・「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSSです
・描写について、複数のコンテンツの要素や独自の解釈を含むことがあります
浜口あやめ「どうかわたくしに……稽古を付けてはいただけませんか! 藍子殿師匠!!」フカブカー
高森藍子「ちょ、ちょっと待ってください! えぇと……ま、まずは顔を上げてください、ね?」
あやめ「はっ!」ガバッ
藍子「それで、その……稽古っていうのは、一体……?」
あやめ「……藍子殿。話は全て、歌鈴殿から伺いました」
藍子「歌鈴ちゃんから?」
あやめ「インディゴ・ベルで活動をする際、歌鈴殿は藍子殿のことを師と仰いでいるそうじゃないですか」
藍子「たしかに、『藍子ちゃん先生』って時々呼んでくれてるけど……あはは、ちょっぴり、恥ずかしいんだけどなぁ」
藍子「それに、全然先生っぽいことはしてませんよ? むしろ私の方こそ、歌鈴ちゃんに支えてもらってて……」
あやめ「しかし! 事実、藍子殿と一緒にいる時は、ドジの回数が減っていると!」
藍子「そういえば、そうですね。確か歌鈴ちゃんもそんなことを言っていた気がします」
あやめ「おお……! やはり、件の逸話は本当でしたか……!」キラキラ
藍子「そんな大袈裟な話じゃないと思いますけど……」
あやめ「ご謙遜なさらずとも! あの歌鈴殿ですよ!? 西にバナナがあれば滑って転び、東に氷が張れば滑って転び、あまつさえそこに何も無くとも結局は転んでしまうという、あの!!」
藍子「ちょ、ちょっと言い過ぎのような……!」
2: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:20:27 ID:lEav
あやめ「そんな歌鈴殿のドジすら打ち消すほどの極意! 何卒わたくしにも伝授していただきたく!」
藍子「そう言われても、本当に特別なことは何も……」
藍子「それに、忍者っていつも素早く動く、みたいなイメージなんですけど、私とは正反対じゃないですか?」
あやめ「いえいえ、忍者とは世を忍ぶもの。正体を悟られぬためには、普段はそのようなイメージからかけ離れた振る舞いをすることも必要なのです」
藍子「な、なるほど……」
あやめ「……と、いうかですね。今回藍子殿に教わりたいのは、忍術の類ではないのです」
藍子「そうなんですか? ごめんなさい、私てっきり。分身の仕方とか聞かれたらどうしようとか、考えちゃってました」
あやめ「それはそれで、興味はありますが……こほん。実は、今度のライブで、美優殿達とまた『印象』を披露させていただく運びとなりまして」
藍子「わぁ、『印象』ですか! 素敵な曲ですよね。優しいメロディーに、心に染み入るような歌詞で……♪」
あやめ「そうなんです! わたくしも大好きな曲で……!」
あやめ「……そう、大好きだからこそ、妥協をするわけにはいかないのです。ファンの方々を満足させるためには、以前をも上回るパフォーマンスを披露しなければ」
藍子「あやめちゃん……」
あやめ「というわけで、新たな境地へと至るべく、藍子殿に教えを請おうと馳せ参じた次第なのです! 藍子殿の纏う柔らかな空気の秘訣を会得すれば、更に優美な歌やダンスを身に付けられるに違いありません!」
藍子「うーん……わかりました。そこまで熱心にお願いされたら、お断りするわけにもいきませんね」
藍子「私で役に立てるかは分かりませんけど……お手伝いさせていただきますね」ニコッ
あやめ「おおっ! ありがとうございます、藍子殿師匠!!」パァッ
藍子「はいっ。藍子師匠のゆるふわ特別講座、開講です♪ ……なんてっ」
あやめ「はっ! この浜口あやめ、必ずや、どんな厳しい修行にも耐えてみせます!」
藍子「あはは……やっぱり少し大袈裟です……。じゃあ、お互いのオフが重なる日に、ということで。予定を教えてもらってもいいですか?」
あやめ「はい!」
---数日後・都内某駅前広場---
藍子(……うーんっ、いい天気。晴れてくれてよかった♪)
藍子(待ち合わせ、少し着くのが早かったかな……? けど、遅刻しちゃ悪いし)
藍子(せっかく頼ってもらえたんだから、少しでも力になれるといいな)
藍子(……あやめちゃん、まだかなぁ)キョロキョロ
???「ねぇ君、少しいいかな?」
藍子「はい? あっ……」
男1「今、一人? ちょっとお願いがあるんだけどさ」
男2「俺ら、行きたい場所があるんだけど、この辺詳しくなくて。よかったら案内してくれないかなって」
藍子「あの……すみません。今、お友達と待ち合わせをしていて……」
男1「いやいや、ちょっとだけ。時間取らせないから、いいでしょ?」
男2「ってか、君めっちゃ可愛いよね。有名人に似てるとか言われない? アイドルとか!」
藍子「え、えぇと……」
藍子(こ、これって、ナンパ……だよね? 困ったなぁ、どうしよう……?)
ガサッ
あやめ(藍子殿! 今お助け致します!)ヒソヒソ
藍子(えっ!? 後ろの植え込みの中から……あやめちゃん?)
男2「ちょっと、無視はなくない? 傷つくわー」
あやめ(表情を変えずに! 少しの間目を閉じて、息を止めてください!)ヒソヒソ
藍子(い、一体何を……?)
あやめ「たァッ!!」
ボフーン!!
藍子「きゃっ!?」
男1「何だァ!? ゲホッ、け、煙!?」
男2「ゴホッ、ゴホッ! な、何も見えねぇ!」
あやめ「さぁ、こちらへ!」グイッ
藍子「は、はいっ……!」タタタッ
~~~~~
---街中---
あやめ「ふぅ……どうやら追ってくる気配は無さそうですね」
藍子「はぁ、はぁ……あ、あやめちゃん……?」
あやめ「っと。すみません。少し手を強く握りすぎましたでしょうか?」
藍子「う、ううん。大丈夫、です……。少し、落ち着いてきました」
あやめ「とにかく、無事で何よりでした! まったく、嫌がる藍子殿を拐かそうとするとは……不届き千万ですっ」プンスコ
藍子「助けてくれて、ありがとうございます。あれは、煙玉……なのかな? 突然で、びっくりしましたけど」
あやめ「こんなこともあろうかと、いつも持ち歩いていますから!」ニンッ
あやめ「……本当は、あのような往来であまり派手なことをするべきでは無いのでしょうが、忍びたる者、師匠である藍子殿が傷つけられるようなことがあってはならないと、思わず……」
藍子「あはは……騒ぎになっていないと、いいんですけど……」
あやめ「大丈夫ですっ! いざとなれば煙玉の予備も、隠れ身の術用の布もありますので! いくらでも逃げおおせてみせますとも!」
藍子「で、できるだけそういうのを使わずに済むように、そろそろ移動しましょうか」
あやめ「御意! それで、藍子殿。駅前で待ち合わせるということしか事前に伺っていませんでしたが、一体どこで修行を行うのですか?」
藍子「目的地は……うーん、まだ秘密です♪」
あやめ「なんと……! 簡単には明かせない、隠匿の地でしたか」
藍子「ふふっ♪ 着いてからのお楽しみ、ということで……少し距離があるから、ゆっくりお散歩しながら向かいましょうっ」
あやめ「ふむ……やはり、移動もゆっくりと行うのが、藍子殿流というわけなのですね」
藍子「そうなのかな? あやめちゃんはやっぱり、普段から素早く行動するタイプですか?」
あやめ「そうですね……人と一緒にいるときはその限りではありませんが。一人の時は忍びの修行を兼ねて、なるべく人目に付かぬよう、物陰を辿って移動したり、早駆けをしたり……」
藍子「……それって、逆に目立つような気もするけど……」
あやめ「確かに、そうしているところに気付いたファンの方に、声を掛けていただくことも稀にありますね」アハハ
藍子「あやめちゃん、バラエティ番組だけじゃなくて、色々な方面で人気ですから♪」
あやめ「アイドルとしてはありがたい話なのですが、しかしそう易々と見つかってしまうのは、忍びとしてはまだまだ修行不足だと言わざるを得ません……!」クッ
藍子「人に見つからないように、かぁ……。東京みたいな人の多い場所だと、難しいですよね。意図的に気配を消す、っていうのも、なかなかできるものじゃないでしょうし」
あやめ「それでいうと、乃々殿なんかはくノ一の素質があると思うんですよね」
藍子「あぁ、なるほど。確かに乃々ちゃん、物陰に潜むのは慣れていそうですけど」
あやめ「あの隠密力は、わたくしも見習いたいところです」
藍子「うーん、変装するのとかはどうですか? 見つからないっていうよりは、正体がばれないように、ですけど」
藍子「ほら、前にあやめちゃんも言ってたじゃないですか。忍者は、普段とは違うイメージを演じることもできるって」
あやめ「それはもちろん! 忍者とは千変万化。演技も装いも自在に! ……とまではいかずとも、日々勉強中です」
あやめ「……特に、世のファッションについては、わたくしにはなかなか難解でして……。お仕事の時などは、いつもスタイリストの方にお世話になり通しで」
藍子「そうなんですか? でも、今日の服装とか、とっても似合ってると思いますよ。そのカーディガンなんか、落ち着いた色合いで、今の時期にぴったりですよね。素敵です♪」
あやめ「わわっ……! 藍子殿師匠にお褒めいただけるとは、恐悦至極……! わたくしも少しは、都会派くノ一に近づけているのでしょうか!」
藍子「くノ一目線でどうなのかは、ちょっと私にはわからないですけど……」
あやめ「変装についてはですね、実は今日、髪を下ろしてみようかと、朝まで悩んでいたのです」
藍子「髪型を変えるのも、定番のひとつですもんね。そういえば、以前そんな感じのお仕事、してましたよね? そう、確か……茜ちゃんと一緒の撮影で」
あやめ「あ、はい! よくご存じで! あの時は茜殿と共に、お淑やかな文学少女を演じることができました。周囲からも、好評だったのですよ!」
藍子「でも、結局いつものお団子にしたんですね。もちろん、これはこれでいつものあやめちゃんっていう感じで、自然ですけど……何か、理由が?」
あやめ「それは、その……今日は、藍子殿とお出掛け……いえ、修行ということで。折角ですし、髪型も少し合わせたほうが、と……い、意識してしまった次第でして……」テレテレ
藍子「あっ。言われてみれば、私たちってお団子仲間でしたね。ふふっ、そう考えると、なんだか嬉しくなっちゃいます♪」
あやめ「もちろん、藍子殿のほうが一段とお洒落で……! えぇと、確かお団子というより、『しによん』と呼ぶのが正しいのでしょうか?」
藍子「そうですね、たぶんそれで合ってます。……よく考えてみたら、事務所には私たちの他にも、お団子とか、シニヨンヘアーの子、結構いますよね」
あやめ「確かに……菜帆殿や、美羽殿なんかもそうですし」
藍子「愛海ちゃんとフェイフェイちゃんもですね。お団子ふたつですけど」
あやめ「むむ……これを機に、我々を中心に一致団結して、かの『ポニーテール乙女同盟』や『秘密結社三つ編み』に対抗し得る勢力を築いておくべきなのでは!?」
藍子「ふふっ。なんだか最近流行ってますよね。髪型でグループに分かれるの。私たちの場合、どんな名前になるのかな?」
あやめ「うーむ、そうですね……。『隠密集団・お団子組』などはいかがでしょう!」
藍子「お、隠密する必要は、無いような……?」
あやめ「むっ、そうでした。つい……。となると、ただの『お団子組』ですか?」
藍子「もしくは、『お団子友の会』とか……」
あやめ「おおっ、いいですね! ……なんだか、食べる方のお団子が好きな人の集まりだと勘違いされそうな気もしますが」
藍子「本当だ。菜帆ちゃんがいるから、余計にですね」クスクス
あやめ「いやしかし、表向きはお団子を美味しくいただく集まりを装いつつ、水面下でお団子頭の勢力を広げていく……という作戦も、一考の余地があるのでは!」
藍子「なんだか壮大な計画になってきましたね。……でも、いいんでしょうか?」
あやめ「はい? 何か問題でも?」
藍子「いえ、よく考えてみたら、私ってお団子の他にも、纏めないでポニーテールにすることも結構あるから……。お団子の仲間に入れてもらっても、いいのかなって」
あやめ「それでしたら、他の髪型をしている時は、間者として別の集団に紛れ込めば良いのです!」
藍子「えぇと……つまり、スパイみたいなことですか?」
あやめ「はい! あるときはポニーテール、またある時は三つ編み……しかしてその正体は、お団子友の会の頭領! 実に格好良いではありませんか!」キラキラ
藍子「わ、私、頭領だったんですか!? あやめちゃんじゃなくて……?」
あやめ「それはもう、藍子殿は師匠ですから! より高い位になるのは必然です♪」
藍子「……ゆるふわのことはともかく、私、忍者の師匠でも、お団子の師匠でもないんだけどなぁ」クスッ
---路地裏のカフェ---
あやめ「このような目立たぬ場所に、こんなに洒落た喫茶店があったとは……!」キョロキョロ
藍子「びっくりですよねっ。実は私も、少し前にこの辺りを散策していて、偶然見つけたんですよ」
藍子「内装もなんだか手作り感があって、すごく居心地がいいなって……今度は、誰かと一緒に来たいなって思っていたところだったんです♪」
あやめ「いやはや、藍子殿の慧眼には恐れ入ります! なるほど、このような場所であれば、まさに今回の修行にうってつけというわけですね!」
藍子「ふふっ、そうかもしれませんね♪」
あやめ「それでは早速、わたくしにご教授いただければと! 藍子殿の優雅でしなやかなパフォーマンス……その真髄を!」
藍子「そうですね……じゃあ、まずは」
あやめ「はい!」
藍子「何か注文しましょうか。喫茶店ですし♪」
あやめ「はいっ! ……あ、はい、そうですねっ」
藍子「えぇと、メニューは……」
あやめ「……ハッ! まさかこのお店には、ゆるふわの摂取に適した、秘伝の薬膳のようのものがあるのでは……? そういうことですかっ!?」
藍子「薬膳料理は、たぶん無いかなぁ……? あ、ほら見てください。このケーキ、美味しそうですよ」
あやめ「なんと、期間限定のケーキがこんなにも……! これは迷いますね……」ゴクリ
藍子「なんだか、メニューを眺めているだけでお腹いっぱいになっちゃいそう」
あやめ「ちなみに、お団子はあったりしますかね?」
藍子「あっ。お団子友の会、ですか?」
あやめ「無論、食べる方のお団子も大好きですので……むぅ、メニューには無さそうですね。残念です」
藍子「飲み物も決めないとですね。うーん、やっぱりミルクティーかなぁ……」
あやめ「おや、このお店、ハーブティーもあるじゃないですか」
藍子「あやめちゃん、ハーブティーを飲むんですか?」
あやめ「嗜む程度ではありますが。忍者とは、山々の中で任務をこなし、時には怪我を負うこともありますから、薬草の知識も必要なのです。その繋がりで、ハーブについても、以前少しだけ勉強したことがあるのですよ」
藍子「そうなんですね。ちょっと意外でした……。でも、言われてみれば、ハーブも薬草の仲間ですよね。いろんな効能がありますし」
あやめ「今日の目的を考慮すると……リラックス効果が期待できるものなどが良いですね。この中ですと、カモミールティーあたりでしょうか」
藍子「ですね♪ 飲みやすいですし、私もよく寝る前に飲んだりします。せっかくだし、私もそれにしようかなあ」
あやめ「ケーキのセットもありますし、ちょうどいいですね! ……よし、わたくしはこちらのモンブランに決めました!」
藍子「あっ。それ、私も気になってたやつです」
あやめ「おぉ、気が合いますね♪ よろしければ、半分こ致しましょうか」
藍子「いいんですか? それなら、もうひとつ選んでシェアしましょう。……この、ピーチのタルトなんてどうですか?」
あやめ「むっ、これまた美味しそうな……! 分かりました、これで決まりですね!」
藍子「じゃあ、店員さんを……すみませーん」
シーン
あやめ「……反応がありませんね」
藍子「うーん、聞こえなかったんでしょうか? どうしましょう、あまり大きな声を出して、目立ってしまうのも良くないですよね……」
あやめ「狼煙、上げますか」ニンッ
藍子「あ、上げなくていいです~!」
~~~~~
藍子「――それで、歌鈴ちゃんったら、手にスマホを持ったまま、『スマホを失くしちゃった!』って慌ててあちこち探し始めて……」
あやめ「なんともまぁ、歌鈴殿らしいと言いますか……その様子が容易に想像できますね」
藍子「でも、その、変な意味じゃないんですけど。……あわあわしてる時の歌鈴ちゃんって、なんだか可愛いですよね♪」
あやめ「あぁー、分かります! あれは歌鈴殿にしか出せない魅力ですね! 本人は、少し気にしているかもですが……」
藍子「ですねっ。これはここだけのお話、ということで」シーッ
あやめ「承知ですっ」シーッ
藍子「ふふっ。それにしても、はじめはお互いのお仕事についてお喋りしてたのに、いつの間にか歌鈴ちゃんトークで盛り上がっちゃいましたね」
あやめ「ええ。随分と話し込んで……」
あやめ「って、えぇっ!? い、いつの間にこんな時間に!? もう夕方じゃないですか!」
藍子「あっ、本当ですね」
あやめ「この体感時間との大幅なずれは、一体……!? ま、まさか藍子殿! 何か幻術のようなものを使いましたかっ!?」
藍子「もう、そんなわけないじゃないですかっ」
藍子「時間を忘れるほどゆっくりできたのなら、きっとカモミールティーのリラックス効果のおかげですよ。ケーキも美味しかったですし♪」
あやめ「そ、それは確かにそうなのですが……!」
藍子「今度来たときは、また別のメニューにも挑戦してみたいですね。甘いものだけじゃなくて、ホットサンドなんかもありましたし」
あやめ「あっ、その時は、是非わたくしもお供させていただきたく!」
藍子「もちろんですっ。楽しみですねっ」
あやめ「しかし、不覚でした……。いえ、藍子殿とゆっくりお話をできたのは良かったのですが、本来の目的は世間話ではなく、藍子殿のゆるふわの秘訣を会得することでしたのに……!」クッ
藍子「……♪」ニコニコ
あやめ「……藍子殿? どうしたのです? 何やら嬉しそうなご様子ですが……」
藍子「ねぇ、あやめちゃん。この『ゆっくりお喋りすること』が、あやめちゃんが知りたがっていた秘訣そのものだって言ったら?」
あやめ「……と、言いますと……??」
藍子「えっとですね。あやめちゃんは、次のライブのために特訓がしたいって、私を頼ってくれましたけど……」
藍子「『印象』はもともとあやめちゃんの持ち歌ですし、これまでの経験と、あとはトレーナーさんのレッスンがあれば、きっと大丈夫だと思うんです。少なくとも、歌やダンスみたいな技術面で私にアドバイスできることはほとんど無いかなぁって」
あやめ「し、しかし……。それでは、何故藍子殿は、今回のお話を受けてくださったのですか?」
藍子「それは、ライブ前で忙しいあやめちゃんに、少しでもリラックスしてもらいたいなって思ったからなんです♪ 心に余裕が生まれれば、自然と落ち着いた気分で本番に臨めるでしょうし。これなら私でも力になれるかなって」
あやめ「な、なるほど……! それでこの喫茶店に連れてきてくださったんですね! いやぁ、お見それしました、藍子殿! 目からウロコとはこのことですっ!」
藍子「えへへ……偉そうなことを言っちゃいましたけど、実はこれ、未央ちゃんの受け売りなんですよね。私も以前、未央ちゃんと茜ちゃんに、こんな風に応援してもらったことがあって……」
あやめ「そうだったのですか……!」
藍子「どうです? 気分転換になりましたか?」
あやめ「はいっ、それはもう! 藍子殿のおかげで、気力充実ですっ!」フンス
藍子「ふふっ。なら、良かったです♪」ニコッ
藍子「もしも本番で、緊張したり、不安になったりした時は、今日のことを思い出してみてください。きっと心が軽くなると思いますから」
あやめ「そうですね。いくら技術を磨こうとも、心を乱していては、本来のパフォーマンスを発揮できません」
あやめ「それこそ、控室にハーブティーを用意しておくのも良いかもしれませんね!」
藍子「それ、素敵ですねっ♪ ゆったりした気分でライブに臨めそうです」
あやめ「ハッ! 加えて、以前美優殿から手ほどきを受けた、忍法・アロマテラピーの術を施せば……! より盤石の布陣となること間違いなし!」
藍子「に、忍術なんですか、それ……?」
あやめ「これで、ライブも上手く行きそうです……! 流石は藍子殿……藍子殿師匠! 此度はご指南いただけたこと、僥倖でありました!」フカブカー
藍子「もう、相変わらず大袈裟ですって……それに師匠らしいことは、特に何も……あっ」ピコーン
藍子「それならせっかくですし、最後に師匠らしく、ひとつだけ課題を出してみてもいいですか?」
あやめ「おおっ! ここにきて、師匠からの課題……! お任せください。忍ドル浜口あやめの名に懸けて、如何なる難題も見事こなしてみせましょう!」キリッ
藍子「じゃあ……いきますね、あやめちゃん」
あやめ「はいっ! 藍子殿師匠!!」
藍子「その、『殿』とか『師匠』とか抜きで、一度私のことを、『藍子ちゃん』って呼んでみてください♪」
あやめ「えっ……えぇぇ~~っ!?」
藍子「私たち、歳もあまり離れてないですし。そんなにかしこまらなくてもいいのになって、ずっと思ってたんです」
あやめ「お、お気持ちは嬉しいのですが、これはその、わたくしの癖のようなもので……」アタフタ
藍子「それにほら、堅苦しい言い方をしてると、肩に余分な力が入っちゃうかもしれませんよ? 一緒にいるあいだ、より落ち着いて過ごせるように……ね?」
あやめ「し、しかしその……こ、心の準備というものが……っ!」
藍子「準備ですか? それなら、できるまで待ちますよ? 私、待つのは得意なので♪」
あやめ「くぅぅ……これは、逃げられません……! わかりました。これも修行のため……腹をくくると致しましょう」
藍子「やったぁ♪」
あやめ「……」スゥー
あやめ「……」フゥー
あやめ「…………いざ! 参りますッ!」カッ
藍子「どうぞっ」
あやめ「……ぁ、ぅ……あ、藍子ちゃんっ……?」
藍子「はいっ! 藍子ですっ♪」
あやめ「……~~~っ///」カオマッカ
藍子「えへへ、よくできましたっ。これで、免許皆伝ですね♪」
あやめ「わたくしが、お友達を、ちゃ、ちゃん付けなど……! はわわわわわ……!」プルプル
藍子「……あやめちゃん? なんだか、歌鈴ちゃんみたいなリアクションになってますけど……」
あやめ「だって、このようなことには慣れておりませんゆえ……! うぅ、穴があったら忍びたい……っ。いや、かくなる上はもう一度、煙玉で……!」バッ
藍子「あぁっ、ちょっと待って、あやめちゃん! お店の中で煙玉は、本当にダメですって~!」
おわり
以上、お付き合いありがとうございました。
デレステの営業コミュのような空気感を目指したかった。
テンションが上がると押しが強くなる高森藍子概念、良いと思います。
以前書いたの
キャンディアイランドのばっちり毒にも薬にもならないおしゃべり
こちらも、よろしければどうぞ。
今年全然SS書けてないな…
元スレ
あやめ「そんな歌鈴殿のドジすら打ち消すほどの極意! 何卒わたくしにも伝授していただきたく!」
藍子「そう言われても、本当に特別なことは何も……」
藍子「それに、忍者っていつも素早く動く、みたいなイメージなんですけど、私とは正反対じゃないですか?」
あやめ「いえいえ、忍者とは世を忍ぶもの。正体を悟られぬためには、普段はそのようなイメージからかけ離れた振る舞いをすることも必要なのです」
藍子「な、なるほど……」
あやめ「……と、いうかですね。今回藍子殿に教わりたいのは、忍術の類ではないのです」
藍子「そうなんですか? ごめんなさい、私てっきり。分身の仕方とか聞かれたらどうしようとか、考えちゃってました」
あやめ「それはそれで、興味はありますが……こほん。実は、今度のライブで、美優殿達とまた『印象』を披露させていただく運びとなりまして」
藍子「わぁ、『印象』ですか! 素敵な曲ですよね。優しいメロディーに、心に染み入るような歌詞で……♪」
あやめ「そうなんです! わたくしも大好きな曲で……!」
あやめ「……そう、大好きだからこそ、妥協をするわけにはいかないのです。ファンの方々を満足させるためには、以前をも上回るパフォーマンスを披露しなければ」
藍子「あやめちゃん……」
3: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:26:46 ID:lEav
あやめ「というわけで、新たな境地へと至るべく、藍子殿に教えを請おうと馳せ参じた次第なのです! 藍子殿の纏う柔らかな空気の秘訣を会得すれば、更に優美な歌やダンスを身に付けられるに違いありません!」
藍子「うーん……わかりました。そこまで熱心にお願いされたら、お断りするわけにもいきませんね」
藍子「私で役に立てるかは分かりませんけど……お手伝いさせていただきますね」ニコッ
あやめ「おおっ! ありがとうございます、藍子殿師匠!!」パァッ
藍子「はいっ。藍子師匠のゆるふわ特別講座、開講です♪ ……なんてっ」
あやめ「はっ! この浜口あやめ、必ずや、どんな厳しい修行にも耐えてみせます!」
藍子「あはは……やっぱり少し大袈裟です……。じゃあ、お互いのオフが重なる日に、ということで。予定を教えてもらってもいいですか?」
あやめ「はい!」
4: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:33:40 ID:lEav
---数日後・都内某駅前広場---
藍子(……うーんっ、いい天気。晴れてくれてよかった♪)
藍子(待ち合わせ、少し着くのが早かったかな……? けど、遅刻しちゃ悪いし)
藍子(せっかく頼ってもらえたんだから、少しでも力になれるといいな)
藍子(……あやめちゃん、まだかなぁ)キョロキョロ
???「ねぇ君、少しいいかな?」
藍子「はい? あっ……」
男1「今、一人? ちょっとお願いがあるんだけどさ」
男2「俺ら、行きたい場所があるんだけど、この辺詳しくなくて。よかったら案内してくれないかなって」
藍子「あの……すみません。今、お友達と待ち合わせをしていて……」
男1「いやいや、ちょっとだけ。時間取らせないから、いいでしょ?」
男2「ってか、君めっちゃ可愛いよね。有名人に似てるとか言われない? アイドルとか!」
藍子「え、えぇと……」
藍子(こ、これって、ナンパ……だよね? 困ったなぁ、どうしよう……?)
5: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:35:04 ID:lEav
ガサッ
あやめ(藍子殿! 今お助け致します!)ヒソヒソ
藍子(えっ!? 後ろの植え込みの中から……あやめちゃん?)
男2「ちょっと、無視はなくない? 傷つくわー」
あやめ(表情を変えずに! 少しの間目を閉じて、息を止めてください!)ヒソヒソ
藍子(い、一体何を……?)
あやめ「たァッ!!」
ボフーン!!
藍子「きゃっ!?」
男1「何だァ!? ゲホッ、け、煙!?」
男2「ゴホッ、ゴホッ! な、何も見えねぇ!」
あやめ「さぁ、こちらへ!」グイッ
藍子「は、はいっ……!」タタタッ
6: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:41:04 ID:lEav
~~~~~
---街中---
あやめ「ふぅ……どうやら追ってくる気配は無さそうですね」
藍子「はぁ、はぁ……あ、あやめちゃん……?」
あやめ「っと。すみません。少し手を強く握りすぎましたでしょうか?」
藍子「う、ううん。大丈夫、です……。少し、落ち着いてきました」
あやめ「とにかく、無事で何よりでした! まったく、嫌がる藍子殿を拐かそうとするとは……不届き千万ですっ」プンスコ
藍子「助けてくれて、ありがとうございます。あれは、煙玉……なのかな? 突然で、びっくりしましたけど」
あやめ「こんなこともあろうかと、いつも持ち歩いていますから!」ニンッ
あやめ「……本当は、あのような往来であまり派手なことをするべきでは無いのでしょうが、忍びたる者、師匠である藍子殿が傷つけられるようなことがあってはならないと、思わず……」
藍子「あはは……騒ぎになっていないと、いいんですけど……」
あやめ「大丈夫ですっ! いざとなれば煙玉の予備も、隠れ身の術用の布もありますので! いくらでも逃げおおせてみせますとも!」
藍子「で、できるだけそういうのを使わずに済むように、そろそろ移動しましょうか」
あやめ「御意! それで、藍子殿。駅前で待ち合わせるということしか事前に伺っていませんでしたが、一体どこで修行を行うのですか?」
藍子「目的地は……うーん、まだ秘密です♪」
あやめ「なんと……! 簡単には明かせない、隠匿の地でしたか」
7: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:43:47 ID:lEav
藍子「ふふっ♪ 着いてからのお楽しみ、ということで……少し距離があるから、ゆっくりお散歩しながら向かいましょうっ」
あやめ「ふむ……やはり、移動もゆっくりと行うのが、藍子殿流というわけなのですね」
藍子「そうなのかな? あやめちゃんはやっぱり、普段から素早く行動するタイプですか?」
あやめ「そうですね……人と一緒にいるときはその限りではありませんが。一人の時は忍びの修行を兼ねて、なるべく人目に付かぬよう、物陰を辿って移動したり、早駆けをしたり……」
藍子「……それって、逆に目立つような気もするけど……」
あやめ「確かに、そうしているところに気付いたファンの方に、声を掛けていただくことも稀にありますね」アハハ
藍子「あやめちゃん、バラエティ番組だけじゃなくて、色々な方面で人気ですから♪」
あやめ「アイドルとしてはありがたい話なのですが、しかしそう易々と見つかってしまうのは、忍びとしてはまだまだ修行不足だと言わざるを得ません……!」クッ
藍子「人に見つからないように、かぁ……。東京みたいな人の多い場所だと、難しいですよね。意図的に気配を消す、っていうのも、なかなかできるものじゃないでしょうし」
あやめ「それでいうと、乃々殿なんかはくノ一の素質があると思うんですよね」
藍子「あぁ、なるほど。確かに乃々ちゃん、物陰に潜むのは慣れていそうですけど」
あやめ「あの隠密力は、わたくしも見習いたいところです」
8: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:48:29 ID:lEav
藍子「うーん、変装するのとかはどうですか? 見つからないっていうよりは、正体がばれないように、ですけど」
藍子「ほら、前にあやめちゃんも言ってたじゃないですか。忍者は、普段とは違うイメージを演じることもできるって」
あやめ「それはもちろん! 忍者とは千変万化。演技も装いも自在に! ……とまではいかずとも、日々勉強中です」
あやめ「……特に、世のファッションについては、わたくしにはなかなか難解でして……。お仕事の時などは、いつもスタイリストの方にお世話になり通しで」
藍子「そうなんですか? でも、今日の服装とか、とっても似合ってると思いますよ。そのカーディガンなんか、落ち着いた色合いで、今の時期にぴったりですよね。素敵です♪」
あやめ「わわっ……! 藍子殿師匠にお褒めいただけるとは、恐悦至極……! わたくしも少しは、都会派くノ一に近づけているのでしょうか!」
藍子「くノ一目線でどうなのかは、ちょっと私にはわからないですけど……」
あやめ「変装についてはですね、実は今日、髪を下ろしてみようかと、朝まで悩んでいたのです」
藍子「髪型を変えるのも、定番のひとつですもんね。そういえば、以前そんな感じのお仕事、してましたよね? そう、確か……茜ちゃんと一緒の撮影で」
あやめ「あ、はい! よくご存じで! あの時は茜殿と共に、お淑やかな文学少女を演じることができました。周囲からも、好評だったのですよ!」
藍子「でも、結局いつものお団子にしたんですね。もちろん、これはこれでいつものあやめちゃんっていう感じで、自然ですけど……何か、理由が?」
あやめ「それは、その……今日は、藍子殿とお出掛け……いえ、修行ということで。折角ですし、髪型も少し合わせたほうが、と……い、意識してしまった次第でして……」テレテレ
藍子「あっ。言われてみれば、私たちってお団子仲間でしたね。ふふっ、そう考えると、なんだか嬉しくなっちゃいます♪」
あやめ「もちろん、藍子殿のほうが一段とお洒落で……! えぇと、確かお団子というより、『しによん』と呼ぶのが正しいのでしょうか?」
藍子「そうですね、たぶんそれで合ってます。……よく考えてみたら、事務所には私たちの他にも、お団子とか、シニヨンヘアーの子、結構いますよね」
あやめ「確かに……菜帆殿や、美羽殿なんかもそうですし」
藍子「愛海ちゃんとフェイフェイちゃんもですね。お団子ふたつですけど」
9: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 22:54:49 ID:lEav
あやめ「むむ……これを機に、我々を中心に一致団結して、かの『ポニーテール乙女同盟』や『秘密結社三つ編み』に対抗し得る勢力を築いておくべきなのでは!?」
藍子「ふふっ。なんだか最近流行ってますよね。髪型でグループに分かれるの。私たちの場合、どんな名前になるのかな?」
あやめ「うーむ、そうですね……。『隠密集団・お団子組』などはいかがでしょう!」
藍子「お、隠密する必要は、無いような……?」
あやめ「むっ、そうでした。つい……。となると、ただの『お団子組』ですか?」
藍子「もしくは、『お団子友の会』とか……」
あやめ「おおっ、いいですね! ……なんだか、食べる方のお団子が好きな人の集まりだと勘違いされそうな気もしますが」
藍子「本当だ。菜帆ちゃんがいるから、余計にですね」クスクス
あやめ「いやしかし、表向きはお団子を美味しくいただく集まりを装いつつ、水面下でお団子頭の勢力を広げていく……という作戦も、一考の余地があるのでは!」
藍子「なんだか壮大な計画になってきましたね。……でも、いいんでしょうか?」
あやめ「はい? 何か問題でも?」
藍子「いえ、よく考えてみたら、私ってお団子の他にも、纏めないでポニーテールにすることも結構あるから……。お団子の仲間に入れてもらっても、いいのかなって」
あやめ「それでしたら、他の髪型をしている時は、間者として別の集団に紛れ込めば良いのです!」
藍子「えぇと……つまり、スパイみたいなことですか?」
あやめ「はい! あるときはポニーテール、またある時は三つ編み……しかしてその正体は、お団子友の会の頭領! 実に格好良いではありませんか!」キラキラ
藍子「わ、私、頭領だったんですか!? あやめちゃんじゃなくて……?」
あやめ「それはもう、藍子殿は師匠ですから! より高い位になるのは必然です♪」
藍子「……ゆるふわのことはともかく、私、忍者の師匠でも、お団子の師匠でもないんだけどなぁ」クスッ
10: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:01:49 ID:lEav
---路地裏のカフェ---
あやめ「このような目立たぬ場所に、こんなに洒落た喫茶店があったとは……!」キョロキョロ
藍子「びっくりですよねっ。実は私も、少し前にこの辺りを散策していて、偶然見つけたんですよ」
藍子「内装もなんだか手作り感があって、すごく居心地がいいなって……今度は、誰かと一緒に来たいなって思っていたところだったんです♪」
あやめ「いやはや、藍子殿の慧眼には恐れ入ります! なるほど、このような場所であれば、まさに今回の修行にうってつけというわけですね!」
藍子「ふふっ、そうかもしれませんね♪」
あやめ「それでは早速、わたくしにご教授いただければと! 藍子殿の優雅でしなやかなパフォーマンス……その真髄を!」
藍子「そうですね……じゃあ、まずは」
あやめ「はい!」
藍子「何か注文しましょうか。喫茶店ですし♪」
あやめ「はいっ! ……あ、はい、そうですねっ」
藍子「えぇと、メニューは……」
あやめ「……ハッ! まさかこのお店には、ゆるふわの摂取に適した、秘伝の薬膳のようのものがあるのでは……? そういうことですかっ!?」
藍子「薬膳料理は、たぶん無いかなぁ……? あ、ほら見てください。このケーキ、美味しそうですよ」
あやめ「なんと、期間限定のケーキがこんなにも……! これは迷いますね……」ゴクリ
藍子「なんだか、メニューを眺めているだけでお腹いっぱいになっちゃいそう」
11: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:05:59 ID:lEav
あやめ「ちなみに、お団子はあったりしますかね?」
藍子「あっ。お団子友の会、ですか?」
あやめ「無論、食べる方のお団子も大好きですので……むぅ、メニューには無さそうですね。残念です」
藍子「飲み物も決めないとですね。うーん、やっぱりミルクティーかなぁ……」
あやめ「おや、このお店、ハーブティーもあるじゃないですか」
藍子「あやめちゃん、ハーブティーを飲むんですか?」
あやめ「嗜む程度ではありますが。忍者とは、山々の中で任務をこなし、時には怪我を負うこともありますから、薬草の知識も必要なのです。その繋がりで、ハーブについても、以前少しだけ勉強したことがあるのですよ」
藍子「そうなんですね。ちょっと意外でした……。でも、言われてみれば、ハーブも薬草の仲間ですよね。いろんな効能がありますし」
あやめ「今日の目的を考慮すると……リラックス効果が期待できるものなどが良いですね。この中ですと、カモミールティーあたりでしょうか」
藍子「ですね♪ 飲みやすいですし、私もよく寝る前に飲んだりします。せっかくだし、私もそれにしようかなあ」
12: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:07:53 ID:lEav
あやめ「ケーキのセットもありますし、ちょうどいいですね! ……よし、わたくしはこちらのモンブランに決めました!」
藍子「あっ。それ、私も気になってたやつです」
あやめ「おぉ、気が合いますね♪ よろしければ、半分こ致しましょうか」
藍子「いいんですか? それなら、もうひとつ選んでシェアしましょう。……この、ピーチのタルトなんてどうですか?」
あやめ「むっ、これまた美味しそうな……! 分かりました、これで決まりですね!」
藍子「じゃあ、店員さんを……すみませーん」
シーン
あやめ「……反応がありませんね」
藍子「うーん、聞こえなかったんでしょうか? どうしましょう、あまり大きな声を出して、目立ってしまうのも良くないですよね……」
あやめ「狼煙、上げますか」ニンッ
藍子「あ、上げなくていいです~!」
13: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:11:49 ID:lEav
~~~~~
藍子「――それで、歌鈴ちゃんったら、手にスマホを持ったまま、『スマホを失くしちゃった!』って慌ててあちこち探し始めて……」
あやめ「なんともまぁ、歌鈴殿らしいと言いますか……その様子が容易に想像できますね」
藍子「でも、その、変な意味じゃないんですけど。……あわあわしてる時の歌鈴ちゃんって、なんだか可愛いですよね♪」
あやめ「あぁー、分かります! あれは歌鈴殿にしか出せない魅力ですね! 本人は、少し気にしているかもですが……」
藍子「ですねっ。これはここだけのお話、ということで」シーッ
あやめ「承知ですっ」シーッ
藍子「ふふっ。それにしても、はじめはお互いのお仕事についてお喋りしてたのに、いつの間にか歌鈴ちゃんトークで盛り上がっちゃいましたね」
あやめ「ええ。随分と話し込んで……」
あやめ「って、えぇっ!? い、いつの間にこんな時間に!? もう夕方じゃないですか!」
藍子「あっ、本当ですね」
あやめ「この体感時間との大幅なずれは、一体……!? ま、まさか藍子殿! 何か幻術のようなものを使いましたかっ!?」
藍子「もう、そんなわけないじゃないですかっ」
藍子「時間を忘れるほどゆっくりできたのなら、きっとカモミールティーのリラックス効果のおかげですよ。ケーキも美味しかったですし♪」
あやめ「そ、それは確かにそうなのですが……!」
藍子「今度来たときは、また別のメニューにも挑戦してみたいですね。甘いものだけじゃなくて、ホットサンドなんかもありましたし」
あやめ「あっ、その時は、是非わたくしもお供させていただきたく!」
藍子「もちろんですっ。楽しみですねっ」
14: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:18:33 ID:lEav
あやめ「しかし、不覚でした……。いえ、藍子殿とゆっくりお話をできたのは良かったのですが、本来の目的は世間話ではなく、藍子殿のゆるふわの秘訣を会得することでしたのに……!」クッ
藍子「……♪」ニコニコ
あやめ「……藍子殿? どうしたのです? 何やら嬉しそうなご様子ですが……」
藍子「ねぇ、あやめちゃん。この『ゆっくりお喋りすること』が、あやめちゃんが知りたがっていた秘訣そのものだって言ったら?」
あやめ「……と、言いますと……??」
藍子「えっとですね。あやめちゃんは、次のライブのために特訓がしたいって、私を頼ってくれましたけど……」
藍子「『印象』はもともとあやめちゃんの持ち歌ですし、これまでの経験と、あとはトレーナーさんのレッスンがあれば、きっと大丈夫だと思うんです。少なくとも、歌やダンスみたいな技術面で私にアドバイスできることはほとんど無いかなぁって」
あやめ「し、しかし……。それでは、何故藍子殿は、今回のお話を受けてくださったのですか?」
藍子「それは、ライブ前で忙しいあやめちゃんに、少しでもリラックスしてもらいたいなって思ったからなんです♪ 心に余裕が生まれれば、自然と落ち着いた気分で本番に臨めるでしょうし。これなら私でも力になれるかなって」
あやめ「な、なるほど……! それでこの喫茶店に連れてきてくださったんですね! いやぁ、お見それしました、藍子殿! 目からウロコとはこのことですっ!」
藍子「えへへ……偉そうなことを言っちゃいましたけど、実はこれ、未央ちゃんの受け売りなんですよね。私も以前、未央ちゃんと茜ちゃんに、こんな風に応援してもらったことがあって……」
あやめ「そうだったのですか……!」
15: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:22:18 ID:lEav
藍子「どうです? 気分転換になりましたか?」
あやめ「はいっ、それはもう! 藍子殿のおかげで、気力充実ですっ!」フンス
藍子「ふふっ。なら、良かったです♪」ニコッ
藍子「もしも本番で、緊張したり、不安になったりした時は、今日のことを思い出してみてください。きっと心が軽くなると思いますから」
あやめ「そうですね。いくら技術を磨こうとも、心を乱していては、本来のパフォーマンスを発揮できません」
あやめ「それこそ、控室にハーブティーを用意しておくのも良いかもしれませんね!」
藍子「それ、素敵ですねっ♪ ゆったりした気分でライブに臨めそうです」
あやめ「ハッ! 加えて、以前美優殿から手ほどきを受けた、忍法・アロマテラピーの術を施せば……! より盤石の布陣となること間違いなし!」
藍子「に、忍術なんですか、それ……?」
あやめ「これで、ライブも上手く行きそうです……! 流石は藍子殿……藍子殿師匠! 此度はご指南いただけたこと、僥倖でありました!」フカブカー
藍子「もう、相変わらず大袈裟ですって……それに師匠らしいことは、特に何も……あっ」ピコーン
藍子「それならせっかくですし、最後に師匠らしく、ひとつだけ課題を出してみてもいいですか?」
あやめ「おおっ! ここにきて、師匠からの課題……! お任せください。忍ドル浜口あやめの名に懸けて、如何なる難題も見事こなしてみせましょう!」キリッ
16: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:34:07 ID:lEav
藍子「じゃあ……いきますね、あやめちゃん」
あやめ「はいっ! 藍子殿師匠!!」
藍子「その、『殿』とか『師匠』とか抜きで、一度私のことを、『藍子ちゃん』って呼んでみてください♪」
あやめ「えっ……えぇぇ~~っ!?」
藍子「私たち、歳もあまり離れてないですし。そんなにかしこまらなくてもいいのになって、ずっと思ってたんです」
あやめ「お、お気持ちは嬉しいのですが、これはその、わたくしの癖のようなもので……」アタフタ
藍子「それにほら、堅苦しい言い方をしてると、肩に余分な力が入っちゃうかもしれませんよ? 一緒にいるあいだ、より落ち着いて過ごせるように……ね?」
あやめ「し、しかしその……こ、心の準備というものが……っ!」
藍子「準備ですか? それなら、できるまで待ちますよ? 私、待つのは得意なので♪」
あやめ「くぅぅ……これは、逃げられません……! わかりました。これも修行のため……腹をくくると致しましょう」
藍子「やったぁ♪」
17: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:35:11 ID:lEav
あやめ「……」スゥー
あやめ「……」フゥー
あやめ「…………いざ! 参りますッ!」カッ
藍子「どうぞっ」
あやめ「……ぁ、ぅ……あ、藍子ちゃんっ……?」
藍子「はいっ! 藍子ですっ♪」
あやめ「……~~~っ///」カオマッカ
藍子「えへへ、よくできましたっ。これで、免許皆伝ですね♪」
あやめ「わたくしが、お友達を、ちゃ、ちゃん付けなど……! はわわわわわ……!」プルプル
藍子「……あやめちゃん? なんだか、歌鈴ちゃんみたいなリアクションになってますけど……」
あやめ「だって、このようなことには慣れておりませんゆえ……! うぅ、穴があったら忍びたい……っ。いや、かくなる上はもう一度、煙玉で……!」バッ
藍子「あぁっ、ちょっと待って、あやめちゃん! お店の中で煙玉は、本当にダメですって~!」
おわり
18: 名無しさん@おーぷん 22/10/16(日) 23:35:53 ID:lEav
以上、お付き合いありがとうございました。
デレステの営業コミュのような空気感を目指したかった。
テンションが上がると押しが強くなる高森藍子概念、良いと思います。
以前書いたの
キャンディアイランドのばっちり毒にも薬にもならないおしゃべり
こちらも、よろしければどうぞ。
今年全然SS書けてないな…
浜口あやめ「藍子殿師匠!!」高森藍子「は、はぁ……?」