1: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:07:27.438 ID:jgPK6wbcD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
細野かずえ(20) 女子大生
【奇跡のタロット占い】
ホーッホッホッホ……。」
2: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:09:12.016 ID:jgPK6wbcD.net
ある日、朝。あるアパート。部屋の中で、ファストファッションに着替える若い女性。
女性が洗面所の鏡に向かい、化粧をしている。彼女は鼻歌を歌い、何か楽しそうな様子だ。
テロップ「細野かずえ(20) 東京平成大学2年」
かずえ(今日は待ちに待った初デートの日だ……)
テレビをつけるかずえ。テレビに映っているのは、朝の情報番組の占いのコーナーのようだ。
テレビ「おうし座のあなた……。今日は何をやっても絶好調!まさに、最高の運気の日です」
「そんなあなたのラッキーアイテムは……」
かずえ(やった!私の星座のおうし座が、今日は絶好調で最高の運気だって!)
(まさに、いいデート日和になりそうじゃん!)
ある遊園地。入り口で待ち合わせをしていた彼氏に会うかずえ。
手をつなぎ、遊園地を歩く2人。このまま、順調にデートが続くかのように見えたものの……。
数時間後。遊園地のカフェの中。テーブルに向かい合い、アイスコーヒーを飲む彼氏とかずえ。
楽しそうな表情のかずえに対し、彼氏は冷めた表情をしている。
彼氏「実は俺、どうしても言いたいことがあるんだ……」
かずえ「ん……?何なの?」
彼氏「俺とお前は、何から何まで価値観が違う。だから、このまま交際をしていてもうまくいかないと思う」
かずえ「で、でも……。付き合いを続けていれば、お互いが分かりあえるはず……」
彼氏「そんなことはあり得ない。だから、お互いが傷つかないうちに別れたほうがいいだろう」
かずえ「え!?それじゃあ……」
彼氏「もちろん、今日限りでお前と別れるってことさ。今までありがとな……」
かずえ「そ、そんなぁ……!!」
そのままカフェを去る彼氏。途方に暮れた表情になるかずえ。席に一人残されたかずえを見つめる他の客たち。
遊園地。大勢の一般客たちがアトラクションを楽しむ中、浮いた様子のかずえ。
一人になったかずえがベンチに座り、泣きじゃくっている。
かずえ「ウ……、ウウウ……。ウワアアアアアアア……」
遊園地の中にいる喪黒福造。喪黒は、遠くの方のベンチでかずえが泣いているのを見つける。
かずえの方へ近づき、彼女の隣に座る喪黒。
喪黒「お嬢さん、何か辛い出来事でもあったのですか?」
かずえ「はい……」
喪黒「何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
かずえ「ええ。実は……」
身振り手振りを交え、喪黒に今日の出来事を説明するかずえ。
喪黒「なるほど。突然の失恋……というわけですか。それはお気の毒ですなぁ」
かずえ「はい。私としてはこれ以上なくショックですよ……」
喪黒「まあまあ、細野さん。今日の失恋から立ち直ることは可能なはずです」
かずえ「それができればいいんですけど……。まだ心の準備が……」
喪黒「細野さんはまだ若いですから……。人生はこれからですよ」
「あなたのような若い人たちのお力に、少しでもなれたらいいのですが……」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
かずえ「ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
かずえ「は、はあ……」
喪黒「失恋も貴重な人生経験の一つなのです。それに、長い人生には波乱の出来事も当然含まれていますし……」
かずえ「でも、今日がこんな日になるとは予想もしていなかったんですよ。何しろ、今日は最高の運気の日なのに……」
喪黒「今日が最高の運気の日とは、一体どういうことです?」
かずえ「ほら……。朝のテレビの占いのコーナーでは、私の星座の運気が最高だったんですよ」
喪黒「そうですか……。ところで、細野さんの星座は?」
かずえ「おうし座です」
喪黒「ほう……。もしかするとあなた、占いを信じやすい性格でしょう?」
かずえ「その通りです」
喪黒「だとすると、血液型占いとかも……」
かずえ「もちろん、信じていますね」
喪黒「分かりました……。そんなあなたのために、ちょうどいいものがあるんですよ」
鞄から小箱を取り出す喪黒。喪黒が小箱を開けると、中には紺色のカードがいくつも入っている。
かずえ「これは……」
喪黒「タロットカードですよ。今から、あなたの近い未来を占おうと思っています」
かずえ「私の近い未来が分かるんですか?」
喪黒「そうです。私が今からやるタロット占いは、『スリーカード』と呼ばれるやり方です」
タロットカードを切り、ベンチの上に3枚のカードを置く喪黒。
喪黒「まずは1枚目、過去のあなたを表すカード……。これは『月』の正位置のカードですか」
「不安や迷い……。幻にとらわれていて、周囲や現実が見えなくなっているようですねぇ」
かずえ「え、ええ……。言われてみれば、当てはまっているかもしれませんね」
喪黒「次に2枚目、現在のあなたを表すカード……。これは『塔』の正位置のカードですか」
「予期せぬ災難、崩壊……。突然起きた破局に対し、あなたは為すすべもありません」
かずえ「じゃあ、彼との関係は……」
喪黒「残念ながら、修復不能でしょう。まさに、今のあなたはどん底です」
かずえ「そ、そんな……」
喪黒「しかし……。人間は一度どん底を迎えた後、必ず這い上がるものですから……。元気を出してください」
かずえ「ど、どうも……」
喪黒「そして3枚目、近い未来のあなたを表すカード……。これは『愚者』の正位置のカードですか」
「新たな始まり、無限の可能性……。全てはこれからであり、何を始めるのもあなた次第です」
かずえ「じゃあ、私は……」
喪黒「ひょっとすると、新しい出会いがあるかもしれませんよ」
「新しく出会った恋人とともに、初恋のように純粋に恋を楽しむ……それが、近い未来のあなたでしょうなぁ」
かずえ「本当にそんなことが起きるんですか?」
喪黒「可能性はかなり高いでしょう。タロットカードが示した答えなのですから……」
かずえ「そんなにすごいんですか?タロット占いって……」
喪黒「はい。直感でカードを選ぶことを通じ、自分の第六感で運命を見抜く……。それがタロット占いの特徴なのです」
「だから……。タロット占いというものは、どの占いよりも的中率が高いんですよ」
かずえ「へぇ……。ずいぶん奥が深いんですね。タロット占いって……」
喪黒「数あるタロットカードの中でも、占いの的中率が高いのがこのカードなんです」
「細野さん。このタロットカードをあなたにプレゼントしますよ」
かずえ「えっ、いいんですか?」
喪黒「細野さんの人生のお役に立つのならば、望むところです」
「このタロットカードは、あなたの生き方をいい方へ導いてくれるでしょう」
かずえ「あ、ありがとうございます……。このカード、大事に使いますから……」
喪黒「どういたしまして。その代わり、あなたには約束していただきたいことがあります」
かずえ「約束!?」
喪黒「そうです。このタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておいてください」
「いいですね、約束ですよ!?」
かずえ「わ、分かりました……。喪黒さん」
夜。アパート。かずえはいつの間にか、自分の部屋に帰っている。彼女の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「このタロットカードは、あなたの生き方をいい方へ導いてくれるでしょう」)
かずえ(それにしても、不思議な感じの人だったなぁ……)
喪黒から貰った名刺を見るかずえ。
彼女が喪黒から貰った名刺の裏の白地には、BAR「魔の巣」の住所がボールペンで書かれている。
コタツに向かい、ノートパソコンを操作するかずえ。パソコンの側には、大学ノートとシャープペンシルがある。
かずえ(なるほど……。タロットカードには、22枚の大アルカナと、56枚の小アルカナがあるのか……)
彼女は、タロットについてネットで検索している。ネットのサイトには、タロットカードの種類が解説されている。
タロットカードの種類について、大学ノートへメモをするかずえ。
東京平成大学。教室内で、経営学入門の授業を受ける学生たち。後ろの方の席に座るかずえ。
教授「テイラーの科学的管理論と、メイヨーの人間関係論の違いは……」
かずえ(果たして、この授業は人生の役に立つんだろうか?私には、そうは思えない……)
(そもそも、今通っている東京平成大学は三流私大なんだから……)
(この大学を卒業しても、ろくな仕事が見つからないのは目に見えてるじゃん)
退屈そうな表情で授業を聞くかずえ。教室内には、居眠りをしている学生や、スマホでゲームをしている学生もいる。
大学ノートを眺めるかずえ。これは、タロットカードの種類についてメモをした例のノートだ。
とある部屋。室内で、液晶テレビを見るかずえら学生たち。テレビの画面には、何かのアニメが映っている。
かずえのモノローグ(私が所属しているサークルは、いわゆる『オタサー』みたいなものだ)
(活動内容はオールラウンドに渡っていて、人間関係のつながりも緩やかだ)
一同が見ているアニメは、中世ヨーロッパ風の世界観のようだ。占い師の老婆が水晶玉で、主人公の勇者を占う。
老婆「おお……。おぬしはどうやら、選ばれたお方のようじゃ……」
老婆の託宣に耳を傾ける主人公。テレビの画面を食い入るように見つめるかずえたち。
アニメを見終わり、部屋を出るかずえたち。女子学生がかずえに声をかける。
女子学生「今度、他の大学のサークルと合コンをやろうと思うんだけど……。細野さんも参加する?」
かずえ「うん……。そりゃあ、もちろん私も参加しようと思ってる……」
大学キャンパスを出て、家路をたどるかずえ。かずえの頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「ひょっとすると、新しい出会いがあるかもしれませんよ」)
2週間後、朝。アパート。タロットカードを切り、1枚のカードをコタツの上に置くかずえ。
かずえ「いつも通り、ワンオラクルで占ってみよう。えーと、今日の合コンは……」
かずえはタロットカードをめくる。
かずえ「これは、『太陽』の正位置……!ポジティブなエネルギーに充ち溢れたこのカードなら……」
「素晴らしい出会いがあるかもしれない!魅力的な人物からプロポーズされるとか……」
夜。居酒屋チェーン店「鳥王子」。
テーブルを囲む大学生たち。テーブルの上には、料理が山のように盛られている。
かずえに、別の大学に通う男子学生――加賀美隆一が声をかける。
隆一「いよぉ、かずえ!久しぶりだな!」
テロップ「加賀美隆一(20) 日東大学2年」
かずえ「あ!隆ちゃん!!」
酒に酔い、話が盛り上がる合コン参加者一同。
数日後。BAR「魔の巣」に入店するかずえと隆一。席にいる喪黒。
かずえ「こんにちは、喪黒さん」
喪黒の隣の席に、かずえと隆一が腰掛ける。
喪黒「その様子を見ると……。どうやら、新しい出会いがあったようですなぁ。細野さん」
かずえ「ええ。合コンに参加した場所で幼馴染と出会い、そのまま交際が始まるなんて……」
喪黒「どうです?例のタロットカードの的中率の高さは本物でしょう?」
かずえ「はい。おかげで、私はこのタロットカードに心からハマりました」
「毎朝ワンオラクルで今日の運勢を占うのが、私の日課になったくらいですから」
喪黒「ほう……、そうですか。ただ、私としては、あなたにどうしても忠告しておきたいことがあるのですよ」
かずえ「は、はあ……」
喪黒「時に、占いに頼るのもいいかもしれません。人間は何かと心に弱さを抱えていますからねぇ……」
「しかしながら……。自分の人生は、自分自身によって切り拓いていくものなのですから……」
「従って……。占いの結果は、あくまでも参考程度にとどめておくべきですよ」
かずえ「え、ええ……。十分に承知していますよ」
1か月後、朝。アパート。旅行の準備を整えたかずえ。いつもの通り、彼女はワンオラクルでタロット占いをする。
コタツの上に置かれたカードをめくるかずえ。
かずえ「お、『星』の正位置のカードが出た……。明るい未来で、希望が持てる……。よかった……」
新幹線に乗るかずえと隆一。上空は雲ひとつない快晴のようだ。
隆一「かずえー。俺たちの運勢をタロットで占ってみてくれよ」
かずえ「えーーっ!!でも……」
かずえの頭の中に、喪黒による忠告の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒このタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておいてください」)
隆一「いいから、やってみろよ」
かずえ「しょうがないな……。じゃあ、ヘキサグラムでやってみようか」
座席に付いたテーブルを開くかずえ。彼女はタロットカードを切り、7枚のカードをテーブルの上に置く。
かずえ「えーーと……。1枚目の過去を表わすカードは、『節制』の正位置。これまでの私たちは、控え目な関係……」
「2枚目の現在を表わすカードは、『恋人たち』の正位置。今の私たちは、ラブラブな関係……」
「3枚目の近い未来を表すカードは、『死神』の正位置。うわっ……!そ、そんな……!!」
隆一「気にすんなって。残りの4枚も見ようよ」
かずえ「4枚目の周囲や状況を表すカードは、『戦車』の逆位置。不安に支配されて暴走……」
「5枚目の無意識の願望を表すカードは、『悪魔』の正位置。ドロドロとした欲望が渦巻いているってこと……」
「6枚目の対策を表わすカードは、『月』の逆位置。つまり、幻から覚めて現実を見ろってこと……」
みるみる不安な表情になるかずえ。彼女が7枚目のカードをめくると……。
かずえ「7枚目の最終結果を表すカードは、『世界』の正位置!『世界』のカードは、タロットの中では最高の運気……」
「や、やった!!私たちの恋愛は、見事に成就するんだ……!!」
憂鬱な表情が一転し、ほっとした顔つきになるかずえ。
高速道路を走る高速バス。乗客は3人だ。かずえと隆一に対し、後ろの座席に座る例の男――喪黒が声をかける。
喪黒「細野かずえさん……。あなた約束を破りましたね」
かずえ「も、喪黒さん……!!」
喪黒「あなたは、ワンオラクルをやるのが日課ですよねぇ」
かずえ「え、ええ……。そうですけど」
喪黒「では、これは一体どういうことですか?」
かずえにスマホを見せる喪黒。スマホの画面には、かずえが新幹線でタロット占いを行う写真が写っている。
かずえ「ああっ!!」
喪黒「私は言ったはずです。例のタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておけ……と」
「それにも関わらず……。あなたはワンオラクルに加えて、新幹線内でもタロット占いをしましたねぇ……」
かずえ「す、すみません!!だって、隆ちゃんが頼んだものだから、どうしても……」
喪黒「言い訳はよしてください。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は隆一とかずえに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
隆一「ギャアアアアアアアアア!!!」 かずえ「キャアアアアアアアアア!!!」
かずえと隆一が乗った高速バスは、枯れ木だらけの林の中を走っている。気がつくと、空は闇夜となっている。
枯れた林の周りには、コウモリが数匹飛んでいる。いくつも錆が浮かび、急に老朽化が進むバスの車体。
隆一「なんか薄気味が悪いところだな……」
かずえ「うん……。喪黒さん、このバスはどこを走っているんですか?あっ、喪黒さんがいない!!」
周囲の様子が変であることに気づき、座席を立つかずえと隆一。2人は運転席に向かう。
かずえ「ねぇ、運転手さん。このバス、本当に目的地へ向かっているんですか……!?」
かずえが運転席の方を見ると……。そこには、制服姿のまま白骨化した運転手が座っている。
骸骨となった運転手の手が、ハンドルを動かす。恐怖のあまり、悲鳴を上げるかずえ。
かずえ「キャアアアアアアアアアッ!!!」
とある道の駅の前にいる喪黒。
喪黒「この世には、理性で説明できない人知を超えた力が、どこかに存在していますが……。占いの神秘もその一つと言えましょう」
「そもそも、近代を迎える前は、占いは立派な科学として扱われていましたし……。現代でも、占いを信じる人は後を絶ちません」
「しかし、占いにのめり込み過ぎることは、思考停止につながりますし……。下手をすれば、自分自身を見失う恐れさえもあります」
「結局のところ……。占いに頼るよりはむしろ、自分の頭でものを考え、自分で人生を切り拓くことこそが大事なのかもしれません」
「ところで、細野さんたちは占いの通り、めでたく恋愛が成就しそうですねぇ。ただし、2人の恋はあの世で結ばれるわけですが……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
元スレ
ある日、朝。あるアパート。部屋の中で、ファストファッションに着替える若い女性。
女性が洗面所の鏡に向かい、化粧をしている。彼女は鼻歌を歌い、何か楽しそうな様子だ。
テロップ「細野かずえ(20) 東京平成大学2年」
かずえ(今日は待ちに待った初デートの日だ……)
テレビをつけるかずえ。テレビに映っているのは、朝の情報番組の占いのコーナーのようだ。
テレビ「おうし座のあなた……。今日は何をやっても絶好調!まさに、最高の運気の日です」
「そんなあなたのラッキーアイテムは……」
かずえ(やった!私の星座のおうし座が、今日は絶好調で最高の運気だって!)
(まさに、いいデート日和になりそうじゃん!)
ある遊園地。入り口で待ち合わせをしていた彼氏に会うかずえ。
手をつなぎ、遊園地を歩く2人。このまま、順調にデートが続くかのように見えたものの……。
3: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:11:13.306 ID:jgPK6wbcD.net
数時間後。遊園地のカフェの中。テーブルに向かい合い、アイスコーヒーを飲む彼氏とかずえ。
楽しそうな表情のかずえに対し、彼氏は冷めた表情をしている。
彼氏「実は俺、どうしても言いたいことがあるんだ……」
かずえ「ん……?何なの?」
彼氏「俺とお前は、何から何まで価値観が違う。だから、このまま交際をしていてもうまくいかないと思う」
かずえ「で、でも……。付き合いを続けていれば、お互いが分かりあえるはず……」
彼氏「そんなことはあり得ない。だから、お互いが傷つかないうちに別れたほうがいいだろう」
かずえ「え!?それじゃあ……」
彼氏「もちろん、今日限りでお前と別れるってことさ。今までありがとな……」
かずえ「そ、そんなぁ……!!」
そのままカフェを去る彼氏。途方に暮れた表情になるかずえ。席に一人残されたかずえを見つめる他の客たち。
4: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:13:13.028 ID:jgPK6wbcD.net
遊園地。大勢の一般客たちがアトラクションを楽しむ中、浮いた様子のかずえ。
一人になったかずえがベンチに座り、泣きじゃくっている。
かずえ「ウ……、ウウウ……。ウワアアアアアアア……」
遊園地の中にいる喪黒福造。喪黒は、遠くの方のベンチでかずえが泣いているのを見つける。
かずえの方へ近づき、彼女の隣に座る喪黒。
喪黒「お嬢さん、何か辛い出来事でもあったのですか?」
かずえ「はい……」
喪黒「何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
かずえ「ええ。実は……」
身振り手振りを交え、喪黒に今日の出来事を説明するかずえ。
喪黒「なるほど。突然の失恋……というわけですか。それはお気の毒ですなぁ」
かずえ「はい。私としてはこれ以上なくショックですよ……」
5: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:15:14.410 ID:jgPK6wbcD.net
喪黒「まあまあ、細野さん。今日の失恋から立ち直ることは可能なはずです」
かずえ「それができればいいんですけど……。まだ心の準備が……」
喪黒「細野さんはまだ若いですから……。人生はこれからですよ」
「あなたのような若い人たちのお力に、少しでもなれたらいいのですが……」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
かずえ「ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
かずえ「は、はあ……」
喪黒「失恋も貴重な人生経験の一つなのです。それに、長い人生には波乱の出来事も当然含まれていますし……」
かずえ「でも、今日がこんな日になるとは予想もしていなかったんですよ。何しろ、今日は最高の運気の日なのに……」
喪黒「今日が最高の運気の日とは、一体どういうことです?」
かずえ「ほら……。朝のテレビの占いのコーナーでは、私の星座の運気が最高だったんですよ」
喪黒「そうですか……。ところで、細野さんの星座は?」
6: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:17:12.399 ID:jgPK6wbcD.net
かずえ「おうし座です」
喪黒「ほう……。もしかするとあなた、占いを信じやすい性格でしょう?」
かずえ「その通りです」
喪黒「だとすると、血液型占いとかも……」
かずえ「もちろん、信じていますね」
喪黒「分かりました……。そんなあなたのために、ちょうどいいものがあるんですよ」
鞄から小箱を取り出す喪黒。喪黒が小箱を開けると、中には紺色のカードがいくつも入っている。
かずえ「これは……」
喪黒「タロットカードですよ。今から、あなたの近い未来を占おうと思っています」
かずえ「私の近い未来が分かるんですか?」
喪黒「そうです。私が今からやるタロット占いは、『スリーカード』と呼ばれるやり方です」
タロットカードを切り、ベンチの上に3枚のカードを置く喪黒。
7: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:19:13.412 ID:jgPK6wbcD.net
喪黒「まずは1枚目、過去のあなたを表すカード……。これは『月』の正位置のカードですか」
「不安や迷い……。幻にとらわれていて、周囲や現実が見えなくなっているようですねぇ」
かずえ「え、ええ……。言われてみれば、当てはまっているかもしれませんね」
喪黒「次に2枚目、現在のあなたを表すカード……。これは『塔』の正位置のカードですか」
「予期せぬ災難、崩壊……。突然起きた破局に対し、あなたは為すすべもありません」
かずえ「じゃあ、彼との関係は……」
喪黒「残念ながら、修復不能でしょう。まさに、今のあなたはどん底です」
かずえ「そ、そんな……」
喪黒「しかし……。人間は一度どん底を迎えた後、必ず這い上がるものですから……。元気を出してください」
かずえ「ど、どうも……」
喪黒「そして3枚目、近い未来のあなたを表すカード……。これは『愚者』の正位置のカードですか」
「新たな始まり、無限の可能性……。全てはこれからであり、何を始めるのもあなた次第です」
かずえ「じゃあ、私は……」
9: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:21:12.257 ID:jgPK6wbcD.net
喪黒「ひょっとすると、新しい出会いがあるかもしれませんよ」
「新しく出会った恋人とともに、初恋のように純粋に恋を楽しむ……それが、近い未来のあなたでしょうなぁ」
かずえ「本当にそんなことが起きるんですか?」
喪黒「可能性はかなり高いでしょう。タロットカードが示した答えなのですから……」
かずえ「そんなにすごいんですか?タロット占いって……」
喪黒「はい。直感でカードを選ぶことを通じ、自分の第六感で運命を見抜く……。それがタロット占いの特徴なのです」
「だから……。タロット占いというものは、どの占いよりも的中率が高いんですよ」
かずえ「へぇ……。ずいぶん奥が深いんですね。タロット占いって……」
喪黒「数あるタロットカードの中でも、占いの的中率が高いのがこのカードなんです」
「細野さん。このタロットカードをあなたにプレゼントしますよ」
かずえ「えっ、いいんですか?」
喪黒「細野さんの人生のお役に立つのならば、望むところです」
「このタロットカードは、あなたの生き方をいい方へ導いてくれるでしょう」
10: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:23:20.390 ID:jgPK6wbcD.net
かずえ「あ、ありがとうございます……。このカード、大事に使いますから……」
喪黒「どういたしまして。その代わり、あなたには約束していただきたいことがあります」
かずえ「約束!?」
喪黒「そうです。このタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておいてください」
「いいですね、約束ですよ!?」
かずえ「わ、分かりました……。喪黒さん」
夜。アパート。かずえはいつの間にか、自分の部屋に帰っている。彼女の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「このタロットカードは、あなたの生き方をいい方へ導いてくれるでしょう」)
かずえ(それにしても、不思議な感じの人だったなぁ……)
喪黒から貰った名刺を見るかずえ。
彼女が喪黒から貰った名刺の裏の白地には、BAR「魔の巣」の住所がボールペンで書かれている。
11: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:25:55.786 ID:jgPK6wbcD.net
コタツに向かい、ノートパソコンを操作するかずえ。パソコンの側には、大学ノートとシャープペンシルがある。
かずえ(なるほど……。タロットカードには、22枚の大アルカナと、56枚の小アルカナがあるのか……)
彼女は、タロットについてネットで検索している。ネットのサイトには、タロットカードの種類が解説されている。
タロットカードの種類について、大学ノートへメモをするかずえ。
東京平成大学。教室内で、経営学入門の授業を受ける学生たち。後ろの方の席に座るかずえ。
教授「テイラーの科学的管理論と、メイヨーの人間関係論の違いは……」
かずえ(果たして、この授業は人生の役に立つんだろうか?私には、そうは思えない……)
(そもそも、今通っている東京平成大学は三流私大なんだから……)
(この大学を卒業しても、ろくな仕事が見つからないのは目に見えてるじゃん)
退屈そうな表情で授業を聞くかずえ。教室内には、居眠りをしている学生や、スマホでゲームをしている学生もいる。
大学ノートを眺めるかずえ。これは、タロットカードの種類についてメモをした例のノートだ。
14: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:28:12.584 ID:jgPK6wbcD.net
とある部屋。室内で、液晶テレビを見るかずえら学生たち。テレビの画面には、何かのアニメが映っている。
かずえのモノローグ(私が所属しているサークルは、いわゆる『オタサー』みたいなものだ)
(活動内容はオールラウンドに渡っていて、人間関係のつながりも緩やかだ)
一同が見ているアニメは、中世ヨーロッパ風の世界観のようだ。占い師の老婆が水晶玉で、主人公の勇者を占う。
老婆「おお……。おぬしはどうやら、選ばれたお方のようじゃ……」
老婆の託宣に耳を傾ける主人公。テレビの画面を食い入るように見つめるかずえたち。
アニメを見終わり、部屋を出るかずえたち。女子学生がかずえに声をかける。
女子学生「今度、他の大学のサークルと合コンをやろうと思うんだけど……。細野さんも参加する?」
かずえ「うん……。そりゃあ、もちろん私も参加しようと思ってる……」
大学キャンパスを出て、家路をたどるかずえ。かずえの頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「ひょっとすると、新しい出会いがあるかもしれませんよ」)
15: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:30:17.010 ID:jgPK6wbcD.net
2週間後、朝。アパート。タロットカードを切り、1枚のカードをコタツの上に置くかずえ。
かずえ「いつも通り、ワンオラクルで占ってみよう。えーと、今日の合コンは……」
かずえはタロットカードをめくる。
かずえ「これは、『太陽』の正位置……!ポジティブなエネルギーに充ち溢れたこのカードなら……」
「素晴らしい出会いがあるかもしれない!魅力的な人物からプロポーズされるとか……」
夜。居酒屋チェーン店「鳥王子」。
テーブルを囲む大学生たち。テーブルの上には、料理が山のように盛られている。
かずえに、別の大学に通う男子学生――加賀美隆一が声をかける。
隆一「いよぉ、かずえ!久しぶりだな!」
テロップ「加賀美隆一(20) 日東大学2年」
かずえ「あ!隆ちゃん!!」
酒に酔い、話が盛り上がる合コン参加者一同。
16: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:32:39.800 ID:jgPK6wbcD.net
数日後。BAR「魔の巣」に入店するかずえと隆一。席にいる喪黒。
かずえ「こんにちは、喪黒さん」
喪黒の隣の席に、かずえと隆一が腰掛ける。
喪黒「その様子を見ると……。どうやら、新しい出会いがあったようですなぁ。細野さん」
かずえ「ええ。合コンに参加した場所で幼馴染と出会い、そのまま交際が始まるなんて……」
喪黒「どうです?例のタロットカードの的中率の高さは本物でしょう?」
かずえ「はい。おかげで、私はこのタロットカードに心からハマりました」
「毎朝ワンオラクルで今日の運勢を占うのが、私の日課になったくらいですから」
喪黒「ほう……、そうですか。ただ、私としては、あなたにどうしても忠告しておきたいことがあるのですよ」
かずえ「は、はあ……」
喪黒「時に、占いに頼るのもいいかもしれません。人間は何かと心に弱さを抱えていますからねぇ……」
「しかしながら……。自分の人生は、自分自身によって切り拓いていくものなのですから……」
「従って……。占いの結果は、あくまでも参考程度にとどめておくべきですよ」
かずえ「え、ええ……。十分に承知していますよ」
17: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:34:52.166 ID:jgPK6wbcD.net
1か月後、朝。アパート。旅行の準備を整えたかずえ。いつもの通り、彼女はワンオラクルでタロット占いをする。
コタツの上に置かれたカードをめくるかずえ。
かずえ「お、『星』の正位置のカードが出た……。明るい未来で、希望が持てる……。よかった……」
新幹線に乗るかずえと隆一。上空は雲ひとつない快晴のようだ。
隆一「かずえー。俺たちの運勢をタロットで占ってみてくれよ」
かずえ「えーーっ!!でも……」
かずえの頭の中に、喪黒による忠告の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒このタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておいてください」)
隆一「いいから、やってみろよ」
かずえ「しょうがないな……。じゃあ、ヘキサグラムでやってみようか」
座席に付いたテーブルを開くかずえ。彼女はタロットカードを切り、7枚のカードをテーブルの上に置く。
18: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:38:01.175 ID:jgPK6wbcD.net
かずえ「えーーと……。1枚目の過去を表わすカードは、『節制』の正位置。これまでの私たちは、控え目な関係……」
「2枚目の現在を表わすカードは、『恋人たち』の正位置。今の私たちは、ラブラブな関係……」
「3枚目の近い未来を表すカードは、『死神』の正位置。うわっ……!そ、そんな……!!」
隆一「気にすんなって。残りの4枚も見ようよ」
かずえ「4枚目の周囲や状況を表すカードは、『戦車』の逆位置。不安に支配されて暴走……」
「5枚目の無意識の願望を表すカードは、『悪魔』の正位置。ドロドロとした欲望が渦巻いているってこと……」
「6枚目の対策を表わすカードは、『月』の逆位置。つまり、幻から覚めて現実を見ろってこと……」
みるみる不安な表情になるかずえ。彼女が7枚目のカードをめくると……。
かずえ「7枚目の最終結果を表すカードは、『世界』の正位置!『世界』のカードは、タロットの中では最高の運気……」
「や、やった!!私たちの恋愛は、見事に成就するんだ……!!」
憂鬱な表情が一転し、ほっとした顔つきになるかずえ。
高速道路を走る高速バス。乗客は3人だ。かずえと隆一に対し、後ろの座席に座る例の男――喪黒が声をかける。
喪黒「細野かずえさん……。あなた約束を破りましたね」
かずえ「も、喪黒さん……!!」
喪黒「あなたは、ワンオラクルをやるのが日課ですよねぇ」
かずえ「え、ええ……。そうですけど」
19: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:40:29.974 ID:jgPK6wbcD.net
喪黒「では、これは一体どういうことですか?」
かずえにスマホを見せる喪黒。スマホの画面には、かずえが新幹線でタロット占いを行う写真が写っている。
かずえ「ああっ!!」
喪黒「私は言ったはずです。例のタロットカードで占いをするのは、1日に1回のみにしておけ……と」
「それにも関わらず……。あなたはワンオラクルに加えて、新幹線内でもタロット占いをしましたねぇ……」
かずえ「す、すみません!!だって、隆ちゃんが頼んだものだから、どうしても……」
喪黒「言い訳はよしてください。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は隆一とかずえに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
隆一「ギャアアアアアアアアア!!!」 かずえ「キャアアアアアアアアア!!!」
かずえと隆一が乗った高速バスは、枯れ木だらけの林の中を走っている。気がつくと、空は闇夜となっている。
枯れた林の周りには、コウモリが数匹飛んでいる。いくつも錆が浮かび、急に老朽化が進むバスの車体。
20: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/10/15(月) 18:43:34.765 ID:jgPK6wbcD.net
隆一「なんか薄気味が悪いところだな……」
かずえ「うん……。喪黒さん、このバスはどこを走っているんですか?あっ、喪黒さんがいない!!」
周囲の様子が変であることに気づき、座席を立つかずえと隆一。2人は運転席に向かう。
かずえ「ねぇ、運転手さん。このバス、本当に目的地へ向かっているんですか……!?」
かずえが運転席の方を見ると……。そこには、制服姿のまま白骨化した運転手が座っている。
骸骨となった運転手の手が、ハンドルを動かす。恐怖のあまり、悲鳴を上げるかずえ。
かずえ「キャアアアアアアアアアッ!!!」
とある道の駅の前にいる喪黒。
喪黒「この世には、理性で説明できない人知を超えた力が、どこかに存在していますが……。占いの神秘もその一つと言えましょう」
「そもそも、近代を迎える前は、占いは立派な科学として扱われていましたし……。現代でも、占いを信じる人は後を絶ちません」
「しかし、占いにのめり込み過ぎることは、思考停止につながりますし……。下手をすれば、自分自身を見失う恐れさえもあります」
「結局のところ……。占いに頼るよりはむしろ、自分の頭でものを考え、自分で人生を切り拓くことこそが大事なのかもしれません」
「ところで、細野さんたちは占いの通り、めでたく恋愛が成就しそうですねぇ。ただし、2人の恋はあの世で結ばれるわけですが……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
喪黒福造「このタロットカードをあなたにプレゼントしますよ」 女子大生「えっ、いいんですか?」