青髪ピアス「君を救う為やったら僕はなんどでも過去に戻るやろう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1273979170/1: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:06:10.10 ID:4viTQFQ0
窓もドアも無いビルに土御門はいた。
話している相手は学園都市の統括理事長アレイスターである。
「今日は何の用だ?」
普段とは違い仕事用の口調で土御門は言う。
「今日は君たちグループに是非とも捕まえてほしい人がいてね」
「お前から直接命令を下すとは…そんなに重要な人物なのか?」
「確かに重要だが…君も知っている男だ。」
横にある巨大なモニターに映された男の顔は確かに土御門も知っている男だった。
そこに映っているのは、青い髪をして耳にピアスをして、エセ関西弁で喋るあの男…。
「青ピ…」
自分の友達がなぜ捕獲対象なのか、こいつが何をしでかしたのか、こいつの能力はそれほどのものでは…
様々な事が土御門の頭にめぐるが、なぜ青ピを捕まえなければいけないのか理由がわからない。
「この男は『時空移動』の能力を持った原石だ。レベル5などという存在を超越してるよ。どういうわけか今まで我々に見つからずに生きてたみたいだ」
「時空移動だと…?そんな能力が実在しているわけが…!」
途中まで言って土御門は言葉を遮られた。
「これ以上は君にも話せない。一刻も早く連れてくるんだ。」
そう言うとアレイスターはどうやってかわからないが、結標に合図を出し土御門を外へ連れ出した。
「アンタ大丈夫なの?」
「あぁ…大丈夫だにゃー」
すっかり土御門はいつもと同じ口調に戻っている。
「それより仕事だぜよ」
仕事に私情は持ち込めない。友達とは言えどやるしかないだろう。あのアレイスターが直々に命令を下すということがどれほど重大な事か。
「青ピには悪いが、使わせてもあるぜい」
2: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:07:06.93 ID:4viTQFQ0
とあるビルに土御門、結標、海原、一方通行は集まっている。
「今回はあのアレイスター直々の命令だ。この男を捕まえるぜい」
「なンだァ?たかが一般人捕まえるだけに俺たちが動くンかよ」
「この男は時空移動とかいうレアな能力を持った男だ」
「時空移動ですか、そんな能力がまさか存在するとは思いもしませんでしたね」
先日、アレイスターの所へ土御門を運んだ結標は少しだけ気にしている事があった。
「でもこの男、アンタの友達なんでしょ?ヘマしないでよね」
「その点は大丈夫だ。逆にそれを利用してアイツを廃虚ビルに呼び寄せるから傷一つつけずに回収してくれ」
「簡単な仕事だなァオイ」
「それじゃあ行くぞ…」
「なんや土御門の奴、こんなとこに呼び寄せよって、まさか愛の告白かいな!?」
青髪ピアスのエセ関西弁で話す男は廃虚となったビルに到着したところだ。
「僕は女の子以外には興味ないでぇ~」
「なにボソボソ言ってンだァ?」
「うぉ!なんや君、いきなり後ろから現れて…ビックリするやん」
「悪いにゃー青ピ」
暗闇となった場所から土御門が姿を現す。
「そんな所におったんかい。で、用ってなんやぁ?」
「お前を確保する」
「はぁ?何言ってんねん」
「そンじゃまァ大人しくしてくれよォ殺さねェから」
「土御門!冗談にしたらタチ悪でぇ」
半ば冗談と思いつつも青髪ピアスの顔には恐怖と焦りが見えてきた。
「悪いな青ピ、これが俺の仕事なんだぜい」
そういうと青髪ピアスの両腕を後ろで縛り、両足も縛っておく。
「変な真似でもしたらこいつを撃つぜい」
土御門の手には拳銃が握られ青髪ピアスの方へ向いている。
「なんの冗談なんや!?ふざけんなよ!」
「
冗談じゃないぜい」
天井に向けて一発撃つが、ここは廃虚のビルだから外に音は漏れず気にすることはない。
「ほ、ほんものかいな…」
「じゃあ行くか、任務完了だにゃー」
その時だった。確かに手足を縛り目の前にいたはずの青髪ピアスが音もなく一瞬にして土御門の後ろに移動した。
「なんや冗談でも怖いから逃げさせてもらうでぇ」
「おィありゃただの瞬間移動なンじゃねェのか?」
「そんな事はどうでもいいぜい。おい!結標、海原!追いかけろ!」
万が一逃げられた時の為に隠れていた結標と海原が物陰から飛び出した。
「やっぱアイツはヘマしたじゃないの!」
「それより早く追いかけましょう。瞬間移動されては厄介です」
「座標移動であいつを目の前に飛ばすから!」
「それが手っ取り早いですね」
二人とも青髪ピアスを追いかけ、狭い路地を走りながら会話している。
結標の能力はかなりの集中力を使うが、自分を移動さす以外ならこの程度は容易いことだろう。
「さぁ、こっちへ来なさ………!?な、なんで座標移動が効かないの!?」
「恐らくですが、一度あなたの能力によって捕まった未来から時間移動により捕まる直前に戻り、空間移動によってあたかも瞬間移動しているように見せているのでしょう。」
「それだったら土御門にココへ呼び出される前に戻ったらいいでしょう?」
「ですから彼は、遊んでいるのでしょう」
「はぁ…ふざけてんじゃないわよ!」
何度も何度も座標移動を試しているが青髪ピアスが捕まることは一度もない。
「もう駄目ね…」
結標が足を止めて諦めたその瞬間に青髪ピアスは彼らの前から完全に姿を消した。
海原も走るのを止めて携帯電話で土御門に報告をする。
「すみません。駄目でした…逃げられました。」
「はぁ…仕方ないぜい、解散だにゃー」
電話越しの土御門の声はどこか安堵したような声だった。
もう少しで完全下校時間となる時間に青髪ピアスは地下街を歩いていた。
できるだけ人が多いところへ逃げ、一休みしようと思ったからだ。
「はぁ…カミやんちゃうけど言わせてもらうで…。不幸やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
突然大声をだした事で周りから変な目で見られている。
「これで4回目やなぁ…なんぼ過去に戻っても土御門に呼び出されて同じ展開や…それより、なんで僕の能力がバレたんやろうか…」
ベンチに座りながら頭を抱えて悩む姿は先ほど大声を出して後悔している男のようにも見える。
「とりあえず学園都市に来た時に戻るか…1からやり直しやなぁ」
アレイスター直々に命令を下されたグループから逃れた青髪ピアスは、4月1日へ時空移動し第7学区にある都市内でも低レベルな高校へ再び入学した。
それから何事もなく過ごし、吹寄が完全なる仕切り屋を発揮し、姫神も転入してきた。
ただ、土御門とは前よりは喋ることが少なくなった。
「順調やなぁ、このまま平和になったらええのになぁ…はぁ」
独り言のつもりが上条に聞かれてしましい「何言ってんだ?」と不思議な目を向けられてしまった…が。
「上条ちゃーん?余所見なんてしている暇はありませんよー?最近、休みがちだったので、今日は補習しまーす」
(小萌先生!ナイスタイミングやぁ!!)
「え…?不幸だぁぁぁぁ!おい青ピ!今日はスーパーで卵が特売なんだぞ?どうしてくれるんだ!」
と、わけのわからん事を言い出す上条。
「いやいやカミやん、今のは自分が悪いでぇ?まぁ、暇やし手伝ったってもええけど」
「本当か!助かるぜ青ピ!」
「まぁ小萌先生の補習が受けたいだけやねんけどなぁ」
そんなこんなで平和な日々を堪能し、愛しの小萌先生の補習も終わり、放課後。
「悪いなー今日は特売の卵買ってもらうの手伝ってもらって!」
「あぁ…別に…ええで…」
軽い気持ちで上条に付いて行くと言ったものの、まさかあんな戦争のような事が普通のスーパーで行われているとは知らず、青髪ピアスはもう限界だった。
というわけで疲れ果てた青髪ピアスと上条は、とある公園のベンチで一休みしてた。
「にしてもカミやんはホンマに貧乏やなぁ」
「うるせぇー。ウチには大食いシスターがいてだな…家計は毎日厳しいんですよ…。」
「ん…?シスター? ち、ちょっとまてカミやん!まさかシスターちゃんと同棲してんのか?」
「いや、違う!ただの居候だから!」
またもや上条のフラグ乱立の末、ついには同棲までしているなんて…とずいぶんとショックを受けている青髪ピアス。
「だから、ただの居候だって、なぁ…聞いてるか?」
上条はこっちを向いている青髪ピアスの顔を見たが何とも言い難い険しい顔に疑問を持つ。
「なんて顔してんだ青ピ!」
すると青髪ピアスの見ている方向、上条の後ろにいつの間にか立っている人物に上条は今さら気付いた。
「アンタ、今の話し本当なのかしら?」
ちょーっとだけ鬼の形相をした御坂美琴が額から青い稲妻をパチパチさせながら問いかけてきていた。
「ひっ!いつの間に…!!いや、あのですね…上条さんにも事情がありまして、気付いたら居候してたというか…」
「なんやカミやん!常盤台中学にも手出しとったんかい!」
「常盤台中学にも…?アンタって奴はいったいどれだけの女に手出してんのよ!」
あああああああ とか だああああああ とか叫びながら御坂の電撃を右手で受けているが、なんだがどうちらも嬉しそうだ。
お邪魔だな…と空気を読んで立ち去ろうとした時、また新たな声が飛んできた。
「お・姉・さ・まぁぁぁぁん 類人猿相手ともあれど風紀委員の私がいる目の前で能力を使うのはいかがなものですの…」
ん?
「白井さーん!瞬間移動なんてずるいですよー」
ん?
「ちょっと初春…!ま、待ってよ!」
ん?
次から次へといったいどれほどの女を…? と、もはや関心する青髪ピアスだが、同時にもし「女の子と仲良くなりたい」なんて言ったらぶち殺してやるとも思った。
なにやら上条のお得意のフラグ乱立のせいで騒がしくなってきている。
「ちょっとみんな一回落ち着きいや。どないなってんねん。カミやん!説明しろ!」
御坂の電撃が止んでホッとしたのか、上条が青髪ピアスの横に座り直しだした。
「いや、俺も御坂くらいしかよくわからなくて…、あとの方たちはいったい…?」
「お姉さまの露払いを担当させていただいてます、白井黒子と申しますの」
「私は柵川中学1年の初春飾利です!第177市部の風紀委員です!ちなみに白井さんもですが、今日は二人とも非番だったので遊んでいたらこうなっちゃいました」
「同じく佐天涙子でーっす!ちなみに風紀委員じゃありません」
三人とも次々と自己紹介をしていく中で上条の素晴らしい力に涙する青髪ピアス。
上条と共に行動をしていればきっといいことがあるが、上条がいれば皆そっちへ向かってしまうというサイクルに気づいたのか、ガッカリしている。
「と、言うわけだ、分かったか?青ピ」
「あぁ、今んとこカミジョー属性なんは御坂さんだけみたいやな…それも時間の問題か」
「はぁ?何言ってんだ?」
コソコソ喋る男にしびれをきらしたのか、初春や佐天が この後みんなで遊びませんか と誘ってくれた。
「もちろんやでぇ!なぁカミやん?」
「インデックスには悪いがたまには遊ぶか!」
中高生が遊ぶ場所と言っても限られているし、完全下校時間ももうすぐということで6人はゲームセンターに来ていた。
学園都市は外より科学技術が20年30年離れているというが、それに比べゲームセンターはレトロなものだ。
「ところで、なんて呼べばいいんでしょうか?」
さっきから、佐天やら初春やら御坂からこればからたずねれられるが、青髪ピアスといえば…
「先輩 で頼むわぁ」
「わかりました!先輩!」
(うはぁ…ダメージでかすぎやん…)
「おい青ピ!大丈夫か?」
「なぁカミやん。わからんかなぁ?年下から先輩と呼ばれることの素晴らしさが」
「お前…」
「さぁ!ゲーセンといえばやっぱこれでしょう」
そう言って御坂はプリクラを指差した。
プリクラといえば中は狭く6人ともなればかなり密着するわけだが…。
「アンタ!ちょっとどこ触ってんのよ!」
「仕方ないだろ?狭いんだから」
「とかいいながら嬉しそうなお姉さま…黒子は!黒子は!うぅ…」
「カミやん…やっぱりここでも発揮するんやなぁ」
ハイ、チーズ という機械音の合図で何枚もの写真が撮られているが、やはり上条は撮る度にどこかしら触っているようだ。
忙しくプリクラを撮り終わり、女の子たちはプリクラ機の画面になにやら落書きしている。
そんな中、佐天が青髪ピアスのところへやってきた。
「もう気付いてると思うんですけど…」
「カミやんと御坂さんやんな?」
「さっすが!察しが良いですね!」
あれに気付かないなんて鈍感な上条だけな気もするが…
「ってことは、この後なんかするん?」
「そうですねーもうちょっと遊んで帰る時に二人で帰らせましょう」
上条の為に気を使うのは些か不満がある青髪ピアスだが、上条のおかげで彼女たちと遊ぶ事ができたので良しとしたようだ。
そうこうしているうちにプリクラに落書きが終わり、なんやかんや遊んで次は簡易能力測定をする事になった。
「最近がんばっているんですよ!上がってないかなー」
そう言って頭に花飾りを載せた初春が最初に測定をし始めた。
どういう仕組みなのかはわからないが、機械に手を乗せて演算をするとほんの数秒で能力測定ができるというものらしい。
ピピッという音がなり機械から紙が出てくる
「あーそんな簡単に能力って上がりませんよねー」
「初春さんはどんな能力なん?」
「私の能力は触れている物体の温度を一定に保つことができるんです!」
と、ここで青髪ピアスは自ら地雷を踏んでしまった事に気付いた。
「先輩の能力は何なんですか?」
「えっ…あー僕は無能力者やから、やらんでも大丈夫やわ」
「やってみないとわかりませんよ!」
この空気は断れないと判断したのかしぶしぶ機械に手を当てて判定を始める。
バレないように演算をしないで乗りきろうとした青髪ピアスだが機械が「手を乗せて演算処理をしてください」と言い出して更に逃げ場を無くしてしまった。
「初春!あんまり強要するのはよくないよ!私も無能力者だから分かるもん…あんまりやりたくないよ…」
無能力者の佐天のおかげでなんとか助かり、心の中で感謝せざるを得ない青髪ピアスであった。
「そうですのよ初春 こんな機械なんかに頼るもんじゃありませんの」
「そうですよね…ごめんなさい」
「ええってええって!あんま気にしたらあかんで」
そろそろ完全下校に近づいきたのと、若干空気が悪くなってしまったのもあり、今日は解散することとなった。
その時、青髪ピアスは見逃さなかった、初春と佐天がこちらをすごく睨み付けて合図を送るのを。
先手を切ったのは初春飾利。
「あっ!白井さん!明日、風紀委員の本部に提出する書類をまだ完成させてませんでした!助けてください!」
「そんなものあったんですの…?」
「いいから来てください!私一人じゃどうにもなりません…!」
「仕方ないですわね…それでは皆様、さようなら。」
一番の問題である白井をあっさりと連れ出すことに成功した初春は、白井と共に177支部へと走り出していった。
次は青髪ピアスの番だ。
「もう遅いし、女の子は男が送るもんやなぁ 僕は佐天さんを送るから、カミやんは御坂さん頼むでぇ 襲ったりすんなよ!」
「なっ!そんなことするわけねぇだろ?」
「っ!…私レベル5だし大丈夫よ!こんな奴いなくても!」
鈍感な上条の言葉に少しイラっとしている様子の御坂を見て佐天と青髪ピアスは上条の事を少しだけ心配した。
帰りに電撃を浴びせられなければいいが…。
「あかんで御坂さん。男の優しさは受け取っとくもんやでぇ。じゃあ行こか佐天さん」
「はい!」
無事?に成功したようでちょっとホッとする青髪ピアスと佐天
上条と御坂にお別れをし二人は帰っていく。
「あの二人、大丈夫ですかね?」
「まぁなんとかなるんちゃうかな?あとは二人の問題やし」
「そうですよねー」
「ところで、佐天さんは帰り道どっちなん?」
「あっ!私はもうこの辺で大丈夫ですから!」
「ええってええって、女の子一人で帰らすわけにはいかんからなぁ」
「本当に大丈夫ですよ!先輩っ!」
不覚にもこの佐天の笑顔と「先輩っ!」という言葉に青髪ピアスの鼓動は高鳴っていた。
「それではさようならー!」
元気よく走り出していく佐天の後ろ姿が見えなくなるまで見送ろうとしていたが、そのおかげで佐天がこっちへ振り返ることに気が付いた。
「せんぱーい!私のこと!これからは 涙子 って呼んでくださーい!」
遠くから精一杯叫ぶ佐天の姿を見て青髪ピアスの心は完全に佐天に捕まれていた。
「なんやあの子!可愛えええええええ! 『これからは』ってまた遊ぼうってことやん! さすがカミやんや…」
そんな事を考えている間にいつの間にか下宿先のパン屋にたどり着き、心此所に有らずな状態で眠りにていた青髪ピアスであった。
「あーこのまま時が過ぎていけばええのに…」
翌日、人生で一番と言ってもいいくらいに目覚めが良い朝だった。
青髪ピアスはニヤニヤした顔のまま学校へ行き、ニヤニヤしたままクラスへ入り、ニヤニヤしたまま席へ座った。
途中、行き交う人が変な目で見てきた事も気付かないくらいに。
そして、友人の土御門も所属している暗部組織のグループに追われていた未来があったことも、頭の片隅へ追いやられていた。
「カミやん!昨日はどうやったんや?ちゃんと御坂さん寮まで送ったんか?」
ニヤニヤしたまま上条に聞く青髪ピアスははっきり言ってキモイ…だろう。
「あぁ…昨日はなんとか寮まで送った。生きているのが不思議だ」
「…そ、そうか、お疲れやなぁカミやん」
「はーいそこお喋りしていたらまた補習にしますよー!上条ちゃんは馬鹿なので今日も補習でーす」
(今日ばっかりは小萌先生が鬼に見えるわ…どんまい、カミやん)
「おい、青ピ!てめえも一緒に補習受けろ!」
「上条ちゃーんうるさいですよぉ 何言ってるか知りませんが、もちろん補習は二人で受けてもらいますからねー」
「えぇっ なんやて小萌先生!えー…不幸や…」
「ざまぁ見ろ青ピ!」
そして今日も何事もなく授業を終え、小萌先生の補習も終え放課後になり、今日も上条と青髪ピアスは一緒に帰っていた。
「涙子ちゃんに会わんかなぁ…昨日アドレス聞いたら良かった…」
「えっ?お前、涙子ちゃんなんて呼ぶ関係になったの?」
「昨日、涙子ちゃんからそう呼んでくれって言われたんやぁ」
「それで今朝はずっとニヤニヤしていたのか…」
などと二人で会話していると、ばったり佐天と初春が一緒に帰っている所に出くわした。
「噂をすればなんとやらやなぁ!カミやん!」
「そう…だな」
「涙子ちゃぁーん!」
こっちに向かって手を振る佐天を見て青髪ピアスはまたニヤニヤしだしている。
「あっ!青ピ先輩と上条さんじゃないですか!昨日はありがとうございました」
「さ、佐天さん!どういうことですか?」
どうやら初春も青髪ピアスと佐天の関係が昨日よりちょっと親密になっていることに気付いた。
「どういう事もなにもこういうことだよ?」
「ず、ずるいですよ!」
「なになに?大好きな私が男の人と仲良くなって嫉妬してんのかなー?」
「ち、違います!」
昨日に続き今日も彼女たち(主に佐天に)出会えた事に、青髪ピアスは上条の性格もなかなか悪くないと感じている。
「昨日はちゃんと帰れたんか?」
「もちろんですよ!」
「そういや二人ともアドレス教えてや」
「あー昨日忘れてましたね、はいこれですよっと」
携帯電話の赤外線機能で一瞬にして二人の連絡先を手に入れた青髪ピアスは。やっぱり上条の性格に感謝していた。
「あ、俺もいいかな?」
…感謝した瞬間にやっぱり止めた。
「カミやん!お前はまた女の子に手出すんか!」
「そんなんじゃねぇって、何となくだよ」
「御坂さんに悪いんで私たちはまた今度にします!」
「なっ…!不幸だ…ってか何で御坂が…?」
このやり取りを見て青髪ピアスは再び上条に感謝をせざるを得ない。
あの二人には対カミジョー属性があるようで、安堵の表情が思いっきり顔に出ている。
「なぁ…今度の休みの日にまたみんなで遊ばへん?」
「あーいいですね!それ」
佐天がノリノリに対して初春はなんとなくだが、呆れたような哀しいような顔をしている。
「佐天さん!今日は二人で用事があるんですからね!」
「もー嫉妬しちゃって初春は可愛いなぁ」
「ち、違います!」
「…って事なんで今日はこれで失礼します!」
「じゃあまた連絡するわぁ」
佐天と初春と別れたあと上条と青髪ピアスは、また昨日の公園のベンチに座って世間話や彼女たちにの事を話していた。
「涙子ちゃんほんま可愛いわぁ」
「お前…さっきからそればっかだな…」
「カミやんには分からんかなぁ、あの可愛らしさが」
昨日の公園でこういった話をしていた。昨日の公園でだ。いつも御坂が見事な蹴りで自販機からタダで缶ジュースを手に入れてる公園で。そして今日も…
「セイャァァァァ」
やっぱり見事な蹴りで缶ジュースを手に入れていた。
「いちごおでんか…ハズレだなぁ」
「!!ビリビリ!またやってんのかよ!」
「あ、アンタ!…とそれから先輩じゃないですか」
「あぁ!そうや御坂さん!今度の休日にまたみんなで遊ぼうと思うんやけど来るやろ?」
「佐天さんや初春さんも行くんですか?」
「来るでぇ、それからカミやんも」
ニヤニヤしながら青髪ピアスは上条も来ることを御坂に伝える。
「そ、それじゃあ行こうかな…」
「じゃあカミやんに連絡先教えといてなぁ、僕はこれからバイトやから!」
「おい青ピ!ちょっと待てよ!」
青髪ピアスなりに気を使ったつもりなのだろう。
この後二人は確実に気まずくなるだろうが、鈍感な上条ならこれくらいが丁度いいかもしれない。
この後、上条と御坂がどんなやりとりをしていたのかはご想像通りである。
あれから何回か青髪ピアスと佐天はメールをしたり、帰り道でばったり会ったりとそれなりに仲を深めていった。
そんなこんなで雲一つない晴れ晴れした休日。
今日は以前から約束していた学園都市でも人気が高い遊園地へ行くことになった。
青髪ピアスは集合場所である駅に1時間も前に到着し待っていた。
どうせいつもの事なら遅刻確実な上条に電話をすると案の定今起きたとこだと言う。
「カミやん…大丈夫か?でも最近はカミやんのおかげで毎日が楽しいからなぁ」
などと思っていると30分もしないうちに佐天がやってきた。
「おぉ涙子ちゃん、おはよう!えらい早いなぁ」
「そういう先輩だって何分前から来てたんですか?」
「え?あぁ…さっき来たとこやで?」
「一時間前から来てたじゃないですかー私ずっと見てたんで!」
「なっ!見とったんやったらはよ来てやぁ めっちゃ暇やってんから」
朝から二人の笑い声が響き実に微笑ましい光である
「初春なんですけど、今日は風紀委員の仕事で来れなくなっちゃったみたいです」
「そうか、残念やなぁ」
「それから白井さんもなんで、今日はダブルデートです!」
「なん・・やとッ!?」
この時、青髪ピアスの心の中は地に足がついてないくらいに浮かれていたことだろう。
素晴らしき上条の力、いったい何度感謝すればいいことやら…。
「そうかそうか、じゃあ途中で別行動やなぁ」
「そうですねー御坂さんもなかなか素直になれないからなぁ」
青髪ピアスは平然を装いながらも有りがちな展開がまさか本当に起きて、多少テンパっているところでやっと御坂がやってきた。
内心助かったと思う青髪ピアス。
「ごめーん遅くなっちゃった!」
「遅いですよ御坂さん!」
「それから黒子が風紀委員で来れなくなっちゃって…」
「初春から聞いたんで知ってますよー。初春も来れないんで今日はダブルデートです!」
「ええっ!あいつとデート…あいつと二人で遊園地…」
見る見るうちに御坂の顔が真っ赤になっていく。なんとも分かりやすい女の子だろうか…。
それからちょっとして遅刻ギリギリのところで上条がやって来た。
「アンタ遅いのよ!」
「悪ぃ悪ぃ…」
「やっとそろったし、ほな行こか」
「あれ?初春さんと白井は?」
「今日はダブルデートですよ、上条さん」
佐天の言葉がいまいち理解力できないのか、ダブルデートの意味が分かってないのか、
上条は「へぇ~そうなのか」と適当に返事をしたところで、四人は遊園地へと向かった。
上条はやはり行きの電車の中でも、電車の揺れで転けそうになり、OL風なお姉さんの胸に顔を埋めたり、その度に御坂が電撃を放ちそうになるのを青髪ピアスと佐天が必死でなだめたり、やっとの思いで遊園地へたどり着いた。
「ふぅ…やっと着いたでぇ」
青髪ピアスは一息休憩をしていきたいところだったがそんなことはお構い無しに女の子二人ははしゃいでいる。
「まずはあれ乗りましょう!」
佐天が指差した最初の乗り物は遊園地内でも一番人気の世界一を誇るジェットコースターだった。
上条と青髪ピアスは口を揃えて言った…
「ほんまかいな…」
「マジでか…」
「さぁ!行きますよ!」
さすがに世界一を誇るだけあって、乗り気だった佐天と御坂も乗り終わった後はちょっとだけ疲れている様子だった。
「ちょっと休憩にせん?」
「いや、まだまだですよ!ねぇ御坂さん?」
「え?あぁ…そうね!まだまだこんなもんじゃないわよ!」
その後も絶叫系のアトラクションのオンパレードで、さすがに佐天と御坂もぐったりしていた。
「時間も時間なんでお昼にしませんか?」
「やっと休憩できるわぁ…カミやん大丈夫か?」
「…」
返事はなく、以外にも上条は絶対系は苦手だったらしい
昼食も取り、休憩を挟んだところで青髪ピアスは「午後は別行動にしよか!」と提案し、最初から話し合っていた佐天と共に無理矢理に上条と御坂ペアを作り上げた。
ということでさっそく別行動を開始した。
「こういう非日常的な空間では男女はぐっと距離が縮まりますからねー」
「ってこては僕らの距離も縮まるんかなぁ?」
「えっ…そりゃ、そう…じゃないですか?」
佐天は自分で言っておきながら、自分たちもそういう立場だと言うことに気付いていなかったようで、顔を赤らめている。
「遊園地っていったらまずはお化け屋敷やな!ここのは怖いらしいで?」
「へ、変なことしないでくださいよ?」
「大丈夫やって!怖かったら手繋ごうか?」
「中に入ってから決めます!」
自分たちもそういう立場というのを意識しだしたのか、佐天はどこか緊張した面持ちでお化け屋敷へと入っていく。
気付くと佐天は手を繋ぐどころか、青髪ピアスの腕をガッチリ掴んでいた。
「なんやぁ、やっぱり怖いんやんか」
「さっきから誰かに見られてる気がするんですよね…」
「そりゃお化け屋敷やからなぁ」
キャァキャァ叫びながら、お化け屋敷も中盤に差し掛かったころ、事件は起きた。
「先輩、お化け屋敷って確かお客さんに触れたら駄目でしたよね?」
「確かそんなルールあったなぁ」
「さっきから誰かに引っ張られ…!!」
途中で言いかけたところで何者かによって佐天は暗闇へと引っ張られていった。叫び声も出す間もなく…
「涙子ちゃん?ふざけたらあかんでぇ」
「ふざけてなンかねぇよ」
背後から聞き覚えのある声をした男が青髪ピアスの身体を拘束している。
恐らく、白い髪をして真っ赤な目をしたレベル5の第1位、一方通行だ。
「やーっと見つけたぜェ 暗いから見えねェンだよなァ」
「悪いにゃー青ピ」
「つちみか…っ」
言いかけたところで、催眠効果のある薬品を嗅がされ、時空移動の能力を使う前に眠らされてしまった。
暗部組織のグループが再び青髪ピアスを襲う…。
青髪ピアスが目を冷ますと、そこは窓もドアもないビルの中だった。
青髪ピアスの目の前には逆さまに浮いている、男とも女とも、聖人とも囚人とも見える人物がいた。
「なんやお前!涙子ちゃんはどないしたんや!」
「悪いな、青ピ。此所に連れてきたのは俺だ。」
青髪ピアスの後ろには土御門元春が青髪ピアスを見下すように立っていた。
と言ってもサングラスをしているのでよくは分からないが。
「土御門…君」
「クラスメートであるお前を拘束するのは心が痛むが、お前の能力は希少価値が高くてな、お前と引き替えに俺たちはこのどん底の世界から抜け出し表の世界で自由になれるんだ」
かつて上条と共に三馬鹿トリオと言われ、馬鹿な事をしあった青髪ピアスの一番の友達、土御門元春は完全に仕事を行う時の一切ふざけてはいない口調でそう言った。
だが、青髪ピアスは一度だけ時空移動の能力を使い4月1日に戻り、完全に1からやり直し、今回は少し距離を置いたおかげでそういった記憶は土御門にはない。
「お前が暴れた時の為に、身体に電流を流し能力を使う際にまともに演算処理ができないようにした。お前はもう逃げれない」
「なんで僕が時空移動の能力を持ってるって分かったんや…?」
「学園都市の科学技術をなめるなよ」
「あぁ、どっかから監視されとったんかぁ?…あん時にちょっと怪しい動きしただけでバレたんか」
「どの時かは知らんが、俺はこれで自由だ。アレイスター、もう帰っていいか?」
「ちょっと待てぇ土御門ぉ!!」
青髪ピアスが珍しく本気でキレた。
「涙子ちゃんはどないしたんや!」
「佐天涙子のことか、あいつならここにいる」
土御門が何かのスイッチを押すと巨大なスクリーンには、他のグループのメンバーによって手足を縛られ、目隠しをされ監禁されている佐天の姿が写し出された。
「涙子ちゃん!!」
「無駄だ、お前の声は届かん」
「土御門ぉぉぉぉぉぉぉ!」
「暴れるなと言っただろう」
その途端、青髪ピアスの身体に電流が流れ、身動きが取れなくなる。
「ぐあああっ!あそこに行けたら…!せめて涙子ちゃんに一言言うんや…!」
「暴れるとお前が苦しむだけだ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」
青髪ピアスの苦しむ雄叫びだけが、窓もドアもないビルに響き渡る
「諦めろ!」
「諦めへん!僕は涙子ちゃんを救うんやぁぁぁぁぁぁ」
そう叫んだ瞬間、身体に電流が流れまともな演算処理ができないはいずの青髪ピアスがその場から消えた。
「あいつッ!」
その光景を見ながらアレイスターは一言も喋らず、ただ薄ら笑いをするだけだった。
彼にしたら、これさえも計画の一部に組み込んでしまうのだろう。
青髪ピアスが目を開けると、目の前には佐天涙子の姿があった。
「先輩…ですか?」
「そうや!涙子ちゃん!僕は君を救う為に!君に言いたかった事があるんや!」
突然現れた青髪ピアスに一方通行たちは青髪ピアスを取り押さえようとする。
「おィ どォなってンですかァ?」
そんな事はお構い無しに青髪ピアスは佐天涙子に言う。
「次は絶対に君を幸せにする!僕は君を幸せにするためやったらなんぼでも過去に戻って幸せにする!」
「何を…言ってるんですか?」
「次にまた僕と出会えたら、僕と付き合ってくれへんかな?」
「…もちろんですよ」
「そうか…ありがとう。涙子ちゃん。僕は涙子ちゃんがめっちゃ好きやねん
だから次は、絶対に幸せにするから待っててや!」
「はい!ずっと待ってますから!だから絶対来てくださいよ!」
「約束やで…」
そう言い終わると同時に青髪ピアスの身体はその場から消えた。
「ねぇ、海原 前にもこんなことなかった?」
「奇遇ですね、僕も何か以前にもこんなことがあった気がしています」
窓もドアもないビルにいるアレイスターは、この様子を見ながら何か分かったかかの様に笑みを浮かべていた。
青髪ピアスは下宿先のパン屋の自室のベッドに横になってた。
無我夢中で時空移動をした為に、今がいったいいつなのかさっぱりわからない。
それよりも先ほどの出来事を考えていた。自分ではどうしようもなく、結局は過去に戻るしか方法は無かった。
あの未来では、佐天は一体どうなってしまうのか…考えると、酷く自己嫌悪に陥り同時に後悔の念が押し寄せてくる。
「とりあえず4月1日に行くしかないな…」
佐天との約束を果たすため、自分のせいで巻き込まれてしまった佐天の未来を守るのと同時に、彼女には幸せになってもらうために。
今回は絶対にバレることのないように、上条以外とはほとんど話すこと無く日々を暮らしていた。
上条と関係を持っていなければ、佐天と出会うことは難しいだろうと判断したのだろう。
柵川中学へ行き佐天に話しかけることもできたが、確実に怪しまれることになるので、その時が来るまで青髪ピアスは可能な限り目立たなくしていた。
恐らく奴らはずっと学園都市中を監視し、青髪ピアス以外でも少しでも怪しい動きをする人物がいれば能力者なり使ってその人物を調べることは容易いだろう。
これまでと同じように、吹寄が仕切り屋を発揮し、姫神が転入してきた。
そして三度目の0930事件。この不可思議な現象もアレイスターが絡んでいるのだろうか…
青髪ピアスはそんな事を考えていた。
毎度の事ながらほんの数日で復旧作業も完了し、生徒達は普通の生活を送っていた。
ここ数ヶ月の間、青髪ピアスは佐天のことばかり考えていた。特に先日の事件で佐天が無事であることを願うばかりだ。
時期的にそろそろ上条と一緒に小萌先生の補習を受け、スーパーで卵を買い、あの公園のベンチに座っていれば佐天に出会えるだろう。
しかし、前回はふとした独り言を上条に聞かれて、変な顔をされたおかげで小萌先生の補習に引っかかった。
あの出来事のちょっとした怪しささえもアレイスターは目を付け青髪ピアスの能力に気づいたのだろう。
だから今回は青髪ピアスから上条にネタをふった。要は上条と一緒にあの公園のベンチに座っていればいいのだから。
「なぁカミやん 今日スーパーで卵が安売りしてんの知ってた?」
「この上条さんを誰だと思ってんだ?そんなこと当たり前だ」
「じゃあ今日一緒に行かへん?」
「お前も卵狙ってんのか?まぁいいけど」
(ここで小萌先生が注意してきたらタイミング的にはバッチリやねんけどなぁ…)
青髪ピアスは小萌先生の方を見るとこちらを笑顔で見ていた。しかし、目は笑っていないが…。
「上条ちゃんと青髪ちゃんは何を話しているんですかー?そんなんだと今日は補習にしちゃいますよ?」
(予定通りや!)
以前と方法は違えど大まかな流れはだいたい同じだ。
この調子で行けば佐天に会えるのではないだろうか?と青髪ピアスは心を踊らせる。
「小萌先生の補習やったら喜んで受けますよ、なっ?カミやん!」
「えぇぇ?そんな…不幸だ…」
「それじゃあ二人は放課後残っててくださいねー」
そして二人で小萌先生の補習を受け、スーパーという名の戦場に卵を買いに行く。
二度目のスーパーもやはり激戦だったらしく、疲れはてた二人は例の公園のベンチで休憩をしていた。
(そういや、前はカミやんがシスターと同棲してるとかいう話しに御坂さんが食いついてきてんやったなぁ…
まぁでも御坂さんの事やったらカミやんが居ったら話しかけてきそうやなぁ)
数分後、遠くから常磐台中学の制服を着た少女がこちらへ歩いてきているのが青髪ピアスの目に入った。
(あれは…御坂さん!来た!来たでぇ!)
「なぁカミやん?あの常磐台の子可愛くない?」
「あのなぁ…そんな事言ったって常磐台のお嬢様が俺たちに見向きするわけ……ってビリビリかよっ!」
上条の「ビリビリかよっ!」と言った声が御坂に届いたのか、御坂がこちらへ走ってきた。額から青い稲妻を飛ばしながら。
「だーれがビリビリですってぇえ?」
「やべっ逃げるぞ青ピ」
「ちょっと待て!カミやん知り合いか?」
(ここはなんとしても引き留めなあかん!)
そこで青髪ピアスが取った行動はと言うと…。
「カミやん!僕は雷が苦手なんや!」
と叫びながら上条の腰にギュッとしがみつくなんとも情けない行動だった。
(御坂さんが電撃を放ち、それにより風紀委員の白井さんが来るはずや!)
「ぎゃあああああ 青ピ!離せ!死ぬ!絶対死ぬ!」
とか言いながらも上条はちゃっかり右手で御坂の電撃を打ち消している。
「なんでアンタには私の攻撃が効かないのよ!」
御坂がさらにもう一発上条へ向けて電撃を放ったその時だった。
「あらあらまぁまぁお姉さまったら!遠くから何者かが能力を使って暴れていると思ったら、殿方と密会してましたの?」
瞬間移動の能力者である白井が一番最初に来た。
その後ろから二人とも同じ制服を着た少女たちが走って来ている。
間違いない、あれは…
「白井さーん!早すぎですよ!」
「やっぱレベル4の能力者はすごいなー」
間違いない、初春飾利と…青髪ピアスが「君を幸せにする為なら何度でも過去へ戻る」と約束をした相手、佐天涙子だ。
(あぁ…涙子ちゃん…)
数ヶ月ぶりに再び青髪ピアスと佐天涙子は出会うことができた。
だがそれは青髪ピアスからしたら数ヶ月ぶりであって、佐天涙子はこれが青髪ピアスとの初対面である。
遊んだ帰りに送ってもらった記憶も、一緒に笑った記憶も、お化け屋敷で腕を組んだ記憶も、青髪ピアスとの約束も記憶がないし、そういう出来事を体験していない。
だがそれは佐天を傷付けたであろう、グループに監禁された記憶も持ち合わせていないと言うことだ。
そんな事を知ってるはずもないこの場にいる女の子連中は御坂に彼氏がいただのと勝手に盛り上がっている。
「お姉さま!嗚呼お姉さま!黒子に隠して類人猿ごときにとお付き合いをしていたなんて!黒子は!黒子は…!」
「だからー!違うって言ってんでしょ?」
否定しながらも御坂の顔は紅くなっていき、それを見て佐天と初春はニヤニヤしている。
ここで怪しい動きをしても、どこからか監視をしているであろうアレイスターに感づかれると思った青髪ピアスは、気を取り直して話しを進める為にあの時と同じように上条に話しを振る。
「おいカミやん!どないなってんねん!説明しろ!」
「いや、俺も何がなんだか…面識があるのは御坂くらいで…」
といったところで前回と同じように三人が自己紹介をしていく。
そしてあの時と同じように、初春と佐天の誘いによりこの後6人で遊ぶことになった。
前回はゲームセンターで遊んだ6人だったたが、青髪ピアスはあの簡易能力測定も自分の能力がバレる原因の一つになりえるかもしれないと判断し、今回はボウリングへ行くことにした。
その行き道で、佐天と初春たちに「なんて呼べば良いですか?」と聞かれ、青髪ピアスは「先輩で」とニッコリ笑顔で即答する。
青髪ピアス、佐天、初春チーム 対 上条、御坂、白井チームという青髪ピアスが望んだ通りに別れ
総合スコアが高い方がジュースを奢るという中高生らしい遊びをすることになった。
上条、御坂、白井チームがボウリングに夢中になっているところで、青髪ピアス、佐天、初春は相手チームには聞こえないようになにやらヒソヒソ話を始めだした。
「なぁ、カミやんと御坂さんどう思う?」
「上条さんは鈍感すぎで、御坂さんは素直になれてませんねー」
「おっ!初春のくせに言うねー」
「佐天さん!初春のくせにってどういうことですか!」
「あはは、ごめんねー初春」
佐天と初春が楽しそうに話している光景を見て、青髪ピアスは顔が自然に緩んでしまう。
「どうしたんですか?先輩?」
それに気付いた佐天が青髪ピアスのことを気にし、声をかけた。
「あーなんでもないでー。それより、カミやんに御坂さんを寮まで送らそう思うねんけど、どうかな?」
「それいいですね!」と、佐天と初春は同時に頷く。
「問題は白井さんやなぁ 御坂さんと同じ寮までらしいし、御坂さんしか見えてへんみたいやし」
「それなら大丈夫ですよ!私がなんとかします!」
初春が自信あり気に言うので、青髪ピアスと佐天は初春にまかせることにした。
初春は前回もなんだかんだ上手くやってくれた事もあり、青髪ピアスは大丈夫だと踏んでいる。
3ゲームをしたところで、ボウリングは終了。
結果は見るまでもなく、上条、御坂、白井チームの圧勝に終わったが、年下の女の子にお金を出さすわけにもいかず、青髪ピアスは男らしく三人にジュースを奢るハメに。
そうこうしているうちに完全下校時間も近づき、解散となったところで初春が動き出す。
「白井さん!やり残した仕事を思い出しちゃいました!!今すぐ177支部に行きましょう!」
「はぁ?…私はこれからお姉さまと…」
「お願いします!提出期限は明日なんですよ!」
「仕方ないですわね、それではみなさんさようならですの」
前回同様、一番難関であるはずの白井があっさりと初春に着いていった。
青髪ピアスが思うに、時の流れはある程度は大まかに決まっているのかもしれない。
上条と御坂も互いに文句を言いながらも、二人で帰っていった。
そうして青髪ピアスと佐天は二人きりになる。
「あの、先輩。気のせいかもしれないんですけど、私たち以前どこかで会いました?」
「え?」
まさか佐天や他の人達に青髪ピアスが時空移動の能力を発動する前の記憶があるのだろうか。
しかし、彼女たちにとっては今日が初めて青髪ピアスとの出会いであり、ゲームセンターに行ったり遊園地に行ったりといった体験すらしていない。
「デジャビュって言うんですか?何か前にもあったような気がするんですよね」
「何言うてんの、そんなわけないやん」
「ですよね…」
「あ、それよりや!涙子ちゃん って呼んでええかな?」
「えっ?あ、もちろん良いですよ!」
「涙子ちゃん」
「はい?…なんか照れるじゃないですか!」
青髪ピアスは再び佐天と出会えた喜びを噛み締めながら、今度こそは幸せにしようと改めて強く思った。
「そうや、連絡先教えて貰ってもええかな?」
「良いですよー」
赤外線機能でものの数秒で互いの連絡先の交換が終わる。
「じゃあ、私はこっちなんで!」
「ええって、寮まで送るで!」
「いやぁ…それは悪いんで。じゃあさようなら!また遊んでくださいね。
あ、それから次に会った時はちゃん付けじゃなくて 涙子 って呼んでください」
と言って佐天は走り出していった。
(そういや前もここで振り返ってそんな事言うとったなぁ
もしかして ちゃん って付けられるの嫌やったんかな…)
などとどうでも良い事を考えながら下宿先のパン屋に着いた。
用事を済まし、そろそろ寝ようとしていた時に青髪ピアスは目を閉じて、予定通りに佐天に出会えた事に安堵していた。
(順調やなぁ このまま続いたらええのに…)
翌朝、いつも通りに学校へ行く。
青髪ピアスの記憶が正しければ、今日も上条と一緒に帰っていれば佐天に会えるはずだ。
佐天に会えることばかり気考えていると、いつの間にか放課後になっていた。授業など聞いていたわけがない。
そして上条と一緒に帰っているところだ。
(このタイミングで行ったら、多分涙子に会えるはずやな)
「おっ!ありゃ初春さんと佐天さんじゃないか?」
会うことばかり考えていた青髪ピアスは上条がそう言ってから前方に初春と佐天がいることに気付いた。
(やっぱりこのタイミングで会えるんか。前と一緒のタイミング…やなぁ)
以前、青髪ピアスは 時間の流れは大まかに決まっているかも と考えていた。
ということは、またアレイスターに狙われるのだろうか?とも考えたが、今回は細心の注意を払い能力がバレるような言動、行動はしていないつもりだ。
(今回は大丈夫やろ…)
「おい青ピ!ぼーっとしてるけど大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫やでカミやん。」
考えても仕方ない そう思った青髪ピアスは佐天に会えることを楽しむことにした。
ただし、アレイスターに能力がバレてしまわぬように言動、行動には細心の注意をはらうことを忘れずに。
「涙子ーっ!」
青髪ピアスが叫ぶように名前を呼びながら手を振るとさすがにこっちに気付いたようだ。
「先輩と上条さんじゃないですか。何してるんですか?」
「カミやんとなんとなくブラブラしてたら二人が見えたんや」
「そうなんですかー」
「そっちは何してるん?」
「初春と遊んでたとこです」
「そうやったらみんなで遊ばへん?」
「いいですね。初春もいいよね?」
「もちろんですよ!」
というわけで4人はセブンスミストで買い物をすることにした。
ある程度店内を見て周り、男共がトイレに行っている間に佐天と初春は青髪ピアスのことを話していた。
「佐天さんって、先輩と仲良いですよね」
「そうかな?でも何か初めて会った気がしないんだよね」
「え?」
「それから、もう連絡先も交換しちゃった」
「えええ?」
初春がキャーキャーはしゃいでいる内にトイレから出てきた青髪ピアスと上条はそんな初春を見て二人そろって目を点にしていた。
セブンスミストでの買い物を終え、、完全下校時間前にはそれぞれは別れをし帰宅した。
帰宅し、一人になった青髪ピアスはこれまでの事を考えていた。
(昨日、涙子に出会ったのも、今日の帰りに出会ったのも前の前と変わってへん
けど、今回はゲームセンターには行かんかったし、今日は4人で遊んだから今度の休日に遊ぶ約束もせんかった。未来は確実に変わってるんやろうか…)
などと考えている間に青髪ピアスは眠ってしまったらしく、目が覚めると朝だった。
青髪ピアスが佐天たちに出会ってから、6人はかなりの頻度で遊ぶようになり、アレイスターに気付かれる事もなく平和に時は過ぎていき、1ヶ月が経過した。
最近は青髪ピアスと佐天の二人きりで遊ぶことが増えてきて、今日も二人で遊んでとある公園のベンチに座り休憩していた。
この時、青髪ピアスは佐天に想いを伝えようと決心していた。
「なぁ いきなりやけどな、今日は涙子に言いたい事があんねん」
「なんですか?」
「僕な、出会った時から涙子の事が好きやってん。いや、出会う前から好きやった。」
「え?いきなりですね…」
「ごめん、いきなりすぎたやんなぁ」
「…私もです…」
「え?ほんまに?ありがとう、涙子。これからよろしく」
こうして約束した通りに佐天を迎えにきた青髪ピアス。
と言っても、佐天にはそれらの記憶が一切ないが。
完全下校時間をとっくに過ぎても、二人は公園のベンチに座りながら話をしていた。
どこが好なのかとか、なんで好きなのかとか、毎週休日は必ずデートしようとか。
「じゃあ先輩、そろそろ帰りましょうか」
「そうやなぁ、もう遅いし送ってくで」
「お願いしまーす」
二人は手を繋ぎ暗い夜道を歩き出した。
佐天の住む寮まで歩いて変えるには多少距離があるが、今の二人にはそれがまた良いのだろう。
「すごい!見てくださいよ先輩!」
そう言って佐天は青髪ピアスの手を離し、女の子らしくちょっと走り、振り返って青髪ピアスを見る。
「夜の学園都市ってほんとに人少ないですよね まるで世界に私たちだけみたいじゃないですか?」
佐天は無邪気に笑いながら、歩道から路上に飛び出して青髪ピアスに話しかけていた。
完全下校時間をとっくに過ぎたこの時間ならたいてい学生たちは家や寮でテレビを見たりしているはずだ。
いるのはスキルアウトや会社から車で帰る社会人くらいだ。
と言っても、それすら少ない。
と、その時だった。
猛スピードでスポーツカーが佐天に向かってきていた。
「涙子!危ないっ!」
青髪ピアスは無我夢中で佐天の腕を引っ張りこちらに引き寄せた。
ギリギリのところで、佐天を助けたと思ったのだが…
「なっ…?!伏せるんや涙子!」
猛スピードで迫ってきたスポーツカーが青髪ピアスたちの横を通った時、助手席の窓が開かれ、見知らぬ女がこちらへ向けてサブマシンガンをぶっぱなしてきた。
二度と佐天を傷付けないと誓った青髪ピアスは咄嗟に佐天に覆い被さる。
スポーツカーが走り去って行くのを確かめ、同じ場所にいけないと思ったのか、ぐったりとしている佐天を担ぎ路地裏まで移動する。
「涙子!大丈夫か?涙子!」
「…」
「涙子!」
無惨にも一発の弾が佐天の腹部に当たっていた。
幸いにもまだ息はしている。
「救急車…救急車や!」
この時、佐天に覆い被さった青髪ピアスにも数発サブマシンガンの弾は当たっていたのだが、それすら気にしている余裕がなかった。
(あかん…バレたんか?なんでや?いつや…どこでや?)
「何がバレたンだって?」
暗闇からいきなり声がした。
そっちへ振り向くと、青髪ピアスが何度も見た事がある男がいた。月の光に白い髪、白い肌、赤い目を照らされニヤリと笑う男が。
「一方通行…なんでおるんや…」
「なにがバレたンだって聞ィてンだ!質問してンのはこっちだ」
(何がバレた…?)
「そォだよ 何がバレたのか言ってみろ」
「お前っ!なんで!」
口には出してない。自分の思考が何故か一方通行に読まれている。
(ここから逃げなっ)
「そォはさせねェよ」
一方通行が拳銃のようなものを取り出し、青髪ピアスが時空移動を発動するよりも早く撃つ。
「あ゛あ゛あ゛ッ!」
撃たれたものは、身体に電気を流しまともに演算処理をできなくなるものだ。
「そこの女は助けといてやる」
その声が最後まで聞こえたのか聞こえてないかくらいのところで青髪ピアスは意識が落ちた。
再びアレイスターの命令によって動いたグループに捕らえられた青髪ピアスは、床に寝かされたまま目を覚ますとそこは窓もドアもないビル…ではなく学園都市内にあるホテルかどこかただの普通の部屋だった。
「お前、何回やり直してンだ?」
最初に問いかけてきたのは一方通行だ。
辺りを見回すと、青髪ピアスを取り囲むように、土御門、結標、海原がいた。
土御門は手に何かのスイッチらしきものを握っている 恐らく青髪ピアスの身体に電気を流す為の物だろう。
結標は足を組んで椅子に座りながら、軍事用ライトをブラブラさせながら青髪ピアスを見ている。
海原は黒い石を手に持ちながら、何かを考えているようだった。
そしてもい一人、青髪ピアスが今まで一度も見たことがない女がいた。
「なんで僕がこの能力を持ってんのがバレたんや?」
「オイオイ 俺の質問はシカトですかァ?」
自分の質問を無視された一方通行がチョーカーのスイッチに手を伸ばす。
「待て、一方通行」
それを土御門が止める。
「それに、さっきから僕の考えが読まれてると思ったら、その女なんやな」
「そうよ」
感情の無いようなトーンで女は答える。
「精神感応系の能力者か」
「仕方ないな、全て説明してやるよ。」
そういって土御門は自分の能力がどのようにしてバレたのか青髪ピアスに説明した。
それは青髪ピアスが思いもしなかった事だった。
まず最初に気付いたのはアレイスターだったらしい。
アレイスターが学園都市の細部まで情報を収集する為に用いる滞空回線を使っている時だった。
それで青髪ピアスを見た時、何か既視感を感じたらしい。
グループを使って青髪ピアスを何度も捕まえよとした気がする。
そして何度も逃げられていた気がする。
それは青髪ピアスを見る度に強くなっていったという。
アレイスターはグループ全員に青髪ピアスを見て何か感じるものがあるか尋ねたところ、四人そろって同じものだった。
一般的な既視感と感じるものの仕組みは科学的に証明されており、四人とも同じ既視感を感じることはあり得ない。
今夜はそれを確認するために青髪ピアスと佐天を襲った。
自分か大切に想う佐天が傷付けば、頭のどこかで思うはずだ 「自分の能力がバレたのか」 と。
それを精神感応系能力者の読心能力に読ませることにより、確信した。
青髪ピアスは時空移動の能力を持ってる、と。
(そうか、それで涙子は『初めて会った気がしない』って言っとたんか……そうや!涙子はどうしたんや)
「佐天涙子なら病院に連れていった」
「生きてんのやな」
「あぁ」
また佐天を巻き込んでしまった。何度過去へ戻ってやり直しても上手くいかない。
そこで青髪ピアスは決意した。
「次こそ涙子を守る」
今度こそ佐天を傷付けない未来にするためにもう一度過去へ戻り、元凶とも言えるアレイスターを潰すことを。
「無駄だ」
土御門が手に持ったスイッチを押すよりも早く、身体に電流が流れるよりも早く、青髪ピアスは時空移動の能力を発動させる。
こうなってしまった以上、今は逃げるしかない。逃げるためにはもうこれしかない、これに賭けるしかなかった。
青髪ピアスは目を瞑りもう一度あの時へ戻れるのをひたすら祈った。
床の感覚が変わった。
どうやら無事に戻ってこれたらしい。
(戻れたんか…)
また戻ってしまったことにより、佐天との出会いも出来事も全て無くなってしまった、
そして何よりまた佐天を巻き込み傷付けてしまったことを悔やんでいる。
しかし、それは逆に青髪ピアスにとって力になるものだった。
次こそは必ず佐天を幸せにする、その為にアレイスターを潰すという決意を更に強する。
前回分かったように、自分の姿を見られると相手は既視感を感じるらしい。
ということは、何度も過去へ戻ってやり直す度に見付かりやすくなる可能性がある。
そう何度も過去へ戻ることはできないかもしれないと青髪ピアスは考える。
(最悪、今回で最後やな…)
いずれ見つかってしまうのだから、こちらからアレイスターのところへ出向いてやろうと思っている青髪ピアスだが、
アレイスターのところへ行って、果たして奴を殺せるか…
そういう不安もあったが、見つかるのも時間の問題であり、もたもたしている暇はない。
「まずは、アレイスターをどう殺すか…やな」
時空移動しかできない青髪ピアスは相手に攻撃をする能力などもっていない。
だがしかし、自分自身まだこの能力について全てをしっているわけではない、そこで青髪ピアスはあることを試してみる。
青髪ピアスは出来るだけ人の少ないとある公園に来ていた。
そこで買ってきた猫缶を空けて、猫を誘き寄せる。
(猫には悪いけど、すぐに終わるからなぁ)
食べる事に夢中になっている一匹の猫を両手で抱え上げる。
青髪ピアスがやろうとしていることは、自分以外を時空移動させるというもの。
これが出来れば、アレイスターを飛ばすことが出来るはずだ。
「日時は5分後、場所は2m先のベンチの上」
猫に意識を集中させる。
…すると両手で抱えて上げていた猫の姿が消えた。
(はぁ…はぁ これ何か疲れるなぁ あんま多くは使われんな)
猫が現れるであろうベンチの横に座り、五分が経過するのを待つ。
青髪ピアスは肩で息をしていて、かなり疲れている。
思いの外、自分以外を時空移動させるのは疲れるらしい。
「現れんかったら現れんかったで…猫には悪いけど成功やな」
そう呟きながら、両手を広げベンチの背もたれの上に乗せ、空を見上げる。
そうしていると「にゃー」という猫の鳴き声がした。
青髪ピアスが横を見ると、先ほど飛ばした猫が横に座っていた。
「よし、成功や」
次に青髪ピアスはそろそろ生徒達が下校する時間に第七地区のとある高校の校門の横で土御門を待ち伏せしていた。
チャイムが鳴って数分後、生徒たちがぞろぞろと校舎から出てくるのが見える。
その中に土御門の姿があるのを青髪ピアスは発見した。
「土御門元春」
校門から出てきた土御門の後ろから声をかける。
「ん?なんで俺の名前を知っているんだにゃー?」
土御門は不思議そうに青髪ピアスを見る。
それもそのはず、青髪ピアスは今回はこの学校に入学をしていない。だから土御門は青髪ピアスを知っているわけがない。
しかし、何回か接触するうちに土御門は既視感を感じるだろうが、今のところは大丈夫のようだ。
「ちょっと話しせえへん?アレイスターの居場所を知りたいねん」
「っ!お前…なぜその名を…っ!」
アレイスターの名を知っている人間はごくわずかで、見るからに普通の生徒である青髪ピアスがその名をしっているのはおかしいと土御門は思い、とっさに身を構える。
「土御門君に危害を加えるつもりもないし、大丈夫やで」
「お前は誰だ?」
「まぁ座ってゆっくり話ししようや」
二人は学校からそう遠くない喫茶店へ場所を移し、適当な席へ向かい合わせになりながら座る。
最初に口を開いたのは土御門だ。
「お前の目的はなんだ?」
「アレイスターの居場所を教えてほしいだけや」
「何故だ?」
「それは言われへん」
青髪ピアスに対し更に不思議が増す土御門は注文した珈琲をゆっくりと飲んだ。
緊張をして喉が乾くのだろう。
「そう簡単には教えることはできない」
「やっぱそうかぁ」
「ん…?ところで、お前…どこかで会ったか?」
早くも土御門は青髪ピアスに対して既視感を感じ始めた。
気付かれるのも時間の問題と判断した青髪ピアスは少し焦りだしていた。
「教えてくれたら、土御門君の大好きな義妹は…」
そう言いかけたところで、土御門は机に身を乗りだし、青髪ピアスの胸ぐらを掴む。
「喧嘩すんなよ」と喫茶店の店員が言うがそんなことはお構い無しだ。
「大丈夫や、アレイスターの居場所さえ教えてくれたら」
本当のところ青髪ピアスは、土御門の義妹にどうこうしているわけではない、咄嗟に吐いたただの嘘だ。
「くそっ…あいつはこの学区にあるあの建物にいる。」
「へぇ まさか第七地区におったとはなぁ」
「場所は教えた、舞夏はどこにいるか教えろ」
「多分、学校で勉強してるんやないかなぁ」
「どういうことだ?」
「何もしてへんってことやでえ。じゃあ」
そうして青髪ピアスは喫茶店を出て、さっそくアレイスターがいるであろうビルへ向かった。
確かに窓もドアもないビルがあった。
警備員などもいないようで、容易に近づくことが出来た。
「どっから入ろうかなぁ」
そう思った青髪ピアスだが、時空移動をしたら早い話だ。
中には一度連れて来られたことがあるし、入るのは難しくないだろう。
ビルの前に立ち、青髪ピアスは時空移動をした。
青髪ピアスは、目の前にいる緑色の手術衣を着て赤い液体に満たされた巨大な円筒器に、逆さまで浸かっているアレイスターと目があった。
だが、アレイスターは驚く様子もない。
息つく間も無く次に自分がここへ来た数秒前に時空移動をする。
時空移動した場所は、赤い液体に満たされた巨大な円筒器の中のアレイスターの真後ろ。
青髪ピアスは両手で逆さまになっているアレイスターの足首を掴み、アレイスターを遥か未来へ飛ばす。
アレイスターが暴れる間も無く、赤い液体と共にアレイスターの姿が消えた。
青髪ピアスの計画はアレイスターの目の前へ時空移動をした数秒前の時間に戻ってアレイスターの真後ろへ時空移動をし、
アレイスターを数百年先の未来へ飛ばす というものだった。
巨大な円筒器の中に満たされていた赤い液体と共にアレイスターは数百年先の未来へ行ったため、空になった巨大な円筒器の中には青髪ピアスがびしょ濡れのまま座り込んでいた。
自分の計画があっさりと成功したことに安堵し、力が抜けていた。
アレイスターを時空移動したことにより、疲れはてて力が抜けているというのもあっただろう。
しかしまだ終わりではなかった…。
警報器が鳴った。
アレイスターがいなくなったからなのか、アレイスター自らが警報器を鳴らしたのかは分からないが。
しかし、焦る必要はない、誰かが来るまえに時空移動をすればいいのだから。
「はぁ、帰ろか…」
なんの焦りもなく、溜め息を混じらせながらゆっくりと円筒器の中で立ち上がり、下宿先のパン屋へ帰ろうとしていたが…。
「あれ…?できへん…なんでや」
自分以外を時空移動して脳や身体に負担がかかったからなのか、青髪ピアスは能力が使えなくなっていた。
その事に青髪ピアスは焦りを感じだした。
能力を使わなければ、ビルの外はおろか、円筒器の外にすら出られない。
「どうやって出たらええんや…どうやって…」
何度も能力を使おうとしたが、一向に時空移動できる気配がない。
「このままやと誰か来るかも知れんな…」
と、その時。
「動くな!」
青髪ピアスの目の前に10人くらいの武装部隊と窓もドアもないビルの案内人である結標淡希がいきなり現れた。
座標移動の能力者である結標が連れてきたのだろう。
「やばい…」
武装部隊は青髪ピアスを取り囲み、こちらに銃口を向け出した。
その中のリーダー格と思われる人間が青髪ピアスに話しかける。
「お前は誰だ?ここで何をしている」
「…」
青髪ピアスは何も答えない。いや、答えられない。
「円筒器を開けろ!どこかに操作できるスイッチがあるはずだ!お前は書庫にアクセスしてこいつの顔と書庫にあるデータを照合しろ!」
リーダー格と思われる人物が部下たちに次々と命令を下している
それを武装部隊の数人が素早い動きでこなしていく。
「照合のできましたが、学園都市にこのような男はいません」
「どういうことだ?」
「恐らく外から来たと思われます」
青髪ピアスはいつもの高校には入学していないため、書庫には何も登録されていないのだろう。
間もなくして、円筒器のガラスが上に上がっていき青髪ピアスは生身を晒される。
核爆弾すらも防ぐとされているビルで、学園都市の統括理事長であるアレイスターが入っていた装置だ、円筒器の中に入っていた方がかなり安全だっただろう。
青髪ピアスは囲まれているうえに、今は能力が使えなくなっている。もう逃げることはできない。
「もうあかん…」
青髪ピアスは絶望し、身体の力が抜けその場へ崩れ落ちた。
「取り押さえろ!」
その言葉を合図に武装部隊が青髪ピアスを取り押さえ、無抵抗の青髪ピアスはされるがままに腕を後ろに回され手錠をかけられて、
薬品のようなものを嗅がされ意識を失った。
青髪ピアスが目を覚ますと、手錠ははずされ椅子に座らされていた。
コンクリートでできた四畳半程度の部屋に薄暗い照明が一つだけある。それ以外は何もない、机も窓もなにもかも。
あるとしたら出入りできるドアくらいだ。
青髪ピアスの目の前には紙とペンを持った一人の男が経っていた。
「お前の事を調べさせてもらった。だが、やはり書庫には載っていない。お前は何者だ」
「…」
青髪ピアスはここでも何も言わない。
「なぜアレイスターはどこにもいない」
「…」
「あの場にいたのはお前だけだ、何をしたんだ」
「…」
「あのビルに入れると言うことは、テレポーターか?」
「…」
何も答えない青髪ピアスを見て男は諦めたのか、部屋から出ていった。
次の日も同じことが繰り返された。そして次の日も。
青髪ピアスは一言も喋らない。
アレイスターの失踪の謎を解かない限り、青髪ピアスに拷問などもできない。
それに拷問をしても、青髪ピアスは何も言わないと男は判断したのだろう。
精神感応系の能力者を使う手もあったが、学園都市でも高レベルな機密事項であり、そういう手は使えなかった。
時間の感覚がなくなってきたある日、男がペンを部屋に忘れて出ていったのを青髪ピアスは見逃さなかった。こっそりと回収し懐に隠す。
部屋のドアはカギがかけられているため、男が部屋に入ってくる時がチャンスだろう。
そしてその瞬間はすぐにやってきた。
男がドアを開けた瞬間、青髪ピアスは勢いよく立ち上がり、手にペンを持ったまま男に目掛けて体当たりをする。
ペンの先が男の脇腹に刺さり、男はその場に倒れ込んだ。
青髪ピアスはドアの外を覗き込むと幸いなことに誰もいなかった。
男を部屋の中に放り込みドアを閉めると自動でロックがかかる。これでしばらくは大丈夫だろう。
青髪ピアスがここへ連れて来られた時には、意識がなかったから出口がとこか分からない。
とりあえず手当たり次第に行くしかない。
ここがいったい何階なのかわからない青髪ピアスは、エレベーターか階段、もしくは窓を探すことにした。
そうすればここが何階か分かるだろう。
もしかすると一階でたまたま出入口が見付かる可能性もあるかもしれない。とりあえずここが何なのかを探すしかない
人と出くわさないように早歩きをしながら進むが青髪ピアスは何日も日の当たらない狭い部屋に閉じこめられていたこともあり、精神的にも疲れて果てているようだ。
壁沿いに伝って歩いていたその時、ビル内にアナウンスが鳴った。
「緊急事態発生 521番が逃亡 現在もビルにいると思われる 521番の特長は長身に青い髪をした男 至急捕獲せよ」
「これって僕の事か?ついにバレたんか…」
少し焦りながらここがどこか目印のようなものを探していると、ようやく階段を見付けた。
しかし、何階と書かれてなどいなかった。
「なんでや…」
他に見取図や何か無いか探していると、上の方から足音がする。
咄嗟に曲がり角の死角になりそうなとこに隠れ、様子を伺う。
「相手は一人か、ちょっと厳しそうやなぁ」
階段から降りてきた人物が青髪ピアスに気付かず、通りすぎたところで相手の後ろから飛びかかった。
相手におんぶされる形になり、青髪ピアスは相手の首に腕を絡ませ絞める。
さすがに訓練されているだけあって、何度も振り落とされそうになったが、後ろから突然襲われてはさすがに逃げれない。
相手は次第に暴れなくなり、力が抜けていきその場に倒れこんだ。
「ふぅ… 何か武器になりそうなもんは…」
相手から何かを奪おうとしていると、無線機から声が聞こえた。
「目標はどこにもいない、残るは1階のみ 至急1階へ迎え」
「…1階?ここ1階やったんか、てことは出入口もこの階か?」
無線機と、扱い方は分からないが拳銃があったのでそれも奪っていく。
しばらく歩いたところで、出入口らしきものをみつけた。
途中、何回か人に出くわしそうになり、その度に拳銃を握る手に緊張が走った。
狭い一本道の廊下になっており、その先にドアが見える。
元々、人数が少ない組織なのか、ドアのところに配置された人間はいなかった事もあり、簡単に脱出できた。
数日ぶりに太陽の陽射しに目を細める。
「もっと遠い場所にいかな…」
青髪ピアスはがむしゃらに走って逃げた。
あああミスった。
学校行ってないのになんでパン屋の下宿先に帰るんだ
書庫にデータがないって ああミスった
あーでも戻る度にパン屋に頼み込んで下宿してってことにすれば大丈夫かな。
しばらく逃げているうちに、見たことのある景色になっていた。
第七地区の青髪ピアスが住んでいたところに近い。
「学生たちが多いなぁ…」
学生が下校しているのを見ると、時刻は15時くらいだと予想してた。
「これからどうしよ…」
少し休憩をするために道端に設置されてあるベンチに座る。
アレイスターが居なくなったと思えば、わけの分からない組織に追われる始末。
能力さえ使えれば簡単なのだが、アレイスターを飛ばした事により身体に負担がかかりすぎて、能力が使えなくなってしまった。
しばらくしたら使えるようになるかもしれないと思い、捕まってから何度も何度も試してみたが無駄だった。
「もう使われへんのかなぁ」
青髪ピアスはまるでブロンズ像の考える人のような姿で悩む。
「まぁここ居っても見つけるだけやし、逃げるか」
ベンチから立ち上がり、歩き出す。
それから数時間、夕暮れ時になりぞろぞろと家や寮に帰る学生達であふれている。
適当にさまよっていた青髪ピアスも奇跡的に組織に見つかることもなく、真剣にこれからどうしようか悩んでいた時だった。
ビルの壁に設置されている巨大な液晶画面に流れているどこかのメーカーのCMがいきなり切り替わりニュースになった。
このニュースは学園都市内にしか流れないニュースで、女性のキャスターが慌しい様子が映し出された。
「臨時ニュースです。ただいま入った情報によると、学園都市内にある少年院から一人の少年が脱走したようです。
現在、アンチスキルが少年を探していますが、この少年は拳銃を所持しており非常に危険ですので、学生の方は特に注意してください。
少年は身長180cmくらいの大柄で、髪は青い色をしているのが特徴です。くれぐれも注意してください。以上で終わります」
巨大な液晶画面を見上げたまま、青髪ピアスは立ち尽くしていた。
「…あいつら…アンチスキルまで使って…」
すれ違う人が青髪ピアスを見て「ねぇ?あれってもしかして…」「おいアイツ見ろよ!」「警備員に通報した方がいいんじゃない?」
などとヒソヒソと話している。
走ると目立ってしまうからやや早歩きで立ち去ろうとするが…
「いたぞ!あそこだ!」
数人の警備員が青髪ピアスを見つけたようで追いかけてくる。
青髪ピアスは声がする方とは反対側に走り出す。
完全下校時刻で学生達であふれているおかげで、人ごみに紛れることができた。
しかし、まだ安心はできない。青髪ピアスはひたすらに走る。
路地裏に入り、角を曲がり、また角を曲がる…が、学園都市には数多くの監視カメラが設置されており、次から次へとアンチスキルが現れる。
人の多いところでは、走ると逆に目立つため、やや早歩きで逃げ逃げた。
途中で露店になっている古着屋みたいなところで上着と帽子を2つ盗み
走りながら、今着ているシャツの上から盗んだ上着を羽織り、帽子を被り少しでも監視カメラから逃れようとする。
「はぁっはぁ…これでっ 少しはマシにっ なるはずやっ」
青髪ピアスの思惑通り、監視カメラからは逃れたようで、少し逃げ回っていると追ってくるアンチスキルが少し遠のいた気がした。
しかし、一時的なものでいずれ見つかるのも時間の問題だろう。
しばらく逃げ回っているとアンチスキルが追ってきてない事に気付いた。
上着と帽子を脱ぎ捨て、もう一つ盗んでおいた帽子に被りなおす。
さすがに青い髪では目立ちすぎるため、何も被らずにいるのは危険な行為だろう。
再び路地裏に入り、壁を背にもたれかかる様にしゃがみこみ少しだけ休憩をする。
ろくに食事をせずに、精神的な疲れもある青髪ピアスにはそろそろ限界が近づいてきていた。
これでもよくもっているほうだろう。
気が付けばすっかり夕日が沈んでいて、辺りは暗くなっていた。
息も整ったところで、ゆっくりと立ち上がり、路地裏から表に出ようと顔を出して左右を確認する。
左を確認し右に顔を向けようとしたところで顔面に何かがぶつかったような衝撃を感じた瞬間、青髪ピアスが被っていた帽子は吹き飛び、そのばに倒れこんだ。
それと同時に「きゃぁっ」という少女の悲鳴が聞こえた気がする。
アンチスキルと衝突したと思った青髪ピアスは咄嗟に立ち上がり、よろめきつつも顔を抑えながら何がぶつかってきたのかを確認する。
どこかで見た制服を着た少女がが顔面から倒れていた。
「ん?」
青髪ピアスが疑問に思ったところで後方から声がした。
「佐天さーん 大丈夫ですかー?」
「佐天…?」
顔から手を離し倒れている少女の顔をよく見てみる。
「うぅぅぅ痛ーい」
倒れていた少女は座りながらも青髪ピアスと同じように顔を抑えながら唸っていた。
「涙子…」
ふいにつぶやいてしまった青髪ピアスの言葉を聞いて少女はそのままの姿勢で顔から手を離し青髪ピアスを見上げる
「…え?なんで私の名前を…?」
青髪ピアスにぶつかったのは佐天涙子だった。
佐天は立ち上がって青髪ピアスの顔を覗く。
「以前、どこかで会いましたっけ?」
「いやぁ…気のせいちゃうかなぁ?」
「ねぇ、初春 この人どこかで見たことない?」
後ろから近寄ってきた初春も青髪ピアスの顔をまじまじと見る。
「言われて見ればどこかで見たような…って、それよりも頭から血が出てますよ!」
こめかみあたりから血を垂れ流している青髪ピアスを見て、初春はハンカチを手渡す。
「あぁ悪いなぁ」
佐天は垂れ流れている血を拭き取る青髪ピアスを見て、申し訳なさそうな顔になっていた。
「ねぇ初春、177支部ってこの近くだったよね?そこで軽い手当てしようよ」
「時間も遅いですし、病院も遠いですからね…」
佐天は青髪ピアスに初春が風紀委員で近くに初春が配属されている177支部があるから、そこで軽い手当てをしようと提案してみた。
「どうですか?」
「そうやなぁ…」
青髪ピアスはここで佐天や初春に関わると、彼女たちに迷惑が掛かってしまうと思ったが
会いたかった佐天に会えたことに少し気持ちが緩んでしまっようで、ちょっとくらいなら大丈夫だろうと思い、行くことにしてしまった。
佐天と初春の後ろをついて行きながら、177支部へ移動する。
前を歩いている佐天と初春は青髪ピアスに聞こえないように青髪ピアスの事を話していた。
「ねぇ初春、あの人どこかで会った気がしない?」
「さっきからそればっかりですね、佐天さんの気のせいだと思いますけど…」
などと話していると初春が突然「あっ!」と何かを思い出したように言った。
「夕方ニュースでやっていた人にソックリじゃないですか?」
「少年院から逃げ出したってやつ?」
「青い髪をした人なんてめったにいませんよ?それに身長も高いですし」
「えっ…まさか」
「絶対そうですよ!このままアンチスキルのとこに行きましょう」
「確かに似てるけど、絶対違うよ。あの人は悪い人じゃないよ、何でかわかんないけどそんな気がする」
「拳銃持ってるらしいじゃないですか、危ないですよ。もしそうだったらどうするんですか?」
「お願い初春!アンチスキルに連れていくのだけは止めよう?それに私のせいで怪我さしちゃったみたいだし…」
「もう…佐天さんは仕方ないですね…」
177支部に到着して、青髪ピアスは初春に「適当に座っててください」と言われ、側にあったソファーのような長い椅子に深く腰掛けた。
「初春!お茶いれてよ。私、救急箱取ってくるから」
「はい」
毎日のように177支部に来ている佐天は、何がどこにあるのかわかっているようで、迷わず救急箱を持ってきた。
「ちょっと頭見せてくださいね」
「自分でやるからええで」
「いや、私がやります!私のせいなんで!」
佐天は青髪ピアスの横に座り、流れている血を拭き取り、消毒液をティッシュに数滴垂らし、青髪ピアスの頭の傷口を拭き絆創膏を貼ってあげた。
「はい、できました!」
「ありがとう」
「ところで何で私の名前知ってたんですか?」
「いや、なんていうんかなぁ…」
青髪ピアスは正直に言うか迷っていた。
言ってても構わないが、言ったところで信じれる話しではないし、知ることで佐天にとって悪いものになるかもしれない。
考えていると初春がタイミングよくお茶を持ってきた。
「お茶入りましたよー」
「お、ありがとう」
青髪ピアスは会話が中断されたことに内心ホッとする。
お茶をすすりながら、佐天の方を見ていると険しい顔でまだどこかで会ったのかを考えているようだった。
結局、佐天たちには言うのを止め適当にはぐらかす。
お茶も飲み干しだいぶ落ち着いたところで青髪ピアスはそろそろ出ていこうとしていた。
「そんじゃあ、そろそろ…」
椅子から立ち上がろうとした時、外からバタバタと走っているような、いくつかの足音が青髪ピアスの耳に届いた。
だが、それには気に留めず早くここを出ようとしていた。
「今日はありがとう」
そう言い終わるくらいに、177支部のドアが勢いよく開けられた。
姿を現したのはアンチスキルで、本物かゴム銃のようなものかどうかは分からないが、サブマシンガンのような物を持っていた。
「そこから一歩も動くな!」
アンチスキルの一人が大声で怒鳴る。
初春は後ろへ下がり、佐天は驚きの表情を隠せないでその場に突っ立っていた。
このままでは捕まってしまうと思った青髪ピアスは咄嗟にもう一つ奥の方にあった部屋へと急いで駆け込む。
(さっきの足音はアンチスキルやったんか…!)
(なんでや…)
考えながら、部屋の中にあった戸棚やソファーをドアの前に移動させ、少しでも開かないようにした。
(こんな時に能力が使えたら…)
青髪ピアスはここからどうやって逃げるか考える。
最悪、窓から飛び降りようとも考えたが、窓を空けて下を覗くと、既にアンチスキルに取り囲まれていた。
もう逃げ道がない。その場に膝を着き頭のを抱え込んで絶望していた。
部屋の外では佐天が叫んでいる。
青髪ピアスにもその声は聞こえていた。
「なんでアンチスキルが来てるの!?この人は悪い人じゃない!私にはわかるんです!」
アンチスキルの一人に飛び付き、その動きを封じようとするが振り飛ばされてそれも無駄に終わる。
「初春もなんか…っ」
振り返り初春を見ると、俯きながら弱々しい声で佐天に言う。
「ごめんなさい佐天さん…さっき写真付きのメールが来てたんです、あの人がやっぱりそうだって…」
「初春!あんたが…」
「佐天さんがあの人を何で庇うのかわかりませんけど、仕方ないじゃないですか!私はこの街の治安を守るジャジメントなんです!」
初春は目に涙を浮かべながら佐天に叫ぶ。
「初春…」
その間もアンチスキルは青髪ピアスが逃げ込んだ部屋をなんとしても開けようとしていた。
さっきの初春の言葉を聞いて佐天はうつむき何かを考えていた。
なんで私、あの人のこと必死に庇ってるんだろう?
なんであの人と会ったような気がするのかな?
なんで?
なんであの人を見ると……っ!
「せん…ぱい…?」
何かに気付いたように青髪ピアスの逃げ込んだ部屋へ向かい、アンチスキルをどかそうとするが、両脇を持たれ逆にどかされそうになる。
それに必死に抵抗に佐天は青髪ピアスに聞こえるように叫ぶ。
「先輩!先輩ですよね?」
ドアの向こうで床に膝を着いて頭を抱え込んでる青髪ピアスは目の色を変え、顔を上げた。
(その呼び方…)
「私、先輩の事しってます!あの公園で出会った事も、一緒に遊んだことも、遊園地に行ったことも!」
(なんで…)
「あの公園のベンチで座りながら二人で夜まで喋ってたことも!その時に先輩に言われた言葉も!」
青髪ピアスは立ち上がり、戸棚やソファーで塞がれたドアに近づき壁の方をを向いて叫んだ。
「涙子!」
佐天はアンチスキルに邪魔されながらも、必死に抵抗し青髪ピアスに応える。
「先輩は私と約束してくれましたよね?次は絶対に幸せにするって!それまで待っててって!」
佐天はあの時の事を体験していないのに、あの時の記憶がある。
体験をしていないのになぜ覚えているのか青髪ピアスは疑問ではあったが
(そんな事はどうでもええねん!)
「ごめん涙子…何回も何回も約束破って…!でも!でも次は絶対に幸せにする!涙子の未来を…」
青髪ピアスはどこか悲しそうな顔をしていた。
「絶対ですよ!約束ですからね!」
その言葉を最後に佐天はアンチスキルにどかされ、奥へ連れて行かれた。
(涙子…)
佐天がどかされたことにより、アンチスキルはさっきより強くドアを開けようとしている。
青髪ピアスからはわからないが、何か機械を用いてドアを開けようとしているようで、ドアが微かに開きだした。
その事には構わず青髪ピアスは目を瞑り集中する。今まで使えなくなっていた能力をもう一度だけ使ってあの時へ戻れるように。
「もう一度戻れたら…今度は絶対に涙子の未来を…」
頭の中が焼けるように痛むが、気に留めず能力を使おうとする。
苦しそうな表情を見せるが、なにがなんでももう一度戻る為にはかまっていられない。
アンチスキルがドアを開けようとする音がどんどん小さくなっていく。
その瞬間に、青髪ピアスはこれまでの事が走馬灯のように鮮明に蘇る。
アレイスターに見つかり、友人であった土御門に追われ、上条のおかげで初めて佐天に出会い、
その場にいた6人で一緒に遊んだり、みんなで遊園地に行くつもりが4人になってしまったり、その時にグループに捕まえられたり。
次に過去に戻った時はアレイスターに見つからないようにしたハズなのに、見つかってしまったり。
佐天と出会った公園のベンチに座り夜まで二人で喋り、その時に自分の気持ちを佐天に伝えたことも。その後にまた襲われた事も…。
アンチスキルがドアを開けようとする音が更に小さくなっていき、次第に聞こえなくなった。
青髪ピアスが目を開けてみたが、視界がぼやけ頭が痛み意識が朦朧とする。
さっきまでうるさかったのが完全に静まっている。どうやら時空移動を成功させたようだ。
そのまま床へ寝転がり、痛みが退くのを待つ。
頭痛はまだ治まらないが、やがて視界も定まってきて意識がはっきりとしてきた。
ちゃんと戻ってこれたのか、カレンダーを見て確認する。
1年前の12月。
青髪ピアスが学園都市へ行こうと思いだした時期。
ここは学園都市で下宿先にしていたパン屋ではなく、学園都市の外にある実家の自分の部屋。
青髪ピアスは学園都市に来た頃へ戻ったのではなく、学園都市へ行こうと思った頃へ戻ったのだ。
平々凡々と過ごしたくて、アレイスターやグループに追われる日々ではなく、佐天と笑って過ごせる日々にしようと何度も過去へ戻ったが、何度戻っても上手くいかない。
何度やり直しても、佐天を傷つけてしまう。さっきもそうだった。
そうやって何度もやり直して思った。学園都市へ行かなければ、佐天と出会わなければ、少なくとも佐天の未来は幸せになると保証できる。
青髪ピアスはちゃんと佐天との約束を守った。こういう形ではあれど、これで佐天は幸せに過ごせるのだから。
青髪ピアス自身も学園都市へ行かなければ、アレイスターに目を付けられることはないだろうと思ったのだろう。
青髪ピアスはベッドへ横たわりしばらく目を瞑った。
「こうするしかなかったんや…」
一粒の涙が頬を伝った。
あれから10年ほどの月日が流れた。
青髪ピアスはあれ以来、能力が使えなくなっていた、というよりは能力を使っていなかった。
学園都市の外の世界で高校、大学を過ごし、今ではとある会社の平凡なサラリーマンをやっていた。
ある日の朝、目が覚めてもまだしばらくは頭がボーッとしているからと、テレビを付けてベッドに座りながら、頭が冴えるのを待つ。
テレビからは毎朝見ているニュース番組の女子アナウンサーの声が聞こえる。
「続いてのニュースです。
学園都市で育った子供たちが、外の世界で活躍するようになって数年が経ち…」
青髪ピアスは「学園都市」という単語を聞いて何かを思い出す。
「学園都市…かぁ…」
あれからは何も無く平凡にこれまでを過ごしてきた。
長い年月があの時に自分がとった行動は正しかったんだと思わせていった。
時計を見ると、今から家を出ればギリギリ遅刻にならない時間帯だと気付き、急いで用意をし家を飛び出した。
青髪ピアスは高層ビルが立ち並ぶ街中を歩き、会社へ向かっていた。
「あかん…完全に遅刻や」
もう間に合わないと思い急ぐことを止め、歩きながら上司に言う遅刻の理由を考えていたら、後ろから女性に呼び止められた。
「すいませーん!そこの青い髪の人!財布落としましたよー」
「あーありがとうございます。」
女性の手に持っている財布を受け取り、拾ってくれた女性の顔を見る。
その女性は青髪ピアスがどうしても幸せにしたかった人だった。
(っ…!涙子!)
ここで青髪ピアスが今朝ニュースで女子アナウンサーが言っていた事を思い出した。
『学園都市で育った子供たちが、外の世界で活躍するようになって…』
(そうや、涙子も外の世界に出てきたんか…綺麗になったなぁ)
「あの、大丈夫ですか?ボーっとしてますけど」
「あ、あぁ 大丈夫やで、ありがとう」
青髪ピアスはここで佐天に声をかけそうになったが、グッと我慢する。
自分と関わりをもってしまった為に、彼女を何度も何度も傷付けてしまったこを思い出した。
ここで再び関わりを持つと、またあの時のような事が起こってしまうかもしれない。
佐天の幸せを願うなら、佐天との約束を守るなら、こうするのが一番なんだ。
青髪ピアスは振り返り、会社へ向かう。
最後に小さい声で呟いた。
「涙子、幸せになってや…」
-完-
以上で終わりです。
ある映画を見て、こういうSSが書きたくなって、勢いで書き始めたので、設定が甘いところや誤字脱字、また文章も稚拙な部分が多かったでしょうが、今まで読んでくれてありがとうございました。
シナリオというか、終わり方もその映画と似てしまったけど、そこはスルーでお願いします。
ハッピーエンドも考えてみたんですけど、時間があって読んでくれる人がいたら投下しようかなとも思ったんですが、そうすると雰囲気が壊れる気がするので止めておきます。
それでは改めて、ありがとうございました。
よければ感想とか聞かせてほしいです。
元スレ
とあるビルに土御門、結標、海原、一方通行は集まっている。
「今回はあのアレイスター直々の命令だ。この男を捕まえるぜい」
「なンだァ?たかが一般人捕まえるだけに俺たちが動くンかよ」
「この男は時空移動とかいうレアな能力を持った男だ」
「時空移動ですか、そんな能力がまさか存在するとは思いもしませんでしたね」
先日、アレイスターの所へ土御門を運んだ結標は少しだけ気にしている事があった。
「でもこの男、アンタの友達なんでしょ?ヘマしないでよね」
「その点は大丈夫だ。逆にそれを利用してアイツを廃虚ビルに呼び寄せるから傷一つつけずに回収してくれ」
「簡単な仕事だなァオイ」
「それじゃあ行くぞ…」
3: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:07:46.94 ID:4viTQFQ0
「なんや土御門の奴、こんなとこに呼び寄せよって、まさか愛の告白かいな!?」
青髪ピアスのエセ関西弁で話す男は廃虚となったビルに到着したところだ。
「僕は女の子以外には興味ないでぇ~」
「なにボソボソ言ってンだァ?」
「うぉ!なんや君、いきなり後ろから現れて…ビックリするやん」
「悪いにゃー青ピ」
暗闇となった場所から土御門が姿を現す。
「そんな所におったんかい。で、用ってなんやぁ?」
「お前を確保する」
「はぁ?何言ってんねん」
「そンじゃまァ大人しくしてくれよォ殺さねェから」
「土御門!冗談にしたらタチ悪でぇ」
半ば冗談と思いつつも青髪ピアスの顔には恐怖と焦りが見えてきた。
4: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:08:21.93 ID:4viTQFQ0
「悪いな青ピ、これが俺の仕事なんだぜい」
そういうと青髪ピアスの両腕を後ろで縛り、両足も縛っておく。
「変な真似でもしたらこいつを撃つぜい」
土御門の手には拳銃が握られ青髪ピアスの方へ向いている。
「なんの冗談なんや!?ふざけんなよ!」
「
冗談じゃないぜい」
天井に向けて一発撃つが、ここは廃虚のビルだから外に音は漏れず気にすることはない。
「ほ、ほんものかいな…」
「じゃあ行くか、任務完了だにゃー」
その時だった。確かに手足を縛り目の前にいたはずの青髪ピアスが音もなく一瞬にして土御門の後ろに移動した。
「なんや冗談でも怖いから逃げさせてもらうでぇ」
「おィありゃただの瞬間移動なンじゃねェのか?」
「そんな事はどうでもいいぜい。おい!結標、海原!追いかけろ!」
5: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:09:09.09 ID:4viTQFQ0
万が一逃げられた時の為に隠れていた結標と海原が物陰から飛び出した。
「やっぱアイツはヘマしたじゃないの!」
「それより早く追いかけましょう。瞬間移動されては厄介です」
「座標移動であいつを目の前に飛ばすから!」
「それが手っ取り早いですね」
二人とも青髪ピアスを追いかけ、狭い路地を走りながら会話している。
結標の能力はかなりの集中力を使うが、自分を移動さす以外ならこの程度は容易いことだろう。
「さぁ、こっちへ来なさ………!?な、なんで座標移動が効かないの!?」
「恐らくですが、一度あなたの能力によって捕まった未来から時間移動により捕まる直前に戻り、空間移動によってあたかも瞬間移動しているように見せているのでしょう。」
「それだったら土御門にココへ呼び出される前に戻ったらいいでしょう?」
「ですから彼は、遊んでいるのでしょう」
「はぁ…ふざけてんじゃないわよ!」
何度も何度も座標移動を試しているが青髪ピアスが捕まることは一度もない。
「もう駄目ね…」
結標が足を止めて諦めたその瞬間に青髪ピアスは彼らの前から完全に姿を消した。
海原も走るのを止めて携帯電話で土御門に報告をする。
「すみません。駄目でした…逃げられました。」
「はぁ…仕方ないぜい、解散だにゃー」
電話越しの土御門の声はどこか安堵したような声だった。
6: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 12:10:12.96 ID:4viTQFQ0
もう少しで完全下校時間となる時間に青髪ピアスは地下街を歩いていた。
できるだけ人が多いところへ逃げ、一休みしようと思ったからだ。
「はぁ…カミやんちゃうけど言わせてもらうで…。不幸やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
突然大声をだした事で周りから変な目で見られている。
「これで4回目やなぁ…なんぼ過去に戻っても土御門に呼び出されて同じ展開や…それより、なんで僕の能力がバレたんやろうか…」
ベンチに座りながら頭を抱えて悩む姿は先ほど大声を出して後悔している男のようにも見える。
「とりあえず学園都市に来た時に戻るか…1からやり直しやなぁ」
19: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 18:46:45.13 ID:4viTQFQ0
アレイスター直々に命令を下されたグループから逃れた青髪ピアスは、4月1日へ時空移動し第7学区にある都市内でも低レベルな高校へ再び入学した。
それから何事もなく過ごし、吹寄が完全なる仕切り屋を発揮し、姫神も転入してきた。
ただ、土御門とは前よりは喋ることが少なくなった。
「順調やなぁ、このまま平和になったらええのになぁ…はぁ」
独り言のつもりが上条に聞かれてしましい「何言ってんだ?」と不思議な目を向けられてしまった…が。
「上条ちゃーん?余所見なんてしている暇はありませんよー?最近、休みがちだったので、今日は補習しまーす」
(小萌先生!ナイスタイミングやぁ!!)
「え…?不幸だぁぁぁぁ!おい青ピ!今日はスーパーで卵が特売なんだぞ?どうしてくれるんだ!」
と、わけのわからん事を言い出す上条。
「いやいやカミやん、今のは自分が悪いでぇ?まぁ、暇やし手伝ったってもええけど」
「本当か!助かるぜ青ピ!」
「まぁ小萌先生の補習が受けたいだけやねんけどなぁ」
20: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 18:47:26.78 ID:4viTQFQ0
そんなこんなで平和な日々を堪能し、愛しの小萌先生の補習も終わり、放課後。
「悪いなー今日は特売の卵買ってもらうの手伝ってもらって!」
「あぁ…別に…ええで…」
軽い気持ちで上条に付いて行くと言ったものの、まさかあんな戦争のような事が普通のスーパーで行われているとは知らず、青髪ピアスはもう限界だった。
というわけで疲れ果てた青髪ピアスと上条は、とある公園のベンチで一休みしてた。
「にしてもカミやんはホンマに貧乏やなぁ」
「うるせぇー。ウチには大食いシスターがいてだな…家計は毎日厳しいんですよ…。」
「ん…?シスター? ち、ちょっとまてカミやん!まさかシスターちゃんと同棲してんのか?」
「いや、違う!ただの居候だから!」
またもや上条のフラグ乱立の末、ついには同棲までしているなんて…とずいぶんとショックを受けている青髪ピアス。
「だから、ただの居候だって、なぁ…聞いてるか?」
上条はこっちを向いている青髪ピアスの顔を見たが何とも言い難い険しい顔に疑問を持つ。
「なんて顔してんだ青ピ!」
すると青髪ピアスの見ている方向、上条の後ろにいつの間にか立っている人物に上条は今さら気付いた。
「アンタ、今の話し本当なのかしら?」
ちょーっとだけ鬼の形相をした御坂美琴が額から青い稲妻をパチパチさせながら問いかけてきていた。
「ひっ!いつの間に…!!いや、あのですね…上条さんにも事情がありまして、気付いたら居候してたというか…」
「なんやカミやん!常盤台中学にも手出しとったんかい!」
「常盤台中学にも…?アンタって奴はいったいどれだけの女に手出してんのよ!」
あああああああ とか だああああああ とか叫びながら御坂の電撃を右手で受けているが、なんだがどうちらも嬉しそうだ。
お邪魔だな…と空気を読んで立ち去ろうとした時、また新たな声が飛んできた。
21: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 18:48:27.76 ID:4viTQFQ0
「お・姉・さ・まぁぁぁぁん 類人猿相手ともあれど風紀委員の私がいる目の前で能力を使うのはいかがなものですの…」
ん?
「白井さーん!瞬間移動なんてずるいですよー」
ん?
「ちょっと初春…!ま、待ってよ!」
ん?
次から次へといったいどれほどの女を…? と、もはや関心する青髪ピアスだが、同時にもし「女の子と仲良くなりたい」なんて言ったらぶち殺してやるとも思った。
なにやら上条のお得意のフラグ乱立のせいで騒がしくなってきている。
「ちょっとみんな一回落ち着きいや。どないなってんねん。カミやん!説明しろ!」
御坂の電撃が止んでホッとしたのか、上条が青髪ピアスの横に座り直しだした。
「いや、俺も御坂くらいしかよくわからなくて…、あとの方たちはいったい…?」
「お姉さまの露払いを担当させていただいてます、白井黒子と申しますの」
「私は柵川中学1年の初春飾利です!第177市部の風紀委員です!ちなみに白井さんもですが、今日は二人とも非番だったので遊んでいたらこうなっちゃいました」
「同じく佐天涙子でーっす!ちなみに風紀委員じゃありません」
三人とも次々と自己紹介をしていく中で上条の素晴らしい力に涙する青髪ピアス。
上条と共に行動をしていればきっといいことがあるが、上条がいれば皆そっちへ向かってしまうというサイクルに気づいたのか、ガッカリしている。
「と、言うわけだ、分かったか?青ピ」
「あぁ、今んとこカミジョー属性なんは御坂さんだけみたいやな…それも時間の問題か」
「はぁ?何言ってんだ?」
コソコソ喋る男にしびれをきらしたのか、初春や佐天が この後みんなで遊びませんか と誘ってくれた。
「もちろんやでぇ!なぁカミやん?」
「インデックスには悪いがたまには遊ぶか!」
30: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 21:24:36.61 ID:4viTQFQ0
中高生が遊ぶ場所と言っても限られているし、完全下校時間ももうすぐということで6人はゲームセンターに来ていた。
学園都市は外より科学技術が20年30年離れているというが、それに比べゲームセンターはレトロなものだ。
「ところで、なんて呼べばいいんでしょうか?」
さっきから、佐天やら初春やら御坂からこればからたずねれられるが、青髪ピアスといえば…
「先輩 で頼むわぁ」
「わかりました!先輩!」
(うはぁ…ダメージでかすぎやん…)
「おい青ピ!大丈夫か?」
「なぁカミやん。わからんかなぁ?年下から先輩と呼ばれることの素晴らしさが」
「お前…」
「さぁ!ゲーセンといえばやっぱこれでしょう」
そう言って御坂はプリクラを指差した。
プリクラといえば中は狭く6人ともなればかなり密着するわけだが…。
「アンタ!ちょっとどこ触ってんのよ!」
「仕方ないだろ?狭いんだから」
「とかいいながら嬉しそうなお姉さま…黒子は!黒子は!うぅ…」
「カミやん…やっぱりここでも発揮するんやなぁ」
ハイ、チーズ という機械音の合図で何枚もの写真が撮られているが、やはり上条は撮る度にどこかしら触っているようだ。
31: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 21:25:19.75 ID:4viTQFQ0
忙しくプリクラを撮り終わり、女の子たちはプリクラ機の画面になにやら落書きしている。
そんな中、佐天が青髪ピアスのところへやってきた。
「もう気付いてると思うんですけど…」
「カミやんと御坂さんやんな?」
「さっすが!察しが良いですね!」
あれに気付かないなんて鈍感な上条だけな気もするが…
「ってことは、この後なんかするん?」
「そうですねーもうちょっと遊んで帰る時に二人で帰らせましょう」
上条の為に気を使うのは些か不満がある青髪ピアスだが、上条のおかげで彼女たちと遊ぶ事ができたので良しとしたようだ。
そうこうしているうちにプリクラに落書きが終わり、なんやかんや遊んで次は簡易能力測定をする事になった。
「最近がんばっているんですよ!上がってないかなー」
そう言って頭に花飾りを載せた初春が最初に測定をし始めた。
どういう仕組みなのかはわからないが、機械に手を乗せて演算をするとほんの数秒で能力測定ができるというものらしい。
ピピッという音がなり機械から紙が出てくる
「あーそんな簡単に能力って上がりませんよねー」
「初春さんはどんな能力なん?」
「私の能力は触れている物体の温度を一定に保つことができるんです!」
と、ここで青髪ピアスは自ら地雷を踏んでしまった事に気付いた。
「先輩の能力は何なんですか?」
「えっ…あー僕は無能力者やから、やらんでも大丈夫やわ」
「やってみないとわかりませんよ!」
この空気は断れないと判断したのかしぶしぶ機械に手を当てて判定を始める。
バレないように演算をしないで乗りきろうとした青髪ピアスだが機械が「手を乗せて演算処理をしてください」と言い出して更に逃げ場を無くしてしまった。
32: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 21:26:16.27 ID:4viTQFQ0
「初春!あんまり強要するのはよくないよ!私も無能力者だから分かるもん…あんまりやりたくないよ…」
無能力者の佐天のおかげでなんとか助かり、心の中で感謝せざるを得ない青髪ピアスであった。
「そうですのよ初春 こんな機械なんかに頼るもんじゃありませんの」
「そうですよね…ごめんなさい」
「ええってええって!あんま気にしたらあかんで」
そろそろ完全下校に近づいきたのと、若干空気が悪くなってしまったのもあり、今日は解散することとなった。
その時、青髪ピアスは見逃さなかった、初春と佐天がこちらをすごく睨み付けて合図を送るのを。
先手を切ったのは初春飾利。
「あっ!白井さん!明日、風紀委員の本部に提出する書類をまだ完成させてませんでした!助けてください!」
「そんなものあったんですの…?」
「いいから来てください!私一人じゃどうにもなりません…!」
「仕方ないですわね…それでは皆様、さようなら。」
一番の問題である白井をあっさりと連れ出すことに成功した初春は、白井と共に177支部へと走り出していった。
次は青髪ピアスの番だ。
「もう遅いし、女の子は男が送るもんやなぁ 僕は佐天さんを送るから、カミやんは御坂さん頼むでぇ 襲ったりすんなよ!」
「なっ!そんなことするわけねぇだろ?」
「っ!…私レベル5だし大丈夫よ!こんな奴いなくても!」
鈍感な上条の言葉に少しイラっとしている様子の御坂を見て佐天と青髪ピアスは上条の事を少しだけ心配した。
帰りに電撃を浴びせられなければいいが…。
「あかんで御坂さん。男の優しさは受け取っとくもんやでぇ。じゃあ行こか佐天さん」
「はい!」
無事?に成功したようでちょっとホッとする青髪ピアスと佐天
上条と御坂にお別れをし二人は帰っていく。
33: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/16(日) 21:26:46.49 ID:4viTQFQ0
「あの二人、大丈夫ですかね?」
「まぁなんとかなるんちゃうかな?あとは二人の問題やし」
「そうですよねー」
「ところで、佐天さんは帰り道どっちなん?」
「あっ!私はもうこの辺で大丈夫ですから!」
「ええってええって、女の子一人で帰らすわけにはいかんからなぁ」
「本当に大丈夫ですよ!先輩っ!」
不覚にもこの佐天の笑顔と「先輩っ!」という言葉に青髪ピアスの鼓動は高鳴っていた。
「それではさようならー!」
元気よく走り出していく佐天の後ろ姿が見えなくなるまで見送ろうとしていたが、そのおかげで佐天がこっちへ振り返ることに気が付いた。
「せんぱーい!私のこと!これからは 涙子 って呼んでくださーい!」
遠くから精一杯叫ぶ佐天の姿を見て青髪ピアスの心は完全に佐天に捕まれていた。
「なんやあの子!可愛えええええええ! 『これからは』ってまた遊ぼうってことやん! さすがカミやんや…」
そんな事を考えている間にいつの間にか下宿先のパン屋にたどり着き、心此所に有らずな状態で眠りにていた青髪ピアスであった。
「あーこのまま時が過ぎていけばええのに…」
44: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:07:41.50 ID:XgbhuSg0
翌日、人生で一番と言ってもいいくらいに目覚めが良い朝だった。
青髪ピアスはニヤニヤした顔のまま学校へ行き、ニヤニヤしたままクラスへ入り、ニヤニヤしたまま席へ座った。
途中、行き交う人が変な目で見てきた事も気付かないくらいに。
そして、友人の土御門も所属している暗部組織のグループに追われていた未来があったことも、頭の片隅へ追いやられていた。
「カミやん!昨日はどうやったんや?ちゃんと御坂さん寮まで送ったんか?」
ニヤニヤしたまま上条に聞く青髪ピアスははっきり言ってキモイ…だろう。
「あぁ…昨日はなんとか寮まで送った。生きているのが不思議だ」
「…そ、そうか、お疲れやなぁカミやん」
「はーいそこお喋りしていたらまた補習にしますよー!上条ちゃんは馬鹿なので今日も補習でーす」
(今日ばっかりは小萌先生が鬼に見えるわ…どんまい、カミやん)
「おい、青ピ!てめえも一緒に補習受けろ!」
「上条ちゃーんうるさいですよぉ 何言ってるか知りませんが、もちろん補習は二人で受けてもらいますからねー」
「えぇっ なんやて小萌先生!えー…不幸や…」
「ざまぁ見ろ青ピ!」
そして今日も何事もなく授業を終え、小萌先生の補習も終え放課後になり、今日も上条と青髪ピアスは一緒に帰っていた。
「涙子ちゃんに会わんかなぁ…昨日アドレス聞いたら良かった…」
「えっ?お前、涙子ちゃんなんて呼ぶ関係になったの?」
「昨日、涙子ちゃんからそう呼んでくれって言われたんやぁ」
「それで今朝はずっとニヤニヤしていたのか…」
などと二人で会話していると、ばったり佐天と初春が一緒に帰っている所に出くわした。
45: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:08:10.85 ID:XgbhuSg0
「噂をすればなんとやらやなぁ!カミやん!」
「そう…だな」
「涙子ちゃぁーん!」
こっちに向かって手を振る佐天を見て青髪ピアスはまたニヤニヤしだしている。
「あっ!青ピ先輩と上条さんじゃないですか!昨日はありがとうございました」
「さ、佐天さん!どういうことですか?」
どうやら初春も青髪ピアスと佐天の関係が昨日よりちょっと親密になっていることに気付いた。
「どういう事もなにもこういうことだよ?」
「ず、ずるいですよ!」
「なになに?大好きな私が男の人と仲良くなって嫉妬してんのかなー?」
「ち、違います!」
昨日に続き今日も彼女たち(主に佐天に)出会えた事に、青髪ピアスは上条の性格もなかなか悪くないと感じている。
「昨日はちゃんと帰れたんか?」
「もちろんですよ!」
「そういや二人ともアドレス教えてや」
「あー昨日忘れてましたね、はいこれですよっと」
携帯電話の赤外線機能で一瞬にして二人の連絡先を手に入れた青髪ピアスは。やっぱり上条の性格に感謝していた。
「あ、俺もいいかな?」
…感謝した瞬間にやっぱり止めた。
46: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:08:41.13 ID:XgbhuSg0
「カミやん!お前はまた女の子に手出すんか!」
「そんなんじゃねぇって、何となくだよ」
「御坂さんに悪いんで私たちはまた今度にします!」
「なっ…!不幸だ…ってか何で御坂が…?」
このやり取りを見て青髪ピアスは再び上条に感謝をせざるを得ない。
あの二人には対カミジョー属性があるようで、安堵の表情が思いっきり顔に出ている。
「なぁ…今度の休みの日にまたみんなで遊ばへん?」
「あーいいですね!それ」
佐天がノリノリに対して初春はなんとなくだが、呆れたような哀しいような顔をしている。
「佐天さん!今日は二人で用事があるんですからね!」
「もー嫉妬しちゃって初春は可愛いなぁ」
「ち、違います!」
「…って事なんで今日はこれで失礼します!」
「じゃあまた連絡するわぁ」
佐天と初春と別れたあと上条と青髪ピアスは、また昨日の公園のベンチに座って世間話や彼女たちにの事を話していた。
「涙子ちゃんほんま可愛いわぁ」
「お前…さっきからそればっかだな…」
「カミやんには分からんかなぁ、あの可愛らしさが」
昨日の公園でこういった話をしていた。昨日の公園でだ。いつも御坂が見事な蹴りで自販機からタダで缶ジュースを手に入れてる公園で。そして今日も…
47: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:09:08.27 ID:XgbhuSg0
「セイャァァァァ」
やっぱり見事な蹴りで缶ジュースを手に入れていた。
「いちごおでんか…ハズレだなぁ」
「!!ビリビリ!またやってんのかよ!」
「あ、アンタ!…とそれから先輩じゃないですか」
「あぁ!そうや御坂さん!今度の休日にまたみんなで遊ぼうと思うんやけど来るやろ?」
「佐天さんや初春さんも行くんですか?」
「来るでぇ、それからカミやんも」
ニヤニヤしながら青髪ピアスは上条も来ることを御坂に伝える。
「そ、それじゃあ行こうかな…」
「じゃあカミやんに連絡先教えといてなぁ、僕はこれからバイトやから!」
「おい青ピ!ちょっと待てよ!」
青髪ピアスなりに気を使ったつもりなのだろう。
この後二人は確実に気まずくなるだろうが、鈍感な上条ならこれくらいが丁度いいかもしれない。
この後、上条と御坂がどんなやりとりをしていたのかはご想像通りである。
あれから何回か青髪ピアスと佐天はメールをしたり、帰り道でばったり会ったりとそれなりに仲を深めていった。
48: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:09:34.44 ID:XgbhuSg0
そんなこんなで雲一つない晴れ晴れした休日。
今日は以前から約束していた学園都市でも人気が高い遊園地へ行くことになった。
青髪ピアスは集合場所である駅に1時間も前に到着し待っていた。
どうせいつもの事なら遅刻確実な上条に電話をすると案の定今起きたとこだと言う。
「カミやん…大丈夫か?でも最近はカミやんのおかげで毎日が楽しいからなぁ」
などと思っていると30分もしないうちに佐天がやってきた。
「おぉ涙子ちゃん、おはよう!えらい早いなぁ」
「そういう先輩だって何分前から来てたんですか?」
「え?あぁ…さっき来たとこやで?」
「一時間前から来てたじゃないですかー私ずっと見てたんで!」
「なっ!見とったんやったらはよ来てやぁ めっちゃ暇やってんから」
朝から二人の笑い声が響き実に微笑ましい光である
「初春なんですけど、今日は風紀委員の仕事で来れなくなっちゃったみたいです」
「そうか、残念やなぁ」
「それから白井さんもなんで、今日はダブルデートです!」
「なん・・やとッ!?」
この時、青髪ピアスの心の中は地に足がついてないくらいに浮かれていたことだろう。
素晴らしき上条の力、いったい何度感謝すればいいことやら…。
「そうかそうか、じゃあ途中で別行動やなぁ」
「そうですねー御坂さんもなかなか素直になれないからなぁ」
青髪ピアスは平然を装いながらも有りがちな展開がまさか本当に起きて、多少テンパっているところでやっと御坂がやってきた。
内心助かったと思う青髪ピアス。
49: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:10:01.48 ID:XgbhuSg0
「ごめーん遅くなっちゃった!」
「遅いですよ御坂さん!」
「それから黒子が風紀委員で来れなくなっちゃって…」
「初春から聞いたんで知ってますよー。初春も来れないんで今日はダブルデートです!」
「ええっ!あいつとデート…あいつと二人で遊園地…」
見る見るうちに御坂の顔が真っ赤になっていく。なんとも分かりやすい女の子だろうか…。
それからちょっとして遅刻ギリギリのところで上条がやって来た。
「アンタ遅いのよ!」
「悪ぃ悪ぃ…」
「やっとそろったし、ほな行こか」
「あれ?初春さんと白井は?」
「今日はダブルデートですよ、上条さん」
佐天の言葉がいまいち理解力できないのか、ダブルデートの意味が分かってないのか、
上条は「へぇ~そうなのか」と適当に返事をしたところで、四人は遊園地へと向かった。
50: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:10:28.09 ID:XgbhuSg0
上条はやはり行きの電車の中でも、電車の揺れで転けそうになり、OL風なお姉さんの胸に顔を埋めたり、その度に御坂が電撃を放ちそうになるのを青髪ピアスと佐天が必死でなだめたり、やっとの思いで遊園地へたどり着いた。
「ふぅ…やっと着いたでぇ」
青髪ピアスは一息休憩をしていきたいところだったがそんなことはお構い無しに女の子二人ははしゃいでいる。
「まずはあれ乗りましょう!」
佐天が指差した最初の乗り物は遊園地内でも一番人気の世界一を誇るジェットコースターだった。
上条と青髪ピアスは口を揃えて言った…
「ほんまかいな…」
「マジでか…」
「さぁ!行きますよ!」
さすがに世界一を誇るだけあって、乗り気だった佐天と御坂も乗り終わった後はちょっとだけ疲れている様子だった。
「ちょっと休憩にせん?」
「いや、まだまだですよ!ねぇ御坂さん?」
「え?あぁ…そうね!まだまだこんなもんじゃないわよ!」
その後も絶叫系のアトラクションのオンパレードで、さすがに佐天と御坂もぐったりしていた。
「時間も時間なんでお昼にしませんか?」
「やっと休憩できるわぁ…カミやん大丈夫か?」
「…」
返事はなく、以外にも上条は絶対系は苦手だったらしい
51: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:10:59.12 ID:XgbhuSg0
昼食も取り、休憩を挟んだところで青髪ピアスは「午後は別行動にしよか!」と提案し、最初から話し合っていた佐天と共に無理矢理に上条と御坂ペアを作り上げた。
ということでさっそく別行動を開始した。
「こういう非日常的な空間では男女はぐっと距離が縮まりますからねー」
「ってこては僕らの距離も縮まるんかなぁ?」
「えっ…そりゃ、そう…じゃないですか?」
佐天は自分で言っておきながら、自分たちもそういう立場だと言うことに気付いていなかったようで、顔を赤らめている。
「遊園地っていったらまずはお化け屋敷やな!ここのは怖いらしいで?」
「へ、変なことしないでくださいよ?」
「大丈夫やって!怖かったら手繋ごうか?」
「中に入ってから決めます!」
自分たちもそういう立場というのを意識しだしたのか、佐天はどこか緊張した面持ちでお化け屋敷へと入っていく。
気付くと佐天は手を繋ぐどころか、青髪ピアスの腕をガッチリ掴んでいた。
「なんやぁ、やっぱり怖いんやんか」
「さっきから誰かに見られてる気がするんですよね…」
「そりゃお化け屋敷やからなぁ」
キャァキャァ叫びながら、お化け屋敷も中盤に差し掛かったころ、事件は起きた。
「先輩、お化け屋敷って確かお客さんに触れたら駄目でしたよね?」
「確かそんなルールあったなぁ」
「さっきから誰かに引っ張られ…!!」
途中で言いかけたところで何者かによって佐天は暗闇へと引っ張られていった。叫び声も出す間もなく…
「涙子ちゃん?ふざけたらあかんでぇ」
「ふざけてなンかねぇよ」
背後から聞き覚えのある声をした男が青髪ピアスの身体を拘束している。
恐らく、白い髪をして真っ赤な目をしたレベル5の第1位、一方通行だ。
52: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:11:41.15 ID:XgbhuSg0
「やーっと見つけたぜェ 暗いから見えねェンだよなァ」
「悪いにゃー青ピ」
「つちみか…っ」
言いかけたところで、催眠効果のある薬品を嗅がされ、時空移動の能力を使う前に眠らされてしまった。
暗部組織のグループが再び青髪ピアスを襲う…。
青髪ピアスが目を冷ますと、そこは窓もドアもないビルの中だった。
青髪ピアスの目の前には逆さまに浮いている、男とも女とも、聖人とも囚人とも見える人物がいた。
「なんやお前!涙子ちゃんはどないしたんや!」
「悪いな、青ピ。此所に連れてきたのは俺だ。」
青髪ピアスの後ろには土御門元春が青髪ピアスを見下すように立っていた。
と言ってもサングラスをしているのでよくは分からないが。
「土御門…君」
「クラスメートであるお前を拘束するのは心が痛むが、お前の能力は希少価値が高くてな、お前と引き替えに俺たちはこのどん底の世界から抜け出し表の世界で自由になれるんだ」
かつて上条と共に三馬鹿トリオと言われ、馬鹿な事をしあった青髪ピアスの一番の友達、土御門元春は完全に仕事を行う時の一切ふざけてはいない口調でそう言った。
だが、青髪ピアスは一度だけ時空移動の能力を使い4月1日に戻り、完全に1からやり直し、今回は少し距離を置いたおかげでそういった記憶は土御門にはない。
「お前が暴れた時の為に、身体に電流を流し能力を使う際にまともに演算処理ができないようにした。お前はもう逃げれない」
「なんで僕が時空移動の能力を持ってるって分かったんや…?」
「学園都市の科学技術をなめるなよ」
「あぁ、どっかから監視されとったんかぁ?…あん時にちょっと怪しい動きしただけでバレたんか」
「どの時かは知らんが、俺はこれで自由だ。アレイスター、もう帰っていいか?」
「ちょっと待てぇ土御門ぉ!!」
青髪ピアスが珍しく本気でキレた。
53: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:12:08.02 ID:XgbhuSg0
「涙子ちゃんはどないしたんや!」
「佐天涙子のことか、あいつならここにいる」
土御門が何かのスイッチを押すと巨大なスクリーンには、他のグループのメンバーによって手足を縛られ、目隠しをされ監禁されている佐天の姿が写し出された。
「涙子ちゃん!!」
「無駄だ、お前の声は届かん」
「土御門ぉぉぉぉぉぉぉ!」
「暴れるなと言っただろう」
その途端、青髪ピアスの身体に電流が流れ、身動きが取れなくなる。
「ぐあああっ!あそこに行けたら…!せめて涙子ちゃんに一言言うんや…!」
「暴れるとお前が苦しむだけだ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」
青髪ピアスの苦しむ雄叫びだけが、窓もドアもないビルに響き渡る
「諦めろ!」
「諦めへん!僕は涙子ちゃんを救うんやぁぁぁぁぁぁ」
そう叫んだ瞬間、身体に電流が流れまともな演算処理ができないはいずの青髪ピアスがその場から消えた。
「あいつッ!」
その光景を見ながらアレイスターは一言も喋らず、ただ薄ら笑いをするだけだった。
彼にしたら、これさえも計画の一部に組み込んでしまうのだろう。
54: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 09:12:35.83 ID:XgbhuSg0
青髪ピアスが目を開けると、目の前には佐天涙子の姿があった。
「先輩…ですか?」
「そうや!涙子ちゃん!僕は君を救う為に!君に言いたかった事があるんや!」
突然現れた青髪ピアスに一方通行たちは青髪ピアスを取り押さえようとする。
「おィ どォなってンですかァ?」
そんな事はお構い無しに青髪ピアスは佐天涙子に言う。
「次は絶対に君を幸せにする!僕は君を幸せにするためやったらなんぼでも過去に戻って幸せにする!」
「何を…言ってるんですか?」
「次にまた僕と出会えたら、僕と付き合ってくれへんかな?」
「…もちろんですよ」
「そうか…ありがとう。涙子ちゃん。僕は涙子ちゃんがめっちゃ好きやねん
だから次は、絶対に幸せにするから待っててや!」
「はい!ずっと待ってますから!だから絶対来てくださいよ!」
「約束やで…」
そう言い終わると同時に青髪ピアスの身体はその場から消えた。
「ねぇ、海原 前にもこんなことなかった?」
「奇遇ですね、僕も何か以前にもこんなことがあった気がしています」
窓もドアもないビルにいるアレイスターは、この様子を見ながら何か分かったかかの様に笑みを浮かべていた。
67: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 23:01:54.94 ID:XgbhuSg0
青髪ピアスは下宿先のパン屋の自室のベッドに横になってた。
無我夢中で時空移動をした為に、今がいったいいつなのかさっぱりわからない。
それよりも先ほどの出来事を考えていた。自分ではどうしようもなく、結局は過去に戻るしか方法は無かった。
あの未来では、佐天は一体どうなってしまうのか…考えると、酷く自己嫌悪に陥り同時に後悔の念が押し寄せてくる。
「とりあえず4月1日に行くしかないな…」
佐天との約束を果たすため、自分のせいで巻き込まれてしまった佐天の未来を守るのと同時に、彼女には幸せになってもらうために。
今回は絶対にバレることのないように、上条以外とはほとんど話すこと無く日々を暮らしていた。
上条と関係を持っていなければ、佐天と出会うことは難しいだろうと判断したのだろう。
柵川中学へ行き佐天に話しかけることもできたが、確実に怪しまれることになるので、その時が来るまで青髪ピアスは可能な限り目立たなくしていた。
恐らく奴らはずっと学園都市中を監視し、青髪ピアス以外でも少しでも怪しい動きをする人物がいれば能力者なり使ってその人物を調べることは容易いだろう。
これまでと同じように、吹寄が仕切り屋を発揮し、姫神が転入してきた。
そして三度目の0930事件。この不可思議な現象もアレイスターが絡んでいるのだろうか…
青髪ピアスはそんな事を考えていた。
毎度の事ながらほんの数日で復旧作業も完了し、生徒達は普通の生活を送っていた。
ここ数ヶ月の間、青髪ピアスは佐天のことばかり考えていた。特に先日の事件で佐天が無事であることを願うばかりだ。
68: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 23:02:37.10 ID:XgbhuSg0
時期的にそろそろ上条と一緒に小萌先生の補習を受け、スーパーで卵を買い、あの公園のベンチに座っていれば佐天に出会えるだろう。
しかし、前回はふとした独り言を上条に聞かれて、変な顔をされたおかげで小萌先生の補習に引っかかった。
あの出来事のちょっとした怪しささえもアレイスターは目を付け青髪ピアスの能力に気づいたのだろう。
だから今回は青髪ピアスから上条にネタをふった。要は上条と一緒にあの公園のベンチに座っていればいいのだから。
「なぁカミやん 今日スーパーで卵が安売りしてんの知ってた?」
「この上条さんを誰だと思ってんだ?そんなこと当たり前だ」
「じゃあ今日一緒に行かへん?」
「お前も卵狙ってんのか?まぁいいけど」
(ここで小萌先生が注意してきたらタイミング的にはバッチリやねんけどなぁ…)
青髪ピアスは小萌先生の方を見るとこちらを笑顔で見ていた。しかし、目は笑っていないが…。
「上条ちゃんと青髪ちゃんは何を話しているんですかー?そんなんだと今日は補習にしちゃいますよ?」
(予定通りや!)
以前と方法は違えど大まかな流れはだいたい同じだ。
この調子で行けば佐天に会えるのではないだろうか?と青髪ピアスは心を踊らせる。
「小萌先生の補習やったら喜んで受けますよ、なっ?カミやん!」
「えぇぇ?そんな…不幸だ…」
「それじゃあ二人は放課後残っててくださいねー」
そして二人で小萌先生の補習を受け、スーパーという名の戦場に卵を買いに行く。
二度目のスーパーもやはり激戦だったらしく、疲れはてた二人は例の公園のベンチで休憩をしていた。
69: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 23:03:25.24 ID:XgbhuSg0
(そういや、前はカミやんがシスターと同棲してるとかいう話しに御坂さんが食いついてきてんやったなぁ…
まぁでも御坂さんの事やったらカミやんが居ったら話しかけてきそうやなぁ)
数分後、遠くから常磐台中学の制服を着た少女がこちらへ歩いてきているのが青髪ピアスの目に入った。
(あれは…御坂さん!来た!来たでぇ!)
「なぁカミやん?あの常磐台の子可愛くない?」
「あのなぁ…そんな事言ったって常磐台のお嬢様が俺たちに見向きするわけ……ってビリビリかよっ!」
上条の「ビリビリかよっ!」と言った声が御坂に届いたのか、御坂がこちらへ走ってきた。額から青い稲妻を飛ばしながら。
「だーれがビリビリですってぇえ?」
「やべっ逃げるぞ青ピ」
「ちょっと待て!カミやん知り合いか?」
(ここはなんとしても引き留めなあかん!)
そこで青髪ピアスが取った行動はと言うと…。
「カミやん!僕は雷が苦手なんや!」
と叫びながら上条の腰にギュッとしがみつくなんとも情けない行動だった。
(御坂さんが電撃を放ち、それにより風紀委員の白井さんが来るはずや!)
「ぎゃあああああ 青ピ!離せ!死ぬ!絶対死ぬ!」
とか言いながらも上条はちゃっかり右手で御坂の電撃を打ち消している。
「なんでアンタには私の攻撃が効かないのよ!」
御坂がさらにもう一発上条へ向けて電撃を放ったその時だった。
70: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/17(月) 23:03:52.40 ID:XgbhuSg0
「あらあらまぁまぁお姉さまったら!遠くから何者かが能力を使って暴れていると思ったら、殿方と密会してましたの?」
瞬間移動の能力者である白井が一番最初に来た。
その後ろから二人とも同じ制服を着た少女たちが走って来ている。
間違いない、あれは…
「白井さーん!早すぎですよ!」
「やっぱレベル4の能力者はすごいなー」
間違いない、初春飾利と…青髪ピアスが「君を幸せにする為なら何度でも過去へ戻る」と約束をした相手、佐天涙子だ。
(あぁ…涙子ちゃん…)
数ヶ月ぶりに再び青髪ピアスと佐天涙子は出会うことができた。
だがそれは青髪ピアスからしたら数ヶ月ぶりであって、佐天涙子はこれが青髪ピアスとの初対面である。
遊んだ帰りに送ってもらった記憶も、一緒に笑った記憶も、お化け屋敷で腕を組んだ記憶も、青髪ピアスとの約束も記憶がないし、そういう出来事を体験していない。
だがそれは佐天を傷付けたであろう、グループに監禁された記憶も持ち合わせていないと言うことだ。
そんな事を知ってるはずもないこの場にいる女の子連中は御坂に彼氏がいただのと勝手に盛り上がっている。
「お姉さま!嗚呼お姉さま!黒子に隠して類人猿ごときにとお付き合いをしていたなんて!黒子は!黒子は…!」
「だからー!違うって言ってんでしょ?」
否定しながらも御坂の顔は紅くなっていき、それを見て佐天と初春はニヤニヤしている。
ここで怪しい動きをしても、どこからか監視をしているであろうアレイスターに感づかれると思った青髪ピアスは、気を取り直して話しを進める為にあの時と同じように上条に話しを振る。
「おいカミやん!どないなってんねん!説明しろ!」
「いや、俺も何がなんだか…面識があるのは御坂くらいで…」
といったところで前回と同じように三人が自己紹介をしていく。
そしてあの時と同じように、初春と佐天の誘いによりこの後6人で遊ぶことになった。
88: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:54:16.84 ID:FNCDGUY0
前回はゲームセンターで遊んだ6人だったたが、青髪ピアスはあの簡易能力測定も自分の能力がバレる原因の一つになりえるかもしれないと判断し、今回はボウリングへ行くことにした。
その行き道で、佐天と初春たちに「なんて呼べば良いですか?」と聞かれ、青髪ピアスは「先輩で」とニッコリ笑顔で即答する。
青髪ピアス、佐天、初春チーム 対 上条、御坂、白井チームという青髪ピアスが望んだ通りに別れ
総合スコアが高い方がジュースを奢るという中高生らしい遊びをすることになった。
上条、御坂、白井チームがボウリングに夢中になっているところで、青髪ピアス、佐天、初春は相手チームには聞こえないようになにやらヒソヒソ話を始めだした。
「なぁ、カミやんと御坂さんどう思う?」
「上条さんは鈍感すぎで、御坂さんは素直になれてませんねー」
「おっ!初春のくせに言うねー」
「佐天さん!初春のくせにってどういうことですか!」
「あはは、ごめんねー初春」
佐天と初春が楽しそうに話している光景を見て、青髪ピアスは顔が自然に緩んでしまう。
「どうしたんですか?先輩?」
それに気付いた佐天が青髪ピアスのことを気にし、声をかけた。
「あーなんでもないでー。それより、カミやんに御坂さんを寮まで送らそう思うねんけど、どうかな?」
「それいいですね!」と、佐天と初春は同時に頷く。
「問題は白井さんやなぁ 御坂さんと同じ寮までらしいし、御坂さんしか見えてへんみたいやし」
「それなら大丈夫ですよ!私がなんとかします!」
初春が自信あり気に言うので、青髪ピアスと佐天は初春にまかせることにした。
初春は前回もなんだかんだ上手くやってくれた事もあり、青髪ピアスは大丈夫だと踏んでいる。
89: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:55:03.57 ID:FNCDGUY0
3ゲームをしたところで、ボウリングは終了。
結果は見るまでもなく、上条、御坂、白井チームの圧勝に終わったが、年下の女の子にお金を出さすわけにもいかず、青髪ピアスは男らしく三人にジュースを奢るハメに。
そうこうしているうちに完全下校時間も近づき、解散となったところで初春が動き出す。
「白井さん!やり残した仕事を思い出しちゃいました!!今すぐ177支部に行きましょう!」
「はぁ?…私はこれからお姉さまと…」
「お願いします!提出期限は明日なんですよ!」
「仕方ないですわね、それではみなさんさようならですの」
前回同様、一番難関であるはずの白井があっさりと初春に着いていった。
青髪ピアスが思うに、時の流れはある程度は大まかに決まっているのかもしれない。
上条と御坂も互いに文句を言いながらも、二人で帰っていった。
そうして青髪ピアスと佐天は二人きりになる。
「あの、先輩。気のせいかもしれないんですけど、私たち以前どこかで会いました?」
「え?」
まさか佐天や他の人達に青髪ピアスが時空移動の能力を発動する前の記憶があるのだろうか。
しかし、彼女たちにとっては今日が初めて青髪ピアスとの出会いであり、ゲームセンターに行ったり遊園地に行ったりといった体験すらしていない。
90: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:55:30.42 ID:FNCDGUY0
「デジャビュって言うんですか?何か前にもあったような気がするんですよね」
「何言うてんの、そんなわけないやん」
「ですよね…」
「あ、それよりや!涙子ちゃん って呼んでええかな?」
「えっ?あ、もちろん良いですよ!」
「涙子ちゃん」
「はい?…なんか照れるじゃないですか!」
青髪ピアスは再び佐天と出会えた喜びを噛み締めながら、今度こそは幸せにしようと改めて強く思った。
「そうや、連絡先教えて貰ってもええかな?」
「良いですよー」
赤外線機能でものの数秒で互いの連絡先の交換が終わる。
「じゃあ、私はこっちなんで!」
「ええって、寮まで送るで!」
「いやぁ…それは悪いんで。じゃあさようなら!また遊んでくださいね。
あ、それから次に会った時はちゃん付けじゃなくて 涙子 って呼んでください」
と言って佐天は走り出していった。
(そういや前もここで振り返ってそんな事言うとったなぁ
もしかして ちゃん って付けられるの嫌やったんかな…)
などとどうでも良い事を考えながら下宿先のパン屋に着いた。
用事を済まし、そろそろ寝ようとしていた時に青髪ピアスは目を閉じて、予定通りに佐天に出会えた事に安堵していた。
(順調やなぁ このまま続いたらええのに…)
91: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:55:59.47 ID:FNCDGUY0
翌朝、いつも通りに学校へ行く。
青髪ピアスの記憶が正しければ、今日も上条と一緒に帰っていれば佐天に会えるはずだ。
佐天に会えることばかり気考えていると、いつの間にか放課後になっていた。授業など聞いていたわけがない。
そして上条と一緒に帰っているところだ。
(このタイミングで行ったら、多分涙子に会えるはずやな)
「おっ!ありゃ初春さんと佐天さんじゃないか?」
会うことばかり考えていた青髪ピアスは上条がそう言ってから前方に初春と佐天がいることに気付いた。
(やっぱりこのタイミングで会えるんか。前と一緒のタイミング…やなぁ)
以前、青髪ピアスは 時間の流れは大まかに決まっているかも と考えていた。
ということは、またアレイスターに狙われるのだろうか?とも考えたが、今回は細心の注意を払い能力がバレるような言動、行動はしていないつもりだ。
(今回は大丈夫やろ…)
「おい青ピ!ぼーっとしてるけど大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫やでカミやん。」
考えても仕方ない そう思った青髪ピアスは佐天に会えることを楽しむことにした。
ただし、アレイスターに能力がバレてしまわぬように言動、行動には細心の注意をはらうことを忘れずに。
「涙子ーっ!」
青髪ピアスが叫ぶように名前を呼びながら手を振るとさすがにこっちに気付いたようだ。
「先輩と上条さんじゃないですか。何してるんですか?」
「カミやんとなんとなくブラブラしてたら二人が見えたんや」
「そうなんですかー」
「そっちは何してるん?」
「初春と遊んでたとこです」
「そうやったらみんなで遊ばへん?」
「いいですね。初春もいいよね?」
「もちろんですよ!」
というわけで4人はセブンスミストで買い物をすることにした。
92: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:56:58.38 ID:FNCDGUY0
ある程度店内を見て周り、男共がトイレに行っている間に佐天と初春は青髪ピアスのことを話していた。
「佐天さんって、先輩と仲良いですよね」
「そうかな?でも何か初めて会った気がしないんだよね」
「え?」
「それから、もう連絡先も交換しちゃった」
「えええ?」
初春がキャーキャーはしゃいでいる内にトイレから出てきた青髪ピアスと上条はそんな初春を見て二人そろって目を点にしていた。
セブンスミストでの買い物を終え、、完全下校時間前にはそれぞれは別れをし帰宅した。
帰宅し、一人になった青髪ピアスはこれまでの事を考えていた。
(昨日、涙子に出会ったのも、今日の帰りに出会ったのも前の前と変わってへん
けど、今回はゲームセンターには行かんかったし、今日は4人で遊んだから今度の休日に遊ぶ約束もせんかった。未来は確実に変わってるんやろうか…)
などと考えている間に青髪ピアスは眠ってしまったらしく、目が覚めると朝だった。
青髪ピアスが佐天たちに出会ってから、6人はかなりの頻度で遊ぶようになり、アレイスターに気付かれる事もなく平和に時は過ぎていき、1ヶ月が経過した。
最近は青髪ピアスと佐天の二人きりで遊ぶことが増えてきて、今日も二人で遊んでとある公園のベンチに座り休憩していた。
この時、青髪ピアスは佐天に想いを伝えようと決心していた。
「なぁ いきなりやけどな、今日は涙子に言いたい事があんねん」
「なんですか?」
「僕な、出会った時から涙子の事が好きやってん。いや、出会う前から好きやった。」
「え?いきなりですね…」
「ごめん、いきなりすぎたやんなぁ」
「…私もです…」
「え?ほんまに?ありがとう、涙子。これからよろしく」
こうして約束した通りに佐天を迎えにきた青髪ピアス。
と言っても、佐天にはそれらの記憶が一切ないが。
93: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:57:27.36 ID:FNCDGUY0
完全下校時間をとっくに過ぎても、二人は公園のベンチに座りながら話をしていた。
どこが好なのかとか、なんで好きなのかとか、毎週休日は必ずデートしようとか。
「じゃあ先輩、そろそろ帰りましょうか」
「そうやなぁ、もう遅いし送ってくで」
「お願いしまーす」
二人は手を繋ぎ暗い夜道を歩き出した。
佐天の住む寮まで歩いて変えるには多少距離があるが、今の二人にはそれがまた良いのだろう。
「すごい!見てくださいよ先輩!」
そう言って佐天は青髪ピアスの手を離し、女の子らしくちょっと走り、振り返って青髪ピアスを見る。
「夜の学園都市ってほんとに人少ないですよね まるで世界に私たちだけみたいじゃないですか?」
佐天は無邪気に笑いながら、歩道から路上に飛び出して青髪ピアスに話しかけていた。
完全下校時間をとっくに過ぎたこの時間ならたいてい学生たちは家や寮でテレビを見たりしているはずだ。
いるのはスキルアウトや会社から車で帰る社会人くらいだ。
と言っても、それすら少ない。
と、その時だった。
猛スピードでスポーツカーが佐天に向かってきていた。
「涙子!危ないっ!」
青髪ピアスは無我夢中で佐天の腕を引っ張りこちらに引き寄せた。
ギリギリのところで、佐天を助けたと思ったのだが…
94: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:57:59.69 ID:FNCDGUY0
「なっ…?!伏せるんや涙子!」
猛スピードで迫ってきたスポーツカーが青髪ピアスたちの横を通った時、助手席の窓が開かれ、見知らぬ女がこちらへ向けてサブマシンガンをぶっぱなしてきた。
二度と佐天を傷付けないと誓った青髪ピアスは咄嗟に佐天に覆い被さる。
スポーツカーが走り去って行くのを確かめ、同じ場所にいけないと思ったのか、ぐったりとしている佐天を担ぎ路地裏まで移動する。
「涙子!大丈夫か?涙子!」
「…」
「涙子!」
無惨にも一発の弾が佐天の腹部に当たっていた。
幸いにもまだ息はしている。
「救急車…救急車や!」
この時、佐天に覆い被さった青髪ピアスにも数発サブマシンガンの弾は当たっていたのだが、それすら気にしている余裕がなかった。
(あかん…バレたんか?なんでや?いつや…どこでや?)
「何がバレたンだって?」
暗闇からいきなり声がした。
そっちへ振り向くと、青髪ピアスが何度も見た事がある男がいた。月の光に白い髪、白い肌、赤い目を照らされニヤリと笑う男が。
95: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/19(水) 23:58:33.84 ID:FNCDGUY0
「一方通行…なんでおるんや…」
「なにがバレたンだって聞ィてンだ!質問してンのはこっちだ」
(何がバレた…?)
「そォだよ 何がバレたのか言ってみろ」
「お前っ!なんで!」
口には出してない。自分の思考が何故か一方通行に読まれている。
(ここから逃げなっ)
「そォはさせねェよ」
一方通行が拳銃のようなものを取り出し、青髪ピアスが時空移動を発動するよりも早く撃つ。
「あ゛あ゛あ゛ッ!」
撃たれたものは、身体に電気を流しまともに演算処理をできなくなるものだ。
「そこの女は助けといてやる」
その声が最後まで聞こえたのか聞こえてないかくらいのところで青髪ピアスは意識が落ちた。
110: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/20(木) 18:27:17.74 ID:07n1vdc0
再びアレイスターの命令によって動いたグループに捕らえられた青髪ピアスは、床に寝かされたまま目を覚ますとそこは窓もドアもないビル…ではなく学園都市内にあるホテルかどこかただの普通の部屋だった。
「お前、何回やり直してンだ?」
最初に問いかけてきたのは一方通行だ。
辺りを見回すと、青髪ピアスを取り囲むように、土御門、結標、海原がいた。
土御門は手に何かのスイッチらしきものを握っている 恐らく青髪ピアスの身体に電気を流す為の物だろう。
結標は足を組んで椅子に座りながら、軍事用ライトをブラブラさせながら青髪ピアスを見ている。
海原は黒い石を手に持ちながら、何かを考えているようだった。
そしてもい一人、青髪ピアスが今まで一度も見たことがない女がいた。
「なんで僕がこの能力を持ってんのがバレたんや?」
「オイオイ 俺の質問はシカトですかァ?」
自分の質問を無視された一方通行がチョーカーのスイッチに手を伸ばす。
「待て、一方通行」
それを土御門が止める。
「それに、さっきから僕の考えが読まれてると思ったら、その女なんやな」
「そうよ」
感情の無いようなトーンで女は答える。
「精神感応系の能力者か」
「仕方ないな、全て説明してやるよ。」
そういって土御門は自分の能力がどのようにしてバレたのか青髪ピアスに説明した。
それは青髪ピアスが思いもしなかった事だった。
111: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/20(木) 18:27:46.58 ID:07n1vdc0
まず最初に気付いたのはアレイスターだったらしい。
アレイスターが学園都市の細部まで情報を収集する為に用いる滞空回線を使っている時だった。
それで青髪ピアスを見た時、何か既視感を感じたらしい。
グループを使って青髪ピアスを何度も捕まえよとした気がする。
そして何度も逃げられていた気がする。
それは青髪ピアスを見る度に強くなっていったという。
アレイスターはグループ全員に青髪ピアスを見て何か感じるものがあるか尋ねたところ、四人そろって同じものだった。
一般的な既視感と感じるものの仕組みは科学的に証明されており、四人とも同じ既視感を感じることはあり得ない。
今夜はそれを確認するために青髪ピアスと佐天を襲った。
自分か大切に想う佐天が傷付けば、頭のどこかで思うはずだ 「自分の能力がバレたのか」 と。
それを精神感応系能力者の読心能力に読ませることにより、確信した。
青髪ピアスは時空移動の能力を持ってる、と。
(そうか、それで涙子は『初めて会った気がしない』って言っとたんか……そうや!涙子はどうしたんや)
「佐天涙子なら病院に連れていった」
「生きてんのやな」
「あぁ」
また佐天を巻き込んでしまった。何度過去へ戻ってやり直しても上手くいかない。
そこで青髪ピアスは決意した。
「次こそ涙子を守る」
今度こそ佐天を傷付けない未来にするためにもう一度過去へ戻り、元凶とも言えるアレイスターを潰すことを。
「無駄だ」
土御門が手に持ったスイッチを押すよりも早く、身体に電流が流れるよりも早く、青髪ピアスは時空移動の能力を発動させる。
こうなってしまった以上、今は逃げるしかない。逃げるためにはもうこれしかない、これに賭けるしかなかった。
青髪ピアスは目を瞑りもう一度あの時へ戻れるのをひたすら祈った。
123: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/22(土) 15:32:23.05 ID:zSyrT1Q0
床の感覚が変わった。
どうやら無事に戻ってこれたらしい。
(戻れたんか…)
また戻ってしまったことにより、佐天との出会いも出来事も全て無くなってしまった、
そして何よりまた佐天を巻き込み傷付けてしまったことを悔やんでいる。
しかし、それは逆に青髪ピアスにとって力になるものだった。
次こそは必ず佐天を幸せにする、その為にアレイスターを潰すという決意を更に強する。
前回分かったように、自分の姿を見られると相手は既視感を感じるらしい。
ということは、何度も過去へ戻ってやり直す度に見付かりやすくなる可能性がある。
そう何度も過去へ戻ることはできないかもしれないと青髪ピアスは考える。
(最悪、今回で最後やな…)
いずれ見つかってしまうのだから、こちらからアレイスターのところへ出向いてやろうと思っている青髪ピアスだが、
アレイスターのところへ行って、果たして奴を殺せるか…
そういう不安もあったが、見つかるのも時間の問題であり、もたもたしている暇はない。
「まずは、アレイスターをどう殺すか…やな」
時空移動しかできない青髪ピアスは相手に攻撃をする能力などもっていない。
だがしかし、自分自身まだこの能力について全てをしっているわけではない、そこで青髪ピアスはあることを試してみる。
124: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/22(土) 15:33:09.84 ID:zSyrT1Q0
青髪ピアスは出来るだけ人の少ないとある公園に来ていた。
そこで買ってきた猫缶を空けて、猫を誘き寄せる。
(猫には悪いけど、すぐに終わるからなぁ)
食べる事に夢中になっている一匹の猫を両手で抱え上げる。
青髪ピアスがやろうとしていることは、自分以外を時空移動させるというもの。
これが出来れば、アレイスターを飛ばすことが出来るはずだ。
「日時は5分後、場所は2m先のベンチの上」
猫に意識を集中させる。
…すると両手で抱えて上げていた猫の姿が消えた。
(はぁ…はぁ これ何か疲れるなぁ あんま多くは使われんな)
猫が現れるであろうベンチの横に座り、五分が経過するのを待つ。
青髪ピアスは肩で息をしていて、かなり疲れている。
思いの外、自分以外を時空移動させるのは疲れるらしい。
「現れんかったら現れんかったで…猫には悪いけど成功やな」
そう呟きながら、両手を広げベンチの背もたれの上に乗せ、空を見上げる。
そうしていると「にゃー」という猫の鳴き声がした。
青髪ピアスが横を見ると、先ほど飛ばした猫が横に座っていた。
「よし、成功や」
125: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/22(土) 15:35:27.26 ID:zSyrT1Q0
次に青髪ピアスはそろそろ生徒達が下校する時間に第七地区のとある高校の校門の横で土御門を待ち伏せしていた。
チャイムが鳴って数分後、生徒たちがぞろぞろと校舎から出てくるのが見える。
その中に土御門の姿があるのを青髪ピアスは発見した。
「土御門元春」
校門から出てきた土御門の後ろから声をかける。
「ん?なんで俺の名前を知っているんだにゃー?」
土御門は不思議そうに青髪ピアスを見る。
それもそのはず、青髪ピアスは今回はこの学校に入学をしていない。だから土御門は青髪ピアスを知っているわけがない。
しかし、何回か接触するうちに土御門は既視感を感じるだろうが、今のところは大丈夫のようだ。
「ちょっと話しせえへん?アレイスターの居場所を知りたいねん」
「っ!お前…なぜその名を…っ!」
アレイスターの名を知っている人間はごくわずかで、見るからに普通の生徒である青髪ピアスがその名をしっているのはおかしいと土御門は思い、とっさに身を構える。
「土御門君に危害を加えるつもりもないし、大丈夫やで」
「お前は誰だ?」
「まぁ座ってゆっくり話ししようや」
二人は学校からそう遠くない喫茶店へ場所を移し、適当な席へ向かい合わせになりながら座る。
最初に口を開いたのは土御門だ。
「お前の目的はなんだ?」
「アレイスターの居場所を教えてほしいだけや」
「何故だ?」
「それは言われへん」
青髪ピアスに対し更に不思議が増す土御門は注文した珈琲をゆっくりと飲んだ。
緊張をして喉が乾くのだろう。
126: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/22(土) 15:35:56.53 ID:zSyrT1Q0
「そう簡単には教えることはできない」
「やっぱそうかぁ」
「ん…?ところで、お前…どこかで会ったか?」
早くも土御門は青髪ピアスに対して既視感を感じ始めた。
気付かれるのも時間の問題と判断した青髪ピアスは少し焦りだしていた。
「教えてくれたら、土御門君の大好きな義妹は…」
そう言いかけたところで、土御門は机に身を乗りだし、青髪ピアスの胸ぐらを掴む。
「喧嘩すんなよ」と喫茶店の店員が言うがそんなことはお構い無しだ。
「大丈夫や、アレイスターの居場所さえ教えてくれたら」
本当のところ青髪ピアスは、土御門の義妹にどうこうしているわけではない、咄嗟に吐いたただの嘘だ。
「くそっ…あいつはこの学区にあるあの建物にいる。」
「へぇ まさか第七地区におったとはなぁ」
「場所は教えた、舞夏はどこにいるか教えろ」
「多分、学校で勉強してるんやないかなぁ」
「どういうことだ?」
「何もしてへんってことやでえ。じゃあ」
そうして青髪ピアスは喫茶店を出て、さっそくアレイスターがいるであろうビルへ向かった。
127: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/22(土) 15:38:03.71 ID:zSyrT1Q0
確かに窓もドアもないビルがあった。
警備員などもいないようで、容易に近づくことが出来た。
「どっから入ろうかなぁ」
そう思った青髪ピアスだが、時空移動をしたら早い話だ。
中には一度連れて来られたことがあるし、入るのは難しくないだろう。
ビルの前に立ち、青髪ピアスは時空移動をした。
青髪ピアスは、目の前にいる緑色の手術衣を着て赤い液体に満たされた巨大な円筒器に、逆さまで浸かっているアレイスターと目があった。
だが、アレイスターは驚く様子もない。
息つく間も無く次に自分がここへ来た数秒前に時空移動をする。
時空移動した場所は、赤い液体に満たされた巨大な円筒器の中のアレイスターの真後ろ。
青髪ピアスは両手で逆さまになっているアレイスターの足首を掴み、アレイスターを遥か未来へ飛ばす。
アレイスターが暴れる間も無く、赤い液体と共にアレイスターの姿が消えた。
青髪ピアスの計画はアレイスターの目の前へ時空移動をした数秒前の時間に戻ってアレイスターの真後ろへ時空移動をし、
アレイスターを数百年先の未来へ飛ばす というものだった。
巨大な円筒器の中に満たされていた赤い液体と共にアレイスターは数百年先の未来へ行ったため、空になった巨大な円筒器の中には青髪ピアスがびしょ濡れのまま座り込んでいた。
自分の計画があっさりと成功したことに安堵し、力が抜けていた。
アレイスターを時空移動したことにより、疲れはてて力が抜けているというのもあっただろう。
しかしまだ終わりではなかった…。
162: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 16:53:44.08 ID:BoG91L20
警報器が鳴った。
アレイスターがいなくなったからなのか、アレイスター自らが警報器を鳴らしたのかは分からないが。
しかし、焦る必要はない、誰かが来るまえに時空移動をすればいいのだから。
「はぁ、帰ろか…」
なんの焦りもなく、溜め息を混じらせながらゆっくりと円筒器の中で立ち上がり、下宿先のパン屋へ帰ろうとしていたが…。
「あれ…?できへん…なんでや」
自分以外を時空移動して脳や身体に負担がかかったからなのか、青髪ピアスは能力が使えなくなっていた。
その事に青髪ピアスは焦りを感じだした。
能力を使わなければ、ビルの外はおろか、円筒器の外にすら出られない。
「どうやって出たらええんや…どうやって…」
何度も能力を使おうとしたが、一向に時空移動できる気配がない。
「このままやと誰か来るかも知れんな…」
と、その時。
「動くな!」
青髪ピアスの目の前に10人くらいの武装部隊と窓もドアもないビルの案内人である結標淡希がいきなり現れた。
座標移動の能力者である結標が連れてきたのだろう。
「やばい…」
武装部隊は青髪ピアスを取り囲み、こちらに銃口を向け出した。
その中のリーダー格と思われる人間が青髪ピアスに話しかける。
「お前は誰だ?ここで何をしている」
「…」
青髪ピアスは何も答えない。いや、答えられない。
163: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 16:54:23.69 ID:BoG91L20
「円筒器を開けろ!どこかに操作できるスイッチがあるはずだ!お前は書庫にアクセスしてこいつの顔と書庫にあるデータを照合しろ!」
リーダー格と思われる人物が部下たちに次々と命令を下している
それを武装部隊の数人が素早い動きでこなしていく。
「照合のできましたが、学園都市にこのような男はいません」
「どういうことだ?」
「恐らく外から来たと思われます」
青髪ピアスはいつもの高校には入学していないため、書庫には何も登録されていないのだろう。
間もなくして、円筒器のガラスが上に上がっていき青髪ピアスは生身を晒される。
核爆弾すらも防ぐとされているビルで、学園都市の統括理事長であるアレイスターが入っていた装置だ、円筒器の中に入っていた方がかなり安全だっただろう。
青髪ピアスは囲まれているうえに、今は能力が使えなくなっている。もう逃げることはできない。
「もうあかん…」
青髪ピアスは絶望し、身体の力が抜けその場へ崩れ落ちた。
「取り押さえろ!」
その言葉を合図に武装部隊が青髪ピアスを取り押さえ、無抵抗の青髪ピアスはされるがままに腕を後ろに回され手錠をかけられて、
薬品のようなものを嗅がされ意識を失った。
164: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 16:55:06.86 ID:BoG91L20
青髪ピアスが目を覚ますと、手錠ははずされ椅子に座らされていた。
コンクリートでできた四畳半程度の部屋に薄暗い照明が一つだけある。それ以外は何もない、机も窓もなにもかも。
あるとしたら出入りできるドアくらいだ。
青髪ピアスの目の前には紙とペンを持った一人の男が経っていた。
「お前の事を調べさせてもらった。だが、やはり書庫には載っていない。お前は何者だ」
「…」
青髪ピアスはここでも何も言わない。
「なぜアレイスターはどこにもいない」
「…」
「あの場にいたのはお前だけだ、何をしたんだ」
「…」
「あのビルに入れると言うことは、テレポーターか?」
「…」
何も答えない青髪ピアスを見て男は諦めたのか、部屋から出ていった。
次の日も同じことが繰り返された。そして次の日も。
青髪ピアスは一言も喋らない。
アレイスターの失踪の謎を解かない限り、青髪ピアスに拷問などもできない。
それに拷問をしても、青髪ピアスは何も言わないと男は判断したのだろう。
精神感応系の能力者を使う手もあったが、学園都市でも高レベルな機密事項であり、そういう手は使えなかった。
時間の感覚がなくなってきたある日、男がペンを部屋に忘れて出ていったのを青髪ピアスは見逃さなかった。こっそりと回収し懐に隠す。
部屋のドアはカギがかけられているため、男が部屋に入ってくる時がチャンスだろう。
そしてその瞬間はすぐにやってきた。
男がドアを開けた瞬間、青髪ピアスは勢いよく立ち上がり、手にペンを持ったまま男に目掛けて体当たりをする。
ペンの先が男の脇腹に刺さり、男はその場に倒れ込んだ。
青髪ピアスはドアの外を覗き込むと幸いなことに誰もいなかった。
男を部屋の中に放り込みドアを閉めると自動でロックがかかる。これでしばらくは大丈夫だろう。
165: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 16:55:39.19 ID:BoG91L20
青髪ピアスがここへ連れて来られた時には、意識がなかったから出口がとこか分からない。
とりあえず手当たり次第に行くしかない。
ここがいったい何階なのかわからない青髪ピアスは、エレベーターか階段、もしくは窓を探すことにした。
そうすればここが何階か分かるだろう。
もしかすると一階でたまたま出入口が見付かる可能性もあるかもしれない。とりあえずここが何なのかを探すしかない
人と出くわさないように早歩きをしながら進むが青髪ピアスは何日も日の当たらない狭い部屋に閉じこめられていたこともあり、精神的にも疲れて果てているようだ。
壁沿いに伝って歩いていたその時、ビル内にアナウンスが鳴った。
「緊急事態発生 521番が逃亡 現在もビルにいると思われる 521番の特長は長身に青い髪をした男 至急捕獲せよ」
「これって僕の事か?ついにバレたんか…」
少し焦りながらここがどこか目印のようなものを探していると、ようやく階段を見付けた。
しかし、何階と書かれてなどいなかった。
「なんでや…」
他に見取図や何か無いか探していると、上の方から足音がする。
咄嗟に曲がり角の死角になりそうなとこに隠れ、様子を伺う。
「相手は一人か、ちょっと厳しそうやなぁ」
階段から降りてきた人物が青髪ピアスに気付かず、通りすぎたところで相手の後ろから飛びかかった。
相手におんぶされる形になり、青髪ピアスは相手の首に腕を絡ませ絞める。
さすがに訓練されているだけあって、何度も振り落とされそうになったが、後ろから突然襲われてはさすがに逃げれない。
相手は次第に暴れなくなり、力が抜けていきその場に倒れこんだ。
166: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 16:56:17.54 ID:BoG91L20
「ふぅ… 何か武器になりそうなもんは…」
相手から何かを奪おうとしていると、無線機から声が聞こえた。
「目標はどこにもいない、残るは1階のみ 至急1階へ迎え」
「…1階?ここ1階やったんか、てことは出入口もこの階か?」
無線機と、扱い方は分からないが拳銃があったのでそれも奪っていく。
しばらく歩いたところで、出入口らしきものをみつけた。
途中、何回か人に出くわしそうになり、その度に拳銃を握る手に緊張が走った。
狭い一本道の廊下になっており、その先にドアが見える。
元々、人数が少ない組織なのか、ドアのところに配置された人間はいなかった事もあり、簡単に脱出できた。
数日ぶりに太陽の陽射しに目を細める。
「もっと遠い場所にいかな…」
青髪ピアスはがむしゃらに走って逃げた。
168: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 17:13:54.52 ID:BoG91L20
あああミスった。
学校行ってないのになんでパン屋の下宿先に帰るんだ
書庫にデータがないって ああミスった
171: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/23(日) 17:55:02.51 ID:BoG91L20
あーでも戻る度にパン屋に頼み込んで下宿してってことにすれば大丈夫かな。
175: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/24(月) 02:00:13.61 ID:45Saa5Q0
しばらく逃げているうちに、見たことのある景色になっていた。
第七地区の青髪ピアスが住んでいたところに近い。
「学生たちが多いなぁ…」
学生が下校しているのを見ると、時刻は15時くらいだと予想してた。
「これからどうしよ…」
少し休憩をするために道端に設置されてあるベンチに座る。
アレイスターが居なくなったと思えば、わけの分からない組織に追われる始末。
能力さえ使えれば簡単なのだが、アレイスターを飛ばした事により身体に負担がかかりすぎて、能力が使えなくなってしまった。
しばらくしたら使えるようになるかもしれないと思い、捕まってから何度も何度も試してみたが無駄だった。
「もう使われへんのかなぁ」
青髪ピアスはまるでブロンズ像の考える人のような姿で悩む。
「まぁここ居っても見つけるだけやし、逃げるか」
ベンチから立ち上がり、歩き出す。
それから数時間、夕暮れ時になりぞろぞろと家や寮に帰る学生達であふれている。
適当にさまよっていた青髪ピアスも奇跡的に組織に見つかることもなく、真剣にこれからどうしようか悩んでいた時だった。
ビルの壁に設置されている巨大な液晶画面に流れているどこかのメーカーのCMがいきなり切り替わりニュースになった。
このニュースは学園都市内にしか流れないニュースで、女性のキャスターが慌しい様子が映し出された。
176: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/24(月) 02:00:54.16 ID:45Saa5Q0
「臨時ニュースです。ただいま入った情報によると、学園都市内にある少年院から一人の少年が脱走したようです。
現在、アンチスキルが少年を探していますが、この少年は拳銃を所持しており非常に危険ですので、学生の方は特に注意してください。
少年は身長180cmくらいの大柄で、髪は青い色をしているのが特徴です。くれぐれも注意してください。以上で終わります」
巨大な液晶画面を見上げたまま、青髪ピアスは立ち尽くしていた。
「…あいつら…アンチスキルまで使って…」
すれ違う人が青髪ピアスを見て「ねぇ?あれってもしかして…」「おいアイツ見ろよ!」「警備員に通報した方がいいんじゃない?」
などとヒソヒソと話している。
走ると目立ってしまうからやや早歩きで立ち去ろうとするが…
「いたぞ!あそこだ!」
数人の警備員が青髪ピアスを見つけたようで追いかけてくる。
青髪ピアスは声がする方とは反対側に走り出す。
完全下校時刻で学生達であふれているおかげで、人ごみに紛れることができた。
しかし、まだ安心はできない。青髪ピアスはひたすらに走る。
路地裏に入り、角を曲がり、また角を曲がる…が、学園都市には数多くの監視カメラが設置されており、次から次へとアンチスキルが現れる。
人の多いところでは、走ると逆に目立つため、やや早歩きで逃げ逃げた。
途中で露店になっている古着屋みたいなところで上着と帽子を2つ盗み
走りながら、今着ているシャツの上から盗んだ上着を羽織り、帽子を被り少しでも監視カメラから逃れようとする。
「はぁっはぁ…これでっ 少しはマシにっ なるはずやっ」
青髪ピアスの思惑通り、監視カメラからは逃れたようで、少し逃げ回っていると追ってくるアンチスキルが少し遠のいた気がした。
しかし、一時的なものでいずれ見つかるのも時間の問題だろう。
しばらく逃げ回っているとアンチスキルが追ってきてない事に気付いた。
上着と帽子を脱ぎ捨て、もう一つ盗んでおいた帽子に被りなおす。
さすがに青い髪では目立ちすぎるため、何も被らずにいるのは危険な行為だろう。
再び路地裏に入り、壁を背にもたれかかる様にしゃがみこみ少しだけ休憩をする。
ろくに食事をせずに、精神的な疲れもある青髪ピアスにはそろそろ限界が近づいてきていた。
これでもよくもっているほうだろう。
177: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/24(月) 02:01:22.64 ID:45Saa5Q0
気が付けばすっかり夕日が沈んでいて、辺りは暗くなっていた。
息も整ったところで、ゆっくりと立ち上がり、路地裏から表に出ようと顔を出して左右を確認する。
左を確認し右に顔を向けようとしたところで顔面に何かがぶつかったような衝撃を感じた瞬間、青髪ピアスが被っていた帽子は吹き飛び、そのばに倒れこんだ。
それと同時に「きゃぁっ」という少女の悲鳴が聞こえた気がする。
アンチスキルと衝突したと思った青髪ピアスは咄嗟に立ち上がり、よろめきつつも顔を抑えながら何がぶつかってきたのかを確認する。
どこかで見た制服を着た少女がが顔面から倒れていた。
「ん?」
青髪ピアスが疑問に思ったところで後方から声がした。
「佐天さーん 大丈夫ですかー?」
「佐天…?」
顔から手を離し倒れている少女の顔をよく見てみる。
「うぅぅぅ痛ーい」
倒れていた少女は座りながらも青髪ピアスと同じように顔を抑えながら唸っていた。
「涙子…」
ふいにつぶやいてしまった青髪ピアスの言葉を聞いて少女はそのままの姿勢で顔から手を離し青髪ピアスを見上げる
「…え?なんで私の名前を…?」
青髪ピアスにぶつかったのは佐天涙子だった。
187: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:17:07.88 ID:R2eRJwI0
佐天は立ち上がって青髪ピアスの顔を覗く。
「以前、どこかで会いましたっけ?」
「いやぁ…気のせいちゃうかなぁ?」
「ねぇ、初春 この人どこかで見たことない?」
後ろから近寄ってきた初春も青髪ピアスの顔をまじまじと見る。
「言われて見ればどこかで見たような…って、それよりも頭から血が出てますよ!」
こめかみあたりから血を垂れ流している青髪ピアスを見て、初春はハンカチを手渡す。
「あぁ悪いなぁ」
佐天は垂れ流れている血を拭き取る青髪ピアスを見て、申し訳なさそうな顔になっていた。
「ねぇ初春、177支部ってこの近くだったよね?そこで軽い手当てしようよ」
「時間も遅いですし、病院も遠いですからね…」
佐天は青髪ピアスに初春が風紀委員で近くに初春が配属されている177支部があるから、そこで軽い手当てをしようと提案してみた。
「どうですか?」
「そうやなぁ…」
青髪ピアスはここで佐天や初春に関わると、彼女たちに迷惑が掛かってしまうと思ったが
会いたかった佐天に会えたことに少し気持ちが緩んでしまっようで、ちょっとくらいなら大丈夫だろうと思い、行くことにしてしまった。
188: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:18:07.42 ID:R2eRJwI0
佐天と初春の後ろをついて行きながら、177支部へ移動する。
前を歩いている佐天と初春は青髪ピアスに聞こえないように青髪ピアスの事を話していた。
「ねぇ初春、あの人どこかで会った気がしない?」
「さっきからそればっかりですね、佐天さんの気のせいだと思いますけど…」
などと話していると初春が突然「あっ!」と何かを思い出したように言った。
「夕方ニュースでやっていた人にソックリじゃないですか?」
「少年院から逃げ出したってやつ?」
「青い髪をした人なんてめったにいませんよ?それに身長も高いですし」
「えっ…まさか」
「絶対そうですよ!このままアンチスキルのとこに行きましょう」
「確かに似てるけど、絶対違うよ。あの人は悪い人じゃないよ、何でかわかんないけどそんな気がする」
「拳銃持ってるらしいじゃないですか、危ないですよ。もしそうだったらどうするんですか?」
「お願い初春!アンチスキルに連れていくのだけは止めよう?それに私のせいで怪我さしちゃったみたいだし…」
「もう…佐天さんは仕方ないですね…」
177支部に到着して、青髪ピアスは初春に「適当に座っててください」と言われ、側にあったソファーのような長い椅子に深く腰掛けた。
189: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:18:41.96 ID:R2eRJwI0
「初春!お茶いれてよ。私、救急箱取ってくるから」
「はい」
毎日のように177支部に来ている佐天は、何がどこにあるのかわかっているようで、迷わず救急箱を持ってきた。
「ちょっと頭見せてくださいね」
「自分でやるからええで」
「いや、私がやります!私のせいなんで!」
佐天は青髪ピアスの横に座り、流れている血を拭き取り、消毒液をティッシュに数滴垂らし、青髪ピアスの頭の傷口を拭き絆創膏を貼ってあげた。
「はい、できました!」
「ありがとう」
「ところで何で私の名前知ってたんですか?」
「いや、なんていうんかなぁ…」
青髪ピアスは正直に言うか迷っていた。
言ってても構わないが、言ったところで信じれる話しではないし、知ることで佐天にとって悪いものになるかもしれない。
考えていると初春がタイミングよくお茶を持ってきた。
「お茶入りましたよー」
「お、ありがとう」
青髪ピアスは会話が中断されたことに内心ホッとする。
お茶をすすりながら、佐天の方を見ていると険しい顔でまだどこかで会ったのかを考えているようだった。
190: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:19:13.66 ID:R2eRJwI0
結局、佐天たちには言うのを止め適当にはぐらかす。
お茶も飲み干しだいぶ落ち着いたところで青髪ピアスはそろそろ出ていこうとしていた。
「そんじゃあ、そろそろ…」
椅子から立ち上がろうとした時、外からバタバタと走っているような、いくつかの足音が青髪ピアスの耳に届いた。
だが、それには気に留めず早くここを出ようとしていた。
「今日はありがとう」
そう言い終わるくらいに、177支部のドアが勢いよく開けられた。
姿を現したのはアンチスキルで、本物かゴム銃のようなものかどうかは分からないが、サブマシンガンのような物を持っていた。
「そこから一歩も動くな!」
アンチスキルの一人が大声で怒鳴る。
初春は後ろへ下がり、佐天は驚きの表情を隠せないでその場に突っ立っていた。
このままでは捕まってしまうと思った青髪ピアスは咄嗟にもう一つ奥の方にあった部屋へと急いで駆け込む。
(さっきの足音はアンチスキルやったんか…!)
(なんでや…)
考えながら、部屋の中にあった戸棚やソファーをドアの前に移動させ、少しでも開かないようにした。
(こんな時に能力が使えたら…)
青髪ピアスはここからどうやって逃げるか考える。
最悪、窓から飛び降りようとも考えたが、窓を空けて下を覗くと、既にアンチスキルに取り囲まれていた。
もう逃げ道がない。その場に膝を着き頭のを抱え込んで絶望していた。
191: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:19:53.39 ID:R2eRJwI0
部屋の外では佐天が叫んでいる。
青髪ピアスにもその声は聞こえていた。
「なんでアンチスキルが来てるの!?この人は悪い人じゃない!私にはわかるんです!」
アンチスキルの一人に飛び付き、その動きを封じようとするが振り飛ばされてそれも無駄に終わる。
「初春もなんか…っ」
振り返り初春を見ると、俯きながら弱々しい声で佐天に言う。
「ごめんなさい佐天さん…さっき写真付きのメールが来てたんです、あの人がやっぱりそうだって…」
「初春!あんたが…」
「佐天さんがあの人を何で庇うのかわかりませんけど、仕方ないじゃないですか!私はこの街の治安を守るジャジメントなんです!」
初春は目に涙を浮かべながら佐天に叫ぶ。
「初春…」
その間もアンチスキルは青髪ピアスが逃げ込んだ部屋をなんとしても開けようとしていた。
さっきの初春の言葉を聞いて佐天はうつむき何かを考えていた。
なんで私、あの人のこと必死に庇ってるんだろう?
なんであの人と会ったような気がするのかな?
なんで?
なんであの人を見ると……っ!
「せん…ぱい…?」
192: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:20:30.68 ID:R2eRJwI0
何かに気付いたように青髪ピアスの逃げ込んだ部屋へ向かい、アンチスキルをどかそうとするが、両脇を持たれ逆にどかされそうになる。
それに必死に抵抗に佐天は青髪ピアスに聞こえるように叫ぶ。
「先輩!先輩ですよね?」
ドアの向こうで床に膝を着いて頭を抱え込んでる青髪ピアスは目の色を変え、顔を上げた。
(その呼び方…)
「私、先輩の事しってます!あの公園で出会った事も、一緒に遊んだことも、遊園地に行ったことも!」
(なんで…)
「あの公園のベンチで座りながら二人で夜まで喋ってたことも!その時に先輩に言われた言葉も!」
青髪ピアスは立ち上がり、戸棚やソファーで塞がれたドアに近づき壁の方をを向いて叫んだ。
「涙子!」
佐天はアンチスキルに邪魔されながらも、必死に抵抗し青髪ピアスに応える。
「先輩は私と約束してくれましたよね?次は絶対に幸せにするって!それまで待っててって!」
佐天はあの時の事を体験していないのに、あの時の記憶がある。
体験をしていないのになぜ覚えているのか青髪ピアスは疑問ではあったが
(そんな事はどうでもええねん!)
「ごめん涙子…何回も何回も約束破って…!でも!でも次は絶対に幸せにする!涙子の未来を…」
青髪ピアスはどこか悲しそうな顔をしていた。
「絶対ですよ!約束ですからね!」
その言葉を最後に佐天はアンチスキルにどかされ、奥へ連れて行かれた。
(涙子…)
佐天がどかされたことにより、アンチスキルはさっきより強くドアを開けようとしている。
青髪ピアスからはわからないが、何か機械を用いてドアを開けようとしているようで、ドアが微かに開きだした。
その事には構わず青髪ピアスは目を瞑り集中する。今まで使えなくなっていた能力をもう一度だけ使ってあの時へ戻れるように。
「もう一度戻れたら…今度は絶対に涙子の未来を…」
193: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/25(火) 22:20:58.69 ID:R2eRJwI0
頭の中が焼けるように痛むが、気に留めず能力を使おうとする。
苦しそうな表情を見せるが、なにがなんでももう一度戻る為にはかまっていられない。
アンチスキルがドアを開けようとする音がどんどん小さくなっていく。
その瞬間に、青髪ピアスはこれまでの事が走馬灯のように鮮明に蘇る。
アレイスターに見つかり、友人であった土御門に追われ、上条のおかげで初めて佐天に出会い、
その場にいた6人で一緒に遊んだり、みんなで遊園地に行くつもりが4人になってしまったり、その時にグループに捕まえられたり。
次に過去に戻った時はアレイスターに見つからないようにしたハズなのに、見つかってしまったり。
佐天と出会った公園のベンチに座り夜まで二人で喋り、その時に自分の気持ちを佐天に伝えたことも。その後にまた襲われた事も…。
アンチスキルがドアを開けようとする音が更に小さくなっていき、次第に聞こえなくなった。
青髪ピアスが目を開けてみたが、視界がぼやけ頭が痛み意識が朦朧とする。
さっきまでうるさかったのが完全に静まっている。どうやら時空移動を成功させたようだ。
そのまま床へ寝転がり、痛みが退くのを待つ。
頭痛はまだ治まらないが、やがて視界も定まってきて意識がはっきりとしてきた。
ちゃんと戻ってこれたのか、カレンダーを見て確認する。
1年前の12月。
青髪ピアスが学園都市へ行こうと思いだした時期。
ここは学園都市で下宿先にしていたパン屋ではなく、学園都市の外にある実家の自分の部屋。
青髪ピアスは学園都市に来た頃へ戻ったのではなく、学園都市へ行こうと思った頃へ戻ったのだ。
平々凡々と過ごしたくて、アレイスターやグループに追われる日々ではなく、佐天と笑って過ごせる日々にしようと何度も過去へ戻ったが、何度戻っても上手くいかない。
何度やり直しても、佐天を傷つけてしまう。さっきもそうだった。
そうやって何度もやり直して思った。学園都市へ行かなければ、佐天と出会わなければ、少なくとも佐天の未来は幸せになると保証できる。
青髪ピアスはちゃんと佐天との約束を守った。こういう形ではあれど、これで佐天は幸せに過ごせるのだから。
青髪ピアス自身も学園都市へ行かなければ、アレイスターに目を付けられることはないだろうと思ったのだろう。
青髪ピアスはベッドへ横たわりしばらく目を瞑った。
「こうするしかなかったんや…」
一粒の涙が頬を伝った。
207: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/26(水) 02:43:03.66 ID:RPSZa6U0
あれから10年ほどの月日が流れた。
青髪ピアスはあれ以来、能力が使えなくなっていた、というよりは能力を使っていなかった。
学園都市の外の世界で高校、大学を過ごし、今ではとある会社の平凡なサラリーマンをやっていた。
ある日の朝、目が覚めてもまだしばらくは頭がボーッとしているからと、テレビを付けてベッドに座りながら、頭が冴えるのを待つ。
テレビからは毎朝見ているニュース番組の女子アナウンサーの声が聞こえる。
「続いてのニュースです。
学園都市で育った子供たちが、外の世界で活躍するようになって数年が経ち…」
青髪ピアスは「学園都市」という単語を聞いて何かを思い出す。
「学園都市…かぁ…」
あれからは何も無く平凡にこれまでを過ごしてきた。
長い年月があの時に自分がとった行動は正しかったんだと思わせていった。
時計を見ると、今から家を出ればギリギリ遅刻にならない時間帯だと気付き、急いで用意をし家を飛び出した。
208: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/26(水) 02:44:05.03 ID:RPSZa6U0
青髪ピアスは高層ビルが立ち並ぶ街中を歩き、会社へ向かっていた。
「あかん…完全に遅刻や」
もう間に合わないと思い急ぐことを止め、歩きながら上司に言う遅刻の理由を考えていたら、後ろから女性に呼び止められた。
「すいませーん!そこの青い髪の人!財布落としましたよー」
「あーありがとうございます。」
女性の手に持っている財布を受け取り、拾ってくれた女性の顔を見る。
その女性は青髪ピアスがどうしても幸せにしたかった人だった。
(っ…!涙子!)
ここで青髪ピアスが今朝ニュースで女子アナウンサーが言っていた事を思い出した。
『学園都市で育った子供たちが、外の世界で活躍するようになって…』
(そうや、涙子も外の世界に出てきたんか…綺麗になったなぁ)
「あの、大丈夫ですか?ボーっとしてますけど」
「あ、あぁ 大丈夫やで、ありがとう」
青髪ピアスはここで佐天に声をかけそうになったが、グッと我慢する。
自分と関わりをもってしまった為に、彼女を何度も何度も傷付けてしまったこを思い出した。
ここで再び関わりを持つと、またあの時のような事が起こってしまうかもしれない。
佐天の幸せを願うなら、佐天との約束を守るなら、こうするのが一番なんだ。
青髪ピアスは振り返り、会社へ向かう。
最後に小さい声で呟いた。
「涙子、幸せになってや…」
-完-
211: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/05/26(水) 02:51:57.24 ID:RPSZa6U0
以上で終わりです。
ある映画を見て、こういうSSが書きたくなって、勢いで書き始めたので、設定が甘いところや誤字脱字、また文章も稚拙な部分が多かったでしょうが、今まで読んでくれてありがとうございました。
シナリオというか、終わり方もその映画と似てしまったけど、そこはスルーでお願いします。
ハッピーエンドも考えてみたんですけど、時間があって読んでくれる人がいたら投下しようかなとも思ったんですが、そうすると雰囲気が壊れる気がするので止めておきます。
それでは改めて、ありがとうございました。
よければ感想とか聞かせてほしいです。
青髪ピアス「君を救う為やったら僕はなんどでも過去に戻るやろう」