1: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) [ここ壊れてます] .net

ラブライブss
一応『蝿の王』という作品が元ネタというかコンセプトです
長編



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12月〇×日 6:45p.m.

侑「みんな、今日はお疲れ様! みんなの協力があって、無事に第3回スクールアイドルフェスティバルの成功を収めることができました。ちょっと早いけど、私から乾杯の音頭を取らせていただきます。フェスティバル成功を祝って、カンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」

 夕暮れの高速を走るバスの中で、私たち虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は打ち上げをはじめた。
 ジュースの入った紙コップを頭上に掲げ、音頭の後、それぞれ隣席の人と紙コップを軽く打ち合わせる。

歩夢「ふふ。侑ちゃん司会進行お疲れ様」

侑「ありがと。みんな今日もすごく輝いてたよ。お疲れっ」

 第1回、第2回と規模を拡大していき、栞子ちゃん、ミアちゃん、ランジュちゃんという3人の新メンバーを迎えて臨んだ第3回スクールアイドルフェスティバルは、冬の長期休暇を利用した1週間という期間で開催された。

 東京、神奈川、埼玉の3県の学校で行われた合同のスクールアイドルイベントで、それぞれの学校で披露されるライブを生中継し、視聴者によるリアルタイムの投票で順位を決めるというラブライブ!の大会形式に則ったものとなった。



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歩夢「でも、まさか私たちが優勝できるなんて思わなかったな」

侑「どの学校もすごく素敵で順位なんて決められないよね」

ランジュ「そう? このランジュがいるんだもの。優勝以外ありえないわ」フフン

 最終日、一番獲得票数の多かった私たち虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、今回の合同企画を持ちかけた神奈川の学校で最後のライブを行ったのだった。
 私たちは今までにない充実感と達成感を胸に帰路に就いていた。

彼方「ふわぁ~、彼方ちゃん疲れちゃったよぉ」ポテン

エマ「ふふ。よしよし」ナデナデ
 

果林「それなりに長旅だったものね。でも、楽しかったわ」

愛「愛さんまだ体火照ってるよー。どっかのホテルで一休みしたいくらい。火照るだけに!」

<プヒョッ ユウチャン!?
 

ミア「少し静かにしてくれないか? 疲れてるんだ」っアイマスク

璃奈「ジュース、飲まない?」

ミア「……もらうよ」



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しずく「かすみさん、そのクーラーボックスの中身って」

かすみ「これはねえ、かすみん特性スペシャルコッペパンの詰め合わせ!」

しずく「スペシャル? お昼に出してくれたのとは違うの?」コンナニタクサン

かすみ「にっひっひ。それは食べてからのお愉しみ♪ はいどーぞ」

しずく「あ、ありがとう」
 

栞子「想定以上の盛り上がりでしたね。神奈川まで出向いた甲斐がありました」

せつ菜「規模が規模なだけに心配していた部分もありましたけど、いろんな人が力を合わせてくれたおかげですね!」

栞子「はい。ライブ配信も過去一の同接数を記録したと聞いています。これがきっかけで、さらにスクールアイドルの輪が広がってくれれば喜ばしいのですが」

せつ菜「きっと伝わっていますよ。だって、あんなにもたくさんの人達が見ていてくれたんです。私たちの活動は決して無駄にはなりません」

栞子「そうですね。そう、願いたいものです」



10: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) [ここ壊れてます] .net

かすみ「かすみんのかわいさが全国に広がるのも時間の問題ですねぇ」ニシシ

しずく「はいはい」フフ

かすみ「むう……あ、そういえば」

しずく「どうしたの?」

かすみ「かすみんたちの他にも東京から来てた学校あったよね」

しずく「えっと、それって確か原宿にある……」

侑「結ヶ丘女子だね!」ヒョコ

歩夢「ゆ、侑ちゃん危ないよ」

ランジュ「ああ、あの子たち」

侑「ランジュちゃんはどう思った? 私すっごいときめいちゃった!」

ランジュ「確かにあのパフォーマンスは侮れなかったわ。まだ拙いながらも、光るものがたくさんあった。来年はちょっと凄いんじゃないかしら?」

かすみ「あのランジュ先輩にここまで言わしめるとはっ」グヌヌ

しずく「どうしてかすみさんが悔しそうなの」



13: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:08:10.16 ID:cswbMgOP.net

果林「確かルエラって名前のグループだったわね」

愛「Liellaね、カリン」

侑「うんうん。本当に凄かったよね! なんでも先月行われたラブライブ!の東京大会で2位だったとか」

侑「しかも全員1年生!」

しずく「わたしたちと同い年だよかすみさん」

かすみ「かすみんだってあれくらいヨユーですけど!!」

ミア「……ボクにはそこまでのものには見えなかったけどな」フン

璃奈「私たちも負けてない」っ璃奈ちゃんボード『ムン』
 

栞子「結ヶ丘女子……あの5人組のグループですか。確か、まだ結成して間もないと聞きましたが、あのステージは見事なものでした」

せつ菜「そうですね。特にあのセンターの人、どこか普通ではないカリスマ性のようなものを感じました」

せつ菜「歌の上手さはもちろんですが、それだけでは説明のできない不思議な魅力がありましたね」

栞子「不思議な魅力……せつ菜さんのようなものですかね」クス

せつ菜「し、栞子さんっ」カラカワナイデクダサイ



14: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:09:31.33 ID:cswbMgOP.net

歩夢「あ、侑ちゃんそろそろトンネル入るからちゃんと座席に座って」

侑「はーい」

侑(あれ、行きにトンネルなんてあったっけ……?)

 微かに感じた違和感。確か、このバスは往路、復路で同じルートだったはず。交通状況や渋滞の問題で多少のルート変更があったとしても、この近辺の道路にトンネルがあるなどという記載はなかった。

侑(うーん、地図にも載ってない古いトンネルか、開通したばかりの新しいトンネルか。この辺の地理は全然詳しくないんだよなぁ)マ、イッカ

 特に深く考えることもなく、私は疲れた頭に糖分を補給しようとポケットに入れていた飴玉を口に放り込んだ。

 フロントガラスから覗くライトに照らされたトンネルの入り口が、まるで暗闇で獲物を待ち伏せる化け物の大口に見えるようで思わず肩をすくめる。

 バカバカしい。たかがトンネルだ。
 いくら長くとも5分もかからず通り抜けてしまうだろう。

 バスが速度を緩め、トンネル内に入っていく。



15: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:11:49.15 ID:cswbMgOP.net

侑(……長いな)

 目線を先に向けてもトンネルの出口が見えない。思ったよりも長いトンネルのようだ。

ゴゥー ゴゥー ガー ブロロ…

歩夢「ねえ、侑ちゃん」

侑「ん、なに歩夢?」

歩夢「今日は本当に楽しかったね。今までにないほど充実した1日だったと思う」

侑「うん、そうだね。ふふ、でも急にどうしたの」

歩夢「うーん、なんかね。もう12月も終わっちゃうでしょ。今日は彼方さんやエマさんたち3年生と一緒にできる最後のライブだったから」

歩夢「なんか、今になってしんみりしちゃって」

侑「分かるよ。勉強や進路のことで忙しい中、今日この日のために予定を合わせてくれたんだもん。このフェスティバルに参加してくれたみんなにも感謝してもしきれないよ」

ガゥーゴゥーゴゥー



17: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:14:10.49 ID:cswbMgOP.net

歩夢「ううん。誰よりも、人一倍頑張ってくれたのは侑ちゃんだよ。私たちにとって侑ちゃんはかけがえのない大切な人」

歩夢「忘れてないよね。侑ちゃんが信じてくれたから、私は前に進めたんだよ。今度は私たちが侑ちゃんの背中を押す番」

 なんて、ちょっとくさかったかな? 歩夢はそう言ってはにかんだ。

侑「歩夢……ありがとう。私もピアノもっともっと頑張る! だから、困った時はじゃんじゃん頼っちゃうからね」

 たとえ離れ離れになったとしても 心は繋がっている。
 背中を押して押されて、互いに引っ張り合げて。それが私と歩夢の真の関係性。

 だから、これからも――――

ブロロ…ブォーパラ…パラ

「なんだぁ? 雨……か?」

侑「?」



19: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:15:55.14 ID:cswbMgOP.net

 運転手の呟きを耳が拾う。
 雨? そんなはずはない。今日の天気予報はずっと快晴。何よりもここはトンネル内だ。

ランジュ「ねえ、なんか揺れてない?」

歩夢「もう、ランジュちゃん。バスの揺れでしょ?」

ランジュ「不对。ええと、何ていうのかしら、体の芯から震えるような地響き……感じない?」

カチッカチ…パラ

「今度は照明か? どうなってんだこりゃあ」
 

かすみ「わひ?! い、今一瞬明かり消えなかったっ?」

しずく「道路照明の点滅? 明かりが切れかかってるのかな」

ドン…ドンドン

歩夢「それって、太鼓の振動が体にビリビリ伝わる感じ?」

ランジュ「ああ、言われてみるとそんな感じね。歩夢もビリビリきてるでしょ?」

ドンドン…パラ…パラ…カチッカチッドン



22: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:18:45.93 ID:cswbMgOP.net

果林「なんか、揺れるわね」

愛「あ、また消えた」

愛「ライトがないと暗いと! なんてっ」
 

せつ菜「あのっ、これじ、地震ではないですか!?」

栞子「落ち着いてください……っ、揺れはそこまで強くはn

ズズンッッ!!

彼方「!! う、ぅえっぷ……っ」

エマ「彼方ちゃんっ、大丈夫?」サスサス

ドン…ドンドッドッドカチッーーーーバチッッ!

璃奈「み、ミアちゃん。起きてっ」ユサユサ

ミア「h…hmmm…」zzz

ドンッドンドンドン‼︎ガラガラ

ランジュ「きゃあ!? な、なにようこれぇ!」

パッ カチッ カチ パッドン ドン ドンドンドンドンドンドン!!!!

侑「あ、ちょっ 待ってこれやばいやt――――
 

――――――ドン"ッ!!!!



23: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:25:05.95 ID:OifbkzB1.net

第1章 始まり-tunnel-

――
――――
――――――

チャン ウチャンッ

侑「う、うぅん……」

「―――侑ちゃん!」

侑「っ、あ、あゆ……む?」

侑「っう゛ぅ!?」キーーーン

 頭が痛い。耳鳴りがひどい。
 ぼやける視界の中、私は歩夢の顔を見上げていた。

歩夢「よ゛がっだよぉおお! うわぁああん」ギュウ

侑(歩夢、泣いてる。いま、どういう状況なんだろう……)

 朦朧とする意識。なんとか頭を動かして辺りを確認する。

侑(バスの中……でも、変だ。止まってる?)

侑「ねえ、今、どういう状況? なんか、すっごく頭痛いんだけど……っいつつ」

歩夢「動かないでっ。あの、ね、落ち着いて聞いて欲しいのっ」アタフタ



26: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:29:27.93 ID:3pGLmpWE.net

侑(落ち着くのは歩夢の方じゃ)

栞子「侑さん、大丈夫ですか?」

侑「栞子ちゃん……」

栞子「状況を説明します。まず、ここはトンネルの中です」

 トンネル。ああ、そうだ。
 確かバスがトンネルに入って、それから……

侑「――――! そうだ! 揺れてっ、じ、地震は!?」ガバッ

侑「いつぅ!」ズキンッ

歩夢「侑ちゃん!」

栞子「こめかみが切れています。無理に頭を動かさないでください。吐き気はありませんか? 手足に痺れは?」

侑「う、ううん、大丈夫。ただ痛むだけ」

栞子「よかった」ホッ

栞子「少し待っていてください」

 栞子ちゃんはそう言うと、その場を去っていった。



29: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:47:22.39 ID:3pGLmpWE.net

歩夢「侑ちゃん、本当に平気? 何かあったらすぐに言って」グズ

侑「平気だよ。歩夢こそ怪我はない? 他のみんなは?」

 歩夢の太ももの感触に妙な安心感を覚えつつも、辺りの反応を探る。
 通路を挟んだ隣座席にはランジュちゃんがいた。見たこともないような焦燥を顔に滲ませている。

 後方からは、誰かの悲鳴にも似た金切り声。

侑(これって……)

 ぼうっとする頭で理解する。何か、どうしようもないほどの、致命的な事態に、私たちは陥ったのだ。

 見上げると、歩夢は啜り泣くだけでとても満足に話ができるような状況じゃない。
 そんな私の態度を察したのか、歩夢はポツリ、ポツリと絞り出すように言葉を落とし始めた。

歩夢「たぶん……地震だと思う。それもすごく、すごく大きな……っ。侑ちゃんの体、宙に浮いてそれでっ」

侑「おかしいな。ちゃんとシートベルトしてたのにね。すっぽ抜けちゃったのかな、なんて」エヘヘ

 歩夢を少しでも安心させようと、冗談交じりの口調で返すが、

歩夢「わかんないよ。とにかくすごい衝撃だったから……気付いたら侑ちゃん通路に投げ出されてて、血流しててっ、私もうどうしていいかわがんなぐて……うっう"う」ボロボロ

 どうやら逆効果だったらしく、話の途中で再び泣き出してしまった。



30: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:48:54.75 ID:3pGLmpWE.net

栞子「お待たせしました……って、大丈夫ですか?」

侑「あはは、気にしないで。それは?」

栞子「救急箱です。持ってきておいて正解でした」

 栞子ちゃんはそう言うと、タオルで私のこめかみを強く抑えた。

侑「いっ」

栞子「すみません。少しだけ我慢して下さい」

 傷は思ったよりも浅かったようで、血を拭き取るとすぐに消毒液を染み込ませたガーゼを私の頭に巻く。

侑「手際いいんだね」

栞子「これぐらいは普通です。とにかく、無事でよかった」ハァ

 栞子ちゃんは大きく息を吐いた。心配させちゃったみたい。

侑「ありがとう。栞子ちゃんは命の恩人だよ」ニコ

栞子「……大袈裟ですよ。私は他の人を診てきます」

 くれぐれも無茶はしないように、そう言い残し、栞子ちゃんはその場を後にした。



31: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:51:09.43 ID:3pGLmpWE.net

侑「――――さて」ガバ

歩夢「侑ちゃんっ」

歩夢「まだ横になってなきゃだめだよ!」

侑「平気平気! こめかみが少し切れただけだって。軽傷だよ」

歩夢「でも、頭打ったんだよ? 暫くは動かないほうが」

侑「ううん。今は少しでも情報が欲しい。ただ不安のままでいるより自分の眼と足で確かめたい」

歩夢「それは」

侑「歩夢」ジー

歩夢「うぅ……もぉ。何か違和感覚えたらすぐに言うこと」

歩夢「それなら、許します」フイ

侑「ふふ。分かってるって」

 この時の私は、いや、私たちはまだ心のどこかでこの現状について楽観視していたのかもしれない。大丈夫だと。きっと平気だと。数年後には笑い話にすらなってしまうと。

 そう、思っていた。



32: 名無しで叶える物語 2022/08/11(木) 23:56:24.64 ID:3pGLmpWE.net

侑「これは、酷いね」

歩夢「うん……」

 バスのフロントガラスには無数のひび割れが入り、指先で押しただけで粉々に割れてしまいそうだ。

 あの時の揺れで、運転手は咄嗟の判断でハンドルを切りトンネルの壁に車体を押しつけて止めようとしたのだろうか。
単にブレーキをかける余裕がなかったのかも知れない。

 もしくは揺れで手元が狂い、壁にぶつからざるを得なかったのか。

歩夢「運転手さん、いないね」

侑「きっと助けを呼びにいったんだよ」

 壁に押し当てられたであろう運転席側の座席はひしゃげていて、ドアは大きく凹んでいた。

侑(まさか、押しつぶされ……いやそんなはずない)

 運転手は絶対無事だ。五体満足でここを抜け出したに違いな。
 だから、きっと違う。

侑(この赤いナニカは絶対に違う)



34: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:00:17.42 ID:gE+eBtO8.net

 運転席のあちこちに塗りたくられた赤。
 道に吐き捨てられたガムのようにべっとりと付着した黒の混じった赤。

歩夢「……」

 歩夢は何も言わない。見えているのに、口に出さなければ真実じゃないと、その表情は物語っている。

ランジュ「血でしょ、ソレ」

 そんな私たちのを暗黙を破ったのはランジュちゃんだった。

侑「何を言って」

ランジュ「アタシ見てたのよ。右足とお腹だったかしら、運転手が血塗れでそこのドアから出ていくの」

 ランジュちゃんが指差した先には半開きの乗車口。
 そこに続く通路には引き摺ったような赤いナニカの跡。

ランジュ「アタシたちを置いて先に逃げたってことじゃない」

侑「冷静、なんだね」

ランジュ「冷静? 别小看我! 冷静だったなら運転手をそのまま見過ごす訳ないっ」

侑「っ、ごめん」



35: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:04:44.07 ID:gE+eBtO8.net

歩夢「……侑ちゃん、私怖い」キュ

 歩夢が私の裾を掴む。その瞳には涙を浮かべていた。
 そうだ。不安なのはみんな同じだ。

侑(私だって怖い。足だって震えてる。あのランジュちゃんでさえ、どうしていいか分からないんだ)

侑(どうしよう。まず何をすればいい? 運転手を追いかける? それで私たちも歩いてトンネルから抜ける?)

侑(だめだ。ランジュちゃんの話だと、運転手は重症。途中で力尽きて倒れていたら? バスに連れ戻すべき? そのまま担いでトンネルを出る?)

侑「――――あ、そうだよ! まずは電話! 警察、110番? いや、救急車? えぇっと」ゴソゴソ

侑「うわ、画面にヒビ入ってる……え、うそ」

歩夢「どうしたの?」

侑「圏外になってる。なんで? どうして!?」

歩夢「そんな……」



36: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:09:45.30 ID:gE+eBtO8.net

ランジュ「ランジュのやつもダメだった。多分、他の人のも全部同じなんじゃない?」

侑「そう、なんだ……」

侑(どうしよう。電波が繋がる場所まで行くべき? それこそトンネルから出た方がいいんじゃ)

栞子「侑さん、まだ安静にしているよう言ったはずですが」

侑「あ、栞子ちゃん」

ランジュ「栞子」

栞子「……」ハァ

栞子「お二人とも、言いたいことは分かります。一先ず、一度みんなで話し合いましょう」

――――
――――――――

・・・

栞子「手当てが必要だったのは侑さん、璃奈さんの2人。出来るのなら、早急にしかるべき医療機関へ運ぶべきなのですが」

栞子「他に怪我人がいなかったのは不幸中の幸い、ですか」



37: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:15:02.30 ID:gE+eBtO8.net

せつ菜「あれだけの衝撃だったんです。むしろ運が良かったのだと考えましょう」

果林「ええ、私たちは何ともないわ」

エマ「……うん。でも、璃奈ちゃんが」

璃奈「私は大丈夫。みんな、心配しないで」っ璃奈ちゃんボード『キリッ』

 左腕の打撲。
 あの時の衝撃で、小柄な璃奈ちゃんは私同様に席から投げ飛ばされてしまったらしい。
 その際に、左腕を前の座席に強打したとミアちゃんが私たちに教えてくれた。

ミア「ああ、クソっ……ボクのせいだ。ボクが呑気に寝ていたから、璃奈が。この、damn it!」ガンッ

璃奈「ミアちゃんはすぐに私を助けてくれた。だから、そんなに自分を責めないで。お願い」

ミア「璃奈……」

 璃奈ちゃん、痛いはずなのに。私なんかよりずっと辛いはずなのに。額に決して少なくない汗を浮かべつつも、弱音を吐くようなことはしなかった。



38: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:20:07.54 ID:gE+eBtO8.net

愛「りなりー」ウルウル

璃奈「愛さん、泣かないで。痛いのは平気。みんなが悲しんでる方が辛いから」

愛「り"な"り"ぃいい!!」ブワ

栞子「本当はしっかりと固定させた方がいいのですが、如何せん包帯もなければガーゼも足りず、応急処置が手一杯なのが歯痒いですね」

せつ菜「そんなことありませんよ! 栞子さんがいなければどうなっていたか。その救急箱だって栞子さんの持ち物ですし」

侑「うん。本当に、栞子ちゃんがいてくれてよかった」

栞子「まさかこんな形で活躍することになるとは、お役に立てて幸いです」

 栞子ちゃんは腕に抱く救急箱を愛おしそうに撫でた。

彼方「あの~」

 そんな折、恐る恐るといった感じで手を挙げたのは彼方さんだ。

彼方「あのね、彼方ちゃんたちはこれからどうすればいいのかなぁ、って」

彼方「運転手さんいなくなっちゃったみたいだし、携帯も使えないし……探しに行った方が」



39: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:28:31.77 ID:gE+eBtO8.net

果林「ねえ、本当に誰も気が付かなかったの?」

しずく「あの衝撃では誰も満足に動けなかったみたいですし、無理はないかと」

かすみ「それより、どうしてスマホが使えないんですか! いくらトンネル内でもおかしくないですかっ?」

璃奈「電波が悪いのは仕方ないけど、全員圏外なのはちょっとおかしい、かも」

エマ「どういうこと? ここってそんな山の中ってわけじゃないよね?」

栞子「このような閉鎖的な空間内では電波を通すための回線か、発信するための基地局が内外にあるはずです」

栞子「圏外ということは、内部にある回線かアンテナが地震の影響で破損し、機能しなくなっている場合。いえ、それよりも最悪なのは……」

 栞子ちゃんは途中で顔を伏せた。
 そして、俯いたまま押しこもった声で続ける。

栞子「そもそも、物理的に電波が届かない状況にあるということ……です」



40: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:39:57.91 ID:gE+eBtO8.net

彼方「え? それって、と、トンネルが塞がれてるって、こと?」

ミア「what? 今そういうジョークは面白くないぞ栞子」

栞子「いえ、冗談なんかでは……すみません。憶測でものを言い過ぎました」

かすみ「そ、それなら早くバスから出ようよ! 出口に近付けば電波も入るかもしれないし。しず子もそう思うよね!?」

しずく「う、うん」

侑「待って。ここで待つのは確かに辛いかもしれないけど、暫く待てば私たちの親が連絡を入れてくれるはずだよ」

かすみ「そ、そうかもですけどぉ。それって早くても2、3時間はここで待たないといけなくなるじゃないですか!」

侑「……うん。私たちの帰りが遅くなるのは向こうも知ってるから、時間はかかるかも知れない。でもわざわざ危険を冒す必要はないよ」

ミア「danger? 何を怖がっているんだ?」



41: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 00:43:08.88 ID:gE+eBtO8.net

侑「それは、上手く言えないけど、こういう災害時って無闇に動くのは得策じゃないと思うんだ」

せつ菜「それは時と場合によると思います。しかも、今は頼りになる大人がいない状況です。ここは危険を承知でも行動するべき時ではないでしょうか」

エマ「でも、危ないよ。見て、この先の道。遠くに行くほど暗くなってる。奥の方なんてもう真っ暗だよ」

ランジュ「だから急いだ方がいいのよ」

エマ「え?」

ランジュ「もしさっきと同じかそれ以上の揺れがまた起こったら? 今度こそ天井が崩落するかも知れない。照明だっていつまでも点いてる保証はないわ」

ランジュ「それに、先にここを出た運転手が途中で倒れていたら? そのまま見殺しにする気? かすみも言っていたけど、外に近付けばそれだけ電波が届く確率も上がる。少なくとも、栞子の話が真実かどうか分からない今、ここで待つメリットなんて何一つないのよ!」

「……」

 誰も答えない。
 ランジュちゃんの言葉を頭の中で反芻しているのか、幾人かの表情には迷いが見て取れた。

ランジュ「……運転手を引き止めなかったのはアタシの責任よ。言い訳はしないわ。それで、どうするの?」



47: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 12:05:01.45 ID:gE+eBtO8.net

侑「で、でもっ」

愛「いや、行こう。アタシもランジュの意見に賛成だよ」ゴシゴシ

歩夢「愛ちゃん……?」

愛「助けを待つにしても、スマホが使えないんじゃどうしようもない。確かに、時間が経てば心配になった親御さんが警察に連絡を入れてくれるかも知れない」

愛「でも、それじゃ遅いんだ。余震の危険もあるし、早くりなりーとゆうゆを病院に連れて行かないと」

侑「っ、それは……」

ランジュ「決まりね。荷物をまとめて早く行きましょう」

愛「待って。何も全員で行く必要はないと思う。愛さんとランジュ、それとあと1人欲しいかな」

果林「なら、私が行くわ。体力には自信があるし」

侑「このトンネル、相当長いよ。私たちが今いるこの場所って感覚的に中間地点辺りだと思う。確証はないけど、戻るより進んだ方が早く着くはず」

愛「ん、愛さんもそんな気してた」

璃奈「愛さん、気を付けて。急がなくてもいいから、無茶だけはしないで」



48: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 12:08:27.49 ID:gE+eBtO8.net

愛「だーいじょうぶだって! 愛さんの走りは誰にも止めランない!」ワシワシ

愛「出口がどうなってるか確認したらすぐ戻ってくるから」

 多分だけど、ここからでもトンネルの出口までは相当な距離があるはずだ。
 本当なら私も一緒に行きたかったけど、頭の怪我もあるし体力的にも足を引っ張ってしまうだろう。

エマ「果林ちゃん、迷わないでね」

果林「一本道でどうやって迷うのよ」モウ

ランジュ「う"、臭うわね。栞子、マスクか何か持ってない?」

栞子「それなら、こちらに」スッ

ランジュ「謝謝。あと、まさか懐中電灯とかあったりする?」

栞子「ええっと、流石にありませんね」

ランジュ「まあ、スマホがあれば十分ね。じゃ、行ってくるわ」

侑「愛ちゃん、ランジュちゃん、果林さん……気を付けてね」

ランジュ「ええ、任せて。いい報告を期待してなさい」

 いつものランジュちゃんらしい勝気な笑みを浮かべ、3人はバスから降りていく。
 残された私たちは一抹の不安を覚えながらも、ただ待つことしかできなかった。



49: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 12:18:32.49 ID:gE+eBtO8.net

・・・

エマ「けほ、けほッ。ねえ、なんか空気悪くない? あ、場の雰囲気がって意味じゃなくてね?」

彼方「トンネルは排気ガスとか良くない空気が充満してるからね~。換気もできないから閉め切るしかないけど……」

 ランジュちゃんたちがバスを降りて10分が経った。圏外だと電波を受信できないから、このスマホの時計も徐々にずれていくんだろうか。
 私は時刻を確認すると、窓を開けて顔を覗かせる。

 途端に、もわっとした生暖かい空気が顔にまとわりついた。まるでサウナの中にいるみたいだ。
 鼻を摘みたくなるほどの強烈なガスと埃の臭いに顔をしかめながら、周囲を見渡す。

 思った以上に頼りない照明の光。50メートル先の景色すら満足に見渡すことができない。

歩夢「侑ちゃん? 何してるの」

侑「ああ、ごめんね。ちょっと気になることがあって」

侑(……静かだ)

 不気味なほどに。

 試しに指先を舐めて掲げるも、前からも後ろからも風を感じなかった。
 たらりと、冷たい汗が背中を伝う。

 私たちは本当にトンネルの中にいるの?
 何か巨大な怪物の腹の中にいるんじゃないの?



50: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 12:25:33.16 ID:gE+eBtO8.net

侑「私たちだけなのかなって。このトンネルにいるの」

 そんな馬鹿げた妄想を振り払うように、歩夢に疑問を振った。

歩夢「え? うーん、そう言えば他に走ってる車全然見かけなかったね」

侑「あんまり気にしてなかったけどさ、ちょっとおかしいよね……?」

 深夜でも早朝でもない、夜の帳が下りる頃。場合によっては一番交通量の多い時間帯だ。
 思い返せば、道中全くと言っていいほど他の車の影を見なかった気がする。

歩夢「偶然だよ」

歩夢「今は助かることだけを考えようよ、侑ちゃん」

歩夢「余計なこと、しなくていいよ」ギュウ

侑「……ごめん」

 歩夢はこれ以上、何も考えたくないんだ。
 私はそっと、窓を閉めた。

侑(私たちだけなんて、そんなことないと思うんだけどな)

 バスのエンジンは止まっているけど、室内灯は点いている。他に同じような状況に陥った人たちがいるなら、この光が目印になるはずだ。



52: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 12:34:08.62 ID:gE+eBtO8.net

栞子「? 何でしょうかあの光」ガラ

かすみ「どしたのしお子。え、愛先輩たち帰ってきた!?」ガタ

しずく「本当?」

栞子「いえ、方向は真逆で……入り口の方から」

ミア「誰か来たのか?」

栞子「ごほっ、ごほ……はい、こちらに向かってきています」

侑(誰か来てる? やっぱり他にもいたんだ!)ガラッ
 

「ねえ! ほら見てよ。よかったぁ! 私たち以外にもいたんだっ」

「だから言ったじゃない。私たちだけなんて、ありえないったらありえないのよ」

「うう……こわ"がっだよぉお"お"」

「おー、よしよし」

「这很有帮助ァ! ミナサン一先ず安心デスね!」

「そうですね。本当、一時はどうなることかと……」

 複数の声と共に近付いてくる複数の光。それがスマホのライトだというのはすぐ分かった。

コンコン



54: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 13:14:32.46 ID:gE+eBtO8.net

「あのー、す、すすすみましぇん!」

侑(噛んだ……)

 半開きの乗車口をわざわざノックして、顔を覗かせたのは女の子だ。
 5人の女の子。私たちと同じ高校生に見える。

侑(あれ? どこかで見たような)

栞子「すみませんが、あなた方はもしかして……」

「あ、えって、とかのんです!」

かすみ「とかのん?」

かのん「かのんです! し、し澁谷かのんと申します!」

侑「かのん……? あっ」

 どうしてすぐに思い出せなかったのか。
 彼女たちの姿はまだ記憶に新しいではないか。

侑「スクール、アイドルの……」

かのん「え? あ、はい! スクールアイドルグループ『Liella』って言ったら伝わりますかっ?」

 煤汚れた顔。所々にほつれや赤黒い汚れを滲ませた制服。
 背中に背負うリュックやキャリーケースをパンパンに膨らませ、疲労を顔に浮かべながらも彼女は笑った。

かのん「あ、皆さんのことはも、勿論っ知ってます! こ、こんな状況ですけど、嬉しいです! 会えて!」ニコ

 こうして、私たちは出会った。
 この出会いは運命? それとも奇跡?

 多分違う。

 神様のいたずらは こんなにも不条理で残酷なのだと
 この時の私は まだ 知る由もなかったのだ

侑「……うん! 私も、会えて嬉しい」

ブゥゥーン…

 どこからか、蝿の羽音が聞こえた気がした。
 

to be continued



55: 名無しで叶える物語 2022/08/12(金) 13:17:36.84 ID:gE+eBtO8.net

第2章はまた後日以降に別スレで


元スレ
侑「その閉ざされた楽園で」