1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:09:24.93 ID:VaIbC6K70
・ウルトラマンX×アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。
・初っ端からエックスがキャラ崩壊を起こしてます。ご注意ください。
・主な登場アイドル↓
島村卯月(17) 遊佐こずえ(11) 水本ゆかり(15)
渋谷凛(15) 脇山珠美(16) 新田美波(19)
本田未央(15) 星輝子(15) 堀裕子(16)
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:10:59.27 ID:VaIbC6K70
第一話 『プロデュースX』
―――オペレーションベースX
Xioの基地、オペレーションベースXの夜。
ベッドに横になってうつらうつらしていた大地はエックスの鼻唄を耳にして身体を起こした。
エックス『~~♪』
大地「どうしたんだエックス?」
エックス『だ、大地起きてたのか!?』
大地「ああ……何、どうした?」
そう言ってデバイスに手を伸ばしたが、
エックス『よ、よせ! 見るんじゃない!』
大地「は?」
あまりにも必死なエックスの声に不審を覚えながら、大地はデバイスを取り上げた。
大地「……これは」
エックス『い、いや……これは』
画面に表示されていたのは――
大地「『アイドルマスターシンデレラガールズ』……?」
二次元美少女が所狭しと並んでいる絵だった。
大地「何だこれ、ゲーム?」
エックス『……はい』
大地「そういう趣味あったのかエックス」
エックス『い、いや、これは、地球人のことをもっと深く理解しようとした結果であり……』
大地「それで、地球人の作ったゲームをプレイしてたわけか」
エックス『……はい』
大地「ふーーーん……」
流石に無理があったかとエックスが冷や汗ものの気分になっていると、
大地「エックス、そこまで地球人のことを……」
エックス『ん?』
大地「そうだよな。こういう形で相手を知ることもできる。そして相手を知ることで相互理解に繋がる」
エックス『あ、ああ……』
大地「ありがとうエックス。俺も怪獣のことをもっと別の切り口から見ることが必要なのかもしれない。そう気付かされたよ」
エックス『はい……』
大地「? さっきから思ってたんだけど、何で敬語?」
エックス『い、いや! 何でもないぞ! そう、こういうゲームには地球人の価値観が如実に表れていて実に興味深い!』
大地「そうか。あ、でも課金はしないでくれよ」
エックス『も、もちろん。君のお金を無断で使うことはしない』
大地「ならいいや。まぁ、あんまりのめり込み過ぎないようにね」
エックス『ああ』
大地「おやすみ~」
エックス『うむ。おやすみ』
大地はデバイスをデスクに戻して、再びベッドに寝転がった。
エックス(ふう……こういう話の大地が天然なのが幸運だったな)
エックスが言ったのは嘘ではない。確かに最初はそういう動機でゲームを始めた。
しかしながら最近の主目的は変わってしまっており……。
卯月『プロデューサーさんも、手を繋ぎましょう♪ほら♪』
ゆかり『エックスさん…いつもそばにいてくれて…ありがとう…』
珠美『後ろにエックス殿がいるから、珠美は朗らかなのです!』
エックス(ふふふ)
エックスは完全にアイドルにハマってしまっていたのである。
しかもタチが悪いことに――
エックス(よしっ! 今日もサーバーに直接潜るぞ!)
自身がデータ化されていることをいいことに、公式サーバーに直接潜って色々不正行為を働いたりもしていたのである。
今夜もまた回線に入り、ネットの海をエックスは泳いでいく。そして目的地が見えてきたところで――
エックス(ん? 何だあの光は?)
その辺りに妙な光が浮かんでいるのが見えた。しかもそれがどんどんこちらに近づいてきている。
慌てて躱そうとしたが、光の塊はエックスを優に呑み込めるほど巨大だった。
エックス「う、うわあああああああああ!!!」
エックスは逃げきれず、その光に捕らわれ――
エックス(…………)
エックス(……はっ。ここは……?)
気付くと、目の前に青空が広がっていた。
エックス(…………)
エックス『だ、大地ー?』
しかし返答がない。空の他に店や街灯があり屋外にしか見えないが、いつの間に移動したのだろう。
もしかして作戦中なのだろうか。だが大地が答えてくれないし、しかも置きっぱなしにされているようだ。
更に不審な点は――
エックス(ここ……『アスファルトの上』だよな……)
デバイスに伝わる温度と感触は間違いなく熱されたアスファルトのもの。
つまり地面の上にほっぽりだされているのだ。もしかして不注意で道に落としてしまったのだろうか。
エックス『だ、大地ー! 近くにいないのかー?』
しかし返事がない。まずいのは、この状態のエックスには何もできないことだ。
ザイゴーグ戦のあと実体を取り戻したエックスだが、自分をデータ化すると再び変身しなければそれを維持できない。
つまり自力で実体化ができないため、まさに手も足も出せない状況に置かれているのだ。
エックス『こ、これはまずいぞ。――いや、そうだ! 通信を送ればいいのか』
デバイスの機能なら自分の意思で使うことができる。
勇み込んでアスナのデバイスに通信を送ったエックスだったが――
エックス『……?』
しかし中々繋がらない。神木隊長、橘副隊長と、別のデバイスに送っても駄目だった。
エックス『これはどういう……?』
と、その時。
「あれ、これ何でしょう?」
女の子の声が聞こえて、
「スマホ……にしては大きすぎだよね」
続けて落ち着いた感じの、これまた少女の声が。
「落とし物かなー?」
三人目の声がすると、デバイスが持ち上げられた。
エックス『助かった! 君たち、Xioの大空大地隊員に連絡を――』
と言い掛けたところでエックスは固まった。
なぜなら、デバイスの画面を覗き込んでいた三人の顔に見覚えがあったからだ。
それは――
卯月「しゃ、しゃ、喋りましたよ!?」
凛「通話中だったんでしょ」
未央「というか、この声……」
三人が顔を見合わせて、もう一度画面を覗き込む。
間違いなく、アイドルマスターシンデレラガールズの登場人物、島村卯月・渋谷凛・本田未央の三人だった。
エックス『君たち……ニュージェネレーションズの……』
卯月「こ、声だけでわかっちゃいますか!?」
エックス『ち、違うんだ! 今私はこのデバイスの中にいて……』
凛「? でも、この声……」
未央「もしかして、プロデューサー……?」
卯月「えっ……? あっ、確かに言われてみれば……」
エックス『これは通話状態じゃない! 私の名はウルトラマンエックス、このデバイスの中にいるんだ』
凛「…………」
エックス『本当なんだ! 信じてくれ!』
卯月「プ、プロデューサーさん、この機械の中に閉じ込められちゃったってことですか?」
エックス『閉じ込められたというか自分から入ったというか……』
未央「これは……これは事件だ!!!」
―――事務所
未央「……ということで、プロデューサーがこんなのになっちゃいました」
事務所にいるアイドルたちが一部除き揃って目を丸くしている。
エックス(ここにいるアイドルたち……私の所持カードのアイドルたちか……)
珠美「あ、あのー……珠美には状況がうまく呑み込めないのですが……」
美波「プロデューサーさんの悪ふざけとかじゃなくて……?」
クールアイドルの脇山珠美と新田美波。
こずえ「でもぉー……ぷろでゅーさーのかお……ぴかぴかひかってるよぉ……?」
ゆかり「もしかして電池切れ……? バッテリーは大丈夫ですか? プロデューサー」
キュートアイドルの遊佐こずえと水本ゆかり。
裕子「これは何者かの陰謀に巻き込まれたのでは……!? 私のサイキックパワーで何とかするしか!」
輝子「ヒャァーーハハハハハ!!! わけわかんねえぜえええええ!!!」
パッションアイドルの堀裕子と星輝子。
それにニュージェネレーションズの三人を加えた九人がエックスの部署に所属するアイドルだった。
凛「正直私はまだ手の込んだ悪戯だと思ってるんだけど」
美波「常識的に考えればねえ……」
エックス『気持ちは痛い程わかるが、これは嘘じゃない。私は今、このデバイスの中にいるんだ』
珠美「どうすれば出られるのでしょう?」
エックス『方法はあるんだが……』
しかし、アスナたちと通信が繋がらなかったところを見ると、大地がこの世界にいない可能性は高い。
ある程度周波数が合う人間でないとユナイトはできない。このままでは実体化はおろか変身すらできない。
エックス『だが、しかし……』
そう、しかしそれより更に重大な問題があるのだ。
一番の問題は「自分が何故シンデレラガールズの世界にいるのか」ということ。
帰り方もわからないのでは、実体化しても意味がない。
エックス(あのとき見た光の塊……あれが私をここに導いたのか……?)
気掛かりな点は多かったが、しかし――
エックス『…………』
裕子「むむんっ? どうしましたかプロデューサー?」
エックス『いや……』
ゆかり・輝子「「?」」
皆の顔を見回す。ゲームの中にしかいなかったアイドルたちが今こうして目の前にいる。
エックス『みんな……可愛いなって……』
未央「なーに今更なこと言ってんの!」バシバシ
エックス『やめろ叩くな! 精密機械なんだから!!』
美波「それはともかく……お仕事は大丈夫なんですか?」
凛「それについては、ちひろさんに話は通してあって……」
壁際で静観していた事務員の千川ちひろに目をやる。
ちひろ「はい。資料を全てデータ化してデバイスに送れば、何とかやれるそうです」
美波「じゃあ、一応は大丈夫ですね」
ちひろ「まぁ……一応は」
そう言って向けてくる視線が痛い。余計な手間が増えるのだから当然だが……。
エックス(しかしこの反応を見るに、これまでは人間大の私がプロデューサー業をしていたということなのだろうか……謎だ)
何はともあれ、こうしてアイドルとデバイスに入ったプロデューサーという奇妙な関係が始まったのだった。
―――三時間後
ある野外ステージ。その上で歌うニュージェネレーションズの姿があった。
卯月「あーたらしいっ!」
凛「せーかいへとっ!」
未央「カーットインして~!」
三人「みーらいデビューだよ! よ・ろ・し・くっ! はぁいっ!」
曲が終わると同時に会場が歓声に包まれる。
汗を浮かべながらも三人は笑顔で客席向けて手を振った。
卯月「ありがとうございますー!」
凛「ありがとう!」
未央「ありがとー! また会おうねー!」
・
・
・
会場を辞した未央たちは会場付近の公園に向かった。
立ち並んでいる木々の中の一本。その枝にてるてる坊主のようにデバイスが吊るされていた。
卯月「プロデューサーさん、大丈夫ですか?」
エックス『少々鳥に突っ突かれはしたが……大丈夫だ。それにしても、いいステージだったぞ』
凛「ここから見えたの……?」
エックス『ウルトラマンの超視力を舐めてもらったら困るな』フフン
凛「何で得意気なの……」
未央「エスパーユッコ風に言うと、サイキック超視力?」ムムムン!
凛「こんなのに閉じ込められてなければ普通に近くで見れたのに。ま、いいや。帰ろ」
卯月「はいっ」
・
・
・
三人は事務所に戻るため、夕暮れの街中、徒歩で駅に向かっていた。
未央「プロデューサーが万全なら車で戻れたのになー」
エックス『す、すまない……。というか、私は車に乗っていたのか……?』
凛「何言ってんの……。いっつも私たちを送り迎えしてくれたじゃん」
エックス(うーむ)
ライブまでの時間、事務所で情報を収集した結果、エックスが宇宙人ということは周知の事実であることがわかった。
しかもウルトラマンの外見のまま人間大になって仕事をしていたという。
エックス『君たちは私が宇宙人ということに抵抗はないのか?』
未央「どうしたの急に」
エックス『い、いや。何となく……』
凛「うーん。最初に会ったときはやっぱり驚いたけど」
卯月「私は自分がアイドルになれる喜びの方が大きかったです」
未央「私も驚きはしたけどまぁそういうのもありかなって思ったなぁ。こういう時代だしね」
エックス(どういう時代なんだ……いや、グルマン博士のような友好的な宇宙人がたくさんいるのか……?)
卯月「同じ事務所にウサミン星人もいますしね!」
凛「それはちょっと違う気が……」
エックス『あと聞きたいことがあるんだが、この世界には私の他にウルトラマンはいるのか?』
未央「それは聞いたことないなぁ。プロデューサーだけかな」
凛「私も聞いたことない」
卯月「私もです」
エックス『そうか……いや、一般的には知られてないだけで宇宙にはいるのかもしれないが……』
凛「そもそもウルトラマンって何なの? 普通の宇宙人にしか見えないんだけど」
エックス(巨大化した私の姿を見たことがないということか……?)
未央「デバイスに閉じ込められちゃうドジっ子だし、『ウルトラ』って感じしないよね」
エックス『うっ……これには色々事情があって……』
卯月「心当たりがあるんですか? ならそれをどうにかすれば!」
凛「そういえばさっき、元に戻る方法はあるって言ってたよね。できることなら協力するよ?」
未央「うんうん」
エックス『だが……』
未央「もう! 私たちとプロデューサーの仲じゃん! 遠慮しないでって!」
未央の言葉に卯月と凛も笑顔で頷いている。
エックス『未央……卯月……凛……』
エックスが自分の素性を明かそうとした、その時だった。
「ピギャァアアアアォォン!!!」
頭上から甲高い叫び声が響いてきた。
卯月「えっ……」
未央「何!?」
三人が揃って空を見上げる。
日が暮れてきて黄昏色に染まった空に、黒い影が浮かんでいるのが見えた。
凛「あれ……何?」
エックス『まさか……!』
黒い影はみるみるうちに大きくなっていく。
数分も経たないうちにその大まかな姿が見て取れるようになった。
岩石のようにごつごつとして刺々しい姿。
尖った頭部にはオレンジ色の目が点々と並んでおり、背中には巻貝のような突起が四本突き出ている。
「ピギャァァァアアアアン!!!」
叫び声は明らかにその影のものだった。呆然と眺めている間にも巨大化していく。
そしてとうとう、黄昏の街に降り立った。静まり返った街の空気が地響きで震撼する。――そして。
「――きゃあああああああっ!!!」
誰が発したのかわからない甲高い悲鳴。しかしそれによって皆が我に返ったように、
「うわあああああああーーー!!!」
「逃げろおおおおおおおお!!!」
巣穴を壊された蟻のように逃げ出し始めた。
凛「な、何……? 何なの、あれ?!」
エックス『怪獣だ……』
凛「え……?」
エックス『この世界には怪獣はいなかったのか?』
未央「こんなの見たの初めてだよ!!」
エックス『……っ。ということはやはりXioも存在しないのか……』
卯月「どういうことなんですか、プロデューサーさん!」
凛「プロデューサーは何か知ってるの!?」
エックス『あれは“超合成獣”サンダーダランビア。宇宙怪獣だ』
未央「宇宙……怪獣……」
エックス『君たちも早く逃げろ!』
既に逃げ惑う人の波はエックスたちの元まで迫っていた。
ビルとビルの間に怪獣の巨体が垣間見える。
凛「と、とにかく今は逃げるしか――」
その時だった。
Tダランビア「ピギャァァァァアオオオン!!!」
サンダーダランビアが叫ぶと、背中の突起から青白い電撃が放たれた。
手近のビルに直撃し、爆発が起こる。その轟音は凛たちのところにも響き、耳をつんざいた。
卯月「あ……あぁ……」
爆発が起こったところより上の部分が崩れ、地上に落下する。
コンクリート、アスファルト、ガラス……あらゆるものが壊れ砕け破れる音がないまぜになり、爆風と共に押し寄せてくる。
凛「う、卯月! 早く!」
卯月「ま、まって……こ、腰が……抜けて……」
凛「卯月っ!」
凛が卯月の腕を取るが、崩れたビルの上部に現れた怪獣の上半身を見て動きが止まった。
未央「しぶりん! しまむー! 早くっ!!」
エックス『……っ!』
Tダランビア「ピギャアアアアアアア!!!」
電撃が乱れ飛び、ビルを、地上を襲っていく。
街灯は折れて倒れ、街路樹は燃え上がり、怪獣の歩む道はその重量で砕けて沈んだ。
未央「しぶりん、しまむー!」
エックス『おい、未央!!』
未央が二人の元に駆け寄る。凛の背中を叩くと、我に返ったように振り返った。
未央「何してんの! 早く逃げなきゃ!」
凛「でも、卯月が!」
未央「しまむーも、ほら! 立って!」
卯月「は、はい……っ!」
二人で腕を取って立ち上がらせる。しかしそうしている間にも怪獣の巨躯は迫っていた。
突然、三人が影に包まれた。凛が首を捻って後ろを見ると、そこには太陽を背にした怪獣の黒々しい姿が。
逆光の中、ギラギラ光るその目が、自分を見ているような気がして――
がくっと、卯月のバランスが崩れる。左肩を支えていた凛が崩れ落ちたからだ。
卯月「凛ちゃん!?」
凛「…………」
凛は全身が勝手に震えて、もう自力では動かせなかった。
動け動けと命令しても、指先ひとつ動かせない。背筋に冷たい汗が一筋、流れ落ちた。
未央「……っ」
凛「も、いいから……未央……卯月だけでも……」
卯月「そんなこと……っ」
未央「そんなことできるわけない!!」
そう叫んで、未央が二人の前に立つ。
凛「未央……っ」
卯月「未央ちゃん、だめ……」
降り注いだ雷撃が爆風を巻き起こし、その乾いた熱風が未央の頬に吹きつけ、髪を靡かせる。
未央「私がニュージェネのリーダーだから……私が二人を……」
凛「未央っ!!」
卯月「未央ちゃんっ!!」
未央「私が……! 私が二人を守る……っ!!」
エックス『――!!』
その時だった。エックスは胸の奥から湧きあがってくる感情に気付いた。
共鳴する周波数。共振する個性。それだけでは言い表し切れない何かを、エックスは未央に感じた。
エックス『未央、私とユナイトするんだ!』
未央「えっ……?」
エックス『それしか方法はない! いいか、言われた通りにして、私の名を叫ぶんだ!』
エックスが説明する間にも怪獣の影は迫ってくる。もうあと百メートルもない。
未央「わ、分かった! 行くよ、プロデューサー――いや」
深呼吸して、未央が言い放つ。
未央「――ウルトラマンエックス!!」
エックス『よし、行くぞっ!』
未央がデバイスを突き出し、Xモードに変形させる。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードすると、青白い電光が放射状に飛んだ。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
未央「――っ!」
そしてデバイスを掲げ上げ、高らかにその名を叫んだ。
未央「――エックスーーーーーっ!!!」
Xの字を象った光が放たれ、巨大化し、未央の全身を包んでいく。
辺りを閃光が包む。それを突き破るようにして、巨大な銀色の体躯が姿を現す。
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
エックス「――Xクロスキック!!」
Tダランビア「ピギャァァァァアアア!!??」
電光を纏い、きりもみ回転しながらの蹴りを受け、サンダーダランビアが吹っ飛ばされる。
エックスはそのまま空中に舞い上がり、そして地上に降り立った。
地面が揺れ、破片が巻き上げられる。夕焼けの薄明りの中、青白い光が周囲を飛び交う。
それら全てを巻き込んだ旋風が吹き荒れ、呆然と見守る凛と卯月の長髪を乱した。
エックス「…………」
黄昏の空を背景に、降り立った巨躯がゆっくりと立ち上がる。風が止み、辺りが静穏に満ちた。
50メートル近くありそうな巨大な人型。銀を基調に赤と黒が交じり、胸にはX字のカラータイマーが青く光っている。
凛「プロデューサー……?」
卯月「ぷ、プロデューサーさんが、おっきくなっちゃいました!?」
凛「……未央は!? 未央はどこに!?」
一方、エックスの意識内部では――
未央『…………』
エックス『……未央! 未央!』
未央『……っ! ぷ、プロデューサー!?』
エックス『よかった、ユナイトは成功だ。プレイ時間300時間の絆は伊達じゃなかったな!』
未央は周囲を見回して、それが人間の視点でないことを確認した。
未央『私、巨大化しちゃったの……?』
エックス『外見は私だから心配するな』
未央『別にそういう心配じゃなくて』
エックス『! 来るぞ!』
ハッと我に返る。目の前にサンダーダランビアが迫っていた。
エックス「セエヤッ!」
その突進を抑え込む。後ろには卯月たちがいる。ここを通すわけにはいかない。
エックス「テアーッ!!」
怪獣の身体を押し返す。十分離れたところまで来ると、身体を反転させ、背負い投げする。
Tダランビア「ピギャァァァァ……」
エックス「ハ――ァッ!」
起き上がるサンダーダランビアに対峙してファイティングポーズを取る。
放たれた電撃に反応して、側転しながらそれを避けた。
Tダランビア「ピギャァァァァァ!!」
しかし避ければ避けるほど電撃による被害が広がってしまう。
そう気付いたエックス=未央は立ち止まって、両腕をクロスさせてそれを受け止めた。
エックス「グウウッ……!!」
Tダランビア「ピギャァァアアアア……!!!」
エックス「ッ! ――グアアアッ!!」
しかしサンダーダランビアが出力を強めたため、受け切ることができなかった。
エックス「グッ……ハアァッ」
背後に倒れ込むも、起き上がろうとするエックス。
するとサンダーダランビアの手のひらから触手が飛び出してきた。エックスの首に巻き付き、電撃を流し込む。
エックス「デアアアッ!!」
Tダランビア「ピギャァォオオオオン!!!」
未央『ぐっ……くぅ……っ!』
エックス『未央、大丈夫か!?』
未央『へ、平気……! 変身してるせいか、思ったより痛くないから……!』
エックス『よし。心を合わせるんだ。そうすればどんな相手とだって私たちは戦えるようになる!』
未央『うん……!』
その時、地上から声が聞こえてきた。
卯月「プロデューサーさん! 頑張って!!」
凛「負けないでーー!!」
未央『二人とも……!』
未央『……私への応援は!?』
エックス『そっちか!? いや、事態が飲み込めてないんだろう……無茶を言ってやるな』
未央『むむ……こんなに身体を張って頑張ってるのに』
エックス『というかさっきからずっと電撃受けてるのに案外余裕だな未央』
未央『なん……かさ。だんだん……癖になってきたというか……』
エックス『不安になるようなこと言わないでくれないか!?』
未央『じょーだんじょーだん♪ さて、二人を守るためにも頑張んなきゃね!』
エックス『ああ! 未央、このカードを使うんだ!』
デバイザーの上に一枚のカードが転送されてくる。
未央『! オッケー、わかった!』
『ウルティメイトゼロ ロードします』
そのカードをロードすると、エックスの上半身に白銀のアーマーが装着されていく。
中央に青い宝玉が埋め込まれたV字型の鎧。右腕には手甲と一体化したような剣が装備された。
『ウルティメイトゼロアーマー アクティブ!』
エックス「テヤアァァッ!!」
右腕の剣で触手を断ち切る。
Tダランビア「ピギャァァァアアアッッ!!!」
首に絡まった残骸を勢いよく投げ捨て、怪獣に向かって走る。
エックス「デアァッ!」
回復の間を与えず、たじろぐサンダーダランビアの横っ面を蹴りつける。
その勢いで怪獣の背中がこちらに向く。その突起にエックスは斬りかかった。
エックス「ハァッ! セヤァッ! テイヤッ!」
Tダランビア「ピギャァァァアア……!!」
四本の突起すべてが斬り払われ、サンダーダランビアは更に悶える。
一方でエックスは少し離れ、アーマーを解いていた。金色に光るカラータイマーに腕を翳し、右上に掲げ上げる。
エックス『行くぞ、未央!』
未央『うん!』
次に、右足を軸に全身ごと左足を回転させる。その軌跡に青白い光が走り、エックスの背後に向かって伸びていく。
そして最後に、後ろに回していた両腕を身体の前で交差させる。両腕にエネルギーが漲り、光線が発射された。
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
敵向けて放たれた光線は次の瞬間、激突していた。
Tダランビア「ピギャァァァアアオオン……!!」
サンダーダランビアの巨体が力なく崩れ落ち、爆発が巻き起こる。
その中心に青白い光が集っていく。怪獣が光線の力でスパークドールズに圧縮されているのだ。
それを見詰めながら、エックスはユナイトを解いた。
凛「――未央!」
白煙の中から現れた未央に凛は真っ先に気付いた。
卯月「未央ちゃん! 無事だったんですね……!」
言い終わらない内に卯月が泣き出す。
卯月「もう……もう、どうしようって……私……」
未央「あ、あはは。プロデューサーと合体して戦ってたんだ」
凛「プロデューサーと……? そういえばさっきのは……」
エックス『あれが私の本来の姿なんだ』
卯月「すごかったです! まさに『ウルトラマン』って感じで!」
凛「で、本来の姿になれたのに、デバイスに閉じこもったままなの?」
エックス『別に閉じこもっているわけでは……』
そうだ。未央とユナイトすることはできたが、まだ元の世界への戻り方がわかっていない。
それがわからなければ結局のところ実体化できても意味はないのだ。
卯月「とにかく、後で詳しいお話聞かせてくださいね!」
未央「うん。……でも今はちょっと疲れたかな。早く帰りたいかも」
卯月「あ、は、はいっ! そうですよね! 早いところ帰りましょう」
凛「でもこの被害で電車は動いてないだろうね……ちひろさんに迎えに来てもらうしかないかな……」
その言葉でエックスは思い出したように言った。
エックス『……なあ、みんな』
エックス『このことは、ちひろさんには黙っててもらえないだろうか……』
凛「何で?」
エックス『今余計な負担を増やしてしまっているのに、更に君たちのような女の子を戦いに巻き込んだと知られたら……』
未央「怒られるから?」
エックス『……ああ……』
卯月「くすっ。でも同じ部署のみんなには構いませんよね? プロデューサーさんの力を貸してもらわなきゃいけない時がまた来るかもしれませんし」
エックス『確かにそうだな……でもちひろさんには』
卯月「わかってます♪」
この場はそういう取り決めとなり、事務所に戻ってから解散となった。
―――事務所
皆が帰り、静まり返った夜の事務所。
ちひろやアイドルたちは持って帰ろうかと言ってくれたが、流石にそれは辞した。エックスは紳士なのである。
エックス(この世界もいいところだが……一刻も早く帰らねば)
エックス(だが、私が帰ったあと、この世界はどうなるのだろうか……この世界の装備だけで怪獣たちを倒せるのか?)
エックス(いや、怪獣が出るのは初めてだと言っていた。私がイレギュラーとしてこの世界に来てしまったために怪獣も現れるようになったのだとしたら……)
エックス(…………)
エックス(……少し疲れたな。続きはまた明日考えよう……)
そう思い、意識を遮断する。
うとうとと眠りに落ちたエックスは――
「………………………………」
「……エ………………ス……」
「………………ク……ス……」
エックス(なんだ……?)
「―――――ス!」
「――エックス!」
「エックス! 返事してくれ!」
エックス(っ!?)
意識を開くとそこには――
エックス「大地!?」
大地「まさか寝てたのか!? 今大変なことになってるんだ! 早くユナイトを!」
エックス「あ、ああっ!」
こうしてわけもわからぬうちにエックスは元の世界に戻ることができた。
そしてそれからというもの、彼は眠るたびに連続した夢を見るようになる。
プロデューサーとなり、アイドルに囲まれる自分の夢を……。
第一話 おわり
≪アイドルの怪獣ラボ≫
未央・エックス「「未央の怪獣ラボ!」」
未央「今回の怪獣は、これだ!」
『サンダーダランビア 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106396.jpg
エックス『“超合成獣”サンダーダランビア! ネオダランビアの亜種だ!』
エックス『手のひらから伸ばす触手や、背中の突起からの電撃が強力だぞ!』
未央「ま、私たちにかかれば電流マッサージレベルだけどね!」
エックス『電流マッサージ……そんなものもあるのか。人間世界は奥が深い……』フムフム
未央「元は『ウルトラマンギンガ』第1話の怪獣。ブラックキングは追い詰めたけどギンガには圧倒されたね♪」
未央・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
《蒼ノ楽団》のPV撮影のために獅子鼻樹海に向かった凛ちゃんと美波ちゃん。
でも妙な虹をくぐり抜けると、そこから先は未知の異次元空間に……。
そして姿を現す樹海の主! さあプロデューサーさん出番ですよ……って、プロデューサーさんどこですかー!?
次回、ウルトラマンXP第二話! 『美しき静寂』 プロデューサーさーん! どこですかー!?
第二話 『美しき静寂』
―――車中
凛「でーきたてえーぼりゅーれーぼりゅー……」
李衣菜「巧く歌うんじゃなくて♪ 心を込めて歌うよ~♪」
蘭子「沈黙の戒律は、抑え切れぬ感情に破られた。其の贖いに煉獄を渡れと命じるなら――」
P「あーもううるさい!! 歌うならどれかひとつにしろ!!」
美波「あ、あはは……」
楓「ハモりながら車は森を走ります……ふふっ」
とある春の日。
凛と美波は所属ユニット《蒼ノ楽団》(アズール・ムジカ)のPV撮影のため、楓たちのプロデューサーのワゴンに乗って移動していた。
エックス『凛も案外お茶目なところあるんだな』
凛「いや、何か別の曲歌う流れかなって」
エックス『むしろ君がそれにノった方が驚きだが!?』
……そして何故かエックスも(デバイスとして)同乗していた。
それと言うのも――
美波「そろそろ獅子鼻樹海でしょうか?」
P「はい。日本のバミューダトライアングルと呼ばれるミステリースポットですよ~」
Pがおどろおどろしい喋り方をするので、後部座席の蘭子の顔が引き攣った。
凛「本当にそんなとこ入って大丈夫なの?」
李衣菜「いやいや、知っていてあえて赴くのがロックってもんでしょ!」
蘭子「フ、フフ……我が闇の力さえあれば、如何なる魔境が待ち構えていようと――」
その時、突然車窓の外でカラスが鳴いた。
蘭子「ひゃううぅっ!?」
凛「うわっ! ……もう、急に飛びつかないでよ……」
蘭子「ご、ごめんなさいぃ~~っ」
凛(あれ、喋り方……)
楓「ふふっ、樹海のカラス……迷い込んだ人の肉を啄んでいるのかもしれませんね」
後部座席を振り返りながら楓が言う。そのオッドアイは少女のようにキラキラ光っていた。
蘭子「ま、迷い込んだ……啄む……」
楓「案外、悪魔の使いだったりして? ここはもう既に魔界の中――」
蘭子「あ、悪魔……魔界……」
蘭子はもう顔面蒼白である。
美波「か、楓さん……そこまでにしてあげてください……」
楓「ふふっ。でも蘭子ちゃんがいるから心配ないわよね?」
蘭子「……む、無論っ! 我が真結界によって貴殿ら乙女の無事も保障し――」
すると今度は、バサバサッ! というカラスの羽音が響いた。
蘭子「ひぅぅぅううっ……!!」
李衣菜「ほんと空気読まないなー、このカラス……」
何はともあれ、撮影のために赴いたこの獅子鼻樹海。
魔境と呼ばれており様々な不可思議現象が発生している場所のため、エックスも念のためについてきたのだった。
美波「えーっと、スタッフさんたちは先に到着してるんでしたっけ?」
P「はい。先に現場で待っているはずです」
楓「――あっ」
急に楓が声を上げる。
P「どうしました?」
楓「虹……」
美波「えっ?」
楓が指さしたフロントガラスの向こう側。
薄い青空に綺麗なアーチ状の虹が掛かっていた。
李衣菜「あ、ホントだ。きれい~」
蘭子「ふふ……天が授けし我らへの祝福か……」
凛「……ん?」
そうこうしている内にワゴンは虹に近づいていって、通り抜けた。
凛は慌てて背後を振り向く。
凛「虹、まだある……」
エックス『妙だな……』
凛「プロデューサーもそう思った?」
エックス『ああ』
李衣菜「え、何? どういうこと?」
凛「虹っていうのは簡単に言うと太陽光を水滴が反射して起こる現象なんだけど」
エックス『今の太陽の位置を考えると「振り返ってもまだ虹がある」というのはおかしい』
凛「それに、さっき私たち虹を『通り抜けた』よね。あれも絶対にありえない」
李衣菜「え……じゃあ何? さっきのは虹じゃなかったってこと?」
凛「たぶん、そういうことになるんだろうけど――」
そう言って振り返った凛は目をぱちくりさせた。
もうそこに虹がなかったからだ。
凛「あれ……?」
美波「見間違いだったんじゃない?」
凛「そんなはず……」
首を傾げながらも凛は不承不承自分を納得させた。
車はそのまますいすいと道を走っていく。次第に両脇に並ぶ木々も密度を増してきた。
P「…………」
楓「…………」
美波「…………」
李衣菜「…………」
蘭子「…………」
凛「…………」
さっきまでの晴天はどこへやら、森が深くなるにつれ空も暗くなる。
段々と不安になってきたアイドルたちは口々にプロデューサーに訊ねる。
美波「あ、あの。まだですか?」
李衣菜「もうけっこう走ってる気がするんですけど……」
凛「そんなに深いところで撮影する気だったの?」
P「い、いや……。一本道を走ってたらすぐ見えるはずって聞いてたんだけど」
エックス『虹を通り抜けてから、32分46秒。おかしいな』
P「いったん電話してみます」
車を停め、携帯を取り出しながら外へ出るプロデューサー。
車内は沈鬱としたムードに満ちていたが、
楓「ほらほらみんな。そんな暗い顔してたら、撮影も上手くできなくなりますよ」
凛「でも、こんな状況……」
まだ誰も口に出していないだけで、全員に共通認識があった。
私たちは遭難して、もう帰れないのではないかと。
楓「幸子ちゃんなんてよくこういう目に遭ってるじゃないですか」
凛「それはそうだけど……」
楓「おんなじ目に遭ってるのに私たちだけ音を上げてたら、『メッ!』って叱られちゃいますよ。……ふふっ」
つまらない駄洒落に車内の空気が少し和らいだ。
するとプロデューサーが早足で戻ってきて運転席に乗り込んだ。
美波「ど、どうでした?」
P「圏外で駄目かと思いましたけど、ちょうどそこでスタッフさんと鉢合わせして」
車内の雰囲気がぱっと明るくなる。
P「すぐそこにスタンバイしてるそうです。行きましょう」
李衣菜「よかったぁ~」
溜め息を吐きながら背もたれに倒れる李衣菜。他のメンバーもほっと胸をなでおろしたようだった。
エックス『…………』
だがエックスだけは、不審そうに何かを考え続けていた。
―――廃墟
美波「ここ……何ですか?」
凛「廃墟……だよね」
P「監督、これは」
監督「いやー最初は別のところで撮る予定だったんだけどね、もっと良いところ見つけちゃったから」
蘭子「空洞の祭壇……心揺さぶられるわ」
李衣菜「廃墟は大丈夫なんだ」
李衣菜がちょっと呆れたふうに言う。
李衣菜「でも何で樹海に廃墟が? 誰か住んでたのかな……」
中に踏み込んでみる。打ちっ放しのコンクリートが剥き出しになっており、ところどころ崩れて外の木々が覗いている。
あらかたの清掃は終わっていたようだったが、やはり染みついた汚れは残っていた。
楓「廃墟は異境……うーん」
李衣菜「せめて黙って考えてください」
凛「で、着替えは?」
P「そこに仮設テント立ててるからその中で着替えてくれって。衣装はもう用意してくれてる」
凛「ふーん。じゃ、みんな。行こうか」
李衣菜「凛ちゃんは動じないね……」
楓「凛ちゃんのクールさが心に来ーる……ふふっ」
李衣菜「無理矢理過ぎじゃないですか?」
美波「あっそうだ。凛ちゃん、プロデューサーさんはどうしよう」
凛がベルトにぶら下げていたデバイスを取り上げる。
凛「そういえばそうだった。外に置いとくのも心配だけど、着替え見られるのは嫌だし……」
エックス『いや、裏返して置いてもらえば何も見えなくなるから心配ないぞ』
美波「そうなんですか? じゃあそうしましょうか」
エックス『聴力は生きてるから、何かあった時にはすぐに知らせられるしな!』
美波「頼もしいです!」
凛「……待って。どの程度なら聞こえるの」
エックス『そうだな……。テントの外からでも衣ずれの音が聞こえる程度には耳が利くぞ!』
凛・美波「「…………」」
エックス『……何故だ……?』
エックスは美波のバッグの中に入れた凛のバッグに放り込まれた挙句テントからも追い出されていた。
P「あれ、何でこんなところにバッグが? 誰のだろ」
しかも置き去りにされていたのは廃墟の壁のそばであったため――
P「こんなところに置いてたら撮影の邪魔だろ……」
不幸にもプロデューサーの手によって運び出されてしまった。
P「さてと……ところで監督」
監督「うん?」
P「ここまで来る最中に変な虹を見ませんでしたか?」
監督「ああ……確かに見たね。それから何か道に迷った感じになって……」
P「迷ったんですか!?」
監督「うん。彷徨ってたらここ見つけたんだけど」
P「ってことは、帰り方がわからないってことじゃ……」
監督「まぁそうなんだけど」
P「のんきですね……やばいですよこれ」
監督「いやでもね、こんな良い場所を見つけたら撮ってみたくなるってのがサガってもんでしょ――」
そう言ったときだった。
ごうっと風が吹いて森がざわめいた。
P「…………」
長い長い風だった。
森がどよめく。まるで、何らかの脅威に怯えているように――
監督「はは、こんな雰囲気がまさにミステリアスな《蒼ノ楽団》にピッタリ――」
その時――
「キシャアアアアアアア!!!」
プロデューサーと監督が同時に押し黙る。
木々の梢がざあっと揺れる。静寂に戻ったかと思うと、ドン、ドン、という音が響いてきた。
P「何だ、この音……」
その音はどんどん大きくなっていく。
――近づいてくる。その主が。この樹海の主が。
「キシャァァァァアアアオン!!!」
再びその雄叫びが上げられたかと思うと、森の上にその姿はぬっ、と現れた。
銀色の皮膚に覆われた頭部。鋭く光る瞳は金で、頭の両側に山羊のような角が大きく捻れている。
監督「うわああああああーーー!!!」
スタッフ「怪獣だあああああああ!!!」
機材を捨てて逃げだすスタッフたち。
プロデューサーは慌ててテントのアイドルたちの元に向かった。
P「みんな、大変だ! 怪獣が出た!!」
美波「ええっ!?」
みな着替えが済んでいることを確認して美波が入口を開ける。
美波「本当なんですか!?」
P「は、はい。きっとこの樹海の主だと思います。早く逃げないと!」
美波「みんな!」
みな頷いて着の身着のままテントを飛び出した。
P「車で逃げましょう!」
停めてある車まで向かおうとするプロデューサー。しかし――
美波「すみません、荷物を!」
P「荷物なんて取りに行ってる場合じゃ――」
「シャオオオオオオオン!!!」
美波・P「「!」」
全員が揃って声の方向に目を向ける。銀色の怪獣の巨躯がそこにはあった。
咄嗟に木の影に身を潜める。しかし、かなり近い。100メートル程度しか離れていない。このままでは見つかるのも時間の問題だ。
李衣菜「ま、まずいって……!」
蘭子「あ、あわわわわわわ……!」
楓「二人とも落ち着いて。プロデューサーさん、二人を連れて先に逃げてください」
楓が毅然とした態度で言う。
P「でも!」
美波「あの中には私たちのプロデューサーさんがいるんです! 置いてなんかいけません!」
楓「私も一緒に探します。プロデューサーさんは二人を」
P「わ……わかりました。でも無茶は絶対しないでください。必ず後で助けに行きますから」
楓「はい。――行きましょう」
美波と凛の方を振り向き、身を屈めながら一緒に走り出す。
李衣菜と蘭子はプロデューサーに連れられて車に向かって行った。
凛「美波、あのバッグどこに置いたの?!」
美波「あの廃墟のそば! すぐ見つかると思う!」
―――車中
李衣菜「プ、プロデューサー! 早くっ!」
P「わかってる!」
乗り込むや否やプロデューサーはワゴンを出発させた。
李衣菜と蘭子はリヤガラスから背後の様子を探る。
蘭子「こ、こここ、こっち来てるぅっ!!」
怪獣「シャオオオオオオオン!!!」
怪獣は明らかにワゴンの方に視線を向けていた。
重い足音を鳴らしながら歩いてくる。
李衣菜「スピード! もっと出ないの!?」
P「くっそ!」
アクセルを踏み速度を上げる。しかし二人の目に映る怪獣は――
怪獣「キシャァァァァァオオン!!!」
まるでこのスピードアップを挑発と受け取ったかのように進攻に勢いが加わった。
蘭子「もうダメぇ……っ!」
リヤガラスから顔を背け、頭を抱えて蹲ってしまう蘭子。
しかしその時、何かに気付いた。車の床、エンジン音とは違う、何か異質な音が聞こえる。
蘭子「……?」
涙が浮かぶ目でその方向を見やると、水色のスポーツバッグがあった。確か美波のものだ。
その中から微かに、振動音が聞こえる。同時に、男の人のくぐもった声――
蘭子「……っ!」
蘭子は少し迷いながらも美波のバッグのジッパーを引いた。
振動音と声が心なし大きくなる。
中を覗いてみると、次は凛のショルダーバッグがかなり窮屈そうに詰め込まれていた。
それも開けると――
エックス『どうした! 何かあったのか!?』
エックスの声が聞こえて、蘭子は中からデバイスを取り出した。
エックス『うおっ、眩しっ!? ……あ、蘭子か! いったいどうしたんだ!?』
李衣菜「え、美波さんたちのプロデューサーさん? 何でこんなところに?」
蘭子「蒼き乙女のパンドラの箱の中に……」
P「あ、それ、廃墟の隣に放り出されてたから、邪魔だと思って俺が車に運んどいたんだった」
李衣菜「なるほど……でも今はそれどころじゃなくて……!」
李衣菜はデバイスを持ち上げてリヤガラスに向けた。
エックス『あれは……シルバゴンか……?』
李衣菜「知ってるんですか?!」
エックス『私も詳しくは知らない。だがこの妙な空間は異次元になのではないかと疑っていた。そして奴は異次元を生息地にする怪獣だ』
エックスが悔しそうな声を出す。
エックス『私がもっと警戒していれば……。そういえば、凛と美波は?』
P「あーーーーっ!!!」
突然プロデューサーが大声を出す。
李衣菜「な、何ですか急に」
P「美波さんたち、プロデューサーを捜すって……!」
エックス『何!?』
―――廃墟
一方、美波たちは廃墟に到着していたが――
美波「ど、どうして!? 確かにここに置いてたはずなのに!」
凛「もしかして、誰かが持って行った……?!」
楓「手分けして探しましょう!」
―――車中
エックス『ということは、美波と凛と楓はまだ残っているということか!?』
P「怪獣はこっち狙ってるから三人は無事だと思う!」
エックス『確かにそうか……だが……』
エックスは黙り込んで二人を見た。多田李衣菜と神崎蘭子。
確かに知った顔だが、所属アイドルでもない彼女たちと果たしてユナイトができるだろうか。
エックス『……っ。頼む、私を美波か凛の元に連れて行ってくれ!』
李衣菜「な、何で!?」
エックス『そうするしかこの窮地を抜け出す方法はない! 私を信じてくれ!』
李衣菜と蘭子は数秒顔を見合わせてから、力強く頷いた。
李衣菜「わかりました。私たちが二人の元に連れて行きます!」
P「お、おい! 俺は!?」
李衣菜「事の発端の罰として車で怪獣をおびき寄せて!」
P「酷い!」
蘭子「安心しろ、瞳を持つ者よ! 我が翼の加護で汝は守られる!」
P「……わ、わかった」
李衣菜「プロデューサー……必ず生きてまた会いましょう!」
P「フラグ立てんなあああああああああ!!!」
急ブレーキをかけたワゴンから二人は飛び出すと、デバイスを手に走り出した。
―――森
美波「どうしよう、どこにいるのプロデューサーさん……」
鬱蒼とした森の中。未だに足音はやまない。
ずぅぅぅん……という重低音が下腹部を震わせて背筋に冷たい汗を流していく。
美波(ダメよ美波、弱気になっちゃ! そもそもプロデューサーさんをバッグに入れちゃったのは私。その責任はきちんと果たさなきゃ!)
頬をぱちんと叩いて自分を奮い立たせる。
露出した脚が下生えに傷つけられながらも美波は走った。――すると。
美波「きゃあっ!?」
足首に何かが絡まり、盛大にこけた。
美波「いったた……なに……?」
樹木の根か何かかと思って振り返るが、それが目に入った瞬間、ぞわっと全身が粟立った。
美波「きゃあああああああーーーーーっ!!!」
―――李衣菜・蘭子サイド
李衣菜・蘭子「「!」」
エックス『美波の声だ!』
李衣菜「ど、どっちから!?」
エックス『あっちだ!』
そう言われてもわからない。
李衣菜「どっち!」
エックス『だから――って、ああ! えっと、今の君の右前方48度の方向だ!』
蘭子「すご……」
李衣菜「急ごう!」
―――美波サイド
美波「い、嫌ぁっ! なにこれぇっ!」
「美波さーーん!!」
「青き女神よー! いずこにー!?」
美波「あ……李衣菜ちゃんと蘭子ちゃんの声……」
胸に希望が湧きあがってくる。
美波「ここ! 助けてえええ!!」
「今行きますーー!!」
美波「……!」
その言葉に美波はハッとなった。
美波「だ、ダメ! 来ちゃダメ!!」
しかし幾らも経たない内に二人が木々の間から飛び出してきた。
李衣菜「美波さんっ!」
蘭子「こ、これは!?」
二人の目の前には――
李衣菜「な、何これ!?」
くすんだピンク色の触手がお腹に巻き付いている美波の姿があった。
強い力で引っ張られているようで、木の幹を必死に掴んで持ちこたえている。
美波「ダメ……二人まで巻き込まれちゃう! 逃げて!」
エックス『美波、落ち着け!』
美波「プ、プロデューサーさん!? どうして李衣菜ちゃんたちのとこに――」
エックス『話は後だ! 二人とも、美波の救出を!』
その触手のおぞましさに一瞬躊躇う二人だったが、意を決して踏みつけ始めた。
だが一向に解かれる気配がない。
美波「くぅぅぅ……っ!」
むしろ締め付けがきつくなって美波が苦しむ始末だった。
李衣菜「これっぽっちの刺激じゃダメージにならないみたい」
蘭子「だけど、私たちに武器なんてないし……っ!」
おろおろする蘭子だったが、ふと自分が持っているものに気が付いた。
エックス『……おい、まさか』
蘭子「闇にぃぃぃ―――」
エックス『ちょっと待ってくれええええ!!!』
蘭子「飲まれよーーーーーーっ!!!!」
デバイスを大きく振りかぶり、触手向けて思いっきり投げつけた。
勢い付けた鈍器での一撃は流石に応えたのか、美波を解放してするすると引き下がっていく。
蘭子「ぜーー……はーー……」
李衣菜「や、やった……」
エックス『だ、だがもう二度とやらないでくれ……精密機械なんだから……』
しかし安心したのも束の間、地面が揺れ始めた。
美波「な、何……!?」
「ピシャァアアアアアッッ!!!」
地中から怪獣が姿を現す。そう遠くない場所だった。
頭部には一本角が生え、両手が二本の巨大な爪とその間から伸びる触手でできている怪獣だった。
エックス『あれは……“バリヤー怪獣”ガギか。こいつもこの異次元空間に住んでいたんだな』
李衣菜「ど、どうしましょう……」
エックス『ここは私と美波が食い止める。君たちは逃げろ!』
李衣菜「食い止めるって……!」
蘭子「む、無茶ですよ~っ!」
しかし、美波はそんな二人を真正面から見据えて言った。
美波「大丈夫」
そして、有無を言わさぬ口調で続ける。
美波「《蒼ノ楽団》、コンダクターとしての命令よ。二人は逃げて」
蘭子「……!」
李衣菜「で、でも……!」
李衣菜が変わらず不安そうにする一方、蘭子は何かを感じ取ったようだった。
李衣菜の腕を取り、催促する。
李衣菜「蘭子ちゃん!?」
蘭子「此れは契りぞ。再臨が果たされなければ、貴殿の魂は彼岸でも永劫に報われぬと知れ!」
美波「ええ。必ず戻るわ」
李衣菜「だからそれ死亡フラグって――ああ、もう蘭子ちゃんーーっ!」
李衣菜はわけもわからぬまま蘭子に引っ張られていった。
エックス『すまない……。君に戦いを強いることになった』
美波「不安がないと言ったら嘘になりますけど……プロデューサーさんとだから、平気です」
そう言って、笑みを作る。
美波「あ……でも私……こういうの初めてだから、上手くできるかわかんないですけど……」
エックス『心配するな! プレイ時間300時間の私たちの絆を信じろ!』
美波「……??」
エックス『美波、ユナイトだ!』
美波「はっ、はいっ!」
ひとつ深呼吸して、美波は口に出した。
美波「――美波、いきますっ!」
エックス『よし、行くぞっ!』
エクスデバイザーをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
すべてのセッティングが完了したデバイスを掲げ上げ、美波はその名を叫んだ。
美波「――エックスーーーーーっ!!!」
放たれたX字の光に美波の身体は包まれ、そして――
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
エックスの巨躯もまた、森の中に姿を現した。
蘭子「あ、あれ……」
李衣菜「美波さんたちのプロデューサーさん……?」
一方、別の場所にいた凛からもその雄姿は確認できた。
凛「プロデューサー……? 今度は美波とユナイトしたんだ……」
ガギ「ピシャァァアアアアッ!!」
シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!」
エックス『くっ……初めての相手がいきなり二体だなんてきついだろうが……頑張ってくれ……!』
美波『が、頑張りますっ! ……って、卯月ちゃんみたい……あはは』
自分で自分を和ませようと努めながら、美波=エックスは慣れないファイティングポーズを取った。
エックス「イィ――サァッ!」
それに煽られたようにガギが最初に突っ込んでくる。
ガギ「ピシャァァァアアア!!」
エックス「テヤッ!」
挟み込むようにして振るわれた両爪を両腕でそれぞれ防ぎ、空いた腹部に膝蹴りを入れる。
ダメージが入った反応を見て、そのまま腹を蹴りつけた。
ガギ「ピシャァァァァ……」
シルバゴン「グルルルッ!! キシャァァアァオオン!!!」
続いてシルバゴンも向かってきて、その短い腕をエックスに叩きつけようとする。
彼はガギにしたように腕で受け止めようとしたが――
エックス「――デアァッ!?」
その力は予想以上で、エックスは跳ね飛ばされてしまった。
美波『――くぅっ!』
エックス『大丈夫か、美波!? 痛くないか!?』
美波『は、はい……プロデューサーさんの身体、たくましいから……思ったより痛くないです……』
エックス『そうか。案外相性いいのかもしれないな、私たち』
などとやり取りしている間にもシルバゴンは迫ってくる。
エックス「――Xダブルスラッシュ!」
両腕でX字を描くように振り下ろすと光刃が二発翔んだ。
シルバゴン「シャァァァァ……!!」
エックス「……!」
しかし命中したにもかかわらず全く応える様子がない。
ガギ「ピシャァァァァァ!!!」
すると突然、ガギが横からシルバゴンに襲い掛かった。
体当たりしてよろめかせ、自慢の爪を振り下ろす。だが――
ガギ「ピシャァァァァァ!!?!?」
エックス「!」
なんと逆にガギの爪が途中で折れ、弾き飛んだのだ。
美波『あの銀色の皮膚……すごく硬くなってるみたい……!』
エックス『力だけでなく防御にも優れているとは……!』
シルバゴン「キシャァァアァオオン!!!」
シルバゴンの剛腕がガギの横っ面を殴りつける。
ガギ「ピシャァァァァ……」
シルバゴン「グルルルルッ!!」
次の瞬間――
美波『――きゃあああーーっ!!??』
美波が悲鳴を上げるのも無理はなかった。
シルバゴンの牙がガギの首を突き刺したからだ。
シルバゴン「キシャァァァァ……オオンッ!!」
そして強引に首の肉を噛みちぎる。大きく窪んだ赤い傷跡から大量の血が噴き出す。
エックス「――ッ!」
あまりのショッキングな光景にエックス=美波が呆然とへたり込んでしまう。
ガギ「…………」
ガギはそのまま斃れた。口の中の肉片を咀嚼し飲み込むと、シルバゴンはエックスの方を振り返る。
美波『や……やだ……嫌ぁ、来ないでぇ……』
エックス『美波、落ち着くんだ!』
美波『いやああああああっ!!』
頭を抱えて蹲ってしまう美波=エックス。その耳の奥にシルバゴンの雄叫びが響いて――
シルバゴン「――キシャァァァァアアアッッ!!!」
美波『……っ!!』
目元に涙を浮かべながら衝撃に備えようとする美波。だが……。
美波『……?』
エックス『ん……?』
どういうことか、シルバゴンは何もしてこなかった。
シルバゴン「グルルルル……?」
首をちょこんと傾げ、辺りをきょろきょろと見回す。
まるで、目の前にいるエックスを見失ったかのように。
エックス「……?」
不思議に思いながらエックスが立ち上がる。すると――
シルバゴン「! キシャァァァァ!!」
シルバゴンが襲い掛かってきた。不意を突かれてまともにダメージを受けてしまう。
エックス「グアァ……ッ!」
シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!!」
後方に転がって、再びダンゴムシのように丸くなるエックス。
すると今度もシルバゴンが攻撃をやめたのだった。唸り声を上げながら辺りを見回している。
美波『……もしかして』
エックス『こいつ、動いているものしか見えないのか……?』
試しに、シルバゴンが背を向けた瞬間、飛びかかってキックを入れてみる。
エックス「デヤッ!」
シルバゴン「!」
そして振り向いた瞬間、動きを止める。シルバゴンが再び辺りを見回す。
予想通り、シルバゴンは今のエックスを視認できていないらしかった。
エックス『これは大発見だぞ、美波! これでこの怪獣を攻略できる!』
美波『わ……わかりました。やってみます!』
エックス「――テェイヤッ!!」
隙を突いて腹を蹴り飛ばす。
シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」
その体勢のままエックスは静止する。シルバゴンは見失う。
エックス「…………」
シルバゴン「グルルルル……」
見えていないはずだがシルバゴンの金色の瞳がエックスを捉えている。
美波『…………』
唾を呑み込む。背筋に冷や汗が落ちるようだった。
次第に体勢が維持できなくなって、ぷるぷると身体が震え出す。
シルバゴン「! キシャアアアアアアアッ!!」
エックス「グアアッ!!」
それによって感知されたエックスはシルバゴンに蹴飛ばされた。
エックス「グ……ッ」
再び静止しようとする。しかし嫌でも脳裏にガギの最期が過ぎってしまう。
弱点なんて勘違いで、今にも怪獣の牙が私の首に噛みついてくるのでは――そんな妄想が離れない。
シルバゴン「キシャアアアアアアアオオオン!!!」
エックス「デアアッ……!」
またしても集中が途切れて攻撃を受けてしまうエックス。
そのカラータイマーが赤く点滅し始めた。
エックス『くっ……美波、集中するんだ!』
美波『で、でもぉ……!』
美波の様子にエックスは考え直す。如何に大人びているといえどまだ19歳の少女なのだ。
ユナイトする前の態度だって気丈に振る舞っていたに過ぎない。
戦闘においては、美波は初期の大地以上に素人だ。
その方向の期待を持つのは酷というものだろう。ならば――
エックス『――美波。なら、君の一番集中できるポーズをするんだ!』
美波『一番集中できるポーズ……?』
エックス『そうだ。ひとつくらいあるだろう? なんたってグラビア雑誌に引っ張りだこの君なんだから』
美波『も、もう~っ! ちょっと恥ずかしいんですよ、あれ……』
エックス『少しくらいなら私も我慢する! みんなを守るためだ!』
美波『――! みんなを……守るため……』
その一言に美波は覚悟を決めた。
美波『二度目ですけど――美波、いきますっ!!』
シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」
蹴り飛ばそうとするシルバゴンの足を転がって避け、怪獣の側面に移動する。
咄嗟に振り向いたシルバゴンだが――
シルバゴン「……?」
エックスの完璧な静止によって完全に見失ってしまった。
凛「……何、あれ……」
美波の得意なポーズ――セクシーポーズでの静止によって。
エックス『み……美波……これは……』
美波『やれって言ったのはプロデューサーさんですよっ! このままいきますからね!!』
エックス『ちょ、ちょっと!!』
シルバゴンが向こうを向いたと同時に動く。
動く気配を察知してかシルバゴンがばっと振り向く。しかし既にエックスはセクシーポーズを取っていた。
頭の後ろに右手をやり、左手をくびれに、そして腰をくねらす例のポーズである。
シルバゴン「グルル……?」
そんなシュールな絵面もシルバゴンの目には映らない。
再び隙を突いて飛びかかる。胸に肘を打ち込み、顎の下から裏拳を叩き込む。
シルバゴン「キシャアアアアアアア……!!」
エックス「エェーーックス!!」
その場でジャンプして、落下の勢いと共に頭頂にチョップを叩きつける。
シルバゴン「キシャァァァァオン……!!」
足をぺたんと地面につけ、太腿の間に両手を突くエックスを見失う。
足を組ませながら寝そべるエックスを見失う。
両腕を頭の後ろにやって胸を反らせるエックスを見失う。
次第に苛ついてきたのかなりふり構わず攻撃をし始めるが、全て空を切る。
しかしそれは逆に隙を増やしてしまうのだった。段々と美波に余裕が戻り始める。
美波『プロデューサーさん、そろそろキメましょう!』
エックス『わ……わかった……』
対照的にエックスの声は疲労困憊していた。
エックス『この……カードを……』
美波『はいっ!』
『サイバーゴモラ ロードします』
サイバーカードをロードすると、エックスの上半身に青いアーマーが装着された。
『サイバーゴモラアーマー アクティブ!』
シルバゴン「キシャアアアアアアア!」
突然エックスの姿が変わったことに驚いたのか、シルバゴンも同じように装着ポーズを取った。
しかし自分の身体には変化がないと知ると短い腕を振り回しながら地団太を踏み始める。
美波『ふふっ、聞き分けない子みたいでちょっと可愛いかも……♪』
エックス『そうかな……』
美波『行きますよ、プロデューサーさんっ!』
エックス『おう……』
アームアーマーの巨大な爪を鈍く光らせ、エックスが走る。
振り回されたシルバゴンの尻尾を受け止め、こちらに向けられた背中に左の爪を振り下ろす。
シルバゴン「キシャァァァオオン……!!」
エックス「ジュアッ!!」
こちらに振り向こうとした顔を返す刀で斬りつける。
火花が飛び散り、怪獣はよたよたと後ずさりした。
エックス「オオオオオオオ……!!!」
それを見てエックスがアーマーの力を解放していく。
青白いスパークが帯びるアームをシルバゴンの身体に向ける。
美波『――ゴモラ振動波!!』
エックス「――イィッ、サアァーーッ!!!」
突き出された両アームから青い波動が放たれシルバゴンを襲う。
怪獣の身体はしばらくびくびくと痙攣していたが、やがてそれも絶え、
シルバゴン「シャォォォォグルルルルル……」
断末魔と共に倒れ、爆発が巻き起こった。
凛「やった!」
李衣菜「やったぁーーっ!!」
蘭子「やった! やった!!」
その煙の中に青い光が集っていくのを眺めている凛と、抱き合いながら歓喜する李衣菜と蘭子なのだった。
・
・
・
―――車中
P「いやー、一時はどうなることかと思いましたよ」
帰りの車中。先に逃げ出したスタッフたちが『出口の虹』を発見しており、それを伝えてくれたため皆は無事元の世界に戻る事ができていた。
李衣菜「死亡フラグを覆すなんて……まさにロック!」
P「わけがわからない……」
そんなふうに、車内に安堵と和やかなムードが満ちている一方で……。
エックス『…………』
一方で、エックスは類を見ない落ち込み方をしていた。
凛「そんなに落ち込まないでよ。『あれ』はここだけの話にしておいてあげるから」
蘭子「心の箱舟に乗せ、来世の時まで口を噤んでいようぞ」
李衣菜「そうそう。それにウルトラマンがあんなことするなんて、逆にロックじゃない?」
楓「ロックと言えば、お酒が欲しくなりましたね~」
P「強引過ぎじゃないですか……?」
美波「…………」
凛「ん? どうしたの、美波」
美波「え、えっと……その……」
さっきから黙り込んでいた美波は何故か火が出るほど真っ赤になって両頬に手を当てている。
美波(わ、私……プロデューサーさんと……)
エックス『――美波』
美波「ひゃ、ひゃいっ!?」
エックス『まぁ……色々あったが、よく戦ってくれた。感謝している』
美波「は、はぁ」
エックス『最高のユナイトだった』
美波「は、恥ずかしいこと言わないでください~~っ!!」
エックス『え、何がだ!? 何が恥ずかしいんだ!?』
それから帰りの道中は(主に楓から)散々はやしたてられる美波とエックスなのだった……。
第二話 おわり
≪アイドルの怪獣ラボ≫
美波・エックス「「美波の怪獣ラボ!」」
美波「今回の怪獣は……これだぁっ!」
『シルバゴン 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106612.jpg
エックス『“剛力怪獣”シルバゴン。その名のとおり銀色の皮膚が特徴的な怪獣だ!』
美波「硬くて大きくて強い……三拍子揃ったまさにシンプルイズザベストの正統派怪獣ですね!」
エックス『しかし動いている物しか見えないという致命的な弱点があるぞ!』
美波「みんなはシルバゴンに遭遇したら死んだふりしようね♪」
エックス『そんな、熊みたいな……』
美波「元は『ウルトラマンティガ』第26話の怪獣。ガギⅡを圧倒し、ティガのパワータイプにも負けない怪力を発揮しました!」
美波・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
美城プロの楽器系アイドルが集まる「アイドルムジークフェスタ」が開幕! うちの部署からはゆかりちゃんが参加します!
と、そんなとき怪獣が飛来! ゆかりちゃん、ここは私に任せて存分に演奏してください!
ってあの怪獣、急に敵前逃亡し始めましたよ!? 何で!?
次回、ウルトラマンXP第三話! 『純粋奏者』 奏でろ、勝利のメロディー!
第三話 『純粋奏者』
―――クラシックホール
スタッフ「はい、オッケーでーす!」
演奏が終わると、スタッフの声が飛んだ。
クラシックホールのステージ、リハーサル終了である。
星花「お二人とも、素晴らしい演奏でしたわ!」
ゆかり「星花さんこそ。本番もばっちりですね」
音葉「私たちの三重奏……皆さんの心に暖かな風を吹き込むような……そんな演奏にしましょう」
ゆかり「はいっ」
この日、このホールでは346プロ主催のアイドルムジークフェスタが開かれることになっていた。
楽器を趣味にするアイドルたちを集め、ユニットを組ませたりソロで参加したりしての演奏会だ。
ゆかりはフルート担当としてピアノの梅木音葉、ヴァイオリンの涼宮星花とトリオを組んで三重奏を披露することになっていた。
他の参加アイドルにはギターの木村夏樹、サックスの東郷あいなどがおり、それぞれ順番にリハーサルをこなしていた。
―――事務所
卯月「おはようございまーす」
エックス『おっ。おはよう卯月。もうお昼だが』
卯月「そっかぁ……じゃあ『こんにちは』ですかね……。こんにちはです……? こんにちはます……?」
美波「普通に『おはよう』でいいんじゃないかしら……」
卯月「うーん……日本語の挨拶は奥深いですね……」
凛「外国人みたいなこと言わないの」
卯月「えへへ……。未央ちゃんは? まだですか?」
事務所をぐるりを見回す卯月。ソファには美波と、その肩に寄りかかって昼寝しているこずえ。
凛はプロデューサーのデスクの近くで資料を捲っており、卯月の位置からは見えなかったが机の下に輝子が潜っていた。
凛「もうじき来ると思うけど」
卯月「珠美ちゃんと裕子ちゃんはお仕事でしたっけ。あとはゆかりちゃん……」
凛「ゆかりも仕事だよ。アイドルムジークフェスタ。リハがあるからもう会場入りしてる」
卯月「ああ……。ゆかりちゃん一生懸命練習してましたよね。私も聴きに行きたかったです」
凛「私たちも仕事だけどね」
卯月「そうでしたぁ~……」
オーバーリアクション気味にがっくりと肩を落とす卯月を凛は微笑ましげに見ていた。
―――コンサートホール・楽屋
ゆかりは楽器の調整や楽譜の再確認をしていたが、ふと思い出して音葉に声を掛けた。
ゆかり「そういえば音葉さん、お聞きしたいことがあるのですが」
音葉「何ですか?」
ゆかり「音葉さんってよく音を独特な言い回しで表現しますよね。温度とか色とか……」
音葉「そうですね……私にはそう感じ取れるので」
ゆかり「では、私のフルートはどういうふうに感じられますか? 少し気になったもので」
音葉「そうですね……ゆかりさんのフルートの音色は『冷たい』ように感じられます」
ゆかりはちょっと意外そうな顔をした。
ゆかり「冷たい……ですか。私の演奏は」
音葉「……あぁ」
取り直すように音葉は首を横に振った。
音葉「語弊のある言い方をしてしまいましたね……冷酷とか冷徹とか、そういうマイナスイメージの意味ではなくて……」
そう言うと音葉は言葉を探すように考え込んでいたが、星花の顔に視線が止まると急に思い出したふうに、
音葉「――あ。そうです、『涼しい』という言い方のほうが良かったですね」
そう言って、おっとりと微笑んだ。
星花「あ、私の苗字が『涼宮』だからでしょうか?」
音葉「はい。それで思い出させてもらいました」
ささやかに笑い合う二人だったが、ゆかりの方は首を傾げていた。
ゆかり「涼しい……ですか。それは心地よいとか、爽やかとか、そういうことですか?」
音葉は頷く。
音葉「何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます」
星花「確かにゆかりさんのフルートを聴くと心が癒されますわね」
ゆかり「なるほど……そう言ってもらえると嬉しいです」
と、納得しかけたゆかりだったが、
音葉「ですが――」
突然逆接の言葉が出てくるものだから更に戸惑うはめになった。
ゆかり「で、ですが何でしょう?」
音葉「その一方で、暖かみも感じられます。これは私の感覚ではなくて、文字通りの意味なのですが」
ゆかり「……?」
音葉「私の知覚で言うとゆかりさんのフルートは『涼しい』です。ですが、それは同時に『暖かみ』という効果もある……ということです。わかりますか……?」
ゆかり「音自体は涼しいけれど、暖かい音と同じような効果もある……ということですか……?」
音葉「そう、その通りです。さっき星花さんも仰いましたが……殺伐とした心を『癒す』ような……そんな暖かさがあると私は思います」
ゆかり「難しいですね……」
星花「それだけゆかりさんのフルートが魅力的なんですよ。ねえ、音葉さん?」
音葉「はい。それは間違いありません」
そう言って音葉はそよ風のように笑んだ。
―――撮影スタジオ
カメラマン「はーい、いいよー! 凛ちゃん、卯月ちゃんの方にもっと寄って寄ってー!」
凛「は、はいっ」
ニュージェネレーションズの三人は社内のスタジオでピンナップの撮影をしていた。
卯月が撮影の合間にちらと壁時計を見ると、午後五時二十五分だった。
卯月(そろそろ開演でしょうか……頑張ってくださいね、ゆかりちゃん……!)
フラッシュを瞬かせながらシャッター音を連続させる一眼レフのカメラ。
三人は集中しながら笑顔を浮かべ、ポーズを取り、写真を撮られていたが、
凛(……ん?)
卯月(あれ?)
未央(カメラの故障……?)
気付くと、いつの間にかシャッター音が立たなくなっていたのだ。
確かに設定変更をすれば消せるだろうが、カメラマンにそういう素振りは全く見られなかった。
カメラマン「んん?」
カメラマンも不審に思ったのだろう、手持ちのカメラを検め始めた。
未央「ね、どうしたんだろう?」
凛「カメラ、故障したのかな」
スタジオ内が妙な空気に包まれた、その時――
突然、場内スピーカーから鬼気迫った声が流れ出した。
アナウンス『お知らせします! 東京渋谷区に怪獣が出現! 直ちに避難してください!』
スタジオに動揺が走り、スタッフたちがざわめき出す。
渋谷区といえば346プロがあるこの場所だ。
アナウンス『これは訓練でも何でもありません! 直ちに避難してください!! 繰り返します――』
凛「卯月、未央!」
卯月「は、はいっ!」
未央「うん!」
ニュージェネレーションズの三人は顔を見合わせて、スタジオを飛び出した。
廊下を走りながら凛がスマホでネットを立ち上げる。
凛「宇宙から飛来した怪獣……現在渋谷区五丁目を移動中……って、すぐそこ!?」
未央「嘘ぉ!?」
凛「半径3㎞に緊急避難指示を発令、5㎞に注意報を発令……ってことは」
卯月「文化会館のゆかりちゃんたちは大丈夫みたいですね。良かった……」
未央「ふ、二人とも! あれ!」
突然未央が窓の外を指さす。夕焼け空の下、割合近くに怪獣の姿が認められた。
黒い二足歩行の怪獣。恐竜のような頭部の両側には翼のようなヒレが広がっている。
背中と腰からはナイフのような細い翼が一対ずつ生えていた。
怪獣「グギャアアアアアアオン!!!」
怪獣の雄叫びにびくっと身体を震わせながらも、三人は事務室まで急いだ。
―――事務室
卯月「プロデューサーさんっ!」
エックス『来てくれたか!』
未央「もちろん! さてどうする?」
卯月「こ、今回は私に行かせてください!」
凛「卯月……」
卯月「大丈夫です! 私、二人よりお姉さんですし!」
未央「わかった。頼んだよ、しまむー!」
凛「プロデューサー、絶対に怪我させないでよ」
エックス『わかってる!』
卯月は事務所から出ると、デバイスをXモードに変形させた。
卯月「島村卯月、頑張りますっ!」
エックス『よし、行くぞっ!』
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
卯月「――エックスーーーーーっ!!!」
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
怪獣「グギャアアアアアアオン!!」
エックス「ハァ――セアァッ!」
怪獣とエックスが対峙する。じりじりとビル群を縫うように移動しながら間合いを計る。
怪獣「ギーギャォオオオオン!!」
怪獣が咆哮したのを機としてエックスが駆け出した。しかし――
エックス「……デアッ?!」
ある違和感を覚えたエックスは立ち止まった。すると怪獣の方から突っ込んでくる。
怪獣「グギャァァアアアアアアオン!!」
エックス「! ハァッ!」
ドスンドスンと地響きを立てて迫ってくる怪獣。
対して再び走り出すエックスの足音は、そこだけ抜け落ちてしまったかのように全くの無音だった。
エックス「……!?」
怪獣「ギャアアアーーーオオオン!!」
狼狽えているところに腕を叩きつけられ、体勢が崩れる。
エックス「グッ」
怪獣「ギアアアアアオオン!!」
怪獣の巨体が迫り、再び腕を叩きつけようとしたが、しゃがんで躱す。
エックス「テェヤッ!」
そして、すかさず蹴りを入れる。怪獣もよろめいて、後ずさった。
エックス『そうか……思い出したぞ。この怪獣、ノイズラーだな』
卯月『知ってるんですか?』
エックス『ああ。音を食べてしまう怪獣だ』
卯月『音を……食べる……?』
エックス『食べられた音は聞こえなくなってしまう。だから私の足音もなくなってしまったんだ』
卯月『ああ……! それであの時……』
撮影スタジオの時も。シャッター音だけ消えていたのはノイズラーに食べられたせいだったのだ。
卯月『それにしても……おいしいんですかね……? 音って……』
エックス『……。さあ……』
ノイズラー「グギャアアアアアアオン!!」
ノイズラーの頭部のヒレが黄色い光を帯びると当時に、目から光線が発射された。
エックス「! グアアッ……!」
命中して、後方に吹っ飛ばされるエックス。
よろよろと起き上がると再び頭部のヒレが光っていた。
エックス「デアァッ!」
横っ飛びして光線を躱すと同時にXスラッシュを放つ。
怪獣も軽やかな動きでそれを回避した。
エックス「ハァッ、デアッ!」
起き上がったエックスが再びファイティングポーズを取る。
ノイズラーも好戦的に構えを取った。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」
―――コンサートホール・楽屋
一方、コンサートホール。
避難指示は発令されていなかったが、怪獣出現のニュース自体は伝えられていた。
ゆかり「……皆さん、大丈夫でしょうか……」
音葉「ゆかりさん。気持ちは分かりますが、音を乱してはいけませんよ」
ゆかり「は……はい。大丈夫です。練習したとおりに……」
楽屋のモニターを見ると、ステージには夏樹がギターを引っ提げて登場したところだった。
やがて演奏が始まり、激しいギターサウンドがかき鳴らされる。
星花「夏樹さんのギターは熱い……でしょうか?」
星花が音葉を振り返ってそう言う。
音葉「そうですね。ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……」
と、その時。三人は同時にドアが乱暴に開かれる音を耳にした。
―――渋谷区
時は少し遡って、渋谷区。
ノイズラー「――!」
ノイズラーの耳がぴょこぴょこ動いたと思うと、突然エックスを無視して明後日の方向に顔を向け始めた。
エックス『どうしたんだ、こいつ……?』
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」
エックス「!」
エックスが驚く。ノイズラーがいきなり飛び上がり、逃げ始めたのだ。
卯月『こ、これ、逃がしちゃっていいんでしょうか!?』
エックス『宇宙に帰るつもりではないようだ。逃がすわけにはいかない!』
卯月が持つデバイスにカードが転送されてくる。
エックス『卯月、それを使え!』
卯月『わ、わかりました!』
『サイバーエレキング ロードします』
サイバーカードをロードするとエックスの上半身にアーマーが纏われていく。
右腕にはキャノン砲、左肩にはエレキングの頭部を模したパーツが装着された。
『サイバーエレキングアーマー アクティブ!』
卯月『――エレキング電撃波!!』
エックス「イィッ、サァァーーッ!!」
エックスが砲身を突き出す。空を行くノイズラーの頭部のヒレがぴくっと動いた。
猛スピードで襲い掛かる青・黄・緑の三色を交えた光線。しかし激突するかと思われた寸前、ノイズラーがさっと横に躱した。
エックス「!」
虚空へ消えて行ってしまう電撃波。こうしている間にもノイズラーの影は遠くなっていく。
エックス「――ジュワッ!」
エックスもまた飛び上がり、ノイズラーの追跡を始めた。
その背中に向けて電撃波や光のロープを放つが、ノイズラーは背を向けているにもかかわらずそれら全てをことごとく躱していく。
卯月『ぜ、全然当たりませんよ!?』
エックス『こちらが攻撃を放つ寸前、耳が動いてるな』
卯月『耳ってあの頭のヒレのことですか? た、確かに……そうですね』
エックス『恐らく私たちの動きによって生じる微かな音を感じ取れるのだろう。だから見えていなくても攻撃を察知して躱せるというわけだ』
卯月『……! いったいどうすれば……!』
追跡劇を繰り広げている間に怪獣とエックスは渋谷区を越えて東の港区へ入っていた。
凄まじい速度で飛行する両者は首都高速3号に沿うように港区を北上し、千代田区へ。
国の中枢であり、怪獣の脅威にてんやわんやする霞が関をスルーして、更に北東へ――
瞬く間に変化する避難区域に台東区が含まれたのも、この時だった。
そう。今まさに夏樹がギターを奏でているステージがある、台東区に……。
―――コンサートホール・楽屋
乱暴に開かれたドアを振り返ると、息を切らしたスタッフが駆け込んでくるところだった。
スタッフ「た、大変です。避難指示がここにも来ました。怪獣がこっちに向かってるそうです!」
三人「!」
間を置かずアナウンスが鳴って、会場中にそれが知らされた。
モニターを見ると演奏は中止になり、観客は恐慌状態になっている。だが――
突然かき鳴らされたギターの旋律に皆が静まった。
注目の的になった夏樹がマイクを手に取り、客席に訴える。
夏樹『みんな! パニックになって逃げだしたら怪我人が出るかもしれない! 後ろの席の人から落ち着いて避難して!』
ゆかり「夏樹さん……」
星花「夏樹さんは強い御人ですわね……」
音葉「私たちも避難しましょう」
頷いて部屋を出る。その際にゆかりがモニターを振り返ると、夏樹はまだステージに立っていた。
みんなを落ち着かせるためか、静かなメロディーを一人で奏でていた。
―――台東区上空
台東区に入って少しするとノイズラーが下降を始めた。
この状態で攻撃すると地上に被害が出てしまいかねない。一旦攻撃をやめ、エックスもまた降下し始めた。
ノイズラー「ギアアアアアオオン!!!」
卯月『ここって……!』
東京文化会館。アイドルムジークフェスタの会場だ。
卯月『音を食べる怪獣……そっか! 美味しい音を食べたくてここまで来たんですね!』
ひとりで納得する卯月だったが、ユナイトはそろそろ限界に近付いていた。
カラータイマーが点滅し始める。
エックス『まずいな、時間がない!』
卯月『早めに片付けちゃいましょう――きゃあっ!?』
卯月が悲鳴を上げる。
ノイズラーの光線がエックスの身体を襲ったのだ。
エックス「デヤァ……ッ!」
膝を突くエックス。カラータイマーは絶えず鳴り響いている。
ノイズラー「グギャアアアアアアアアアアオン!!!」
まるで怒り狂っているかのようにノイズラーが猛烈な勢いで突進してくる。
何とか抑えつけるも、ノイズラーはすぐさま頭突きを繰り出してきた。
エックス「グアアアッ!!」
卯月『も、もしかして、このカラータイマーが気に入らないんですかぁ!?』
エックス『くっ……卯月、一旦ユナイトを解除するぞ! これ以上続けたら君まで危ない!』
卯月『で、でも!』
エックス「ハアアッ!」
卯月の反論は聞かず、エックスがユナイトを解除した。
怪獣からは少し離れた場所に卯月の身体が解放される。
卯月「ぷ、プロデューサーさん!?」
エックス『大丈夫だ、ここにいる』
デバイスの画面を見るとエックスの顔が映っていて卯月は安堵した。
しかし怪獣はまだ健在だ。絶望的な気分で見上げると――
卯月「……あれ?」
ノイズラー「……グギャアァァァオン……?」
カラータイマーの音が消えたからだろうか、ノイズラーは一転大人しくなっていた。
そして辺りをきょろきょろと見回している。まるで、何かを探しているかのように。
卯月「な……何してるんでしょう……?」
エックス『演奏の音を探しているのか……?』
卯月「あ……そっか……。みんな避難しちゃって演奏が終わっちゃったから……」
ノイズラー「グギャアァァァオン……!」
するとノイズラーはその場で地団太を踏み――
ノイズラー「ギャアアアーーーオオオン!!!」
近くにあった建物を蹴り飛ばした。
エックス『!』
卯月「ぷ、プロデューサーさん……! もう一度ユナイトしましょう……!」
エックス『無理だ! 今の君のダメージを考えたら、ユナイトしたってまともには戦えない!』
卯月「でも……!」
その時――
ゆかり「卯月さーん!」
ドレス姿のゆかりが卯月の元まで走ってきた。
卯月「ゆかりちゃん! ここは危険ですから、早く――」
ゆかり「いいえ。私もみんなを助けるために戦います!」
そう言い放つゆかりの脳裏には先程の夏樹の姿が残っていた。
ファンの前では決して動揺せず、皆を安心させて避難させた、あの毅然とした姿が。
ゆかり「あの怪獣……もしかして演奏を聴きにここまで来たのではありませんか?」
卯月「あ……はい。たぶんそうかなって」
エックス『だが妙なのはタイミングだ。演奏が聴きたいだけならそもそも最初からこの場所に来ればよかったのに……』
ゆかり「……もしかして、音に好き嫌いがあるとか?」
卯月「あっ……確かに、カラータイマーの音は嫌いなようでした……」
ゆかり「つまり、好きな音楽が演奏されたからそれを聞きつけてこの場所まで来た……そういうことですね」
エックス『その音楽が何かわからないか?』
ゆかり「タイミング的に考えると、ギターのものだと思います。夏樹さんが演奏を始めたばかりでしたから」
卯月「ギター……ですか」
ゆかり「プロデューサー」
ゆかりが卯月の手からそっとデバイスを取り上げる。
ゆかり「私とプロデューサーの力を合わせれば、あの怪獣を大人しくさせられます」
エックス『……ああ。わかった、行こう!』
ゆかりは頷くと、卯月の方を振り向いて言った。
ゆかり「ごめんなさい。ちょっとプロデューサー、お借りしますね」
卯月「はっ……はい。頑張ってください!」
ゆかり「はい。――行きましょう!」
ゆかりがデバイスをXモードに変形させると、エックスのスパークドールズが出現した。
それを包み込むように優しく掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
すうっと息を吸って、ゆかりが叫ぶ。
ゆかり「――エックスーーーーーっ!!!」
掲げ上げたデバイスからX字の光が放たれ、彼女を包み込み――
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
その中から現れたエックスが、電光を撒き散らしながら地上に降り立った。
『エックス ユナイテッド!』
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」
再び現れたエックスにノイズラーがファイティングポーズをとる。
ゆかり『プロデューサー、行きますよ――』
しかしゆかりはそれに取り合わず、転送されたサイバーカードを受け取った。
『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』
それをロードすると、突き出されたエックスの手のひらの中に青い笛のようなものが出現した。
“ナイトティンバー”。ビクトリーナイトが持つ神秘の剣で、今はティンバーモードという横笛の形態をとっている。
エックス「!」
エックスはその唄口に口を近づけて、演奏を始めた。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」
その音が耳に入るや否やノイズラーが激昂し始めた。
ゆかり(大丈夫……)
音葉の言葉を思い出す。
『何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます』
『殺伐とした心を「癒す」ような……そんな暖かさがあると私は思います』
彼女はゆかりのフルートをそう評価した。
そしてノイズラーが好む夏樹のギターの音は、
『ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……』
正反対の音なのだからノイズラーが気に入らないのは仕方がない。
だが「癒し」の力はきちんとあるはずだ。これは楽器が違っても、ゆかりの心の表出なのだからぶれることはないだろう。
ゆかり(あとは、怪獣さんに私の演奏を気に入ってもらうだけ――)
今にも襲い掛かろうとするノイズラーを前にゆかりは冷静だった。
ナイトティンバーのあるキーに指を掛ける。すると――
ノイズラー「!」
出された音にノイズラーが反応し、ぴたりと動きを止めた。
ナイトティンバーは神秘の楽器。笛の音の他、ギターやドラムに似た音も出すことができるのだ。
ノイズラー「グギャアァァァオン……!!」
ギターサウンドに歓喜しているのか、踊るような挙動を見せるノイズラー。
目の前でそんな反応を見せられたらゆかりの方も楽しくなる。演奏が波に乗る。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン……」
しばらくするとノイズラーが大人しくなった。もういいだろうと考えエックスが笛を下ろす。
ノイズラー「ギアアアアアオオン」
ノイズラーはエックスに背を向け数歩進み、それから夕焼け空に飛び上がった。
お腹いっぱい好物の音を食べたのだ。もう満足しただろう。エックスもそう考えた。
エックス『一件落着だな』
ゆかり『え? まだですよ』
エックス『えっ?』
驚くエックスを尻目にゆかりはナイトティンバーをソードモードに変形させた。
『放て! 聖なる力!』
エックス『え……!? え!?』
ゆかり『だって、あの子のせいで色んな人が迷惑したでしょう?』
エックス『そ……それはそうだが、ノイズラーだって悪気があったわけじゃ』
ゆかり『宇宙からやって来てそれはないでしょう。こちらの都合もきちんと考えてもらわないと』
エックス『い……一理あるが……いや、でも……』
ゆかり『もういいでしょう。早くしないと届かなくなってしまいます』
エックス『う、うぅ……』
『スリー! ナイトビクトリウムシュート!!』
三回のポンプアクションの後、剣の峰を左手でさっと払う。
粒子が周囲に飛び、剣を立てるにつれその刀身に集っていき、青い輝きを纏わせていく。
エックス「「――ナイトビクトリウムシュート!!!」」
剣と左腕を十字に組ませると同時に刀身から青白い破壊光線が放たれた。
ノイズラー「――!?」
ノイズラーは自慢の耳でその音を捉えたが、腹いっぱいになった鈍重な身体で反応が一瞬遅れた。
光線が怒涛の勢いで、暗くなってきた夕焼け空を切り裂く。背後からノイズラーの全身を包み込んだ。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン……!?!!??」
空中に爆煙が広がる。その中に青白い光が集っていくのを見ながらエックスは剣を下ろした。
エックス『許せ……ノイズラー……』
ゆかり『プロデューサーは優しいですね。そこも素敵ですよ』
エックス『うっ、ううっ……』
―――街中
卯月「あっ、見つけました!」
戦闘終了後、ゆかりたちは落下したスパークドールズの回収作業にかかっていた。
卯月が路地裏にそれを発見し、ゆかりとエックスの元に持ってくる。
エックス『おお。よくやったぞ、卯月』
卯月「えへへ」
ゆかり「ふふ……私たちの演奏会をめちゃくちゃにした罰、きちんと受けてもらいますよ……」
エックス『ちょ、ちょっとゆかり?』
ゆかり「どうしましたか? プロデューサー」
エックス『私は君を信用しているが、念のため聞いておく。ノイズラーを倒したのは「みんなに迷惑をかけたから」だよな? 決して私怨からではないよな?』
ゆかり「もちろんですよ。私『たち』の演奏会ですから……ふふっ♪」
エックス『…………』
ゆかりの純粋な笑顔に何も言えなくなってしまうエックスなのだった……。
第三話 おわり
≪アイドルの怪獣ラボ≫
卯月「卯月と!」
ゆかり「ゆかりの!」
卯月・ゆかり「「怪獣ラボ!」」
卯月「今回の怪獣は、これですっ!」
『ノイズラー 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106830.png
エックス『“騒音怪獣”ノイズラー。音を食べてしまう習性を持っているぞ!』
エックス『また、耳がかなり良く、音で攻撃を察知して素早い動きで躱してしまうんだ!』
ゆかり「元は『ウルトラマン80』第7話の怪獣。その子はカラータイマーの音を聞いただけでげんなりして帰ってしまったようですね」
卯月「こっちの子は暴れん坊だったんですね~」
卯月・ゆかり・エックス「「「次回も、お楽しみに!」」」
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
突如飛来し東京を襲撃した“極悪宇宙人”テンペラ―星人!
何でも、プロデューサーさんを倒して宇宙一の称号を得たいらしいです。プロデューサーさん、そんなに凄い人だったんですね……。
それはともかく、立ち向かうのは凛ちゃん! 頑張ってください!
次回、ウルトラマンXP第四話! 『不可思議突入、五秒前!』 ふわぁ……ちょっとお昼寝です……。
第四話 『不可思議突入、五秒前!』
―――事務所
それは、突然のことだった。
こずえ「ふわぁ……」
ゆかり「ふふっ。こずえちゃん、おねむですか?」
こずえ「……んー……こずえ……おひるねー……」
珠美「こ、こずえちゃん! まだ仕事が残っておりますぞ!」
こずえ「ふわぁ……ぷろでゅーさーがぁ……つれてってくれる……よねー……?」
エックス『えっ、いや……今の私には』
珠美「……あっ! そうです、今のエックス殿には無理ですから、ここは『大人のお姉さん』としてこの珠美が送っていってあげますよ!」
裕子「大人の……」
未央「お姉さん……?」
珠美「ちょっとそこぉー! 何で疑問形なんですか!」
くすくすと笑いが起こる真昼の事務所。
そんな、何気ない日常を破るようにして……。
凛「――!?」
突然、雷鳴にも似た轟音が室内をどよもした。
珠美「な、ななな、何ですかぁっ!?」
窓がびりびりと震える。事務所中の物がかたかたと震動し、デバイスがデスクから落っこちる。
エックス『あだっ!』
卯月「ぷ、プロデューサーさん! 大丈夫ですか!?」
エックス『だ、大丈夫だ……しかし一体何だったんだ?』
揺れは収まっていた。しかしただの地震だとは到底思えない。
窓際に寄っていたゆかりは、驚いた顔で部屋の方に振り返った。
ゆかり「み、皆さん! あれ……!」
高層ビルの上階に位置するこの部屋からは街を一望することができた。
ゆかりが指さす方向を見る。潰された商業ビルの上に、群青色をした人型が佇んでいた。
凛「あれ、何? 宇宙人?」
エックス『あれは……テンペラー星人だろうか。知っている個体と比べるとずいぶんスタイルが良いが……』
エックスの超視力をもってすれば遠い宇宙人の姿もはっきりと視認できた。
兜のような頭部、甲冑と金のマントを着込んだ胴体。両手は鋏になっており、全体的にすらりとした体形をしている。
テンペラー「――全地球人類に告ぐ!」
裕子「喋りましたよ!? あっ、もしかしてさいきっくテレパシー!?」
ゆかり「地球語練習したんでしょうか?」
凛「そういう問題じゃないと思うけど……」
そんなことを言われているとは露知らず、テンペラー星人は続ける。
テンペラー「我が名はテンペラー星人! 要求はひとつ! ウルトラマンエックスを差し出せ!」
エックス『何……!?』
テンペラー「聞き入れられない場合、我らがテンペラー星の科学力をもってこの星を滅ぼす!」
エックス『……っ!』
凛「プロデューサー。駄目だよ、こんなの罠に決まってる」
エックス『だが……』
この世界にはXioはいない。特殊な戦闘部隊がいなければテンペラー星人には敵わないだろう。
エックス『だが、行くしかない。この世界を守るためには戦う以外に道はないんだ』
凛「…………」
凛はじっとエックスの顔を見詰めていたが、やがて諦めたように溜め息をついた。
凛「わかった。でも、私も一緒に行かせて」
エックス『凛……』
凛「どっちにしろプロデューサーには誰かがついてなきゃ駄目でしょ。今回はそれが私ってだけ」
エックス『わかった。頼むぞ凛!』
頷いた凛は、デバイスを手に部屋を後にした。
卯月「凛ちゃん、大丈夫でしょうか……」
未央「大丈夫大丈夫。私だって勝てたんだから、しぶりんに勝てない道理はない!」
珠美「そうですね。凛殿なら必ずや勝利を手土産に凱旋してくれるはずです」
卯月「そう……そうですよね!」
顔から心配そうな色を消し去り、窓に向き直る卯月。
そんな彼女たちの様子を、こずえはソファにもたれながらぼうっと眺めていた。
こずえ「…………。ふわぁ……」
凛「プロデューサー、行くよ!」
エックス『ああ。ユナイトだ!』
一方、外に出た凛はデバイスをXモードに変形させた。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
凛「――エックスーーーーーっ!!!」
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
テンペラー「!」
テンペラーの目の前。着地の衝撃でアスファルトを砕き、その破片を散らしながらエックスが降り立った。
『エックス ユナイテッド!』
テンペラー「来たか……ウルトラマンエックス!」
エックス『テンペラー星人! 何が目的で私を呼び出した!』
テンペラー「フフハハハ! 無論、それは貴様を倒し、私が宇宙一の称号を得るためだ!」
凛『……そんなに凄い人だったんだ。プロデューサー』
エックス『いやぁ、それほどでも……』
テンペラー「――行くぞッ!!」
エックス「!」
鋏を構え、テンペラー星人が突撃する。
横に躱してそれを払い、空いたボディーにパンチを数発打ち込む。
エックス「ハァァ……!!」
テンペラー「グッ……」
叩きつけようとする左鋏を右腕で受け止め、左手で更に拳を入れようとする。
テンペラー「フンッ!」
しかしそれは星人の右鋏に止められた。下から叩き上げられ、すかさずがら空きになった脇に叩きつけられる。
エックス「グッ!」
かなりの衝撃だった。細身に似合わず怪力らしい。
続けざまに鋏が振るわれるが、バク転してそれを躱す。
エックス「デェアッ!」
テンペラー「デェェェイッ!!」
距離を取ったうえでファイティングポーズをとるが、テンペラーが鋏から電撃鞭を繰り出した。
エックス「ジュアァ……ッ!」
叩きつけられた勢いで一回転して、振り向いたところを返す刀でもう一撃。
全身に痺れが走り、思わず膝を突いてしまう。
凛『く……っ。こいつ、強い……!』
エックス『大丈夫か、凛……!?』
凛『大丈夫。これくらい……!』
エックス「ハァァッ……!」
力を振り絞り、エックスが立ち上がる。
顔の前に交差させた腕を振り下ろすと、胸のカラータイマーが金色に輝いた。
エックス「ハァァ――!」
カラータイマーに腕を翳してから全身を捻らす。エックスの後方に電子基板のような青白い電光が伸びていく。
テンペラー「ムンッ!」
一方でテンペラー星人も必殺技の構えを取っていた。両手の鋏の中に青白いスパークが漲り――
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!!」
両者同時に光線を発射した。
両腕をクロスさせて放つエックスの青白い光の奔流、ザナディウム光線。
両手の鋏に溜め込んだエネルギーを合わせて放出する、テンペラー星人のウルトラ兄弟必殺光線。
青白い二つの光線がぶつかり合い、その衝撃で周囲の物を吹き飛ばしていく。
エックス「イィーーッ、サァーーッ!!」
テンペラー「デエアアアアアアア!!!」
互いに譲らない。両者とも足元のアスファルトを反動で砕きながら耐え抜く。
しかし決着は唐突に訪れた。両者のエネルギーが全く同時に尽きたのだ。
エックス「グッ……デアッ……!」
肩で息をしながら膝を突くエックス。しかし――
テンペラー「ヌオオオオオッッ!!」
執念はテンペラー星人の方が上だった。咄嗟に顔を上げると、マントを広げて低空飛行し迫り来る青い体躯が目の前に。
躱すことすらできず激突する。テンペラーの鋏がエックスの首を絞め、地上を引きずり回す。
凛『ぐ……くっ、あぁっ!』
ばたばたと手足を暴れさせると何がダメージになったのかわからないが星人が手を離した。
しかし仰向けに倒れるエックスの目は捉えていた。上空に飛び上がり、旋回して地上向けて突撃してくる星人の影が。
テンペラー「ハァァァアアッ!!」
次の瞬間、大地の揺れと共にビルの高さまで土埃が巻き上げられた。
吹き飛ばされたアスファルトやコンクリートの破片が飛び、ビルの壁や路上の車と衝突して破壊音を立てる。
未央「……!!」
事務所からそれを見ていた未央たちは目撃した。
薄れてゆく土埃の中――首を掴まれ宙に持ち上げられる、エックスのぐったりとした姿を。
ゆかり「プロデューサー!」
卯月「凛ちゃん!」
凛『ぐ……っ! かはっ……』
カラータイマーが甲高い音と共に赤く点滅し始める。
エックスにはもう手足をじたばたさせる体力すら残っていなかった。
至近距離から叩きつけられる電撃の鞭を無抵抗に受け続ける。
エックス「グッ……グアァッ……!」
テンペラー「フンッ!!」
エックス「デアァッ……!」
テンペラーがエックスを放り投げる。
地面に這いつくばるその身体に向けてトドメの攻撃を浴びせようとしていた。
テンペラー「これで終わりだ……!!」
テンペラー星人の鋏にエネルギーが漲っていく。
凛『ぐ……うぅっ!』
歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。凛がサイバーカードをデバイスにセットする。
『サイバーベムスター ロードします』
サイバーカードをロードするとエックスの上半身に紫色のアーマーが装着されていく。
胸にはベムスターの嘴を、肩にはその爪を模したようなパーツが、そして左腕には腹部の吸引口の力を備えた盾が取り付けられた。
『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
テンペラー星人の光線が発射されるのとエックスが体勢を整えたのが同時だった。
その電流のような光の奔流は、構えられた盾の吸引口に吸い込まれていく。
テンペラー「何ッ?!」
凛『ベムスター……スパウトっ!!』
エックス「――デェヤッ!!」
エックスが盾を地面に突き刺すと、蓄えられたエネルギーが逆流して星人を襲った。
テンペラー「グオオオオオオッッ!!」
ウルトラ兄弟必殺光線はウルトラマンに対してのみ絶大な威力を発揮する光線だ。ダメージは薄い。
エックス「イィッサァッ!!」
間を与えず、エックスは盾を外して投擲した。円盤のように回転するそれはよろめくテンペラー星人への決定打となった。
しかしエックスもこの一撃が限界だった。だが相手にそれを悟られぬよう、足腰に力を込めて踏ん張る。
凛『……はぁっ、はぁっ……』
凛の視界はもう霞んでいた。今にも倒れそうになっていた彼女の目が最後に捉えたのは――
テンペラー「グ……。フフッ……愉しませてくれる……」
そう言って立ち上がるテンペラ―星人の姿だった。
テンペラー「良いだろう……この勝負は引き分けということにしておいてやる……」
その言葉に嘘はないのだろう、星人の声も憔悴の色が隠せないでいた。
テンペラー「だが、明日の昼……今日と同じ時間。今度こそ貴様と決着をつけに再び地球に降り立つ」
凛『……はぁ、はぁ……』
テンペラー「その時こそ貴様の最期であり、私が宇宙一の称号を得る時だ! 覚悟しておけ……フハハハハハ!!」
そう捨て置くと、テンペラー星人はマントを広げて空の向こうに飛び去って行った。
凛『……はぁ……はぁ……』
エックス『り……凛……しっかりするんだ……!』
凛『だい……じょう……』
言い終える前に、エックスの身体が崩れ落ち――
・
・
・
「………………ん! …………ちゃん!」
「……きて……さい……! め…………けて…………さい!」
凛(……卯月……?)
「――凛ちゃんっ!!」
その悲鳴じみた声に、凛は目を覚ました。
卯月「凛ちゃん……っ!」
目の前には、目元を赤く腫らした卯月の顔が。
凛「う……づき……?」
卯月「凛ちゃん! 気が付いたんですね!?」
凛「うん……。っ!?」
起き上がろうとしたその時、全身に痛みが走った。
卯月「あっ、まだ起きちゃダメです! 安静にしててください」
凛「ごめん……」
身体から力を抜いて状況を確認する。事務所の医務室のベッドの上のようだ。
卯月の他にも未央やゆかり、珠美や裕子……仕事でいなかった美波、輝子も周りにいた。
凛「……あれ、こずえは?」
卯月「こずえちゃんなら……」
と、備え付けのソファを指さす。こずえはその上ですうすう寝息を立てて眠っていた。
凛「……ふふっ。こずえらしい」
卯月「そうですね」
卯月は微笑みながらそう返すが、凛はもっと重要なことを思い出した。
凛「――そうだ! プロデューサーは!?」
戦闘に敗れたプロデューサーはいったいどうなったのか。
もしかして――と最悪の可能性が頭をよぎるが、
未央「大丈夫。ここにいる」
未央が見せてくれたデバイスの画面を見てほっと胸をなでおろした。
エックス『すまない凛。心配かけた』
凛「ううん。私こそごめん……」
エックス『何故君が謝る』
凛「私が上手く戦えなかったから……あいつを取り逃がしちゃった」
エックス『それは君が気に病むことじゃない。むしろ君を戦いに巻き込み、怪我をさせてしまった私が謝る立場だ。――すまなかった』
凛「そんな……私から望んだことだから……」
しかし皆の雰囲気は沈痛に満ちていた。
端正な凛の顔のあちこちにガーゼが当てられている。その痛々しい惨状を目にしてはそうならざるを得なかった。
美波「プロデューサーさん……」
エックス『どうした?』
美波「私、提案があるんです。プロデューサーさんのことを警察や自衛隊の方たちに託すのはどうかって……」
みな少なからず驚いたようだったが、反論を挙げる者はいなかった。
今まさに怪我を負っている凛を除いて。
凛「美波、それは……!」
美波「違うの。戦うのが怖くなったとかじゃなくて……」
そこで言葉を切った美波は、弱々しい声で、
美波「ただ……戦いの素人である私たちより、もっと強い人とユナイトして戦った方がいいんじゃないかって……」
凛「それは……。確かに、一理あるけど……」
凛の声も消え入るように小さかった。
エックス『美波。君の気持ちはわかった』
エックスが真面目な声で応対する。
エックス『しかし、悪いがそれは無理なんだ』
美波「ど、どうしてですか?」
エックス『私とユナイトできるのはプレイ時間300時間の絆がある君たちだけだ。モブどころか存在すら知らない者とユナイトできるとは到底思えない』
美波「は……はあ。プレイ時間……?」
エックス『それどころか、恐らく私の部署に所属していないアイドルも不可能だ。つまりここにいる九人。私がユナイトして共に戦えるのは君たちだけなんだ』
美波「そう……なんですか……」
エックス『ああ。……すまない。本来なら――』
と、エックスが続けようとした時。部屋のドアが開いた。
ちひろ「あっ、凛ちゃん起きられましたか? よかった」
エックス『…………』
アイドルとユナイトして戦っていることはちひろには秘密だ。エックスが口を閉じる。
ちひろ「飛んできた瓦礫にぶつかって怪我しちゃうなんてほんと災難でしたね。でも逆に、これぐらいで済んで良かった」
凛の枕元に寄ってちひろが言う。
ちひろ「お仕事、暫くはキャンセルしました。傷が癒えるまで安静にしていてくださいね」
凛「……はい……」
部屋に沈黙が降りた。明日の昼、再びテンペラー星人が襲来する。
その時、誰が戦いに行くのか。一介の少女である彼女たちの心は深く動揺していた。
――いや、一人を除いて。
こずえは皆が重く暗い空気を出している間も、一人すやすやと眠りこけていた。
「……ここ……どこぉー……?」
「どりーむ……らんどぉー……? なにそれー……?」
「おっきい……にじ……きれー……」
「にじ……ねもと……しあわせ……?」
「ぷろでゅーさーもー……しあわせー……?」
「……………………」
「こずえが……しあわせに……してあげるー……」
―――翌日、正午
未央「――私が行く」
テンペラー星人の襲撃時刻が近づいてきた頃、未央が立ち上がってそう言った。
美波「未央ちゃん……」
未央「大丈夫。私とプロデューサーは一度ユナイトしてるし。ねっ?」
美波「うん……」
未央「初めての子よりは上手く戦えると思う。それにこう見えても、結構体力には自信あるし!」
そう言ってシャドーボクシングをし出す未央。
おどけた様子だが、その言葉は嘘ではなかった。同じユニットの日野茜に振り回されて自然と鍛えられていたからだ。
未央「だからみんなは避難してて。大丈夫。絶対勝ってくるから!」
裕子「も、もしダメそうなら、このエスパーユッコにお任せくださいね! お力になります!」
未央「ありがとユッコ。よし、いつでもかかって来ーい! テンペラー星人!」
すると、まるで示し合わせたように街に轟音が響いた。
未央「!!」ビクッ
ゆかり「来たみたいです……!」
テンペラー「ガハハハハ!! さぁ出てこいウルトラマンエックス!! 決着の時だ!!」
窓からその姿を確認すると、未央はプロデューサーのデスクに向かった。
未央「プロデューサー! 行くよ!」
しかし――
未央「あれ?」
裕子「どうしました?」
未央「ぷ……プロデューサー!? どこ!?」
さっきまでそこに置いてあったはずのデバイスがいつの間にかなくなっていたのだ。
部屋中大騒ぎになってあちこち探し始める。
珠美「い、いませんぞ!」
輝子「デ……デスクの下にも……いなかった……」
裕子「わ、私のさいきっくダウジングで!」
ひっくり返したポケットからペンデュラムを取り出して念じてみる裕子だが、効果はなかった。
美波「……そういえばこずえちゃんは……?」
卯月「え? 凛ちゃんに付き添ってるんじゃ……」
美波「さっき医務室に行ったときには見なかったけど……」
ゆかり「まさか……」
窓に寄って事務所の出入り口を見下ろしたゆかりは「あっ」と声を上げた。
ゆかり「み、皆さん! こずえちゃんが!」
窓に寄った全員の顔からさあっと血の気が失せる。
今まさにこずえらしき女の子が会社の門を出るところだった。その手には、デバイスらしき物体が見える。
美波「追いかけなきゃ!」
未央「やばいって……! プロデューサー何やってんの!」
一方、こずえサイド。
エックス『こずえ! 止まれ! やめろ! 君に戦えるわけない!!』
こずえ「ぷろでゅーさー……こずえとのあいだに……きずな……ないー……?」
エックス『ある! あるが、君はまだ十一歳の女の子で――』
こずえ「じゃあー……ゆないとぉ……できるよー……」
エックス『話を聞いてくれ!!』
みな避難したのか、東京とは思えないほど閑散としたビル街。
こずえはやおら立ち止まって、デバイスに向けて微笑みかけた。
こずえ「ぷろでゅーさー……こずえと……ゆないと……しよー……しろー……」
エックス『ま、ま、待ってくれ! 話を――』
こずえ「ゆないとぉー」
こずえがデバイスをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを興味深そうにしげしげ眺めたうえ、それを掴んでリードした。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
エックス『ちょ、ストップ! 「ユナイトします」じゃない!!』
しかし聞く耳持たず、こずえがデバイスを掲げ上げる。
こずえ「えっくすぅーーー……」
放たれたX字の光がこずえの小柄な身体を包み込み――
エックス「イーー……サーー……」
……そんな気の抜けるような掛け声を上げながらエックスが現れた。
『エックス ユナイテッド!』
美波「あぁ……」
撒き散らされる電光を眩しそうに見ながら、美波は溜め息を漏らした。
未央「間に合わなかった……」
輝子「フ……フヒ……どうすんだこれ……」
エックス『ああ……私としたことが、こんな小さな子とユナイトしてしまうなんて……』
テンペラー「フハハ! やはり現れたな! 貴様は逃げるようなタマではないとわかっていたぞ!」
テンペラー星人は嬉々としているが、エックスは完全に狼狽していた。
エックス『こずえ! ユナイトを解除するぞ!』
こずえ『なんでぇー……?』
エックス『何でって、君にまで危害を加えるわけには――』
こずえ『けどぉ……こずえとぷろでゅーさー……さらなるつよいちからで……ゆないと……できるよぉ……?』
エックス『えっ……?』
身に覚えのある台詞が出てきてエックスが思いとどまった。
こずえ『これー……』
こずえがどこからともなく取り出したのは――
エックス『なっ……何故君がそれを!?』
青い短剣、エクスラッガーだった。
こずえ『ひろったー……』
エックス『どこで!?』
こずえ『ゆめ……』
エックス『ゆ、夢……!?』
こずえ『じゃあー……いくよー……?』
エックス『えっ、あっ、ええっ!?』
完全に取り乱しているエックスを無視して、Xの字を描くようにエクスラッガーをぶんぶんと振り下ろす。
こずえ『えくしーどぉ……えっくすぅー』
その虹色の軌跡がエックスと重なり合い、彼の姿を変貌させていく。
全身を包み込んだ光が弾けると、そこにいたのは、今までとはかけ離れた姿のエックスだった。
未央「え……何? あれ……」
美波「虹色の……巨人……」
銀色はそのままに、赤が消え、黒が多めとなった体躯。
その中には七色の線が流れ、頭部には虹の象徴のようにエクスラッガーが収まっている。
それこそエックスが虹の短剣の力で強化された姿――“エクシードエックス”。
……なのだが……。
エックス『な、何故だ!? 何故エクシードエックスになれたんだ!?』
エックス『そもそもどうしてエクスラッガーが!? 夢の中で拾った!?』
エックス『……ハッ、こずえとの親愛度がMAXだったから? いや、それなら別に他のアイドルで出来ていてもおかしくなかった……』
エックス『い、一体どういうことなんだ!?』
……当のエックスは完全にパニックを起こしていた。
テンペラー「姿を変えたか……だがこの私には通用せんっ!!」
そんなことはお構いなしにテンペラー星人が突っ込んでくる。
エックス『ハッ! こずえ、危ないっ!!』
星人の鋏が振り下ろされるが――
エックス「デヤー」
エックスはひらりとそれを避けた。
テンペラー「ムンッ! デェイッ!!」
攻撃の手を緩めず何度も何度も縦に横にと鋏を振り回すが、ことごとくエックスの脱力した動きに躱されていく。
まるで風に揺れる柳のよう。攻撃をいくら繰り出しても暖簾に腕押しだった。
テンペラー「やるな……なるほど、特別な呼吸をして力を抜き、敵を翻弄するフォームということか……!」
エックス『違う!』
テンペラー「何が違う! ならばこれだ!!」
テンペラーの鋏から電撃鞭が振るわれる。
エックス「ジュワー……デヤァー……セーイ……」
超高速かつ不規則な動きで縦横無尽に空間を駆け回る鞭だが、何故かそれすらも当たらない。
全て紙一重で、神がかった動きで回避されていく。
テンペラー「グッ……これならどうだ! ――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
鋏を構えてエネルギーを溜めようとするテンペラーだったが、そんな攻撃予期できていたとばかりにエックスがぴょんと跳びあがっていた。
テンペラー「何っ!?」
エックス「ドゥワァー……」
テンペラーの肩を踏みつけ、飛び越える。
エックス「デイッ」
振り向きざま、力が抜けに抜けた腕がぶんと空を切る。
それに伴って発射された光刃が、振り返ったテンペラー星人の顔に直撃した。
テンペラー「グオオッ!!」
こずえ『えへー……なんか……でたぁー』
そしてぴょこぴょことダンスするような動作でエックスが動く。
腕が振るわれた拍子に発射される光刃は示し合わされたように全弾テンペラー星人の顔面を襲った。
テンペラー「グ、ヌヌゥ……!!」
ばさっとマントを広げ、飛翔するテンペラー。
加速しながら空中で旋回し、勢いを加え、真正面から猛スピードでエックスに突進してくる。
エックス『こずえ、危ない!』
こずえ『うんー……あぶないー……』
エックス『言ってる場合か!!』
テンペラー「ハアアアアアアア!!!」
そうこうしている間にテンペラーが目前に迫っていた。
防御姿勢すら取らず棒立ちのエックス。次の瞬間、テンペラーが突き出した鋏がエックスに襲い掛かった――
エックス『!?』
――と思われたが、またもや回避は成功していた。
エックス『な、何が起きたんだ……!? 自分でもわからない……!』
狼狽えるエックスの右手にはいつの間にかエクスラッガーが握られていた。
エックス『……!?』
エックスが振り返ると、テンペラー星人が地上に墜落したところだった。
両者の間にばらばらと金色をした何かが落ちてくる。破られたマントのようだった。
エックス『こ、こずえ……あの一瞬で攻撃を躱し、更にエクスラッガーを抜き、その上マントを叩き斬ったのか……!?』
こずえ『……うーん……こずえ……よくわかんない……』
エックス『そ、そうか……』
こずえ『ふわぁ……ぷろでゅーさー……そろそろ……おひるねー……』
エックス『あ、ああ……』
エクスラッガーを額に戻し、右手を添えながら左手を滑らせる。
その手を上から下へとなぞらせると、黄・赤・紫・青の光が上から順に灯っていく。
テンペラー「グ、グウウ……ッ!」
テンペラー星人も立ち上がり、光線のエネルギーを鋏に蓄える。
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
そして放たれた必殺光線と同じタイミングで、エックスの額からも破壊光線が放出された。
こずえ『えくすらっがーしょっとぉー』
エックス「デュワー」
そんな緩い掛け声とは裏腹に、発射された光線は怒涛の勢いでテンペラーの光線を押し返す。
テンペラー「グ……! グアアアアアアアーーーーッ!!!」
遂にはその身体を呑み込み、虹色の光の中に爆散させた。
エックス『……あー……えっと……よく……やったぞ……??』
こずえ『ぷろでゅーさーに……ほめられたー……えへへー……』
エックスはわけがわからないままユナイトを解除するのだった。
―――後日、事務所
凛「あっ、テレビにプロデューサー出てるよ」
エックス『えっ?』
数日後、凛もすっかり回復し、明るい雰囲気が戻った事務所。
エックスの戦いを紹介している番組を偶然発見した凛はデバイスの画面をテレビに向けた。
アナウンサー『先日の戦いではウルトラマンが姿を変え、侵略宇宙人を圧倒しました』
アナウンサー『その際、戦闘スタイルが大幅に変わっていることが大きく注目されているのですが……武道に造詣が深い中野さん、どうでしょう?』
有香『はい! 中国の酔拳にも似ている独特な動きでしたね』
戦闘の映像が流れ出す。まるでグリーザ第二形態のような奇妙な動きをエックスがしている。
有香『恐らくあの姿になることによってこのような拳法が使えるようになるのだと思われます』
アナウンサー『酔拳のような……ですか』
有香『はい。全身から力を抜き、独特な動きで相手を翻弄する……興味深いですね!』
アナウンサー『そうですね~。ウルトラマンもあんな変な動きするんですもんね~』
笑い声が響くスタジオに、居ても立ってもいられなくなったエックスが声を張り上げた。
エックス『違うんだ!! エクシードエックスはそういう形態じゃないんだぁああああ!!!』
こずえ「……すう……すう……」
エックスが悲愴な様子で取り乱す一方、こずえはいつも通りすやすやと眠っているのだった。
第四話 おわり
≪アイドルの怪獣ラボ≫
凛「凛と!」
こずえ「こずえのー……」
凛「怪獣ラボ!」
こずえ「かいじゅうらぼー……」
凛「今回の怪獣はこれだね。怪獣じゃないけど」
『テンペラー星人 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107209.jpg
エックス『“極悪宇宙人”テンペラ―星人! 打倒ウルトラマンに燃える宇宙人だ!』
エックス『両手の鋏から伸ばす電撃鞭、そして対ウルトラマンの必殺技「ウルトラ兄弟必殺光線」を武器とするぞ!』
こずえ「もとはー……『うるとらまんたろう』の……」
凛「第33、34話に登場した宇宙人。ウルトラ六兄弟に倒されたんだ」
凛「ちなみにこのリメイクは映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』に登場」
凛「メビウスは危なげなく一人で倒したね。……私たちも、負けてられない」
エックス『そうだな!』
凛・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
こずえ「おたのしみにー……」
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
……え? 今回の予告、これを読むんですか? ……はい。わかりました……。
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら――人類。
次回、ウルトラマンXP第五話! 『さらば友よ -Toadstool, forever-』 べ、べにてんぐだけーーーっ!!!
第五話 『さらば友よ -Toadstool, forever-』
―――事務所
裕子「ムムムムム~~ン……っ!」
人が出払った事務所。フリータイムの裕子はひとり超能力の特訓をしていた。
ヒヨコの形をしたスポンジを握り込んで念じ、手を開くと増えているというものである。
裕子「どうだっ!」
ばっと手を開く。しかし手のひらに乗っていたスポンジには何の変化もない。
裕子「むむ……」
その後も同じ動作を繰り返すが、結局一度として成功しなかった。
裕子(はあ~……今日も成果はなしですかぁ)
肩を落としながら事務所を出て行く裕子。
しかし彼女は気付いていなかった。
彼女が念じた何らかの力――それが、思わぬ方向にヒットしていたことに。
そしてこの時は誰も気付いていなかった。
それが、これから始まる惨劇の引き金となったことに――
―――???
輝子(…………。どこだ? ここ……)
見覚えがあるような気がするのに、全然知らない場所。
輝子は気が付くと、そんなところにひとり佇んでいた。
輝子(……あっ、もしかして事務所か……?)
広々とした空間。見覚えのある間取り。いつも皆が腰掛けているソファと、プロデューサーのデスク。
輝子はそのそばに歩いていき、下を覗き込んだ。
輝子「フ……フフ……元気してるか……」
しかしそれが目に入った瞬間、輝子は目を見張った。
机の下で栽培しているキノコ。それが前見た時より著しく成長していたのだ。
輝子「……?」
それだけならまだ良かった。輝子にとってキノコは友達だ。友達の成長は嬉しい。
だがその成長の結果が問題だった。――机の下のキノコ、それがまるで胎動するかのように脈を打っていたのだ。
輝子「ど、どうしたんだ……!?」
慌てて机の下に潜る輝子。恐れはなかった。何故なら彼女にとってキノコは友達だったからだ。
狭く薄暗い空間の中で今この瞬間も巨大化しているキノコ。傘の部分がぐぐっとデスクを持ち上げ――
――ガッシャアアアアン!!
机がひっくり返ると共に置いてあった物がなだれ落ち、派手な衝撃音が響いた。
輝子「……!」
輝子の目の前でみるみるうちに大きくなるキノコ。終いには天井を突き破り、柄の下からは蔦のような太い菌糸が伸長して床を這う。
窓ガラスを突き破り、外壁を伝い、巨大な事務所そのものを包み込んでいく。
輝子「な、な、な……何が起きてるんだァァァアアアーーーーッ!!!」
思わず例のテンションが表に出て狼狽える輝子だが、その時。
??「やあ、マイフレンド」
マスクの下から発したようにくぐもった低い男の声が聞こえて、弾かれたように輝子は振り向いた。
窓のそば、スーツに身を包んだ男が背を向けて立っていた。
輝子「お、お、お前は」
??「私の名は“フォーガス”」
輝子「……! それは……」
フォーガス「そう。君が丹精込めて育ててきたキノコの名だ」
背中を向けていたフォーガスが振り向く。輝子は思わず息を呑んだ。
その顔が人間のものでなく、まるで桑の実と蜂の顔が一体化したようなものだったからだ。
輝子「ふぉ、ふぉ、フォーガス……!? お前が……!?」
フォーガス「その通りだよマイフレンド」
輝子「ま、マイフレンドって……」
すると、フォーガスはどこか沈んだような声を出す。
フォーガス「……やはりこんな恐ろしい見た目なら、フレンドとしては認めてくれないか」
輝子「そ……そんなことないぞ! 確かにちょっと驚いたけど……キ、キ、キノコはみんな……私のトモダチだ……」
フォーガス「ショウコ……。ありがとう、やはり君は選ばれた人間だ」
輝子「え……選ばれた……? どういうことだ……?」
するとフォーガスは両手を広げ、滔々と語り出した。
フォーガス「人間の進化とは何故かくもノロいのかと思わないかね? ショウコ」
輝子「え……?」
フォーガス「私は思うのだ。菌糸を伸ばし更に巨大化できる我らキノコたちが、人間に代わってこの地球を支配すべきだと」
輝子「…………」
フォーガス「我らは今も猛スピードで成長し続けている。だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?」
輝子「え、えと……」
フォーガス「――ああ。別に深く考えてもらわなくても構わない。ただ、ひとつ言っておきたいのは――」
言葉を切ると、フォーガスは輝子に一歩近づき、右手を差し出した。
フォーガス「君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ」
輝子「共に……生きる……」
フォーガス「ああ。共に行こう、ショウコ――」
フォーガスの手が、輝子の手を取ろうとしたその時――
輝子「――っ!?」
がばっと、輝子は眠りから覚めた。
輝子「はあっ、はあっ……」
心臓がばくばくいっている。気付いていなかったが、かなり緊張していたらしい。
脳裏に鮮明に再生される。巨大化するキノコ。フォーガスが伸ばした手。
輝子「ゆ、夢……? ホントに……?」
ここはベッドの上だ。パジャマも着ている。部屋を見回してみても、寮はいつも通りの朝だ。
だが夢とは思えないリアリティがあの映像にはあった。五感を震わせ、脳を揺さぶるような現実感が。
輝子「はあ……はあ……。すうーー……はあーー……」
いったん深呼吸して、自室で栽培しているキノコに目を向ける。それらには何の異変も認められなかった。
輝子「だ、大丈夫……だよな……フヒ……」
ほっとして額の汗を拭ったとき、遠慮がちなのが透けて見えるささやかなノック音がした。
小梅『輝子ちゃんー……? 起きてるー……?』
輝子「あ、ああ……! 今行く……」
輝子はベッドを下り、いつも通り小梅と共に食堂へ向かった。
―――食堂
幸子「皆さん、おはようございます! カワイイボクの参上ですよ!」
朝にもかかわらずいつも通りシャキッとした幸子がやって来て、輝子と小梅の近くに座った。
蘭子「煩わしい太陽ね……」
飛鳥「やあ。また太陽が一巡りしたね。今日もまたいい日になるといいけど」
乃々「お、おはようございますぅ~……」
続いて蘭子、飛鳥、乃々も集まる。最近は歳がほぼ同じこのメンバーと一緒に食べることが多かった。
幸子「あ、そういえば蘭子さん、飛鳥さん。ダークイルミネイトのライブツアー決まったとお聞きしましたが?」
飛鳥「そうなんだよ。全く、採算が取れるのか甚だ疑問だね。まぁこの業界で金銭主義でない姿勢には好意を覚えるけど」
小梅「ふ、二人とも……すごく人気急上昇中って……聞いたよ……?」
蘭子「フ……我らが魅了の魔術に掛かれば造作もないこと……」
飛鳥「だけど、いったいその内の何人がボク達の『聲』を聴き取ってくれるのだろうね。――いや、少し天邪鬼すぎたかな。何にせよ、応援してくれるファンは大事にしないとね……」
幸子「そーですよ。バチが当たりますよ、そんなこと言ってたら!」
飛鳥「例えば?」
幸子「目を覚ましたら高度3000メートルのヘリの中にいるとか……無人島に置き去りにされてるとか……」
飛鳥「それは嫌だな……」
小梅「何か……言葉に重み……あるね……」
幸子「おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……」
などと、大体この四人がよくわからない会話を繰り広げ、それを輝子と乃々が黙って聞いている感じである。
だが今朝は、幸子の「目を覚ましたら」という言葉に輝子の脳が反応した。
輝子(あの夢……)
『君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ』
輝子(フォーガスは……あんなこと言ってたけど……)
――いや、あれはただの夢だ。
ぶんぶんとかぶりを振るが、耳の奥にあの声が蘇ってしまう。
『だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?』
輝子(でも……)
小梅「頑張ってね、二人とも……」
幸子「そうですねえ。ライブツアーはボクもやったことがありますが、体力的にキツイところがありますから」
飛鳥「ああ、有難う」
蘭子「ふふ。其方等の言霊、しかと胸に刻み付け、流離の旅へ……」
幸子「はあ~。ボクも良いお仕事貰いたいですねえ。できればバラエティ以外で……」
小梅「でも……幸子ちゃんも……前よりいっぱいテレビ……出るようになったし……」
蘭子「斯く言う小梅も、闇夜の荒野……光輝の銀幕、種々なる舞台に出ておるではないか」
小梅「え、えへへ……」
幸子「何にせよ、これからみんなでステップアップしていきましょうね! カワイイボクがついてます!」
そうだ。ダークイルミネイトの話にもあったように、彼女らも着実に進化を遂げている。
行き詰っているなんて、そんなことはない。幸子ちゃんも小梅ちゃんも……と考えたところで声が挟まった。
乃々「も……もりくぼは今のままでもいいかも……」
輝子「ヒャァッハァーーーーーッッ!!!」
余りにも唐突な発狂に皆が一斉に動きを止めた。
幸子「ど、どうしましたか輝子さん!?」
輝子「そんなネガティブ発言する奴ァキノコに食われっぞォォォ!! ボノノさァァァァン!!!」
乃々「えっ、えっ……はぁ……」
輝子「はぁ……はぁ……し、しまった……朝っぱらから」
何事かと食堂中の視線が輝子たちのグループに向けられて、メンバーは苦笑するしかなかった。
―――事務所
輝子「お……おはよう……フヒ」
おそるおそるドアを開けて中に入る。部屋もまたいつも通りで、輝子は安堵した。
エックス『輝子、おはよう! 今日は十三時からボイスレッスンだぞ』
輝子「う、うん……がんばる……」
プロデューサーのデスクに寄って、一度深呼吸する。
エックス『? どうした、輝子?』
輝子「い……いや……」
意を決してデスクの下を覗く。
輝子「……!」
そこに置いてあったキノコたちは――
輝子「い、いっぱい育ってる……」
エックス『キノコの話か? よかったじゃないか』
輝子「う……うん……」
確かに普通に嬉しいことだ。だが、あの夢のことが思い出されてしまう。
ただの夢だということは重々承知しているが――
輝子「な、なあ……プロデューサー」
エックス『なんだ?』
輝子「宇宙人のプロデューサーから見て……その……地球人は、これ以上進化できると思うか……?」
エックス『? どうしたんだ? 突然』
輝子「い、いや……なんとなく……」
エックス『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』
輝子「……」
エックス『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志。これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』
輝子「そっか……」
エックス『私自身、地球人には驚かされることばかりだ。君にしても同じことが言える』
輝子「私……?」
エックス『ああ。スカウトした当初は周囲にも馴染めていなかったのにな。今はあんなに多くの友達に囲まれ、立派にアイドルをやって……凄いぞ……偉いぞ輝子……』
輝子「そ……そういうの恥ずかしいから……やめてくれ……」
エックス『何が恥ずかしいことがあるんだ? もっと胸を張れ!』
輝子「い、いや……そうじゃなくて……」
エックス『輝子の良いところはもっとあるぞ? 例えばステージ上での変貌ぶりだ。あれにはファンでなかったものまで心を惹きつけられるインパクトが――』
輝子「ヒャァッッハァァァーーーーッッッ!!!」
エックス『!?』
輝子「ストォォォーーーップ!! ウェェェーーーイト!! 顔から火がバーニングしちまってもいいのかァァァアア!!!」
エックス『顔から火がバーニング……? ハッ、まさか輝子、君はグレンファイヤー族の一員……!?』
輝子「とりあえずレッスンしに行ってくるぜエエエエエ!!!」
エックス『あっ、ちょっと!』
風のように事務所を出て行った輝子をエックスは不思議そうに見送っているのだった。
・
・
・
―――寮・輝子の部屋
輝子「うぅぅーーん……」
その夜。寝床についた輝子はうなされていた。
輝子「……ここは……」
彼女の見ている夢。
昨日も見た、妙な雰囲気と違和感が漂う事務所。
「やあ、ショウコ」
輝子「!」
そして、あの声。振り向くと、あの顔が窓際にあった。
輝子「フォーガス……」
フォーガス「気持ちは決まったかい?」
輝子「え……?」
フォーガス「おやおや、忘れているわけじゃないだろう。私たちと共に菌糸の世界で生きようという話だよ」
輝子「…………」
フォーガス「昨日も言ったとおり、君は選ばれた存在だ。さあ、共に行こう……」
フォーガスが輝子の方に一歩近づく。釣られるようにして輝子は一歩退いた。
フォーガス「……そうか。まだ決心がつかないというのか」
輝子「……わ、私は……」
フォーガス「いいだろう……どうせすぐ、君の気も変わる」
輝子「……?」
フォーガス「起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ」
輝子「え……?」
フォーガス「いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ。もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる」
輝子「ど、どういうことだ……!?」
フォーガス「フフフ。目覚めればわかることさ。――グッバイショウコ。また後で会おう」
輝子「……!」
すると夢の中の輝子の意識はふっと遠のき――
輝子「――っ!」
現実の方の彼女の意識が浮上した。
輝子「はぁ、はぁ、はぁ……」
カーテンがほんのりと明るい。もう朝のようだが、全然眠れた気がしなかった。
喘鳴を繰り返しながら部屋を見渡す。夢の内容とは反して何も変わった様子はなかった。
輝子「ハ……ハハ……そうだよな……たかが夢だもんな……」
笑ってごまかして、枕元のスマホを見る。七時二十二分。外の暗さを考えれば、もうそんな時間かといったところだった。
ただ、そろそろ小梅が来てもおかしくない時間だ。
輝子(身支度澄ませとこう……)
ベッドから降り、洗面所に入る。蛇口をひねる。水が流れ出し、くるくる渦を巻いて排水口へ吸い込まれていく。
輝子(…………)
それを見詰めているうち、何とも名状しがたい不安感が胸に満ちてくるのを輝子は感じた。
『いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ』
『もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる』
輝子(た……ただの夢だろ……何ビビってんだ私……)
その流水に手を入れようとした瞬間――
突然ポケットの中でスマホが振動して、輝子は飛び上がるほど驚いた。
輝子「び、びっくりした……。ボノノさん……? も、もしもし……」
受話口に耳を近づけると、微かに乃々の声が聞こえてきた。
乃々『キ、キノコさん~~……?』
輝子「あ、ああ……どうしたんだ……?」
乃々『どうしたって……キノコさんの方は……何ともないんですかぁ……』
輝子「何ともないって……?」
乃々『もりくぼの部屋の中……なんか……大変なことになってて……小梅さんたちには連絡つかないしぃ……』
輝子「大変なこと……?」
乃々『く、口で説明するの難しいんですけど……なんか……部屋の中に植物の蔦……? みたいなのがいっぱい生えてて……起きたら……』
輝子「こ、小梅ちゃんたちには連絡つかなかったんだな……?」
乃々『は、はい……』
輝子「わかった……」
『起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ』
輝子(まさか……)
何か恐ろしい事態が進行している、そんな気がした。
少し考えてから、輝子は乃々に言う。
輝子「じゃ、じゃあ。ボノノさんの部屋は蘭子ちゃんたちと近いから、確かめに行ってみてくれないか……?」
乃々『えぇー……そんなの……むーりぃー……』
輝子「私も、小梅ちゃんたちの様子を調べたらそっち行くから……な?」
乃々『うぅ……わかりましたけど……早く来てくださいね……』
輝子「う……うん。努力する……」
乃々との通話を切ると今度は小梅に電話した。しかし一向に出る気配がない。電源を切っているわけでもなしにだ。
小梅は諦め、次は蘭子へ。しかし彼女も同じで、それから飛鳥、まゆ、番号を知っている寮住まいの他のアイドルと、次々と掛けても同じことだった。
輝子はごくりと唾を飲み込み、蛇口を閉めた。
顔も洗っていないことは恥ずかしかったが、四の五の言っていられない。
輝子は小梅の部屋に行くためドアを開けた。――すると。
輝子「……!?」
目に飛び込んできた光景に輝子は目を丸くしたまま、玄関に立ち尽くした。
廊下の壁、床、天井。乃々の言った通り、そこには練色をした、植物の蔦のようなものが這っていたのだ。
輝子「な……なんだこれ……」
昨日まではこんなもの全くなかったのに。一晩でジャングルに生まれ変わってしまったかのようだった。
蔦を這っているところを踏まないようにしておそるおそる廊下に出、小梅の部屋まで急ぐ。
輝子「こ、小梅ちゃん……起きてるかー……?」
ドアを軽くノックしながら呼びかけるも、返事がない。
輝子「は……入るぞ……」
預かっていたスペアキーを鍵穴に差し込む。ごくっと喉が鳴った。
鍵を開け、ノブに手を掛けた時だった。突然ノブがひとりでに回った。
輝子「! こ……小梅ちゃん、いたのか!? よかった――」
と思ったのも束の間だった。ドアが開き、姿を現した小梅を見た瞬間、輝子は絶叫して腰を抜かした。
小梅「…………」
輝子「こ、ここ、こ、小梅ちゃん……なのか……!?」
小柄な体格、見覚えのある服装、それらは彼女が小梅であることを示していた。
だが彼女の顔が――いや、その頭部全体が、巨大なキノコに変貌していたのだ。
小梅「…………」
キノコと化した小梅は何も言わず、じりじりと輝子に近づいて来る。
輝子は反射的に逃げ出した。すると廊下の曲がり角の奥から悲鳴が聞こえた。乃々の声だ。
輝子(ボノノさん……!)
輝子(ああもう、何が起きてるんだ一体……!!)
輝子(夢なら覚めてくれよぉ……!!)
気を抜けば涙目になってしまいそうなのを懸命にこらえる。今は乃々の様子を見に行かなければならない。
廊下の角で曲がると尻餅をついている乃々の姿が見えた。その前には、恐らく蘭子と思われるキノコ人間が。
乃々「ひ、ひぃぃぃ……!!」
輝子「ボノノさんっ!!」
乃々「き、キノコさぁん……っ!!」
乃々の元に駆け寄り、手を引いて走り出す。
乃々「キノコさん、これどういうことなんですかぁ……!」
輝子「わ、私が知るわけないだろ……!」
反射的にそう言ってしまったが、輝子は同時に夢の内容を思い出していた。
輝子「やっぱりフォーガスの仕業なのか……?」
乃々「え……? フォーガスって……」
「違うよショウコ」
輝子・乃々「「!」」
二人同時に足を止める。誰の姿も見えないのに声が聞こえたからだ。
足元の蔦が動き出す。二人の前の地点で集合し、人間の形に変形する。夢の中で会ったフォーガスだった。
輝子「フォーガス……!」
フォーガス「フフフ。忠告は聞き入れてくれたようだね。嬉しいよ、ショウコ」
乃々「え……、え……? ど、どういうこと……」
輝子の背に隠れながら乃々が動揺を見せる。
フォーガス「この建物を支配しているのはこの私、フォーガスだ。この蔦のように見えるものは私の菌糸だ。今にこの街全体を飲み込むだろう」
輝子「街全体……?!」
フォーガス「だが住人をキノコにしているのは私ではなく“マシュラ”だよ」
輝子「マシュラって……!」
フォーガス「そう。これも君が手塩にかけて育ててきたキノコだ。フフフフフッ」
乃々「キ、キノコさん! どういうことなんですかぁ!」
輝子「そ、それは……」
その時、またポケットの中で着信音が鳴った。画面を見ると、エックスからの電話だった。
輝子「ぷ、プロデューサー……!」
エックス『輝子! これは一体どういうことなんだ!?』
輝子「え……事務所の方でも……?」
エックス『まさか君の寮でもか!?』
輝子「あ……ああ……! それで今――」
目の前のフォーガスに視線を向けた瞬間――
エックス『うわああああっ!?』
輝子「!? プロデューサー!? おい!」
エックスの悲鳴がしたかと思えば、そのまま何も聞こえなくなってしまった。
輝子「ま、まさか……お前が……」
フォーガス「フッフッフ、その通りだよショウコ。彼はしばらく私たちで預からせてもらう」
輝子(プロデューサーが……)
乃々と一緒に逃げながら輝子は秘かに考えていた。この事態を解決するにはプロデューサーの力を借りる以外ないと。
しかしそのプロデューサーが相手の手に落ちてしまった。これではどうすることもできない……。
フォーガス「そして貴様もだ。下等生物には消えてもらおう」
乃々「――きゃあああああっ!?」
輝子「! ボノノさんっ!!」
いつの間に背後から菌糸が乃々に近づいていた。彼女の足首を掴み、廊下の先にずるずると引っ張っていく。
乃々「いや! いやですぅ~~っ! ゆるしてぇ~~~っ!!」
しかしそんな悲痛な叫びも聞き入れられない。
床に這う菌糸を掴もうとするとすかさず別の菌糸が手首に絡まり自由を奪う。
乃々「――キノコさぁぁぁぁぁああん!!!」
涙を流しながら輝子の方へ弱々しく手を伸ばそうとする乃々だが、もう既にどうしようもない距離だった。
呆然とする輝子の目の前で乃々は何処かへ連れ去られ、フォーガスと二人残された。
輝子「ボ……ボノノ……さん……」
フォーガス「ハッハッハ。君の友達は既に全てキノコ人間となっている。彼女もじきにそうなるだろう」
輝子「そんな……」
フォーガス「――さあ、共に行こう。ショウコ……」
そう言って、フォーガスが一歩近づいて来る。
輝子「い、嫌だ……」
フォーガス「安心したまえ。君は選ばれた存在と言ったはずだ。君だけはその姿のままいてもいいんだよ」
輝子「う、うぅ……」
力が抜けてへたり込んでしまう輝子。そんな彼女の鼻先にフォーガスが手を差し出す。
フォーガス「さあ……」
輝子「うぅぅ……!」
頭が混乱して、もう何も考えられない。
過去の映像が走馬灯のように次々と去来し、いずれ自分の中が空っぽになってしまう気がする。
そうなってしまえば、自分は間違いなくこの手を取ってしまうだろう。
友達をみんな見捨てて、この化け物の手を取って、自分だけのうのうと生き抜こうとするだろう。
そんな裏切り者の自分が間もなく現実になってしまう。涙が溢れ出し、頬を伝い落ちて行く。
嗚咽が止まらなくなる。絶望に押し潰された胸から、言葉が零れ落ちようとした、その時――
エックス『――輝子!!』
輝子「!!」
床に転がっていたスマホからエックスの声がした。
エックス『私は絶対に諦めない! だから君も――』
慌ててフォーガスがそれを拾い上げるが、最後の言葉は輝子に届いていた。
エックス『――諦めるな!!!』
次の瞬間、スマホは窓の外に放り捨てられていた。
輝子「プロデューサー……」
『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』
『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志』
『これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』
輝子「……!」
輝子はすっくと立ち上がり、フォーガスに背を向けて走り出した。
フォーガス「……! フフ……だが君に逃げ場はないぞ……」
フォーガス「この寮の人間は現在全て、マシュラの支配下にある……どこへ逃げようと無駄だ……!」
輝子「はっ、はっ、はっ……あっ、ここか!」
輝子はある部屋の前で止まると、ドアを開けようとした。しかし鍵が閉まっていて開かない。
輝子「くっそ……助けてくれ! 頼む!! 開けてくれえっ!!」
激しくドアを叩き続ける。するとしばらくして、内側から開錠音がした。
ドアがゆっくり開く。そこに立っていたのはやはりキノコ頭の人間だったが――
輝子「幸子ちゃん、許せ!!」
輝子はその腹に思いっきり頭突きをかました。
どさりと倒れる元幸子のキノコ人間。ここは幸子の部屋だったのである。
輝子「確か……!」
『おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……』
その言葉を思い出しながら輝子は部屋中を探し回る。
輝子「――あった!!」
それを手に部屋を後にする。同時に、目の前にフォーガスが現れた。
フォーガス「無駄な抵抗はよせ。大人しく我々の世界に――」
輝子「こ……こ、こ……!!」
輝子は手にしたそれをフォーガスの顔に向けた。
輝子「これでも喰らええええええええっっ!!!」
フォーガス「グオオオオオオッッ!!!???」
先端から青い炎を吐き出すそれは――キャンプ用のガスバーナーだった。
フォーガス「グ、グウウウウウオオオオ……!!! ショウコオオオオオオ!!!」
身体が燃え尽きる前にフォーガスが退散する。
輝子「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……ふふっ、フヒヒヒヒッ……フゥハハハハハハハッ!!!」
まるで魔王のような高笑いを上げながら輝子が叫ぶ。
彼女を囲もうとしていたキノコ人間に対して宣戦布告を言い放つ。
輝子「おいよォォォォ!! ゴートゥーヘル希望の奴は前に出なァ!!!」
後ずさるキノコ人間たち。輝子は噴出孔を向けて威嚇しながらその場を脱出した。
しかし一か八かの賭けだった。今はキノコ人間となってしまったとはいえ同僚を焼き殺すなんて輝子にできるわけはなかったからだ。
輝子(早く、プロデューサーのとこに……!!)
寮を飛び出す輝子。しかしその時、空が暗いことに気が付いた。
思わず仰ぐ。するとそこにあったのは曇り空ではなく――
輝子「え……」
練色をし、波が打つように無数の皺が刻まれている空だった。
首を回して360度確かめてみると、事務所の方角に見慣れない建物が映った。
――いや、あれは人工的な建物などではない。
生々しい質感を持った白い塔。その頂点が皺の空に突き刺さっている。
それはさながら、キノコの柄と、傘の裏側のヒダのように見えた。
―――エクスデバイザー内部
フォーガス「シャアアアアオオオ!!!」
エックス「くっ……何なんだこいつら……!?」
エクスデバイザーの電脳空間。
その中に侵入したフォーガスの怪獣態にエックスは襲われていた。
エックス「――ザナディウム光線!」
ザナディウム光線を放ちフォーガスを爆散させる。
しかし次の瞬間、エックスも気付かぬうちに背後から触手が迫り、その首に巻きついた。
エックス「何っ!?」
フォーガス「シャアアアアオオ!!」
倒したはずなのに、既に背後に回られていた。かと思うと今度は左右からの触手がエックスの腕を絡めとった。
いつの間にか二体目、三体目のフォーガスが出現しており、取り囲まれていたのだ。
エックス「グッ……!!」
―――輝子サイド
輝子「どけどけどけエエエエエエエエエエ!!!」
街の住民は皆キノコ人間にされてしまっていたようで、輝子の行く手を遮ろうとわらわらと湧いて出た。
その度にガスバーナーの炎で威嚇し、がむしゃらに走り続け、ようやく事務所まで到着した。
輝子「はぁ、はぁ……。ここもキノコに侵食されてるのか……」
壁面は例の蔦のようなものにびっしりと埋め尽くされている。
それを見上げていると、屋上に人影らしきものがあるのに気付いた。
黒いスーツで、頭部は赤い。――フォーガスか。
輝子「……!」
その正体を悟ると同時に輝子は気付いた。フォーガスが自分に向けて何かを示していることに。
輝子「プロデューサー!?」
遠すぎてわからない。だがそれは、エックスが入っているデバイスのように映った。
フォーガスの姿が見えなくなる。屋上の縁から離れたのだろう。
輝子「っ!」
輝子は事務所に飛び込んだ。
行く手を遮る菌糸は全て燃やし尽くす。スプリンクラーが作動して濡れ鼠になるが、気にしている場合ではない。
しかし超高層ビルである。エレベーターも使えない今、移動には骨が折れた。
一時間ほどを要して屋上に出た時には足がパンパンに張って、もう動くこともままならなかった。
輝子「はぁ……はぁ……はぁ……。プ……プロデューサーは……」
フォーガス「ここだ」
輝子「!」
殺風景な屋上の中央にフォーガスが立っていた。
その手には、やはりエクスデバイザーが。その画面は暗く、何も映っていない。
輝子「プロデューサーを……返せ……」
フォーガス「いいだろう。ほら」
意外にもフォーガスはデバイスを放って返した。
慌てて受け止め、画面を見る。すると突然、画面に変化が訪れた。
ある単語がひたすら打ち込まれる。それが画面をびっしりと埋めていく。
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
輝子「ひっ……!」
埋め尽くされると今度は文字がところどころ抜け落ちていく。
残された「さ」「よ」「な」「ら」の文字が二つの漢字を形作っていく。
「人類」。――「さよなら人類」。
輝子「…………」
輝子が絶句していると、デバイスが彼女の手を離れた。
我に返る。フォーガスの菌糸がデバイスを奪い返していた。
フォーガス「わかっただろう?」
輝子「……」
フォーガス「この世界に君の味方はもう、私たち以外にいない」
輝子「……」
フォーガス「あれを見たまえ」
フォーガスが白い塔を指さす。
フォーガス「君も気付いているだろうが、ここは今、ひとつの巨大キノコの傘の下だ。あれはその柄なのだよ」
輝子「あれがお前の本体なのか……? フォーガス……」
フォーガス「その通り。そして、私たちは更に進化する。いずれは地球全体に菌糸を伸ばし、我らは地上の支配者となる!」
輝子「…………」
フォーガス「我々を育ててくれたのは君だ。君は我らフォーガスの女神として共に生きるのだ。さあ……!」
輝子がぶんぶんと首を横に振る。
フォーガス「何故だ? 人類にはもう進化の余地はない。我々と共に生きる方がよほど有意義だぞ」
輝子「ち……違う……」
フォーガス「君の友人の森久保乃々がその典型ではないか」
輝子「えっ……?」
突然友人の名前が出てきて、はたと顔を上げた。
それまで輝子はプロデューサーが言った「諦めるな」という言葉を思い返して、どうすればいいのか真剣に考えていた。だが――
フォーガス「いつも無理無理と言って逃げ出し、やる気もない。そんな愚かな姿は今の人類の象徴ではないかね?」
――その言葉で、ぷつんと何かが切れた。
輝子「……取り消せ……」
フォーガス「何?」
かっと全身が熱くなって、勝手に肩が震え出す。
輝子「ボノノさんは普段はあんなでも、みんなについていけるよう練習がんばったり、最近は仕事だって前向きになってきてるんだぞ……! それを……!」
ひとりでに言葉が口を衝いて溢れ出してくる。
輝子「それを愚かな姿なんて……! 知りもしない癖に、偉そうな口を利くな!!」
フォーガス「…………どうやら私の見込み違いだったようだね。君は」
輝子「ああ。私だってこれまでお前をトモダチと思ってたけど、トモダチをけなすような奴はもうトモダチでも何でもねえッ!!」
フォーガス「ならば君の最も信頼する『トモダチ』にも消えてもらおう!」
そう言い放つと、フォーガスはデバイスを手摺の向こうに放り投げた。
輝子「!」
即座に輝子が駆け出す。もう無意識の行動だった。
手摺を乗り越え、屋上の縁から飛び出した。
輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」
しかし間に合うはずもないタイミングだった。輝子の身体は真っ逆さまに落ちていく。
届かない距離にあるデバイスに腕を伸ばしながら、共に自由落下する。
輝子「プロデューサー……頼む……!!」
迫り来る地表なんて目に入らない。彼女は必死にデバイスだけを見詰めながら叫んだ。
輝子「私と……ユナイトしてくれぇっ!!」
―――エクスデバイザー内部
エックス「……輝子……?」
輝子の声が聞こえた気がして、エックスは辺りを見回した。
しかし自分を拘束するフォーガスの触手しかない。そう思ったところに、頭上から光が降ってきた。
エックス「これは……!」
虹色の輝きに縁どられたそれはエクスラッガーだった。
すると突然それがひとりでに動き出し、エックスの四肢を縛っていた触手をたちまちのうちに全て断ち切った。
フォーガス「シャオオオオオオ……!!」
エックス「――ザナディウム光線!!!」
右足を軸に回転しながらザナディウム光線を放ち、フォーガスを一掃する。
エックスはエクスラッガーを掴み、飛び立った。
―――輝子サイド
輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」
もう何度目かの呼び掛けをした時だった。
デバイスの画面にエックスの顔が映った。
輝子「プロデューサー!!」
エックス『輝子! 行くぞ、ユナイトだ!!』
輝子「ヒャッハーー!! 行くぜエエエエエ!!!」
輝子が見詰める中、デバイスがXモードに変形する。
放たれた金色の光に、輝子は手を伸ばす。
輝子「――エエエックスゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!!!!!!」
指先がそれに触れる。すると、輝子の身体が光に包まれた。そして――
エックス「――イィィィィッッ!!! サァアアァァアアアアアアアーーーーーーッ!!!」
もはや獣の咆哮のような掛け声を上げながらエックスが現れた。
『エックス ユナイテッド!』
エックス「デュゥゥワァァアアアッッ!!!」
キノコに侵食された建物の間をエックスが飛ぶ。まずは傘の下から脱出しなければならない。
しかしどこからともなく菌糸が伸び、エックスを絡めとろうとする。それを避けながら彼は宙を駆ける。
エックス「デァッ!?」
すると今度は前方から菌糸が迫ってくるのが見えた。前後での挟み撃ちだ。
エックス「イィィッサアァッ!!!」
すかさずXスラッシュを放って眼前のそれを切り捨てる。
そんな攻防を繰り返しているうち、前方に傘の端が見えてきた。
エックス「――ハァァッ!!」
一気に加速し、触手を振り切り、傘の下を抜ける。朝の陽射しと青空が眩しかった。
輝子『フ、フフ……私がお日様をありがたく思う時が来るなんてな……フヒ……』
エックス『……! 輝子、あれを!』
エックスが空中で止まり、振り返る。
街を覆っていたキノコは予想通り超弩級の大きさだった。スケール感がおかしくなってしまいそうだった。
「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」
エックス「!」
すると突然聞こえてきた怪獣の鳴き声があって、エックスは地上に視線を向けた。
土色をした傘に青い斑点という、まさに毒茸然とした頭部を持った怪獣がエックスを見上げていた。
輝子『なるほどな……あれがマシュラか……フヒッ』
エックス『輝子、君は何か知ってるのか?』
輝子『あれは私が育ててたキノコなんだ。何かの原因であんなにデカくなったみたいで……』
エックス『やはりか。机の下のキノコが突然巨大化したから何事かと思った』
輝子『うん……。そしてあのバカでかいキノコがフォーガス。こいつも出自はおんなじだ』
エックス『覚悟はできてるな』
輝子『あ……当たり前だ……! ――行くぜエエエエエッッ!!!』
と、突っ込みそうになると、
エックス『――あっ、ダメだっ!』
輝子『……っとっとっと……え、何で?』
エックス『あれを見ろ!』
マシュラの足元。キノコ頭の人間たちが群がっていたのだ。
輝子『っ……!』
エックス『迂闊に攻撃すれば巻き添えにしてしまう……!』
『フフフフフ……』
今度は怪獣態のフォーガスが街中に姿を現す。
フォーガス『ハハハハハ。君たちには何もできまい。このまま菌糸の世界に引き摺り込んでやる!』
エックス『いや……方法はひとつだけある』
輝子『えっ?』
エックス『輝子、このカードを使うんだ!』
輝子の元に一枚のサイバーカードが転送されてくる。
輝子『! わかった……!』
『ウルトラマンネクサス ロードします』
そのカードをロードすると、エックスの両腕にアームドネクサスが装着された。
エックス「フッ!」
その二つを重ね合わせ、金色の軌跡を描きながら、半月状の弧を描くように腕を水平に回す。
エックス「ハァァァァ――デェヤッ!!」
そして拳を空に向け突き上げた。光線が放たれると、到達した天頂からドーム状の空間が形成された。
フォーガス『な、何だこれは……!?』
それは不連続時空間“メタフィールド”。
これによって怪獣とウルトラマンは隔離され、元の場所に影響を与えずに戦闘することが可能となるのだ。
エックス『ここにはお前たちとあの巨大キノコだけを連れてきた』
輝子『思いっきり暴れてやるぜ……ヒャッハー!!』
フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」
マシュラ「ンギュウィィイッ!!」
地上に降り立ったエックスに二体のキノコ怪獣が突進していく。
それを受けてエックスはファイティングポーズを取った。振るった腕から青白い電光が宙を飛ぶ。
エックス「――ジュァッ、デェヤァッ!!」
フォーガス「キシャアアアアア!!」
エックス「ハァッ!」
フォーガスが鞭のように腕の菌糸を振るうのを屈んで躱す。
即座に反撃に転じる。大地を蹴りつけ、怪獣の懐にタックルする。
フォーガス「キシャァァアアア!!」
エックス「――Xクロスチョップ!!」
Xを書くように二度チョップを入れ、更に腹を蹴飛ばす。
マシュラ「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」
その隙に背後から奇襲しようとしたマシュラだったが、
エックス「――デェヤッ!!」
すぐさま感付かれ、後ろ蹴りで牽制された。
マシュラ「ンギュウィィィィイ!!」
エックス「イィッサアッ!!」
振り向くと同時に右手をアームドネクサスに当てる。
突き出した指先から光刃“パーティクル・フェザー”が翔び、マシュラを怯ませる。
エックス「ハッ!」
すかさず前転して距離を詰め、立ち上がると共にアッパーを叩き込む。
マシュラ「ピィィイイ!!」
エックス「テエヤァ……ッ!」
その首を抱え込み、ダイナミックに投げ飛ばした。
フォーガスと衝突し、二体が同時に倒れる。
エックス『行くぞ、輝子!』
輝子『決めるぜエエエエエ!!』
エックス「――ハッ!」
アームドネクサスを金色に光るカラータイマーに翳し、斜め上に突き上げた。
右足を軸に左足を回転させ、全身を捻らせる。エックスの足元から背後に向け青白い電光がメタフィールドの地面を這い進んでいく。
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
両手をクロスさせて放った光線が二体を捉え、その身体を爆炎の中に飲み込んだ。
その中心に光が集っていく。
――しかし。
エックス「――グゥッ!?」
背後から触手に首を絞められたのだ。
振り返ってみると、もう一体のフォーガスが出現していた。
フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」
エックス「グッ……デアァッ!!」
触手を力任せに引きちぎる。しかしエックスの周囲にフォーガスが続々と出現しつつあった。
輝子『ど、どういうことだ……』
エックス『恐らく本体は別のところにあるのだろう。それを叩かない限り、こいつは永遠に出現し続ける』
輝子『――あの巨大キノコか!』
エックス『だろうな。あれを破壊するのは骨だが――』
輝子『チャ、チャンスは今しかない……と思う……』
エックス『そうだな。メタフィールドに閉じ込めている今が好機だ』
フォーガスA「キシャアアアアアアア!!!」
フォーガスB「キシャァァァアアッッ!!!」
フォーガスC「キシャアアアアアアッ!!!」
エックス「――デヤッ!」
フォーガスが同時に触手を伸ばしてくるのを飛び上がって回避する。
そのままエックスは赤い空をぐんぐん上昇した。巨大キノコの全景が見下ろせる高度まで来ると、その真上に移動する。
輝子『行くぜエエエエエエエエ!!!』
エックスが身体を縮こめる。赤いエネルギーがその全身に溜め込まれ――
エックス「アタッカー……エーーーーーーックス!!!」
全身でXのポーズを取ると同時にそれを全て放出した。
X字の炎が巨大化しながら地上に向けて落ちていく。巨大キノコの傘に着弾し、炎で包み込んだ。
フォーガスA「キシャアアアアアアア……!!!」
フォーガスB「キシャァァァアア……ッッ!!!」
フォーガスC「キシャアアアアアア……ッ!!!」
三体のフォーガスの身体が弾け飛ぶ。
やがて巨大キノコは陥落し、地上でごうごうと燃え盛った。
フォーガス「ピィィィィィィ!!」
すると、その火炎地獄の中からエイのような小柄な怪獣が飛び出してきた。
エックス『あれがフォーガスの本体か』
輝子『…………』
空に逃げようとするが、ここはメタフィールドだ。逃げ場はない。
エックスはじたばたするフォーガスを見詰めながら両腕を重ね合わせた。
エックス「ハァァ――……」
それを胸の前で開くと、両腕を縛るようにその間に電撃が走る。
輝子『これで……終わりだ……っ!!』
その縛りすら弾き飛ばすように両腕を上方に広げ、それからL字に組んだ。
エックス「「――オーバーレイ・シュトローーーーム!!!」」
蒼白い光線が赤黒い空を駆け抜ける。
フォーガスに命中すると、その身体を粒子に分解し、弾けさせた。
輝子『…………』
その青い粒子がさらさらと舞って、消えていく。
これで良かったのだ。トモダチを傷つけ、侮辱し、世界侵略までしようとした。
そんな奴を放っておいたらどうなっていたかわからない。だから、これで……。
輝子『……うぅっ』
エックス『輝子?』
輝子『……うわああああああああああああああああっっ……!!!!』
しかし、輝子は押し寄せてくる激情を堪える事が出来なかったのだった。
・
・
・
―――事務所・屋上
メタフィールドを出て、ユナイトを解除すると、世界は日常に戻っていた。
輝子は事務所の屋上で膝を抱えて、まだ肩を震わせていた。
エックス『輝子』
輝子「ん……」
エックス『袂を分かったり、裏切られたり……友達って難しいよな』
輝子「……そう……だな」
エックス『でも私は、絶対に君を裏切ったりはしない』
輝子「…………」
エックス『キノコとも友達になれる君なんだ。きっとこれからも、いい友達がたくさん持てるさ』
輝子「……エックス……」
エックス「何だ?」
輝子「……ありがとう……」
エックス「……ああ」
第五話 おわり
≪アイドルの怪獣ラボ≫
輝子・エックス「「輝子の怪獣ラボ!」」
輝子「今回の怪獣はこれだァ!! カモォォォォン!!!」
『フォーガス 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107288.jpg
エックス『“菌糸怪獣”フォーガス! ユッコのサイキックによって知性が超発達したキノコで、巨大キノコを拠点として世界を支配しようとしたんだ!』
輝子「本体は……フフ、ちっこかったけどな……」
エックス『しかしそれを見つけ出して叩かないと無限に怪獣を生み出し続けられるという難敵だったな!』
輝子「元は『ウルトラマンダイナ』第6話の怪獣。ミラクルタイプの透視能力で本体を見破られてしまったぞ……フヒ」
輝子・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
突如東京に飛来した謎の宇宙人“ザムシャー”!
え!? この星一番の剣士と決闘させろ? ……って珠美ちゃん、早まっちゃダメですよ~っ!
かくして始まってしまった決闘! 果たして珠美ちゃんとプロデューサーさんの運命や如何に……!?
次回、ウルトラマンXP第六話! 『心の剣』 いざ尋常に……勝負っ!!
第一話 『プロデュースX』
―――オペレーションベースX
Xioの基地、オペレーションベースXの夜。
ベッドに横になってうつらうつらしていた大地はエックスの鼻唄を耳にして身体を起こした。
エックス『~~♪』
大地「どうしたんだエックス?」
エックス『だ、大地起きてたのか!?』
大地「ああ……何、どうした?」
そう言ってデバイスに手を伸ばしたが、
エックス『よ、よせ! 見るんじゃない!』
大地「は?」
あまりにも必死なエックスの声に不審を覚えながら、大地はデバイスを取り上げた。
大地「……これは」
エックス『い、いや……これは』
画面に表示されていたのは――
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:11:49.36 ID:VaIbC6K70
大地「『アイドルマスターシンデレラガールズ』……?」
二次元美少女が所狭しと並んでいる絵だった。
大地「何だこれ、ゲーム?」
エックス『……はい』
大地「そういう趣味あったのかエックス」
エックス『い、いや、これは、地球人のことをもっと深く理解しようとした結果であり……』
大地「それで、地球人の作ったゲームをプレイしてたわけか」
エックス『……はい』
大地「ふーーーん……」
流石に無理があったかとエックスが冷や汗ものの気分になっていると、
大地「エックス、そこまで地球人のことを……」
エックス『ん?』
大地「そうだよな。こういう形で相手を知ることもできる。そして相手を知ることで相互理解に繋がる」
エックス『あ、ああ……』
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:12:43.61 ID:VaIbC6K70
大地「ありがとうエックス。俺も怪獣のことをもっと別の切り口から見ることが必要なのかもしれない。そう気付かされたよ」
エックス『はい……』
大地「? さっきから思ってたんだけど、何で敬語?」
エックス『い、いや! 何でもないぞ! そう、こういうゲームには地球人の価値観が如実に表れていて実に興味深い!』
大地「そうか。あ、でも課金はしないでくれよ」
エックス『も、もちろん。君のお金を無断で使うことはしない』
大地「ならいいや。まぁ、あんまりのめり込み過ぎないようにね」
エックス『ああ』
大地「おやすみ~」
エックス『うむ。おやすみ』
大地はデバイスをデスクに戻して、再びベッドに寝転がった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:13:28.62 ID:VaIbC6K70
エックス(ふう……こういう話の大地が天然なのが幸運だったな)
エックスが言ったのは嘘ではない。確かに最初はそういう動機でゲームを始めた。
しかしながら最近の主目的は変わってしまっており……。
卯月『プロデューサーさんも、手を繋ぎましょう♪ほら♪』
ゆかり『エックスさん…いつもそばにいてくれて…ありがとう…』
珠美『後ろにエックス殿がいるから、珠美は朗らかなのです!』
エックス(ふふふ)
エックスは完全にアイドルにハマってしまっていたのである。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:14:08.41 ID:VaIbC6K70
しかもタチが悪いことに――
エックス(よしっ! 今日もサーバーに直接潜るぞ!)
自身がデータ化されていることをいいことに、公式サーバーに直接潜って色々不正行為を働いたりもしていたのである。
今夜もまた回線に入り、ネットの海をエックスは泳いでいく。そして目的地が見えてきたところで――
エックス(ん? 何だあの光は?)
その辺りに妙な光が浮かんでいるのが見えた。しかもそれがどんどんこちらに近づいてきている。
慌てて躱そうとしたが、光の塊はエックスを優に呑み込めるほど巨大だった。
エックス「う、うわあああああああああ!!!」
エックスは逃げきれず、その光に捕らわれ――
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:14:37.33 ID:VaIbC6K70
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:15:39.12 ID:VaIbC6K70
エックス(…………)
エックス(……はっ。ここは……?)
気付くと、目の前に青空が広がっていた。
エックス(…………)
エックス『だ、大地ー?』
しかし返答がない。空の他に店や街灯があり屋外にしか見えないが、いつの間に移動したのだろう。
もしかして作戦中なのだろうか。だが大地が答えてくれないし、しかも置きっぱなしにされているようだ。
更に不審な点は――
エックス(ここ……『アスファルトの上』だよな……)
デバイスに伝わる温度と感触は間違いなく熱されたアスファルトのもの。
つまり地面の上にほっぽりだされているのだ。もしかして不注意で道に落としてしまったのだろうか。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:16:20.63 ID:VaIbC6K70
エックス『だ、大地ー! 近くにいないのかー?』
しかし返事がない。まずいのは、この状態のエックスには何もできないことだ。
ザイゴーグ戦のあと実体を取り戻したエックスだが、自分をデータ化すると再び変身しなければそれを維持できない。
つまり自力で実体化ができないため、まさに手も足も出せない状況に置かれているのだ。
エックス『こ、これはまずいぞ。――いや、そうだ! 通信を送ればいいのか』
デバイスの機能なら自分の意思で使うことができる。
勇み込んでアスナのデバイスに通信を送ったエックスだったが――
エックス『……?』
しかし中々繋がらない。神木隊長、橘副隊長と、別のデバイスに送っても駄目だった。
エックス『これはどういう……?』
と、その時。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:17:02.56 ID:VaIbC6K70
「あれ、これ何でしょう?」
女の子の声が聞こえて、
「スマホ……にしては大きすぎだよね」
続けて落ち着いた感じの、これまた少女の声が。
「落とし物かなー?」
三人目の声がすると、デバイスが持ち上げられた。
エックス『助かった! 君たち、Xioの大空大地隊員に連絡を――』
と言い掛けたところでエックスは固まった。
なぜなら、デバイスの画面を覗き込んでいた三人の顔に見覚えがあったからだ。
それは――
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:17:52.68 ID:VaIbC6K70
卯月「しゃ、しゃ、喋りましたよ!?」
凛「通話中だったんでしょ」
未央「というか、この声……」
三人が顔を見合わせて、もう一度画面を覗き込む。
間違いなく、アイドルマスターシンデレラガールズの登場人物、島村卯月・渋谷凛・本田未央の三人だった。
エックス『君たち……ニュージェネレーションズの……』
卯月「こ、声だけでわかっちゃいますか!?」
エックス『ち、違うんだ! 今私はこのデバイスの中にいて……』
凛「? でも、この声……」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:18:26.92 ID:VaIbC6K70
未央「もしかして、プロデューサー……?」
卯月「えっ……? あっ、確かに言われてみれば……」
エックス『これは通話状態じゃない! 私の名はウルトラマンエックス、このデバイスの中にいるんだ』
凛「…………」
エックス『本当なんだ! 信じてくれ!』
卯月「プ、プロデューサーさん、この機械の中に閉じ込められちゃったってことですか?」
エックス『閉じ込められたというか自分から入ったというか……』
未央「これは……これは事件だ!!!」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:19:06.69 ID:VaIbC6K70
―――事務所
未央「……ということで、プロデューサーがこんなのになっちゃいました」
事務所にいるアイドルたちが一部除き揃って目を丸くしている。
エックス(ここにいるアイドルたち……私の所持カードのアイドルたちか……)
珠美「あ、あのー……珠美には状況がうまく呑み込めないのですが……」
美波「プロデューサーさんの悪ふざけとかじゃなくて……?」
クールアイドルの脇山珠美と新田美波。
こずえ「でもぉー……ぷろでゅーさーのかお……ぴかぴかひかってるよぉ……?」
ゆかり「もしかして電池切れ……? バッテリーは大丈夫ですか? プロデューサー」
キュートアイドルの遊佐こずえと水本ゆかり。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:19:55.49 ID:VaIbC6K70
裕子「これは何者かの陰謀に巻き込まれたのでは……!? 私のサイキックパワーで何とかするしか!」
輝子「ヒャァーーハハハハハ!!! わけわかんねえぜえええええ!!!」
パッションアイドルの堀裕子と星輝子。
それにニュージェネレーションズの三人を加えた九人がエックスの部署に所属するアイドルだった。
凛「正直私はまだ手の込んだ悪戯だと思ってるんだけど」
美波「常識的に考えればねえ……」
エックス『気持ちは痛い程わかるが、これは嘘じゃない。私は今、このデバイスの中にいるんだ』
珠美「どうすれば出られるのでしょう?」
エックス『方法はあるんだが……』
しかし、アスナたちと通信が繋がらなかったところを見ると、大地がこの世界にいない可能性は高い。
ある程度周波数が合う人間でないとユナイトはできない。このままでは実体化はおろか変身すらできない。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:21:06.50 ID:VaIbC6K70
エックス『だが、しかし……』
そう、しかしそれより更に重大な問題があるのだ。
一番の問題は「自分が何故シンデレラガールズの世界にいるのか」ということ。
帰り方もわからないのでは、実体化しても意味がない。
エックス(あのとき見た光の塊……あれが私をここに導いたのか……?)
気掛かりな点は多かったが、しかし――
エックス『…………』
裕子「むむんっ? どうしましたかプロデューサー?」
エックス『いや……』
ゆかり・輝子「「?」」
皆の顔を見回す。ゲームの中にしかいなかったアイドルたちが今こうして目の前にいる。
エックス『みんな……可愛いなって……』
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:21:57.64 ID:VaIbC6K70
未央「なーに今更なこと言ってんの!」バシバシ
エックス『やめろ叩くな! 精密機械なんだから!!』
美波「それはともかく……お仕事は大丈夫なんですか?」
凛「それについては、ちひろさんに話は通してあって……」
壁際で静観していた事務員の千川ちひろに目をやる。
ちひろ「はい。資料を全てデータ化してデバイスに送れば、何とかやれるそうです」
美波「じゃあ、一応は大丈夫ですね」
ちひろ「まぁ……一応は」
そう言って向けてくる視線が痛い。余計な手間が増えるのだから当然だが……。
エックス(しかしこの反応を見るに、これまでは人間大の私がプロデューサー業をしていたということなのだろうか……謎だ)
何はともあれ、こうしてアイドルとデバイスに入ったプロデューサーという奇妙な関係が始まったのだった。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:22:50.41 ID:VaIbC6K70
―――三時間後
ある野外ステージ。その上で歌うニュージェネレーションズの姿があった。
卯月「あーたらしいっ!」
凛「せーかいへとっ!」
未央「カーットインして~!」
三人「みーらいデビューだよ! よ・ろ・し・くっ! はぁいっ!」
曲が終わると同時に会場が歓声に包まれる。
汗を浮かべながらも三人は笑顔で客席向けて手を振った。
卯月「ありがとうございますー!」
凛「ありがとう!」
未央「ありがとー! また会おうねー!」
・
・
・
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:23:27.48 ID:VaIbC6K70
会場を辞した未央たちは会場付近の公園に向かった。
立ち並んでいる木々の中の一本。その枝にてるてる坊主のようにデバイスが吊るされていた。
卯月「プロデューサーさん、大丈夫ですか?」
エックス『少々鳥に突っ突かれはしたが……大丈夫だ。それにしても、いいステージだったぞ』
凛「ここから見えたの……?」
エックス『ウルトラマンの超視力を舐めてもらったら困るな』フフン
凛「何で得意気なの……」
未央「エスパーユッコ風に言うと、サイキック超視力?」ムムムン!
凛「こんなのに閉じ込められてなければ普通に近くで見れたのに。ま、いいや。帰ろ」
卯月「はいっ」
・
・
・
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:24:02.34 ID:VaIbC6K70
三人は事務所に戻るため、夕暮れの街中、徒歩で駅に向かっていた。
未央「プロデューサーが万全なら車で戻れたのになー」
エックス『す、すまない……。というか、私は車に乗っていたのか……?』
凛「何言ってんの……。いっつも私たちを送り迎えしてくれたじゃん」
エックス(うーむ)
ライブまでの時間、事務所で情報を収集した結果、エックスが宇宙人ということは周知の事実であることがわかった。
しかもウルトラマンの外見のまま人間大になって仕事をしていたという。
エックス『君たちは私が宇宙人ということに抵抗はないのか?』
未央「どうしたの急に」
エックス『い、いや。何となく……』
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:24:31.41 ID:VaIbC6K70
凛「うーん。最初に会ったときはやっぱり驚いたけど」
卯月「私は自分がアイドルになれる喜びの方が大きかったです」
未央「私も驚きはしたけどまぁそういうのもありかなって思ったなぁ。こういう時代だしね」
エックス(どういう時代なんだ……いや、グルマン博士のような友好的な宇宙人がたくさんいるのか……?)
卯月「同じ事務所にウサミン星人もいますしね!」
凛「それはちょっと違う気が……」
エックス『あと聞きたいことがあるんだが、この世界には私の他にウルトラマンはいるのか?』
未央「それは聞いたことないなぁ。プロデューサーだけかな」
凛「私も聞いたことない」
卯月「私もです」
エックス『そうか……いや、一般的には知られてないだけで宇宙にはいるのかもしれないが……』
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:25:34.54 ID:VaIbC6K70
凛「そもそもウルトラマンって何なの? 普通の宇宙人にしか見えないんだけど」
エックス(巨大化した私の姿を見たことがないということか……?)
未央「デバイスに閉じ込められちゃうドジっ子だし、『ウルトラ』って感じしないよね」
エックス『うっ……これには色々事情があって……』
卯月「心当たりがあるんですか? ならそれをどうにかすれば!」
凛「そういえばさっき、元に戻る方法はあるって言ってたよね。できることなら協力するよ?」
未央「うんうん」
エックス『だが……』
未央「もう! 私たちとプロデューサーの仲じゃん! 遠慮しないでって!」
未央の言葉に卯月と凛も笑顔で頷いている。
エックス『未央……卯月……凛……』
エックスが自分の素性を明かそうとした、その時だった。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:26:03.17 ID:VaIbC6K70
「ピギャァアアアアォォン!!!」
頭上から甲高い叫び声が響いてきた。
卯月「えっ……」
未央「何!?」
三人が揃って空を見上げる。
日が暮れてきて黄昏色に染まった空に、黒い影が浮かんでいるのが見えた。
凛「あれ……何?」
エックス『まさか……!』
黒い影はみるみるうちに大きくなっていく。
数分も経たないうちにその大まかな姿が見て取れるようになった。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:27:09.48 ID:VaIbC6K70
岩石のようにごつごつとして刺々しい姿。
尖った頭部にはオレンジ色の目が点々と並んでおり、背中には巻貝のような突起が四本突き出ている。
「ピギャァァァアアアアン!!!」
叫び声は明らかにその影のものだった。呆然と眺めている間にも巨大化していく。
そしてとうとう、黄昏の街に降り立った。静まり返った街の空気が地響きで震撼する。――そして。
「――きゃあああああああっ!!!」
誰が発したのかわからない甲高い悲鳴。しかしそれによって皆が我に返ったように、
「うわあああああああーーー!!!」
「逃げろおおおおおおおお!!!」
巣穴を壊された蟻のように逃げ出し始めた。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:28:20.07 ID:VaIbC6K70
凛「な、何……? 何なの、あれ?!」
エックス『怪獣だ……』
凛「え……?」
エックス『この世界には怪獣はいなかったのか?』
未央「こんなの見たの初めてだよ!!」
エックス『……っ。ということはやはりXioも存在しないのか……』
卯月「どういうことなんですか、プロデューサーさん!」
凛「プロデューサーは何か知ってるの!?」
エックス『あれは“超合成獣”サンダーダランビア。宇宙怪獣だ』
未央「宇宙……怪獣……」
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:29:11.58 ID:VaIbC6K70
エックス『君たちも早く逃げろ!』
既に逃げ惑う人の波はエックスたちの元まで迫っていた。
ビルとビルの間に怪獣の巨体が垣間見える。
凛「と、とにかく今は逃げるしか――」
その時だった。
Tダランビア「ピギャァァァァアオオオン!!!」
サンダーダランビアが叫ぶと、背中の突起から青白い電撃が放たれた。
手近のビルに直撃し、爆発が起こる。その轟音は凛たちのところにも響き、耳をつんざいた。
卯月「あ……あぁ……」
爆発が起こったところより上の部分が崩れ、地上に落下する。
コンクリート、アスファルト、ガラス……あらゆるものが壊れ砕け破れる音がないまぜになり、爆風と共に押し寄せてくる。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:29:57.65 ID:VaIbC6K70
凛「う、卯月! 早く!」
卯月「ま、まって……こ、腰が……抜けて……」
凛「卯月っ!」
凛が卯月の腕を取るが、崩れたビルの上部に現れた怪獣の上半身を見て動きが止まった。
未央「しぶりん! しまむー! 早くっ!!」
エックス『……っ!』
Tダランビア「ピギャアアアアアアア!!!」
電撃が乱れ飛び、ビルを、地上を襲っていく。
街灯は折れて倒れ、街路樹は燃え上がり、怪獣の歩む道はその重量で砕けて沈んだ。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:30:41.51 ID:VaIbC6K70
未央「しぶりん、しまむー!」
エックス『おい、未央!!』
未央が二人の元に駆け寄る。凛の背中を叩くと、我に返ったように振り返った。
未央「何してんの! 早く逃げなきゃ!」
凛「でも、卯月が!」
未央「しまむーも、ほら! 立って!」
卯月「は、はい……っ!」
二人で腕を取って立ち上がらせる。しかしそうしている間にも怪獣の巨躯は迫っていた。
突然、三人が影に包まれた。凛が首を捻って後ろを見ると、そこには太陽を背にした怪獣の黒々しい姿が。
逆光の中、ギラギラ光るその目が、自分を見ているような気がして――
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:31:45.38 ID:VaIbC6K70
がくっと、卯月のバランスが崩れる。左肩を支えていた凛が崩れ落ちたからだ。
卯月「凛ちゃん!?」
凛「…………」
凛は全身が勝手に震えて、もう自力では動かせなかった。
動け動けと命令しても、指先ひとつ動かせない。背筋に冷たい汗が一筋、流れ落ちた。
未央「……っ」
凛「も、いいから……未央……卯月だけでも……」
卯月「そんなこと……っ」
未央「そんなことできるわけない!!」
そう叫んで、未央が二人の前に立つ。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:32:25.97 ID:VaIbC6K70
凛「未央……っ」
卯月「未央ちゃん、だめ……」
降り注いだ雷撃が爆風を巻き起こし、その乾いた熱風が未央の頬に吹きつけ、髪を靡かせる。
未央「私がニュージェネのリーダーだから……私が二人を……」
凛「未央っ!!」
卯月「未央ちゃんっ!!」
未央「私が……! 私が二人を守る……っ!!」
エックス『――!!』
その時だった。エックスは胸の奥から湧きあがってくる感情に気付いた。
共鳴する周波数。共振する個性。それだけでは言い表し切れない何かを、エックスは未央に感じた。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:33:01.93 ID:VaIbC6K70
エックス『未央、私とユナイトするんだ!』
未央「えっ……?」
エックス『それしか方法はない! いいか、言われた通りにして、私の名を叫ぶんだ!』
エックスが説明する間にも怪獣の影は迫ってくる。もうあと百メートルもない。
未央「わ、分かった! 行くよ、プロデューサー――いや」
深呼吸して、未央が言い放つ。
未央「――ウルトラマンエックス!!」
エックス『よし、行くぞっ!』
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:33:47.63 ID:VaIbC6K70
未央がデバイスを突き出し、Xモードに変形させる。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードすると、青白い電光が放射状に飛んだ。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
未央「――っ!」
そしてデバイスを掲げ上げ、高らかにその名を叫んだ。
未央「――エックスーーーーーっ!!!」
Xの字を象った光が放たれ、巨大化し、未央の全身を包んでいく。
辺りを閃光が包む。それを突き破るようにして、巨大な銀色の体躯が姿を現す。
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:34:54.18 ID:VaIbC6K70
エックス「――Xクロスキック!!」
Tダランビア「ピギャァァァァアアア!!??」
電光を纏い、きりもみ回転しながらの蹴りを受け、サンダーダランビアが吹っ飛ばされる。
エックスはそのまま空中に舞い上がり、そして地上に降り立った。
地面が揺れ、破片が巻き上げられる。夕焼けの薄明りの中、青白い光が周囲を飛び交う。
それら全てを巻き込んだ旋風が吹き荒れ、呆然と見守る凛と卯月の長髪を乱した。
エックス「…………」
黄昏の空を背景に、降り立った巨躯がゆっくりと立ち上がる。風が止み、辺りが静穏に満ちた。
50メートル近くありそうな巨大な人型。銀を基調に赤と黒が交じり、胸にはX字のカラータイマーが青く光っている。
凛「プロデューサー……?」
卯月「ぷ、プロデューサーさんが、おっきくなっちゃいました!?」
凛「……未央は!? 未央はどこに!?」
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:35:42.51 ID:VaIbC6K70
一方、エックスの意識内部では――
未央『…………』
エックス『……未央! 未央!』
未央『……っ! ぷ、プロデューサー!?』
エックス『よかった、ユナイトは成功だ。プレイ時間300時間の絆は伊達じゃなかったな!』
未央は周囲を見回して、それが人間の視点でないことを確認した。
未央『私、巨大化しちゃったの……?』
エックス『外見は私だから心配するな』
未央『別にそういう心配じゃなくて』
エックス『! 来るぞ!』
ハッと我に返る。目の前にサンダーダランビアが迫っていた。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:36:22.64 ID:VaIbC6K70
エックス「セエヤッ!」
その突進を抑え込む。後ろには卯月たちがいる。ここを通すわけにはいかない。
エックス「テアーッ!!」
怪獣の身体を押し返す。十分離れたところまで来ると、身体を反転させ、背負い投げする。
Tダランビア「ピギャァァァァ……」
エックス「ハ――ァッ!」
起き上がるサンダーダランビアに対峙してファイティングポーズを取る。
放たれた電撃に反応して、側転しながらそれを避けた。
Tダランビア「ピギャァァァァァ!!」
しかし避ければ避けるほど電撃による被害が広がってしまう。
そう気付いたエックス=未央は立ち止まって、両腕をクロスさせてそれを受け止めた。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:37:19.99 ID:VaIbC6K70
エックス「グウウッ……!!」
Tダランビア「ピギャァァアアアア……!!!」
エックス「ッ! ――グアアアッ!!」
しかしサンダーダランビアが出力を強めたため、受け切ることができなかった。
エックス「グッ……ハアァッ」
背後に倒れ込むも、起き上がろうとするエックス。
するとサンダーダランビアの手のひらから触手が飛び出してきた。エックスの首に巻き付き、電撃を流し込む。
エックス「デアアアッ!!」
Tダランビア「ピギャァォオオオオン!!!」
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:38:27.42 ID:VaIbC6K70
未央『ぐっ……くぅ……っ!』
エックス『未央、大丈夫か!?』
未央『へ、平気……! 変身してるせいか、思ったより痛くないから……!』
エックス『よし。心を合わせるんだ。そうすればどんな相手とだって私たちは戦えるようになる!』
未央『うん……!』
その時、地上から声が聞こえてきた。
卯月「プロデューサーさん! 頑張って!!」
凛「負けないでーー!!」
未央『二人とも……!』
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:39:35.85 ID:VaIbC6K70
未央『……私への応援は!?』
エックス『そっちか!? いや、事態が飲み込めてないんだろう……無茶を言ってやるな』
未央『むむ……こんなに身体を張って頑張ってるのに』
エックス『というかさっきからずっと電撃受けてるのに案外余裕だな未央』
未央『なん……かさ。だんだん……癖になってきたというか……』
エックス『不安になるようなこと言わないでくれないか!?』
未央『じょーだんじょーだん♪ さて、二人を守るためにも頑張んなきゃね!』
エックス『ああ! 未央、このカードを使うんだ!』
デバイザーの上に一枚のカードが転送されてくる。
未央『! オッケー、わかった!』
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:40:26.38 ID:VaIbC6K70
『ウルティメイトゼロ ロードします』
そのカードをロードすると、エックスの上半身に白銀のアーマーが装着されていく。
中央に青い宝玉が埋め込まれたV字型の鎧。右腕には手甲と一体化したような剣が装備された。
『ウルティメイトゼロアーマー アクティブ!』
エックス「テヤアァァッ!!」
右腕の剣で触手を断ち切る。
Tダランビア「ピギャァァァアアアッッ!!!」
首に絡まった残骸を勢いよく投げ捨て、怪獣に向かって走る。
エックス「デアァッ!」
回復の間を与えず、たじろぐサンダーダランビアの横っ面を蹴りつける。
その勢いで怪獣の背中がこちらに向く。その突起にエックスは斬りかかった。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:41:16.05 ID:VaIbC6K70
エックス「ハァッ! セヤァッ! テイヤッ!」
Tダランビア「ピギャァァァアア……!!」
四本の突起すべてが斬り払われ、サンダーダランビアは更に悶える。
一方でエックスは少し離れ、アーマーを解いていた。金色に光るカラータイマーに腕を翳し、右上に掲げ上げる。
エックス『行くぞ、未央!』
未央『うん!』
次に、右足を軸に全身ごと左足を回転させる。その軌跡に青白い光が走り、エックスの背後に向かって伸びていく。
そして最後に、後ろに回していた両腕を身体の前で交差させる。両腕にエネルギーが漲り、光線が発射された。
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
敵向けて放たれた光線は次の瞬間、激突していた。
Tダランビア「ピギャァァァアアオオン……!!」
サンダーダランビアの巨体が力なく崩れ落ち、爆発が巻き起こる。
その中心に青白い光が集っていく。怪獣が光線の力でスパークドールズに圧縮されているのだ。
それを見詰めながら、エックスはユナイトを解いた。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:41:59.99 ID:VaIbC6K70
凛「――未央!」
白煙の中から現れた未央に凛は真っ先に気付いた。
卯月「未央ちゃん! 無事だったんですね……!」
言い終わらない内に卯月が泣き出す。
卯月「もう……もう、どうしようって……私……」
未央「あ、あはは。プロデューサーと合体して戦ってたんだ」
凛「プロデューサーと……? そういえばさっきのは……」
エックス『あれが私の本来の姿なんだ』
卯月「すごかったです! まさに『ウルトラマン』って感じで!」
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:42:54.12 ID:VaIbC6K70
凛「で、本来の姿になれたのに、デバイスに閉じこもったままなの?」
エックス『別に閉じこもっているわけでは……』
そうだ。未央とユナイトすることはできたが、まだ元の世界への戻り方がわかっていない。
それがわからなければ結局のところ実体化できても意味はないのだ。
卯月「とにかく、後で詳しいお話聞かせてくださいね!」
未央「うん。……でも今はちょっと疲れたかな。早く帰りたいかも」
卯月「あ、は、はいっ! そうですよね! 早いところ帰りましょう」
凛「でもこの被害で電車は動いてないだろうね……ちひろさんに迎えに来てもらうしかないかな……」
その言葉でエックスは思い出したように言った。
エックス『……なあ、みんな』
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:43:29.00 ID:VaIbC6K70
エックス『このことは、ちひろさんには黙っててもらえないだろうか……』
凛「何で?」
エックス『今余計な負担を増やしてしまっているのに、更に君たちのような女の子を戦いに巻き込んだと知られたら……』
未央「怒られるから?」
エックス『……ああ……』
卯月「くすっ。でも同じ部署のみんなには構いませんよね? プロデューサーさんの力を貸してもらわなきゃいけない時がまた来るかもしれませんし」
エックス『確かにそうだな……でもちひろさんには』
卯月「わかってます♪」
この場はそういう取り決めとなり、事務所に戻ってから解散となった。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:44:01.19 ID:VaIbC6K70
―――事務所
皆が帰り、静まり返った夜の事務所。
ちひろやアイドルたちは持って帰ろうかと言ってくれたが、流石にそれは辞した。エックスは紳士なのである。
エックス(この世界もいいところだが……一刻も早く帰らねば)
エックス(だが、私が帰ったあと、この世界はどうなるのだろうか……この世界の装備だけで怪獣たちを倒せるのか?)
エックス(いや、怪獣が出るのは初めてだと言っていた。私がイレギュラーとしてこの世界に来てしまったために怪獣も現れるようになったのだとしたら……)
エックス(…………)
エックス(……少し疲れたな。続きはまた明日考えよう……)
そう思い、意識を遮断する。
うとうとと眠りに落ちたエックスは――
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:45:00.34 ID:VaIbC6K70
「………………………………」
「……エ………………ス……」
「………………ク……ス……」
エックス(なんだ……?)
「―――――ス!」
「――エックス!」
「エックス! 返事してくれ!」
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:45:47.22 ID:VaIbC6K70
エックス(っ!?)
意識を開くとそこには――
エックス「大地!?」
大地「まさか寝てたのか!? 今大変なことになってるんだ! 早くユナイトを!」
エックス「あ、ああっ!」
こうしてわけもわからぬうちにエックスは元の世界に戻ることができた。
そしてそれからというもの、彼は眠るたびに連続した夢を見るようになる。
プロデューサーとなり、アイドルに囲まれる自分の夢を……。
第一話 おわり
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:46:57.10 ID:VaIbC6K70
≪アイドルの怪獣ラボ≫
未央・エックス「「未央の怪獣ラボ!」」
未央「今回の怪獣は、これだ!」
『サンダーダランビア 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106396.jpg
エックス『“超合成獣”サンダーダランビア! ネオダランビアの亜種だ!』
エックス『手のひらから伸ばす触手や、背中の突起からの電撃が強力だぞ!』
未央「ま、私たちにかかれば電流マッサージレベルだけどね!」
エックス『電流マッサージ……そんなものもあるのか。人間世界は奥が深い……』フムフム
未央「元は『ウルトラマンギンガ』第1話の怪獣。ブラックキングは追い詰めたけどギンガには圧倒されたね♪」
未央・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 20:47:28.64 ID:VaIbC6K70
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
《蒼ノ楽団》のPV撮影のために獅子鼻樹海に向かった凛ちゃんと美波ちゃん。
でも妙な虹をくぐり抜けると、そこから先は未知の異次元空間に……。
そして姿を現す樹海の主! さあプロデューサーさん出番ですよ……って、プロデューサーさんどこですかー!?
次回、ウルトラマンXP第二話! 『美しき静寂』 プロデューサーさーん! どこですかー!?
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:34:48.69 ID:7AXxKSe50
第二話 『美しき静寂』
―――車中
凛「でーきたてえーぼりゅーれーぼりゅー……」
李衣菜「巧く歌うんじゃなくて♪ 心を込めて歌うよ~♪」
蘭子「沈黙の戒律は、抑え切れぬ感情に破られた。其の贖いに煉獄を渡れと命じるなら――」
P「あーもううるさい!! 歌うならどれかひとつにしろ!!」
美波「あ、あはは……」
楓「ハモりながら車は森を走ります……ふふっ」
とある春の日。
凛と美波は所属ユニット《蒼ノ楽団》(アズール・ムジカ)のPV撮影のため、楓たちのプロデューサーのワゴンに乗って移動していた。
エックス『凛も案外お茶目なところあるんだな』
凛「いや、何か別の曲歌う流れかなって」
エックス『むしろ君がそれにノった方が驚きだが!?』
……そして何故かエックスも(デバイスとして)同乗していた。
それと言うのも――
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:35:37.66 ID:7AXxKSe50
美波「そろそろ獅子鼻樹海でしょうか?」
P「はい。日本のバミューダトライアングルと呼ばれるミステリースポットですよ~」
Pがおどろおどろしい喋り方をするので、後部座席の蘭子の顔が引き攣った。
凛「本当にそんなとこ入って大丈夫なの?」
李衣菜「いやいや、知っていてあえて赴くのがロックってもんでしょ!」
蘭子「フ、フフ……我が闇の力さえあれば、如何なる魔境が待ち構えていようと――」
その時、突然車窓の外でカラスが鳴いた。
蘭子「ひゃううぅっ!?」
凛「うわっ! ……もう、急に飛びつかないでよ……」
蘭子「ご、ごめんなさいぃ~~っ」
凛(あれ、喋り方……)
楓「ふふっ、樹海のカラス……迷い込んだ人の肉を啄んでいるのかもしれませんね」
後部座席を振り返りながら楓が言う。そのオッドアイは少女のようにキラキラ光っていた。
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:36:24.98 ID:7AXxKSe50
蘭子「ま、迷い込んだ……啄む……」
楓「案外、悪魔の使いだったりして? ここはもう既に魔界の中――」
蘭子「あ、悪魔……魔界……」
蘭子はもう顔面蒼白である。
美波「か、楓さん……そこまでにしてあげてください……」
楓「ふふっ。でも蘭子ちゃんがいるから心配ないわよね?」
蘭子「……む、無論っ! 我が真結界によって貴殿ら乙女の無事も保障し――」
すると今度は、バサバサッ! というカラスの羽音が響いた。
蘭子「ひぅぅぅううっ……!!」
李衣菜「ほんと空気読まないなー、このカラス……」
何はともあれ、撮影のために赴いたこの獅子鼻樹海。
魔境と呼ばれており様々な不可思議現象が発生している場所のため、エックスも念のためについてきたのだった。
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:37:00.25 ID:7AXxKSe50
美波「えーっと、スタッフさんたちは先に到着してるんでしたっけ?」
P「はい。先に現場で待っているはずです」
楓「――あっ」
急に楓が声を上げる。
P「どうしました?」
楓「虹……」
美波「えっ?」
楓が指さしたフロントガラスの向こう側。
薄い青空に綺麗なアーチ状の虹が掛かっていた。
李衣菜「あ、ホントだ。きれい~」
蘭子「ふふ……天が授けし我らへの祝福か……」
凛「……ん?」
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:37:39.03 ID:7AXxKSe50
そうこうしている内にワゴンは虹に近づいていって、通り抜けた。
凛は慌てて背後を振り向く。
凛「虹、まだある……」
エックス『妙だな……』
凛「プロデューサーもそう思った?」
エックス『ああ』
李衣菜「え、何? どういうこと?」
凛「虹っていうのは簡単に言うと太陽光を水滴が反射して起こる現象なんだけど」
エックス『今の太陽の位置を考えると「振り返ってもまだ虹がある」というのはおかしい』
凛「それに、さっき私たち虹を『通り抜けた』よね。あれも絶対にありえない」
李衣菜「え……じゃあ何? さっきのは虹じゃなかったってこと?」
凛「たぶん、そういうことになるんだろうけど――」
そう言って振り返った凛は目をぱちくりさせた。
もうそこに虹がなかったからだ。
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:38:13.60 ID:7AXxKSe50
凛「あれ……?」
美波「見間違いだったんじゃない?」
凛「そんなはず……」
首を傾げながらも凛は不承不承自分を納得させた。
車はそのまますいすいと道を走っていく。次第に両脇に並ぶ木々も密度を増してきた。
P「…………」
楓「…………」
美波「…………」
李衣菜「…………」
蘭子「…………」
凛「…………」
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:39:20.65 ID:7AXxKSe50
さっきまでの晴天はどこへやら、森が深くなるにつれ空も暗くなる。
段々と不安になってきたアイドルたちは口々にプロデューサーに訊ねる。
美波「あ、あの。まだですか?」
李衣菜「もうけっこう走ってる気がするんですけど……」
凛「そんなに深いところで撮影する気だったの?」
P「い、いや……。一本道を走ってたらすぐ見えるはずって聞いてたんだけど」
エックス『虹を通り抜けてから、32分46秒。おかしいな』
P「いったん電話してみます」
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:40:05.50 ID:7AXxKSe50
車を停め、携帯を取り出しながら外へ出るプロデューサー。
車内は沈鬱としたムードに満ちていたが、
楓「ほらほらみんな。そんな暗い顔してたら、撮影も上手くできなくなりますよ」
凛「でも、こんな状況……」
まだ誰も口に出していないだけで、全員に共通認識があった。
私たちは遭難して、もう帰れないのではないかと。
楓「幸子ちゃんなんてよくこういう目に遭ってるじゃないですか」
凛「それはそうだけど……」
楓「おんなじ目に遭ってるのに私たちだけ音を上げてたら、『メッ!』って叱られちゃいますよ。……ふふっ」
つまらない駄洒落に車内の空気が少し和らいだ。
するとプロデューサーが早足で戻ってきて運転席に乗り込んだ。
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:41:04.74 ID:7AXxKSe50
美波「ど、どうでした?」
P「圏外で駄目かと思いましたけど、ちょうどそこでスタッフさんと鉢合わせして」
車内の雰囲気がぱっと明るくなる。
P「すぐそこにスタンバイしてるそうです。行きましょう」
李衣菜「よかったぁ~」
溜め息を吐きながら背もたれに倒れる李衣菜。他のメンバーもほっと胸をなでおろしたようだった。
エックス『…………』
だがエックスだけは、不審そうに何かを考え続けていた。
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:41:49.35 ID:7AXxKSe50
―――廃墟
美波「ここ……何ですか?」
凛「廃墟……だよね」
P「監督、これは」
監督「いやー最初は別のところで撮る予定だったんだけどね、もっと良いところ見つけちゃったから」
蘭子「空洞の祭壇……心揺さぶられるわ」
李衣菜「廃墟は大丈夫なんだ」
李衣菜がちょっと呆れたふうに言う。
李衣菜「でも何で樹海に廃墟が? 誰か住んでたのかな……」
中に踏み込んでみる。打ちっ放しのコンクリートが剥き出しになっており、ところどころ崩れて外の木々が覗いている。
あらかたの清掃は終わっていたようだったが、やはり染みついた汚れは残っていた。
楓「廃墟は異境……うーん」
李衣菜「せめて黙って考えてください」
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:42:53.27 ID:7AXxKSe50
凛「で、着替えは?」
P「そこに仮設テント立ててるからその中で着替えてくれって。衣装はもう用意してくれてる」
凛「ふーん。じゃ、みんな。行こうか」
李衣菜「凛ちゃんは動じないね……」
楓「凛ちゃんのクールさが心に来ーる……ふふっ」
李衣菜「無理矢理過ぎじゃないですか?」
美波「あっそうだ。凛ちゃん、プロデューサーさんはどうしよう」
凛がベルトにぶら下げていたデバイスを取り上げる。
凛「そういえばそうだった。外に置いとくのも心配だけど、着替え見られるのは嫌だし……」
エックス『いや、裏返して置いてもらえば何も見えなくなるから心配ないぞ』
美波「そうなんですか? じゃあそうしましょうか」
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:43:44.21 ID:7AXxKSe50
エックス『聴力は生きてるから、何かあった時にはすぐに知らせられるしな!』
美波「頼もしいです!」
凛「……待って。どの程度なら聞こえるの」
エックス『そうだな……。テントの外からでも衣ずれの音が聞こえる程度には耳が利くぞ!』
凛・美波「「…………」」
エックス『……何故だ……?』
エックスは美波のバッグの中に入れた凛のバッグに放り込まれた挙句テントからも追い出されていた。
P「あれ、何でこんなところにバッグが? 誰のだろ」
しかも置き去りにされていたのは廃墟の壁のそばであったため――
P「こんなところに置いてたら撮影の邪魔だろ……」
不幸にもプロデューサーの手によって運び出されてしまった。
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:44:26.96 ID:7AXxKSe50
P「さてと……ところで監督」
監督「うん?」
P「ここまで来る最中に変な虹を見ませんでしたか?」
監督「ああ……確かに見たね。それから何か道に迷った感じになって……」
P「迷ったんですか!?」
監督「うん。彷徨ってたらここ見つけたんだけど」
P「ってことは、帰り方がわからないってことじゃ……」
監督「まぁそうなんだけど」
P「のんきですね……やばいですよこれ」
監督「いやでもね、こんな良い場所を見つけたら撮ってみたくなるってのがサガってもんでしょ――」
そう言ったときだった。
ごうっと風が吹いて森がざわめいた。
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:44:55.49 ID:7AXxKSe50
P「…………」
長い長い風だった。
森がどよめく。まるで、何らかの脅威に怯えているように――
監督「はは、こんな雰囲気がまさにミステリアスな《蒼ノ楽団》にピッタリ――」
その時――
「キシャアアアアアアア!!!」
プロデューサーと監督が同時に押し黙る。
木々の梢がざあっと揺れる。静寂に戻ったかと思うと、ドン、ドン、という音が響いてきた。
P「何だ、この音……」
その音はどんどん大きくなっていく。
――近づいてくる。その主が。この樹海の主が。
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:45:22.98 ID:7AXxKSe50
「キシャァァァァアアアオン!!!」
再びその雄叫びが上げられたかと思うと、森の上にその姿はぬっ、と現れた。
銀色の皮膚に覆われた頭部。鋭く光る瞳は金で、頭の両側に山羊のような角が大きく捻れている。
監督「うわああああああーーー!!!」
スタッフ「怪獣だあああああああ!!!」
機材を捨てて逃げだすスタッフたち。
プロデューサーは慌ててテントのアイドルたちの元に向かった。
P「みんな、大変だ! 怪獣が出た!!」
美波「ええっ!?」
みな着替えが済んでいることを確認して美波が入口を開ける。
美波「本当なんですか!?」
P「は、はい。きっとこの樹海の主だと思います。早く逃げないと!」
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:46:03.30 ID:7AXxKSe50
美波「みんな!」
みな頷いて着の身着のままテントを飛び出した。
P「車で逃げましょう!」
停めてある車まで向かおうとするプロデューサー。しかし――
美波「すみません、荷物を!」
P「荷物なんて取りに行ってる場合じゃ――」
「シャオオオオオオオン!!!」
美波・P「「!」」
全員が揃って声の方向に目を向ける。銀色の怪獣の巨躯がそこにはあった。
咄嗟に木の影に身を潜める。しかし、かなり近い。100メートル程度しか離れていない。このままでは見つかるのも時間の問題だ。
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:46:45.44 ID:7AXxKSe50
李衣菜「ま、まずいって……!」
蘭子「あ、あわわわわわわ……!」
楓「二人とも落ち着いて。プロデューサーさん、二人を連れて先に逃げてください」
楓が毅然とした態度で言う。
P「でも!」
美波「あの中には私たちのプロデューサーさんがいるんです! 置いてなんかいけません!」
楓「私も一緒に探します。プロデューサーさんは二人を」
P「わ……わかりました。でも無茶は絶対しないでください。必ず後で助けに行きますから」
楓「はい。――行きましょう」
美波と凛の方を振り向き、身を屈めながら一緒に走り出す。
李衣菜と蘭子はプロデューサーに連れられて車に向かって行った。
凛「美波、あのバッグどこに置いたの?!」
美波「あの廃墟のそば! すぐ見つかると思う!」
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:47:40.55 ID:7AXxKSe50
―――車中
李衣菜「プ、プロデューサー! 早くっ!」
P「わかってる!」
乗り込むや否やプロデューサーはワゴンを出発させた。
李衣菜と蘭子はリヤガラスから背後の様子を探る。
蘭子「こ、こここ、こっち来てるぅっ!!」
怪獣「シャオオオオオオオン!!!」
怪獣は明らかにワゴンの方に視線を向けていた。
重い足音を鳴らしながら歩いてくる。
李衣菜「スピード! もっと出ないの!?」
P「くっそ!」
アクセルを踏み速度を上げる。しかし二人の目に映る怪獣は――
怪獣「キシャァァァァァオオン!!!」
まるでこのスピードアップを挑発と受け取ったかのように進攻に勢いが加わった。
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:48:18.69 ID:7AXxKSe50
蘭子「もうダメぇ……っ!」
リヤガラスから顔を背け、頭を抱えて蹲ってしまう蘭子。
しかしその時、何かに気付いた。車の床、エンジン音とは違う、何か異質な音が聞こえる。
蘭子「……?」
涙が浮かぶ目でその方向を見やると、水色のスポーツバッグがあった。確か美波のものだ。
その中から微かに、振動音が聞こえる。同時に、男の人のくぐもった声――
蘭子「……っ!」
蘭子は少し迷いながらも美波のバッグのジッパーを引いた。
振動音と声が心なし大きくなる。
中を覗いてみると、次は凛のショルダーバッグがかなり窮屈そうに詰め込まれていた。
それも開けると――
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:49:27.55 ID:7AXxKSe50
エックス『どうした! 何かあったのか!?』
エックスの声が聞こえて、蘭子は中からデバイスを取り出した。
エックス『うおっ、眩しっ!? ……あ、蘭子か! いったいどうしたんだ!?』
李衣菜「え、美波さんたちのプロデューサーさん? 何でこんなところに?」
蘭子「蒼き乙女のパンドラの箱の中に……」
P「あ、それ、廃墟の隣に放り出されてたから、邪魔だと思って俺が車に運んどいたんだった」
李衣菜「なるほど……でも今はそれどころじゃなくて……!」
李衣菜はデバイスを持ち上げてリヤガラスに向けた。
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:50:03.56 ID:7AXxKSe50
エックス『あれは……シルバゴンか……?』
李衣菜「知ってるんですか?!」
エックス『私も詳しくは知らない。だがこの妙な空間は異次元になのではないかと疑っていた。そして奴は異次元を生息地にする怪獣だ』
エックスが悔しそうな声を出す。
エックス『私がもっと警戒していれば……。そういえば、凛と美波は?』
P「あーーーーっ!!!」
突然プロデューサーが大声を出す。
李衣菜「な、何ですか急に」
P「美波さんたち、プロデューサーを捜すって……!」
エックス『何!?』
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:50:56.14 ID:7AXxKSe50
―――廃墟
一方、美波たちは廃墟に到着していたが――
美波「ど、どうして!? 確かにここに置いてたはずなのに!」
凛「もしかして、誰かが持って行った……?!」
楓「手分けして探しましょう!」
―――車中
エックス『ということは、美波と凛と楓はまだ残っているということか!?』
P「怪獣はこっち狙ってるから三人は無事だと思う!」
エックス『確かにそうか……だが……』
エックスは黙り込んで二人を見た。多田李衣菜と神崎蘭子。
確かに知った顔だが、所属アイドルでもない彼女たちと果たしてユナイトができるだろうか。
83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:51:28.60 ID:7AXxKSe50
エックス『……っ。頼む、私を美波か凛の元に連れて行ってくれ!』
李衣菜「な、何で!?」
エックス『そうするしかこの窮地を抜け出す方法はない! 私を信じてくれ!』
李衣菜と蘭子は数秒顔を見合わせてから、力強く頷いた。
李衣菜「わかりました。私たちが二人の元に連れて行きます!」
P「お、おい! 俺は!?」
李衣菜「事の発端の罰として車で怪獣をおびき寄せて!」
P「酷い!」
蘭子「安心しろ、瞳を持つ者よ! 我が翼の加護で汝は守られる!」
P「……わ、わかった」
李衣菜「プロデューサー……必ず生きてまた会いましょう!」
P「フラグ立てんなあああああああああ!!!」
急ブレーキをかけたワゴンから二人は飛び出すと、デバイスを手に走り出した。
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:51:58.65 ID:7AXxKSe50
―――森
美波「どうしよう、どこにいるのプロデューサーさん……」
鬱蒼とした森の中。未だに足音はやまない。
ずぅぅぅん……という重低音が下腹部を震わせて背筋に冷たい汗を流していく。
美波(ダメよ美波、弱気になっちゃ! そもそもプロデューサーさんをバッグに入れちゃったのは私。その責任はきちんと果たさなきゃ!)
頬をぱちんと叩いて自分を奮い立たせる。
露出した脚が下生えに傷つけられながらも美波は走った。――すると。
美波「きゃあっ!?」
足首に何かが絡まり、盛大にこけた。
美波「いったた……なに……?」
樹木の根か何かかと思って振り返るが、それが目に入った瞬間、ぞわっと全身が粟立った。
美波「きゃあああああああーーーーーっ!!!」
85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:52:29.43 ID:7AXxKSe50
―――李衣菜・蘭子サイド
李衣菜・蘭子「「!」」
エックス『美波の声だ!』
李衣菜「ど、どっちから!?」
エックス『あっちだ!』
そう言われてもわからない。
李衣菜「どっち!」
エックス『だから――って、ああ! えっと、今の君の右前方48度の方向だ!』
蘭子「すご……」
李衣菜「急ごう!」
86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:53:28.91 ID:7AXxKSe50
―――美波サイド
美波「い、嫌ぁっ! なにこれぇっ!」
「美波さーーん!!」
「青き女神よー! いずこにー!?」
美波「あ……李衣菜ちゃんと蘭子ちゃんの声……」
胸に希望が湧きあがってくる。
美波「ここ! 助けてえええ!!」
「今行きますーー!!」
美波「……!」
その言葉に美波はハッとなった。
87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:54:16.40 ID:7AXxKSe50
美波「だ、ダメ! 来ちゃダメ!!」
しかし幾らも経たない内に二人が木々の間から飛び出してきた。
李衣菜「美波さんっ!」
蘭子「こ、これは!?」
二人の目の前には――
李衣菜「な、何これ!?」
くすんだピンク色の触手がお腹に巻き付いている美波の姿があった。
強い力で引っ張られているようで、木の幹を必死に掴んで持ちこたえている。
美波「ダメ……二人まで巻き込まれちゃう! 逃げて!」
88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:55:03.37 ID:7AXxKSe50
エックス『美波、落ち着け!』
美波「プ、プロデューサーさん!? どうして李衣菜ちゃんたちのとこに――」
エックス『話は後だ! 二人とも、美波の救出を!』
その触手のおぞましさに一瞬躊躇う二人だったが、意を決して踏みつけ始めた。
だが一向に解かれる気配がない。
美波「くぅぅぅ……っ!」
むしろ締め付けがきつくなって美波が苦しむ始末だった。
李衣菜「これっぽっちの刺激じゃダメージにならないみたい」
蘭子「だけど、私たちに武器なんてないし……っ!」
おろおろする蘭子だったが、ふと自分が持っているものに気が付いた。
89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:55:51.72 ID:7AXxKSe50
エックス『……おい、まさか』
蘭子「闇にぃぃぃ―――」
エックス『ちょっと待ってくれええええ!!!』
蘭子「飲まれよーーーーーーっ!!!!」
デバイスを大きく振りかぶり、触手向けて思いっきり投げつけた。
勢い付けた鈍器での一撃は流石に応えたのか、美波を解放してするすると引き下がっていく。
蘭子「ぜーー……はーー……」
李衣菜「や、やった……」
エックス『だ、だがもう二度とやらないでくれ……精密機械なんだから……』
しかし安心したのも束の間、地面が揺れ始めた。
美波「な、何……!?」
90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:56:25.00 ID:7AXxKSe50
「ピシャァアアアアアッッ!!!」
地中から怪獣が姿を現す。そう遠くない場所だった。
頭部には一本角が生え、両手が二本の巨大な爪とその間から伸びる触手でできている怪獣だった。
エックス『あれは……“バリヤー怪獣”ガギか。こいつもこの異次元空間に住んでいたんだな』
李衣菜「ど、どうしましょう……」
エックス『ここは私と美波が食い止める。君たちは逃げろ!』
李衣菜「食い止めるって……!」
蘭子「む、無茶ですよ~っ!」
しかし、美波はそんな二人を真正面から見据えて言った。
91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:56:58.87 ID:7AXxKSe50
美波「大丈夫」
そして、有無を言わさぬ口調で続ける。
美波「《蒼ノ楽団》、コンダクターとしての命令よ。二人は逃げて」
蘭子「……!」
李衣菜「で、でも……!」
李衣菜が変わらず不安そうにする一方、蘭子は何かを感じ取ったようだった。
李衣菜の腕を取り、催促する。
李衣菜「蘭子ちゃん!?」
蘭子「此れは契りぞ。再臨が果たされなければ、貴殿の魂は彼岸でも永劫に報われぬと知れ!」
美波「ええ。必ず戻るわ」
李衣菜「だからそれ死亡フラグって――ああ、もう蘭子ちゃんーーっ!」
李衣菜はわけもわからぬまま蘭子に引っ張られていった。
92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:57:57.49 ID:7AXxKSe50
エックス『すまない……。君に戦いを強いることになった』
美波「不安がないと言ったら嘘になりますけど……プロデューサーさんとだから、平気です」
そう言って、笑みを作る。
美波「あ……でも私……こういうの初めてだから、上手くできるかわかんないですけど……」
エックス『心配するな! プレイ時間300時間の私たちの絆を信じろ!』
美波「……??」
エックス『美波、ユナイトだ!』
美波「はっ、はいっ!」
ひとつ深呼吸して、美波は口に出した。
美波「――美波、いきますっ!」
エックス『よし、行くぞっ!』
93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:58:42.88 ID:7AXxKSe50
エクスデバイザーをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
すべてのセッティングが完了したデバイスを掲げ上げ、美波はその名を叫んだ。
美波「――エックスーーーーーっ!!!」
放たれたX字の光に美波の身体は包まれ、そして――
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
エックスの巨躯もまた、森の中に姿を現した。
94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:59:14.27 ID:7AXxKSe50
蘭子「あ、あれ……」
李衣菜「美波さんたちのプロデューサーさん……?」
一方、別の場所にいた凛からもその雄姿は確認できた。
凛「プロデューサー……? 今度は美波とユナイトしたんだ……」
ガギ「ピシャァァアアアアッ!!」
シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!」
エックス『くっ……初めての相手がいきなり二体だなんてきついだろうが……頑張ってくれ……!』
美波『が、頑張りますっ! ……って、卯月ちゃんみたい……あはは』
自分で自分を和ませようと努めながら、美波=エックスは慣れないファイティングポーズを取った。
95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:00:04.73 ID:7AXxKSe50
エックス「イィ――サァッ!」
それに煽られたようにガギが最初に突っ込んでくる。
ガギ「ピシャァァァアアア!!」
エックス「テヤッ!」
挟み込むようにして振るわれた両爪を両腕でそれぞれ防ぎ、空いた腹部に膝蹴りを入れる。
ダメージが入った反応を見て、そのまま腹を蹴りつけた。
ガギ「ピシャァァァァ……」
シルバゴン「グルルルッ!! キシャァァアァオオン!!!」
続いてシルバゴンも向かってきて、その短い腕をエックスに叩きつけようとする。
彼はガギにしたように腕で受け止めようとしたが――
96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:00:55.70 ID:7AXxKSe50
エックス「――デアァッ!?」
その力は予想以上で、エックスは跳ね飛ばされてしまった。
美波『――くぅっ!』
エックス『大丈夫か、美波!? 痛くないか!?』
美波『は、はい……プロデューサーさんの身体、たくましいから……思ったより痛くないです……』
エックス『そうか。案外相性いいのかもしれないな、私たち』
などとやり取りしている間にもシルバゴンは迫ってくる。
97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:01:29.30 ID:7AXxKSe50
エックス「――Xダブルスラッシュ!」
両腕でX字を描くように振り下ろすと光刃が二発翔んだ。
シルバゴン「シャァァァァ……!!」
エックス「……!」
しかし命中したにもかかわらず全く応える様子がない。
ガギ「ピシャァァァァァ!!!」
すると突然、ガギが横からシルバゴンに襲い掛かった。
体当たりしてよろめかせ、自慢の爪を振り下ろす。だが――
98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:01:59.14 ID:7AXxKSe50
ガギ「ピシャァァァァァ!!?!?」
エックス「!」
なんと逆にガギの爪が途中で折れ、弾き飛んだのだ。
美波『あの銀色の皮膚……すごく硬くなってるみたい……!』
エックス『力だけでなく防御にも優れているとは……!』
シルバゴン「キシャァァアァオオン!!!」
シルバゴンの剛腕がガギの横っ面を殴りつける。
ガギ「ピシャァァァァ……」
シルバゴン「グルルルルッ!!」
次の瞬間――
99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:02:48.83 ID:7AXxKSe50
美波『――きゃあああーーっ!!??』
美波が悲鳴を上げるのも無理はなかった。
シルバゴンの牙がガギの首を突き刺したからだ。
シルバゴン「キシャァァァァ……オオンッ!!」
そして強引に首の肉を噛みちぎる。大きく窪んだ赤い傷跡から大量の血が噴き出す。
エックス「――ッ!」
あまりのショッキングな光景にエックス=美波が呆然とへたり込んでしまう。
ガギ「…………」
ガギはそのまま斃れた。口の中の肉片を咀嚼し飲み込むと、シルバゴンはエックスの方を振り返る。
100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:04:06.11 ID:7AXxKSe50
美波『や……やだ……嫌ぁ、来ないでぇ……』
エックス『美波、落ち着くんだ!』
美波『いやああああああっ!!』
頭を抱えて蹲ってしまう美波=エックス。その耳の奥にシルバゴンの雄叫びが響いて――
シルバゴン「――キシャァァァァアアアッッ!!!」
美波『……っ!!』
目元に涙を浮かべながら衝撃に備えようとする美波。だが……。
美波『……?』
エックス『ん……?』
101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:04:54.87 ID:7AXxKSe50
どういうことか、シルバゴンは何もしてこなかった。
シルバゴン「グルルルル……?」
首をちょこんと傾げ、辺りをきょろきょろと見回す。
まるで、目の前にいるエックスを見失ったかのように。
エックス「……?」
不思議に思いながらエックスが立ち上がる。すると――
シルバゴン「! キシャァァァァ!!」
シルバゴンが襲い掛かってきた。不意を突かれてまともにダメージを受けてしまう。
エックス「グアァ……ッ!」
シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!!」
102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:05:36.82 ID:7AXxKSe50
後方に転がって、再びダンゴムシのように丸くなるエックス。
すると今度もシルバゴンが攻撃をやめたのだった。唸り声を上げながら辺りを見回している。
美波『……もしかして』
エックス『こいつ、動いているものしか見えないのか……?』
試しに、シルバゴンが背を向けた瞬間、飛びかかってキックを入れてみる。
エックス「デヤッ!」
シルバゴン「!」
そして振り向いた瞬間、動きを止める。シルバゴンが再び辺りを見回す。
予想通り、シルバゴンは今のエックスを視認できていないらしかった。
エックス『これは大発見だぞ、美波! これでこの怪獣を攻略できる!』
美波『わ……わかりました。やってみます!』
103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:06:12.64 ID:7AXxKSe50
エックス「――テェイヤッ!!」
隙を突いて腹を蹴り飛ばす。
シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」
その体勢のままエックスは静止する。シルバゴンは見失う。
エックス「…………」
シルバゴン「グルルルル……」
見えていないはずだがシルバゴンの金色の瞳がエックスを捉えている。
美波『…………』
唾を呑み込む。背筋に冷や汗が落ちるようだった。
次第に体勢が維持できなくなって、ぷるぷると身体が震え出す。
104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:07:17.89 ID:7AXxKSe50
シルバゴン「! キシャアアアアアアアッ!!」
エックス「グアアッ!!」
それによって感知されたエックスはシルバゴンに蹴飛ばされた。
エックス「グ……ッ」
再び静止しようとする。しかし嫌でも脳裏にガギの最期が過ぎってしまう。
弱点なんて勘違いで、今にも怪獣の牙が私の首に噛みついてくるのでは――そんな妄想が離れない。
シルバゴン「キシャアアアアアアアオオオン!!!」
エックス「デアアッ……!」
またしても集中が途切れて攻撃を受けてしまうエックス。
そのカラータイマーが赤く点滅し始めた。
105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:08:00.48 ID:7AXxKSe50
エックス『くっ……美波、集中するんだ!』
美波『で、でもぉ……!』
美波の様子にエックスは考え直す。如何に大人びているといえどまだ19歳の少女なのだ。
ユナイトする前の態度だって気丈に振る舞っていたに過ぎない。
戦闘においては、美波は初期の大地以上に素人だ。
その方向の期待を持つのは酷というものだろう。ならば――
エックス『――美波。なら、君の一番集中できるポーズをするんだ!』
美波『一番集中できるポーズ……?』
エックス『そうだ。ひとつくらいあるだろう? なんたってグラビア雑誌に引っ張りだこの君なんだから』
美波『も、もう~っ! ちょっと恥ずかしいんですよ、あれ……』
エックス『少しくらいなら私も我慢する! みんなを守るためだ!』
106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:08:35.23 ID:7AXxKSe50
美波『――! みんなを……守るため……』
その一言に美波は覚悟を決めた。
美波『二度目ですけど――美波、いきますっ!!』
シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」
蹴り飛ばそうとするシルバゴンの足を転がって避け、怪獣の側面に移動する。
咄嗟に振り向いたシルバゴンだが――
シルバゴン「……?」
エックスの完璧な静止によって完全に見失ってしまった。
凛「……何、あれ……」
美波の得意なポーズ――セクシーポーズでの静止によって。
107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:09:27.27 ID:7AXxKSe50
エックス『み……美波……これは……』
美波『やれって言ったのはプロデューサーさんですよっ! このままいきますからね!!』
エックス『ちょ、ちょっと!!』
シルバゴンが向こうを向いたと同時に動く。
動く気配を察知してかシルバゴンがばっと振り向く。しかし既にエックスはセクシーポーズを取っていた。
頭の後ろに右手をやり、左手をくびれに、そして腰をくねらす例のポーズである。
シルバゴン「グルル……?」
そんなシュールな絵面もシルバゴンの目には映らない。
再び隙を突いて飛びかかる。胸に肘を打ち込み、顎の下から裏拳を叩き込む。
シルバゴン「キシャアアアアアアア……!!」
108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:10:02.77 ID:7AXxKSe50
エックス「エェーーックス!!」
その場でジャンプして、落下の勢いと共に頭頂にチョップを叩きつける。
シルバゴン「キシャァァァァオン……!!」
足をぺたんと地面につけ、太腿の間に両手を突くエックスを見失う。
足を組ませながら寝そべるエックスを見失う。
両腕を頭の後ろにやって胸を反らせるエックスを見失う。
次第に苛ついてきたのかなりふり構わず攻撃をし始めるが、全て空を切る。
しかしそれは逆に隙を増やしてしまうのだった。段々と美波に余裕が戻り始める。
美波『プロデューサーさん、そろそろキメましょう!』
エックス『わ……わかった……』
対照的にエックスの声は疲労困憊していた。
109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:10:46.60 ID:7AXxKSe50
エックス『この……カードを……』
美波『はいっ!』
『サイバーゴモラ ロードします』
サイバーカードをロードすると、エックスの上半身に青いアーマーが装着された。
『サイバーゴモラアーマー アクティブ!』
シルバゴン「キシャアアアアアアア!」
突然エックスの姿が変わったことに驚いたのか、シルバゴンも同じように装着ポーズを取った。
しかし自分の身体には変化がないと知ると短い腕を振り回しながら地団太を踏み始める。
110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:11:31.56 ID:7AXxKSe50
美波『ふふっ、聞き分けない子みたいでちょっと可愛いかも……♪』
エックス『そうかな……』
美波『行きますよ、プロデューサーさんっ!』
エックス『おう……』
アームアーマーの巨大な爪を鈍く光らせ、エックスが走る。
振り回されたシルバゴンの尻尾を受け止め、こちらに向けられた背中に左の爪を振り下ろす。
シルバゴン「キシャァァァオオン……!!」
エックス「ジュアッ!!」
こちらに振り向こうとした顔を返す刀で斬りつける。
火花が飛び散り、怪獣はよたよたと後ずさりした。
111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:12:22.76 ID:7AXxKSe50
エックス「オオオオオオオ……!!!」
それを見てエックスがアーマーの力を解放していく。
青白いスパークが帯びるアームをシルバゴンの身体に向ける。
美波『――ゴモラ振動波!!』
エックス「――イィッ、サアァーーッ!!!」
突き出された両アームから青い波動が放たれシルバゴンを襲う。
怪獣の身体はしばらくびくびくと痙攣していたが、やがてそれも絶え、
シルバゴン「シャォォォォグルルルルル……」
断末魔と共に倒れ、爆発が巻き起こった。
凛「やった!」
李衣菜「やったぁーーっ!!」
蘭子「やった! やった!!」
その煙の中に青い光が集っていくのを眺めている凛と、抱き合いながら歓喜する李衣菜と蘭子なのだった。
112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:13:04.74 ID:7AXxKSe50
・
・
・
―――車中
P「いやー、一時はどうなることかと思いましたよ」
帰りの車中。先に逃げ出したスタッフたちが『出口の虹』を発見しており、それを伝えてくれたため皆は無事元の世界に戻る事ができていた。
李衣菜「死亡フラグを覆すなんて……まさにロック!」
P「わけがわからない……」
そんなふうに、車内に安堵と和やかなムードが満ちている一方で……。
エックス『…………』
一方で、エックスは類を見ない落ち込み方をしていた。
凛「そんなに落ち込まないでよ。『あれ』はここだけの話にしておいてあげるから」
蘭子「心の箱舟に乗せ、来世の時まで口を噤んでいようぞ」
李衣菜「そうそう。それにウルトラマンがあんなことするなんて、逆にロックじゃない?」
楓「ロックと言えば、お酒が欲しくなりましたね~」
P「強引過ぎじゃないですか……?」
113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:13:49.82 ID:7AXxKSe50
美波「…………」
凛「ん? どうしたの、美波」
美波「え、えっと……その……」
さっきから黙り込んでいた美波は何故か火が出るほど真っ赤になって両頬に手を当てている。
美波(わ、私……プロデューサーさんと……)
エックス『――美波』
美波「ひゃ、ひゃいっ!?」
エックス『まぁ……色々あったが、よく戦ってくれた。感謝している』
美波「は、はぁ」
エックス『最高のユナイトだった』
美波「は、恥ずかしいこと言わないでください~~っ!!」
エックス『え、何がだ!? 何が恥ずかしいんだ!?』
それから帰りの道中は(主に楓から)散々はやしたてられる美波とエックスなのだった……。
第二話 おわり
114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:15:05.69 ID:7AXxKSe50
≪アイドルの怪獣ラボ≫
美波・エックス「「美波の怪獣ラボ!」」
美波「今回の怪獣は……これだぁっ!」
『シルバゴン 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106612.jpg
エックス『“剛力怪獣”シルバゴン。その名のとおり銀色の皮膚が特徴的な怪獣だ!』
美波「硬くて大きくて強い……三拍子揃ったまさにシンプルイズザベストの正統派怪獣ですね!」
エックス『しかし動いている物しか見えないという致命的な弱点があるぞ!』
美波「みんなはシルバゴンに遭遇したら死んだふりしようね♪」
エックス『そんな、熊みたいな……』
美波「元は『ウルトラマンティガ』第26話の怪獣。ガギⅡを圧倒し、ティガのパワータイプにも負けない怪力を発揮しました!」
美波・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 20:15:46.62 ID:7AXxKSe50
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
美城プロの楽器系アイドルが集まる「アイドルムジークフェスタ」が開幕! うちの部署からはゆかりちゃんが参加します!
と、そんなとき怪獣が飛来! ゆかりちゃん、ここは私に任せて存分に演奏してください!
ってあの怪獣、急に敵前逃亡し始めましたよ!? 何で!?
次回、ウルトラマンXP第三話! 『純粋奏者』 奏でろ、勝利のメロディー!
120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:28:09.67 ID:XcQWHu/i0
第三話 『純粋奏者』
―――クラシックホール
スタッフ「はい、オッケーでーす!」
演奏が終わると、スタッフの声が飛んだ。
クラシックホールのステージ、リハーサル終了である。
星花「お二人とも、素晴らしい演奏でしたわ!」
ゆかり「星花さんこそ。本番もばっちりですね」
音葉「私たちの三重奏……皆さんの心に暖かな風を吹き込むような……そんな演奏にしましょう」
ゆかり「はいっ」
この日、このホールでは346プロ主催のアイドルムジークフェスタが開かれることになっていた。
楽器を趣味にするアイドルたちを集め、ユニットを組ませたりソロで参加したりしての演奏会だ。
ゆかりはフルート担当としてピアノの梅木音葉、ヴァイオリンの涼宮星花とトリオを組んで三重奏を披露することになっていた。
他の参加アイドルにはギターの木村夏樹、サックスの東郷あいなどがおり、それぞれ順番にリハーサルをこなしていた。
121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:28:52.23 ID:XcQWHu/i0
―――事務所
卯月「おはようございまーす」
エックス『おっ。おはよう卯月。もうお昼だが』
卯月「そっかぁ……じゃあ『こんにちは』ですかね……。こんにちはです……? こんにちはます……?」
美波「普通に『おはよう』でいいんじゃないかしら……」
卯月「うーん……日本語の挨拶は奥深いですね……」
凛「外国人みたいなこと言わないの」
卯月「えへへ……。未央ちゃんは? まだですか?」
事務所をぐるりを見回す卯月。ソファには美波と、その肩に寄りかかって昼寝しているこずえ。
凛はプロデューサーのデスクの近くで資料を捲っており、卯月の位置からは見えなかったが机の下に輝子が潜っていた。
122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:29:45.82 ID:XcQWHu/i0
凛「もうじき来ると思うけど」
卯月「珠美ちゃんと裕子ちゃんはお仕事でしたっけ。あとはゆかりちゃん……」
凛「ゆかりも仕事だよ。アイドルムジークフェスタ。リハがあるからもう会場入りしてる」
卯月「ああ……。ゆかりちゃん一生懸命練習してましたよね。私も聴きに行きたかったです」
凛「私たちも仕事だけどね」
卯月「そうでしたぁ~……」
オーバーリアクション気味にがっくりと肩を落とす卯月を凛は微笑ましげに見ていた。
123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:30:48.23 ID:XcQWHu/i0
―――コンサートホール・楽屋
ゆかりは楽器の調整や楽譜の再確認をしていたが、ふと思い出して音葉に声を掛けた。
ゆかり「そういえば音葉さん、お聞きしたいことがあるのですが」
音葉「何ですか?」
ゆかり「音葉さんってよく音を独特な言い回しで表現しますよね。温度とか色とか……」
音葉「そうですね……私にはそう感じ取れるので」
ゆかり「では、私のフルートはどういうふうに感じられますか? 少し気になったもので」
音葉「そうですね……ゆかりさんのフルートの音色は『冷たい』ように感じられます」
ゆかりはちょっと意外そうな顔をした。
124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:31:25.50 ID:XcQWHu/i0
ゆかり「冷たい……ですか。私の演奏は」
音葉「……あぁ」
取り直すように音葉は首を横に振った。
音葉「語弊のある言い方をしてしまいましたね……冷酷とか冷徹とか、そういうマイナスイメージの意味ではなくて……」
そう言うと音葉は言葉を探すように考え込んでいたが、星花の顔に視線が止まると急に思い出したふうに、
音葉「――あ。そうです、『涼しい』という言い方のほうが良かったですね」
そう言って、おっとりと微笑んだ。
星花「あ、私の苗字が『涼宮』だからでしょうか?」
音葉「はい。それで思い出させてもらいました」
ささやかに笑い合う二人だったが、ゆかりの方は首を傾げていた。
125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:32:37.06 ID:XcQWHu/i0
ゆかり「涼しい……ですか。それは心地よいとか、爽やかとか、そういうことですか?」
音葉は頷く。
音葉「何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます」
星花「確かにゆかりさんのフルートを聴くと心が癒されますわね」
ゆかり「なるほど……そう言ってもらえると嬉しいです」
と、納得しかけたゆかりだったが、
音葉「ですが――」
突然逆接の言葉が出てくるものだから更に戸惑うはめになった。
ゆかり「で、ですが何でしょう?」
126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:33:26.19 ID:XcQWHu/i0
音葉「その一方で、暖かみも感じられます。これは私の感覚ではなくて、文字通りの意味なのですが」
ゆかり「……?」
音葉「私の知覚で言うとゆかりさんのフルートは『涼しい』です。ですが、それは同時に『暖かみ』という効果もある……ということです。わかりますか……?」
ゆかり「音自体は涼しいけれど、暖かい音と同じような効果もある……ということですか……?」
音葉「そう、その通りです。さっき星花さんも仰いましたが……殺伐とした心を『癒す』ような……そんな暖かさがあると私は思います」
ゆかり「難しいですね……」
星花「それだけゆかりさんのフルートが魅力的なんですよ。ねえ、音葉さん?」
音葉「はい。それは間違いありません」
そう言って音葉はそよ風のように笑んだ。
127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:34:04.23 ID:XcQWHu/i0
―――撮影スタジオ
カメラマン「はーい、いいよー! 凛ちゃん、卯月ちゃんの方にもっと寄って寄ってー!」
凛「は、はいっ」
ニュージェネレーションズの三人は社内のスタジオでピンナップの撮影をしていた。
卯月が撮影の合間にちらと壁時計を見ると、午後五時二十五分だった。
卯月(そろそろ開演でしょうか……頑張ってくださいね、ゆかりちゃん……!)
フラッシュを瞬かせながらシャッター音を連続させる一眼レフのカメラ。
三人は集中しながら笑顔を浮かべ、ポーズを取り、写真を撮られていたが、
凛(……ん?)
卯月(あれ?)
128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:34:38.50 ID:XcQWHu/i0
未央(カメラの故障……?)
気付くと、いつの間にかシャッター音が立たなくなっていたのだ。
確かに設定変更をすれば消せるだろうが、カメラマンにそういう素振りは全く見られなかった。
カメラマン「んん?」
カメラマンも不審に思ったのだろう、手持ちのカメラを検め始めた。
未央「ね、どうしたんだろう?」
凛「カメラ、故障したのかな」
スタジオ内が妙な空気に包まれた、その時――
突然、場内スピーカーから鬼気迫った声が流れ出した。
129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:35:14.16 ID:XcQWHu/i0
アナウンス『お知らせします! 東京渋谷区に怪獣が出現! 直ちに避難してください!』
スタジオに動揺が走り、スタッフたちがざわめき出す。
渋谷区といえば346プロがあるこの場所だ。
アナウンス『これは訓練でも何でもありません! 直ちに避難してください!! 繰り返します――』
凛「卯月、未央!」
卯月「は、はいっ!」
未央「うん!」
ニュージェネレーションズの三人は顔を見合わせて、スタジオを飛び出した。
130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:35:46.44 ID:XcQWHu/i0
廊下を走りながら凛がスマホでネットを立ち上げる。
凛「宇宙から飛来した怪獣……現在渋谷区五丁目を移動中……って、すぐそこ!?」
未央「嘘ぉ!?」
凛「半径3㎞に緊急避難指示を発令、5㎞に注意報を発令……ってことは」
卯月「文化会館のゆかりちゃんたちは大丈夫みたいですね。良かった……」
未央「ふ、二人とも! あれ!」
突然未央が窓の外を指さす。夕焼け空の下、割合近くに怪獣の姿が認められた。
黒い二足歩行の怪獣。恐竜のような頭部の両側には翼のようなヒレが広がっている。
背中と腰からはナイフのような細い翼が一対ずつ生えていた。
怪獣「グギャアアアアアアオン!!!」
怪獣の雄叫びにびくっと身体を震わせながらも、三人は事務室まで急いだ。
131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:36:17.84 ID:XcQWHu/i0
―――事務室
卯月「プロデューサーさんっ!」
エックス『来てくれたか!』
未央「もちろん! さてどうする?」
卯月「こ、今回は私に行かせてください!」
凛「卯月……」
卯月「大丈夫です! 私、二人よりお姉さんですし!」
未央「わかった。頼んだよ、しまむー!」
凛「プロデューサー、絶対に怪我させないでよ」
エックス『わかってる!』
132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:36:50.06 ID:XcQWHu/i0
卯月は事務所から出ると、デバイスをXモードに変形させた。
卯月「島村卯月、頑張りますっ!」
エックス『よし、行くぞっ!』
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
卯月「――エックスーーーーーっ!!!」
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:37:23.73 ID:XcQWHu/i0
怪獣「グギャアアアアアアオン!!」
エックス「ハァ――セアァッ!」
怪獣とエックスが対峙する。じりじりとビル群を縫うように移動しながら間合いを計る。
怪獣「ギーギャォオオオオン!!」
怪獣が咆哮したのを機としてエックスが駆け出した。しかし――
エックス「……デアッ?!」
ある違和感を覚えたエックスは立ち止まった。すると怪獣の方から突っ込んでくる。
怪獣「グギャァァアアアアアアオン!!」
エックス「! ハァッ!」
134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:37:55.75 ID:XcQWHu/i0
ドスンドスンと地響きを立てて迫ってくる怪獣。
対して再び走り出すエックスの足音は、そこだけ抜け落ちてしまったかのように全くの無音だった。
エックス「……!?」
怪獣「ギャアアアーーーオオオン!!」
狼狽えているところに腕を叩きつけられ、体勢が崩れる。
エックス「グッ」
怪獣「ギアアアアアオオン!!」
怪獣の巨体が迫り、再び腕を叩きつけようとしたが、しゃがんで躱す。
エックス「テェヤッ!」
そして、すかさず蹴りを入れる。怪獣もよろめいて、後ずさった。
135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:38:27.17 ID:XcQWHu/i0
エックス『そうか……思い出したぞ。この怪獣、ノイズラーだな』
卯月『知ってるんですか?』
エックス『ああ。音を食べてしまう怪獣だ』
卯月『音を……食べる……?』
エックス『食べられた音は聞こえなくなってしまう。だから私の足音もなくなってしまったんだ』
卯月『ああ……! それであの時……』
撮影スタジオの時も。シャッター音だけ消えていたのはノイズラーに食べられたせいだったのだ。
卯月『それにしても……おいしいんですかね……? 音って……』
エックス『……。さあ……』
136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:39:06.32 ID:XcQWHu/i0
ノイズラー「グギャアアアアアアオン!!」
ノイズラーの頭部のヒレが黄色い光を帯びると当時に、目から光線が発射された。
エックス「! グアアッ……!」
命中して、後方に吹っ飛ばされるエックス。
よろよろと起き上がると再び頭部のヒレが光っていた。
エックス「デアァッ!」
横っ飛びして光線を躱すと同時にXスラッシュを放つ。
怪獣も軽やかな動きでそれを回避した。
エックス「ハァッ、デアッ!」
起き上がったエックスが再びファイティングポーズを取る。
ノイズラーも好戦的に構えを取った。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」
137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:39:35.96 ID:XcQWHu/i0
―――コンサートホール・楽屋
一方、コンサートホール。
避難指示は発令されていなかったが、怪獣出現のニュース自体は伝えられていた。
ゆかり「……皆さん、大丈夫でしょうか……」
音葉「ゆかりさん。気持ちは分かりますが、音を乱してはいけませんよ」
ゆかり「は……はい。大丈夫です。練習したとおりに……」
楽屋のモニターを見ると、ステージには夏樹がギターを引っ提げて登場したところだった。
やがて演奏が始まり、激しいギターサウンドがかき鳴らされる。
星花「夏樹さんのギターは熱い……でしょうか?」
星花が音葉を振り返ってそう言う。
音葉「そうですね。ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……」
と、その時。三人は同時にドアが乱暴に開かれる音を耳にした。
138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:40:07.53 ID:XcQWHu/i0
―――渋谷区
時は少し遡って、渋谷区。
ノイズラー「――!」
ノイズラーの耳がぴょこぴょこ動いたと思うと、突然エックスを無視して明後日の方向に顔を向け始めた。
エックス『どうしたんだ、こいつ……?』
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」
エックス「!」
エックスが驚く。ノイズラーがいきなり飛び上がり、逃げ始めたのだ。
139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:40:38.57 ID:XcQWHu/i0
卯月『こ、これ、逃がしちゃっていいんでしょうか!?』
エックス『宇宙に帰るつもりではないようだ。逃がすわけにはいかない!』
卯月が持つデバイスにカードが転送されてくる。
エックス『卯月、それを使え!』
卯月『わ、わかりました!』
『サイバーエレキング ロードします』
サイバーカードをロードするとエックスの上半身にアーマーが纏われていく。
右腕にはキャノン砲、左肩にはエレキングの頭部を模したパーツが装着された。
『サイバーエレキングアーマー アクティブ!』
140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:41:09.58 ID:XcQWHu/i0
卯月『――エレキング電撃波!!』
エックス「イィッ、サァァーーッ!!」
エックスが砲身を突き出す。空を行くノイズラーの頭部のヒレがぴくっと動いた。
猛スピードで襲い掛かる青・黄・緑の三色を交えた光線。しかし激突するかと思われた寸前、ノイズラーがさっと横に躱した。
エックス「!」
虚空へ消えて行ってしまう電撃波。こうしている間にもノイズラーの影は遠くなっていく。
エックス「――ジュワッ!」
エックスもまた飛び上がり、ノイズラーの追跡を始めた。
その背中に向けて電撃波や光のロープを放つが、ノイズラーは背を向けているにもかかわらずそれら全てをことごとく躱していく。
141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:41:47.64 ID:XcQWHu/i0
卯月『ぜ、全然当たりませんよ!?』
エックス『こちらが攻撃を放つ寸前、耳が動いてるな』
卯月『耳ってあの頭のヒレのことですか? た、確かに……そうですね』
エックス『恐らく私たちの動きによって生じる微かな音を感じ取れるのだろう。だから見えていなくても攻撃を察知して躱せるというわけだ』
卯月『……! いったいどうすれば……!』
追跡劇を繰り広げている間に怪獣とエックスは渋谷区を越えて東の港区へ入っていた。
凄まじい速度で飛行する両者は首都高速3号に沿うように港区を北上し、千代田区へ。
国の中枢であり、怪獣の脅威にてんやわんやする霞が関をスルーして、更に北東へ――
瞬く間に変化する避難区域に台東区が含まれたのも、この時だった。
そう。今まさに夏樹がギターを奏でているステージがある、台東区に……。
142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:42:29.30 ID:XcQWHu/i0
―――コンサートホール・楽屋
乱暴に開かれたドアを振り返ると、息を切らしたスタッフが駆け込んでくるところだった。
スタッフ「た、大変です。避難指示がここにも来ました。怪獣がこっちに向かってるそうです!」
三人「!」
間を置かずアナウンスが鳴って、会場中にそれが知らされた。
モニターを見ると演奏は中止になり、観客は恐慌状態になっている。だが――
突然かき鳴らされたギターの旋律に皆が静まった。
注目の的になった夏樹がマイクを手に取り、客席に訴える。
夏樹『みんな! パニックになって逃げだしたら怪我人が出るかもしれない! 後ろの席の人から落ち着いて避難して!』
ゆかり「夏樹さん……」
星花「夏樹さんは強い御人ですわね……」
音葉「私たちも避難しましょう」
頷いて部屋を出る。その際にゆかりがモニターを振り返ると、夏樹はまだステージに立っていた。
みんなを落ち着かせるためか、静かなメロディーを一人で奏でていた。
143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:42:58.52 ID:XcQWHu/i0
―――台東区上空
台東区に入って少しするとノイズラーが下降を始めた。
この状態で攻撃すると地上に被害が出てしまいかねない。一旦攻撃をやめ、エックスもまた降下し始めた。
ノイズラー「ギアアアアアオオン!!!」
卯月『ここって……!』
東京文化会館。アイドルムジークフェスタの会場だ。
卯月『音を食べる怪獣……そっか! 美味しい音を食べたくてここまで来たんですね!』
ひとりで納得する卯月だったが、ユナイトはそろそろ限界に近付いていた。
カラータイマーが点滅し始める。
144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:43:31.48 ID:XcQWHu/i0
エックス『まずいな、時間がない!』
卯月『早めに片付けちゃいましょう――きゃあっ!?』
卯月が悲鳴を上げる。
ノイズラーの光線がエックスの身体を襲ったのだ。
エックス「デヤァ……ッ!」
膝を突くエックス。カラータイマーは絶えず鳴り響いている。
ノイズラー「グギャアアアアアアアアアアオン!!!」
まるで怒り狂っているかのようにノイズラーが猛烈な勢いで突進してくる。
何とか抑えつけるも、ノイズラーはすぐさま頭突きを繰り出してきた。
エックス「グアアアッ!!」
145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:44:02.34 ID:XcQWHu/i0
卯月『も、もしかして、このカラータイマーが気に入らないんですかぁ!?』
エックス『くっ……卯月、一旦ユナイトを解除するぞ! これ以上続けたら君まで危ない!』
卯月『で、でも!』
エックス「ハアアッ!」
卯月の反論は聞かず、エックスがユナイトを解除した。
怪獣からは少し離れた場所に卯月の身体が解放される。
卯月「ぷ、プロデューサーさん!?」
エックス『大丈夫だ、ここにいる』
デバイスの画面を見るとエックスの顔が映っていて卯月は安堵した。
しかし怪獣はまだ健在だ。絶望的な気分で見上げると――
146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:44:31.69 ID:XcQWHu/i0
卯月「……あれ?」
ノイズラー「……グギャアァァァオン……?」
カラータイマーの音が消えたからだろうか、ノイズラーは一転大人しくなっていた。
そして辺りをきょろきょろと見回している。まるで、何かを探しているかのように。
卯月「な……何してるんでしょう……?」
エックス『演奏の音を探しているのか……?』
卯月「あ……そっか……。みんな避難しちゃって演奏が終わっちゃったから……」
ノイズラー「グギャアァァァオン……!」
するとノイズラーはその場で地団太を踏み――
147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:45:01.23 ID:XcQWHu/i0
ノイズラー「ギャアアアーーーオオオン!!!」
近くにあった建物を蹴り飛ばした。
エックス『!』
卯月「ぷ、プロデューサーさん……! もう一度ユナイトしましょう……!」
エックス『無理だ! 今の君のダメージを考えたら、ユナイトしたってまともには戦えない!』
卯月「でも……!」
その時――
ゆかり「卯月さーん!」
ドレス姿のゆかりが卯月の元まで走ってきた。
148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:45:32.33 ID:XcQWHu/i0
卯月「ゆかりちゃん! ここは危険ですから、早く――」
ゆかり「いいえ。私もみんなを助けるために戦います!」
そう言い放つゆかりの脳裏には先程の夏樹の姿が残っていた。
ファンの前では決して動揺せず、皆を安心させて避難させた、あの毅然とした姿が。
ゆかり「あの怪獣……もしかして演奏を聴きにここまで来たのではありませんか?」
卯月「あ……はい。たぶんそうかなって」
エックス『だが妙なのはタイミングだ。演奏が聴きたいだけならそもそも最初からこの場所に来ればよかったのに……』
ゆかり「……もしかして、音に好き嫌いがあるとか?」
卯月「あっ……確かに、カラータイマーの音は嫌いなようでした……」
149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:46:03.37 ID:XcQWHu/i0
ゆかり「つまり、好きな音楽が演奏されたからそれを聞きつけてこの場所まで来た……そういうことですね」
エックス『その音楽が何かわからないか?』
ゆかり「タイミング的に考えると、ギターのものだと思います。夏樹さんが演奏を始めたばかりでしたから」
卯月「ギター……ですか」
ゆかり「プロデューサー」
ゆかりが卯月の手からそっとデバイスを取り上げる。
ゆかり「私とプロデューサーの力を合わせれば、あの怪獣を大人しくさせられます」
エックス『……ああ。わかった、行こう!』
ゆかりは頷くと、卯月の方を振り向いて言った。
150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:46:36.50 ID:XcQWHu/i0
ゆかり「ごめんなさい。ちょっとプロデューサー、お借りしますね」
卯月「はっ……はい。頑張ってください!」
ゆかり「はい。――行きましょう!」
ゆかりがデバイスをXモードに変形させると、エックスのスパークドールズが出現した。
それを包み込むように優しく掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
すうっと息を吸って、ゆかりが叫ぶ。
ゆかり「――エックスーーーーーっ!!!」
掲げ上げたデバイスからX字の光が放たれ、彼女を包み込み――
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
その中から現れたエックスが、電光を撒き散らしながら地上に降り立った。
『エックス ユナイテッド!』
151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:47:44.77 ID:XcQWHu/i0
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」
再び現れたエックスにノイズラーがファイティングポーズをとる。
ゆかり『プロデューサー、行きますよ――』
しかしゆかりはそれに取り合わず、転送されたサイバーカードを受け取った。
『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』
それをロードすると、突き出されたエックスの手のひらの中に青い笛のようなものが出現した。
“ナイトティンバー”。ビクトリーナイトが持つ神秘の剣で、今はティンバーモードという横笛の形態をとっている。
エックス「!」
エックスはその唄口に口を近づけて、演奏を始めた。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」
その音が耳に入るや否やノイズラーが激昂し始めた。
152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:48:16.61 ID:XcQWHu/i0
ゆかり(大丈夫……)
音葉の言葉を思い出す。
『何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます』
『殺伐とした心を「癒す」ような……そんな暖かさがあると私は思います』
彼女はゆかりのフルートをそう評価した。
そしてノイズラーが好む夏樹のギターの音は、
『ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……』
正反対の音なのだからノイズラーが気に入らないのは仕方がない。
だが「癒し」の力はきちんとあるはずだ。これは楽器が違っても、ゆかりの心の表出なのだからぶれることはないだろう。
ゆかり(あとは、怪獣さんに私の演奏を気に入ってもらうだけ――)
今にも襲い掛かろうとするノイズラーを前にゆかりは冷静だった。
ナイトティンバーのあるキーに指を掛ける。すると――
153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:48:56.04 ID:XcQWHu/i0
ノイズラー「!」
出された音にノイズラーが反応し、ぴたりと動きを止めた。
ナイトティンバーは神秘の楽器。笛の音の他、ギターやドラムに似た音も出すことができるのだ。
ノイズラー「グギャアァァァオン……!!」
ギターサウンドに歓喜しているのか、踊るような挙動を見せるノイズラー。
目の前でそんな反応を見せられたらゆかりの方も楽しくなる。演奏が波に乗る。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン……」
しばらくするとノイズラーが大人しくなった。もういいだろうと考えエックスが笛を下ろす。
ノイズラー「ギアアアアアオオン」
ノイズラーはエックスに背を向け数歩進み、それから夕焼け空に飛び上がった。
お腹いっぱい好物の音を食べたのだ。もう満足しただろう。エックスもそう考えた。
154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:49:26.24 ID:XcQWHu/i0
エックス『一件落着だな』
ゆかり『え? まだですよ』
エックス『えっ?』
驚くエックスを尻目にゆかりはナイトティンバーをソードモードに変形させた。
『放て! 聖なる力!』
エックス『え……!? え!?』
ゆかり『だって、あの子のせいで色んな人が迷惑したでしょう?』
エックス『そ……それはそうだが、ノイズラーだって悪気があったわけじゃ』
ゆかり『宇宙からやって来てそれはないでしょう。こちらの都合もきちんと考えてもらわないと』
エックス『い……一理あるが……いや、でも……』
ゆかり『もういいでしょう。早くしないと届かなくなってしまいます』
エックス『う、うぅ……』
155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:50:00.11 ID:XcQWHu/i0
『スリー! ナイトビクトリウムシュート!!』
三回のポンプアクションの後、剣の峰を左手でさっと払う。
粒子が周囲に飛び、剣を立てるにつれその刀身に集っていき、青い輝きを纏わせていく。
エックス「「――ナイトビクトリウムシュート!!!」」
剣と左腕を十字に組ませると同時に刀身から青白い破壊光線が放たれた。
ノイズラー「――!?」
ノイズラーは自慢の耳でその音を捉えたが、腹いっぱいになった鈍重な身体で反応が一瞬遅れた。
光線が怒涛の勢いで、暗くなってきた夕焼け空を切り裂く。背後からノイズラーの全身を包み込んだ。
ノイズラー「ギーギャォオオオオン……!?!!??」
空中に爆煙が広がる。その中に青白い光が集っていくのを見ながらエックスは剣を下ろした。
エックス『許せ……ノイズラー……』
ゆかり『プロデューサーは優しいですね。そこも素敵ですよ』
エックス『うっ、ううっ……』
156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:50:30.53 ID:XcQWHu/i0
―――街中
卯月「あっ、見つけました!」
戦闘終了後、ゆかりたちは落下したスパークドールズの回収作業にかかっていた。
卯月が路地裏にそれを発見し、ゆかりとエックスの元に持ってくる。
エックス『おお。よくやったぞ、卯月』
卯月「えへへ」
ゆかり「ふふ……私たちの演奏会をめちゃくちゃにした罰、きちんと受けてもらいますよ……」
エックス『ちょ、ちょっとゆかり?』
ゆかり「どうしましたか? プロデューサー」
エックス『私は君を信用しているが、念のため聞いておく。ノイズラーを倒したのは「みんなに迷惑をかけたから」だよな? 決して私怨からではないよな?』
ゆかり「もちろんですよ。私『たち』の演奏会ですから……ふふっ♪」
エックス『…………』
ゆかりの純粋な笑顔に何も言えなくなってしまうエックスなのだった……。
第三話 おわり
157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:51:23.34 ID:XcQWHu/i0
≪アイドルの怪獣ラボ≫
卯月「卯月と!」
ゆかり「ゆかりの!」
卯月・ゆかり「「怪獣ラボ!」」
卯月「今回の怪獣は、これですっ!」
『ノイズラー 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106830.png
エックス『“騒音怪獣”ノイズラー。音を食べてしまう習性を持っているぞ!』
エックス『また、耳がかなり良く、音で攻撃を察知して素早い動きで躱してしまうんだ!』
ゆかり「元は『ウルトラマン80』第7話の怪獣。その子はカラータイマーの音を聞いただけでげんなりして帰ってしまったようですね」
卯月「こっちの子は暴れん坊だったんですね~」
卯月・ゆかり・エックス「「「次回も、お楽しみに!」」」
158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:51:54.55 ID:XcQWHu/i0
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
突如飛来し東京を襲撃した“極悪宇宙人”テンペラ―星人!
何でも、プロデューサーさんを倒して宇宙一の称号を得たいらしいです。プロデューサーさん、そんなに凄い人だったんですね……。
それはともかく、立ち向かうのは凛ちゃん! 頑張ってください!
次回、ウルトラマンXP第四話! 『不可思議突入、五秒前!』 ふわぁ……ちょっとお昼寝です……。
164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:29:49.65 ID:nSOQPuCR0
第四話 『不可思議突入、五秒前!』
―――事務所
それは、突然のことだった。
こずえ「ふわぁ……」
ゆかり「ふふっ。こずえちゃん、おねむですか?」
こずえ「……んー……こずえ……おひるねー……」
珠美「こ、こずえちゃん! まだ仕事が残っておりますぞ!」
こずえ「ふわぁ……ぷろでゅーさーがぁ……つれてってくれる……よねー……?」
エックス『えっ、いや……今の私には』
珠美「……あっ! そうです、今のエックス殿には無理ですから、ここは『大人のお姉さん』としてこの珠美が送っていってあげますよ!」
裕子「大人の……」
未央「お姉さん……?」
珠美「ちょっとそこぉー! 何で疑問形なんですか!」
165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:30:30.06 ID:nSOQPuCR0
くすくすと笑いが起こる真昼の事務所。
そんな、何気ない日常を破るようにして……。
凛「――!?」
突然、雷鳴にも似た轟音が室内をどよもした。
珠美「な、ななな、何ですかぁっ!?」
窓がびりびりと震える。事務所中の物がかたかたと震動し、デバイスがデスクから落っこちる。
エックス『あだっ!』
卯月「ぷ、プロデューサーさん! 大丈夫ですか!?」
エックス『だ、大丈夫だ……しかし一体何だったんだ?』
166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:31:08.61 ID:nSOQPuCR0
揺れは収まっていた。しかしただの地震だとは到底思えない。
窓際に寄っていたゆかりは、驚いた顔で部屋の方に振り返った。
ゆかり「み、皆さん! あれ……!」
高層ビルの上階に位置するこの部屋からは街を一望することができた。
ゆかりが指さす方向を見る。潰された商業ビルの上に、群青色をした人型が佇んでいた。
凛「あれ、何? 宇宙人?」
エックス『あれは……テンペラー星人だろうか。知っている個体と比べるとずいぶんスタイルが良いが……』
エックスの超視力をもってすれば遠い宇宙人の姿もはっきりと視認できた。
兜のような頭部、甲冑と金のマントを着込んだ胴体。両手は鋏になっており、全体的にすらりとした体形をしている。
テンペラー「――全地球人類に告ぐ!」
裕子「喋りましたよ!? あっ、もしかしてさいきっくテレパシー!?」
ゆかり「地球語練習したんでしょうか?」
凛「そういう問題じゃないと思うけど……」
そんなことを言われているとは露知らず、テンペラー星人は続ける。
167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:31:39.20 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「我が名はテンペラー星人! 要求はひとつ! ウルトラマンエックスを差し出せ!」
エックス『何……!?』
テンペラー「聞き入れられない場合、我らがテンペラー星の科学力をもってこの星を滅ぼす!」
エックス『……っ!』
凛「プロデューサー。駄目だよ、こんなの罠に決まってる」
エックス『だが……』
この世界にはXioはいない。特殊な戦闘部隊がいなければテンペラー星人には敵わないだろう。
エックス『だが、行くしかない。この世界を守るためには戦う以外に道はないんだ』
凛「…………」
凛はじっとエックスの顔を見詰めていたが、やがて諦めたように溜め息をついた。
168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:32:11.65 ID:nSOQPuCR0
凛「わかった。でも、私も一緒に行かせて」
エックス『凛……』
凛「どっちにしろプロデューサーには誰かがついてなきゃ駄目でしょ。今回はそれが私ってだけ」
エックス『わかった。頼むぞ凛!』
頷いた凛は、デバイスを手に部屋を後にした。
卯月「凛ちゃん、大丈夫でしょうか……」
未央「大丈夫大丈夫。私だって勝てたんだから、しぶりんに勝てない道理はない!」
珠美「そうですね。凛殿なら必ずや勝利を手土産に凱旋してくれるはずです」
卯月「そう……そうですよね!」
顔から心配そうな色を消し去り、窓に向き直る卯月。
そんな彼女たちの様子を、こずえはソファにもたれながらぼうっと眺めていた。
こずえ「…………。ふわぁ……」
169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:32:40.64 ID:nSOQPuCR0
凛「プロデューサー、行くよ!」
エックス『ああ。ユナイトだ!』
一方、外に出た凛はデバイスをXモードに変形させた。
出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
凛「――エックスーーーーーっ!!!」
エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」
テンペラー「!」
テンペラーの目の前。着地の衝撃でアスファルトを砕き、その破片を散らしながらエックスが降り立った。
『エックス ユナイテッド!』
170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:33:10.00 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「来たか……ウルトラマンエックス!」
エックス『テンペラー星人! 何が目的で私を呼び出した!』
テンペラー「フフハハハ! 無論、それは貴様を倒し、私が宇宙一の称号を得るためだ!」
凛『……そんなに凄い人だったんだ。プロデューサー』
エックス『いやぁ、それほどでも……』
テンペラー「――行くぞッ!!」
エックス「!」
鋏を構え、テンペラー星人が突撃する。
横に躱してそれを払い、空いたボディーにパンチを数発打ち込む。
171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:33:39.11 ID:nSOQPuCR0
エックス「ハァァ……!!」
テンペラー「グッ……」
叩きつけようとする左鋏を右腕で受け止め、左手で更に拳を入れようとする。
テンペラー「フンッ!」
しかしそれは星人の右鋏に止められた。下から叩き上げられ、すかさずがら空きになった脇に叩きつけられる。
エックス「グッ!」
かなりの衝撃だった。細身に似合わず怪力らしい。
続けざまに鋏が振るわれるが、バク転してそれを躱す。
172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:34:10.05 ID:nSOQPuCR0
エックス「デェアッ!」
テンペラー「デェェェイッ!!」
距離を取ったうえでファイティングポーズをとるが、テンペラーが鋏から電撃鞭を繰り出した。
エックス「ジュアァ……ッ!」
叩きつけられた勢いで一回転して、振り向いたところを返す刀でもう一撃。
全身に痺れが走り、思わず膝を突いてしまう。
凛『く……っ。こいつ、強い……!』
エックス『大丈夫か、凛……!?』
凛『大丈夫。これくらい……!』
173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:34:54.25 ID:nSOQPuCR0
エックス「ハァァッ……!」
力を振り絞り、エックスが立ち上がる。
顔の前に交差させた腕を振り下ろすと、胸のカラータイマーが金色に輝いた。
エックス「ハァァ――!」
カラータイマーに腕を翳してから全身を捻らす。エックスの後方に電子基板のような青白い電光が伸びていく。
テンペラー「ムンッ!」
一方でテンペラー星人も必殺技の構えを取っていた。両手の鋏の中に青白いスパークが漲り――
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!!」
両者同時に光線を発射した。
両腕をクロスさせて放つエックスの青白い光の奔流、ザナディウム光線。
両手の鋏に溜め込んだエネルギーを合わせて放出する、テンペラー星人のウルトラ兄弟必殺光線。
青白い二つの光線がぶつかり合い、その衝撃で周囲の物を吹き飛ばしていく。
174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:35:35.80 ID:nSOQPuCR0
エックス「イィーーッ、サァーーッ!!」
テンペラー「デエアアアアアアア!!!」
互いに譲らない。両者とも足元のアスファルトを反動で砕きながら耐え抜く。
しかし決着は唐突に訪れた。両者のエネルギーが全く同時に尽きたのだ。
エックス「グッ……デアッ……!」
肩で息をしながら膝を突くエックス。しかし――
テンペラー「ヌオオオオオッッ!!」
執念はテンペラー星人の方が上だった。咄嗟に顔を上げると、マントを広げて低空飛行し迫り来る青い体躯が目の前に。
躱すことすらできず激突する。テンペラーの鋏がエックスの首を絞め、地上を引きずり回す。
凛『ぐ……くっ、あぁっ!』
ばたばたと手足を暴れさせると何がダメージになったのかわからないが星人が手を離した。
しかし仰向けに倒れるエックスの目は捉えていた。上空に飛び上がり、旋回して地上向けて突撃してくる星人の影が。
175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:36:06.27 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「ハァァァアアッ!!」
次の瞬間、大地の揺れと共にビルの高さまで土埃が巻き上げられた。
吹き飛ばされたアスファルトやコンクリートの破片が飛び、ビルの壁や路上の車と衝突して破壊音を立てる。
未央「……!!」
事務所からそれを見ていた未央たちは目撃した。
薄れてゆく土埃の中――首を掴まれ宙に持ち上げられる、エックスのぐったりとした姿を。
ゆかり「プロデューサー!」
卯月「凛ちゃん!」
176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:36:36.37 ID:nSOQPuCR0
凛『ぐ……っ! かはっ……』
カラータイマーが甲高い音と共に赤く点滅し始める。
エックスにはもう手足をじたばたさせる体力すら残っていなかった。
至近距離から叩きつけられる電撃の鞭を無抵抗に受け続ける。
エックス「グッ……グアァッ……!」
テンペラー「フンッ!!」
エックス「デアァッ……!」
テンペラーがエックスを放り投げる。
地面に這いつくばるその身体に向けてトドメの攻撃を浴びせようとしていた。
テンペラー「これで終わりだ……!!」
テンペラー星人の鋏にエネルギーが漲っていく。
177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:37:07.70 ID:nSOQPuCR0
凛『ぐ……うぅっ!』
歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。凛がサイバーカードをデバイスにセットする。
『サイバーベムスター ロードします』
サイバーカードをロードするとエックスの上半身に紫色のアーマーが装着されていく。
胸にはベムスターの嘴を、肩にはその爪を模したようなパーツが、そして左腕には腹部の吸引口の力を備えた盾が取り付けられた。
『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
テンペラー星人の光線が発射されるのとエックスが体勢を整えたのが同時だった。
その電流のような光の奔流は、構えられた盾の吸引口に吸い込まれていく。
178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:37:37.55 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「何ッ?!」
凛『ベムスター……スパウトっ!!』
エックス「――デェヤッ!!」
エックスが盾を地面に突き刺すと、蓄えられたエネルギーが逆流して星人を襲った。
テンペラー「グオオオオオオッッ!!」
ウルトラ兄弟必殺光線はウルトラマンに対してのみ絶大な威力を発揮する光線だ。ダメージは薄い。
エックス「イィッサァッ!!」
間を与えず、エックスは盾を外して投擲した。円盤のように回転するそれはよろめくテンペラー星人への決定打となった。
しかしエックスもこの一撃が限界だった。だが相手にそれを悟られぬよう、足腰に力を込めて踏ん張る。
179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:38:06.64 ID:nSOQPuCR0
凛『……はぁっ、はぁっ……』
凛の視界はもう霞んでいた。今にも倒れそうになっていた彼女の目が最後に捉えたのは――
テンペラー「グ……。フフッ……愉しませてくれる……」
そう言って立ち上がるテンペラ―星人の姿だった。
テンペラー「良いだろう……この勝負は引き分けということにしておいてやる……」
その言葉に嘘はないのだろう、星人の声も憔悴の色が隠せないでいた。
180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:38:39.24 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「だが、明日の昼……今日と同じ時間。今度こそ貴様と決着をつけに再び地球に降り立つ」
凛『……はぁ、はぁ……』
テンペラー「その時こそ貴様の最期であり、私が宇宙一の称号を得る時だ! 覚悟しておけ……フハハハハハ!!」
そう捨て置くと、テンペラー星人はマントを広げて空の向こうに飛び去って行った。
凛『……はぁ……はぁ……』
エックス『り……凛……しっかりするんだ……!』
凛『だい……じょう……』
言い終える前に、エックスの身体が崩れ落ち――
181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:39:11.12 ID:nSOQPuCR0
・
・
・
「………………ん! …………ちゃん!」
「……きて……さい……! め…………けて…………さい!」
凛(……卯月……?)
「――凛ちゃんっ!!」
その悲鳴じみた声に、凛は目を覚ました。
182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:39:58.52 ID:nSOQPuCR0
卯月「凛ちゃん……っ!」
目の前には、目元を赤く腫らした卯月の顔が。
凛「う……づき……?」
卯月「凛ちゃん! 気が付いたんですね!?」
凛「うん……。っ!?」
起き上がろうとしたその時、全身に痛みが走った。
卯月「あっ、まだ起きちゃダメです! 安静にしててください」
凛「ごめん……」
身体から力を抜いて状況を確認する。事務所の医務室のベッドの上のようだ。
卯月の他にも未央やゆかり、珠美や裕子……仕事でいなかった美波、輝子も周りにいた。
183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:40:41.74 ID:nSOQPuCR0
凛「……あれ、こずえは?」
卯月「こずえちゃんなら……」
と、備え付けのソファを指さす。こずえはその上ですうすう寝息を立てて眠っていた。
凛「……ふふっ。こずえらしい」
卯月「そうですね」
卯月は微笑みながらそう返すが、凛はもっと重要なことを思い出した。
凛「――そうだ! プロデューサーは!?」
戦闘に敗れたプロデューサーはいったいどうなったのか。
もしかして――と最悪の可能性が頭をよぎるが、
未央「大丈夫。ここにいる」
未央が見せてくれたデバイスの画面を見てほっと胸をなでおろした。
184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:41:21.90 ID:nSOQPuCR0
エックス『すまない凛。心配かけた』
凛「ううん。私こそごめん……」
エックス『何故君が謝る』
凛「私が上手く戦えなかったから……あいつを取り逃がしちゃった」
エックス『それは君が気に病むことじゃない。むしろ君を戦いに巻き込み、怪我をさせてしまった私が謝る立場だ。――すまなかった』
凛「そんな……私から望んだことだから……」
しかし皆の雰囲気は沈痛に満ちていた。
端正な凛の顔のあちこちにガーゼが当てられている。その痛々しい惨状を目にしてはそうならざるを得なかった。
185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:42:16.83 ID:nSOQPuCR0
美波「プロデューサーさん……」
エックス『どうした?』
美波「私、提案があるんです。プロデューサーさんのことを警察や自衛隊の方たちに託すのはどうかって……」
みな少なからず驚いたようだったが、反論を挙げる者はいなかった。
今まさに怪我を負っている凛を除いて。
凛「美波、それは……!」
美波「違うの。戦うのが怖くなったとかじゃなくて……」
そこで言葉を切った美波は、弱々しい声で、
美波「ただ……戦いの素人である私たちより、もっと強い人とユナイトして戦った方がいいんじゃないかって……」
凛「それは……。確かに、一理あるけど……」
凛の声も消え入るように小さかった。
186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:42:47.21 ID:nSOQPuCR0
エックス『美波。君の気持ちはわかった』
エックスが真面目な声で応対する。
エックス『しかし、悪いがそれは無理なんだ』
美波「ど、どうしてですか?」
エックス『私とユナイトできるのはプレイ時間300時間の絆がある君たちだけだ。モブどころか存在すら知らない者とユナイトできるとは到底思えない』
美波「は……はあ。プレイ時間……?」
エックス『それどころか、恐らく私の部署に所属していないアイドルも不可能だ。つまりここにいる九人。私がユナイトして共に戦えるのは君たちだけなんだ』
美波「そう……なんですか……」
エックス『ああ。……すまない。本来なら――』
と、エックスが続けようとした時。部屋のドアが開いた。
188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:43:23.51 ID:nSOQPuCR0
ちひろ「あっ、凛ちゃん起きられましたか? よかった」
エックス『…………』
アイドルとユナイトして戦っていることはちひろには秘密だ。エックスが口を閉じる。
ちひろ「飛んできた瓦礫にぶつかって怪我しちゃうなんてほんと災難でしたね。でも逆に、これぐらいで済んで良かった」
凛の枕元に寄ってちひろが言う。
ちひろ「お仕事、暫くはキャンセルしました。傷が癒えるまで安静にしていてくださいね」
凛「……はい……」
部屋に沈黙が降りた。明日の昼、再びテンペラー星人が襲来する。
その時、誰が戦いに行くのか。一介の少女である彼女たちの心は深く動揺していた。
――いや、一人を除いて。
こずえは皆が重く暗い空気を出している間も、一人すやすやと眠りこけていた。
189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:44:10.94 ID:nSOQPuCR0
190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:45:01.78 ID:nSOQPuCR0
「……ここ……どこぉー……?」
「どりーむ……らんどぉー……? なにそれー……?」
「おっきい……にじ……きれー……」
「にじ……ねもと……しあわせ……?」
「ぷろでゅーさーもー……しあわせー……?」
「……………………」
「こずえが……しあわせに……してあげるー……」
191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:45:34.11 ID:nSOQPuCR0
193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:46:35.59 ID:nSOQPuCR0
―――翌日、正午
未央「――私が行く」
テンペラー星人の襲撃時刻が近づいてきた頃、未央が立ち上がってそう言った。
美波「未央ちゃん……」
未央「大丈夫。私とプロデューサーは一度ユナイトしてるし。ねっ?」
美波「うん……」
未央「初めての子よりは上手く戦えると思う。それにこう見えても、結構体力には自信あるし!」
そう言ってシャドーボクシングをし出す未央。
おどけた様子だが、その言葉は嘘ではなかった。同じユニットの日野茜に振り回されて自然と鍛えられていたからだ。
194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:47:08.68 ID:nSOQPuCR0
未央「だからみんなは避難してて。大丈夫。絶対勝ってくるから!」
裕子「も、もしダメそうなら、このエスパーユッコにお任せくださいね! お力になります!」
未央「ありがとユッコ。よし、いつでもかかって来ーい! テンペラー星人!」
すると、まるで示し合わせたように街に轟音が響いた。
未央「!!」ビクッ
ゆかり「来たみたいです……!」
テンペラー「ガハハハハ!! さぁ出てこいウルトラマンエックス!! 決着の時だ!!」
窓からその姿を確認すると、未央はプロデューサーのデスクに向かった。
未央「プロデューサー! 行くよ!」
しかし――
195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:47:39.98 ID:nSOQPuCR0
未央「あれ?」
裕子「どうしました?」
未央「ぷ……プロデューサー!? どこ!?」
さっきまでそこに置いてあったはずのデバイスがいつの間にかなくなっていたのだ。
部屋中大騒ぎになってあちこち探し始める。
珠美「い、いませんぞ!」
輝子「デ……デスクの下にも……いなかった……」
裕子「わ、私のさいきっくダウジングで!」
ひっくり返したポケットからペンデュラムを取り出して念じてみる裕子だが、効果はなかった。
196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:48:09.97 ID:nSOQPuCR0
美波「……そういえばこずえちゃんは……?」
卯月「え? 凛ちゃんに付き添ってるんじゃ……」
美波「さっき医務室に行ったときには見なかったけど……」
ゆかり「まさか……」
窓に寄って事務所の出入り口を見下ろしたゆかりは「あっ」と声を上げた。
ゆかり「み、皆さん! こずえちゃんが!」
窓に寄った全員の顔からさあっと血の気が失せる。
今まさにこずえらしき女の子が会社の門を出るところだった。その手には、デバイスらしき物体が見える。
美波「追いかけなきゃ!」
未央「やばいって……! プロデューサー何やってんの!」
197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:48:41.59 ID:nSOQPuCR0
一方、こずえサイド。
エックス『こずえ! 止まれ! やめろ! 君に戦えるわけない!!』
こずえ「ぷろでゅーさー……こずえとのあいだに……きずな……ないー……?」
エックス『ある! あるが、君はまだ十一歳の女の子で――』
こずえ「じゃあー……ゆないとぉ……できるよー……」
エックス『話を聞いてくれ!!』
みな避難したのか、東京とは思えないほど閑散としたビル街。
こずえはやおら立ち止まって、デバイスに向けて微笑みかけた。
こずえ「ぷろでゅーさー……こずえと……ゆないと……しよー……しろー……」
エックス『ま、ま、待ってくれ! 話を――』
198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:49:10.82 ID:nSOQPuCR0
こずえ「ゆないとぉー」
こずえがデバイスをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを興味深そうにしげしげ眺めたうえ、それを掴んでリードした。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
エックス『ちょ、ストップ! 「ユナイトします」じゃない!!』
しかし聞く耳持たず、こずえがデバイスを掲げ上げる。
こずえ「えっくすぅーーー……」
放たれたX字の光がこずえの小柄な身体を包み込み――
エックス「イーー……サーー……」
……そんな気の抜けるような掛け声を上げながらエックスが現れた。
『エックス ユナイテッド!』
199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:49:42.15 ID:nSOQPuCR0
美波「あぁ……」
撒き散らされる電光を眩しそうに見ながら、美波は溜め息を漏らした。
未央「間に合わなかった……」
輝子「フ……フヒ……どうすんだこれ……」
エックス『ああ……私としたことが、こんな小さな子とユナイトしてしまうなんて……』
テンペラー「フハハ! やはり現れたな! 貴様は逃げるようなタマではないとわかっていたぞ!」
テンペラー星人は嬉々としているが、エックスは完全に狼狽していた。
200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:50:11.32 ID:nSOQPuCR0
エックス『こずえ! ユナイトを解除するぞ!』
こずえ『なんでぇー……?』
エックス『何でって、君にまで危害を加えるわけには――』
こずえ『けどぉ……こずえとぷろでゅーさー……さらなるつよいちからで……ゆないと……できるよぉ……?』
エックス『えっ……?』
身に覚えのある台詞が出てきてエックスが思いとどまった。
こずえ『これー……』
こずえがどこからともなく取り出したのは――
201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:50:44.35 ID:nSOQPuCR0
エックス『なっ……何故君がそれを!?』
青い短剣、エクスラッガーだった。
こずえ『ひろったー……』
エックス『どこで!?』
こずえ『ゆめ……』
エックス『ゆ、夢……!?』
こずえ『じゃあー……いくよー……?』
エックス『えっ、あっ、ええっ!?』
完全に取り乱しているエックスを無視して、Xの字を描くようにエクスラッガーをぶんぶんと振り下ろす。
202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:51:15.32 ID:nSOQPuCR0
こずえ『えくしーどぉ……えっくすぅー』
その虹色の軌跡がエックスと重なり合い、彼の姿を変貌させていく。
全身を包み込んだ光が弾けると、そこにいたのは、今までとはかけ離れた姿のエックスだった。
未央「え……何? あれ……」
美波「虹色の……巨人……」
銀色はそのままに、赤が消え、黒が多めとなった体躯。
その中には七色の線が流れ、頭部には虹の象徴のようにエクスラッガーが収まっている。
それこそエックスが虹の短剣の力で強化された姿――“エクシードエックス”。
……なのだが……。
エックス『な、何故だ!? 何故エクシードエックスになれたんだ!?』
203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:51:45.17 ID:nSOQPuCR0
エックス『そもそもどうしてエクスラッガーが!? 夢の中で拾った!?』
エックス『……ハッ、こずえとの親愛度がMAXだったから? いや、それなら別に他のアイドルで出来ていてもおかしくなかった……』
エックス『い、一体どういうことなんだ!?』
……当のエックスは完全にパニックを起こしていた。
テンペラー「姿を変えたか……だがこの私には通用せんっ!!」
そんなことはお構いなしにテンペラー星人が突っ込んでくる。
エックス『ハッ! こずえ、危ないっ!!』
204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:52:17.34 ID:nSOQPuCR0
星人の鋏が振り下ろされるが――
エックス「デヤー」
エックスはひらりとそれを避けた。
テンペラー「ムンッ! デェイッ!!」
攻撃の手を緩めず何度も何度も縦に横にと鋏を振り回すが、ことごとくエックスの脱力した動きに躱されていく。
まるで風に揺れる柳のよう。攻撃をいくら繰り出しても暖簾に腕押しだった。
テンペラー「やるな……なるほど、特別な呼吸をして力を抜き、敵を翻弄するフォームということか……!」
エックス『違う!』
テンペラー「何が違う! ならばこれだ!!」
205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:52:48.17 ID:nSOQPuCR0
テンペラーの鋏から電撃鞭が振るわれる。
エックス「ジュワー……デヤァー……セーイ……」
超高速かつ不規則な動きで縦横無尽に空間を駆け回る鞭だが、何故かそれすらも当たらない。
全て紙一重で、神がかった動きで回避されていく。
テンペラー「グッ……これならどうだ! ――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
鋏を構えてエネルギーを溜めようとするテンペラーだったが、そんな攻撃予期できていたとばかりにエックスがぴょんと跳びあがっていた。
テンペラー「何っ!?」
エックス「ドゥワァー……」
テンペラーの肩を踏みつけ、飛び越える。
206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:53:19.20 ID:nSOQPuCR0
エックス「デイッ」
振り向きざま、力が抜けに抜けた腕がぶんと空を切る。
それに伴って発射された光刃が、振り返ったテンペラー星人の顔に直撃した。
テンペラー「グオオッ!!」
こずえ『えへー……なんか……でたぁー』
そしてぴょこぴょことダンスするような動作でエックスが動く。
腕が振るわれた拍子に発射される光刃は示し合わされたように全弾テンペラー星人の顔面を襲った。
テンペラー「グ、ヌヌゥ……!!」
ばさっとマントを広げ、飛翔するテンペラー。
加速しながら空中で旋回し、勢いを加え、真正面から猛スピードでエックスに突進してくる。
エックス『こずえ、危ない!』
こずえ『うんー……あぶないー……』
エックス『言ってる場合か!!』
207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:53:48.55 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「ハアアアアアアア!!!」
そうこうしている間にテンペラーが目前に迫っていた。
防御姿勢すら取らず棒立ちのエックス。次の瞬間、テンペラーが突き出した鋏がエックスに襲い掛かった――
エックス『!?』
――と思われたが、またもや回避は成功していた。
エックス『な、何が起きたんだ……!? 自分でもわからない……!』
狼狽えるエックスの右手にはいつの間にかエクスラッガーが握られていた。
エックス『……!?』
208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:54:19.58 ID:nSOQPuCR0
エックスが振り返ると、テンペラー星人が地上に墜落したところだった。
両者の間にばらばらと金色をした何かが落ちてくる。破られたマントのようだった。
エックス『こ、こずえ……あの一瞬で攻撃を躱し、更にエクスラッガーを抜き、その上マントを叩き斬ったのか……!?』
こずえ『……うーん……こずえ……よくわかんない……』
エックス『そ、そうか……』
こずえ『ふわぁ……ぷろでゅーさー……そろそろ……おひるねー……』
エックス『あ、ああ……』
エクスラッガーを額に戻し、右手を添えながら左手を滑らせる。
その手を上から下へとなぞらせると、黄・赤・紫・青の光が上から順に灯っていく。
209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:54:53.39 ID:nSOQPuCR0
テンペラー「グ、グウウ……ッ!」
テンペラー星人も立ち上がり、光線のエネルギーを鋏に蓄える。
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」
そして放たれた必殺光線と同じタイミングで、エックスの額からも破壊光線が放出された。
こずえ『えくすらっがーしょっとぉー』
エックス「デュワー」
そんな緩い掛け声とは裏腹に、発射された光線は怒涛の勢いでテンペラーの光線を押し返す。
テンペラー「グ……! グアアアアアアアーーーーッ!!!」
遂にはその身体を呑み込み、虹色の光の中に爆散させた。
エックス『……あー……えっと……よく……やったぞ……??』
こずえ『ぷろでゅーさーに……ほめられたー……えへへー……』
エックスはわけがわからないままユナイトを解除するのだった。
210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:55:35.66 ID:nSOQPuCR0
―――後日、事務所
凛「あっ、テレビにプロデューサー出てるよ」
エックス『えっ?』
数日後、凛もすっかり回復し、明るい雰囲気が戻った事務所。
エックスの戦いを紹介している番組を偶然発見した凛はデバイスの画面をテレビに向けた。
アナウンサー『先日の戦いではウルトラマンが姿を変え、侵略宇宙人を圧倒しました』
アナウンサー『その際、戦闘スタイルが大幅に変わっていることが大きく注目されているのですが……武道に造詣が深い中野さん、どうでしょう?』
有香『はい! 中国の酔拳にも似ている独特な動きでしたね』
戦闘の映像が流れ出す。まるでグリーザ第二形態のような奇妙な動きをエックスがしている。
211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:56:53.34 ID:nSOQPuCR0
有香『恐らくあの姿になることによってこのような拳法が使えるようになるのだと思われます』
アナウンサー『酔拳のような……ですか』
有香『はい。全身から力を抜き、独特な動きで相手を翻弄する……興味深いですね!』
アナウンサー『そうですね~。ウルトラマンもあんな変な動きするんですもんね~』
笑い声が響くスタジオに、居ても立ってもいられなくなったエックスが声を張り上げた。
エックス『違うんだ!! エクシードエックスはそういう形態じゃないんだぁああああ!!!』
こずえ「……すう……すう……」
エックスが悲愴な様子で取り乱す一方、こずえはいつも通りすやすやと眠っているのだった。
第四話 おわり
212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:58:04.46 ID:nSOQPuCR0
≪アイドルの怪獣ラボ≫
凛「凛と!」
こずえ「こずえのー……」
凛「怪獣ラボ!」
こずえ「かいじゅうらぼー……」
凛「今回の怪獣はこれだね。怪獣じゃないけど」
『テンペラー星人 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107209.jpg
エックス『“極悪宇宙人”テンペラ―星人! 打倒ウルトラマンに燃える宇宙人だ!』
エックス『両手の鋏から伸ばす電撃鞭、そして対ウルトラマンの必殺技「ウルトラ兄弟必殺光線」を武器とするぞ!』
こずえ「もとはー……『うるとらまんたろう』の……」
凛「第33、34話に登場した宇宙人。ウルトラ六兄弟に倒されたんだ」
凛「ちなみにこのリメイクは映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』に登場」
凛「メビウスは危なげなく一人で倒したね。……私たちも、負けてられない」
エックス『そうだな!』
凛・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
こずえ「おたのしみにー……」
213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 16:59:03.60 ID:nSOQPuCR0
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
……え? 今回の予告、これを読むんですか? ……はい。わかりました……。
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら――人類。
次回、ウルトラマンXP第五話! 『さらば友よ -Toadstool, forever-』 べ、べにてんぐだけーーーっ!!!
219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:49:30.19 ID:7KS6hDB30
第五話 『さらば友よ -Toadstool, forever-』
―――事務所
裕子「ムムムムム~~ン……っ!」
人が出払った事務所。フリータイムの裕子はひとり超能力の特訓をしていた。
ヒヨコの形をしたスポンジを握り込んで念じ、手を開くと増えているというものである。
裕子「どうだっ!」
ばっと手を開く。しかし手のひらに乗っていたスポンジには何の変化もない。
裕子「むむ……」
その後も同じ動作を繰り返すが、結局一度として成功しなかった。
裕子(はあ~……今日も成果はなしですかぁ)
肩を落としながら事務所を出て行く裕子。
しかし彼女は気付いていなかった。
彼女が念じた何らかの力――それが、思わぬ方向にヒットしていたことに。
そしてこの時は誰も気付いていなかった。
それが、これから始まる惨劇の引き金となったことに――
220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:50:16.43 ID:7KS6hDB30
―――???
輝子(…………。どこだ? ここ……)
見覚えがあるような気がするのに、全然知らない場所。
輝子は気が付くと、そんなところにひとり佇んでいた。
輝子(……あっ、もしかして事務所か……?)
広々とした空間。見覚えのある間取り。いつも皆が腰掛けているソファと、プロデューサーのデスク。
輝子はそのそばに歩いていき、下を覗き込んだ。
輝子「フ……フフ……元気してるか……」
しかしそれが目に入った瞬間、輝子は目を見張った。
机の下で栽培しているキノコ。それが前見た時より著しく成長していたのだ。
輝子「……?」
それだけならまだ良かった。輝子にとってキノコは友達だ。友達の成長は嬉しい。
だがその成長の結果が問題だった。――机の下のキノコ、それがまるで胎動するかのように脈を打っていたのだ。
221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:50:58.22 ID:7KS6hDB30
輝子「ど、どうしたんだ……!?」
慌てて机の下に潜る輝子。恐れはなかった。何故なら彼女にとってキノコは友達だったからだ。
狭く薄暗い空間の中で今この瞬間も巨大化しているキノコ。傘の部分がぐぐっとデスクを持ち上げ――
――ガッシャアアアアン!!
机がひっくり返ると共に置いてあった物がなだれ落ち、派手な衝撃音が響いた。
輝子「……!」
輝子の目の前でみるみるうちに大きくなるキノコ。終いには天井を突き破り、柄の下からは蔦のような太い菌糸が伸長して床を這う。
窓ガラスを突き破り、外壁を伝い、巨大な事務所そのものを包み込んでいく。
輝子「な、な、な……何が起きてるんだァァァアアアーーーーッ!!!」
思わず例のテンションが表に出て狼狽える輝子だが、その時。
222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:51:44.26 ID:7KS6hDB30
??「やあ、マイフレンド」
マスクの下から発したようにくぐもった低い男の声が聞こえて、弾かれたように輝子は振り向いた。
窓のそば、スーツに身を包んだ男が背を向けて立っていた。
輝子「お、お、お前は」
??「私の名は“フォーガス”」
輝子「……! それは……」
フォーガス「そう。君が丹精込めて育ててきたキノコの名だ」
背中を向けていたフォーガスが振り向く。輝子は思わず息を呑んだ。
その顔が人間のものでなく、まるで桑の実と蜂の顔が一体化したようなものだったからだ。
223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:52:13.16 ID:7KS6hDB30
輝子「ふぉ、ふぉ、フォーガス……!? お前が……!?」
フォーガス「その通りだよマイフレンド」
輝子「ま、マイフレンドって……」
すると、フォーガスはどこか沈んだような声を出す。
フォーガス「……やはりこんな恐ろしい見た目なら、フレンドとしては認めてくれないか」
輝子「そ……そんなことないぞ! 確かにちょっと驚いたけど……キ、キ、キノコはみんな……私のトモダチだ……」
フォーガス「ショウコ……。ありがとう、やはり君は選ばれた人間だ」
輝子「え……選ばれた……? どういうことだ……?」
するとフォーガスは両手を広げ、滔々と語り出した。
224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:53:02.43 ID:7KS6hDB30
フォーガス「人間の進化とは何故かくもノロいのかと思わないかね? ショウコ」
輝子「え……?」
フォーガス「私は思うのだ。菌糸を伸ばし更に巨大化できる我らキノコたちが、人間に代わってこの地球を支配すべきだと」
輝子「…………」
フォーガス「我らは今も猛スピードで成長し続けている。だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?」
輝子「え、えと……」
フォーガス「――ああ。別に深く考えてもらわなくても構わない。ただ、ひとつ言っておきたいのは――」
言葉を切ると、フォーガスは輝子に一歩近づき、右手を差し出した。
フォーガス「君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ」
輝子「共に……生きる……」
フォーガス「ああ。共に行こう、ショウコ――」
フォーガスの手が、輝子の手を取ろうとしたその時――
225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:53:43.05 ID:7KS6hDB30
輝子「――っ!?」
がばっと、輝子は眠りから覚めた。
輝子「はあっ、はあっ……」
心臓がばくばくいっている。気付いていなかったが、かなり緊張していたらしい。
脳裏に鮮明に再生される。巨大化するキノコ。フォーガスが伸ばした手。
輝子「ゆ、夢……? ホントに……?」
ここはベッドの上だ。パジャマも着ている。部屋を見回してみても、寮はいつも通りの朝だ。
だが夢とは思えないリアリティがあの映像にはあった。五感を震わせ、脳を揺さぶるような現実感が。
輝子「はあ……はあ……。すうーー……はあーー……」
いったん深呼吸して、自室で栽培しているキノコに目を向ける。それらには何の異変も認められなかった。
輝子「だ、大丈夫……だよな……フヒ……」
ほっとして額の汗を拭ったとき、遠慮がちなのが透けて見えるささやかなノック音がした。
小梅『輝子ちゃんー……? 起きてるー……?』
輝子「あ、ああ……! 今行く……」
輝子はベッドを下り、いつも通り小梅と共に食堂へ向かった。
226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:54:13.72 ID:7KS6hDB30
―――食堂
幸子「皆さん、おはようございます! カワイイボクの参上ですよ!」
朝にもかかわらずいつも通りシャキッとした幸子がやって来て、輝子と小梅の近くに座った。
蘭子「煩わしい太陽ね……」
飛鳥「やあ。また太陽が一巡りしたね。今日もまたいい日になるといいけど」
乃々「お、おはようございますぅ~……」
続いて蘭子、飛鳥、乃々も集まる。最近は歳がほぼ同じこのメンバーと一緒に食べることが多かった。
幸子「あ、そういえば蘭子さん、飛鳥さん。ダークイルミネイトのライブツアー決まったとお聞きしましたが?」
飛鳥「そうなんだよ。全く、採算が取れるのか甚だ疑問だね。まぁこの業界で金銭主義でない姿勢には好意を覚えるけど」
227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:54:49.17 ID:7KS6hDB30
小梅「ふ、二人とも……すごく人気急上昇中って……聞いたよ……?」
蘭子「フ……我らが魅了の魔術に掛かれば造作もないこと……」
飛鳥「だけど、いったいその内の何人がボク達の『聲』を聴き取ってくれるのだろうね。――いや、少し天邪鬼すぎたかな。何にせよ、応援してくれるファンは大事にしないとね……」
幸子「そーですよ。バチが当たりますよ、そんなこと言ってたら!」
飛鳥「例えば?」
幸子「目を覚ましたら高度3000メートルのヘリの中にいるとか……無人島に置き去りにされてるとか……」
飛鳥「それは嫌だな……」
小梅「何か……言葉に重み……あるね……」
幸子「おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……」
などと、大体この四人がよくわからない会話を繰り広げ、それを輝子と乃々が黙って聞いている感じである。
だが今朝は、幸子の「目を覚ましたら」という言葉に輝子の脳が反応した。
228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:55:18.92 ID:7KS6hDB30
輝子(あの夢……)
『君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ』
輝子(フォーガスは……あんなこと言ってたけど……)
――いや、あれはただの夢だ。
ぶんぶんとかぶりを振るが、耳の奥にあの声が蘇ってしまう。
『だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?』
輝子(でも……)
小梅「頑張ってね、二人とも……」
幸子「そうですねえ。ライブツアーはボクもやったことがありますが、体力的にキツイところがありますから」
飛鳥「ああ、有難う」
蘭子「ふふ。其方等の言霊、しかと胸に刻み付け、流離の旅へ……」
229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:55:58.82 ID:7KS6hDB30
幸子「はあ~。ボクも良いお仕事貰いたいですねえ。できればバラエティ以外で……」
小梅「でも……幸子ちゃんも……前よりいっぱいテレビ……出るようになったし……」
蘭子「斯く言う小梅も、闇夜の荒野……光輝の銀幕、種々なる舞台に出ておるではないか」
小梅「え、えへへ……」
幸子「何にせよ、これからみんなでステップアップしていきましょうね! カワイイボクがついてます!」
そうだ。ダークイルミネイトの話にもあったように、彼女らも着実に進化を遂げている。
行き詰っているなんて、そんなことはない。幸子ちゃんも小梅ちゃんも……と考えたところで声が挟まった。
乃々「も……もりくぼは今のままでもいいかも……」
輝子「ヒャァッハァーーーーーッッ!!!」
余りにも唐突な発狂に皆が一斉に動きを止めた。
幸子「ど、どうしましたか輝子さん!?」
輝子「そんなネガティブ発言する奴ァキノコに食われっぞォォォ!! ボノノさァァァァン!!!」
乃々「えっ、えっ……はぁ……」
輝子「はぁ……はぁ……し、しまった……朝っぱらから」
何事かと食堂中の視線が輝子たちのグループに向けられて、メンバーは苦笑するしかなかった。
230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:56:27.03 ID:7KS6hDB30
―――事務所
輝子「お……おはよう……フヒ」
おそるおそるドアを開けて中に入る。部屋もまたいつも通りで、輝子は安堵した。
エックス『輝子、おはよう! 今日は十三時からボイスレッスンだぞ』
輝子「う、うん……がんばる……」
プロデューサーのデスクに寄って、一度深呼吸する。
エックス『? どうした、輝子?』
輝子「い……いや……」
意を決してデスクの下を覗く。
輝子「……!」
そこに置いてあったキノコたちは――
231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:56:59.81 ID:7KS6hDB30
輝子「い、いっぱい育ってる……」
エックス『キノコの話か? よかったじゃないか』
輝子「う……うん……」
確かに普通に嬉しいことだ。だが、あの夢のことが思い出されてしまう。
ただの夢だということは重々承知しているが――
輝子「な、なあ……プロデューサー」
エックス『なんだ?』
輝子「宇宙人のプロデューサーから見て……その……地球人は、これ以上進化できると思うか……?」
エックス『? どうしたんだ? 突然』
輝子「い、いや……なんとなく……」
232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:57:27.54 ID:7KS6hDB30
エックス『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』
輝子「……」
エックス『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志。これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』
輝子「そっか……」
エックス『私自身、地球人には驚かされることばかりだ。君にしても同じことが言える』
輝子「私……?」
エックス『ああ。スカウトした当初は周囲にも馴染めていなかったのにな。今はあんなに多くの友達に囲まれ、立派にアイドルをやって……凄いぞ……偉いぞ輝子……』
輝子「そ……そういうの恥ずかしいから……やめてくれ……」
エックス『何が恥ずかしいことがあるんだ? もっと胸を張れ!』
輝子「い、いや……そうじゃなくて……」
233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:57:58.62 ID:7KS6hDB30
エックス『輝子の良いところはもっとあるぞ? 例えばステージ上での変貌ぶりだ。あれにはファンでなかったものまで心を惹きつけられるインパクトが――』
輝子「ヒャァッッハァァァーーーーッッッ!!!」
エックス『!?』
輝子「ストォォォーーーップ!! ウェェェーーーイト!! 顔から火がバーニングしちまってもいいのかァァァアア!!!」
エックス『顔から火がバーニング……? ハッ、まさか輝子、君はグレンファイヤー族の一員……!?』
輝子「とりあえずレッスンしに行ってくるぜエエエエエ!!!」
エックス『あっ、ちょっと!』
風のように事務所を出て行った輝子をエックスは不思議そうに見送っているのだった。
・
・
・
234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:58:26.79 ID:7KS6hDB30
―――寮・輝子の部屋
輝子「うぅぅーーん……」
その夜。寝床についた輝子はうなされていた。
輝子「……ここは……」
彼女の見ている夢。
昨日も見た、妙な雰囲気と違和感が漂う事務所。
「やあ、ショウコ」
輝子「!」
そして、あの声。振り向くと、あの顔が窓際にあった。
235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:58:54.86 ID:7KS6hDB30
輝子「フォーガス……」
フォーガス「気持ちは決まったかい?」
輝子「え……?」
フォーガス「おやおや、忘れているわけじゃないだろう。私たちと共に菌糸の世界で生きようという話だよ」
輝子「…………」
フォーガス「昨日も言ったとおり、君は選ばれた存在だ。さあ、共に行こう……」
フォーガスが輝子の方に一歩近づく。釣られるようにして輝子は一歩退いた。
フォーガス「……そうか。まだ決心がつかないというのか」
輝子「……わ、私は……」
フォーガス「いいだろう……どうせすぐ、君の気も変わる」
輝子「……?」
236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 16:59:23.46 ID:7KS6hDB30
フォーガス「起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ」
輝子「え……?」
フォーガス「いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ。もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる」
輝子「ど、どういうことだ……!?」
フォーガス「フフフ。目覚めればわかることさ。――グッバイショウコ。また後で会おう」
輝子「……!」
すると夢の中の輝子の意識はふっと遠のき――
輝子「――っ!」
現実の方の彼女の意識が浮上した。
237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:00:04.70 ID:7KS6hDB30
輝子「はぁ、はぁ、はぁ……」
カーテンがほんのりと明るい。もう朝のようだが、全然眠れた気がしなかった。
喘鳴を繰り返しながら部屋を見渡す。夢の内容とは反して何も変わった様子はなかった。
輝子「ハ……ハハ……そうだよな……たかが夢だもんな……」
笑ってごまかして、枕元のスマホを見る。七時二十二分。外の暗さを考えれば、もうそんな時間かといったところだった。
ただ、そろそろ小梅が来てもおかしくない時間だ。
輝子(身支度澄ませとこう……)
ベッドから降り、洗面所に入る。蛇口をひねる。水が流れ出し、くるくる渦を巻いて排水口へ吸い込まれていく。
輝子(…………)
それを見詰めているうち、何とも名状しがたい不安感が胸に満ちてくるのを輝子は感じた。
238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:00:38.60 ID:7KS6hDB30
『いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ』
『もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる』
輝子(た……ただの夢だろ……何ビビってんだ私……)
その流水に手を入れようとした瞬間――
突然ポケットの中でスマホが振動して、輝子は飛び上がるほど驚いた。
輝子「び、びっくりした……。ボノノさん……? も、もしもし……」
受話口に耳を近づけると、微かに乃々の声が聞こえてきた。
乃々『キ、キノコさん~~……?』
輝子「あ、ああ……どうしたんだ……?」
乃々『どうしたって……キノコさんの方は……何ともないんですかぁ……』
輝子「何ともないって……?」
239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:01:06.02 ID:7KS6hDB30
乃々『もりくぼの部屋の中……なんか……大変なことになってて……小梅さんたちには連絡つかないしぃ……』
輝子「大変なこと……?」
乃々『く、口で説明するの難しいんですけど……なんか……部屋の中に植物の蔦……? みたいなのがいっぱい生えてて……起きたら……』
輝子「こ、小梅ちゃんたちには連絡つかなかったんだな……?」
乃々『は、はい……』
輝子「わかった……」
『起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ』
輝子(まさか……)
何か恐ろしい事態が進行している、そんな気がした。
240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:01:33.59 ID:7KS6hDB30
少し考えてから、輝子は乃々に言う。
輝子「じゃ、じゃあ。ボノノさんの部屋は蘭子ちゃんたちと近いから、確かめに行ってみてくれないか……?」
乃々『えぇー……そんなの……むーりぃー……』
輝子「私も、小梅ちゃんたちの様子を調べたらそっち行くから……な?」
乃々『うぅ……わかりましたけど……早く来てくださいね……』
輝子「う……うん。努力する……」
乃々との通話を切ると今度は小梅に電話した。しかし一向に出る気配がない。電源を切っているわけでもなしにだ。
小梅は諦め、次は蘭子へ。しかし彼女も同じで、それから飛鳥、まゆ、番号を知っている寮住まいの他のアイドルと、次々と掛けても同じことだった。
輝子はごくりと唾を飲み込み、蛇口を閉めた。
241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:02:12.63 ID:7KS6hDB30
顔も洗っていないことは恥ずかしかったが、四の五の言っていられない。
輝子は小梅の部屋に行くためドアを開けた。――すると。
輝子「……!?」
目に飛び込んできた光景に輝子は目を丸くしたまま、玄関に立ち尽くした。
廊下の壁、床、天井。乃々の言った通り、そこには練色をした、植物の蔦のようなものが這っていたのだ。
輝子「な……なんだこれ……」
昨日まではこんなもの全くなかったのに。一晩でジャングルに生まれ変わってしまったかのようだった。
蔦を這っているところを踏まないようにしておそるおそる廊下に出、小梅の部屋まで急ぐ。
輝子「こ、小梅ちゃん……起きてるかー……?」
ドアを軽くノックしながら呼びかけるも、返事がない。
242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:02:44.14 ID:7KS6hDB30
輝子「は……入るぞ……」
預かっていたスペアキーを鍵穴に差し込む。ごくっと喉が鳴った。
鍵を開け、ノブに手を掛けた時だった。突然ノブがひとりでに回った。
輝子「! こ……小梅ちゃん、いたのか!? よかった――」
と思ったのも束の間だった。ドアが開き、姿を現した小梅を見た瞬間、輝子は絶叫して腰を抜かした。
小梅「…………」
輝子「こ、ここ、こ、小梅ちゃん……なのか……!?」
小柄な体格、見覚えのある服装、それらは彼女が小梅であることを示していた。
だが彼女の顔が――いや、その頭部全体が、巨大なキノコに変貌していたのだ。
小梅「…………」
キノコと化した小梅は何も言わず、じりじりと輝子に近づいて来る。
輝子は反射的に逃げ出した。すると廊下の曲がり角の奥から悲鳴が聞こえた。乃々の声だ。
243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:03:13.82 ID:7KS6hDB30
輝子(ボノノさん……!)
輝子(ああもう、何が起きてるんだ一体……!!)
輝子(夢なら覚めてくれよぉ……!!)
気を抜けば涙目になってしまいそうなのを懸命にこらえる。今は乃々の様子を見に行かなければならない。
廊下の角で曲がると尻餅をついている乃々の姿が見えた。その前には、恐らく蘭子と思われるキノコ人間が。
乃々「ひ、ひぃぃぃ……!!」
輝子「ボノノさんっ!!」
乃々「き、キノコさぁん……っ!!」
乃々の元に駆け寄り、手を引いて走り出す。
乃々「キノコさん、これどういうことなんですかぁ……!」
輝子「わ、私が知るわけないだろ……!」
反射的にそう言ってしまったが、輝子は同時に夢の内容を思い出していた。
244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:03:42.53 ID:7KS6hDB30
輝子「やっぱりフォーガスの仕業なのか……?」
乃々「え……? フォーガスって……」
「違うよショウコ」
輝子・乃々「「!」」
二人同時に足を止める。誰の姿も見えないのに声が聞こえたからだ。
足元の蔦が動き出す。二人の前の地点で集合し、人間の形に変形する。夢の中で会ったフォーガスだった。
輝子「フォーガス……!」
フォーガス「フフフ。忠告は聞き入れてくれたようだね。嬉しいよ、ショウコ」
乃々「え……、え……? ど、どういうこと……」
輝子の背に隠れながら乃々が動揺を見せる。
245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:04:10.10 ID:7KS6hDB30
フォーガス「この建物を支配しているのはこの私、フォーガスだ。この蔦のように見えるものは私の菌糸だ。今にこの街全体を飲み込むだろう」
輝子「街全体……?!」
フォーガス「だが住人をキノコにしているのは私ではなく“マシュラ”だよ」
輝子「マシュラって……!」
フォーガス「そう。これも君が手塩にかけて育ててきたキノコだ。フフフフフッ」
乃々「キ、キノコさん! どういうことなんですかぁ!」
輝子「そ、それは……」
その時、またポケットの中で着信音が鳴った。画面を見ると、エックスからの電話だった。
246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:04:37.84 ID:7KS6hDB30
輝子「ぷ、プロデューサー……!」
エックス『輝子! これは一体どういうことなんだ!?』
輝子「え……事務所の方でも……?」
エックス『まさか君の寮でもか!?』
輝子「あ……ああ……! それで今――」
目の前のフォーガスに視線を向けた瞬間――
エックス『うわああああっ!?』
輝子「!? プロデューサー!? おい!」
エックスの悲鳴がしたかと思えば、そのまま何も聞こえなくなってしまった。
247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:05:05.59 ID:7KS6hDB30
輝子「ま、まさか……お前が……」
フォーガス「フッフッフ、その通りだよショウコ。彼はしばらく私たちで預からせてもらう」
輝子(プロデューサーが……)
乃々と一緒に逃げながら輝子は秘かに考えていた。この事態を解決するにはプロデューサーの力を借りる以外ないと。
しかしそのプロデューサーが相手の手に落ちてしまった。これではどうすることもできない……。
フォーガス「そして貴様もだ。下等生物には消えてもらおう」
乃々「――きゃあああああっ!?」
輝子「! ボノノさんっ!!」
いつの間に背後から菌糸が乃々に近づいていた。彼女の足首を掴み、廊下の先にずるずると引っ張っていく。
248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:05:34.50 ID:7KS6hDB30
乃々「いや! いやですぅ~~っ! ゆるしてぇ~~~っ!!」
しかしそんな悲痛な叫びも聞き入れられない。
床に這う菌糸を掴もうとするとすかさず別の菌糸が手首に絡まり自由を奪う。
乃々「――キノコさぁぁぁぁぁああん!!!」
涙を流しながら輝子の方へ弱々しく手を伸ばそうとする乃々だが、もう既にどうしようもない距離だった。
呆然とする輝子の目の前で乃々は何処かへ連れ去られ、フォーガスと二人残された。
輝子「ボ……ボノノ……さん……」
フォーガス「ハッハッハ。君の友達は既に全てキノコ人間となっている。彼女もじきにそうなるだろう」
輝子「そんな……」
フォーガス「――さあ、共に行こう。ショウコ……」
そう言って、フォーガスが一歩近づいて来る。
249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:06:03.99 ID:7KS6hDB30
輝子「い、嫌だ……」
フォーガス「安心したまえ。君は選ばれた存在と言ったはずだ。君だけはその姿のままいてもいいんだよ」
輝子「う、うぅ……」
力が抜けてへたり込んでしまう輝子。そんな彼女の鼻先にフォーガスが手を差し出す。
フォーガス「さあ……」
輝子「うぅぅ……!」
頭が混乱して、もう何も考えられない。
過去の映像が走馬灯のように次々と去来し、いずれ自分の中が空っぽになってしまう気がする。
そうなってしまえば、自分は間違いなくこの手を取ってしまうだろう。
友達をみんな見捨てて、この化け物の手を取って、自分だけのうのうと生き抜こうとするだろう。
そんな裏切り者の自分が間もなく現実になってしまう。涙が溢れ出し、頬を伝い落ちて行く。
嗚咽が止まらなくなる。絶望に押し潰された胸から、言葉が零れ落ちようとした、その時――
エックス『――輝子!!』
輝子「!!」
床に転がっていたスマホからエックスの声がした。
250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:06:32.16 ID:7KS6hDB30
エックス『私は絶対に諦めない! だから君も――』
慌ててフォーガスがそれを拾い上げるが、最後の言葉は輝子に届いていた。
エックス『――諦めるな!!!』
次の瞬間、スマホは窓の外に放り捨てられていた。
輝子「プロデューサー……」
『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』
『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志』
『これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』
輝子「……!」
輝子はすっくと立ち上がり、フォーガスに背を向けて走り出した。
フォーガス「……! フフ……だが君に逃げ場はないぞ……」
フォーガス「この寮の人間は現在全て、マシュラの支配下にある……どこへ逃げようと無駄だ……!」
251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:07:01.61 ID:7KS6hDB30
輝子「はっ、はっ、はっ……あっ、ここか!」
輝子はある部屋の前で止まると、ドアを開けようとした。しかし鍵が閉まっていて開かない。
輝子「くっそ……助けてくれ! 頼む!! 開けてくれえっ!!」
激しくドアを叩き続ける。するとしばらくして、内側から開錠音がした。
ドアがゆっくり開く。そこに立っていたのはやはりキノコ頭の人間だったが――
輝子「幸子ちゃん、許せ!!」
輝子はその腹に思いっきり頭突きをかました。
どさりと倒れる元幸子のキノコ人間。ここは幸子の部屋だったのである。
輝子「確か……!」
『おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……』
その言葉を思い出しながら輝子は部屋中を探し回る。
252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:07:42.29 ID:7KS6hDB30
輝子「――あった!!」
それを手に部屋を後にする。同時に、目の前にフォーガスが現れた。
フォーガス「無駄な抵抗はよせ。大人しく我々の世界に――」
輝子「こ……こ、こ……!!」
輝子は手にしたそれをフォーガスの顔に向けた。
輝子「これでも喰らええええええええっっ!!!」
フォーガス「グオオオオオオッッ!!!???」
先端から青い炎を吐き出すそれは――キャンプ用のガスバーナーだった。
フォーガス「グ、グウウウウウオオオオ……!!! ショウコオオオオオオ!!!」
身体が燃え尽きる前にフォーガスが退散する。
253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:08:26.72 ID:7KS6hDB30
輝子「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……ふふっ、フヒヒヒヒッ……フゥハハハハハハハッ!!!」
まるで魔王のような高笑いを上げながら輝子が叫ぶ。
彼女を囲もうとしていたキノコ人間に対して宣戦布告を言い放つ。
輝子「おいよォォォォ!! ゴートゥーヘル希望の奴は前に出なァ!!!」
後ずさるキノコ人間たち。輝子は噴出孔を向けて威嚇しながらその場を脱出した。
しかし一か八かの賭けだった。今はキノコ人間となってしまったとはいえ同僚を焼き殺すなんて輝子にできるわけはなかったからだ。
輝子(早く、プロデューサーのとこに……!!)
寮を飛び出す輝子。しかしその時、空が暗いことに気が付いた。
思わず仰ぐ。するとそこにあったのは曇り空ではなく――
輝子「え……」
練色をし、波が打つように無数の皺が刻まれている空だった。
首を回して360度確かめてみると、事務所の方角に見慣れない建物が映った。
――いや、あれは人工的な建物などではない。
生々しい質感を持った白い塔。その頂点が皺の空に突き刺さっている。
それはさながら、キノコの柄と、傘の裏側のヒダのように見えた。
254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:09:01.75 ID:7KS6hDB30
―――エクスデバイザー内部
フォーガス「シャアアアアオオオ!!!」
エックス「くっ……何なんだこいつら……!?」
エクスデバイザーの電脳空間。
その中に侵入したフォーガスの怪獣態にエックスは襲われていた。
エックス「――ザナディウム光線!」
ザナディウム光線を放ちフォーガスを爆散させる。
しかし次の瞬間、エックスも気付かぬうちに背後から触手が迫り、その首に巻きついた。
エックス「何っ!?」
フォーガス「シャアアアアオオ!!」
倒したはずなのに、既に背後に回られていた。かと思うと今度は左右からの触手がエックスの腕を絡めとった。
いつの間にか二体目、三体目のフォーガスが出現しており、取り囲まれていたのだ。
エックス「グッ……!!」
255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:09:29.74 ID:7KS6hDB30
―――輝子サイド
輝子「どけどけどけエエエエエエエエエエ!!!」
街の住民は皆キノコ人間にされてしまっていたようで、輝子の行く手を遮ろうとわらわらと湧いて出た。
その度にガスバーナーの炎で威嚇し、がむしゃらに走り続け、ようやく事務所まで到着した。
輝子「はぁ、はぁ……。ここもキノコに侵食されてるのか……」
壁面は例の蔦のようなものにびっしりと埋め尽くされている。
それを見上げていると、屋上に人影らしきものがあるのに気付いた。
黒いスーツで、頭部は赤い。――フォーガスか。
輝子「……!」
その正体を悟ると同時に輝子は気付いた。フォーガスが自分に向けて何かを示していることに。
輝子「プロデューサー!?」
遠すぎてわからない。だがそれは、エックスが入っているデバイスのように映った。
フォーガスの姿が見えなくなる。屋上の縁から離れたのだろう。
256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:10:01.32 ID:7KS6hDB30
輝子「っ!」
輝子は事務所に飛び込んだ。
行く手を遮る菌糸は全て燃やし尽くす。スプリンクラーが作動して濡れ鼠になるが、気にしている場合ではない。
しかし超高層ビルである。エレベーターも使えない今、移動には骨が折れた。
一時間ほどを要して屋上に出た時には足がパンパンに張って、もう動くこともままならなかった。
輝子「はぁ……はぁ……はぁ……。プ……プロデューサーは……」
フォーガス「ここだ」
輝子「!」
殺風景な屋上の中央にフォーガスが立っていた。
その手には、やはりエクスデバイザーが。その画面は暗く、何も映っていない。
輝子「プロデューサーを……返せ……」
フォーガス「いいだろう。ほら」
意外にもフォーガスはデバイスを放って返した。
慌てて受け止め、画面を見る。すると突然、画面に変化が訪れた。
ある単語がひたすら打ち込まれる。それが画面をびっしりと埋めていく。
257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:10:41.15 ID:7KS6hDB30
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
輝子「ひっ……!」
埋め尽くされると今度は文字がところどころ抜け落ちていく。
残された「さ」「よ」「な」「ら」の文字が二つの漢字を形作っていく。
「人類」。――「さよなら人類」。
輝子「…………」
輝子が絶句していると、デバイスが彼女の手を離れた。
我に返る。フォーガスの菌糸がデバイスを奪い返していた。
258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:11:10.70 ID:7KS6hDB30
フォーガス「わかっただろう?」
輝子「……」
フォーガス「この世界に君の味方はもう、私たち以外にいない」
輝子「……」
フォーガス「あれを見たまえ」
フォーガスが白い塔を指さす。
フォーガス「君も気付いているだろうが、ここは今、ひとつの巨大キノコの傘の下だ。あれはその柄なのだよ」
輝子「あれがお前の本体なのか……? フォーガス……」
フォーガス「その通り。そして、私たちは更に進化する。いずれは地球全体に菌糸を伸ばし、我らは地上の支配者となる!」
輝子「…………」
259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:11:59.97 ID:7KS6hDB30
フォーガス「我々を育ててくれたのは君だ。君は我らフォーガスの女神として共に生きるのだ。さあ……!」
輝子がぶんぶんと首を横に振る。
フォーガス「何故だ? 人類にはもう進化の余地はない。我々と共に生きる方がよほど有意義だぞ」
輝子「ち……違う……」
フォーガス「君の友人の森久保乃々がその典型ではないか」
輝子「えっ……?」
突然友人の名前が出てきて、はたと顔を上げた。
それまで輝子はプロデューサーが言った「諦めるな」という言葉を思い返して、どうすればいいのか真剣に考えていた。だが――
フォーガス「いつも無理無理と言って逃げ出し、やる気もない。そんな愚かな姿は今の人類の象徴ではないかね?」
――その言葉で、ぷつんと何かが切れた。
260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:12:29.54 ID:7KS6hDB30
輝子「……取り消せ……」
フォーガス「何?」
かっと全身が熱くなって、勝手に肩が震え出す。
輝子「ボノノさんは普段はあんなでも、みんなについていけるよう練習がんばったり、最近は仕事だって前向きになってきてるんだぞ……! それを……!」
ひとりでに言葉が口を衝いて溢れ出してくる。
輝子「それを愚かな姿なんて……! 知りもしない癖に、偉そうな口を利くな!!」
フォーガス「…………どうやら私の見込み違いだったようだね。君は」
輝子「ああ。私だってこれまでお前をトモダチと思ってたけど、トモダチをけなすような奴はもうトモダチでも何でもねえッ!!」
フォーガス「ならば君の最も信頼する『トモダチ』にも消えてもらおう!」
そう言い放つと、フォーガスはデバイスを手摺の向こうに放り投げた。
261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:12:57.67 ID:7KS6hDB30
輝子「!」
即座に輝子が駆け出す。もう無意識の行動だった。
手摺を乗り越え、屋上の縁から飛び出した。
輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」
しかし間に合うはずもないタイミングだった。輝子の身体は真っ逆さまに落ちていく。
届かない距離にあるデバイスに腕を伸ばしながら、共に自由落下する。
輝子「プロデューサー……頼む……!!」
迫り来る地表なんて目に入らない。彼女は必死にデバイスだけを見詰めながら叫んだ。
輝子「私と……ユナイトしてくれぇっ!!」
262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:13:27.55 ID:7KS6hDB30
―――エクスデバイザー内部
エックス「……輝子……?」
輝子の声が聞こえた気がして、エックスは辺りを見回した。
しかし自分を拘束するフォーガスの触手しかない。そう思ったところに、頭上から光が降ってきた。
エックス「これは……!」
虹色の輝きに縁どられたそれはエクスラッガーだった。
すると突然それがひとりでに動き出し、エックスの四肢を縛っていた触手をたちまちのうちに全て断ち切った。
フォーガス「シャオオオオオオ……!!」
エックス「――ザナディウム光線!!!」
右足を軸に回転しながらザナディウム光線を放ち、フォーガスを一掃する。
エックスはエクスラッガーを掴み、飛び立った。
263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:15:50.90 ID:7KS6hDB30
―――輝子サイド
輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」
もう何度目かの呼び掛けをした時だった。
デバイスの画面にエックスの顔が映った。
輝子「プロデューサー!!」
エックス『輝子! 行くぞ、ユナイトだ!!』
輝子「ヒャッハーー!! 行くぜエエエエエ!!!」
輝子が見詰める中、デバイスがXモードに変形する。
放たれた金色の光に、輝子は手を伸ばす。
輝子「――エエエックスゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!!!!!!」
指先がそれに触れる。すると、輝子の身体が光に包まれた。そして――
エックス「――イィィィィッッ!!! サァアアァァアアアアアアアーーーーーーッ!!!」
もはや獣の咆哮のような掛け声を上げながらエックスが現れた。
『エックス ユナイテッド!』
264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:16:24.35 ID:7KS6hDB30
エックス「デュゥゥワァァアアアッッ!!!」
キノコに侵食された建物の間をエックスが飛ぶ。まずは傘の下から脱出しなければならない。
しかしどこからともなく菌糸が伸び、エックスを絡めとろうとする。それを避けながら彼は宙を駆ける。
エックス「デァッ!?」
すると今度は前方から菌糸が迫ってくるのが見えた。前後での挟み撃ちだ。
エックス「イィィッサアァッ!!!」
すかさずXスラッシュを放って眼前のそれを切り捨てる。
そんな攻防を繰り返しているうち、前方に傘の端が見えてきた。
エックス「――ハァァッ!!」
一気に加速し、触手を振り切り、傘の下を抜ける。朝の陽射しと青空が眩しかった。
輝子『フ、フフ……私がお日様をありがたく思う時が来るなんてな……フヒ……』
エックス『……! 輝子、あれを!』
エックスが空中で止まり、振り返る。
街を覆っていたキノコは予想通り超弩級の大きさだった。スケール感がおかしくなってしまいそうだった。
265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:16:55.48 ID:7KS6hDB30
「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」
エックス「!」
すると突然聞こえてきた怪獣の鳴き声があって、エックスは地上に視線を向けた。
土色をした傘に青い斑点という、まさに毒茸然とした頭部を持った怪獣がエックスを見上げていた。
輝子『なるほどな……あれがマシュラか……フヒッ』
エックス『輝子、君は何か知ってるのか?』
輝子『あれは私が育ててたキノコなんだ。何かの原因であんなにデカくなったみたいで……』
エックス『やはりか。机の下のキノコが突然巨大化したから何事かと思った』
輝子『うん……。そしてあのバカでかいキノコがフォーガス。こいつも出自はおんなじだ』
エックス『覚悟はできてるな』
輝子『あ……当たり前だ……! ――行くぜエエエエエッッ!!!』
と、突っ込みそうになると、
266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:17:23.57 ID:7KS6hDB30
エックス『――あっ、ダメだっ!』
輝子『……っとっとっと……え、何で?』
エックス『あれを見ろ!』
マシュラの足元。キノコ頭の人間たちが群がっていたのだ。
輝子『っ……!』
エックス『迂闊に攻撃すれば巻き添えにしてしまう……!』
『フフフフフ……』
今度は怪獣態のフォーガスが街中に姿を現す。
フォーガス『ハハハハハ。君たちには何もできまい。このまま菌糸の世界に引き摺り込んでやる!』
267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:17:53.59 ID:7KS6hDB30
エックス『いや……方法はひとつだけある』
輝子『えっ?』
エックス『輝子、このカードを使うんだ!』
輝子の元に一枚のサイバーカードが転送されてくる。
輝子『! わかった……!』
『ウルトラマンネクサス ロードします』
そのカードをロードすると、エックスの両腕にアームドネクサスが装着された。
エックス「フッ!」
その二つを重ね合わせ、金色の軌跡を描きながら、半月状の弧を描くように腕を水平に回す。
エックス「ハァァァァ――デェヤッ!!」
そして拳を空に向け突き上げた。光線が放たれると、到達した天頂からドーム状の空間が形成された。
268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:18:22.12 ID:7KS6hDB30
フォーガス『な、何だこれは……!?』
それは不連続時空間“メタフィールド”。
これによって怪獣とウルトラマンは隔離され、元の場所に影響を与えずに戦闘することが可能となるのだ。
エックス『ここにはお前たちとあの巨大キノコだけを連れてきた』
輝子『思いっきり暴れてやるぜ……ヒャッハー!!』
フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」
マシュラ「ンギュウィィイッ!!」
地上に降り立ったエックスに二体のキノコ怪獣が突進していく。
それを受けてエックスはファイティングポーズを取った。振るった腕から青白い電光が宙を飛ぶ。
エックス「――ジュァッ、デェヤァッ!!」
269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:18:51.90 ID:7KS6hDB30
フォーガス「キシャアアアアア!!」
エックス「ハァッ!」
フォーガスが鞭のように腕の菌糸を振るうのを屈んで躱す。
即座に反撃に転じる。大地を蹴りつけ、怪獣の懐にタックルする。
フォーガス「キシャァァアアア!!」
エックス「――Xクロスチョップ!!」
Xを書くように二度チョップを入れ、更に腹を蹴飛ばす。
マシュラ「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」
その隙に背後から奇襲しようとしたマシュラだったが、
270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:19:21.50 ID:7KS6hDB30
エックス「――デェヤッ!!」
すぐさま感付かれ、後ろ蹴りで牽制された。
マシュラ「ンギュウィィィィイ!!」
エックス「イィッサアッ!!」
振り向くと同時に右手をアームドネクサスに当てる。
突き出した指先から光刃“パーティクル・フェザー”が翔び、マシュラを怯ませる。
エックス「ハッ!」
すかさず前転して距離を詰め、立ち上がると共にアッパーを叩き込む。
マシュラ「ピィィイイ!!」
271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:19:50.86 ID:7KS6hDB30
エックス「テエヤァ……ッ!」
その首を抱え込み、ダイナミックに投げ飛ばした。
フォーガスと衝突し、二体が同時に倒れる。
エックス『行くぞ、輝子!』
輝子『決めるぜエエエエエ!!』
エックス「――ハッ!」
アームドネクサスを金色に光るカラータイマーに翳し、斜め上に突き上げた。
右足を軸に左足を回転させ、全身を捻らせる。エックスの足元から背後に向け青白い電光がメタフィールドの地面を這い進んでいく。
エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
両手をクロスさせて放った光線が二体を捉え、その身体を爆炎の中に飲み込んだ。
その中心に光が集っていく。
272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:20:26.28 ID:7KS6hDB30
――しかし。
エックス「――グゥッ!?」
背後から触手に首を絞められたのだ。
振り返ってみると、もう一体のフォーガスが出現していた。
フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」
エックス「グッ……デアァッ!!」
触手を力任せに引きちぎる。しかしエックスの周囲にフォーガスが続々と出現しつつあった。
輝子『ど、どういうことだ……』
エックス『恐らく本体は別のところにあるのだろう。それを叩かない限り、こいつは永遠に出現し続ける』
輝子『――あの巨大キノコか!』
エックス『だろうな。あれを破壊するのは骨だが――』
輝子『チャ、チャンスは今しかない……と思う……』
エックス『そうだな。メタフィールドに閉じ込めている今が好機だ』
273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:20:55.11 ID:7KS6hDB30
フォーガスA「キシャアアアアアアア!!!」
フォーガスB「キシャァァァアアッッ!!!」
フォーガスC「キシャアアアアアアッ!!!」
エックス「――デヤッ!」
フォーガスが同時に触手を伸ばしてくるのを飛び上がって回避する。
そのままエックスは赤い空をぐんぐん上昇した。巨大キノコの全景が見下ろせる高度まで来ると、その真上に移動する。
輝子『行くぜエエエエエエエエ!!!』
エックスが身体を縮こめる。赤いエネルギーがその全身に溜め込まれ――
274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:21:25.25 ID:7KS6hDB30
エックス「アタッカー……エーーーーーーックス!!!」
全身でXのポーズを取ると同時にそれを全て放出した。
X字の炎が巨大化しながら地上に向けて落ちていく。巨大キノコの傘に着弾し、炎で包み込んだ。
フォーガスA「キシャアアアアアアア……!!!」
フォーガスB「キシャァァァアア……ッッ!!!」
フォーガスC「キシャアアアアアア……ッ!!!」
三体のフォーガスの身体が弾け飛ぶ。
やがて巨大キノコは陥落し、地上でごうごうと燃え盛った。
フォーガス「ピィィィィィィ!!」
すると、その火炎地獄の中からエイのような小柄な怪獣が飛び出してきた。
275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:21:56.33 ID:7KS6hDB30
エックス『あれがフォーガスの本体か』
輝子『…………』
空に逃げようとするが、ここはメタフィールドだ。逃げ場はない。
エックスはじたばたするフォーガスを見詰めながら両腕を重ね合わせた。
エックス「ハァァ――……」
それを胸の前で開くと、両腕を縛るようにその間に電撃が走る。
輝子『これで……終わりだ……っ!!』
その縛りすら弾き飛ばすように両腕を上方に広げ、それからL字に組んだ。
エックス「「――オーバーレイ・シュトローーーーム!!!」」
蒼白い光線が赤黒い空を駆け抜ける。
フォーガスに命中すると、その身体を粒子に分解し、弾けさせた。
276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:22:41.49 ID:7KS6hDB30
輝子『…………』
その青い粒子がさらさらと舞って、消えていく。
これで良かったのだ。トモダチを傷つけ、侮辱し、世界侵略までしようとした。
そんな奴を放っておいたらどうなっていたかわからない。だから、これで……。
輝子『……うぅっ』
エックス『輝子?』
輝子『……うわああああああああああああああああっっ……!!!!』
しかし、輝子は押し寄せてくる激情を堪える事が出来なかったのだった。
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277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:23:10.81 ID:7KS6hDB30
―――事務所・屋上
メタフィールドを出て、ユナイトを解除すると、世界は日常に戻っていた。
輝子は事務所の屋上で膝を抱えて、まだ肩を震わせていた。
エックス『輝子』
輝子「ん……」
エックス『袂を分かったり、裏切られたり……友達って難しいよな』
輝子「……そう……だな」
エックス『でも私は、絶対に君を裏切ったりはしない』
輝子「…………」
エックス『キノコとも友達になれる君なんだ。きっとこれからも、いい友達がたくさん持てるさ』
輝子「……エックス……」
エックス「何だ?」
輝子「……ありがとう……」
エックス「……ああ」
第五話 おわり
278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:24:07.98 ID:7KS6hDB30
≪アイドルの怪獣ラボ≫
輝子・エックス「「輝子の怪獣ラボ!」」
輝子「今回の怪獣はこれだァ!! カモォォォォン!!!」
『フォーガス 解析中...』
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107288.jpg
エックス『“菌糸怪獣”フォーガス! ユッコのサイキックによって知性が超発達したキノコで、巨大キノコを拠点として世界を支配しようとしたんだ!』
輝子「本体は……フフ、ちっこかったけどな……」
エックス『しかしそれを見つけ出して叩かないと無限に怪獣を生み出し続けられるという難敵だったな!』
輝子「元は『ウルトラマンダイナ』第6話の怪獣。ミラクルタイプの透視能力で本体を見破られてしまったぞ……フヒ」
輝子・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 17:24:43.36 ID:7KS6hDB30
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
突如東京に飛来した謎の宇宙人“ザムシャー”!
え!? この星一番の剣士と決闘させろ? ……って珠美ちゃん、早まっちゃダメですよ~っ!
かくして始まってしまった決闘! 果たして珠美ちゃんとプロデューサーさんの運命や如何に……!?
次回、ウルトラマンXP第六話! 『心の剣』 いざ尋常に……勝負っ!!
元スレ
SS速報VIP:ウルトラマンXP