1: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:26:44.76 ID:bbfGuWuJ.net

一部ショッキングな描写あり。苦手な人は注意。
書き溜めないのでゆっくり書いていきます。



2: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:27:22.12 ID:bbfGuWuJ.net

「……む……」

「…歩夢……」

(……ん……?)

「起きて」

(へ……?)

(誰かが私を、呼んでる?)

(誰……?)

「皆が待ってるよ」

「歩夢」

(この声)

(侑ちゃん……?)

────────
──────
────
──




4: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:30:46.02 ID:bbfGuWuJ.net

歩夢「……ん……んん……」

歩夢(あれ……)

歩夢(ここ……どこ……?)

歩夢(自分の部屋じゃない)

歩夢(病室……?)

歩夢(なんだか頭が……ぼーっとする)

歩夢(私、なんでここに……?)

歩夢(今は朝? 夜? 昼? 夕方?)

歩夢(なんにも分からない)

歩夢「……」

歩夢(なんにも考えたくない)



8: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:33:55.27 ID:bbfGuWuJ.net

「あっ……」

歩夢「へ……?」

「……」

歩夢「侑、ちゃん……?」

侑「……」

歩夢(扉の方に顔を向けると、そこには侑ちゃんがいた)

侑「…っ…!」

侑「おはよう」

侑「あ、歩夢……!」

ギュッ

歩夢「え……へ!?」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……!? どうしたの?」

歩夢(侑ちゃんに抱きしめられる。なんで!?)

歩夢(う、嬉しいけど……)

歩夢「侑ちゃん、恥ずかしいよ……」

侑「ごめんね、歩夢」

歩夢「え?」

侑「ごめん……ごめんなさい……」

歩夢「???」


変な侑ちゃん。そんな風に思ってしまった。



12: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:37:50.02 ID:bbfGuWuJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「へ……? 私、入院してるの?」

侑「うん」

侑「ずっと……寝たきりだったんだよ?」

歩夢「本当に……?」

侑「……うん」

歩夢(でも、言われてみれば確かに変な感覚だ)

歩夢(記憶が曖昧だし。頭もまだぼーっとしてる)

侑「大丈夫……?」

歩夢「と、とりあえずは大丈夫。ちょっとビックリしちゃってるけど」



13: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:39:40.51 ID:bbfGuWuJ.net

侑「……」

歩夢「?」

歩夢「侑ちゃん、元気ない?」

侑「へ……? そ、そんなことないよ?」

歩夢「本当に? なんか侑ちゃんっぽくないよ?」

侑「!!」

侑「…………」

歩夢「ゆ、侑ちゃん?」

侑「……ごめんね……」

侑「気にしないで」ニコッ

歩夢「え? う、うん……」



16: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:42:18.66 ID:bbfGuWuJ.net

歩夢(侑ちゃんから今の状況を聞いた。どうやら私は、事故にあったらしい)

歩夢(それで怪我をしてしまって、入院中)

歩夢(でも、全然記憶にない)

歩夢(なんでなんだろ?)

侑「歩夢」

侑「今、何月だと思う?」

歩夢「……」

歩夢(侑ちゃんから、色々質問を受ける)

歩夢(とりあえず答えるけど……やっぱりなんか変)

歩夢(まるで私がちゃんと受け答え出来るか、確認してるみたい)



18: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:48:03.25 ID:bbfGuWuJ.net

歩夢「5月?」

侑「……違うよ。6月」

侑「エマさん達が卒業してから、もう3ヶ月経つんだよ」

歩夢「あっ……そっか……」

歩夢「私、もう3年生だった」

歩夢「なんで1ヶ月勘違いしてたんだろ」

歩夢「やっぱり寝たきりだったからかな?」

侑「…………うん。そうかも」

歩夢「本当に実感無いなぁ……」

歩夢「侑ちゃん、他のみんなはどうしてるの?」

歩夢「それに、スクールアイドル同好会に行かなくて良いの?」

侑「……もう、ないよ」

歩夢「へ?」

侑「スクールアイドル同好会は、もうない」

歩夢「!?」



19: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:51:02.96 ID:bbfGuWuJ.net

歩夢「な、なんで……?」

侑「歩夢は気にしなくていい」

歩夢「そ、そんな……無理だよ! 突然そんなこと言われたって……気にするよ」

侑「いいから」

侑「ね?」

歩夢「…………」


綺麗な、緑色の瞳。真っ直ぐ見つめられる。

なんにも気にするなと言いたげだ。



21: 名無しで叶える物語 2021/11/18(木) 23:54:51.99 ID:bbfGuWuJ.net

歩夢「……そんなこと言われたって……無理だよ」

侑「大丈夫」

歩夢「な、何が」

侑「私がずっと、歩夢のそばにいるから」

歩夢「へ……?」

侑「私が支える。離れない」

侑「歩夢は私がずっと、支える」

侑「だから、もうスクールアイドルの事は忘れよう」

歩夢「侑ちゃん……」

歩夢「わけ、わからないよ……」

侑「……本当に……ごめんなさい……」


──その時だった。


かすみ「あ、歩夢先輩……?」

侑「!!」

歩夢「かすみちゃん……?」


かすみちゃんが、病室の扉の前に立っていた。



24: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:00:41.44 ID:3xfRMSE1.net

かすみ「ちゃ、ちゃんと──」

侑「帰って」

歩夢「──へ?」

かすみ「……」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」

侑「かすみ……ちゃん」

侑「歩夢は今起きたばっかなの」

侑「色々混乱させちゃうから、帰って」

かすみ「……」

侑「帰ってよ!!」

歩夢「!?」ビクッ


聞いたこともない声だった。


歩夢(侑ちゃんが……怒鳴った?)

かすみ「……」

歩夢(かすみちゃんに対して!?)



30: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:07:46.77 ID:3xfRMSE1.net

2人は、仲良しだった。

ちょっぴり羨ましいと思うくらい、楽しく笑顔で過ごしていた。

2人は、笑顔で──よく一緒にいた。

けれど今は、険悪だ。


かすみ「…っ…」

侑「……」

歩夢「ゆ、侑ちゃん。どうしたの? なんでそんなに」

侑「歩夢、いいから」

歩夢「……」

歩夢(こんなに怒ってる侑ちゃん……初めて見る)



31: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:14:18.07 ID:3xfRMSE1.net

侑「かすみちゃん。聞こえなかったかな?」

侑「早く、帰ってよ」

かすみ「……ッ!!」

かすみ「混乱させているのは、どっちですか!」

歩夢「!?」

侑「うるさいよ! いいから、帰ってよ!!」

歩夢「ちょ、ちょっと2人とも……やめてよ!」

歩夢「喧嘩……しないでよ……」

かすみ「!! ごめんなさい」

侑「……」

侑「かすみちゃん。ごめん」

侑「でも、今日の所は帰って」

かすみ「…………」

かすみ「なんで」

かすみ「──なんでそうやって……一人で抱え込むん……ですか…っ…!」ポロポロ

侑「……ッ」

歩夢「……」


侑ちゃんは、申し訳なさそうな表情を浮かべている。

私は何も言えないまま、2人を見つめていた。



32: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:25:08.96 ID:3xfRMSE1.net

かすみ「もっと、周りに頼ってよ……!」

かすみ「せっかく歩夢先輩と……こうして話せるようになったのに……!」

かすみ「なんで……1人で……!」ポロポロ

侑「……」

侑「……ごめん……」

侑「けど、本当に今日の所は帰って」

侑「今は上手く……キミと落ち着いて話せる気がしないから」

かすみ「ッ…っ…!」

侑「ただ、複数人で来ないって約束を守ってくれたことは……ありがとう」

かすみ「……」

歩夢「……」


──落ち着いてきた。そう思っていた瞬間だった。


かすみ「でもそれじゃ……しず子が──」

侑「」


病室が、揺れたような気がした。



34: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:33:42.45 ID:3xfRMSE1.net

侑「その子の名前を──出さないでッ!!」

歩夢「ひっ!」ビクッ!!

かすみ「っ……!」

侑「なんで……歩夢の前で……!」

侑「やめてよ!! 誰のせいで……歩夢は……!!」

侑「──今!! こうなってると思ってるの!?」

侑「全部!! あの子のせいなんだよ!?」

侑「二度とその名前を出さないで!!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん! 落ち着いて!」

かすみ「!! ……全部しず子のせいだって言いたいの!?」

侑「そうでしょ!」

かすみ「違う、違うよ!!」

かすみ「しず子のせいじゃないもん!」

かすみ「侑先輩だって本当は──」

侑「何が……違うんだよ!!」

侑「全部、あの子のせいだよ」

侑「それがなんで分からな──」

歩夢「やめてよ!!」

侑「!!」

かすみ「!!」

歩夢「もう……やめてよ……」

歩夢「2人して……喧嘩しないでよ……」ポロポロ

侑「……」

かすみ「……」

歩夢「こんなの見てるの……嫌だよ……」



36: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 00:50:27.91 ID:3xfRMSE1.net

侑「……ごめん」

侑「ごめんね。歩夢……」

侑「私もう……ダメなんだ……」

歩夢「侑ちゃん……」

かすみ「……また今度来ます……」

歩夢「あっ、かすみちゃん!」

かすみ「ごめんなさい。歩夢先輩。……侑先輩」

侑「……」

かすみ「……さよなら……」

タッタッタッタ

侑「……」

歩夢「行っちゃった……」

侑「……」スタッ


侑ちゃんが私のベッドの横に座る。


歩夢「侑ちゃん……」

侑「歩夢が入院してからね、色々あってさ」

侑「……仲、悪くなっちゃったんだ」

侑「……全部……私のせいなんだ……」

侑「私が……」

侑「うっぐ……ひっぐ…っ…!」ポロポロ

歩夢「!! 侑ちゃん……」

侑「仲直り……したいよぉ……」

歩夢「……」


侑ちゃんは、私の横でしばらくの間泣いていた。

まるで迷子になってしまい、帰り道が分からなくなってしまった子供のように──泣いている。

私も小さい頃、よく迷子になって泣いていた。

けどそんな時、必ず侑ちゃんが私を見つけたくれた。

何があったのか、まだよく分からない。

けれど、私は何も言わずに侑ちゃんの手をギュッと強く握りしめた。



38: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:02:54.05 ID:3xfRMSE1.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢(侑ちゃんから、色々と話を聞けた)

歩夢(私が事故にあってから……同好会は解散。現在は廃部となった)

歩夢(現在東雲総合病院に入院中で、学校も休学)

歩夢(4階の一人部屋)

歩夢(どうやらこの病院、上の階に行けば行くほど危険な状態らしい)

歩夢(5階建ての病院の、4階に私はいる)

歩夢(結構危ない状態だったのかな? 私……)

侑「歩夢」

歩夢「ん? どうしたの?」

侑「大丈夫? 疲れてない?」

歩夢「正直言うと……色々あり過ぎて疲れちゃったかも」

侑「あはは……だよね。ごめん」

歩夢「あれ? そう言えば侑ちゃん」

侑「んー?」

歩夢「今日、何曜日?」

侑「月曜日だよ」

歩夢「学校は?」

侑「サボってる」

歩夢「えぇ……」

侑「歩夢がいない学校に行ってもしょうがないでしょ?」

歩夢「な、何言ってるの!?」

侑「高咲侑にとっては、歩夢が一番大切なんだよ」

侑「だから、歩夢は私が支えるよ。ずっと一緒にいる」

歩夢「……」



39: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:12:52.78 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「ダメです」

侑「へ?」

歩夢「ちゃんと学校に行って」

侑「あ、歩夢……?」

歩夢「おサボりはダメ!」

歩夢「気持ちは嬉しいけれど、ちゃんと行って」

侑「えぇ……」

歩夢「えぇ……じゃありません」

歩夢「折角音楽科に転科できたんだよ?」

歩夢「ほら、ちゃんとリボンも付けて! なんで外してるの? ワイシャツもスカートの中に入れる」

侑「わっ! わっ、歩夢! 分かったから~!」

歩夢「もう……」

歩夢「本当はちゃんと学校行く予定だったんでしょ? 制服だし」

侑「あはは……バレた?」

歩夢「幼馴染だもん。分かるよ」

侑「…………」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「ううん。なんでもない」

侑「うん。分かった。学校行ってくるよ」

歩夢「そうして?」

侑「放課後、また来るから」

歩夢「うんっ」ニコッ

歩夢「侑ちゃん。行ってらっしゃい」

侑「うん。歩夢、行ってきますっ」



41: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:28:42.15 ID:3xfRMSE1.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑ちゃんは学校へ向かった。

その後、お母さんがお見舞いに来てくれた。

私を見た時の表情、すごく安心したかのようだった。

けど、違和感があった。


歩夢母「今日は体調大丈夫?」

歩夢「? うん。大丈夫だよ?」

歩夢母「そう。なら良かった」

歩夢「?」


“今日は体調大丈夫?” 私、1ヶ月寝たきりだったんじゃないの?

それだけじゃなかった。


「上原さん。注射のお時間ですよ~?」

歩夢「ちゅ、注射ですか?」

「えぇ」

歩夢「な、何のですか?」

「何って……栄養剤ですよ? いつもやってるじゃないですか」

歩夢「へ?」

「3日前もやりましたよ?」

歩夢「3日前……? 先生、私……1ヶ月寝たきりだったんじゃ……?」

「へ? あ、あぁ……そうですね。うん。ごめんなさい」

「他の患者さんと勘違いしていたわ。ごめんね?」

歩夢「い、いえ」

「点滴だと色々と身体動かしにくいから、定期的の注射をしていきます。ちょっとチクッとしますけど、我慢してくださいね?」

歩夢「はい……」


違和感ばかりだった。


歩夢(けど……なんだろ)

歩夢(色々と考える事が)

歩夢(できない)

歩夢(まぁ……いっか……)


──そして、夕方になった。



44: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:44:23.18 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「ねぇ、覚えてる? その時侑ちゃん、私になんて言ったと思う?」

侑「私の分のおやつ、食べていいよ」

歩夢「へ? 本当に覚えてたんだ」

侑「ふっふっふ……歩夢との思い出は宝物なのさ」

侑「侑ちゃん日記、3冊目の34ページにその事を書いたんだよ。だから覚えてるよ」ドヤッ

歩夢「こ、細かい」

歩夢「じゃあその後の林間学校のお夕飯の時に、なんてあったと思う?」

侑「……えっと……ごめん。覚えてないや」

歩夢「もー! なんで肝心なこと覚えてないの?」

侑「あ、歩夢~……どうどう。ごめんって」

歩夢「もう……」

歩夢「困ったら、私が歩夢ちゃんを助けてあげるって言ってくれたじゃない」

侑「……あはは、そうだったね」

侑「ごめんね」

歩夢「いいけど……」

侑「あっ、思い出した。……その後結局カレーを焦がしちゃったんだよね?」

歩夢「そうだよ。……懐かしいね」


その後、侑ちゃんがやって来て思い出話に花を咲かせていた。

本当に懐かしい。

こうやって侑ちゃんと話していると、心がポカポカしてくる。



47: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:54:25.12 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「……」ウト、ウト

侑「あれ? 歩夢?」

侑「眠くなって来ちゃった?」

歩夢「うん……」

侑「寝てもいいよ? それまで近くにいるから」

歩夢「え……でも……」

侑「大丈夫だから。眠っちゃったら帰って、また明日の朝来るから」

侑「起きたばっかなんだもん。眠い時は寝た方がいいよ」

歩夢「…………」

歩夢(色々と気になることはある)

歩夢(けど……眠い)

歩夢(うん。あんまり気にしなくていいや)

歩夢(侑ちゃん、近くにいてくれるって言ってるもん)

歩夢(侑ちゃんが寝ていいって言ってるもん)

歩夢(侑ちゃんがいるからいいや)

歩夢「うん。そう……する……」

侑「うん」

侑「おやすみ、歩夢」

歩夢「……うん」



48: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:55:54.63 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「あはっ」

歩夢「あはははは……」

歩夢「おやすみ、おやすみ……侑ちゃん」

歩夢「侑ちゃん」

歩夢「侑ちゃん」



49: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 01:56:39.39 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん」



51: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:02:33.77 ID:3xfRMSE1.net

侑「なぁに? 歩夢」

歩夢「おはよう」

侑「もう。これから寝るんでしょ?」

歩夢「眠い」

侑「うん。だよね?」

侑「だから……おやすみ」

歩夢「なんで……なんで?」

歩夢「侑ちゃん!!」

侑「ほら、大丈夫だから。落ち着いて? 目を瞑って~」

侑「私がずっと、歩夢を支えるから」

歩夢「……うん……」

歩夢「…………」

歩夢「……すぅ……すぅ……」

侑「………………」

侑「おやすみなさい。歩夢」

侑「また、明日ね」

────────
──────
────
──




52: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:19:36.90 ID:3xfRMSE1.net

『次の事件のお知らせです』

『また駅構内で殺傷事件がありました』

『刺された女性は7名。命に別状ありませんでしたが、非常に痛々しく……』

『1か月前に起きた事件の影響でしょうか? ここ最近、こう言った事件が──』


「菜々」

せつ菜「!!」

「食事中はテレビ……消しましょう」

せつ菜「……うん。そうだね。ごめん、母さん」

ピッ

「……菜々」

せつ菜「……なに?」

「少し……学校休んでもいいのよ?」

せつ菜「へ?」

「ほら、ここ最近……危ない事件が起きてるじゃない。危ないわ」

せつ菜「大丈夫。たまたまだよ」

「でも……虹ヶ咲学園でも1ヶ月前に被害にあった子がいたじゃない」

せつ菜「!!」

「スクールアイドル同好会の子だったんでしょ? 菜々には関係ないかもしれないけれど──」

せつ菜「やめてよ!!」

「!!」ビクッ

せつ菜「あっ……ご、ごめんなさい」

せつ菜「私……勉強してきます。部屋にいるね」スッ

スタスタスタ

「あっ! な、菜々!」


バタンッ


せつ菜「……」

ペタッ

せつ菜「…ッ…」

せつ菜「なんで……こんなこと起きたんだろう……」

せつ菜「最初は……スクールアイドルを狙ったストーカーから始まった事件で……どんどん真似する人達が増えてきて……」

せつ菜「なんで……なんで……!!」

せつ菜「模倣犯なんて……」

せつ菜「みんな」

せつ菜「死んじゃえばいいのに……!!」



54: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:31:40.23 ID:3xfRMSE1.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

海の上にいた。

皆、このままじゃ溺れ死ぬ。

暗闇。冷たい海水が身体を冷やし、体力を蝕んでいく。

よく見ると、板がある。あれに捕まれば、溺れ死ぬ事はない。

このままでは、力尽きる。

あれを掴んで、生き残ろう。

あれ? 他に溺れている人がいる?

その子も板に気がついた。

このままじゃ──取られる。


「私のだよ」


私が板を先に掴んだ。



55: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:35:06.57 ID:3xfRMSE1.net

「お、お願いします。私にも掴ませてください。このままでは、溺れ死んでしまいます」

「ダメだよ」

「そ、そんな」

「私、死にたくないもん」

「そんなの……私だって……!」

「死にたくないよね? でも、早い者勝ち」

「他に板を探せば? 周りに板を掴んでる人、いるでしょ?」

「無理です。も、もう体力が……」

「ふーん。そう」

「……やだ……やだ……死にたくない」

「みんな死にたくないよ。生き物だもん」

「……っ……っっ……」

「ごめんね。さよなら」

「…………」








「これ、使って」



57: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:38:01.86 ID:3xfRMSE1.net

「……む……」

「…歩夢……」

(……ん……?)

「起きて」

(へ……?)

(誰かが私を、呼んでる?)

(誰……?)

「皆が待ってるよ」

「歩夢」

(この声)

(侑ちゃん……?)

「大丈夫」

(へ?)

「私が守るから」

────────
──────
────
──




58: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:43:17.29 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「……ん……」

歩夢(あれ……朝……?)

歩夢(侑ちゃんの声が、聞こえた?)

歩夢「……」

歩夢(夢を見てた?)

歩夢(昨日、私……何してたっけ?)

歩夢(頭がぼーっとする……)

「歩夢」

歩夢「……?」

侑「おはよう。歩夢」

歩夢「あっ……」

歩夢「侑ちゃん」

歩夢「おはよう」ニコッ

侑「うん。おはようっ」ニコッ



59: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:47:13.43 ID:3xfRMSE1.net

侑「今日も起きれて偉いね」

歩夢「えー? 普通だよ」

歩夢「それに、こっちのセリフだよ?」

歩夢「いつも私が侑ちゃんを起こしてあげてたのに」

侑「うん。そうだね」

歩夢「んしょ」

侑「あれ? 起き上がって大丈夫?」

歩夢「うん。平気」

歩夢「ちょっと、お花摘みに行きたい」

侑「そっか。なら付き添うよ」

歩夢「へ? 別に大丈夫だよ?」

侑「良いから。道迷っちゃうかもでしょ?」

歩夢「迷わないよ……もう……」

歩夢(侑ちゃん、心配性だなぁ)



61: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 02:55:25.97 ID:3xfRMSE1.net





侑「それじゃ、私は学校に行くから」

侑「まだ病み上がりなんだから、ちゃんと休むんだよ? 不用意に出歩いちゃダメだよ?」

歩夢「うん。大丈夫だよ。行ってらっしゃい」

侑「うん。行ってきます」

スタスタスタ

歩夢「……」フリフリ

歩夢(行っちゃった)

歩夢「……」

歩夢(こうなるとやっぱり暇だなぁ)

歩夢「あれ? そう言えば私のスマホは?」

歩夢(ない……)

歩夢(みんな、どうしてるんだろ?)

歩夢(スクールアイドル同好会……廃部になっちゃったんだっけ?)

歩夢「…………」

歩夢(寂しいなぁ……)



62: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:00:09.84 ID:3xfRMSE1.net

歩夢(かすみちゃんもせつ菜ちゃんも……愛ちゃんも璃奈ちゃんもしずくちゃんも……元気かな?)

歩夢(果林さん達が卒業してから、新しい1年生も入部しなくて……これからもこのメンバーでソロとして頑張っていこうって思ってた時だったのに……)

歩夢「はぁ……」

歩夢「……飲み物でも買ってこよう……」

歩夢(それくらいなら、平気だよね?)

スタスタ



63: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:10:15.08 ID:3xfRMSE1.net

「─────!! ────ッ!!」

歩夢「へ!?」ビクッ


廊下に出てすぐ、隣の病室から叫び声が聞こえた。

かなり、錯乱している。


歩夢(な、なんか……怖い)

歩夢(早く飲み物買って戻ろう)


そう思い、早歩きして自動販売機のある休憩スペースを目指す。

その時、廊下を歩いていたナースさんが私を見て驚いた。


「う、上原さん!? どうしたんですか!?」

歩夢「へ? いや、飲み物を買いに行こうと思って……」

「もう、そういう時はナースコールして下さい。一人で出歩かない」

歩夢(な、なんかすごく心配されてる)

歩夢「別に、大丈夫ですよ?」

「……ほら! 転んで怪我しちゃったら大変でしょ?」

歩夢「あっ……そう、ですね」

「何も持ってないですよね?」

歩夢「小銭だけです」

「なら良かった。私が買ってきますから、部屋に戻りましょう?」

歩夢「…………はい」

歩夢(なんなんだろ? これ……)



66: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:20:34.82 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「……」

歩夢(結局、病室に戻されちゃった)

「麦茶、ここに置きますね?」

歩夢「あっ……ありがとうございます」

「いえいえ。上原さん、ナースコールはどれ?」

歩夢「えっと、これです」

「そうです。なにか困った時は?」

歩夢「これでナースさんを呼びます」

「はい。結構です。朝食はまた後で持ってきますからね~」スタスタ

歩夢(ナースさん……行っちゃう)

ペラッ

歩夢「!!」

歩夢(紙、落ちたよね?)

歩夢「あ、あの! ……行っちゃった」

歩夢(持ってたクリアファイルから落ちたみたい)

歩夢「なんの紙だろ?」スタスタ


落ちた紙を拾う。

書かれた文字が、目に焼き付いた。



67: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:26:49.25 ID:3xfRMSE1.net

───────────────

【精神病棟 4階 患者リスト】

・■■ ■■

・■■ ■

・■■■ ■■

・■■ ■■

・■ ■■■

・■■■ ■

・上原 歩夢

・■ ■■

・■ ■

・■■ ■■

───────────────



68: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:27:47.33 ID:3xfRMSE1.net

歩夢「」

歩夢「」

歩夢「」

歩夢「」

歩夢「──え?」



70: 名無しで叶える物語 2021/11/19(金) 03:40:08.81 ID:3xfRMSE1.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


しずく「……」


「桜坂さん……今日は学校来てるね……」ヒソヒソ

「だね。でも、元気ないよね……」ヒソヒソ

「それもそうだよ……だって……あの子、被害者──」ヒソヒソ


ガンッ!!!!


「「「!?」」」


しずく「……ッ……」

しずく「静かに……して下さい……!」


「ご、ごめん……」


しずく「…………」フイッ

しずく「……」ペラッ ペラッ


(ずっと本読んでる……)


スタスタ


しずく「……?」

璃奈「おはよう」

しずく「………………璃奈……さん……」

璃奈「来て」

しずく「…………」

璃奈「大丈夫。かすみちゃんは、いないから」

しずく「…………」

璃奈「ちょっと、お話しよ?」

璃奈「お願い……」ギュッ

しずく「……………………わかった」パタンッ



85: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 05:14:07.54 ID:ip4i4zGf.net





しずく「…………」

璃奈「はんぺん、よしよし」ナデナデ


璃奈さんから呼ばれ、外に出る。

何か話があるって言われたけれど、言い出した本人はさっきからずっと白猫のはんぺんを撫でている。


しずく「…………」

しずく「話って、なに?」

璃奈「猫、すき?」

しずく「…………急にどうしたの?」

璃奈「すき?」

しずく「……犬派だけど、猫も好きだよ」

璃奈「よかった」

しずく「…………なにが?」

璃奈「今度、猫カフェ行こ?」

璃奈「癒されに、行こうよ」

しずく「…………」


真っ直ぐ見つめられる。

私の事を心配しているんだろうか。

何とかして──元気付けようとしている雰囲気がある。


しずく「行かない」


けど──そんな優しさいらない。



86: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 05:28:51.76 ID:ip4i4zGf.net

しずく「そんな時間ない」

璃奈「……ダメだよ。ちゃんと、休まないと」

璃奈「人は癒しがないと……壊れちゃう」

しずく「………………」

璃奈「お願い……」

璃奈「しずくちゃん……」

しずく「………………」


この子は本当に優しい。天王寺璃奈さん。

純粋に、私の事を心配してくれている。

綺麗な心の持ち主で、美しい心を持った人。

──歩夢さんと侑さんをあんな目に合わせちゃった私の心配をしてくれている。


しずく「うるさいなぁ」


ごめんね、璃奈さん。

あなたは優しすぎるから。私と一緒にいちゃダメ。

だから──突き放すよ。


しずく「私に構わないでよ」

璃奈「!!」



88: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 05:41:32.18 ID:ip4i4zGf.net

しずく「私に優しくして、何がしたいの?」

しずく「何の意味があるの?」

璃奈「い、意味とかじゃなくて……」

しずく「ふーん」

しずく「じゃあ、なに?」

しずく「偽善?」

璃奈「ち、違う……」

璃奈「私は、しずくちゃんが心配で」

しずく「名前、呼ばないでよ」

しずく「不快だから」

璃奈「……」

しずく「………………」

しずく「もう、私に近づかないで」

璃奈「やだ」

しずく「…………」

しずく「分からないかな? じゃあはっきり言うね?」

しずく「…………私、あなたの事が嫌いなの」

璃奈「!!」

しずく「何考えてるのか分からないもん」

しずく「そんな人に心配されたって迷惑なの」

璃奈「……」

璃奈「っ……」ポロ、ポロ

しずく「………………」


「なに、してんの?」


しずく「……」

璃奈「!!」

スタスタ

愛「……」

璃奈「愛、さん……」

愛「……しずく」

愛「りなりーを泣かせたの?」

しずく「…………」



89: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 05:46:03.99 ID:ip4i4zGf.net

しずく「勝手に泣いただけです」

愛「……」

愛「ねぇ、しずく。……もう、やめよーよ」

しずく「…………なにがですか?」

愛「そうやって……一人で抱え込まないでよ」

璃奈「愛さん……」

しずく「…………」

愛「わざと皆を突き放してるの、バレバレだよ」

しずく「…………」

しずく「ふふっ」

しずく「ほんっと、頭がお花畑な方々ばかりですねぇ」

愛「……」

璃奈「……」



90: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:00:43.57 ID:ip4i4zGf.net

しずく「単純にあなた達と一緒にいるのが、時間の無駄なだけです」

しずく「いらない」

しずく「こんな優しさ、いりません」

愛「……しずく」

愛「壊れちゃうよ」

しずく「……はぁ……」

しずく「あなたも璃奈さんと一緒ですね」

愛「……」

しずく「…………愛さんも、璃奈さんも」

しずく「私の為を思っているのなら、もう私に構わないで」

しずく「さよなら」

愛「……最後に、これだけ教えて?」

愛「ゆうゆに、会いに行ってあげた……?」

しずく「………………」

スタスタ

愛「……」

璃奈「……」



91: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:08:56.92 ID:ip4i4zGf.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

『うぅ……うあぁああん……!』

『ここ、どこぉ……』

『ゆうちゃん……おかーさん……!』


泣いている小さな女の子が一人。


『ひっぐ……うぅ……』


迷子になって、泣いている小さな女の子。

遠くから、女の子が歩いてくる。


『見つけた』

『ふぇ……?』

『まいごのまいごの あゆむちゃん』

『あなたのおうちは どこですか?』

『あっ……!』パァァァァ

『ゆうちゃん!』

『もう、ダメだよ。ひとりでどっかに行っちゃ』

『ごめんなさい……』


──侑ちゃん。



93: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:27:19.42 ID:ip4i4zGf.net

「歩夢」


なぁに? 侑ちゃん。


「起きて」


起きてるよ? 侑ちゃん。


「ううん。まだ寝てるよ」


寝てないよ? 侑ちゃん。


「皆が待ってるよ」


誰を? 侑ちゃん。


「歩夢の帰りを待ってる」

「だから」

「強く、生きて」

「ごめんね、歩夢」

────────
──────
────
──




94: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:28:07.41 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「…………」

歩夢(いま……なんじ?)

歩夢「……」

歩夢(あたま、痛い)

歩夢(身体、動かない)

歩夢(ぼーっとする……)

歩夢「…………」

歩夢(私、なにしてたんだっけ?)

歩夢「…………」

歩夢(思い出せない。なんか、腕も痛い)

歩夢(なんか……刺されたみたいな感じ)


「何──ですか!」

「で──から、今日──面会禁──す!!」


歩夢「…………」

歩夢(廊下……なんか騒がしい)

歩夢(どうでもいいや)

歩夢(侑ちゃん以外どうでもいい)

歩夢「……」

歩夢「侑ちゃん」


歩夢「侑ちゃん。侑ちゃん。侑ちゃん」

歩夢「どうして?」



95: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:31:44.97 ID:ip4i4zGf.net

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96: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:36:39.03 ID:ip4i4zGf.net

「歩夢」

「ひとりになんてしないよ」

「起きて」

「大丈夫。私はちゃんといるから」

「だから」

「そろそろ起きて」

「思い出して」

「皆が待ってる」

「そして」




「私を見つけて」



98: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:39:06.08 ID:ip4i4zGf.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

海の上にいた。

皆、このままじゃ溺れ死ぬ。

暗闇。冷たい海水が身体を冷やし、体力を蝕んでいく。

よく見ると、板がある。あれに捕まれば、溺れ死ぬ事はない。

このままでは、力尽きる。

あれを掴んで、生き残ろう。

あれ? 他に溺れている人がいる?

その子も板に気がついた。

このままじゃ──取られる。


歩夢「私のだよ」


私が板を先に掴んだ。



99: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:41:19.28 ID:ip4i4zGf.net

──なにしてるの?

あれ、私?

海の上にいる。

板を掴んでいる、私が見える。

そして──しずくちゃんもいた。



100: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:42:29.68 ID:ip4i4zGf.net

しずく「お、お願いします。私にも掴ませてください。このままでは、溺れ死んでしまいます」

歩夢「ダメだよ」

しずく「そ、そんな」

歩夢「私、死にたくないもん」

しずく「そんなの……私だって……!」

歩夢「死にたくないよね? でも、早い者勝ち」



102: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:44:13.01 ID:ip4i4zGf.net

──な、なにしてるの?

私が板を、独り占めしている。

しずくちゃんが、溺れてる!!

早く、早く板を渡してよ!!

このままじゃ、しずくちゃんが……!



103: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:46:59.25 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「他に板を探せば? 周りに板を掴んでる人、いるでしょ?」

しずく「無理です。も、もう体力が……」

歩夢「ふーん。そう」

しずく「……やだ……やだ……死にたくない」

歩夢「みんな死にたくないよ。生き物だもん」

しずく「……っ……っっ……」

歩夢「ごめんね。さよなら」

しずく「…………」



104: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 06:51:18.87 ID:ip4i4zGf.net

──私は、選択できなかった。

しずくちゃんに、“言わせてしまった”

そして、その結果。





侑「これ、使って」


──侑ちゃんが溺れた。



105: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:02:38.00 ID:ip4i4zGf.net

『余計なことしてくれましたね……!』

侑『ふふっ……計画通りいかなくって、残念だね』

侑『しずくちゃん』

しずく『ぁ……や、やめてください……!』

歩夢『……』

『美しいしずく様の最後を見れると思ったのに。高咲侑……マネージャーの分際で……!!』

しずく『や、やめて!!』

しずく『やめて!! やめてやめてやめて!! 言いましたよね!? 私が死にます!!』

しずく『だから、お願いします!! 2人には手を出さないで──!!』

侑『歩夢を連れて、逃げて』

歩夢『ゆ、侑ちゃん……?』

『……死んでください。高咲侑』

侑『歩夢。ごめ────』


ゆうちゃんのおなかにナイフがつきさされた。


歩夢『』


私の視界が、壊れた。



107: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:08:49.73 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「あっ……」

歩夢「ああ」


目が覚める。目に映るのは、病室の天井。


歩夢「はっ……はぁ……はぁ……!!」


息苦しい。頭が痛い。

──全部、思い出す。

忘れていた情報が、頭で整理される。


歩夢「あ、ああああああああああ」

歩夢「ああああああああああああああああッ!!」


──全部、思い出した。



108: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:09:54.84 ID:ip4i4zGf.net

「歩夢……?」

タッタッタ!!

侑「あ、歩夢!? 大丈夫!?」

歩夢「……ごめんね……」

侑「へ?」

歩夢「ごめんなさい……全部……思い出したよ」

侑「な、何を……?」

歩夢「全部、思い出した」

侑「お、思い出すってなにを!? 歩夢は事故にあっ──」

歩夢「大丈夫……」

歩夢「もう、いいんだよ」



109: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:11:57.63 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「ごめん」

歩夢「ごめんね……!」ポロポロ

歩夢「ごめんなさい……!」




歩夢「しずくちゃん」

しずく「!!」

しずく「…っ…!」



110: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:15:19.15 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「……」


──私を心配そうに見つめていた、女の子。

ツインテールで、毛先が緑色。同じく綺麗な緑色の瞳の女の子。

虹ヶ咲学園の学年を証明するリボンは外してある。でも、ワイシャツはスカートから出ている。

侑ちゃんは、いつもそうしていた。

侑ちゃんの姿をしたしずくちゃんが──私の横にいる。


しずく「……」


──全部、思い出した。



112: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:23:24.05 ID:ip4i4zGf.net

しずく「何言ってるの? 歩夢」

しずく「私、侑だよ?」

しずく「昔から……ずっと一緒にいたじゃん……」

歩夢「しずくちゃん。髪、切っちゃったの……?」

しずく「だ、だから……違うって」

歩夢「ダメだよ……しずくちゃん、綺麗な髪だったのに……傷んじゃうよ……!」

しずく「……違う……」

歩夢「しずくちゃん」

しずく「違う」

歩夢「ごめんね……!」

しずく「違うよッ!!」

歩夢「…っ…」



113: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:32:19.30 ID:ip4i4zGf.net

しずく「私は! 高咲侑!」

しずく「歩夢の幼馴染で……歩夢の一番大切な人」

しずく「私が、歩夢を支えなきゃいけな──」

歩夢「ねぇ、覚えてる?」

しずく「!!」

歩夢「小さい時、私が迷子だった時……何の歌を歌って見つけてくれた……?」

しずく「……えっと」

歩夢「多分、侑ちゃんが書いてた日記には載ってないよ?」

しずく「!?」

歩夢「……しずくちゃん」

歩夢「もう、いいんだよ……私の為に」

歩夢「ありがとう」

しずく「っ……やめて」ボソッ

歩夢「……」

しずく「やめてよ!! やめて!!」

しずく「お礼なんて言わないでッ!!」

しずく「私を──許さないで!!」

しずく「私は……私は…っ…!」

しずく「私のせいで……2人は……!」ポロポロ

歩夢「……」



114: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:41:00.05 ID:ip4i4zGf.net

歩夢「しずくちゃん」スッ

ギュッ

しずく「!!」

歩夢「もう、いいの」

歩夢「辛かったよね……? 私の為に……侑ちゃんの為に」

歩夢「ありがとう」

しずく「!!」

しずく「……辛く、ない」

しずく「辛いのは……私じゃない……!」

しずく「歩夢さん……それに、侑さんのお母様とお父様……!」

しずく「私なんかより……皆さんの方が」

しずく「辛いよぉ……!!」ポロポロ

歩夢「……」ギュュュュ

しずく「っ……ひっぐ……!」

しずく「うああああああん…っ…!」

歩夢「……」

しずく「ごめんなさい……! ごめんなさい…っ…!」

歩夢「……」ナデナデ


しずくちゃんは、ずっと謝りながら泣いていた。



116: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 07:49:15.38 ID:ip4i4zGf.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

それは、ある日の出来事。


侑『へ? ストーカー被害にあってる?』

しずく『そうなんです……』


ここ最近、誰かに付けられる事が増えた。

最初は勘違いかと思ったんだけど、下駄箱に私の帰り道の写真が入れてあった事が、恐怖の対象になった。

すぐ、警察や親に言うべきだった。

──でも、私は頼りになる先輩でマネージャーである侑さんに相談してしまったんだ。


侑『それはなんとかしなきゃだね』


一生後悔する。

過去に戻れるなら、戻りたい。


侑『しずくちゃん』

侑『私に任せてよ』


──ここから先は、現実。

過去にあった、真実の話。



126: 名無しで叶える物語 2021/11/20(土) 22:59:26.64 ID:ip4i4zGf.net





放課後。この日は部活動もなかった為各々自由行動の日であった。

同級生であるかすみさんはコッペパン同好会、璃奈さんは焼き菓子同好会へ遊びに行くとの事で別行動。

私は演劇部も休みだった為、特に用事はなかった。
そんな中、侑さんから空き教室に呼び出される。そこで今後の事について考えた事があると聞いた。

そこには歩夢さんの姿もあった。


侑『ごめんしずくちゃん。歩夢にはしずくちゃんの今の事教えちゃった』

しずく『いえ、歩夢さんになら全然大丈夫です』

歩夢『侑ちゃんから聞いたよ? しずくちゃん。怖かったよね…』


本気で心配そうに私を見つめてくれる歩夢さん。優しくて、話してると癒される感じがして大好き。


侑『あんまり大きな問題にしたくなかったから私に相談してくれたんだと思うけど、歩夢には情報共有したよ』

侑『他の子達にはまだ内緒にしておこう。不安にさせちゃうかもしれないし』

しずく『そう、ですね。私からもそれでお願いしたいです』

侑『それで、今日この後なんだけど』

侑『とりあえず歩夢の家に行こう』

しずく『へ? 歩夢さんのお家に……ですか?』

侑『うん』



162: 名無しで叶える物語 2021/11/21(日) 05:53:29.57 ID:tUluLXWc.net

侑『しずくちゃん。今日ご両親はお仕事かな?』

しずく『父はお仕事です。母は家にいると思います』

侑『免許って持ってたりする?』

しずく『2人とも持っています。それぞれの車もあって、よく父は駅まで送り迎えしてくれます』

侑『なら、今日は迎えに来てもらおう』

しずく『母に迎えに来てもらうって事ですか?』

侑『うん。神奈川から東京まで迎えに来てもらうのは申し訳ないけど、車の中で事情を話そう』

侑『ご両親には話しておいた方がいいと思うんだ』

しずく『そう、ですよね……。あっ、ならメッセージで内容を──』

侑『ううん。直接話した方がいいよ』

侑『マンガみたいなことないと思うけど、ハッキングされてアプリのメッセージを覗かれたりするかもしれないじゃん?』

しずく『は、はぁ』

侑『念には念を、ね? 盗聴器とか付けられてないか調べよ?』

侑『捜査開始です』

歩夢『侑ちゃん……真面目にやってる?』

侑『や、やってるよ~』

侑『ちゃんと色々考えたって』

侑『んで、話を戻すね。学校だとどうしても門限はあるし』

侑『……』スッ

しずく『へ? 侑さん?』

侑『もしかしたら、意外と近くにいる子がストーカーしてる可能性もある。下駄箱に写真入ってたんだし』ボソッ

侑『だから、一旦歩夢の家に行って落ち着こう』ボソッ

しずく『……』コクリ

侑『大丈夫だよ』

侑『またそこで今後の事も色々考えていこ?』ナデナデ

侑『相談してくれて、ありがとうね?』ニコッ

しずく『──はいっ』ニコッ



166: 名無しで叶える物語 2021/11/21(日) 08:16:45.46 ID:tUluLXWc.net

侑『ただ、ごめん。今日私、このあと音楽科で発表会に向けて練習があってさ』

侑『少しだけ居残りしなきゃなんだ』

歩夢『だから私の家にとりあえず来て? 侑ちゃんを待ちながら色々考えようよ』

しずく『はい。分かりました』


──本当に、後悔する。


侑『歩夢、私のスマホ渡すから持ってて』

歩夢『分かった』

侑『なにかあったら、私のタブレットに連絡して』

侑『確認するから』

歩夢『うん』


──最初から警察に行けばよかったんだ。

でも、私は間違えた。


歩夢『それじゃしずくちゃん。一緒に帰ろう?』ニコッ

しずく『はい!』


やり直したい。過去に戻りたい。

けど、それはできない。現実だから。

これは、現実だから。



180: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 18:17:41.95 ID:a1JH8afy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢『──それでね、せつ菜ちゃんがいつも以上に張り切っちゃって』

歩夢『愛ちゃんと侑ちゃんがストッパーになるっていう珍しい事が起きたんだぁ』

しずく『せつ菜さん……たまにものすごくテンション高くなって暴走しちゃいますよね』

歩夢『そうなの。だからこそ一緒にいて楽しいんだよね』

しずく『ふふっ、わかります』

歩夢『しずくちゃんは最近いい事あった?』

しずく『そうですね。この前かすみさん達と遊んでいた時なんですけれど──』


歩夢さんとバス停を目指しながら歩く。ここ最近あった事や、犬や猫の動物動画について盛り上がったり等、楽しく会話しながら一緒に帰る。

よく話を聞いてくれて、逆に楽しい話もしてくれた。

一緒にいて安心感がある。この時は不安な気持ちも忘れることができた。


歩夢『あっ、しずくちゃん。リボンがちょっとズレてるよ?歩きながら直してあげるね?』スッ


でも、そんな時に突然、歩夢さんが私にすっと近付く。


しずく『へ?』


私は少しだけ驚く。ものすごく距離が近い。


歩夢『つけられてる』ボソッ


そして──その一言で更に驚く事になった。



181: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 18:23:52.06 ID:a1JH8afy.net

しずく『へ──』

歩夢『も~、しずくちゃん? 直しにくいから頭を動かさないで?』ニコッ


笑顔の歩夢さんだったけれど、先程の笑顔とは違う雰囲気だった。

普段のようなぽわぽわとした雰囲気はなく、なんだか笑っているけれど笑っていない。そんな空気が感じ取れる。
私のリボンを直しながら、頭を少し撫でてくれた。


歩夢『……うん。いい感じっ! 写真撮って送信するから確認してみて?』 パシャッ

歩夢『……』ポチポチ

ピローン

しずく『……』


スマートフォンに、メッセージが届く。歩夢さんのメッセージ。

写真ではなく文章が送られてくる。



182: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 18:29:38.76 ID:a1JH8afy.net

───────────────

歩夢さん:バス停まで行く予定だったけれど、歩こう

歩夢さん:まだバスが来るまで時間が掛かるから

歩夢さん:東雲は住宅街だから、裏道とか大通りを上手く使って撒こう

歩夢さん:私が引っ張るから!

歩夢さん:頑張ろう。しずくちゃん

〈うさぎのスタンプ〉

───────────────



185: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 18:36:48.64 ID:a1JH8afy.net

歩夢『どうかな?』

しずく『……はい! すごくいい感じです。とっても可愛くなりました』ニコッ

歩夢『ほんと? よかった~』


少しだけ、目線を後ろに向ける。

見えたのは、“違和感のある人”

虹ヶ咲学園の制服を身にまとった方々もいたけれど、その中に──ニット帽とサングラスを付けた男性が、電柱の影に隠れているのが見えた。

季節は5月。違和感ばかりだ。周りの子達も変な目で見ている。

でも、ここ最近後ろをつかれていた嫌な雰囲気を、肌で感じる。

怖い。怖かったけれど、私はそれを必死に隠した。

大丈夫。歩夢さんがいる。

普段は優しい彼女だけれど、すごく頼りになる。やっぱり、先輩は凄いなぁと改めて思う。

なんですぐに気がつけたんだろう?



186: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 18:44:40.12 ID:a1JH8afy.net

歩夢『しずくちゃんのリボンって本当に可愛いよね。すごく似合ってるもん』

しずく『あ、ありがとうございます! これ、お母さんが私にくれたものなんです』

歩夢『そうなの? なら思い出のリボンだね』

しずく『はいっ』

歩夢『いいなぁ。侑ちゃん、髪を結ぶのいっつも同じヘアゴムだから…可愛いリボンとか買ってあげようかなぁ』

しずく『あっ、なら今度お買い物に行きませんか? 3人で』

歩夢『わぁ……! いいねそれ! いこいこっ』ニコッ


歩きながら、話す。

手汗が滲み出る。

大丈夫。大丈夫だ桜坂しずく。

そう自問自答し続け、歩く。


しずく『……』


──そして、歩夢さんが言い放った。


歩夢『走って!』

しずく『!!』


それが合図。
歩夢さんが私の手を引き、走り出した。



189: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:02:03.45 ID:a1JH8afy.net

しずく『はっ、はっ……!』タッタッタ!!

歩夢『大丈夫。大丈夫だよ、しずくちゃん』タッタッタ!!


練習の時のランニングよりも緊張感がある。だからか、すごく疲れる。すぐに息が上がってしまう。

まだつけられているのだろうか? このまま逃げられるのか?

色々な疑問が浮かび上がるけれど、必死に走るしか無かった。

人手の多い大通りを走り、裏路地に入る。小さな道を走り抜け、また大通りに出る。
そのまま暫く走り、裏道に入る。

どこを走っているのかは、地元じゃないから分からない。だから、地の利がある歩夢さんに頼った。

私の手を、ギュッと握ってくれた。
彼女の手は濡れていた。

手汗だ。私と同じで歩夢さんの手からも手汗が滲み出ていた。きっと、怖いんだ。


歩夢『大丈夫だよ。──大丈夫だから』

歩夢『しずくちゃん。大丈夫だよ』


それでも、歩夢さんは私に大丈夫だよと言い続けてくれた。

だから私も、走れた。



191: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:08:37.86 ID:a1JH8afy.net

歩夢『はぁ、はぁ、はぁ……!』

しずく『ごほっ……はぁ、はぁ……』


暫く走り、2人とも限界が来る。

段々とペースダウンしてしまい、立ち止まってしまう。

後ろを見ると、誰もいなかった。


歩夢『撒けた、みたいだね』

しずく『はぁ、はぁ……』


油断はできない。じっと後ろを見つめる。

誰もいないし、人の気配も感じない。

──撒けたみたいだ。


歩夢『大丈夫? しずくちゃん』

歩夢『頑張ったね』

しずく『歩夢さん……』


歩夢さんが私の頭を優しく撫でてくれた。

笑顔。──すっごく安心した。



193: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:14:29.66 ID:a1JH8afy.net

しずく『本当にありがとうございました。歩夢さん……』

歩夢『そんな大したことしてないよ? 私、先輩だもん』

歩夢『これくらいお易い御用だよ』

しずく『ふふっ、かっこよかったです』

歩夢『か、かっこいい!? 初めて言われたよ……』

しずく『普段は可愛い歩夢さんなのに、すごくかっこよかったです』

歩夢『や、やめてよぉ……照れちゃうよ?』

しずく『……やっぱり可愛いです』

歩夢『へ!?』


先程までの緊張感はどこへやら。

私達は賑やかに談笑していた。



195: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:24:58.28 ID:a1JH8afy.net

しずく『それにしても……よく分かりましたね。つけられているの』

歩夢『だって、露骨だったもん。つけるならもっと上手く隠れないと…』

歩夢『あんなのバレちゃうよ』

しずく『ま、まぁ確かに』

歩夢『それに、気配はもっと消すべきだよ』

歩夢『服も音が鳴りにくいのにしないと』

しずく『? 歩夢さん、何か詳しくないですか?』

歩夢『へ!? そ、そんな事ないよ!?』

歩夢『別に、侑ちゃんが休日どっか行った時とか後をつけたりしてないよ!?』

歩夢『──って! 私なにを……ち、違うからね!? しずくちゃん!』

しずく『……』

しずく(あんまり触れないようにしよう…)



196: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:32:59.32 ID:a1JH8afy.net

歩夢『そ、そうだ。まだ油断はできないからそろそろ行こ?』

歩夢『もうすぐ私の家だから行こ? すぐそこが大通りだし』

しずく『そうですね。行きましょう』

歩夢『うん』


スタスタ

──足音が聞こえた。


歩夢『!!』

しずく『!?』


後ろから、足音。

私達は急いで振り返る。


『……』スタスタ


スマホを弄っている女の子が歩いてくる。

制服を着ている。私達と同じ、虹ヶ咲学園の制服だ。

大きな黒いバッグを肩から下げている。部活帰りだろうか?

とにかく、先程後ろにいた男性とは違う人。それに女の子という事もあり安心できた。


歩夢『……』ホッ


歩夢さんも同じようで、安心している様子だった。



199: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:40:16.47 ID:a1JH8afy.net

『?』スタスタ


歩いてくる子と目が合う。

こんな所で何をしているんだ? と言いたげな表情。

本当にその通りだ。私達は追われていて、逃げたばっかだったのに。

早く歩夢さんのお家に向かおう。そう思った。


歩夢『行こっか? しずくちゃん』

しずく『はい』ニコッ










──あぁ、やり直したい。過去に戻りたい。



200: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 19:48:30.28 ID:a1JH8afy.net

──バチバチッ!!


何の音だろうか?

すぐに理解できなかった。


しずく『……へ?』


目の前にいた歩夢さんが──倒れた。


歩夢『はっ……!! ぁ…はっ…!!』


歩夢さんが目をパチクリとさせ、息苦しそうに倒れている。……痙攣している……?

なに? これは、なに?


しずく『』


声を出すことが出来ない。頭の整理が追い付かない。

そんな時、耳に声が届き──


『お馬鹿な方々ですねぇ~』


──私は首に衝撃を受け、意識を手放した。



201: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 20:05:42.03 ID:a1JH8afy.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──身体が痛い。ここは、どこだろう?

意識が戻ってくる。私、何してたんだろ?

視界がぼやけている。首が痛い。身体が動かない。

──何か、聞こえる。


『まいごのまいごの こねこちゃん』

『あなたのおうちは どこですか』


歌? 少しずつ、視界が正常に戻ってくる。


しずく『うっ……』


身体は動かない。
お世辞にも綺麗とは言えない床が見える。

椅子の上に、私は座っていた。


『あっ! 目が覚めましたか?』


女の子と声が聞こえ──視界に目が映った。下から、覗き込まれた。


しずく『ひっ!』

『まぁ、ひどいですわね……いきなり驚かないだなんて……私、寂しいですわ』

しずく『あ、あなたは……』


後ろからスマホを弄りながら歩いてきた女の子が、目の前にいた。

痛かったけれど、首を動かし辺りを見渡す。

隣には地面に横たわっている歩夢さんがいた。手足を、縛られている。


しずく『あ、歩夢さんッ!!』


思い切り叫んでしまう。けど、反応はなかった。



202: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 20:12:47.58 ID:a1JH8afy.net

『ご安心下さいませ。生きていますから』

しずく『……』

しずく『あなたは……だれ、ですか……?』

『はぁ……!!』

しずく『!?』ビクッ

『お美しい声……』


恍惚とした表情で、見つめられる。


『しずく様……可愛いですわ』スッ スンスン

しずく『ひっ』

『汗が混じった良い匂い……んっ』

ペロッ

しずく『!!』

『ふふっ……おいしぃ……!』


顔を、舐められた。

その瞬間、全身から鳥肌が立つ。本能が叫ぶ。理解する。

この人が、私をストーキングしていたストーカーだと。



204: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 20:23:13.25 ID:a1JH8afy.net

しずく『ッ! ッッ!!』ガッ、ガッ!!


身体を必死に動かそうとしても、動かなかった。

縛られていて、椅子も動かない。


『本当に申し訳ございません。これ、痛かったですよね?』バチバチ

しずく『そ、それ……』

『改造したスタンガンですのよ? 市販のやつは威力が低くて気絶なんてさせることできませんから』

『痛かったですよね……? 本当に申し訳ございません』

しずく『……』

『それにしてもしずく様? ダメですよ?』

『あなたは選択を誤りましたわ』

しずく『選択……?』

『えぇ』

『最初から、警察に相談すればよかったのに……ただのマネージャー。ただの女子高生の高咲侑に相談するだなんて──お馬鹿です』

しずく『ッ……』

『まぁ、何をしても計画は実行する予定でしたけれど……』

しずく『あ、あなたの目的は……何ですか? どうして……こんな……』

『とりあえずそこの女を起こしましょう』

しずく『へ?』



206: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 20:41:16.39 ID:a1JH8afy.net

『……』スタスタ


長い黒髪を揺らし、ストーカーの人が歩夢さんに近づき、足で歩夢さんの身体を触れる。

──まるで汚いものを足で動かすかのよう。見ていて、不快になる。


しずく『あ、あなた何を……!』

『うーん、起きませんわねぇ……』

『……あれを使うか』

しずく『歩夢さんには手を出さないでください!! あなたは私をストーキングしているんですよね!? 私に何か用があるんですよね!?』

『あったあった。工場は色々あって便利ですわね~』

しずく『お、お願いします!! 私は……私のことはいいですから!!』

『ふんふんふ~ん♪』キュ、キュ ──ジャァァァ


何も聞いていないのか、聞く耳を持たないのか。

淡々と目の前で、動かれる。

バケツに水が入れられている。



207: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 20:57:02.13 ID:a1JH8afy.net

『よしっ! 水がいっぱいです』

『さて、と……』スッ

スタ、スタ

しずく『な、何をするつもりですか……?』

『ただの水ですよ? 毒とか何も入っていません。先程蛇口から入れているの、しずく様も見ていましたよね?』

しずく『そういう事ではなく──』


まだ言葉の途中だった。

けど、彼女は聞く耳を持たない。

気を失っている歩夢さんの顔に、思い切り水が降り注がれる。

しずく『え……』


水が肌と地面に叩きつけられ、音を立てる。


歩夢『!! ──ごほっ! げほ……!』


しずく『あ、歩夢さん!』


歩夢『ごほ、ごほっ! ……え……?』

『やっと起きましたね? しずく様は自分で起きたというのに……情けないですわね』

歩夢『あな……たは……?』

歩夢『しずくちゃん……?』

ガランガラン!!


無造作にバケツを放り投げられ、大きな音が鳴り響く。

投げた本人は楽しそうな表情で、小さく笑った。


『改めまして、こんばんは』

『桜坂しずく様の1ファンである、藤黄学園の生徒ですわ』ニコッ



208: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 21:08:05.37 ID:a1JH8afy.net

しずく『藤黄学園……?』

『あっ、この虹ヶ咲学園の制服はオーダーメイドですよ? これを着ていれば警備員の方々にも怪しまれません。簡単に侵入できます。しずく様を近くで見る事ができます』

『ふふふ……生徒数が多いから、管理は大変でしょうね~。生徒の判断が難しいだなんて、まるで大学みたいな学園ですわね?』

歩夢『……』

歩夢『どうやって……私達の事を……』

『どうやって……とは?』

歩夢『男の人から必死に逃げてたのに……裏道にいた私達をどうやって見つけたの……?』

『? どうって……普通に後ろから追いかけただけですよ?』

しずく『普通に後ろから……?』

『ふふっ、予想通りです』

『男性にばかり目がいくと思ったんです。あの男性はただの雇われ人ですのに』

『男性に追われていると思いました? 後をつけていたのは私でしたのに』ニコッ

歩夢『!!』

『ほんと、お馬鹿です。勝手に勘違いして、頼りにならない先輩ですわね』

『上原歩夢』

歩夢『…ッ…!』

『しずく様……見る目は残念ですわね。こんな頼りない人を──』

しずく『あ、歩夢さんを侮辱しないで!!』

『……』



209: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 21:21:00.80 ID:a1JH8afy.net

『しずく様、どうでした? あなたが後ろをちらりと見た時……私、あの雇われ人を変な目で見つめたんです』

『演技したんですのよ? 演技』

しずく『演技?』

『自分で雇った人間。何かを知っているのに、変な目で見つめる。演技……頑張りました!』

『褒めて下さい』

しずく『…………』

『……ダメ、ですか? はぁ……悲しいです』

『虹ヶ咲学園と藤黄学園の合同演劇祭……本当に素晴らしかったです』

歩夢『……』

しずく『……』

『あの時のしずく様を見て……トキメキが生まれました……はぁぁぁ……思い出すだけで……気持ちよくなってきます』

しずく(き、気持ち悪い……。褒めてもらっているのに、嬉しくない……!)

歩夢『目的はなに?』

『……はい?』

歩夢『こんな所に連れて来たって、見つかるのも時間の問題だよ?』

『ご心配なく。ここの工場、廃墟ですから』ニコッ

『解体前の、だぁれも近づかない所です。雇われ人に運んでもらったんです』

『お金の力、ですわ』ニコニコ

歩夢『……』

『だから、叫んだって意味無いですよ?』

『誰も、来ません』ニコニコ

しずく『……』

歩夢『……』



210: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 21:33:36.24 ID:a1JH8afy.net

『あと、私の目的が気になるんですか? なら、教えてあげます』ニコニコ

『──っと、その前に……』スタスタ


黒い大きなバッグを漁り、中から何かを取り出す。

──見た瞬間、血の気が引いた。


しずく『へ……そ、それ……』

歩夢『!!』

『ナイフです♪ 良く切れそうですよね?』

『……』スタスタ


──歩夢さんに、近付く。

──近付かないで。

嫌な予感がする。


『ふふっ、芋虫みたいで無様ですわね? 上原歩夢』スタスタ

ガンッ!!

歩夢『ひっ……!』


歩夢さんの顔の前に、ナイフが突き立てられる。


しずく『……や、やめてください』


声が震える。


『私の目的はですねぇ……』

『しずく様を壊したいんです』



211: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 21:45:43.21 ID:a1JH8afy.net

『ははっ、怯えちゃってますねぇ……本当に頼りない人ですね。上原歩夢さん』スッ ──ピタッ

歩夢『っ……!』プルプル

『ナイフの刃、ひんやりしてますよねぇ? あっ、震えると危ないですよ? 顔、切れちゃうかも知れませんよ?』

『まぁ、それでもいいけど』

しずく『や、やめてください!!』

しずく『歩夢さんには、何もしないで下さい!!』

しずく『あなた……私が目的なんですよね!?』

しずく『な、なら……』

『ふふっ……取り乱しているしずく様も可愛い』

しずく『お、お願い……します。歩夢さんから、離れてください……』

歩夢『し、しずくちゃん……』

しずく『お願いします……!』ポロポロ

『……』



212: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 22:00:39.81 ID:a1JH8afy.net

『しずく様。知っていますか?』

『倫理における、思考実験があるんです』

しずく『……』

『舞台は紀元前2世紀のギリシア。一隻の船が難破し、乗組員は全員海に投げ出されました』

『冷たい冷たい海の上。辺りは暗く、そのままでは溺れ死んでしまう』

『一人の女性が命からがら、壊れた船の船板にすがりつきました』

『するとそこへもう一人! 同じ板につかまろうとする者が現れました』

『しかし、二人がつかまれば板が沈んでしまうと考えた女性は』

『後から来た者を見捨て、水死させてしまったのです』

『でも、殺人罪には問われなかった。仕方の無い事だったんですよ』

『──これ、何か知ってますか?』

しずく『…………』

しずく『カルネアデスの船板』



213: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 22:12:05.11 ID:a1JH8afy.net

『まぁ……! 流石しずく様ですわ。博識です』

しずく『……』

『というわけで、選んでください』

歩夢『へ?』

しずく『選ぶ……?』

『はいっ。選択してください』

『──どっちが死にますか?』

歩夢『な、何を言って……』

『どちらかが宣言して下さい。選択して下さい』

『私が死ぬって、宣言した方を殺します』ニコッ

しずく『』


理解が追いつかない。なんで、こんなことをされているんだろう?

どっちかが、殺される?

私か、歩夢さんが? ──なんで?


しずく『な、なんで……?』

『美しいしずく様を、美しいまま壊せる。片や邪魔で邪魔で仕方のない女を殺せて、辛いしずく様を見る事が出来る』

『良いことしか、ありませんっ』ニコニコ

しずく『』



215: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 22:36:42.71 ID:a1JH8afy.net

歩夢『……んで……』ボソッ

『はい?』

歩夢『なんで、こんな事しちゃうの!?』

歩夢『あなたは、しずくちゃんのファンなんでしょ!?』

歩夢『こんなの、間違ってるよ!!』

『ファンだからこそ、ですよ?』

歩夢『!?』

しずく『へ……?』

『美しいものは壊したくなる。普通じゃないですか』

『それに、私は桜坂しずく様が大好きなんです。愛しています。美しい姿に、見惚れました』

『……でも、人は劣化していきます。老いていきます』

『美しいままではいられません』

『そんな姿……見続けるなんて……あまりにも辛すぎますわ!!』

しずく『』

歩夢『』


2人とも、空いた口が塞がらなかった。

──怖い。


『それにぃ、こんな姿のしずく様を見られるの、私だけなんですよ?』

『他のファンは見ることが出来ない! しずく様が美しく、壊れる様!!』

『はぁ……私だけが、見る事が出来る……!』

『心地良いですぅ……!』


──この人の思考が、怖い。



217: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 22:45:12.09 ID:a1JH8afy.net

『なのに……もっと手っ取り早く、綺麗な私の家とかで壊したかったのに……』

『あなたが……いえ、高咲侑もですね。あなた達が余計なことしたせいで、こんな汚い場所でやることになってしまった』

『あっ! しずく様? ダメですよ。学校で相談なんてしてちゃ』

『ずぅぅぅぅぅぅっと! 私は貴方を見ていましたからっ』ニコニコ

『相談していたのも、筒抜けでしたよ?』

しずく『っ……っ!』ポロポロ

歩夢『……最低』

歩夢『自分勝手、過ぎるよ』

『同性の幼馴染が好きなあなたも大概ですよ?』

歩夢『!!』

『しずく様の周りの人達の情報も、全部リサーチ済です』ニコニコ

『スクールアイドルって、本当にセキュリティ甘いですよね』

『有名になればなるほど、調べやすいですっ』ニコニコ

しずく『……』


──だれか、たすけて。



218: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 22:51:11.00 ID:a1JH8afy.net

『10秒数えます』

『宣言して下さい。私が死にますって』

『先に宣言した方を──殺します』

『どちらも宣言しなかった場合は、2人とも殺します』

しずく『……』

歩夢『そ、そんな……!』

『っと! その前にぃ』スタスタ

歩夢『え?』

しずく『あ、歩夢さん! やめてください!!』

『まだですから安心してください。よいしょっ』ゴソゴソ

歩夢『んっ!』ビクッ

『ありました』


歩夢さんのスカートのポケットから、スマートフォンが取られる。



219: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:01:48.78 ID:a1JH8afy.net

『これ、あなたのスマートフォンで間違いないですよね?』

歩夢『……そう、だけど……?』

『パスワードは?』

歩夢『…………』

『やっぱりしずく様を殺します』

歩夢『ぜ、0515!!』

『あっ、本当だ。開けました』

歩夢『な、なにを……』

『高咲侑の写真ばかりですわねぇ』

歩夢『!!』

『あっ、でも他の方々もいますわね。……しずく様の写真まで……あなたには勿体ないです』

『でも、ほとんど高咲侑ですわね』

歩夢『……』

『馬鹿な方です』

歩夢『え……?』

『余計な事しなければ、死ぬこともなかったでしょうに』

歩夢『あっ……っ…!』

『もう二度と、高咲侑に会えないんです』

『声を聞くこともできない』

歩夢『』

『朝起きる事も、寝る事も。遊ぶ事も、声を出す事も』

歩夢『』

『高咲侑と会えない最後に顔が見れない何も出来ない。そして──』

『──宣言したら、あなたはここで死ぬんです』

歩夢『』

『あははっ!』

バキッ!!


スマートフォンが地面に叩きつけられ、割れる。

そのまま私の足元にまで滑ってくる。

黒くなっていない画面半分。そこには──楽しそうな侑さんと歩夢さんのツーショットが、映って見える。


しずく『』


──やり直したい。



220: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:03:44.35 ID:a1JH8afy.net

しずく『ごめんなさい』


──やり直したい。


『それでは、そろそろ数えましょうか』


──やり直したい。


『死へのカウントダウンですわっ』ニコニコ



222: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:05:18.90 ID:a1JH8afy.net

『じゅう~♪』


──やり直したい。


歩夢『』


──やり直したい。


しずく『ごめんなさい』


──ごめんなさい。



223: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:08:43.85 ID:a1JH8afy.net

『きゅ~♪』

歩夢『──い、いや……!!』

『はぁち♪』

歩夢『いや……いやぁ……!!』ポロポロ

『なぁな♪』

しずく『』

歩夢『いやぁぁぁあああああああッ!!』ジタバタ!!

『ろぉく♪』

歩夢『やだ!! いやだよぉ!! ──侑ちゃん!!』

しずく『』


──ごめんなさい。



224: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:11:41.93 ID:a1JH8afy.net

しずく『はぁ……はぁっ……!!』

『ごぉ♪』

歩夢『ひっぐ……ぅう……!!』ポロポロ

『よぉん♪』

歩夢『怖い……こわいよぉ……やだよぉ!!』

しずく『はぁ、はぁ、はぁ……!!』


──ごめんなさい。



225: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:12:29.54 ID:a1JH8afy.net

──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。



226: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:14:47.15 ID:a1JH8afy.net

『さぁん♪』

歩夢『侑ちゃん……侑ちゃん……!』

しずく『』

『にぃ♪』

歩夢『いやぁ!!』

歩夢『──死にたくないッ!!』



227: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:15:28.37 ID:a1JH8afy.net

しずく『私が死にます』



229: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:26:05.85 ID:a1JH8afy.net

『……しずく様? 今なんと?』

しずく『私が死にます』

しずく『だから、お願いします』

しずく『歩夢さんには、手を出さないで』

歩夢『──へ?』

『あはっ』ニコッ

しずく『私が、死にます』

歩夢『ま、まって……まって……!』

『さすが、しずく様です』

しずく『約束、ですよ?』

『当然ですわっ』ニコニコ

歩夢『だ、ダメ……ち、違う……違うよ!』

歩夢『ダメ! ダメ!!』

歩夢『お願いします!! やめて!!』

歩夢『違う。違うの。……わ、私が──私が……し、死にます!!』

『言いましたよね? 先に宣言した方を殺しますって?』

『……遅いんだよ』ニコッ

歩夢『ぁ……あぁ……! な、なんで……わたし……!!』

しずく『歩夢さん』

歩夢『!! ──し、しずくちゃん……だ、ダメ……!』

しずく『ごめんなさい……巻き込んでしまって』

歩夢『違う。違うの……』

歩夢『違う!! 違うよぉ!!』ポロポロ

しずく『歩夢さんッ!!』

歩夢『!!』ビクッ!!

しずく『これで、良いんです』ニコッ

歩夢『ッ……ッ!!』ポロポロ



230: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:41:35.65 ID:a1JH8afy.net

歩夢『やだ……やだぁ……!!』ポロポロ

歩夢『ごめんなさい……ごめんなさい……!』

『……はぁ……みっともない。先輩の癖に、情けないですわね』

しずく『歩夢さんを侮辱しないでください』

しずく『こんな事をする、あなたの方が情けないですよ?』

『……ふふっ、大分嫌われてしまったようですね?』

しずく『本当に、歩夢さんには手を出さないでください。解放してくださいね?』

しずく『そうしなかったら……呪います』

『怖いですわねぇ。しずく様の最後のお願いを断るわけないじゃないですか』

歩夢『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』ブツブツ

しずく『……』


謝るのは、私の方です。

──本当に、馬鹿な事をしてしまった。

私のせいで、巻き込んでしまった。

本当に、ごめんなさい。



231: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:49:31.46 ID:a1JH8afy.net

『さて、では……最後に何かありますか?』

しずく『……』

『何でも言ってくださいっ』ニコッ


私の首に、ナイフが当てられる。

冷たく、私の命を刈り取る刃。

首を裂かれたら、血が吹きでて──私は死ぬ。


しずく『……怖いんですか?』

『……何が?』

しずく『さっきからブツブツと、余計な事ばかり言って』

しずく『やるなら早くやればいいじゃないですか』

『……ふふふっ』

『発狂するあなたが見たかったのに……残念ですわ』

しずく『……』

『さよなら、しずく様。最後まで美しかったです』ニコリ

しずく『…ッ…!』


あぁ、私の人生はここで終わる。そう思い、覚悟していた。

──その時だった。



233: 名無しで叶える物語 2021/11/22(月) 23:55:12.71 ID:a1JH8afy.net

『──がっ!?』

しずく『……へ……?』

歩夢『』


目の前にいた悪魔が、私の視界から消える。


『』ドサッ


何かが叩きつけられる生々しい音がなり、悪魔が倒れる。

──目の前には、鉄パイプを持った侑さんがいた。


侑『はぁ……はぁ……!』


鉄パイプの先には、血がついている。


侑『ごめん。遅くなった』

しずく『ゆ、侑さん……!』



234: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:03:28.77 ID:+pHY/+ZJ.net

歩夢『ゆ、侑ちゃん……!』ポロポロ

侑『ごめんね2人とも。よく頑張ったね?』

カランカラン

侑『もう大丈夫だからね。早く逃げよう』

侑『しずくちゃん。縄、解くね』

しずく『は、はい!』


もう諦めていた瞬間だったのに、私は生きている。

生きている。侑さんが、助けに来てくれたんだ。


侑『私のスマホ、GPS機能が付いてるんだ。タブレットで追えるんだ』

侑『だから歩夢に渡しておいたんだよね』ニコッ

侑『やっと追いついたと思ったら……ナイフでしずくちゃんが襲われそうになってて……咄嗟に動いちゃった』

歩夢『侑ちゃん……ごめんなさい。私……!』

侑『いいから。今はとにかく早く逃げよう』

歩夢『うん……!』

侑『っ、この縄、めっちゃ強く絞められてる。切るしかないね』

しずく『そ、そこにあの人が持ってたナイフが落ちてます』

侑『うん。借りよう』スッ



237: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:23:23.13 ID:+pHY/+ZJ.net

侑『……よしっ! 切れた』

侑『立てる? しずくちゃん』

しずく『……ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃって……』

侑『ううん。大丈夫だよ? 怖かったよね? 本当によく頑張ったよ』ナデナデ

侑『なら、先に歩夢を──』

しずく『!! 侑さん!!』

歩夢『侑ちゃん!! ──後ろ!!』

侑『!?』

バキッ!!

侑『ッあ……!!』クラッ

──ピシャッ

『はぁ、はぁ……!!』

『こんな鉄パイプで……私の頭を……!!』

『痛かったじゃないですか……!』

しずく『ゆ、侑さん!!』

歩夢『あっ……ゅ、侑ちゃん……!』プルプル

侑『……た、確かにこれは……痛いね……!』フラフラ


──侑さんの頭から、血が流れる。


しずく『や、やだ……いやです……!』


初めて見る、先輩の血。

擦り傷とかではない。見たことのない程の血が──私の頬に付く。



238: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:29:00.48 ID:+pHY/+ZJ.net

『ほんと、詰めが甘いです、わね……』

侑『運動は……苦手だからね……』

侑『それに、あなたみたいに人を傷付けるの、なれてないんだ』

『…………』


侑さんが先程まで持っていたナイフは、地面に落ちている。

それが、拾われた。


侑『はぁ……はぁ……!』フラ、フラ

『……』トンッ

侑『っ……!』ドサッ


侑さんが、仰向けに倒れてしまう。


歩夢『』

しずく『』

しずく『やめて』


──嫌な予感が、再び頭を過ぎる。



239: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:35:01.69 ID:+pHY/+ZJ.net

『余計なことしてくれましたね……!』

侑『ふふっ……計画通りいかなくって、残念だね』


侑『しずくちゃん』

しずく『ぁ……や、やめてください……!』

歩夢『……』

『美しいしずく様の最後を見れると思ったのに。高咲侑……マネージャーの分際で……!!』

しずく『や、やめて!!』

しずく『やめて!! やめてやめてやめて!! 言いましたよね!? 私が死にます!!』

しずく『だから、お願いします!! 2人には手を出さないで──!!』

侑『歩夢を連れて、逃げて』

歩夢『ゆ、侑ちゃん……?』

『……死んでください。高咲侑』

侑『歩夢。ごめ────』


侑さんのお腹にナイフが突き刺された。


歩夢『』


しずく『』



241: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:45:09.52 ID:+pHY/+ZJ.net

歩夢『いやぁあああああああああああああああッ!!』

侑『ぁ……! は……ッ…!!』

『……』

グシュッ

侑『ゴホッゴホッ!! ぁ……ー…ッ……っ!!』

『死ね』シュッ

グサッ!!

侑『ッ……──!! はっ、はぁ、っ!!』ビク、ビクッ!!

しずく『』

しずく『やめて』

『……』

グシュッ

侑『っ……ひゅー……ゴホッ!!』

──ピシャッ!!

『……』

しずく『やめて』

『……』シュッ

──メキッ!!

『チッ……もう人の油でダメになったんですか……ナイフも案外使えないなぁ』

侑『…………』

しずく『私が死にます』

しずく『お願いします。だから──やめて』


侑さんが死んじゃう。



243: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:51:22.47 ID:+pHY/+ZJ.net

侑『…………』

『まだ息がありますね……何か他にあったかな……鉄パイプなんかよりも、苦しいの……』ボタ、ボタ

『……あたま……痛い……』ボタ、ボタ


私の声は、何にも届かない。

何も、できない。

そんな時、横から声が聞こえた。


歩夢『殺してやる』

しずく『……』

歩夢『なんで……なんで侑ちゃんが……!!』

歩夢『絶対に……殺してやる……!!』

しずく『』


あぁ、そうだ。

──あの人、殺そう。



244: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 00:55:53.54 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『』


さっきまで、腰が抜けて立てなかった。

けど、今は立てる。


しずく『』


足元に落ちている鉄パイプを拾う。


しずく『』


仕方ないよね? こんなに酷い事されたんだもん。

あんなに優しかった歩夢さんに、あんな事を言わせた。

侑さんが、殺されちゃう。

だから、あの人は殺してもいいんだ。


しずく『』スタスタ


そして──最後に私が死ねばいいんだ。

これで、解決。



246: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:03:38.14 ID:+pHY/+ZJ.net

『ライター……いや、火が弱いですね……果物ナイフはある……だから……』ブツブツ


しずく『』スタスタ


ゆっくり近付く。

そして、鉄パイプでこの人を叩こう。

息の根を止める。

──そう思っていた時だったのに、私の足が掴まれる。


しずく『──へ?』

侑『……め……よ……』

侑『しぅ……くちゃ……だめ……』フリ、フリ

しずく『ゆ、侑……さん……』

侑『……』ニコッ

侑『優し…ぃ……しず…く…ちゃんで……』

侑『いて……?』

しずく『ッ!!』ポロポロ


──侑さんから、止められた。



247: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:12:04.03 ID:+pHY/+ZJ.net

『!! あら……それで私を……殺すつもりで、すか……?』フラフラ

『あれ……?』ドサッ

しずく『!!』

『……あたま……痛いですね……』


──遠くからサイレンの音が聞こえる。


『!! 警察、呼ばれてたんですね……』

『最後まで憎たらしい女ですわね……!』スタッ

しずく『!!』

『……しずく様』

しずく『……』

『お慕いしております』ニコッ

しずく『へ?』

『さようなら』

シュッ──ブシュュュュュ!!

しずく『……え?』


彼女は、自分の首を果物ナイフで引き裂いた。

吹き出る血が、地面に飛び散る。


しずく『な、何して……』

しずく『何してるんですか……?』


理解できない光景が広がった。



248: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:15:16.01 ID:+pHY/+ZJ.net

『捕ま……めんどぅ……ですから……』

『これで、一生……しずく様は……わたしを』

『わすれられないね』ニコッ

しずく『』

『……』

『』ドサッ

しずく『』

しずく『』

しずく『』

しずく『──は?』


自殺を、目の当たりにした。



249: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:20:50.37 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『』

しずく『なによ、これ……』

しずく『はぁ、はぁ、はぁ……!』


息が苦しい。


『』

侑『』

歩夢『侑ちゃん……侑ちゃん……!』

歩夢『どうして……?』

歩夢『私をひとりにしないで……』ブツブツ


しずく『いや……なによ、これぇ……!』


──やり直したい。

けど、それは出来ない。


しずく『やだ』

しずく『いやだ、嫌だ……!』

しずく『──ああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!』


──これが、現実だから。


私の視界が壊れた。



253: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:28:23.04 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『……』


ここ、どこ?

白い天井。知らない天井が、目に映った。


しずく『……ぅ……?』

『あっ……し、しず子……?』

しずく『……』

かすみ『し、しず子……!』ジワァ

しずく『かすみ、さん……?』

かすみ『うわぁぁぁぁああああんっ!!』ギュッ


頭の理解が追いつかないまま──親友に抱きしめられた。



254: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:36:28.58 ID:+pHY/+ZJ.net





ピー、ピー、ピー

侑『………………』


しずく『……』


私達は全員、病院に運び込まれたらしい。

死亡者は、一名のみ。

あの人だけ、この世の人ではなくなった。


侑『………………』


しずく『……』


侑さんは、目を覚まさない。寝たきりらしい。


しずく『……』

スタスタ

愛『しずく……行こ?』

愛『カナちゃん達が……お見舞いに来てくれたよ?』

しずく『……はい……』

スタスタ



256: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:47:43.27 ID:ccYg2gbJ.net

しずく『……』

彼方『しずくちゃん……!』ギュッ

しずく『……』

エマ『……』

果林『……なんでこんな……!』

しずく『ごめんなさい』

果林『!! 違うのよ、しずくちゃん』

エマ『しずくちゃんはなにも悪くないよ? だから……謝らないで……?』

エマ『しずくちゃんは……なにも悪くないよ』

しずく『もう……いや……』

しずく『ごめんなさい……ごめんなさい……』

彼方『っ…!』ギュッ

しずく『……私を……殺してください……』

彼方『ッ……ぅ、うぁああああん……!!』ギュュュュ

しずく『……』


彼方さんから、優しく抱きしめられる。
けど、胸にぽっかりと穴が空いてしまったのかな。罪悪感以外、何も感じない。

──彼方さんが泣いている所、初めて見ちゃった。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。



259: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 01:55:29.58 ID:+pHY/+ZJ.net

歩夢『……』

せつ菜『歩夢さん。ほらっ、うさぎさんです! 折り紙の作り方、覚えたんです』

歩夢『あはっ』

せつ菜『……』

歩夢『侑ちゃん。侑ちゃん? 侑ちゃん……』

せつ菜『歩夢さん。私は優木せつ菜ですよ?』

歩夢『どうして……? 私を……ひとりにしないで……』

歩夢『侑ちゃん侑ちゃん侑ちゃん』

歩夢『……しずくちゃん……ごめんね……』

せつ菜『あ、歩夢さん……!』ポロポロ

歩夢『侑ちゃん……侑ちゃん……』

コンコンコン

せつ菜『!!』ゴシゴシッ

せつ菜『どうぞ』

ガラガラ

果林『せつ菜。久しぶりね?』

せつ菜『あっ、果林さん』



260: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:01:01.78 ID:+pHY/+ZJ.net

エマ『わたしもいるよ~』

彼方『どもども~』

せつ菜『あっ、エマさんも彼方さんも!』

彼方『……しずくちゃん? 隠れてないで、こっちおいで?』

せつ菜『あっ……』

スタスタ

しずく『……』

せつ菜『しずくさん……』

しずく『……ごめんなさい……』

せつ菜『!! しずくさんが謝ることなんて、何も無いです……』

せつ菜『ほら、歩夢さん? 皆さんが来てくれましたよ?』

歩夢『…………』


──歩夢さんは、精神が壊れてしまった。

会話が、出来なくなってしまった。


しずく『……』


──私のせいで。



262: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:07:04.13 ID:+pHY/+ZJ.net

愛『みんなお待たせ。歩夢の飲み物買ってきたよ?』

かすみ『ちょ、ちょっと先輩! かすみんが! 歩夢先輩の為に買ったんですー!』

璃奈『かすみちゃん。しー』

かすみ『うっ……ごめんなさい』

果林『あらあら、大所帯ねぇ~』

せつ菜『ふふっ、そうですね』

せつ菜『歩夢さん。皆さんが会いに来てくれましたよ?』

歩夢『』

歩夢『ぁぁ』

せつ菜『へ?』

歩夢『い、いや……!』

歩夢『いやぁああああああああああッ!!』

愛『!! ──あ、歩夢!?』



263: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:12:46.73 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『』


歩夢さんが、錯乱する。


歩夢『やだ! いやぁ!!』

歩夢『ごめんなさい! ごめんなさい!!』

歩夢『みんな……私を、見ないで……!!』

歩夢『やだ……やだぁ!!』

歩夢『いやぁああああああああああ──!!』

せつ菜『あ、歩夢さん!! 大丈夫、大丈夫ですから!!』

エマ『わ、わたし……ナースさん呼んでくる!』

歩夢『ああああああああ!! ごめんなさい……! ごめんなさい!!』

彼方『あ、歩夢ちゃん……』

果林『ッ……』フイッ

璃奈『……』

かすみ『歩夢先輩……』

しずく『』


──全部、わたしのせいだ。



264: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:18:23.42 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜『いま、なんて言いました……?』

しずく『……』


──あれ? 何、してたんだっけ?

せつ菜さんに、襟足を掴まれている。

ものすごい形相で、私を見ている。

こんなに怒っているせつ菜さん。初めて見る。

あぁ、状況を整理出来た。

皆で会議していたんだ。

そして、歩夢さんのお見舞いには“複数人で来ない”ようにしようって約束になったんだ。

そして──言ったんだ。


しずく『もう一回言いますね?』

しずく『全部、私のせいですよ』



265: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:28:27.66 ID:+pHY/+ZJ.net

せつ菜『違います』

せつ菜『しずくさんのせいじゃありません』

かすみ『そ、そうだよ! しず子のせいじゃない!』

しずく『私が侑さんに相談しなきゃよかったんです』

しずく『私のせいです』

せつ菜『!! ──犯人のせいに、決まっているでしょうッ!!』

しずく『……』

せつ菜『しずくさん。責任を感じているのかもしれませんが、全て自分だけで背負うのは違います!!』

せつ菜『それに……その発言は、貴方を守った2人に対して……失礼です』

しずく『!! 失礼……?』ピキッ

しずく『私のせいじゃ、ない?』

しずく『──どう考えたって!! 私のせいじゃないですか!!』

しずく『私が!! 2人を巻き込んだんですよ!?』

しずく『私だけが死ねば良かったのに!!』

せつ菜『その発言がおかしいんですよ!!』

せつ菜『あなたが──』

璃奈『やめて!!』

しずく『!!』

せつ菜『!?』

璃奈『お願い……やめてよ……』

璃奈『けんか……しないで……』ポロポロ

愛「りなりー……」

しずく『……こんな空気にしてるのだって……私が……』

エマ『しずくちゃん』

エマ『もう、やめよう……』

しずく『…………』

せつ菜『……ごめんなさい』パッ

しずく『…………』


──幸せだった日々が、無くなってしまった。



266: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:37:55.07 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

少し、時が経つ。

私は退院する事ができた。

退院後に向かったのは──高咲侑さんのお家。

お母さんとお父さんと一緒に、向かった。

お詫びと、お礼の為に。

何を言われても良い覚悟で、侑さんのお家へ向かったんだ。

罵倒されるだろう。殺されても、構わない。

そんな気持ちで向かったのに、私は──侑さんのご両親から無事で良かったと言われた。

私は、何もされなかった。

温かく、迎えられた。

──侑さんのご両親は、私を守った娘の行動を誇りだと語っていた。

どこまでが本心なんだろう。わからない。なんにも、わからない。裏では憎んでいるんだろうか? それとも、本気で私を心配してくれたんだろうか?

──わからない。本当に、わからない。

なんで、そんなに優しいの?

わからない。わからないよ。

ただ、このご両親あっての侑さんなんだなって思った。


しずく『……なさい……』ボソッ

しずく『ごめんなさい……ごめんなさい』

しずく『ごめんなさい……!!』ポロポロ


涙が、止まらなかった。



267: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:42:48.90 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……』


侑さんの部屋に入る。私からお願いしたんだ。


しずく『……』


電子ピアノ。勉強机。ソファベッドにバランスボール。

お世辞にも色とりどりだとは言えない部屋だった。


しずく『……』


机には、写真があった。

歩夢さんとの小さい頃のツーショット。

それだけじゃない。同好会の皆さんと撮った写真も沢山ある。


しずく『……』


日記がある。侑ちゃん日記26と書かれている。


しずく『……』ペラッ


私はそれを、見てしまった。



268: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:52:06.83 ID:+pHY/+ZJ.net

───────────────

5月2日

もうすぐ誕生日! 私の!

歩夢が隠れて何か買おうとしてるみたいだけど、バレバレなんだよなぁ。そういう所も可愛い!

そういえば今日、お昼にかすみちゃんから美味しいコッペパンを作ってもらった。

隠し味は愛です! って言われた。わたしもかすみちゃん大好き! こういうちょっと世話好きっぽいところ、かわいい!

あと、璃奈ちゃんのダンス練習に付き合ったんだけどもークタクタ! 体力あるよねぇ璃奈ちゃん。ギャップがかわいい!

あとあと!! しずくちゃんが部室の掃除をしてくれてた!

ちょー助かる! なんか早めに部室についたからやってくれたみたい。本当に優しくって、お淑やかで可愛い!

愛ちゃんとせつ菜ちゃんとそれを見て私達もやる! って意気込んでお掃除したのは大変有意義でしたよ。侑だけに!! ←明日愛ちゃんに披露する!!

みんな可愛くて、大好き!!

ずっとこんな日々が続けばいいなぁ〜。

さて、今日も歩夢と電話して寝よう!

おやすみなさい~!

───────────────



270: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 02:57:05.22 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『ッ……!』

しずく『ぁ……ひぐ……!!』

しずく『ゆうさん……っ……』

しずく『ごめんなさい……ひっぐ…!』ポロポロ

しずく『本当に……ごめんなさい……!』

しずく『あぁあああん……!』

しずく『うああああああん…っ…!!』ポロポロ

しずく『侑さん……! 侑さん!!』

しずく『ぅう……ぐすっ……!!』


──日記は、全部お借りした。侑さんのお母様とお父様にお願いした。

彼女の日々を、胸に刻みたかった。

侑さんの事を、もっと知りたいと思った。


──でも、私はこの日記を間違えた使い方をしてしまった。

これも、後悔のひとつになった。



271: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 03:07:29.60 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜『……』

『続いてのニュースです』

『先日、虹ヶ咲学園の生徒が被害を受けた事件に続いて、またも同じような殺傷事件が起きました』

『またですか……模倣犯ですね……』

せつ菜『……』

せつ菜(しずくさん達を襲ったストーカーは、まだ学生だった)

せつ菜(だから、ニュースにはなったけれど名前は出されていない)

せつ菜(けど、ネットには公開されている。彼女の行動と、どういう経緯があったのか……など)

せつ菜(なぜか……ネットで公開されている)

せつ菜(リアルヤンデレ現る? ガチサイコ)

せつ菜(一人のスクールアイドルに命を捧げたストーカー)

せつ菜(色んな見出しで、ネットで話題になっている)

せつ菜(一部では、伝説扱いして崇拝してる人達までいる)

せつ菜『……』

せつ菜『ふざけないでください……』

せつ菜『何が伝説ですか……なにが……リアルヤンデレですか……!!』

せつ菜『くだらないことをして……それを真似て、殺傷事件を起こす人まで増えて!!』

せつ菜『傷付いたしずくさんは……歩夢さんは! 侑さんは!!』

せつ菜『たまったもんじゃない……!』

せつ菜『うぅ……ひっぐ……!』

せつ菜『ふざけないでよ……!!』ポロポロ


──その後、スクールアイドル同好会の身を案じたからかな。せつ菜さんから同好会の廃部が告げられた。



288: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 20:52:16.08 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

あれから、どれくらい時間が経ったんだろう?


しずく『……』


今日も侑さんの日記を読む。

そこには、歩夢さんと彼女の大切な日々が綴られている。

侑さんは真面目な方だから、日記の表紙には何冊目か書いている。ページ数まで付けている。

大切で、綺麗で、暖かい、歩夢との日々。途中からは私達スクールアイドル同好会との日々が綴られている。


しずく『…………』


私が壊した。大切な日々。



289: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 20:59:02.87 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『…………』


──時間は、無情にも過ぎていく。

こうして、日記を読んでいるだけでも、時間は過ぎていく。

私が壊してしまった侑さんと歩夢さんの時も、過ぎていく。

世の中は何も変わらずに動くんだ。

そして、次第に忘れ去られる。


しずく『…………』


世界の年間死亡者数に基づくと、1秒に約2人の人間が亡くなっているデータが導き出されているらしい。

──私が壊してしまった2人の人生も、他の人からしたら1秒の出来事として過ごされてしまうのかもしれない。



291: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:27:59.43 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……』


──そうだ。私は罪を償わなくちゃいけないんだ。


しずく『……』


私のせいで、2人の人生は壊れてしまったんだから。

私だけ、のうのうと生きていて良いはずがない。

だから、死のう。


しずく『……』スタスタ


──どうせ私の死だって、他の人にとっては1秒なんだから。



292: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:33:49.19 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……』カチャッ


台所から包丁を持ち、部屋に向かう。

いつもの場所にないから、探すのに時間が掛かってしまった。

なんでいつもの場所になかったんだろう? 隠されてたんだろう?

──まぁ、いいや。どうでもいい。


しずく『……』ペタリ


座り込み、準備を始める。


しずく『……』


包丁の刃を、首に近づける。



293: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:39:38.61 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……あれ……?』


身体に、違和感を覚える。

早く死にたい。なのに──


しずく『あ、あれ……?』カ


──身体が震える。刃がプルプルと震え、上手く首元へ近付けることができない。


しずく『はっ、はっ……はぁはぁ、ッ……!!』プルプル

しずく『はぁ、はぁ、はぁ……!!』


息が苦しい。


『わすれられないね』


しずく『!!』


『わすれられないね』
『わすれられないね』
『わすれられないね』
『わすれられないね』
『わすれられないね』


しずく『っ、はぁ……はぁ、はぁ……』


──あの人の声が、頭から離れない。



294: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:43:27.55 ID:+pHY/+ZJ.net

『もう二度と、高咲侑に会えないんです』

しずく『うるさい』

『声を聞くこともできない』


しずく『うるさい』


『朝起きる事も、寝る事も。遊ぶ事も、声を出す事も』


しずく『うるさい……』


『高咲侑と会えない最後に顔が見れない何も出来ない。そして──』


しずく『うるさい……!』


『──今日、あなたはここで死ぬんです』


しずく『うるさいッ!!』


私は、死ななきゃいけないんだ。

桜坂しずくは、生きていてはいけない人間なんだ。

消えなければいけない。それが、私の罪の償いだ。



295: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:48:52.75 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』


そうだ。死のう。


しずく『──っ、!!』


死のう。『わすれられないね』


『わすれられないね』しずく『はやく』


しずく『死ななきゃ』


死のう。


『わすれらしずく『私は死ななきゃいけないんだ』れないね』


私は、生きて『わすれられないね』いてはいけな『わすれられないね』い人間なんだ。


しずく『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!』プルプル


──今日、あなたはここで死ぬんです。


しずく『そう、私は……ここで……!』プルプル



296: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 21:59:24.52 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく(死ぬんだ)

しずく『は、は、はっ、はぁ……、っ!』

しずく(私が死ぬんだ)

しずく(私が死ねばそれでいいんだ侑さんも歩夢さんも同好会の楽しい日々も全部私が壊したわたしのせいだからこれは全部罪なんだ償わなきゃいけない私は生きていてはいけない人間なんだ早く死のう死のう死のう桜坂しずくは生きていてはいけないんだ)


しずく『……』プルプル


しずく(私が死んだ後どうなるんだろうもうお母さんにもお父さんにも会えない演劇ができない歌えない笑えないご飯が食べられない恋ができないこの部屋はどうなるんだろうみんな悲しむかな皆と遊べないお台場にいけないオフィーリアと遊べない何も出来なくなる無になる死んだらどうなるんだろう)


しずく『ぁ……はっ……ぁ』プルプル


やだ。


しずく『』


怖い。


しずく『ひっぐ……!』ポロポロ


──怖い。怖い。怖い。

いやだ。いやだ。──いやだ!! いやだ!! いやだ!!


しずく『』


──死にたくない。


しずく『』


私は──死ねなかった。



298: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:16:25.45 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……私は、どうすればいいの……?』

しずく『侑さん……私は……』


どうすればいいの?

結局、怖くて死ねない私に、何ができるんだろう。

私にできる事。それは、なに?


しずく『……』

しずく『そうだ』

しずく『死ぬのは、ただの逃げだ』

しずく『それは、ダメ』

しずく『私が、壊してしまった2人を支えなきゃ』

しずく『まずは──歩夢さんを救わなきゃ』

しずく『そうだ、そうだよね?』

しずく『侑さん?』

しずく『……』カチャッ


──ギッ、ギッ、ギッ!!

バサッ







299: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:25:03.91 ID:+pHY/+ZJ.net

かすみ『はい。プリントを持ってきました。せんせーにお願いして、学科違うけど……』

『あら、ありがとうねかすみちゃん』

かすみ『いえ、お易い御用です』ニコッ

『あの子……部屋から出てこないの……友達のかすみちゃんの声なら……届くかも……』

かすみ『……はいっ』

スタスタ

かすみ(もう、しず子!)

かすみ(折角退院出来たのに……何日も学校来ないで、何してるの!?)

かすみ『なんて……言えるわけないよね……』

かすみ『…………』

スタスタ

かすみ(ここ、しず子の部屋だ)

コンコンコン

かすみ『……しず子~』

かすみ『可愛いかすみんが、プリント届けに来てあげたよ~?』

かすみ『しず子~?』

かすみ『……』

かすみ(いないのかな……? いや、そんなわけない)

かすみ『……』

かすみ(鍵は掛かってない)

かすみ『しず子? 入るよ』

ガチャッ



301: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:30:09.03 ID:+pHY/+ZJ.net

かすみ『──へ?』

かすみ(なに……これ……?)

かすみ(部屋は一部以外照明が消されていて、暗い)

かすみ(明るい所には、一人の女の子がいる)

かすみ(その周りには……)



しずく『──────』ブツブツブツブツ



かすみ(侑先輩の写真が大量貼られ、彼女を囲っている)



302: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:36:22.74 ID:+pHY/+ZJ.net

かすみ『し、しず子……?』スタ、スタ



しずく『──』ブツブツ



かすみ『しず子……』スタ、スタ


しずく『……いいYO……歩夢。ふふっ、そういう所も──』ブツブツ


かすみ『しず子』スタスタ

しずく『ふふっ、歩夢。今日も頑張ろ』ブツブツ

しずく『せつ菜ちゃん。もぉ、ときめいちゃった』ブツブツ

しずく『歩夢? 歩夢っ。歩夢~。歩夢!』ブツブツ

かすみ『』

しずく『かわいいよ、歩夢』ブツブツ

かすみ『……し、しず子!』

かすみ『しず子! ねぇ! かすみんが来たよ!!』

かすみ『ねぇ!』

しずく『────』ブツブツブツブツ



305: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:43:33.26 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『スクールアイドルが好きなみんなのためのお祭り』ブツブツ

しずく『スクールアイドルフェスティバル』ブツブツ

かすみ『ね、ねぇ!』

かすみ『しず子!』

しずく『今度の私たちのライブ、虹ヶ咲だけじゃなくて……もっと大きなライブにしたい』ブツブツ

かすみ『ッ!』


ガシッ!!

かすみ『しずくっ!!』

しずく『!!』

かすみ『私を、見てよ!!』グイッ

かすみ『──えっ……?』

しずく『……』

かすみ『侑……先輩……?』



306: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:52:33.08 ID:+pHY/+ZJ.net

かすみ(目の前に、侑先輩がいる)

かすみ(なんで?)

かすみ(私は、しず子の部屋に来たのに)

かすみ(なんで……侑先輩がここにいるの?)

かすみ『違う』

しずく『あっ、かすみさ……ちゃん!』

しずく『どうしたの? 今日もかわいいね~!』

しずく『何か相談かな? なんでも話してよっ』ニコッ

かすみ『』

かすみ『なにしてんの?』

かすみ『──しずく』

かすみ『私、怒るよ?』

しずく『ど、どうしたの? かすみちゃん?』

かすみ『ッ!!』

パシンッ!!

しずく「ッ……!」

かすみ『ふざけないでよ!! しず子!!』

しずく『……』

しずく『痛いなぁ……やめてよ』

しずく『歩夢に心配されちゃうじゃん』

かすみ『』



308: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 22:58:10.00 ID:+pHY/+ZJ.net

かすみ『……やめてよ……』

しずく『なにが?』

かすみ『しず子。だめ、戻ってきて』

しずく『……しずくちゃんの名前、出さないで』

しずく『不快だから』

かすみ『お願い。しず子……!』

しずく『……やめて』

しずく『桜坂しずくは死んだんだよ?』

しずく『それに、あの子のせいで歩夢はおかしくなっちゃったんだ』

しずく『私が、支えなきゃ』

しずく『高咲侑にとっては、歩夢が一番大切だもん』

かすみ『しず子のせいじゃない……お願い……しず子……!』

かすみ『戻ってきてよ……!』

しずく『……戻る?』

しずく『全部桜坂しずくが壊したんだよ?』

かすみ『違うよ!!』



309: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:07:21.42 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『……何が違うの?』

かすみ『そんな事しても、侑先輩は喜ばないよ』

かすみ『望んでないよ……』

しずく『望むとかじゃない』

しずく『歩夢は、私が支えなきゃいけないんだもん』

かすみ『みんなで、支えようよ……』

しずく『……また桜坂しずくのせいで壊れるかもしれない』

かすみ『ずっと近くにいる。大丈夫』

かすみ『しず子は、私が守る』

しずく『……守ってくれなかったじゃない!!』

かすみ『!!』ジワァ

しずく『はっ……』

かすみ『ごめん……ごめんね、しず子……』

しずく『……だ、だからぁ……私は高咲侑だって』

かすみ『違う!! あなたは桜坂しずくだよ!!』

しずく『桜坂しずくは、死んだの!!』

かすみ『そんな事言わないでよ!! 生きてる……侑先輩達が頑張ったおかげで……無事だったんだよ!?』

しずく『私のせいで!! 2人は無事じゃない!!』

しずく『人生が、壊れちゃったんだよ!?』

かすみ『で、でも……そんなのは違うよ……間違ってるよぉ!!』

しずく『なにが!? ──何が間違ってるの!?』



311: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:17:41.18 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『これが一番なの!』

しずく『桜坂しずくがいなくなって、歩夢さんを私が支える!』

しずく『あの子のせいなんだから、あの子がいなくなるべきなんだよ!!』

かすみ『だからってこんなの間違ってる! 歩夢先輩の為に侑先輩になるの!? そんなの、騙してるのと変わらない!!』

しずく『騙してない! ──私は、高咲侑だもん!!』

かすみ『桜坂しずくだよッ!!』

しずく『っ、その名前で──呼ばないでよ!!』

しずく『かすみさんには関係ないでしょ!?』

かすみ『関係あるよ!』

かすみ『私は、桜坂しずくの事が大好きなの!!』

かすみ『前にも言ったでしょ!?』

かすみ『大好きな子が間違った道を歩いてたら、連れ戻すに決まってる!!』

しずく『っ!!』

かすみ『……しず子。戻っていて……しず子まで……いなくならないでよぉ……』

かすみ『お願いだよ……!』ポロポロ

しずく『………………』

しずく『桜坂しずくの事が、大好き?』

かすみ『大好き』

しずく『…………』

しずく『私は』

しずく『──大っ嫌い』

かすみ『』



312: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:25:44.89 ID:+pHY/+ZJ.net

しずく『あんな子、死んじゃえばよかったんだ』

かすみ『』

しずく『桜坂しずくのせいだ』

かすみ『』

しずく『あの子さえいなければ、何も無かったんだ』

かすみ『……!』

しずく『かすみちゃんも、もうあの子には近づかない方が良い』

しずく『壊れちゃうよ? 人生』

かすみ『ひっぐ……ぁぁ……!』

しずく『だから、もう関わらないで』

かすみ『──ああぁぁぁああああッ!!』

タッタッタッタッタ!!

しずく『……』

しずく『ッ……、!』

しずく『ごめんね……ごめんね……!』

しずく『かすみさん……ごめんなさい……!!』


──やり直したい。



313: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:28:16.16 ID:+pHY/+ZJ.net

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315: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:41:55.86 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『……』スタスタ

ヒソヒソ

ヒソヒソ

しずく『……』スタスタ


周りの視線が集まる。


『あれ、高咲侑さん?』

『入院してるんじゃ……』

『桜坂しずくちゃんだよね?』

『でも……あの見た目……』


しずく『…………』スタスタ

かすみ『あっ……』

しずく『!!』ビクッ

かすみ『っ……』フイッ

スタスタ

しずく『……』


──私は、高咲侑さんになった。

見た目も、近付けた。

身長も1センチしか変わらないし、緑色のコンタクトレンズも手に入れた。声も、真似できるようになった。

リボンだけはどうしようもないから、外す。

──桜坂しずくは消えて、私は侑さんになれた。


しずく『……』


けど、ずっと侑さんでいるのも集中力を使う。ボロを出さないように、休憩しなきゃ。

少しの違和感も、歩夢さんには気づかれてしまう。

歩夢さんは桜坂しずくのせいでおかしくなっちゃった。けど、おかしくなっちゃっても、きっと侑さんとなら会話できると思う。

だから、歩夢さんの前では完璧な侑さんになろう。


しずく『…………』


学校にいる間は、日記を読み続けよう。

一人でいよう。



317: 名無しで叶える物語 2021/11/23(火) 23:58:11.39 ID:+pHY/+ZJ.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『あっ……』


次の日の朝。私は、歩夢さんに会いに来た。

いつも寝ていたけれど、起きている。


歩夢『へ……?』

しずく『……』

歩夢『侑、ちゃん……?』

しずく『……』


──よかった。ちゃんと、侑さんになれてる。

歩夢さんと、話せてる。


しずく『…っ…!』

しずく『おはよう』

しずく『あ、歩夢……!』

ギュッ

歩夢『え……へ!?』

歩夢『ゆ、侑ちゃん……!? どうしたの?』


でも、いつもよりちゃんと話せている気がする。

いつもは、本当に会話が出来ないのに。前の歩夢さんと話してるみたい。

何があったんだろ? やっぱり、侑さんを認識出来たから、元気になったのかな?

それとも、薬の影響?


歩夢『侑ちゃん、恥ずかしいよ……』


──まぁ、なんでもいいや。


しずく『ごめんね、歩夢』

歩夢『え?』

しずく『ごめん……ごめんなさい……』

歩夢『???』



319: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 00:09:01.06 ID:dLNujMX/.net

かすみ『あ、歩夢先輩……?』

しずく『!!』

歩夢『かすみちゃん……?』


──すごいタイミングだ。かすみさん。歩夢さんのお見舞いに来てくれたんだね


かすみ『ちゃ、ちゃんと──(話せてる! 歩夢先輩、話せてるよ!)』

しずく『帰って』


でも、タイミング悪いよ。


歩夢『──へ?』

かすみ『……』

歩夢『ゆ、侑ちゃん……?』


──上手くいったの。だからお願い。かすみさん。今日は帰って。



320: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 00:23:00.45 ID:dLNujMX/.net

しずく『かすみ……ちゃん』

しずく『歩夢は今起きたばっかなの』

しずく『色々混乱させちゃうから、帰って』

かすみ『……』

しずく『帰ってよ!!』

歩夢『!?』


かすみさん。お願い。

上手くいってるんだから。このままでいいでしょ?

これが一番良い選択なの。



322: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 00:43:19.18 ID:dLNujMX/.net

かすみ『…っ…』

かすみ(なんで……そうやって……!)

しずく『……』

歩夢『ゆ、侑ちゃん。どうしたの? なんでそんなに』

しずく『歩夢、いいから』

歩夢『……』

しずく『かすみちゃん。聞こえなかったかな?』

しずく『早く、帰ってよ』

かすみ『……ッ!!』

かすみ『混乱させているのは、どっちですか!』

歩夢『!?』

しずく『うるさいよ! いいから、帰ってよ!!』


──かすみさんは、本当に優しい。

合わせてくれている。






──どうして、こうなっちゃったんだろうね。



325: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 00:52:47.77 ID:dLNujMX/.net

かすみ『でもそれじゃ……しず子が──』

しずく『』


──その名前を出さないで。


しずく『その子の名前を──出さないでッ!!』

歩夢『ひっ!』ビクッ!!

かすみ『っ……!』

しずく『なんで……歩夢の前で……!』


桜坂しずくは消さなきゃダメなの。


しずく『やめてよ!! 誰のせいで……歩夢は……!!』

しずく『──今!! こうなってると思ってるの!?』


全部、桜坂しずくのせいなんだ。


しずく『全部!! あの子のせいなんだよ!?』

しずく『二度とその名前を出さないで!!』

歩夢『ゆ、侑ちゃん! 落ち着いて!』


桜坂しずくは、いちゃいけないの。

歩夢さんにとって。侑さんにとって。

──私は不要の存在なの。



327: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 01:02:06.60 ID:dLNujMX/.net

かすみ『!! ……全部しず子のせいだって言いたいの!?』

かすみ(何度だって、言ってやる)

かすみ(しず子のせいじゃない……!)

しずく『そうでしょ!』

かすみ『違う、違うよ!!』

かすみ『しず子のせいじゃないもん!』

かすみ(こんなの、侑先輩も歩夢先輩も望んでない!!)

かすみ『侑先輩だって本当は──(こんな事望んでない!!)』

しずく『何が……違うんだよ!!』

しずく『全部、あの子のせいだよ』

しずく『それがなんで分からな──(いの!?)』

歩夢『やめてよ!!』

しずく『!!』

かすみ『!!』

歩夢『もう……やめてよ……』

歩夢『2人して……喧嘩しないでよ……』ポロポロ

しずく『……』

かすみ『……』

歩夢『こんなの見てるの……嫌だよ……』


──やり直したい。

どうしてこうなっちゃったんだろう。

元に戻りたい。仲直りしたい。



334: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 16:03:25.07 ID:dLNujMX/.net







歩夢「……」

しずく「……」

しずく「私が……侑さんに相談しちゃったから……」

しずく「こんなことに……なっちゃったんです……」

歩夢「……」

しずく「あなたの大切な方は……今も目を覚ましません」

しずく「だから……私は償わなきゃいけないんです」

しずく「侑さんになって、あなたを支えなきゃいけないんです」

歩夢「……」



335: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 16:08:34.78 ID:dLNujMX/.net

歩夢「しずくちゃん」

しずく「……」

歩夢「無事でよかった」

しずく「……は……?」

歩夢「全部、思い出したから」

歩夢「しずくちゃんが無事で、良かった」

しずく「……歩夢さん」

しずく「なにも良くないです」

しずく「……なんで? なんで、そんなこと言うんですか?」

しずく「なんにも……なんにも良くないよ!!」

しずく「──侑さんは!! 私のせいで目が覚めなくなっちゃったんですよ!?」

しずく「あなたが入院する事になったのだって、全部……! 全部!!」

しずく「私のせいなんですよ!?」

歩夢「違うよ」

しずく「っ!!」

歩夢「違う」

歩夢「しずくちゃんのせいじゃない」

しずく「……ッ……」



337: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 16:17:43.38 ID:dLNujMX/.net

しずく「やめて」

しずく「私を許さないで」

歩夢「ううん。許すよ」

歩夢「ごめんね。しずくちゃん」

しずく「謝らないで」

歩夢「謝るよ」

しずく「やめて」

歩夢「やめない」

しずく「……やめてください」

歩夢「しずくちゃん」

歩夢「あなたのせいじゃない」

しずく「……」



339: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:00:37.50 ID:dLNujMX/.net

歩夢「しずくちゃん」

歩夢「私も、侑ちゃんも……そんなこと望んでない」

しずく「……なら、どうすればいいの……?」

しずく「わたしは……いちゃいけないのに」

歩夢「これからも、一緒にいて」

歩夢「高咲侑ちゃんとしてではなく、桜坂しずくちゃんとして」

しずく「!!」

歩夢「寂しい事……言わないでよ……!」

しずく「で、でも……私は……あなたの大切な人を……っ!」

歩夢「しずくちゃんも大切な子だよ」

しずく「へ……?」

歩夢「しずくちゃん」スッ

ギュッ

歩夢「しずくちゃんも、私にとっては大切な子なの」

ギュュュュ

しずく「」



341: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:03:56.90 ID:dLNujMX/.net

歩夢「私は昔から、引っ込み思案で人見知りだった」

歩夢「だから、全然友達もいなかった。侑ちゃんくらいしかまともにいなかったの」

歩夢「だから、ずっと侑ちゃんが私を引っ張ってくれた」

歩夢「……でもね、高校2年生になって」

歩夢「スクールアイドルを初めて」

歩夢「スクールアイドル同好会に入って」

歩夢「皆と、出会えた」

歩夢「私の大切な友達が──たくさん出来たの」ギュュュュ

しずく「」



342: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:15:05.25 ID:dLNujMX/.net

歩夢「明るくって可愛いのに、ちょっぴりイタズラ好きで困ったさんのかすみちゃん」

歩夢「私がスクールアイドルを始めるきっかけになった、憧れのせつ菜ちゃん」

歩夢「周りの子達を明るくできる、元気で一緒にいて楽しい愛ちゃん」

歩夢「優しくって、ぽかぽか私達を包み込んでくれるお姉ちゃんのようなエマさん」

歩夢「人一倍努力家で、綺麗な心を持った、優しくて頑張り屋さんの璃奈ちゃん」

歩夢「周りをよく見て、甘え上手なのに私達を優しく包み込んでくれる彼方さん」

歩夢「頼りになるしかっこよくてクールなのに、可愛い所もいっぱいある果林さん」

歩夢「そして──」

歩夢「優しくって、お淑やかで、演劇とスクールアイドルが大好きな可愛いしずくちゃん」

歩夢「みんな、大好き」

しずく「……」

歩夢「私に幸せな時間を与えてくれた皆。皆とは大人になってもずっと一緒にいたい」

歩夢「だからしずくちゃん」

しずく「…っ…」ポロ、ポロ

歩夢「いなくなってもいいだなんて悲しい事」

歩夢「言わないで?」ギュュュュ

しずく「ッ……、っ……!」ポロポロ



343: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:23:18.13 ID:dLNujMX/.net

しずく「でもぉ……でも……!」

しずく「わたし……わたしは…っ…!」

歩夢「大丈夫。侑ちゃんはきっと、目を覚ましてくれる」

歩夢「その時にしずくちゃんがいなかったら、侑ちゃん…きっと泣いちゃう」

歩夢「私もそんなのいや。しずくちゃんがいないだなんて、寂しくって泣いちゃうよ?」

しずく「あゆむさん……!」

歩夢「……しずくちゃん」

歩夢「あの時、私が先に死ぬだなんて言わせちゃってごめんね」

歩夢「辛い思いをさせちゃって、ごめんね」

歩夢「──私と侑ちゃんの為に」

歩夢「ありがとう」

しずく「!!」

ギュッ!!

しずく「うああああぁぁああんっ!! ──ひっぐ、ぅ…ッ、ぁあ……ああぁぁぁああッ!!」

しずく「ごめんなさい! 私……わたし……!」

しずく「ごめんなさい……!!」

歩夢「……」

歩夢「……」ナデナデ

歩夢「しずくちゃんが無事で、よかった」

歩夢「ありがとう」ギュッ










344: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:30:23.58 ID:dLNujMX/.net

歩夢「しずくちゃん。狭くない?」

しずく「うん……」


ベッドの上で、しずくちゃんと一緒に横になる。

私にぎゅっとしがみついている。妹がいたら、こんな感じだったのかなぁ……?


歩夢「そっか」ニコッ

歩夢「最近、あんまり寝てないでしょ? メイクで隠してたのかもしれないけれど、クマがすごいよ?」

しずく「……うん……」

歩夢「今日は、ちょっと寝よ?」

歩夢「私はここにいるから」

しずく「……うん……」ギュッ

歩夢「……」ナデナデ



345: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:38:50.20 ID:dLNujMX/.net

しずく「……ねぇ、歩夢さん」

歩夢「なぁに? しずくちゃん」

しずく「私……皆さんとどうやって顔を合わせれば良いんでしょうか……?」

歩夢「いつも通りで良いんだよ」

しずく「いつも通り……?」

歩夢「うん」

歩夢「友達と喧嘩しちゃったのなら謝って、勉強をして、皆と話して、遊んで。そんな風に過ごしていたあの頃みたいに」

しずく「……」

歩夢「時間はかかるかもしれないけれど、ゆっくり……やり直していけば良いんだよ」

しずく「……」

歩夢「私と一緒に、ねっ?」

しずく「……うんっ」

歩夢「ふふっ、いい子」

しずく「…………」ウト、ウト

歩夢「寝ていいよ?」

歩夢「私はここにいるから」

しずく「……」コクリ

しずく「……すぅ……すぅ……」

歩夢「おやすみなさい。しずくちゃん」ニコッ



348: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:48:58.14 ID:dLNujMX/.net

歩夢「……」

コンコンコン

「う、上原さ~ん……起きてますかぁ……?」

「そろそろ起床時間ですよ~……?」

歩夢「はい。起きてます」

「な、なら良かったです」


少しオドオドとした看護師さんが病室にやって来る。


「……あれ? その方は……」

歩夢「私の友達です。見なかったことにしてくれると助かります」

「は、はぁ」

歩夢「あと」

歩夢「今までご迷惑お掛けしました」

「……へ?」

歩夢「全部、思い出しました」

「上原さん……?」

歩夢「昨日……怒られちゃいました?」

「!?」

歩夢「ごめんなさい。結構錯乱しちゃいましたもんね……」

歩夢「でも、大切な資料は落としちゃいけないと思います」

「う、上原さん! 全部分かるんですか!?」

歩夢「はい」

「……」ポカーン

歩夢「看護師さん。お願いがあります」

歩夢「連絡を取って、呼んでほしい子達がいるんです」







350: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 19:57:28.23 ID:dLNujMX/.net

愛「あ、歩夢……! ほんとーにもう治ったの!?」

歩夢「うん」

せつ菜「本当に……良かったです……歩夢さん……!」

歩夢「せつ菜ちゃん。ありがとうね?」

歩夢「またうさぎさんの折り紙、作ってほしいなぁ」ニコッ

せつ菜「っ……!」ジワァ

せつ菜「──はいっ!」ニコッ

かすみ「…………」

歩夢「かすみちゃんも、ありがとうね? お見舞いに来てくれて、嬉しかった」

かすみ「……いえ……」

歩夢「……」

タッタッタッタッタ!! ──ガラガラ!!

彼方「はぁ、はぁ、はぁ……!」

彼方「あ、歩夢ちゃん!」バッ

ギュッ!!

歩夢「わぷっ! か、彼方さん!?」

彼方「よかった……よかったよぉ……!」

彼方「愛ちゃんから連絡があって……!」

歩夢「来てくれて、ありがとうございます」ニコッ



352: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:08:46.78 ID:dLNujMX/.net

エマ「か、彼方ちゃん。病院だから走っちゃダメだよ」

果林「気持ちは分かるけど、ね?」

歩夢「エマさん、果林さん!」

エマ「っ! ……あ、歩夢ちゃん……!」ポロ、ポロ

スタスタ ギュッ

エマ「よかった……歩夢ちゃん……!」

果林「ッ……ほ、本当に……良かったわ」ジワァ

歩夢「心配かけちゃって、ごめんなさい」

歩夢「もう、大丈夫です」

歩夢「皆、来てくれてありがとう」

愛「ほんとだよ!! もぉ……! 愛さんに歩夢成分を摂取させろー!!」ギュュュュ

彼方「彼方ちゃんにもー!!」ギュュュュ

歩夢「く、苦しいよぉ……」

果林「ちょ、ちょっとあなた達!? 歩夢が潰れちゃうわよ!」

スタスタ ──ガラガラ

かすみ「!!」

璃奈「ほら、しずくちゃん。一緒に入ろ?」

スタスタ

しずく「……」

璃奈「歩夢さん。しずくちゃんのおめかし、終わったよ?」

歩夢「ありがとう璃奈ちゃん。うん。寝癖とかもバッチリ治ってる」

璃奈「私が一番最初に来たんだし、お易い御用」

歩夢「ありがとう」ニコッ

璃奈「うん」

しずく「……」

「「「……」」」



353: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:16:29.11 ID:dLNujMX/.net

しずく「……あ、あの……私──」

せつ菜「髪、下ろしてカラコンも外したんですね?」

せつ菜「そっちの方がやっぱり良いですよ。しずくさん」

しずく「!!」

愛「後は髪色だけ戻せば完璧だねっ!」

エマ「うんうん。そうだね」

しずく「皆さん……」

しずく「ごめんなさい……私……!」

せつ菜「しずくさん」ギュッ

せつ菜「──おかえりなさい」ニコッ

しずく「!! ……はい……!」

かすみ「…………」

かすみ「しず子」

しずく「あっ……かすみさん……」

スタスタ

かすみ「……」ジー

しずく「……」

かすみ「髪、長い方がやっぱりいいよ」

しずく「へ?」

かすみ「その方がしず子っぽいもん」

かすみ「第一、かすみんとキャラが被っちゃうもん」

かすみ「だから」

かすみ「これから、ゆっくり伸ばしていこう」

かすみ「ね? しず子っ」ニコッ

しずく「か、かすみさん…っ…!」



354: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:25:27.24 ID:dLNujMX/.net

歩夢「皆、集まってくれてありがとう」

歩夢「今日は伝えたい事とお願いがあったから来てもらいました」

歩夢「私、全部思い出したの」

歩夢「怖かった事も、皆に迷惑かけちゃった事も」

しずく「……」

歩夢「でも、全部がなくなったわけじゃない。まだ、やり直せる」

歩夢「ゆっくりかもしれないけれど、一歩一歩、元に戻したい。やり直したい」

歩夢「だから、皆」

歩夢「これからも私を支えてほしい。私も支えるから、皆と一緒にいたい」


私の言葉を、皆真剣に聞いてくれる。

頷いてくれる。

──本当に、優しい。みんな、大好き。


歩夢「あと」

歩夢「これから先は、私のお願いなんだけど」

歩夢「──侑ちゃんの病室に、私を連れて行って」



355: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:29:57.42 ID:dLNujMX/.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ピー、ピー、ピー

侑「………………」


歩夢「……」


私が入院している病院の別病棟。5階に侑ちゃんはいた。

静かに、目を瞑って──眠っている。


しずく「侑さん……」

愛「ゆうゆ……」

「「「……」」」


皆、辛そうで悲しそうな表情を浮かべている。


歩夢「……」


私も、同じ。

──けど、諦めちゃだめ。


歩夢「私ね」

歩夢「夢の中かもしれないけれど、侑ちゃんに声をかけてもらったの」

せつ菜「声……?」

歩夢「うん」



356: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:35:22.76 ID:dLNujMX/.net

歩夢「私に起きて。みんなが待ってるって、声をかけてくれたの」

歩夢「夢の中でも、私の手を引っ張ってくれた」

歩夢「私を、導いてくれた」

かすみ「侑先輩が……」

歩夢「うん。だから──次は、私の番。私が、侑ちゃんを引っ張ってあげる番。声をかけてあげる番」

歩夢「私は、侑ちゃんが目を覚める事を信じてる」

歩夢「だから……皆も信じてほしい」

歩夢「侑ちゃんが、目を覚ますって」



359: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:48:57.64 ID:dLNujMX/.net

歩夢「夢は諦めなければ、いつかきっと叶う」

歩夢「信じ続けていれば、きっと夢は叶うと思っているから」

歩夢「だから……皆も……信じてほしい」

かすみ「当然です!」

歩夢「!!」

かすみ「侑先輩に、まだまだ可愛いかすみんをアピール出来ていないですから」

歩夢「かすみちゃん……」

せつ菜「えぇ。侑さんはこんな所で眠っていて良い方ではありません」

愛「だよね! 愛さんもまだまだたっくさん、ゆうゆと思い出を作りたいもん!」

璃奈「私も、侑さんがこのままなんて嫌。目を覚ましてくれるって、信じてる」

エマ「うん。侑ちゃんは幸せにならないといけない子だもん!」

エマ「神様だって、そう思ってるに決まってる」

彼方「うん。そうだね」

彼方「それにぃ、眠るのが大好きなのは彼方ちゃんの特権だもん。侑ちゃんは元気に起きてもらわないと~」

果林「ふふっ、そうね」

果林「それに……こんな素敵な幼馴染がいるんだもの。侑? 起きないとお姉さんが取っちゃうわよ?」

果林「だから、信じて待っているわ」

しずく「……私も、信じています」

しずく「それに、私は侑さんに謝らないといけません」

しずく「……それだけじゃない」

しずく「お礼だって、伝えたい」

しずく「私を守ってくれて──ありがとうって!」

歩夢「皆……!」



360: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:52:31.10 ID:dLNujMX/.net

歩夢「聞いた? 侑ちゃん」

歩夢「皆、待ってるよ?」

歩夢「私も、ずっと待ってる」

歩夢「道に迷っちゃったのなら、今度は私があなたを見つけるから」

歩夢「だから……だから……!」

歩夢「目を覚まして?」

歩夢「侑ちゃんっ」ニコッ


──私、待ってるから。

侑ちゃん。




──あなたを一人になんて、させないよ!



361: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 20:59:06.21 ID:dLNujMX/.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「じゃあかすみさん。よろしくお願いいたします」

かすみ「いや、さぁ……」

かすみ「突然髪色戻しを持って家に来たのも驚いたけど……かすみんが出来なかったらどうしてたの?」

しずく「オシャレのエキスパートのかすみさんなら髪をいじるのもお手の物かなって思って……。出来ない?」

かすみ「いや、できますけど!?」

しずく「ならお願い」

しずく「かすみさんにやってもらいたい」

しずく「桜坂しずくに、戻してほしい」

かすみ「しず子……」

かすみ「もうっ! 仕方ないなぁ~」

かすみ「可愛いかすみんに髪をいじってもらえるだなんて、光栄に思ってよね!」

しずく「うん。ありがとうかすみさん」

かすみ「はい。じゃあ正面向いて~」

しずく「うん」





しずく「ねぇ、かすみさん」

かすみ「ん~?」

しずく「ごめんね」

かすみ「へ……?」



363: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:05:45.19 ID:dLNujMX/.net

しずく「酷いこと言っちゃって、ごめんね」

しずく「私が道を迷った時、私の事を引っ張ってくれて、ありがとう」

かすみ「!!」

しずく「私も、中須かすみさんの事が大好き」

かすみ「っ……!」

しずく「本当に、ごめんね…っ…!」

かすみ「しず子……私も、ごめん」

かすみ「ひっぱたいちゃって、ごめんね……」

かすみ「怖い思いをしたのに、助けてあげられなくて……」

かすみ「ごめんね……!」ポロポロ

しずく「かすみさん……!」ポロポロ


──少しずつ、やり直していこう。



364: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:10:24.25 ID:dLNujMX/.net





かすみ「リボンを結んでっと! できたぁ~!」

しずく「わぁ……! ありがとうかすみさん!」

かすみ「……髪が短いしず子も中々新鮮かも……ぐぬぬぬ……キャラが被る」

しずく「被らないと思うけど……」

かすみ「被るの!」

しずく「あっ、でもこれなら髪お揃いにできそうだね」

かすみ「!? 確かに!! よかったねしず子っ」

しずく「あはは……」

しずく「あっ、ごめんかすみさん。この後時間ある?」

かすみ「ん? 別に特に予定は無いけど」

しずく「分かった。ちょっと電話するね?」

かすみ「? うん」コクリ



366: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:18:36.41 ID:dLNujMX/.net

──prrrrrr!! ピッ

しずく「あっ、もしもし璃奈さん?」

かすみ(りな子と電話してるのかな?)

しずく「急にごめんね? 今、時間良い?」

しずく「……うん。うん!」

しずく「ありがとう。うん。……そう、この前の猫カフェの話」

かすみ「……(猫カフェ?)」

しずく「ほんと? ありがとう。ならかすみさんと一緒に璃奈さんの家に向かうね?」

かすみ「へ?」

しずく「うん。ありがとう! また連絡するね」

しずく「あと、璃奈さん」

しずく「大好きだよ」

かすみ「!?」

しずく「ふふっ、ありがとう。……あと、他にも伝えたい事あるから、かすみさんと向かうね。じゃあ、また後で」

ピッ

しずく「よしっ、かすみさん。この後」

かすみ「どういう事!?」

かすみ「大好きって、なに!?」

しずく「へっ!?」


──少しずつ、やり直していこう。

そうだよね?

侑さん。



368: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:23:24.16 ID:dLNujMX/.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「よ、夜の病院ってやっぱり怖いね……」

歩夢「侑ちゃん。オバケとか気を付けてね?」

侑「………………」

歩夢「そうだ。侑ちゃん」

歩夢「私、退院が決まったよ」

歩夢「学校にも、また通うよ」

歩夢「けど、お見舞いには来るから安心してね?」

侑「………………」

歩夢「侑ちゃん。やっぱり皆、優しいよね」

歩夢「皆、侑ちゃんが起きるの待ってるよ」

歩夢「私も……信じてる」

歩夢「………………」

歩夢「けどね、侑ちゃん」

歩夢「皆には、まだ言えてない事があるの」

侑「………………」

歩夢「ねぇ、侑ちゃん」






歩夢「私……!」

歩夢「侑ちゃんがいないの、耐えられないよ…っ…!」

歩夢「侑ちゃんがいない世の中で、生きてなんていけない……!」ポロポロ



369: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:26:06.96 ID:dLNujMX/.net

歩夢「お願い、お願いだよ」

歩夢「侑ちゃん……!」

歩夢「起きて?」

歩夢「起きてよ……!」

歩夢「お礼を言わせてよ……!」

歩夢「一緒に、歩んでよ……」

侑「………………」

歩夢「……ひっぐ……!」

歩夢「侑ちゃん……っ」

歩夢「──うああああああああんッ!!」





──侑ちゃん。私、待ってるから。



371: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:43:04.43 ID:dLNujMX/.net

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

夏がやってくる。

去年、スクールアイドルフェスティバルを開催したのが懐かしい。

侑ちゃん。
今年もね、開催するんだよ。スクールアイドルフェスティバル。

かすみちゃんの提案で、侑ちゃんが大好きだったスクールアイドル同好会は復活したの。
みんなで気を付けて、危険のないように立ち回ることを前提にして。

スクールアイドル全体で、セキュリティの強化も入って、あの事件も風化していった。

模倣犯も、減っていった。

何事も無かったのように、時間は過ぎていった。

──今日も、私は侑ちゃんの横にいる。

私としずくちゃんはスクールアイドルには、まだ戻れていない。

私は、侑ちゃんが起きてからスクールアイドルに戻りたいから。

しずくちゃんは、まだ人前に出るのが怖いみたい。

けど、少しずつ前の生活に戻れてきている。

この前、二人で買い物に行った。しずくちゃん、ちゃんと笑顔を作れていた。

あと、侑ちゃんのヘアゴムも一緒に選んで買った。


歩夢「あっついねぇ~」

歩夢「起きたら、アイス食べようね。侑ちゃん」


──早く起きて、渡したいな。

そして、3人でお買い物に行こうよ。

侑ちゃん。



372: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:49:53.63 ID:dLNujMX/.net

歩夢「まいごのまいご あゆむちゃん」

歩夢「あなたのおうちは どこですか」


小さい頃、侑ちゃんが私を見つけた時に歌ってくれた、童謡。

本当に懐かしい。思い出の歌。少し歌詞、変えられてるけどね。


歩夢「私のお家は、侑ちゃんの隣」

歩夢「ずっと一緒」

歩夢「そうだよね? 侑ちゃん」ニコッ


あの時、私を見つけてくれてありがとうね。

侑ちゃん。


歩夢「そろそろ起きて?」

歩夢「侑ちゃん」


窓を開け、明るい日差しが部屋に降り注ぐ。

優しい風が吹いてくる。








──夢は諦めなければ、いつかきっと叶う。



374: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:52:36.03 ID:dLNujMX/.net

「ぁ……ゅ…ぅ……?」






──声が聞こえた。





歩夢「」






──私は、声が聞こえた方へ振り返る。



376: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:54:57.86 ID:dLNujMX/.net

歩夢「──……っ……!」



歩夢「……」



歩夢「みつけた」

歩夢「っ、ゆ……侑ちゃん……!」




歩夢「おはよっ!」

歩夢「侑ちゃんっ!」



377: 名無しで叶える物語 2021/11/24(水) 21:55:49.39 ID:dLNujMX/.net

しずく「カルネアデスの舟板」


おしまい。



元スレ
しずく「カルネアデスの舟板」