1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 16:49:15.53 ID:OSvE5Rlm0
いちご(うう……なんでこんなことになってしまったんじゃ……)
全国大会一回戦終了後。ちゃちゃのんこと佐々野いちごは後悔の念に囚われていた。
本来ならば余裕だったはずの一回戦突破――それを、あろうことか自らの一手で取り逃がしてしまったこと。
それがいちごの心に、重くのしかかる。
いちご(圧倒的リードで渡してもろうた中堅戦――あんままなら勝負は鹿老渡のものだったはずじゃ)
いちご(でも……ちゃちゃのんの一手が、勝負を決めてしもうた)
いちご(――役満直撃)
考慮していなかった事態だ。いや、仮にあの可能性を考慮出来ていたとしても九分九厘あの一手を選んでいたはず。
いちごのチームメイトたちも、あれは主将のせいではないと慰めの言葉をくれた。
仕方がない。あれは誰が打っていたとしても振り込んでいた役満だったと。
しかしその慰めが、逆に辛かった。
いちご(なんであんとき九索を切ってしまったんか……)
いちご(分かっとる。ちゃちゃのんは、『足りん』かったんじゃ)
いちご(あの九索は100人いれば99人は切っとる。だけど――『はっきりと、明確な意思を持って』あの九索を残せる一人が、世界には居る)
いちご(それが一流と凡百な打ち手の、決定的な差――ちゃちゃのんは、『そっち側』にはいけんかった)
いちご(悔しいのう……)
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 16:50:10.87 ID:OSvE5Rlm0
元より運の要素が占める割合が大きすぎる競技だ。思わぬ結果になってしまうことくらいは最初から承知している。
しかし、それを差し引いてもなお心に残るのは後悔の一念。
この感情を整理することが出来ずに、いちごはチームメイトたちと距離を置いて、どこへ向かうでもなく会場の中をさまよい歩いていた。
と、そこへ――
記者A「いたぞ! こっちだ!」
いちご「え……?」
記者B「佐々野選手! 残念ながら一回戦での敗退となってしまいましたが今のお気持ちをお聞かせ願いますか!?」
記者C「今回主将という責任を背負っての出場となりましたが、その重責があの失打に及ぼした影響などあればお聞かせください」
記者D「ねぇちゃちゃのん、今日のパンツ何色?」
いちご「え、あ、あ……」
記者たちに囲まれ、質問攻めにされるいちご。
いちごの中で先の敗戦はまだ整理がついていない。出来たばかりの傷をえぐられ、掘り返されるような気持ちだった。
質問に対して答えることも出来ず、ただただ機能停止して立ちすくむばかり。
いちご(イヤじゃ……もうこんなところにはおりたくない……!)
思わず目頭が熱くなる。滲み始めた視界の中にもう何も映したくなくて、いちごは目を閉じた。
いちごの涙をどのように解釈したのか、記者たちはさらに質問を投げかける。
情け容赦のない質問責めに対して、いちごは堪え忍ぶことしか出来なかった。
早くこの時間が終わってしまえばいい。沈黙をもって記者たちに対処しようとしたいちごだったが、そのとき。
記者たちの質問に混じり、凛とした声が響いた。
??「すまんが、そこまでにしてもらえんか? 彼女は私と先約があってな」
いちご(え……?)
聞きなれない声に目を開けると、やはり見慣れない姿の少女が、そこにはいた。
片側だけをくるくる巻いた、珍しい髪型をした美少女だった。
いちご(あれ? どこかで会ったかのう……? いや、やっぱり初めて見る顔じゃ)
いちご(……約束なんてしとったかのう?)
??「さ、こっちだ」
少女はいちごの手を握ると、記者たちを振り切ろうと足早に駆け出した。
いちご「わわわっ……!」
??「少し急ぐか。あんな素人丸出しのニワカ記者とはとっととおさらばしたいからな」
いちご「あっ、あんた、いったい何者なんじゃ?」
??「……フッ、ただの通りすがりの打ち手さ」
いちご(な、なんかようわからんけど……とにかく助かったってことでいいんかのう?)
少女に握られた手が、温かい。
不安と悪意に押し潰されそうだったいちごにとって、少女は救い以外の何ものでもなかった。
二人手をつないだまま走り、会場を離れていく。
十分ほど歩けばもう人影はまばら。
あれだけの熱気と歓声に満ちていた大会々場とはまるで違う、人気のない公園までたどり着いて、ようやく二人は一息つくことにした。
??「よーし、ここまで来ればもう大丈夫だろ。後をつけるような性悪な記者もいないようだしな」
いちご「あのー……ここまで来といてなんじゃけど……どちら様だったかのう?」
いちご「も、もしかしてホントに約束しとったんか……? ちゃちゃのんが考慮しとらんかった相手なんか……?」ガクブル
??「いーや、正真正銘完全無欠に、私たちは初めて同士だ」
いちご「なら、どうしてさっきはあんなこと……?」
??「お困りのようだったからな。差し出がましい真似をしたとは自分でもわかっとるが……迷惑だったか?」
いちご「そ、そんなことない!」
??「フフ、それは良かった。さて、せっかくここまで来たんだ。少し休んでいくとするか」
??「ふぅ……少し走ったら汗をかいてしまったな。何か飲むか?」
いちご「あ、じゃあいちごミルクを……」
??「座ってろ。そこのコンビニで買ってくる」
いちご「あ、はい」
少女は公園のすぐそばにあったコンビニへと歩いて行った。
……他に誰もいない公園で、日陰のベンチに座ってぼんやり考えるいちご。
いちご(なんか……いつの間にか流され過ぎとらんかの?)
いちご(そもそもあの人の名前すら聞いとらんし)
いちご(そりゃ、助けてくれたのは嬉しいけど……これでいいんじゃろうか)
いちご(……あ、そもそも何も持たんで会場を出てきたからジュース代さえ持っとらん……)
いちご(うう……考慮しとらんことだらけじゃ)
そんないちごの悩みを知ってか知らずか、少女は明るい表情を浮かべながらビニール袋を片手にさげて帰ってくる。
??「ほれ。いちご牛乳」
いちご「あ、ありがと……けどすまん、実はお金を持っとらんのじゃ……」
いちご「このジュース代はあとで必ず払うから少しだけ貸しにしといてくれんか!?」
??「なーに、気にすんな。実はあのコンビニ、新装開店だったらしくてな」
??「なんでも、一本はオマケしてくれたらしい。だから気にせんでいいぞ」
いちご「ほー、そうなんか……あ、それと! 名前! 名前は?」
??「ああ、そういえば自己紹介もまだだったな」
いちご「ちゃちゃのんの名前は佐々野いちごじゃ!」
??「知ってる」
いちご「ほえ?」
??「パブリックビューイングにデカデカと映ってたのを見させてもらってたからな」
いちご「……試合をか?」
??「ああ。……全部、見させてもらった」
いちご「………………」
全部見られていた。ということはつまり、あの清老頭への振り込みも――ということだろう。
思わぬドタバタに忘れかけていた悪夢が、今蘇る。
??「……やえだ」
いちご「え?」
いちごのフラッシュバックを遮るように、少女は名前を告げる。
やえ「小走やえ。それが私の名前だ」
いちご「やえちゃん……か」
やえ「ちゃん付けは、少し気恥ずかしいな。あまり言われ慣れてない」
いちご「あ、だったら……!」
やえ「だけど『ちゃちゃのん』なんてネーミングセンスの持ち主にしては、マトモかもしれんな」
いちご「初対面の人にダメ出しされた!?」
いちご(そんなにネーミングセンスないんかのう……みんな可愛いと言ってくれるんに……)
やえ「どれ、ぬるくなる前に飲もうか」
紙パックの側面からストローだけ抜き取り、吸い口に突き刺す。
ちゅーっと吸えば、いちごの甘い香りと牛乳の柔らかい味。
いちご「んー、美味しい! やっぱりいちごミルクは最高じゃのう♪」
やえ「ん、そんなに美味いのか? どれ、私にも一口」
う、と固まる。いや、やえにいちごミルクをあげるのがイヤだというわけではない。
だけど、もしもこれを一口あげるとなると……
いちご(か、かかかかかか間接キッス……!?)
いちご(い、いやいやいやいや、考えすぎじゃ……そう、女の子同士なら無問題じゃ!)
いちご「ほ、ほれ。一口だけじゃぞ」
いちごが差し出したストローに、やえは特に気にする様子もなく吸い付いた。
ちゅう、と。
やえ「おお、なかなか美味いなー」
いちご「そりゃそうじゃろ。ちゃちゃのんオススメじゃからな!」
いちご(全然気にしとらん……やっぱりちゃちゃのんの考えすぎだったんか……?////)
やえ「……しかし、今日は暑いな」
いちご「そうじゃのう。東京の夏は、暑いわ」
やえ「どっか、涼んでいくか。このあと特に用事がなければ、だけどな」
いちご「え、あ……うーん、確かにこのあと、特にすることはないけど、なぁ……」
と、いうか――用がないのも確かにそうなのだが、帰りたくない、という気持ちが大きかった。
どんな顔をして、チームメイトと会えばいいのか――今のいちごには、まだ分からなかった。
だからやえからの誘いに、こくりと頷いてしまったのだ。
やえ「よし、そうと決まればどっか向かうかー。行きたいとこあるか?」
いちご「んー、特に思いつかんなぁ……」
やえ「麻雀をしていくというわけにもいかんしな。個人的に打っていきたい気持ちはあるが、ルールを破るわけにもいかん」
いちご「ん、ルール?」
やえ「個人戦出場者同士が事前に対局するのは禁止、と聞いてないのか?」
いちご「いや、聞いとるが……え、それじゃ、やえちゃんも?」
やえ「そうか、紹介が遅れたな――奈良県個人戦一位の小走やえだ」
いちご(は、はわわ……確かにあの会場にいたなら選手なのも当たり前じゃのう)
いちご(しかし、なんで今までそれを思いつかんかったんじゃろうか……)
やえ「む、やはり私のことを知らなかったのか?」
いちご「お恥ずかしながら……」
やえ「ニワカか!!」
いちご「ひっ!?」
やえ「いや、失礼。むしろアレだな、知られてない私のほうがニワカ丸出しだったな……」
やえ「自分の未熟を人に押し付けてしまい、申し訳ない」
いちご「(あー、びっくりした……)いや、ちゃちゃのんが知らんかったのが悪かったんじゃ。しっかり覚えとくからのう」
やえ「そうか。それはありがたい話だな」ニッコリ
いちご「本戦でも当たれるといいのう! やえちゃんと打つのは楽しみじゃ!」
やえ「フフ、私も楽しみだよ。……と、話を戻そう。結局どこへ行く?」
いちご「そうじゃのう……ちゃちゃのんもここらへんの地理には疎いし、何があるかも分からん」
いちご「とりあえず、人が多そうなあっちの通りをブラブラしてみらんか?」
やえ「そうだな、途中にどこか入れそうな店があるかもしれない」
いちご「んじゃ、レッツゴー! じゃ!」
トテトテトテトテ……
やえ「照るなぁ。こう暑くては困る。さっさとどこかへ入ろう」
いちご「ちゃちゃのんも暑いのは苦手じゃ……うう、溶けるぅー」
やえ「溶けるな溶けるな。お、あそこに喫茶店があるぞ。入るか?」
いちご「お、お金……」
やえ「そうか、持ってないんだったな……いいや、気にするな。ここはこの小走先輩に任せておけ!」
いちご「おお、やえちゃん太っ腹!」
やえ「胸囲は細いけどな……って何言わせるおまえー!」
いちご「あっ……(察し)」
やえ「 」
いちご「ふふっ、冗談じゃ、冗談。ちゃちゃのんも胸張れるほどのものはお持ちになっとらんしのう……」ホロリ
やえ「……揉ませろ」
いちご「ふぇ?」
やえ「ええい、ムシャクシャするー! 揉ませろ! ストレス発散に!」
いちご「公衆の面前で倒置法使ってまで言うことじゃないわー!?」
やえ「喫茶店じゃなくて、そこの人気のなさそうな細道に入ってみるか?(真顔)」
いちご「真顔怖い」
やえ「……まぁ、いつまでも往来で馬鹿話もなんだな。さっさと入るか」ガチャリ
店員「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」
やえ「ああ、一番いい席を頼む」
店員「それではこちらへどうぞ。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
いちご「涼しー! クーラーを生み出した現代文明は偉大じゃのう……」
やえ「まったくだな。さて、注文は何にする? 値段なら心配しなくていいぞ。小走先輩に任せておけ」
いちご「ところでやえちゃんって、何年?」
やえ「え、三年だけど?」
いちご「ちゃちゃのんも三年じゃ。だから先輩呼びはちょっとのう……」
やえ「……まさか高校3年生になって一人称がちゃちゃのんの女子がいるとは思ってなくてな。年下だとばかり……」
いちご「ひどい!?」
やえ「そうかー、タメだったかー。先輩に対して敬語も使えんニワカかと思ってたよ」
いちご「ちゃちゃのんとしてはやえちゃんの方が年下に見えたがのう……主に身体的な意味で(ボソリ)」
やえ「なんだと!? 聞き捨てならん!」
いちご「じょうだんじゃ(真顔)」
やえ「目が笑ってないぞ、まったく……ん、」
店員「いらっしゃいませー」
やえ「誰か来たみたいだな」
??「この店で一番いい席を頼むし!」
いちご「やえちゃんと同じ事言っとるのう」
やえ「しかし、一番いい席は既に私たちが取った……この勝負、私たちの勝ちだな(ドヤァ)」
いちご「勝負するところじゃないと思うがのう(苦笑)」
??「あそこの席がいいし!」
???「こら華菜、わがまま言っちゃいけません。もう座ってる人いるじゃない」
???「あら、あの人は……」
??「キャプテンの知り合いですか?」
???「いいえ。でも……」
いちご「ん、あの二人組、こっちに来るみたいじゃぞ?」
???「あのー、すみません。私、長野の風越女子麻雀部の福路美穂子と申す者ですが……」
美穂子「小走やえさんと、佐々野いちごさんですか?」
やえ「!!!!!11111 私を知っているのか!?」
いちご「ちゃちゃのんのことも知っとるんか」
華菜「キャプテンは何でも知ってるし! あたしはお前らのこと知らないけどな!」
やえ「玄人とニワカの二人組か、なるほど」
華菜「誰がニワカだし!」
いちご「他の県の人にも名前を知られとるんは恥ずかしいのう……テレテレ」
美穂子「もしお邪魔じゃなかったら、ご同席させてもらってもいいですか?」
華菜「よろしく頼むし!」
やえ「ニワカは好かんが、この私のことを知っている玄人の頼みとあれば承諾せざるを得ないな」
いちご「ちゃちゃのんは誰でも大歓迎じゃ!」
華菜「ホントはキャプテンと二人きりが良かったけど仕方ないなー」
やえ「それはこっちのセリフだ」
美穂子「まぁまぁ、二人とも……ところで小走さんと佐々野さんはどうして二人で?」
いちご「ちゃちゃのんが困ってたところをやえちゃんに助けてもらったんじゃ」
いちごはやえに助けられたくだりを二人に話す。
失意のうちにぼーっとしていたところを記者に取り囲まれて難儀していたこと。
質問責めにされて困っていたところに、通りがかったやえがいちごを連れて一緒に逃げてくれたこと。
いちご「それでここらへんまで来て、せっかくだから涼んでいこうかって話になったんじゃ」
やえ「そこにお前たちがやってきたわけだな」
美穂子「あら、それにしては大変仲が良さそう。さっき会ったばかりだなんて信じられないわ」
華菜「私とキャプテンだって仲良しだし!」
いちご「そこは張り合うところと違うと思うがのう……」
やえ「なにっ、なぜそこで冷めてしまう! 私はこんなニワカに負けるなんて許せんぞ!」
やえ&華菜「バチバチバチバチ……(視線のぶつかり合う音)」
美穂子「……佐々野さん、二人は置いといて注文しちゃいましょうか(ニッコリ)」
いちご「ちゃちゃのんはこのケーキセットがいいのう」
美穂子「わぁ、美味しそう。ショートケーキと、チーズケーキと、モンブランの三種類から選べちゃうのね」
いちご「ちゃちゃのんは紅茶とモンブランのセットにしようっと。やえちゃんは?」
やえ「コーヒーとショートケーキだ」
華菜「キャプテンと同じのにするし!」
美穂子「あら、それは責任重大ね。えーっと、ココアとチーズケーキでいいかしら」
いちご「すいませーん、注文お願いしまーす」
店員「はーい、……カキカキ ご注文ありがとうございます、しばらくお待ち下さい」
いちご「それにしても、なんだか変な組み合わせになったのう」
やえ「私たち二人だけでも十分おかしな組み合わせだったのにな」
美穂子「フフッ、素敵な偶然もあったものね」
華菜「そーいえばキャプテン、なんでこいつらのこと知ってたんです?」
美穂子「この二人もインターハイの出場者なのよ。小走さんは奈良の、佐々野さんは広島のね」
華菜「ということは――キャプテンの敵!」ガルルルル
美穂子「こらこら華菜、やめなさい。ごめんなさいね二人とも、ちょっと早とちりしがちだけど根はいい子なのよ」
やえ「敵――ということは、お前も出場者なのか?」
美穂子「改めまして、長野県個人戦代表の福路美穂子です。この子は付き添いの池田華菜。よろしくね」
やえ「奈良県代表の小走やえだ」
いちご「広島の佐々野いちごじゃ」
やえ「ニワカは個人戦には出てないのか?」
華菜「だからニワカ言うなしっ! ……ちょっと調子が出なかっただけで、華菜ちゃんだってホントは……ゴニョゴニョ」
やえ「フッ」
華菜「鼻で笑うなーっ!!」
いちご「まぁまぁやえちゃんもそのくらいにしとき」
美穂子「そうよ。本戦で当たるかもしれないけれど、今はそんなの関係なく楽しみましょう」
やえ「そうだな。個人戦出場者同士仲良くしようじゃないか。個人戦出場者同士……な」
華菜「性格悪っ! キャプテン、こいつ性格悪すぎですよ!?」
やえ「なんなら麻雀で勝負してやってもいいんだぞ? 対局できないのは個人戦出場者だけだからな」
華菜「言ったな? あとで泣いて謝っても知らないし!」
やえ「それこそこちらのセリフだな。言っておくが、ニワカは相手にならんよ(ドヤッ)」
美穂子「こーら華菜、そろそろ怒るわよ?」
いちご「ほらやえちゃん、ケーキ来たし食べよーやー」
やえ「そうだな……すまない、大人げないところを見せてしまって」
いちご「おおっ、美味しそうじゃー。いちごもおっきい!」
やえ「ほう……なかなか期待できそうじゃないか」
美穂子「それじゃ、この素敵な出会いを記念して……」
一同「「「「いっただっきまーす!」」」」
いちご「んーっ、このモンブラン、ちょっと強めの甘さが紅茶とよく合って美味しいのう!」
やえ「全ての基本であるショートケーキ……それをここまで完璧に作れるとはな」
美穂子「こっちのチーズケーキもさっぱりとした甘さで何個でも食べられそうね」
華菜「おかわりしたいし!」
いちご「やえちゃんのショートケーキも美味しそうじゃのう……」
やえ「食べるか? そのかわり、そっちのモンブランも一口よろしく頼むぞ」
いちご「えっ、いいんか!? そしたらそのおっきないちごと……」
やえ「こーら、調子に乗るな。ほら、これだけだぞ。口を開けろ」
いちご「あーん♪ おお、こっちも美味しいのう! うう、それにしてもいちご……」
やえ「名前のとおりいちご好きか……仕方ないなぁ、半分だけだぞ?」
いちご「やったぁ♪ やえちゃん大好きじゃ!」
やえ「ほら、早くそっちのモンブランも」
いちご「どうぞどうぞー♪ はい、あーん♪」
やえ「いや、待て。こっちだっていちごをあげたんだからそちらの栗も半分渡すべきじゃないか?」
いちご「うっ……し、しかたないのう。ほれ、ちゃちゃのんの栗じゃ」
やえ「最初から素直に渡せばいいんだ、うんうん。……ほう、これはなかなか……」
いちご「美味しいじゃろ? じゃろ?」
美穂子「うふふ、仲が良いのねぇ」
華菜「キャプテン、あたしたちも半分こずつ……ああっ、同じの頼んだからやっても意味ない!? ううー……」
美穂子「なら、食べさせ合いっこだけでも、する?」
華菜「――キャプテンがお嫌でなければ!(目ェキラキラ)」
美穂子「まったく華菜は甘えんぼなんだから。はい、あーん」
華菜「あーん……はい、キャプテンもー」
美穂子「あーん。うん、美味しいわ(ニッコリ)」
華菜「キャプテンに食べさせてもらっただけですごく美味しくなったし!」
美穂子「私もよ。すごいわ、まるで魔法ね!」
華菜「さすがキャプテンだし!」
いちご「ふふふ……」
やえ「どうした、いきなりニヤニヤして」
いちご「楽しいのう。つい一時間前まで泣いてたのが、嘘みたいじゃ」
いちご「それもこれも全部、やえちゃんのおかげじゃ」
やえ「ありがとう、なんて言う必要はないぞ。そもそもお前を助けたのも、半ば私の感傷のようなものだ」
いちご「感傷?」
やえ「そうだ。……負けた姿を見られるのは、辛いもんだからな」
美穂子「確か、小走さんの学校は晩成高校……でも、今年の奈良県の代表は、」
やえ「阿知賀だ。全国で見ても過去最多のインターハイ出場回数を誇る晩成高校が県大会一回戦負け……誇りに泥を塗った戦犯というわけだよ、私は」
華菜「………………」
やえ「言っておくがな、私たちが不甲斐なかった――というだけじゃない。阿知賀が強かったんだからな?」
やえ「しかし、そんなことを負けた後にいくら言ったところで、周りはただの負け惜しみとしか受け取ってくれない」
いちご「でも……やえちゃんは個人戦にも出て」
やえ「重さが、違うんだよ。個人戦と団体戦は、その重みも意味も、まるで違うものだ」
美穂子「……分かるわ。私もあなたとまったく同じだもの」
やえ「そうか、やはり玄人さんは分かってくれるか」
やえ「そう、分かってくれるのは同じ打ち手たちだけだ」
華菜「……分かるさ、打ち手なら……負けたヤツなら、誰だって知ってる」
華菜「その悔しさ……やり場のない気持ち」
やえ「だからな、記者たちに取り囲まれてる姿を見て――我慢できなかった。まるで自分のことのように、悔しかった」
やえ「何も知らんニワカに、踏みにじられていいものではないんだよ私たちってのは」
やえ「やはり礼などいらんのだ。私がやりたいからやった。ただそれだけだからな」
いちご「それでも……ちゃちゃのんは嬉しかったんじゃ」
いちご「ありがとう。助けてくれて」
やえ「ん……どういたしまして、くらいは言っておくよ」
華菜「まったまた、素直じゃないし! ホントは嬉しいんだろ!」
やえ「な……! そ、そんなことないぞ!」
美穂子「うふふ、見てるこっちまでほっこりしてきちゃうわねぇ」
いちご「照れてるやえちゃんも可愛いのう」
やえ「だから違うって言っとろーがー!」
それから四人で、色んな話をした。
学校でのことや、住んでる街のこと。友達のこと。
でも一番多かったのは、やっぱり麻雀の話だった。
ツキや流れの存在を認めるのか、牌に愛されているとしかいえない子供たちの力についてとか。
そういう、麻雀をやらない女子高生にとっては面白くもなんともない会話がとても楽しくて。
やっぱり麻雀のことが好きで、だからこの夏が終わってほしくないんだっていうようなことを、誰も口にはしなかったけれど四人とも思っていた。
美穂子「……いけない、もうこんな時間!?」
いちご「あっという間に時間が経ってたのう、ちゃちゃのんもそろそろ戻らんと……」
やえ「チームメイトにも何も言わずに来たんだろう、心配してるかもな」
美穂子「それじゃあそろそろ出ましょうか」
華菜「キャプテンとあたしはそのままホテルに帰るからこっちだし!」
やえ「それじゃ、な。個人戦で当たるようなことがあれば、よろしく頼む。おっと、手を抜いてくれ、というような意味ではないぞ?」
美穂子「私にとっても最後の夏よ。手を抜くようなこと、すると思う?」
やえ「それでこそだ。それでは私たちは会場まで戻るよ」
いちご「やえちゃんに立て替えてもらった喫茶店代も返さなきゃならんしのう」
美穂子「ええ。お互いに頑張りましょうね」
華菜「それじゃさよならだし!」
いちご「またなー、二人とも」
やえ「……さて、私達も帰るとするか」
いちご「おう」
帰る足取りはなんとなく重かった。
話し足りない気がして口を開きっぱなしだったけれど、それでもまだ足りなかった。
だんだんと歩みは遅くなっていき。
会場に着く寸前、立ち止まってしまった。
やえ「……どうした?」
いちご「いや、なんか、その……帰るのがもったいなくなってしまってのう」
いちご「このままやえちゃんと、ずっと歩いていられたらいいのにって……」
やえ「思っちゃったか。気持ちはありがたいし……正直なところ、私もそんな気分だ」
いちご「分かっとるんよ。そんなん出来んことくらい」
やえ「……歩こうか」
やえが差し出した手を、いちごは握った。
会場を出た時のように、またやえに連れられていく形になったな、ということを考えた。
友達が出来た嬉しさと、これからまた別れなければならない悲しさ。
そういうものが胸の内でないまぜになって、言葉に出来ない。
やえ「……私はさ、県で負けて、学校を……後輩をここまで連れてくることが出来なくてな」
やえ「負けた人間にこういうことを言うのは残酷かもしれんが、羨ましかったよ。私だって、仲間と一緒にここに来たかった」
やえ「だけど、良かった。ここに来て、一緒に戦う仲間が新しく出来た」
やえ「お前のことだよ」
いちご「やえちゃん……」
やえ「団体戦と個人戦はまるで違う。そう言ったのも私だが……仲間の存在はそんな違いに左右されるようなものじゃないからな」
いちご「ちゃちゃのんも……やえちゃんに会えて良かった」
いちご「きっとあのままじゃったら個人戦も戦えんかったはずじゃ」
いちご「だけど……やえちゃんのおかげで前を向ける」
やえ「別にこれが、今生の別れってわけでもあるまい。打ち続けていけば、私たちがまた交わることだって何度だってあるさ」
いちご「そうじゃのう。……うん、ワガママ言ってすまんかった」
やえ「いいんだよ。そういうのは後輩の相手で慣れてる」
いちご「……もう少しだけ、手、ぎゅってしてもいいかのう」
やえ「それで気が済むなら、いくらでも」
いちご「やえちゃんの強さを、ちゃちゃのんにも分けて欲しい」
いちご「ちゃちゃのんも……もっと強くなりたい」
やえ「まだ自分で気付いていないだけで、私よりもいいところなんかいくらでもあるさ」
いちご「たとえば?」
やえ「えっ、いや、その……たとえば」
いちご「うんうん」
やえ「その……かわいい……とことか(小声)」
いちご「えっ……」
やえ「………………////」
いちご「……………////」
やえ「さ、さぁ行こうか」
いちご「そ、そうじゃのう!」
いつの間にか足取りは軽くなっていて。
この暑い夏にのぼせたように顔も真っ赤っ赤に熱くなっていて。
この夏がまだまだ終わらないでいてほしいと、夕闇に光り始めたばかりの一番星にそう願った。
カンッ!
元スレ
元より運の要素が占める割合が大きすぎる競技だ。思わぬ結果になってしまうことくらいは最初から承知している。
しかし、それを差し引いてもなお心に残るのは後悔の一念。
この感情を整理することが出来ずに、いちごはチームメイトたちと距離を置いて、どこへ向かうでもなく会場の中をさまよい歩いていた。
と、そこへ――
記者A「いたぞ! こっちだ!」
いちご「え……?」
記者B「佐々野選手! 残念ながら一回戦での敗退となってしまいましたが今のお気持ちをお聞かせ願いますか!?」
記者C「今回主将という責任を背負っての出場となりましたが、その重責があの失打に及ぼした影響などあればお聞かせください」
記者D「ねぇちゃちゃのん、今日のパンツ何色?」
いちご「え、あ、あ……」
記者たちに囲まれ、質問攻めにされるいちご。
いちごの中で先の敗戦はまだ整理がついていない。出来たばかりの傷をえぐられ、掘り返されるような気持ちだった。
質問に対して答えることも出来ず、ただただ機能停止して立ちすくむばかり。
いちご(イヤじゃ……もうこんなところにはおりたくない……!)
思わず目頭が熱くなる。滲み始めた視界の中にもう何も映したくなくて、いちごは目を閉じた。
いちごの涙をどのように解釈したのか、記者たちはさらに質問を投げかける。
情け容赦のない質問責めに対して、いちごは堪え忍ぶことしか出来なかった。
早くこの時間が終わってしまえばいい。沈黙をもって記者たちに対処しようとしたいちごだったが、そのとき。
記者たちの質問に混じり、凛とした声が響いた。
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 16:52:56.88 ID:OSvE5Rlm0
??「すまんが、そこまでにしてもらえんか? 彼女は私と先約があってな」
いちご(え……?)
聞きなれない声に目を開けると、やはり見慣れない姿の少女が、そこにはいた。
片側だけをくるくる巻いた、珍しい髪型をした美少女だった。
いちご(あれ? どこかで会ったかのう……? いや、やっぱり初めて見る顔じゃ)
いちご(……約束なんてしとったかのう?)
??「さ、こっちだ」
少女はいちごの手を握ると、記者たちを振り切ろうと足早に駆け出した。
いちご「わわわっ……!」
??「少し急ぐか。あんな素人丸出しのニワカ記者とはとっととおさらばしたいからな」
いちご「あっ、あんた、いったい何者なんじゃ?」
??「……フッ、ただの通りすがりの打ち手さ」
いちご(な、なんかようわからんけど……とにかく助かったってことでいいんかのう?)
少女に握られた手が、温かい。
不安と悪意に押し潰されそうだったいちごにとって、少女は救い以外の何ものでもなかった。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 16:57:18.40 ID:OSvE5Rlm0
二人手をつないだまま走り、会場を離れていく。
十分ほど歩けばもう人影はまばら。
あれだけの熱気と歓声に満ちていた大会々場とはまるで違う、人気のない公園までたどり着いて、ようやく二人は一息つくことにした。
??「よーし、ここまで来ればもう大丈夫だろ。後をつけるような性悪な記者もいないようだしな」
いちご「あのー……ここまで来といてなんじゃけど……どちら様だったかのう?」
いちご「も、もしかしてホントに約束しとったんか……? ちゃちゃのんが考慮しとらんかった相手なんか……?」ガクブル
??「いーや、正真正銘完全無欠に、私たちは初めて同士だ」
いちご「なら、どうしてさっきはあんなこと……?」
??「お困りのようだったからな。差し出がましい真似をしたとは自分でもわかっとるが……迷惑だったか?」
いちご「そ、そんなことない!」
??「フフ、それは良かった。さて、せっかくここまで来たんだ。少し休んでいくとするか」
??「ふぅ……少し走ったら汗をかいてしまったな。何か飲むか?」
いちご「あ、じゃあいちごミルクを……」
??「座ってろ。そこのコンビニで買ってくる」
いちご「あ、はい」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:04:16.46 ID:OSvE5Rlm0
少女は公園のすぐそばにあったコンビニへと歩いて行った。
……他に誰もいない公園で、日陰のベンチに座ってぼんやり考えるいちご。
いちご(なんか……いつの間にか流され過ぎとらんかの?)
いちご(そもそもあの人の名前すら聞いとらんし)
いちご(そりゃ、助けてくれたのは嬉しいけど……これでいいんじゃろうか)
いちご(……あ、そもそも何も持たんで会場を出てきたからジュース代さえ持っとらん……)
いちご(うう……考慮しとらんことだらけじゃ)
そんないちごの悩みを知ってか知らずか、少女は明るい表情を浮かべながらビニール袋を片手にさげて帰ってくる。
??「ほれ。いちご牛乳」
いちご「あ、ありがと……けどすまん、実はお金を持っとらんのじゃ……」
いちご「このジュース代はあとで必ず払うから少しだけ貸しにしといてくれんか!?」
??「なーに、気にすんな。実はあのコンビニ、新装開店だったらしくてな」
??「なんでも、一本はオマケしてくれたらしい。だから気にせんでいいぞ」
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:06:02.23 ID:OSvE5Rlm0
いちご「ほー、そうなんか……あ、それと! 名前! 名前は?」
??「ああ、そういえば自己紹介もまだだったな」
いちご「ちゃちゃのんの名前は佐々野いちごじゃ!」
??「知ってる」
いちご「ほえ?」
??「パブリックビューイングにデカデカと映ってたのを見させてもらってたからな」
いちご「……試合をか?」
??「ああ。……全部、見させてもらった」
いちご「………………」
全部見られていた。ということはつまり、あの清老頭への振り込みも――ということだろう。
思わぬドタバタに忘れかけていた悪夢が、今蘇る。
??「……やえだ」
いちご「え?」
いちごのフラッシュバックを遮るように、少女は名前を告げる。
やえ「小走やえ。それが私の名前だ」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:07:21.03 ID:OSvE5Rlm0
いちご「やえちゃん……か」
やえ「ちゃん付けは、少し気恥ずかしいな。あまり言われ慣れてない」
いちご「あ、だったら……!」
やえ「だけど『ちゃちゃのん』なんてネーミングセンスの持ち主にしては、マトモかもしれんな」
いちご「初対面の人にダメ出しされた!?」
いちご(そんなにネーミングセンスないんかのう……みんな可愛いと言ってくれるんに……)
やえ「どれ、ぬるくなる前に飲もうか」
紙パックの側面からストローだけ抜き取り、吸い口に突き刺す。
ちゅーっと吸えば、いちごの甘い香りと牛乳の柔らかい味。
いちご「んー、美味しい! やっぱりいちごミルクは最高じゃのう♪」
やえ「ん、そんなに美味いのか? どれ、私にも一口」
う、と固まる。いや、やえにいちごミルクをあげるのがイヤだというわけではない。
だけど、もしもこれを一口あげるとなると……
いちご(か、かかかかかか間接キッス……!?)
いちご(い、いやいやいやいや、考えすぎじゃ……そう、女の子同士なら無問題じゃ!)
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:09:04.14 ID:OSvE5Rlm0
いちご「ほ、ほれ。一口だけじゃぞ」
いちごが差し出したストローに、やえは特に気にする様子もなく吸い付いた。
ちゅう、と。
やえ「おお、なかなか美味いなー」
いちご「そりゃそうじゃろ。ちゃちゃのんオススメじゃからな!」
いちご(全然気にしとらん……やっぱりちゃちゃのんの考えすぎだったんか……?////)
やえ「……しかし、今日は暑いな」
いちご「そうじゃのう。東京の夏は、暑いわ」
やえ「どっか、涼んでいくか。このあと特に用事がなければ、だけどな」
いちご「え、あ……うーん、確かにこのあと、特にすることはないけど、なぁ……」
と、いうか――用がないのも確かにそうなのだが、帰りたくない、という気持ちが大きかった。
どんな顔をして、チームメイトと会えばいいのか――今のいちごには、まだ分からなかった。
だからやえからの誘いに、こくりと頷いてしまったのだ。
やえ「よし、そうと決まればどっか向かうかー。行きたいとこあるか?」
いちご「んー、特に思いつかんなぁ……」
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:11:44.95 ID:OSvE5Rlm0
やえ「麻雀をしていくというわけにもいかんしな。個人的に打っていきたい気持ちはあるが、ルールを破るわけにもいかん」
いちご「ん、ルール?」
やえ「個人戦出場者同士が事前に対局するのは禁止、と聞いてないのか?」
いちご「いや、聞いとるが……え、それじゃ、やえちゃんも?」
やえ「そうか、紹介が遅れたな――奈良県個人戦一位の小走やえだ」
いちご(は、はわわ……確かにあの会場にいたなら選手なのも当たり前じゃのう)
いちご(しかし、なんで今までそれを思いつかんかったんじゃろうか……)
やえ「む、やはり私のことを知らなかったのか?」
いちご「お恥ずかしながら……」
やえ「ニワカか!!」
いちご「ひっ!?」
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:13:00.40 ID:OSvE5Rlm0
やえ「いや、失礼。むしろアレだな、知られてない私のほうがニワカ丸出しだったな……」
やえ「自分の未熟を人に押し付けてしまい、申し訳ない」
いちご「(あー、びっくりした……)いや、ちゃちゃのんが知らんかったのが悪かったんじゃ。しっかり覚えとくからのう」
やえ「そうか。それはありがたい話だな」ニッコリ
いちご「本戦でも当たれるといいのう! やえちゃんと打つのは楽しみじゃ!」
やえ「フフ、私も楽しみだよ。……と、話を戻そう。結局どこへ行く?」
いちご「そうじゃのう……ちゃちゃのんもここらへんの地理には疎いし、何があるかも分からん」
いちご「とりあえず、人が多そうなあっちの通りをブラブラしてみらんか?」
やえ「そうだな、途中にどこか入れそうな店があるかもしれない」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:14:24.32 ID:OSvE5Rlm0
いちご「んじゃ、レッツゴー! じゃ!」
トテトテトテトテ……
やえ「照るなぁ。こう暑くては困る。さっさとどこかへ入ろう」
いちご「ちゃちゃのんも暑いのは苦手じゃ……うう、溶けるぅー」
やえ「溶けるな溶けるな。お、あそこに喫茶店があるぞ。入るか?」
いちご「お、お金……」
やえ「そうか、持ってないんだったな……いいや、気にするな。ここはこの小走先輩に任せておけ!」
いちご「おお、やえちゃん太っ腹!」
やえ「胸囲は細いけどな……って何言わせるおまえー!」
いちご「あっ……(察し)」
やえ「 」
いちご「ふふっ、冗談じゃ、冗談。ちゃちゃのんも胸張れるほどのものはお持ちになっとらんしのう……」ホロリ
やえ「……揉ませろ」
いちご「ふぇ?」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:17:00.93 ID:OSvE5Rlm0
やえ「ええい、ムシャクシャするー! 揉ませろ! ストレス発散に!」
いちご「公衆の面前で倒置法使ってまで言うことじゃないわー!?」
やえ「喫茶店じゃなくて、そこの人気のなさそうな細道に入ってみるか?(真顔)」
いちご「真顔怖い」
やえ「……まぁ、いつまでも往来で馬鹿話もなんだな。さっさと入るか」ガチャリ
店員「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」
やえ「ああ、一番いい席を頼む」
店員「それではこちらへどうぞ。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
いちご「涼しー! クーラーを生み出した現代文明は偉大じゃのう……」
やえ「まったくだな。さて、注文は何にする? 値段なら心配しなくていいぞ。小走先輩に任せておけ」
いちご「ところでやえちゃんって、何年?」
やえ「え、三年だけど?」
いちご「ちゃちゃのんも三年じゃ。だから先輩呼びはちょっとのう……」
やえ「……まさか高校3年生になって一人称がちゃちゃのんの女子がいるとは思ってなくてな。年下だとばかり……」
いちご「ひどい!?」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:18:21.87 ID:OSvE5Rlm0
やえ「そうかー、タメだったかー。先輩に対して敬語も使えんニワカかと思ってたよ」
いちご「ちゃちゃのんとしてはやえちゃんの方が年下に見えたがのう……主に身体的な意味で(ボソリ)」
やえ「なんだと!? 聞き捨てならん!」
いちご「じょうだんじゃ(真顔)」
やえ「目が笑ってないぞ、まったく……ん、」
店員「いらっしゃいませー」
やえ「誰か来たみたいだな」
??「この店で一番いい席を頼むし!」
いちご「やえちゃんと同じ事言っとるのう」
やえ「しかし、一番いい席は既に私たちが取った……この勝負、私たちの勝ちだな(ドヤァ)」
いちご「勝負するところじゃないと思うがのう(苦笑)」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:23:32.65 ID:OSvE5Rlm0
??「あそこの席がいいし!」
???「こら華菜、わがまま言っちゃいけません。もう座ってる人いるじゃない」
???「あら、あの人は……」
??「キャプテンの知り合いですか?」
???「いいえ。でも……」
いちご「ん、あの二人組、こっちに来るみたいじゃぞ?」
???「あのー、すみません。私、長野の風越女子麻雀部の福路美穂子と申す者ですが……」
美穂子「小走やえさんと、佐々野いちごさんですか?」
やえ「!!!!!11111 私を知っているのか!?」
いちご「ちゃちゃのんのことも知っとるんか」
華菜「キャプテンは何でも知ってるし! あたしはお前らのこと知らないけどな!」
やえ「玄人とニワカの二人組か、なるほど」
華菜「誰がニワカだし!」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:26:32.49 ID:OSvE5Rlm0
いちご「他の県の人にも名前を知られとるんは恥ずかしいのう……テレテレ」
美穂子「もしお邪魔じゃなかったら、ご同席させてもらってもいいですか?」
華菜「よろしく頼むし!」
やえ「ニワカは好かんが、この私のことを知っている玄人の頼みとあれば承諾せざるを得ないな」
いちご「ちゃちゃのんは誰でも大歓迎じゃ!」
華菜「ホントはキャプテンと二人きりが良かったけど仕方ないなー」
やえ「それはこっちのセリフだ」
美穂子「まぁまぁ、二人とも……ところで小走さんと佐々野さんはどうして二人で?」
いちご「ちゃちゃのんが困ってたところをやえちゃんに助けてもらったんじゃ」
いちごはやえに助けられたくだりを二人に話す。
失意のうちにぼーっとしていたところを記者に取り囲まれて難儀していたこと。
質問責めにされて困っていたところに、通りがかったやえがいちごを連れて一緒に逃げてくれたこと。
いちご「それでここらへんまで来て、せっかくだから涼んでいこうかって話になったんじゃ」
やえ「そこにお前たちがやってきたわけだな」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:31:00.71 ID:OSvE5Rlm0
美穂子「あら、それにしては大変仲が良さそう。さっき会ったばかりだなんて信じられないわ」
華菜「私とキャプテンだって仲良しだし!」
いちご「そこは張り合うところと違うと思うがのう……」
やえ「なにっ、なぜそこで冷めてしまう! 私はこんなニワカに負けるなんて許せんぞ!」
やえ&華菜「バチバチバチバチ……(視線のぶつかり合う音)」
美穂子「……佐々野さん、二人は置いといて注文しちゃいましょうか(ニッコリ)」
いちご「ちゃちゃのんはこのケーキセットがいいのう」
美穂子「わぁ、美味しそう。ショートケーキと、チーズケーキと、モンブランの三種類から選べちゃうのね」
いちご「ちゃちゃのんは紅茶とモンブランのセットにしようっと。やえちゃんは?」
やえ「コーヒーとショートケーキだ」
華菜「キャプテンと同じのにするし!」
美穂子「あら、それは責任重大ね。えーっと、ココアとチーズケーキでいいかしら」
いちご「すいませーん、注文お願いしまーす」
店員「はーい、……カキカキ ご注文ありがとうございます、しばらくお待ち下さい」
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:34:54.44 ID:OSvE5Rlm0
いちご「それにしても、なんだか変な組み合わせになったのう」
やえ「私たち二人だけでも十分おかしな組み合わせだったのにな」
美穂子「フフッ、素敵な偶然もあったものね」
華菜「そーいえばキャプテン、なんでこいつらのこと知ってたんです?」
美穂子「この二人もインターハイの出場者なのよ。小走さんは奈良の、佐々野さんは広島のね」
華菜「ということは――キャプテンの敵!」ガルルルル
美穂子「こらこら華菜、やめなさい。ごめんなさいね二人とも、ちょっと早とちりしがちだけど根はいい子なのよ」
やえ「敵――ということは、お前も出場者なのか?」
美穂子「改めまして、長野県個人戦代表の福路美穂子です。この子は付き添いの池田華菜。よろしくね」
やえ「奈良県代表の小走やえだ」
いちご「広島の佐々野いちごじゃ」
やえ「ニワカは個人戦には出てないのか?」
華菜「だからニワカ言うなしっ! ……ちょっと調子が出なかっただけで、華菜ちゃんだってホントは……ゴニョゴニョ」
やえ「フッ」
華菜「鼻で笑うなーっ!!」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:39:20.83 ID:OSvE5Rlm0
いちご「まぁまぁやえちゃんもそのくらいにしとき」
美穂子「そうよ。本戦で当たるかもしれないけれど、今はそんなの関係なく楽しみましょう」
やえ「そうだな。個人戦出場者同士仲良くしようじゃないか。個人戦出場者同士……な」
華菜「性格悪っ! キャプテン、こいつ性格悪すぎですよ!?」
やえ「なんなら麻雀で勝負してやってもいいんだぞ? 対局できないのは個人戦出場者だけだからな」
華菜「言ったな? あとで泣いて謝っても知らないし!」
やえ「それこそこちらのセリフだな。言っておくが、ニワカは相手にならんよ(ドヤッ)」
美穂子「こーら華菜、そろそろ怒るわよ?」
いちご「ほらやえちゃん、ケーキ来たし食べよーやー」
やえ「そうだな……すまない、大人げないところを見せてしまって」
いちご「おおっ、美味しそうじゃー。いちごもおっきい!」
やえ「ほう……なかなか期待できそうじゃないか」
美穂子「それじゃ、この素敵な出会いを記念して……」
一同「「「「いっただっきまーす!」」」」
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:44:40.15 ID:OSvE5Rlm0
いちご「んーっ、このモンブラン、ちょっと強めの甘さが紅茶とよく合って美味しいのう!」
やえ「全ての基本であるショートケーキ……それをここまで完璧に作れるとはな」
美穂子「こっちのチーズケーキもさっぱりとした甘さで何個でも食べられそうね」
華菜「おかわりしたいし!」
いちご「やえちゃんのショートケーキも美味しそうじゃのう……」
やえ「食べるか? そのかわり、そっちのモンブランも一口よろしく頼むぞ」
いちご「えっ、いいんか!? そしたらそのおっきないちごと……」
やえ「こーら、調子に乗るな。ほら、これだけだぞ。口を開けろ」
いちご「あーん♪ おお、こっちも美味しいのう! うう、それにしてもいちご……」
やえ「名前のとおりいちご好きか……仕方ないなぁ、半分だけだぞ?」
いちご「やったぁ♪ やえちゃん大好きじゃ!」
やえ「ほら、早くそっちのモンブランも」
いちご「どうぞどうぞー♪ はい、あーん♪」
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:48:09.71 ID:OSvE5Rlm0
やえ「いや、待て。こっちだっていちごをあげたんだからそちらの栗も半分渡すべきじゃないか?」
いちご「うっ……し、しかたないのう。ほれ、ちゃちゃのんの栗じゃ」
やえ「最初から素直に渡せばいいんだ、うんうん。……ほう、これはなかなか……」
いちご「美味しいじゃろ? じゃろ?」
美穂子「うふふ、仲が良いのねぇ」
華菜「キャプテン、あたしたちも半分こずつ……ああっ、同じの頼んだからやっても意味ない!? ううー……」
美穂子「なら、食べさせ合いっこだけでも、する?」
華菜「――キャプテンがお嫌でなければ!(目ェキラキラ)」
美穂子「まったく華菜は甘えんぼなんだから。はい、あーん」
華菜「あーん……はい、キャプテンもー」
美穂子「あーん。うん、美味しいわ(ニッコリ)」
華菜「キャプテンに食べさせてもらっただけですごく美味しくなったし!」
美穂子「私もよ。すごいわ、まるで魔法ね!」
華菜「さすがキャプテンだし!」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:50:53.44 ID:OSvE5Rlm0
いちご「ふふふ……」
やえ「どうした、いきなりニヤニヤして」
いちご「楽しいのう。つい一時間前まで泣いてたのが、嘘みたいじゃ」
いちご「それもこれも全部、やえちゃんのおかげじゃ」
やえ「ありがとう、なんて言う必要はないぞ。そもそもお前を助けたのも、半ば私の感傷のようなものだ」
いちご「感傷?」
やえ「そうだ。……負けた姿を見られるのは、辛いもんだからな」
美穂子「確か、小走さんの学校は晩成高校……でも、今年の奈良県の代表は、」
やえ「阿知賀だ。全国で見ても過去最多のインターハイ出場回数を誇る晩成高校が県大会一回戦負け……誇りに泥を塗った戦犯というわけだよ、私は」
華菜「………………」
やえ「言っておくがな、私たちが不甲斐なかった――というだけじゃない。阿知賀が強かったんだからな?」
やえ「しかし、そんなことを負けた後にいくら言ったところで、周りはただの負け惜しみとしか受け取ってくれない」
いちご「でも……やえちゃんは個人戦にも出て」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:54:12.04 ID:OSvE5Rlm0
やえ「重さが、違うんだよ。個人戦と団体戦は、その重みも意味も、まるで違うものだ」
美穂子「……分かるわ。私もあなたとまったく同じだもの」
やえ「そうか、やはり玄人さんは分かってくれるか」
やえ「そう、分かってくれるのは同じ打ち手たちだけだ」
華菜「……分かるさ、打ち手なら……負けたヤツなら、誰だって知ってる」
華菜「その悔しさ……やり場のない気持ち」
やえ「だからな、記者たちに取り囲まれてる姿を見て――我慢できなかった。まるで自分のことのように、悔しかった」
やえ「何も知らんニワカに、踏みにじられていいものではないんだよ私たちってのは」
やえ「やはり礼などいらんのだ。私がやりたいからやった。ただそれだけだからな」
いちご「それでも……ちゃちゃのんは嬉しかったんじゃ」
いちご「ありがとう。助けてくれて」
やえ「ん……どういたしまして、くらいは言っておくよ」
華菜「まったまた、素直じゃないし! ホントは嬉しいんだろ!」
やえ「な……! そ、そんなことないぞ!」
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:58:20.53 ID:OSvE5Rlm0
美穂子「うふふ、見てるこっちまでほっこりしてきちゃうわねぇ」
いちご「照れてるやえちゃんも可愛いのう」
やえ「だから違うって言っとろーがー!」
それから四人で、色んな話をした。
学校でのことや、住んでる街のこと。友達のこと。
でも一番多かったのは、やっぱり麻雀の話だった。
ツキや流れの存在を認めるのか、牌に愛されているとしかいえない子供たちの力についてとか。
そういう、麻雀をやらない女子高生にとっては面白くもなんともない会話がとても楽しくて。
やっぱり麻雀のことが好きで、だからこの夏が終わってほしくないんだっていうようなことを、誰も口にはしなかったけれど四人とも思っていた。
美穂子「……いけない、もうこんな時間!?」
いちご「あっという間に時間が経ってたのう、ちゃちゃのんもそろそろ戻らんと……」
やえ「チームメイトにも何も言わずに来たんだろう、心配してるかもな」
美穂子「それじゃあそろそろ出ましょうか」
華菜「キャプテンとあたしはそのままホテルに帰るからこっちだし!」
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 17:59:11.07 ID:OSvE5Rlm0
やえ「それじゃ、な。個人戦で当たるようなことがあれば、よろしく頼む。おっと、手を抜いてくれ、というような意味ではないぞ?」
美穂子「私にとっても最後の夏よ。手を抜くようなこと、すると思う?」
やえ「それでこそだ。それでは私たちは会場まで戻るよ」
いちご「やえちゃんに立て替えてもらった喫茶店代も返さなきゃならんしのう」
美穂子「ええ。お互いに頑張りましょうね」
華菜「それじゃさよならだし!」
いちご「またなー、二人とも」
やえ「……さて、私達も帰るとするか」
いちご「おう」
帰る足取りはなんとなく重かった。
話し足りない気がして口を開きっぱなしだったけれど、それでもまだ足りなかった。
だんだんと歩みは遅くなっていき。
会場に着く寸前、立ち止まってしまった。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 18:00:48.14 ID:OSvE5Rlm0
やえ「……どうした?」
いちご「いや、なんか、その……帰るのがもったいなくなってしまってのう」
いちご「このままやえちゃんと、ずっと歩いていられたらいいのにって……」
やえ「思っちゃったか。気持ちはありがたいし……正直なところ、私もそんな気分だ」
いちご「分かっとるんよ。そんなん出来んことくらい」
やえ「……歩こうか」
やえが差し出した手を、いちごは握った。
会場を出た時のように、またやえに連れられていく形になったな、ということを考えた。
友達が出来た嬉しさと、これからまた別れなければならない悲しさ。
そういうものが胸の内でないまぜになって、言葉に出来ない。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 18:02:47.83 ID:OSvE5Rlm0
やえ「……私はさ、県で負けて、学校を……後輩をここまで連れてくることが出来なくてな」
やえ「負けた人間にこういうことを言うのは残酷かもしれんが、羨ましかったよ。私だって、仲間と一緒にここに来たかった」
やえ「だけど、良かった。ここに来て、一緒に戦う仲間が新しく出来た」
やえ「お前のことだよ」
いちご「やえちゃん……」
やえ「団体戦と個人戦はまるで違う。そう言ったのも私だが……仲間の存在はそんな違いに左右されるようなものじゃないからな」
いちご「ちゃちゃのんも……やえちゃんに会えて良かった」
いちご「きっとあのままじゃったら個人戦も戦えんかったはずじゃ」
いちご「だけど……やえちゃんのおかげで前を向ける」
やえ「別にこれが、今生の別れってわけでもあるまい。打ち続けていけば、私たちがまた交わることだって何度だってあるさ」
いちご「そうじゃのう。……うん、ワガママ言ってすまんかった」
やえ「いいんだよ。そういうのは後輩の相手で慣れてる」
いちご「……もう少しだけ、手、ぎゅってしてもいいかのう」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 18:04:12.99 ID:OSvE5Rlm0
やえ「それで気が済むなら、いくらでも」
いちご「やえちゃんの強さを、ちゃちゃのんにも分けて欲しい」
いちご「ちゃちゃのんも……もっと強くなりたい」
やえ「まだ自分で気付いていないだけで、私よりもいいところなんかいくらでもあるさ」
いちご「たとえば?」
やえ「えっ、いや、その……たとえば」
いちご「うんうん」
やえ「その……かわいい……とことか(小声)」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 18:05:31.27 ID:OSvE5Rlm0
いちご「えっ……」
やえ「………………////」
いちご「……………////」
やえ「さ、さぁ行こうか」
いちご「そ、そうじゃのう!」
いつの間にか足取りは軽くなっていて。
この暑い夏にのぼせたように顔も真っ赤っ赤に熱くなっていて。
この夏がまだまだ終わらないでいてほしいと、夕闇に光り始めたばかりの一番星にそう願った。
カンッ!
ちゃちゃのん「現実から逃げ出したい……」