【モバマスss】あい、くるしい

【シャニマスss】FMTU【三峰結華】

【モバマスss】三船美優「Tail Light」

【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;酒鍋





































1: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:38:16 ID:zmoi

なかなか忙しく掲示板への投稿が放置気味でした。ということで腹ペコシスターにご飯を食べさせてあげるやつの最新作(?)です。
不穏な空気が流れてますが、何作かしたら解決する予定なので、ここでは「猫が鳴いている」程度に思っていただけたら。実際はもう某所で公開したようにハッピーエンド(?)で終わっております。
いつも以上に趣味がマシマシな気がしております。よければぜひ。



2: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:38:53 ID:zmoi

「はい、じゃあ好きな人同士でペア作って~」

 ……小さい頃、先生の何気ないこんな指示がとても苦手だった。別に組む相手がいないわけじゃない。近くに適当な奴が誰もいなければ自分から声をかけに行くし、仲のいいやつが既にペアになってしまっている場合は気の利く誰かが声をかけてくれたからだ。

 問題は、それはただ「ペアを作っている」だけと言うことだ。先生は言った。「好きな人同士で」ペアを作ってくれ、と。ならば逆説的に、ペアになった人のことは好きであると言うことが成立しないだろうか。

 答えは明らかであるが、もちろん成立しない。

 数学的な命題Aの真偽が一致するのは、Aの対偶となる命題のみだ。命題Aが成立しているからといって逆の命題や裏の命題まで成立しているとは限らない。そもそも命題Aの内容は今の場合、「好きな人がいるならば、ペアになる」である。

 この命題自体常に成立しているとは限らない。時間を気にしたり世間体を気にしたり、はたまたあの日の誰かのようにその場が上手く回るように気を使って───「好きでもないのにペアになる」という事象も少ないながらも発生しているからだ。

 さて、何が言いたいかというと、つまり。
「ペアがいないから、好きな人などその場にはいなかった」ことを暗に宣言したという極まった例と、「好きでもないけれど空気を読んでしまいペアになってしまった」という例は同時に存在しうるということだ。

 ああ、人生はかくも悲しき。

 数学的にはっきり真偽が問えるような事象の数など、たかが知れているのである。




3: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:40:25 ID:zmoi



「っはぁー……」

 報告書を一枚書きおわり、エンターキーを弾く音とため息とが同時に流れる。あまりにも高く響いたカタン、という音は向かいの席に座って絶賛仕事中である千川ちひろ様の気分をだいぶ損ねてしまったようだ。

「あら、今日は特に進みがいいんですね」

 彼女からかけられた言葉はもちろん皮肉である。

 「明日までに終わらせとけよ」と無責任な先輩から書類の作成を言付かってからゆうに三日が経過している。

 先輩は今更になって「大丈夫か」と声をかけてシュークリームやスタミナドリンクなどを上梓してきたものの「大丈夫じゃないんで書類作成変わってもらっていいですか」という俺の願いには頑として首を縦に降らなかった。なんてやつだ。だがそれも仕方がない。俺も同じ立場ならそうする。

 単に失敗をしました、よくない進みでした、というならばその旨をきちんと記せばいい。それは反省であるし学びであるから、積み重ねることでいい結果に繋がりやすくなることは議論の余地がない。

 ただまあ、あれはな。

 もう一度大きなため息をつく。ちっひはそんなだるんだるんの俺の姿を見て怒りを収めてくれたようだ。さすがちっひ聡明愛してる。言ってる場合じゃなくて、いやホント。

 ───天井に備え付けられた扇風機がからからと回っている。平成どころか昭和だなと思う。しかし、鮮やかに光る机の上のモバイルPCには、それはそれは鮮明な文字で

「始末書」

 という見慣れた文字列と。

「クラリス 黒埼ちとせ」

 という名前が、不穏なタイトルを背負って映っていた。




4: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:40:38 ID:zmoi



「なんであなた、そんなに楽しそうに歌っているの?」

 ……彼女の言葉に現場の空気が凍りつく。俺と先輩は両名とも、ちとせが何を言ったのかと何故言ったのかが即座に理解できず、ただ立ち尽くしていた。

「違うでしょ」

 彼女の表情は俺からは見えなかったけれど──きっと。

「あなたが楽しそうに笑うのは、違うんじゃない?」

 きっと、楽しそうに笑っていたのだろうと思う。

「いろんなものを奪ってきて。いろんなものを滅ぼしてきて。過去に何があったのかを知ろうとせず、未来に何があるだろうか考えもせず、奪って壊して殺して死なしてきたあなたが、そんなに楽しそうに歌えるだなんて思わなかったなあ」

「黒埼、さん」

「あはっ、私の名前は覚えてたんだ。流石に」

 その場に在った空気が、彼女を中心に渦巻いている。金色の夜を照らそうと瞬いている。

「でもさ、お互いアイドルなんだから、それでいいのかもね」

「───き」

「あはは、怒らない怒らない。私これでも、すっごくあなたのことを買ってるんだよ。私ならできないなあそんなことって、本気で思ってる。……ねえ、クラリスちゃんあなた───」

 そして、ぱっと弾けた。

「ちゃんと、安らかに寝ていられる?」




5: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:40:53 ID:zmoi



 番組の収録はその後もつつがなく終わった。彼女たちもそこはプロだ。カメラが回れば裏に何があろうが表に現すことはない。

 完全に切り取られて、

 完全に別物で、

 完全に離されている。

 収録後、局のプロデューサーからお呼びがあった。「現場をこんな空気にするなら次に呼ぶことはない」と。部屋に入って一秒、冷たい声色でそれだけを告げられた。俺は何か言いたかったけれど、何も言えず。先輩に肩を掴まれてその場を去る他になかった。

「クラリスさん、今日は」

「申し訳ありません、プロデューサーさん」

 ……わかっている、だから何もいうなという意思表示。もちろん俺もそうしたい。だがそうもいかないのがプロデューサーという仕事なのだ。

「詳しくなくていいですから、聞かせてもらっても?」

 俺の呼びかけに彼女はためらいを見せる。お互い声も言葉もなく、薄暗い部屋に二人。そのままどれくらいの時間が経っただろう。沈黙は無機質な部屋のノックで破られた。

「おい」

 入ってきたのは先輩だった。手をこまねいている。ちょっと待っててくださいと彼女に声をかけて先輩の方まで駆け寄る。

「ちとせがな、ごめんなさいって」

「はい」

「でもなあ……あれはどう考えても本気じゃないっていうか」

「……縄じゃないってことですね。彼女はもう?」

「ああ。千夜が”返せ”ってうるさくて」

「あの二人は特別な絆っぽいですからねえ」

「絆っぽい、というか絆なんだろう」

 先輩はすっと息を吸って、真白い天井を見上げる。いつまで経ってもため息は落ちてこない。

「まず俺が話を聞いてみる」

「お願いします」

「報告書、代わりに書いといてくれるか? ちょっとこっちは忙しくなりそうだ」

「りょです」

「よ」

 およそ社会人らしくない約束を、やはりらしくない方法で交わし、その日は夜に幕内を明け渡した。ちとせ達は先輩が、クラリスさんは俺が、それぞれ車で送って行くことになった。俺の向かう先は女子寮だ。

 道中、いつもは多い車の数が自然な数の分だけ少なかった。理由はありふれたものだし、だから結果もありふれたもの。ただ少し昨日とは違って、明日とも違う、そんな道の時間が流れている。

「クラリスさん、お腹空いてませんか?」

「……空いています」

「それはよくない。なんでも作ってあげますよ。とは言っても今からだと、あんまりお腹に溜まるものは良くないでしょうねえ」

「……そうですね」

「あっ、サーモンサラダとかどうですか? さっき響子から『冷凍庫にサーモンの切り身を入れておきました』ってメールが来ましたから。一回事務所に寄ってもらうことになりますが、それでいいですか?」

「……はい」

「───ん。じゃあ、焦らず急ぎますよ」

 俺はアクセルを踏み込む。行き先は少しだけ変更。制限速度は少しだけオーバーしていたかもしれない。




6: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:41:08 ID:zmoi



「……とまあ、こんな感じでした」

「ふむぅ、困ったねえ」

 翻って現在。あの後もため息を繰り返してその場にいる誰からも白い目を向けられつつ、なんとかこうにか報告書を作成した。しかし報告書を部長にメールをして返信を待つことができるほど精神的な余裕はなかったため、事後報告で書類を印刷して部長の元へと持っていった。

「困ってます。どうすればいいですか」

「待つしかないんじゃない?」

 ……この人は本当に無駄なことしかしないなあと思いつつ、その言葉に自体には一切の余分はなかった。

「どうしようもない時はね、どうしようもないんだから、待つくらいしかやることないでしょ」

「そう言えるのはおっさんだからじゃないですかね」

「そうかもしれない。でも人は誰しもがオッさんになることが出来る」

「は?」

「君の心にもいるだろう、オッさん」

「いや、いないけど」

「ムキになって否定するのってオッさんっぽいよネ」

「しまった罠か」

「……ま、一緒に走るのはお兄さんのやることで、後ろから見守るのがオッさんのやることだよ。体力がないからね、オッさんには」

「悲しい事実」

「うん。だから全力で走る時にしか全力を出さないんだよ」

 ゆっくりと笑顔で告げられたその言葉の重みが、俺の両肩にずしんと乗り掛かる。その言葉は『期が熟すまで余計なことをするな』と指示を受けたことに相違ない。

「人一人にできることなんて、たかが知れてるんだ」

 最近メタボが進んできたと弱音を吐いていたその証左であるお腹をポンポンと叩きながら、部長は最後の言葉を告げる。

「向こうが手を引いて欲しいというまで、手を引いてはいけないんだ」

 どこか言葉が遠い。俺は「はい」と返す以外に何もできなかった。




7: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:42:14 ID:zmoi



 時間は既に十九時を越え、二十時に迫ろうとしている。つまり───。

「ただいま帰りました、プロデューサーさん」

「こ、こんにちは……!」

「あら、シスターが珍しいお客さんを連れている」

 今日の仕事を終えた彼女はいつものように俺の席の近くで時間を過ごしていた。保護者の迎えを待つ小さい子達の世話を持田の姉御と一緒にこなしてくれていることも多い彼女だったが、今日はオフィスのソファーで目の前にいる少女と折り紙を折っていた。

「望月さんは今日の仕事どうだった? 気づいたこととかあったかい?」

「そうですね、最近は天気も曇りが続いてますし、ちょっと元気がない人もいたかなって」

「そりゃ大変だ。今度みんなで一緒に遊んだり話したりする時間を作ってもらえるか、ちひろさんに相談してみるよ」

「ありがとうございます!」

 シスターの目の前に座っている少女の名前は望月聖。十三歳という年齢が象徴するように、まだあどけなさが抜けない顔つきの少女だ。だが彼女の歌声はどんな立派なアイドルだって目を見張ってしまうほど美しい。「天使の歌声」なんて特集を組んでくれる音楽雑誌もあるみたいだ。

 自然、クラリスさんと一緒の仕事になることが多く、前回の事務所総出のライブでは梅木さんも加え「ディヴィニア・トリニターズ」というユニットを組んで活躍してもらった。

「全体としてはうま~く終わりました?」

「はい。とときら学園特別回、きっと視聴者の方に楽しんでもらえるような番組になるかと思いますわ」

「最後の聖歌斉唱、すごく上手に歌えたんです……! たくさん放送されるといいなあ……!」

「はは、そうだな」

 番組の構成上、彼女達個人にフォーカスが当たる時間は少ないだろう。だがその少ない機会でもきっと強い印象を与えられるだろうと俺は確信している。

 なんでかって、やっぱりこの洗練されたビジュアルに聖歌というアクティビティが似合いすぎている。どちらも滑らかで潤(うる)やかな金髪をしていて、いつも浮かべている微笑みは二つ名の通りに神々しい。

 眺めているだけで清廉さを感じられ、一言話せばその優しさに虜になってしまう。そんな二人が隣に揃っているのだ、目を奪われない人間がこの世のどこにいるだろう(もちろん疑問を呈しているわけではない)。

「ふふっ……でも、クラリスさん、おかしかったんですよ」

「ひ、聖さん! それは内緒だって……!」

「お? なんかあったんですか?」

 聞いてはみたがなんとなく展開が予想できる。これも彼女と過ごした時間の長さによるものだ。

「あのね、クラリスさん、みんなが聖歌歌い終わった後に……」

 グウゥーーーー~~~~…………

「……こんなふうに、お腹が鳴ったと」

 プルプル震えている二人。一人は恥ずかしさで、そしてもう一人は先ほどの微笑ましい光景に、こんな短時間で再び出会えたことによる喜びによるものか。

「あははっ。クラリスさん、相変わらず食いしん坊さんなんですね」

 それとも。

 なんだろう、本能的に可愛い生き物は愛でたくなってしまうとか、そんなところだろうか。

「まあ、シスターはご飯食べに帰ってきてるわけですからね」

 目的が空腹を満たすためなのだ。空腹の一つや二つ、なんていうことはないはずなのに。

「う、うう~~~……お、お恥ずかしい……」

 彼女はいつも、自分のぺこりんちょ(俺が命名した)ぶりを恥じるのだった。でもシスター、残念ながらその恥じる姿すら可愛さにしか変換されていませんよ──そう言葉をかける前に、もう一度、抗議のようにお腹が鳴った。

「あ───」

 思わず羞恥の声を漏らしたのは、その音の主。そして望月さんのもちもちとしたほっぺが、りんごみたいに赤く染まったのだった。




8: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:42:38 ID:zmoi

【メインディッシュ:ボロネーゼ丼】



 三人で給湯室に降りると、事前に仕込んでおいたタネがいい感じに仕上がっていた。

 パスタを茹でて合わせようとも思ったが、腹ペコが二人も控えているのだ、そんな時間があるようには思えない。このままではぐーぐーぐーぐーお腹が合唱をしてしまって、彼女達の尊厳という尊厳を根こそぎ奪い取ってしまうだろう。

 だから今日はこの種を使って、賄い飯──和洋の最高の融合、ボロネーゼ丼なんてどうだろう。

 それにしても賄い飯。賄い飯ってなんだ。賄い飯の定義。それを言葉多く探していくのは骨折り損のくたびれ儲けというやつで。

 シンプルに。

 ───罪の味。これだ。




9: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:43:20 ID:zmoi



 まず、タネの作り方から。たっぷり二人分、おかわりもある分量だぞ!

 ───玉ねぎ一個をみじん切りにして、サラダ油少々で飴色になるまで炒める。この時少し塩胡椒して簡単に味をつけておく。

 ───玉ねぎが飴色になったら、牛豚の合い挽き肉400gを投入して炒める。ここでのポイントはしっかりとひき肉に焦げの香りを乗せることだ。
 この後ワインで煮込んだりトマトを加えたりするが、水分が多いためここで焦げを乗せることはできない(全体が焦げてしまうため)。だからこの段階でしっかりと、香り高く肉を仕上げていく。

 ───肉に焦げ目がついたらにんにくひとかけすりおろしと、砂糖ひとつまみ、うま味調味料を三振りし、(あれば)バジルなどを入れて馴染ませる。
 その後、赤ワイン400gとウスターソース大さじ1、ケチャップ大さじ1を入れて、煮立たせる。ここの火は全部中火。

 ───ワインの水分が飛んだら、トマト缶一缶を入れて、ごく弱火にして10分か20分ほど煮込む。
 この辺は火の強さだったり材料量なんかで前後するので、『タネがまとまったペースト状になるまで』煮込むという、出来上がりをイメージして煮込んでほしい。これでボロネーゼのタネの出来上がりだ。

 ───本来はこの後、パスタを茹でてタネとあえ、仕上げのバターを落として出来上がり……なのだが、今日は(面白い)事情があるため、このタネをご飯に乗せて食べてしまおう。

 ───熱々のご飯を200g盛り、お玉一杯分くらいのタネ(好きなだけかけても良い!)を装って、とろけるスライスチーズ一枚を載せてレンジで500w1分20秒ほどチンする。この辺も個人の機器次第で調節してくれ。

 ───そして、仕上げにパセリを振って出来上がり。
 トマトと赤ワインでじっくり煮込んだひき肉がご飯に絡まって至高の美味しさ、最高の和洋折衷。変わり種ながら何度も試したくなってしまう最高の賄い飯。朝に食べれば元気100倍、夜に食べれば罪の味。『ボロネーゼ丼』、完成だ。



10: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:43:35 ID:zmoi



「はい、腹ペコお嬢様方」

「あう」

「にゃう」

「可愛いのはそこまでにしておきなさい。ほら食べて食べて」

 可愛さの不意打ちに意識が飛んでしまうところであった。危ない危ない。

「そ、それでは……」

「いただきますね……──ん、んー!」

「ああ───ああ、これが、『幸せ』──!」

「美味しいですか?」

 反応を見るだけで答えはわかっているのだけど、それでも言葉を聞きたくなって聞いてしまう。無駄なことをしない、というのはかくも難しいことで。彼女達は口いっぱいに頬張ったご飯をよく噛んで飲み込んだ後、満面の笑みを浮かべて感想を述べてくれた。

「お、美味しいです! スパイシーさとジューシーさが残るお肉を、滑らかなチーズが包んでくれて──お米と一緒に、最高の旨味を運んでくれます!」

「ケチャップ……入ってますよね? ほのかに香るソースのスパイスを、ケチャップの甘さが角をとってくれていて……最後のバターが、ガツンときますね」

「望月さんすごいなあ。今度食レポのお仕事入れてもらえるよう後輩に頼んでおくよ」

「食レポ……! ごはん……!」

 どうやら望月さんもかなりの食いしん坊らしい。まあ、確かに十三歳とは思えない抜群のプロポーションだ。いっぱい食べて、いっぱい笑って、大きくなったのだろう。

「プロデューサーさん、おかわりをいただいてもよろしいですか?」

「早いな!? ……もちろんいいですよ。タネは冷凍すれば何日か保存できるので多めに作ってありますし。あ、今度は味変でタバスコとか七味とかどうですか。柚子胡椒なんかもよく合うし、色々持ってきましょう」

 いろんな可能性を探るために、そして俺自身の空腹を満たすために席を立つ。お茶碗をクラリスさんから受け取るときに僅かに抵抗があった。ん、と思って彼女を見ると……なにやら彼女は急いで顔を逸らしてしまった。

 ───なるほど。

 ふ、と笑って今度こそ席を立つ。ご飯をよそいながら彼女の方を盗み見ると、彼女も俺をチラチラと眺めているようだった。

 まったく、意外に嫉妬深い面があるんだよな、シスター。

 そんなところも、と思ってしまうあたり、俺はもうだいぶ彼女にやられてしまっているのだろう。それも悪くない──というか、嬉しいことだと思う。嬉しくて仕方がないことだと思う。

 だって───なんでも知っているからそばにいる、というのは自然なことだろうけれど。

 知らないこともたくさんあるのに、一緒にいる───。そっちの方がずっと有難くて、尊いもののように思えるからだ。彼女がどんなものを抱えているのか。色々知っているようで、実はちっとも知らないのかもしれない。

 それでもいい、と思った。

 それがいい、のだと思った。

 近くにいるのだから、それだけで。
 

 いつか、この夜に誓った。

 俺が君にとって、ただの男になって。君が、みんなにとってただの女になる。

 そうしたら一緒になろうと。誰に阿ることなく、一つになろうと。

 ───もし、その瞬間が訪れたなら。

 その時は、今より少しでも、君のことで心を埋められたらいい。

 そんなことを思いながら、今日、この罪の夜は閉じていった───。




11: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:44:35 ID:zmoi

【デザート:魔法使いだって泣くし笑うし腹減るし】




 次の日。気の重くなる会議を終えて事務所の廊下をダラダラ歩いていると、望月さんがるんるんと前から歩いてきた。その姿を見て少しだけ背筋を伸ばす。

「こんにちは、望月さん。調子はどうだい?」

「こんにちは。私の元気はるんるんです」

「元気がるんるんなんだ、そりゃいいね」

 思わずこちらも笑ってしまう。左手で口元を押さえ、吐き出した息の半分ほどを肺に入れる。

「昨日は夜ご飯ありがとうございました……!とってもとってもお美味しかったです」

「はは、そりゃよかった。お腹空いてたらいつでもおいで」

「ありがとうございます。……実は昨日、クラリスさん少し困っている様子だったので」

「え? ……あー、そうね」

 やっぱりそうかと思いつつ、どこか他人事のように状況を眺めている自分がいることを自覚した。

「でも、ご飯を食べた後はクラリスさんもすっごく元気になって……プロデューサーさんはまるで、魔法使いさんみたいですね!」

「魔法使い?」

「はい。元気じゃない人を元気にすることができるって、魔法みたいじゃないですか?」

「そうかな。それこそ、君たちは毎日のようにしてることだと思うけど」

 その言葉は、謙遜。

 ───ではなくて。

 ……明確な、反論だった。

「ううん、そんなことはないんです」

 ふ、と望月さんの声が軽くなる。話題の重さとは反比例するように、天に向かって伸びていく。

「私たちは、いつでも笑顔にしてもらっているんです。プロデューサーさんや共演者さん、スタッフの皆さんや、ファンの皆さんに」

「君たちが、かい?」

「はい! だって昨日、プロデューサーさんは私に美味しいご飯を作ってくれました! クラリスさんはお仕事の間中ずっとわからないところを教えてくれましたし、上手く言ったら褒めてくれました。
 スタッフの前田さんや山本さんも、困っていることはないですかって声をかけてくださって。局の警備員さん、櫻井さんというおじいさんなんですが、『孫が頑張っているみたいで、元気をもらう』って言ってくださるんです」

「ほら、やっぱり君が元気にしてるんだよ。僕らを」

「でも、私たちもみんなから元気をもらっているんです!」

 望月さんは高く声を張り上げた。それは力強い一編の歌のようで。

「みんなが私を、私たちを元気にしてくれる……幸せにしてくれる。その少しでも、返したくて。『こんなに私に優しくしてくれてありがとう』って、聞いてほしくて」

 こんなに小さい体から発せられる言葉に胸を打たれる。足が、瞼が動かない。

「クラリスさん、言葉にはしなかったですがすごく落ち込んでいて、すごく考え込んでいるみたいでした。でもプロデューサーさんに会って、お話しして、ご飯を食べているときは、その悩みがぜんぶ消えちゃったみたいに自然に笑ってたんです。
 だからきっと、プロデューサーさんは魔法使いさんなんです。みんなみんな、魔法使い」

「────あ、は、はは。魔法使いか、そうか」

 さっきまで抱えていた悩みが今は少しだけ軽い。問題はなにも解決していない。いや、むしろ裸一貫で荒れた大海原に飛び込もうとする寸前なのだ。しかし、心はこんなにも穏やかだ。

「じゃあ、望月さんも、クラリスさんも、もちろん他のみんなも───魔法使いだよ」

「ふぇ?」

「だって、俺は今望月さんに笑顔にしてもらったから。君もちゃんと、一人の立派な魔法使い」

 そう伝えると、彼女はにっこりと笑った。

 いつかまた、もっと美味しいものをご馳走してあげるね、と約束をして別れた。

 そして俺は、

「魔法使いなんだ」

 と一言呟いて、勝負の瞬間に足を踏み入れるのだった。




12: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:44:46 ID:zmoi



 ───その少し前。

「は───?」

 その場にいる誰もが耳を疑った。最初は声の方を向き、次いで俺を、そして再度声の主を──おっさんを。

「いや、ほら言うじゃない。雨降ってなんとやらって」

「……それだとただ雨が降っただけになっちまいますが?」

「地固だよ、地固め。君、そういうの得意だろう」

「得意ってったって……!」

「まあ、マーケティング部の方からもすごいプッシュがきちゃってねー。『ダメであることを証明してください』なんて言うもんだから、『そんなことはできない』って返したら決まっちゃったんだよぅ」

「……もう一度、考え直してくださいよ。火に油を注ぐ必要はないでしょう」

「いやあ、案外君が水になってくれるかもしれないよ?」

「水と油じゃないですか」

「その辺はほら、僕らが界面活性剤になってフォローするから」

「────どうなっても知りませんよ……」

「僕もどうしたものかなって思うけど。まあ、なるようになるでしょう」

 ……状況は、これで固まってしまった。おっさんの言うことを真に受けるとどこまでも仕事が降り続いて止むところがないという教訓が得られたのが、今回の学びだ。

 もっとも。

 その学びの対価としては重すぎる現実が、その書面には記されていた。高すぎる授業料は法外の域に達しつつある。なんとむごい。責任者が俺であるという事実が状況悪化に拍車をかけているところが、玉に瑕だ。




13: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:44:57 ID:zmoi

『提案 吸血公演:主演 クラリス 黒埼ちとせ』



14: 名無しさん@おーぷん 22/05/25(水) 21:47:16 ID:zmoi

以上です。ボロネーゼのタネはバター落としてパスタと絡ませれば普通にボロネーゼになりますし,冷凍すれば2-3日は持つ優れものです。興味があったらお試しあれ。

毎度ながら、趣味全開であまり盛り上がりのないssを自己満足のままに書いています。
直近の掲示板に投稿した過去作は次の3つです。こちらも、もし良ければ。


【モバマスss】過ぎゆくものの美しさよ【鷺沢文香】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1629600271/l10


【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;坦々麺【幕間】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1629598984/l10


【シャニマスss】夜に会いに【SHHis】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1625565739/l10



元スレ
【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;ボロネーゼ丼