1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/12(土) 23:41:28.02 ID:3IGaksct0
ザザーン
律「うーん……」
澪「おいっ! 律っ!」
律「あれ、どったの澪? てかここどこ? 波打ち際?」
澪「私たち遭難しちゃったみたいだぞ!」
律「そうなんですか」
澪「……っ」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/12(土) 23:47:37.10 ID:3IGaksct0
律「そんな大時代的な……」
澪「ほら、私たちムギの別荘へ合宿に来ていて」
律「だね。ムギの別荘でかくてびっくりした」
澪「で、クルーザーで遊んでいて」
律「おう」
澪「天気が悪くなって」
律「急にだもんね。びっくりしちゃった」
澪「転覆しちゃって」
律「……マジでか」
澪「気付いたら私たち……」
律「やばいな。救助はまだ?」
澪「知る由もない」
律「他の連中は無事なんだろうかねぇ」
律「よーし、とりあえずこの島を散策しようじゃん」
澪「あ、危ないだろう! 獣がいたらどうするっ!」
律「女は度胸、何でも試してみるものさ」
澪「男じゃないのか、それ?」
律「唯たちも流れ着いているかもしれないし」
澪「そっか。ちょっと怖いけど……」
律「ようし、そうと決まればレッツゴー!」
―――
律「ふう、これで一周か。小一時間ばかりかかったね」
澪「狭い島だよね。地理的にはどの辺りなんだろう?」
律「さぁね。一応日本なんじゃない?」
澪「えらく適当だな……」
律「お次はあのジャングルね!」
澪「水着でジャングルはちょっと……」
律「いいからいいから」
澪「はぁ……」
ピギー
澪「ひゃうっ!」
律「あはは、只の鳥よ、鳥」
澪「りつぅ……」ウルウル
律「……あ、あのね。そんな目されてもなにも出ないから」
澪「なんで私たちがこんな目に……。足も痛いし……」
律「そんな悲観的になるもんじゃないの! きっと助けも来るって」
澪「そうだといいけど……」
律「はぁ……」
―――
律「なんの変哲もないジャングルだったな。ちょっとガッカリ」
澪「ふふ、私はそうじゃないかと思っていたんだよ。大体――」
律「事ある度に私の二の腕に、胸を押し付けてきたのは何処のどなたかしらん?」
澪「……っ」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
澪「それにしても日が暮れちゃったな……」
律「だね。今日は何処で寝ようか?」
澪(シャワー浴びたい……)
律「そうだ! 難破船があったじゃん、難破船!」
澪「どこに?」
律「ほら、さっき島を一周した時に見つけたやつ」
澪「あったようななかったような……」
律「あの中だったら夜露も凌げそうじゃん!」
澪「……そうかな」
律「ようし、ひとっ走りするぞー、澪!」ムンズ
澪「あ、ちょっ、律!」
―――
律「ようし、着いたぞー」
澪「大きな船……」
律「なんか砲台みたいのも着いてるし」
澪「いつの船だ、これ? 国籍は……」
律「どうだっていいじゃん? 早速中に入ろうぜ」
澪(『大和』って書いてある……)
―――
律「……暗いよなぁ。ぼろいし」
澪「当たり前だろ。多分五十年以上前の船だぞ、これ」
律「マジで!」
澪「うん、多分昔々の戦艦なんじゃないかと」
律「戦艦ねぇ」
澪「とりあえず寝られる場所はないのかな?」
律「お腹も空いたし」
―――
律「おっ、ここでいいじゃん。ベッドもあるし」
澪「うん、都合のいい場所があってよかった」
律「それにしても晩御飯なしはつらいなぁ。なんか持って来るんだった」
澪(ハイキングじゃないんだぞ……)
律「この船に缶詰でもないものかなぁ」
澪「あったとしても、食べられるわけがないだろう」
律「なんたって五十年以上前の船だから? 賞味期限切れ?」
澪「そういうこと」
澪「あ、律。これ――」
律「どしたー、澪?」
澪「ほら……」ジャキン
律「なっ、それって鉄砲!?」
澪「そうみたい……。弾も幾つか……」
律「打ち方とかわかる?」
澪「全然」
律「ようし、明日はこれで野鳥狩りでもしようか?」
澪「え?」
―――
ダーン
律「また外したぁ!」
澪(まさか本当に打てるだなんて……)
律「打ち方はマスターしたけどね。簡単、簡単。数学より断然」
澪「さすがというかなんというか……」
律「ようし、澪。今度はあっち行こうぜ!」
澪「ちょっ、ちょっと待ってよ。私、もうお腹は空くし、体は汗臭いしで……」
律「むむ、私もだ……」
―――
律「おお、こんなところにオアシスが!」
澪「オアシスっていわないだろう、こういうのは……」
律「さっそく体洗おうぜ!」
澪「あ、律――」
ザッパーン
律「うわぁ! 冷やっこい!」
澪「……この水は飲めそうだな」ペロペロ
律「ほらぁ、澪も早く入んなさいって。冷たくて気持ちいいぜー」
澪「うん、そうしようかな……」
律「どう、澪? これで水は確保できたよねぇ」
澪「よかった……。本当に良かった」
律「後は食べ物が見つかれば完璧。なんて、当面の間は狩猟がメインになるかも」
澪「……律、仮に野鳥を狩ったとして、自分で料理できるのか?」
律「?」
澪「私には無理だぞ」
律「どして?」
澪「だ、だって内臓とか……」
律「あのー、私としては澪に料理してもらう予定だったんだけど?」
澪「絶対無理」
律「私にも無理だかんね! そ、そもそも只の女子高生の私らに狩猟なんて無茶だったんだ!」
澪「無茶なのはおまえだ!」
律「や、やばくない。私たち……」
澪「やっと自分の置かれた状況に感づいたか」
律「それに日用品とかも無いし……」
澪「うん。下手すれば私たち……」
律「う、うそでしょー! 私まだ彼氏すらできたことないのにっ!」
澪「なんて悠長な……」
律「ああ、助けはまだかなぁ。唯たちはいずこへ……」
澪「……」
律「あれ、どったの、澪しゃん? 深刻な顔しちゃって」
澪「最悪、生き残ったのは私たちだけかも」
律「へ?」
澪「……あの悪天。助かった事が奇跡的だよ」
律「ちょっ、澪? 何も考え深げにしなくていいから……」
澪「――唯たちはすでに死んでいるかもしれない」
律「……ゴクリ」
律「だ、大丈夫だって。多分もう救助されてだねぇ、あはは……」
澪「なんでそう言い切れるんだ?」
律「み、澪……」
澪「つまり、私たちの置かれた状況はそれほど深刻だって事だよ」
律「……」
澪「……」
律「――で、でもさ。ネガティブになってたら状況は悪くなるばかりじゃん! ポジティブに行こうぜっ!」
澪「律……」
律「よーし、そうと決まれば食べ物探しだっ! ほらほら、澪もっ!」
澪「……ふふっ、そうだな。私だってこの歳で死にたくなんかないよ」
律「その調子、その調子」
―――
律「ほら、このキノコとか食べられるんじゃない? 沢山生えてるし」
澪「キノコなんて危なっかしくないか? 毒にでもあたったら……」
律「でもさ、私もうお腹空いて死にそうだよ……。今朝から、いや、昨晩から何も食べてないし」
澪「それは私もだよ……」
律「……試しに食べてみない?」
澪「えっ?」
律「ほら、ここに昨日手に入れたマッチもあるから火もおこせるぜ」
澪「……」
律「澪、死ぬ時は一緒だからね――」
澪「演技でもない事を言うなっ!」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
―――
律「うめー、キノコうめー」ムシャムシャ
澪「いけるな、これ」モグモグ
律「いやぁ、こんな美味しいキノコに毒なんてある筈がないって」
澪「そう願うよ」
律「醤油でもあればもっとよかったのに……」
澪「バターで焼いたりなんてしてね」
律「醤油バター、最高だ……」
―――
澪「ふう」
律「満腹だ……」
澪「果たして大丈夫だったんだろうか?」
律「多分ね」
澪「……まぁ毒があったら時既に遅しかもだけど」
律「あのな、澪。縁起でもない事を言ってるのは自分じゃないの?」
澪「ご、ごめ……」
律「いいけどさ」
―――
律「あれから数時間経ったけど――」
澪「体調になんら影響なし、か」
律「いんや、むしろ何やらみなぎって来るものがあるぜっ」
澪「言われてみれば……」
律「ようし、このキノコいっぱい持って帰ろうぜ。あの船に!」
澪「うん、それがいいかも。キノコばっかりってのもアレだけど」
律「まぁワガママは言えないよねぇ。残念ながら……」
澪「果物とかがあればなぁ」
律「甘いものかぁ。食べたい……」
澪「ムギのケーキ……」
律「……ゴクリ」
―――
律「ふー、今日の収穫はキノコだけかぁ」
澪「仕方ないよ。あれだけ頑張ったんだし」
律「まぁお腹はいっぱいになったよな」
澪「栄養はなさそうだけど。カロリーとか」
律「忌むべき言葉だな、カロリーって。そういえば私、ダイエット中だったような…」
澪「日常生活を送る上ではね。今は状況が違いすぎるから……」
律「いっそ油でも飲みたい」
澪「……私は砂糖が舐めたいな」
―――
律「さぁて、今日はどうする~?」
澪「昨日に引き続き、食べ物探しでいいんじゃないか」
律「だね。キノコばっかり食べてると、その内体がキノコになるかも」
澪「そういう映画あったよな……」
律「前に私が見せたやつだよね。澪ったらすごく怖がってたけど」
澪「思い出させないでくれないか……」
律「ようし、置いてくぞ~、澪」
澪「あ、待ってよ!」
―――
律「やっぱりお肉がたべたいな」
澪「と、なると狩猟?」
律「いっそのこと魚でもいいや」
澪「魚? と、なると釣りかな」
律「おおっ、釣り! 私、昔お父さんとやった事あるぜっ!」
澪「どうせ家族用の釣堀だろう。ニジマスやらヤマメやら」
律「違うって。ほら、四角い水槽みたいなので区切られてて――」
澪「だからそれが釣堀だって……」
律「へぇ、そうだったんだ」
―――
律「釣竿はこれで良いかな?」
澪「うーん、ちょっと太すぎるんじゃないか」
律「そういうものなの?」
澪「うん、しなりがある方がいいだろう、多分」
律「多分って……」
澪「よし、これなんかどうかな?」
律「細すぎない? すぐに折れちゃいそうだぜ?」
澪「これくらいが丁度いいだろう」
律「へぇ、澪って釣りに詳しいのな。そんな頻繁に行ってたっけ?」
澪「いや、これが初めてだけど……」
律「ダメだこりゃ」
―――
律「ていうか、糸も針もないじゃん。そんなんじゃ外来魚だって釣れやしないって」
澪「ふふふ、その台詞を待っていたんだ」
律「?」
澪「ジャングルに細いツタが生えていただろう? あれを糸として使ってみる」
律「ふむふむ」
澪「針はこれだっ!」サッ
律「……なにそれ?」
澪「動物の骨だよ。昨日の散策で拾っておいたんだ」
律「すごく曲がっているじゃん、鋭いし」
澪「私が自らの手で削っておいたんだ。おまえが寝静まった後でね」
律「さっすが! 器用だよねぇ、澪しゃんは」
律「で、エサはどうすんの?」
澪「土を掘り返せば虫が沢山いるだろう? それを使えばいい」
律「ミミズとか?」
澪「うん」
律「……へぇ、それじゃあ澪が自分で針に付けてよ」
澪「は?」
律「ミミズなんて触れるの、澪しゃんは?」
澪「絶対無理」
―――
律(結局、私がやる破目に……)
澪「律、頑張るんだっ!」
律「はいはい」
ミミズ「ニョロ」
澪「ひいっ!」オドオド
律「オーバー過ぎだから……これでよしっと」
澪「ふう、手間取らせたな」
律「おまえが言うか」
―――
律「ようし、昨日のオアシスに着いたぜぇ」
澪「ここが源泉だな。もう少し下流に行った方がいいかも」
律「釣れるかな、澪?」
澪「さぁて。神のみぞ知るって所かな?」
律「いや、むしろ『釣れる』じゃない! 『釣らねばならない』んだっ!」
澪「その意気だ!」
律「とりゃー!」
ポチャン
澪「後はしばらく待てばいいだろう」
律「ようし、釣れた魚はムニエルにしよう」
澪「残念ながら小麦粉もバターもないよ」
律「冗談なのに……」
律「……」
澪「……」
律「……釣れないね」
澪「全くな」
律「何時間経った?」
澪「えっとな、三十分とちょっと」
律「うそ! もう三時間くらい経ったのかと」
澪「……多分、おまえは釣りには向かないと思うな」
ピクピクッ
澪「――り、律。魚が食付いてるみたいだぞっ!」
律「マジで! ようし――」
澪「まだ引くな! 落ち着いて!」
律(平常心、平常心……)
澪「――今だっ!」
律「おっしゃー!」グイッ
ザッパー
澪「すごい! こんな大きな魚が!」
ピチピチ
律「すごいじゃん、私! やればできる子だったんだね!」
澪「よくやったぞ、律!」ナデナデ
律「ふふふ、もっと褒めてよ」
澪「よーし、よしよしよしよしよしよし……」ナデナデナデ
律「あ、もういいよ。早速焼いて食べよう」
澪「……っ」ブンッ
律「あいたっ!」ゴンッ
―――
律「うめー、魚うめー」
澪「り、律。私にも食べさせてよ」
律「よしきた」サッ
澪「……この濃厚な味わい。生まれてきてよかった」ウルウル
律「大げさだなぁ」
澪「よし、この調子でおまえは釣りを続けてくれ。私は付近を散策してみるから」
律「いんや、澪が釣りをしてよ。私、飽きちゃったから」
澪「……そう言うと思ったよ」
律「んじゃ、頼むね。私、あっちの方に行ってくるから」ダッ
澪「ちょっ、律!」
―――
澪(あれから三時間。魚は四匹も釣れたな。私って案外こういう才能があったかも)
澪(それにしても律はどこに? えらく遅いけど……)
律「――澪っ!」
澪「ど、どうした、律! 顔真っ赤にしちゃって!」
律「あっ、あのね、澪。ム、ムギのクルーザーが流れ着いてたっ!」
澪「ほ、本当かっ!」
律「う、嘘なんてついてどうすんのっ」
澪「こ、こうしてはいられない! すぐに向かおう!」
律「よしきたっ! こっちだから!」
澪「うんっ!」
―――
澪「こ、これは酷い……」
律「ボロボロだねぇ」
澪「中には入ってみたのか?」
律「いんや、まだだよ。見つけたら即行、澪のところまで戻ったから」
澪「そ、そっか」
律「よし、早速中に入ってみようぜ!」
澪「そうだな。もしかしたら誰かいるかも……」
律「唯たちが心配だぁ」
澪「……」コクリ
―――
?「……ううっ」
律「さ、斉藤さん!」
澪「す、すごい怪我……。大丈夫ですかっ!」
斉藤「紬お嬢様……」
律「は、ははは、早く助けないとっ!」
澪「そ、そうだな!」
律「澪はそっちの肩を持って! 私はこっち持つから!」
澪「わかった!」
斉藤「ううっ……」
―――
律「斉藤さん! しっかりしてってば!」
斉藤「ああ、お嬢様のご学友の……」
澪(目が虚ろだ……)
斉藤「ゴホゴホッ、ここは天国ですかな……?」
律「そんなわけないって! 絶海の孤島ってやつ!」
澪「私たち遭難したんです。救助もまだ……」
斉藤「そうなんですか……」
律(澪、ツッコミだ)
澪(やれるわけないだろっ)ツネッ
律「いたたたた!」
斉藤「?」
澪「斉藤さん。ムギ――いや、紬さんたちは?」
斉藤「あいにくですが私には……ああ、一生の不覚です」
律「そっか。皆、海に投げ出されて……」
斉藤「ゴホッ。つ、紬お嬢様の安否が心配です。こ、こうしては……」
澪「さ、斉藤さん! 無理をなさらないでください! お怪我に触りますからっ!」
斉藤「ああ、紬お嬢様の笑顔が見える……」
律「斉藤さん!」
斉藤「こ、琴吹家に仕えて○○年。小生は、小生は立派に仕事を成し遂げる事ができなかった……」
澪「斉藤さん! もう喋らないで!」
斉藤「ああ、お嬢様の花嫁衣装を見れなかったのが心残り――」ガクッ
律・澪「さ、斉藤さん!」
―――
澪「ねぇ、律……」
律「……どうしたの?」
澪「私たち、どうなっちゃうのかな?」
律「……」
澪「皆、皆はどうなっちゃのかな?」
律「……」
澪「ねぇ、律……?」ユサユサッ
律「斉藤さんのお墓を作ってあげなきゃ」
澪「……え?」
律「ほら、澪。足を持って」
澪「う、うん」
―――
律「……澪」
澪「ぐすっ……ぐすん」
律「泣かないでよ」
澪「そ、そんなのっ!」
律「――泣かないでったら!」
澪「ご、ごめん」
律「ポジティブにならなきゃ! 死んだらもうベースには触れないし、作詞だってできないぞ!」
澪「ベース……」ブワッ
律「ほら、澪。私の胸で泣いてもいいんだぞ……」
澪「りつーぅ!」ヒシッ
律(もっと真剣にならないとな)
―――
律「じゃじゃーん! 見てよ、澪!」
澪「コ、コーラの瓶?」
律「そう、あのクルーザーの中から見つけたんだっ!」
澪「クルーザーの中?」
律「明日にもう一回行って、中から物資を調達しようじゃない」
澪「……そうか。あのクルーザーの中なら」
律「そういう事。今日はこのコーラで景気付けといこう。甘いものなんて数日振りでしょ?」
澪「でも、栓抜きが……」
律「こんなもんこうやって引っ掛けて――」キンッ
澪「な、なるほど……」
律「さぁ、まずは澪しゃんからどうぞっ!」シュワワ
澪「……おいしい」
律「ふふっ、冷えてないけどね」
澪「こんなにコーラが美味しいなんて思ったの初めて……」
律「なんせ久々だもんね」
澪「……次は律が飲んだら」スッ
律「ようし、飲んじゃうぞー、私! 一滴たりとも残さないぞー!」グビグビッ
澪「あっ、そんな一気に飲んだら――」
律「――ごほっ、ごほっ。た、炭酸きついわぁ。ああ、なんてもったいない事を」
澪「……ばか律」
律「あはは、バカで結構!」
澪「ふふ、ばかばか律だ、今のは」
律(よかった。澪の機嫌もよくなったみたい)
―――
律「――今日も晴天。探索日和だ!」
澪「それじゃあ早速中に入る?」
律「もちろん! さぁて、何が出るかな何が出るかな~♪」
澪「……」
律「あ、あれ? どったの澪しゃん?」
澪「斉藤さんの血が――」
律「……見なくていいの。いや、あえて見ないようにしないとっ!」
澪「う、うん」
―――
律「お、これなんてどう?」ゴソゴソ
澪「『海洋生物図鑑』……? なるほど。役に立ちそうかも」
律「まだまだあるよ。お次はこれ!」ガサガサ
澪「釣竿とルアーかぁ。あの木の棒よりは役に立つかもね」
律「おおっ、こんなものまでっ!」ガサッ
澪「缶詰と乾パン……よかったぁ。これで文明的な食事にありつける」
律「しかもかなりの量だよ。さすがムギん家のクルーザー。準備がいいねぇ」
澪「しばらくの間は食事に困らないかも」
律「よっし、運が廻ってきたなぁ!」
澪「あっ……」
律「どうしたー、澪?」
澪「あれはムギのバッグ……」
律「なにっ!」バッ
澪「開けていいのかな?」
律「緊急事態だ。やむを得ないって」ジィィィ
澪「な、なにが入ってる?」
律「えっと――」
律「まずは財布でしょ。それに化粧品やら携帯――」
澪「携帯?」
律「携帯……あっ!」
澪「これで救助が呼べるかも!」
律「なんと!」
澪「り、律! は、早く!」
律「う、うん。わかってるって……」カチャ
律「……だめだぁ。アンテナゼロ」
澪「……当然かもね」
律「ん?」
澪「どうした、律?」
律「ほら、この待ち受け画面私らだよ」
澪「本当だ。なんでムギ、こんな写真を……」
律「皆だったらわかるけど、私らのツーショットなんてなぁ」
澪「……」
律「澪、どったの? 妙な顔しちゃって?」
澪「な、なんでもないって!」
律「?」
律「財布の中身はお金とカードのみ」
澪「絶海の孤島ではなんの価値もないな……」
律「お札は焚き付けくらいには使えるかもよ?」
澪「……ムギのお金だぞ」
律「冗談だって」
澪「冗談に聞こえないな」
律「あわよくば助かった後に私らで……」
澪「……っ」ブンッ
律「痛いからっ!」ゴンッ
―――
律「さてはて、今日の探索は終わりだ。服とかもあってよかったねぇ」
澪「すべての物資を運び出すには骨が折れそうだな」
律「しゃーないじゃん? まぁ、骨折り損って事にはならないし」
澪「まったく」
律「とりあえず早急に必要そうなものはもっていこうぜ」
澪「食べ物とか?」
律「それにこれもよ!」サッ
澪「せ、生理用ナプキン?」
律「ほらぁ、澪ってそろそろなんじゃないの、時期的に?」
澪「……いちいち覚えているのか」
律「部長ですから」
―――
澪「ようし、書けた!」
律「なにが?」
澪「手紙だよ、手紙」
律「お生憎ですが、日本郵政もこの孤島には――」
澪「そうじゃない。瓶の中に手紙を入れて流すんだ」
律「メッセージ・イン・ア・ボトルってわけね。なかなか浪漫チックじゃん」
澪「……効果は限りなく薄いだろうけど、やらないよりはマシじゃないか」
律「へぇ、手紙みせてよ」バッ
澪「あ、律!」
律「――私たちはどこやも知れぬ孤島に流れ着きました。このままでは物資が枯渇するのは目に見えています」
澪「恥ずかしいな」
律「よって早急な救援を求めています。この手紙を拾った方、どうか私たちの無事を両親にお伝えください」
澪「……」
律「で、私らの名前と連絡先ね。えらく短いけど……」
澪「筆記用具は限られてるからな。大事に使わないと」
律「なるほど。堅実だねぇ」
澪「場所も皆目検討がつかないからな。救援を求めるってだけ書いても面食らうだけかも……」
律「まぁ淡い期待を抱こうじゃないの。よし、さっそく海に流そうぜ」
澪「瓶は昨日飲んだコーラの瓶があるから」
律「栓は……」
澪「ここにコルクが」サッ
律「準備のいいこと」
―――
律「ほらっ!」
ボチャーン
澪「これでよしだ」
律「最悪、波に流されてこの島に戻ってくるかも」
澪「……淡い期待を抱こうじゃないか」
律「まったくだぁ。やれやれ、それにしても大変な事になったもんだ」
澪「ロビンソン・クルーソーみたいだよな、私たち」
律「誰それ? 有名なベーシスト?」
澪「……なんでもないよ」
―――
律「あれから三週間」
澪「救援が来る気配はゼロ、と」
律「どうする、澪? 食料も日用品も底を尽きかけてるよ……」
澪「わ、私に聞くなって!」
律「狼煙も何も効果はないし……」
澪「……」
律「ていうか、夏休み終わって、学校始まってる――」
澪「……っ」ブワッ
律「ちょっ、澪!」
澪「えぐっ、お家帰りたーい! お母さーん!」
律(澪の精神状態の悪化が深刻だ。もちろん、私も……)
―――
律「み、澪! 気を取り直して浜辺に行こうよ、浜辺に!」
澪「えぐっ、えぐっ……」
律「船が通ったら助けてもらえるかもじゃん!」
澪「……昨日も一昨日もその前も行ったけど全然」
律「だからって今日通らないとは限らないって! さぁ行くよ!」
澪「シクシク」
律「……ほら、涙と鼻水で顔グチャグチャじゃないの。チーン、して。チーン!」
澪「チーン!」
律「これでよし。いつもの優雅な澪しゃんに早代わりっ!」
澪「……ウソだ」
律「は?」
澪「髪だって切ってなくてボサボサ。顔だってメチャクチャ。体もボロボロ……」
律「み、澪……」
澪「こんな姿じゃどうにもならないよっ! いっそ海で溺死してやるぅ!」
律「ばか、澪! 早まるなって!」
澪「うわぁーん!」ダッ
律「待てっ! 澪っ!」ガシッ
澪「――!?」
律「今の澪も綺麗だよ」
澪「律……」
律「そう、あの青い海にも負けないくらい。夜空に浮かぶ一等星よりも輝いて見えるよ」
澪「……」
律「わ、私が男の子だったらとっくに襲ってたなぁ、あはは」(なにを言ってるんだ私!)
澪「……ねぇ、律」
律「?」
澪「キ……」
律「き? キチガイ地獄?」
澪「キ、キキキ、キスして……くれないかな?」
律「はぁ!?」
澪「……私ってファーストキスもまだなんだ。結構幻想抱いてたりするんだよ」
律「へ、へぇ……」(私もまだだっての。それに、幻想だって人一倍――)
澪「どうせ私たちここで死んじゃうんだろうし……」
律「死ぬなんて簡単に口にするもんじゃありません!」ブンッ
澪「いた……」
律「死ぬのはお互いに助かって、数十年後のベッドの上でだよ?」
澪「……いつもと立場が逆だ」
律「ん?」
澪「いつもは私が律を殴るのに……」
律「ふふ、愛情表現ってやつ?」(さぁこい。澪のゲンコツ)
澪「……やっぱりわかってたんだ」
律「わかるって――なにが?」(予想外っ!)
澪「私が律にゲンコツするのは、愛情の裏返しなのかも……」
律「???」
澪「ほら、私たちって付き合い長いだろう?」
律「……小学校の頃からだもんな」
澪「私、昔から臆病で……律にいつも助けられてばかりで」
律「澪?」(いつもと様子が違う、違いすぎる)
澪「私、何度も律が男の子だったらなって、思ったりしたんだよ?」
律「へ、へぇ……私って男勝りなのかなぁ?」
澪「いや、律も可愛い女の子だ」
律「ふ、ふぅん、なんだか褒められちゃったのかなぁ? お、おだてても何も出ないぜぇ」
澪「私たちの住んでいた社会って、つくづく面倒だよね?」
律「ど、どういうこと?」
澪「だって、同姓カップルなんて作ったら、周りから白眼視された挙句、アウトサイダー扱いなんだよ?」
律「み、澪?」
澪「いや、それだけじゃないよ。社会には唾棄すべき差別と偏見が、縦横無尽に蔓延っている」
律「……」
澪「肌の色、国籍、生まれた土地、学歴、性格、思想――他にもたくさん」
律「……」(なんの話だ?)
澪「このまま律と一緒に暮らせたら、私、軽音部のみんなや両親に会えなくてもいいかも……」
律「はぁ!? ちょっ、澪! 考え直してっ!」
澪「――なんで?」
律「なんでもっ!」
澪「どうして?」
律「どうしてもっ!」
澪「――ぷっ」
律「?」
澪「あはははは、冗談だよ、律。顔真っ赤だぞ」
律「……は?」
澪「ふふっ、私にからかわれるようではまだまだ甘いな」
律「澪、しゃん?」
澪「さぁ、浜辺に行くんだろう? 今日は見つかるといいな」
律「み、みお……。おまえ……」
澪「行こうって、律!」ギュ
律「あ、ちょっとタンマ! 頭の整理が……」
澪「いいからいいから」ダッ
律「い、いきなり走るなよっ!」
澪(……)
―――
律「ぜぇぜぇ、澪。飛ばしすぎだから……」
澪「そうかな? 私としてはごく自然なつもりだったけど」
律「……左様ですか」(こんな体力をどこに隠し持ってたんだ)
澪「さぁ、今日もただノンビリと浜辺で寛ごうじゃないか」
律「澪……」(さっきはあんなに泣いてたくせに)
澪「今日も青空が綺麗だなぁ。なんて、律には負けるけど」
律「それも冗談?」
澪「ふふ、どうだろう」
律「まったく……」
?「ワシャワシャ」
澪「ひゃうっ! て、只の蟹か」
蟹「ワシャワシャ」
律「蟹! 食べられるじゃん! 食料食料!」
澪「そっか。捕まえて損はないよね」
律「おーし、澪ぉ! 蟹取りに励むぞー!」
澪「ようし、今夜は蟹鍋にしよう」
律「調理は頼むぜぇ?」
澪「任せろっ」
―――
律「取れた、澪?」
澪「うん、こんなに沢山」ワシャー
律「ちょっとグロテスク……」
澪「そうかな? 結構可愛いと思うんだけど?」
律「……そう」(澪、逞しくなったのか?)
澪「おっ、あそこにいっぱいいるじゃないか」
律「本当だ」
澪「この蟹は任せたよ。私、捕まえてくるから」
律「了解」
―――
律(澪遅いよなぁ。何やってんだか……)
澪「キャー!!」
律「み、澪っ!」ダッ
澪「り、律っ! あれっ!」
律「あれ? 蟹の大群じゃん。海草みたいなのに群がってるけど……」
澪「目を凝らしてよく見るんだっ!」
律「うーんと……」(そういえばえらく臭うなぁ)
律「――ひ、人の死体。く、腐ってる!」
澪「……もっとよく見ろっ!」
律「え、えっと……」ジィー
澪「ううっ」
律「ム、ムギ? ム、ムムム、ムギの死体だっ!」
澪「うん……」
律「こんなにボロボロになって……。ああ、手足なんて取れちゃってる――」
澪「鮮明に言わなくていいからっ!」
律「……なんて、ことだ」
澪「律……」
律「やっぱり唯も梓も……」
澪「……」
律「どこかに打ち付けられて……」
澪「――っ」ダッ
律「あ、澪! ちょっと待てってば!」ダッ
律(澪、どこに行ったんだ?)
律(あの俊足、世界陸上にでも出ればよかったのに)
律(ぬ、なんだあの洞穴は。まるでドラクエのダンジョンみたいだ)
律(ようし、ここかもしれない。入ってみよう)
律「暗いなぁ……。一寸先は闇とはこの事だ。まるで私と澪……ゲフンゲフン」
律「澪ーぉ! いたら返事してぇ!」
?「グスングスンッ」
律「あっ、澪! こんな所に!」
澪「律……」
律「澪、こんなところにいたのか。はやここから抜け出そう。気分まで沈んでくる」(いやな臭いだ。ガスだろうか?)
澪「――律っ!」ヒシッ
律「おわっと!?」ドテッ
澪「ムギが……ムギがムギがムギがムギがっ!」
律「……いたぁ、お尻すっちゃった」
澪「ムギがあんなことに……」
律「……」
澪「ムギが腐り果ててっ!」
律「……うん、ムギはもうかえらない」
澪「白くてブヨブヨになって!」
律「澪……」
澪「まるで腐った豆腐みたいにっ!」
律「澪っ!」ブンッ
澪「っ!」パシーン
律「冷静になるんだっ!」(ガスが酷い……)
澪「律……」
律「涙を流すのは助かった後からでいい!」(視界がクラクラする……)
澪「ムギ……。ああ、ムギ……」ウルウル
律「ムギの分も私たちは生きなきゃ!」(早くここから……)
澪「生きる?」
律「そう、私らは花の女子高生! こんな所でくたばってたまるかって――」(……私、何を言っているんだろう?)
澪「女子高生?」
律「」わかる、澪? 限りある今を大切に……生き抜くのっ!」(生き抜く? なんじゃそりゃ?)
澪「――へぇ? 律、なんだかソワソワしてない?」
律「えっ!」(あはは、全くだよ、澪)
澪「それにしてもここって暑いよねぇ? 服脱いじゃおうか?」
律「……」(そうだそうだ! 服なんて脱ぎ捨てろっ!)
澪「やーれやれ」ヌギヌギ
律「……澪?」(ヒュー、やっぱ良い体してんのなぁ、澪ぉ)
澪「あははっ、下着も脱いじゃおっと!」ヌギッ
律「……澪。服着た方が良いって」(ストリップでもしちゃえよ、ホラ)
澪「律も脱ごうよっ! すっごい開放感っ!」
律「……本当に?」(脱げ脱げ、私)
澪「ほんとよ、ほんと! あははははははは!」グールグール
律「澪……」(ようし、私も)
澪「どうしたの、律? 一緒に踊ろうよ!」
律「……」(一糸纏わぬ姿に――)
澪「あはははははははははは!」グールグールグール
律「なっちゃえ!」バッ
澪「律、すごい。律の体って綺麗、綺麗すぎて垂涎ものっ!」
律「あはははは! そうかしらん! 胸は全然だけどねっ!」
澪「私好きだぞ! 律の体! 大大大大、大好きっ!」
律「あはは、こやつめ、あはは!」
澪「ねぇ、律! これからセックスしてみない!」
律「よーし、私、頑張っちゃうぞー! 今日は寝かせないかんなぁ!」
澪「あはははははははははは!」
―――
?「――ねぇ、あずにゃん?」
梓「なんですか、唯先輩」
唯「私たち、いつになったら救助されるんだろうね?」
梓「知る由もありません。かれこれ五日間ほど、この救命ボートに気の向くままですから」
唯「……おなかすいた」
梓「食べられるものはもう尽きてますよ?」
唯「おなかがすいたの!」
梓(私だって)
唯「あずにゃん、私たちって結ばれちゃったんだよね?」
梓「そ、そうですよ。唯先輩ったら私にしつこく迫るんだから……」
唯「あずにゃんが可愛すぎるのがわるいのっ!」
梓「相変わらず無茶苦茶ですね」
唯「こんな大海原の上で二人きりなんて、理性がおかしくなりそうだよ!」
梓(――ええ、全くです。唯先輩)
唯「あずにゃんのお腹、あずにゃんの小さなおっぱい、あずにゃんの桃みたいなお尻!」
梓「……」
唯「全部、全部私だけのものにしたいって!」
梓「――唯先輩。私もですよ」
唯「あずにゃん……」
梓「唯先輩の体、このボートの上では私だけのものなんですよね?」
唯「うんっ! そうだよ。和ちゃんや憂のものなんかじゃない、あずにゃんだけのもの」
梓「ふふっ、嬉しいです。唯先輩――」
唯「あずにゃん……」
梓「さぁ、こちらに」ヒョイヒョイ
唯「う、うん……」ヨリヨリ
梓「――さよなら、唯先輩」
唯「えっ?」
唯「……ぐっ」グサッ
梓「ナイフの味はいかがですか、唯先輩?」
唯「あ、あずny――ゴボッ!」
梓「おっと、できれば血を流さないやり方がよかったのですが」
唯「……グボッ!」バタン
梓「致し方ありませんね。唯先輩、いつまで経っても餓死しないんですから――」
梓(さぁて、食糧問題は解決っと)
梓(救助がくるまでの辛抱だ。やむ無しですよね、唯先輩……)キョロキョロ
梓「ようし……ここをナイフで――」
―――
バルバルバル
?「本部、応答せよ。繰り返す、本部、応答せよ」
本部『なにか見つかったか、A機?』
A機「海上に小型ボートを発見。女生徒の一人を確認」
本部『よし、至急救出せよ!』
A機「ラジャー!」
本部『お手柄だぞ、A機! 琴吹のお嬢さんだったら表彰ものだ!』
A機「はっ、身に余る光栄です!」
本部『ははは、一時間以内に戻ってきたまえ』
―――
梓「――はっ!」
ガバッ
梓(ここは、病院……?)キョロキョロ
ガチャ
?「今日もこの子に悪戯しちゃおうっと、ふふふ」
梓「か、看護士さん? ここは……」
看護士「――げっ! 目覚めやが……いえ、目覚めたのねっ!」
梓(随分長く眠っていたようね。船上で救出されるまでの記憶はあるけど)
―――
梓(どうやら私は二週間程眠っていたらしい)
梓(体が衰弱し切っていたのだ)
梓(今は病院から退院し、平常通りの学生生活に戻った)
ワイワイガヤガヤ
モブA「船の上で一人だったんだって!」
モブB「梓ちゃん、恐怖映画のヒロインみたい!」
梓「あはは……」
モブC「怖くなかった?」
モブD「食べ物は?」
梓「うん、ムギ――琴吹先輩のクルーザーから持ち運んでいたから」
梓(言える筈がない)
梓(――唯先輩を骨までしゃぶり尽くしたなんて)
―――
梓「う、憂……」
憂「梓ちゃん!」ヒシッ
梓「……」
憂「心配したんだからっ! 本当に!」
梓(唯先輩の、匂い)
憂「きっと、きっとお姉ちゃんたちも助かるよねっ!」
梓(――あなたのお姉ちゃんは私の血肉となって生き続ける)
憂「お姉ちゃん。お姉ちゃん……」ポロポロ
梓「――そんな事よりお腹すかない、憂?」
―――
梓(ふう、なんて平和な日常なんだろう。船上での遭難生活が嘘みたい)
梓(今日も早めに帰ってギターの練習でもしようかな? どうせ軽音部は廃部決定だろうし)
梓「お腹すいた……。お肉が食べたい」トボトボ
?「――失敬、中野さまですか?」
梓「はい、そうですけど? あなたは――」
?「私は琴吹グループの手の者です。名前は仮に『A』としましょう」
梓「ムギ先輩の?」
A「はい、貴女に用件がございまして――」
梓(今更なんの用事だろう? 警察の捜索はとうに打ち切られた筈)
A「紬お嬢様の捜索の件での話です」
梓「……言わずもがなです。さて、如何なるお話でしょうか?」
A「他でもありません。琴吹さまはいまだお嬢様の安否に心を痛めてらっしゃるのです」
梓「娘の一大事ですからね。たとえ警察が捜索を打ち切ったとしても、ムギ先輩の家ならば、私的に捜索を続ける気もわかります」
A「ふむ、話が早い。実は今度の日曜日、紬お嬢様の捜索業務に、ご動向を願いたいのです」
梓「動向ですか?」
A「ヘリを幾台も駆使して、日夜探索業務に明け暮れる私たちですか、お嬢様の消息はいまだ掴めません」
梓「……」
A「クルーザーの発見すらままならないのです。警察でも私たちでも――」
梓「海底を探されてみては如何でしょうか? あの悪天、間違いなく沈没している筈ですよ」
A「その線も現在調査中です。しかし、広い大海原。海底を隈なく調査するには、限りなく時間がかかるのです」
梓「なるほど」
A「――是非とも私たちに協力をお願いしたい。琴吹さまの切なる一存でもあります」
梓「ムギ先輩のお父さんの?」
A「謝礼については心配無用。貴女の言い値で構わないと仰っています」
梓(――へぇ。藁にもすがるってやつかな?)
―――
梓(体裁よく引き受けた私)
梓(それにしてもお金持ちの考える事はわからないなぁ。どうせ死んでいるだろうに)
バルバルバル
梓「うわぁ、大きなヘリコプター。さすがだなぁ、ムギ先輩のお父さんって」
?「中野さん、準備はできましたか?」
梓「はい、準備万端。心構えもオーケーです、操縦士さん」
操縦士「それでは行きましょう。早速乗り込んでください」
梓(ヘリなんて生まれて初めて――じゃないなぁ。なんて、すぐ気を失っちゃったから、実質初めてみたいなものね)イソイソ
操縦士「それでは行きますよ――」
バルバルバル
梓「うわぁ、すごいすごい。もうこんな高さまで」
操縦士「――今日はクルーザーの無線が途絶えたあたりを旋回します」
梓「へぇ、なんだか楽しみ! 操縦士さん、もっとスピード出してくださいよ!」
操縦士(……この子、大丈夫なのか?)
―――
バルバルバル
操縦士(あ、あれ……?)
梓「随分陸地から離れましたよね? ここはどの辺りですか?」
操縦士(無線もレーダーも調子がおかしい……こんな事は初めてだ)
梓「……操縦士さん?」
操縦士「――あ、はい! なんでしょう?」
梓「ここはどの辺りですか? もう、無線が途絶えた所まで着いたのですか?」
操縦士「あ、はい! 着きましたよ」(多分だけど)
梓「ふぅん。三百六十度海ばかりですねぇ」
操縦士(やばいなぁ。またどやされちまう。いったん戻ろうかなぁ……)
梓「――ん? あれはなんでしょうか?」
操縦士「……島、ですね」
梓(へぇ、絶海の孤島かぁ。今年の夏休みはアレだったし、是非行ってみたいなぁ。……よし)
梓「あの島に着陸してみませんか」
操縦士「……えっ?」
梓「もしかしたらみなさんが遭難しているかもしれませんよ」
操縦士「……みなさん?」
梓「ムギ――紬さんが」
操縦士「……ゴクリ」
操縦士(俺がお嬢様を見付けたら出世間違いなし……これはうまい、うますぎる話だ)
梓「降りてみましょうよ、操縦士さん。男は度胸、なんでも試してみるものです」
操縦士(うはっ、洋々たる未来が見えて来たっ! これは行くっきゃねぇ!)
梓「ねぇ、操縦士さんってばぁ……」
操縦士「――行きます! 全力前進っ!」
梓「さっすがぁ!」
―――
操縦士「……ん?」
梓「あれは――戦艦ですよね」
操縦士「はい、大和ですよ、大和」
梓「大和?」
操縦士「大日本帝国海軍が建造した史上最大の戦艦です」
梓「は?」
操縦士「まさかこんな所でって……えっ!」
梓「どうしましたか?」
操縦士「いや、まさか……。そんな馬鹿げた話が……」
梓「あ、あれ? あの砲台動いてますよ」
操縦士「――は?」
梓「まさか私たちを狙って……」
操縦士(いや、絶対狙ってるしっ!)
梓「そ、操縦士さんっ!」
操縦士「やっべ、マジでやっべ!」
梓「早く逃げて――」
ドウッ!
操縦士「あ、あああ、当た――」
梓「キャー!」
ドカンッ!
―――
梓「ガボガボガボッ」
梓(ここは海? 私、溺れてる?)
梓(死ぬのはイヤッ!)ムンズ
梓(へっ?)バシャーン
操縦士「だ、大丈夫ですか! 中野さん!」
梓「操縦士さんっ!」
操縦士「浜辺まで泳ぎますっ! 俺の肩に掴まっていてくださいっ!」
梓「は、はいっ!」
操縦士(じょ、常識的におかしいだろっ!)
―――
操縦士「ゼイゼイ……」
梓「ハァハァ……」
操縦士「……お、俺たち助かったんですよねぇ?」
梓「操縦士さんっ!」ヒシッ
操縦士「うおっ!」
梓「私、死んじゃうかと思いましたっ! 助けてくれて本当にありがとうっ!」
操縦士(あれ、この子近くで見たらメチャクチャ可愛いじゃん?)
梓「操縦士さんっ!」ヒシヒシッ
操縦士(こりゃたまらん。フヒヒッ)
操縦士「中野――いや、お名前は?」
梓「梓です」
操縦士「梓さん。どうやら俺たちはとんでもない事になってしまいました」
梓「……それはわかりますよ、私でも」
操縦士「しばらくの間はこの島で生活しなくてはならないかも……」
梓「……ゴクリ」
操縦士「しかもこの島にはとんでもない連中――おそらく海賊が」
梓(海賊って――この人頭大丈夫?)
操縦士「さぁ、こうしてはいられません! 早くこの場を離れましょう!」
梓「え?」
操縦士「やつらがここに来るかもしれませんからっ! さぁ、早くっ!」ムンズ
梓「ちょっ、操縦士さん――」
操縦士「いいからいいからっ!」ダッ
―――
操縦士「ようし、ここまで逃げれば……」
梓「ハァハァ……」
操縦士「中野さん、これから先は俺たちは一蓮托生! 力を合わせて海賊に立ち向かおうではありませんかっ!」
梓「……」
操縦士「そう、絶対の孤島で海賊と戦う男女――否、アダムとイヴ!」
梓(だめだこいつ……。早くなんとかしないと)
操縦士「梓さんっ!」ヒシッ
梓「ちょっ!」
操縦士「俺は、俺の今までの人生はこの時のために――」
ダーン
梓「!」
操縦士「……がっ」ドサッ
梓(眉間を一発。こりゃ助からないな)
?「あれれー? あそこにおわすは梓じゃないのぉ」
?「ほう、懐かしい顔だなぁ」
梓「そっ、その声は――!」
?「まさか部長の顔を忘れたっての? 冷たい子だねぇ」
?「まったくだ。礼儀ってものをまったく解していないなぁ」
梓「律先輩に澪先輩っ!」
律「やっとその名前が出てきたかぁ」
澪「やれやれだぁ」
梓「生きていたんですかっ!」
律「あったぼうよぉ。私が簡単に死ぬと思って?」
澪「そうそう。私らは不死鳥さながらなんだぞ」
梓(二人とも様子がおかしい……。それに――)
律「いやぁ、まさかさっきの小うるさい蝿が梓だったなんてねぇ」
澪「私ったらびっくりしちゃったぞぉ」
梓「り、律先輩。そ、その銃!」
律「ああこれ? 大和の中で拾ったのよ。イカスでしょ?」
澪「バカだな、律。今時はクールって言うんだぞ?」
律「あれまー、私としたことが……」
澪「あはははははは! おまえらしいよっ!」
梓「――な、なぜ操縦士さんを?」
律「はぁ? そりゃもちろん、この島は私と澪の楽園だもの」
澪「汚らわしい男なんて、一時たりともいるべきじゃないよな」
律「そそ」
梓(やばい、先輩たち心の平衡を失っている……)
律「私と澪はこの孤島のイヴとイヴ!」
澪「新しい神話を築くのは私たちだ!」
梓(……頭やばい)
律「あれっ? たとえ女だとしても、私らの他なんて――」
澪「あり得ないよなぁ」
梓「先輩たち……落ち着いて」
律「澪♪」
澪「律♪」
梓(逃げ――!)
律・澪「待てこらぁぁぁぁ!」
梓「いやぁー!」ダッ
梓「ハァハァ……」ダッ
律「くらえっ!」
ダーン
梓「ひいっ!」ダッ
澪「律、私に貸すんだっ!」
律「よしきたっ!」サッ
梓(澪先輩は得意そう、銃とかそういうのっ!)
澪「死ねぃ!」
ダーン
ビシッ
梓「――いたぁ!」ダッ
律「おほっ、肩に命中! さっすが、澪しゃん!」
澪「ぬはは、任せろっ!」
ダーン
ダーン
梓(逃げないと逃げないと逃げないと……!)ダッ
―――
律「どこいったぁ、梓ぁ!」
澪「ケツの穴に銃口ぶっさして引き金引いてやるっ!」
梓(ハァハァ……。とりあえず大樹の陰に隠れたのはいいけど)
梓「このままじゃ時間の問題だ……。手を打たないとっ!」
ゴロン
梓(大きな石……? そうだ、これを投げつけて攻撃するっ!)
梓(そう、やらなきゃやられるんだ!)
梓「――うおぉー!」ブンッ
律「ちょっ、石ぃ?」
澪「――律、危なーい!」
ゴンッ
律「澪っ! 腕がっ!」
澪「……くそう、不覚をとった!」
律「ああ、澪。私をかばって……」
澪「――当たり前だろう。マイ・スイートハート」
律「ああ、ハニー。不甲斐ない私を許してっ!」
澪「この程度の傷、猫一匹始末するにはなんともないさ」
律「……澪!」
澪「……律!」
ダキッ
梓(ようし、今のうちに逃げよう……)
―――
梓(洞穴?)ダッ
梓(……ここで一時凌ぎができるかも。入ってみよう)イソイソ
モワモワ
梓(くさっ! ガスが充満してるじゃないの! これは危ない。早く抜け出さないと――)イソイソ
律「こるぁー、梓ぁ! 蜂の巣にしてやっかんなぁ!」
澪「桜高のイーストウッドの実力、思い知らせてくれるっ!」
ダーン
ダーン
ダーン
梓(だ、駄目だ! しばらくの間はこの洞穴に篭るしかない!)
梓(なんだかクラクラする……。やっぱりガスの所為だろうか?)
梓(き、気をしっかり持たないと! このままじゃ本当にやられちゃう)
モワモワ
梓(なんだかフワフワしてきたぁ。『君を見てると』なんとやらって歌があったようななかったような……)
モワモワ
梓(あはは、今度はハッピーになってきたぁ。私、なんとかなるんじゃない、多分?)
モワモワ
梓(うげげ、やっぱり気持ち悪いや! あの狂人どもから逃げ出す術を――)
律「――あーら、梓ちゅわん。こんな所にいたんだぁ」ヒョイ
澪「ふはは、探したぞぉ」ヒョイ
梓「!」
梓「――っ!」ダッ
澪「無駄無駄。この洞穴は袋小路になっているんだ」
律「袋の鼠ならぬ袋の猫ねぇ」
梓「あ、あああ……」
律「安心して? 一発で仕留めてあげるから」
澪「後輩のよしみでな」
梓「た、助け――」
律「……んっ?」
澪「どうした、律」
律「唯の匂いがしない?」
澪「まさか。唯はとっくに魚の餌にでもなっているだろう。いや、蟹かな」
律「あはは、ムギみたくねぇ」
梓「ムギ先輩が、蟹の餌……?」
律「そーよ。ムギッたらこの島に流れていてねぇ。ボロ雑巾みたいなナリで」
澪「蟹にはモテモテだったけどな、あははっ」
梓(なんという)
律「それにしても唯臭いわねぇ。どこからかしらんっ?」クンクン
澪「どれどれ」クンカクンカ
梓(ふ、二人が近づいてくる!)
律「――梓、口開きなよ」
澪「ほほう」
梓「く、口ですか?」
律「いいから開けっての!」グイッ
梓「あがが……」
律「――ふぅん。そういうことかぁ」クンクン
澪「どうした、律?」
律「どうやら平沢唯ちゃんはあずにゃんの半身と化したみたいでーす」
澪「合点がいかないが」
律「だからさ、梓が唯を食べちゃったの」
澪「あ、なるほど」ポンッ
梓(……)
澪「そういえば救命ボートがあったよな、ムギのクルーザー」
律「あれに乗って二人だけで逃げ出そうって寸法だったんじゃん」
澪「ずるいなぁ、ずるすぎるよなぁ」
律「で、道中で食べ物が尽きて――」
澪「腹をすかせた梓が、唯を食ったってわけか」
律「そそっ」
梓「――早くやってください」
律・澪「?」
梓「こうなった限り、もう助かりたくありません。早く」
律「ふぅん」
梓「ガスも苦しいですし」
澪「おっと、このガスは燃えないから、私たち諸共って浅はかな考えは通用しないぞ」
梓「だって、フワフワしてきますし……」
律「!」
梓「だって、モヤモヤしてきますし……」
律「!」
律・澪「この世界は私たちだけのものだ。手前は消え去れよ」
梓「?」
律「よっし、それじゃそろそろお終いにしますか?」
澪「だね。梓、どこがいい?」
梓「み、眉間でお願いします」
律「よしきた。澪――」
澪「エゼキエル書25章17節!」
律「心正しき者の歩む道は心悪しき者の利己と暴虐によって行く手を阻まれる」
澪「愛と善意の名によりて、暗黒の谷より弱き者を導きたるかの者よ神の祝福あれ」
律「主なる神はこう言われる。我が兄弟を滅ぼそうとする悪しき者達に 私は怒りに充ちた懲罰を持って――」
梓「あ、それ殆どが監督のそうさ――」
ダーン
―――
律「……ふう、平和になったねぇ」
澪「これで私らを阻むものはいなくなったわけだ」
律「あ、ほら、澪! みて、夕日が沈んでく――」
澪「いや、私の太陽は沈まないよ」
律「?」
澪「だって、律が傍にいてくれるから――」
律「澪……」
―――
?「縁結び島?」
?「ああ、そうだぜ。聡!」
聡「うさんくさいなぁ。オカルト的で。鈴木、おまえ、また変な雑誌ばっか読んでいるんだろう?」
鈴木「いんや、これははるか昔から伝わる――」
聡「くだらねぇ事いってんなよ」
鈴木「まあ聞けって」
鈴木「なんでもよ、その島には『ラブオーラ』とかいうモヤモヤしたガスみたいなこう……」
聡「アホか」
鈴木「アホじゃねぇったら。でよ、そのオーラにあてられた二人は自然と引っ付いちゃうって」
聡「ねーよ」
鈴木「でもよ、結構制限があるみたいなんだぜ」
聡「ふぅん」
鈴木「ある程度お互いを意識してなきゃダメなんだ」
聡「くだらねぇ」
鈴木「ま、要するに。最初っからラブラブな二人じゃないと効果がねぇって事よ」
聡「はは。意味ねぇじゃん」
鈴木「でもよ、そのオーラに強く当たられすぎたらよ。頭がイカレちまうらしいんだ」
聡「……本気で信じているのか、鈴木?」
鈴木「ねーよ」
鈴木「お前の姉ちゃん、何年も前に海難事故で亡くなったじゃん?」
聡「……」
鈴木「案外、そういうところに流れ着いていたりして、あははっ」
聡「冗談でもそんな事いってんなよ」ブンッ
鈴木「あだっ!」ゴンッ
―――
澪「律、私の太陽……」
律「ああ、澪、見てっ! 妖精さんたちがっ!」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「綺麗……。今なら空も飛べそう」
律「飛べるよぉ……今なら絶対!」
澪「律、おまえ――」
律「ほら、澪。あっちに崖があるよ。あそこからどこまでもでこまでも飛んでいこうっ!」
澪「――うん!」
ザザーン
律「ここよ、ここ」
澪「すごぉい……。地平線の彼方まで見える」
律「さ、飛ぼうっ! 妖精さんたちが行っちゃう!」
妖精「シャランラシャンランラ」
澪「……じゃん、見てよ、律」
律「手紙?」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「妖精さんの国に行く前に、最後のメッセージってわけ」
律「へぇ、見せてよ」サッ
澪「あ、律!」
妖精「シャランラシャランラ」
律「皆さまお元気ですか。私は律と一緒で幸せです」
澪「ふふっ」
妖精「シャランラシャランラ」
律「律と一緒ならなんだってできちゃいます。向かうところ敵なしです敵なしです敵なしです」
澪「……」
妖精「シャランラシャランラ」
律「律が死ねというなら私は死にます。律だって同じ事を考えているに違いありません」
澪「でしょ、律」
律「もちろんさ!」
妖精「シャランラシャランラシャランラ」
妖精「シャランラシャランラ」
律「りつのからだはすべらかで、なめらかで、きもちいいです」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「本当の気持ちだよ?」
妖精「シャランラシャランラ」
律「へぇ。嬉しいねぇ」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「あはは」
妖精「シャランラシャランラ」
律「でも、わたしたちのからだにはげんかいがあります。おいです」
澪「老醜」
律「わたしにはそれががまんできません。いっそわかいまましねればいいのになんておもいます」
澪「はぁ」
律「――ようし、私が書き足したげる! ペン出して、ペン!」
澪「うん」サッ
律「準備がいいな」
妖精「シャランラシャランラ」
律「ふむ、『でも、妖精さんの国なら老いなんてないよ』っと」
澪「本当なの、律!」
律「わっはっは、事実なのだよ、澪」
澪「うわぁ、早く行きたい妖精さんの国に!」
妖精「シャランラシャランラ」
律「手紙を入れる瓶は?」
澪「うん」サッ
律「準備がいいな」
妖精「シャランラシャランラ」
ボチャン
律「これでよしだねぇ」
澪「いつでも妖精さんの国にいけるな」
律「ようし、助走つけようぜ、助走!」
澪「うん!」
妖精「シャランラシャランラ」
律「澪、私、澪に会えて幸せ」ギュ
澪「いつまでもいつまで二人で――」ギュ
妖精「シャランラシャランラ」
律「全力疾走だぁ! とりゃー!」
澪「――っ! 落ち……」
ヒューン
ボチャン
妖精「シャランラシャラ……」
~おしまい~
我ながらわけのわからないものを……
以上でおしまいです
読んでくださった方、本当にありがとうございました
元スレ
律「そんな大時代的な……」
澪「ほら、私たちムギの別荘へ合宿に来ていて」
律「だね。ムギの別荘でかくてびっくりした」
澪「で、クルーザーで遊んでいて」
律「おう」
澪「天気が悪くなって」
律「急にだもんね。びっくりしちゃった」
澪「転覆しちゃって」
律「……マジでか」
澪「気付いたら私たち……」
律「やばいな。救助はまだ?」
澪「知る由もない」
律「他の連中は無事なんだろうかねぇ」
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/12(土) 23:54:36.97 ID:3IGaksct0
律「よーし、とりあえずこの島を散策しようじゃん」
澪「あ、危ないだろう! 獣がいたらどうするっ!」
律「女は度胸、何でも試してみるものさ」
澪「男じゃないのか、それ?」
律「唯たちも流れ着いているかもしれないし」
澪「そっか。ちょっと怖いけど……」
律「ようし、そうと決まればレッツゴー!」
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/12(土) 23:59:14.31 ID:3IGaksct0
―――
律「ふう、これで一周か。小一時間ばかりかかったね」
澪「狭い島だよね。地理的にはどの辺りなんだろう?」
律「さぁね。一応日本なんじゃない?」
澪「えらく適当だな……」
律「お次はあのジャングルね!」
澪「水着でジャングルはちょっと……」
律「いいからいいから」
澪「はぁ……」
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:05:06.60 ID:JtmO3O3/0
ピギー
澪「ひゃうっ!」
律「あはは、只の鳥よ、鳥」
澪「りつぅ……」ウルウル
律「……あ、あのね。そんな目されてもなにも出ないから」
澪「なんで私たちがこんな目に……。足も痛いし……」
律「そんな悲観的になるもんじゃないの! きっと助けも来るって」
澪「そうだといいけど……」
律「はぁ……」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:10:32.63 ID:JtmO3O3/0
―――
律「なんの変哲もないジャングルだったな。ちょっとガッカリ」
澪「ふふ、私はそうじゃないかと思っていたんだよ。大体――」
律「事ある度に私の二の腕に、胸を押し付けてきたのは何処のどなたかしらん?」
澪「……っ」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
澪「それにしても日が暮れちゃったな……」
律「だね。今日は何処で寝ようか?」
澪(シャワー浴びたい……)
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:16:25.60 ID:JtmO3O3/0
律「そうだ! 難破船があったじゃん、難破船!」
澪「どこに?」
律「ほら、さっき島を一周した時に見つけたやつ」
澪「あったようななかったような……」
律「あの中だったら夜露も凌げそうじゃん!」
澪「……そうかな」
律「ようし、ひとっ走りするぞー、澪!」ムンズ
澪「あ、ちょっ、律!」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:21:32.22 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ようし、着いたぞー」
澪「大きな船……」
律「なんか砲台みたいのも着いてるし」
澪「いつの船だ、これ? 国籍は……」
律「どうだっていいじゃん? 早速中に入ろうぜ」
澪(『大和』って書いてある……)
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:26:37.45 ID:JtmO3O3/0
―――
律「……暗いよなぁ。ぼろいし」
澪「当たり前だろ。多分五十年以上前の船だぞ、これ」
律「マジで!」
澪「うん、多分昔々の戦艦なんじゃないかと」
律「戦艦ねぇ」
澪「とりあえず寝られる場所はないのかな?」
律「お腹も空いたし」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:32:51.59 ID:JtmO3O3/0
―――
律「おっ、ここでいいじゃん。ベッドもあるし」
澪「うん、都合のいい場所があってよかった」
律「それにしても晩御飯なしはつらいなぁ。なんか持って来るんだった」
澪(ハイキングじゃないんだぞ……)
律「この船に缶詰でもないものかなぁ」
澪「あったとしても、食べられるわけがないだろう」
律「なんたって五十年以上前の船だから? 賞味期限切れ?」
澪「そういうこと」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:38:29.66 ID:JtmO3O3/0
澪「あ、律。これ――」
律「どしたー、澪?」
澪「ほら……」ジャキン
律「なっ、それって鉄砲!?」
澪「そうみたい……。弾も幾つか……」
律「打ち方とかわかる?」
澪「全然」
律「ようし、明日はこれで野鳥狩りでもしようか?」
澪「え?」
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:44:44.79 ID:JtmO3O3/0
―――
ダーン
律「また外したぁ!」
澪(まさか本当に打てるだなんて……)
律「打ち方はマスターしたけどね。簡単、簡単。数学より断然」
澪「さすがというかなんというか……」
律「ようし、澪。今度はあっち行こうぜ!」
澪「ちょっ、ちょっと待ってよ。私、もうお腹は空くし、体は汗臭いしで……」
律「むむ、私もだ……」
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:50:41.60 ID:JtmO3O3/0
―――
律「おお、こんなところにオアシスが!」
澪「オアシスっていわないだろう、こういうのは……」
律「さっそく体洗おうぜ!」
澪「あ、律――」
ザッパーン
律「うわぁ! 冷やっこい!」
澪「……この水は飲めそうだな」ペロペロ
律「ほらぁ、澪も早く入んなさいって。冷たくて気持ちいいぜー」
澪「うん、そうしようかな……」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 00:56:37.36 ID:JtmO3O3/0
律「どう、澪? これで水は確保できたよねぇ」
澪「よかった……。本当に良かった」
律「後は食べ物が見つかれば完璧。なんて、当面の間は狩猟がメインになるかも」
澪「……律、仮に野鳥を狩ったとして、自分で料理できるのか?」
律「?」
澪「私には無理だぞ」
律「どして?」
澪「だ、だって内臓とか……」
律「あのー、私としては澪に料理してもらう予定だったんだけど?」
澪「絶対無理」
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:05:42.78 ID:JtmO3O3/0
律「私にも無理だかんね! そ、そもそも只の女子高生の私らに狩猟なんて無茶だったんだ!」
澪「無茶なのはおまえだ!」
律「や、やばくない。私たち……」
澪「やっと自分の置かれた状況に感づいたか」
律「それに日用品とかも無いし……」
澪「うん。下手すれば私たち……」
律「う、うそでしょー! 私まだ彼氏すらできたことないのにっ!」
澪「なんて悠長な……」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:12:39.71 ID:JtmO3O3/0
律「ああ、助けはまだかなぁ。唯たちはいずこへ……」
澪「……」
律「あれ、どったの、澪しゃん? 深刻な顔しちゃって」
澪「最悪、生き残ったのは私たちだけかも」
律「へ?」
澪「……あの悪天。助かった事が奇跡的だよ」
律「ちょっ、澪? 何も考え深げにしなくていいから……」
澪「――唯たちはすでに死んでいるかもしれない」
律「……ゴクリ」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:22:10.22 ID:JtmO3O3/0
律「だ、大丈夫だって。多分もう救助されてだねぇ、あはは……」
澪「なんでそう言い切れるんだ?」
律「み、澪……」
澪「つまり、私たちの置かれた状況はそれほど深刻だって事だよ」
律「……」
澪「……」
律「――で、でもさ。ネガティブになってたら状況は悪くなるばかりじゃん! ポジティブに行こうぜっ!」
澪「律……」
律「よーし、そうと決まれば食べ物探しだっ! ほらほら、澪もっ!」
澪「……ふふっ、そうだな。私だってこの歳で死にたくなんかないよ」
律「その調子、その調子」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:30:35.19 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ほら、このキノコとか食べられるんじゃない? 沢山生えてるし」
澪「キノコなんて危なっかしくないか? 毒にでもあたったら……」
律「でもさ、私もうお腹空いて死にそうだよ……。今朝から、いや、昨晩から何も食べてないし」
澪「それは私もだよ……」
律「……試しに食べてみない?」
澪「えっ?」
律「ほら、ここに昨日手に入れたマッチもあるから火もおこせるぜ」
澪「……」
律「澪、死ぬ時は一緒だからね――」
澪「演技でもない事を言うなっ!」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:37:31.65 ID:JtmO3O3/0
―――
律「うめー、キノコうめー」ムシャムシャ
澪「いけるな、これ」モグモグ
律「いやぁ、こんな美味しいキノコに毒なんてある筈がないって」
澪「そう願うよ」
律「醤油でもあればもっとよかったのに……」
澪「バターで焼いたりなんてしてね」
律「醤油バター、最高だ……」
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:42:39.63 ID:JtmO3O3/0
―――
澪「ふう」
律「満腹だ……」
澪「果たして大丈夫だったんだろうか?」
律「多分ね」
澪「……まぁ毒があったら時既に遅しかもだけど」
律「あのな、澪。縁起でもない事を言ってるのは自分じゃないの?」
澪「ご、ごめ……」
律「いいけどさ」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:51:20.60 ID:JtmO3O3/0
―――
律「あれから数時間経ったけど――」
澪「体調になんら影響なし、か」
律「いんや、むしろ何やらみなぎって来るものがあるぜっ」
澪「言われてみれば……」
律「ようし、このキノコいっぱい持って帰ろうぜ。あの船に!」
澪「うん、それがいいかも。キノコばっかりってのもアレだけど」
律「まぁワガママは言えないよねぇ。残念ながら……」
澪「果物とかがあればなぁ」
律「甘いものかぁ。食べたい……」
澪「ムギのケーキ……」
律「……ゴクリ」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 01:57:43.05 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ふー、今日の収穫はキノコだけかぁ」
澪「仕方ないよ。あれだけ頑張ったんだし」
律「まぁお腹はいっぱいになったよな」
澪「栄養はなさそうだけど。カロリーとか」
律「忌むべき言葉だな、カロリーって。そういえば私、ダイエット中だったような…」
澪「日常生活を送る上ではね。今は状況が違いすぎるから……」
律「いっそ油でも飲みたい」
澪「……私は砂糖が舐めたいな」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:23:37.61 ID:JtmO3O3/0
―――
律「さぁて、今日はどうする~?」
澪「昨日に引き続き、食べ物探しでいいんじゃないか」
律「だね。キノコばっかり食べてると、その内体がキノコになるかも」
澪「そういう映画あったよな……」
律「前に私が見せたやつだよね。澪ったらすごく怖がってたけど」
澪「思い出させないでくれないか……」
律「ようし、置いてくぞ~、澪」
澪「あ、待ってよ!」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:29:14.27 ID:JtmO3O3/0
―――
律「やっぱりお肉がたべたいな」
澪「と、なると狩猟?」
律「いっそのこと魚でもいいや」
澪「魚? と、なると釣りかな」
律「おおっ、釣り! 私、昔お父さんとやった事あるぜっ!」
澪「どうせ家族用の釣堀だろう。ニジマスやらヤマメやら」
律「違うって。ほら、四角い水槽みたいなので区切られてて――」
澪「だからそれが釣堀だって……」
律「へぇ、そうだったんだ」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:34:43.90 ID:JtmO3O3/0
―――
律「釣竿はこれで良いかな?」
澪「うーん、ちょっと太すぎるんじゃないか」
律「そういうものなの?」
澪「うん、しなりがある方がいいだろう、多分」
律「多分って……」
澪「よし、これなんかどうかな?」
律「細すぎない? すぐに折れちゃいそうだぜ?」
澪「これくらいが丁度いいだろう」
律「へぇ、澪って釣りに詳しいのな。そんな頻繁に行ってたっけ?」
澪「いや、これが初めてだけど……」
律「ダメだこりゃ」
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:40:49.85 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ていうか、糸も針もないじゃん。そんなんじゃ外来魚だって釣れやしないって」
澪「ふふふ、その台詞を待っていたんだ」
律「?」
澪「ジャングルに細いツタが生えていただろう? あれを糸として使ってみる」
律「ふむふむ」
澪「針はこれだっ!」サッ
律「……なにそれ?」
澪「動物の骨だよ。昨日の散策で拾っておいたんだ」
律「すごく曲がっているじゃん、鋭いし」
澪「私が自らの手で削っておいたんだ。おまえが寝静まった後でね」
律「さっすが! 器用だよねぇ、澪しゃんは」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:45:16.65 ID:JtmO3O3/0
律「で、エサはどうすんの?」
澪「土を掘り返せば虫が沢山いるだろう? それを使えばいい」
律「ミミズとか?」
澪「うん」
律「……へぇ、それじゃあ澪が自分で針に付けてよ」
澪「は?」
律「ミミズなんて触れるの、澪しゃんは?」
澪「絶対無理」
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:50:30.32 ID:JtmO3O3/0
―――
律(結局、私がやる破目に……)
澪「律、頑張るんだっ!」
律「はいはい」
ミミズ「ニョロ」
澪「ひいっ!」オドオド
律「オーバー過ぎだから……これでよしっと」
澪「ふう、手間取らせたな」
律「おまえが言うか」
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 02:59:39.82 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ようし、昨日のオアシスに着いたぜぇ」
澪「ここが源泉だな。もう少し下流に行った方がいいかも」
律「釣れるかな、澪?」
澪「さぁて。神のみぞ知るって所かな?」
律「いや、むしろ『釣れる』じゃない! 『釣らねばならない』んだっ!」
澪「その意気だ!」
律「とりゃー!」
ポチャン
澪「後はしばらく待てばいいだろう」
律「ようし、釣れた魚はムニエルにしよう」
澪「残念ながら小麦粉もバターもないよ」
律「冗談なのに……」
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:14:12.88 ID:JtmO3O3/0
律「……」
澪「……」
律「……釣れないね」
澪「全くな」
律「何時間経った?」
澪「えっとな、三十分とちょっと」
律「うそ! もう三時間くらい経ったのかと」
澪「……多分、おまえは釣りには向かないと思うな」
ピクピクッ
澪「――り、律。魚が食付いてるみたいだぞっ!」
律「マジで! ようし――」
澪「まだ引くな! 落ち着いて!」
律(平常心、平常心……)
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:19:58.86 ID:JtmO3O3/0
澪「――今だっ!」
律「おっしゃー!」グイッ
ザッパー
澪「すごい! こんな大きな魚が!」
ピチピチ
律「すごいじゃん、私! やればできる子だったんだね!」
澪「よくやったぞ、律!」ナデナデ
律「ふふふ、もっと褒めてよ」
澪「よーし、よしよしよしよしよしよし……」ナデナデナデ
律「あ、もういいよ。早速焼いて食べよう」
澪「……っ」ブンッ
律「あいたっ!」ゴンッ
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:27:09.19 ID:JtmO3O3/0
―――
律「うめー、魚うめー」
澪「り、律。私にも食べさせてよ」
律「よしきた」サッ
澪「……この濃厚な味わい。生まれてきてよかった」ウルウル
律「大げさだなぁ」
澪「よし、この調子でおまえは釣りを続けてくれ。私は付近を散策してみるから」
律「いんや、澪が釣りをしてよ。私、飽きちゃったから」
澪「……そう言うと思ったよ」
律「んじゃ、頼むね。私、あっちの方に行ってくるから」ダッ
澪「ちょっ、律!」
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:38:05.17 ID:JtmO3O3/0
―――
澪(あれから三時間。魚は四匹も釣れたな。私って案外こういう才能があったかも)
澪(それにしても律はどこに? えらく遅いけど……)
律「――澪っ!」
澪「ど、どうした、律! 顔真っ赤にしちゃって!」
律「あっ、あのね、澪。ム、ムギのクルーザーが流れ着いてたっ!」
澪「ほ、本当かっ!」
律「う、嘘なんてついてどうすんのっ」
澪「こ、こうしてはいられない! すぐに向かおう!」
律「よしきたっ! こっちだから!」
澪「うんっ!」
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:46:47.54 ID:JtmO3O3/0
―――
澪「こ、これは酷い……」
律「ボロボロだねぇ」
澪「中には入ってみたのか?」
律「いんや、まだだよ。見つけたら即行、澪のところまで戻ったから」
澪「そ、そっか」
律「よし、早速中に入ってみようぜ!」
澪「そうだな。もしかしたら誰かいるかも……」
律「唯たちが心配だぁ」
澪「……」コクリ
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 03:51:45.95 ID:JtmO3O3/0
―――
?「……ううっ」
律「さ、斉藤さん!」
澪「す、すごい怪我……。大丈夫ですかっ!」
斉藤「紬お嬢様……」
律「は、ははは、早く助けないとっ!」
澪「そ、そうだな!」
律「澪はそっちの肩を持って! 私はこっち持つから!」
澪「わかった!」
斉藤「ううっ……」
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:01:53.44 ID:JtmO3O3/0
―――
律「斉藤さん! しっかりしてってば!」
斉藤「ああ、お嬢様のご学友の……」
澪(目が虚ろだ……)
斉藤「ゴホゴホッ、ここは天国ですかな……?」
律「そんなわけないって! 絶海の孤島ってやつ!」
澪「私たち遭難したんです。救助もまだ……」
斉藤「そうなんですか……」
律(澪、ツッコミだ)
澪(やれるわけないだろっ)ツネッ
律「いたたたた!」
斉藤「?」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:16:05.85 ID:JtmO3O3/0
澪「斉藤さん。ムギ――いや、紬さんたちは?」
斉藤「あいにくですが私には……ああ、一生の不覚です」
律「そっか。皆、海に投げ出されて……」
斉藤「ゴホッ。つ、紬お嬢様の安否が心配です。こ、こうしては……」
澪「さ、斉藤さん! 無理をなさらないでください! お怪我に触りますからっ!」
斉藤「ああ、紬お嬢様の笑顔が見える……」
律「斉藤さん!」
斉藤「こ、琴吹家に仕えて○○年。小生は、小生は立派に仕事を成し遂げる事ができなかった……」
澪「斉藤さん! もう喋らないで!」
斉藤「ああ、お嬢様の花嫁衣装を見れなかったのが心残り――」ガクッ
律・澪「さ、斉藤さん!」
59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:29:54.72 ID:JtmO3O3/0
―――
澪「ねぇ、律……」
律「……どうしたの?」
澪「私たち、どうなっちゃうのかな?」
律「……」
澪「皆、皆はどうなっちゃのかな?」
律「……」
澪「ねぇ、律……?」ユサユサッ
律「斉藤さんのお墓を作ってあげなきゃ」
澪「……え?」
律「ほら、澪。足を持って」
澪「う、うん」
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:36:19.07 ID:JtmO3O3/0
―――
律「……澪」
澪「ぐすっ……ぐすん」
律「泣かないでよ」
澪「そ、そんなのっ!」
律「――泣かないでったら!」
澪「ご、ごめん」
律「ポジティブにならなきゃ! 死んだらもうベースには触れないし、作詞だってできないぞ!」
澪「ベース……」ブワッ
律「ほら、澪。私の胸で泣いてもいいんだぞ……」
澪「りつーぅ!」ヒシッ
律(もっと真剣にならないとな)
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:45:24.86 ID:JtmO3O3/0
―――
律「じゃじゃーん! 見てよ、澪!」
澪「コ、コーラの瓶?」
律「そう、あのクルーザーの中から見つけたんだっ!」
澪「クルーザーの中?」
律「明日にもう一回行って、中から物資を調達しようじゃない」
澪「……そうか。あのクルーザーの中なら」
律「そういう事。今日はこのコーラで景気付けといこう。甘いものなんて数日振りでしょ?」
澪「でも、栓抜きが……」
律「こんなもんこうやって引っ掛けて――」キンッ
澪「な、なるほど……」
律「さぁ、まずは澪しゃんからどうぞっ!」シュワワ
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 04:55:38.33 ID:JtmO3O3/0
澪「……おいしい」
律「ふふっ、冷えてないけどね」
澪「こんなにコーラが美味しいなんて思ったの初めて……」
律「なんせ久々だもんね」
澪「……次は律が飲んだら」スッ
律「ようし、飲んじゃうぞー、私! 一滴たりとも残さないぞー!」グビグビッ
澪「あっ、そんな一気に飲んだら――」
律「――ごほっ、ごほっ。た、炭酸きついわぁ。ああ、なんてもったいない事を」
澪「……ばか律」
律「あはは、バカで結構!」
澪「ふふ、ばかばか律だ、今のは」
律(よかった。澪の機嫌もよくなったみたい)
68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:04:54.00 ID:JtmO3O3/0
―――
律「――今日も晴天。探索日和だ!」
澪「それじゃあ早速中に入る?」
律「もちろん! さぁて、何が出るかな何が出るかな~♪」
澪「……」
律「あ、あれ? どったの澪しゃん?」
澪「斉藤さんの血が――」
律「……見なくていいの。いや、あえて見ないようにしないとっ!」
澪「う、うん」
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:12:46.55 ID:JtmO3O3/0
―――
律「お、これなんてどう?」ゴソゴソ
澪「『海洋生物図鑑』……? なるほど。役に立ちそうかも」
律「まだまだあるよ。お次はこれ!」ガサガサ
澪「釣竿とルアーかぁ。あの木の棒よりは役に立つかもね」
律「おおっ、こんなものまでっ!」ガサッ
澪「缶詰と乾パン……よかったぁ。これで文明的な食事にありつける」
律「しかもかなりの量だよ。さすがムギん家のクルーザー。準備がいいねぇ」
澪「しばらくの間は食事に困らないかも」
律「よっし、運が廻ってきたなぁ!」
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:17:57.23 ID:JtmO3O3/0
澪「あっ……」
律「どうしたー、澪?」
澪「あれはムギのバッグ……」
律「なにっ!」バッ
澪「開けていいのかな?」
律「緊急事態だ。やむを得ないって」ジィィィ
澪「な、なにが入ってる?」
律「えっと――」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:21:27.39 ID:JtmO3O3/0
律「まずは財布でしょ。それに化粧品やら携帯――」
澪「携帯?」
律「携帯……あっ!」
澪「これで救助が呼べるかも!」
律「なんと!」
澪「り、律! は、早く!」
律「う、うん。わかってるって……」カチャ
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:28:08.75 ID:JtmO3O3/0
律「……だめだぁ。アンテナゼロ」
澪「……当然かもね」
律「ん?」
澪「どうした、律?」
律「ほら、この待ち受け画面私らだよ」
澪「本当だ。なんでムギ、こんな写真を……」
律「皆だったらわかるけど、私らのツーショットなんてなぁ」
澪「……」
律「澪、どったの? 妙な顔しちゃって?」
澪「な、なんでもないって!」
律「?」
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:32:55.63 ID:JtmO3O3/0
律「財布の中身はお金とカードのみ」
澪「絶海の孤島ではなんの価値もないな……」
律「お札は焚き付けくらいには使えるかもよ?」
澪「……ムギのお金だぞ」
律「冗談だって」
澪「冗談に聞こえないな」
律「あわよくば助かった後に私らで……」
澪「……っ」ブンッ
律「痛いからっ!」ゴンッ
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:42:40.71 ID:JtmO3O3/0
―――
律「さてはて、今日の探索は終わりだ。服とかもあってよかったねぇ」
澪「すべての物資を運び出すには骨が折れそうだな」
律「しゃーないじゃん? まぁ、骨折り損って事にはならないし」
澪「まったく」
律「とりあえず早急に必要そうなものはもっていこうぜ」
澪「食べ物とか?」
律「それにこれもよ!」サッ
澪「せ、生理用ナプキン?」
律「ほらぁ、澪ってそろそろなんじゃないの、時期的に?」
澪「……いちいち覚えているのか」
律「部長ですから」
80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 05:59:49.94 ID:JtmO3O3/0
―――
澪「ようし、書けた!」
律「なにが?」
澪「手紙だよ、手紙」
律「お生憎ですが、日本郵政もこの孤島には――」
澪「そうじゃない。瓶の中に手紙を入れて流すんだ」
律「メッセージ・イン・ア・ボトルってわけね。なかなか浪漫チックじゃん」
澪「……効果は限りなく薄いだろうけど、やらないよりはマシじゃないか」
律「へぇ、手紙みせてよ」バッ
澪「あ、律!」
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:09:26.92 ID:JtmO3O3/0
律「――私たちはどこやも知れぬ孤島に流れ着きました。このままでは物資が枯渇するのは目に見えています」
澪「恥ずかしいな」
律「よって早急な救援を求めています。この手紙を拾った方、どうか私たちの無事を両親にお伝えください」
澪「……」
律「で、私らの名前と連絡先ね。えらく短いけど……」
澪「筆記用具は限られてるからな。大事に使わないと」
律「なるほど。堅実だねぇ」
澪「場所も皆目検討がつかないからな。救援を求めるってだけ書いても面食らうだけかも……」
律「まぁ淡い期待を抱こうじゃないの。よし、さっそく海に流そうぜ」
澪「瓶は昨日飲んだコーラの瓶があるから」
律「栓は……」
澪「ここにコルクが」サッ
律「準備のいいこと」
85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:17:53.49 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ほらっ!」
ボチャーン
澪「これでよしだ」
律「最悪、波に流されてこの島に戻ってくるかも」
澪「……淡い期待を抱こうじゃないか」
律「まったくだぁ。やれやれ、それにしても大変な事になったもんだ」
澪「ロビンソン・クルーソーみたいだよな、私たち」
律「誰それ? 有名なベーシスト?」
澪「……なんでもないよ」
88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:29:08.07 ID:JtmO3O3/0
―――
律「あれから三週間」
澪「救援が来る気配はゼロ、と」
律「どうする、澪? 食料も日用品も底を尽きかけてるよ……」
澪「わ、私に聞くなって!」
律「狼煙も何も効果はないし……」
澪「……」
律「ていうか、夏休み終わって、学校始まってる――」
澪「……っ」ブワッ
律「ちょっ、澪!」
澪「えぐっ、お家帰りたーい! お母さーん!」
律(澪の精神状態の悪化が深刻だ。もちろん、私も……)
91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:36:45.58 ID:JtmO3O3/0
―――
律「み、澪! 気を取り直して浜辺に行こうよ、浜辺に!」
澪「えぐっ、えぐっ……」
律「船が通ったら助けてもらえるかもじゃん!」
澪「……昨日も一昨日もその前も行ったけど全然」
律「だからって今日通らないとは限らないって! さぁ行くよ!」
澪「シクシク」
律「……ほら、涙と鼻水で顔グチャグチャじゃないの。チーン、して。チーン!」
澪「チーン!」
律「これでよし。いつもの優雅な澪しゃんに早代わりっ!」
澪「……ウソだ」
律「は?」
93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:45:04.59 ID:JtmO3O3/0
澪「髪だって切ってなくてボサボサ。顔だってメチャクチャ。体もボロボロ……」
律「み、澪……」
澪「こんな姿じゃどうにもならないよっ! いっそ海で溺死してやるぅ!」
律「ばか、澪! 早まるなって!」
澪「うわぁーん!」ダッ
律「待てっ! 澪っ!」ガシッ
澪「――!?」
94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 06:55:23.37 ID:JtmO3O3/0
律「今の澪も綺麗だよ」
澪「律……」
律「そう、あの青い海にも負けないくらい。夜空に浮かぶ一等星よりも輝いて見えるよ」
澪「……」
律「わ、私が男の子だったらとっくに襲ってたなぁ、あはは」(なにを言ってるんだ私!)
澪「……ねぇ、律」
律「?」
97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:06:03.29 ID:JtmO3O3/0
澪「キ……」
律「き? キチガイ地獄?」
澪「キ、キキキ、キスして……くれないかな?」
律「はぁ!?」
澪「……私ってファーストキスもまだなんだ。結構幻想抱いてたりするんだよ」
律「へ、へぇ……」(私もまだだっての。それに、幻想だって人一倍――)
澪「どうせ私たちここで死んじゃうんだろうし……」
律「死ぬなんて簡単に口にするもんじゃありません!」ブンッ
澪「いた……」
100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:16:11.96 ID:JtmO3O3/0
律「死ぬのはお互いに助かって、数十年後のベッドの上でだよ?」
澪「……いつもと立場が逆だ」
律「ん?」
澪「いつもは私が律を殴るのに……」
律「ふふ、愛情表現ってやつ?」(さぁこい。澪のゲンコツ)
澪「……やっぱりわかってたんだ」
律「わかるって――なにが?」(予想外っ!)
澪「私が律にゲンコツするのは、愛情の裏返しなのかも……」
律「???」
101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:23:37.58 ID:JtmO3O3/0
澪「ほら、私たちって付き合い長いだろう?」
律「……小学校の頃からだもんな」
澪「私、昔から臆病で……律にいつも助けられてばかりで」
律「澪?」(いつもと様子が違う、違いすぎる)
澪「私、何度も律が男の子だったらなって、思ったりしたんだよ?」
律「へ、へぇ……私って男勝りなのかなぁ?」
澪「いや、律も可愛い女の子だ」
律「ふ、ふぅん、なんだか褒められちゃったのかなぁ? お、おだてても何も出ないぜぇ」
澪「私たちの住んでいた社会って、つくづく面倒だよね?」
律「ど、どういうこと?」
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:30:24.11 ID:JtmO3O3/0
澪「だって、同姓カップルなんて作ったら、周りから白眼視された挙句、アウトサイダー扱いなんだよ?」
律「み、澪?」
澪「いや、それだけじゃないよ。社会には唾棄すべき差別と偏見が、縦横無尽に蔓延っている」
律「……」
澪「肌の色、国籍、生まれた土地、学歴、性格、思想――他にもたくさん」
律「……」(なんの話だ?)
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:36:22.43 ID:JtmO3O3/0
澪「このまま律と一緒に暮らせたら、私、軽音部のみんなや両親に会えなくてもいいかも……」
律「はぁ!? ちょっ、澪! 考え直してっ!」
澪「――なんで?」
律「なんでもっ!」
澪「どうして?」
律「どうしてもっ!」
澪「――ぷっ」
律「?」
108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:41:51.27 ID:JtmO3O3/0
澪「あはははは、冗談だよ、律。顔真っ赤だぞ」
律「……は?」
澪「ふふっ、私にからかわれるようではまだまだ甘いな」
律「澪、しゃん?」
澪「さぁ、浜辺に行くんだろう? 今日は見つかるといいな」
律「み、みお……。おまえ……」
澪「行こうって、律!」ギュ
律「あ、ちょっとタンマ! 頭の整理が……」
澪「いいからいいから」ダッ
律「い、いきなり走るなよっ!」
澪(……)
109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:47:38.93 ID:JtmO3O3/0
―――
律「ぜぇぜぇ、澪。飛ばしすぎだから……」
澪「そうかな? 私としてはごく自然なつもりだったけど」
律「……左様ですか」(こんな体力をどこに隠し持ってたんだ)
澪「さぁ、今日もただノンビリと浜辺で寛ごうじゃないか」
律「澪……」(さっきはあんなに泣いてたくせに)
澪「今日も青空が綺麗だなぁ。なんて、律には負けるけど」
律「それも冗談?」
澪「ふふ、どうだろう」
律「まったく……」
110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:52:35.89 ID:JtmO3O3/0
?「ワシャワシャ」
澪「ひゃうっ! て、只の蟹か」
蟹「ワシャワシャ」
律「蟹! 食べられるじゃん! 食料食料!」
澪「そっか。捕まえて損はないよね」
律「おーし、澪ぉ! 蟹取りに励むぞー!」
澪「ようし、今夜は蟹鍋にしよう」
律「調理は頼むぜぇ?」
澪「任せろっ」
111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 07:56:47.73 ID:JtmO3O3/0
―――
律「取れた、澪?」
澪「うん、こんなに沢山」ワシャー
律「ちょっとグロテスク……」
澪「そうかな? 結構可愛いと思うんだけど?」
律「……そう」(澪、逞しくなったのか?)
澪「おっ、あそこにいっぱいいるじゃないか」
律「本当だ」
澪「この蟹は任せたよ。私、捕まえてくるから」
律「了解」
116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 08:03:37.78 ID:JtmO3O3/0
―――
律(澪遅いよなぁ。何やってんだか……)
澪「キャー!!」
律「み、澪っ!」ダッ
澪「り、律っ! あれっ!」
律「あれ? 蟹の大群じゃん。海草みたいなのに群がってるけど……」
澪「目を凝らしてよく見るんだっ!」
律「うーんと……」(そういえばえらく臭うなぁ)
120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 08:15:12.21 ID:JtmO3O3/0
律「――ひ、人の死体。く、腐ってる!」
澪「……もっとよく見ろっ!」
律「え、えっと……」ジィー
澪「ううっ」
律「ム、ムギ? ム、ムムム、ムギの死体だっ!」
澪「うん……」
律「こんなにボロボロになって……。ああ、手足なんて取れちゃってる――」
澪「鮮明に言わなくていいからっ!」
律「……なんて、ことだ」
澪「律……」
律「やっぱり唯も梓も……」
澪「……」
律「どこかに打ち付けられて……」
澪「――っ」ダッ
律「あ、澪! ちょっと待てってば!」ダッ
126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 08:34:11.99 ID:JtmO3O3/0
律(澪、どこに行ったんだ?)
律(あの俊足、世界陸上にでも出ればよかったのに)
律(ぬ、なんだあの洞穴は。まるでドラクエのダンジョンみたいだ)
律(ようし、ここかもしれない。入ってみよう)
律「暗いなぁ……。一寸先は闇とはこの事だ。まるで私と澪……ゲフンゲフン」
律「澪ーぉ! いたら返事してぇ!」
?「グスングスンッ」
律「あっ、澪! こんな所に!」
澪「律……」
132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 08:44:05.18 ID:JtmO3O3/0
律「澪、こんなところにいたのか。はやここから抜け出そう。気分まで沈んでくる」(いやな臭いだ。ガスだろうか?)
澪「――律っ!」ヒシッ
律「おわっと!?」ドテッ
澪「ムギが……ムギがムギがムギがムギがっ!」
律「……いたぁ、お尻すっちゃった」
澪「ムギがあんなことに……」
律「……」
澪「ムギが腐り果ててっ!」
律「……うん、ムギはもうかえらない」
澪「白くてブヨブヨになって!」
律「澪……」
澪「まるで腐った豆腐みたいにっ!」
律「澪っ!」ブンッ
澪「っ!」パシーン
134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 08:53:16.22 ID:JtmO3O3/0
律「冷静になるんだっ!」(ガスが酷い……)
澪「律……」
律「涙を流すのは助かった後からでいい!」(視界がクラクラする……)
澪「ムギ……。ああ、ムギ……」ウルウル
律「ムギの分も私たちは生きなきゃ!」(早くここから……)
澪「生きる?」
律「そう、私らは花の女子高生! こんな所でくたばってたまるかって――」(……私、何を言っているんだろう?)
澪「女子高生?」
律「」わかる、澪? 限りある今を大切に……生き抜くのっ!」(生き抜く? なんじゃそりゃ?)
139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:04:47.71 ID:JtmO3O3/0
澪「――へぇ? 律、なんだかソワソワしてない?」
律「えっ!」(あはは、全くだよ、澪)
澪「それにしてもここって暑いよねぇ? 服脱いじゃおうか?」
律「……」(そうだそうだ! 服なんて脱ぎ捨てろっ!)
澪「やーれやれ」ヌギヌギ
律「……澪?」(ヒュー、やっぱ良い体してんのなぁ、澪ぉ)
澪「あははっ、下着も脱いじゃおっと!」ヌギッ
律「……澪。服着た方が良いって」(ストリップでもしちゃえよ、ホラ)
澪「律も脱ごうよっ! すっごい開放感っ!」
律「……本当に?」(脱げ脱げ、私)
141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:15:33.58 ID:JtmO3O3/0
澪「ほんとよ、ほんと! あははははははは!」グールグール
律「澪……」(ようし、私も)
澪「どうしたの、律? 一緒に踊ろうよ!」
律「……」(一糸纏わぬ姿に――)
澪「あはははははははははは!」グールグールグール
律「なっちゃえ!」バッ
澪「律、すごい。律の体って綺麗、綺麗すぎて垂涎ものっ!」
律「あはははは! そうかしらん! 胸は全然だけどねっ!」
澪「私好きだぞ! 律の体! 大大大大、大好きっ!」
律「あはは、こやつめ、あはは!」
澪「ねぇ、律! これからセックスしてみない!」
律「よーし、私、頑張っちゃうぞー! 今日は寝かせないかんなぁ!」
澪「あはははははははははは!」
143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:20:48.16 ID:JtmO3O3/0
―――
?「――ねぇ、あずにゃん?」
梓「なんですか、唯先輩」
唯「私たち、いつになったら救助されるんだろうね?」
梓「知る由もありません。かれこれ五日間ほど、この救命ボートに気の向くままですから」
唯「……おなかすいた」
梓「食べられるものはもう尽きてますよ?」
唯「おなかがすいたの!」
梓(私だって)
148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:29:33.99 ID:JtmO3O3/0
唯「あずにゃん、私たちって結ばれちゃったんだよね?」
梓「そ、そうですよ。唯先輩ったら私にしつこく迫るんだから……」
唯「あずにゃんが可愛すぎるのがわるいのっ!」
梓「相変わらず無茶苦茶ですね」
唯「こんな大海原の上で二人きりなんて、理性がおかしくなりそうだよ!」
梓(――ええ、全くです。唯先輩)
唯「あずにゃんのお腹、あずにゃんの小さなおっぱい、あずにゃんの桃みたいなお尻!」
梓「……」
唯「全部、全部私だけのものにしたいって!」
梓「――唯先輩。私もですよ」
唯「あずにゃん……」
150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:35:43.90 ID:JtmO3O3/0
梓「唯先輩の体、このボートの上では私だけのものなんですよね?」
唯「うんっ! そうだよ。和ちゃんや憂のものなんかじゃない、あずにゃんだけのもの」
梓「ふふっ、嬉しいです。唯先輩――」
唯「あずにゃん……」
梓「さぁ、こちらに」ヒョイヒョイ
唯「う、うん……」ヨリヨリ
梓「――さよなら、唯先輩」
唯「えっ?」
154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:44:43.22 ID:JtmO3O3/0
唯「……ぐっ」グサッ
梓「ナイフの味はいかがですか、唯先輩?」
唯「あ、あずny――ゴボッ!」
梓「おっと、できれば血を流さないやり方がよかったのですが」
唯「……グボッ!」バタン
梓「致し方ありませんね。唯先輩、いつまで経っても餓死しないんですから――」
梓(さぁて、食糧問題は解決っと)
梓(救助がくるまでの辛抱だ。やむ無しですよね、唯先輩……)キョロキョロ
梓「ようし……ここをナイフで――」
155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 09:51:54.40 ID:JtmO3O3/0
―――
バルバルバル
?「本部、応答せよ。繰り返す、本部、応答せよ」
本部『なにか見つかったか、A機?』
A機「海上に小型ボートを発見。女生徒の一人を確認」
本部『よし、至急救出せよ!』
A機「ラジャー!」
本部『お手柄だぞ、A機! 琴吹のお嬢さんだったら表彰ものだ!』
A機「はっ、身に余る光栄です!」
本部『ははは、一時間以内に戻ってきたまえ』
208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 19:09:34.37 ID:JtmO3O3/0
―――
梓「――はっ!」
ガバッ
梓(ここは、病院……?)キョロキョロ
ガチャ
?「今日もこの子に悪戯しちゃおうっと、ふふふ」
梓「か、看護士さん? ここは……」
看護士「――げっ! 目覚めやが……いえ、目覚めたのねっ!」
梓(随分長く眠っていたようね。船上で救出されるまでの記憶はあるけど)
212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 19:18:09.54 ID:JtmO3O3/0
―――
梓(どうやら私は二週間程眠っていたらしい)
梓(体が衰弱し切っていたのだ)
梓(今は病院から退院し、平常通りの学生生活に戻った)
ワイワイガヤガヤ
モブA「船の上で一人だったんだって!」
モブB「梓ちゃん、恐怖映画のヒロインみたい!」
梓「あはは……」
モブC「怖くなかった?」
モブD「食べ物は?」
梓「うん、ムギ――琴吹先輩のクルーザーから持ち運んでいたから」
梓(言える筈がない)
梓(――唯先輩を骨までしゃぶり尽くしたなんて)
220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 19:50:03.17 ID:JtmO3O3/0
―――
梓「う、憂……」
憂「梓ちゃん!」ヒシッ
梓「……」
憂「心配したんだからっ! 本当に!」
梓(唯先輩の、匂い)
憂「きっと、きっとお姉ちゃんたちも助かるよねっ!」
梓(――あなたのお姉ちゃんは私の血肉となって生き続ける)
憂「お姉ちゃん。お姉ちゃん……」ポロポロ
梓「――そんな事よりお腹すかない、憂?」
223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 20:08:25.76 ID:JtmO3O3/0
―――
梓(ふう、なんて平和な日常なんだろう。船上での遭難生活が嘘みたい)
梓(今日も早めに帰ってギターの練習でもしようかな? どうせ軽音部は廃部決定だろうし)
梓「お腹すいた……。お肉が食べたい」トボトボ
?「――失敬、中野さまですか?」
梓「はい、そうですけど? あなたは――」
?「私は琴吹グループの手の者です。名前は仮に『A』としましょう」
梓「ムギ先輩の?」
A「はい、貴女に用件がございまして――」
梓(今更なんの用事だろう? 警察の捜索はとうに打ち切られた筈)
A「紬お嬢様の捜索の件での話です」
梓「……言わずもがなです。さて、如何なるお話でしょうか?」
225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 20:29:24.86 ID:JtmO3O3/0
A「他でもありません。琴吹さまはいまだお嬢様の安否に心を痛めてらっしゃるのです」
梓「娘の一大事ですからね。たとえ警察が捜索を打ち切ったとしても、ムギ先輩の家ならば、私的に捜索を続ける気もわかります」
A「ふむ、話が早い。実は今度の日曜日、紬お嬢様の捜索業務に、ご動向を願いたいのです」
梓「動向ですか?」
A「ヘリを幾台も駆使して、日夜探索業務に明け暮れる私たちですか、お嬢様の消息はいまだ掴めません」
梓「……」
A「クルーザーの発見すらままならないのです。警察でも私たちでも――」
梓「海底を探されてみては如何でしょうか? あの悪天、間違いなく沈没している筈ですよ」
A「その線も現在調査中です。しかし、広い大海原。海底を隈なく調査するには、限りなく時間がかかるのです」
梓「なるほど」
A「――是非とも私たちに協力をお願いしたい。琴吹さまの切なる一存でもあります」
梓「ムギ先輩のお父さんの?」
A「謝礼については心配無用。貴女の言い値で構わないと仰っています」
梓(――へぇ。藁にもすがるってやつかな?)
230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 20:48:41.16 ID:JtmO3O3/0
―――
梓(体裁よく引き受けた私)
梓(それにしてもお金持ちの考える事はわからないなぁ。どうせ死んでいるだろうに)
バルバルバル
梓「うわぁ、大きなヘリコプター。さすがだなぁ、ムギ先輩のお父さんって」
?「中野さん、準備はできましたか?」
梓「はい、準備万端。心構えもオーケーです、操縦士さん」
操縦士「それでは行きましょう。早速乗り込んでください」
梓(ヘリなんて生まれて初めて――じゃないなぁ。なんて、すぐ気を失っちゃったから、実質初めてみたいなものね)イソイソ
操縦士「それでは行きますよ――」
バルバルバル
梓「うわぁ、すごいすごい。もうこんな高さまで」
操縦士「――今日はクルーザーの無線が途絶えたあたりを旋回します」
梓「へぇ、なんだか楽しみ! 操縦士さん、もっとスピード出してくださいよ!」
操縦士(……この子、大丈夫なのか?)
233: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:01:15.39 ID:JtmO3O3/0
―――
バルバルバル
操縦士(あ、あれ……?)
梓「随分陸地から離れましたよね? ここはどの辺りですか?」
操縦士(無線もレーダーも調子がおかしい……こんな事は初めてだ)
梓「……操縦士さん?」
操縦士「――あ、はい! なんでしょう?」
梓「ここはどの辺りですか? もう、無線が途絶えた所まで着いたのですか?」
操縦士「あ、はい! 着きましたよ」(多分だけど)
梓「ふぅん。三百六十度海ばかりですねぇ」
操縦士(やばいなぁ。またどやされちまう。いったん戻ろうかなぁ……)
梓「――ん? あれはなんでしょうか?」
操縦士「……島、ですね」
236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:13:43.65 ID:JtmO3O3/0
梓(へぇ、絶海の孤島かぁ。今年の夏休みはアレだったし、是非行ってみたいなぁ。……よし)
梓「あの島に着陸してみませんか」
操縦士「……えっ?」
梓「もしかしたらみなさんが遭難しているかもしれませんよ」
操縦士「……みなさん?」
梓「ムギ――紬さんが」
操縦士「……ゴクリ」
操縦士(俺がお嬢様を見付けたら出世間違いなし……これはうまい、うますぎる話だ)
梓「降りてみましょうよ、操縦士さん。男は度胸、なんでも試してみるものです」
操縦士(うはっ、洋々たる未来が見えて来たっ! これは行くっきゃねぇ!)
梓「ねぇ、操縦士さんってばぁ……」
操縦士「――行きます! 全力前進っ!」
梓「さっすがぁ!」
240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:37:35.01 ID:JtmO3O3/0
―――
操縦士「……ん?」
梓「あれは――戦艦ですよね」
操縦士「はい、大和ですよ、大和」
梓「大和?」
操縦士「大日本帝国海軍が建造した史上最大の戦艦です」
梓「は?」
操縦士「まさかこんな所でって……えっ!」
梓「どうしましたか?」
操縦士「いや、まさか……。そんな馬鹿げた話が……」
梓「あ、あれ? あの砲台動いてますよ」
操縦士「――は?」
242: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:46:15.53 ID:JtmO3O3/0
梓「まさか私たちを狙って……」
操縦士(いや、絶対狙ってるしっ!)
梓「そ、操縦士さんっ!」
操縦士「やっべ、マジでやっべ!」
梓「早く逃げて――」
ドウッ!
操縦士「あ、あああ、当た――」
梓「キャー!」
ドカンッ!
246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:52:45.03 ID:JtmO3O3/0
―――
梓「ガボガボガボッ」
梓(ここは海? 私、溺れてる?)
梓(死ぬのはイヤッ!)ムンズ
梓(へっ?)バシャーン
操縦士「だ、大丈夫ですか! 中野さん!」
梓「操縦士さんっ!」
操縦士「浜辺まで泳ぎますっ! 俺の肩に掴まっていてくださいっ!」
梓「は、はいっ!」
操縦士(じょ、常識的におかしいだろっ!)
250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 21:59:44.98 ID:JtmO3O3/0
―――
操縦士「ゼイゼイ……」
梓「ハァハァ……」
操縦士「……お、俺たち助かったんですよねぇ?」
梓「操縦士さんっ!」ヒシッ
操縦士「うおっ!」
梓「私、死んじゃうかと思いましたっ! 助けてくれて本当にありがとうっ!」
操縦士(あれ、この子近くで見たらメチャクチャ可愛いじゃん?)
梓「操縦士さんっ!」ヒシヒシッ
操縦士(こりゃたまらん。フヒヒッ)
254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 22:11:11.49 ID:JtmO3O3/0
操縦士「中野――いや、お名前は?」
梓「梓です」
操縦士「梓さん。どうやら俺たちはとんでもない事になってしまいました」
梓「……それはわかりますよ、私でも」
操縦士「しばらくの間はこの島で生活しなくてはならないかも……」
梓「……ゴクリ」
操縦士「しかもこの島にはとんでもない連中――おそらく海賊が」
梓(海賊って――この人頭大丈夫?)
操縦士「さぁ、こうしてはいられません! 早くこの場を離れましょう!」
梓「え?」
操縦士「やつらがここに来るかもしれませんからっ! さぁ、早くっ!」ムンズ
梓「ちょっ、操縦士さん――」
操縦士「いいからいいからっ!」ダッ
258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 22:23:39.74 ID:JtmO3O3/0
―――
操縦士「ようし、ここまで逃げれば……」
梓「ハァハァ……」
操縦士「中野さん、これから先は俺たちは一蓮托生! 力を合わせて海賊に立ち向かおうではありませんかっ!」
梓「……」
操縦士「そう、絶対の孤島で海賊と戦う男女――否、アダムとイヴ!」
梓(だめだこいつ……。早くなんとかしないと)
操縦士「梓さんっ!」ヒシッ
梓「ちょっ!」
操縦士「俺は、俺の今までの人生はこの時のために――」
ダーン
梓「!」
259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 22:30:04.85 ID:JtmO3O3/0
操縦士「……がっ」ドサッ
梓(眉間を一発。こりゃ助からないな)
?「あれれー? あそこにおわすは梓じゃないのぉ」
?「ほう、懐かしい顔だなぁ」
梓「そっ、その声は――!」
?「まさか部長の顔を忘れたっての? 冷たい子だねぇ」
?「まったくだ。礼儀ってものをまったく解していないなぁ」
梓「律先輩に澪先輩っ!」
律「やっとその名前が出てきたかぁ」
澪「やれやれだぁ」
264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 22:40:00.58 ID:JtmO3O3/0
梓「生きていたんですかっ!」
律「あったぼうよぉ。私が簡単に死ぬと思って?」
澪「そうそう。私らは不死鳥さながらなんだぞ」
梓(二人とも様子がおかしい……。それに――)
律「いやぁ、まさかさっきの小うるさい蝿が梓だったなんてねぇ」
澪「私ったらびっくりしちゃったぞぉ」
梓「り、律先輩。そ、その銃!」
律「ああこれ? 大和の中で拾ったのよ。イカスでしょ?」
澪「バカだな、律。今時はクールって言うんだぞ?」
律「あれまー、私としたことが……」
澪「あはははははは! おまえらしいよっ!」
梓「――な、なぜ操縦士さんを?」
271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 23:08:39.25 ID:JtmO3O3/0
律「はぁ? そりゃもちろん、この島は私と澪の楽園だもの」
澪「汚らわしい男なんて、一時たりともいるべきじゃないよな」
律「そそ」
梓(やばい、先輩たち心の平衡を失っている……)
律「私と澪はこの孤島のイヴとイヴ!」
澪「新しい神話を築くのは私たちだ!」
梓(……頭やばい)
律「あれっ? たとえ女だとしても、私らの他なんて――」
澪「あり得ないよなぁ」
梓「先輩たち……落ち着いて」
律「澪♪」
澪「律♪」
梓(逃げ――!)
律・澪「待てこらぁぁぁぁ!」
梓「いやぁー!」ダッ
278: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 23:27:22.71 ID:JtmO3O3/0
梓「ハァハァ……」ダッ
律「くらえっ!」
ダーン
梓「ひいっ!」ダッ
澪「律、私に貸すんだっ!」
律「よしきたっ!」サッ
梓(澪先輩は得意そう、銃とかそういうのっ!)
澪「死ねぃ!」
ダーン
ビシッ
梓「――いたぁ!」ダッ
律「おほっ、肩に命中! さっすが、澪しゃん!」
澪「ぬはは、任せろっ!」
ダーン
ダーン
梓(逃げないと逃げないと逃げないと……!)ダッ
289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/13(日) 23:54:39.17 ID:JtmO3O3/0
―――
律「どこいったぁ、梓ぁ!」
澪「ケツの穴に銃口ぶっさして引き金引いてやるっ!」
梓(ハァハァ……。とりあえず大樹の陰に隠れたのはいいけど)
梓「このままじゃ時間の問題だ……。手を打たないとっ!」
ゴロン
梓(大きな石……? そうだ、これを投げつけて攻撃するっ!)
梓(そう、やらなきゃやられるんだ!)
梓「――うおぉー!」ブンッ
律「ちょっ、石ぃ?」
澪「――律、危なーい!」
ゴンッ
294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 00:10:56.95 ID:FLsvQt0I0
律「澪っ! 腕がっ!」
澪「……くそう、不覚をとった!」
律「ああ、澪。私をかばって……」
澪「――当たり前だろう。マイ・スイートハート」
律「ああ、ハニー。不甲斐ない私を許してっ!」
澪「この程度の傷、猫一匹始末するにはなんともないさ」
律「……澪!」
澪「……律!」
ダキッ
梓(ようし、今のうちに逃げよう……)
301: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 00:31:48.65 ID:FLsvQt0I0
―――
梓(洞穴?)ダッ
梓(……ここで一時凌ぎができるかも。入ってみよう)イソイソ
モワモワ
梓(くさっ! ガスが充満してるじゃないの! これは危ない。早く抜け出さないと――)イソイソ
律「こるぁー、梓ぁ! 蜂の巣にしてやっかんなぁ!」
澪「桜高のイーストウッドの実力、思い知らせてくれるっ!」
ダーン
ダーン
ダーン
梓(だ、駄目だ! しばらくの間はこの洞穴に篭るしかない!)
303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 00:46:55.28 ID:FLsvQt0I0
梓(なんだかクラクラする……。やっぱりガスの所為だろうか?)
梓(き、気をしっかり持たないと! このままじゃ本当にやられちゃう)
モワモワ
梓(なんだかフワフワしてきたぁ。『君を見てると』なんとやらって歌があったようななかったような……)
モワモワ
梓(あはは、今度はハッピーになってきたぁ。私、なんとかなるんじゃない、多分?)
モワモワ
梓(うげげ、やっぱり気持ち悪いや! あの狂人どもから逃げ出す術を――)
律「――あーら、梓ちゅわん。こんな所にいたんだぁ」ヒョイ
澪「ふはは、探したぞぉ」ヒョイ
梓「!」
304: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 00:52:11.91 ID:FLsvQt0I0
梓「――っ!」ダッ
澪「無駄無駄。この洞穴は袋小路になっているんだ」
律「袋の鼠ならぬ袋の猫ねぇ」
梓「あ、あああ……」
律「安心して? 一発で仕留めてあげるから」
澪「後輩のよしみでな」
梓「た、助け――」
律「……んっ?」
澪「どうした、律」
律「唯の匂いがしない?」
澪「まさか。唯はとっくに魚の餌にでもなっているだろう。いや、蟹かな」
律「あはは、ムギみたくねぇ」
307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 00:57:45.86 ID:FLsvQt0I0
梓「ムギ先輩が、蟹の餌……?」
律「そーよ。ムギッたらこの島に流れていてねぇ。ボロ雑巾みたいなナリで」
澪「蟹にはモテモテだったけどな、あははっ」
梓(なんという)
律「それにしても唯臭いわねぇ。どこからかしらんっ?」クンクン
澪「どれどれ」クンカクンカ
梓(ふ、二人が近づいてくる!)
律「――梓、口開きなよ」
澪「ほほう」
梓「く、口ですか?」
311: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:05:17.29 ID:FLsvQt0I0
律「いいから開けっての!」グイッ
梓「あがが……」
律「――ふぅん。そういうことかぁ」クンクン
澪「どうした、律?」
律「どうやら平沢唯ちゃんはあずにゃんの半身と化したみたいでーす」
澪「合点がいかないが」
律「だからさ、梓が唯を食べちゃったの」
澪「あ、なるほど」ポンッ
梓(……)
312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:09:20.02 ID:FLsvQt0I0
澪「そういえば救命ボートがあったよな、ムギのクルーザー」
律「あれに乗って二人だけで逃げ出そうって寸法だったんじゃん」
澪「ずるいなぁ、ずるすぎるよなぁ」
律「で、道中で食べ物が尽きて――」
澪「腹をすかせた梓が、唯を食ったってわけか」
律「そそっ」
梓「――早くやってください」
律・澪「?」
315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:16:04.50 ID:FLsvQt0I0
梓「こうなった限り、もう助かりたくありません。早く」
律「ふぅん」
梓「ガスも苦しいですし」
澪「おっと、このガスは燃えないから、私たち諸共って浅はかな考えは通用しないぞ」
梓「だって、フワフワしてきますし……」
律「!」
梓「だって、モヤモヤしてきますし……」
律「!」
319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:24:45.05 ID:FLsvQt0I0
律・澪「この世界は私たちだけのものだ。手前は消え去れよ」
梓「?」
律「よっし、それじゃそろそろお終いにしますか?」
澪「だね。梓、どこがいい?」
梓「み、眉間でお願いします」
律「よしきた。澪――」
澪「エゼキエル書25章17節!」
320: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:27:02.85 ID:FLsvQt0I0
律「心正しき者の歩む道は心悪しき者の利己と暴虐によって行く手を阻まれる」
澪「愛と善意の名によりて、暗黒の谷より弱き者を導きたるかの者よ神の祝福あれ」
律「主なる神はこう言われる。我が兄弟を滅ぼそうとする悪しき者達に 私は怒りに充ちた懲罰を持って――」
梓「あ、それ殆どが監督のそうさ――」
ダーン
323: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:33:14.37 ID:FLsvQt0I0
―――
律「……ふう、平和になったねぇ」
澪「これで私らを阻むものはいなくなったわけだ」
律「あ、ほら、澪! みて、夕日が沈んでく――」
澪「いや、私の太陽は沈まないよ」
律「?」
澪「だって、律が傍にいてくれるから――」
律「澪……」
326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:41:57.75 ID:FLsvQt0I0
―――
?「縁結び島?」
?「ああ、そうだぜ。聡!」
聡「うさんくさいなぁ。オカルト的で。鈴木、おまえ、また変な雑誌ばっか読んでいるんだろう?」
鈴木「いんや、これははるか昔から伝わる――」
聡「くだらねぇ事いってんなよ」
鈴木「まあ聞けって」
327: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:49:24.34 ID:FLsvQt0I0
鈴木「なんでもよ、その島には『ラブオーラ』とかいうモヤモヤしたガスみたいなこう……」
聡「アホか」
鈴木「アホじゃねぇったら。でよ、そのオーラにあてられた二人は自然と引っ付いちゃうって」
聡「ねーよ」
鈴木「でもよ、結構制限があるみたいなんだぜ」
聡「ふぅん」
鈴木「ある程度お互いを意識してなきゃダメなんだ」
聡「くだらねぇ」
鈴木「ま、要するに。最初っからラブラブな二人じゃないと効果がねぇって事よ」
聡「はは。意味ねぇじゃん」
鈴木「でもよ、そのオーラに強く当たられすぎたらよ。頭がイカレちまうらしいんだ」
聡「……本気で信じているのか、鈴木?」
鈴木「ねーよ」
328: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:52:16.21 ID:FLsvQt0I0
鈴木「お前の姉ちゃん、何年も前に海難事故で亡くなったじゃん?」
聡「……」
鈴木「案外、そういうところに流れ着いていたりして、あははっ」
聡「冗談でもそんな事いってんなよ」ブンッ
鈴木「あだっ!」ゴンッ
329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 01:56:13.24 ID:FLsvQt0I0
―――
澪「律、私の太陽……」
律「ああ、澪、見てっ! 妖精さんたちがっ!」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「綺麗……。今なら空も飛べそう」
律「飛べるよぉ……今なら絶対!」
澪「律、おまえ――」
律「ほら、澪。あっちに崖があるよ。あそこからどこまでもでこまでも飛んでいこうっ!」
澪「――うん!」
332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:02:59.84 ID:FLsvQt0I0
ザザーン
律「ここよ、ここ」
澪「すごぉい……。地平線の彼方まで見える」
律「さ、飛ぼうっ! 妖精さんたちが行っちゃう!」
妖精「シャランラシャンランラ」
澪「……じゃん、見てよ、律」
律「手紙?」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「妖精さんの国に行く前に、最後のメッセージってわけ」
律「へぇ、見せてよ」サッ
澪「あ、律!」
妖精「シャランラシャランラ」
333: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:07:40.33 ID:FLsvQt0I0
律「皆さまお元気ですか。私は律と一緒で幸せです」
澪「ふふっ」
妖精「シャランラシャランラ」
律「律と一緒ならなんだってできちゃいます。向かうところ敵なしです敵なしです敵なしです」
澪「……」
妖精「シャランラシャランラ」
律「律が死ねというなら私は死にます。律だって同じ事を考えているに違いありません」
澪「でしょ、律」
律「もちろんさ!」
妖精「シャランラシャランラシャランラ」
336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:13:09.41 ID:FLsvQt0I0
妖精「シャランラシャランラ」
律「りつのからだはすべらかで、なめらかで、きもちいいです」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「本当の気持ちだよ?」
妖精「シャランラシャランラ」
律「へぇ。嬉しいねぇ」
妖精「シャランラシャランラ」
澪「あはは」
妖精「シャランラシャランラ」
337: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:16:49.31 ID:FLsvQt0I0
律「でも、わたしたちのからだにはげんかいがあります。おいです」
澪「老醜」
律「わたしにはそれががまんできません。いっそわかいまましねればいいのになんておもいます」
澪「はぁ」
律「――ようし、私が書き足したげる! ペン出して、ペン!」
澪「うん」サッ
律「準備がいいな」
妖精「シャランラシャランラ」
339: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:20:07.28 ID:FLsvQt0I0
律「ふむ、『でも、妖精さんの国なら老いなんてないよ』っと」
澪「本当なの、律!」
律「わっはっは、事実なのだよ、澪」
澪「うわぁ、早く行きたい妖精さんの国に!」
妖精「シャランラシャランラ」
律「手紙を入れる瓶は?」
澪「うん」サッ
律「準備がいいな」
妖精「シャランラシャランラ」
340: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:23:23.70 ID:FLsvQt0I0
ボチャン
律「これでよしだねぇ」
澪「いつでも妖精さんの国にいけるな」
律「ようし、助走つけようぜ、助走!」
澪「うん!」
妖精「シャランラシャランラ」
341: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:27:16.06 ID:FLsvQt0I0
律「澪、私、澪に会えて幸せ」ギュ
澪「いつまでもいつまで二人で――」ギュ
妖精「シャランラシャランラ」
律「全力疾走だぁ! とりゃー!」
澪「――っ! 落ち……」
ヒューン
ボチャン
妖精「シャランラシャラ……」
~おしまい~
347: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/14(月) 02:38:37.00 ID:FLsvQt0I0
我ながらわけのわからないものを……
以上でおしまいです
読んでくださった方、本当にありがとうございました
律・澪「びんづめじごく!」