1: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:40:50.81 ID:vosdGvCv.net
侑「あ~。えっと、なんだっけ歩夢」
歩夢「え……?もしかして、これ?」
侑「あー!そうそう!マッキーだよマッキー。これが欲しかったんだ」カキカキ
歩夢「あぁ侑ちゃん。裏に滲まないように下に何か敷かないと」スッ
侑「ありがと歩夢っ」
歩夢「全くも~」
しずく「侑先輩と歩夢さんって、ツーカーですよね」
かすみ「ツーカー?侑先輩の謎のカップリングのこと?」
しずく「それはユーカー。お互いに気心が知れ渡ってる、みたいな意味だよ」
かすみ「へ~、そうなんだ……。って調べてみたらツーカーってふっるっ!」
侑「まぁ、伊達に何十年も幼馴染やってないからね。私以上に歩夢は私を知ってると思うよ。同じように、歩夢のことで私が知らないことなんてないよ!」フフン
歩夢「えぇ~……。さすがにそれは……言い過ぎでもない、か」
しずく「そういう関係って素敵ですよね。血縁関係が無いからこそ、特別な縁で結ばれているというか」
歩夢「大袈裟だよぉ……」
侑「照れてる歩夢も可愛いYO!」
3: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:43:02.76 ID:vosdGvCv.net
歩夢「も~っ。いつもそうやってからかうんだから……。でも、しずくちゃんとかすみちゃんも仲いいでしょ?」
かすみ「私としず子ですか?そうですかね?」
侑「まぁこういうのって自分では分かんないもんだよね。あ、でも確か、しずくちゃんってかすみちゃん専用の櫛を持ち歩いてるんでしょ?」
しずく「えぇ、そうですね。手櫛で整えるのも限界がありますし、かすみさんの髪の手入れって不思議としたくなっちゃうんですよ」
かすみ「ふっふ~ん。髪の毛だけで人を虜にしちゃうなんて……かすみんは罪な女ですね!」ドヤ
歩夢「……しずくちゃんってオフィーリアの毛並みを整えることも大好きだよね」
侑「あぁ……(納得)」
しずく「ふふっ、そうですね」
侑「……って。あぁ!!忘れてた!!今日って放課後に提出しなきゃいけない音楽科の課題があったんだったっ!!」
歩夢「えぇ!じゃあのんびりしてちゃだめだよ!」
侑「あわわわ……。三人は先に帰ってて!」
しずく「あ……そういえば私も演劇部で少し用事があるんでした。お二人は先に帰って貰っていいですか?」
かすみ「え~。今日は四人でお台場で遊ぶ予定だったのにぃ……」ブーブー
歩夢「仕方が無いよ。今日は二人で帰ろ?ね?」
かすみ「ま、歩夢先輩と二人きりってのもたまにはいいですよね!」
歩夢「何その言い方……」ジロッ……
かすみ「あ、いえ……。別に他意はないです。はい……」ビクッ
侑「それじゃあ、ばいば~いっ!」
しずく「お疲れさまでした」ペコッ
──校門前
かすみ「そういえば今日って雨降ってたんだった。地面が濡れてる……」
歩夢「ほんとだ。ちょっと注意しないといけないね」
かすみ「大丈夫ですよ!」ダッ
かすみ「……ぐえっ」ツルッ
歩夢「かすみちゃん……だから気を付けてって言ったのに……」ジト……
かすみ「いたた……。そ、そんな目で見ないでくださいよぉ……」
歩夢「って、かすみちゃん、制服が……」
かすみ「え……。ぎゃあああああああ!こ、これ……絶対すぐ落ちない汚れしてますよ!うわあああああ!災難ですぅ……」
歩夢「制服はまだしも、怪我はない?」タタタ…
かすみ「ぐすん……怪我はないですぅ……」
歩夢「そっか……。汚れは早く落とさないと残っちゃうかもしれないし……。着替えはある?」
かすみ「練習で使っちゃったので着替えはないです……ぐすん」
歩夢「じゃあ一先ず、私のジャージを着て。それから私の家で制服洗おうか」
かすみ「え、いいんですか?」
歩夢「うん。料理とか手芸以外に、洗濯も得意なんだよ私!」ドヤッ
かすみ「それじゃあ……お願いしますっ!」
歩夢「じゃあブレザー脱いで。うん、下は汚れてないみたいだね」
かすみ「不幸中の幸いですね……」ヌギヌギ
歩夢「じゃあ、これ」スッ
かすみ「うんしょっ……やっぱりおっきいですね……それにあったかい」
かすみ「ていうか、なんだかいい匂いしますね。ちょっと甘い匂いっていうか。洗剤何使ってるんですか?」
歩夢「それも含めて私の家で説明するよ。じゃ、行こうか」
かすみ「はいっ!」
かすみ(そういえば、歩夢先輩の家に行くのって初めてだ……)
かすみ(最悪な気分だったけど、逆によかったかも?怪我の功名って奴?)
──上原家
歩夢「それじゃあ洗濯が終わるまで、折角だし私の服着ててよ」
かすみ「わぁ~。やっぱり歩夢先輩の服って可愛いですよね~。さすが可愛い同盟を結んだだけありますよ!」
歩夢「ふふっ。なにそれ」
かすみ「部屋着も可愛いですし……お部屋も可愛いです……」キョロキョロ
歩夢「あ、あんまりじっくり見られると……ちょっと恥ずかしいような。あはは……」
歩夢「じゃあお茶菓子持ってくるからちょっと待っててね」
かすみ「え、いいですよそんなに。洗濯して貰ってるのにそんな……」
歩夢「そう?じゃあ洗濯物の取り込みとか手伝って貰おうかな。それからお茶にしよっか」
かすみ「任せてください!この部屋干ししてるのを取り込めばいいんですね!」
歩夢「うん。服のたたみ方は上原流でお願いね」
かすみ「上原流って何ですか?」
歩夢「えぇとね、Tシャツならこうこうこう……。肌着ならこうこうこう……」スッスッスッ
かすみ「おぉ……。まるで職人技。それにしても……おっきいですねぇ……」ジッ…
歩夢「ブラはあんまり見ないで欲しいな……」
かすみ「えへへ。ごめんなさいっ」
歩夢「じゃあ、取り込んでたたもっか」
かすみ「はいっ!」
……
…………
かすみ「──私って、一人っ子なんですよ」
歩夢「そうなんだ。そういえばそういう話ってあんまりしないよね」
かすみ「一人っ子ですし、かすみんってこの通り可愛いの塊じゃないですか。自分で言うのもなんですが、かなり甘やかされて育ったと思うんですよね」
歩夢(自分で言うのも可愛い、ではないところがかすみちゃんっぽいなぁ)
かすみ「でも、彼方先輩の姉妹仲とか見ると、お姉ちゃんっていいなぁ、とか思ったりして……」
かすみ「こうやって一緒に服とかたたんでると、なんだか歩夢先輩ってお姉ちゃんっぽいなぁって思ったり……」
歩夢「私がお姉ちゃん?あはは。ちょっと照れるね……」
かすみ「汚れちゃった服を洗濯してくれたりとか、そういうところもなんだか……。って、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃってますね。えへへ……」
歩夢「……」
歩夢「じゃ、じゃあ……試しに呼んでみる?お姉ちゃんって」
かすみ「えぇ?同じ部の先輩をお姉ちゃんって、ハードル高くないですか?」
歩夢「だって……そんなこと言われたら呼ばれたくなっちゃうじゃん。私もかすみちゃんみたいな妹、欲しいなぁ……」チラチラ
かすみ「うぐっ……」
かすみ「お、お姉ちゃん……。歩夢、お姉ちゃん……?」
歩夢「……!!」
かすみ「あ、あああああああっ!恥ずかしいですよこれっ!二人きりだとなおさら恥ずかしいです!あぁ、暑いなぁ……」パタパタ
歩夢「も、もう一回!」
かすみ「えぇ!嫌ですよぉ!勘弁です!」
歩夢「アンコール!アンコール!スクールアイドルならアンコールには応えるべきだよ!」
かすみ「ぐぬぬ……。こうなったら、今日はずっとお姉ちゃん呼びでいきますからねぇ!」
かすみ「歩夢お姉ちゃんっ!歩夢お姉ちゃんっ!歩夢お姉ちゃ~~~んっ!」
歩夢「……いいっ!これすごくいい!よ~し!じゃあ残りの洗濯物も頑張ろう!」
かすみ「はいっ!」
歩夢「はい、じゃないでしょ。かすみっ」
かすみ「え、うん……歩夢お姉ちゃん……って、歩夢先輩もノリノリですね」
歩夢「お姉ちゃん欲は我慢しちゃいけないって、内なるせつ菜ちゃんが叫んでるんだ」
かすみ「……えぇ?」
歩夢「あ、ごめんね。今は姉妹二人だけの時間だもんね。せつ菜ちゃんは封印しておくね」シュルルルル
かすみ「そ、そうだよぉ……。歩夢お姉ちゃん……」
歩夢「う~ん……いいなぁ、これ」シミジミ
……
…………
かすみ「お姉ちゃ~ん。クッキー~」
歩夢「はいはい」
かすみ「紅茶も~」
歩夢「はいはい。ちょっと熱いかな?ふぅふぅ……」
かすみ「ふ~っ……」ゴクゴク
かすみ(歩夢先輩の妹になると、膝枕されながら自動で飲食ができるんだ……)
歩夢「あ、これは確かに梳きたくなる髪の毛だね」ナデナデ
かすみ「う~ん……気持ちいいですぅ……」ゴロン
歩夢「ふふっ……。これじゃあ子犬ちゃんってより、子猫ちゃんだね」
かすみ「かすみんは子猫じゃ……あっ、あれって……侑先輩ですか?」
歩夢「あ、この写真?そうだね。ちっちゃい頃の私たちだね」
かすみ「へぇ~……。『ぱ』ってなんですか?」
歩夢「なんだろうね。そういえば、『ぱ』のお洋服を着なくなったのっていつからだっけ」トオイメ
かすみ「……やっぱり十年以上の付き合い、なんですよね」
歩夢「そうだねぇ……。幼稚園から今までの時間を合計したら、家族と過ごす時間より多いのかも……」
かすみ「……」ギュッ
歩夢「かすみちゃん?」
かすみ「今は!かすみんだけのお姉ちゃんですけどねっ!」
歩夢「……うん。そうだね、かすみ」ヨシヨシ
かすみ(なんだろう、この気持ち……。安心感もあるんだけど、いつ消えてもおかしくないような……雪の結晶みたいな儚さ……)
かすみ(もうちょっとだけ、この時間が続いて欲しいな……)
かすみ「あの、今日って……泊ってもいいですか……?」
歩夢「え……今日?」
かすみ「なんだか今日は泊まりたい気分なんです」
歩夢「……ふふっ。実は私もね、お泊りの提案しようと思ってたんだ」
かすみ「……っ!早速お母さんに連絡します!」バッ
かすみ「あ、お母さん?今日なんだけど──」
歩夢「……」
歩夢(もし、もしも……本当にかすみちゃんが私の妹だったら……)
─……─
侑『きょうはぼーるであそぶの!』
かすみ『だめ!おままごとでおひめさまやるんだもん!』
歩夢『けんかしちゃだめだよぉ』
侑『あゆむはどっちのみかたなの!』
かすみ『おねーちゃんはわたしのみかたにきまってるもん!そーだよね!おねーちゃん!』
─……─
歩夢(……なんてね)
かすみ「お母さんからおっけー出ました!わ~い!」
歩夢「ふふっ。今日は楽しくなりそうだね」
かすみ「うんっ!今日はお姉ちゃんを寝かせませんからね!」
──次の日・部室
侑「──だからさ、落ちる床を渡っていくって無理らしいんだよね」
歩夢「クソゲーってこと?そうじゃないよ侑ちゃん。クソゲーっていうのはそういう物理法則を無視したとかそういうことじゃなくてね、制作側の──」
侑(変なスイッチ押しちゃったぁ)
かすみ「みんなのアイドル、かすみん参上ですっ!」ガララッ
しずく「今日もお二人が一番ですか。さすがですね」
侑「よ、よかったぁ二人とも。みんなが来るまで一緒にお喋りしようよ!」
しずく「もちろんです!」
かすみ「あ、そう言えばこれ」スッ
歩夢「ん?あ、これって昨日言ってた小物……」
かすみ「はい!お姉ちゃんの部屋にぴったりだと思うんですよこれ!」
歩夢「うん……!これすっごく可愛い!ありがとね!かすみ!」
かすみ「私の部屋に置くより、お姉ちゃんの部屋の方がぴったりですから!」
侑「……お姉ちゃん?」
しずく「……かすみ?」
かすみ「あ、かすみん、歩夢先輩のことお姉ちゃんって呼んでました?」
歩夢「私も呼び捨てにしちゃってた?」
侑「え、え……?どういうこと?昨日何かあったの?」
歩夢「うん。昨日はかすみちゃんとお泊りしたんだ」
侑「え!私の部屋の隣でそんな楽しいイベントが!?呼んでよぉ……」
かすみ「ふふん!」
しずく「どうして得意げな顔してるの?」
かすみ「昨晩は姉妹水いらずの空間でしたからね!幼馴染とて、入り込む余地はありませんよぉ!」ドヤッ
かすみ「ね、お姉ちゃん!」ダキッ
歩夢「わわっ……。そうかも、ね?」
侑「……な、なんかモヤモヤする~っ!」ジタバタ
しずく「歩夢さんがお姉さん、ですか……。では侑先輩なら……?」チラッ
侑「ぬわああああああああ!歩夢とかすみちゃんでときめきとモヤモヤが止まらないよぉ!!」グルグル
しずく「……。侑先輩、ちょっといいですか?」
侑「え、なに?廊下に出るの?まぁいいけど」ガラッ
しずく「──なんだか、ちょっと面白くないですね」
侑「歩夢とかすみちゃんのこと?そうだね。確かにちょっと面白くない……」
しずく「侑先輩って歩夢さんのことなら知らないことはないんですよね」
侑「うん……。そのつもり、だったけど……。う~ん、モヤモヤ感が拭えない!私の知らない歩夢をかすみちゃんが知ってるなんて!!」
しずく「そうですね……。逆に、私の知らないかすみさんを歩夢さんが知っている……。これはなんだかいただけません」
侑「……なんかあれだね。しずくちゃんって意外、というかやっぱり、独占欲強いよね」
しずく「それはお互い様ですよ。と、いけない。こんなことを話したいわけじゃありません。どうでしょう侑先輩、今日私たちもお泊り会をするというのは」
侑「え、私たちも?」
しずく「はい。それで私たちの仲を二人に見せつけるんですよ!意趣返しって奴です!」
侑「なるほど……。そうだね、ここらで歩夢の大切な幼馴染は高咲侑しかいないって再認識させなきゃ!」
しずく「はい!名付けて『百合営業大作戦』です!」
侑「お~。なんだか燃えてきたよっ!」
しずく「頑張りましょう!お~!」
侑「お~!」
──某・銭湯
侑「いや~。それにしても家のお風呂が壊れてたって忘れてたよ~。ごめんねしずくちゃん」
しずく「いえ、あまり銭湯って馴染みが無いので、むしろ新鮮で胸が躍っています!」
侑「そっかそっか。それじゃあさっそく……」ヌギヌギ
しずく「……へぇ」
侑「……ん?しずくちゃんは脱がないの?って、そんな見ないでよ!私が見るならともかく!」
しずく「あ……ご、ごめんなさい。侑先輩って更衣室では見ないので新鮮で……」
侑「あ~、確かに。音楽科とマネージャーの兼ね合いで、私だけジャージに着替える時間違うもんね」
しずく「そういうことです」ヌギヌギ
侑「ふむ……」ジッ……
しずく「あ、あの……見ていた私が言うのもなんですが……」
侑「いやぁ、しずくちゃんの体綺麗だなぁ、って思ってさ」
しずく「そ、そんな……侑先輩の方こそ……」
侑「ま、こんなことしてちゃ風邪引いちゃうよね。さっさと入ろう!」
しずく「あ、はい……」
しずく「……」
しずく(どうしてだろう。侑先輩の裸って、見ちゃいけないような、触れてはいけないような、そんな感じがする……)
……
…………
カポ~ン
侑「っぷぇ~。やっぱり露天風呂はいいねぇ~……」ザブ~ン
しずく「そうですねぇ……」ザブ~ン
侑「私たち二人以外いないし、贅沢な使い方しちゃってるよねぇ……」
しずく「ほんとそうです……。あぁ、ゆっくり動く雲の流れを目で追うだけで、なんだか満たされますね……」ボ~……
侑「うん……」ボ~……
しずく「……」
侑「……」
侑「それにしても……」チラッ
しずく「……?」
侑「濡れた髪のしずくちゃんも、ときめいちゃうね……。雫滴るしずくちゃん……?」プププ……
しずく「そうですか?それを言うなら侑先輩だってそうですよ……。髪を下ろすといつもより大人っぽく見えるというか……いや、緩んだ顔は逆に幼く見えるというか……」
侑「えぇ?私はいいよぉ」
しずく「いえ……。侑先輩って、そういう二面性が魅力的だと思うんです。普段は子供のような無垢さを持っているのに、いざとなったら精悍な顔になって行動するという……。言わばアンビバレンツな魅力、というものですかね」
侑「……ぶくぶくぶくぶく」
しずく「ちょ、沈まないでくださいよ!大事なところじゃないですか」
侑「だ、だって……恥ずかしいし……」
しずく「侑先輩はいつも、こういうことを私たちに向けて言ってるんですよ?」
侑「だってぇ……。ときめきは止められないんだよぉ……」
しずく「……ふふっ。そういう攻めに弱い点も、私にとっては魅力的に映ってしまいますね」
侑「ぬ……。なんだか先輩として負けてる気がする……」
しずく「いいじゃないですか。いざという時は先輩の威厳を見せてくれるじゃないですか」
侑「ぬぬ……ほ、ほら!」ギュッ
しずく「わわ……」
侑「こういう包容力だって、私にはあるんだからね!」
しずく「ゆ、侑先輩っ。さすがに裸で後ろから抱きしめられるというのは……」
侑「……まぁ、いいじゃん。くっつきながら空を眺めるのも、乙なもんじゃない?ほら、見て見なよ」
しずく「……たしかに、いいかもしれませんね」
侑「……」
侑(しずくちゃんを胸に抱いたまま、夜空を眺める)
侑(他のお客さんとか、同好会のみんながいたら絶対にできない。でも……二人きりならできてしまう)
侑(私は……しずくちゃんと肌と肌で触れ合いたかったのかな?だとしたら……)
侑(この気持ちがバレるのは、さすがに恥ずかしいね)
しずく「……なんだか、落ち着きます。人肌って、やはり特別ですね……。それにこの音が……」
侑「……音?」
しずく「あ、いえ……なんでもないです」
侑「そっか……」ボ~……
侑「気持ちいいねぇ……」
しずく「はい……」
──高咲家
侑「はい、ホットミルク」スッ
しずく「あ、ありがとうございます」
侑「ごくごく……ふぅ、やっぱ寝る前はホットミルクだねぇ」
しずく「ごくごく……。あ、優しい味……」
侑「でしょ?これは高咲家秘伝の味が脈々と受け継がれているんだよ」ドヤヤッ
しずく「へぇ……。私が自分のために淹れても、こうはならないんだろうなぁ……」
侑「なんか言った?ごくごく」
しずく「あ、いえ別に何も……。そ、そういえば、今日の趣旨って、歩夢さんとかすみさんへの意趣返しって話でしたよね」
侑「あ、そういえばそうだった。すっかり普通にお泊りを楽しんじゃったよ。あはは……」
しずく「ですね。私も今の今まですっかり忘れていました。でも……」
侑「でも?」
しずく「普通にお泊りを楽しむ。これが一番なのかもしれませんね。私としては、もっと侑先輩のことを知りたかったですし……」
侑「あ、それは私もそうだよ。銭湯のしずくちゃんは色っぽかったなぁ、とか」
しずく「色っぽいって……高校一年生に使う表現ですか?」
侑「それに、お風呂から上がった後に牛乳を一気飲みするしずくちゃんは……勇ましかったなぁ……」
しずく「あ、あれはその……。フィクション作品によく出てくる豪快な飲みっぷりを体験したくてですね……。いつもはああじゃないんですよ?」
侑「あはは。しずくちゃんってたまに大胆な行動に出るよね。そこが魅力でもあるんだけどさ」
しずく「そ、そうなんですか……?」
侑「うん。こう……なんていうんだろう。突発的な状況になると、不思議なしずくちゃんが顔を出して大胆なことをするっていうか……」
しずく「あぁ、なるほど……。それは……私がアドリブに弱いから招いた結果かもしれません。演劇部なのに恥ずかしいんですけどね」
侑「え、そうなの?」
しずく「はい……。だから突発的な出来事に上手く対応できないんですよね。緊張して変な風に考えてしまって、それで奇妙な行動を取ってしまうというか……」
侑「そこが可愛いところでもあると、私は思うけどなぁ」
しずく「で、でも……役者の演技のアドリブ力とか、アイドルのファンサのアドリブ力とか、そういうのをそつなくこなしたい気持ちもあるんですよ」
侑「あ~、なるほど……。確かにマイクパフォーマンスとかをアドリブでビシッと決められると、かっこいいよねぇ」
しずく「そうなんですよ!侑先輩が可愛いと言ってくださるのは嬉しいんですが、私としては磨きたい部分なんですよ」
侑「なるほどねぇ……。あ、ミルクもうないね」
しずく「あ、いつの間に……。もう少し味わいたかったのに……ぐぬぬ」
侑「まあまあ。また次のお泊りの時にでも作ってあげるからさ。じゃ、洗ってくるね」ヒョイッ
しずく「あ……私が洗いますよ!」
侑「いいのいいの。今日は私がホストなんだから」
しずく「……はい」
しずく(次は、私の家に招こう)
しずく「えぇと……」
しずく「侑先輩の、ベッド……」チラッ
しずく「侑先輩の、毎日使ってるベッド……」サワリサワリ……
しずく「……」
しずく(やっぱり、自分のベッドとは違う感触、匂い……)
しずく(でも、旅館のお布団みたいに、ちょっと落ち着かない感じはしない)
しずく(何でだろう。侑先輩のベッドだから、かな……?)
侑「あれ、まだ歯磨きしてないよ?」
しずく「あ、ご、ごめんなさい!」ムクッ!!
しずく(あぁ、もう……。演劇のせいで小道具一つ一つに特別な何かを感じちゃう癖が付いちゃってる……)
……
…………
侑「それじゃ、私は布団で寝るから」パチッ
しずく「はい。私だけベッドで申し訳ないですが……」
侑「いーのいーの。ホストだからって言ったでしょ~?人をもてなすって、やってみたかったんだよね~。それじゃ、おやすみ!」パチッ
しずく「はい。おやすみなさい」
侑「ふわぁ……っ」
しずく「あふ……っ」
侑「……」
しずく「……」
侑「ね……しずくちゃん」
しずく「はい……?」
侑「さっき言ってたアドリブの話、だけどさ」
しずく「はい」
侑「露天風呂の時みたいに気持ちが落ち着いてたら、きっと冷静に行動できるよね」
しずく「それは……そうですね」
侑「だから、さ。ちょっと、そっちのベッドにお邪魔しても、いい……?」
しずく「え?それは、別に構いませんけど……」
侑「えへへ。自分から寝る場所を分けようなんて言ってあれだけどさ。ちょっと寂しくなっちゃって……」モゾリモゾリ
しずく「あ……二人でちょうどいいくらいの大きさ、ですね」
侑「そうだねぇ……。それにしても、私のベッドにしずくちゃんがいるって不思議な気分。顔もこんなに近いし」
しずく「侑先輩……」ジッ……
侑「しずくちゃん……」ジッ……
しずく(やっぱり、侑先輩ってなんだか不思議な人だ)
しずく(寂しいって理由でベッドに来たけど、こうして私を見つめる瞳は精悍にも見えるし無垢にも見える)
侑「それで、こう、だよね……?」ギュッ
しずく「あ……」
侑「どう?露天風呂の時みたいに夜空は見えないけど、落ち着くかな……?」
しずく「……はい。夜空は見えないけどその代わり……いえ、なんでもありません」
侑「えぇ?露天風呂の時もそんなこと言ってたよね~。気になるなぁ……」
しずく「まぁ、いいじゃないですか。とても……安心できます。今はそれで、いいじゃないですか……」
侑「ま、いっか……。それじゃあ、今日はこのまま寝よっか……」
しずく「はい。おやすみなさい、侑先輩」
侑「うん。おやすみ、しずくちゃん」
しずく「……」
しずく(夜空の星は見えないけれど、今は侑先輩の鼓動がより強く聞こえる)
しずく(それは侑先輩が近くにいる証。緊張より、ずっとここにいたい気持ちの方が勝る)
しずく(ふとした瞬間に眠りそうになる安心感。でも……)
しずく(寝てしまえばこの音は聞けなくなると考えると、勿体ないような気がした)
──次の日
侑「あ、あ、ああああああああああああ!作曲が!インスピレーションが!音楽の神が!舞い降りすぎてる!」シュパパパパパパパ!!!!
かすみ「な、なんか今日の侑先輩すごいですね」
歩夢「今日は朝一番からこうだったの。睡眠の質がよかったとかなんとかで……」
かすみ「睡眠の質?それだけでこうなるんですか……?彼方先輩じゃあるまいし……」
かすみ「あ、そういえば今日ってしず子いないんですよね」
歩夢「そうなんだ」
かすみ「次の舞台の稽古で忙しいらしいですね」
歩夢「二足の草鞋かぁ。私にはできなさそうだなぁ……」
かすみ「バイタリティって言うんですかね。そもそもの体力が違う気がします」
しずく「……」ガララッ
かすみ「あれ、しず子?今日は演劇部じゃ──」
しずく「侑先輩!」タッタッタ
侑「んぇ?どうしたのしずくちゃん……ってわわっ」
しずく「……リラックスタイムです」ギュウッ……
侑「……あぁ、なるほど。アドリブのために冷静さを……」ヨシヨシ
しずく「……」
しずく「よし、チャージ完了です!ありがとうございました!」ガララッ
侑「うん!演劇部頑張ってね!」フリフリ
歩夢「……リラックスタイム?」
かすみ「……チャージ完了?」
歩夢「え?え?どういうこと?侑ちゃん」
侑「どういうことって……あはっ。秘密だよっ!」
歩夢「え~っ!!秘密って!!そんなのないよぉ!!」
かすみ「なんですかさっきの!!二人だけで分かったような目のやり取りしてたじゃないですかぁ!!」
侑「目のやり取りというか……心の通じ合い、かな?」
かすみ「な、なんですかそれぇ!?」
侑「まあまあ。今はちょっと作曲で忙しいんだ!あぁ!メロディが頭の中で渋滞を起こしてるよ!まずいねぇこれは!!」シュパパパパパパパ!!!!
歩夢「えー!モヤモヤするよぉ!!」
かすみ「い、一体二人の間で何があったって言うんですか……」
──早朝・上原家
ピンポ~ンッ
歩夢「んぅ……。誰ぇ……?まだ朝じゃん……」
アユム~!アナタニオキャクサンヨー!
歩夢「んぁ……?誰ぇ?うぅ~ん……」
しずく「おはようございます歩夢さん!」ガチャ
歩夢「ふぇ……?」
しずく「ふむふむ。寝ぼけまなこをこすりこすり、と……。淡い桜色のパジャマを着ていて若干着崩れている、と。若干の背徳感も覚える、と……」カキカキ
歩夢「し、しずくちゃん……?なんでここに……あ」
しずく「忘れちゃったんですか?今日は朝から晩まで歩夢さんに密着取材するって言ったじゃないですか」
歩夢「そう言えばそうだった……」ホワワ~ン
──…──
しずく『あの、歩夢さん。明日一日、歩夢さんに密着取材してもいいですか?』
歩夢『え、密着取材?何のために……?」キョトン
しずく『歩夢さんって、素で可愛らしいじゃないですか。飾らない可愛さというか、純粋培養の可愛さというか。その可愛さの秘訣は何なのか、役者として知りたくなったんです!』
歩夢『えぇ?そう言って貰えるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいなぁ……』
しずく『お願いします歩夢さん!』ペコッ
歩夢『わわっ。頭上げてよぉ……。分かった!分かったからっ!』
しずく『ありがとうございますっ!では、明日の早朝うかがいますね!』タッタッタ!!
──…──
しずく「と、言う訳で、今日は一日中ずっと歩夢さんに着いて行きますから!」
歩夢「一日中……。でも授業中とかはできないし、昼休みくらい?」
しずく「そこは問題ありません!璃奈さん謹製の発明品があるんです」
しずく「ホログラムで教室の私は誤魔化せますし、光学迷彩機能搭載外套を着れば、透明人間と同様の効果がありますし、問題はありません!」
歩夢「……それは、いいのかなぁ?」
しずく「いいんです!」
歩夢「まあ、いっかぁ……」
──通学路・バス
歩夢「──それで、どうしてその……可愛さ?の秘訣を知りたいと思ったの?」
しずく「はい。有り体に言えば役者、スクールアイドルの両方に応用できると感じたからですね。私ってキュート系……ではないと思うので、そっちも鍛えたいなぁ、と思いまして」
歩夢「なるほど……。でも可愛さって言うと、かすみちゃんの方がいいんじゃない?」
しずく「かすみさんも可愛い系ではありますが、私の求める可愛さとはベクトルが違うんですよ」
歩夢「というと?」
しずく「えぇと……かすみさんのは自分からアピールする可愛さなんですが、歩夢さんのは普段の振る舞いから滲むような、愛嬌寄りの可愛さだと思うんですよ」
歩夢「愛嬌……」
しずく「愛嬌って会得しようとして得られるものではないと思うんですが、だからこそ研究のしがいがあると思うんです!」
歩夢「いやぁ……期待に応えられるかなぁ……。あ、バス着いたよ」スッ
しずく「あ、はい」スッ
歩夢「──ありがとうございました」ペコッ
しずく「ありがとうございました」
しずく(運転手さんの目を見て、さらに一度礼をして感謝を告げる、と……丁寧だなぁ)カキカキ
──教室
歩夢「おはよ~」
生徒A「あ、おはよ~」
生徒B「おっは~」
歩夢「あ、そのシュシュ可愛いっ!どこで買ったの?」
生徒A「気づいちゃった?これはね~」
光学迷彩外套着用済み・しずく(ふむふむ。クラスメイトの小さな変化に気づく、と)
……
…………
歩夢「……」カキカキ
しずく(当たり前だけど、授業は真面目だなぁ……。姿勢も上から糸で吊ってるみたいにピンとしてるし、机に突っ伏して寝ることもない)
歩夢「……あ」ブルル
しずく(ん?スマホの通知?誰からだろう……って見ちゃだめだけど……侑先輩だ)
侑『ミアちゃんの演奏が子守歌すぎる』
歩夢「……ふふっ」
歩夢『頑張って起きてっ!お昼までもうひと頑張りだよ!』
先生「上原さん?授業中にスマートフォンは控えてください」
歩夢「あ、す、すみませんっ!」
しずく(……さっきまで微笑んでたのに、今度は恥ずかしそうに頬を紅潮させてる)
しずく(表情がコロコロ変わって……これは……)
しずく(可愛いというより、可愛らしい。やっぱり愛嬌たっぷりだなぁ……)
──学園内中庭
歩夢「──じゃあ、ここでお弁当にしよっか」
しずく「はいっ。そう言えば、歩夢さんと二人で昼食って初めてですよね」
歩夢「そうだね。だから今日はちょっと気合入れてお弁当作っちゃった」
しずく「私の分まですみません。でも、今日一日中ずっと楽しみでしたっ!」ワクワク
歩夢「あはは。お弁当にはちょっと自信あるよっ!はい、これしずくちゃんの」スッ
しずく「ありがとうございます」パカッ
しずく「わぁ~彩りが豊かで美味しそうですね~」
歩夢「やっぱり見た目も気にしないと!それに、冷めても美味しいものを入れてるんだ。食べてみてっ」
しずく「はいっ。もぐもぐ……。あ、すごく美味しいです!」
歩夢「ふふっ。ありがとうっ」
しずく「なんていうか……安心する味ですね。素朴な美味しさ、というか……。ああいえ、勿論悪い意味じゃないですよ?歩夢さんらしい味と言いますか」
歩夢「大丈夫、嬉しいよ!真心系スクールアイドルだからね、素朴な魅力って言って貰えるのは嬉しいっ」
しずく「真心系……」モグモグ
歩夢「食べ終わったらフルーツもあるよ。だからゆっくり食べてね」
しずく「はい……」
しずく(今日、朝から昼までずっと歩夢さんを見てきた。歩夢さんの可愛らしさ、愛嬌の秘密が知りたくて……)
しずく(蓋を開けて見れば、何の変哲も無かった。歩夢さんはただ歩夢さんなだけだった)
しずく(歩夢さんを演じることはできても、歩夢さんになることはできない。つまり……歩夢さんの可愛らしさを会得することはほぼ不可能、と言えるかもしれない)
歩夢「なんだか難しそうな顔してるね。今はお弁当のことだけ考えよう?」
しずく「あ……すみません。折角のお弁当なのに」
歩夢「……ね、しずくちゃん。しずくちゃんは私の可愛さの秘訣について知りたいんだよね?」
しずく「あ、はい。ですがそれはもう……」
歩夢「私は意識して可愛くなろう、とかは考えてないけど……私を見てくれた人が、少しでも笑顔になってくれたらいいな、って気持ちでスクールアイドルをしてるんだ」
歩夢「ランジュちゃんみたいな、ファンのみんなを圧倒できるようなライブはできないし、果林さんみたいなダンスとセクシーさで魅了できるようなライブも私にはできない」
歩夢「でもだからこそ、私には、上原歩夢にしかできないライブがあるって……そう信じてる」
しずく「歩夢さん……」
歩夢「ふふっ。私を見て、私から盗みたい物があるって聞いて、ちょっと嬉しかったんだ。私のライブが、ライバルでもあるしずくちゃんにも届いてたんだって分かったから」
しずく「……」
歩夢「だから……今度はしずくちゃんのことを教えて?」
しずく「え……?」
歩夢「しずくちゃんにはしずくちゃんのライブがあるよね?私もしずくちゃんの魅力を盗んで、もっともっと自分を磨きたいんだっ!」
しずく「……あはは。歩夢さん、歩夢さんって本当に歩夢さんですよね!」
歩夢「なにそれ……ふふっ」
しずく「歩夢さんから盗める物はないって、半ば諦めかけてましたけど、歩夢さんが魅力を感じる桜坂しずくなら、できるような気がしてきました!」
歩夢「うん!その意気だよしずくちゃん!」
歩夢「あ、そうだっ!ちょっとお弁当に蓋するね?」パコッ
しずく「え、はい……。って髪の毛をいじるんですか?」
歩夢「うんっ。まずは形からってことで……」ワシャワシャ
しずく「……うぅ、くすぐったいですねぇ」モゾモゾ
歩夢「……これで終わりっと!はい、鏡見て見て!」スッ
しずく「あ……歩夢さんと同じシニヨン……」
歩夢「これでしずくちゃんも歩夢モードだよっ!しずくちゃんのリボンで結ってるから、しずくちゃんらしさが出てて可愛い!」
しずく「……」サワリサワリ…
しずく「ふふっ。まずは形から、ですね!歩夢さんの全て、盗んでみせます!」
歩夢「私も負けないよ?」
しずく「それじゃあまずは、歩夢さんのお弁当を堪能するところからですね!もぐもぐ!」
歩夢「ゆっくり食べてねっ」
──カラオケ某店
歩夢「さ、放課後はカラオケだよ!」
しずく「カラオケ、ですか。歌の練習ですか?」
歩夢「うぅん。今日はね、叫ぶためにカラオケに来たんだ」
しずく「叫ぶため……?」
歩夢「ちょっと恥ずかしいけど……しずくちゃんは取材熱心だから見せてあげるね」
しずく「はい。ありがとうございます?」
歩夢「マイクの音量はこれくらい……エコーはこれくらい……っと……」
歩夢「よおし……スゥゥゥゥ……」
しずく(思い切り息を吸い込んで……)
歩夢「……ッ」ギンッ
しずく(開眼した……っ!)
歩夢「あんまり頼りにしないでえええええええええええええええええええ!!!!」
しずく「!!!!」キーン…
歩夢「なんでもかんでも値上がりし過ぎだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
しずく「!?!?」キーン…
歩夢「侑ちゃあああああああああああああああああああああん!!!!」
しずく「!?!?!?!?!?!?!?」キーン…
歩夢「……ふぅ。どうかな、しずくちゃん」
しずく「え、え……。どうって……え?」キーン…
歩夢「ここのカラオケ屋さんってね、人があんまりいないの。だから人の目を気にせず思いっきり叫べる場所なんだ」
しずく「はぁ……なるほど」
歩夢「私って……気持ちを溜めこみやすいタイプらしくて、たまにここに来て発散させてるんだ」
しずく「あ……なるほど。さっきのはそういう……」
しずく(人当たりのいい歩夢さんだけど、不満とか不安とか……。そういうのを感じるのは当たり前だよね)
しずく(人の見えないところで、たった一人で内々に処理する、と……。なんだか歩夢さんっぽいな。メモメモ、っと)カキカキ
歩夢「えへへ……。今のって何かメモするところあったかな……。さすがに叫んだ内容を書かれるのは恥ずかしいって言うか……」ポリポリ
しずく「あ、いえっ。歩夢さんの在り方と言いますか、人間性の部分を記録しているだけなのでお気になさらずっ!」カキカキ
歩夢「そう?よく分からないけどよかったぁ」
しずく「ち、ちなみに、聞いていいか分からないんですが、最後の侑ちゃあああん、というのは……?」
歩夢「あ~……。えぇと……」
しずく「あ、言いたくないのであれば全然──」
歩夢「いや、あのね……?侑ちゃんは音楽科に行って自分の夢を追いかけて。私はスクールアイドルとして夢を追いかけて……」
歩夢「今の私たちって、夢を追いかける同士、互いの存在を励みにしよう、みたいな感じの関係なんだけど、それでもやっぱり寂しい時もあってね」
歩夢「侑ちゃんの部屋に行ったりとか、同好会の活動だけじゃ埋められない寂しさ?みたいな物を叫んだんだ。うぅ……言ってて恥ずかしいよぉ……」
しずく「な、なるほど……」
歩夢「……しずくちゃんもさ、あるんじゃない?」
しずく「え」
歩夢「私としずくちゃんってね、ちょっと似てると思うんだ」
しずく「私と歩夢さんが、ですか?」
歩夢「うん。たぶんしずくちゃんも、一人で悩みを抱え込んで、それを独りで解決しようとしちゃうタイプでしょ?それで、言いたいことをため込んで……いつか爆発しちゃう、みたいな」
しずく「あぁ……。少し覚えがありますね。確かに私と歩夢さんって似た者同士かもしれません……」
歩夢「でしょ?じゃあ、ほらっ!」グイッ
しずく「わ、私にも叫べ、と……?」
歩夢「そうだよっ!って……これってパワハラ?になっちゃうのかな?」
しずく「……い、いえ!折角の機会です!僭越ながら桜坂しずく、叫ばせていただきますっ!」
しずく(歩夢さんはここまで自分を私にさらけ出してくれたんだ!私もその思いに応えたいっ!)
しずく「ふぅ……。って、何を叫べばいいんでしょうか」
歩夢「頭に浮かんだネガティブなこととか叫べばいいと思うよ。普通は言えないけど、ここなら何でも叫んでいいんだよ!」
しずく「……了解です。では……。スゥゥゥゥゥ……」
しずく「実は!!!!演劇も!!!!スクールアイドルも!!!!」
しずく「どっちも中途半端に終わるんじゃないかって!!!!」
しずく「すごおおおおおおおおおおくしんぱあああああああああああああい!!!!」
しずく「あんまり優等生とか!!!!真面目だとか!!!!清楚だとか!!!!」
しずく「押し付けないで欲しいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
しずく「はぁ、はぁ……ど、どうでしょか……?」
歩夢「……っ」グッ!!
しずく「歩夢さん……!」
歩夢「最高だったよ!しずくちゃんのシャウト、胸に響いたよ!せつ菜ちゃんにも負けないくらいだった!」
しずく「ありがとうございます!これは……アレですね、歩夢さん」
歩夢「アレ?」
しずく「『もっと素直になりたいよ委員会』の発足です!!」
歩夢「もっと素直になりたいよ委員会……っ!?あはっ、私たちにぴったりだね!」
しずく「ですよね!なんだか歩夢さんと秘密を共有できて、すごく嬉しいです!」
歩夢「私もだよしずくちゃん!じゃあ今日、ここだけはっ!全力で素直になるよ!次は私の番!」
しずく「はい!お願いします──」
……
…………
歩夢「喉を傷めないように発声したつもり、だけど……けほっ」
しずく「ちょ、ちょっと興が乗りすぎましたね……けほっ」
歩夢「あはは……。あんまりこういう悩みって共有できないから、ちょっと調子に乗っちゃったっ」
しずく「私もです……あはは」
店員「お会計はこちらとなっています」
歩夢「じゃあここは私が出すね。先輩だし」
しずく「え!私が出しますよ!今日は一日中私に付き合って貰ったんですから」
歩夢「じゃあ割り勘でいっか。同じもっと素直になりたいよ委員会の仲間だもんね」
しずく「ですね!」
店員「ふふっ……」
歩夢「あ、すみません手間取っちゃって……」
店員「あぁいえ……。髪型も相まって、とても仲のいい姉妹みたいだなって思いまして。すみません」
しずく「姉妹?私と歩夢さんが?」
歩夢「あはは。確かに。今のしずくちゃんは私と同じ髪型だもんね」
しずく「それは……なんだか嬉しいですね……」
店員「ではこちらをお預かりします。こちらがお釣りとなります。またのご来店をお待ちしております」
歩夢「じゃあ帰ろうか、しずくちゃん」
しずく「あ、はいっ!今日は一日、本当にありがとうございました!とても有意義な一日でした!」
歩夢「そう?よかったぁ。私も今日は楽しかったし……二人目の妹ができて嬉しかったな」
しずく「私も楽しかったで……って、二人目?一人目って……あ、かすみさんですか?」
歩夢「あは。どうかな?」
しずく「え、何ではぐらかすんですか!歩夢さん!」
歩夢「まあまあ。早く行かないと電車の時間になっちゃうよ!」
しずく「えぇ?分かりましたけど……」
歩夢(思い返せば、私としずくちゃんって似てるけど、たぶんそれって侑ちゃんとかすみちゃんにも言えると思うんだよね)
歩夢(私と侑ちゃん。しずくちゃんとかすみちゃん……。同じような苦労と悩みを共有できる仲間として、しずくちゃんとはもっと仲良くなりたいな……)
歩夢「しずくちゃん」
しずく「何ですか?一人目の妹を教えてくれるんですか?」
歩夢「私たち、頑張ろうね」
しずく「……?はい。分かりました?って、どういうことですか?」
歩夢「スクールアイドルも演劇部も、その他も頑張ろうってことだよ!」
しずく「なるほど。はいっ!一緒に頑張りましょう!」
──部室
かすみ「んぁあ……もうコッペパン作れないですよぉ……」ムニャムニャ…
侑「忘れ物しちゃった……」ガララッ
かすみ「んみゅ……」
侑「って、かすみちゃん?何で放課後の部室で寝てるの……?起こした方がいいよね?かすみちゃ~ん?朝だよ起きて~?」
かすみ「……ふぇ。あ、侑せんぱ~い……。おごはざよいうます……」
侑「おはよう、と、ございますが一字ずつ互い違いになってるよ……。もう放課後だよ?帰ろう?」
かすみ「え……あ、かすみん寝ちゃってたんだ……」
侑「どうしてここで寝てたの?今日って同好会の活動休みじゃん」
かすみ「あ~……忘れ物を取りに来たらつい……。昨日はちょっと夜更かししちゃって……それに、ここのソファって寝心地いいんですよね」
侑「そっかぁ。ならまぁしょうがないね。私もちょっと忘れ物を、と……。よし、じゃあ帰ろうか」ヒョイッ
かすみ「あ、はいっ。侑先輩と二人きりで帰るって、テンション上がっちゃいますねぇ」ルンルン
侑「だね!って……かすみちゃん、寝ぐせが……」
かすみ「え……?」サワリサワリ
侑「はい鏡」スッ
かすみ「……ぎゃああああああああ!!こんな寝ぐせじゃ外に出られませんよ!!直さなきゃ……」ペタペタ…
かすみ「……」ビョイ~ン…
かすみ「な、直りません……。今日は部室で寝泊まりするしかないですかね……あはは」ズ~ン…
侑「いやいやっ!諦めるの早すぎるよ!ほら、ちょっと髪の毛いじるからね」
かすみ「えあっ、はい……」
侑「これをこうして……ついでにここを巻き込んでっと……はい、出来上がり!鏡見てごらん?」サッサッ
かすみ「……あ、侑先輩と同じツインテールになってる。可愛い……」
侑「髪を結べば寝ぐせもそんなに気にならないでしょ?それに、ツインテールのかすみちゃんも可愛いYO!」
かすみ「そ、そうですかぁ?いやぁ、どんな髪型も似合っちゃって困っちゃいますよぉっ!」
侑「二人並んだら姉妹に見えちゃうかもね?」
かすみ「確かに姉妹に──」
かすみ「は、見えないですね……え?」
かすみ(なんで私、姉妹ってことを否定して……)
侑「まあ髪色からして違うもんね。それじゃあ帰ろっか!」ガララッ
かすみ「あ、はい……!」タッタッタ…
──帰り道
侑「そう言えば、昨日はどうして夜更かししてたの?」
かすみ「昨日は他のスクールアイドルの研究をしてたんですよ!敵を知り、己を知ればうんたらかんたらって言うじゃないですか!」
侑「お~。研究熱心だね。さすが部長」
かすみ「ふっふ~ん♪もっと褒めてくれてもいいんですよぉ?」
侑「よしよし……あ、ちょっと止まって」
かすみ「へ?はい」
🚙ブゥゥウウウン!!💧💧💧ビシャアアアッッ!!
侑「見えにくいけど水たまりあったからさ。大丈夫?濡れてない?」
かすみ「あ、はい。ありがとうございます。それにしても、よく見えましたね」
侑「かすみちゃんが部長なように、私はみんなのマネージャーだからね。アイドルの身辺の警護をするのは当然だよ!」
かすみ「解答になってないですけど……頼もしいです!侑先輩だいすきですぅ~」ギュッ
侑「かすみちゃんは可愛いなぁ……。それにしても、ツインテールのかすみちゃんはいつもとは違ってドキドキしちゃうね」ギュッ
かすみ「そうですかぁ?いつもとは違うかすみんの魅力で、ドキドキさせちゃいますよぉ?って言っても、今日はもう帰るだけですけどね……」
侑「確かに……。もうちょっと今のかすみちゃんを堪能したいけど……あ、そう言えば」
かすみ「ん?どうしました?」
侑「ちょっと前に歩夢と行ったパレットタウンの大観覧車なんだけど、あそこってそろそろ営業終了しちゃうらしいんだよね」
かすみ「え、そうなんですか?知らなかった……」
侑「ちょっと大観覧車だけでも、乗ってみない?」
かすみ「いいですね!侑先輩と二人で観覧車……。これがときめきって奴ですか!!」
侑「それじゃあレッツゴー!」
かすみ「おーっ!」
──パレットタウン・大観覧車乗り口
かすみ「へぇ~……。すごくおっきいですねぇ。カラフルですし、ライトアップもされてて可愛いです!」
侑「だねぇ。これがもうすぐ解体されちゃうって考えると……ちょっと残念だね」
かすみ「でも、思い出は残るじゃないですか。あ、自撮りしましょう侑先輩!青春の一ページです!」
侑「そうだね!じゃあ私が……はいチーズっと!はいもっと可愛く!」パシャッパシャ!!
かすみ「後で送ってくださいね!」
侑「うん!歩夢にも自慢しておこう。かすみちゃんと観覧車なうっと……。そう言えば、ここの観覧車って四台はシースルーになってるそうだよ。ほら、あれとか」
かすみ「しーするー……?って何……わわっ!全面透け透けじゃないですか!!無理無理無理無理!!」
侑「まあ……私たちスカート履いてるしね。私たちの番だったら、後ろの人に先譲ろっか」
かすみ「はい……。でも、心配しなくても良さそうですね。ほら、普通のゴンドラです」
侑「よかったぁ……。じゃ、私先に乗るね。はい、手」サッ
かすみ「あ、ありがとうございます」ギュッ
侑「よおし、無事に乗り込めたし、後は風景を楽しもう!」
かすみ「ですね!そう言えば、侑先輩って高いところ平気なんですか?」
侑「観覧車なら……平気だよ」
かすみ「ふふっ。侑先輩って水たまりから守ってくれたり、ゴンドラに乗る時手を貸してくれたり頼もしいですけど、可愛いところもいっぱいありますよね!」
侑「そうかなぁ……。照れと恥ずかしさが……。って、おぉ、昇ってきたね」
かすみ「あ、本当ですね。わぁ~……。夜のお台場も素敵ですね……」
侑「そうだね……。でももうすぐ、ここからの景色って見えなくなるんだよね」
かすみ「そう、ですね……」チラッ
侑「目に焼き付けておかなきゃ、ね……」ジッ……
かすみ「……」
かすみ(真剣な眼差しでお台場の風景を眺める侑先輩)
かすみ(頼りになるカッコいい時の表情でも、ちょっと頼りにならない可愛い時の表情でもない)
かすみ(憂いを含んだ侑先輩の表情がなんだか……)
かすみ「目に焼き付いちゃったかも、です……」
侑「ん。そうだね」ギュッ
かすみ「あ、手……」ギュッ
かすみ「……そういう、ことかぁ」
かすみ(私が侑先輩を姉妹に思いたくなかったのって……。姉妹じゃなくて……)
かすみ(姉妹では叶えられないことを、私は望んでるんだ……)
かすみ「ワンダーランドは、ここにあったんですね……」
侑「あぁ、確かに……」
かすみ「ふふっ、分かってませんよ侑先輩っ」
侑「え?って、いつの間にか手握っちゃってたね。あはは……」
かすみ「いいんですよ。高いところ、ちょっと苦手なんですよね?」
侑「ま、まぁね?ちょっと、ほんのちょっぴりだけどね」
かすみ「かすみんがずっと握っていてあげますから。安心してくださいっ!」ギュッ
侑「……かすみちゃんも、結構頼もしいよね。かっこいいよ」
かすみ「そうですか?照れますね……」
侑「それじゃあ、もうちょっと景色を堪能しよっか」
かすみ「……はいっ」
侑「……」
侑「いいなぁ、これ……」ギュッ
──部室
侑「た~のも~っ!」ガララッ
かすみ「あ、侑先輩。こんにちは」
侑「やあかすみちゃん。って、今日もツインテールじゃん!似合ってて可愛いYO!」
かすみ「えへへ……そうですか?昨日が忘れられなくって……」
侑「おぉ、テレ顔かすみちゃんの破壊力……ときめ、き……っ!!」
歩夢「あ、今日は侑ちゃんとかすみちゃ……ん?」ガララッ
侑「あ、見て見て歩夢っ!かすみちゃんとおそろ~っ!」ギュッ
かすみ「えへへ……。侑先輩とお揃いですっ!」ニヨニヨ
歩夢「へ、へぇ~……。今日は姉妹コーデなんだね……」ポム…ッ
歩夢「……かすみちゃんは、私の妹だよ!返して侑ちゃん!!」バッ!!
かすみ「わわわっ……」
侑「えぇ!?かすみちゃんはそもそも歩夢の妹じゃないでしょ」
歩夢「だめ!!ほら、かすみ!お姉ちゃんって呼んで!」
かすみ「えあ……。お、お姉ちゃん?」ウルウル…
歩夢「ほら!やっぱりかすみちゃんは私の妹なんだよ!!」
侑「何が妹だよ歩夢っ!返して!!今のツインテかすみちゃんは私の物なんだから!!」
かすみ「……にへへ。なんだかちょっといい気分ですね……」ニヤニヤ
しずく「こんにちは~。って、三人とも何をしてるんですか?」ガララッ
侑「あ、しずくちゃん!って……しずくちゃんが歩夢と同じ髪型してる……」
しずく「あ、えへへ……。ちょっと心境の変化がありまし、て……?」
歩夢「かすみは私の妹だもんね~?」ナデナデ
かすみ「えへへ……。もっとなでなでしてくださ~いっ」ワンワンッ!!
しずく「い、妹……?かすみさんが歩夢さんの……?」モヤモヤ
歩夢「あ、しずくちゃんも私のいもう──」
しずく「もうっ!歩夢さんなんて知りません!侑先輩!!」
侑「あ、うん……わわっ」ギュッ
歩夢「あぁ!?」
しずく「リラックスタイム、です!!」ギュウウウウッ!!
侑「あ、あはは……。よく分かんないけど、安心していいよぉ」ナデナデ…
かすみ「むむ……っ。しず子!!ちょっと離れなよ!!」グイッ
しずく「だめ!かすみさんは歩夢お姉さんと遊べばいいでしょう!?」
かすみ「何言ってんの!?当て擦りみたいなことしない、で……っ!!」ババッ!!
しずく「ぎゃひんっ!」
かすみ「やっぱり私はここに収まるに限りますね……」ギュッ…
侑「わわ……代わる代わる抱きしめる相手が変わっていく……。ま、いっか!」ギュッ
歩夢「むむむ……侑ちゃん。それはちょっと不誠実が過ぎるんじゃないのかな?」ポムポムッ!!
侑「不誠実って言われても……」ナデナデ
歩夢「もういいっ!ほら、しずくちゃん、委員会の私たちは私たちで固まるよ!!」
しずく「あ、はい……。あ、あの、私もお姉ちゃんって呼んでも……?」
歩夢「え?うん。もちろんだよ!歩夢お姉ちゃんだよ!しずく!」
しずく「わぁ~い!お姉ちゃん!」ダキッ
歩夢「よしよし……」
しずく「……えへへ」チラッ
かすみ「むむむっ!?ちょっとしず子!!それに歩夢先輩!!妹はただ一人、かすみんだけの特等席なんですけど!!」バッ
侑「あ……」
しずく「かすみさんはそっちでよろしくしていればいいでしょう!!今は私が妹の時間なの!!ね~?お姉ちゃん!」
歩夢「あはは……困っちゃうね」ナデナデ
かすみ「生意気な妹ができたもんだよ!!そこは私の席だって!!どいてよしず子!!」グググ…
しずく「ど~か~な~い~っ!!それに、どちらかと言うとかすみさんの方が妹だよ!ほら、私のことお姉さまって呼んでよ!!」
かすみ「お姉さま!?何様のつもりしず子!!」
しずく「かすみさんのお姉さまだよ!!」
歩夢「まあまあ、二人とも。二人とも私の可愛い妹たちだよ……?」チラッ
侑「……!」
歩夢「ふふん……」ニヤッ
侑「ぬ、ぬぬぬ……。ちょっと、歩夢。調子に乗りすぎなんじゃないの……?」
歩夢「何のことかな侑ちゃん?私はただ、お姉ちゃんを実行してるだけだよ?」
侑「お姉ちゃんお姉ちゃんって……歩夢は私の幼馴染でしょ!!」
歩夢「……っ!そ、それは……」
侑「歩夢は私の隣にずっといるべきなの!それなのになんでかすみちゃんとしずくちゃんに現を抜かしてるのさ!!」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……。で、でも、侑ちゃんだって悪いんだもん!ほら、かすみちゃんの髪型がお揃いになってたりとか!しずくちゃんのリラックスタイムとか!」
侑「それは……単なるスキンシップだよ……」
歩夢「だめだよ侑ちゃん……っ!他の娘のスキンシップよりも、幼馴染の私とのスキンシップを優先してよ!」
歩夢「同好会と音楽科以外の時間は全部私を優先してよ!それが幼馴染なんじゃないの!?」
侑「歩夢……」
かすみ「がるるる……。いつまでしず子はお姉ちゃんに抱き着いてるの!」ギュッ
しずく「かすみさんこそ離してよ!」ギュッ
かすみ「ぬ、ぬぬぬ……。も、もうっ!しず子ってばその髪型をしたからってお姉ちゃんになったつもり!?」
しずく「そ、そういうことじゃないもん!ただ私は……」
かすみ「私はっ!元のしず子の髪型の方が大好きなんだけどっ!!」
しずく「え……そうなの?」
かすみ「そうだよ!私は元のしず子の髪型の方が大好きなの!!今すぐシニヨン解いてよ!!私のしず子に戻ってよ!!」
しずく「ぐ……なんという破壊力……。で、でも!それを言うならかすみさんだってツインテールにしてるじゃん!!」
かすみ「これは……侑先輩に……」
しずく「かすみさんは髪を束ねないいつもの方が何十倍も可愛いよ!それに、私のプレゼントした髪飾り付けてよ!!私の物って証明にならないでしょう!?」
かすみ「えあ……っ!?そ、そんなこと思ってたの!?」
しずく「しょうがないじゃん!かすみさん可愛いから色んな人が寄ってくるんだもん!ちょっとは私の物って印付けてもいいじゃん!!」
かすみ「しず子……」
侑「歩夢、その……」
歩夢「侑ちゃん、その……」
かすみ「しず子、その……」
しずく「かすみさん、その……」
四人「……むむっ」
侑「ねえっ!かすみちゃんとしずくちゃんさぁ、私のことも見てよ!!」
歩夢「だめだよ!二人は私の物なの!侑ちゃんもだけど!」
かすみ「侑先輩と歩夢先輩こそ!幼馴染だからって独占欲強すぎですよ!かすみんも入れてください!」
しずく「ちょっと!!そこに挟まるのは私だよ!!というか、私を求めて血で血を洗う戦いをするべきですよ!!」
\\☆わーぎゃーどんどんぱふぱふどどんがどん☆//
……
…………
……………………
果林「ふぅ。今日は迷わずに来られたわ」ガララッ
彼方「あ、果林ちゃ~ん。シーっだよ?」
果林「え?あ……」
侑・歩夢・かすみ・しずく「すやぁ……」
エマ「四人とも、仲良くソファで寝ちゃってるんだ~」
彼方「練習しなきゃいけないけど、みんなが揃うまで寝させてあげようってね~」
果林「……全く。仲が良すぎるのも考えものね」フフッ
侑・歩夢・かすみ・しずく「それほどでもぉ……」スヤピ…
おわり
かすみんの誕生日だったので書いたまま放置してたSSを供養するいい機会でした!
やっぱ嫉妬してわーきゃーするのって……いいっすよね……
元スレ
歩夢「も~っ。いつもそうやってからかうんだから……。でも、しずくちゃんとかすみちゃんも仲いいでしょ?」
かすみ「私としず子ですか?そうですかね?」
侑「まぁこういうのって自分では分かんないもんだよね。あ、でも確か、しずくちゃんってかすみちゃん専用の櫛を持ち歩いてるんでしょ?」
しずく「えぇ、そうですね。手櫛で整えるのも限界がありますし、かすみさんの髪の手入れって不思議としたくなっちゃうんですよ」
かすみ「ふっふ~ん。髪の毛だけで人を虜にしちゃうなんて……かすみんは罪な女ですね!」ドヤ
歩夢「……しずくちゃんってオフィーリアの毛並みを整えることも大好きだよね」
侑「あぁ……(納得)」
しずく「ふふっ、そうですね」
侑「……って。あぁ!!忘れてた!!今日って放課後に提出しなきゃいけない音楽科の課題があったんだったっ!!」
歩夢「えぇ!じゃあのんびりしてちゃだめだよ!」
侑「あわわわ……。三人は先に帰ってて!」
しずく「あ……そういえば私も演劇部で少し用事があるんでした。お二人は先に帰って貰っていいですか?」
6: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:44:59.91 ID:vosdGvCv.net
かすみ「え~。今日は四人でお台場で遊ぶ予定だったのにぃ……」ブーブー
歩夢「仕方が無いよ。今日は二人で帰ろ?ね?」
かすみ「ま、歩夢先輩と二人きりってのもたまにはいいですよね!」
歩夢「何その言い方……」ジロッ……
かすみ「あ、いえ……。別に他意はないです。はい……」ビクッ
侑「それじゃあ、ばいば~いっ!」
しずく「お疲れさまでした」ペコッ
8: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:47:25.17 ID:vosdGvCv.net
──校門前
かすみ「そういえば今日って雨降ってたんだった。地面が濡れてる……」
歩夢「ほんとだ。ちょっと注意しないといけないね」
かすみ「大丈夫ですよ!」ダッ
かすみ「……ぐえっ」ツルッ
歩夢「かすみちゃん……だから気を付けてって言ったのに……」ジト……
かすみ「いたた……。そ、そんな目で見ないでくださいよぉ……」
歩夢「って、かすみちゃん、制服が……」
かすみ「え……。ぎゃあああああああ!こ、これ……絶対すぐ落ちない汚れしてますよ!うわあああああ!災難ですぅ……」
歩夢「制服はまだしも、怪我はない?」タタタ…
かすみ「ぐすん……怪我はないですぅ……」
歩夢「そっか……。汚れは早く落とさないと残っちゃうかもしれないし……。着替えはある?」
かすみ「練習で使っちゃったので着替えはないです……ぐすん」
歩夢「じゃあ一先ず、私のジャージを着て。それから私の家で制服洗おうか」
かすみ「え、いいんですか?」
9: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:49:32.98 ID:vosdGvCv.net
歩夢「うん。料理とか手芸以外に、洗濯も得意なんだよ私!」ドヤッ
かすみ「それじゃあ……お願いしますっ!」
歩夢「じゃあブレザー脱いで。うん、下は汚れてないみたいだね」
かすみ「不幸中の幸いですね……」ヌギヌギ
歩夢「じゃあ、これ」スッ
かすみ「うんしょっ……やっぱりおっきいですね……それにあったかい」
かすみ「ていうか、なんだかいい匂いしますね。ちょっと甘い匂いっていうか。洗剤何使ってるんですか?」
歩夢「それも含めて私の家で説明するよ。じゃ、行こうか」
かすみ「はいっ!」
かすみ(そういえば、歩夢先輩の家に行くのって初めてだ……)
かすみ(最悪な気分だったけど、逆によかったかも?怪我の功名って奴?)
10: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:51:39.37 ID:vosdGvCv.net
──上原家
歩夢「それじゃあ洗濯が終わるまで、折角だし私の服着ててよ」
かすみ「わぁ~。やっぱり歩夢先輩の服って可愛いですよね~。さすが可愛い同盟を結んだだけありますよ!」
歩夢「ふふっ。なにそれ」
かすみ「部屋着も可愛いですし……お部屋も可愛いです……」キョロキョロ
歩夢「あ、あんまりじっくり見られると……ちょっと恥ずかしいような。あはは……」
歩夢「じゃあお茶菓子持ってくるからちょっと待っててね」
かすみ「え、いいですよそんなに。洗濯して貰ってるのにそんな……」
歩夢「そう?じゃあ洗濯物の取り込みとか手伝って貰おうかな。それからお茶にしよっか」
かすみ「任せてください!この部屋干ししてるのを取り込めばいいんですね!」
歩夢「うん。服のたたみ方は上原流でお願いね」
かすみ「上原流って何ですか?」
歩夢「えぇとね、Tシャツならこうこうこう……。肌着ならこうこうこう……」スッスッスッ
かすみ「おぉ……。まるで職人技。それにしても……おっきいですねぇ……」ジッ…
歩夢「ブラはあんまり見ないで欲しいな……」
かすみ「えへへ。ごめんなさいっ」
歩夢「じゃあ、取り込んでたたもっか」
かすみ「はいっ!」
11: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 18:53:45.68 ID:vosdGvCv.net
……
…………
かすみ「──私って、一人っ子なんですよ」
歩夢「そうなんだ。そういえばそういう話ってあんまりしないよね」
かすみ「一人っ子ですし、かすみんってこの通り可愛いの塊じゃないですか。自分で言うのもなんですが、かなり甘やかされて育ったと思うんですよね」
歩夢(自分で言うのも可愛い、ではないところがかすみちゃんっぽいなぁ)
かすみ「でも、彼方先輩の姉妹仲とか見ると、お姉ちゃんっていいなぁ、とか思ったりして……」
かすみ「こうやって一緒に服とかたたんでると、なんだか歩夢先輩ってお姉ちゃんっぽいなぁって思ったり……」
歩夢「私がお姉ちゃん?あはは。ちょっと照れるね……」
かすみ「汚れちゃった服を洗濯してくれたりとか、そういうところもなんだか……。って、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃってますね。えへへ……」
歩夢「……」
歩夢「じゃ、じゃあ……試しに呼んでみる?お姉ちゃんって」
かすみ「えぇ?同じ部の先輩をお姉ちゃんって、ハードル高くないですか?」
歩夢「だって……そんなこと言われたら呼ばれたくなっちゃうじゃん。私もかすみちゃんみたいな妹、欲しいなぁ……」チラチラ
12: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 18:55:56.37 ID:vosdGvCv.net
かすみ「うぐっ……」
かすみ「お、お姉ちゃん……。歩夢、お姉ちゃん……?」
歩夢「……!!」
かすみ「あ、あああああああっ!恥ずかしいですよこれっ!二人きりだとなおさら恥ずかしいです!あぁ、暑いなぁ……」パタパタ
歩夢「も、もう一回!」
かすみ「えぇ!嫌ですよぉ!勘弁です!」
歩夢「アンコール!アンコール!スクールアイドルならアンコールには応えるべきだよ!」
かすみ「ぐぬぬ……。こうなったら、今日はずっとお姉ちゃん呼びでいきますからねぇ!」
かすみ「歩夢お姉ちゃんっ!歩夢お姉ちゃんっ!歩夢お姉ちゃ~~~んっ!」
歩夢「……いいっ!これすごくいい!よ~し!じゃあ残りの洗濯物も頑張ろう!」
かすみ「はいっ!」
歩夢「はい、じゃないでしょ。かすみっ」
かすみ「え、うん……歩夢お姉ちゃん……って、歩夢先輩もノリノリですね」
歩夢「お姉ちゃん欲は我慢しちゃいけないって、内なるせつ菜ちゃんが叫んでるんだ」
かすみ「……えぇ?」
歩夢「あ、ごめんね。今は姉妹二人だけの時間だもんね。せつ菜ちゃんは封印しておくね」シュルルルル
かすみ「そ、そうだよぉ……。歩夢お姉ちゃん……」
歩夢「う~ん……いいなぁ、これ」シミジミ
13: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 18:58:01.22 ID:vosdGvCv.net
……
…………
かすみ「お姉ちゃ~ん。クッキー~」
歩夢「はいはい」
かすみ「紅茶も~」
歩夢「はいはい。ちょっと熱いかな?ふぅふぅ……」
かすみ「ふ~っ……」ゴクゴク
かすみ(歩夢先輩の妹になると、膝枕されながら自動で飲食ができるんだ……)
歩夢「あ、これは確かに梳きたくなる髪の毛だね」ナデナデ
かすみ「う~ん……気持ちいいですぅ……」ゴロン
歩夢「ふふっ……。これじゃあ子犬ちゃんってより、子猫ちゃんだね」
かすみ「かすみんは子猫じゃ……あっ、あれって……侑先輩ですか?」
歩夢「あ、この写真?そうだね。ちっちゃい頃の私たちだね」
かすみ「へぇ~……。『ぱ』ってなんですか?」
歩夢「なんだろうね。そういえば、『ぱ』のお洋服を着なくなったのっていつからだっけ」トオイメ
14: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 18:59:38.56 ID:vosdGvCv.net
かすみ「……やっぱり十年以上の付き合い、なんですよね」
歩夢「そうだねぇ……。幼稚園から今までの時間を合計したら、家族と過ごす時間より多いのかも……」
かすみ「……」ギュッ
歩夢「かすみちゃん?」
かすみ「今は!かすみんだけのお姉ちゃんですけどねっ!」
歩夢「……うん。そうだね、かすみ」ヨシヨシ
かすみ(なんだろう、この気持ち……。安心感もあるんだけど、いつ消えてもおかしくないような……雪の結晶みたいな儚さ……)
かすみ(もうちょっとだけ、この時間が続いて欲しいな……)
かすみ「あの、今日って……泊ってもいいですか……?」
歩夢「え……今日?」
かすみ「なんだか今日は泊まりたい気分なんです」
歩夢「……ふふっ。実は私もね、お泊りの提案しようと思ってたんだ」
かすみ「……っ!早速お母さんに連絡します!」バッ
かすみ「あ、お母さん?今日なんだけど──」
15: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:01:17.64 ID:vosdGvCv.net
歩夢「……」
歩夢(もし、もしも……本当にかすみちゃんが私の妹だったら……)
─……─
侑『きょうはぼーるであそぶの!』
かすみ『だめ!おままごとでおひめさまやるんだもん!』
歩夢『けんかしちゃだめだよぉ』
侑『あゆむはどっちのみかたなの!』
かすみ『おねーちゃんはわたしのみかたにきまってるもん!そーだよね!おねーちゃん!』
─……─
歩夢(……なんてね)
かすみ「お母さんからおっけー出ました!わ~い!」
歩夢「ふふっ。今日は楽しくなりそうだね」
かすみ「うんっ!今日はお姉ちゃんを寝かせませんからね!」
16: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:02:50.33 ID:vosdGvCv.net
──次の日・部室
侑「──だからさ、落ちる床を渡っていくって無理らしいんだよね」
歩夢「クソゲーってこと?そうじゃないよ侑ちゃん。クソゲーっていうのはそういう物理法則を無視したとかそういうことじゃなくてね、制作側の──」
侑(変なスイッチ押しちゃったぁ)
かすみ「みんなのアイドル、かすみん参上ですっ!」ガララッ
しずく「今日もお二人が一番ですか。さすがですね」
侑「よ、よかったぁ二人とも。みんなが来るまで一緒にお喋りしようよ!」
しずく「もちろんです!」
かすみ「あ、そう言えばこれ」スッ
歩夢「ん?あ、これって昨日言ってた小物……」
かすみ「はい!お姉ちゃんの部屋にぴったりだと思うんですよこれ!」
歩夢「うん……!これすっごく可愛い!ありがとね!かすみ!」
かすみ「私の部屋に置くより、お姉ちゃんの部屋の方がぴったりですから!」
侑「……お姉ちゃん?」
しずく「……かすみ?」
かすみ「あ、かすみん、歩夢先輩のことお姉ちゃんって呼んでました?」
歩夢「私も呼び捨てにしちゃってた?」
17: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:04:22.88 ID:vosdGvCv.net
侑「え、え……?どういうこと?昨日何かあったの?」
歩夢「うん。昨日はかすみちゃんとお泊りしたんだ」
侑「え!私の部屋の隣でそんな楽しいイベントが!?呼んでよぉ……」
かすみ「ふふん!」
しずく「どうして得意げな顔してるの?」
かすみ「昨晩は姉妹水いらずの空間でしたからね!幼馴染とて、入り込む余地はありませんよぉ!」ドヤッ
かすみ「ね、お姉ちゃん!」ダキッ
歩夢「わわっ……。そうかも、ね?」
侑「……な、なんかモヤモヤする~っ!」ジタバタ
しずく「歩夢さんがお姉さん、ですか……。では侑先輩なら……?」チラッ
侑「ぬわああああああああ!歩夢とかすみちゃんでときめきとモヤモヤが止まらないよぉ!!」グルグル
しずく「……。侑先輩、ちょっといいですか?」
侑「え、なに?廊下に出るの?まぁいいけど」ガラッ
しずく「──なんだか、ちょっと面白くないですね」
侑「歩夢とかすみちゃんのこと?そうだね。確かにちょっと面白くない……」
しずく「侑先輩って歩夢さんのことなら知らないことはないんですよね」
侑「うん……。そのつもり、だったけど……。う~ん、モヤモヤ感が拭えない!私の知らない歩夢をかすみちゃんが知ってるなんて!!」
18: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:05:54.61 ID:vosdGvCv.net
しずく「そうですね……。逆に、私の知らないかすみさんを歩夢さんが知っている……。これはなんだかいただけません」
侑「……なんかあれだね。しずくちゃんって意外、というかやっぱり、独占欲強いよね」
しずく「それはお互い様ですよ。と、いけない。こんなことを話したいわけじゃありません。どうでしょう侑先輩、今日私たちもお泊り会をするというのは」
侑「え、私たちも?」
しずく「はい。それで私たちの仲を二人に見せつけるんですよ!意趣返しって奴です!」
侑「なるほど……。そうだね、ここらで歩夢の大切な幼馴染は高咲侑しかいないって再認識させなきゃ!」
しずく「はい!名付けて『百合営業大作戦』です!」
侑「お~。なんだか燃えてきたよっ!」
しずく「頑張りましょう!お~!」
侑「お~!」
20: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:07:24.19 ID:vosdGvCv.net
──某・銭湯
侑「いや~。それにしても家のお風呂が壊れてたって忘れてたよ~。ごめんねしずくちゃん」
しずく「いえ、あまり銭湯って馴染みが無いので、むしろ新鮮で胸が躍っています!」
侑「そっかそっか。それじゃあさっそく……」ヌギヌギ
しずく「……へぇ」
侑「……ん?しずくちゃんは脱がないの?って、そんな見ないでよ!私が見るならともかく!」
しずく「あ……ご、ごめんなさい。侑先輩って更衣室では見ないので新鮮で……」
侑「あ~、確かに。音楽科とマネージャーの兼ね合いで、私だけジャージに着替える時間違うもんね」
しずく「そういうことです」ヌギヌギ
侑「ふむ……」ジッ……
しずく「あ、あの……見ていた私が言うのもなんですが……」
侑「いやぁ、しずくちゃんの体綺麗だなぁ、って思ってさ」
しずく「そ、そんな……侑先輩の方こそ……」
侑「ま、こんなことしてちゃ風邪引いちゃうよね。さっさと入ろう!」
しずく「あ、はい……」
しずく「……」
しずく(どうしてだろう。侑先輩の裸って、見ちゃいけないような、触れてはいけないような、そんな感じがする……)
21: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:08:57.96 ID:vosdGvCv.net
……
…………
カポ~ン
侑「っぷぇ~。やっぱり露天風呂はいいねぇ~……」ザブ~ン
しずく「そうですねぇ……」ザブ~ン
侑「私たち二人以外いないし、贅沢な使い方しちゃってるよねぇ……」
しずく「ほんとそうです……。あぁ、ゆっくり動く雲の流れを目で追うだけで、なんだか満たされますね……」ボ~……
侑「うん……」ボ~……
しずく「……」
侑「……」
侑「それにしても……」チラッ
しずく「……?」
侑「濡れた髪のしずくちゃんも、ときめいちゃうね……。雫滴るしずくちゃん……?」プププ……
しずく「そうですか?それを言うなら侑先輩だってそうですよ……。髪を下ろすといつもより大人っぽく見えるというか……いや、緩んだ顔は逆に幼く見えるというか……」
侑「えぇ?私はいいよぉ」
しずく「いえ……。侑先輩って、そういう二面性が魅力的だと思うんです。普段は子供のような無垢さを持っているのに、いざとなったら精悍な顔になって行動するという……。言わばアンビバレンツな魅力、というものですかね」
侑「……ぶくぶくぶくぶく」
しずく「ちょ、沈まないでくださいよ!大事なところじゃないですか」
侑「だ、だって……恥ずかしいし……」
22: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:10:32.08 ID:vosdGvCv.net
しずく「侑先輩はいつも、こういうことを私たちに向けて言ってるんですよ?」
侑「だってぇ……。ときめきは止められないんだよぉ……」
しずく「……ふふっ。そういう攻めに弱い点も、私にとっては魅力的に映ってしまいますね」
侑「ぬ……。なんだか先輩として負けてる気がする……」
しずく「いいじゃないですか。いざという時は先輩の威厳を見せてくれるじゃないですか」
侑「ぬぬ……ほ、ほら!」ギュッ
しずく「わわ……」
侑「こういう包容力だって、私にはあるんだからね!」
しずく「ゆ、侑先輩っ。さすがに裸で後ろから抱きしめられるというのは……」
侑「……まぁ、いいじゃん。くっつきながら空を眺めるのも、乙なもんじゃない?ほら、見て見なよ」
しずく「……たしかに、いいかもしれませんね」
24: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:12:03.62 ID:vosdGvCv.net
侑「……」
侑(しずくちゃんを胸に抱いたまま、夜空を眺める)
侑(他のお客さんとか、同好会のみんながいたら絶対にできない。でも……二人きりならできてしまう)
侑(私は……しずくちゃんと肌と肌で触れ合いたかったのかな?だとしたら……)
侑(この気持ちがバレるのは、さすがに恥ずかしいね)
しずく「……なんだか、落ち着きます。人肌って、やはり特別ですね……。それにこの音が……」
侑「……音?」
しずく「あ、いえ……なんでもないです」
侑「そっか……」ボ~……
侑「気持ちいいねぇ……」
しずく「はい……」
26: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:13:35.16 ID:vosdGvCv.net
──高咲家
侑「はい、ホットミルク」スッ
しずく「あ、ありがとうございます」
侑「ごくごく……ふぅ、やっぱ寝る前はホットミルクだねぇ」
しずく「ごくごく……。あ、優しい味……」
侑「でしょ?これは高咲家秘伝の味が脈々と受け継がれているんだよ」ドヤヤッ
しずく「へぇ……。私が自分のために淹れても、こうはならないんだろうなぁ……」
侑「なんか言った?ごくごく」
しずく「あ、いえ別に何も……。そ、そういえば、今日の趣旨って、歩夢さんとかすみさんへの意趣返しって話でしたよね」
侑「あ、そういえばそうだった。すっかり普通にお泊りを楽しんじゃったよ。あはは……」
しずく「ですね。私も今の今まですっかり忘れていました。でも……」
侑「でも?」
しずく「普通にお泊りを楽しむ。これが一番なのかもしれませんね。私としては、もっと侑先輩のことを知りたかったですし……」
侑「あ、それは私もそうだよ。銭湯のしずくちゃんは色っぽかったなぁ、とか」
しずく「色っぽいって……高校一年生に使う表現ですか?」
27: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:15:07.63 ID:vosdGvCv.net
侑「それに、お風呂から上がった後に牛乳を一気飲みするしずくちゃんは……勇ましかったなぁ……」
しずく「あ、あれはその……。フィクション作品によく出てくる豪快な飲みっぷりを体験したくてですね……。いつもはああじゃないんですよ?」
侑「あはは。しずくちゃんってたまに大胆な行動に出るよね。そこが魅力でもあるんだけどさ」
しずく「そ、そうなんですか……?」
侑「うん。こう……なんていうんだろう。突発的な状況になると、不思議なしずくちゃんが顔を出して大胆なことをするっていうか……」
しずく「あぁ、なるほど……。それは……私がアドリブに弱いから招いた結果かもしれません。演劇部なのに恥ずかしいんですけどね」
侑「え、そうなの?」
しずく「はい……。だから突発的な出来事に上手く対応できないんですよね。緊張して変な風に考えてしまって、それで奇妙な行動を取ってしまうというか……」
侑「そこが可愛いところでもあると、私は思うけどなぁ」
しずく「で、でも……役者の演技のアドリブ力とか、アイドルのファンサのアドリブ力とか、そういうのをそつなくこなしたい気持ちもあるんですよ」
侑「あ~、なるほど……。確かにマイクパフォーマンスとかをアドリブでビシッと決められると、かっこいいよねぇ」
しずく「そうなんですよ!侑先輩が可愛いと言ってくださるのは嬉しいんですが、私としては磨きたい部分なんですよ」
28: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:16:38.29 ID:vosdGvCv.net
侑「なるほどねぇ……。あ、ミルクもうないね」
しずく「あ、いつの間に……。もう少し味わいたかったのに……ぐぬぬ」
侑「まあまあ。また次のお泊りの時にでも作ってあげるからさ。じゃ、洗ってくるね」ヒョイッ
しずく「あ……私が洗いますよ!」
侑「いいのいいの。今日は私がホストなんだから」
しずく「……はい」
しずく(次は、私の家に招こう)
しずく「えぇと……」
しずく「侑先輩の、ベッド……」チラッ
しずく「侑先輩の、毎日使ってるベッド……」サワリサワリ……
しずく「……」
しずく(やっぱり、自分のベッドとは違う感触、匂い……)
しずく(でも、旅館のお布団みたいに、ちょっと落ち着かない感じはしない)
しずく(何でだろう。侑先輩のベッドだから、かな……?)
侑「あれ、まだ歯磨きしてないよ?」
しずく「あ、ご、ごめんなさい!」ムクッ!!
しずく(あぁ、もう……。演劇のせいで小道具一つ一つに特別な何かを感じちゃう癖が付いちゃってる……)
29: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:18:10.24 ID:vosdGvCv.net
……
…………
侑「それじゃ、私は布団で寝るから」パチッ
しずく「はい。私だけベッドで申し訳ないですが……」
侑「いーのいーの。ホストだからって言ったでしょ~?人をもてなすって、やってみたかったんだよね~。それじゃ、おやすみ!」パチッ
しずく「はい。おやすみなさい」
侑「ふわぁ……っ」
しずく「あふ……っ」
侑「……」
しずく「……」
侑「ね……しずくちゃん」
しずく「はい……?」
侑「さっき言ってたアドリブの話、だけどさ」
しずく「はい」
侑「露天風呂の時みたいに気持ちが落ち着いてたら、きっと冷静に行動できるよね」
しずく「それは……そうですね」
侑「だから、さ。ちょっと、そっちのベッドにお邪魔しても、いい……?」
しずく「え?それは、別に構いませんけど……」
侑「えへへ。自分から寝る場所を分けようなんて言ってあれだけどさ。ちょっと寂しくなっちゃって……」モゾリモゾリ
30: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:19:41.07 ID:vosdGvCv.net
しずく「あ……二人でちょうどいいくらいの大きさ、ですね」
侑「そうだねぇ……。それにしても、私のベッドにしずくちゃんがいるって不思議な気分。顔もこんなに近いし」
しずく「侑先輩……」ジッ……
侑「しずくちゃん……」ジッ……
しずく(やっぱり、侑先輩ってなんだか不思議な人だ)
しずく(寂しいって理由でベッドに来たけど、こうして私を見つめる瞳は精悍にも見えるし無垢にも見える)
侑「それで、こう、だよね……?」ギュッ
しずく「あ……」
侑「どう?露天風呂の時みたいに夜空は見えないけど、落ち着くかな……?」
しずく「……はい。夜空は見えないけどその代わり……いえ、なんでもありません」
侑「えぇ?露天風呂の時もそんなこと言ってたよね~。気になるなぁ……」
しずく「まぁ、いいじゃないですか。とても……安心できます。今はそれで、いいじゃないですか……」
侑「ま、いっか……。それじゃあ、今日はこのまま寝よっか……」
しずく「はい。おやすみなさい、侑先輩」
侑「うん。おやすみ、しずくちゃん」
しずく「……」
しずく(夜空の星は見えないけれど、今は侑先輩の鼓動がより強く聞こえる)
しずく(それは侑先輩が近くにいる証。緊張より、ずっとここにいたい気持ちの方が勝る)
しずく(ふとした瞬間に眠りそうになる安心感。でも……)
しずく(寝てしまえばこの音は聞けなくなると考えると、勿体ないような気がした)
31: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:22:57.57 ID:vosdGvCv.net
──次の日
侑「あ、あ、ああああああああああああ!作曲が!インスピレーションが!音楽の神が!舞い降りすぎてる!」シュパパパパパパパ!!!!
かすみ「な、なんか今日の侑先輩すごいですね」
歩夢「今日は朝一番からこうだったの。睡眠の質がよかったとかなんとかで……」
かすみ「睡眠の質?それだけでこうなるんですか……?彼方先輩じゃあるまいし……」
かすみ「あ、そういえば今日ってしず子いないんですよね」
歩夢「そうなんだ」
かすみ「次の舞台の稽古で忙しいらしいですね」
歩夢「二足の草鞋かぁ。私にはできなさそうだなぁ……」
かすみ「バイタリティって言うんですかね。そもそもの体力が違う気がします」
しずく「……」ガララッ
かすみ「あれ、しず子?今日は演劇部じゃ──」
しずく「侑先輩!」タッタッタ
侑「んぇ?どうしたのしずくちゃん……ってわわっ」
しずく「……リラックスタイムです」ギュウッ……
侑「……あぁ、なるほど。アドリブのために冷静さを……」ヨシヨシ
32: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:24:31.38 ID:vosdGvCv.net
しずく「……」
しずく「よし、チャージ完了です!ありがとうございました!」ガララッ
侑「うん!演劇部頑張ってね!」フリフリ
歩夢「……リラックスタイム?」
かすみ「……チャージ完了?」
歩夢「え?え?どういうこと?侑ちゃん」
侑「どういうことって……あはっ。秘密だよっ!」
歩夢「え~っ!!秘密って!!そんなのないよぉ!!」
かすみ「なんですかさっきの!!二人だけで分かったような目のやり取りしてたじゃないですかぁ!!」
侑「目のやり取りというか……心の通じ合い、かな?」
かすみ「な、なんですかそれぇ!?」
侑「まあまあ。今はちょっと作曲で忙しいんだ!あぁ!メロディが頭の中で渋滞を起こしてるよ!まずいねぇこれは!!」シュパパパパパパパ!!!!
歩夢「えー!モヤモヤするよぉ!!」
かすみ「い、一体二人の間で何があったって言うんですか……」
34: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:26:03.19 ID:vosdGvCv.net
──早朝・上原家
ピンポ~ンッ
歩夢「んぅ……。誰ぇ……?まだ朝じゃん……」
アユム~!アナタニオキャクサンヨー!
歩夢「んぁ……?誰ぇ?うぅ~ん……」
しずく「おはようございます歩夢さん!」ガチャ
歩夢「ふぇ……?」
しずく「ふむふむ。寝ぼけまなこをこすりこすり、と……。淡い桜色のパジャマを着ていて若干着崩れている、と。若干の背徳感も覚える、と……」カキカキ
歩夢「し、しずくちゃん……?なんでここに……あ」
しずく「忘れちゃったんですか?今日は朝から晩まで歩夢さんに密着取材するって言ったじゃないですか」
歩夢「そう言えばそうだった……」ホワワ~ン
──…──
しずく『あの、歩夢さん。明日一日、歩夢さんに密着取材してもいいですか?』
歩夢『え、密着取材?何のために……?」キョトン
しずく『歩夢さんって、素で可愛らしいじゃないですか。飾らない可愛さというか、純粋培養の可愛さというか。その可愛さの秘訣は何なのか、役者として知りたくなったんです!』
歩夢『えぇ?そう言って貰えるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいなぁ……』
しずく『お願いします歩夢さん!』ペコッ
歩夢『わわっ。頭上げてよぉ……。分かった!分かったからっ!』
しずく『ありがとうございますっ!では、明日の早朝うかがいますね!』タッタッタ!!
──…──
35: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:26:30.63 ID:vosdGvCv.net
しずく「と、言う訳で、今日は一日中ずっと歩夢さんに着いて行きますから!」
歩夢「一日中……。でも授業中とかはできないし、昼休みくらい?」
しずく「そこは問題ありません!璃奈さん謹製の発明品があるんです」
しずく「ホログラムで教室の私は誤魔化せますし、光学迷彩機能搭載外套を着れば、透明人間と同様の効果がありますし、問題はありません!」
歩夢「……それは、いいのかなぁ?」
しずく「いいんです!」
歩夢「まあ、いっかぁ……」
36: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:27:34.33 ID:vosdGvCv.net
──通学路・バス
歩夢「──それで、どうしてその……可愛さ?の秘訣を知りたいと思ったの?」
しずく「はい。有り体に言えば役者、スクールアイドルの両方に応用できると感じたからですね。私ってキュート系……ではないと思うので、そっちも鍛えたいなぁ、と思いまして」
歩夢「なるほど……。でも可愛さって言うと、かすみちゃんの方がいいんじゃない?」
しずく「かすみさんも可愛い系ではありますが、私の求める可愛さとはベクトルが違うんですよ」
歩夢「というと?」
しずく「えぇと……かすみさんのは自分からアピールする可愛さなんですが、歩夢さんのは普段の振る舞いから滲むような、愛嬌寄りの可愛さだと思うんですよ」
歩夢「愛嬌……」
しずく「愛嬌って会得しようとして得られるものではないと思うんですが、だからこそ研究のしがいがあると思うんです!」
歩夢「いやぁ……期待に応えられるかなぁ……。あ、バス着いたよ」スッ
しずく「あ、はい」スッ
歩夢「──ありがとうございました」ペコッ
しずく「ありがとうございました」
しずく(運転手さんの目を見て、さらに一度礼をして感謝を告げる、と……丁寧だなぁ)カキカキ
37: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:29:06.00 ID:vosdGvCv.net
──教室
歩夢「おはよ~」
生徒A「あ、おはよ~」
生徒B「おっは~」
歩夢「あ、そのシュシュ可愛いっ!どこで買ったの?」
生徒A「気づいちゃった?これはね~」
光学迷彩外套着用済み・しずく(ふむふむ。クラスメイトの小さな変化に気づく、と)
……
…………
歩夢「……」カキカキ
しずく(当たり前だけど、授業は真面目だなぁ……。姿勢も上から糸で吊ってるみたいにピンとしてるし、机に突っ伏して寝ることもない)
歩夢「……あ」ブルル
しずく(ん?スマホの通知?誰からだろう……って見ちゃだめだけど……侑先輩だ)
侑『ミアちゃんの演奏が子守歌すぎる』
歩夢「……ふふっ」
歩夢『頑張って起きてっ!お昼までもうひと頑張りだよ!』
先生「上原さん?授業中にスマートフォンは控えてください」
歩夢「あ、す、すみませんっ!」
しずく(……さっきまで微笑んでたのに、今度は恥ずかしそうに頬を紅潮させてる)
しずく(表情がコロコロ変わって……これは……)
しずく(可愛いというより、可愛らしい。やっぱり愛嬌たっぷりだなぁ……)
38: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:30:36.59 ID:vosdGvCv.net
──学園内中庭
歩夢「──じゃあ、ここでお弁当にしよっか」
しずく「はいっ。そう言えば、歩夢さんと二人で昼食って初めてですよね」
歩夢「そうだね。だから今日はちょっと気合入れてお弁当作っちゃった」
しずく「私の分まですみません。でも、今日一日中ずっと楽しみでしたっ!」ワクワク
歩夢「あはは。お弁当にはちょっと自信あるよっ!はい、これしずくちゃんの」スッ
しずく「ありがとうございます」パカッ
しずく「わぁ~彩りが豊かで美味しそうですね~」
歩夢「やっぱり見た目も気にしないと!それに、冷めても美味しいものを入れてるんだ。食べてみてっ」
しずく「はいっ。もぐもぐ……。あ、すごく美味しいです!」
歩夢「ふふっ。ありがとうっ」
しずく「なんていうか……安心する味ですね。素朴な美味しさ、というか……。ああいえ、勿論悪い意味じゃないですよ?歩夢さんらしい味と言いますか」
歩夢「大丈夫、嬉しいよ!真心系スクールアイドルだからね、素朴な魅力って言って貰えるのは嬉しいっ」
しずく「真心系……」モグモグ
歩夢「食べ終わったらフルーツもあるよ。だからゆっくり食べてね」
39: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:32:08.12 ID:vosdGvCv.net
しずく「はい……」
しずく(今日、朝から昼までずっと歩夢さんを見てきた。歩夢さんの可愛らしさ、愛嬌の秘密が知りたくて……)
しずく(蓋を開けて見れば、何の変哲も無かった。歩夢さんはただ歩夢さんなだけだった)
しずく(歩夢さんを演じることはできても、歩夢さんになることはできない。つまり……歩夢さんの可愛らしさを会得することはほぼ不可能、と言えるかもしれない)
歩夢「なんだか難しそうな顔してるね。今はお弁当のことだけ考えよう?」
しずく「あ……すみません。折角のお弁当なのに」
歩夢「……ね、しずくちゃん。しずくちゃんは私の可愛さの秘訣について知りたいんだよね?」
しずく「あ、はい。ですがそれはもう……」
歩夢「私は意識して可愛くなろう、とかは考えてないけど……私を見てくれた人が、少しでも笑顔になってくれたらいいな、って気持ちでスクールアイドルをしてるんだ」
歩夢「ランジュちゃんみたいな、ファンのみんなを圧倒できるようなライブはできないし、果林さんみたいなダンスとセクシーさで魅了できるようなライブも私にはできない」
歩夢「でもだからこそ、私には、上原歩夢にしかできないライブがあるって……そう信じてる」
しずく「歩夢さん……」
歩夢「ふふっ。私を見て、私から盗みたい物があるって聞いて、ちょっと嬉しかったんだ。私のライブが、ライバルでもあるしずくちゃんにも届いてたんだって分かったから」
しずく「……」
41: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:33:39.24 ID:vosdGvCv.net
歩夢「だから……今度はしずくちゃんのことを教えて?」
しずく「え……?」
歩夢「しずくちゃんにはしずくちゃんのライブがあるよね?私もしずくちゃんの魅力を盗んで、もっともっと自分を磨きたいんだっ!」
しずく「……あはは。歩夢さん、歩夢さんって本当に歩夢さんですよね!」
歩夢「なにそれ……ふふっ」
しずく「歩夢さんから盗める物はないって、半ば諦めかけてましたけど、歩夢さんが魅力を感じる桜坂しずくなら、できるような気がしてきました!」
歩夢「うん!その意気だよしずくちゃん!」
歩夢「あ、そうだっ!ちょっとお弁当に蓋するね?」パコッ
しずく「え、はい……。って髪の毛をいじるんですか?」
歩夢「うんっ。まずは形からってことで……」ワシャワシャ
しずく「……うぅ、くすぐったいですねぇ」モゾモゾ
歩夢「……これで終わりっと!はい、鏡見て見て!」スッ
しずく「あ……歩夢さんと同じシニヨン……」
歩夢「これでしずくちゃんも歩夢モードだよっ!しずくちゃんのリボンで結ってるから、しずくちゃんらしさが出てて可愛い!」
しずく「……」サワリサワリ…
しずく「ふふっ。まずは形から、ですね!歩夢さんの全て、盗んでみせます!」
歩夢「私も負けないよ?」
しずく「それじゃあまずは、歩夢さんのお弁当を堪能するところからですね!もぐもぐ!」
歩夢「ゆっくり食べてねっ」
42: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:35:13.89 ID:vosdGvCv.net
──カラオケ某店
歩夢「さ、放課後はカラオケだよ!」
しずく「カラオケ、ですか。歌の練習ですか?」
歩夢「うぅん。今日はね、叫ぶためにカラオケに来たんだ」
しずく「叫ぶため……?」
歩夢「ちょっと恥ずかしいけど……しずくちゃんは取材熱心だから見せてあげるね」
しずく「はい。ありがとうございます?」
歩夢「マイクの音量はこれくらい……エコーはこれくらい……っと……」
歩夢「よおし……スゥゥゥゥ……」
しずく(思い切り息を吸い込んで……)
歩夢「……ッ」ギンッ
しずく(開眼した……っ!)
歩夢「あんまり頼りにしないでえええええええええええええええええええ!!!!」
しずく「!!!!」キーン…
歩夢「なんでもかんでも値上がりし過ぎだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
しずく「!?!?」キーン…
歩夢「侑ちゃあああああああああああああああああああああん!!!!」
しずく「!?!?!?!?!?!?!?」キーン…
歩夢「……ふぅ。どうかな、しずくちゃん」
しずく「え、え……。どうって……え?」キーン…
43: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:37:01.83 ID:vosdGvCv.net
歩夢「ここのカラオケ屋さんってね、人があんまりいないの。だから人の目を気にせず思いっきり叫べる場所なんだ」
しずく「はぁ……なるほど」
歩夢「私って……気持ちを溜めこみやすいタイプらしくて、たまにここに来て発散させてるんだ」
しずく「あ……なるほど。さっきのはそういう……」
しずく(人当たりのいい歩夢さんだけど、不満とか不安とか……。そういうのを感じるのは当たり前だよね)
しずく(人の見えないところで、たった一人で内々に処理する、と……。なんだか歩夢さんっぽいな。メモメモ、っと)カキカキ
歩夢「えへへ……。今のって何かメモするところあったかな……。さすがに叫んだ内容を書かれるのは恥ずかしいって言うか……」ポリポリ
しずく「あ、いえっ。歩夢さんの在り方と言いますか、人間性の部分を記録しているだけなのでお気になさらずっ!」カキカキ
歩夢「そう?よく分からないけどよかったぁ」
しずく「ち、ちなみに、聞いていいか分からないんですが、最後の侑ちゃあああん、というのは……?」
歩夢「あ~……。えぇと……」
しずく「あ、言いたくないのであれば全然──」
歩夢「いや、あのね……?侑ちゃんは音楽科に行って自分の夢を追いかけて。私はスクールアイドルとして夢を追いかけて……」
歩夢「今の私たちって、夢を追いかける同士、互いの存在を励みにしよう、みたいな感じの関係なんだけど、それでもやっぱり寂しい時もあってね」
歩夢「侑ちゃんの部屋に行ったりとか、同好会の活動だけじゃ埋められない寂しさ?みたいな物を叫んだんだ。うぅ……言ってて恥ずかしいよぉ……」
しずく「な、なるほど……」
44: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:38:35.18 ID:vosdGvCv.net
歩夢「……しずくちゃんもさ、あるんじゃない?」
しずく「え」
歩夢「私としずくちゃんってね、ちょっと似てると思うんだ」
しずく「私と歩夢さんが、ですか?」
歩夢「うん。たぶんしずくちゃんも、一人で悩みを抱え込んで、それを独りで解決しようとしちゃうタイプでしょ?それで、言いたいことをため込んで……いつか爆発しちゃう、みたいな」
しずく「あぁ……。少し覚えがありますね。確かに私と歩夢さんって似た者同士かもしれません……」
歩夢「でしょ?じゃあ、ほらっ!」グイッ
しずく「わ、私にも叫べ、と……?」
歩夢「そうだよっ!って……これってパワハラ?になっちゃうのかな?」
しずく「……い、いえ!折角の機会です!僭越ながら桜坂しずく、叫ばせていただきますっ!」
しずく(歩夢さんはここまで自分を私にさらけ出してくれたんだ!私もその思いに応えたいっ!)
しずく「ふぅ……。って、何を叫べばいいんでしょうか」
歩夢「頭に浮かんだネガティブなこととか叫べばいいと思うよ。普通は言えないけど、ここなら何でも叫んでいいんだよ!」
45: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:40:06.21 ID:vosdGvCv.net
しずく「……了解です。では……。スゥゥゥゥゥ……」
しずく「実は!!!!演劇も!!!!スクールアイドルも!!!!」
しずく「どっちも中途半端に終わるんじゃないかって!!!!」
しずく「すごおおおおおおおおおおくしんぱあああああああああああああい!!!!」
しずく「あんまり優等生とか!!!!真面目だとか!!!!清楚だとか!!!!」
しずく「押し付けないで欲しいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
しずく「はぁ、はぁ……ど、どうでしょか……?」
歩夢「……っ」グッ!!
しずく「歩夢さん……!」
歩夢「最高だったよ!しずくちゃんのシャウト、胸に響いたよ!せつ菜ちゃんにも負けないくらいだった!」
しずく「ありがとうございます!これは……アレですね、歩夢さん」
歩夢「アレ?」
しずく「『もっと素直になりたいよ委員会』の発足です!!」
歩夢「もっと素直になりたいよ委員会……っ!?あはっ、私たちにぴったりだね!」
しずく「ですよね!なんだか歩夢さんと秘密を共有できて、すごく嬉しいです!」
歩夢「私もだよしずくちゃん!じゃあ今日、ここだけはっ!全力で素直になるよ!次は私の番!」
しずく「はい!お願いします──」
47: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:41:40.46 ID:vosdGvCv.net
……
…………
歩夢「喉を傷めないように発声したつもり、だけど……けほっ」
しずく「ちょ、ちょっと興が乗りすぎましたね……けほっ」
歩夢「あはは……。あんまりこういう悩みって共有できないから、ちょっと調子に乗っちゃったっ」
しずく「私もです……あはは」
店員「お会計はこちらとなっています」
歩夢「じゃあここは私が出すね。先輩だし」
しずく「え!私が出しますよ!今日は一日中私に付き合って貰ったんですから」
歩夢「じゃあ割り勘でいっか。同じもっと素直になりたいよ委員会の仲間だもんね」
しずく「ですね!」
店員「ふふっ……」
歩夢「あ、すみません手間取っちゃって……」
店員「あぁいえ……。髪型も相まって、とても仲のいい姉妹みたいだなって思いまして。すみません」
しずく「姉妹?私と歩夢さんが?」
歩夢「あはは。確かに。今のしずくちゃんは私と同じ髪型だもんね」
しずく「それは……なんだか嬉しいですね……」
店員「ではこちらをお預かりします。こちらがお釣りとなります。またのご来店をお待ちしております」
48: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:43:11.15 ID:vosdGvCv.net
歩夢「じゃあ帰ろうか、しずくちゃん」
しずく「あ、はいっ!今日は一日、本当にありがとうございました!とても有意義な一日でした!」
歩夢「そう?よかったぁ。私も今日は楽しかったし……二人目の妹ができて嬉しかったな」
しずく「私も楽しかったで……って、二人目?一人目って……あ、かすみさんですか?」
歩夢「あは。どうかな?」
しずく「え、何ではぐらかすんですか!歩夢さん!」
歩夢「まあまあ。早く行かないと電車の時間になっちゃうよ!」
しずく「えぇ?分かりましたけど……」
歩夢(思い返せば、私としずくちゃんって似てるけど、たぶんそれって侑ちゃんとかすみちゃんにも言えると思うんだよね)
歩夢(私と侑ちゃん。しずくちゃんとかすみちゃん……。同じような苦労と悩みを共有できる仲間として、しずくちゃんとはもっと仲良くなりたいな……)
歩夢「しずくちゃん」
しずく「何ですか?一人目の妹を教えてくれるんですか?」
歩夢「私たち、頑張ろうね」
しずく「……?はい。分かりました?って、どういうことですか?」
歩夢「スクールアイドルも演劇部も、その他も頑張ろうってことだよ!」
しずく「なるほど。はいっ!一緒に頑張りましょう!」
49: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:44:42.58 ID:vosdGvCv.net
──部室
かすみ「んぁあ……もうコッペパン作れないですよぉ……」ムニャムニャ…
侑「忘れ物しちゃった……」ガララッ
かすみ「んみゅ……」
侑「って、かすみちゃん?何で放課後の部室で寝てるの……?起こした方がいいよね?かすみちゃ~ん?朝だよ起きて~?」
かすみ「……ふぇ。あ、侑せんぱ~い……。おごはざよいうます……」
侑「おはよう、と、ございますが一字ずつ互い違いになってるよ……。もう放課後だよ?帰ろう?」
かすみ「え……あ、かすみん寝ちゃってたんだ……」
侑「どうしてここで寝てたの?今日って同好会の活動休みじゃん」
かすみ「あ~……忘れ物を取りに来たらつい……。昨日はちょっと夜更かししちゃって……それに、ここのソファって寝心地いいんですよね」
侑「そっかぁ。ならまぁしょうがないね。私もちょっと忘れ物を、と……。よし、じゃあ帰ろうか」ヒョイッ
かすみ「あ、はいっ。侑先輩と二人きりで帰るって、テンション上がっちゃいますねぇ」ルンルン
侑「だね!って……かすみちゃん、寝ぐせが……」
かすみ「え……?」サワリサワリ
50: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:46:13.54 ID:vosdGvCv.net
侑「はい鏡」スッ
かすみ「……ぎゃああああああああ!!こんな寝ぐせじゃ外に出られませんよ!!直さなきゃ……」ペタペタ…
かすみ「……」ビョイ~ン…
かすみ「な、直りません……。今日は部室で寝泊まりするしかないですかね……あはは」ズ~ン…
侑「いやいやっ!諦めるの早すぎるよ!ほら、ちょっと髪の毛いじるからね」
かすみ「えあっ、はい……」
侑「これをこうして……ついでにここを巻き込んでっと……はい、出来上がり!鏡見てごらん?」サッサッ
かすみ「……あ、侑先輩と同じツインテールになってる。可愛い……」
侑「髪を結べば寝ぐせもそんなに気にならないでしょ?それに、ツインテールのかすみちゃんも可愛いYO!」
かすみ「そ、そうですかぁ?いやぁ、どんな髪型も似合っちゃって困っちゃいますよぉっ!」
侑「二人並んだら姉妹に見えちゃうかもね?」
かすみ「確かに姉妹に──」
かすみ「は、見えないですね……え?」
かすみ(なんで私、姉妹ってことを否定して……)
侑「まあ髪色からして違うもんね。それじゃあ帰ろっか!」ガララッ
かすみ「あ、はい……!」タッタッタ…
51: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:47:44.81 ID:vosdGvCv.net
──帰り道
侑「そう言えば、昨日はどうして夜更かししてたの?」
かすみ「昨日は他のスクールアイドルの研究をしてたんですよ!敵を知り、己を知ればうんたらかんたらって言うじゃないですか!」
侑「お~。研究熱心だね。さすが部長」
かすみ「ふっふ~ん♪もっと褒めてくれてもいいんですよぉ?」
侑「よしよし……あ、ちょっと止まって」
かすみ「へ?はい」
🚙ブゥゥウウウン!!💧💧💧ビシャアアアッッ!!
侑「見えにくいけど水たまりあったからさ。大丈夫?濡れてない?」
かすみ「あ、はい。ありがとうございます。それにしても、よく見えましたね」
侑「かすみちゃんが部長なように、私はみんなのマネージャーだからね。アイドルの身辺の警護をするのは当然だよ!」
かすみ「解答になってないですけど……頼もしいです!侑先輩だいすきですぅ~」ギュッ
侑「かすみちゃんは可愛いなぁ……。それにしても、ツインテールのかすみちゃんはいつもとは違ってドキドキしちゃうね」ギュッ
かすみ「そうですかぁ?いつもとは違うかすみんの魅力で、ドキドキさせちゃいますよぉ?って言っても、今日はもう帰るだけですけどね……」
侑「確かに……。もうちょっと今のかすみちゃんを堪能したいけど……あ、そう言えば」
かすみ「ん?どうしました?」
侑「ちょっと前に歩夢と行ったパレットタウンの大観覧車なんだけど、あそこってそろそろ営業終了しちゃうらしいんだよね」
かすみ「え、そうなんですか?知らなかった……」
侑「ちょっと大観覧車だけでも、乗ってみない?」
かすみ「いいですね!侑先輩と二人で観覧車……。これがときめきって奴ですか!!」
侑「それじゃあレッツゴー!」
かすみ「おーっ!」
52: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:49:16.50 ID:vosdGvCv.net
──パレットタウン・大観覧車乗り口
かすみ「へぇ~……。すごくおっきいですねぇ。カラフルですし、ライトアップもされてて可愛いです!」
侑「だねぇ。これがもうすぐ解体されちゃうって考えると……ちょっと残念だね」
かすみ「でも、思い出は残るじゃないですか。あ、自撮りしましょう侑先輩!青春の一ページです!」
侑「そうだね!じゃあ私が……はいチーズっと!はいもっと可愛く!」パシャッパシャ!!
かすみ「後で送ってくださいね!」
侑「うん!歩夢にも自慢しておこう。かすみちゃんと観覧車なうっと……。そう言えば、ここの観覧車って四台はシースルーになってるそうだよ。ほら、あれとか」
かすみ「しーするー……?って何……わわっ!全面透け透けじゃないですか!!無理無理無理無理!!」
侑「まあ……私たちスカート履いてるしね。私たちの番だったら、後ろの人に先譲ろっか」
かすみ「はい……。でも、心配しなくても良さそうですね。ほら、普通のゴンドラです」
侑「よかったぁ……。じゃ、私先に乗るね。はい、手」サッ
かすみ「あ、ありがとうございます」ギュッ
侑「よおし、無事に乗り込めたし、後は風景を楽しもう!」
かすみ「ですね!そう言えば、侑先輩って高いところ平気なんですか?」
侑「観覧車なら……平気だよ」
かすみ「ふふっ。侑先輩って水たまりから守ってくれたり、ゴンドラに乗る時手を貸してくれたり頼もしいですけど、可愛いところもいっぱいありますよね!」
53: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:50:48.14 ID:vosdGvCv.net
侑「そうかなぁ……。照れと恥ずかしさが……。って、おぉ、昇ってきたね」
かすみ「あ、本当ですね。わぁ~……。夜のお台場も素敵ですね……」
侑「そうだね……。でももうすぐ、ここからの景色って見えなくなるんだよね」
かすみ「そう、ですね……」チラッ
侑「目に焼き付けておかなきゃ、ね……」ジッ……
かすみ「……」
かすみ(真剣な眼差しでお台場の風景を眺める侑先輩)
かすみ(頼りになるカッコいい時の表情でも、ちょっと頼りにならない可愛い時の表情でもない)
かすみ(憂いを含んだ侑先輩の表情がなんだか……)
かすみ「目に焼き付いちゃったかも、です……」
侑「ん。そうだね」ギュッ
かすみ「あ、手……」ギュッ
54: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:52:19.04 ID:vosdGvCv.net
かすみ「……そういう、ことかぁ」
かすみ(私が侑先輩を姉妹に思いたくなかったのって……。姉妹じゃなくて……)
かすみ(姉妹では叶えられないことを、私は望んでるんだ……)
かすみ「ワンダーランドは、ここにあったんですね……」
侑「あぁ、確かに……」
かすみ「ふふっ、分かってませんよ侑先輩っ」
侑「え?って、いつの間にか手握っちゃってたね。あはは……」
かすみ「いいんですよ。高いところ、ちょっと苦手なんですよね?」
侑「ま、まぁね?ちょっと、ほんのちょっぴりだけどね」
かすみ「かすみんがずっと握っていてあげますから。安心してくださいっ!」ギュッ
侑「……かすみちゃんも、結構頼もしいよね。かっこいいよ」
かすみ「そうですか?照れますね……」
侑「それじゃあ、もうちょっと景色を堪能しよっか」
かすみ「……はいっ」
侑「……」
侑「いいなぁ、これ……」ギュッ
55: 名無しで叶える物語 2023/01/23(月) 19:53:50.83 ID:vosdGvCv.net
──部室
侑「た~のも~っ!」ガララッ
かすみ「あ、侑先輩。こんにちは」
侑「やあかすみちゃん。って、今日もツインテールじゃん!似合ってて可愛いYO!」
かすみ「えへへ……そうですか?昨日が忘れられなくって……」
侑「おぉ、テレ顔かすみちゃんの破壊力……ときめ、き……っ!!」
歩夢「あ、今日は侑ちゃんとかすみちゃ……ん?」ガララッ
侑「あ、見て見て歩夢っ!かすみちゃんとおそろ~っ!」ギュッ
かすみ「えへへ……。侑先輩とお揃いですっ!」ニヨニヨ
歩夢「へ、へぇ~……。今日は姉妹コーデなんだね……」ポム…ッ
歩夢「……かすみちゃんは、私の妹だよ!返して侑ちゃん!!」バッ!!
かすみ「わわわっ……」
侑「えぇ!?かすみちゃんはそもそも歩夢の妹じゃないでしょ」
歩夢「だめ!!ほら、かすみ!お姉ちゃんって呼んで!」
かすみ「えあ……。お、お姉ちゃん?」ウルウル…
歩夢「ほら!やっぱりかすみちゃんは私の妹なんだよ!!」
侑「何が妹だよ歩夢っ!返して!!今のツインテかすみちゃんは私の物なんだから!!」
かすみ「……にへへ。なんだかちょっといい気分ですね……」ニヤニヤ
56: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 19:55:22.83 ID:vosdGvCv.net
しずく「こんにちは~。って、三人とも何をしてるんですか?」ガララッ
侑「あ、しずくちゃん!って……しずくちゃんが歩夢と同じ髪型してる……」
しずく「あ、えへへ……。ちょっと心境の変化がありまし、て……?」
歩夢「かすみは私の妹だもんね~?」ナデナデ
かすみ「えへへ……。もっとなでなでしてくださ~いっ」ワンワンッ!!
しずく「い、妹……?かすみさんが歩夢さんの……?」モヤモヤ
歩夢「あ、しずくちゃんも私のいもう──」
しずく「もうっ!歩夢さんなんて知りません!侑先輩!!」
侑「あ、うん……わわっ」ギュッ
歩夢「あぁ!?」
しずく「リラックスタイム、です!!」ギュウウウウッ!!
侑「あ、あはは……。よく分かんないけど、安心していいよぉ」ナデナデ…
かすみ「むむ……っ。しず子!!ちょっと離れなよ!!」グイッ
しずく「だめ!かすみさんは歩夢お姉さんと遊べばいいでしょう!?」
かすみ「何言ってんの!?当て擦りみたいなことしない、で……っ!!」ババッ!!
しずく「ぎゃひんっ!」
かすみ「やっぱり私はここに収まるに限りますね……」ギュッ…
侑「わわ……代わる代わる抱きしめる相手が変わっていく……。ま、いっか!」ギュッ
57: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 19:56:53.72 ID:vosdGvCv.net
歩夢「むむむ……侑ちゃん。それはちょっと不誠実が過ぎるんじゃないのかな?」ポムポムッ!!
侑「不誠実って言われても……」ナデナデ
歩夢「もういいっ!ほら、しずくちゃん、委員会の私たちは私たちで固まるよ!!」
しずく「あ、はい……。あ、あの、私もお姉ちゃんって呼んでも……?」
歩夢「え?うん。もちろんだよ!歩夢お姉ちゃんだよ!しずく!」
しずく「わぁ~い!お姉ちゃん!」ダキッ
歩夢「よしよし……」
しずく「……えへへ」チラッ
かすみ「むむむっ!?ちょっとしず子!!それに歩夢先輩!!妹はただ一人、かすみんだけの特等席なんですけど!!」バッ
侑「あ……」
しずく「かすみさんはそっちでよろしくしていればいいでしょう!!今は私が妹の時間なの!!ね~?お姉ちゃん!」
歩夢「あはは……困っちゃうね」ナデナデ
かすみ「生意気な妹ができたもんだよ!!そこは私の席だって!!どいてよしず子!!」グググ…
しずく「ど~か~な~い~っ!!それに、どちらかと言うとかすみさんの方が妹だよ!ほら、私のことお姉さまって呼んでよ!!」
かすみ「お姉さま!?何様のつもりしず子!!」
しずく「かすみさんのお姉さまだよ!!」
58: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 19:58:24.70 ID:vosdGvCv.net
歩夢「まあまあ、二人とも。二人とも私の可愛い妹たちだよ……?」チラッ
侑「……!」
歩夢「ふふん……」ニヤッ
侑「ぬ、ぬぬぬ……。ちょっと、歩夢。調子に乗りすぎなんじゃないの……?」
歩夢「何のことかな侑ちゃん?私はただ、お姉ちゃんを実行してるだけだよ?」
侑「お姉ちゃんお姉ちゃんって……歩夢は私の幼馴染でしょ!!」
歩夢「……っ!そ、それは……」
侑「歩夢は私の隣にずっといるべきなの!それなのになんでかすみちゃんとしずくちゃんに現を抜かしてるのさ!!」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……。で、でも、侑ちゃんだって悪いんだもん!ほら、かすみちゃんの髪型がお揃いになってたりとか!しずくちゃんのリラックスタイムとか!」
侑「それは……単なるスキンシップだよ……」
歩夢「だめだよ侑ちゃん……っ!他の娘のスキンシップよりも、幼馴染の私とのスキンシップを優先してよ!」
歩夢「同好会と音楽科以外の時間は全部私を優先してよ!それが幼馴染なんじゃないの!?」
侑「歩夢……」
59: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 19:59:55.88 ID:vosdGvCv.net
かすみ「がるるる……。いつまでしず子はお姉ちゃんに抱き着いてるの!」ギュッ
しずく「かすみさんこそ離してよ!」ギュッ
かすみ「ぬ、ぬぬぬ……。も、もうっ!しず子ってばその髪型をしたからってお姉ちゃんになったつもり!?」
しずく「そ、そういうことじゃないもん!ただ私は……」
かすみ「私はっ!元のしず子の髪型の方が大好きなんだけどっ!!」
しずく「え……そうなの?」
かすみ「そうだよ!私は元のしず子の髪型の方が大好きなの!!今すぐシニヨン解いてよ!!私のしず子に戻ってよ!!」
しずく「ぐ……なんという破壊力……。で、でも!それを言うならかすみさんだってツインテールにしてるじゃん!!」
かすみ「これは……侑先輩に……」
しずく「かすみさんは髪を束ねないいつもの方が何十倍も可愛いよ!それに、私のプレゼントした髪飾り付けてよ!!私の物って証明にならないでしょう!?」
かすみ「えあ……っ!?そ、そんなこと思ってたの!?」
しずく「しょうがないじゃん!かすみさん可愛いから色んな人が寄ってくるんだもん!ちょっとは私の物って印付けてもいいじゃん!!」
かすみ「しず子……」
60: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 20:01:28.48 ID:vosdGvCv.net
侑「歩夢、その……」
歩夢「侑ちゃん、その……」
かすみ「しず子、その……」
しずく「かすみさん、その……」
四人「……むむっ」
侑「ねえっ!かすみちゃんとしずくちゃんさぁ、私のことも見てよ!!」
歩夢「だめだよ!二人は私の物なの!侑ちゃんもだけど!」
かすみ「侑先輩と歩夢先輩こそ!幼馴染だからって独占欲強すぎですよ!かすみんも入れてください!」
しずく「ちょっと!!そこに挟まるのは私だよ!!というか、私を求めて血で血を洗う戦いをするべきですよ!!」
\\☆わーぎゃーどんどんぱふぱふどどんがどん☆//
61: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 20:03:02.01 ID:vosdGvCv.net
……
…………
……………………
果林「ふぅ。今日は迷わずに来られたわ」ガララッ
彼方「あ、果林ちゃ~ん。シーっだよ?」
果林「え?あ……」
侑・歩夢・かすみ・しずく「すやぁ……」
エマ「四人とも、仲良くソファで寝ちゃってるんだ~」
彼方「練習しなきゃいけないけど、みんなが揃うまで寝させてあげようってね~」
果林「……全く。仲が良すぎるのも考えものね」フフッ
侑・歩夢・かすみ・しずく「それほどでもぉ……」スヤピ…
おわり
62: 名無しで叶える物語(もも) 2023/01/23(月) 20:04:50.20 ID:vosdGvCv.net
かすみんの誕生日だったので書いたまま放置してたSSを供養するいい機会でした!
やっぱ嫉妬してわーきゃーするのって……いいっすよね……
歩夢「かすみちゃんとのお泊り、楽しかったなぁ」侑「えっ、昨日かすみちゃんと一緒にいたの?」