかもしれない。
 一度深呼吸をして、零れた涙をハンカチで拭いてから私を見る。

綾乃「あ、あたしが諦めたんだから、歳納京子にはちゃんとした答えを出してもらわないとね。あと赤座さんにもね」
結衣「そうだね。実は正直な話、もう二人が付き合い始めてたら、どうしようかって思ってたところなんだけどね」
綾乃「うわぁ、遠まわしに良かったとか、言ってくれるわね」

 そう笑って言ってくれるだけでも、私は結構救われたと思える。
 だから、後は私があの馬鹿に行動を起こさせなくちゃいけないわけだ。

結衣「ありがとう杉浦さん」
綾乃「歳納京子の事、任せるわね。あたしができるのなんて、こんなことくらいだから」

 そう言って綾乃は微笑んで、私は生徒会室を後にする。
 ここまで、人に迷惑をかけている二人に、内心呆れながら、幼馴染であり、友人として、それに好きなあかりの為に、やれることをしよう。
 思った以上に、ちなつちゃんの影響を受けているんだなって、思いながらそれが少しうれしくもある私を意識して、少しだけ笑みがこぼれた。





137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:47:41.95 ID:L62z0KCK0

 そこで携帯に届いたメールがある事に気づく。
 差出人はちなつちゃんで、偉くタイミングが良いため少しばかりの嫌な予感がした。
 もう、わかりきっていると言ってもいいほどに、潔く私はメールを開く。
 開いてから、ちなつちゃんは少し早く動き過ぎなんじゃないかと、心の中で愚痴ると同時に私は走り出した。






138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:48:32.24 ID:L62z0KCK0

―京子―

京子「もう、なんなんだよ」

 部屋から出る気が起きず、結衣から来たメールに返信もせずに私は倒れていた。
 風邪っていうわけでもない、でも外に出ることをかなり拒んでいる私がいて、それは何でと聞かれれば、会いたくないと思っている人物がいるからだ。
 別に嫌悪しているわけじゃない。
 良くわからない、気になるけど、視界に収めたらいけないっていう気がしてならないから。
 だからこうして部屋で何も考えないようにして過ごすのが今できることだった。
 この前のデートで綾乃に言われた言葉は、私には誰か好きな人がいるっていう意味だっていうのはわかった。
 綾乃が私を好きだったっていうことよりも、私がわかっていないことを綾乃に指摘された事が、結構心を揺らしていた。
 
京子「私の好きな人って……」

 ちなつちゃん?違うと思う。
 確かにちなつちゃんは可愛いし、好きだよ。でも、綾乃が私に打ち明けてくれた好きとは絶対違うと思う。
 言われ放題なことがあったけど、嫌いっていうことは無い。





139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:49:26.01 ID:L62z0KCK0


 私にとってちなつちゃんはそういう存在だった。
 次に浮かんだのは結衣だった。
 昔、まだ泣き虫だった私を守ってくれた存在、憧れだったし頼りにしていた。
 好きだけど、やっぱり形が違う気がした。
 好きの形がやっぱり違う。漫画とかでよく見る友愛っていう方の好きだ。尖って無い、真丸い形の好きだと思う。
 結衣とは長い間一緒にいたからかもしれないし、友達としての認識が大きかった。だからそう言った目線で見ることはないんだろう。
 じゃあ、誰なのかってなる。
 綾乃は意識したことがなかった。そう、昨日初めて、告白された時意識したくらいだった。
 失礼な言い方になると、そういう目で見る事が一度もなかったのだ。
 だけど、私は綾乃の告白を受け入れようとしていた。
 その意味を考えようとすると、恐ろしい罪悪感に苛まされる。
 自己嫌悪だと思う、でも何に対しての自己嫌悪なのか、私にはわからなかった。
 一体、何のせいなのかって思って、頭を抱えて、そのまま目を瞑って忘れようとすると、携帯が震えて身体を起こした。
 着信音から結衣からだっていうことはわかった。
 わかったけど、出るかどうか迷っていたら、携帯の震えが止まる。
 別に出なくたっていいと、再び横になったところで扉を誰かが叩く。





140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:49:53.24 ID:L62z0KCK0

京子「母さん?」

 声をかけてみたが返事は無かった。
 時計を見ると、もう夕方に差し掛かるかなって時間になっていた。
 夕飯の予定かな、と思って返事を待っていると。

結衣「京子、私だ」

 結衣の声が入ってきた。
 わざわざ家にまで来てくれるなんて、別に来なくてもいいのになんて思いながら、今さっきまでの気持ちを紛らわしたくて言葉を返す。

京子「結衣?どうしたの~」

 できる限り平静、いやいつも通りを心がけながらうまくできたんじゃないかな?
 そんなことを思いながら、結衣が来た理由はなんだろうかなんて考えてみる。
 もしかして昨日の綾乃のとのデートの事でも聞きに来たのかな、結衣もやっぱり気になるのかなって思う。
 綾乃には振られちゃったんだから、笑い話にしてしまってもいいのだろうか?
 それは綾乃にも悪いか、そんな事を考えて頭の中をゴシップで一杯にする。
 少しでもテンションを上げるための工夫だから仕方ない。
 そして、結衣の返事は――

結衣「あかりが見つからない」

 思わず、首を傾げている私がいた。





141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:50:33.67 ID:L62z0KCK0

 いや、意味がわからない。
 いきなり何を言い出すのかと思えば、それをなんで私に言いに来た?
 そう言われてから、今さっきのメールを確認する。少し前に来ていたメールを開くと、あかりが見つからないという文だけが鎮座していた。
 良く見ると、ちなつちゃんからも来ていた。

結衣「京子、入るよ」

 返事を待たずに結衣が部屋の中に入ってくる。
 顔は赤くて膝も赤い、外は結構寒いってことがわかった。
 だから、それも踏まえて私は聞く。

京子「あかりが見つからないって……」
結衣「ああ、家にも帰って無いらしいし、今日は学校にも来てないんだって」
京子「うそだ、だってあのあかりだよ?」

 学校なんて早々休まない、自分よりも他人の事を優先する性格のあかりが、学校を休むというのが想像できなかった。
 でも現実に、あかりは学校に来ていないし家にも帰って無いわけで、こうして結衣が探していることが何よりの証拠だった。

結衣「ああ、そうだ。あのあかりがだよ。京子も探すの手伝ってほしい」

 結衣の目は真剣そのものだった。こんな目の結衣は余り見た事が無くて、自然と気圧されてしまう。
 私の知っている結衣じゃない気がして、自然と足の力が抜けてしまって、同時に今さっき考えていた事を思い出してしまう。




142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:51:42.71 ID:L62z0KCK0

 綾乃の告白で心が動いてしまった理由というものを。

京子「ごめん」
結衣「京子?」
京子「わたし、手伝えない」

 手伝えない、手伝えるわけがなかった。
 孤独を埋めてくれる機械を望んでいた私、何かが遠ざかる気がした。
 それは私の今日までの悩みの正体だった。
 あかりっていう、私を孤独から救ってくれる存在が、違う場所に行ってしまうということを、一番ショックに思っていた自分自身を知ってしまったから。
 私は、心の底で思っていたんだ。あかりっていう存在が、孤独を埋めてくれる道具として私のそばに永遠に居てくれると。
 私の言葉に結衣の顔が豹変したのはすぐだった。
 一気に私の胸倉を掴んできた。

結衣「なんで手伝えないんだよ!」
京子「無理だよ、私はあかりのこと道具にしか思ってなかったんだよ?今気づいちゃったんだもん、私友達失格で、あかりにどんな顔して会えばいいのかわからないの」
結衣「それがどうした?そんな理由であかりのことなんて知らないって言い切るのか?」

 胸倉を掴んでいる手に力が入っていくのを感じる。
 胸に感じる服がねじれる感覚に痛みが入り始めた頃、結衣の力強い瞳に怒りが混じり始めた。

結衣「なんで、こんな奴選ぶんだよ」
 
 そのセリフと同時に、手に入る力が緩み始めた。
 喉が解放されて、一気に涼しい空気が胸辺りに広がると同時に、結衣の視線は私を見下ろしていた。

結衣「京子、私ね。あかりの事好きなんだ」




143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:52:46.48 ID:L62z0KCK0

 結衣の言葉に体中が強張るのを感じた。
 その強張りに、今さっきの自己嫌悪と同じように頭が痛くなる。
 それはなぜなのか、どうしてなのかなんてわからないけれど、ただ目の前に居る結衣は、私の態度の原因をわかっているかのようだった。

結衣「私は、あかりのことが大好きだ。本当に一人の人として、私はあかりが大好きなんだ」

 私に被せるように言葉が続く、目の前であかりの事を好きだと宣言する結衣に、心の中が酷く歪んでいくのがわかる。
 なんで、そんなことを言うのかと、今の私に対してなんでそんなことを言うんだ。
 気づかなければよかったと後悔して、孤独を埋めてくれる機械としてずっとあかりを見てきたことを、今さらに知った私に。
 
京子「なんで、そんなこと言うんだよ…」
結衣「わからない?」

 わかるわけがないと、首を振るくらいしか今の私にできることがない。
 でも、心の中で感じているこの感覚が、心の中で膨らんでいくのがわかる。
 抑えようとしても抑えられそうにない心の中のモヤモヤ。結衣が言葉を紡ぐたびに大きくなっている気がしてならなかった。
 でも、耳を塞いだって結衣の声は私に届いてきて、それが心を抉るのは容易かった。
 ここまで悩んでいた悩みの種を、結衣は指摘してきた。




144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:54:06.52 ID:L62z0KCK0

結衣「京子が素直じゃないから」

 素直じゃない。
 これに似た言葉を綾乃からも聞いた事を思い出して、偽っていた事なんてあかりを友達としてじゃなくて、道具として見ていたことから避けていたことなのかもしれない。

結衣「あかりの事、道具みたいに見てたっていうのも、素直な理由じゃない。京子は逃げてばっかりだ。いつまで背中を向けて逃げ続けるんだよ!」

全てを見透かしているような発言に、頭の中が真っ赤になる。
 人の苦悩も知らないのに、私の事なら何でもわかっているという言い方が癪に障って、気づけば手が動いてた。
 乾いた音が部屋の中に響いて、私は振りぬいた手の行方にだけ目を向けていた。

結衣「……」

 何も言わない結衣。
 部屋の中に漂ってる空気は今さっきに比べて透明だった。
 乾いた音が全てを飛ばしてしまったみたいに、私の心の中にあったモヤモヤが抜けるように動く。
 なんで私は結衣に手を出したのだろう。





145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:55:42.37 ID:L62z0KCK0

 よく考えれば当然だ、結衣が私の事をそれなりに分かっているのは。長く一緒に居たんだから、そうそれは当然なんだ。
 だから見透かされた事に怒ったっていうのは、多分この暴力を正当なものにする理由を考えた結果なんだと理解できてしまった。
 その理由を考えて、結衣が今さっき言った言葉の中にあった、それに心が揺らいでしまった。
 本当に簡単に物事を考える事が出来る瞬間っていうのは、理性が無くなってしまった時なんだと理解できた。
 つまり、私は、結衣のその……

 あかりが好きだと素直に言える、その素直さに、嫉妬して手を出したんだ。

京子「ご、ごめん」
結衣「私はあかりを探しに行くよ」

 私の言葉にそれだけ言うだけで、結衣は部屋から出ていこうとする。
 それを止める術を私は持ってなくて、そのまま送り出してしまう形にしかできない。
 わからないままに、すべてが終わってしまうような気がしたけど、動けないままだ。
 そう、このままでいいんだと。目線を落として、それで終わりにしようと思った。
 それでいいと、勝手に幕を引こうとした時、

結衣「もしも、あかりを見つけたら素直になれよ」

 そんな言葉が聞こえた。





146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:58:04.58 ID:L62z0KCK0

―あかり―

 思った以上に寒くなってきたのは、日が暮れ始めてしまったこともあるけど、また雪が降り始めたからだった。
 コンコン、コンコン。
 地面を覆い隠す様に空から降り注ぐ雪を、傘を差さないで棒立ちで眺めながら今日は学校をズル休みしちゃったことに少しだけ罪悪感を覚える。
 誰も来てくれないことくらいわかってる。最後に携帯が震えたのは一時間くらい前だったかな。もう携帯は鳴らなくなって、こんな寒空の公園にいるのはあかりくらいなんだろうなんて思った。

あかり「えへへ、寒いなぁ」

 手袋も湿っぽくなっていて、手の先が寒々しくなっていた。
 多分、もう風邪を引いてると思う。
 頭もぼんやりしてるし、コートは羽織っているけど、下は制服でやっぱり寒いものは寒くて、温かい場所が恋しくなる。
 温かい場所って考えて、それから連想してしまったものに自己嫌悪する。
 当り前だよね、こうやって離れるようにしてるのに、結局は温かい場所って考えると、そう考えてしまうのだから。
 そんなことを思っていると、目の前が少しだけ見えづらくなって、涙目になっている事に気がついた。




147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 22:59:40.47 ID:L62z0KCK0

あかり「泣いちゃだめ、泣いちゃったら、もう立ち直れないよ」

 なんだか、思ってたのと違うっていうのが感想だった。
 もっとすっきりと終わってしまえると思っていたのに、あかりは何処までも引きずり続けている気がして、漫画とかとは全然違う、とても苦しい。

あかり「あかり、悪い子だなぁ」

 涙が溢れそうになるけど、堪えて流れないように努めるのも限界がある。自業自得に事を進めて、その結果泣きべそかくなんて格好つかなくて、本当に悪い子で馬鹿な子だなって卑下する。
 暗くなって寒くなって、家に帰るんだろうな。
 明日から皆と合わせる顔がないよね。
 自然と笑っちゃう。漏れるような笑い。とても痛々しくて、傍から見ても痛々しいのはわかってる。
 でも、笑ってないと涙が零れてしまいそうで、だから笑うしかなかった。
 もう、これでいいよ。皆に迷惑かけちゃったから、これでいいんだ。開き直ればいいんだって、最後に笑って終わりにしちゃえばいいんだって、そう考えて笑おうとした。
 空を見上げると、不思議な赤い空が見えた。




148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:02:05.36 ID:L62z0KCK0

 なんだかとっても不思議な赤い空で、涙目になってる所為かなって思った。
 でも、それが空じゃないって気づいたのは、その赤と黒の境の中で黒い場所を雪が舞っている姿があったからだ。
 この赤い空は傘で、誰かが差してくれているんだって気づいて、あかりを傘に入れてくれた人が誰なのか知りたくて、振り返った。
 振り返った先、まず見えたのはよく見ているコートでも、ソックスが届かなくて露出している肌が少しだけ赤く見えた。
 おかしな視点の動かし方だって思う、胸元から足先に掛けて視線を動かしているだけで、相手の顔を確認しようとしてないのは、余りにも失礼なことだなんて思いながら、最後にゆっくりと顔を上げる。
 誰かはコートだけ見ればわかる。丁度、顔の輪郭がわかるくらいで髪の色も分かった。肩で息をしているのを見ると走ってきたのかな。あかりなんかのために、そんなことしなくたっていいのに、どうしてなのかな。
 なんだか気まずそうにしてるのは、やっぱりあかりがまだ離れていないからなのかな、だったら丁度いいよね。
 ここで全部終わらせちゃっても、構わないよね?





149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:02:59.59 ID:L62z0KCK0

あかり「こんばんは、京子ちゃん」

 京子ちゃんはあかりがいなくたって幸せになれる、あかりも京子ちゃんのことでもう悩まなくたっていい、今日で全部おしまい。

京子「風邪引くよ」
あかり「心配かけちゃってごめんね」

 笑ってごまかす様にして、今さっきまで溜めていた涙も封じ込める。ここで泣いちゃったら、京子ちゃんが幸せになれない、あかりもちゃんと諦めきれないから。幕引きだって簡単、あかりは京子ちゃんのこと、もう今までみたいに見られないんだから、仕方ないよね。

あかり「京子ちゃん、今日までありがとね」

 もう、本題に入っちゃおう。話を始めちゃったら、多分言えなくなっちゃうから、別に付き合っているわけでもない、あかりと京子ちゃんは友達で、あかりは京子ちゃんが幸せになるための道具なんだ。
 京子ちゃん、京子ちゃんは今日まで幸せだったかな? 京子ちゃんの幸せのために、あかりは役に立てたかな? 




150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:03:32.51 ID:L62z0KCK0

京子「あかり……」
あかり「あかりね。ちゃんと京子ちゃんのこと支えて来れたかな? 道具としてね、京子ちゃんのこと支えて来れたかな?」
京子「……」

 あかりの言葉に京子ちゃんの表情が曇っていくのがわかる。そうだよね、こんな風に言われて気分がいいわけないよね。嫌われたってしょうがない言い方してるから仕方ないよね。

あかり「京子ちゃんは、あかりがいなくても大丈夫だよね?」

 一方的に言葉を繋げてく、京子ちゃんは多分何も言い返せないって知ってる。あかりの事、ずっと道具だって見ていた事、全部知ってる。あかりはそれでもよかったから。でも、あかりはそれがとても辛くて、自然と離れられればよかったのに、でもきっぱり諦めないとずっと心で唸り続けるだけだって思えたから。

あかり「あかり、進学校の方に進もうって思ってるんだ」
京子「……知ってる」





151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:06:51.17 ID:L62z0KCK0

 うん、もうそれは予想してた。結衣ちゃんが進学校の事を話しかけてきた時から、もう想像はついてた。すんなり切り出せる、もう一緒の学校にはいけないって、後を追いかけることも無いって、お荷物になった道具は離れた方が良いに決まってるから。

あかり「うん、もう京子ちゃんは大丈夫ってわかってるから、もう幸せになれるから、あかりみたいな道具とは、バイバイしなくちゃ」

 そう言って、傘の中からあかりは抜けるように動く、京子ちゃんはもう動けないよね。京子ちゃんの事、あかりは良く知ってるから。自覚もしてた、だからもう動けないってわかってる。
 背中を向けて、後は家に帰るだけ、それでもう何もかも終わり。それでいいの。

あかり「さよなら、また明日ね」

 足を一歩踏み出して、傘から抜ける。
 白い雪が頭に乗り始めて、自然と涙が零れて、見えてないから我慢しなくていいって流したまま歩きはじめる。
 これでおしまいだから、もういいよね。
 心にある私の思いは、もうどこか遠くに行ってしまったから。
 もうこれでいいの。

京子「あかり!」

 だからそんな声と共に、後ろから抱き寄せられたことが信じられなかった。




152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:09:08.08 ID:L62z0KCK0

―京子―

 あかりの顔を胸に押しつけるようにして抱き寄せていた。
 結構大胆な事をしたって思う反面、あかりの体が震えているのに気づく。私の体も震えてる、震えてるのは寒いからじゃなくて、今さっきのあかりに言われた言葉に怯えているからだ。あかりはなんでもわかってて。私があかりの事を道具として見ていた事も見抜いていた。

あかり「……離してよ」

 か細い声で言葉を吐くあかりを、私は手放す気は無かった。無いに決まってるから、それは何でと聞かれても、今ここで、私はその答えを見つけなくちゃいけない。
 ここにはちなつちゃんも、結衣もいないから機転の利くアドバイスなんて誰もくれはしない。
でも、あの時に結衣はヒントをくれた気がする。
 素直になれって、だから私の持ってる素直な気持ちを、見つけなくちゃいけなかった。
 正気に戻ったあかりが私の手の中から逃げようとしてるけど、離すつもりはなかった。
 



153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:09:51.54 ID:L62z0KCK0

あかり「やめてよ、杉浦先輩と付き合ってるんでしょ、京子ちゃん」
京子「綾乃には振られた」

 その言葉にあかりの体がビクリとしたのを感じる。予想外だったんだ、そう、あかりは私が綾乃の告白を受け入れるって思っていたってことだ。予想通りに事が運んでいたら、今この腕の中のあかりはもういなかった。
 綾乃も言ってた、分かってと。
 綾乃は私の特別になることができないって、そう言ってて、でもそれがどういう意味なのかを、私は今探してる。
だから、まずは口に呟いて整理していこう。
 私の素直な気持ちを、ちゃんと見つめよう。




154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:11:10.25 ID:L62z0KCK0

京子「あかりにさ、私はあかりの事を道具として見てるって言われた時、すごく怖くなったよ。今日ね、その事に気づいたんだ。だからあかりが進学校に行くって話を初めて聞いた時から、何かに焦ってた」
あかり「京子ちゃん、だったらもう……」
京子「でもさ、その話が来るよりも前にさ、私、何かに焦ってたんだ」

 うん、私は生徒会室での話を聞く前から、何かに焦ってた。緊張しすぎて、考える事よりも直観的に感じた事ばかりが、頭を巡っていた。
 理論的じゃなくて、感情的に考える。道具のように見始めたのは、何かを隠すためだって感じられたから。

京子「私の中にね、変な暗い空間があったの。そこに孤独みたいなのがあって、それが怖くて、それを埋めたくて仕方なかった。でも、その空間にね、あかりがいるの」
 
 心の中にあったぽっかりとした空間、いつか夢に見た素直じゃないと呟いてくる誰かが出てくる夢。その夢の呟いた誰かが、今なら分かる気がした。
 多分、あれは私なんだ。素直な私……っていうわけじゃないけど、でもその空間の意味を本当に知っている私なんだ。




155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:13:22.23 ID:L62z0KCK0

 道具として見ていた、それはまやかしだとなぜか言いきれたのは、その空間の正体を私はすでに知っているからだって思えた。
 ちなつちゃんはそれを知っているから、私にあんなことを言ってきたんだ。逃げちゃいけないって、ちなつちゃんは一番知っている、だから不幸になってしまう人がいるって言ってくれた。
 綾乃も理解してたんだ。だから特別になれないって、ここまでしか近づけないって、だから告白して私を振ったんだって。多分、巻き込まれてしまうところだったんだ。私のこの空白の中に。
 結衣も気づいていて、今日もしも結衣が来てくれなくて、何も言ってくれなかったら、私はずっと逃げ続けるだけで、今さっきのあかりの言葉に動けなくなってたんだと思う。
 もう、こんなに迷惑かけてるのに、ここで素直になれなかったら、酷い臆病者になってしまうだろう。
 でも、ここまで来て、道具と見ていたことも逃げなんだってわかった。素直になれない私、それを正当化してあかりの理由に便乗して、覆い隠す様に本当の理由をまっくろに塗りたくっていただけだった。




156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:15:31.44 ID:L62z0KCK0

あかり「京子ちゃん」
 
 あかりの声はまだか細いままだ。
 雪がどんどん頭に乗ってくるけど、そんなことを気にすることもない。

京子「ごめんね、あかり。私ずっと逃げてた」
あかり「京子ちゃんは逃げてなんてないよ。もう終わったんだから」
京子「うん、終わった。あかりのこと道具として見て、それを理由にそばに居る私は終わったの」

 そう言って、あかりの目を見る。少しだけ怯えるその瞳を見て、胸の奥がトクンと躍動した。ドキドキしている、理由なんてもうわかってる。素直になれ、今だけでもいいから素直になろう。

京子「だけど、私はあかりの事、もう違う形で見始めてる。もっとそばに居たい、もっと見ていたいんだ」
あかり「きょ、京子ちゃん。何言って……」
京子「あかり」

 一気に息を吸って水の中に潜り込むように、私は黒く塗りたくられたその中に入り込む。その中にある私の素直な本心を、手探りよせるように持ちあげる。もう絶対に手放さない、偽ったりしない、素直に抱き寄せたその素直な気持ちを……


京子「私、あかりが好きだ」


 あかりに向かって告げた。





157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:17:35.12 ID:L62z0KCK0

―あかり―

あかり「きょ、京子ちゃん……」

 目の前に真っ赤な顔で、でも強い瞳であかりの事を見抜いてくる京子ちゃんがいた。
 今さっきの言葉の意味を考えようとして、考えがまとまらなくて、そのまま視線が上に向く。
 空を見上げる。
 雪の降る空、今はもう暗くなってしまった。
 空を駆ける星があったなら、今までのこと、全部忘れさせてくださいって願うのかな。
 そんな都合のよい事は叶わないけど、今目の前にはあかりが求めていて、でも絶対にそんな事叶うわけもない世界がある。
 ドッキリか何かなのかな、そんなことを考えて思考を濁そうとしても、全く頭は働いてくれない。
 事実として、目の前に居る京子ちゃんは、私の事をずっと見つめてくれる。濡れそぼった瞳を見ていると、閉じ込めていた言葉が全部出てきてしまいそうになる。

京子「あかり、私はあかりの事が好きだ」

 もう一度告げられる言葉に、頭がぐらぐらと揺れる気がした。刺激が強すぎるとかそんなレベルじゃない。
 心の中に広がる大きな波が、心の中で鍵を掛けて遠くに追いやってしまったはずの思いを運んでくる。




158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:18:50.94 ID:L62z0KCK0

あかり「京子ちゃん、困るよ」

 自然と声に涙が混じってしまうのは、今さっきまで我慢していた物が全部流れ出てしまうからだと思う。
 もう、流れ出た涙は止まらなくて、今度はあかりから京子ちゃんの胸に顔を埋めてしまう。
 温かい、京子ちゃんの胸の中で涙が止まらないまま、言葉が出てくる。

あかり「京子ちゃん、ズルいよ」
京子「ごめん」
あかり「こんな風に終わりの話をした後に、そんなこと言うの、酷いよ」
京子「わかってる」
あかり「もうあかり、京子ちゃんの事幸せになんてできないよ。だって、もうとっくにあかりも、京子ちゃんの事、違う形で見てるんだよ」

 塞ぎこめていた気持ちが溢れてしまう。京子ちゃんに知られたくなかった私自身の願望を、本人に向かって吐いているのは、なんて言うかとても滑稽だった。
 もうこれから先、京子ちゃんを幸せにするためだけの行動なんて取れないのはわかってた。だって、素のあかりで、あかりは京子ちゃんと接したいから。だから、もう京子ちゃんの願ったことだけをできる道具にはなれない。

あかり「それでも、それでもいいの?」




159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:19:56.77 ID:L62z0KCK0

 私の問いかけに京子ちゃんの抱きしめてくれる腕が強くなる。安心できるくらいに優しかった。体中が幸せで溢れてるみたいにポカポカしていて、これほどに幸せなことなんて今まで無かったって思えるくらいに。

京子「違うよ」

そして、京子ちゃんは私の問いかけに。

京子「これからは全部まとめて二人で幸せになるの。あかりも私も、どちらか片方だけが幸せを供給し続けるなんて間違ってるからさ。でも、最初に私から先に、あかりに幸せを与えさせてよ、今までの全部を返すなんてできないけどさ」
あかり「えへへ、京子ちゃん。なんだかとっても恥ずかしいこと言ってるね」
京子「ば、ばか。あかりが言わせたんだろ」

 ちなつちゃんが強く言ってくれなかったら、私は埋もれさせたままで、終わってしまったんだって思えた。後でちなつちゃんに謝っておかなくちゃいけないって思った。
 でも、ここまで京子ちゃんに言ってもらえたんだから、あかりも言葉を返さなくちゃいけない。




160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:20:59.90 ID:L62z0KCK0

 今日までの事、全部に意味がなかったなんてことにならないように、ちゃんと言葉にして紡ぎたい。
 京子ちゃんの胸から顔を離して、少しだけ緊張した息を整える。
 すごくドキドキしているのがわかる。だって初めてだから仕方ないって思えた。

京子「あ、あかり……」

 京子ちゃんの顔が更に赤くなって、あかりの顔も熱くなってるのがわかる。耳まで真っ赤になってるんじゃないかって思えてきて、すごく恥ずかしくなってきた。
 でも、ここで言えなかったら何の意味も無いって思えてから、すぐに覚悟を決めて目を見て呼吸を整えた。
 もう、あかりの心は波に揺られて手の届く場所に来てた。それを壊さないように慎重に手に取る。少しだけ黒ずんでしまったように見えて手でなぞると、それは前と同じように輝いているように感じられた。
 温かいそれを私は抱きしめた。

あかり「京子ちゃん」
京子「お、おう」




161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:21:58.55 ID:L62z0KCK0

あかり「私、赤座あかりは、京子ちゃんの事、ずっと前から好きでした。今はもっと大好きです。私と一緒に、これからもいてください」

 そう言ったところ、京子ちゃんに思いっきり抱きしめられて、すぐに顔がまた熱くなるのを感じる。抱きしめてくれる京子ちゃんの顔を見ると頬に涙があった。

京子「あかり、ごめんね。今までごめんね」

 そう言って泣いて謝ってくる京子ちゃんに、もう大丈夫だからって言葉を掛けて、抱きしめ返す。震えてる、私も震えてるけど、京子ちゃんはやっぱりまだ泣き虫なんだって思った。





162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:23:00.73 ID:L62z0KCK0

京子「って、これじゃ、またあかりに慰めてもらってる形じゃん。よぉし、あかり、なにか私に頼みごとがあったらいっていいぞ」

 そこで気づいたように、そんなことを言い始める京子ちゃんを見て、なんだか久しぶりにそんな姿の京子ちゃんを見れた気がして、嬉しくなった。
 でも、何か頼んでもいいと言われたので、あかりはちょっとだけ恥ずかしいけど、頼んでみることにしました。

あかり「じゃあ、京子ちゃん…」
京子「ん、決まったの?」
あかり「うん、決まったよ」

 京子ちゃんに、それでどんな頼みごと?と聞かれて、少しだけ背伸びがしたくなってしまったあかりの願い事を呟く。

あかり「き、キスして――」
???「ストップだぁ!」

全てを言いきる前に、公園にそんな声が響いた。




163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:24:18.06 ID:L62z0KCK0

―ちなつ―

ちなつ「結衣先輩、何叫んでるんですか、ばれちゃったじゃないですか」

 先ほどあかりちゃんの頼みごとのある単語を聞いた結衣先輩が、叫んでしまった事が一番の問題であった。折角、あかりちゃんのいる場所を突き止めて、そこを京子先輩に探してもらうように誘導したっていうのに、これでは台無しです。

ちなつ「はぁ、ちーなは悲しいです」
京子「ゆ、ゆゆ、ゆゆゆいいいいいい!」
あかり「ち、ちなちななななななな!」

 突然の結衣先輩と私の登場に、今さっきの雰囲気などどこ吹く風になったのか、酷く真っ赤になりながら狼狽する二人の姿があった。

結衣「こら、こんな場所でキスなんてするな!」
ちなつ「結衣先輩、真面目に雰囲気ぶち壊しですから」
京子「な、なんでここに、ちなつちゃんも、た、たしか、駅の方を見に行くって!」

 京子先輩の酷い狼狽した姿を見ていると内心笑えてきますが、できればキスした直後に出て、死にたいと叫ばせたいレベルだったのですが。




164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:25:33.24 ID:L62z0KCK0

ちなつ「あのですね、ドラマみたいに物事を運ぶには、それなりの苦労ってものが必要なんです」
京子「へっ、えええ!?」
 
 京子先輩はまだ狼狽しているみたいだけど、それよりも気になったあかりちゃんの方に顔を向ける。
 目が合うと同時に、あかりちゃんはなんだか少しだけ気まずそうにしていた。ああ、もう少し時間が経ってからの方が良かったのかなって思ったけど、ここで何も言わないで終わらせるのは難しいんだなって思う。

ちなつ「あかりちゃん」
あかり「ち、ちなつちゃん。あ、あかり……」

 怒られるのかなって何だか怯えているようだけど、まったくそういう風になるんだったら、最初から拒まなければ良かったのにって、ちょっと内心笑った。

ちなつ「あかりちゃん、頑張ったね」
あかり「ち、ちなつちゃん、怒らないの?」
ちなつ「もしも、ここまでやっておいて素直じゃなかったらビンタしてたよ」

 これはもう率直な感想で、これで行き違いするくらいなら最低と罵ってあげようと考えていたくらい。




165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:26:40.29 ID:L62z0KCK0

 でも、ちゃんとこうなったから今は良しって感じかな。まぁ、この後の事は二人の問題なので、何も言うことは無いわけです。

あかり「ビ、ビンタって」
ちなつ「ん、それともしてほしい?」
あかり「え、遠慮しとくよ」
ちなつ「でしょ、とりあえず良かったね、あかりちゃん」

 そう言ってあげるとあかりちゃんは久々に笑顔になった。
 ああ、やっぱりあかりちゃんは笑ってる方が似合うよねって隣に目を向けて、結衣先輩と京子先輩が何やら言い合いをしている声が聞こえてくる。

結衣「なんで、いきなりキスしようとしてんだ」
京子「頼んできたのはあかりだ!」
結衣「そこは、やんわり断れよ!」
京子「結衣が出てきたんだろうが!」

 少しばかりの言い合いが続いていて、あかりが止めに入ったところで結衣先輩が口を止める。
 なんだろう、まだ諦め切れてないんだろうかって思ったけど、良く見ればそこには私が好きな結衣先輩の姿があった。




166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:27:33.73 ID:L62z0KCK0

結衣「あかり、私とした約束、守らなくていいぞ」
あかり「結衣ちゃん……」
結衣「あれはちょっと女々しすぎたって反省してる。だから約束は無かったってことでお願い」

 約束、その約束は知らないけれど、多分もう結衣先輩の中で区切りが本当に付いちゃったんだってわかった。
 それを言った直後に結衣先輩は京子の背中を叩く。いきなりの出来事になんだか転びそうになってる京子先輩を見ながら、ああこれは何という酷い後押し、なんて思った。

結衣「それじゃ、京子。あかりを自宅までちゃんと送るんだぞ」
京子「わ、分かってるよ。って、あかりの頭雪ばっかりじゃん」
 
 そう言って雪を優しく落としてから、赤い傘を拾いあげて二人が入る。これは見事な相合傘で、なんともロマンチックじゃないですか。




167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:28:08.63 ID:L62z0KCK0

 良く見ると、あかりちゃんはなんだか恥ずかしそうで、京子先輩もどこかぎこちなく動いてる。

あかり「え、えっと結衣ちゃん、ちなつちゃん……」
ちなつ「その話は後日ってことで、今日は帰ってちゃんと休んだ方がいいよ。風邪引いちゃうよ」
あかり「うん、ありがと」
結衣「無理はしないように、あと京子は明日、すぐにごらく部で尋問大会だからそのつもりで」
京子「そ、それは冗談きついぜ」
結衣「冗談じゃないぞ。ま、今日は早く帰れ」

 なんだか久々に四人で帰りのあいさつをしている気がして、なんだかとっても楽しいのは、やっぱりごらく部とみんなに愛着を持っているからなんだろうって、その時感じた。





168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:29:03.92 ID:L62z0KCK0

―結衣―

 二人が公園から立ち去って、私はちなつちゃんを自宅に招いていた。理由としては、一日で色々と動かし過ぎたちなつちゃんに言う事とがあったからだ。

結衣「いくらなんでもデートの次の日に、ここまで動かすことは無かったんじゃないかな」

 私としては、これは鬱みたいな展開になってしまうんじゃないかと、冷や冷やしていた。
 でも、ちなつちゃんはそういうことも覚悟して行動したんだろう。私にはできないことだ。

ちなつ「心を休ませるんだったら、時間は必要ですけど。京子ちゃんもあかりちゃんも偽ってたり気づいて無かったりで、単純に考えられる様な状態にした方がいいかなって思って、まぁ、ちょっと急かし過ぎちゃったかなって思うところもありましたけど」

 そう言って、淹れた紅茶を飲みながら、ちなつちゃんは一度伸びをする。その顔は達成感に満ち溢れていたけど、どこか辛そうにしているみたいだった。
 なんだか、それが気になって席を立ってちなつちゃんの横に座って、頭を撫でてあげる。なんだか、ちなつちゃんの頭を撫でてあげたのは久しぶりだなって思った。

ちなつ「結衣先輩は、やっぱりあかりちゃんのこと好きだったんですね」
結衣「うん、大好きだったよ」
ちなつ「ちょっと妬いちゃうな」





169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:30:14.58 ID:L62z0KCK0

 炬燵の中、どこか彷徨っているちなつちゃんの手を優しく握る。触れてみてわかったけど、その手は震えていた。なんで、震えているのかって考えたけど、ちなつちゃんが何を我慢してたのか、少しだけ察しがついて。

結衣「ちなつちゃん、頑張ってくれてありがとう」
ちなつ「……卑怯です」

 そう言ってちなつちゃんの目から涙が零れた。失恋とかそういう涙じゃないのはわかった。こういう涙を、京子がよく流して立って思ったから。これは、恐怖に耐えていた涙なんだって、分かったから。

結衣「ここまで、耐えてきたんだから、もう休んでもいいんだよ」
ちなつ「……いいのかな。ここでちょっと休んでもいいの?」
結衣「ここで休まないでどうするのさ。ここまで走ってきたんだから、休んでいいんだよ。言いたいことがあったら言ってもいいし、今の私なら胸くらいならかしてあげられるからさ」

 なんとも恥ずかしいセリフを吐いている。自覚すると顔が赤くなると思ったけど、それより先にちなつちゃんが顔を埋めてきて、少ししてから声が漏れてきた。

ちなつ「怖かった。怖かったよ」
結衣「うん」





170: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:32:34.10 ID:L62z0KCK0

 今さっきまで二人の前に立ってたちなつちゃんとは思えないくらいに、その体は震えてた。ああ、こんな小さい体でごらく部の問題に立ち向かってたんだって思った。私も、ちなつちゃんの枷になっていたことくらい理解できる。

ちなつ「みんなから、嫌われちゃうんじゃないかって。うまくいかなかったらって、うまくいっても私だけ仲間外れにされちゃうんじゃないかって。考えると、そんなことばっかりが頭に溢れちゃって、逃げ出したかった」
結衣「うん」

 今は何も言わない。全部言ってしまっていい、弱気になっていたことも、怖かったことも、全て丸めて吐き出してほしい。
 




171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:33:25.89 ID:L62z0KCK0

ちなつ「私、みんなの為に動いてた。でもそれが全部おせっかいで、全部がめちゃくちゃになっちゃうんじゃないかって、あかりちゃんも京子先輩も、結衣先輩も、みんなバラバラになっちゃうんじゃないかって、不安だった」
結衣「うん」

 ここまで友達の事を思えるのが、ちなつちゃんのいいところなんだって思えた。
 だって、本当に人の事を考えられなくちゃ、こんな風にはなれない。
 友達に、きつく言葉を言うのは勇気がいるし、今まで築いてきた関係、全てが崩れ去ってしまう可能性だってあるわけで、それを考えたら普通人は守りに回るのだから。



172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:34:17.90 ID:L62z0KCK0

ちなつ「それが現実に起っちゃうじゃないかって、私の所為でそれが本当に起きちゃったらって、考えたくないけど考えちゃって、友達がいなくなっちゃうのがすごく怖かった」
結衣「うん」

 でも、ちなつちゃんは進んだ。
 全部、背負ってもいいからって進んだ。
 誰かが見たら、それは自己中心な考えだって言うかもしれない。
 判断が正解なのか不正解なのかなんて、分からない。人はみんな結果だって言うだろうから、この判断は間違ってないって思える。
 でも、私はちなつちゃんの覚悟そのものを褒めてあげたい。
 その選んだ行動の結果を見て、起らなかった最悪を怯えるちなつちゃんを、今だけは支えてあげたい。





173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:35:07.79 ID:L62z0KCK0

結衣「ちなつちゃん、もう大丈夫だよ。もう大丈夫」
ちなつ「結衣先輩……」
結衣「ちなつちゃんがいなかったら、私たちは今年で終わってたはずだから。今まで一緒に過ごしてきたこととか全部、ごらく部も全部無くなってたはずだから、だからちなつちゃんには感謝しきれないくらいだよ」

 本当に、このごらく部にちなつちゃんが入部してくれなかったら、ここで私は一人、終わっていく私たちの関係を悔やんでいるだけだったはず。
 何もできない私と、素直じゃない京子と、偽ってるあかり。
 全員が使い物にならないそんな中では、今回の変化に対処する術なんてなかったはずだから。





174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:36:16.83 ID:L62z0KCK0

ちなつ「結衣先輩、ありがとう」
結衣「どういたしまして」
ちなつ「やっぱり、結衣先輩の事、好きみたいです」

 その言葉に、少しだけ私は頭を掻いて、気づけばちなつちゃんは離れていた。
 その顔はいつものちなつちゃんで、少しだけ私の顔を吟味してから。

ちなつ「でも、まだ結衣先輩には未練の未の字があるみたいです」
結衣「う、し、仕方ないだろ。あかりの事好きだったんだから」
ちなつ「だから、本当の告白はもう少し後にしますね」

 そう言ってちなつちゃんは悪戯っぽく笑って、私もそれに釣られて笑う。
 久々にごらく部の皆と笑いあった気がして、心底安心している私がそこに居て、それがなんとも心地が良かった。

ちなつ「それじゃ、ゲームやりましょう、ゲーム」
結衣「ふふん、ちなつちゃん、負ける気なんてないからね」
ちなつ「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。結衣先輩」

 今はこれでいいよねと、囁くように私は心で私に聞いた。
 返事は無いけど、それで構わないと意識をゲームに向けて久しぶりに二人でやるゲームを楽しむことにしよう。




175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:38:23.75 ID:L62z0KCK0

―京子―

あかり「雪、結構降ってきたね」
京子「そうだな~、これなら雪合戦とかもできるんじゃないか?」

 二人と別れてから少しだけ時間が経った。雪が結構降ってきたこともあって、帰るのに苦労している有様であった。
 滑りそうになるし、水を吸った靴が重くて仕方がなかった。
 あかりは私が来るまで外に居たんだから尚更寒いのだろうに、今はなんだか嬉しそうにしてる。
 なんでかなって考えたけれど、考えれば自意識過剰すぎやしないかと顔を赤くしてしまう。

あかり「どうしたの、京子ちゃん」
京子「いや、その、こんなに寒いのに、あかりは嬉しそうって思ってさ」
あかり「えへへ、顔に出ちゃってるかな」

 そう言って笑いかけてくるあかり、この可愛らしさは反則でしかない。
 ただでさえ、今さっきの事もあって頭の中が爆発しそうだと言うのに、あかりは無邪気で同時に私を翻弄する。




176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:39:23.98 ID:L62z0KCK0

あかり「京子ちゃんとね、また一緒に歩けるようになれて、嬉しいんだよ」
京子「わ、私もあかりとこうして一緒に歩けるようになれて嬉しいよ」
 
 二人でこうして歩いていけるようになったのは、皆のおかげだってわかってる。
 もしも、綾乃が私を受け入れてたら、ちなつちゃんがいなかったら、結衣が家に来てくれなかったら、多分もう全部が終わってた。
 二度と笑い合えない関係になってたはずだから。

京子「ねぇ、あかり」
あかり「ん、なに京子ちゃん」
京子「私たち、みんなに迷惑かけっぱなしだね」

 私の言葉に、あかりは頷きを返す。
 ほんと、私とあかりのために色々動いてくれた。意見もしてくれた友達がいるから、今の私たちがある。
 それは間違いないことで、今こうして手を繋ぎ合っていることは、みんなの思いの上に出来上がっている結果なんだ。




177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:40:33.42 ID:L62z0KCK0

 やがて見えてくるのはあかりの家で、今日一日の事、あかりは親になんて説明するんだろうなって思いながら、結果はやっぱり残さなくちゃいけないんだよね、なんて思った。
 妙に決心ができている私に、心臓の鼓動が急ぎたてるように速いリズムを刻む。
 あと少しであかりの家の前になる。
 あかりの方を見やると、なんだか緊張してる私を見て心配そうな顔をしてた。
 大丈夫と聞かれて、ダイジョウブデースなんて答えを出してしまうくらいに、口があまり回らない。
 見慣れた玄関、そこの前に立つとあかりが結んでいた手を離す。当然で、ここが今日の二人の終着駅なのだから。

あかり「京子ちゃん、今日はありがとう。あかり、これから迷惑かけちゃうと思うけど、よろしくね」
京子「お、おう」
あかり「いつか、あかりの頼みごと叶えてね。京子ちゃん」
京子「……そ、そうだね」

 あかりの言葉に、またもや固まった言葉で返すことしかできない中で、あかりが家に向かって歩きだす。




178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:43:30.49 ID:L62z0KCK0

 いつか叶えればいい、それはとても都合の良い言葉だと思う。
 何時でもいいのだから。
 でもそれは、手元にそれがない人だけが使っていい言葉で、今の私には全てが揃ってた。
 あかりの頼みごとを叶えること、それを実現すること、それは今の私にしかできないことだって、なぜかそのときだけは思えて。

京子「……あかり」

 自然とあかりを呼びとめていた。
 ゆっくりと世界が動いている気がした。振り返るあかりの姿。
 ずっと偽っていたあかりへの素直な気持ちとか、その可愛らしさとかで頭が一杯になっていた。
 今しないでいつするのか、それは多分今日までの私と変わらない選択のはずだから。
 素直になった私の最初にすべきことは決まっていた。




179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:44:12.70 ID:L62z0KCK0

あかり「なに、京子ちゃ――」

 一気にあかりの肩を引きよせる。手に持っていた赤い傘がその場に落ちると、雪がほてった頬に触れるようになる。
 驚いているあかりの事なんて気にしないで、そのまま思いっきり抱き寄せるように私も一歩出て、一気にあかりの瞳に近づく。
 あかりの目が静かに閉じて、私も瞳を閉じる。
 もう、私から止まることも無いし、止まることなんてできない。
 まっすぐに、私が最初に叶えるあかりの頼みごと。
 初めての、その頼みごとを。

あかり「ん」

 私は叶えてあげるんだ。




180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:45:19.72 ID:L62z0KCK0

 少しだけカサカサした感触があった。
 こんな寒空、リップクリームも付けないでいれば、それはそうなるよね。
 そんなことを思いながら静かに唇を離して、瞳を開けるとそこにはまだ瞳を閉じたままのあかりがいた。
 
京子「あかり」

 私の呼びかけに、あかりはゆっくりと目を開いて、優しく笑う。

あかり「叶えてもらっちゃった」
京子「は、早い方がいいと思って」
あかり「京子ちゃんらしいね」

 そう言ってあかりは私の手を握ってから、嬉しそうに顔を綻ばせる。
 それだけで心が高鳴って、同時になんだかとっても恥ずかしくなってしまう。
 ちょっと、早く事を運びすぎたかもしれないなんて、今頃になって思い始めたけど私の頬をあかりの手が包んでくれた。




181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:46:26.60 ID:L62z0KCK0

あかり「だから、あかりからも、お返しさせてね」

 そう言ってあかりの顔に私の顔が吸い込まれる。
 唇に感じる今さっきと同じ感触、でも少しだけ触れ合ってる時間が長くて、それがたまらないほどに気持ち良かった。
 終わりは静かにやってきて、私はそのままもう一度だけあかりを抱きしめて、あかりも抱きしめ返してくれた。
 
あかり「京子ちゃん、ありがと」

 私のほうこそ、ありがとう。
 そう心の中で呟きながら、私の中の心配事は、こうして終わりを迎えたのだった。
 これから先、あかりと一緒に私は歩んでいく。
 喧嘩だってすることになるかもしれないけど、それはそれで素晴らしい事だって思える。
 今日まで素直じゃなかった私たち、でもこれからはできるだけ素直に接していけばいい。
 好きになるってそういうことだ。ありのままの私と、ありのままのあかり。
 互いに好きなところも、嫌いなところも全部認め合いながら進んでいく。
 今日、あかりに告げた好きに、それもすべて含めて行けるように、私はあかりの事を見ていけばいいんだ。だから、もうこれ以上、心配なんてする必要無いんだ。
 そんなことを思い浮かべて、私は抱きしめたあかりの頭を優しく撫でたのだった。




182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:48:43.22 ID:L62z0KCK0

 
 素直じゃない二人は、これから素直な二人になっていくんだから。

            ―おわり―



183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/22(金) 23:52:10.88 ID:L62z0KCK0

 これで終わります。

 いつぞやかの京子「アッカリーン」スレでは、これを完結させることができなかったので、立てさせていただきました。
 

 京子「アッカリーン」スレから応援してくださった方、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
 


元スレ
SS速報VIP:素直じゃない二人(ゆるゆり)